(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082665
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】位置決め構造、及び位置決め方法
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20230607BHJP
B21D 28/14 20060101ALN20230607BHJP
B21D 28/36 20060101ALN20230607BHJP
B21D 22/04 20060101ALN20230607BHJP
【FI】
B23K37/04 J
B21D28/14 B
B21D28/36 B
B21D22/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184685
(22)【出願日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2021196416
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】399019940
【氏名又は名称】株式会社アマダツール
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓也
【テーマコード(参考)】
4E048
4E137
【Fターム(参考)】
4E048FA04
4E137AA10
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA02
4E137GA15
(57)【要約】
【課題】塑性流動性の低い金属からなる場合でも、板材同士を確実に位置決めすることができる位置決め構造、及び位置決め方法を提供する。
【解決手段】第1板材10に設けられた打ち抜き孔15の、第1板材の一方の表面側の内周縁部15aから打ち抜き孔15の貫通方向に突出した第1板材10の素材の塑性流動部からなる凸部13と、第2板材20の一方の表面21に形成された凸部13を受け入れ可能な凹部23と、を備え、第1板材10の凸部13が第2板材20の凹部23に係合することにより、第2板材20の一方の表面21に沿う第1板材10の移動を規制する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1板材の縁部に設けられ、前記第1板材の一方の表面側から板厚方向に突出した、前記第1板材の素材の塑性流動部からなる凸部と、
第2板材の一方の表面に形成された、前記凸部を受け入れ可能な凹部と、を備え、
前記第1板材の一方の表面と前記第2板材の一方の表面とを向かい合うように重ね合わせて前記第1板材の前記凸部が前記第2板材の前記凹部に係合することにより、前記第2板材の一方の表面に沿う前記第1板材の移動を規制する、位置決め構造。
【請求項2】
前記凸部は、前記第1板材の縁部である、前記第1板材の輪郭をなす外周縁部に設けられている、請求項1に記載の位置決め構造。
【請求項3】
前記凸部は、前記外周縁部に沿って延びる直線状凸部であり、前記外周縁部の一部に設けられており、
前記凹部は、前記直線状凸部に沿って延びる直線状溝である、請求項2に記載の位置決め構造。
【請求項4】
前記第1板材は、前記第1板材の輪郭をなす外周縁部よりも内側の平面領域に、板厚方向に貫通する打ち抜き孔を備え、
前記凸部は、前記第1板材の縁部である、前記打ち抜き孔の内周縁部に設けられている、請求項1に記載の位置決め構造。
【請求項5】
前記凸部は、前記打ち抜き孔の周方向に沿って延びる環状凸部であり、
前記凹部は、前記環状凸部に沿って延びる環状溝である、請求項4に記載の位置決め構造。
【請求項6】
前記第2板材の一方の表面を基準にした前記凹部の深さが、前記第2板材の一方の表面と対向する前記第1板材の一方の表面を基準にした前記凸部の高さ以上である請求項1に記載の位置決め構造。
【請求項7】
前記凸部の先端の断面形状は鋭角であり、
前記凸部の先端が前記凹部の内面に当接することで、前記凸部と前記凹部とが係合して位置決めされる、請求項1に記載の位置決め構造。
【請求項8】
第1板材に打ち抜き加工を行い、前記第1板材の縁部から打ち抜き方向に突出した前記第1板材の素材の塑性流動部からなる凸部を形成する第1工程と、
第2板材の一方の表面に、前記凸部を受け入れ可能な凹部を形成する第2工程と、
前記第1板材の一方の表面と前記第2板材の一方の表面とを向かい合うように重ね合わせて前記第1板材の前記凸部を前記第2板材の前記凹部に係合させて、前記第2板材の前記表面に沿う前記第1板材の移動を規制する第3工程と、
を含む、位置決め方法。
【請求項9】
前記第1板材に対する前記打ち抜き加工は、前記第1板材の輪郭をなす外周縁部を形成する加工であり、
前記第1板材の縁部である、前記外周縁部に前記凸部が形成される、請求項8に記載の位置決め方法。
【請求項10】
前記凸部は、前記外周縁部に沿って延びる直線状凸部であり、前記外周縁部の一部に設けられており、
前記凹部は、前記直線状凸部に沿って延びる直線状溝である、請求項9に記載の位置決め方法。
【請求項11】
前記第1板材に対する前記打ち抜き加工は、前記第1板材の輪郭をなす外周縁部よりも内側の平面領域に、板厚方向に貫通する打ち抜き孔を形成する加工であり、
前記第1板材の縁部である、前記打ち抜き孔の内周縁部に前記凸部が形成される、請求項8に記載の位置決め方法。
【請求項12】
前記凸部は、前記打ち抜き孔の周方向に沿って延びる環状凸部であり、
前記凹部は、前記環状凸部に沿って延びる環状溝である、請求項11に記載の位置決め方法。
【請求項13】
前記第1工程において、前記打ち抜き加工に、開口部に面取り面が形成されたダイと前記ダイと協働して前記第1板材に打ち抜き加工するパンチが用いられ、
前記パンチの作用により塑性流動した前記塑性流動部が、前記パンチと前記面取り面とで押圧されることで、前記凸部が形成される、請求項8に記載の位置決め方法。
【請求項14】
