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特開2023-82593りん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼およびこれを用いた給湯器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082593
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】りん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼およびこれを用いた給湯器
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230607BHJP
   C22C 38/48 20060101ALI20230607BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230607BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230607BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20230607BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20230607BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/48
C22C38/60
C21D9/46 R
C21D8/02 D
C22C9/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196470
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】星 大樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 修司
(72)【発明者】
【氏名】石井 知洋
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CF03
4K032CG02
4K032CH05
4K032CH06
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FF03
4K037FG00
4K037FH01
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FM02
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合に良好なろう付け性を示すりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.003~0.020%、Si:0.01~0.60%、Mn:0.01~0.40%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Cr:16.0~27.0%、Ni:0.01~2.50%、Al:0.010%以下、Cu:0.40~0.80%、Nb:0.10~0.50%、N:0.020%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.003~0.020%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~0.40%、
P:0.040%以下、
S:0.020%以下、
Cr:16.0~27.0%、
Ni:0.01~2.50%、
Al:0.010%以下、
Cu:0.40~0.80%、
Nb:0.10~0.50%、
N:0.020%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
さらに、質量%で、
Mo:0.01~2.50%、
Co:0.01~0.70%、
W:0.01~1.00%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項1に記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
さらに、質量%で、
Ti:0.01~0.10%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.01~0.10%、
Mg:0.0005~0.0050%、
Ca:0.0005~0.0050%、
B:0.0005~0.0050%、
REM(希土類金属):0.001~0.100%、
Sn:0.001~0.300%、
