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特開2023-82587樹脂組成物、成形体及び樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082587
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230607BHJP
   C08L 3/02 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L3/02
C08L23/00
C08L25/04
C08L67/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196460
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 歩
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】相沢 健太
(72)【発明者】
【氏名】重實 大介
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB02X
4J002AB04W
4J002AH00W
4J002AJ00W
4J002BB03X
4J002BB06X
4J002BB12X
4J002BB17X
4J002BC03X
4J002BC06X
4J002BD04X
4J002BD10X
4J002BD12X
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4J002CF06X
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4J002CH07X
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4J002FD026
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4J002GB00
4J002GM00
4J200AA04
4J200AA27
4J200BA14
4J200BA37
4J200DA24
4J200DA28
4J200EA03
4J200EA07
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】化学修飾が導入されていないバイオマスが種々の樹脂に良好に相溶している、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与える樹脂組成物、この樹脂組成物からなる成形体、及びこの樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂組成物が、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けて比表面積が増大したバイオマス粒子と樹脂を含む。さらに樹脂組成物が、表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成されたバイオマス粒子と樹脂を含む。この樹脂組成物が成形体に成形される。この樹脂組成物の製造方法が、このバイオマス粒子と樹脂を混練する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物であって、
前記バイオマス粒子は、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって比表面積が増大したバイオマス粒子である、樹脂組成物。
【請求項2】
バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物であって、
前記バイオマス粒子が、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成されたバイオマス粒子である、樹脂組成物。
【請求項3】
前記バイオマス粒子が、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成された澱粉粒子である、請求項1又は2に記載された樹脂組成物。
【請求項4】
前記バイオマス粒子がコーンスターチ及び加工コーンスターチの少なくとも1つであって、酵素処理によって表面に凹凸が形成された澱粉粒子である、請求項1~3のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項5】
物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けた前記バイオマス粒子の比表面積は、未処理の前記バイオマス粒子の比表面積に対して1.1以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項6】
前記バイオマス粒子がコーンスターチであり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けたコーンスターチの比表面積が0.400m2/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項7】
前記バイオマス粒子がタピオカ澱粉であり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けたタピオカ澱粉の比表面積が0.400m2/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項8】
前記バイオマス粒子が馬鈴薯澱粉であり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けた馬鈴薯澱粉の比表面積が0.190m2/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項9】
