(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082737
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】船舶の曳波低減システム、船舶、船舶の曳波低減方法、及び、船舶の造波抵抗低減方法
(51)【国際特許分類】
B63B 1/40 20060101AFI20230608BHJP
B63B 1/06 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B63B1/40 Z
B63B1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196610
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】721009461
【氏名又は名称】山本 茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂
(57)【要約】
【課題】船舶が航行しているときに、船舶の船体没水部が発生する曳波の波のエネルギーを低減する。
【解決手段】少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに、船舶1の船体没水部2が発生する船首系波Awfの一部又は全部を、船舶1の両舷において、船体没水部2の表面から離間した位置に配置された波反射用側壁23で船体没水部2の側に反射して、船首系波Awfの波エネルギーの一部又は全部を有する水流を波反射用側壁23と船体没水部2との間に設けられた導水路20に導入することで、船舶1の外部へ伝搬する曳波Awを低減する
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航走時に曳波(Aw)を発生する船舶(1)において、少なくとも前記船舶(1)が前進方向(X)に航走しているときに、前記船舶(1)の両舷において、前記船舶(1)の船体没水部(2)が発生する船首系波(Awf)の一部又は全部を前記船体没水部(2)の側に反射する波反射用側壁(23)を備えた導水路(20)を、前記船体没水部(2)の側方に配置していることを特徴とする船舶の曳波低減システム。
【請求項2】
前記導水路(20)の内部における内部波(Bw1)に対して、前記内部波(Bw1)の波エネルギーの一部または全部を回収する波エネルギー回収装置(40)を設けていることを特徴とする請求項1に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項3】
前記導水路(20)の内部を流れる流体を、前記船舶(1)の推進用の流体の一部または全部として使用する推進装置(50)を設けていることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項4】
前記導水路(20)の内部における内部波(Bw1)に対して、干渉波(Cw1)を発生させて前記内部波(Bw1)の波エネルギーを低減する内部干渉波発生装置(60)を設けていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項5】
前記導水路(20)の内部における内部波(Bw1)に対して、前記内部波(Bw1)を減衰する波減衰機構(70)を設けていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項6】
前記導水路(20)の入口(21)の下端(21a)の水深D1[m]を、前記船舶(1)の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D1≧0.096×Vs×Vs」としていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項7】
前記船体没水部(2)の前後方向(X)の最大長さを全長(Lo)としたときに、前記船体没水部(2)の船首部の最前端(2f)から前記全長(Lo)の5%以上でかつ20%以下の第1前後範囲(Rx1)のいずれかの横断面において、前記船体没水部(2)の喫水線(WL)よりも下の外形線の80%以上を前記導水路(20)の壁部材(23、28)で囲っていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項8】
前記導水路(20)の一部又は全部に天井部(25)を設けて形成すると共に、前記導水路(20)の出口(22)の水深D2[m]を、前記船舶(1)の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D2≧0.128×Vs×Vs」としていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項9】
前記導水路(20)の一部又は全部に天井部(25)を設けて形成すると共に、前記導水路(20)の出口(22)の最下部が前記船体没水部(2)の最下部となるように前記出口(22)を設けているか、又は、前記出口(22)を前記船体没水部(2)の船底(2d)に設けていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項10】
前記導水路(20)の外側へ伝搬する波(Bw2)に対して干渉波(Cw2)を発生する外部干渉波発生装置(80)を設けていることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システムが備えられていることを特徴とする船舶。
【請求項12】
前記船体没水部(2)の後半部(Rbs)が、船舶の上下方向(Z)に関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状(Swing)で形成されていることを特徴とする請求項11に記載の船舶。
【請求項13】
航走時に曳波(Aw)を発生する船舶(1)において、少なくとも前記船舶(1)が前進方向(X)に航走しているときに、前記船舶(1)の船体没水部(2)が発生する船首系波(Awf)の一部又は全部を、前記船舶(1)の両舷において、前記船体没水部(2)の表面から離間した位置に配置された波反射用側壁(23)で前記船体没水部(2)の側に反射して、前記船首系波(Awf)の波エネルギーの一部又は全部を有する水流を前記波反射用側壁(23)と前記船体没水部(2)との間に設けられた導水路(20)に導入することで、前記船舶(1)の外部へ伝搬する曳波(Aw)を低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システムを用いて、前記船舶(1)の曳波(Aw)を低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の船舶の曳波低減方法を用いて、前記船舶(1)の造波抵抗を低減することを特徴とする船舶の造波抵抗低減方法。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載の船舶の曳波低減システムを既存の船舶(1)に追加して設けることを特徴とする船舶の改造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶から発生する船首系波の船体の外側への伝搬量を減少する、船舶の曳波低減システム、船舶、船舶の曳波低減方法、及び、船舶の造波抵抗低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を航行する船舶においては、航行する際に船体が水面(自由表面)に影響を及ぼして、船体の主として船首部と前方肩部と後方肩部と船尾部等から波を発生する。これらの波には、船舶と共に移動する局部波(砕波や自由表面衝撃波等)と船舶の側方や後方に伝搬していく自由波とがある。
【0003】
この船舶で発生する自由波は「曳波」(「曳き波」、「引波」、「引き波」とも書かれる)と言われ、船舶の造波抵抗に大きく関係している。また、この曳波は、船舶が港湾内や運河等の狭水路を航行する際に、他の航行中の船舶又は停泊中の船舶、特に漁船や釣り船等の小型船舶に対して、不意打ちの波となる。この曳波により、これらの小型船舶は大きな揺れを誘発されて、浸水、転覆等の危険な状態に陥る可能性がある。また、貝や魚の養殖水産設備(養殖生け簀等)、沿岸、岸壁等に対しては波が打ち寄せることで、これらの設備にダメージを与える可能性がある。
【0004】
この自由波の素成波は伝搬方向で区別すると、縦波と横波になる。縦波は「拡散波」、「発散波」等と呼ばれ、波の発生源からは斜め前方向や横方向(片舷角度θで、θ≧約35度:理論的には35度16分)に伝搬する波であるが、この波の発生源が前方に移動していくため、波の発生源に固定された座標系で見ると斜め後方向に広がっていく波となる。一方、横波は、波の発生源の後方向(θ≦約35度:理論的には35度16分)に伝搬する波で、波の発生源の経路上に中心を持つ円弧状の波となり、この横波から波の発生源までの距離は円弧の半径に等しくなる。
【0005】
この船舶の航行で発生する自由波を低減するために、従来技術においては、船首部及び船尾部で発生する波が小さくなるように、船首部及び船尾部の形状を工夫してきた。その後、造波理論の発展により、船首部に船首バルブを設けて、船首部で発生する自由波に対して、船首バルブで発生する波を干渉させることで、造波抵抗を減少させる工夫がなされてきた。この船首バルブは、実用化され、フルード数が0.30以下のような、比較的低速または中速の船舶で大きな効果を発揮してきた。
【0006】
一方、フルード数が0.30以上の高速船に関しては、船体形状によって、船首部で発生する波と、船体で発生する波とを干渉させることで、船体全体で発生する波を減少させる試みがなされている。これらの方法には、船体中央部の排水量を減少する方法、船体中央部の排水量を増加する方法、単胴の船体前半部と双胴の船体後半部を組み合わせる方法、回転体の没水部と逆三角形断面水面貫通部とからなるオボイド型実用船型を用いる方法等が提案されてきている。
【0007】