Sb:0.001~0.100%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する請求項1または2に記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼を用い、少なくとも一か所以上の接合部がりん銅ろう材を用いたろう付けによって組み立てられた給湯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、りん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼およびこれを用いた給湯器に関し、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合に良好なろう付け性を示すフェライト系ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス給湯器や電気温水器をはじめとした給湯器分野では、銅が多量に使用される。例えば、これらに使用される水や熱媒を流す配管として、銅管が広く採用される。また、地球環境保護の観点から、近年普及が進む環境対応型の給湯器には、熱交換器が適用され、ここにも銅が使用されている。
【0003】
近年、新興国の電力インフラ需要の増大や、自動車のEV化を背景に、電線、導線用の銅の需要が増加し、銅の需給がひっ迫した状態が続いている。今後も、銅需要は増加することが予想され、銅価格高騰に対応した銅の使用量削減は重要な課題となっている。
【0004】
こういった背景から、給湯器分野では、銅から他材料、特に比較的安価かつ耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼への置き換えが進められている。
【0005】
給湯器の配管や熱交換器部分は、主にCu含有ろう材、特にろう付けの適正温度が600~950℃となるりん銅ろう材を使用した、りん銅ろう付けにより接着および組み立てされた部材が用いられている。このため、これらの部材に用いられる素材には、りん銅ろう付けにおけるろう付け性(以下、単に、ろう付け性ともいう)が良好なことが求められる。
【0006】
一般に、フェライト系ステンレス鋼のろう付け性は、銅(Cu)よりも劣ることから、改善が求められる。
【0007】
例えば、特許文献1には、「質量%で、C:0.001~0.1%、Si:1.5超え~4.0%、Mn:0.05~4.0%、Cr:10.5~30%、Ni:35%以下、N:0.001~0.4%を含有し、さらにTi:0.002~0.030%とAl:0.002~0.10%の一方又は両方を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、かつSi、TiおよびAlの含有量が(式1)を満足して、表面には(式2)を満足する組成を有する酸化皮膜が形成されていることを特徴とするろう付け性に優れたステンレス鋼。
Si/(Ti+Al)≧40 ・・・ (式1)
1.2×Si/Fe≦Si/Fe≦5×Si/Fe ・・・ (式2)
(式1)および(式2)において、添え字f付き元素名は酸化皮膜中の各元素含有量を表し単位は原子%、添え字m付き元素名は母材の鋼中の各元素含有量を表し単位は質量%である。」が開示されている。
【0008】
特許文献2には、「質量%で、C:0.01~0.03%、Si:1.00%以下、Mn:1.50%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.6%以下、Cr:17~25%、Mo:2.50%以下、Cu:0.10~0.50%、N:0.030%以下、Nb:7×(C+N)%以上、0.80%以下、Al:0.022%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、下記(1)式を満足する、Cuろう付け性に優れたフェライト系ステンレス鋼。
C+6Si-4Al-72Ti≧1.5 ・・・ (1)式
ここで、(1)式中のC、Si、Al、Tiは、各元素の質量%を意味する。」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2016/152854号
【特許文献2】特開2018-145497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のフェライト系ステンレス鋼は、一定量のSiを含有し、Siが濃化した酸化皮膜を形成させることによりろう付け性を確保している。また、特許文献2に記載のフェライト系ステンレス鋼は、一定量のNbを含有し、形成される鋼中炭化物を利用して、ろう付け性を確保している。
【0011】
特許文献1、2に開示されるフェライト系ステンレス鋼は、ろう付け性に改善の余地があった。特許文献1、2に開示されるフェライト系ステンレス鋼は、いずれも1000~1200℃で行われるろう付けに適するものであり、特にりん銅ろうを使用した600~950℃でのろう付けを行う場合に、十分なろう付け性が得られないという課題があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み開発されたものであって、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合に良好なろう付け性を示すりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0013】
なお、ここで良好なろう付け性とは、供試材となるステンレス鋼の表面に設置したりん銅ろう材を加熱する際に、りん銅ろう材の広がり率が150%以上となることを意味する。また、りん銅ろう材の広がり率は、次式により算出する。
りん銅ろう材の広がり率(%)=[供試材の表面における加熱後のりん銅ろう材の円相当直径(mm)]÷[供試材の表面における加熱前のりん銅ろう材の円相当直径(mm)]×100
