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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082719
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】睡眠改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20230608BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20230608BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P25/20
A61P25/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196575
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001029
【氏名又は名称】協和キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】岡 雄一
(72)【発明者】
【氏名】石内 雅丈
(72)【発明者】
【氏名】菅野 亮
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者の睡眠(特に、夜間の睡眠障害)を改善させる薬剤などを提供すること。
【解決手段】下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する睡眠改善剤であって、睡眠改善が夜間の睡眠障害の改善であり、シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与される睡眠改善剤。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する睡眠改善剤であって、睡眠改善が夜間の睡眠障害の改善であり、シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与される、前記睡眠改善剤。
【化1】
【請求項2】
シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者がパーキンソン病患者である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
パーキンソン病患者がドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者である、請求項2に記載の剤。
【請求項4】
パーキンソン病患者がドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者である、請求項2に記載の剤。
【請求項5】
ドパミン補充療法がレボドパ含有製剤の投与である請求項3または4に記載の剤。
【請求項6】
1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の剤。
【請求項7】
1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
1日1回投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の剤。
【請求項9】
経口投与用である、請求項1~8のいずれか一項に記載の剤。
【請求項10】
下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量をシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与する工程を含み、前記患者における夜間の睡眠障害を改善させる、睡眠改善方法。
【化2】
【請求項11】
シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与されることを特徴とする、夜間の睡眠改善に使用するための、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
【化3】
【請求項12】
睡眠改善剤の製造における、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用であって、睡眠改善がシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者における夜間の睡眠障害の改善である、前記使用。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠(特に、夜間の睡眠障害)を改善させる薬剤及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
式(I)で表される化合物(N-[4-(フラン-2-イル)-5-(オキサン-4-カルボニル)-1,3-チアゾール-2-イル]-6-メチルピリジン-3-カルボキシアミド)は、アデノシンA2A受容体に対し親和性を有し、パーキンソン病の治療効果を有することが知られている(特許文献1)。また、この化合物は、運動障害の治療および/または予防剤として有用であることが知られている(特許文献2)さらに、この化合物は、非臨床試験において覚醒作用が確認され、覚醒作用による改善が期待される過眠症や概日リズム性睡眠障害などの睡眠障害に有用であることが知られている(特許文献3)。加えて、この化合物を健康成人に投与した臨床試験においては、不眠の有害事象が頻発したことが知られている(特許文献4)。
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/063743号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2010/126082号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2007/015528号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2016/087429号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、例えばパーキンソン病などシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者の睡眠(特に、夜間の睡眠障害)を改善させる薬剤などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] 下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する睡眠改善剤であって、睡眠改善が夜間の睡眠障害の改善であり、シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与される、前記睡眠改善剤。
