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特開2023-82704熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法
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  • 特開-熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法 図1
  • 特開-熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法 図2
  • 特開-熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082704
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20230607BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20230607BHJP
   C08L 51/00 20060101ALI20230607BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L33/12
C08L97/00
C08L51/00
C08J3/20 B CES
C08J3/20 CEY
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022193513
(22)【出願日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】63/285,230
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/071,025
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】511134458
【氏名又は名称】ザ テキサス エー アンド エム ユニバーシティ システム
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 光明
(72)【発明者】
【氏名】高 榮鴻
(72)【発明者】
【氏名】謝 坤沛
(72)【発明者】
【氏名】張 朝順
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲彦▼廷
(72)【発明者】
【氏名】スー フン-ジュエ
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA32
4F070AC74
4F070AC96
4F070AE02
4F070AE30
4F070FA03
4F070FB09
4J002AH002
4J002BB031
4J002BB121
4J002BB213
4J002BC043
4J002BG061
4J002BN232
4J002BP013
4J002FB262
4J002FD012
(57)【要約】
【課題】熱可塑性組成物、熱可塑性複合材及び熱可塑性複合材を製造する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性複合材を製造する方法において、ポリマーと、特定の元素含有量を有する酸変性リグニンと、特定のメルトフローインデックス及び特定の無水マイレン酸含有量を有する相溶化剤と、を使用して、熱可塑性複合材を製造する。酸変性リグニンのヒドロキシ基と相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させて、ポリマーとリグニンとの適合性を強化させることで、熱可塑性複合材の機械的強度を向上させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1つ以上であるポリマーと、
表面に酸基を含み、前記酸基は、酸変性リグニンの100重量%に対して元素含有量が10重量%~20重量%である元素を含有する酸変性リグニンと、
14g/10分間~28g/10分間のメルトフローインデックスを有し、スチレン、エチレン及びブチレンからなる無水マイレン酸グラフト共重合体であり、その無水マイレン酸含有量が1.0重量%~2.5重量%であり、且つそのポリスチレン含有量が20重量%~40重量%である相溶化剤と、
を含む熱可塑性組成物であって、
前記熱可塑性組成物の100重量%に対して、前記ポリマーの含有量は60重量%~95重量%であり、前記酸変性リグニンの含有量は3重量%~35重量%であり、且つ前記相溶化剤の含有量は1重量%~7重量%である熱可塑性組成物。
【請求項2】
前記ポリマーのメルトフローインデックスは、5g/10分間~15g/10分間である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
