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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082614
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】Fe-Ni合金膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/34 20060101AFI20230607BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20230607BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20230607BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20230607BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230607BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20230607BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20230607BHJP
【FI】
C25D11/34 301
C25B11/03
C25B11/052
C25B11/077
H01M12/08 K
H01G11/46
H01G11/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196505
(22)【出願日】2021-12-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 発行日 2020年12月3日 刊行物 第22回関西表面技術フォーラム要旨集 (その2) 開催日 2020年12月3日から2020年12月4日(公開日は2020年12月4日) 集会名、開催場所 第22回関西表面技術フォーラム(WEB(Zoom)開催)
(71)【出願人】
【識別番号】514168843
【氏名又は名称】地方独立行政法人京都市産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺野 祥岐
(72)【発明者】
【氏名】永山 富男
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴代
【テーマコード(参考)】
4K011
5E078
5H032
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA50
4K011BA08
4K011DA01
5E078AB04
5E078BA27
5E078BA62
5E078BA63
5E078BB08
5H032AA02
5H032AS01
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE01
5H032HH01
5H032HH04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、優れた効果を発揮する電極を提供することを目的とする。
【解決手段】Fe及びNiを含有するFe-Ni合金膜であって、該合金膜の表面には、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されており、更に、該孔の表面上にナノ粒子が分散された状態で存在しており、該合金膜を構成するFe-Ni組成と該ナノ粒子を構成するFe-Niの組成とが相違している、Fe-Ni合金膜の提供。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe及びNiを含有するFe-Ni合金膜であって、
該合金膜の表面には、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されており、
更に、該孔の表面上にナノ粒子が分散された状態で存在しており、
該合金膜を構成するFe-Ni組成と該ナノ粒子を構成するFe-Niの組成とが相違している、Fe-Ni合金膜。
【請求項2】
前記孔の平均孔径が、5~100nmである、請求項1に記載のFe-Ni合金膜。
【請求項3】
前記ナノ粒子の平均粒子径が、10~50nmである、請求項1又は2に記載のFe-Ni合金膜。
【請求項4】
前記合金膜を構成するNi成分の含有割合が、前記ナノ粒子を構成するNi成分の含有割合よりも少ない、請求項1~3の何れか一項に記載のFe-Ni合金膜。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載のFe-Ni合金膜の製造方法であって、