前記第1板材に打ち抜き加工する前記パンチのパンチチップと、前記第1板材を載置可能に設けられた前記ダイの開口部とのクリアランスの調整及び前記ダイの表面を基準にした前記面取り面の深さを規定することで、前記第1板材の一方の表面を基準にした前記凸部の高さを所定の高さに形成する、請求項13に記載の位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め構造、及び位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2枚の板状のワーク(板材)における表面同士を重ね合わせて、例えばスポット溶接などを行う場合、一方の板材の表面に凸部を形成し、他方の板材の表面に凹部を形成し、前記凹部と前記凸部とを嵌合することで、2枚の板材の位置決めをする技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、一方の板材の表面に金型を食い込ませることで金属を塑性流動させて凸部を形成し、その凸部を他方の板材に設けた凹部に係合させることで位置決めしている。しかしながら、塑性流動性の低い金属では十分な高さまで凸部を突出させることが困難であり、より確実な位置決めを実現することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る位置決め構造は、第1板材の縁部に設けられ、第1板材の一方の表面側から板厚方向に突出した、第1板材の素材の塑性流動部からなる凸部と、第2板材の一方の表面に形成された、凸部を受け入れ可能な凹部と、を備え、第1板材の一方の表面と第2板材の一方の表面とを向かい合うように重ね合わせて第1板材の凸部が第2板材の凹部に係合することにより、第2板材の一方の表面に沿う第1板材の移動を規制する。
【0006】
本発明の一態様に係る位置決め方法は、第1板材に打ち抜き加工を行い、第1板材の縁部から打ち抜き方向に突出した第1板材の素材の塑性流動部からなる凸部を形成する第1工程と、第2板材の一方の表面に、凸部を受け入れ可能な凹部を形成する第2工程と、第1板材の一方の表面と第2板材の一方の表面とを向かい合うように重ね合わせて第1板材の凸部を第2板材の凹部に係合させて、第2板材の表面に沿う第1板材の移動を規制する第3工程と、を含む。
【0007】
本発明の一態様に係る位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材の凸部は、板厚方向に突出している。この凸部は、打ち抜き加工によって第1板材の縁部を形成する際に、打ち抜き方向への素材の塑性流動によって形成することができる。これにより、素材の塑性流動性が低くても、打ち抜き方向へと素材を塑性流動させることで、十分な高さの凸部を容易に形成することができる。そして、この位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材の凸部が第2板材の凹部に対して確実に係合し、これにより、第2板材の表面に沿った第1板材の移動を効果的に規制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、塑性流動性の低い金属からなる場合でも、板材同士を確実に位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めする前の状態を説明する図である。
【
図2】
図2は、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めした状態を説明する図である。
【
図3】
図3は、第1板材の加工に用いるパンチプレス、金型の構成を説明する断面説明図である。
【
図4】
図4は、第1板材に凸部を形成した状態を説明する断面説明図である。
【
図5】
図5は、第1板材に凸部を形成する際に用いるダイ金型の断面説明図である。
【
図6】
図6は、変更例において、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めする前の状態を説明する図である。
【
図7】
図7は、変更例において、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めした状態を説明する図である。
【
図8】
図8は、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めした状態を説明する図である。
【
図11】
図11は、第1板材の凸部と第2板材の凹部とを係合させて位置決めする前の状態を説明する図である。
【
図12】
図12は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図13】
図13は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図14】
図14は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図15】
図15は、凹部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図16】
図16は、凹部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図17】
図17は、凹部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図18】
図18は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図19】
図19は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【
図20】
図20は、凸部を形成する方法を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る位置決め構造、及び位置決め方法を、図面に基づいて説明する。なお、同一の機能、及び構成には、同一又は類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1板材10の凸部13と第2板材20の凹部23とを係合させて位置決めする前の状態を説明する図である。
図2は、第1板材10の凸部13と第2板材20の凹部23とを係合させて位置決めした状態を説明する図である。
【0012】
本実施形態に係る位置決め構造は、第1板材10の縁部に設けられ、第1板材10の一方の表面11側から板厚方向に突出した、第1板材10の素材の塑性流動部からなる凸部13と、第2板材20の一方の表面21に形成された、凸部13を受け入れ可能な凹部23と、を備え、第1板材10の一方の表面11と第2板材20の一方の表面21とを向かい合うように重ね合わせて第1板材10の凸部13が第2板材20の凹部23に係合することにより、第2板材20の一方の表面21に沿う第1板材10の移動を規制する。
【0013】
本実施形態において、第1板材10は、第1板材10の輪郭をなす外周縁部よりも内側の平面領域に、板厚方向に貫通する打ち抜き孔15を備えており、凸部13は、第1板材10の縁部である、打ち抜き孔15の内周縁部15aに設けられている。
【0014】
本実施形態において、第1板材10の輪郭をなす外周縁部(図示せず)よりも内側の平面領域に、板厚方向(
図1における下方向)に貫通する開口である打ち抜き孔15が設けられている。打ち抜き孔15の内周縁部15aには、板厚方向に沿って突出する凸部13が形成されている。凸部13は、第1板材10の一方の表面11(以下単に「表面11」という)側に起立するように突出している。凸部13は、打ち抜き加工より打ち抜き孔15を形成する際に塑性流動した第1板材10の素材である塑性流動部から形成されている。
