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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082693
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】機能性材料
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/04 20060101AFI20230607BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20230607BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230607BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20230607BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230607BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230607BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230607BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230607BHJP
   A61K 31/7016 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230607BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230607BHJP
   C08G 12/02 20060101ALI20230607BHJP
   C08G 8/10 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C07H15/04 D
A01P3/00
A01P1/00
A01N31/02
C09J201/00
C09J11/06
C09D201/00
C09D7/63
A61K31/7016
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
C08G12/02
C08G8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192693
(22)【出願日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2021195917
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの)
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】喜井 勲
(72)【発明者】
【氏名】西山 尚志
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4H011
4J033
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4C057AA30
4C057BB03
4C057DD02
4C057JJ05
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA04
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
4C086ZB35
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB03
4H011DA13
4J033CA01
4J033CA09
4J033CA11
4J033EA01
4J033EA09
4J033EA11
4J033EA12
4J033HB09
4J038BA012
4J038DH001
4J038PC06
4J040BA142
4J040EG001
4J040HC15
4J040JA03
4J040KA27
4J040KA43
4J040MA08
(57)【要約】
【課題】新規な機能性材料を提供すること。
【解決手段】非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物を含み、揮発性アルデヒド化合物を実質的に含まない機能性材料、特に、多官能アルデヒド化物としてアルデヒドトレハロースを含む機能性材料。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物を含み、揮発性アルデヒド化合物を実質的に含まない機能性材料。
【請求項2】
前記多官能アルデヒド化物として、アルデヒドトレハロースを含む請求項1に記載の機能性材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の機能性材料を含み、
木質材料、繊維、ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種用である接着剤。
【請求項4】
前記機能性材料を含む第1液と、アルデヒド基と共有結合を形成可能な硬化剤を含む第2液とを有する2液型である請求項3に記載の接着剤。
【請求項5】
請求項3に記載の接着剤により、木質材料を接着した木質部材。
【請求項6】
単量体として請求項1または2に記載の機能性材料を含み、
尿素樹脂、尿素-メラミン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である樹脂材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の機能性材料を含み、
抗菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、消毒剤、抗黴剤からなる群から選ばれる少なくとも1種用である組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の機能性材料を含む塗料。
【請求項9】
請求項1または2に記載の機能性材料を含む細胞固定液。
【請求項10】
請求項1または2に記載の機能性材料を含む皮革のなめし剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な機能性材料と、これを含む接着剤、樹脂材料、木質部材、塗料、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルデヒド基(-CHO)は、アミノ基、フェノールのベンゼン環等に対する高い反応性を有している。
例えば、ホルムアルデヒド(HCHO)、グルタルアルデヒド(OHCCCHO)は、1分子中に2箇所のアルデヒド基に由来する反応点を有する化合物であり、他の化合物と反応して架橋構造を形成することができる。そのため、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドは、接着剤、尿素樹脂・尿素-メラミン樹脂・メラミン樹脂・フェノール樹脂等の樹脂材料、木質ボード等の木質部材、塗料等の原料として、広く用いられている。また、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドは、そのアルデヒド基が、タンパク質中のアミノ基と反応してタンパク質を変性させることができるため、抗菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、消毒剤、抗黴剤等としても用いられている。
【0003】