(1)Fe及びNiを含有する合金膜を陽極酸化処理する工程、並びに
(2)工程1で得られた陽極酸化処理膜を熱処理する工程、
を備える、Fe-Ni合金膜の製造方法。
【請求項6】
前記陽極酸化処理を施されるFe及びNiを含有する合金膜が、30原子パーセント(at%)以上の鉄を含有する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4の何れか一項に記載のFe及びNiを含有する合金膜が基板上に形成されてなる積層体。
【請求項8】
電極に使用される請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項7に記載の積層体を備える電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe-Ni合金膜及びその製造方法に関する。また、本発明は、当該合金膜が基板上に形成されてなる積層体に関する。また、本発明は、当該積層体を備える電池に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属の陽極酸化により生成するナノ多孔質陽極酸化膜は、大きな表面積を有することから、これを備える電極(特に、酸素発生反応(OER)電極)を、二次電池、電気化学キャパシタ及び水電解用途ヘ応用することが盛んに研究されている。特に、鉄(Fe)やFe合金の陽極酸化膜は、安価で資源豊富なFeをベースとすることから、低コストで大量生産に適した水分解用途等の電極等に適切に使用できるものして、大変注目されている(非特許文献1~3)。
【0003】
陽極酸化により製造される酸化膜の組成は、その原料となる基材の組成に強く依存することが知られている。よって、陽極酸化膜を電極として使用する際には、陽極酸化に供する原料の金属組成の制御が不可欠である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fan et al.NATURE COMMUNICATIONS,2018,9,1809
【非特許文献2】Yu et al.RSC Advances,2012,2,12177
【非特許文献3】In Situ Activation of Anodized Ni-Fe Alloys for the Oxygen Evolution Reaction in Alkaline Media,ACS Appl.EenergyMater.2020,3,12316-12326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によって製造される陽極酸化膜を電極として使用しても、十分に満足できる電気化学的な効果を発揮しないことが問題となっている。そこで、本発明は、優れた電気化学的な効果を発揮する電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、陽極酸化に供する金属としてNi-Fe合金めっき膜を採用し、その組成を鋭意検討して製造した陽極酸化膜を含有する電極を解析した結果、特定の組成比を有する合金膜を陽極酸化処理及び熱処理してなる処理膜が、極めて優れた電気化学的な効果を発揮することを見出した。本開示は、このような知見に基づいて完成された発明であって、下記に示す態様の発明を広く包含する。
【0007】
項1 Fe及びNiを含有するFe-Ni合金膜であって、
該合金膜の表面には、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されており、
更に、該孔の表面上にナノ粒子が分散された状態で存在しており、
該合金膜を構成するFe-Ni組成と該ナノ粒子を構成するFe-Niの組成とが相違している、
Fe-Ni合金膜。
【0008】
項2 前記孔の平均孔径が、5~100nmである、上記項1に記載のFe-Ni合金膜。
【0009】
項3 前記ナノ粒子の平均粒子径が、10~50nmである、上記項1又は2に記載のFe-Ni合金膜。
【0010】
項4 前記合金膜を構成するNi成分の含有割合が、前記ナノ粒子を構成するNi成分の含有割合よりも少ない、上記項1~項3の何れか一項に記載のFe-Ni合金膜。
【0011】
項5 上記項1~項4の何れか一項に記載のFe-Ni合金膜の製造方法であって、
(1)Fe及びNiを含有する合金膜を陽極酸化処理する工程、並びに
(2)工程1で得られた陽極酸化処理膜を熱処理する工程、
を備える、Fe-Ni合金膜の製造方法。
【0012】
項6 前記陽極酸化処理を施されるFe及びNiを含有する合金膜が、30原子パーセント(at%)以上の鉄を含有する、上記項5に記載の製造方法。
【0013】
項7 上記項1~項4の何れか一項に記載のFe及びNiを含有する合金膜が基板上に形成されてなる積層体。
