(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082732
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】新規攪拌デバイス
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20230608BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230608BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20230608BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20230608BHJP
B01F 27/00 20220101ALI20230608BHJP
B01F 33/45 20220101ALI20230608BHJP
B01F 29/00 20220101ALI20230608BHJP
C07C 15/14 20060101ALN20230608BHJP
C07C 1/32 20060101ALN20230608BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
B01J19/18
B01J37/02 101D
B01J23/46 311Z
B01J23/44 Z
B01F7/00 Z
B01F13/08 Z
B01F9/00
C07C15/14
C07C1/32
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196603
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(72)【発明者】
【氏名】大高 敦
(72)【発明者】
【氏名】五丁 龍志
(72)【発明者】
【氏名】木下 和可子
【テーマコード(参考)】
4G036
4G075
4G078
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G036AA01
4G036AA21
4G036AC22
4G075AA13
4G075BA10
4G075CA54
4G075EB01
4G075EC11
4G075ED02
4G075ED04
4G075ED08
4G075FA12
4G075FB02
4G075FB12
4G078EA20
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA11
4G169BA22A
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BE34A
4G169CB25
4G169CB59
4G169CB66
4G169DA05
4G169FB19
4H006AA02
4H006AC24
4H006BA24
4H006BA25
4H006BB14
4H006BD81
4H039CA41
4H039CD20
(57)【要約】
【課題】稀少な金属触媒を使い捨てることなく、触媒反応への使用をした後、回収と再利用を容易とし、効率的に活用できるデバイスを提供する。
【解決手段】触媒を利用した化学合成の際に使用する攪拌デバイスの表面に、複数の金属触媒(遷移金属)を担持させて調製した攪拌デバイスを使用することで、触媒がデバイスから遊離して失われづらく、繰り返し利用しても触媒作用を維持したデバイスとすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジウム及びパラジウムを担持させた攪拌デバイス。
【請求項2】
テフロン(登録商標)加工が施されたデバイスに、ロジウム及びパラジウムを担持させた攪拌デバイス。
【請求項3】
ロジウムを担持させた後にパラジウムを担持させることを特徴とする攪拌デバイスの製造方法。
【請求項4】
パラジウムを担持させた後に、ロジウムを担持させ、その後さらにパラジウムを担持させることを特徴とする攪拌デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒中における化学反応の触媒の効率的利用に関するものである。より具体的に言えば、触媒を担持させた攪拌デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属触媒は稀少な金属が多く、例えば水系の合成で使用されるパラジウムやロジウムなども例外ではない。これらの金属それ自体は生態に対する毒性を有するものも多く、有機合成に際しても使用量及び消費量は極力抑制したいというニーズがある。
【0003】
従来、触媒反応に用いるためのパラジウムは溶液の状態として使用し、回収して再使用することが困難だった。
【0004】
また、溶液の攪拌に用いる実験器具に、触媒であるパラジウムがナノ粒子の状態で物理吸着し、酸性溶液できちんと洗浄せずに次の反応に用いるとその物理吸着したパラジウムが反応してしまうことが注意喚起されている(非特許文献1参照)。