【化2】
[2] シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者がパーキンソン病患者である、[1]に記載の剤。
[3] パーキンソン病患者がドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者である、[2]に記載の剤。
[4] パーキンソン病患者がドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者である、[2]に記載の剤。
[5] ドパミン補充療法がレボドパ含有製剤の投与である[3]または[4]に記載の剤。
[6] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の剤。
[7] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の剤。
[8] 1日1回投与される、[1]~[7]のいずれかに記載の剤。
[9] 経口投与用である、[1]~[8]のいずれかに記載の剤。
【0006】
第2の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] 下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量をシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与する工程を含み、前記患者における夜間の睡眠障害を改善させる、睡眠改善方法。
【化3】
[2] シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者がパーキンソン病患者である、[1]に記載の方法。
[3] パーキンソン病患者がドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者である、[2]に記載の方法。
[4] パーキンソン病患者がドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者である、[2]に記載の方法。
[5] ドパミン補充療法がレボドパ含有製剤の投与である[3]または[4]に記載の方法。
[6] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で前記患者に投与する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で前記患者に投与する、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[8] 化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を1日1回前記患者に投与する、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を経口投与する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【0007】
第3の実施形態において、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与されることを特徴とする、夜間の睡眠改善に使用するための、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩。
【化4】
[2] シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者がパーキンソン病患者である、[1]に記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[3] パーキンソン病患者がドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者であることを特徴とする、[2]に記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[4] パーキンソン病患者がドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者であることを特徴とする、[2]に記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[5] ドパミン補充療法がレボドパ含有製剤の投与であることを特徴とする、[3]または[4]に記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[6] 1日あたり、3~6mg用量で投与されることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[7] 1日あたり、6mg用量で投与されることを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[8] 1日1回投与されることを特徴とする、[1]~[7]のいずれかに記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
[9] 経口投与されることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載の使用のための化合物又はその薬学的に許容される塩。
【0008】
第4の実施形態において、本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
[1] 睡眠改善剤の製造における、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用であって、睡眠改善がシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者における夜間の睡眠障害の改善である、前記使用。
【化5】
[2] シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者がパーキンソン病患者である、[1]に記載の使用。
[3] パーキンソン病患者がドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者である、[2]に記載の使用。
[4] パーキンソン病患者がドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者である、[2]に記載の使用。