この船体中央部の排水量を減少する方法としては、例えば、フルード数が0.30以上(あるいは0.32以上)の航海速力を有する高速船に対して、前後方向に関する船体中央域の船側に凹みを設けたり、満載喫水dの25%以下の深さの凹みを前後方向に関する船体中央域の船体中心線上の船底に設けたり、あるいは、両方の凹みを設けたりすることで、船体中央域で圧力低下で水面が落ち込んで船体周りに波が発生する造波現象を抑制して、造波抵抗を減少する方法が提案されている(特許文献1、2、3参照)。
【0008】
また、この船体中央部の排水量を増加する方法としては、例えば、フルード数が0.35~0.46の高速域の高速船に対して、前後方向に関して船体中央域に変曲点を持つように水線面を形成して、船体中央部の排水量を増加して、船首部主船体を痩せさせ、船首波を減少するとともに、船体中央部で発生した波を船首波及び船尾波に干渉させることで、船体中央部に発生する造波により抵抗を減少させる船体形状が提案されている(特許文献4参照)。
【0009】
また、単胴の船体前半部と双胴の船体後半部を組み合わせる方法としては、例えば、フルード数が0.38付近以上の高速域の高速船に対して、中位喫水以下において、船体前半部は単胴部分とし、船体後半部は双胴部分とすることで、単胴部分の先端で生じる船首波の横波成分に対して双胴部分の前端で生じる横波成分を干渉させると共に、船体中央部付近で生じる横波成分に対して、船尾と双胴部分の後端で生じる横波成分を干渉させることで、排水量型船の造波抵抗を減少させる船体形状が提案されている(特許文献5参照)。
【0010】
また、下側の没水部で発生する波と上側の水面貫通部で発生する波を干渉させて造波低減を図る方法として、半没水理論船型の一つであるオボイド型実用船型が提案されている。この没水部は、半径分布を直線と楕円で繋いだ回転体の近似形であるオボイド(卵円形)形状で形成され、水面貫通部は、Cosine(三角関数)の2乗のプリズマチック・カーブを持つ逆三角形状に形成されており、没水部で発生する波と水面貫通部で発生する波とを干渉させて、造波抵抗低減を図っている(非特許文献1参照)。このオボイド型実用船型の水槽実験では、フルード数が0.367で造波抵抗が極小値を示すとされている。
【0011】
そして、このオボイド型実用船型では、船首部でスプレーが激しく発生して剰余抵抗が理論船型に比べて大きく増加したため、エントランスアングルを小さくしたりして、スプレーの発生を低減した改良ボイド船型が提案されている(非特許文献2参照)。
【0012】
一方、排水量型の比較的新しい高速用の船型として、船体を細長くすることで造波抵抗を低減して高速化を実現する波浪貫通型双胴船(WPC)が高速カーフェリーや軍用の高速輸送船等として実用化されている。この波浪貫通型双胴船としては、例えば、全長112mで36ノット、全長90mで37.3ノットの高速カーフェリーがある。
【0013】
この波浪貫通型双胴船の船体は、双胴の船首部をナイフ状に尖らせて、さらに水面上の予備浮力を削減して、非常にスレンダーな双胴の船体で波を切り裂いて航行する船型となっている。また、大波高時の安全性を確保するために、通常時は海面上に出ているが、波高が高くなったり、ピッチングが大きくなったりすると水没して浮力を発生して船首を持ち上げるセンターバウを、双胴の間の船体中央に備えている。
【0014】
また、排水量型の比較的新しい船型として、造波への影響が大きい船体の水面付近の水線面積を小さくすることで造波抵抗を低減する小水線面積双胴船(SWATH)が海洋調査船や音響測定船等として実用化されている。例えば、小水線面積双胴船としては、全長61.6mで約13ノットの海洋調査船等がある。
【0015】
更に、このSWATH船を改良した船型として、ハルの中央部が極端に細くなると共に、前後部が球形に大きく膨らむ船型が提案されている(例えば、特許文献6参照)。さらにはこの船型を発展させて、前後の膨らむ部分を4つのポッド体で置き換えたポッド船型も提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2016-94178号公報
【特許文献2】特開2018-65543号公報
【特許文献3】特開2020-59479号公報
【特許文献4】特開平9-249187号公報
【特許文献5】特開平7-165157号公報
【特許文献6】特表平3-503513号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】排水量型超高速船の開発研究(その1)―基本構想と概念設計―:宝田直之助他、日本造船学会論文集、第170号、P.1~P.14:発行 社団法人日本造船学会:発行日 平成3年(1991年)11月
【非特許文献2】排水量型超高速船の開発研究(その3)―抵抗推進性能―:宝田直之助他、日本造船学会論文集、第171号、P.61~P.71:発行 社団法人日本造船学会:発行日 平成4年(1992年)5月
【非特許文献3】超高速船の船型最適化と性能評価-SWATH 船型とポッド船型の場合-:赤木新介他、関西造船協会論文集、第243号、P.79~P.85:発行 関西造船協会:発行日 平成17年(2005年)3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、高速航行する船舶の船首部で発生する自由波に対して、船首バルブや船体中央部等で発生する波を干渉させて造波抵抗を低減する方法、及び、オボイド型実用船型のように上下の構造物で発生する波で干渉させて造波抵抗を低減する方法を採用しようとすると、従来船型から大きく変化した船型になる。
【0019】
例えば、船首系波に対して、船首バルブで発生する波を干渉させる場合では、高速化に伴い、船首バルブの位置は、船体の船首端よりも相当前方に配置されるようになってきている。
【0020】
また、船首系波に対して、船体中央部又は双胴後半部等で発生する波を干渉させる場合では、高速域になるにつれて、船首波の自由波の波長(Lw(θ))が増大する。例えば、船舶の航行速度(船速)をVsとすると、船舶の真後ろの方向に発生する横波の波長Lw0(θ=0度)は、「Lw0=2π/g×Vs×Vs」となるので、船速Vsが30ノット(約15.43[m/s])、40ノット(約20.58[m/s])になると、波長Lw0は152.6m、271.4mとなる。そのため、波の山と谷の距離(波長Lw0の半分)も長くなり、干渉波を発生させる部位を船体に設けることが難しくなる。
【0021】
その上、船体が発生する波に対して、船首バルブや船体中央部等が発生する干渉波を用いて造波抵抗の低減を図る方法は、本質的に、満載状態と計画航行速度の特定の組み合わせでは効果を発揮できるものの、それ以外の多様な載荷状態や多様な船速における曳波の低減や造波抵抗の低減には限界があると考えられる。
【0022】
つまり、造波抵抗の値自体は、造波抵抗係数に対して船速Vsの2乗に比例して大きくなる上に、造波抵抗係数自体も、船速Vsの増加に従って、船首波と船尾波との干渉状態の影響で生じるハンプホロー(山谷)は有るものの、高速域になるほど大きくなる。従って、自由波と干渉波の位相差が干渉に十分でない船速、つまり最適化される船速以外の船速では、大きな造波抵抗が生じてしまうことになる。そのため、最適化される船速に到達するまでに大きな推進力が必要になり、機関の動力も大きくする必要がある。
【0023】
また、波浪貫通型双胴船(WPC)や小水線面積双胴船(SWATH)等における、水面貫通部を小さくすることで造波抵抗を低減する方法では、十分な排水量を確保することが難しいという問題がある。そのため、軍用船では用途が多いが、商用船では、特に高速を要求されるフェリーや旅客船に限定されてしまう。
【0024】
一方、見方を変えれば、船首波が発生し、自由波が伝搬しているということは、推進エネルギーの一部が自由波のエネルギーとして外部に伝搬及び散逸されているため、この波のエネルギー分は、船舶の推進として使用されることなく、消費されているということになる。そして、この船首系波の自由波は船首部と肩部から発生しているので、船体の極近傍の船舶から利用し易い位置にあり、しかも、一定の航行状態では、船舶に固定された座標系から見た場合に略定常的な流れと波を生じている。
【0025】
本発明は上記のことを鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、船首部の形状を含めた船体の形状に関わらず、船首系波の自由波が外部に伝搬することを抑制することで、船体が発生する曳波を低減することができる、船舶の曳波低減システム、船舶、船舶の曳波低減方法、及び、船舶の造波抵抗低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
〔本発明〕上記のような目的を達成するための本発明の船舶の曳波低減システムは、航走時に曳波を発生する船舶において、少なくとも前記船舶が前進方向に航走しているときに、前記船舶の両舷において、前記船舶の船体没水部が発生する船首系波の一部又は全部を前記船体没水部の側に反射する波反射用側壁を備えた導水路を、前記船体没水部の側方に配置していることを特徴とする船舶の曳波低減システムである。
【0027】
ここで言う「曳波」は、船首部と船首肩部で発生する「船首系波」のみならず、船尾肩部と船尾部で発生する「船尾系波」も含む波であり、船体没水部の全体で発生する船舶から外部に伝搬する自由波のことである。本発明では、主として「船首系波」を減少することで、「曳波」を減少することを目指す。そのため、外部に伝搬しない局所波に対しては、ここでは対象にしていない。また、「曳波」は、排水量型船舶だけでなく、滑走型船舶等でも発生するので、本発明の対象の船舶の種類を排水量型船舶のみに限定する必要はなく、「曳波」を発生する船舶であれば本発明の対象となる。
【0028】
また、「少なくとも船舶が前進方向に航走しているときには」は「船舶が前進方向に航走していないときは、除外してもよい。」という意味である。言い換えれば、波反射用側壁を移動可能や折り畳み可能や収納可能に設けて、船舶の接岸時等で使用しないときには、波反射用側壁を船体の内部や上甲板等に収容又は格納していてもよいということである。