前記バイオマス粒子を5~85質量%含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1~9いずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリスチレン系樹脂の少なくとも1種である、請求項1~10いずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂が生分解性樹脂である、請求項1~11のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項13】
更に添加剤を含有する、請求項1~12のいずれか1項に記載された樹脂組成物。
【請求項14】
前記添加剤が相溶化剤、核剤、紫外線吸収剤、耐候剤、熱安定剤、光安定剤、結合剤、アンチブロッキング剤、滑剤、中和剤、結晶化促進剤、着色剤、発泡剤、防水剤、撥水剤、抗菌剤、防曇剤、香料、消臭成分及び耐衝撃性強化剤の少なくとも1種を含有する、請求項13に記載された樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載された樹脂組成物が成形されてなる成形体。
【請求項16】
バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物の製造方法であって、
原料バイオマス粒子を、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つで処理し、前記原料バイオマス粒子の比表面を増大させる工程と、
前記バイオマス粒子と樹脂を混練する工程とを含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球温暖化、石油資源の枯渇等の環境問題を背景として、循環型社会の構築を求める声が高まっている。そこで、環境負荷低減を目的として、石油等の化石燃料由来原料の代わりに、原料の少なくとも一部として植物由来原料を使用した樹脂組成物(バイオマス樹脂組成物)を使用する技術が注目されており、バイオマス樹脂組成物の開発が進められている。
【0003】
バイオマス樹脂組成物に用いられるバイオマスは、再生可能な、生物由来の有機性資源であって化石資源を除いた物質である。バイオマスは、大気中の二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、バイオマスを燃やしても大気中の二酸化炭素は実質的に増加させない。したがって、バイオマスは、カーボンニュートラルで再生可能な有機資源であり、環境負荷の低減がバイオマスの使用により可能になると考えられている。このことから、化石燃料由来の樹脂のみを含む樹脂組成物を、バイオマス樹脂組成物に置き換えることで、二酸化炭素排出量の大幅な削減が可能となり、地球温暖化防止、化石燃料資源の節約等に資することができるため、バイオマス樹脂組成物に関する技術及び製品開発が強く求められている。そこで、樹脂組成物原料の一部にバイオマス由来の物質、例えばセルロース系材料又は澱粉質系材料を添加したバイオマス樹脂組成物の開発が進められている。
【0004】
しかしながら、バイオマスとしてセルロースナノファイバー等のセルロース系材料を用いる場合、従来の化石燃料由来の樹脂と同等の物性の樹脂組成物が得られるものの、セルロースナノファイバー自体の製造コストが高く、その保存安定性の点でも問題があり、実用化に課題がある。また、バイオマスとして澱粉を用いる場合、澱粉と化石燃料由来の樹脂が相溶化し難く、これらを均一に混合し難いため、澱粉を含有する樹脂組成物の引張強度、引張伸度等の機械的物性が、従来の化石燃料由来の樹脂のみを含む樹脂組成物の機械的物性より劣ってしまう。
【0005】
澱粉を含む樹脂組成物の機械的物性の向上が検討された。特許文献1及び2には、特定の化学修飾が導入された変性澱粉を用いる技術が開示されている。また、特許文献3には、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物で変性された酸変性ポリオレフィン樹脂を相溶化剤として含む澱粉質系複合樹脂組成物が開示されている。特許文献4には、低分子化澱粉がポリオレフィン中に分散された複合樹脂組成物が開示されている。なお、当該低分子化澱粉は、澱粉粒子にエネルギーが加えられるα化処理等の処理により粒子ではなくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06-306103号公報
【特許文献2】特開平06-306104号公報
【特許文献3】特開2004-2613号公報
【特許文献4】特開2021-66850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
澱粉への化学修飾の導入は環境に負荷をかけ、また相溶化剤として酸変性ポリオレフィン樹脂を使用すると、当該酸変性ポリオレフィン樹脂が石油原料由来であるため、石化燃料由来の樹脂をバイオマスで置換するという目的と適合しない。さらに、低分子化澱粉と相溶化する樹脂はポリオレフィン系樹脂に限られていた。
【0008】
近年、相溶化剤を使用しなくても、化学修飾が導入されていないバイオマスが種々の樹脂に良好に相溶している、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与える樹脂組成物が希求されていたが、そのような樹脂組成物は提供されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、化学修飾が導入されていないバイオマス等の添加剤が種々の樹脂に良好に相溶している、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与える樹脂組成物、当該樹脂組成物が成形されてなる成形体、及び当該樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み検討を重ね、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けて、比表面積が増大したバイオマス粒子を含む樹脂組成物が、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与えることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