一方、アルデヒド化合物は、そのアルデヒド基が人体を構成するタンパク質中のアミノ基とも反応してしまうため、高い毒性を有する。特に、分子量の小さい揮発性アルデヒド化合物は、危険性が高い。そのため、揮発性アルデヒド化合物の使用量や放出量を低減することが求められており、例えば、特許文献1にはホルムアルデヒドキャッチャー材を含有することによりホルムアルデヒド放散量を低減した接着剤とこれを用いた木質系建材が提案されている。また、特許文献2には、アルデヒドを全く使用しない、粉体の糖類と粉体の2価以上の酸と粉体の無機物を含むバインダーと、植物繊維を加熱加圧成形した繊維ボードの発明が提案されている。
しかし、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドは、高い毒性を有することが認識されながらも、安価で取り扱い性に優れるため、活用され続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-179474号公報
【特許文献2】特開2016-55620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
新規な機能性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物を含み、揮発性アルデヒド化合物を実質的に含まない機能性材料。
2.前記多官能アルデヒド化物として、アルデヒドトレハロースを含む1.に記載の機能性材料。
3.1.または2.に記載の機能性材料を含み、
木質材料、繊維、ゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種用である接着剤。
4.前記機能性材料を含む第1液と、アルデヒド基と共有結合を形成可能な硬化剤を含む第2液とを有する2液型である3.に記載の接着剤。
5.3.または4.に記載の接着剤により、木質材料を接着した木質部材。
6.単量体として1.または2.に記載の機能性材料を含み、
尿素樹脂、尿素-メラミン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である樹脂材料。
7.1.または2.に記載の機能性材料を含み、
抗菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、消毒剤、抗黴剤からなる群から選ばれる少なくとも1種用である組成物。
8.1.または2.に記載の機能性材料を含む塗料。
9.1.または2.に記載の機能性材料を含む細胞固定液。
10.1.または2.に記載の機能性材料を含む皮革のなめし剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の機能性材料は、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等の揮発性アルデヒド化合物の代わりに用いることができる。本発明の機能性材料は、不揮発性であるため、蒸気の吸入や付着による健康被害の発生を抑制することができる。
特に、アルデヒドトレハロースは、反応性が高く、35重量%程度の水溶液とすることができる。アルデヒドトレハロースは、高濃度水溶液として取り扱うことができ、その高い反応性を活かして、特に、ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドの代替として用いることができ、これらの使用量を大幅に減らし、さらには使用量をゼロとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られたOTr/ADH硬化物。
図2】実施例2で得られたOTr/ODH硬化物。
図3】実施例3で得られたOSu/ADH硬化物。
図4】実施例4で得られたOSu/ODH硬化物。
図5】実施例5で得られたOTr/尿素硬化物。
図6】実施例6で得られたOTr/メラミン硬化物。
図7】実施例7で得られたOTr/PAA硬化物。
図8】実施例8で得られたOTr/PEI硬化物。
図9】実施例9で得られたOTr/フェノール硬化物。
図10】実施例10で得られたOTr/EPL硬化物と比較例1で得られたGA/EPL硬化物。
図11】実験2における接着剤が木材を接着した様を示す画像。
図12】実施例12で得られたOTr/ADH/木粉硬化物。
図13】実施例13で得られたOTr/ODH/木粉硬化物。
図14】実施例14で得られたOTr/尿素/木粉硬化物。
図15】実施例15で得られたOTr/PAA/木粉硬化物。
図16】実施例16で得られたOTr/ADH/PAA/木粉硬化物。
図17】実施例17で得られたOSu/PAA/木粉硬化物。
図18】実施例18で得られたOSu/ADH/木粉硬化物。
図19】実施例19で得られたOTr/EPL/木粉硬化物。
図20】実施例20で得られた実施例12と同じ組成であるOTr/ADH/木粉のスケールアップした硬化物。
図21】実施例21で得られた実施例19と同じ組成であるOTr/EPL/木粉のスケールアップした硬化物。
図22】実験4における大腸菌に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図23】実験4における黄色ブドウ球菌に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図24】実験4における枯草菌に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図25】実験4における放線菌に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図26】実験4における分裂酵母に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図27】実験4における紅麹菌に対する抗菌性試験の結果を示す画像。
図28】実験5における細胞固定後の光学顕微鏡画像。
図29】実験6における浸漬後の皮膚の様を示す画像。
図30】実験6-2における浸漬後の皮膚の様を示す画像。
図31】実験7で得られた、OSu/ADH/研磨剤の硬化物からなる砥石。
図32】実施例22で得られたORf/ADH硬化物。
図33】実施例23で得られたORf/ADH/木粉硬化物。
図34】実施例24で得られたOαCD/ADH硬化物。
図35】実施例25~27で得られたOαCD/ADH/木粉硬化物、OβCD/ADH/木粉硬化物、OγCD/ADH/木粉硬化物。
図36】実施例28で得られたOSu/EPL/木粉硬化物。
図37】実施例29~32で得られたOαCD/EPL硬化物、OβCD/EPL硬化物、OγCD/EPL硬化物、ORf/EPL硬化物。
図38】実施例33~36で得られたOαCD/ODH硬化物、OβCD/ODH硬化物、OγCD/ODH硬化物、ORf/ODH硬化物。
図39】実施例37、38で得られたOSu/フェノール硬化物、OSu/尿素硬化物。
図40】実施例39で得られたOβCD/尿素硬化物。
図41】実験9における接着剤が木材を接着した様を示す画像。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の機能性材料は、非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物を含み、揮発性アルデヒド化合物を実質的に含まない。なお、本明細書において、「実質的に含まない」とは、意図的に配合していないことを意味し、不純物や配合する他の薬剤中の添加剤等として意図せず混入した微量の揮発性アルデヒド化合物を排除するものではない。
【0010】