なお、りん銅ろう材の加熱条件などについては、後述の実施例の記載を参照すればよい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ろう付けはろう材を溶融させ、ろう材と母材間で発生する金属結合を活用して、母材を接合する手法である。しかし、ろう付け熱処理時に母材表層に酸化皮膜が生成されることで、ろう材と母材の金属結合の形成およびろう材のぬれが阻害される。このため、ろう付け性向上のためには、前記酸化皮膜の形成を防ぐ必要がある。その方法として、ステンレス鋼に含有される元素の中で、特に酸化皮膜を生成しやすい元素(以下、易酸化元素とも称す)を低減することにより酸化皮膜の生成を抑制することが検討されていた。
【0015】
しかし、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合、易酸化元素の低減のみでは、十分なろう付け性を得ることが出来なかった。
【0016】
そこで、本発明者らは、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合において、母材表層での酸化皮膜形成を抑制し、良好なろう付け性を確保する手法について、鋭意検討した。
【0017】
その結果、易酸化元素の含有量を厳しく規制するとともに、Cuを一定量含有させることで、酸化皮膜の生成を抑制し、良好なろう付け性が得られるという知見を得た。
【0018】
このCu含有による酸化皮膜の生成抑制機構について、本発明者らは次のように考えている。Cuはろう付け時に母材表層へ濃化する。Cuが母材表層へ濃化することにより、易酸化元素の母材表層への拡散が減少し、それらの元素(易酸化元素)の酸化皮膜の生成が抑制される。一方で、Cuの濃化と同時にCuの酸化が進行し、Cu酸化物が生成するが、Cu酸化物はりん銅ろうとの親和性が高いため、Cu酸化物はりん銅ろう付けを阻害しない。したがって、適正量のCuの含有によって、ろう付けを妨げる酸化皮膜の生成を抑制し、良好なろう付け性を得ることが出来る。
【0019】
本発明は上記知見に基づき、さらに検討を加えた末に完成されたものである。
【0020】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.003~0.020%、
Si:0.01~0.60%、
Mn:0.01~0.40%、
P:0.040%以下、
S:0.020%以下、
Cr:16.0~27.0%、
Ni:0.01~2.50%、
Al:0.010%以下、
Cu:0.40~0.80%、
Nb:0.10~0.50%、
N:0.020%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有するりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
[2]さらに、質量%で、
Mo:0.01~2.50%、
Co:0.01~0.70%、
W:0.01~1.00%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する[1]に記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
[3]さらに、質量%で、
Ti:0.01~0.10%、
V:0.01~0.20%、
Zr:0.01~0.10%、
Mg:0.0005~0.0050%、
Ca:0.0005~0.0050%、
B:0.0005~0.0050%、
REM(希土類金属):0.001~0.100%、
Sn:0.001~0.300%、
Sb:0.001~0.100%、
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する[1]または[2]に記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼。
[4]前記[1]~[3]の何れかに記載のりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼を用い、少なくとも一か所以上の接合部がりん銅ろう材を用いたろう付けによって組み立てられた給湯器。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合に良好なろう付け性を示すりん銅ろう付け用フェライト系ステンレス鋼を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0023】
まず、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0024】
C:0.003~0.020%
C含有量が多くなると強度が向上し、少なくなると加工性が向上する。ここで、Cは、十分な強度を得るために0.003%以上の含有が必要である。しかし、C含有量が0.020%を超えると、加工性の低下が顕著となるうえ、粒界にCr炭化物が析出して鋭敏化を起こして耐食性が低下しやすくなる。そのため、C含有量は0.003~0.020%の範囲とする。C含有量は、好ましくは0.004%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
【0025】