[5] ドパミン補充療法がレボドパ含有製剤の投与である、[3]または[4]に記載の使用。
[6] 睡眠改善剤が、1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、3~6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の使用。
[7] 睡眠改善剤が、1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として、6mg用量で投与される、[1]~[5]のいずれかに記載の使用。
[8] 睡眠改善剤が1日1回投与される、[1]~[7]のいずれかに記載の使用。
[9] 睡眠改善剤が経口投与用である、[1]~[8]のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、下記式で示される化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者のための、睡眠改善剤及びこれを用いた睡眠改善方法が提供される。
【化6】
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、Week12時点におけるPDSS-2合計スコアのWeek0時点からの変化量を示す。左から、プラセボ群(n=52)、化合物(I)3mg/日群(n=50)、化合物(I)6mg/日群(n=54)。数値は、最小二乗平均値で表示。
図2図2は、Week26時点におけるPDSS-2合計スコアのWeek2時点からの変化量を示す。左から、プラセボ群(n=145)、化合物(I)3mg/日群(n=141)、化合物(I)6mg/日群(n=151)。数値は、最小二乗平均値で表示。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、上記式(I)で示される化合物(N-[4-(フラン-2-イル)-5-(オキサン-4-カルボニル)-1,3-チアゾール-2-イル]-6-メチルピリジン-3-カルボキシアミド)を化合物(I)と記載する。
【0012】
化合物(I)の薬学的に許容される塩は、例えば薬学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩などを包含する。化合物(I)の薬学的に許容される酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩などがあげられ、薬学的に許容される金属塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩などがあげられ、薬学的に許容されるアンモニウム塩としては、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩があげられ、薬学的に許容される有機アミン付加塩としては、例えばモルホリン、ピペリジンなどの付加塩があげられ、薬学的に許容されるアミノ酸付加塩としては、例えばリジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの付加塩があげられる。
【0013】
本発明で用いられる化合物(I)は、例えばWO2005/063743の実施例504に記載の方法により製造することができる。
【0014】
化合物(I)の塩を取得したいとき、化合物(I)が塩の形で得られるときはそのまま精製すればよく、また、遊離の形で得られるときは、化合物(I)を適当な溶媒に溶解または懸濁し、酸または塩基を加えて塩を形成させて単離、精製すればよい。
【0015】
また、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、水または各種溶媒との付加物の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明に使用することができる。
【0016】
化合物(I)またはその薬学的に許容される塩は、アデノシンA2A受容体拮抗作用を有するチアゾール誘導体であり、運動障害の治療および/または予防剤、パーキンソン病の治療および/または予防剤、昼間の眠気や過眠など覚醒作用により、その改善が期待される睡眠障害に対して有用なことが知られている(前掲WO2005/063743、WO2007/015528、WO2010/126082など)。
【0017】
本発明は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、夜間の睡眠障害を改善するために使用する。夜間の睡眠障害としては、例えば、不眠、寝つきが悪い(入眠障害)、眠りが浅い(浅睡眠、熟眠障害)、途中で目が覚める(中途覚醒、断続的睡眠)、朝早く目が覚める(早朝覚醒)、レム期睡眠行動異常症などを挙げることができる。
【0018】
睡眠に関する公知の用途は、過眠症(ナルコレプシ一、反復性過眠症(周期性過眠症)、突発性過眠症、外傷性過眠症)、概日リズム性睡眠障害など、化合物(I)の覚醒作用によりその改善が期待される睡眠障害であり、覚醒作用による改善が期待できず、逆に悪化させることが想定される夜間の睡眠障害とは明確に区別される。
【0019】
本発明の睡眠改善剤は、夜間の睡眠障害を有するか、予想される対象に投与できる。例えば、本発明の睡眠改善剤はシヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者に投与される。シヌクレイノパチーに関連した疾患とは、神経細胞またはグリア細胞におけるα-シヌクレインの異常な凝集体の蓄積を特徴とする神経変性疾患であり、具体的には、例えばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症(例えばオリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症、シャイ・ドレーガー症候群)などがあげられる。
【0020】
好ましくは、本発明の睡眠改善剤はパーキンソン病患者に投与される。パーキンソン病は、年齢とともに徐々に進行する神経変性疾患である。特徴的な症状は、例えば安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害等であり、これらはパーキンソン病の4大症状といわれる。病理学的には、錐体外路系の一部である黒質から線条体へ投射するドパミン性神経細胞の変性・脱落およびレビー小体の出現が見られ、線条体ドパミン含量の顕著な低下が認められる。パーキンソン病患者では、運動障害に加えて、ときどき睡眠障害が認められることが知られている。本発明はそのようなパーキンソン病患者の睡眠障害、とくに夜間の睡眠障害の改善に有用である。