前記酸基は、リン酸基、硫酸基及び/又は硝酸基を含む請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項4】
前記元素は、リン、硫黄及び/又は窒素を含む請求項3に記載の熱可塑性組成物。
【請求項5】
前記酸変性リグニンの平均粒子径は、0.05μm~10μmである請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項6】
前記相溶化剤のメルトフローインデックスは、20g/10分間~23g/10分間である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項7】
前記ポリマーの密度と前記相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項8】
前記酸変性リグニンの前記含有量と前記相溶化剤の前記含有量との比率は、2.0~6.0である請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項9】
ポリマーと、酸変性リグニンと、相溶化剤と、を含む請求項1に記載の熱可塑性組成物を提供する操作と、
前記熱可塑性組成物を160℃~190℃まで加熱する操作と、
前記熱可塑性組成物を加熱した後で、熱可塑性複合材を取得するように、160℃~190℃で前記熱可塑性組成物を5分間~8分間ブレンドする操作と、
前記熱可塑性組成物のブレンド時に、前記酸変性リグニンのヒドロキシ基と前記相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、前記酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させる操作と、
を備える熱可塑性複合材を製造する方法。
【請求項10】
ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1つ以上であるポリマーから形成されるポリマーマトリックスと、
表面に酸基を含み、前記酸基は、酸変性リグニンの100重量%に対して元素含有量が10重量%~20重量%である元素を含有する酸変性リグニンから形成されるコアと、メルトフローインデックス14g/10分間~28g/10分間の、スチレン、エチレン及びブチレンからなる無水マイレン酸グラフト共重合体であり、その無水マイレン酸含有量が1.0重量%~2.5重量%であり、且つそのポリスチレン含有量が20重量%~40重量%である相溶化剤から形成され、前記コアを被覆するシェル層と、をそれぞれ含み、前記ポリマーマトリックスの中に埋め込まれる複数のコアシェル粒子と、
を備え、
複数の前記コアシェル粒子の平均粒子径は、0.1μm~11μmである熱可塑性複合材。
【請求項11】
前記ポリマーのメルトフローインデックスは、5g/10分間~15g/10分間である請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項12】
前記酸基は、リン酸基、硫酸基及び/又は硝酸基を含む請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項13】
前記元素は、リン、硫黄及び/又は窒素を含む請求項12に記載の熱可塑性複合材。
【請求項14】
前記相溶化剤のメルトフローインデックスは、20g/10分間~23g/10分間である請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項15】
前記ポリマーの密度と前記相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1である請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項16】
前記シェル層は、エステル結合を介して前記コアに結合される請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項17】
前記シェル層の厚さは、0.1μm~0.8μmである請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項18】
複数の前記コアシェル粒子の分散性は、1×104粒子/mm2~6×104粒子/mm2である請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項19】
前記熱可塑性複合材の衝撃強度は、1.1kJ/m2よりも大きい請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【請求項20】
前記熱可塑性複合材のヤング率は、2.0GPaよりも大きい請求項10に記載の熱可塑性複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本出願は、2021年12月02日に提出された米国仮特許出願63/285230号の優先権を主張し、引用によりその特許請求の全体を本明細書に包含する。