本明細書において、オリゴ糖とは、単糖が2個以上10個以下結合したものを意味し、環状であってもよい。本発明で使用する非還元性オリゴ糖とは、スクロース(二糖)、トレハロース(二糖)、メレジトース(三糖)、ゲンチアノース(三糖)、スタキオース(四糖)、ラフィノース(三糖)、α-シクロデキストリン(環状六糖)、β-シクロデキストリン(環状七糖)、γ-シクロデキストリン(環状八糖)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合して用いることができる。これらの中で、コスト、水への溶解性、入手の容易さ等の点から、二~四糖であることが好ましく、また、無色または白色の硬化物が得られる場合があるため着色が可能である点、および低濃度で硬化する点から、環状のオリゴ糖が好ましい。直鎖状オリゴ糖の場合は、二糖または三糖であることがさらに好ましく、二糖であることがよりさらに好ましく、トレハロース、スクロースが特に好ましく、トレハロースが最も好ましい。アルデヒドトレハロースは、同じ二糖のアルデヒド化物であるアルデヒドスクロースと比較して、水への溶解度が大きく高濃度での取り扱いが可能であり、また、メカニズムは不明であるがアルデヒド基の反応性が高い。環状オリゴ糖の場合は、水への溶解性の点からはα-シクロデキストリンまたはγ-シクロデキストリンが好ましく、得られる硬化物が靭性に優れる点からはγ-シクロデキストリンが好ましく、メカニズムは不明であるがアルデヒド基の反応性が高い点からはβ-シクロデキストリンが好ましい。
本発明の機能性材料は、非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物全体に対して、アルデヒドトレハロースを10重量%以上含むことが好ましく、30重量%以上含むことがより好ましく、50重量%以上含むことがさらに好ましく、70重量%以上含むことがよりさらに好ましく、90重量%以上含むことがよりさらに好ましく、95重量%以上含むことがよりさらに好ましく、97重量%以上含むことがよりさらに好ましい。
【0011】
非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物は、非還元性オリゴ糖を酸化することにより得ることができ、その酸化方法は特に制限されない。例えば、下記に示すように、トレハロースは、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)により酸化されて、テトラアルデヒド化物であるアルデヒドトレハロースとなる。
【化1】
【0012】
1モル当量の過ヨウ素酸ナトリウムにより、非還元性オリゴ糖1分子内に少なくとも2つのアルデヒド基を発生させることができる。使用する非還元性オリゴ糖の種類と過ヨウ素酸ナトリウムの使用量により、得られる非還元性オリゴ糖の多官能のアルデヒド基の価数を調整することができる。
酸化後は、必要に応じて減圧濃縮、電気透析、再沈殿等により精製することができる。
【0013】
本発明の機能性材料が実質的に含まない揮発性アルデヒド化合物とは、1気圧下における沸点が80℃以下のアルデヒド化合物を意味し、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、アセトアルデヒド等を挙げることができる。
【0014】
本発明の機能性材料は、従来、揮発性アルデヒド化合物が使われている用途に特に制限することなく使用することができる。具体的には、木質材料、天然繊維・合成繊維等の繊維、天然ゴム・合成ゴム等のゴム等用の接着剤;尿素樹脂、尿素-メラミン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の樹脂材料;化粧板、合板、繊維板、パーティクルボード等の木質ボード等の木質部材;抗菌剤;殺菌剤;抗ウイルス剤;防腐剤;消毒剤;抗黴剤;塗料;細胞固定液;皮革のなめし剤等の原材料として使用することができる。樹脂材料の用途は特に制限されず、例えば、自動車部品、電気機器用部品、食器類、雑貨類、合成砥石等とすることができる。本発明の機能性材料は、揮発性アルデヒド化合物による健康被害を軽減することができるため、いわゆる、シックハウス症候群、シックカー症候群における揮発性アルデヒド発生源とされる建物内装用、家具用、自動車内装材用等の用途に好適に使用することができ、これらの用途に用いられる接着剤、樹脂材料、木質部材、塗料等として特に好適に使用することができる。
本発明の機能性材料は、その用途において従来用いられている揮発性アルデヒド化合物の少なくとも一部の代わりに用いることができる。本発明の機能性材料を用いることにより、揮発性アルデヒド化合物の使用量を減らすことができ、さらには実質的に避けることができ、揮発性アルデヒド化合物を使用することによる弊害を抑えることができる。本発明の機能性材料を用いる場合、非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物100重量%に対する揮発性アルデヒド化合物の使用量は、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることがさらに好ましく、0.5重量%以下であることがよりさらに好ましく、0重量%であることが最も好ましい。
【0015】
本発明の機能性材料を、接着剤、樹脂材料、木質部材、塗料等の硬化させる用途に用いる場合、併用する硬化剤としては、アルデヒド基と共有結合を形成できる官能基(以下、反応性官能基ともいう)を有するものであれば特に制限することなく使用することができ、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基等を有する化合物を好適に用いることができ、アミン系化合物、フェノール系化合物を特に好適に用いることができる。硬化剤は、その反応性官能基と非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物のアルデヒド基とのモル比(反応性官能基:アルデヒド基)が、1:0.2~3.0の範囲内で用いることが好ましく、1:0.2~2.0の範囲内で用いることがより好ましい。本発明の機能性材料と硬化剤とは、機能性材料を含む第1液と硬化剤を含む第2液とを有する2液型とし、使用直前に混合して用いることができる。また、本発明の機能性材料を硬化剤と混合する際には、その用途や求める物性等に応じて、研磨剤(アルミナ、ダイアモンド、炭化ケイ素、立方窒化ホウ素、炭化ホウ素、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化セリウムなど)、導電性粒子、帯電防止剤、充填剤、繊維強化剤、滑剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を配合することもできる。
【0016】
アミン系化合物としては、例えば、尿素;1,2-エチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,2-ブチレンジアミン、1,3-ブチレンジアミン、1,4-ブチレンジアミン、2-(エチルアミノ)エチルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジプロピレントリアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オキサリルジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ヒドラジン等の脂肪族アミン;4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4-メチルシクロヘキサン-1,3-ジアミン、N-アミノエチルピベラジン、N-シクロヘキシル-1,3-プロパンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ピペラジン、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド等の脂環式アミン;メラミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m-キシレンジアミン、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ジヒドラジド等の芳香族ポリアミン;ポリアミドアミン、ポリエチレンイミン、ポリリジン等のポリアミン等を挙げることができる。