【0029】
この波反射用側壁は、船舶が前進しているときに造波抵抗等が少ない板状構造物などで形成され、波反射用側壁を有する導水路が発生する波をできるだけ小さくする。また、船首系波が、船体没水部の側壁とこの波反射用側壁の間に流入するときの流入抵抗が少ない形状で、また、流入し易いようにある程度の離間距離を持って配置される。
【0030】
上記の構成により、排水量の大きい船体没水部の前半部が発生する船首系波を船体没水部の側に反射することで、船体没水部による自由波が外部に伝搬することを抑制する。言い換えれば、船舶の外部に伝搬する自由波の一部を、船体没水部による自由波から導水路の外側が発生する波に置き換える。
【0031】
〔導水路の外側へ伝搬する波に対する低減対策〕そして、板状構造物等の導水路の造波抵抗を排水量型の船型の造波抵抗よりも小さくすることで、船舶で発生する曳波の波エネルギーの大きさを小さくすることができる。この効果は船首の形状に依らない。また、導水路の外側の形状は、発生する自由波の波エネルギーが小さければ良いので、必ずしも、板状の形状をしていなくてもよい。
【0032】
また、導水路の外側へ伝搬する自由波は、排水量型の船型に比較すれば比較的単純な波になるので、発生する外側への自由波が小さい形状の導水路の開発や、この導水路の外側が発生する自由波に対して干渉波(外部干渉波)を発生させる干渉波発生装置(外部干渉波発生装置)を設けることは比較的容易と考えられる。しかも、導水路の外側の形状とこの干渉波発生装置は、一旦開発してしまえば、他の船型に対しても使用できるので、曳波低減のための研究開発のためのマンパワーとコストを低減できる。
【0033】
〔導水路の内部波に対する低減対策〕次に、波反射用側壁で船体没水部側へ波が反射された内部流について考える。この反射波は、波反射用側壁と船体没水部の側壁で、反射を繰り返すことになる。この内部流の波である内部波の波エネルギーを低減する方法としては、以下のように、曳波の波エネルギーを回収する波エネルギー回収方法、曳波の波エネルギーを推進力に利用する推進力利用方法、干渉波(内部干渉波)を発生することで曳波の波エネルギーを低減する干渉波による低減方法、曳波自体を減衰させる波減衰方法等が考えられる。
【0034】
〔波エネルギーの回収〕そして、波エネルギー回収方法に関しては、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の内部における内部波に対して、前記内部波の波エネルギーの一部または全部を回収する波エネルギー回収装置を設けて構成すると、内部波の波エネルギーを電力エネルギーなどの形で利用できるようになり、全体としてみたときの推進のために必要なエネルギーを小さくすることができる。また、内部流の波エネルギーを吸収した後なので、内部流が排出されるときに、外部へ伝搬する波を小さくすることができる。
【0035】
この波エネルギー回収装置としては、潮流発電システム、越波式波力発電システム等で使用される、軸流型水車(プロペラ水車等)、水平軸型水車(外輪型水車等)、垂直軸型水車(ダリウス形水車等)等の各種水車を使用することができる。これらの水車を内部流で回転させて波エネルギーを機械エネルギー(回転エネルギー)に変換して、さらに、発電装置で、この機械エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。この電気エネルギーは、船舶で使用する電力の一部として使用することができ、また、推進力エネルギーの一部に使用すると、実質的に推進性能を向上でき、造波抵抗が低減したのと同様の効果を得ることができる。
【0036】
〔内部流体の推進への利用〕また、推進力利用方法に関しては、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の内部を流れる流体を、前記船舶の推進用の流体の一部または全部として使用する推進装置を設けて構成すると、内部流の波エネルギーを推進力の一部に利用できるようになり、全体としてみたときの推進のために必要なエネルギーを小さくすることができる。また、内部流の波エネルギーの一部を推進エネルギーに転換するので、外部へ伝搬する波を小さくすることができる。
【0037】
この推進装置としては、ウォータージェット推進器、ポッド推進器等に近い機構の装置を使用することができる。しかしながら、導水路に対して水が流入してくるので、一般的なウォータージェット推進器で船底に設けた吸引口から水を吸引してポンプに導く代わりに、前方から流入してくる水をポンプに導くことになる。そのため、従来技術では船尾の伴流中に置かれていたウォータージェット推進器やポッド推進器を高速流に対応させる必要がある。また、高速流に対応できるような、液体流を駆動源とするエダクター(eductor)や気体流を駆動源とするエジェクター(エゼクター:ejector)を用いることも考えられる。
【0038】
〔干渉波による内部波の低減〕そして、干渉波(内部干渉波)による低減方法に関しては、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の内部における内部波に対して、干渉波を発生させて前記内部波の波エネルギーを低減する内部干渉波発生装置を設けて構成すると、比較的簡単な構成で内部波を減少でき、内部流が排出されるときに、外部へ伝搬する波を小さくすることができる。
【0039】
この内部干渉波発生装置は、導水路の内部波の波特性に対応して、発生させる干渉波(内部干渉波)の波特性を対応させる必要があるが、内部波は、波反射用側壁と船体没水部とで反射を繰り返す上に、しかも船速や船舶の載荷状態によって大きく変化するため、複雑な波になる可能性がある。
【0040】
しかしながら、狭水路における波の伝搬となるので、入口近傍では多様な状態であっても、ある程度進行した後は比較的単純な波になると考えられる。導水路の出口で波が小さくなっていればよいので、このある程度進行して単純化した内部波に対して、干渉波を発生させることで十分に対応できると考える。
【0041】
〔干渉波以外の波減衰機構〕なお、波減衰方法に関しては、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の内部における内部波に対して、前記内部波を減衰する波減衰機構を設けるように構成することが考えられる。この場合には、試験水槽の波減衰機構等が参考になるが、水流を妨げると推進抵抗になるので、内部流の水を透過させながら、内部流の上下方向の流速を抑制したり、前後方向の流れを均一化させたりする。しかし、渦流が発生し易く、波エネルギーが渦のエネルギーに変化するだけになる可能性がある。そのため、曳波を低減する効果は得られるが、導水路による摩擦抵抗と造波抵抗の増加があるので、推進性能面での効果が得られない可能性がある。
【0042】
〔水深と波エネルギー分布〕ここで、波エネルギーの水深方向の分布について、静止座標系で考えると、波による水粒子の動きは、水深に応じて指数関数的に減衰して、波長の半分よりも深くなると、波による水粒子の動きは水面の約4%になる。また、波エネルギーは、水粒子の速度の2乗に比例するので、波長の15%の水深で約15%となり、また、波長の20%の水深で約8%となり、波長の37%の水深で約1%となる。
【0043】
そこで、
図1を参照しながら、曳波の素成波(θ=0~180〔[°:度:deg〕)のうちで、最も波長Lw(θ)が長くなる横波(θ=0〔[°:度:deg〕)を基準として、水面から横波(θ=0°)の波長Lw0(Lw(θ):θ=0°)の15%の水深を「第1影響水深(De1)」と定義する。つまり、「De1=0.15×Lw0=0.096×Vs×Vs」とする。なお、波パターンによっては、波の伝搬方向θ、言い換えれば波長Lw(θ)に関しての波エネルギーの分布次第では、曳波の波エネルギーの多くがこの「第1影響水深(De1)」よりも浅い水深にある場合も多いと考える。また、波長Lw0(Lw(θ):θ=0°)の20%の水深を「第2影響水深(De2)」と定義する。つまり、「De2=0.128×Lw0=0.096×Vs×Vs」とする。この「第2影響水深(De2)」よりも深い水深では自由表面の影響が少なく水流による波の発生は少ないと考える。
【0044】
〔導水路の入口の下端の水深〕そして、がこの「第1影響水深(De1)」を考慮して、導水路の入口に関しては、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の入口の下端の水深D1を、前記船舶の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D1≧0.096×Vs×Vs」として構成する。
【0045】
または、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、
図1と
図4を参照しながら、前記船体没水部2の前後方向Xの最大長さを全長Loとしたときに、前記船体没水部2の船首部の最前端2fから前記全長Loの5%以上でかつ20%以下の第1前後範囲Rx1のいずれかの横断面Sx1において、前記船体没水部2の喫水線WLよりも下の外形線の80%以上を前記導水路20の壁部材23、28で囲って構成する。これらに構成により、船首系波Awfの波エネルギーの大部分を導水路20に導入することができるようになる。
【0046】
上記の構成によれば、比較的船速が遅い船舶や船速が早くても船体が大きい船舶などの商船の多くでは、波反射用側壁を十分な水深まで船側に配置できるので、実用性が有ると考える。しかしながら、護衛艦などの船速が著しく大きい軍用船では、波反射用側壁の下端を船底まで延長して設けても、船首系波の波エネルギーを十分に導水路に導入できるとは限らない。
【0047】
〔高速船用の導入路の入口〕従って、高速船に対しては、船首部で船底側に流れてくる水流も含めて導水路内に導入することが好ましい。そのため、導水路の入口側においては、波反射用側壁を曲げたり、あるいは、折り曲げたりして、船底の中央側に延ばして、正面から見たときに、船首部の直後の船体没水部の船側と船底を包むように形成して、自由波を発生する水流の大部分を内部流として導入できるように導水路を構成することが好ましい。