【0002】
本発明は、熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び前記熱可塑性複合材を製造する方法に関し、特に、酸変性リグニン含有の熱可塑性組成物を使用することで熱可塑性複合材を製造するための方法及び得られた熱可塑性複合材に関する。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性複合材を製造する従来の方法において、ポリマー及びフィラーは互いにブレンドし、且つフィラーは熱可塑性複合材の機械的強度を強化させることに用いられる。例えば、フィラーは、炭素系材料(例えば、炭素繊維等)及び無機材料(例えば、ガラス粒子等)であってよい。これらの材料は、生体適合性のものであるので、環境問題に苦しんでいる。
【0004】
また、フィラーがポリマー内に均一に分散しにくいので、ポリマーとフィラーとの適合性を改善するように、フィラーに対する表面変性を実行する必要がある。表面変性は、相溶化剤(例えば、カップリング剤等)をフィラーに加えることで実行されてよい。しかしながら、従来の相溶化剤は、極性ポリマー及び非極性ポリマーへの良好な適合性を提供することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述に鑑みて、欠点を解決するために、新規の熱可塑性組成物を使用することで新規の熱可塑性複合材を製造するための新規方法を開発する必要がある。本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び熱可塑性複合材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、熱可塑性組成物を提供する。前記熱可塑性組成物は、極性又は非極性ポリマーとリグニンとの適合性を強化させるように、特定の元素含有量を有する酸変性リグニン及び特定のメルトフローインデックス及び特定の無水マイレン酸含有量を有する相溶化剤を含むことで、得られた熱可塑性複合材の機械的強度を向上させる。
【0007】
本発明の別の態様は、熱可塑性複合材を製造する方法を提供する。熱可塑性複合材を製造する方法において、前記熱可塑性組成物を使用して前記熱可塑性複合材を製造する。
【0008】
本発明のまた別の態様は、熱可塑性複合材を提供する。前記熱可塑性複合材は、前記熱可塑性組成物からなる。
【0009】
本発明の一実施形態の熱可塑性組成物は、ポリマーと、表面に酸基を含む酸変性リグニンと、14g/10分間~28g/10分間のメルトフローインデックスを有する相溶化剤と、を含む。前記ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1つ以上である。前記酸基は、前記酸変性リグニンの100重量%に対して元素含有量が10重量%~20重量%である元素を含有する。前記相溶化剤は、スチレン、エチレン及びブチレンからなる無水マイレン酸グラフト共重合体であり、その無水マイレン酸含有量が1.0重量%~2.5重量%であり、且つそのポリスチレン含有量が20重量%~40重量%である。前記熱可塑性組成物の100重量%に対して、前記ポリマーの含有量は60重量%~95重量%であり、前記酸変性リグニンの含有量は3重量%~35重量%であり、且つ前記相溶化剤の含有量は1重量%~7重量%である。
【0010】
本発明の別の実施形態によると、前記ポリマーのメルトフローインデックスは、5g/10分間~15g/10分間である。
【0011】
本発明のまた別の実施形態によると、前記酸基は、リン酸基、硫酸基及び/又は硝酸基を含む。
【0012】
本発明のまた別の実施形態によると、前記元素は、リン、硫黄及び/又は窒素を含む。
【0013】
本発明のまた別の実施形態によると、前記酸変性リグニンの平均粒子径は、0.05μm~10μmである。
【0014】
本発明のまた別の実施形態によると、前記相溶化剤のメルトフローインデックスは、20g/10分間~23g/10分間である。
【0015】
本発明のまた別の実施形態によると、前記ポリマーの密度と前記相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1である。
【0016】
本発明のまた別の実施形態によると、前記酸変性リグニンの前記含有量と前記相溶化剤の前記含有量との比率は、2.0~6.0である。
【0017】
本発明の別の態様によると、熱可塑性複合材を製造する方法を提供する。前記熱可塑性複合材を製造する方法において、前記熱可塑性組成物を提供し、前記熱可塑性組成物を加熱した後で、前記熱可塑性複合材を取得するように、前記熱可塑性組成物を160℃~190℃まで加熱し、且つ160℃~190℃で前記熱可塑性組成物を5分間~8分間ブレンドする。前記熱可塑性組成物は、ポリマーと、酸変性リグニンと、相溶化剤と、を含む。前記熱可塑性組成物のブレンド時に、前記酸変性リグニンのヒドロキシ基と前記相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、前記酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させる。
