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特開2023-82735船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082735
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/14 20060101AFI20230608BHJP
   B63B 1/40 20060101ALI20230608BHJP
   B63B 1/32 20060101ALI20230608BHJP
   B63B 35/00 20200101ALN20230608BHJP
【FI】
F03B13/14
B63B1/40 Z
B63B1/32 Z
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196607
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】721009461
【氏名又は名称】山本 茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂
【テーマコード(参考)】
3H074
【Fターム(参考)】
3H074AA02
3H074AA12
3H074BB10
3H074CC16
(57)【要約】
【課題】船舶1に装備できるシステムを用いて、船舶1の航行時に船体没水部2から発生する曳波Awの波エネルギーを低減する。
【解決手段】少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに、船舶1の両舷側又は後方において、船舶1の船体表面に離間又は接して配置される波エネルギー回収装置20により、船舶1の船体没水部2が発生している曳波Awを利用して水車21を回転させて発電機23で電気エネルギーに変換することで、曳波Awの波エネルギーの一部を回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航走時に曳波(Aw)を発生する船舶(1)に装備される波エネルギー回収システム(10)であって、少なくとも前記船舶(1)が前進方向(X)に航走しているときに前記曳波(Aw)が存在する場所又は前記曳波(Aw)が誘導されている場所に配設されて、前記船舶(1)の船体没水部(2)が発生する曳波(Aw)の波エネルギーの一部を回収することを特徴とする船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項2】
前記波エネルギー回収装置(20)が、前記曳波(Aw)の運動エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車(21)、又は、前記曳波(Aw)の位置エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車(21)、又は、前記曳波(Aw)の運動エネルギーの一部と位置エネルギーの一部の両方を回転運動エネルギーに変換する水車(21)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項3】
前記水車(21)が、回転軸が波の流れの方向又は船舶の前後方向(X)に配置される軸流型水車(21A)、回転軸が水平方向(Y)に配置される水平軸型水車(21B)、回転軸が鉛直方向(Z)に配置される垂直軸型水車(21D)のいずれかの水車であることを特徴とする請求項2に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項4】
前記波エネルギー回収装置(20)が、前記水車(21)を覆うダクト(21Bb)、又は、前記水車(21)に水(W)を導入する導水路(22)を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項5】
前記波エネルギー回収装置(20)の一部又は全部の船舶に対する位置(x、y、z)又は縦傾斜の角度(α)又は横傾斜の角度(β)の少なくとも一つを変更する移動機構(32)を備えていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項6】
前記波エネルギー回収装置(20)の一部又は全部が、前記船舶(1)の船体内部又は上甲板(3)又は前記上甲板(3)より上方に収容する収容機構(33)を備えていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項7】
前記波エネルギー回収装置(20)が、前記船舶(1)により曳航されるように構成されていることを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム(10)を備えていることを特徴とする船舶。
【請求項9】
少なくとも前進方向(X)に航走しているときに、前記波エネルギー回収装置(20)を、前記船体没水部(2)の舷側の位置に、前記船体没水部(2)の表面から離間して、又は、前記船体没水部(2)の表面に接して配置することを特徴とする請求項8に記載の船舶。
【請求項10】
前記曳波(Aw)の一部又は全部を前記波エネルギー回収装置(20)に導く誘導フィン(5A)又は誘導板(5B)で構成される誘導部材(5)を備えていることを特徴とする請求項8又は9に記載の船舶。
【請求項11】
前記船体没水部(2)の後半部(Rbs)が、船舶の上下方向(Z)に関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部(Rbw)の形状(Swing)で形成されていることを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項12】
少なくとも船舶(1)が前進方向(X)に航走しているときに、前記船舶(1)の両舷側又は後方において、前記船舶(1)の船体表面に離間又は接して配置された波エネルギー回収装置(20)により、前記船舶(1)の船体没水部(2)が発生している曳波(Aw)の波エネルギーの一部を回収することにより、前記船舶(1)が発生する曳波(Aw)の波エネルギーを低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム(10)を用いて、前記船舶(1)の曳波(Aw)の波エネルギーを低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶用の波エネルギー回収システム(10)を既存の船舶(1)に追加して設けることを特徴とする船舶の改造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶から発生する曳波に対して、船舶の舷側側に船体表面から離間して配置された波エネルギー回収装置で曳波の波エネルギーを回収することにより、この曳波を低減する、船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を航行する船舶においては、移動する際に船体が水面(自由表面)に影響を及ぼして、船体の主として船首部と前方肩部と後方肩部と船尾部等から波を発生する。これらの波には、船舶と共に移動する局部波(砕波や自由表面衝撃波等)と船舶の側方や後方に伝搬していく自由波とがある。
【0003】
この船舶で発生する自由波は「曳波」(「曳き波」、「引波」、「引き波」とも書かれる)と言われ、船舶の造波抵抗に大きく関係している。また、この曳波は、船舶が港湾内や運河等の狭水路を航行する際に、他の航行中の船舶又は停泊中の船舶、特に漁船や釣り船などの小型船舶に対して、不意打ちの波となる。この曳波により、これらの小型船舶は大きな揺れを誘発されて、浸水、転覆等の危険な状態に陥る可能性がある。また、貝や魚の養殖水産設備(養殖生け簀等)、沿岸、岸壁等に対しては波が打ち寄せることで、これらの設備にダメージを与えることにもなっている。
【0004】
この曳波対策の一つとしては、船舶自体の航行速度を遅くする方法があり、例えば、日本の海上交通安全法では、航路の定められた特定の区間においては12ノット未満で航行するとされている。
【0005】
また、従来技術における船舶側の曳波低減対策としては、船尾波に対する対策が多い。例えば、船体船尾部に、波抑制板体を、波の頂部を抑える位置まで移動できるように昇降自在に設けたり、この波抑制板体の先端を、波を分散させるように鋸歯状に形成したりして、この波抑制板により航行時に発生する波の頂部を上方から抑えることで、波の発生を抑制する船舶における波抑制装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、同様に、船尾端から後方に所定間隔をおいて複数の翼型断面の翼体を前後方向に平行に配置して、この複数の翼体によって船尾波を前後に分断することで船尾波による曳波の波高を小さくする船尾曳波減少装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、これらの波の頂部を抑えたり、波を分断するためには、船尾で発生する波の波長ベースの長さで抑えたり、分断したりする必要がある。例えば、船舶の速度(船速)をVsとすると、船舶の真後ろの方向に発生する横波の波長Lwは、「Lw=2π/g×Vs×Vs」となるので、船速Vsが12ノット(約6.17[m/s])でも、波長Lwは24.4mとなる。また、曳波は船尾部分の広範囲の流れの結果で発生しているので、船尾部分の狭い範囲で波の頂部を抑制したり、分断したりしてもその効果は限定的であると考えられる。
【0008】
一方、船舶の造波抵抗を減少する方法として、船首バルブを設ける方法があり、造波抵抗の減少に大きな貢献をしてきた。この船首バルブは、船体の排水量の数%の排水量で造波減少効果を発揮できるが、船体没水部の形状と船速との組み合わせの一つの条件に対して船首バルブの前後位置と形状と大きさが最適化されている。
【0009】
しかしながら、バルブ付船首(バルバスバウ船首形状)の船舶においては、船首バルブを船首部に一体的に固定配置しているので、船首バルブの大きさ、形状及び位置は、一つの「積載状態(通常は満載状態)及び速度(計画航走速度)」の条件に対して、波消し効果が最も大きくなるように、その状態の船体前半部の形状に対応させて、船首バルブの最適化が行われている。
【0010】
また、バルブ付船首の船舶においては、満載状態では船首バルブの効果が大きく造波抵抗が少なくなるが、軽荷状態では、船体前半部の船首系波と船首バルブが発生する波との干渉が十分に行われなくなる上に、船首バルブによる造波抵抗及び摩擦抵抗等の増加が生じるという問題がある。
【0011】
この軽荷状態における抵抗増加の問題に対しては、船首水平フィン(HBF)を設けたり、軽荷状態用のバルブと満載状態用の船首バルブの2つのバルブを設けて2段バルブ構造としたり、船首バルブの形状や前後位置や上下位置を変化できるように構成したりすることが提案されてきている。また、バラスト状態(軽荷状態)において水面に半露出する船首バルブを球状バルブから水線入角の小さい長突出薄型バルブに船首バルブの形状を変更して造波抵抗を減少する方法や、船首バルブ無しの新たな形状の船首部を持つ船型とする方法が採用されてきている。
【0012】
このように、多くの船舶においては、船首バルブを用いて造波抵抗の低減を図ってきているが、満載状態と計画航走速度の特定の組み合わせ以外の造波抵抗の低減に対しては、言い換えれば、多様な載荷状態や多様な船速における曳波の低減や造波抵抗の低減に対しては、更に研究及び技術開発の余地があると考えられる。
【0013】
一方、船首波等の自由波は、図27に模式的に示すように、波の発生源Awpの進行方向Lacに対しての角度θに対して分解される素成波Aw(θ)の集合として扱うことができるとされており、それぞれの素成波Aw(θ)は、その方向別の波長Lw(θ)を持つ表面波であり、自由波はそれらの素性波の合成であると考えられる。