本発明は、バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物であって、前記バイオマス粒子は、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって比表面積が増大したバイオマス粒子である、樹脂組成物である。
本発明は、バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物であって、前記バイオマス粒子が、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成されたバイオマス粒子である、樹脂組成物である。
前記バイオマス粒子は、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成された澱粉粒子である。
前記バイオマス粒子は、好ましくはコーンスターチ及び加工コーンスターチの少なくとも1つであって、酵素処理によって表面に凹凸が形成された澱粉粒子である。
物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けた前記バイオマス粒子の比表面積は、好ましくは未処理の前記バイオマス粒子の比表面積に対して1.1以上である。
前記バイオマス粒子は、好ましくはコーンスターチであり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けたコーンスターチの比表面積は0.400m2/g以上である。
前記バイオマス粒子は、好ましくはタピオカ澱粉であり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けたタピオカ澱粉の比表面積は0.400m2/g以上である。
前記バイオマス粒子は、好ましくは馬鈴薯澱粉であり、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けた馬鈴薯澱粉の比表面積が0.190m2/g以上である。
本発明の樹脂組成物は、好ましくは前記バイオマス粒子を5~85質量%含有する。
前記樹脂は、好ましくは熱可塑系樹脂である。
前記樹脂は、好ましくはポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリスチレン系樹脂の少なくとも1種である。
前記樹脂は、好ましくは生分解性樹脂である。
本発明の樹脂組成物は、好ましくは更に添加剤を含有する。
前記添加剤は、好ましくは相溶化剤、核剤、紫外線吸収剤、耐候剤、熱安定剤、光安定剤、結合剤、アンチブロッキング剤、滑剤、中和剤、結晶化促進剤、着色剤、発泡剤、防水剤、撥水剤、抗菌剤、防曇剤、及び耐衝撃性強化剤の少なくとも1種を含有する。
【0011】
本発明は、前記樹脂組成物が成形されてなる成形体である。
さらに本発明は、バイオマス粒子と樹脂を含む樹脂組成物の製造方法であって、原料バイオマス粒子を、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つで処理し、前記原料バイオマス粒子の比表面を増大させる工程と、前記バイオマス粒子と樹脂を混練する工程とを含む、樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、機械的物性が良好で安価な成形体を与える樹脂組成物を提供できる。本発明の成形体は、機械的物性が良好で安価な成形体を提供できる。本発明の樹脂組成物の製造方法は、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与える樹脂組成物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】コーンスターチ澱粉の酵素処理前後の表面状態を示す図
図2】タピオカ澱粉の酵素処理前後の表面状態を示す図
図3】コーンスターチ澱粉の超音波処理後の表面状態を示す図
図4】未処理のコーンスターチ澱粉とポリブチレンサクシネートとのコンパウンド体の破断面を示す図
図5】比表面積が増大したコーンスターチ澱粉とポリブチレンサクシネートとのコンパウンド体の破断面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明について更に詳細に説明する。
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物はバイオマス粒子を含む。
<バイオマス粒子>
本発明において、バイオマスとは、再生可能な、生物由来の有機性資源であって化石資源を除いた物質である。本発明で使用されるバイオマスとして、例えば以下のものが挙げられる。
(1)資源作物
資源作物は、資源としての利用を目的に栽培されたバイオマスである。資源作物として、例えば米、トウモロコシ、いも類等由来の澱粉、サトウキビ、てんさい等由来の糖質が挙げられる。
(2)未利用バイオマス
未利用バイオマスは、資源として利用されずに廃棄されたバイオマスである。未利用バイオマスとして、例えば林地残材等の林産資源、稲わら、もみ殻、麦わら等の農産資源が挙げられる。
(3)廃棄物系バイオマス
廃棄物系バイオマスは、廃棄物として発生しているバイオマスである。廃棄物系バイオマスとして、例えば家畜排泄物等の畜産資源、加工残渣、生ごみ、動植物性残渣等の食品資源、パルプ廃液等の産業資源、製材工場残材、建築廃材等の林業資源、下水汚泥が挙げられる。