Si:0.01~0.60%
Siは、脱酸剤として有用な元素であり、その効果は0.01%以上のSiの含有で得られる。しかし、Si含有量が0.60%を超えると、ろう付け熱処理時にSi酸化物やSi窒化物等のSi濃化物が鋼板表面に生成し、ろう付け性が低下する。そのため、Si含有量は0.01~0.60%の範囲とする。Si含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.55%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
【0026】
Mn:0.01~0.40%
Mnは脱酸作用があり、その効果は0.01%以上のMnの含有で得られる。しかし、Mn含有量が0.40%を超えると、ろう付け熱処理時にMn濃化物が鋼板表面に生成して、ろう付け性が低下する。そのため、Mn含有量は0.01~0.40%の範囲とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.25%以下であり、より好ましくは0.20%以下である。
【0027】
P:0.040%以下
Pは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、過剰な含有は溶接性を低下させ、粒界腐食を生じさせやすくする。その傾向は、Pの0.040%超の含有で顕著となる。そのため、P含有量は0.040%以下とする。好ましくは、P含有量は0.030%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Pはコストの増加を招くので、P含有量は0.010%以上が好ましい。
【0028】
S:0.020%以下
Sは、鋼に不可避的に含まれる元素であり、0.020%超のSの含有は、MnSの析出を促進し、耐食性を低下させる。よって、S含有量は0.020%以下とする。好ましくは、S含有量は0.010%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Sはコストの増加を招くので、S含有量は0.0005%以上が好ましい。
【0029】
Cr:16.0~27.0%
Crは、耐食性の確保に有効である。Cr含有量が16.0%未満では、ろう付け後に十分な耐食性が得られない。しかし、Cr含有量が27.0%を超えると、ろう付け処理の際に鋼板表面にCr酸化皮膜が生成し、ろう付け性が劣化する。そのため、Cr含有量は16.0~27.0%の範囲とする。Cr含有量は、好ましくは18.0%以上であり、より好ましくは19.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは23.0%以下であり、より好ましくは22.5%未満である。
【0030】
Ni:0.01~2.50%
Niは、耐食性および靭性の確保に有効であり、その効果は0.01%以上の含有で得られる。一方、Ni含有量が2.50%を超えると加工性が低下する。よって、Ni含有量は、0.01~2.50%とする。Ni含有量は、好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.10%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは0.60%以下であり、さらに好ましくは0.40%以下である。
【0031】
Al:0.010%以下
Alは、脱酸に有用な元素である。しかし、Alの含有量が0.010%を超えると、ろう付け熱処理時にAl酸化物やAl窒化物等のAl濃化物が鋼板表面に形成され易くなるため、ろう付け性が低下する。そのため、Al含有量は0.010%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.005%以下である。なお、Al含有量の下限は特に限定されない。ただし、Al添加による脱酸の効果を得るためには、Al含有量は0.001%以上が好ましい。
【0032】
Cu:0.40~0.80%
Cuは、本発明において重要な元素の1つである。上述したように、成分組成を適正に調整した上で、Cuを適正量含有させることによって、他の易酸化元素による酸化皮膜の生成を抑制し、りん銅ろう材を用いたろう付け性が向上する。このような効果を得るため、Cu含有量は0.40%以上とする。しかし、Cu含有量が0.80%を超えると、熱間加工性および耐食性が低下する。そのため、Cuを含有する場合は、Cu含有量は、0.40~0.80%の範囲とする。Cu含有量は、好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
【0033】
Nb:0.10~0.50%
Nbは、CおよびNと結合することにより、Cr炭窒化物の析出による耐食性の低下(鋭敏化)を抑制する元素である。これらの効果は、Nb含有量が0.10%以上で得られる。一方、Nb含有量が0.50%を超えると、熱間加工性が低下して製造性が困難になる。そのため、Nb含有量は、0.10~0.50%の範囲とする。Nb含有量は、好ましくは0.30%以上である。
【0034】
N:0.020%以下