【0014】
従って、自由波の内部の水粒子は、円運動をしていると考えられ、流速に関しては,波の山では波の進行方向と同じ方向の速度を持ち、波の谷では波の進行方向と逆方向の速度を持っている。そして、表面波のエネルギーに関しては、規則波の場合は、波高をHとし、ρを海水密度、gを重力加速度とすると、1波長に対して、単位幅当たりで、運動エネルギーEkが「Ek=(1/16)×ρ×g×H×H」となり、位置エネルギーEpが「Ep=(1/16)×ρ×g×H×H」となるので、波の全エネルギーEwは「Ek=(1/8)×ρ×g×H×H」となる。
【0015】
言い換えれば、船首波や船尾波等が発生し、自由波が伝搬しているということは、推進エネルギーの一部が自由波の波エネルギーとして外部に伝搬及び散逸されていることになる。言い換えれば、この自由波の波エネルギーの分は、造波抵抗の一部となり、船舶の推進として使用されることなく、消費されているということになる。
【0016】
そして、この船首系波の自由波は船首部と肩部から発生しているので、船体の極近傍の船舶から利用し易い位置にあり、しかも、一定の航行状態では、船体固定の座標系から見れば、略定常的な流れとなっている。言い換えれば、船舶の航行中においては、船体が造波した波の一部が、舷側に沿いながら扇状に拡散している。
【0017】
この波の流れは、船舶固定座標系で見ると同じ波の形をしたまま、波の山の部分では、船舶の航行速度よりも速い速度で、つまり、船舶の前後方向に関しては、船舶に対して相対的な速度を持って流れていることになる。また、船舶の上下方向に関しては、舷側に沿った波では、上方に盛り上がる山となり、その後方では下方に下がる谷となり、この山谷を舷側に沿って繰り返している。
【0018】
一方、波エネルギーではないが、流れの運動エネルギーを電力に変換するシステムの一つに、潮流の運動エネルギーを利用して発電する潮流発電システムがある。この潮流発電システムにおいては、例えば、外筒と内筒の2重管構造の潮流発電装置で、内筒の両端にラッパ状の傾斜面部を備えると共に、内筒内にスクリューを備えた複数個直列に設置して、外筒と内筒の間の上部空間内に発電装置を備えた構成が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0019】
また、水平軸を持つ水車を使用した浮体型水力発電装置(例えば、特許文献4参照)や、垂直軸を持つダリウス型水車を備えた潮流発電装置(例えば、特許文献5参照)等も提案されている。さらには、船体設置の外輪水車(例えば、特許文献6参照)も提案されているが、この船体設置の潮流発電システムは、船体を係留した状態で使用するものであり、波エネルギーの吸収を行うものでない。
【0020】
さらに、波の位置エネルギーを利用して発電するシステムの一つに、波を貯水池などに越波させて貯留し,貯水面と海面との高低差を利用して海に排水する際に、タービンを回して発電する越波型の波力発電システムが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0021】
また、波エネルギーではないが、流れの運動エネルギーを回収する試みとして、船のバルバスバウに形成された貫通流路の内部に設けた翼車や、翼車として形成されたバルバスバウで発電することで、船の推進時におけるバルバスバウ近傍の流れからエネルギーを回収して発電する省エネルギー船が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0022】
しかしながら、この省エネルギー船では、バルバスバウ近傍の流れからエネルギーを回収する際にバルバスバウの周囲の流れが変化するので、バルバスバウが発生する波が変化して、船首波に十分に干渉できなくなると考えられる。また、外部流の運動エネルギーを電力エネルギーに転換しており、外部流の運動エネルギーの減少分は、船の伴流などと同じように船の抵抗となるため、エネルギーの転換時におけるエネルギーの損失分だけ不利になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平9-175478号公報
【特許文献2】特開平11-180379号公報
【特許文献3】特開2020-200824号公報
【特許文献4】特開2007-9830号公報
【特許文献5】特開2000-265936号公報
【特許文献6】実開平6-8769号公報
【特許文献7】特開2015-229964号公報
【特許文献8】特開2011-240806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記のように、多くの船舶においては、船首バルブを用いるなどして、造波抵抗の低減を図ってきているが、満載状態と計画航走速度の特定の組み合わせ以外の造波抵抗の低減に対しては、言い換えれば、多様な載荷状態や多様な船速における曳波の低減や造波抵抗の低減に対しては、更に研究及び技術開発の余地があると考えられる。
【0025】
本発明は上記のことを鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、船首部や船尾部等の船体で造波された波の低減を図るのではなく、造波された波エネルギーの一部を回収することで、船体から伝搬する曳波を低減する、船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記のような目的を達成するための本発明の船舶用の波エネルギー回収システムは、航走時に曳波を発生する船舶に装備される波エネルギー回収システムであって、少なくとも前記船舶が前進方向に航走しているときに前記曳波が存在する場所又は前記曳波が誘導されている場所に配設されて、前記船舶の船体没水部が発生する曳波の波エネルギーの一部を回収することを特徴とする船舶用の波エネルギー回収システムである。
【0027】
ここで言う「曳波」は、船首部と船首肩部で発生する「船首系波」のみならず、船尾肩部と船尾部で発生する「船尾系波」も含む波であり、船体没水部の全体で発生する船舶から外部に伝搬する自由波のことである。なお、外部に伝搬しない局所波に対しては、ここでは対象にしていないが、この局所波も船体近くでは、船体に沿って流れる波の中に含まれるので、自由波の波エネルギーの回収の際に局所波の波エネルギーも回収される場合もある。なお、船舶に波エネルギー回収装置を配置する場合には、船首系波の一部が舷側に沿って流れるために、船尾系波よりも船首系波の方が波エネルギーの回収の対象になり易い。
【0028】
また、曳波は、排水量型船舶だけでなく、滑走型船舶などでも発生するので、本発明の対象の船舶の種類を排水量型船舶のみに限定する必要はなく、曳波を発生する船舶であれば本発明の対象となる。
【0029】
また、「少なくとも船舶が前進方向に航走しているときには」は「船舶が前進方向に航走していないときは、除外してもよい。」という意味である。言い換えれば、波エネルギー回収装置を移動可能に設けて、船舶の接岸時等で使用しないときには、波エネルギー回収装置を船体の内部や上甲板等に収容又は格納していてもよいということである。
【0030】
この波エネルギー回収装置については、運動エネルギーと位置エネルギーとからなる波のエネルギーの一部を、回転軸回りの回転エネルギー等の他のエネルギー形態に変換する装置である。この変換する装置としては、例えば、運動エネルギーに関しては潮流発電で使用する水車等が参考になり、位置エネルギーに関しては、越波式波力発電装置で使用する水車や、水力発電で使用する水車等が参考になる。
【0031】
そして、通常は、これらの水車で得た回転エネルギーは、電力などの利用し易いエネルギー形態に変換することで、船舶で利用できる。この波エネルギーから回収した電力エネルギーを推進エネルギーの一部として使用する場合にはで、実質的に造波抵抗を減少することになる。なお、利用できるエネルギーに変換しなくても、波エネルギーの一部を回収又は散逸することにより、曳波を低減することができる。
【0032】
次に、本発明の特徴について説明する。本発明の特徴は、船舶が造波することに関しては関与せずに、船舶が造波した後で生じている曳波の波エネルギーの一部を回収することにより、外部に伝搬して行く曳波を低減することと、この波エネルギー回収装置をこの曳波を発生している船舶に設けることにある。
【0033】
波エネルギー回収装置を船舶に設けることの利点について、話を分かり易くするために、先ず、船舶とは別体の波エネルギー回収装置が船舶に並行して航行しながら、船舶の曳波の波エネルギーを回収する場合について考える。この場合は、別体の波エネルギー回収装置で船舶の曳波の波エネルギーの一部を回収でき、波エネルギーの一部を回収された後の曳波は低減される。
【0034】
この並行して航行する別体の波エネルギー回収装置を、船舶に配置した場合を考える。この配置に際して、船首波等の発生に影響を与えない位置(例えば、船体肩部から少し後方の位置等)に配置することで、船首波等の自由波(曳波)の発生には影響を与えることなく、船体から伝搬して行く自由波の波エネルギーの一部を回収することができる。なお、船体から伝搬して行く自由波は、波エネルギー回収装置があることで、伝搬形態が異なって波形は変化する。しかし、回収される波エネルギーの大きさが、波エネルギー回収装置が発生する波の波エネルギーよりも大きければ、外部に伝搬して行く自由波の波エネルギーは低減することになる。
【0035】
次に、波エネルギー回収装置による造波抵抗の低減について考える。船舶と別体の波エネルギー回収装置を船舶と並行して航行させるためには、この装置の推進抵抗に抗して、この装置を航行させるための航行用のエネルギーが必要となる。この航行用のエネルギーと回収エネルギーの大小は、装置の航行速度や曳波の大きさや回収効率等の様々な要因に依存することになる。しかしながら、この波の回収エネルギーが航行用のエネルギーより大きくなる場合があることは、波のエネルギーを利用して進む船舶が開発されていることからも分かる。
【0036】
そして、船舶に固定型した波エネルギー回収装置の推進抵抗よりも、回収エネルギーを大きくできて、船舶で使用されるエネルギーの一部として利用できる場合があると考えられる。この場合は、曳波の低減効果だけでなく、造波抵抗の実質的な低減効果もあると考えられる。さらに、船舶の舷側に沿って流れる波から運動エネルギーを回収することで、舷側に沿って流れる水の流速を減少させることができるので、その部分の船体表面の摩擦抵抗を小さくできるという効果もある。
【0037】
そして、この船舶用の波エネルギー回収装置で曳波の波エネルギーを回収する構成により、次のような利点がある。第1の利点は、船体没水部で発生している自由波(曳波、対象波)に対して、波エネルギーを回収するので、既存の船舶に対しても設けることができる点にある。第2の利点は、既に発生している波に対しての装置であるので、船体の船首部の形状に関わらず、言い換えれば、船首バルブの有無等に影響されずに、曳波の低減効果を発揮できる点にある。
【0038】
また、第3の利点は、水車等を曳波が存在する場所に配置できれば、それなりの波エネルギーを回収することができるので、模型試験や数値シミュレーションによる試験の数を減少でき、設計が容易となる点にある。第4の利点は、船体没水部の状態と船速の変化に対応して、波エネルギー回収装置の配置位置(前後位置、幅方向位置、上下位置、傾斜角度)、容量などを比較的容易に変更して、波エネルギーの回収効率を最適化できる点にある。
【0039】
更に、上記の船舶用の波エネルギー回収システムにおいて、前記波エネルギー回収装置が、前記曳波の運動エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車、又は、前記曳波の位置エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車、又は、前記曳波の運動エネルギーの一部と位置エネルギーの一部の両方を回転運動エネルギーに変換する水車を備えているように構成する。