さらに、強磁性金属の微粒子の集まりと非強磁性金属の微粒子の集まりが担持した担体の作成、磁気による担体からの引きはがしと個別回収方法の技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ACS Catal. 2019, 9, 3070-3081:Evgeniy O. Pentsak et.al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、金属触媒の毒性、希少性の問題から使用した触媒を反応系から回収し、再利用することに対する期待が大きく、殊に稀少金属触媒(パラジウム)の回収・再利用については大いに期待されていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題に接し、本発明の発明者らは固相に稀少金属触媒を担持させると共に、担持させた固相に対してさらに別の稀少金属触媒を担持させることで、稀少金属触媒の再利用を効率的に実現できることを確認した。すなわち本発明は下記の通りである。
(1)ロジウム及びパラジウムを担持させた攪拌デバイス。
(2)テフロン(登録商標)加工が施されたデバイスに、ロジウム及びパラジウムを担持させた攪拌デバイス。
(3)ロジウムを担持させた後にパラジウムを担持させることを特徴とする攪拌デバイスの製造方法。
(4)パラジウムを担持させた後に、ロジウムを担持させ、その後さらにパラジウムを担持させることを特徴とする攪拌デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
一般的に高価な金属触媒(パラジウム)の使用量を減少させることができ、コストの削減につながる。実験・ロット毎に触媒を入れなくて済み、反応に用いる器具に固定された触媒を繰り返し使用することができるためである。
これはテフロン(登録商標)加工されたものであれば何でも使用できるため、既存の実験・製造設備への利用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】檜山カップリング反応の概要を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明攪拌デバイスは、触媒反応を用いた化学合成に際して使用される、反応槽内を攪拌することができるデバイスである限りにおいて、その形状・形態は限定されない。
【0012】
かかるデバイスの例としては、内壁に凹凸や翼状構造を設けるとともに槽全体が回動して内部の反応液を攪拌する機能を有する反応槽、スターラーに代表される槽の内部でモーター等からの動力により回転運動して反応液を攪拌する攪拌子、反応槽内部に回動可能に固定され、モーター等からの動力により自転又はさらに公転を組み合わせた回転翼等が挙げられ、反応槽内の反応液を攪拌することができるデバイスである限りにおいて特に限定はされない。その中でも、触媒の固定処理が容易に可能な攪拌子は特に好ましい例としてあげられる。
【0013】
かかる本発明攪拌デバイスは、反応液と接触する部分の少なくとも一部分に複数の触媒が固定されていることを特徴とする。
【0014】
固定される触媒は、遷移金属触媒であり、第一遷移金属(たとえば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛など)であっても第二遷移金属(イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、パラジウム、銀など)、第三遷移金属(たとえばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、ハフニウム、タンタルなど)、第四遷移金属(たとえばアクチニウム、レントゲニウムなど)であっても使用でき、遷移金属錯体を介した触媒反応を用いる対象となる反応に応じて使い分けることができる。
【0015】
その中でも特に、同じ電子配位を有する遷移金属が複数固定されていることが好ましく、特に応用幅の広さから第二遷移金属が好ましく、特にロジウム及びパラジウムを含む複数の遷移金属触媒を使用することが好ましく、特にロジウム及びパラジウムの使用がさらに好ましい。
【0016】
このように遷移金属触媒のデバイスへの固定方法は、化学反応を行う環境(温度環境やpH環境など)により触媒の遊離が起こりづらい安定した固定方法が好ましく、例えば微細凹凸加工されたデバイスの表面への物理的な吸着固定、デバイスの表面を事前にフッ素樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンなど)でコーティングした上での吸着固定、デバイスの表面に放射線を照射してラジカルを生じさせて結合させる放射線グラフト従業による固定など、既存の固定技術を用いて固定することができる。
【0017】
その中でも安定性の面から、フッ素樹脂(特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい)で表面を覆ったデバイスに対して遷移金属を吸着させることが好ましい。
【0018】
複数の遷移金属を固定する場合には、それぞれの遷移金属毎に固定することが好ましく、また他の遷移金属を固定した後に、再度、固定済みの遷移金属をさらに固定することも可能である。
【0019】
例えば、檜山カップリングに使用するためのデバイスとしては、最初にフッ素加工したデバイスにロジウムを固定し、その後にパラジウムを固定した、二層固定型のデバイスや、最初にフッ素加工したデバイスにパラジウムを固定し、その後にロジウムを固定し、さらにパラジウムを固定した三層固定型のデバイスを用いることができる。
【0020】
複数の金属触媒(ロジウム及びパラジウム)を本発明デバイス(製造装置や製造器具)に固着させて使用することにより、使用に際しての金属触媒の溶融率を制御し、また反応後の回収率を向上することができる。
【実施例0021】
<1.パラジウム・ロジウムを固定した攪拌子の調製>