【0014】
項8 電極に使用される上記項7に記載の積層体。
【0015】
項9 上記項7に記載の積層体を備える電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた電気化学的な効果を発揮する電極を提供することができる。より詳細には、優れたOER効果を発揮する電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明のFe-Ni合金膜のSEM像とその模式図を示す図である。
図2図2は、実験例1におけるNi組成による比較の結果を示す図である。
図3図3は、実験例1における合金膜の製法による比較の結果を示す図である。
図4図4は、実験例1におけるFe及びNiの分布の結果を示す図である。
図5図5は、実験例1におけるFe-Ni合金膜の膜厚の結果を示す図である。
図6図6は、実験例1におけるOER活性評価の結果を示す図である。
図7図7は、実験例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。なお、以下において、特に断らない限り、数値範囲を示す「~」の標記は「未満」及び「超過」の意味ではなく「以上以下」を示す。つまり、「A~B」は「A以上B以下」を意味し、A及びBも含まれる。
【0019】
本明細書において、ある成分を「含む」又は「含有する」の表現には、当該成分を含み、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0020】
本発明のFe-Ni合金膜は、Fe及びNiを含有する。Fe及びNi以外に、本発明の効果が阻害されない範囲において、他の金属成分が含有されていてもよい。例えば、Mn、Co、Mo、W、Cr等を挙げることができる。
【0021】
上記Fe-Ni合金膜の表面には、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されている。当該複数の孔の具体的な個数は、本発明の効果を発揮できる範囲において、特に限定されない。例えば、Fe-Ni合金膜の表面積(当該表面積とは、複数の孔の表面積を除外した、Fe-Ni合金膜の水平方向の表面における面積である)当たり、通常1x10~3x1012個/cm程度の割合で孔が形成されており、好ましくは1.2x10~2.5x1012個/cm程度、より好ましくは1.3x10~2.2x1012個/cm程度、最も好ましくは1.5x10~2x1012個/cm程度である。
【0022】
上記孔の平均孔径は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。このような孔の平均孔径を、通常5~100nm程度とすることができる。電極性能をより一層向上させる観点から、上記孔の平均孔径は、好ましくは30~80nm程度であり、更に好ましくは40~60nm程度とすることできる。孔の平均孔径を30nm以上とすることにより、上記Fe-Ni合金膜を電極に応用した際に、OER時の気泡の脱離を阻害することに起因する、電極性能の低下が生じないことが期待される。また、孔の平均孔径を60nm以下とすることにより、上記Fe-Ni合金膜を電極に応用した際に、電極の表面積が得られることが期待される。なお、上記平均孔径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子製JSM-6700F)により観察した試料表面のSEM像、及び走査型透過電子顕微鏡(STEM,日本電子製JEM-2100F)により観察した酸化膜の断面画像から、画像処理ソフトの測長機能を用いて測長し算出することができる。
【0023】
上記Fe-Ni合金膜には、更に、前記孔の表面上にナノ粒子が分散された状態で存在している。このようなナノ粒子が上記孔の表面上に存在する個数は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。通常6x10~1.5x1014個/cm程度の割合で前記孔の表面上に存在するものとすることができ、好ましくは、8x10~1.45x1014個/cm程度の割合、より好ましくは、1x1010~1.4x1014個/cm程度の割合で前記孔の表面上に存在することができる。
【0024】
上記ナノ粒子の平均粒子径は、本発明の効果が発揮できる限り、特に限定されない。上記ナノ粒子の平均粒子を、通常10~50nm程度とすることができる。より好ましくは、上記ナノ粒子の平均粒子を10~40nm程度とすることができる。なお、上記平均粒子径は、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM、日本電子製JEM-2100F)のEDS分析により得た酸化膜断面におけるFeとNiの元素マッピング画像から、画像処理ソフトの測長機能を用いて測長し算出することができる。