【0040】
曳波の運動エネルギーに関しては、船舶と共に移動する船体固定座標系から見ると、曳波の山の部分では水粒子の速度が増速して、また、波の谷の部分では水粒子の速度が減速して、船体の舷側の外側を流れているので、この流れから波の運動エネルギーの一部を回収する。また、曳波の位置エネルギーに関しては、波の山の部分では平均水面より高くなり、波の谷の部分では平均水面より低くなるので、山の部分の水を平均水面又は谷の部分に流すことで、波の位置エネルギーの一部を回収できる。
【0041】
そして、上記の船舶用の波エネルギー回収システムにおいて、前記波エネルギー回収装置が、回転軸が波の流れの方向又は船舶の前後方向に配置される軸流型水車、回転軸が水平方向に配置される水平軸型水車、回転軸が鉛直方向に配置される垂直軸型水車のいずれかの水車を備えていると、従来技術における各水車の技術を利用して、曳波の波エネルギーの一部を回収できる。
【0042】
また、上記の船舶用の波エネルギー回収システムにおいて、前記波エネルギー回収装置が、前記水車を覆うダクト、又は、前記水車に水を導入する導水路を備えていると、波エネルギーの回収効率を向上させることができる。ここで「ダクト」とは、水車を囲う部材の長さが比較的短く、形状も比較的単純なものを言い、「導水路」とは、水車よりも前方から水車に水を導く水路であり、必ずしも水車を囲う必要はなく、「導水路」の後端は水車の前方の位置で終わっても、水車の後方の位置まで伸びていてもよい。
【0043】
また、上記の船舶において、前記波エネルギー回収装置の一部又は全部の船舶に対する位置又は縦傾斜の角度又は横傾斜の角度の少なくとも一つを変更する移動機構を備えていると、次のような効果を発揮できる。つまり、船舶で発生する曳波(自由波)の波長が船速の2乗に比例して変化するので、船体固定座標で見た場合に、船速の変化に伴って、曳波の山谷(位相)の位置が変化するが、この波の山谷の位置の変化に対して、波エネルギー回収装置の位置を移動したり傾斜角度を変化したりすることで、船速の変化に追従できるようになる。また、船舶の載荷状況に従って船体没水部の容積及び喫水の位置が変化し、また、船体没水部で発生する曳波の上下位置も変化するが、これらの変化に対して、波エネルギー回収装置の上下移動で対応できるようになる。
【0044】
上記の船舶用の波エネルギー回収システムにおいて、前記波エネルギー回収装置の一部又は全部が、前記船舶の船体内部又は上甲板又は前記上甲板より上方に収容する収容機構を備えていると、船舶の接岸作業や曳船による曳航作業等の際に、波エネルギー回収装置が邪魔にならないようにすることができる。
【0045】
上記の船舶用の波エネルギー回収システムにおいて、前記波エネルギー回収装置が、前記船舶により曳航されるように構成されていると、波エネルギー回収装置の移動操作及び収容作業を著しく簡便化でき、また、船舶用の波エネルギー回収システムを装備するための船舶側の取り付け構造等を単純化でき、取り付け作業も簡便化することができる。
【0046】
そして、上記の目的を達成するための船舶は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システムを備えていることを特徴とする。この構成により、上記のそれぞれの船舶用の波エネルギー回収システムと同様の効果を発揮できる。
【0047】
上記の船舶において、少なくとも前進方向に航走しているときに、前記波エネルギー回収装置を、前記船体没水部の舷側の位置に、前記船体没水部の表面から離間して、又は、前記船体没水部の表面に接して配置するように構成すると、船首系波の曳波のある場所に、波エネルギー回収装置を配置することが容易にできるようになる。
【0048】
船舶が単胴船の場合には、前記船体没水部の両舷の舷側に対を成して配置することが好ましく、双胴船においては、各胴船の外側の舷側に配置するだけでなく、胴船の間の水路に配置することで、回収できる波エネルギーの量を増やすことができる。多胴船においても、同様に、最も外側の胴船の外側の舷側に配置するだけでなく、各胴船の間の水路に配置することで、回収できる波エネルギーの量を増やすことができる。
【0049】
また、上記の船舶において、前記曳波の一部又は全部を前記波エネルギー回収装置に導く誘導フィン又は誘導板で構成される誘導部材を備えていると、この導入部材により、曳波を波エネルギー回収装置に誘導することで、回収できる波エネルギーの量を大きくすることができる。
【0050】
なお、ここで言う「誘導フィン」は船舶の上下方向に関しての流れを制御するための船舶の前後方向に関して比較的短い翼形状又は板形状の部材のことを言う。また、「誘導板」は、船舶の上下方向に関しての流れを制御するための船舶の前後方向に関して比較的長い板状の部材のことを言う。
【0051】
そして、上記の船舶において、前記船体没水部の後半部が、船舶の上下方向に関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状で形成されていると、言い換えれば、船体没水部の後半部の水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状の70%と一致するように形成されていると、次のような効果を発揮できる。
【0052】
この構成によれば、船体没水部の後半部の大半を対称翼の後半部の形状で形成するので、船尾側における流れを単純化でき、後方肩部及び船尾による波の発生を抑制できる。従って、船体没水部の後半部で発生する曳波舶全体としての曳波を大幅に減少することができる。
【0053】
そして、上記の目的を達成するための船舶の曳波低減方法は、少なくとも船舶が前進方向に航走しているときに、前記船舶の両舷側又は後方において、前記船舶の船体表面に離間又は接して配置された波エネルギー回収装置により、前記船舶の船体没水部が発生している曳波の波エネルギーの一部を回収することにより、前記船舶が発生する曳波の波エネルギーを低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法である。
【0054】
あるいは、上記の目的を達成するための船舶の曳波低減方法は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システムを用いて、前記船舶の曳波の波エネルギーを低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法である。
【0055】
これらの船舶の曳波低減方法によれば、船舶の船体没水部で発生する曳波の波エネルギーを回収することにより、船舶から外側に伝搬して行く曳波の波エネルギーを低減することができる。
【0056】
そして、上記の目的を達成するための船舶の改造方法は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システムを既存の船舶に追加して設けることを特徴とする船舶の改造方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法と同様な効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0057】
本発明の船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等によれば、船首部の形状を含めた船体の形状に関わらず、船体没水部が発生する曳波に対して、曳波の波エネルギーの一部を回収することにより、曳波の波エネルギーの低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は本発明の実施の形態の波エネルギー回収システムの構成を例示するシステム構成図である。
図2図2は本発明の第1の実施の形態の波エネルギー回収システムの第1例(軸流型水車)と、この波エネルギー回収システムを備えた船舶の船首側の部分を模式的に例示する図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た正面図である。
図3図3図2の一部を拡大した船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図4図4は本発明の第1の実施の形態の波エネルギー回収システムの第2例(ダクト付き軸流型水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図5図5は本発明の第1の実施の形態の波エネルギー回収システムの第3例(水平軸型水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図6図6は本発明の第1の実施の形態の波エネルギー回収システムの第4例(垂直軸型水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図7図7は本発明の第2の実施の形態の波エネルギー回収システムの第1例(簡易型導水路)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図8図8は本発明の第2の実施の形態の波エネルギー回収システムの第2例(垂直水路に水車を配置)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図9図9は本発明の第2の実施の形態の波エネルギー回収システムの第3例(水平排水路に水車を配置)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図10図10は本発明の第2の実施の形態の波エネルギー回収システムの第4例(傾斜水路に水車を配置)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図11図11は本発明の第2の実施の形態の波エネルギー回収システムの第5例(サイホン型水路に水車を配置)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図12図12は本発明の第3の実施の形態の波エネルギー回収システムの第1例(導水路外の水車と内部の水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図13図13は本発明の第3の実施の形態の波エネルギー回収システムの第2例(導水路内の2つの水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図14図14は本発明の第3の実施の形態の波エネルギー回収システムの第3例(傾斜水路内の一つの水車)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図15図15は回動方式の波エネルギー回収装置の収容機構を説明するための横断面図である。
図16図16は転倒方式の波エネルギー回収装置の収容機構を説明するための横断面図で、舷側の凹部との間の移動を示す図である。
図17図17は転倒方式の波エネルギー回収装置の収容機構の他の例を説明するための横断面図で、上甲板の上と間の移動を示す図である。
図18図18は伸縮方式の波エネルギー回収装置の収容機構を説明するための横断面図である。
図19図19は昇降方式の波エネルギー回収装置の収容機構を説明するための横断面図である。
図20図20は曳航式の波エネルギー回収装置の構成を示す模式的な図で、(a)は側面図で、(b)は平面図で、(c)は底面図で、(d)は正面図である。
図21図21図20の曳航式の波エネルギー回収装置を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図22図22は第1の実施の形態の船舶を示す図で、波エネルギー回収システムを配置した船舶を模式的に示す平面図である。
図23図23は第2の実施の形態の船舶を示す図で、(a)は船体没水部の後半部を翼型形状で形成すると共に、波エネルギー回収システムを配置した船舶を模式的に示す図で,(b)は、「NACA0020翼」の翼型形状を示す図である。