【0048】
例えば、導水路の入口に床部を設ける場合に、既存の船首形状では、船底を囲む導水路の入口の床部が船底よりも下に出てしまうので、これを嫌うときには、導水路の入口の下端の位置が船底の位置又は船底よりも上の位置になっても、船首部の周囲の流れが導水路の内部に流入するように、船首部形状を再構成することが好ましい。つまり、この船首部の周囲の造波に寄与する水流の大部分を入口抵抗が少ない状態で、導水路に導入するために、船首部と導水路の入口形状を新たに研究開発することが好ましい。
【0049】
この場合に、正面から見た入口が連続していることが好ましいが、不連続であってもそれなりの効果を発揮できると考えるので、喫水より下の導水路の正面から見た入口において、入口部材の不在部分の長さが、入口部材の存在部分の長さの20%未満であれば効果を発揮できるのではないかと考える。
【0050】
この船首直後の船体没水部の周囲を囲む導水路の入口の構成により、船首部における船側を流れる水流、船底を流れる水流、船底から船側に上昇する水流、船側から船底に下降する水流等の船首部周囲の水流を導水路の内部に導入することができるので、これらの水流に起因して発生する船首系波の発生を抑制することができる。従って、曳波を低減するためには、導水路の壁面の外側が発生する波に対して、対策を取ればよいことになる。
【0051】
〔導水路の形状と出口〕
そして、導水路の形状に関しては、導水路の上側を塞ぐことにより、内部流が波反射用側壁を超えて、波反射用側壁の外側に溢れ出て波を発生することを防止できる共に、内部流を水深が大きい位置まで導くことができるようになる。また、下部のみを開放する場合には、導水路の部材を少なくすることができると共に、波の山谷に対応して、波エネルギーをできるだけ多く、内部流に取り込むことができるようになる。
【0052】
また、導水路の出口に関しては、「第2影響水深De2」を考慮して、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の一部又は全部に天井部を設けて形成すると共に、前記導水路の出口の水深D2[m]を、前記船舶の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D2≧0.128×Vs×Vs」として構成する。なお、ここでいう「出口の水深」とは、「出口の流出断面の図心の水深」である。
【0053】
又は、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の一部又は全部に天井部を設けて形成すると共に、前記導水路の出口の最下部が前記船体没水部の最下部となるように前記出口を設けているか、又は、前記出口を前記船体没水部の船底に設けて構成する。
【0054】
これらの導水路の出口を水面から深い位置に設ける構成により、内部流の排出によって発生する波を著しく小さくすることができる。つまり、水深が深くなるほど自由表面の影響が小さくなるので、影響水深よりも深い部分では、水流を撹乱しても表面波の発生は非常に小さいと考える。
【0055】
従って、曳波減少を対象とする航行速度が低速な船舶、又は、喫水が比較的大きい船舶で、船体没水部の喫水が深い場合、例えば、航走時に発生する曳波の波長の5分の1よりも大きい場合には、導水路の出口の水深D1[m]を、第2影響水深De2(=0.128×Vs×Vs)より深い位置にすることが好ましい。
【0056】
一方、曳波減少を対象とする航行速度が高速な船舶、又は、喫水が比較的小さい船舶で、船体没水部の喫水が、例えば、航走時に発生する曳波の波長の5分の1よりも小さい場合には、前記導水路の出口をできるだけ水深の深い所に設けて、内部流の排出によって発生する波を小さくすることが好ましい。
【0057】
〔導水路の外側が発生する波〕次に、導水路の外側が発生する波について考える。この波は、導水路の正面から見た形状をどの船舶に対しても同じ相似な形状を採用することで、比較的容易に波特性(波高分布等の波パターン)を把握できる。従って、この波の低減対策は比較的容易になると考える。
【0058】
〔外部干渉波発生装置〕更に、上記の船舶の曳波低減システムにおいて、前記導水路の外側へ伝搬する波に対して干渉波を発生する外部干渉波発生装置を設けて構成すると、導水路の外部、即ち、船舶の外部へ伝搬する波を小さくすることができ、また、導水路を設けたことによる造波抵抗を小さくすることができる。
【0059】
そして、この導水路の外側へ伝搬する波は、導水路の外側が発生する波と、導水路の下部などから漏れ出た船首系波の一部とが合成した波となる。この船舶の外側へ伝搬する波の波特性(波高分布等の波パターン)は、試験水槽における導水路付の模型の曳航実験などで、比較的容易に把握できるので、この外部干渉波発生装置も比較的容易に構成できると考える。また、導水路の形状を、どの船舶に対しても相似形状とすることで、この導水路の外側が発生する波への対策は共通とすることができるので、この外部干渉波発生装置の研究開発の規模を小さくすることができる。
【0060】
この外部干渉波発生装置としては、次のような構成が考えられる。一つ目は、半バルブを有する干渉波発生部材の構成である。この場合は、船首バルブの効果を参考にして、導水路の外側面に垂直面で切断されているようなバルブの半分である半バルブを設けることが考えられる。この場合に比較的高速になっても水面近傍に設けたり、前方に大きく突出して設けたりすることが比較的容易にできる。そのため、船首バルブに比べて、比較的容易に設けることができる。また、従来技術における船首バルブにおける模型による水槽試験、数値実験及び設計方法等を、二重吹き出し(Point Doublet)の効果を発揮するバルブを有する干渉波発生部材に使用して、バルブを有する干渉波発生部材を設計することが容易にできるようになる。
【0061】
二つ目は、周囲の水を吸引する吸込部の構成である。この場合は、ウォータージェットの吸引部分、ポッド推進器の吸引部分などの吸込部として、吸込みの効果で発生する干渉波を利用できる。また、三つ目は、流体を吹出す吹出部で構成すると、ウォータージェットの噴射部分、ポッド推進器の噴射部分などをこの吹出部として、吹き出しの効果で発生する干渉波を利用できるようになる。四つ目は、船舶を推進する推進力の一部又は全部を発生する推進力発生装置である。この場合は、水を吸込んで噴射するウォータージェット推進装置や、水流を加速して後方に押し出すポッド推進器などの推進力発生装置を利用できるようになる。
【0062】
また、この外部干渉波発生装置を、船舶の前後方向、船舶の幅方向、船舶の上下方向の少なくとも一方向において移動可能に構成すると、次のような効果を発揮できる。つまり、船舶の前後方向及び船舶の幅方向に移動できることにより、船舶の船速の変化による自由波の山谷(位相)の位置(波パターン)の変化に対応できるようになる。また、船舶の上下方向に移動できることにより、船舶の載荷状態(船体の姿勢)の変化に対応した導水路の変化による自由波の波エネルギーの変化に対応できるようになる。
【0063】
より詳細には、導水路の外側が発生する波の波長が船速の2乗に比例して変化するので、波の山谷(位相)の位置が船舶に対して変化するが、この波パターンの変化に対して、外部干渉波発生装置の位置を移動するように構成することで追従できるようになる。また、船舶の載荷状況に従って導水路の外側の形状及び容積が変化し、導水路の外側が発生する波の波エネルギーの大きさが変化するが、この変化に対して、外部干渉波発生装置の上下移動で外部干渉波発生装置が発生する干渉波の波エネルギーを変化させることにより対応できるようになる。
【0064】
従って、外部干渉波発生装置を付けた導水路の模型の水槽試験等において、外部干渉波発生装置の配置位置を導水路に対して前後方向と幅方向に少しずつ移動して、導水路の各状態と速度に対して、導水路の外側が発生する波の低減効果が最大となる配置位置を求めておくことが好ましい。
【0065】
〔船舶〕そして、上記の目的を達成するための船舶は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システムを備えていることを特徴とする。この構成により、上記のそれぞれの船舶の曳波低減システムと同様の効果を発揮できる。
【0066】
さらに、上記の船舶において、前記船体没水部の後半部が、船舶の上下方向に関して、満載喫水線または計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状で形成されていると、言い換えれば、船体没水部の後半部の水線面形状の70%が対称翼の後半部の形状の70%と一致するように形成されていると、次のような効果を発揮できる。
【0067】
この構成によれば、船体没水部の後半部の大半を対称翼の後半部の形状で形成するので、船尾側における流れを単純化でき、後方肩部及び船尾による波の発生を抑制できる。従って、船体没水部の後半部で発生する波のエネルギーを低減できるので、船舶の曳波低減システムの造波抵抗を低減する効果に加えて、船舶全体としての造波抵抗を大幅に低減することができる。
【0068】
〔船舶の曳波低減方法〕そして、上記の目的を達成するための船舶の曳波低減方法は、航走時に曳波を発生する船舶において、少なくとも前記船舶が前進方向に航走しているときに、前記船舶の船体没水部が発生する船首系波の一部又は全部を、前記船舶の両舷で前記船体没水部の表面から離間した位置に配置された波反射用側壁で前記船体没水部の側に反射して、前記船首波系の波エネルギーの一部又は全部を有する水流を前記波反射用側壁と前記船体没水部との間に設けられた導水路に導入することで、前記船舶の外部へ伝搬する曳波を低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法である。
【0069】
あるいは、上記の目的を達成するための船舶の曳波低減方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システムを用いて、前記船舶の曳波のエネルギーを低減することを特徴とする船舶の曳波低減方法である。