N含有量が0.020%を超えると、耐食性と加工性が著しく低下する。従って、N含有量は0.020%以下とする。好ましくは、N含有量は0.015%以下である。さらに好ましくは、N含有量は0.010%以下である。なお、N含有量の下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Nはコストの増加を招くため、N含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
【0035】
以上、本発明のフェライト系ステンレス鋼における基本成分について説明した。本発明における成分組成のうち、上記以外の成分はFeおよび不可避的不純物である。
【0036】
また、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、さらに、Mo、Co、Wのうちから選んだ1種または2種以上を、それぞれ下記の範囲で含有することができる。
【0037】
Mo:0.01~2.50%
Moは、ステンレス鋼の不動態化皮膜を安定化させて耐食性を向上させる。この効果はMo含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Mo含有量が2.50%を超えると、熱間圧延時に表面欠陥が発生しやすくなる。よって、Moを含有する場合、Mo含有量は、0.01~2.50%の範囲とする。
【0038】
Co:0.01~0.70%
Coは、耐食性を高める元素である。この効果は、Co含有量が0.01%以上で得られる。しかし、Co含有量が0.70%を超えると、加工性が低下する。そのため、Coを含有する場合は、Co含有量は0.01~0.70%の範囲とする。Coを含有する場合、Co含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Coを含有する場合、Co含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
【0039】
W:0.01~1.00%
Wは、耐食性を高める元素である。この効果は、W含有量が0.01%以上で得られる。しかし、W含有量が1.00%を超えると、加工性が低下する。そのため、Wを含有する場合は、W含有量は0.01~1.00%の範囲とする。Wを含有する場合、W含有量は、より好ましくは0.50%以下である。
【0040】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、さらに、Ti、V、Zr、Mg、Ca、B、REM、Sn、Sbのうちから選んだ1種または2種以上を、それぞれの下記の範囲で含有することが出来る。
【0041】
Ti:0.01~0.10%
Tiは、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を防止する効果を有する。その効果はTiの0.01%以上の含有で得られる。一方、Tiは酸素に対して活性な元素であり、0.10%を超えるTiの含有はろう付け処理時にTi酸化皮膜を鋼の表面に生成してろう付け性を低下させる。よって、Tiを含有する場合は、Ti含有量は0.01~0.10%の範囲とする。Tiを含有する場合、Ti含有量は、好ましくは0.05%以下である。
【0042】
V:0.01~0.20%
Vは、Ti同様に、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を防止する。これらの効果は、V含有量が0.01%以上で得られる。一方、V含有量が0.20%を超えると、加工性が低下する。そのため、Vを含有する場合は、V含有量は0.01~0.20%の範囲とする。Vを含有する場合、V含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
【0043】
Zr:0.01~0.10%
Zrは、TiやNbと同様に、鋼中に含まれるCおよびNと結合し、鋭敏化を抑制する元素である。この効果は、Zr含有量が0.01%以上で得られる。一方、Zr含有量が0.10%を超えると、加工性が低下する。そのため、Zrを含有する場合は、Zr含有量は0.01~0.10%の範囲とする。Zrを含有する場合、Zr含有量は、より好ましくは0.03%以上である。また、Zr含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
【0044】
Mg:0.0005~0.0050%
Mgは、脱酸剤として作用する。この効果はMg含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、Mg含有量が0.0050%を超えると、鋼の靭性が低下して製造性が低下する。そのため、Mgを含有する場合は、Mg含有量は0.0005%~0.0050%の範囲とする。Mgを含有する場合、Mg含有量は、より好ましくは0.0020%以下である。
【0045】
Ca:0.0005~0.0050%
Caは、溶接部の溶け込み性を改善して溶接性を向上させる。その効果は、Ca含有量が0.0005%以上で得られる。しかし、Ca含有量が0.0050%を超えると、Sと結合してCaSを生成し、耐食性が低下する。そのため、Caを含有する場合は、Ca含有量は0.0005~0.0050%の範囲とする。Caを含有する場合、Ca含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。また、Caを含有する場合、Ca含有量は、より好ましくは0.0020%以下である。