【0015】
上記バイオマスが粒子である場合、後述される物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理に付されたバイオマス粒子が本発明において使用される。上記バイオマスが粒子でない場合、当該バイオマスは粉砕され、得られた粒子が後述される物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理に付されたバイオマス粒子が本発明において使用される。後述される物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理に付されたバイオマス粒子の少なくとも1種が本発明において使用される。以後、後述される物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理に付される前のバイオマス粒子を処理前バイオマス粒子、後述される物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理に付されたバイオマス粒子を処理後バイオマス粒子と称する場合がある。好ましい処理前バイオマス粒子は澱粉、セルロース系のものであり、より好ましい処理前バイオマス粒子は澱粉である。
【0016】
本発明の樹脂組成物が含む処理後バイオマス粒子は、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けて比表面積が増大したもの、ないしその表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理によって凹凸が形成されたものである。
<物理加工処理>
本発明における物理加工処理は、処理後バイオマス粒子の比表面積が処理前バイオマス粒子の比表面積より増大する、ないしその表面に凹凸が形成される物理的処理であり、特定の物理的処理に限定されない。当該物理加工処理として、例えば超音波処理、電磁波処理、電子線処理、放射線処理、マイクロ波処理、高周波処理、スプレードライ処理等が挙げられる。処理前バイオマス粒子は、これらの物理加工処理の少なくとも1つに付されてよい。
【0017】
本発明における超音波処理は、処理後バイオマス粒子の比表面積が処理前バイオマス粒子の比表面積より増大する、ないしその表面に凹凸が形成される超音波処理であれば、特定の超音波処理に限定されない。当該超音波処理として、例えば30質量/体積%澱粉スラリー100mlを、水浴中で320rpmの回転側で攪拌しながら、高周波超音波発生装置を使用して400kHZの超音波を3時間印加する処理が挙げられる。
【0018】
<酵素処理>
本発明における酵素処理は、処理後バイオマス粒子の比表面積が処理前バイオマス粒子の比表面積より増大する、ないしその表面に凹凸が形成される酵素処理であり、特定の酵素処理に限定されない。処理前バイオマス粒子が澱粉を含む場合、使用される酵素はアミラーゼ、アミログルコシダーゼ等である。処理前バイオマス粒子がセルロース系材料を含む場合、使用される酵素はセルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ等である。本発明における酵素処理として、例えば30質量/体積%澱粉スラリー4000mlにα-アミラーゼ4.2ml、α-アミログルコシダーゼ37.8ml、塩化カルシウム1.3gを添加し、4質量%塩化ナトリウム水溶液を使用して当該スラリーのpHを5.5に調性し、320rpmの回転速度、50℃で5時間酵素反応を実施する酵素処理が挙げられる。
【0019】
<澱粉>
本発明で使用される澱粉は特定の澱粉に限定されない。当該澱粉として、例えばコーンスターチ、タピオカ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉等が挙げられる。また、上記澱粉のウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のような、育種学的又は遺伝子工学的手法で改良された澱粉の少なくとも1種であってもよい。
【0020】
本発明で使用される澱粉は、澱粉粒子形状が保たれる範囲であれば、加工澱粉であってもよい。
加工澱粉としては、未加工の生澱粉に酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理、酸処理、アルカリ処理等の化学処理を施した変性澱粉と、造粒処理、湿熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、油脂加工処理、加熱処理、加圧処理、減圧処理、ミリング処理、粉体衝突処理、摩擦処理、粉砕処理、押出処理等の物理処理を施した変性澱粉を使用できる。あるいはそれらの2種以上の処理を併用して施した変性澱粉も使用できる。当該化学処理及び物理処理のそれぞれは、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理を受けた澱粉に施されてもよい。また当該化学処理及び物理処理のそれぞれは、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理する前の澱粉に対して施されてもよい。このような加工澱粉としては、例えば酸化コーンスターチが挙げられる。
本発明において、上記される澱粉の少なくとも1種が使用されてよい。
【0021】
<バイオマス粒子の表面>
孔及び凹凸の少なくとも1つが、物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つの処理により処理前バイオマス粒子の表面に形成されるから、処理後バイオマス粒子の比表面積は処理前バイオマス粒子の比表面積より増大している。ここで、処理前バイオマス粒子の表面に形成された孔及び凹凸は、電子顕微鏡により観察される。