【0018】
本発明のまた別の態様によると、熱可塑性複合材を提供する。前記熱可塑性複合材は、ポリマーから形成されるポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックスの中に埋め込まれる複数のコアシェル粒子と、を備える。前記ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1つ以上である。前記複数のコアシェル粒子は、酸変性リグニンから形成されるコアと、前記コアを被覆するシェル層と、をそれぞれ含む。前記酸変性リグニンは、表面に酸基を含み、前記酸基は、前記酸変性リグニンの100重量%に対して元素含有量が10重量%~20重量%である元素を含有する。前記シェル層は、メルトフローインデックス14g/10分間~28g/10分間の相溶化剤から形成され、前記相溶化剤は、スチレン、エチレン及びブチレンからなる無水マイレン酸グラフト共重合体であり、その無水マイレン酸含有量が1.0重量%~2.5重量%であり、且つそのポリスチレン含有量が20重量%~40重量%である。前記複数のコアシェル粒子の平均粒子径は、0.1μm~11μmである。
【0019】
本発明のまた別の実施形態によると、前記ポリマーのメルトフローインデックスは、5g/10分間~15g/10分間である。
【0020】
本発明のまた別の実施形態によると、前記酸基は、リン酸基、硫酸基及び/又は硝酸基を含む。
【0021】
本発明のまた別の実施形態によると、前記元素は、リン、硫黄及び/又は窒素を含む。
【0022】
本発明のまた別の実施形態によると、前記相溶化剤のメルトフローインデックスは、20g/10分間~23g/10分間である。
【0023】
本発明のまた別の実施形態によると、前記ポリマーの密度と前記相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1である。
【0024】
本発明のまた別の実施形態によると、前記シェル層は、エステル結合を介して前記コアに結合される。
【0025】
本発明のまた別の実施形態によると、前記シェル層の厚さは、0.1μm~0.8μmである。
【0026】
本発明のまた別の実施形態によると、前記複数のコアシェル粒子の分散性は、1×104粒子/mm2~6×104粒子/mm2である。
【0027】
本発明のまた別の実施形態によると、前記熱可塑性複合材の衝撃強度は、1.1kJ/m2よりも大きい。
【0028】
本発明のまた別の実施形態によると、前記熱可塑性複合材のヤング率は、2.0GPaよりも大きい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の熱可塑性組成物、熱可塑性複合材及び熱可塑性複合材を製造する方法の適用において、ポリマーと、特定の元素含有量を有する酸変性リグニンと、特定のメルトフローインデックス及び特定の無水マイレン酸含有量を有する相溶化剤と、を使用して、熱可塑性複合材を製造する。酸変性リグニンのヒドロキシ基と相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させて、ポリマーとリグニンとの適合性を強化させることで、熱可塑性複合材の機械的強度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本件願書には、カラーで完成された少なくとも1つの図面が添付される。本発明及び実施形態及びそのメリットをより十分に理解することができるように、下記の説明及び加えられた対応する添付図面を参照されたい。注意すべきなのは、全て種類の特性も比例して描かれたものではなく、単に説明するためのものである。添付図面については、下記のように説明する。
【0031】
図1】本発明の実施形態による熱可塑性複合材を製造する方法の流れ図を示す。
図2】本発明の実施形態による熱可塑性複合材の模式図を示す。
図3】本発明の実施例1の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
図4】本発明の実施例2の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
図5】本発明の比較例2の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
図6】本発明の実施例3の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
図7】本発明の実施例4の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