【0025】
上記合金膜を構成するFe-Ni組成と上記ナノ粒子を構成するFe-Niの組成とが相違している。より具体的には、上記合金膜を構成するFe-Ni組成中のNi成分と上記ナノ粒子を構成するFe-Niの組成中のNi成分との質量比が、1:1~1:5である態様を挙げることができる。このような質量比は、後記する実施例にて測定する方法と同様の測定機器、測定条件による測定値である。
【0026】
上記Fe-Ni合金膜の膜厚は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。通常、0.2~30μm程度とすることができる。Fe-Ni合金膜の膜厚は、より好ましくは、0.3~20μm程度であり、1~17μm程度とすることが最も好ましい。なお、上記の数値は、後記する実施例にて測定する方法と同様の測定機器、測定条件による測定値である。
【0027】
本発明のFe-Ni合金膜の模式図及びSEM像の典型例を図1に示す。このように、上記合金膜は、多孔質膜の表面には、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されている。また、上記合金膜の表面(図の上方)には、複数の孔が存在し、該孔は開孔部から深さ方向(図の下方)に孔が櫛状に形成されている。また、該孔の形状は、粗直線状であり、分枝状は、殆ど存在しない。
【0028】
図1(a)に示す上記合金膜の模式図には、黒色で示すように前記孔の表面にナノ粒子が分散された状態で存在する。
【0029】
上記Fe-Ni合金膜を構成するNi成分の含有割合は、前記ナノ粒子を構成するNi成分の含有割合よりも少ないことが好ましい。すなわち、上記Fe-Ni合金膜を構成するFe成分の含有割合は、前記ナノ粒子を構成するFe成分よりも多いことが好ましい。上記Fe-Ni合金膜において、Ni酸化物は、電気化学反応における高い触媒活性を有するのに対して、Fe酸化物は、高い電気伝導性を有する。よって、高い電気伝導性を有するFe-Ni合金膜が、高い触媒活性を有するナノ粒子を有することにより、上記合金膜を含有する電極は、優れた電気化学的活性、特にOER活性を発揮することできる。
【0030】
上記するように、本発明のFe-Ni合金膜に分散されるナノ粒子を構成するNi成分の含有割合は、当該Fe-Ni合金膜を構成するNi成分の含有割合よりも多いこと(Niリッチ)が好ましい。すなわち、上記Fe-Ni合金膜を構成するFe成分の含有割合は、上記ナノ粒子を構成するFe成分よりも多いこと(Feリッチ)が好ましい。FeとNiの複合酸化物は、優れた電気化学反応活性(特に、OERに対して)を有する一方において、Niの添加により、その導電性が低下することが避けられないことから、非特許文献3に開示されるようなNi-Feの均一な多孔質膜の構造では、電極反応活性の向上と、導電性の維持との両立が困難である。
【0031】
本発明のFe-Ni合金膜は、Fe成分が多いことに起因するFe-Ni合金膜の高い電気伝導性と、当該Fe-Ni合金膜に分散されるナノ粒子におけるNi成分が多いことに起因する電気化学反応における高い触媒活性とを兼備することから、電極反応活性の向上と、導電性の維持との両立を図ることができる。従って、本発明のFe-Ni合金膜を電極に応用することにより、優れた電極触媒活性、特にOER活性を発揮することができる。
【0032】
上記Fe-Ni合金膜の製造方法は、下記工程1及び2を備える。
【0033】
工程1 Fe及びNiを含有する合金膜を陽極酸化処理する工程。
【0034】
工程2 工程1で得られた陽極酸化処理膜を熱処理する工程。
【0035】
上記工程1において使用するFe及びNiを含有する合金膜におけるFeの含有割合は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。例えば、上記合金膜に対して、30at%程度以上の鉄を含有する合金膜を挙げることができる。より好ましくは、50at%程度以上の鉄を含有する合金膜であり、55at%程度以上の鉄を含有する合金膜が最も好ましい。55at%以上の割合とすることにより、細孔内部における反応物や生成物の物質移動に有益な、基板に対して垂直に配向した柱状の細孔構造を生成できるメリットが期待される。
【0036】
上記工程1にて製造原料として使用する合金膜は、公知の方法で製造したものを使用することができる。例えば、湿式成膜法、メカニカルアロイング法、気相蒸着法等によって製造された合金膜等が挙げられるが、これらの中でも、湿式成膜法により製造された合金膜が好ましい。これらの合金製造方法では、一般的な合金の製造方法である溶解鋳造法とは異なり、製造プロセスに高温の工程を含まないため、これによる結晶粒の粗大化が抑制される。その結果、合金膜の微細なナノ結晶粒組織が多孔質構造に引き継がれることによって、孔表面におけるナノ粒子の生成を実現しているものと推察される。