【0070】
これらの船舶の曳波低減方法によれば、船舶の船体没水部から発生する船首系波を、導水路に導入して、船舶の外部への伝搬を抑制することにより、船舶から外部へ伝搬する曳波のエネルギーを低減することができる。
【0071】
〔船舶の造波抵抗減方法〕そして、上記の目的を達成するための船舶の造波抵抗減方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減方法を用いて、前記船舶の造波抵抗を低減することを特徴とする船舶の造波抵抗低減方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法と同様な効果を発揮できる。
【0072】
〔船舶の改造方法〕そして、上記の目的を達成するための船舶の改造方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システムを既存の船舶に追加して設けることを特徴とする船舶の改造方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法と同様な効果を発揮できる。
【発明の効果】
【0073】
本発明の船舶の曳波低減システム、船舶、及び、船舶の曳波低減方法等によれば、船首部の形状を含めた船体の形状に関わらず、船体没水部が発生する曳波に対して、曳波を導水路に導入して、波エネルギーを低減することにより、船舶から外部へ伝搬していく曳波の波エネルギーの低減効果を得ることができる。
【0074】
そして、この導水路を、船舶の両舷において、船舶の船体没水部の側方に配置して、波反射用側壁と船体没水部の間の導水路に船首系波を導入して、船首系波の外部への伝搬を低減するとの構成により、次のような利点がある。第1の利点は、船体没水部で発生している曳波(自由波)を導水路に導入するので、既存の船舶に対しても設けることができる点にある。第2の利点は、船体没水部が発生する自由波を、導水路の外側が発生する自由波に置き換えるので、船体の船首部の形状に関わらず、言い換えれば、船首バルブの有無に影響されずに、曳波の低減効果を発揮できる点にある。
【0075】
また、第3の利点は、典型的な導水路の形状を設定して、この導水路が発生する自由波の波特性を船体と分離して、個別に把握できるようになるので、模型試験や数値シミュレーションによる試験の数を減少でき、設計が容易となる点にある。第4の利点は、船体没水部の状態に対応した導水路の状態と船速の変化に従って、導水路の外側へ伝搬する波の振幅と波パターンも変化するが、この変化に対応して、導水路の外側へ伝搬する波に対する干渉波を発生する外部干渉波発生装置の没水深度、没水容積、前後位置、幅方向位置、容量などを変更することで、この導水路の外側へ伝搬する波を比較的容易に低減できる点にある。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態の船舶と船首系波の波パターンと導水路の波反射用側壁との関係を模式的に示す平面図である。
【
図2】
図2は本発明の曳波低減システムの導水路の入口の形状を模式的に示す正面図で、(a)は上下開放水路の例を示す図で、(b)は下部開放通路の例を示す図である。
【
図3】
図3は曳波低減システムの導水路の入口の形状を模式的に示す正面図で、(a)は上部開放水路の例を示す図で、(b)は上下閉鎖水路の例を示す図である。
【
図4】
図4は曳波低減システムの船底を覆う導水路の入口の形状を模式的に示す正面図で、(a)は波反射側壁と連続して船底全体を覆う例を、(b)は波反射側壁とは連続しないで独立して船底中央を覆う例を、(c)は波反射側壁と連続しているが船底中央部が解放されている例を、それぞれ示す図である。
【
図5】
図5は軸流型水車の波エネルギー回収装置を用いた曳波低減システムの第1の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側から見た側断面図((b)のY1-Y1断面)で、(b)は右舷側の底面図で、(c)は右舷側の正面図である。
【
図6】
図6は水平軸型水車の波エネルギー回収装置を用いた曳波低減システムの第2の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側から見た側断面図((b)のY2-Y2断面)で、(b)は右舷側の底面図で、(c)は右舷側の正面図である。
【
図7】
図7は垂直軸型水車の波エネルギー回収装置を用いた曳波低減システムの第3の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側から見た側断面図((b)のY3-Y3断面)で、(b)は右舷側の底面図で、(c)は右舷側の正面図である。
【
図8】
図8は越波型の波エネルギー回収装置を用いた曳波低減システムの第4の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側から見た側断面図((b)のY4-Y4断面)で、(b)は右舷側の底面図で、(c)は右舷側の正面図である。
【
図9】
図9は傾斜した波反射用側壁と波エネルギー回収装置の配置の例を模式的に示す右舷側の正面図で、(a)は波反射用側壁が下方に広がる例を示す図で、(b)は波反射用側壁が上方に広がる例を示す図である。
【
図10】
図10はウォータージェット型の推進装置の例を模式的に示す右舷側の側面図で、(a)は導水路の出口を水深の深い位置に設けた例を示す図で、(b)は導水路の出口を水面より下に設けた例を示す図である。
【
図11】
図11はポッド型の推進装置の例を模式的に示す右舷側の側面図で、(a)は導水路の出口を水深の深い位置に設けた例を示す図で、(b)は導水路の出口を水面より下に設けた例を示す図である。
【
図12】
図12は噴射流型の推進装置の例を模式的に示す右舷側の側面図で、(a)は導水路の出口を水深の深い位置に設けた例を示す図で、(b)は導水路の出口を水面より下に設けた例を示す図である。
【
図13】
図13は外部流を導入する推進装置の配置の例を模式的に示す右舷側の底面図で、(a)は導水路の一部(波反射用側壁)に開口部を設けた例を示す図で、(b)は導水路の出口に推進装置を配置した例を示す図である。
【
図14】
図14はバルブ断面の支持部材で構成される内部干渉波発生装置の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側の側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図15】
図15は吸込み部で構成される内部干渉波発生装置の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側の側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図16】
図16は吹出部で構成される内部干渉波発生装置の例を模式的に示す図で、(a)は右舷側の側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図17】
図17は波減衰機構の例を示す側面図で、(a)は翼列で構成される整流部材の例を示す図で、(b)は多層の床部の例を示す図である。
【
図18】
図18は波減衰機構の例を示す側面図で、(a)は天井部に設けた突起部と床部に設けた潜り堰の例を示す図で、(b)は床部に設けた段差部の例を示す図である。
【
図19】
図19は波減衰機構の例を示す図で、(a)は天井部に設けた下方開放の水門の例を示す側面図で、(b)は波反射用側壁に設けた突起部の例を示す右舷側の底面図である。
【
図20】
図20は半バルブの外部干渉波発生装置の例を示す図で、(a)は側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図21】
図21は吸込部の外部干渉波発生装置の例を示す図で、(a)は側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図22】
図22は吹出部の外部干渉波発生装置の例を示す図で、(a)は側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図23】
図23は推進装置の外部干渉波発生装置の例を示す図で、(a)は側面図で、(b)は右舷側の底面図である。
【
図24】
図24は本発明の曳波低減システムを備えたV字型の船首部形状の例を模式的に示す図で、(a)は正面図で、(b)は右舷側の側面図で、(c)は底面図である。
【
図25】
図25は第1の実施の形態の船舶を示す図で、曳波低減システムを備えた船舶を模式的に示す平面図である。
【
図26】
図26は第2の実施の形態の船舶を示す図で、(a)は船体没水部の後半部を翼型形状で形成すると共に、曳波低減システムを備えた船舶を模式的に示す図で,(b)は、NACA0020翼の翼型形状を示す図である。
【
図27】
図27は航行速度12ノットのケルビン波の波パターンの大きさとVLCC、高速コンテナ船、護衛艦の大きさを模式的に示す平面図である。
【
図28】
図28はVLCCにおける航行速度15.5ノットのケルビン波の波パターンの大きさとVLCCの大きさを模式的に示す平面図である。
【
図29】
図29は高速コンテナ船における航行速度23.5ノットのケルビン波の波パターンの大きさと高速コンテナ船の大きさを模式的に示す平面図である。
【
図30】
図30は護衛艦における航行速度30ノットのケルビン波の波パターンの大きさと護衛艦の大きさを模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
以下、図面を参照して本発明に係る、船舶の曳波低減システム、船舶、船舶の曳波低減方法、船舶の造波抵抗低減方法、船舶の改造方法、船舶の設計方法の実施の形態について説明する。
【0078】
〔図の概説〕最初に図面について説明する。
図1は、曳波低減システム10を備えた船舶1の実施の形態を示す図で、
図2~