図8】本発明の比較例4の熱可塑性複合材の光学顕微鏡像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態の作成及び使用を詳しく検討する。しかしながら、実施形態は、好適な発明の着想を提供し、その着想は様々な具体的な内容に実施されることができることは理解できる。検討される具体的な実施形態は、単に説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0033】
図1を参照すると、熱可塑性複合材を製造するための方法100において、熱可塑性組成物を提供し、これは操作110として示される。熱可塑性組成物は、ポリマーと、酸変性リグニンと、相溶化剤と、を含む。ポリマーは、極性ポリマー及び/又は非極性ポリマーであってよい。極性ポリマーは、酸基(例えば、アクリル酸基等)を含有するポリマーを含んでよいが、それに限定されなく、また非極性ポリマーは、ポリオレフィンを含んでよいが、それに限定されない。具体的には、ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルメタクリレートからなる群から選ばれる1つ以上である。
【0034】
幾つかの実施形態において、ISO1133によると、ポリマーは、5g/10分間~15g/10分間のメルトフローインデックスを有する。メルトフローインデックスは、ポリマー、酸変性リグニン及び相溶化剤が均一に混合するように促進して、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させることができる。好ましくは、ポリマーのメルトフローインデックスは、8g/10分間~13g/10分間である。
【0035】
酸変性リグニンは、リグニンに対して表面変性を実行してリグニンの表面に酸基を発生させることで得られる。例えば、リグニンの1つの表面におけるヒドロキシ基及び/又はフェノール基は、酸化剤(例えば、P25等)によって亜リン酸基に酸化されることができる。リグニンの表面における酸基は、酸変性リグニンとポリマーとの反応に対する触媒作用を果たすことができ、これについては、後で詳しく検討する。
【0036】
本明細書において、本発明の「機械的強度」の用語とは、「衝撃強度及びヤング率」である。熱可塑性複合材の衝撃強度及びヤング率は、それぞれASTM D256及びASTM D638タイプIVに基づいて測定される。衝撃強度及びヤング率は、それぞれ得られた熱可塑性複合材の強靱性及び剛性を評価することに用いられる。ポリマーが非極性ポリマーである場合、得られた熱可塑性複合材の衝撃強度及びヤング率は、それぞれ3.0kJ/m2を超え、及び3.5Gpaを超える。ポリマーが極性ポリマーである場合、得られた熱可塑性複合材の衝撃強度及びヤング率は、それぞれ1.1kJ/m2を超え、及び3.5Gpaを超える。
【0037】
幾つかの実施形態において、酸変性リグニンの表面における酸基は、リン酸基、硫酸基及び/又は硝酸基を含む。酸変性リグニンの表面における酸基の量は、酸基に含まれる元素の元素含有量として定義されてよい。具体的には、元素は、リン、硫黄及び/又は窒素を含む。また、元素含有量は、X線光電子分光法(XSP)による元素分析によって測定され、且つ酸変性リグニンの100重量%に対して算出されてよい。
【0038】
前記元素含有量は、10重量%~20重量%であり、且つ好ましくは12重量%~16重量%である。元素含有量が10重量%よりも小さくなると、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性が低下して、得られた熱可塑性複合材の機械的強度が低下する。元素含有量が20重量%を超えると、得られた熱可塑性複合材の衝撃強度が強化されるが、そのヤング率が低下する。
【0039】
幾つかの実施形態において、酸変性リグニンの平均粒子径は、0.05μm~10μmであり、且つ好ましくは0.1μm~10μmである。酸変性リグニンの平均粒子径が前記範囲にある場合、酸変性リグニンをポリマー内に均一に分散させることで、得られた熱可塑性複合材の機械的強度を強化させるので好ましい。
【0040】
相溶化剤は、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させることに用いられる。また、相溶化剤は、スチレン、エチレン及びブチレンから作られる無水マイレン酸グラフト共重合体である。無水マイレン酸グラフト共重合体は、MA-SEBSと呼ばれる。詳しくは、相溶化剤の無水マイレン酸基は、酸変性リグニンのヒドロキシ基と反応して、エステル化することができる。エステル化は、酸変性リグニンの表面における酸基により触媒されて、エステル化を原位置で発生させることができる。そのため、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を向上させることで、得られた熱可塑性複合材の機械的強度を強化させることができる。