【0046】
B:0.0005~0.0050%
Bは、二次加工脆性を改善する元素である。その効果は、B含有量が0.0005%以上で発現する。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、固溶強化により延性が低下する。そのため、Bを含有する場合は、B含有量は0.0005~0.0050%の範囲とする。また、Bを含有する場合、B含有量は、より好ましくは0.0020%以下である。
【0047】
REM(希土類金属):0.001~0.100%
REM(希土類金属:La、Ce、Nbなどの原子番号57~71の元素)は、脱酸に有効な元素である。その効果は、REM含有量が0.001%以上で得られる。しかし、REM含有量が0.100%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、REMを含有する場合は、REM含有量は0.001~0.100%の範囲とする。REMを含有する場合、REM含有量は、より好ましくは0.010%以上である。また、REMを含有する場合、REM含有量は、より好ましくは0.050%以下である。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
【0048】
Sn:0.001~0.300%
Snは、加工肌荒れ抑制に有効な元素である。その効果は、Sn含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Sn含有量が0.300%を超えると、熱間加工性が低下する。そのため、Snを含有する場合は、Sn含有量は0.001~0.300%の範囲とする。Snを含有する場合、より好ましくは、Sn含有量は0.050%以下である。
【0049】
Sb:0.001~0.100%
Sbは、Snと同様に、加工肌荒れ抑制に有効な元素である。その効果は、Sb含有量が0.001%以上で得られる。しかし、Sb含有量が0.100%を超えると、加工性が低下する。そのため、Sbを含有する場合は、Sb含有量は0.001~0.100%の範囲とする。Sbを含有する場合、より好ましくは、Sb含有量は0.050%以下である。
【0050】
なお、上記任意成分として説明したMo、Co、W、Ti、V、Zr、Mg、Ca、B、REM、Sn、Sbの含有量が上記下限値未満の場合、その成分は不可避的不純物として含まれるものとする。
【0051】
なお、フェライト系とは、フェライト相を主体とした組織、具体的には、組織全体に対する面積率で80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のフェライト相と、(フェライト相以外の)残部組織とからなる組織を有することを意味する。残部組織としては、例えば、マルテンサイト相および残留オーステナイト相が挙げられる。フェライト単相(フェライト相が組織全体に対する面積率で100%)であってもよい。
【0052】
ここで、フェライト相の面積率は、以下のようにして測定する。すなわち、供試材となるステンレス鋼から断面観察用の試験片を作製する。ついで、試験片に王水によるエッチング処理を施してから、10視野について倍率200倍で光学顕微鏡による観察を行い、組織形状とエッチング強度からマルテンサイト相とフェライト相および残留オーステナイト相とを区別する。その後、画像処理により、視野ごとにフェライト相の面積率を求め、10視野での算術平均値を算出する。
【0053】
また、本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼の形状は特に限定されるものではないが、例えば、板状(鋼板)、管状(鋼管)および棒状(丸棒材や角材など)などを例示することができる。また、厚み(丸棒材の場合は外径)は、0.1~15.0mmとすることが好適である。
【0054】
次に、本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼の好適な製造方法を、板状のフェライト系ステンレス鋼(フェライト系ステンレス鋼板)を製造する場合を例示して説明する。
【0055】
まず、上記の成分組成を有する鋼素材(鋼スラブ)を、熱間圧延して所定板厚の熱延鋼板とする。ついで、該熱延鋼板に任意に熱延板焼鈍を施し、熱延焼鈍鋼板とする。ついで、該熱延鋼板または熱延焼鈍鋼板に冷間圧延を施して所定板厚の冷延鋼板とする。ついで、該冷延鋼板に冷延板焼鈍を施し、冷延焼鈍鋼板とする。これにより、上記の成分組成を有する板状のフェライト系ステンレス鋼(フェライト系ステンレス鋼板)を製造することができる。なお、熱間圧延や冷間圧延、熱延板焼鈍、冷延板焼鈍などの条件は特に限定されず、常法に従えばよい。
【0056】
例えば、鋼を溶製する製鋼工程では、転炉または電気炉等で溶解した鋼をVOD法等により二次精錬し、上記の成分組成を有する鋼とすることが好ましい。溶製した溶鋼は、公知の方法で鋼素材とすることができるが、生産性および品質面からは連続鋳造法によることが好ましい。ついで、鋼素材を、好ましくは1050~1250℃に加熱し、熱間圧延により所定板厚の熱延鋼板とする。ついで、上記の熱延鋼板に、任意に900~1150℃の温度で連続焼鈍を施した後、任意に酸洗等により脱スケールし、熱延焼鈍鋼板とする。さらに、任意に、酸洗前にショットブラストによりスケール除去してもよい。