【0015】
なお、第1板材10の他方の表面のうち、凸部13と対応する部位は、打ち抜き孔15を加工する際のパンチの作用により、表面11側に向けて僅かに引き込まれるように変形していてもよい。つまり、打ち抜き孔15の表面11の反対側における周縁部は、所謂「だれ」変形と呼ばれる、変形をした部分を含んでもよい。
【0016】
図1、
図2に示すように、打ち抜き孔15の軸線15bを含む断面において凸部13の先端13aの形状は鋭角(θ1<90°)に形成されている。また、凸部13は、打ち抜き孔15の周方向に沿って連続的に延びる環状凸部である。言い換えると、第1板材10の表面11を第2板材20側から(
図1における下方から)見ると、凸部13が環状になっている。なお、本実施形態では、凸部13は円環状になっている。
【0017】
本実施形態において、第1板材10には、板厚が1mm~3mmの範囲内の所定の厚さのステンレス鋼の板材が用いられており、第1板材10の表面11に対する凸部13の高さHは、0.1mm以上0.6mm以下にされている。ただし、板材の材質、厚さはこれに制限されるものでない。例えば、板材としてアルミニウムや鉄の板材を用いてもよい。また、その板厚を0.5mm~5mmの範囲としてもよい。この場合でも、板材の表面に対する凸部の突出量は、本実施形態と同様に0.1mm以上0.6mm以下に設定されてよい。
【0018】
第2板材20の一方の表面21(以下単に「表面21」という)には、第1板材10の凸部13を受け入れ可能な凹部23が形成されている。凹部23は、凸部13を受け入れ可能であるように、凸部13に沿って連続的に延びる環状溝である。第2板材20の表面21を第1板材10側から(
図1における上方から)見ると、凹部23が環状になっている。本実施形態では、第2板材20の表面21に対する凹部23の最大深さD0の寸法が、凸部13を受け入れ可能であるように、少なくとも凸部13の高さH以上の寸法に設定されている(H≦D0)。
【0019】
表面21のうち凹部23に囲まれた中央部27は、表面21よりも突出した高さになるように、円錐台形状に盛り上がるように形成してある。中央部27は、図示したように、表面21を基準に表面21よりも突出した高さに形成してもよいし、表面21と同一高さ、又は表面21より低く形成してもよい。底面25は、底面25全領域において最大深さD0が凸部13の高さH以上である条件(H≦D0)を満たしている限り、表面21と平行でなくてもよく、曲面であってもよい。
【0020】
凹部23の内面は、底面25と、底面25よりも中央部27側に形成された第1側壁面29と、底面25よりも外側に形成された第2側壁面31とを備えている。凹部23の底面25は、表面21と平行に形成されている。凹部23の第1側壁面29は、
図1に示すように、表面21の法線方向に対して角度θ2を成している。角度θ2の大きさは、0°以上40°以下である。一方、凹部23の第2側壁面31は、表面21の法線方向に対して角度θ3を成している。角度θ3の大きさは、0°以上55°以下である。なお、角度θ2及びθ3は、第2板材20の材質等を考慮して適宜選択されてよい。例えば、第2板材20として、ステンレス鋼等の板材を用いる場合、角度θ2を20°以上35°以下としてもよく、角度θ3を35°以上50°以下としてもよい。
【0021】
図2に示すように、本実施形態の位置決め構造では、第1板材10の表面11と第2板材20の表面21とを向かい合うように重ね合わせることで、第1板材10の表面11に形成された凸部13と、第2板材20の表面21に形成された凹部23とが係合する。この係合により、第2板材20の表面21に沿う第1板材10の移動が規制される。言い換えると、第1板材10は、第2板材20の表面21に沿う方向(
図2における左右方向であるX方向、あるいは紙面に垂直な方向)の移動が規制されて、第2板材20に対して位置決めされる。凸部13と凹部23とが係合した状態では、第1板材10の表面11と第2板材20の表面21とが溶接可能に面接触している。
【0022】
本実施形態において、第1板材10の打ち抜き孔15は軸線15b方向(
図2におけるZ方向)から見ると円形状になっており、打ち抜き孔15の内周縁部15aに形成された凸部13は、軸線15bを中心軸とする円環状になっている。このとき、凸部13の先端13aは、打ち抜き孔15の直径とほぼ同じ所定の直径φaの円形状に形成される。なお、所定の直径は2mm~5mmに設定されている。
【0023】
図1、2に示すように、本実施形態において、第2板材20の凹部23は、凸部13を受け入れ可能な円環状の溝になっており、凸部13と凹部23とが係合した状態で、凹部23の円環状の中心軸が凸部13の軸線15bと一致するように構成されている。また、凸部13と凹部23とが係合した状態で、凸部13の先端13aに対向する位置における第2板材20の(表面21を基準にした)凹部23の深さDは、第1板材10の表面11を基準にした凸部13の高さH以上の寸法にされている(H≦D)。さらに、凹部23の第2側壁面31が第2板材20の表面21に開口する位置における直径φcは、
図1に示すように、凸部13の最外径(凸部13が第1板材10の表面から突出する範囲で軸線15bを中心とした最も径方向外側位置における直径)φbよりも大きい(φc>φb)。この構成により、凹部23が凸部13を受け入れ可能になっている。
【0024】
なお、凸部13と凹部23とが係合した状態では、
図2に示すように、凸部13の先端13aが凹部23の内面に当接してもよい。具体的に、凹部23の最大深さD0と凸部13の高さHの関係をH=D0として、凸部13の先端13aが凹部23の底面25に当接するように凹部23を形成してもよい。また、凸部13の先端13aが凹部23の第1側壁面29に当接するよう凹部23を形成してもよい。ただし、凸部13と凹部23とが係合した状態では、
図2に示すように、凸部13の先端13aが凹部23の内面に当接した場合でも第1板材10の表面11と第2板材20の表面21とが溶接可能に面接触するように凹部23は形成される。
【0025】
本実施形態では、凹部23の第1側壁面29の角度θ2が第2側壁面31の角度θ3よりも小さくなっており(θ2<θ3)、第1側壁面29と底面25との交差部近傍の位置に凸部13の先端13aが位置している。なお、凸部13の先端13aの角度θ1は、凸部13の先端13aがより確実に凹部23の溝内に位置するように凹部23の第2側壁面31の角度θ3以下の角度(θ1≦θ3)に設定されてよい。
【0026】
図3は、第1板材10の加工に用いるパンチプレス、金型110の構成を説明する断面説明図である。