【0017】
フェノール系化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-フェニルフェノール、キシレノール、レゾルシノール、ビスフェノール等を挙げることができる。
硬化剤としては、これらの1種または2種以上を併用することができる。
硬化剤は、本発明の機能性材料の用途等に応じて選択することができ、例えば、接着剤、塗料に用いる場合は、その用途に適した粘度を付与することができるため、硬化剤としてポリアミンを含むことが好ましい。また、ポリリジンは、アミノ酸であるリジンのホモポリマーであり、発酵により生産されているため、本発明である非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物と組み合わせることにより、非化石資源由来の硬化物を得ることができる。
【0018】
本発明の機能性材料を、そのアルデヒド基を、アミノ基と反応させる用途に用いる場合、pHにより反応性を制御することができる。具体的には、pH値が小さいほど反応が早く、pH値が大きいほど反応が遅くなる。pHは、3.0以上10.0以下とすることができる。安全性と非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物の溶解性の点から、pHは4.0以上7.0以下であることがより好ましい。
【0019】
本発明の機能性材料は、単独、または硬化剤等の任意の添加剤とともに、その用途に応じて溶媒に溶解して使用することができる。溶媒としては、これらを溶解できるものであれば特に制限されないが、水系溶媒であることが好ましい。水系溶媒としては、水、および水と相溶する有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン等)と水との混合物が挙げられ、水が好ましい。水系溶媒とする場合、その濃度は特に制限されず、その用途に応じて適宜設定することができる。本発明の機能性材料は、高濃度の水溶液、例えば、20℃でアルデヒドトレハロースは35重量%程度、アルデヒドスクロースは30重量%程度の高濃度の水溶液とすることができるため、反応性を高くすることができる。本発明の機能性材料の水溶液濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。また、本発明の機能性材料は、水溶液とした際に不揮発性であり、その水溶液からはアルデヒド特有の刺激臭が一切しない。本発明の機能性材料は、不揮発性であり、蒸気の吸引や揮発したアルデヒド化合物の肌への付着がないため、作業者に対する安全性に優れている。
【実施例0020】
「アルデヒドトレハロース調製」
D-(+)-トレハロース二水和物378.33gを超純水に溶解して1Lにし(1M)、D-(+)-トレハロースに対して2.2当量の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で2時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の43%に相当する1MBaCl水溶液と、残存する過ヨウ素酸ナトリウムを失活せしめる量のアスコルビン酸ナトリウムを加えて混合後に上清を分取し、テトラアルデヒド化物であるアルデヒドトレハロース水溶液(0.7M)を得た。
【0021】
「アルデヒドスクロ-ス調製」
スクロース342.3gを用いた以外は、上記アルデヒドトレハロース調製と同様にして、テトラアルデヒド化物であるアルデヒドスクロース水溶液(0.7M)を得た。
以下、アルデヒドトレハロースをOTr、アルデヒドスクロースをOSuとも表す。
【0022】
・実験1:樹脂材料、接着剤、塗料
「実施例1」
アルデヒドトレハロース(OTr)水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、モル比で2倍に相当するアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合し、OTr/ADH水溶液を得た。
このOTr/ADH水溶液0.7mLプラスチックチューブに入れ、20℃で16時間インキュベートして固化させた。
さらに、この固化物をプラスチックチューブから取り出し、70℃で16時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を図1に示す。
【0023】
「実施例2」
アジピン酸ジヒドラジド(ADH)に代えてオキサリルジヒドラジド(ODH)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図2に示す。
「実施例3」
OTr水溶液に代えてアルデヒドスクロース(OSu)水溶液(0.7M pH4.0)を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図3に示す。
「実施例4」
OTr水溶液に代えてOSu水溶液(0.7M pH4.0)を用いた以外は、実施例2と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図4に示す。
【0024】
「実施例5」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に最終濃度1.4Mとなるように尿素を加え、OTr/尿素水溶液とした。
OTr/尿素水溶液0.7mLをプラスチックチューブに入れ、60℃で16時間インキュベートして硬化させた。得られた硬化物を図5に示す。
「実施例6」
OTr水溶液(0.7M、pH9.0)に対し、モル比で4/7倍のメラミンを加え、80℃で溶解してOTr/メラミン水溶液とした。
OTr/メラミン水溶液0.7mLをプラスチックチューブに入れ、80℃で16時間インキュベートして固化させた。
さらに、この固化物をプラスチックチューブから取り出し、70℃で16時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を図6に示す。
【0025】
「実施例7」
OTr水溶液(0.7M、pH9.0)に対し、等量(w/v)の100%ポリアミドアミン(PAA、セメダイン社製、セメダイン1500)を加え、混合してOTr/PAA水溶液とした。
この水溶液0.7mLをプラスチックチューブに入れ、20℃で16時間インキュベートして固化させた。
さらに、この固化物をプラスチックチューブから取り出し、70℃で16時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を図7に示す。
「実施例8」
PAAに代えてポリエチレンイミン(PEI)を用いた以外は、実施例7と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図8に示す。
「実施例9」
OTr水溶液(0.7M、pH3.5)600μLに対し、フェノール73.2mgを加えて溶解してOTr/フェノール水溶液とした。
この水溶液0.5mLをプラスチックチューブに入れ、70℃で40時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を図9に示す。
【0026】