【0041】
酸基により触媒されるエステル化の過程中、酸基の触媒で無水マイレン酸基の各々を分解させて2つのカルボン酸基を発生させ、且つ2つのカルボン酸基の一方を酸変性リグニンのヒドロキシ基と反応させることでエステル結合を形成する。幾つかの実施形態において、ポリマーがポリメチルメタクリレートを含む場合、無水マイレン酸基から発生した他のカルボン酸基は、親水性部分としてポリメチルメタクリレートの親水基と相互作用することで、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させ、且つ酸変性リグニンをポリマーから形成されたポリマーマトリックスに均一に分散させることができる。ポリメチルメタクリレートの親水基がアクリル酸基を含むので、相溶化剤のカルボン酸基とポリメチルメタクリレートのアクリル酸基との間に水素結合が発生することは認識される。
【0042】
他の実施形態において、ポリマーがポリオレフィンを含む場合、ポリオレフィンは、疎水性のものであり相溶化剤の疎水基と相互作用することで、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させて酸変性リグニンをポリマーから形成されたポリマーマトリックス内に均一に分散させることができる。ポリオレフィンの疎水性部分は、アルキル基及びベンゼン環を含み、且つ相溶化剤のアルキル基とポリオレフィンのアルキル基との間にファンデルワールス力を発生させることは認識される。
【0043】
好適な実施形態において、酸変性リグニンの表面における酸基は、カルボン酸基及び無水マイレン酸基を排除し、その原因は、酸変性リグニンのヒドロキシ基と相溶化剤の無水マイレン酸基とのエステル化を触媒することができないことにある。
【0044】
BAM(ドイツ連邦材料研究及び試験研究所(Bundesanstalt fur Materialforschung und-prufung(furのuにはウムラウトが付されている。und-prufungの二つ目のuにはウムラウトが付されている。))認証、ドイツ連邦材料研究及び試験研究所(Federal Institute for Materials Research and Testing)とも呼ばれる)1026によると、相溶化剤は、1.0重量%~2.5重量%の無水マイレン酸含有量を有し、且つ無水マイレン酸含有量は好ましくは1.2重量%~2.2重量%である。無水マイレン酸含有量が1.0重量%よりも小さくなると、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性が低下して、得られた熱可塑性複合材の機械的強度が低下する。無水マイレン酸含有量が2.5重量%を超えると、ポリメチルメタクリレートにより発生した熱可塑性複合材の衝撃強度が強化されるが、ヤング率が低下し、或いはポリオレフィンにより発生した熱可塑性複合材の機械的強度が低下する。
【0045】
相溶化剤は、20重量%~40重量%のポリスチレン含有量を有し、且つポリスチレン含有量は好ましくは25重量%~35重量%である。ポリスチレン含有量が20重量%よりも小さくなると、ポリオレフィンにより発生した熱可塑性複合材の機械的強度が低下する。ポリスチレン含有量が40重量%を超えると、ポリメチルメタクリレートにより発生した熱可塑性複合材の機械的強度が低下する。
【0046】
相溶化剤は、5kgの負荷で、ASTM D1238によると、230℃で14g/10分間~28g/10分間のメルトフローインデックスを有する。相溶化剤のメルトフローインデックスが前記範囲内にないと、ポリマー、酸変性リグニン及び相溶化剤が均一に混合できないので、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性が低下する。
【0047】
好適な実施形態において、ASTM D1238によると、相溶化剤のメルトフローインデックスは、20g/10分間~23g/10分間であるので、ポリマー、酸変性リグニン及び相溶化剤を均一に混合させて、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させることができる。
【0048】
幾つかの実施形態において、ポリマーの密度と相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1である。前記比率が前記範囲にある場合、ポリマー及び相溶化剤を均一に混合させてポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させることは、有益である。
【0049】
熱可塑性組成物の100重量%に対して、ポリマーの含有量は60重量%~95重量%であり、酸変性リグニンの含有量は3重量%~35重量%であり、且つ相溶化剤の含有量は1重量%~7重量%である。これらの含有量の中の少なくとも一方が前記対応する範囲内にないと、ポリマー、酸変性リグニン及び相溶化剤が均一に混合できなくなるので、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性が低下し、且つ酸変性リグニンがポリマーから形成されたポリマーマトリックス内に均一に分散できない。