図24図24は船舶の船首波系波に対する波エネルギー回収装置の配置位置と波パターンとの比較の一例を模式的に示す平面図である。
図25図25は船舶の船尾波系波に対する波エネルギー回収装置の配置位置と波パターンとの比較の一例を模式的に示す平面図である。
図26図26は誘導フィンを備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図27図27は誘導板(幅方向)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図28図28は誘導フィンと誘導板(幅方向)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図29図29は誘導フィン(端板付き)と誘導板(上下方向)を備えた船舶の船首近傍の模式的な図で、(a)は右舷側から見た側面図で、(b)は船底側から見た底面図で、(c)は前方から見た左舷側の正面図である。
図30図30はケルビン波の波パターンを説明するための平面図である。
図31図31は航行速度12ノットのケルビン波の波パターンの大きさとVLCC、高速コンテナ船、護衛艦の大きさを模式的に例示する平面図である。
図32図32はVLCCにおける航行速度15.5ノットのケルビン波の波パターンの大きさとVLCCの大きさを模式的に例示する平面図である。
図33図33は高速コンテナ船における航行速度23.5ノットのケルビン波の波パターンの大きさと高速コンテナ船の大きさを模式的に例示する平面図である。
図34図34は護衛艦における航行速度30ノットのケルビン波の波パターンの大きさと護衛艦の大きさを模式的に例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
〔イントロ及び図の概説〕以下、図面を参照して本発明に係る、船舶用の波エネルギー回収システム、船舶、船舶の曳波低減方法、船舶の改造方法の実施の形態について説明する。
【0060】
最初に図面について説明する。図1は、波エネルギー回収システムの構成を例示するシステム構成図で、図2図14は、波エネルギー回収装置20の実施の形態を示す図である。より詳細には、図2図6は、運動エネルギーを回収する第1の実施の形態の波エネルギー回収装置20Aに関する図であり、図7図11は、位置エネルギーを回収する第2の実施の形態の波エネルギー回収装置20Bに関する図であり、図12図14は、運動エネルギーと位置エネルギーの両方を回収する第3の実施の形態の波エネルギー回収装置20Cに関する図である。
【0061】
また、図15図21は、波エネルギー回収装置の収容機構に関する図である。また、図22図25は、第1及び第2の実施の形態の波エネルギー回収システムを装備した船舶に関する図である。また、図26図29は船舶1に装備される誘導部材5に関する図である。そして、図30図34は、波パターンと船舶の航行速度に関する図である。
【0062】
なお、ここで示す図面は本発明を説明するための概略図であり、必ずしも正確な寸法の比率で示されているものでもなく、また、必ずしも正確な位置を示しているものでもない。なお、符号「Lc」は船体中央断面を示す船体中央線であり、平面図と底面図、正面線図と背面図などでも同じ符号「Lc」を用いている。
【0063】
〔用語の定義〕以下の説明に先立って、ここで用いる座標系と各用語(「船体没水部」、「曳波」、「曳波発生源」)について定義または説明をしておく。
【0064】
まず、座標系として、船舶に固定した直交座標系として右手系のX-Y-Z座標系(船舶と共に移動する移動座標系)を採用し、X方向を「船舶の前後方向(以下、略して「前後方向」と言う)」とし、Y方向を「船舶の幅方向(以下、略して「幅方向」と言う)」とし、Z方向を「船舶の上下方向(以下、略して「上下方向」と言う)」とする。なお、ここでは方向を明確にするための補助として座標系を用いているので、座標系の原点は特に固定して論じる必要はないが、説明を簡略化するために座標系の原点を船舶1の重心位置としている。また、船舶が直進しているときには、船舶の前進方向は、船舶の前後方向のX方向と一致しているので、ここでは、「前進方向」の符号も「X」で示すこととする。
【0065】
「船体没水部(2)」は、対象とする船舶が、「対象条件(Ct)=対象とする載荷状態(St)と対象とする航行速度(Vst)」で航走しているときに没水している船体の部分のことと定義する。また、ここでは、船体没水部が航行しているときに発生する自由波を「曳波(Aw)」と定義する。
【0066】
また、船体没水部では曳波を発生するが、この船体没水部は巨視的には点源で表現できるにしても、局所的には立体的な空間を占有する具体的な物体である。一方、「曳波発生源(Awp)」は、船体没水部が発生する波のパターンの包絡線の交点、言い換えれば、波パターンの扇形の要に相当する頂点のこととして定義するものであり、仮想の波発生源である。
【0067】
一般的に、船体没水部の先端位置と曳波発生源の位置は一致しない。しかしながら、この曳波発生源の位置は、船舶の模型船の水槽試験等で得られる対象波の波パターンから求められる。通常は、船体没水部の先端の位置よりも曳波発生源の位置が前方になる。
【0068】
〔本発明の目的〕そして、本発明が対象とする船舶に関しては、本発明では船舶から発生する曳波の波エネルギーを低減することを第1の目的としているので、大型タンカーや大型鉱石運搬船などの比較的低速の船舶等の排水量型の船舶だけでなく、コンテナ船や大型フェリーや艦艇等の比較的高速の船舶や、その他の水中翼型の船舶や滑走型の船舶も対象となる。また、単胴船だけでなく、双胴船や三胴船等の多胴船等にも適用できる。
【0069】
また、本発明は、船舶に船舶用の波エネルギー回収の機能を加えることで、曳波の波エネルギーの一部を推進エネルギーとして利用して、造波抵抗の低減の実質的な効果を得ることを第2の目的としている。この船舶用の波エネルギー回収システムは、船舶の造波により、既に発生している曳波に対するシステムであるので新造船や既存船等に関係なく使用できる。
【0070】
〔本発明が対象とする曳波〕次に、本発明が対象とする曳波について説明する。船舶は一般的には、前後の細長く形成され、船首部と船体中央平行部と船尾部で形成されている。船体没水部で発生する波は、船体断面積が急激に変化する部分、特に、船首、船首部から船体中央平行部に移行する船首肩部、船首部から船体中央平行部から船尾に移行する船尾肩部、船尾の4か所の部分で発生する波の影響が大きく、これらの波が合成された複雑な波系を発生している。なお、船首部と船尾部で発生する波に比べて、前方肩部と後方肩部で発生する波は比較的小さいとされている。
【0071】
これらの波系の一部が曳波(自由波)となり外部に伝搬することにより、船舶の航走に伴うエネルギー損失が起こり、造波抵抗と呼ばれる抵抗成分の主要部分となる。これらの波のうちで、本発明が対象とする曳波は、通常は、船体没水部の前半部で発生する船首系波の曳波であるが、波エネルギー回収装置の配置の位置の工夫次第では、船体没水部の後半部で発生する船尾系波も含んだ船体没水部の全体で発生する曳波を対象にできる。なお、船首では、自由波による造波抵抗の他にも、砕波等の局所波による抵抗、スプレー抵抗等の抵抗成分があるが、波の導水路を適切に配設することで、これらの抵抗も減少できる可能性もある。
【0072】
次に、図30を参照しながら、より詳細に説明する。なお、実際には、船体の排除効果、粘性の影響、局所波の存在が波の発生と伝搬に影響を与えるので、船舶で発生する曳波の曳波発生源Awpの波パターンは、実際には、ケルビン波の波パターンからずれるが、ここでは、説明を簡単にするために、これらの影響を考えずに、説明を進める。つまり、ここでは、説明を容易とするために、単純なケルビン波の波パターンで説明する。なお、実際の波パターンは、理論的なケルビン波の波パターンからずれるが、局所波の影響を入れた非線形ケルビン波の計算値は、実測の「八の字波」とよく合っているとの報告もある。
【0073】
なお、図30で図示している波パターンは、単純なケルビン波の波パターンを模しているつもりではあるが、必ずしも、正確な理論的なケルビン波の波パターンとはなっていない。また、曳波発生源Awpが進行速度Vaで進行しているときに、曳波発生源Awpに固定した座標系から見ると、流入する水の速度Vwによって波が曳波発生源Awpの後方に流れて去っていくことになる。
【0074】
図30に示すように、この曳波発生源Awpの外側に伝搬して行く曳波(自由波)Awは、曳波発生源Awpの進行速度Vaと曳波Awの伝搬速度との関係で、ケルビン波の波パターンの扇形の内側で伝搬していく。そして、曳波発生源Awpの進行方向からθの角度だけ逸れた方向に伝搬する波のことを素成波Aw(θ)という。この素成波Aw(θ)の波長Lw(θ)は一定で規則正しい配列の位相面を持っている。
【0075】
この素成波Aw(θ)の波長Lw(θ)に関しては、浅水域や狭水域でない場合は、曳波発生源Awpの進行方向Lacとなす角度θの方向に進む波の波長Lw(θ)は、曳波発生源Awpの進行速度をVa(m/s)とするとき、「Lw(θ)=2π/g×Va×cosθ=0.64×Va×cosθ」(m)となる。ここで、「g」は重力の加速度(9.8m/s)である。
【0076】
この曳波の素成波Aw(θ)は伝搬方向θで区別すると、縦波Awcと横波Awdになる。縦波Awcは「拡散波」、「発散波」等と呼ばれ、曳波発生源(航跡源等)Awpからは斜め前方向や横方向(θ≧約35度:理論的には35度16分)に伝搬する波であるが、曳波発生源Awpが前方に移動していくため、曳波発生源Awpに固定された座標系で見ると斜め後方向に広がっていく波となる。一方、横波Awdは、曳波発生源Awpの後方向(θ≦約35度:理論的には35度16分)に伝搬する波で、曳波発生源Awpの経路(Lac)上に中心を持つ円弧状の波となり、この横波Awdから曳波発生源Awpまでの距離は円弧の半径に等しくなる。
【0077】
この縦波Awcの山と横波Awdの山が交わる頂点をカスプと言い、この最も外側のカスプPac(i:i=1,2,3・・・)が連なるライン(カスプライン)Lapは、線形理論的には、曳波発生源Awpの進行速度Vaに関係なく、曳波発生源Awpを頂点とする船首方向から各舷側の側にθc(約20度:理論的には19度28分)で開いた直線Lapとなる。このカスプラインLapは曳波発生源Awpで発生する曳波Awの最前端の稜線となり、曳波Awは、この2つのカスプラインLapより後方の扇型の範囲内に伝搬され、この扇形の範囲外に出ることはない。
【0078】
そして、曳波の素成波Aw(θ)の山谷が合成されて作られる波パターンは一定の波パターンを形成する。この素成波Aw(θ)の集合である曳波Awの山谷の位置は、進行速度Vaの2乗で変化する。一方、曳波Awの山谷の振幅の大きさは、曳波発生源Awpの特性(例えば、船体没水部の形状)によって、伝搬方向θへの曳波Awの伝搬エネルギーの分布が異なるため場所によって異なる。そのため、進行速度Vaが同じでも、曳波発生源Awpの特性に従って、それぞれの波パターンを形成する。つまり、波パターンは、曳波発生源Awpの特性、言い換えれば船舶の船体没水部の形状に従って異なる。
【0079】
〔波の影響が及ぶ水深〕次に、曳波Awの影響が及ぶ水深について検討する。静止座標系で考えると、波の水粒子の動きは、水深に応じて指数関数的に減衰して、波長の半分よりも深くなると、水粒子の動きは水面の約4%になる。また、波のエネルギーは、水粒子の速度の2乗に比例するので、波長の0.2倍の水深で約8%となり、波長の0.37倍の水深で約1%となる。そこで、仮にではあるが、ここでは、吸収対象の波エネルギーの運動エネルギーの回収の対象範囲として、水面から波長の0.2倍の水深までの範囲を考えて、この水深を対象水深Deとする。
【0080】