【0037】
上記工程1の陽極酸化処理で用いられる電解液としては、公知の電解液を広く用いることができる。例えば、水、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム等を0.05~3モル毎リットル(mol/L)程度の濃度で含有するエチレングリコール溶液が挙げられる。より詳細には、0.05~3mol/L程度の濃度のフッ化アンモニウム、0.1~2mol/L程度の濃度のフッ化ナトリウム、及び0.1~3mol/L程度の濃度の水等を含有するエチレングリコール溶液等を挙げることができる。
【0038】
上記工程1における陽極酸化処理の条件は、公知の方法を採用することができる。例えば、5~80V程度の電圧で、20~3600秒程度の処理する条件を挙げることができる。
【0039】
上記工程2における熱処理条件は、公知の方法を採用することができる。具体的には、窒素、アルゴン等の不活性ガス、大気、真空等の雰囲気下で熱処理を実施することができる。中でも、窒素雰囲気下で実施することが好ましい。また、熱処理の時間は、通常、5~300分程度とすることができ、好ましくは30~120分程度であり、30~60分程度の時間とすることが最も好ましい。
【0040】
上記工程2における熱処理温度も、公知の方法を採用することができる。具体的には、573~873K程度の温度、より好ましくは、623~773K程度の温度であり、623~723K程度とすることが最も好ましい。573K以上とすることにより、膜の結晶性が良くなり、導電性が向上するメリットが期待される。また、873K以下とすることにより、熱処理による多孔質構造の崩壊を抑制し、高い表面積を維持することができる。
【0041】
上記するFe及びNiを含有する合金膜は、基板と共に積層体を形成することができる。すなわち、本発明の積層体は、基板上に上記合金膜が形成されてなるものとすることができる。具体的には、上記基板上に、Fe-Niめっき法などにより形成し、次いで陽極酸化及び熱処理に施すことによって、作製することができる。具体的な条件は、上記に説明した通りとすることができる。
【0042】
上記基板の素材は、本発明の効果を発揮する範囲において、特に限定されない。具体的には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、カーボン(C)、アルミナセラミックス等を挙げることができる。これらの中でも、Cu、Ni等が好ましい。また、上記基板の厚さも、本発明の効果を発揮する限りにおいて、特に限定されない。具体的には、1~100000μm程度の厚さを挙げることができる。より好ましくは、100~5000μm程度である。
【0043】
上記積層体は、本発明のFe-Ni合金膜を含有しているため、電極として好適に使用することができる。すなわち、本発明の電極は、上記積層体を備えるものである。
【0044】
本発明の電極は、各種の用途に応用することができる。具体的には、水素製造用の水電解槽に設置される電極、金属空気二次電池に設置される電極、湿式表面処理用電解槽に設置される電極、燃料電池に設置される電極、スーパーキャパシターに設置される電極等を挙げることができる。これらの中でも、OER電極効果を発揮する電極として使用される、水素製造用の水電解槽に設置される電極、金属空気二次電池に設置される電極、湿式表面処理用電解槽に設置される電極等が好ましい。
【0045】
上述した本発明の各実施態様について説明した性質、構造、機能等の各種の特性は、本発明に包含される態様を特定するにあたり、適宜組み合わせることができる。すなわち、本発明には、本明細書で開示する、組み合わせることができる各特性の態様の全ての発明を包含することができる。
【実施例0046】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。本発明が下記に示す実施例に限定されないのは言うまでもない。
【0047】
(実験例1)
1.Fe-Ni合金めっき膜の作成
Cu基板を作用極とし、純鉄板をその対極として、下記組成の表1(クエン酸浴:低Ni組成用)又は表2(マロン酸浴:中~高Ni組成用)に示す浴中で、各種条件で定電流条件の電気めっきを行い、基板上にNi組成の異なるFe-Ni合金めっき膜を作製した。めっき時間は、特に断りがない限り、10分間とした。
【0048】
なお、表中の各化合物は、mol/Lを表し、各化合物のメーカーは、クエン酸水素二アンモニウム、マロン酸及びサッカリンナトリウムは、ナカライテスク、その他は、富士フイルム和光純薬である。
【0049】