【0021】
対象となるパーキンソン病患者は特に限定されず、ドパミン補充療法を継続的に受けていない患者にも、ドパミン補充療法で治療中の患者にも使用できる。
【0022】
「ドパミン補充療法」とは、不足しているドパミンを補う治療方法であって、レボドパ含有製剤による治療のほか、レボドパのプロドラッグや、ドパミンの補充につながるドパミンアゴニスト、MAO-B(モノアミン酸化酵素B)阻害剤、COMT(カテコール-O-メチル転移酵素)阻害剤、抗コリン剤、ドパミン放出促進剤(アマンタジンなど)、ゾニサミドによる処置等による治療も含まれる。
【0023】
「レボドパ含有製剤」は、レボドパまたはその塩、水和物を有効成分として含有している医薬組成物であれば、特に限定されない。例えば、レボドパのみを有効成分として含有する製剤のほか、末梢におけるドーパ脱炭酸酵素阻害剤であるカルビドパまたはベンセラジドとの2剤の合剤、さらに前記2剤に末梢でのカテコール-O-メチル転移酵素阻害剤であるエンタカポンを加えた3剤の合剤なども「レボドパ含有製剤」に包含される。市販の「レボドパ含有製剤」としては、例えば、メネシット(登録商標)、イーシードパール(登録商標)、ドパール(登録商標)、マドパー(登録商標)、ドパストン(登録商標)、ドパゾール(登録商標)、カルコーパ(登録商標)、ドパコール(登録商標)、ネオドパストン(登録商標)、パーキストン(登録商標)、レプリントン(登録商標)、デュオドーパ(登録商標)、スタレボ(登録商標)、ネオドパゾール(登録商標)、Sinemet(登録商標)、Parcopa(登録商標)、Stalevo(登録商標)、Rytary(登録商標)、Duopa(登録商標)などがあげられる。
【0024】
「レボドパのプロドラッグ」としては、開発中のXP21279(XenoPort社)などが挙げられる。
【0025】
「ドパミンアゴニスト」としては、カベルゴリン、ペルゴリド、ブロモクリプチン、プラミペキソール、ロピニロール、タリペキソールなどが挙げられる。「MAO-B阻害剤」としては、セレギリン、ラサギリン、サフィナミドなどが挙げられる。「COMT阻害剤」としては、エンタカポン、トルカポン、オピカポンなどが挙げられる。「抗コリン剤」としては、トリヘキシフェニジル、ビペリデン、プロフェナミン、メチキセン、プロメタジンなどが挙げられる。
【0026】
本発明において、「ドパミン補充療法」は、典型的には「レボドパ含有製剤」の投与である。
【0027】
本発明の睡眠改善剤の用法用量は、対象の症状や年齢等に応じて適宜決定される。例えば、本発明の睡眠改善剤は、1日あたり、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として3mg~6mg用量で対象(例えば、上記パーキンソン病患者等)に投与される。好ましくは、本発明の睡眠改善剤は、1日あたり3mgまたは6mg用量、より好ましくは1日あたり6mg用量で対象に投与される。
【0028】
本発明の睡眠改善剤は、上記用量で投与される限り、複数回に分けて投与されてもよいし、1回で投与されてもよい。好ましくは、本発明の睡眠改善剤は、1日1回投与される。
【0029】
本発明の睡眠改善剤は、レボドパ含有製剤などのドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者に使用される場合、ドパミン補充療法と同時に使用されてもよいし、時間を置いて別々に使用されてもよい。
【0030】
本発明の睡眠改善剤は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される一種またはそれ以上の担体(例えば、希釈剤、溶剤、賦形剤など)と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。投与経路や投与形態は特に限定されない。
【0031】
本発明の睡眠改善剤は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を単独の有効成分として含んでもよいし、任意の他の治療のための有効成分との組み合わせて(配合して)含んでもよい。好ましくは、本発明の睡眠改善剤は化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を単独の有効成分として含有する。
【0032】
投与経路としては、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば静脈内、経皮などの非経口投与をあげることができる。好ましくは、本発明の医薬組成物は経口投与され、投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤などがあげられる。
【0033】
錠剤やカプセル剤は、乳糖などの賦形剤、澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤などを用いて製造できる。
【0034】
注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合液などの希釈剤または溶剤などを用いて製造できる。外用剤としては、例えば軟膏剤、クリーム剤、リニメント剤、ローション剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤などがあげられる。適当な基剤に活性成分を溶解または混合分散して製造できる。
【0035】
本発明の睡眠改善剤は、本発明の目的に反しない範囲で、他の医薬組成物や治療と組み合わせて使用(併用)されてもよい。
【0036】
本発明の睡眠改善剤と組み合わせて用いられる他の医薬組成物や他の有効成分としては、例えば、レボドパ含有製剤、ドパミンアゴニスト、COMT阻害剤(例えば、エンタカポン、トルカポン、オピカポンなど)、MAO-B阻害剤(例えば、セレギリン、ラサジリン、サフィナミドなど)などがあげられる。
【0037】
本発明の睡眠改善剤は、1日1回投与される場合、1回分の製剤に3~6mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有する。例えば、1錠あるいは1カプセル中に、3mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含む錠剤またはカプセル剤とし、これを1日1回1または2(錠/カプセル)服用する。あるいは、1錠中に1.5mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を、薬学的に許容される担体とともに含有する錠剤またはカプセル剤とし、これを1日1回2または4(錠/カプセル)服用する。1錠または1カプセル中に、1mgや6mgの化合物(I)またはその薬学的に許容される塩を含有する製剤や他の投与形態の場合も同様である。