図4は、金型110を用いて第1板材10に凸部13を形成した状態を説明する断面説明図である。
図5は、第1板材10に凸部13を形成する際に用いるダイ金型111の断面説明図である。
【0027】
第1板材10の凸部13は、
図3に示されるように、不図示のパンチプレスに装着して使用される金型110を用いて形成される。打ち抜き孔15の穿設に使用される金型110は、開口部111aに面取り面111bが形成されたダイ111と、ダイ111と協働して第1板材10に打ち抜き加工するパンチ113を備える。
【0028】
ダイ111は、パンチプレスの不図示の下部タレットに固定されるように構成される。
図3、5に示すように、ダイ111の上面111cは平坦面になっており、パンチプレスに固定された状態で、ワーク(凸部13形成前の第1板材10)の表面11を上面111c上に水平に載置可能に構成されている。
【0029】
図3、5に示すように、ダイ111は、上面111cに開口し、上面111cの法線方向に貫通する開口部111aを有する。ダイ111の上面111cにおいて、開口部111aの周縁部には面取り面111bが形成されている。ダイ111の上面111cから、面取り面111bが開口部111aの内周面と交差する位置までの深さ(上面111cの法線方向における深さ)を面取り面111bの深さD1とする。第1板材10の板厚が、例えば、1mm~3mmである場合、深さD1は、0.1mm以上0.6mm以下に設定される。また、面取り面111bの、上面111cの法線方向に対する傾斜角度θ4は、凸部13の先端13aの形状を鋭角(θ1<90°)に形成可能な角度に設定されている。傾斜角度θ4は鋭角である。例えば、凸部13の先端13aの角度θ1が凹部23の第2側壁面31の角度θ3以下の角度(θ1≦θ3)となるように、面取り面111bの傾斜角度θ4も凹部23の第2側壁面31の角度θ3以下の角度(θ4≦θ3)に設定してもよい。
【0030】
図3に示すように、パンチ113は、パンチプレスの上部タレットに上下動可能に支持される筒状のパンチガイド115を備える。パンチガイド115の先端部(
図3における下端部)には、中心部に貫通孔117aを有するストリッパプレート117が取付けられている。パンチガイド115の後端面(
図3における上端面)には、パンチボディ119を挿通可能な貫通孔を有するリテーナカラー121が設けられている。リテーナカラー121は、O-リング121aを挟んでパンチガイド115に取り付けられる。
【0031】
図3に示すように、パンチ113は、さらに、パンチガイド115内に配置されてパンチガイド115に対して上下動可能に設けられたパンチボディ119を備える。パンチボディ119の先端部(
図3における下端部)は、小径のパンチチップ119aとされている。パンチボディ119は、リテーナカラー121を上下動自在に貫通して延びており、後端部(
図3における上端部)にパンチヘッド123が螺着されている。
【0032】
パンチボディ119は、パンチチップ119aがパンチガイド115の下端部のストリッパプレート117の貫通孔117aに挿通した状態で上下動可能なようにパンチガイド115内に配置されている。
【0033】
パンチヘッド123とパンチガイド115の上面に設けられたリテーナカラー121との間にはストリッパスプリング125が圧縮状態で収められている。パンチボディ119は、ストリッパスプリング125の圧縮の反発力によって上方へ付勢されている。
【0034】
リテーナカラー121の上面には、ストリッパスプリング125を内部に収める円筒形状のスプリングカバー127が一体的に固定されている。
【0035】
スプリングカバー127の上端部内周面には径方向内方へ突出する段差部127bが形成されている。段差部127bの下面は、パンチヘッド123に形成された径方向外方へ突出するフランジ部123aの上面が当接するようになっている。
【0036】
これにより、ストリッパスプリング125の付勢力によるパンチヘッド123の上方向への過度な移動を規制される。
【0037】
上記構成において、ダイ111上に第1板材10を載置した後、パンチプレスによってパンチヘッド123が打圧され、それによりパンチ113が下降すると、ストリッパスプリング125の反発力によってパンチガイド115の下端部のストリッパプレート117が第1板材10の上面に当接し、第1板材10を押えた状態になる。さらにストリッパスプリング125の付勢力に抗してパンチボディ119をパンチガイド115に対して下降させると、パンチチップ119aは、第1板材10を打ち抜くと、同芯で配置されたダイ111の開口部111a内に進入する。パンチチップ119aの外周面とダイ111の開口部111a内周面との間には、所定の径方向のクリアランスが設定されている。このクリアランスに応じて、第1板材10の打ち抜き孔15の打ち抜き方向(
図4中の下面側)に、素材が塑性流動する塑性流動部が形成されることになる。
【0038】
前述のごとく、パンチチップ119aの作用によって形成された第1板材10の塑性流動部は、
図4に示すように、ダイ111の面取り面111bと第1板材10に打ち抜き孔15を形成した状態のパンチチップ119aの側壁とによって押圧されることで、第1板材10における打ち抜き孔15の内周縁部15aに凸部13が形成される。凸部13は、第1板材10の表面11、面取り面111b、及びパンチチップ119aの側壁の間に形成される先端角度θ4の環状の凹部に倣う形状に形成される。
【0039】
なお、本実施形態では、第1板材10の凸部13が形成される表面11の反対側の表面がストリッパプレート117と当接した状態で、塑性流動部が面取り面111bとパンチチップ119aとで押圧される。このため、塑性流動部が面取り面111bとパンチチップ119aとで押圧される際に、裏面がストリッパプレート117によって押えられた状態で凸部13が形成される。この構成により、凸部13はより確実に、前記凹部に倣う形状に成形される。
【0040】
以上のように、本実施形態の位置決め構造、及び位置決め方法では、
図4に示すように、打ち抜き加工により第1板材10に打ち抜き孔15が形成される。打ち抜き孔15が加工される際、第1板材10では、打ち抜き孔15に沿って素材の塑性流動が生じる。第1板材10の内周縁部15aには、この素材の塑性流動によって生じた塑性流動部からなる凸部13が形成される。このように、凸部13は、打ち抜き孔15の内周縁部15aに形成され、打ち抜き孔15の打ち抜き方向、すなわち板厚方向に突出している。
【0041】
第2板材20の表面21には、凸部13を受け入れ可能な凹部23が形成される。凹部23の形成に用いる金型(図示省略)は、パンチプレスに装着して使用される成形金型である。
【0042】