ここで、東京湾の浦賀水道航路など航行する際の曳波対策としての実用化について考えてみる。これらの航路では、12ノット(約6.17[m/s])以下で航行することになっているので、波長Lw0=Lw(0°)=24.4m以下、対象水深De=4.88m以下となる。
【0081】
参考までに、マラッカマックスと呼ばれる肥大タンカー船と、23,000TEU型と呼ばれる高速コンテナ船と、DDG179と呼ばれる護衛艦について検討してみる。
【0082】
この肥大タンカー船の諸元は、載荷重量トンが30万トンで、船長(Lt)が333m、幅(Btが)60m、満載吃水(dc)が20.5m、航行速度(Vs)が15.5ノット(約8.0[m/s])、主機関出力が27,020kWである。この大型タンカー船では、航行速度Vstが15.5ノット(約8.0[m/s])で、波長Lw0が40.1m、対象水深Deが8.02mとなる。
【0083】
また、この高速コンテナ船の諸元は、載荷重量トン22.5万トンで、船長(Lc)が400m、幅(Bc)が61.5m、満載吃水(dc)が16.4m、航行速度(Vs)が23.5ノット(約12.1[m/s])、主機関出力が60,000kWである。この高速コンテナ船では航行速度Vstが23.5ノット(約12.1[m/s])で、波長Lw0が93.7m、対象水深Deが18.72mとなる。
【0084】
そして、この護衛艦の諸元は、標準排水量トンが8200トンで、船長(Ld)が170m、幅(Bd)が21m、喫水(dd)が6.2m、航行速度(Vsが)約30ノット(約15.4[m/s])である。この護衛艦では、航行速度Vstが約30ノット(約15.4[m/s])で、Lw0が151.8m、対象水深Deが30.36mとなる。
【0085】
従って、肥大タンカー船では満載喫水(dc)が20.5m、高速コンテナ船では満載喫水(dc)が16.4m、護衛艦では、喫水(dd)が6.2mとなっており。肥大タンカー船や高速コンテナ船などの商用船舶では、船底から~喫水の深さまでで、曳波の運動エネルギーの多くを回収できると考える。
【0086】
次に、曳波の波パターンの大きさと実船の大きさの比較を図31図34に模式的に示す。図31は航行速度を制限されている航路での12ノットの波パターンと実船の大きさとの関係を模式的に示す平面図である。また、図32は、船長、航行速度Vstが15.5ノットの肥大タンカー船の場合を、図33は、船長、航行速度Vstが23.5ノットの高速コンテナ船の場合を、図34は、船長、航行速度Vstが30ノットの護衛艦の場合を示す。
【0087】
図31図34の船長と波パターンの関係を見ると、航行速度12ノットに対しては、多くの船舶で、船首系波に対しては、舷側側に沿って曳波の山が存在することになり、以下に記載する船舶用の波エネルギー回収システム10を船舶1に配置できると考えられる。また、通常の航行速度に関しては、肥大タンカー船や高速コンテナ船等の商用船舶では配置できるが、護衛艦などの比較的高速で航行する船舶では、船舶上に配置することは難しいと考える。
【0088】
そして、実船における船舶用の波エネルギー回収システム10の適切な配置位置は、模型船による水槽試験や数値シミュレーション計算(例えば、CFD)等により、設定できる。しかしながら、曳波Awの波パターンは、航路の水深の影響、船体没水部による排除効果、粘性効果、局所波の存在等の影響で変化するので、実船では、この波エネルギー回収装置の位置を前後方向又は幅方向にある程度の範囲内で移動可能に構成して、航行する海域に合わせて、波エネルギー回収装置の位置を調整できるようにしておくことが好ましい。
【0089】
〔船舶用の波エネルギー回収システム〕そして、最初に、図1図14を参照しながら、本発明の実施の形態の船舶用の波エネルギー回収システム(以下、略して「波エネルギー回収システム」とする)10について説明する。この波エネルギー回収システム10は、航走時に曳波(自由波)Awを発生する船舶1に装備されるシステムであって、少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに曳波Awが存在する場所又は曳波Awが誘導されている場所に配設されて、船舶1の船体没水部2が発生する曳波Awの波エネルギーの一部を回収するシステムである。
【0090】
この波エネルギー回収システム10は、図1に示すように、波エネルギー回収装置20と、波エネルギー回収装置20を支持する支持装置30と、全体を制御する制御装置40を有して構成される。この波エネルギー回収システム10は、通常は、図2に示すように、配置の容易性から、曳波Awの内の船首系波の波エネルギーを対象にして、船舶1の船首側に配置される。しかしながら、配置に工夫が必要であるが、曳波Awの内の船尾系波の波エネルギーを対象にして、船舶1の船船尾に配置してもよい。
【0091】
また、波エネルギー回収装置20は、図1に示すように、曳波Awの運動エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する運動エネルギー変換装置(水車等)21と曳波Awの位置エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する位置エネルギー変換装置(水車等)21の少なくとも一方のエネルギー変換装置(水車等)21と、発電装置(発電機等)23とを備えて構成され、更に、必要に応じて、曳波Awを変換装置(水車等)21に導入する水流制御機構(導水路等)22と、エネルギー変換装置(水車等)21の回転運動などの機械的な運動を発電装置(発電機等)23に伝達する動力伝達機構(回転軸とギヤのセット等)24等を備えて構成される。
【0092】
〔第1の実施の形態〕そして、第1の実施の形態の波エネルギー回収装置20Aは、図2図6に示すように、曳波Awの運動エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車(エネルギー変換装置)21を備えて構成される。この水車21としては、曳波Awの流れの方向若しくは船舶の前後方向Xに配置される回転軸を有する軸流型水車21A、21B、水平方向に配置される回転軸を有する水平軸型水車21C、鉛直方向に配置される回転軸を有する垂直軸型水車21D等を用いることができる。
【0093】
この軸流型水車21Aはプロペラ水車とも呼ばれ、この軸流型水車21Aには、図2及び図3に第1例として示すように、ポッド推進装置で使用されているスクリュープロペラや、潮流発電装置で使用されている発電ユニットの水力タービン等を使用することができる。また、水力発電の分野の水車も参考になり、例えば、反動水車と呼ばれている、低落差に適したプロペラ水車や、プロペラ水車で流量変化などに対応するために羽根の角度を調整できるカプラン水車構造なども参考になる。
【0094】
この軸流型水車21Aの場合は、水流の流入、流出とも水車の回転軸の方向なので、回転軸に連続させて発電装置等の機器を配置し易いので、ユニット化し易い。また、回転軸の方向が水流と同じ方向になる場合に変換効率が良くなるので、支持装置30の移動機構32を用いて、曳波Awの水Wの流れの方向の変化に追従させて、波エネルギー回収装置20Aの位置だけでなく、図3に示す縦傾斜の角度(ピッチ角)αや横傾斜の角度(ヨー角)βを変化させるように構成することが好ましい。さらには、流入量の変化に対応できるように、プロペラのブレードの角度を変更できる可変ピッチプロペラ等を採用することが好ましい。
【0095】
また、ダクト付き軸流型水車21Bは、図4に第2例として示すように、プロペラ21Baの周囲にダクト21Bbを備えて構成される。このダクト付き軸流型水車21Bに、船舶のダクト付きプロペラ、サイドスラスタ等が参考となり、また、水力発電の分野の円筒形(チューブラ)のチューブ水車(S字形チューブ水車、立軸チューブ水車、バルブ水車)等が参考になる。
【0096】
また、水平軸型水車21Cは、図5に第3例として示すように、水Wの流れの方向と直交又は交叉する水平方向(幅方向Y等)に回転軸の軸方向を持つ水車である。この水平軸型水車21Cでは、例えば、潮流発電で提案されている外輪型水車や、小水力発電で用いられているクロスフロー型水車なども参考になる。この水平軸型水車21Cも回収効率を高めるためには、水車の回転面の方向を水Wの流れの方向にする必要があり、支持装置30の移動機構32を用いて、曳波Awの水Wの流れの方向の変化に対して、横傾斜の角度(ヨー角)βを追従させるように構成することが好ましい。
【0097】
また、垂直軸型水車21Dは、図6に第4例として示すように、鉛直方向に回転軸の軸方向を持つ水車である。この垂直軸型水車21Dでは、例えば、潮流発電で提案されている、動翼の揚力を利用するダリウス型水車、抗力を利用するサボニウス型水車なども参考になる。なお、この垂直軸型水車21Dも回収効率を高めるためには、水車の回転面の方向を水Wの流れの方向にする必要があり、支持装置30の移動機構32を用いて、曳波Awの水Wの流れの方向の変化に対して、横傾斜の角度(ヨー角))βを追従させるように構成することが好ましい。
【0098】
この曳波Awの運動エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する場合における、水車21の配置に関しては、次のように考える。先ず、曳波Awの一つの山に関しての配置を考える。波の進行方向に関しては、波の山の中央の部分の流速が最も早くなると考えられるので、水車21は波の山の中央の部分に配置するのが好ましい。なお、波長が長い場合には、一つの波の山に対して進行方向に水車21を複数基配置したりしてもよい。
【0099】
また、山の中央より前方は波の幅方向への広がりが少なく、波エネルギーも狭い範囲に集中していると考えると、水車21を山の前方に配置する方が、コンパクトな水車21でも回収効率が良いとも考えられる。また、山の中央より後方では波の幅方向への広がりが多く、波エネルギーも広い範囲に拡散していると考えられるが、波の水Wの流れが下降し始めるので、波の位置エネルギーも利用できる可能性が有る。従って、水車21を山の後方に配置する方が回収効率が良い場合があるかもしれない。
【0100】
次に、曳波Awの一つの山の幅方向Yに関しては、曳波Awは後方に行くに従って存在範囲が広がるので、水車21の種類によっては、水車21を幅方向Yに複数基配置してもよい。また、曳波Awの一つの山の上下方向(水深方向)Zに関しては、曳波Awの山の頂点から対象水深Deまで、水車21を上下方向Zに複数基配置してもよい。言い換えれば、波エネルギーの分布に従って、その範囲に水車21を複数基配置することが好ましい。
【0101】
次に曳波の複数の山に関しての配置について考える。水車21を、曳波Awの第1の山だけでなく、第2の山等の複数の山に対して複数基配置してもよい。これらの複数基配置は、ユニット化した装置を互いに接続して又は離間して、エネルギー回収効率の良い位置に配置する。いずれにしても、水車21の種類による特性と波の位置における流速分布(船体没水部2の形状と船速Vsによって異なる)とを勘案して、水車21を配置することが好ましい。
【0102】
そして、曳波Awの低減を目的にして、装置自体を簡単化し、安価な装置とする場合には、エネルギーの回収をせずに、水車21に対して抵抗トルクを与えることで、曳波Awの波エネルギーを散逸させてもよい。あるいは、水車21の代わりに、波エネルギーを散逸させる部材を配置してもよい。
【0103】
一方、曳波Awの波エネルギーの回収を目的とする場合には、回収エネルギーの増減と推進用エネルギーの増減を加味した船舶1の全体のエネルギー収支を考えて、水車21と発電機23を制御することが好ましい。つまり、水車21を使用することで推進抵抗が増加するので、得られるエネルギーと、推進抵抗の増加により必要となる推進エネルギーとのバランスを考えながら、水車21の使用の可否を含めて水車21と発電機23を制御する。
【0104】