【0038】
本発明の睡眠改善剤は、上述した用法用量、例えば、「レボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者に、1日あたり3~6mg用量で投与される」などの表示(添付文書やパッケージ)とともに製品化される。
【0039】
本発明の睡眠改善剤で処置することにより、処置しないときと比較して夜間の睡眠が改善される。例えば、パーキンソン病患者の場合であれば、睡眠評価尺度であるJapanese version of the Parkinson's disease sleep scale-2(PDSS-2)の合計スコアが、「本発明の睡眠改善剤で処置しないとき」に比較して改善する。具体的に言えば、「本発明の睡眠改善剤で処置しないとき」に比較して、本剤1日あたり3mgまたは6mgを過去にレボドパ含有製剤などによる治療を継続的に受けていないパーキンソン病患者に対して12週間投与することにより少なくとも0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1点以上、レボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者に対して24週間投与することにより少なくとも0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4または1.5点以上、PDSS-2合計スコアが改善する。なお、「本発明の睡眠改善剤で処置しないとき」には、例えば、後述する臨床試験などにおいて、プラセボを投与した場合も含む。
【0040】
本発明は、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の有効量を対象に投与する工程を含み、前記対象における夜間の睡眠障害を改善させる、睡眠改善方法も提供する。本発明はまた、パーキンソン病における睡眠障害、特に夜間の睡眠障害を改善する方法も提供する。本発明の方法は、過去にレボドパ含有製剤などによる治療を継続的に受けていないパーキンソン病患者やレボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者にも好適に利用できる。
【0041】
本発明は、睡眠改善剤の製造における、化合物(I)またはその薬学的に許容される塩の使用であって、睡眠改善が対象における夜間の睡眠障害の改善である、前記使用も提供する。
【0042】
本発明の睡眠改善剤において記載した事項は、特記しない限り、上記方法や使用にもそのまま適用される。
【実施例0043】
以下に、化合物(I)の代表的な薬理作用について実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されることはない。
【0044】
[実施例1]ドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者を対象とした臨床試験
ドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者を対象とした臨床試験の方法及び結果を以下に示す。
【0045】
(1.試験方法)
(1-1)対象:
ドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者
(1-2)治験デザイン:
多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験
(1-3)投与量:
化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを1日1回
【0046】
(1-4)投与製剤:
化合物(I)を有効成分として、それぞれ3mgまたは6mg含有するカプセル製剤
(1-5)投与方法・投与期間:
朝食後に化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを二重盲検下で12週間経口投与した(被験者が朝食を摂らない場合には、朝に投与した)。
【0047】
(1-6)治験デザインの概略(Study Schema):
【0048】
【表1】
【0049】
(1-7)対象患者選択基準:
以下の表2の通り
【0050】
【表2】
【0051】
(1-8)本試験の被験者内訳:
以下の表3の通りであるが、登録された168名の被験者のうち、化合物(I)3mg投与群に55名、化合物(I)6mg投与群に58名、プラセボ群に55名が割り付けられた。
【0052】
【表3】
【0053】
(1-9)評価方法:
本試験に参加した被験者について、パーキンソン病の睡眠評価尺度であるJapanese version of the Parkinson's disease sleep scale-2(PDSS-2)スコアを投与直前(Week 0)から経時的に測定した。PDSS-2は、パーキンソン病に関連する夜間症状に注目して作成された15項目からなる問診票であり、治験担当医師による患者への聞き取りによって各項目のスコアが判定された。
【0054】
(1-10)統計解析方法:
評価指標(PDSS-2)に対する結果を得るために行った統計解析の手法について以下に説明する。
応答変数:各時点におけるPDSS-2スコアの変化量、説明変数:治療群、Week 0のPDSS-2スコア、時点、治療群と時点の交互作用として、Mixed Model for Repeated Measures (MMRM)を行った。Week 12の最小2乗平均値について、MMRMの下で各化合物(I)投与群とプラセボ群との差についてt検定を実施した。用量間及び評価項目間の多重性は考慮していないため、検証的な判断は行わなかった。
【0055】
(2.試験結果)
Week 12 時点におけるPDSS-2合計スコアのWeek 0時点(治験薬投与前)からの変化量の最小二乗平均値(95%信頼区間)は、プラセボ群(n=52)で0.11 (-1.14, 1.36)、化合物(I)3mg投与群(n=50)で-0.77 (-2.04, 0.50)、化合物(I)6mg投与群(n=54)で-1.05 (-2.28, 0.17)であった(図1)。またプラセボ群との差は、それぞれ化合物(I)3mg投与群で-0.88 (-2.66, -0.90; p=0.331)、化合物(I)6mg投与群で-1.17 (-2.92, 0.58; p=0.190)であり、その差は化合物(I)6mg投与群の方が化合物(I)3mg投与群よりも大きかった(図1)。
【0056】
以上の結果から、化合物(I)を、ドパミン補充療法を継続的に受けていないパーキンソン病患者に投与することで、該患者の睡眠(特に、夜間の睡眠障害)を改善させることができることを確認した。