なお、めっき膜厚及び組成は、蛍光X線FP法(日立ハイテクサイエンス製SEA6000VX)により決定した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
2.陽極酸化
上記1.にて作成したFe-Ni合金めっき膜を、0.1mol/Lのフッ化アンモニウム及び0.5mol/Lの蒸留水を含有するエチレングリコール電解液中で陽極酸化した。浴温は20℃であり、電解条件として40Vの低電圧にて陽極酸化を実施した。電解時間は、下記の表3に示す通りである。
【0053】
【表3】
【0054】
3.熱処理
上記2.にて作製した陽極酸化膜をアルミナ管状熱処理炉中にて、所定の温度で30分間の熱処理を行った。熱処理中は、純度99.999%の窒素又はアルゴンガスを流量100mL/minで炉中に通気し、炉中を不活性ガス雰囲気とした。所定の温度までの昇温および降温速度を2.5K/minに制御した。これらのFe-Ni合金膜は、実質的にFe、Ni及びOから構成されているが、上述のとおり本発明の効果が阻害されない範囲において、他の成分が含有されていてもよい。
【0055】
(比較例)
また、比較例として、溶解鋳造されたNiを42%含有するFe-Ni合金板(ニラコ社製)を用いて、サンプル1~10と同様に陽極酸化及び熱処理に供した。
【0056】
このようにして製造した酸化膜の縦断面観察を走査型透過電子顕微鏡(STEM,日本電子製JEM-2100F)にて常法により行った。STEM縦断面観察用の試料は、イオンスライサ(日本電子製EM-09100IS)にて薄膜試料加工を行った。一部の試料の断面観察は、集束イオンビーム加工観察装置(FIB,日本電子製JIB-4000)にて常法により観察を行った。
【0057】
(Ni組成による比較)
図2に熱処理後の膜のSTEM暗視野像(A)及びSTEM-EDS元素マッピング分析像像(B)を示す。当該熱処理は、673Kで実施した。(B)のSTEM-EDS元素マッピング分析像において、赤色がFeを、そして緑色がNiであることを示す。
【0058】
(A)のSTEM暗視野像の結果から、サンプル10のめっき条件(79at%Ni)では、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されていると判断できなかった。また、サンプル1のめっき条件(5at%Ni)、サンプル2のめっき条件(10at%Ni)及びサンプル9のめっき条件(68at%Ni)では、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されていることが明らかとなった。
【0059】
これらの孔の平均孔径は、サンプル1のめっき条件(5at%Ni)では約25nm、サンプル2のめっき条件(10at%Ni)では約35nmであった。この平均孔径は、SEM表面観察で撮影した画像を、画像処理ソフトImageJにて孔部分を塗りつぶし、本ソフトの粒子解析機能を用いて得られた孔1個あたりの塗りつぶし面積を基に孔径を算出した。また一部の試料はTEM断面観察画像の直径をImageJ上で測定した結果から求めた。
【0060】
また、図2の(B)に示すSTEM-EDS元素マッピング分析像から、サンプル1のめっき条件では、開孔部から深さ方向に複数の孔がFeを主成分として含み、そこにNiを主成分として含むナノ粒子が分散されているとは判断できなかった。それに対してサンプル2のめっき条件では、開孔部から深さ方向に複数の孔がFeを主成分として含み、そこにNiを主成分として含むナノ粒子が分散されることが確認された。
【0061】
サンプル2のめっき条件では、Niを主成分として含むナノ粒子の平均粒子径が、約20nmであった。この平均粒子径は、STEM-EDS像のナノ粒子の粒子径を画像処理ソフトImageJを用いて測定して算出した。
【0062】
(合金膜の製法による比較)
図3に、サンプル6のめっき条件(42at%Ni)で製造した合金めっき膜を上記のように陽極酸化及び673Kでの熱処理に供した膜、及び比較例1の合金を同様に陽極酸化及び熱処理に供した膜のSTEM暗視野像(グレースケール)及びSTEM-EDS元素マッピング分析(カラー)に供した結果を示す。(B)のサンプル6では、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されることがSTEM暗視野像から確認され、そして開孔部から深さ方向に複数の孔がFeを主成分として含み、そこにNiを主成分とするナノ粒子が存在することがSTEM-EDS元素マッピング分析から確認された。その一方で、(A)の比較例では、孔部から深さ方向に複数の孔が形成されることが確認できるものの、Niを主成分とするナノ粒子が存在することは確認できなかった。
【0063】
従って、陽極酸化及び熱処理に供する合金膜をめっき膜とすることによって、開孔部から深さ方向に複数の孔が形成されており、更に、該孔の表面上にナノ粒子が分散された状態で存在する膜が製造できた。