「実施例10」
OTr水溶液(0.7M、pH3.5)600μLに対し、ポリリジン(EPL、Biosynth Carbosynth、Poly epsilon L-lysine HCl)180mg(溶液中の反応性を有するアミノ基の濃度約2.8M)を加えて溶解してOTr/EPL水溶液とした。
この水溶液0.7mLをプラスチックチューブに入れ、37℃で1時間インキュベートして固化させた。
さらに、この固化物をプラスチックチューブから取り出し、60℃で16時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。
「比較例1」
グルタルアルデヒド(GA)水溶液(2.5M)600μLに対し、ポリリジン(EPL、Biosynth Carbosynth、Poly epsilon L-lysine HCl)63mgを加えて溶解してGA/EPL水溶液とした。
この水溶液を用いた以外は、実施例10と同様にして硬化物を得た。
実施例10、比較例1で得られた硬化物を図10に示す。
【0027】
実施例1~10、比較例1により硬化物を得ることができた。
実施例1、2、9、10、比較例1で得られた硬化物は、十分な硬度と強度を有していた。実施例3、4、6で得られた硬化物は、脆く壊れやすかったが、硬化剤の濃度や硬化条件を調整することにより、硬度を挙げることが期待できる。実施例7、8で得られた硬化物は、可塑性と粘着性を有していた。
実施例1~10で使用した水溶液は、単独でも硬化しており、本発明の機能性材料により、樹脂材料、接着剤、塗料が得られることが確かめられた。特に、アルデヒドトレハロースを用いた硬化物は、十分な強度を備えていた。
本発明の機能性材料は、硬化剤と反応して硬化物を得ることができたため、アルデヒド基と反応性を有する官能基を有する材料、例えば、木質材料、繊維、ゴムの接着剤に用いることができる。また、特に、実施例7、8、10で使用した硬化前の水溶液は、実施例1~6の水溶液と比較して粘性を有しており、固形分濃度等を調整して適切な粘度とすることにより、塗料とすることができる。特に、実施例10で得た硬化物は、主原料である非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物とポリリジンが非化石資源由来であり、このことから非化石資源由来の樹脂材料、接着剤、塗料が製造できることが確かめられた。
【0028】
・実験2:接着剤、塗料
「実施例11」
実施例7で調製したOTr/PAA水溶液を木材に塗布した。
塗布した面で木材同士を貼り付け、そのままの状態で20℃、16時間静置し、木材同士を接着した。その後、60℃で16時間インキュベートし、硬化させた。
また、別の木材にOTr/PAA水溶液を塗布し、そのまま静置して硬化させた。
【0029】
「比較例2」
OTrに代えてホルムアルデヒドを用いた以外は、実施例11と同様にして木材同士を接着した。
「比較例3」
市販の木工用ボンド(コニシ、ボンドEセット)を用いた以外は、実施例11と同様にして木材同士を接着した。
「比較例4」
OTrを含まない以外は、実施例11と同様にして木材同士を接着した。
【0030】
実施例11、比較例2~4で木材を接着した様を図11に示す。
実施例11で用いたOTr/PAA水溶液は、比較例2、3で用いた従来の接着剤と同等の強度で木材同士を接着させることができた。比較例4で用いたPAAのみからなる接着剤では、木材同士を接着させることはできなかった。
また、実施例11で用いたOTr/PAA水溶液は、木材に塗布しても液垂れせず、乾燥、硬化して塗膜を形成できた。
このことから、本発明の機能性材料が、接着剤、塗料として用いられることが確かめられた。
【0031】
・実験3:木質部材
「実施例12」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、モル比で2倍に相当するアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
20℃で6時間インキュベートし、続けて70℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図12に示す。
「実施例13」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、モル比で2倍に相当するオキサリルジヒドラジド(ODH)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
20℃で6時間インキュベートし、続けて70℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図13に示す。
【0032】
「実施例14」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、モル比で2倍に相当する尿素を加えて溶解した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
60℃で40時間インキュベートし、続けて60℃で16時間乾燥・硬化させて硬化物を得た。得られた硬化物を図14に示す。
「実施例15」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、等量(w/v)の100%ポリアミドアミン(PAA)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
70℃で40時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図15に示す。
【0033】
「実施例16」
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、モル比で2倍に相当するアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合した後、全体に対して1/10量の100%ポリアミドアミン(PAA)と1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
70℃で40時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図16に示す。「実施例17」
OTr水溶液に代えてOSu水溶液(0.7M、pH4.0)を用いた以外は、実施例15と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図17に示す。
「実施例18」
OTr水溶液に代えてOSu水溶液(0.7M、pH4.0)を用いた以外は、実施例12と同様にして硬化物を得た。得られた硬化物を図18に示す。
【0034】
「実施例19」
OTr水溶液(0.7M、pH3.5)600μLに対し、ポリリジン(EPL)92mgの(溶液中の反応性を有するアミノ基の濃度:約1.4M)を加えて溶解した後、OTr水溶液に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混錬し、37℃で1時間置いて固化させた。
その後、20℃で16時間、37℃で24時間、60℃で5時間インキュベートし、乾燥・硬化させて、硬化物を得た。得られた硬化物を図19に示す。
「実施例20」
実施例12に記載の方法に従い、縦約9cm、横約7cm、厚さ約1cmの硬化物を得た。得られた硬化物を図20に示す。
「実施例21」
実施例19に記載の方法に従い、縦約9cm、横約7cm、厚さ約1cmの硬化物を得た。得られた硬化物を図21に示す。
【0035】