【0057】
[実施例2]ドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者を対象とした臨床試験
ドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者を対象とした臨床試験の方法及び結果を以下に示す。
【0058】
(1.試験方法)
(1-1)対象:
レボドパ含有製剤で治療中のパーキンソン病患者
(1-2)治験デザイン:
多施設共同ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験
(1-3)投与量:
化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを1日1回
(1-4)投与製剤:
化合物(I)を有効成分として、それぞれ3mgまたは6mg含有する錠剤
【0059】
(1-5)投与方法・投与期間:
以下の方法により、単盲検期、二重盲検期の順で投与した。
単盲検期:朝食後にプラセボを単盲検下で2週間経口投与した(被験者が朝食を摂らない場合には、朝に投与した)。
二重盲検期:朝食後に化合物(I)3mg、化合物(I)6mgまたはプラセボを二重盲検下で24週間経口投与した(被験者が朝食を摂らない場合には、朝に投与した)。
【0060】
(1-6)治験デザインの概略(Study Schema)
【0061】
【表4】
【0062】
(1-7)対象患者選択基準:
以下の表5の通り
【0063】
【表5】
【0064】
(1-8)本試験の被験者内訳:
以下の表6の通りであるが、2次登録された502名の被験者のうち、化合物(I)3mg投与群に168名、化合物(I)6mg投与群に167名、プラセボ群に167名が割り付けられた。このうち、化合物(I)6mg投与群に割り付けられた1名を除く501名が有効性の主たる解析対象とされた。
【0065】
【表6】
【0066】
(1-9)評価方法:
本試験に参加した被験者について、パーキンソン病の睡眠評価尺度であるJapanese version of the Parkinson's disease sleep scale-2(PDSS-2)スコアを投与直前(Week 0)から経時的に測定した。PDSS-2は、パーキンソン病に関連する夜間症状に注目して作成された15項目からなる問診票であり、治験担当医師による患者への聞き取りによって各項目のスコアが判定された。
【0067】
(1-10)統計解析方法:
評価指標(PDSS-2)に対する結果を得るために行った統計解析の手法について以下に説明する。
【0068】
応答変数:各時点におけるPDSS-2スコアの変化量、説明変数:治療群、2次登録時のPDSS-2スコア、時点、Week 0時の平均オフ時間カテゴリ(< 2時間、>= 2時間)、治療群と時点の交互作用として、Mixed Model for Repeated Measures (MMRM)を行った。Week 26の最小2乗平均値について、MMRMの下で各化合物(I)投与群とプラセボ群との差についてt検定を実施した。用量間及び評価項目間の多重性は考慮していないため、検証的な判断は行わなかった。
【0069】
(2.試験結果)
Week 26時点におけるPDSS-2合計スコアのWeek 2時点(治験薬投与前)からの変化量の最小二乗平均値(95%信頼区間)は、プラセボ群(n=145)で1.05 (0.09, 2.01)、化合物(I)3mg投与群(n=141)で0.91 (-0.06, 1.88)、化合物(I)6mg投与群(n=151)で-0.59 (-1.54, 0.37)であった(図2)。またプラセボ群との差は、それぞれ化合物(I)3mg投与群で-0.14 (-1.51, 1.23; p=0.840)、化合物(I)6mg投与群で-1.64 (-2.99, -0.28; p=0.018)であり、化合物(I)6mg投与群においてプラセボ群よりも、PDSS-2合計スコアの改善傾向を認めた(図2)。
【0070】
以上の結果から、化合物(I)をドパミン補充療法で治療中のパーキンソン病患者に投与することで、該患者の睡眠(特に、夜間の睡眠障害)を改善させることができることを確認した。
【0071】
[実施例3]シヌクレイノパチーモデル動物を用いた睡眠改善効果確認試験
文献(Movement Disorders,2021 Feb 6. doi: 10.1002/mds.28512.;Acta Neuropathologica Communications,2,p.88(2014))を参考に、シヌクレイノパチーに関連した疾患の動物モデルを作製し、睡眠改善効果を検証する。
【0072】
<モデル作製>
線維化させたマウス野生型αシヌクレイン蛋白を5 mg/mLとなるようにリン酸緩衝生理食塩水を加えて溶解し、ウォーターバス型ソニケーターを用いて6分間ソニケーションする。これをPFF(preformed fibrils)溶液とする。
【0073】
モデル動物の作製には、2-4か月齢の雄性ヘテロ接合型A53T BAC-SNCAトランスジェニックマウスを使用する。ペントバルビタール麻酔下でマウスを脳定位固定装置に固定し、33ゲージのニューロシリンジ(ハミルトン)を用いて、マウスの両側嗅球(ブレグマから前方へ4.5 mm、左右へ1.0 mm、深さ2.0 mm)又は両側線条体(ブレグマから前方へ0.2 mm、左右へ2.0 mm、深さ3.0 mm)へ適量(1-4 μL)のPFFを注入し、睡眠障害を惹起する(PFF処置群)。偽処置群には同様の手法でαシヌクレインを含まないリン酸緩衝生理食塩水を注入する。
【0074】
<睡眠障害の評価>
一定期間後、小動物用睡眠・覚醒計測システム(PiezoSleep)を用いてモデル動物の休息期における睡眠障害を評価する。睡眠障害が惹起されていることを確認した後、化合物(I)(0.5 w/v% MC水溶液に懸濁し、投与日のマウスの体重100 gあたり0.5 mL投与となるように調製したもの)又は試験化合物を含まない溶媒(0.5 w/v% MC水溶液)を投与日のマウスの体重100 gあたり0.5 mL経口投与する。投与後の休息期における睡眠・覚醒パラメーターを計測し、化合物(I)の睡眠改善効果を評価する。
【0075】
上記試験により、化合物(I)がシヌクレイノパチーに関連した疾患の睡眠改善効果を有することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、シヌクレイノパチーに関連した疾患を有する患者(特に、パーキンソン病患者)などにおける夜間の睡眠障害の改善に有用である。
【0077】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
図1
図2