図4は、曳波低減システム10の導水路20の入口の実施の形態を示す図である。
【0079】
図5~
図9は、波エネルギー回収装置40を備えた曳波低減システム10に関する図であり、
図10~
図13は、推進装置50を備えた曳波低減システム10に関する図である。また、
図14~
図16は、内部干渉波発生装置60を備えた曳波低減システム10に関する図であり、
図17~
図19は、波減衰機構70を備えた曳波低減システム10に関する図である。
図20~
図23は、外部干渉波発生装置80を備えた曳波低減システム10に関する図である。
【0080】
図24は、曳波低減システムを備えたV字型の船首部形状の例を示す図である。
図25と
図26、本発明の第1及び第2の実施の形態の船舶を示す図である。
図27~
図30は、実船と波パターンとの関係を示す平面図である。
【0081】
なお、ここで示す図面は本発明を説明するための概略図であり、必ずしも正確な寸法の比率で示されているものでもなく、また、必ずしも正確な位置を示しているものでもない。なお、符号「Lc」は船体中央断面を示す船体中央線であり、平面図と底面図、正面線図と背面図などでも同じ符号「Lc」を用いている。
【0082】
〔用語の定義〕以下の説明に先立って、ここで用いる座標系と各用語(「船体没水部」、「水面」、「喫水線」、「曳波」、「曳波発生源」、「船首系波」、「船尾系波」、「干渉波発生装置」)について定義または説明をしておく。
【0083】
まず、座標系として、船舶に固定した直交座標系として右手系のX-Y-Z座標系(船舶と共に移動する移動座標系)を採用し、X方向を「船舶の前後方向(以下、略して「前後方向」と言う)」とし、Y方向を「船舶の幅方向(以下、略して「幅方向」と言う)」とし、Z方向を「船舶の上下方向(以下、略して「上下方向」と言う)」とする。なお、ここでは方向を明確にするための補助として座標系を用いているので、座標系の原点は特に固定して論じる必要はないが、説明を簡略化するために座標系の原点を船舶1の重心位置としている。
【0084】
「船体没水部(2)」は、対象とする船舶が、「対象条件=対象とする載荷状態と対象とする航行速度」で航走しているときに没水している船体の部分のことと定義する。そして、「水面(WL)」は、静水面で船舶が静止している状態における水面の位置を示した線のことを言う。また、「喫水線(WL)」は、静水面で船舶が静止している状態における水面の位置を船舶上に示した線のことを言う。
【0085】
また、「曳波(Aw)」は船体没水部が航行しているときに発生する自由波のことと定義する。そして、「船首系波(Awf)」は船体没水部が発生する曳波のうち、船首部と船首肩部で発生する波を言い、「船尾系波(Awa)」は船尾肩部と船尾部で発生する波を言う。
【0086】
また、「内部干渉波(Cw1)」は、導水路内で発生する内部波(Bw1)を干渉により低減する波であり、「外部干渉波(Cw2)」は、導水路から外側へ伝搬する波(Bw2)を干渉により低減する波であると定義する。この内部干渉波を発生する装置のことを、「内部干渉波発生装置(60)」と言い、外部干渉波を発生する装置のことを「外部干渉波発生装置(80)」と言う。
【0087】
そして、「波発生源」は、自由波の波パターンの包絡線の交点、言い換えれば、波パターンの扇形の要に相当する頂点として定義するが、仮想の波発生源である。そして、船首系波(Awf)に関する「波発生源」を「船首系波発生源(Awfp)」と言う。
【0088】
一般的に、船体没水部の先端位置と曳波発生源の位置は一致しない。また、同様に、干渉波発生装置の先端位置と干渉波発生源の位置は一致しない。曳波発生源の位置(通常は船首系波発生源の位置)は、船舶の模型船の水槽試験等で得られる曳波の波パターンから求められる。この船首系波発生源の位置は、多くの場合、船体没水部の先端の位置よりも前方になる。また、内部干渉波と外部干渉波の干渉波発生源の位置は、それぞれの干渉波発生装置の模型の単独での水槽試験等で得られる干渉波の波パターンから求められる。そして、これらの干渉波発生源の位置と干渉波発生装置との位置との関係は、干渉波発生装置の種類により異なる。
【0089】
〔本発明の目的〕本発明では船舶から発生する曳波の波エネルギーを低減することを第1の目的とする。また、本発明は、船舶に曳波低減システムを加えることで、曳波の波エネルギーを低減する効果により、造波抵抗を低減する効果も得ることを第2の目的としている。
【0090】
〔本発明の対象とする船舶と船首部形状〕本発明では曳波特に船首系波を発生する船舶が対象となる。そのため、大型タンカーや大型鉱石運搬船などの比較的低速の船舶等の排水量型の船舶だけでなく、コンテナ船や大型フェリーや艦艇等の比較的高速の船舶や、その他の水中翼型の船舶や滑走型の船舶も対象となる。また、単胴船だけでなく、双胴船や三胴船等の多胴船等も対象となる。
【0091】
この曳波低減システムは、基本的に船首形状に依らないので、対象とする船舶の船首部の形状は船首バルブの有無を問わない。従って、対象となる船舶の船首部の形状は、「バルバスバウ」以外の「垂直艦首」、「クリッパー・バウ」、「アトランチック・バウ」、「ダブルカーブド・バウ」、「スプーン(カッター)・バウ」等の船首形状であってもよい。言い換えれば、本発明の曳波低減システムを採用することにより、これらの船首部の形状も採用できるようになる。
【0092】
〔本発明が対象とする波〕次に、本発明が対象とする波について説明する。船舶は一般的には、前後の細長く形成され、船首部と船体中央平行部と船尾部で形成されている。船体没水部で発生する波は、船体断面積が急激に変化する部分、特に、船首、船首部から船体中央平行部に移行する船首肩部、船首部から船体中央平行部から船尾に移行する船尾肩部、船尾の4か所の部分で発生する波の影響が大きく、これらの波が合成された複雑な波系を発生している。なお、船首部と船尾部で発生する波に比べて、前方肩部と後方肩部で発生する波は比較的小さいとされている。
【0093】
これらの波系の一部が自由波(曳波)となり外部に伝搬することにより、船舶の航走に伴うエネルギー損失が起こり、造波抵抗と呼ばれる抵抗成分の主要部分となる。通常は、曳波は、船体没水部の全体で発生する船首系波と船尾系波の両方を含んだ自由波であるが、本発明の曳波低減システムが対象とする曳波は、船体没水部の前半部で発生する船首系波の自由波である。なお、船首では、自由波による造波抵抗の他にも、砕波等の局所波による抵抗、スプレー抵抗等の抵抗成分がある。
【0094】
〔曳波低減システム〕そして、最初に、
図1~
図24を参照しながら、本発明の実施の形態の船舶の曳波低減システム(以下、略して「曳波低減システム」とする)10について説明する。この曳波低減システム10は、航走時に曳波Awを発生する船舶1において、少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに、船舶1の両舷において、船舶1の船体没水部2が発生する船首系波Awfの一部又は全部を船体没水部2の側に反射する波反射用側壁23を備えた導水路20を、船体没水部2の側方に配置していることを特徴とするシステムである。
【0095】
なお、この「船体没水部の側方に配置」とは、船体没水部2における膨出構造や突出構造を含むものであり、船体没水部2の外部を流れる水(海水等)が船体没水部2と波反射用側壁23の間の導水路20を流れる構造である。基本的には、船体没水部2の表面と波反射用側壁23との間に離間距離Sを有して船体没水部2と別体で構成されるが、船体没水部2の内部に導水路20を設ける構造で構成されていてもよく、また、船体没水部2の一部として船体没水部2と一体的に構成されていてもよい。
【0096】
例えば、波反射用側壁23は支持部材24、天井部25、床部26等のいずれか一つまたはいくつかの組み合わせを介して船舶と一体で形成されていてもよい。要は、少なくとも船舶1が前進方向に航走しているときに、船体没水部2の側方に、配置されればよい。例えば、船舶の上甲板などから波反射用側壁23を降下させて、船体没水部2の側方に配置するなどの構成であってもよい。
【0097】
この曳波低減システム10は、
図1に示すように、少なくとも、入口21と出口22と波反射用側壁23を備えた導水路20を有して構成され、必要に応じて、外部干渉波発生装置80、波エネルギー回収装置40、推進装置50、内部干渉波発生装置60、波減衰機構70のいずれか又はこれらの組み合わせを備えて構成される。
【0098】
〔導水路の機能〕この導水路20は、船体没水部2発生する船首系波Awfを船体没水部2の側に反射することで、船舶1の船体没水部2の船首部2aで発生する船首系波Awfの波エネルギーを導水路20の内部に導入する。これにより、曳波Awの波エネルギーが船舶1の外部へ伝搬するのを抑制する。一方で、導水路20も波を発生し、この導水路20の外側へ伝搬する波(自由波)Bw2が船舶1の外部へ伝搬する。従って、本発明では、船舶1の外部に伝搬する船首系波Awfを導水路20の外側へ伝搬する波Bw2に置き換える構成であると言える。なお、この導水路20の外側へ伝搬する波Bw2は、導水路20の外側が発生する波Bw22と導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21と導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23とを含んでいる。
【0099】
ここで、本発明における各波と曳波低減の関係についてまとめておくと、次のようになる。導水路20を設ける前の「Aw(曳波)=Awf(船首系波)+Awa(船尾系波)」の状態を、導水路20を設けることにより「Dw(最終的に外部へ伝搬する波)=Bw2(導水路の外側へ伝搬する波)+Cw2(外部干渉波)+Awa(船尾系波)」とする。ここで、「Bw2(導水路の外側へ伝搬する波)=Bw21(導水路の外側に漏出する船首系波)+Bw22(導水路の外側が発生する波)+Bw23(導水路の内部流の排出に伴う波)」、また、「Cw2(外部干渉波)=Cw21(導水路の外側が発生する波に対する干渉波)+Cw22(導水路の外側に漏出する船首系波に対する干渉波)」である。