【0057】
また、上記熱延鋼板または熱延焼鈍鋼板に、冷間圧延を施してもよい。冷間圧延の回数は、1回でもよいが、生産性や要求品質上の観点から、中間焼鈍を挟んで2回以上としてもよい。また、冷間圧延における総圧下率は60%以上が好ましく、より好ましくは70%以上である。ついで、冷間圧延して得られた冷延鋼板に、任意に、好ましくは900~1150℃、より好ましくは950~1150℃の温度で連続焼鈍(仕上げ焼鈍)を施した後、任意に酸洗し、冷延焼鈍鋼板とする。なお、連続焼鈍を光輝焼鈍で行って、酸洗を省略してもよい。さらに用途によっては、仕上げ焼鈍後、スキンパス圧延等を行って、鋼板の形状や表面粗度および材質調整を行ってもよい。
【0058】
上記の例では、板状とする場合の製造方法を例として説明したが、板状以外に熱間加工および冷間加工することもできる。この場合の熱間加工や冷間加工などの条件も特に限定されず、常法に従えばよい。
【0059】
なお、本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼は、りん銅ろう付けの母材に用いて特に好適である。りん銅ろう付けは、例えば、真空炉または雰囲気炉を使用し、真空度が4.0×10-3Pa~60Pa以下の真空雰囲気または窒素キャリア雰囲気で実施することが好ましい。ろう付け時の温度は特に限定されないが、600~950℃が好ましい。また、りん銅ろう材は、50質量%以上のCuと4~8質量%のPを含有し、その他の元素を添加することにより融点を調整した、ろう付け用のCu合金である。りん銅ろう材の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、ペースト状ろう材(粉体のろう材を有機物で構成されたバインダーと混ぜ合せたもの)が好ましい。
【0060】
以上説明した本発明のフェライト系ステンレス鋼は、りん銅ろう材を用いてろう付けする際に、鋼に含有したCuの作用により、他の易酸化元素による酸化皮膜の形成が抑制されるため、ろう材の濡れ性が向上する。
【0061】
以上説明した本発明のフェライト系ステンレス鋼は、少なくとも一か所以上の接合部がりん銅ろう材を用いたろう付けによって組み立てられた電気温水器、潜熱回収型給湯器等の給湯器に好適に用いられる。
【実施例0062】
表1に示した成分組成を有する鋼を真空溶解炉で溶製し、1100~1200℃で1時間加熱した後、熱間圧延によって板厚4.0mmの熱延板を製造した。950~1100℃にて熱延板焼鈍を行った後、機械研削によりスケールを除去し、板厚1.0mmまで冷間圧延した。950~1100℃にて仕上げ焼鈍を行って得られた冷延焼鈍板を、その表面をエメリー研磨紙で800番まで研磨し、アセトンによる脱脂を行った。
この処理を行った冷延焼鈍板について以下のようにりん銅ろう材によるろう付けを行い、ろう付け性の評価を実施した。
【0063】
(ろう付け性の評価)
上記処理を行った冷延焼鈍板から、幅50mm、長さ50mmの試験片を切り出し、表面の直径5mmの円内に、0.1gのりん銅ろう材(BCuP-2(JIS Z 3264:1998)、Cu-7.2質量%P)を設置した。真空炉内に試験片を水平に設置し、真空引きを行った後、窒素ガスを導入し、40Paの窒素雰囲気中にて830℃で10分加熱した。常温まで冷却後、試験片表面のりん銅ろう材の円相当直径を測定し、下記式に従ってりん銅ろう材の広がり率を算出した。
りん銅ろう材の広がり率(%)=[試験片の表面における加熱後のりん銅ろう材の円相当直径(mm)]/[試験片の表面における加熱前のりん銅ろう材の円相当直径(mm)]×100
得られたりん銅ろう材の広がり率に基づき、各鋼板のろう付け性を以下の通り評価した。
◎(合格、特に優れている):250%以上
〇(合格):150%以上250%未満
×(不合格):150%未満
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、発明例ではいずれもりん銅ろう材を用いたろう付け性が良好であった。特に発明例No.1~2、6~11、13では、易酸化元素(CrおよびAl)の含有量が適切に規制され、Cu含有量が適正量となったため、優れたろう付け性を得られた。これに対し、成分組成が適正範囲外となる比較例No.14~18では良好なろう付け性が得られなかった。
【0066】
より具体的には、比較例No.14では、Si含有量が本発明の上限値超えであったため、良好なろう付け性を得られなかった。
また、比較例No.15ではMn含有量が本発明の上限値超えであったため、良好なろう付け性を得られなかった。
また、比較例No.16ではCr含有量が本発明の上限値超えであったため、良好なろう付け性を得られなかった。
また、比較例No.17ではAl含有量が本発明の上限値超えであったため、良好なろう付け性を得られなかった。
また、比較例No.18ではCu含有量が本発明の下限値未満であったため、良好なろう付け性を得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、りん銅ろう材を用いたろう付けを行う場合に良好なろう付け性を示す。このため、少なくとも一か所以上の接合部がりん銅ろう材を用いたろう付けによって組み立てられた電気温水器、潜熱回収型給湯器等の給湯器への適用に、特に好適である。