【0022】
孔及び凹凸の少なくとも1つが表面に形成された処理後バイオマス粒子は、形成された孔及び凹凸に樹脂が物理的に絡み付くことで、バイオマス粒子と樹脂との物理的な密着性が向上し、樹脂中での分散性が高く、かつ、処理後バイオマス粒子と樹脂との物理的な結合力も高いことから、本発明の樹脂組成物は機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与えると考えられる。
【0023】
好ましい処理後バイオマス粒子は、その表面に物理加工処理及び酵素処理の少なくとも1つによって凹凸が形成された澱粉粒子である。当該澱粉粒子の樹脂中での分散性と、樹脂との物理的な結合力がより効果的に高くなるから、当該澱粉粒子を含む樹脂組成物は機械的物性がより良好で安価な樹脂成形体を与える。
【0024】
より好ましい処理後バイオマス粒子は、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、酸化コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉の少なくとも1つであって、酵素処理及び超音波処理の少なくとも1つによって表面に凹凸が形成された澱粉粒子である。更に好ましい処理後バイオマス粒子は、コーンスターチ及びワキシーコーンスターチの少なくとも1つであって、酵素処理によって表面に凹凸が形成された澱粉粒子である。当該澱粉粒子の樹脂中での分散性と、樹脂との物理的な結合力が更に効果的に高くなるから、当該澱粉粒子を含む樹脂組成物は機械的物性が更に良好で安価な樹脂成形体を与える。
【0025】
処理後バイオマス粒子の比表面積は処理前バイオマス粒子の比表面積に対して好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.2以上であり、更に好ましくは1.3以上であり、特に好ましくは1.5以上であり、最も好ましくは1.8以上である。また、処理後バイオマス粒子の比表面積は処理前バイオマス粒子の比表面積に対して好ましくは5.0以下であり、より好ましくは4.6以下である。処理後バイオマス粒子の比表面積が処理前バイオマス粒子の比表面積に対して所定範囲であると、処理後バイオマス粒子の分散性と、樹脂との物理的な結合力が効果的に高くなるから、当該処理後バイオマス粒子を含む樹脂組成物は、機械的物性が良好で安価な樹脂成形体を与える。
【0026】
本発明において、処理前バイオマス粒子の比表面積に対する処理後バイオマス粒子の比表面積の比(比表面積比)の大きさは、処理後バイオマス粒子に形成される凹凸の程度と孔の大きさに依存する。当該凹凸の程度、孔の大きさそれぞれが大きくなるほど、比表面積比も大きくなる。
【0027】
処理後バイオマス粒子の比表面積は特定の範囲に限定されない。処理後バイオマス粒子がコーンスターチである場合、当該コーンスターチの好ましい比表面積は0.400m2/g以上、より好ましくは0.450m2/g以上、更に好ましくは0.500m2/g以上である。処理後バイオマス粒子がワキシーコーンスターチである場合、当該ワキシーコーンスターチの好ましい比表面積は0.900m2/g以上、より好ましくは1.100m2/g以上、更に好ましくは1.300m2/g以上である。処理後バイオマス粒子がタピオカ澱粉である場合、当該タピオカ澱粉の好ましい比表面積は0.400m2/g以上、より好ましくは0.430m2/g以上、更に好ましくは0.460m2/g以上である。処理後バイオマス粒子が馬鈴薯澱粉である場合、当該馬鈴薯澱粉の好ましい比表面積は0.190m2/g以上、より好ましくは0.210m2/g以上、更に好ましくは0.230m2/g以上である。
【0028】
処理前及び処理後バイオマス粒子の比表面積は以下のBET法で測定される。
測定用サンプルを真空脱気による減圧下、110℃で6時間以上乾燥させ、液体窒素温度で窒素吸着側のみの吸着等温線を0.05~0.3の相対圧力範囲で測定し、0.25の1点から比表面積を測定した。
【0029】
<バイオマス粒子の含有量>
本発明の樹脂組成物における処理後バイオマス粒子の含有量は特定の範囲に限定されない。当該含有量の上限は、好ましくは85質量%であり、より好ましくは80質量%であり、更に好ましくは70質量%であり、特に好ましくは60質量%であり、最も好ましくは50質量%である。さらに当該含有量の上限は、45質量%であっても、40質量%であってもよい。当該含有量の下限は、好ましくは5質量%であり、より好ましくは7質量%であり、更に好ましくは10質量%であり、特に好ましくは15質量%であり、最も好ましくは20質量%である。当該含有量は、好ましくは10~75質量%であり、より好ましくは15~65質量%であり、更に好ましくは20~50質量%であり、特に好ましくは20~40質量%である。当該含有量が上記される範囲であると、本発明の樹脂組成物は、機械的物性が更に良好で安価な樹脂成形体を与える。
【0030】
<樹脂>
本発明で使用される樹脂は特定の樹脂に限定されない。本発明で使用される樹脂として、例えば以下の熱可塑性樹脂が挙げられる。
(1)ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート、セルロースアセテート、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート等の生分解性樹脂、
(2)低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、及びそれらの共重合体などの各種のポリオレフィン系樹脂、
(3)ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVdC)などの塩素含有樹脂、