【0100】
本発明の曳波低減システム10では、このうちの導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21と導水路20の外側が発生する波Bw22に対して、外部干渉波発生装置80で発生する外部干渉波Cw2を干渉させて小さくする。また、導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23に対しては、導水路20の出口22の水深を深くしたりすることなどで小さくする。そして、導水路20の内部における内部波Bw1に対しては、波エネルギー回収装置40、推進装置50、内部干渉波発生装置60、波減衰機構70等を用いて小さくする。
【0101】
〔導水路の入口の位置〕そして、
図1に示すように、曳波低減システム10の導水路20の入口21は、船舶1の船体没水部2の船首系波Awfの一部又は全部を導水路20に導入するように構成される。この入口21の位置は、船首系波AwfのカスプラインLapの外側に配置されることが好ましい。
【0102】
つまり、船首系波Awfは、近似的にはケルビン波となると考えられるので、船舶1の航行速度Vsに依らず、
図1に示すように、上から見たときに、波発生源Awfpを頂点とする船舶1の進行方向XのラインLcから各舷側の側にθc(約20度:理論的には19度28分)で開いたカスプラインLapの内側で伝搬する波となる。このカスプラインLapは船首系波発生源Awfpで発生する船首系波Awfの最前端の稜線となり、船首系波Awfは、この2つのカスプラインLapより後方の扇型の範囲内に伝搬され、この扇形の範囲外に出ることはない。従って、入口21の外端を船首系波AwfのカスプラインLapの外側に配置すれば、船舶1の航行速度Vsに依らず、船首系波Awfを波反射用側壁23と船体没水部2との間、即ち、導水路20の内部に効率よく導くことができる。
【0103】
しかしながら、船首系波Awfの波パターンによっては、カスプラインLapの内側であっても、船首系波Awfの波エネルギーの多くを導水路20の内部に導くことができる場合がある。例えば、側方に伝搬する素成波(θが小さい)の波エネルギーに比べて、後方に伝搬する素性波(θが大きい)の波エネルギーが大きいような波パターンの場合である。
【0104】
なお、導水路20の目的は、船首系波Awfを導水路20の内部に導くことであるので、入口21の外端の位置に関しては、船体没水部2の周囲の水流分布を考えなくてもよい。水流分布の影響を受けて波パターンは変形するが、実測のカスプラインLapを用いることもできるし、その変形量を見越して、理論の波パターンよりやや広めのカスプラインLapを設定してもよい。
【0105】
〔第1影響水深〕ここで、「第1影響水深De1」について説明しておく。この第1影響水深De1[m]は、対象とする船舶1の航行速度Vs[m/s]に対して、水面から横波(θ=0度)の波長Lw0の15%の水深を「De=0.096×Vs×Vs」として定義するものである。この第1影響水深De1では、波長Lw0の波の粒子の波としての運動エネルギーは、水面の約15%となる。しかしながら、波の伝搬方向に角度θが大きく成るにつれて、素成波(θ)の波長Lw(θ)は波長Lw0より小さくなるので、船首系波Awfの全体としての波エネルギーの大部分は、第1影響水深De1までの間にあると考えられる。
【0106】
これにより、航行速度Vsと第1影響水深De1の関係は、12ノット(約6.17[m/s])で、波長Lw0が24.4mで、3.66mとなり、23.5ノット(約12.1[m/s])では、波長Lw0が93.7mで、14.055mとなる。また、30ノット(15.4[m/s])で、波長Lw0が151.8mで、第1影響水深De1は22.77mとなる。これに対して航行速度と満載喫水の例としては、肥大タンカー船では、15.5ノット(約8.0[m/s])と20.5mで、高速コンテナ船では、23.5ノットと16.4mである。
【0107】
〔導入路の入口の水深〕従って、比較的船速Vsが遅い船舶1や船速Vsが速くても船体が大きい船舶1などの商船の多くでは、第1影響水深De1よりも喫水dを深く取れる場合が多いので、
図2及び
図3に示すように、D1≧De1を維持しながら、波反射用側壁23を船側に配置する。言い換えれば、導水路20の入口21の下端21aの水深D1を、船舶1の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D1≧De1」、即ち、「D1≧0.096×Vs×Vs」として構成する。
【0108】
この場合の導水路20の入口21に関しては、
図2(a)に示すように、波反射用側壁23を支持部材24で支持する上下開放構造で構成したり、
図2(b)に示すように、波反射用側壁23を支持部材24と天井部25で支持する下部開放構造で構成したりする。また、
図3(a)に示すように、波反射用側壁23を支持部材24と床部26で支持する上部開放構造で構成したり、
図3(b)に示すように、波反射用側壁23を支持部材24と天井部25と床部26で支持する上下閉鎖構造で構成したりする。
【0109】
〔船底用導水路〕一方、高速コンテナ船や護衛艦などの航行速度Vsが大きい船舶1では、波反射用側壁23の下端21aを船底2dまで延長して設けても、船首系波Awfの波エネルギーを十分に導水路20に導入できない。そのため、比較的高速の船舶1や比較的喫水の浅い船舶1に対しては、船首部で船底2d側に流れてくる水流も含めて導水路20の内部に導入することが好ましい。
【0110】
このような場合では、
図4に示すように、導水路20においては、波反射用側壁23を曲げたり、あるいは、折り曲げたりして、船底2dの中央側に延ばして、正面から見たときに、船首部の直後の船体没水部2の船側2cと船底2dを包むように形成して、船首系波Awfを発生する水流の大部分を導水路20の内部流Wiとして導入できるように、船底用床部28を伴って導水路20を構成することが好ましい。
【0111】
この場合は、
図1に示すように船体没水部2の前後方向Xの最大長さを全長Loとしたときに、船体没水部2の船首部の最前端2fから全長Loの5%以上でかつ20%以下の第1前後範囲Rx1のいずれかの横断面Sx1において、船体没水部2の喫水線WLよりも下の外形線の80%以上を導水路20の壁部材23、28で囲って構成することが好ましい。
【0112】
例えば、導水路20の入口21に関しては、
図2及び
図3に示すように、波反射用側壁23を設けるだけでなく、更に、
図4に示すように、船底用床部28を設ける。この場合に、
図4(a)に示すように、船体没水部2の喫水線WLよりも下の外形線を全部囲うように設けることが好ましい。一方、船底2d側の波エネルギーは船側2c側の波エネルギーより低い場合が多いと考えられるので、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、船舶1のビルジ部分を開放したり、船底2dの中央部分を開放したりして、横断面における外形線の一部を開放して配置する。
【0113】
つまり、
図4に示すように、正面から見た場合に、船体没水部2の喫水線WLより下、言い換えれば、導水路20の水面WLより下において、導水路20の壁部材(波反射用側壁23、船底用床部28)の不在部分の長さが、壁部材23、28の存在部分の長さの25%未満であるように構成する。この構成では、
図4(a)に示すように、正面から見た導水路20の壁部材23、28が連続していることが好ましいが、
図4(b)と
図4(c)に示すように、不連続であっても、船首系波Awfの波エネルギーの多くを導水路20に導入することができる。なお、
図4では、
図2(a)の構成に対して、船底用床部28を設けているが、
図2(b)、
図3(a)、
図3(b)の構成及びその他の図示していない構成に対して、船底用床部28を設けて構成してもよい。
【0114】
〔導水路入口と船首系波〕船首部の直後の船体没水部2の周囲を囲む導水路20の入口21の構成により、船首部における、船側2cを流れる水流、船底2dを流れる水流、船底2dから船側2cに上昇する水流、船側2cから船底2dに下降する水流等の船首部の周囲の水流を導水路20の内部に導入する。これにより、これらの水流に起因して発生する船首系波Awfの発生を抑制すると共に、既に発生している船首系波Awfの波エネルギーを導水路20の内部に導入して、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2を減少する。
【0115】
〔導水路の構造〕そして、導水路20の構造に関しては、
図2~
図4に示す入口21の構造と同様に、上下開放構造、下部開放構造、上部開放構造、上下閉鎖構造等で構成する。また、この導水路20の構造で、天井部25を上甲板3の延長として設けると、上甲板3の面積が広がり利便性が増す。
【0116】
導水路20を上下開放構造で構成すると、排出される内部流Wiに内部波Bw1が残っている場合には、この内部波Bw1が出口22から排出されるときに、導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23として、導水路20の外部に伝搬して行くことになる。従って、この上下開放構造を用いる場合には、内部流Wiの波エネルギーを、導水路20の内部に設けた、波エネルギー回収装置40、推進装置50、内部干渉波発生装置60、波減衰機構70等により、減少することが好ましい。また、更に、導水路20の出口22から排出される内部流Wiにより、導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23が新たに発生しないように、内部流Wiの排出時の流速や方向を設定する必要がある。
【0117】
また、下部開放構造を用いる場合には、その天井部25により上甲板3の面積を広げる効果がある。天井部25により、内部流Wiの上下方向Zの流れを規制して、内部流Wiの流れを水平方向に整流することで、内部波Bw1の波エネルギーを低減できる。また、天井部25により、天井部25を水没させて、内部流Wiを水深が大きい位置まで導くことができるようになる。