〔第2の実施の形態〕そして、第2の実施の形態の波エネルギー回収装置20Bは、図7及び図10に示すように、曳波Awの位置エネルギーの一部を回転運動エネルギーに変換する水車(エネルギー変換装置)21と導水路(水流制御機構)22を備えて構成される。この第2の実施の形態の波エネルギー回収装置20Bでは、曳波Awの山の水Wの落下を利用して、水車21を回転させる。
【0105】
より詳細には、水車21とこの水車21を内部に配置する導水路22とを有してなる。この導水路22は、入口開口部22a、前方導水路22b、貯水部22c、垂直水路22d、水平排水路22e、排水開口部22f等を必要に応じて入口側から順に備えて構成される。そして、前方導水路22bと貯水部22cのいずれかに抜気口22gを備える。また、垂直水路22d、水平排水路22eの代わりに傾斜水路22hを設ける場合もある。
【0106】
入口開口部22aは、曳波Awの水Wを導入するための部分であり、効率よく曳波Awを引き込めるように、比較的大きく開口すると共に、ゴミなどの浮遊物などを吸い込まないように、保護格子を設けることが好ましい。また、前方導水路22bは、入口開口部22aから流入する水Wを、気水分離をしながら貯水部22cに導く水路である。
【0107】
貯水部22cは、静止水面(航走時喫水線)WLよりも高い位置に、曳波Awの水Wを一時的に貯めると共に、気水分離を行って抜気口22gから空気Aを排出する部分である。この貯水部22cは、定速航行のときは曳波Awからの流入量が略一定となるので、小容量のタンクで形成してもよく、貯水機能を省略して、水路の一部としてもよい。
【0108】
垂直水路22dと水平排水路22eは、貯水部22cに一時的に貯めた水Wを落下させて、排水開口部22fに導く部分である。なお、垂直水路22dと水平排水路22eの代わりに傾斜水路22hを設けてもよい。この排水開口部22fは、水没させて配置してもよいが、図7図10に示すように、静止水面WLの上又は曳波Awの谷の部分の水面上の空中部分に配置すると、垂直水路22dと水平排水路22eの水没する部分が少なくなるので水による推進抵抗が少なくなると共に、排水開口部22fにおける水圧も無くなり、水Wの排出抵抗が小さくなる。ただし、水Wの静止水面WLへの落下によって新たに波が発生するので、排水開口部22fの位置とその構造には注意が必要である。
【0109】
一方、水車21は、図7図10に示すように、貯水部22cのない導水路22の前半部分、垂直水路22d、水平排水路22e、傾斜水路22h等のいずれかに設けたり、又はこれらの幾つかの組み合わせに複数基設けたりする。この水車21には、第1の実施の形態の波エネルギー回収装置20Aにおける水車21と同様に、軸流型水車21A、21B、水平軸型水車21C、垂直軸型水車21D等を使用することができる。
【0110】
この曳波Awの位置エネルギーを回収する波エネルギー回収装置20Bにおける水車21に関しては、波力発電システムで提案されている越波型発電システムの構造を参考にすることができる。この越波型発電システムでは、入射してくる波の水の一部を、傾斜板を乗り越えさせて、この水を水面より高い位置にある貯水槽に導入して、この貯水した水が落下する水を水面上又は水面下の放流管から放出している。そして、水が落下して放出される際にタービン(プロペラ)を回転させて発電機を駆動させて発電している。より詳細には、この水の下降流をプロペラ等の軸流水車で受けたり、放流管内外の水平方向の流れを軸流水車やクロスフロー水車やダリウス水車等で受けたりしている。
【0111】
また、これらの水車21としては、マイクロ・ナノ水力発電(100kW以下)やミニ水力発電(100kW~1000kW)、小水力発電装置(1000kW以下)等の低落差用の反動水車や、超低落差(1m~5m)用の重力水車等の水車も参考にできる。例えば、流れの方向と直交又は交叉する水平方向に回転軸の軸方向を持つクロスフロー水車、動翼の揚力を利用して回転するダリウス水車等も参考にできる。
【0112】
さらに特殊なものではあるが、図11に示すように、導水路22に関しては、サイホン取水方式における水面よりも上側に導水路22の一部を配置する構造も参考になる。このサイホン取水方式では、入口開口部22aを波の山の位置に水没させて配置し、排水開口部22fを波の谷の位置に水没させて配置する。導水路22の主要部は、上甲板3等に配置する。そして、真空ポンプ22iを使用して導水路22内の空気を排出して、水Wを吸い上げて導水路22内を水Wで充満して、導水路22をサイホン状態とする。そして、水車21をこの導水路22に配置する。この構成にすると、水車21や導水路22の多くの部分を上甲板3の上に配置できるので、メンテナンスが容易となる。また、主要部分を固定配置して、入口開口部22aに連結するフレクシブル配管22jと排水開口部22fに連結するフレクシブル配管22kのみ移動可能に構成するだけで済むので、移動機構32を小型化できる。
【0113】
そして、この曳波Awの位置エネルギーの一部を回収する場合には、位置エネルギー変換装置21に流入する水Wをより高い位置により多量に導くことが有利になる。そのため、例えば、入口開口部22aの形状や前方導水路22bの傾斜角度を工夫して、曳波Awの運動エネルギーの一部を位置エネルギーに変換することも重要になる。
【0114】
〔第3の実施の形態〕そして、第3の実施の形態の波エネルギー回収装置20Cは、運動エネルギーと位置エネルギーの両方を回転エネルギーに変換する。この場合に、運動エネルギーを回収する水車21と位置エネルギーを回収する水車21の両方と導水路(水流制御機構)22を備えて構成したり、傾斜水路22hに、運動エネルギーと位置エネルギーの両方を回収する水車21を備えて構成したりする。
【0115】
そして、運動エネルギー用の水車21と位置エネルギー用の水車21の両方を配置する場合には、運動エネルギー用の水車21を前方に配置して、曳波Awの運動エネルギーを回収した後に、流速が低下した水Wを、後方に配置した貯水部22cに一時貯水してから、位置エネルギー用の水車21に導く。
【0116】
別体の水車21を配置する場合には、図12に示すように、第1の実施の形態の波エネルギー回収装置20Aと第2の実施の形態の波エネルギー回収装置20Bを順に並べて構成してもよい。この2つの波エネルギー回収装置20A、20Bをそれぞれユニット化して構成したものを、前後に接続して又は近接して配置する。この場合は、波エネルギー回収装置20Aで運動エネルギーが低下した水Wは後方に向かう流速が低下するため、落下速度の成分が大きくなるので、後方に向かう流速が低下した水Wを、高い位置で、波エネルギー回収装置20Bに誘導ができるように、導水路22の入口開口部22aを配置する必要がある。
【0117】
また、図13に示すように、波エネルギー回収装置20Bの前方導水路22bの内部に運動エネルギー用の水車21を配置してもよい。この場合には、波エネルギー回収装置20Bに比べて、構造が複雑化するが、曳波Awの運動エネルギーも回収できるので、エネルギー回収効率が向上する。
【0118】
さらには、図14に示すように、傾斜水路22hに、運動エネルギーと位置エネルギーの両方を回収する水車21を備えて構成する。この一つの兼用の水車21にすることで、2つの水車21が不要になり、構造が単純化する。
【0119】
なお、この波エネルギー回収装置20Cで用いる運動エネルギー用の水車21と位置エネルギー用の水車21は、エネルギーの回収効率を考慮して、別のタイプの水車21であってもよいし、製造コストや整備の単純化等を考慮して、同じタイプの水車21であってもよい。
【0120】
〔発電装置と動力伝達機構〕次に、発電装置23と動力伝達機構24について説明する。発電装置23は、水車21の回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機を有して構成される。この発電機としては、潮流発電や越波式発電システムや小水力発電などで使用される発電機を参考にすることができる。また、ポッド推進器の電動機も参考になる。また、発電装置23には、発電機以外で、発電機からの電力の直流と交流の間での変換や電圧の変換を行う電力変換装置や、電力の一時的な蓄電を行う蓄電装置や外部への給電を行う給電装置なども含まれる。
【0121】
動力伝達機構24は、水車21の回転エネルギーを発電機に伝達する機構であり、この動力伝達機構24に関しては、船舶用の旋回式推進器(アジマス推進器、ポッド推進器)のZドライブの動力伝達機構等が参考になる。本発明においては、これらの動力伝達機構における旋回機能は、横傾斜の角度(ヨー角)βの変更には役立つが、通常は不要となり、その分、機構が簡素化される。
【0122】
例えば、Zドライブの一例では、プロペラへの動力は、プロペラ軸、下部ベベルギヤ、垂直軸、上部ベベルギヤ、カップリングを介して原動機の回転軸から伝達される構造となっている。この上下二段のベベルギヤには,推進効率を上げるために適正なプロペラ回転数を得る減速ギヤの機能に加えてプロペラの回転方向を切り替える機能もある。本発明では、プロペラの回転方向を切り替える機能は不要となる。
なお、通常は、ギヤと回転軸のセットで構成されるが、流体圧を利用した油圧ポンプと油圧モータの組み合わせ等の流体圧を利用した機構であってもよい。
【0123】
また、動力伝達機構24を省略して、波エネルギー回収装置20を、水車21の回転軸と同軸の回転軸を有する発電機23を備えて構成すると、波エネルギー回収システム10を著しくコンパクトに構成することができるようになる。この構成においては、電動機を内蔵しているポッド推進器の構造が参考になる。
【0124】
〔支持装置〕次に支持装置30について説明する。この支持装置30は、波エネルギー回収装置20を船舶1に支持するための装置であり、支持機構31と、必要に応じて移動機構32と収容機構33等を有して構成される。
【0125】
〔支持機構〕この支持機構31においては、支持方向から垂直支持部材31A、水平支持部材31B、斜め支持部材31C等が考えられる。なお、曳航式の波エネルギー回収装置20では、曳航索31D,被曳航部材31E等が考えられるが、これについては別途説明する。
【0126】
この垂直支持部材31Aを伸縮可能に構成することで、波エネルギー回収装置20の没水深度を変更できるようになる。また、水平支持部材31Bを伸縮可能に構成することで、波エネルギー回収装置20と船体没水部2との離間距離を変更できるようになる。また、斜め支持部材31Cを伸縮可能に構成することで、波エネルギー回収装置20の没水深度と、波エネルギー回収装置20と船体没水部2との離間距離を同時に変更できるようになる。
【0127】
また、支持機構31の水没部分に、波エネルギー回収装置20の重量を相殺する浮力又は揚力又は沈下力を持たせることで、波エネルギー回収装置20の設置及び移動に伴う船体の姿勢への影響を小さくすることができる。
【0128】
その一方で、垂直支持部材31Aの水面を貫通する部分に浮力を持たせると、船舶1が横揺れ(ロール)または横傾斜(ヒール)したときに、復原力を発生できるようになり、横揺れ安定性を増加できるというメリットがある。一方、既に就航している既存の船舶1に追加する場合には、垂直支持部材31Aで発生する復原力は、設計外の復原力となるので、垂直支持部材31Aによる復原力の発生を排除する場合には、垂直支持部材31Aの内部にバラストタンクを設けて、垂直支持部材31Aの浮力を中立にすることで復原力が発生しないようにすることができる。
【0129】
また、水没部分を有する垂直支持部材31Aを用いる場合には、副次的な効果として、垂直支持部材31Aの水没部分における水平断面の形状や、水没部分に設けたフラットなどにより、旋回モーメントを発生できるように構成することで、船舶1における針路保持性能や旋回性能を向上させることができる。
【0130】
また、水没部分を有する水平支持部材31Bを用いる場合には、副次的な効果として、水平支持部材31Bの垂直断面の形状や、フラットなどにより、トリムモーメント(ピッチモーメント)を発生できるように構成することで、姿勢(トリム)維持性能やピッチング抑制性能を向上させることができる。