【0050】
幾つかの実施形態において、酸変性リグニンの含有量と相溶化剤の含有量との比率は、2.0~6.0である。前記比率が前記範囲にある場合、ポリマー及び相溶化剤を均一に混合させてポリマーと酸変性リグニンとの適合性を強化させることは、有益である。
【0051】
操作110の後で、熱可塑性組成物を160℃~190℃まで加熱し、これは操作120として示される。熱可塑性組成物を160℃よりも低い温度まで加熱すると、ポリマー又は相溶化剤が不完全的に溶融するので、下記のブレンドを実行できなくなる。熱可塑性組成物を190℃よりも高い温度まで加熱すると、ポリマー、酸変性リグニン及び相溶化剤が均一に混合できなくなるので、ポリマーと酸変性リグニンとの適合性が低下し、且つ酸変性リグニンがポリマーから形成されたポリマーマトリックス内に均一に分散できない。
【0052】
操作120の後で、160℃~190℃で熱可塑性組成物を5分間~8分間ブレンドして、熱可塑性複合材を取得し、これは操作130として示される。他の実施形態において、操作120及び操作130を同時に実行してよい。例えば、160℃~190℃まで加熱してから熱可塑性組成物をブレンドし、その後、160℃~190℃を保持しながら5分間~8分間ブレンドする。上記のように、ブレンド時に、酸変性リグニンのヒドロキシ基と相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させる。熱可塑性組成物を前記条件でブレンドしないと、酸変性リグニンのヒドロキシ基及び相溶化剤の無水マイレン酸基がほとんど互いに反応できないので、酸変性リグニンがポリマーから形成されたポリマーマトリックス内に均一に分散できなく、且つ得られたポリマー複合材の機械的強度が低下する。
【0053】
図2に示すように、操作130の後で作成された熱可塑性複合材200は、ポリマーマトリックス210と、前記ポリマーマトリックス210の中に埋め込まれる複数のコアシェル粒子211と、を備える。ポリマーマトリックス210は、前記ポリマーから形成される。
【0054】
コアシェル粒子211は、それぞれコア220と、コア220を被覆するシェル層230と、を含む。詳しくは、コア220は、酸変性リグニンから形成され、且つシェル層230は、相溶化剤から形成される。上記で説明したように、シェル層230が酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置エステル化反応によって発生したエステル結合は、コア220に結合される。
【0055】
コアシェル粒子211の平均粒子径は、0.1μm~11μmである。平均粒子径が前記範囲内にある場合、コアシェル粒子211がポリマーマトリックス210内に容易且つ均一に分散するので、得られた熱可塑性複合材200の機械的強度が更に強化される。
【0056】
幾つかの実施形態において、シェル層230の厚さは、0.1μm~0.8μmであり、且つ好ましくは0.2μm~0.6μmである。シェル層230の厚さが前記範囲内にある場合、シェル層230は、コア220とポリマーマトリックス210の緩衝層として、周囲環境からの衝撃エネルギーを吸収又は伝送することができるので、得られた熱可塑性複合材200の機械的強度が更に強化される。
【0057】
幾つかの実施形態において、コアシェル粒子211の分散性は、1×104粒子/mm2~6×104粒子/mm2であり、且つ好ましくは1.1×104粒子/mm2~5.8×104粒子/mm2である。分散性が前記範囲内にある場合、コアシェル粒子211は、ポリマーマトリックス210内により均一に分散するように、優れた分散性を有するので、得られた熱可塑性複合材200の機械的強度が更に強化される。
【0058】
非極性ポリマーが熱可塑性複合材200の製造に用いられる場合、得られた熱可塑性複合材200は、3.0kJ/m2を超えた衝撃強度及び2.0Gpaを超えたヤング率を有する。極性ポリマーが熱可塑性複合材200の製造に用いられる場合、得られた熱可塑性複合材200は、1.1kJ/m2を超えた衝撃強度及び3.5GPaを超えたヤング率を有する。
【0059】
下記実施例は、本発明の適用を説明するためのものであるが、本発明を制限するものではなく、本発明の精神や範囲から逸脱せずに、当業者であれば、各種の変更や修正を加えることができる。
【0060】
亜リン酸変性リグニンの調製
【0061】
25gのリグニン、15gのP25及びジオキサンを混合させて、78℃まで加熱し、また78℃で8時間も反応させて、製造物を取得した。その後、メタノールで製造物を洗浄して、遠心分離によって純化し、その後、乾燥して亜リン酸変性リグニンを取得した。
【0062】
熱可塑性複合材の製造
【0063】
実施例1.