実施例12~21で得られた木粉を含む硬化物は、十分な硬度と強度を備えており、金属製のピンセットの先端で擦っても傷は付かなかった。このことから、本発明の機能性材料は、木質材料を硬化でき、木質ボード等の木質部材に用いられることが確かめられた。特に、実施例19、21で得た硬化物は、主原料である非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物、ポリリジン、木粉のすべてが非化石資源由来であり、このことから非化石資源由来の木質部材が製造できることが確かめられた。
【0036】
・実験4:抗菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、消毒剤、抗黴剤
「大腸菌に対する抗菌性」
予め大腸菌を塗布した抗菌試験用プレートに複数枚のペーパーディスクを並べ、5~20重量%のOTr水溶液(pH4.0)、5~20重量%のOSu水溶液(pH4.0)、1~2.5重量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を、それぞれペーパーディスク20μLに滴下し、37℃で16時間インキュベートした。抗菌性試験の結果を図22に示す。
【0037】
上記試験と同様にして、黄色ブドウ球菌、枯草菌、放線菌、分裂酵母、紅麹菌に対する抗菌性評価を行った。
予め、黄色ブドウ球菌、枯草菌、放線菌、分裂酵母、紅麹菌を塗布した抗菌試験用プレートに複数枚のペーパーディスクを並べ、5~20重量%のOTr水溶液(pH4.0)、5~20重量%のOSu水溶液(pH4.0)、0.1~2.5重量%のグルタルアルデヒド(GA)水溶液を、それぞれペーパーディスク20μLに滴下した。
黄色ブドウ球菌、枯草菌は37℃16時間、放線菌は30℃3日間、分裂酵母は30℃2日間、紅麹菌は25℃3日間培養した。各抗菌性試験の結果を図23~27に示す。
【0038】
いずれの菌に対しても、アルデヒドトレハロースは、アルデヒドスクロースと比較して、同濃度での抗菌性に優れていた。また、高濃度のアルデヒドトレハロースは、1~2.5%のグルタルアルデヒドよりも抗菌性に優れていた。
このことから、非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物は、揮発性アルデヒド化合物であるグルタルアルデヒドの代替として、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、消毒剤として利用できることが確かめられた。また、アルデヒド基がアミノ基と反応することにより、抗ウイルス剤、抗黴剤への展開も期待できる。さらに、アルデヒドトレハロースは、優れた効果を奏することが確かめられた。
【0039】
アルデヒドトレハロースは、アルデヒドスクロースと比較して、同濃度での抗菌性に優れていた。また、菌の種類にもよるが、アルデヒドトレハロースの高濃度水溶液は、グルタルアルデヒド2重量%水溶液とハローの幅が同等であった。グルタルアルデヒドはハロー内にコロニーが見られたものがあるが、これは、グルタルアルデヒドは揮発性のため、経時で抗菌性が低下して、大腸菌が侵入したためであると推測される。一方、アルデヒドトレハロースはハロー内にコロニーは見られなかった。これは、アルデヒドトレハロースは不揮発性であるため、抗菌性が維持されたためであると推測される。
【0040】
これらのことから、本発明の機能性材料が、抗菌剤、殺菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、消毒剤、抗黴剤として用いられることが確かめられた。また、非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物は、グルタルアルデヒド水溶液よりも高い反応性を有しており、高濃度の水溶液を用いることにより、殺菌処理等に必要な時間を短くすることができる。また、本発明の機能性材料は不揮発性であり、揮発による濃度低下が生じないため、交換頻度を減らすことができる。そして、交換頻度を減らせること、蒸気の吸引、付着のおそれがないことから、作業者に健康被害が生じるおそれを減らすことができる。
【0041】
・実験5:細胞固定液
OTr水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、5倍体積量のエタノールを加えて、アルデヒドトレハロースを析出させた。この析出物をリン酸緩衝液に、アルデヒドトレハロース濃度が10重量%となるように溶解し、細胞固定液を得た。
この細胞固定液にN87細胞に加えて20℃16時間インキュベートし、翌日、超純水を加えて光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡画像を図28に示す。
【0042】
アルデヒドトレハロースを含む細胞固定液により、細胞を膨潤させることなく固定することができた。このことから、本発明の機能性材料を、細胞固定液に用いられることが確認できた。
【0043】
・実験6:皮革のなめし剤
ヌードマウスの皮膚を、親水化したPVDFメンブレンに張り付けて細断し、メンブレンに張り付けたまま、リン酸緩衝液、OTr水溶液(0.7M、pH3.0)、OTr水溶液(0.7M、pH6.5)、アルデヒド系のなめし剤として用いられているパラホルムアルデヒド(4重量%)に浸漬し、20℃または37℃で20時間インキュベートした。
【0044】
インキュベート後の皮膚をピンセットで摘んだ状態を図29に示す。
本発明の機能性材料とパラホルムアルデヒドは、インキュベート後の皮膚がピンセットでつまんでも垂れ下がらずに形を保つことができ、皮膚が固定されて、皮なめしが行われていた。このことから、本発明の機能性材料が、皮革のなめし剤として用いられることが確かめられた。
【0045】
・実験6-2:皮革のなめし剤
ヌードマウスの皮膚を、親水化したPVDFメンブレンに張り付けて細断し、メンブレンに張り付けたまま、OSu水溶液(0.7M、pH3.0)に浸漬し、20℃または37℃で20時間インキュベートした。
インキュベート後の皮膚をピンセットで摘んだ状態を図30に示す。
本発明の機能性材料であるOSu(アルデヒドスクロース)は、インキュベート後の皮膚がピンセットでつまんでも垂れ下がらずに形を保つことができ、皮膚が固定されて、皮なめしが行われており、皮革のなめし剤として用いられることが確かめられた。
【0046】
・実験7:合成砥石(樹脂材料)
アルデヒドスクロース(OSu)水溶液(0.7M、pH4.0)に対し、最終濃度1.4MとなるようにADHを加えて溶解し、OSu/ADH水溶液を得た。引き続いて1.5量(w/v)の研磨剤(アルミナ粉末、粒度1500、ナニワ研磨工業製、高級研磨材WA微粒、RD-1111)を加え、混合し、OSu/ADH/研磨剤混合物を得た。
このOSu/ADH/研磨剤混合物を型に入れ、20℃で4日間乾燥させた。得られた硬化物を図31に示す。
得られた硬化物は、研磨剤が均一に分布した状態で硬化しており、合成砥石として用いられることが確かめられた。
【0047】
「アルデヒドラフィノース調製」
D-(+)-ラフィノース五水和物214.0gを超純水に溶解して1Lにし(0.36M)、D-(+)-ラフィノースに対し、モル比で3倍の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で16時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の43%に相当する1MBaCl水溶液と、残存する過ヨウ素酸ナトリウムを失活せしめる量のアスコルビン酸ナトリウムを加えて混合後に上清を分取し、ヘキサアルデヒド化物であるアルデヒドラフィノース水溶液(0.25M)を得た。
【0048】
「アルデヒドα-シクロデキストリン調製」