サンプル管に、予めポリテトラフルオロエチレンでコートされた撹拌子(マグネティックスターラー)を入れ、酢酸パラジウム、フェニルボロン酸、および1.5 Mの水酸化カリウム水溶液を入れ、80℃で1時間加熱攪拌した。攪拌後、洗浄処理として、撹拌子をサンプル管より取り出し、アセトンで洗浄しプロワイプでふき取る作業を数回行った。このようにパラジウムを固定した攪拌子に、ロジウムを固定した。
【0022】
ロジウムの固定は、サンプル管に撹拌子、塩化ロジウム、水を入れ、室温で撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウムのメタノール溶液を滴下し、滴下後そのまま1時間攪拌した。その後、撹拌子をサンプル管より取り出し、アセトンで洗浄しプロワイプでふき取る作業を数回行った。ロジウムを固定した撹拌子に再度上記の方法によりパラジウムを固定化した。
【0023】
金属を固定した撹拌子を希塩酸に入れ、金属種を溶解させた後、ICP測定によって水溶液中の金属量を定量し、撹拌子にパラジウムが担持していることを確認した。
【0024】
<2.パラジウム・ロジウムを固定した攪拌子の触媒機能の確認>
1.で調製した撹拌子を、檜山カップリング反応(ArBr, PhSi(OMe)3, KF, プロピレングリコール, 100℃, 24 h)と鈴木カップリング反応(PhBr, ArB(OH)2, TBAB, KOHaq, 80℃, 24 h)の2つの化学反応に用いて触媒機能を確認した。その後、それぞれ1回の反応で定性・定量分析によって撹拌子に固定されているパラジウムとロジウムを分析する。
【0025】
定性・定量分析の方法は以下である。金属を固定した撹拌子表面をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察した。金属粒子をEDX測定することにより、元素を特定した。
【0026】
<3.檜山カップリング反応と攪拌子の触媒機能の維持>
水,ジエチルエーテル,アセトンで洗浄した使用済みの攪拌子が入った02号スクリュー管にブロモトルエン(0.078 g, 0.5 mmol),トリメトキシフェニルシラン(0.15 g, 0.75 mmol),KF (0.087 g, 1.5 mmol),プロピレングリコール(1 mL)を入れ,100 ℃のオイルバスで24時間加熱攪拌した。
【0027】
攪拌後,反応溶液を7号スクリュー管に移した。次にスクリュー管を水,エーテルで各3回洗浄し,洗浄液も7号スクリュー管に移した。その後,スクリュー管に残った攪拌子をアセトンで洗浄し,別のスクリュー管に移した。
【0028】
7号スクリュー管内の溶液に水(25 mL),エーテル(10 mL)を加え分液操作によって抽出し,抽出液を別の7号スクリュー管に入れる操作を4回繰り返した後,抽出液を硫酸マグネシウムで脱水した。
【0029】
次に,抽出液を下から綿,硫酸マグネシウム,セライトNo.545を詰めたカラムでろ過し,エバポレーターで溶媒を留去した。その後,1晩減圧乾燥後,精密天秤で粗生成物の収量を量り,4,4’-ジメトキシベンゼンを内部標準として1H-NMRにより収率を算出した。
【0030】
【0031】
檜山カップリング(ArBr, PhSi(OMe)3, KF, プロピレングリコール, 100℃, 24 h)において、パラジウムのみの収率は1回目70.0%、2回目は29.3%、4回目は25.0%、6回目以降は3.0%以下となった。
【0032】
これにより、パラジウムのみを撹拌子に固定しても安定して繰り返し金属触媒として利用できていると言える(図のentry1より)。
【0033】
パラジウム、ロジウム、パラジウムと3度固定化させた撹拌子を用いて10回同様の実験を行った際の平均収率は、1回目56.2%、2回目48.7%、4回目40.1%、6回目44.3%、7回目41.6%であり、パラジウムのみを固定した撹拌子よりも安定して繰り返し金属触媒として利用できると言える。
【0034】
なお、ロジウムを固定した後にパラジウムを固定させた撹拌子では2回目に大幅な収率の低下が確認され、パラジウムを固定化した後にロジウムを固定化させた撹拌子では収率は1%未満であった。
【0035】
<4.鈴木カップリング反応と攪拌子の触媒機能の維持>
檜山カップリング反応と同様に、鈴木カップリング反応で攪拌子が触媒機能を維持していることを確認した。
【0036】
【0037】
鈴木カップリング(PhBr, ArB(OH)2, TBAB, KOHaq, 80℃, 24 h) において、パラジウムのみの収率は、1回目は99%以上、2回目79.50%、4回目51.0%、6回目13.1%である。これも安定して繰り返し撹拌子を金属触媒として利用できていると言える。
【0038】
なお、ロジウムを固定した後にパラジウムを固定させた撹拌子では2回目に大幅な収率の低下が確認され、パラジウムを固定化した後にロジウムを固定化させた撹拌子では収率は1%未満であった。また、檜山カップリング反応よりも収率が全体的に高いこともわかる。
【0039】
ロジウムを固定した後にパラジウムを固定した撹拌子の収率は、1回目は99%以上、2回目は87.2%、4回目70.0%、6回目78.5%であり、これも安定して繰り返し撹拌子を金属触媒として利用できていることがわかる。同条件のパラジウムのみを固定した撹拌子よりも高い収率であることもわかる。
【0040】
<5.まとめ>
定性・定量分析によると、パラジウムのみを固定した撹拌子とロジウムを固定した後にパラジウムを固定した撹拌子のどちらも繰り返し金属触媒として利用できる。さらに、パラジウムのみを固定した撹拌子よりも、ロジウムを固定した後にパラジウムを固定した撹拌子の方がより収率が高く、安定した反応再現性・高い反復利用可能性が得られることが判明した。