凹部23は、第2板材20の表面21に形成されるものである。凹部23は、例えばコイニング加工によって形成してよい。成形金型は、パンチボディの先端面に、凹部23を第2板材20の表面へ転写するための転写部(突出部)を備える。転写部の形状は、凹部23が凸部13を受け入れ可能な凸部13(環状凸部)に沿って延びる環状溝となるように、突出部が環状であってよい。成形金型の全体的構成は、転写部の構成が異なるのみであって、その他の構成は、一般的な成形金型(刻印金型)と同様の構成である。したがって、凹部23に用いる金型の全体的構成についての詳細な説明は省略する。
【0043】
そして、本実施形態の位置決め方法は、上記のように凸部13及び凹部23を形成することにより実施することが可能である。すなわち、本実施形態の位置決め方法は、第1板材10に打ち抜き加工を行い、第1板材10の縁部から打ち抜き方向に突出した第1板材10の素材の塑性流動部からなる凸部13を形成する工程と、第2板材20の表面21に、凸部13を受け入れ可能な凹部23を形成する工程と、第1板材10の表面11と第2板材20の表面21とを向かい合うように重ね合わせて第1板材10の凸部13を第2板材20の凹部23に係合させて、第2板材20の表面21に沿う第1板材10の移動を規制する工程と、を備える。
【0044】
この場合において、第1板材10に対する打ち抜き加工は、第1板材10の輪郭をなす外周縁部よりも内側の平面領域に、板厚方向に貫通する打ち抜き孔15を形成する加工である。このとき、第1板材10の縁部である、打ち抜き孔15の内周縁部15aに凸部13が形成される。
【0045】
上述のように、第1板材10の表面11と第2板材20の表面21との位置決め方法では、第1板材10の凸部13と、第2板材20の凹部23とを係合することで位置決めされる。したがって、両方の板材10、20に位置ずれを生じることなく位置決めするためには、第1板材10の表面11の複数箇所に凸部13を形成し、第2板材20の表面21の対応した複数箇所に凹部23を形成する。そして、両方の板材10、20の凸部13と凹部23を係合することにより、両方の板材10、20は位置ずれを生じることなく位置決めすることができる。
【0046】
(作用・効果)
本実施形態の位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材10の凸部13は、板厚方向(打ち抜き方向)に突出している。この凸部13は、打ち抜き加工によって第1板材10の打ち抜き孔15を形成する際に、打ち抜き方向への素材の塑性流動によって形成することができる。このため、塑性流動性が低い素材を位置決めする場合でも、打ち抜き方向へと素材を塑性流動させることで、十分な高さの凸部13を容易に形成できる。
【0047】
また、この位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材10の凸部13を第2板材20の凹部23に係合することにより、第2板材20の表面21に沿った第1板材10の移動(相対移動)を規制する。このため、相対移動を規制するために、第2板材20の表面21の一部を第1板材10側へ隆起させ、その隆起部を第1板材10に形成した打ち抜き孔15又は凹部23の内部に進入させる必要がない。換言すれば、第2板材20の素材を流動させて隆起部を形成する必要がない。従って、この位置決め構造によれば、第1板材10及び第2板材20が塑性流動性の低い素材からなる場合でも、より確実な位置決めを実現することができる。
【0048】
凸部13が打ち抜き孔15の周方向に沿って延びる環状凸部であり、かつ凹部23が凸部13に沿って延びる環状溝である場合、凹部23と凸部13とを係合させることにより、2枚の板材10、20がより正確に位置決めされる。
【0049】
第2板材20の表面21を基準にした凹部23の深さDが、第2板材20の表面21と対向する第1板材10の表面11を基準にした凸部13の高さH以上に形成されている場合、2枚の板材10、20の表面11、21同士を合わせた状態(面接触させた状態)で位置決めできるので、2枚の板材10、20を位置決めした状態で溶接しやすくなる。
【0050】
図1、2に示すように、打ち抜き孔15の軸線15bを含む断面において、凸部13の先端13aの形状が鋭角である先端13aが凹部23の内面に当接することで凸部13と凹部23とが係合して位置決めされる場合、2枚の板材10、20の位置決めを、より正確に行うことができる。
【0051】
この位置決め構造、及び位置決め方法によれば、凸部13を形成する工程(第1工程)において、打ち抜き加工に、開口部111aに面取り面111bが形成されたダイ111とダイ111と協働して第1板材10に打ち抜き加工するパンチ113が用いられ、パンチ113の作用により塑性流動した塑性流動部が、パンチ113と面取り面111bとで押圧されることで、凸部13が形成される。
【0052】
また、この位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材10に打ち抜き加工するパンチ113のパンチチップ119aと、第1板材10を載置可能に設けられたダイ111の開口部111aとのクリアランスの調整及びダイ111の表面を基準にした面取り面111bの深さD1を規定することで、第1板材10の表面11を基準にした凸部13の高さHを所定の高さに形成する。
【0053】
打ち抜き加工するパンチ113のパンチチップ119aの作用によって形成された第1板材10の塑性流動部からなる凸部13が、前記環状の凹部に倣う形状に形成される。このため、パンチチップ119aとダイ111の開口部111aのクリアランスにより金属の塑性流動量を調整すると共に、ダイ111の面取り面111bの深さD1を変更することで、所望の高さの凸部13を得ることができる。なお凸部13を高くするには、クリアランスを大きくすると共に、面取り面111bを深くすることになる。しかしながらクリアランスが過多だと凸部13が鋭角にならない。つまり、この方法によれば、パンチチップ119aとダイ111の開口部111aのクリアランス及び面取り面111bの深さD1を変更することで、凸部13の高さHを容易に変更することができる。
【0054】
面取り面111bの深さD1は、凸部13の所望の高さが、第2板材20の凹部23の深さDとの関係式H≦Dを満たす所定の高さHとなる範囲で選択される。
【0055】
なお、面取り面111bの深さD1を0.6mm以下にする場合、形成された凸部13の形状(凸部13の先端13aの角度θ1)を、より確実に前記環状の凹部の形状(面取り面111bの傾斜角度θ4)に倣う形状(θ1=θ4)に成形することができる。
【0056】
また、例えば特許文献1等に記載される従来の位置決め構造、及び位置決め方法では、ワークに貫通孔を形成することなく凸部を形成していた。このため、従来の位置決め構造、位置決め方法で凸部の形成に用い得る金型、装置には、例えばパンチヘッドのハイト高さの微調整の精度、あるいは装置の下死点のバラつきの精度について、高い精度が要求されていた。