【0131】
なお、水没部分を有する斜め支持部材31Cを用いる場合には、副次的な効果として、垂直支持部材31Aと水平支持部材31Bの効果を発揮できるが、効果的な断面形状の決定やフラットの制御がやや複雑になる。
【0132】
〔移動機構〕そして、波エネルギー回収システム10において、波エネルギー回収装置20の船舶に対する位置(x、y、z)又は縦傾斜の角度(ピッチ角)α又は横傾斜の角度(ヨー角)βの少なくとも一つを変更する移動機構32を備えて構成される。言い換えれば、波エネルギー回収装置20が、前後方向X、幅方向Y、上下方向Zの少なくとも一つにおいて移動可能に構成される。そして、好ましくは、曳波Awの水Wの流れの方向が水車21にとって回収効率が最大になるような方向に水車21の方向を向けることができるように、縦傾斜の角度(ピッチ角)α又は横傾斜の角度(ヨー角)βの一方又は両方を変更できるように構成される。
【0133】
より詳細には、移動機構32に関しては、船舶1の載荷状態の変化により、船体没水部2の形状が変化する。つまり、載荷状態が軽荷状態などになり喫水が浅くなると、一般的には曳波Awの高さが船舶1に対して低い位置になるので、波エネルギー回収装置20の位置を下げる必要がある。一方、載荷状態が満載状態などになり喫水が深くなると、一般的には曳波Awの高さが船舶1に対して高い位置になるので、波エネルギー回収装置20の位置を上げる必要がある。
【0134】
そして、満載状態の方が軽荷状態よりも曳波Awの波エネルギーが大きい場合が多いと考えられるので、波エネルギー回収装置20を固定配置する場合には、満載状態を主にして配置する。ただし、曳波Awが問題となる航路を通過するときの載荷状態がほぼ決まっている場合には、その載荷状態を主にして波エネルギー回収装置20を固定配置する。この場合に軽荷状態になると、船舶の喫水の変化にもよるが、波エネルギー回収装置20が水面上に出ることで、波エネルギーの回収はできなくなるが、推進抵抗も発生しなくなる。
【0135】
一方、軽荷状態を主にして、波エネルギー回収装置20を配置する場合は、満載状態のときに、波エネルギー回収装置20が水没して推進抵抗が大きくなったり、波エネルギー回収装置20の没水深度が深くなって波エネルギーの回収効率が低下したりするので、上下方向Zに波エネルギー回収装置20を移動可能に構成する必要がある。
【0136】
そして、船舶1において、航行速度Vsが変化すると、曳波Awの波パターンが変化して、波の山谷の位置も変化する。航行速度Vsが速くなると波長が長くなり、波エネルギーの存在する没水深度も深くなる。そのため、特定の航行速度Vsに対して、曳波Awの波エネルギーを回収する場合には、波エネルギー回収装置20の前後方向Xの配置位置と上下方向Zの配置位置を固定してもよいが、航行速度Vsの変化に追従しながら、曳波Awの波エネルギーを回収する場合には、波エネルギー回収装置20の前後方向Xの配置位置と上下方向Zの配置位置を移動可能にすることが好ましい。
【0137】
〔収容機構〕また、収容機構33は、波エネルギー回収システム10において、波エネルギー回収装置20も一部又は全部が、船舶1の船体内部又は上甲板3又は上甲板3より上方に収容するための機構である。これにより、船舶1の接岸作業や曳船による曳航作業等の邪魔にならないようにすることができる。
【0138】
この収容機構33における収容方式としては、波エネルギー回収装置20を船舶1の側面の一部に上から回動させて横に位置するような回動方式、波エネルギー回収装置20の支持機構の部材を折って船舶1の凹部または上甲板3の上に移動させる転倒方式、船舶1の側面の一部から波エネルギー回収装置20を側方に伸縮する伸縮方式、上甲板より降ろす昇降方式、その他の方法等様々な方式を用いることができる。
【0139】
また、図15図19に例示するように波エネルギー回収装置20を横断面内(Y-Z面内)で移動させる構成としてもよく、縦断面内(Z-X面内)で波エネルギー回収装置20を移動させる構成としてもよく、水平面内(X-Y面内)で波エネルギー回収装置20を移動させる構成としてもよい。この収容方式としては、航空機の車輪の格納方式を参考にすることができる。なお、これらの図15図19では、波エネルギー回収装置20の一部として軸流型水車21Aを例示しているが、これ以外の水車21を用いる波エネルギー回収装置20であってもよい。
【0140】
そして、回動方式では、図15に示すような、波エネルギー回収装置20の斜め支持部材31Cを収容機構33における回転軸33a回りに回動させることで、波エネルギー回収装置20を上甲板3の収容位置と配置位置の間を移動させる。また、転倒方式では、図16及び図17に示すような、波エネルギー回収装置20の水平支持部材31Bの一部に収容機構33の回転軸33aを設けて、この回転軸33a回りに水平支持部材31Bを回動させることで、波エネルギー回収装置20を舷側2cの凹部2h(図16)又は上甲板3の上(図17)の収容位置と配置位置との間を移動させる。
【0141】
そして、伸縮方式では、図18に示すような収容機構33におけるピストン33bを伸縮させることで、水平支持部材31Bを伸縮して波エネルギー回収装置20を船体没水部2の舷側2cの内部の収容位置と配置位置との間を移動させる。また、昇降方式では、図19に示すように、波エネルギー回収装置20を収容機構33により昇降部33cを昇降用柱33dに沿って昇降させることで、波エネルギー回収装置20を上甲板3の上の収容位置と配置位置との間を移動させる。
【0142】
また、収容機構33ごと波エネルギー回収装置20の一部又は全部を移動可能に構成してもよく、移動機構32ごと波エネルギー回収装置20の一部又は全部を収容可能に構成してもよい。また、波エネルギー回収装置20の一部又は全部を特定の収容位置に移動してから収容するように構成してもよい。
【0143】
〔波エネルギー回収装置の非収容〕上記の構成とは別に、波エネルギー回収装置20の非収容方式は、必ずしも、船体を接岸させる必要がない船舶で採用される。これらの船舶としては、貨物船などの乗客の乗降がない船舶、特に港に寄らず、沖合バースで荷役するタンカー、大型であるため接岸が困難で小型船で桟橋との間を通行する大型客船等がある。また、桟橋や岸壁等と船舶との間に人員と物資の通路の確保ができれば良いような船舶では、両者の間に架橋することで対応することができる。
【0144】
また、船舶1が接岸する側が決まっている場合には、接岸しない側の波エネルギー回収装置20は、必ずしも、収容可能に構成しなくてもよい。また、接岸に際しては、必ずしも船体没水部2を接岸させる必要がなく、人員と物資の通路の確保ができれば良いので、通路を接岸時に架橋することで対応するように、舷側2cに設けた波エネルギー回収装置20を収容しないままとする非収容方式としてもよい。この非収容方式は、貨物船などの乗客の乗降がない商船、特に港に寄らず、沖合バースで荷役するタンカー等で採用することができる。
【0145】
〔曳航式の波エネルギー回収装置〕次に曳航式の波エネルギー回収装置20について説明する。この曳航式の波エネルギー回収装置20は、図20及び図21に示すように、船舶1に設けた曳航装置(支持装置)30から延びる曳航索31Dで曳航される被曳航部材31Eに設けられている波エネルギー回収装置20であり、浮力体として機能する船体31Eaに接続する支持部材31Ecにより固定支持される。
【0146】
この曳航式の波エネルギー回収装置20では、船体31Eaの甲板上からから延びる曳航索31Dの長さにより、船舶1に対する前後方向Xの位置を設定することができる。また、波エネルギー回収装置20を舷側2cの近傍に配置する場合には、船体31Eaの舷側側で上下方向Zに水中に延びる横力発生部材31Edにより、曳航時に船体31Eaを船舶1側に寄せる横力Fyを発生させる。これにより、船体31Eaの舷側に配置された離間距離維持部材31Ebの先端部を船舶1の舷側2cに押圧することにより、幅方向Yに関して船舶1からの離間距離を維持できる。一方、波エネルギー回収装置20を舷側2cから離れた位置に配置する場合には、船舶1における曳航点を舷側2cから張出すことにより、船舶1からの離間距離を維持できる。さらには、曳航時に船体31Eaを船舶1側に寄せる横力Fyを舷側2cから離間する方向に発生させるとともに、船舶1の舷側2cから横方向に延びる係留索を被曳航部材31Eに追設して、この追設した係留索の長さにより、船舶1からの離間距離を維持することもできる。
【0147】
この曳航式の波エネルギー回収装置20は、被曳航部材31Eが必要になるが、支持機構31、移動機構32、収容機構33が非常に単純な構成になる上に、船舶1とは別体で形成できる。そのため、船舶1における工事が少なく、波エネルギー回収システム10の全体を単純化することできる。また、この曳航式の波エネルギー回収装置20はユニット化及び規格化し易いというメリットがある。
【0148】
〔制御装置〕次に制御装置40について説明する。この制御装置40は、波エネルギー回収システム10の全体を制御する装置であり、波エネルギー回収システム10と一体化して配置してもよく、波エネルギー回収システム10から離れた位置、例えば、船舶1側の船橋等に配置してもよく、更には、両方に配置して、選択して制御できるように構成してもよい。
【0149】
また、曳波Awの波エネルギーを回収する場合には、この制御装置40により収容機構33を制御して、波エネルギー回収装置20を所定の収容位置から取り出し、支持装置30の支持機構31や移動機構32等を制御装置40により制御して、波エネルギー回収装置20を回収位置に配置する。また、曳波Awの波パターンの変化に追従させて、波エネルギー回収装置20の回収位置を変化させる場合には、支持装置30の支持機構31や移動機構32等を制御装置40により制御して、回収位置を変化させる。
【0150】
更には、制御装置40により、水流制御機構(導水路)22、必要に応じて、後述する船舶1に備えられた誘導部材5等を制御して、より回収効率を向上させるために、曳波Awを波エネルギー回収装置20に誘導する。また、制御装置40により必要に応じて動力伝達機構24を制御しながら、エネルギー変換装置(水車)21の回転数と発電装置(発電機)23の回転数を制御して発電量と波エネルギーの回収量を調整する。
【0151】
そして、曳波Awの波エネルギーを回収しない場合には、制御装置40により支持装置30の収容機構33を制御して、波エネルギー回収装置20を所定の収容位置に収容する。
【0152】
〔船舶〕次に、本発明の実施の形態の船舶1(1A、1B)について説明する。この船舶1は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システム10を備えて構成される。
【0153】
そして、第1の実施の形態の船舶1Aは、従来船型の船舶1Aに波エネルギー回収装置20システム10を備えて構成される。この第1の実施の形態の船舶1Aの例を図22に示す。また、本発明の第2の実施の形態の船舶1Bは、波エネルギー回収システム10を備える相手の船舶1の船体形状が、対称翼形状の船尾を持つ船舶1Bとなる。この対称翼形状の船尾を持つ船舶1Bの例を図23に示す。
【0154】
この第2の実施の形態の船舶1Bは、図23に示すように、船体没水部2の後半部Rbsが、船舶の上下方向Zに関して、静止水面(満載喫水線又は計画喫水線等の航走時喫水線)WLより下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼60の後半部Rbwの形状Swingで形成されているように、言い換えれば、船体没水部2の後半部Rbsの水線面形状の70%が対称翼の後半部Rbwの形状Swingの70%と一致するように、構成される。
【0155】