(4)テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合樹脂、パーフルオロエチレンプロペン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂などのフッ素含有樹脂、
(5)エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等の、(1)~(4)に示される付加系熱可塑性樹脂以外の付加系熱可塑性樹脂、
(6)ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン11、メタキシリレンアジパミド(mXD6)、ヘキサメチレンテレフタラミド(6T)、及びそれらの共重合体などの各種のポリアミド系樹脂、
(7)ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)、ポリメチレンテレフタレート(PMT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEOB)、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、及び共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステル(生分解性ポリエステルを除く)、液晶ポリエステルなどの各種のポリエステル系樹脂、
(8)ポリアミドイミド樹脂、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂等の、(6)及び(7)に示される縮合系熱可塑性樹脂以外の縮合系熱可塑性樹脂。
これらの熱可塑性樹脂の少なくとも1種が使用されてよい。好ましい樹脂はポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及び生分解性樹脂の少なくとも1種である。また、本発明で使用される樹脂として、上記熱可塑性樹脂の溶媒分散体を用いてもよい。
【0031】
<その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物は、処理後バイオマス粒子以外の、樹脂組成物に添加される一般的な添加剤を含んでいてよい。当該添加剤として、例えば相溶化剤、核剤、紫外線吸収剤、耐候剤、熱安定剤、光安定剤、結合剤、アンチブロッキング剤、滑剤、中和剤、結晶化促進剤、着色剤、発泡剤、防水剤、撥水剤、抗菌剤、防曇剤、耐衝撃性強化剤等が挙げられる。当該添加剤は、上記添加剤の少なくとも1種を含有し、好ましくは上記添加剤の少なくとも1種である。
【0032】
本発明の樹脂組成物は相溶化剤を含まなくてもよいが、処理後バイオマス粒子の樹脂への分散性をより向上させるために、相溶化剤を含んでいてもよい。本発明で使用される相溶化剤として、例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリオレフィン、シラン変性ポリオレフィン等が挙げられる。本発明の樹脂組成物に対する相溶化剤の含有量は、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは1~5質量%である。
【0033】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、通常の樹脂組成物の製造方法により製造される。本発明の樹脂組成物の製造方法は、処理後バイオマス粒子と樹脂、必要に応じて上記その他の添加剤を、溶融混練する工程を含む。当該溶融混練工程に使用される装置として、例えばバンバリーミキサー、ニーダー、押出機等が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物の製造方法は、処理後バイオマス粒子と樹脂、必要に応じて上記その他の添加剤を、溶液攪拌混合法、粉体コーティング法、乳化重合法等の公知の方法で混合する工程を含んでいてよい。
【0034】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物に、必要に応じて充填剤、難燃剤、酸化防止剤透明化剤、可塑剤、帯電防止剤等の、成形用樹脂組成物に添加される通常の添加剤を添加して、通常の成形方法により成形されて得られる。
【0035】
上記充填剤として、例えばガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属粉、金属繊維、金属箔、Al23、マイカ、黒鉛、炭素繊維、フェライト、鉄粉、鉛粉、硫酸バリウム、黒鉛、六方晶BN、硫化モリブデン、タルク、酸化チタン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、アルミ粉、酸化アンチモン、水酸化アルミ、水酸化マグネシウム、硼酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等が挙げられる。
【0036】
上記難燃剤として、例えば塩素系難燃剤、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。
上記酸化防止剤として、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0037】
上記成形方法として、例えば押出成形、射出成形、プレス成形、モールド成形、インフレーション成形、真空成形、ブロー成形、発泡ビーズ成形、乳液ビーズ成形、スプレービーズ成形、キャスト成形等が挙げられる。また、溶媒に分散した樹脂組成物を基材に適用する場合、当該樹脂組成物を塗工し、乾燥、硬化させることにより成形体を形成できる。前記塗工方法としては、例えばスプレー法、カーテンコーター法、フローコーター法、ロールコーター法、刷毛塗り法、浸漬法等が挙げられる。
本発明の成形体の形状は特定の形状に限定されない。当該形状として、例えばフィルム、ペレット、ビーズ、中空管、発泡体等が挙げられる。また、本発明の成形体はゲル状であってよい。