【0057】
これに対して、本実施形態の位置決め構造、及び位置決め方法では、第1板材10に打ち抜き孔15を形成することで第1板材10の表面11に凸部13を形成している。この構成、方法によれば、パンチヘッドのハイト高さの微調整の精度、あるいは装置の下死点のバラつきの精度等を考慮することなく、位置決めに用い得る凸部13を第1板材10の表面11に形成することができる。
【0058】
また、ワークに貫通孔を形成することなく凸部を形成していた例えば特許文献1等に記載される従来の位置決め構造、位置決め方法では、凸部を板材の端部近傍に形成した場合、パンチの先端面に備えた環状のリブが板材の表面に食い込み、金属が塑性流動する際、金属の一部が板材の端面に逃げて、板材の端面が膨れる恐れがあった。
【0059】
これに対して、本実施形態の位置決め構造、及び位置決め方法では、第1板材10の表面11に凸部13を形成する際に第1板材10に打ち抜き孔15を形成しているため、金属が塑性流動する際、金属の一部が板材の端部に逃げることを抑制できる。
【0060】
(変更例)
以上、実施形態に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0061】
例えば、位置決め構造はつぎのように変更してもよい。
図6は、変更例に係る、第1板材10Aの凸部13Aと第2板材20Aの凹部23Aとを係合させて位置決めする前の状態の説明図である。
図7は、変更例に係る、第1板材10Aの凸部13Aと第2板材20Aの凹部23Aとを係合させて位置決めした位置決め構造の説明図である。
【0062】
変更例に係る位置決め構造では、
図6、7に示すように、第1板材10Aに形成された凸部13Aの形状、配置、及び第2板材20Aに形成された凹部23Aの形状、配置が、実施形態の第1板材10の凸部13や第2板材20の凹部23と異なる。
【0063】
具体的に、
図7に示すように、変更例では、第2板材20に形成された凹部23Aでは、中央部側の第1側壁面29Aの角度θ2Aが、第2側壁面31Aの角度θ3Aよりも大きくなっており(θ3A<θ2A)、第1板材10Aの凸部13Aと第2板材20Aの凹部23Aとが係合した状態で、凸部13Aの先端13Aaに当接し得る凹部23Aの内面の部位が、角度θ3Aが小さい第2側壁面31Aと底面25Aとの交差部近傍に位置している点が、実施形態の位置決め構造と異なる。
【0064】
なお、第1実施形態及び変更例では、凸部13、13Aと凹部23、23Aとが係合した状態で、凸部13、13Aの先端13a、13Aaが凹部23、23Aの底面25、25A、あるいは凹部23、23Aの第1側壁面29Aあるいは第2側壁面31Aの底面25、25A近傍に位置している。しかし、凸部13、13Aの先端13a、13Aaは、凹部23、23Aの内面近傍に位置していればよい。ただし、凸部13、13Aと凹部23、23Aとの係合状態が解除されることを抑制するために、凸部13、13Aの高さHと、凹部23、23Aの深さDとは、関係式H≧D/2を満たしていることが好ましい。
【0065】
また、凸部13、13Aと凹部23、23Aとが係合した状態で凸部13、13Aの先端13a、13Aaを凹部23、23Aの内面に当接させる場合、凸部13、13Aと凹部23、23Aとが係合した状態から板厚方向に押圧することで、凸部13、13Aの先端13a、13Aaを凹部23、23Aの内面に密着させてもよい。
【0066】
さらに、凸部13、13Aの先端13a、13Aaを凹部23、23Aの内面に当接した状態に係合したうえで、係合状態の第1板材10、第2板材20を板厚方向に押圧することで、凸部13、13Aの先端13a、13Aaを凹部23、23Aに密着させてもよい。この場合、板厚方向に押圧によって先端13a、13Aaが凹部23、23Aに密着し易くするために、角度θ1、θ1Aを所定の角度以下の鋭角に形成してもよい。例えば、角度θ1、θ1Aを30°以下にしてもよい。
【0067】
また、凸部の形状及び凹部の形状は、凸部13、13Aの形状及び凹部23、23Aの形状のような円環状に限定されない。例えば、凸部の形状及び凹部の形状は、四角形状や長円形状等の環状であってもよい。また、例えば、凸部は、面取り面が開口部の周縁部に断続的に形成されたダイを用いて形成してもよい。そして、凹部は、凸部と凹部とが互いに係合可能であるように、凸部を受け入れ可能な位置に溝を形成し得る先端形状のパンチを用いて形成してもよい。
【0068】
(第2の実施形態)
図8は、第1板材50の凸部53と第2板材60の凹部63とを係合させて位置決めした状態を説明する図である。
図9は、
図8のAA断面を示す図である。
図10は、
図9において破線で囲まれた領域を拡大して示す図である。
図11は、第1板材50の凸部53と第2板材60の凹部63とを係合させて位置決めする前の状態を説明する図である。
【0069】
本実施形態に係る位置決め構造は、第1板材50の縁部に設けられ、第1板材50の一方の表面51側から板厚方向に突出した、第1板材50の素材の塑性流動部からなる凸部53と、第2板材60の一方の表面61に形成された、凸部53を受け入れ可能な凹部63と、を備え、第1板材50の一方の表面51と第2板材60の一方の表面61とを向かい合うように重ね合わせて第1板材50の凸部53が第2板材60の凹部63に係合することにより、第2板材60の一方の表面61に沿う第1板材50の移動を規制する。
【0070】
本実施形態において、凸部53は、第1板材50の縁部である、第1板材50の輪郭をなす外周縁部50aに設けられている。
【0071】
つぎに、本実施形態に係る位置決め構造を詳細に説明する。第2の実施形態に係る位置決め構造が、第1の実施形態に係る位置決め構造と相違する点は、凸部53が、第1板材50の外周縁部50aに設けられている点である。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明を行う。
【0072】
本実施形態において、第1板材50は、例えば矩形状に形成されている。第1板材50の輪郭をなす外周縁部50aは、互いに平行な一対の長手辺50a1、50a2と、互いに平行な一対の短手辺50a3、50a4とで構成されている。第2板材60も矩形状に形成されており、第2板材60は、第1板材50よりも一回り程度大きなサイズを有している。しかしながら、第2板材60の形状及びサイズは、これに限定されない。
【0073】
第1板材50の外周縁部50aには、板厚方向(
図9における下方向)に沿って突出する凸部53が成形されている。凸部53は、第1板材50の一方の表面51(以下単に「表面51」という)側に起立するように突出している。凸部53は、打ち抜き加工より外周縁部50aを形成する際に塑性流動した第1板材50の素材である塑性流動部から形成されている。