より詳細には、図23(a)では、船舶1Bの船体没水部2の後半部Rbs(船体没水部2の前後方向Xに関する中央Pmより後方)を対称翼(「NACA0020翼」)の後半部Rbw(対称翼60の前後方向Xに関する中央Pmより後方)の形状Swingで形成している例を示す。なお、図23(b)は、対称翼(「NACA0020翼」)60の全体を示す。また、対称翼60はこの「NACA0020翼」に限定されず、その他の対称翼であってもよい。
【0156】
この第2の実施の形態の船舶1Bの構成によれば、船体没水部2の後半部Rbsの大半を対称翼の後半部Rbwの形状Swingで形成するので、船尾側における流れを単純化でき、後方肩部及び船尾による波の発生を抑制できる。従って、船体没水部2の後半部Rbsで発生する曳波Awの波エネルギーを低減でき、曳波Awの船尾系波の成分も低減できる。その結果、波エネルギー回収システム10による曳波Awの低減効果に加えて、曳波Awの船尾系波の成分も低減できるので、船舶1Bの曳波Aw全体を大きく低減でき、また、船舶1Bの全体としての造波抵抗を大幅に減少することができる。
【0157】
〔波エネルギー回収装置の配置〕そして、これらの船舶1では、少なくとも前進方向Xに航走しているときに、波エネルギー回収装置20を、船体没水部2の舷側の位置に、船体没水部2の表面から離間して、又は、船体没水部2の表面に接して配置するように構成される。
【0158】
なお、この「船体没水部2の表面から離間して」とは、船体没水部2の外部を流れる水(海水等)が船体没水部2と波エネルギー回収装置20の間を流れる構造である。つまり、船体没水部2の表面と波エネルギー回収装置20との間に離間距離を有して構成されることであり、波エネルギー回収装置20は船体没水部2とが連続した形状、言い換えれば、船体没水部2における膨出構造や突出構造のように、船体没水部2とは一体的な構造になっていないということである。
【0159】
従って、水車21が露出して、ダクト付き水車(ダクト付き軸流水車21B以外も含む)や導入路22を備えていない構成の場合には、必然的に、この構成になる。なお、ダクト付き水車(ダクト付き軸流水車21B以外も含む)や導水路22を備えている構成でも、ダクトや導水路22が船体没水部2の表面と離間している場合には、離間して配置されることになる。この構成にすることで、波エネルギー回収装置20を既存の船に後付し易くなり、また、波エネルギー回収装置20を移動可能にし易くなる。
【0160】
また、この「船体没水部2の表面に接して」とは、ダクト付き水車(ダクト付き軸流水車21B以外も含む)や導水路22を備えている構成で、ダクトや導水路22が船体没水部2の表面と接している構成のことをいう。船体没水部2と一体的な構造になっている場合も、船体没水部2と別体の構造で、接して配置される場合もある。
【0161】
この構成では、ダクトや導水路22が船体没水部2に固定されている構成や、ダクトや導水路22の一部若しくは全部が、船体没水部2からの膨出構造や突出構造となっている構成を含む。この構成は、波エネルギーの回収する条件(載荷状態や航行速度等)を絞り込み易い船舶に適しており、波エネルギー回収装置20を船体没水部2に堅固に固定できるので支持構造を単純化できる。
【0162】
次に、波エネルギー回収装置20の配置と波パターンとの関係について説明する。図24は、船舶1の船首波系に対しての配置の例を示し、図25は、船舶1の船尾波系に対しての配置の例を示す。図24及び図25に示すように、波エネルギー回収装置20は、少なくとも、船舶1(図24及び図25では船舶1A)が前進方向Xに航走しているときに発生している曳波Awの波パターンに対して、曳波発生源Awpを頂点とし、横方向Yに片側の角度θc(約20度:理論的には19度28分)で開くカスプラインLapの内側の扇形領域Rcaの内部に配置される。
【0163】
この扇形領域Rcaの内部に波エネルギー回収装置20を配置することで、波エネルギー回収装置20の配置位置を簡便に設定することができる。なお、カスプラインLap上にあるカスプPac(i)だけでなく、この縦波Awcの波頂線Lwcと横波Awdの波頂線Lwdの交点部分も曳波Awの山になるので、水槽実験等で、曳波Awの山の位置を特定して、この山の位置を波エネルギー回収装置20の配置の目安とすることができる。
【0164】
なお、図22図25においては、プロペラやウォータージェット推進装置やポッド推進器などの推進システムを示していないが、本発明の波エネルギー回収システム10は、船体没水部2の形状に関わらず、また、推進システムに関わらず、曳波Awの波エネルギーを回収するものであるので、船舶1(1A、1B)が曳波Awを発生するものであれば、適用できる。
【0165】
〔誘導部材〕また、これらの船舶1では、波エネルギー回収装置20の回収効率を向上するために、曳波Awを波エネルギー回収装置20に導く誘導フィン5A(図26図28図29)又は誘導板5B(図27図29)で構成される誘導部材5を備えて構成されることが好ましい。
【0166】
この誘導部材5の第1のタイプである誘導フィン5Aは、水車21における回収効率が高くなるように、曳波Awの水Wの上下方向Zの流れを水車21に誘導する。通常は、断面が翼型形状をした部材を船舶1の舷側2cから外側に幅方向Yに延ばして配置される。この誘導フィン5Aは船舶1に固定配置されていてもよいが、曳波Awの波形の変化に追従できるように迎角(ピッチ角)を変更できるように構成するのが好ましい。この誘導フィン5Aは、水車21の前方の位置(図26)、導水路22の入口開口部22aの前方の位置等に配置される。なお、この誘導フィン5Aの主翼5Aaの外側端部に上下方向Zに延びる翼端板5Ab(図29)を設けて曳波Awの水Wの幅方向Yの流れも制御するように構成してもよい。
【0167】
また、誘導部材5の第2のタイプである誘導板5Bも、水車21における回収効率が高くなるように、曳波Awの水Wの上下方向Zの流れ又は幅方向Yを水車21に誘導するが誘導フィン5Aよりも強力に誘導できる。その一方、誘導板5Bを設けたことで発生する推進抵抗が大きくなる。通常は、図27及び図28に例示するように、板形状をした部材を船舶1の舷側2cから外側に幅方向Yに延ばして前後方向Xの一定の範囲に亘って配置される。あるいは、図29に示すように、板形状をした部材を船舶1の舷側2cから離間して上下方向Zに延ばして前後方向Xの一定の範囲に亘って配置される。この誘導板5Bは、水車21の前方の位置(図27図29)、水車21の位置、水車21の後方の位置、導水路22の入口開口部22aの前方の位置等に配置される。
【0168】
これらの誘導部材5は、波エネルギー回収装置20の水流制御機構22とは別に構成される。水流制御機構22が船舶1とは別体で波エネルギー回収装置20に固定して設けられて、波エネルギー回収装置20と共に移動するのに対して、誘導部材5は船舶1に一体的に備えられる。そして、これらの誘導部材5と水流制御機構22は、互いに補完する関係にあり、一方のみであってよく、両方を備えていてもよい。
【0169】
なお、これらの誘導部材5は、単一のタイプの誘導部材5であってもよく、幾つかのタイプを組み合わせて用いてもよい。また、単一のタイプの誘導部材5を上下方向Zや、前後方向Xに、複数基配置してもよい。これらの誘導部材5の配置は、曳波Awの存在領域(波パターンの内側)に配置される。なお、誘導板5Bに関しては、誘導板5Bの前端が曳波Awの存在領域に配置されればよく、その他の部位は、必ずしも、曳波Awの存在領域の内部にある必要はなく、外にあってもよい。
【0170】
そして、水車21は誘導フィン5A若しくは誘導板5Bの後方の位置に配置される。これらの誘導部材5を備える構成によれば、誘導部材5により、曳波Awを波エネルギー回収装置20に誘導して、回収するエネルギーの量を大きくすることができる。
【0171】
〔船舶の曳波低減方法〕そして、本発明の第1の実施の形態の船舶の曳波低減方法は、少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに、船舶1の両舷側又は後方において、船舶1の船体表面に離間又は接して配置された波エネルギー回収装置20により、船舶1の船体没水部2が発生している曳波Awの波エネルギーの一部を回収することにより、船舶1が発生する曳波Awの波エネルギーを低減する方法である。
【0172】
あるいは、本発明の第2の実施の形態の船舶の曳波低減方法は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システム10を用いて記船舶1の曳波Awの波エネルギーを低減する方法である。この船舶の曳波低減方法によれば、曳波Awの波エネルギーの一部を、水車21などのエネルギー変換装置により回収することにより、船舶1から発生する曳波Awを低減することができる。
【0173】
〔船舶の造波抵抗低減方法〕そして、本発明の波エネルギー回収システム10又は本発明の曳波低減方法を用いて、回収した曳波Awの波エネルギーの一部を電気エネルギー等に変換して、船舶1の推進エネルギーの一部として使用することにより、実質的に船舶1の造波抵抗を低減することができる。ただし、船舶1の推進抵抗の低減効果を得るためには、波エネルギー回収システム10の配置による推進抵抗の増加と、波エネルギーの一部の回収に伴う伴流の増加や水流変化による推進抵抗の増加に対して、波エネルギー回収システム10で回収する波エネルギーの量を大きくする必要がある。
【0174】
〔船舶の改造方法〕そして、本発明の実施の形態の船舶の改造方法は、上記のいずれかの船舶用の波エネルギー回収システム10を既存の船舶1に追加して設ける方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法と同様な効果を発揮できる。
【0175】
〔本発明の効果〕上記の船舶用の波エネルギー回収システム10、船舶1、及び、船舶の曳波低減方法等によれば、船首部の形状を含めた船体の形状に関わらず、船体没水部が発生する曳波Aw、特に、船体没水部2の前半部が発生する船首系波Awから波エネルギーの一部を回収することができるので、曳波Awの低減効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0176】
1 船舶
2 船体没水部
2a 船首部
2c 舷側
2d 船底
3 上甲板
5 誘導部材
5A 誘導フィン(誘導部材)
5B 誘導板(誘導部材)
10 波エネルギー回収システム
20 波エネルギー回収装置
21 水車(エネルギー変換装置)
21A 軸流型水車(変換装置)
21B ダクト付き軸流型水車(変換装置)
21Ba プロペラ
21Bb ダクト
21C 水平軸型水車(変換装置)
21D 垂直軸型水車(変換装置)
22 導水路(水流制御機構)
22a 入口開口部
22b 前方導水路
22c 貯水部
22d 垂直水路
22e 水平排水路
22f 排水開口部
22g 抜気口
22h 傾斜水路
22i 真空ポンプ
23 発電機(発電装置)
24 動力伝達機構
30 支持装置
31 支持機構
31A 垂直支持部材
31B 水平支持部材
31C 斜め支持部材
31D 曳航索
31E 被曳航部材
32 移動機構
33 収容機構
40 制御装置
60 対象翼
Aw 曳波
Awc 縦波
Awd 横波
Awp 曳波発生源
Bc 船幅(高速コンテナ船)
Bt 船幅(VLCC)
Bd 船幅(護衛艦)
Bmax 最大船幅
Lac 曳波発生源の経路
Lap カスプライン
Lc 船体中心線(船体中心面)
Lwc 縦波の波頂線
Lwd 横波の波頂線
Pac(i) カスプ
Pm 前後方向に関する船体没水部の中央
Rbs 船体没水部の後半部
Rca 扇形領域
Swing 対称翼の後半部の形状
Va 曳波発生源の進行速度
Vs 航行速度
W 水
WL 静止水面(航走時喫水線)
X 前後方向(船舶の前後方向)、前進方向
Y 幅方向(船舶の幅方向)
Z 上下方向(船舶の上下方向)
θ 波の伝搬方向の角度
θc カスプラインの角度
図1
図2
図3
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