【0064】
(Fe及びNiの分布)
図4の(A)にサンプル6のめっき条件(42at%Ni)で製造した合金めっき膜を上記のように陽極酸化及び673Kでの熱処理に供した膜におけるSTEM-EDS元素マッピング分析結果を示す。赤色及び緑色は、上記と同様に、それぞれFe及びNiであることを示す。この結果から、開孔部から深さ方向に複数の孔(ポア壁部)の主成分がFeであり、これに分散されるナノ粒子部の主成分が、Niであることが分かる。
【0065】
この結果をサンプル3、5、6及び9のめっき条件で製造した合金めっき膜を上記のように陽極酸化及び673Kでの熱処理に供した膜における、STEM-EDS元素マッピング分析と同様に検討した結果を図4の(B)に示す。具体的には、使用した日本電子製の透過型電子顕微鏡JEM2100Fに付属するEDSマッピング用ソフトの抽出機能を用いて,局所的な組成を抽出し、そのFeとNiの比率から算出した。この結果から、全てのめっき条件において、ナノ粒子部におけるNi成分が、ポア壁部におけるNi成分よりも多いことが明らかとなった。また、70at%Ni以下、すなわち30at%以上のFe成分を含有するFe-Ni合金膜を陽極酸化及び673Kでの熱処理に供した膜が、好ましいことも明らかとなった。
【0066】
(Fe-Ni合金膜の膜厚)
サンプル6のめっき条件(42at%Ni)にて製造したFe-Ni合金めっき膜を陽極酸化及び熱処理に供して製造した膜におけるSTEM暗視野像を図5の(A)に、STEM-EDS元素マッピング分析結果を図5の(B)に、そして製造した膜全体のSTEM暗視野像を図5の(C)に示す。(C)の上部の拡大が(A)及び(B)に該当し、(C)の下部にCu基板が存在することが分かる。
【0067】
また、上記する熱処理後の膜において、Cu基板から該膜の上部までの距離、すなわち上記する熱処理後の膜厚は、16.2μmであった。
【0068】
(OER活性評価)
上記サンプル2と6の条件で製造した合金めっき膜に対して陽極酸化および熱処理に供したFe-Ni合金膜試料に対して,OER活性試験を実施した。合金膜は、厚さ0.3mmの純銅基板上に作製した。OER活性試験は、使用した装置を図6の(A)の模式図にて示すように、Biologic社製,電気化学測定システムVSPを用いてアノード分極測定を行い実施した。なお、参照極(RE)は、Hg/HgO(0.1mol/LのKOH)であり、参照電極対極(CE)はPtワイヤーであり、そして掃引速度は、10mV/sである。電解液として、酸素飽和0.1mol/LのKOH水溶液を用いた。実験前に99.995%の酸素ガスを15分程度通気することで電解液中の溶存酸素濃度を飽和濃度とした。対極を白金ワイヤー,参照電極を水銀/酸化水銀参照電極を用いた三電極系電気化学セルを用いてアノード分極曲線を得た。また、比較例として、上記サンプル2又は6の条件で製造した合金膜に変えて、溶製圧延されたNiを42at%で含有するFe-Ni合金板(ニラコ社製)を使用した。この結果を図6に示す。
【0069】
図6に示す結果から、サンプル2及び6と同一のめっき条件にて製造した合金膜に陽極酸化及び熱処理を施した膜を含有する電極が、比較例の合金膜に陽極酸化及び熱処理を施した膜を含有する電極に対して、OER電流が向上することが明らかとなった。このような結果は、比較例の電極では、図3に示すように陽極酸化及び熱処理によって多孔質膜が形成されるものの、Niを主成分とするナノ粒子が分散していないことに起因すると考えられる。
【0070】
(実験例2)
また、上記する熱処理の温度について、サンプル6のめっき条件(42at%Ni)で製造した合金めっき膜を陽極酸化に供した膜を573K、873K及び1073Kにて検討した。図7の(A)は、STEM暗視野像、図7の(B)が、STEM-EDS元素マッピング分析結果、図7の(C)はFIBによるSIM像を示す。573Kでの熱処理では、多孔質相の形成はSTEM暗視野像から確認でき、Fe相及びNi相の明確な分離も、STEM-EDS元素マッピング分析結果から確認できる。また、1073Kでの熱処理では、多孔質膜の形成が確認できなかった。これは、熱処理温度が高いことに起因すると考えられる。また、図7(C)のSIM像に示すように、873Kでの熱処理では、酸化膜の多孔質層の大部分は消失しているものの、表面付近には多孔質構造が維持されている様子が確認できる。
【0071】
(実験例3)
上記実験例1において使用したCu基板をNi基板に変更し、所定のめっき条件にてFe-Ni合金めっき膜を作製した。得られた合金膜を陽極酸化及び熱処理に供することにより、Cu基板上に作製したものと同様の構造が得られた(データ示さず)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7