【0074】
図8に示す例では、一方の長手辺50a1に対して二つの凸部53が設けられ、一方の短手辺50a3に対して一つの凸部53が設けられている。
【0075】
凸部53は、外周縁部50a(長手辺50a1又は短手辺50a3)に沿って延びる所定長さの直線状凸部である。言い換えると、第1板材50の表面51を第2板材60側から(
図9における下方から)見ると、凸部53は、直線状に形成されている。凸部53は、外周縁部50aの全周に亘って形成されているのではく、外周縁部50aの一部に形成されている。
【0076】
図10に示すように、第1板材50の他方の表面のうち、凸部53と対応する部位は、加工時のパンチの作用により、表面51側に向けて僅かに引き込まれるように変形していてもよい。つまり、凸部53の反対側に位置する部位は、所謂「だれ」変形と呼ばれる、変形をした部分を含んでもよい。
【0077】
第2板材60の一方の表面61(以下単に「表面61」という)には、第1板材50の凸部53を受け入れ可能な凹部63が形成されている。凹部63は、凸部53を受け入れることができるように、凸部53に沿って延びる直線状溝である。第2板材60の一方の表面61を第1板材50側から(
図9における上方から)見ると、凹部63が直線状に形成されている。また、第1板材50が備える3つの凸部53と対応して、第2板材60の表面61には、3つの凹部63が設けられており、3つの凹部63の位置は、第1板材50に設けられた3つの凸部53の位置と対応している。
【0078】
図11に示すように、第1の実施形態と同様、第2板材60の表面61に対する凹部63の最大深さD0の寸法は、凸部53を受け入れ可能であるように、第1板材50の表面51から凸部53の先端53aまでの高さH以上の寸法に設定されている(H≦D0)。
【0079】
凹部63の内面は、底面64と、底面64よりも内側に形成された第1側壁面65と、底面64よりも外側に形成された第2側壁面66とを備えている。なお、環状溝と直線状溝との相違はあるが、第2の実施形態に係る凹部63における底面64、第1側壁面65、及び第2側壁面66の関係は、第1の実施形態に示す凹部23における底面25、第1側壁面29、及び第2側壁面31の関係と同じである。
【0080】
図8及び
図10に示すように、本実施形態の位置決め構造では、第1板材50の表面51と第2板材60の表面61とを向かい合うように重ね合わせることで、第1板材50の表面61に形成された凸部53と、第2板材60の表面61に形成された凹部63とが係合する。この係合により、第2板材60の表面61に沿う第1板材50の移動が規制される。言い換えると、第1板材50は、第2板材60の表面61に沿う方向(
図8における左右方向及び上下方向)の移動が規制されて、第2板材60に対して位置決めされる。凸部53と凹部63とが係合した状態では、第1板材50の表面51と第2板材60の表面61とが面接触している。
【0081】
つぎに、重ね合わせ溶接を行う二つの板材50、60のうちの、一方の板材である第1板材50に対し、凸部53を形成する方法について説明する。
図12から
図14は、凸部53を形成する方法を説明する平面図である。なお、第1の実施形態に示す、凸部53を成形する金型110は、本実施形態においても適用可能である。第2の実施形態では、パンチ113のパンチチップ119aを刃先側から見た形状が矩形状に形成されている点、ダイ111の上面111cに開口する開口部111aの形状が矩形状である点において相違している。
【0082】
第1板材50は、板金の母材200から切り出される。まず、打ち抜き加工により、母材200から第1板材50を切り出す方法について説明する。
【0083】
図12に示されるように、所要の抜き型を用いた打ち抜き加工によって、母材200に対して複数の矩形の開口部BHを形成する。複数の開口部BHは、第1板材50の輪郭(外周縁部50a)に沿って形成される。
【0084】
このとき、第1板材50の四隅となる部分を打ち残すことで、微小の接続部であるミクロジョイントJmを形成する。これにより、第1板材50と母材200とを連結したままにしておく。また、凸部53を形成する部位(3箇所)には、開口部BHを形成せずに、ミクロジョイントJmより幅の広いワイヤジョイントJwによって、第1板材50と母材200とを連結したままにしておく。
【0085】
つぎに、ダイ111及びパンチ113を含む金型110を用いて、ワイヤジョイントJwを打ち抜く。
図13では、パンチチップ119aによる抜き形状が「Pc」で示されている。第1板材50が連結された母材200は、パンチチップ119aによって打ち抜かれる打ち抜き端面が、第1板材50の輪郭と対応するように位置決めされている。
【0086】
パンチチップ119aがワイヤジョイントJwを打ち抜くと、打ち抜き方向に、素材が塑性流動する塑性流動部が形成されることになる。パンチチップ119aの作用によって形成された第1板材50の塑性流動部は、ダイ111の面取り面111bとパンチチップ119aの側壁とによって押圧される。この打ち抜き加工により、
図14に示されるように、第1板材50の輪郭をなす外周縁部50aの任意の箇所に凸部53が形成される。
【0087】
最後に、ミクロジョイントJmを周知の方法で切断することで、母材200から第1板材50が分離される。これにより、凸部53を有する第1板材50が作製される。
【0088】
つぎに、重ね合わせ溶接を行う二つの板材50、60のうちの、他方の板材である第2板材60に対し、凹部63を形成する方法について説明する。
図15から
図17は、凹部63を成形する方法を説明する平面図である。
【0089】
まず、
図15に示すように、母材210に対し、成形金型によるコイニング加工を行って、凸部53の位置及び数に応じた凹部63を形成する。凹部63は、コイニング加工による圧印によって形成されるため、凹部63に隣接した部位に板厚方向に膨れた膨れ部S(一点鎖線)が生じる。
【0090】
そこで、膨れ部Sを潰すための潰し加工を行う。膨れ部Sは、凹部63を形成する際に抉られた部分の素材が塑性流動し、板厚方向に膨らむことで生じる。潰し加工により、膨れ部Sは、膨れた部分の素材が周辺部材に均一的に塑性流動し、膨れの度合が実用上支障のない程度に抑えられる。これにより、
図16に示すように、凹部63の周囲は、実質的に平坦化される。
【0091】
つぎに、
図17に示すように、所要の抜き型を用いた打ち抜き加工によって、母材210に対して複数の矩形の開口部BHを形成する。複数の開口部BHは、第2板材60の輪郭に沿って形成されている。このとき、第2板材60の四隅となる部分を打ち残すことで、微小の接続部であるミクロジョイントJmを形成する。第2板材60と母材210とを連結したままにしておく。このミクロジョイントJmは加工の最終段階で切断され、母材210から第2板材60が分離される。これにより、凹部63を有する第2板材60が作成される。