【0038】
本発明に用いるバイオマス粒子は粒子表面に孔又は凹凸を有し、その孔又は凹凸の隙間に様々な物質を担持でき、樹脂組成物中に担持物を導入できる。例えば、樹脂分解酵素などの生化学的物質、樹脂分解金属触媒などの無機化合物を担持させたバイオマス粒子を用いることもできる。また、抗菌性を有する化合物、香料や消臭性を有する化合物を担持させたバイオマス粒子を用いることもできる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例において、各種物性は以下のとおりに測定ないし算出された。
<比表面積比>
各処理前バイオマス粒子及び処理後バイオマス粒子を真空脱気による減圧下、110℃で6時間以上乾燥させ、液体窒素温度で窒素吸着側のみの吸着等温線を0.05~0.3の相対圧力範囲で測定し、0.25の1点から比表面積を測定し、比表面積比(処理後バイオマス粒子の比表面積/処理前バイオマス粒子の比表面積)を算出した。
【0041】
<フィルムの引張強度>
成形された各フィルムを試験片打ち抜き機(ダンベル社製SDL-100)で打ち抜き、ダンベル試験片(JIS K 6251 3号)を作製し、万能材料試験機(A&D社製RTG-1210)を使用して、引張速度50mm/min、チャック間距離70mmで引張強度を測定した。各フィルムにつき7つのダンベル試験片の引張強度を測定し、平均値を算出した。
【0042】
<酵素処理された澱粉粒子の調製>
表1に示された、原料であるコーンスターチ澱粉(日本食品化工株式会社製日食コーンスターチ)、タピオカ澱粉(AMSCO社製)、馬鈴薯澱粉(清里町農業協同組合製)、酸化コーンスターチ澱粉(日本食品化工株式会社製MS#3800)、ワキシーコーンスターチ(日本食品化工株式会社製日食ワキシースターチ)それぞれを真空乾燥し、BET表面積を測定した。各澱粉の30質量/体積%スラリー4000mlを調製し、各スラリーに塩化カルシウム1.3gと、表1に示される体積の酵素(α-アミラーゼ(天野エンザイム株式会社製クライスターゼL1)及びα-アミログルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社製デキストロザイムGA1.5X)を含み、α-アミラーゼ/α-アミログルコシダーゼ=1/9(体積比)の比率となる酵素)を添加し、4質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いてスラリーのpHを5.5に調整し、320rpmの回転速度で攪拌しながら、50℃で表1に示される時間酵素処理反応を行った。反応後、酵素処理された各澱粉粒子を洗浄し、濾過して真空乾燥し、BET表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
酵素処理される前の上記コーンスターチ澱粉の電子顕微鏡写真(図1A)、酵素処理コーンスターチ澱粉1の電子顕微鏡写真(図1B及びC)、酵素処理される前の上記タピオカ澱粉の電子顕微鏡写真(図2A)、及び酵素処理タピオカ澱粉1の電子顕微鏡写真(図2B及びC)を撮影し、酵素処理前後のコーンスターチ澱粉、タピオカ澱粉それぞれの表面の状態を観察した。酵素処理に使用された酵素の量及び処理時間が同一であっても、コーンスターチ澱粉の表面には多数の孔が形成された一方、タピオカ澱粉の表面には多数の孔は形成されず、凹凸が形成されていた。結果的に酵素処理の条件が同一である場合、コーンスターチ澱粉の酵素処理による比表面積比は、タピオカ澱粉の酵素処理による比表面積比より大きかった。
【0044】
<超音波処理された澱粉粒子の調製>
コーンスターチ澱粉(日本食品化工株式会社製日食コーンスターチ)の30質量/体積%スラリー100mlを調製し、当該スラリーを水浴中で320rpmの回転速度で攪拌しながら、高周波超音波発生装置(新科産業有限会社製SR-400K)を用いて400kHZの超音波を3時間印加した。超音波処理後、超音波処理されたコーンスターチ澱粉粒子を洗浄し、濾過して真空乾燥し、BET表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
超音波処理コーンスターチ澱粉の電子顕微鏡写真(図3)を撮影し、その表面の状態を観察した。超音波処理されたコーンスターチ澱粉の表面には多数の孔が形成された。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例1~10及び比較例1~4]
表2に示される各澱粉30質量部、及びポリスチレン樹脂(東洋スチレン株式会社製トーヨースチロールG200C)70質量部を190℃に加熱された加圧式ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製Ms式加圧ニーダーDS1-3MHB-E型)に投入し、回転速度40rpmで30分間混練した。その後、混練物をニーダーから取り出し、室温で放冷し各ポリスチレン樹脂組成物を得た。各ポリスチレン樹脂組成物2~7gをポリスチレン樹脂の融点以上に加温した熱プレス機(アズワン株式会社が販売するH300-1)を用いて0.5~0.9tの加重下で圧縮し、厚さ0.4mmの各コンパウンドフィルムを作製した。各コンパウンドフィルムを試験片打ち抜き機(ダンベル社製SDL-100)で打ち抜き、ダンベル試験片(JIS K 6251 3号)を作製し、厚み測定装置(熊谷理機工業株式会社製TM600)を用いてフィルムの厚さ0.4mmであることを確認した。さらにフィルムの引張強度を測定した。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
物理加工処理及び酵素処理のいずれの処理も受けず、比表面積が増大していない澱粉を含む比較例1~4のポリスチレン樹脂組成物のフィルムの引張強度は低かった。一方、超音波処理又は酵素処理を受けて比表面積が増大した澱粉を含むポリスチレン樹脂組成物のフィルムの引張強度は未処理の澱粉を含むフィルムより高かった。