α-シクロデキストリン116.7gを超純水に溶解して1Lにし(0.12M)、α-シクロデキストリンに対し、モル比で3.75倍の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で16時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の25%に相当する1MBaCl水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、続けて3.75%に相当する1MNaSO水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、沈殿物を除去した。飽和Na水溶液を1mL加え、アルデヒドα-シクロデキストリン水溶液を得た。なお、α-シクロデキストリンは、最大6箇所開裂するが、この仕込み比では、1分子あたり3.75箇所が開裂するため、アルデヒドα-シクロデキストリンは、1分子あたり7.5個のアルデヒド基を有する。
【0049】
「アルデヒドβ-シクロデキストリン調製」
β-シクロデキストリン145.9gを超純水に溶解して1Lにし(0.13M)、β-シクロデキストリンに対し、モル比で3.5倍の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で16時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の25%に相当する1MBaCl水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、続けて3.75%に相当する1MNaSO水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、沈殿物を除去した。飽和Na水溶液を1mL加え、アルデヒドβ-シクロデキストリン水溶液を得た。なお、得られたアルデヒドβ-シクロデキストリンは、1分子あたり7個のアルデヒド基を有する。
【0050】
「アルデヒドγ-シクロデキストリン調製」
γ-シクロデキストリン145.9gを超純水に溶解して1Lにし(0.11M)、γ-シクロデキストリンに対し、モル比で4.0倍の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で16時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の25%に相当する1MBaCl水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、続けて3.75%に相当する1MNaSO水溶液を加え、20℃で30分撹拌し、沈殿物を除去した。飽和Na水溶液を1mL加え、アルデヒドγ-シクロデキストリン水溶液を得た。なお、得られたアルデヒドγ-シクロデキストリンは、1分子あたり8個のアルデヒド基を有する。
【0051】
「アルデヒドグルコース調製」
グルコース180.2gを超純水に溶解して1Lにし(1M)、グルコースに対し、モル比で1倍の過ヨウ素酸ナトリウムを加え、20℃で16時間撹拌して酸化させた。
得られた溶液体積の43%に相当する1MBaCl水溶液と、残存する過ヨウ素酸ナトリウムを失活せしめる量のアスコルビン酸ナトリウムを加えて混合後に上清を分取し、アルデヒドグルコースを得た。
グルコースは、還元性の単糖であり、開環して鎖状のアルデヒド異性体構造となる。グルコースを5当量の過ヨウ素酸ナトリウムを加えて完全に酸化すると、鎖状のアルデヒド異性体が開裂して、ホルムアルデヒドとギ酸となる。上記調製では、1当量の過ヨウ素酸ナトリウムを用いているため、微量のホルムアルデヒドを含む複数種の単官能アルデヒド化合物の混合物が得られるが、本明細書において、この混合物をまとめて、アルデヒドグルコースという。得られたアルデヒドグルコースは、揮発性であるホルムアルデヒドを含む。
以下、アルデヒドラフィノースをORf、アルデヒドα-シクロデキストリンをOαCD、アルデヒドβ-シクロデキストリンをOβCD、アルデヒドγ-シクロデキストリンをOγCD、アルデヒドグルコースをOGuとも表す。
【0052】
・実験8:樹脂材料、接着剤、塗料、木質部材
「実施例22」
アルデヒドラフィノース(ORf)水溶液(0.12M、pH6.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて溶解し、ORf/ADH水溶液を得た。
このORf/ADH水溶液を型に入れ、20℃で24時間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図32に示す。
「実施例23」
アルデヒドラフィノース(ORf)水溶液(0.12M、pH7.0)に対し、モル比で3倍に相当するアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
20℃で24時間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図33に示す。
【0053】
「実施例24」
アルデヒドα-シクロデキストリン(OαCD)水溶液(0.096M、pH6.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて溶解し、OαCD/ADH水溶液を得た。
このOαCD/ADH水溶液を型に入れ、20℃で24時間インキュベートした後、37℃で24時間インキュベートして固化させた。得られた固形物を図34に示す。
「実施例25」
アルデヒドα-シクロデキストリン(OαCD)水溶液(0.096M、pH6.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて溶解し、OαCD/ADH水溶液を得た。
このOαCD/ADH水溶液に対し、1/5量(w/v)の木粉を加えて混錬し、成形した。20℃で16時間インキュベートした後、37℃で8時間インキュベートし、60℃で16時間乾燥させた。
【0054】
「実施例26」
アルデヒドβ-シクロデキストリン(OβCD)水溶液(0.098M、pH7.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
20℃で24時間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
「実施例27」
アルデヒドγ-シクロデキストリン(OγCD)水溶液(0.098M、pH7.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
20℃で24時間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
実施例25~27で得られた硬化物を図35に示す。
【0055】
「比較例5」
アルデヒドグルコース(OGu)水溶液(0.7M、pH7.0)に対し、最終濃度1.4Mとなるようにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)を加えて溶解し、OGu/ADH水溶液を得た。
このOGu/ADH水溶液を型に入れ、20℃で24時間インキュベートしたが、固化せず液体のままであった。
【0056】
実施例22、24で使用した水溶液は、単独でも硬化しており、本発明の機能性材料により、樹脂材料、接着剤、塗料が得られることが確かめられた。得られた硬化物は、白色であり、着色剤を配合することにより、様々な色に着色することができる。
本発明の機能性材料は、硬化剤と反応して硬化物を得ることができたため、アルデヒド基と反応性を有する官能基を有する材料、例えば、木質材料、繊維、ゴムの接着剤に用いることができる。また、実施例22、24で使用した硬化前の水溶液は、その固形分濃度を調整して適切な粘度とすることにより、塗料とすることができ、さらに、必要に応じて着色塗料とすることもできる。