【0092】
なお、第1板材50は、打ち抜き加工によって母材200から切り出す方法に限定されず、以下に説明するようにレーザビームで切断する方法によって母材200から切り出されてもよい。
図18から
図20は、凸部53を成形する方法を説明する平面図である。
【0093】
図18に示されるように、第1板材50の輪郭(外周縁部50a)に沿ってレーザビームを照射することで、母材200をレーザビームによって切断する。このとき、凸部53を形成する部位では、第1板材50の輪郭通りではなく、輪郭よりも外側へと延出するような突出部Eaを形成するように、母材200が切断される。また、第1板材50の四隅を切り残すように切断を行うことで、微小の接続部であるミクロジョイントJmを形成する。
【0094】
つぎに、
図19に示されるように、ダイ111及びパンチ113を含む金型110を用いて、突出部Eaを含む所定の範囲を打ち抜く。
図20では、パンチチップ119aによる抜き形状が「Pc」で示されている。第1板材50が連結された母材200は、パンチチップ119aによって打ち抜かれる打ち抜き端面が、第1板材50の輪郭と対応するように位置決めされている。
【0095】
パンチチップ119aが突出部Eaを打ち抜くと、打ち抜き方向に、素材が塑性流動する塑性流動部が形成されることになる。パンチチップ119aの作用によって形成された第1板材50の塑性流動部は、ダイ111の面取り面111bとパンチチップ119aの側壁とによって押圧される。この打ち抜き加工により、
図20に示されるように、第1板材50の輪郭をなす外周縁部50aの一部に凸部53が形成される。
【0096】
最後に、ミクロジョイントJmを周知の方法で切断し、母材200から第1板材50が分離される。これにより、凸部53を有する第1板材50が作製される。
【0097】
なお、第2板材60を母材210から切り出す方法も、打ち抜き加工で打ち抜く方法に限定されず、レーザビームで切断する方法であってもよい。
【0098】
そして、本実施形態の位置決め方法は、上記のように凸部53及び凹部63を形成することにより実施することが可能である。すなわち、本実施形態の位置決め方法は、第1板材50に打ち抜き加工を行い、第1板材50の縁部から打ち抜き方向に突出した第1板材50の素材の塑性流動部からなる凸部53を形成する工程と、第2板材60の表面61に、凸部53を受け入れ可能な凹部63を形成する工程と、第1板材50の表面51と第2板材60の表面61とを向かい合うように重ね合わせて第1板材50の凸部53を第2板材60の凹部63に係合させて、第2板材60の表面61に沿う第1板材50の移動を規制する工程と、を備える。
【0099】
この場合において、第1板材50に対する打ち抜き加工は、第1板材50の輪郭をなす外周縁部50aを形成する加工である。このとき、第1板材50の縁部である、外周縁部50aに凸部53が形成される。
【0100】
上述のように、第1板材50の表面51と第2板材60の表面61との位置決め方法では、第1板材50の凸部53と、第2板材60の凹部63とを係合することで位置決めされる。したがって、両方の板材50、60に位置ずれを生じることなく位置決めするためには、第1板材50の外周縁部50aの複数箇所に凸部53を形成し、第2板材60の表面61において、凸部53と対応した位置及び数で凹部63を形成する。そして、両方の板材50、60の凸部53と凹部63を係合することにより、両方の板材50、60は位置ずれを生じることなく、確実に位置決めを行うことができる。
【0101】
(作用・効果)
本実施形態の位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材50の凸部53は、板厚方向(打ち抜き方向)に突出している。この凸部53は、打ち抜き加工によって第1板材50の外周縁部50aを形成する際に、打ち抜き方向への素材の塑性流動によって形成することができる。このため、塑性流動性が低い素材を位置決めする場合でも、打ち抜き方向へと素材を塑性流動させることで、十分な高さの凸部53を容易に形成できる。
【0102】
また、この位置決め構造、及び位置決め方法によれば、第1板材50の凸部53を第2板材60の凹部63に係合することにより、第2板材60の表面61に沿った第1板材50の移動(相対移動)を規制する。例えば、第1板材50に対して凸部を形成する手法として、第1板材50の表面51の一部を抉るように加工を行い、素材を塑性流動させることで、板厚方向に切り起こされた突起を形成する方法がある。ただし、この方法では、第1板材50の板厚が薄い場合には、第1板材50の表面51を基準にした凸部53の高さを大きく取れないという問題がある。また、切り起こしによって突起を形成するため、突起の高さを大きく取れないという問題がある。そのため、大きな板厚の板材に対して位置決めを確実に行うことができないという問題がある。
【0103】
この点、本実施形態の凸部53によれば、第1板材50の凸部53が、素材の塑性流動によって打ち抜き方向に突出しているため、十分な高さの凸部53を容易に形成することができる。これにより、より確実な位置決めを実現することができる。
【0104】
この位置決め構造、及び位置決め方法において、凸部53が外周縁部50aに沿って延びる直線状凸部であり、外周縁部の一部に設けられており、かつ凹部63が凸部53に沿って延びる直線状溝である。この位置決め構造によれば、凹部63と凸部53とを係合させることにより、2枚の板材50、60がより正確に位置決めされる。
【0105】
以上、本開示について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示が本開示中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本開示は、請求の範囲の記載により定まる本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とするものであり、本開示に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0106】
10、10A、50 第1板材
50a 外周縁部
11、51 第1板材の表面
13、13A、53 凸部
13a、13Aa、53a 凸部の先端
15、15A 打ち抜き孔
15a、15Aa 打ち抜き孔の内周縁部
20、20A、60 第2板材
21、61 第2板材の表面
23、23A、63 凹部
111 ダイ
111a 開口部
111b 面取り面
113 パンチ
D 凹部の深さ
H 凸部の高さ
θ1、θ1A 凸部先端の角度