【0050】
[実施例11~15及び比較例5~6]
表3に示される質量の各澱粉及びポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル株式会社製BioPBS(登録商標)、以下、PBSと称する場合がある)を、120℃に加熱された加圧式ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製Ms式加圧ニーダーDS1-3MHB-E型)に投入し、回転速度40rpmで30分間混練した。その後、混練物をニーダーから取り出し、室温で放冷し各ポリブチレンサクシネート組成物を得た。各ポリブチレンサクシネート組成物2~7gをポリブチレンサクシネートの融点(115℃)程度に加温した熱プレス機(アズワン株式会社が販売するH300-1)を用いて0.5~0.9tの加重下で圧縮し、厚さ0.4mmの各コンパウンドフィルムを作製した。各コンパウンドフィルムを試験片打ち抜き機(ダンベル社製SDL-100)で打ち抜き、ダンベル試験片(JIS K 6251 3号)を作製し、厚み測定装置(熊谷理機工業株式会社製TM600)を用いてフィルムの厚さ0.4mmであることを確認した。さらにフィルムの引張強度を測定した。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
物理加工処理及び酵素処理のいずれの処理も受けず、比表面積が増大していない澱粉を含む比較例5及び6のポリブチレンサクシネート組成物のフィルムの引張強度は低かった。一方、酵素処理を受けて比表面積が増大した澱粉を含むポリブチレンサクシネート組成物のフィルムの引張強度は未処理の澱粉を含むフィルムより高かった。
【0053】
[実施例16~18及び比較例8~10]
表4に示される各澱粉30質量部、及び樹脂、すなわちポリ乳酸(富士ケミカル株式会社製ラクリエFC529、以下、PLAと称する場合がある)、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製2100JH、以下、HDPEと称する場合がある)、又はポリプロピレン(サンアロマー株式会社製サンアロマーPM600A、以下、PPと称する場合がある)70質量部を、PLAを使用する場合170℃、HDPEを使用する場合150℃、PPを使用する場合190℃に加熱された加圧式ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製Ms式加圧ニーダーDS1-3MHB-E型)に投入し、回転速度40rpmで30分間混練した。その後、混練物をニーダーから取り出し、室温で放冷し各樹脂組成物を得た。各樹脂組成物2~7gを各樹脂の融点程度に加温した熱プレス機(アズワン株式会社が販売するH300-1)を用いて0.5~0.9tの加重下で圧縮し、厚さ0.4mmの各コンパウンドフィルムを作製した。各コンパウンドフィルムを試験片打ち抜き機(ダンベル社製SDL-100)で打ち抜き、ダンベル試験片(JIS K 6251 3号)を作製し、厚み測定装置(熊谷理機工業株式会社製TM600)を用いてフィルムの厚さ0.4mmであることを確認した。さらにフィルムの引張強度を測定した。結果を表4に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
酵素処理を受けて比表面積が増大したコーンスターチ澱粉を含む実施例16のPLA組成物のフィルムの引張強度は、物理加工処理及び酵素処理のいずれの処理も受けず、比表面積が増大していないコーンスターチ澱粉を含む比較例8のPLA組成物のフィルムの引張強度より高かった。実施例17と比較例9、実施例18と比較例10を比較しても同様のことが言えた。
【0056】
[実施例19及び比較例11]
コーンスターチ澱粉30質量部、HDPE(株式会社プライムポリマー製2100JH)69質量部、及び相溶化剤(三洋化成工業株式会社製ユーメックス1010)1質量部を150℃に加熱された加圧式ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製Ms式加圧ニーダーDS1-3MHB-E型)に投入し、回転速度40rpmで30分間混練した。その後、混練物をニーダーから取り出し、室温で放冷し各HDPE組成物を得た。各HDPE組成物2~7gをHDPEの融点程度に加温した熱プレス機(アズワン株式会社が販売するH300-1)を用いて0.5~0.9tの加重下で圧縮し、厚さ0.4mmの各コンパウンドフィルムを作製した。各コンパウンドフィルムを試験片打ち抜き機(ダンベル社製SDL-100)で打ち抜き、ダンベル試験片(JIS K 6251 3号)を作製し、厚み測定装置(熊谷理機工業株式会社製TM600)を用いてフィルムの厚さが0.4mmであることを確認した。さらにフィルムの引張強度を測定した。結果を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
酵素処理を受けて比表面積が増大したコーンスターチ澱粉と相溶化剤を含む実施例19のHDPE組成物のフィルムの引張強度は、物理加工処理及び酵素処理のいずれの処理も受けず、比表面積が増大していないコーンスターチ澱粉と相溶化剤を含む比較例11のHDPE組成物のフィルムの引張強度より高かった。
【0059】
実施例12及び比較例5の樹脂破断面の電子顕微鏡写真(図4及び5)を撮影し、その表面の状態を観察した。未処理で比表面積が増大していないコーンスターチ澱粉とPBSとのコンパウンド体からは澱粉粒子と樹脂との間に明確な界面が確認された(図4)。一方、酵素処理により比表面積が増加した酵素処理コーンスターチ澱粉4とPBSとのコンパウンド体からは、澱粉粒子の凹凸に対して樹脂が流入することで澱粉粒子と樹脂との界面が密着していることが確認された(図5)。
図1
図2
図3
図4
図5