実施例23、25~27で得られた木粉を含む硬化物は、十分な硬度と強度を備えており、金属製のピンセットの先端で擦っても傷は付かなかった。このことから、本発明の機能性材料は、木質材料を硬化でき、木質ボード等の木質部材に用いられることが確かめられた。
比較例5で用いたアルデヒドグルコース水溶液は、揮発性のホルムアルデヒドを含むため、アルデヒド臭がした。また、ADHと反応させても硬化物を得ることができなかった。これは、アルデヒドグルコースが微量のホルムアルデヒドを含む複数種の単官能アルデヒド化合物の混合物であり、架橋構造が形成されなかったためである。
【0057】
「実施例28」
OSu水溶液(0.18M、pH7.0)に対し、最終濃度0.72Mとなるようにポリリジン(EPL)を加えて混合した後、全体に対して1/5量(w/v)の木粉を加えて混練し、成形した。
37℃で30時間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。得られた硬化物を図36に示す。
「実施例29」
アルデヒドα-シクロデキストリン(OαCD)水溶液(0.096M、pH6.0)に対し、最終濃度0.72Mとなるようにポリリジン(EPL)を加えて溶解し、OαCD/EPL水溶液を得た。
このOαCD/EPL水溶液を型に入れ、20℃で4日間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
「実施例30」
アルデヒドβ-シクロデキストリン(OβCD)水溶液(0.098M、pH6.0)に対し、最終濃度0.72Mとなるようにポリリジン(EPL)を加えて溶解し、OβCD/EPL水溶液を得た。
このOβCD/EPL水溶液を型に入れ、20℃で4日間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
「実施例31」
アルデヒドγ-シクロデキストリン(OγCD)水溶液(0.098M、pH6.0)に対し、最終濃度0.72Mとなるようにポリリジン(EPL)を加えて溶解し、OγCD/EPL水溶液を得た。
このOγCD/EPL水溶液を型に入れ、20℃で4日間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
「実施例32」
アルデヒドラフィノース(ORf)水溶液(0.11M、pH4.0)に対し、最終濃度0.72Mとなるようにポリリジン(EPL)を加えて溶解し、ORf/EPL水溶液を得た。このORf/EPL水溶液を型に入れ、20℃で4日間インキュベートし、続けて60℃で16時間インキュベートして硬化物を得た。
実施例29~32で得られた硬化物を、図37に示す。
【0058】
実施例28で得られた木粉を含む硬化物は、十分な硬度と強度を備えており、金属製のピンセットの先端で擦っても傷は付かなかった。このことから、本発明の機能性材料は、木質材料を硬化でき、木質ボード等の木質部材に用いられることが確かめられた。
実施例29~31で得られた硬化物は、ゴム状であり弾性を有していた。実施例29~31で用いた硬化前の水溶液は、粘性を有しており、適切な粘度となるように固形分濃度を調整することにより、塗料とすることができる。
実施例32で得られた硬化物は、十分な硬度と強度を備えており、金属製のピンセットの先端で擦っても傷は付かなかった。
実施例28~32で得られた硬化物は、主原料である非還元性オリゴ糖の多官能アルデヒド化物、ポリリジン、(木粉)のすべてが非化石資源由来であり、このことから非化石資源由来の木質部材、樹脂材料、接着剤、塗料が製造できることが確かめられた。
【0059】
「実施例33」
アルデヒドα-シクロデキストリン(OαCD)水溶液(0.096M、pH4.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにオキサリルジヒドラジド(ODH)を加えて溶解し、OαCD/ODH水溶液を得た。
このOαCD/ODH水溶液を型に入れ、20℃で4日間乾燥させ、硬化物を得た。
「実施例34」
アルデヒドβ-シクロデキストリン(OβCD)水溶液(0.098M、pH4.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにオキサリルジヒドラジド(ODH)を加えて溶解し、OβCD/ODH水溶液を得た。
このOβCD/ODH水溶液を型に入れ、20℃で4日間乾燥させ、硬化物を得た。
「実施例35」
アルデヒドγ-シクロデキストリン(OγCD)水溶液(0.098M、pH4.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにオキサリルジヒドラジド(ODH)を加えて溶解し、OγCD/ODH水溶液を得た。
このOγCD/ODH水溶液を型に入れ、20℃で4日間乾燥させ、硬化物を得た。
「実施例36」
アルデヒドラフィノース(ORf)水溶液(0.12M、pH7.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるようにオキサリルジヒドラジド(ODH)を加えて溶解し、ORf/ODH水溶液を得た。20℃で4日間インキュベートして硬化物を得た。
【0060】
実施例33~36で得られた硬化物を、図38に示す。
実施例33~36で得られた硬化物は、十分な硬度を有しており、またその色は薄い黄色であった。そのため、実施例32~34で得られた硬化物は、着色剤を配合して硬化させることにより、任意の色に着色できる。また、その固形分濃度を調整して適切な粘度とすることにより塗料とすることができる。
【0061】
「実施例37」
OSu水溶液(0.7M、pH3.5)600μLに対し、フェノール73.2mgを加えて溶解してOSu/フェノール水溶液とした。この水溶液0.5mLをプラスチックチューブに入れ、70℃で40時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。
「実施例38」
OSu水溶液(0.7M、pH3.5)600μLに対し、最終濃度1.4Mとなるように尿素を加えて溶解してOSu/尿素水溶液とした。この水溶液0.5mLをプラスチックチューブに入れ、70℃で40時間インキュベートして硬化させ、硬化物を得た。
実施例37、38で得られた硬化物を、図39に示す。
【0062】
「実施例39」
アルデヒドβ-シクロデキストリン(OβCD)水溶液(0.098M、pH4.0)に対し、最終濃度0.36Mとなるように尿素を加えて溶解し、OβCD/尿素水溶液を得た。このOβCD/尿素水溶液を型に入れ、20℃で4日間乾燥させ、硬化物を得た。得られた硬化物を図40に示す。
実施例37~39で得られた硬化物は、十分な硬度と強度を備えており、金属製のピンセットの先端で擦っても傷は付かなかった。
【0063】
・実験9:塗料、接着剤
「実施例40」
OαCDを用いた以外は、実施例7と同様にして、OαCD/PAA水溶液を得た。
これを用いた以外は、実施例11と同様にして木材同士を接着した。
「実施例41~44」
それぞれ、OβCD、OγCD、ORf、OSuを用いた以外は、実施例40と同様にして、各アルデヒド化物/PAA水溶液を用いて木材同士を接着した。
実施例40~41で木材を接着した様を図41に示す。
【0064】
実施例40~44で用いたアルデヒド化物/PAA水溶液は、実験2の比較例2、3で用いた従来の接着剤と同等の強度で木材同士を接着させることができた。
また、実施例40~44で用いた水溶液は、木材に塗布しても液垂れせず、乾燥、硬化して塗膜を形成できた。
このことから、本発明の機能性材料が、接着剤、塗料として用いられることが確かめられた。
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