【0064】
表1に示す熱可塑性組成物に基づいて、熱可塑性組成物を調製し、その後、160℃~190℃まで加熱した。160℃~190℃で、熱可塑性組成物を5分間~8分間ブレンドして、熱可塑性複合材を取得した。ISO1133によると、ポリプロピレンのメルトフローインデックスは、10g/10分間であった。リン酸変性リグニンのリンの元素含有量は、XSPによって確定された14.5重量%であり、且つリン酸変性リグニンの平均粒子径は、0.1μm~10μmであった。相溶化剤は、1.4重量%~2.0重量%の無水マイレン酸含有量、30重量%のポリスチレン含有量及び22g/10分間のメルトフローインデックスを有した。また、ポリマーの密度と相溶化剤の密度との比率は、0.9~1.1であった。熱可塑性複合材において、コアシェル粒子の平均粒子径は0.1μm~11μmであり、シェル層の厚さは0.31μm~0.48μmであり、且つコアシェル粒子の分散性は12589.2粒子/mm2であった。
【0065】
実施例2~4及び比較例1~4
【0066】
実施例1と同じ方法によって熱可塑性組成物を変更することで実施例2~4及び比較例1~4を実施した。表1~2及び図3図8には、実施例1~4及び比較例1~4の具体的な条件及び評価結果が示された。
【0067】
評価方法
【0068】
1.衝撃強度
【0069】
ASTM D256に基づいて熱可塑性複合材の衝撃強度を測定した。
【0070】
2.ヤング率
【0071】
ASTM D638タイプI型に基づいて熱可塑性複合材のヤング率を測定した。
【0072】
3.分散性
【0073】
光学顕微鏡によってコアシェル粒子の熱可塑性複合材のポリマーマトリックスへの分散性を観察し、その後、光学顕微鏡像に基づいて分散性(単位面積あたりのコアシェル粒子の数(mm2))を算出した。ポリマーマトリックスにおける異なる位置で撮影した5つの画像によって取得した分散性を収集して、その平均値及び相対標準偏差(%)の算出に用いた。その相対標準偏差が10%よりも小さくなると、コアシェル粒子は、ポリマーマトリックス内への良好な分散性を有した。
【0074】
4.コアシェル粒子の平均粒子径
【0075】
光学顕微鏡によってコアシェル粒子を観察し、その後、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した画像によって、コアシェル粒子の平均粒子径を確定した。
【0076】
5.シェル層の厚さ
【0077】
電子顕微鏡によってコアシェル粒子のシェル層を観察し、その後、透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影した画像によって、コアシェル粒子のシェル層の厚さを確定した。
【0078】
表1

「不適用」は、コアシェル粒子の分散性の試験を実行していないことを表す。
【0079】
表2

「不適用」は、コアシェル粒子の分散性の試験を実行していないことを表す。
【0080】
表1並びに図3図5を参照すると、比較例1及び比較例2と比べると、ポリプロピレン及び酸変性リグニンで実施例1及び2の熱可塑性複合材を製造して、コアシェル粒子を得られた熱可塑性複合材のポリマーマトリックス内に均一に分散させた。実施例1及び2のコアシェル粒子のポリマーマトリックスへの分散性は、それぞれ12589.2粒子/mm2及び56227.7粒子/mm2であった。また、赤い矢印は、図5におけるリグニンにより形成されたコアの集合体を示す。そのため、酸変性リグニンは、非極性ポリマーとリグニンとの適合性を強化させ、得られた熱可塑性複合材の機械的強度を向上させることができる。
【0081】
次に、表2並びに図6図8を参照すると、比較例3及び比較例4と比べると、ポリメチルメタクリレート及び酸変性リグニンで実施例3及び比較例4の熱可塑性複合材を製造して、コアシェル粒子を得られた熱可塑性複合材のポリマーマトリックス内に均一に分散させた。そのため、酸変性リグニンは、極性ポリマーとリグニンとの適合性を強化させ、得られた熱可塑性複合材の機械的強度を向上させることができる。
【0082】
上記をまとめると、熱可塑性組成物、熱可塑性複合材、及び前記熱可塑性複合材を製造する方法の適用において、ポリマーと、特定の元素含有量の特定元素を有する酸変性リグニンと、特定のメルトフローインデックス及び特定の無水マイレン酸含有量を有する相溶化剤と、を使用して、熱可塑性複合材を製造する。酸変性リグニンのヒドロキシ基と相溶化剤の無水マイレン酸基とが反応して、酸変性リグニンの酸基により触媒される原位置反応によってエステル結合を発生させて、極性及び非極性ポリマーとリグニンとの適合性を強化させ、熱可塑性複合材の機械的強度を向上させる。
【0083】
以上、本発明は、上記実施形態に限定される物ではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。本発明の精神や範囲から逸脱せずに、当業者であれば、本発明に各種の変更及び修正を加えることができる。そのため、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって限定されるべきである。
【符号の説明】
【0084】
無し
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8