【0118】
従って、この下部開放構造により、導水路20の上側を塞ぐことにより、内部流Wiが波反射用側壁23を超えて、波反射用側壁23の外側に漏出して、導水路20の外側へ伝搬する波が発生することを防止できる。
【0119】
一方、上部開放構造においては、床部26により、内部流Wiの上下方向Zの流れを規制して、内部流Wiを水平方向に整流することで、内部波Bw1の波エネルギーを低減できる。また、波エネルギー回収装置40、推進装置50等を用いる場合で、導水路20の内部流Wiを水面WLより上の位置や水面WLの近傍で排出する必要があるときには、この上部開放構造は必要な構成となる。
【0120】
そして、上下閉鎖構造においては、天井部25と床部26を設けることにより、それぞれ上記したような効果があるが、入口21の流入断面積に対して、導水路20の各流路断面及び出口22の流出断面積を適切に設定しないと、流路抵抗が発生したり、波エネルギー回収装置40、推進装置50、内部干渉波発生装置60、波減衰機構70等の効率が悪化したりするので、導水路20の設計が難しくなる。その一方で、導水路20の内部流Wiの流れを極め細かく制御できるようになる。
【0121】
〔導水路の出口〕次に、導水路20の出口22について説明する。この出口22の構造に関しては、入口21及び導水路20の本体と同様に、上下開放構造、下部開放構造、上部開放構造、上下閉鎖構造等で構成することができる。
【0122】
〔第2影響水深〕ここで、「第2影響水深De2」について説明しておく。この第2影響水深De2[m]は、対象とする船舶1の航行速度Vs[m/s]に対して、水面から横波(θ=0度)の波長Lw0の20%の水深を「De=0.128×Vs×Vs」として定義するものである。この第2影響水深De2では、波の粒子の波としての運動エネルギーは、水面の約8%となる。
【0123】
これにより、航行速度Vsと第2影響水深De2の関係は、12ノット(約6.17[m/s])で、波長Lw0が24.4mで、4.88mとなり、23.5ノット(約12.1[m/s])では、波長Lw0が93.7mで、18.72mとなる。また、30ノット(15.4[m/s])で、波長Lw0が151.8mで、第2影響水深De2は30.36mとなる。
【0124】
〔導水路の出口と第2影響水深の関係〕そして、この出口22の水深に関しては、第2影響水深De2よりも深い部分では、自由表面の影響が小さく、この水深で水流を撹乱しても表面波が発生し難いので、導水路20の出口22を水面WLから深い位置に設けることにより、内部流Wiの内部流Wiの排出に伴う波Bw23を著しく小さくすることが好ましい。
【0125】
この導水路20の出口22の位置と、第2影響水深De2との関係に関しては、好ましくは、導水路(20)の一部又は全部に天井部25を設けて構成するとともに、導水路20の出口22の水深D2[m]を、船舶1の航行速度をVs[m/s]としたときに、「D2≧0.128×Vs×Vs」、即ち「D2≧De2」として構成する。なお、ここでいう「出口の水深」とは、「出口の流出断面の図心の水深」である。
【0126】
この構成は、曳波減少を対象とする航行速度Vsが低速な船舶1、又は、喫水dが比較的大きい船舶1で、船体没水部2の喫水dが深い場合に効果が大きい。例えば、船体没水部2の喫水dが、航走時に発生する曳波Awの横波の波長Lw0の5分の1よりも大きい場合には、導水路20の出口22の水深D2[m]を、第2影響水深De2(=0.128×Vs×Vs)より深い位置にする。
【0127】
一方、曳波減少を対象とする航行速度Vsが高速な船舶1、又は、喫水dが比較的小さい船舶1で、船体没水部2の喫水dが浅い場合では、次のように構成する。つまり、導水路20の一部又は全部に天井部25を設けて形成すると共に、導水路20の出口22の最下部が船体没水部2の最下部となるように出口22を設けているか、又は、出口22を船体没水部2の船底2dに設けて構成する。言い換えれば、船体没水部2の喫水dが、航走時に発生する曳波Awの横波の波長Lw0の5分の1よりも小さい場合には、導水路20の出口22をできるだけ水深の深い所に設けて、導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23を小さくすることが好ましい。
【0128】
〔導水路の全体構造〕なお、これらの入口21の各構造と、導水路20の本体の各構造と、出口22の各構造は、導水路20に求める曳波低減、波エネルギーの回収、波エネルギーの推進利用、波の散逸等の機能の種類と程度によって、様々な組み合わが考えられる。言い換えれば、入口21の4つの構造と導水路20の本体の4つの構造と出口22の4つの構造の「4×4×4」の組み合わせが考えられる。これらの組み合わせの中から、導水路20の内部波Bw1の低減方法に従って、最適な組み合わせが選択される。
【0129】
〔導水路の内部波に対する低減対策〕次に、波反射用側壁23で船体没水部2との間の内部波Bw1について考える。この波反射用側壁23で反射された船首系波Awfは、波反射用側壁23と船体没水部2の船側2cで、反射を繰り返すことになる。また、この船首系波Awfに加えて、導水路20の内側の形状によって発生する波も加わる。
【0130】
この内部流Wiの波である内部波Bw1に対する方法として、以下のように、導水路20の内部波Bw1の波エネルギーを回収する波エネルギー回収方法、導水路20の内部流Wiを推進に利用する推進利用方法、導水路20の内部波Bw1に対して内部干渉波Cw1を発生することで内部波Bw1の波エネルギーを低減する干渉波による低減方法、内部干渉波Cw1とは別の波減衰機構70で内部波Bw1を減衰させる波減衰方法等が考えられる。
【0131】
〔波エネルギーの回収〕そして、波エネルギー回収方法に関しては、導水路20の内部における内部波Bw1に対して、内部波Bw1の波エネルギーを回収する波エネルギー回収装置40を設けて構成する。この波エネルギー回収装置40としては、潮流発電システムで使用される、各種水車41を使用することができる。また、越波式波力発電システムも参考となる。そして、この各種水車41としては、軸流型水車(プロペラ水車等)41A、水平軸型水車(外輪型水車等)41B、垂直軸型水車(ダリウス形水車等)41C等がある。
【0132】
図5に示すように、プロペラ型水車等の軸流型水車41Aを用いる場合には、船首系波Awfの上方の流れが速く、運動エネルギーの大きい部分で軸流型水車41Aを回転させたいので、導水路20の上方に関しては、水流の拡散を抑制するために、天井部25を設けることが好ましい。一方、導水路20の下方に関しては、より多くの波エネルギーを取り入れるために、下部開放とすることが好ましい。また、導水路20への流入抵抗を小さくするためには上部開放や下部開放が好ましい。また、必要に応じて、費用対効果を考慮しつつ、軸流型水車41を上下方向Zや幅方向Yに複数基配置して、より多くの波エネルギーを回収する。
【0133】
図6に示すように、外輪型水車等の水平軸型水車41Bを用いる場合には、船首系波Awfの上方の流れだけを利用するので、導水路20の上方に関しては、水流を整えるために、水平軸型水車41Bの前では天井部25を設けることが好ましい。この場合は、波エネルギー回収装置40の大部分を水面WLより上に配置できるので波エネルギー回収装置40の設置及びメンテナンスが容易となる。一方、導水路20の下方に関しては、水平軸型水車41Bだけでは、波エネルギーを十分に取り入れることは難しいため、
図6の点線で示すように、水平軸型水車41Bの下方に、軸流型水車41Aを配置することが好ましい。また、導水路20への流入抵抗を小さくするためには下部開放が好ましい。
【0134】
図7に示すように、ダリウス型水車などの垂直軸型水車41Cを用いる場合には、垂直軸型水車41Cと発電装置42への動力伝達機構の構造が比較的単純になり、また、発電装置42を水面WLより上方に配置できるので、装置の設置及びメンテナンスが容易となる。また、比較的水深の深い所の波エネルギーも回収し易い。なお、導水路20の下方に関しては、垂直軸型水車41Cの翼部分を下方に延長したり、垂直軸型水車41Cを複数基設けたりしてもよく、
図7に点線で示すように、垂直軸型水車41Cの下方に軸流型水車41Aを配置して、波エネルギーの回収効率を上げてもよい。
【0135】
更に、
図8に示すように、船首系波Awfの水流を水面WLよりも上方に誘導することで、船首系波Awfの位置エネルギーを利用して、水面WLより高い位置から水を落としながら水車41を回転駆動することも考えられる。この波エネルギー回収装置40としては、越波型の水力発電装置を参考にすることができる。この越波型の内エネルギー回収装置40では、水流を水面WLより上方に導くために、導水路20に床部26を設けて構成する。また、必要に応じて、一時的に内部流を水面WLより上に維持する貯水部27を設ける。
【0136】
なお、この越波型で使用する水車41としては、軸流型水車41Aが適していると考えるが、導水路20の形状を工夫することで、水平軸型水車41B,垂直軸型水車41Cを使用できると考える。この場合でも、床部26より下方に、軸流型水車41Aを配置したりして、波エネルギーの回収効率を上げてもよい。
【0137】
これらの水車41と発電装置42を一体でユニット化して、このユニットを幅方向Yや上下方向Zに複数基配置することで、曳波低減システム10のコストを低減できる。例えば、小型のウォータージェット推進器と略同じ構造の波エネルギー回収装置40、又は、小型の軸流型水車41Aと発電装置42とで構成されるポッド推進器と略同じ構造の波エネルギー回収装置40をユニット化する。また、
図5に示すように、導水路20の断面形状が縦長の形状になったり、
図9(a)に示すように、下方に広がる形状なったり、
図9(b)に示すように、上方に広がる形状になったりした場合でも、ユニット化した波エネルギー回収装置40を上下方向Zや幅方向Yに並べることで対応できる。
【0138】
〔波エネルギー回収の効果〕そして、この波エネルギー回収装置40を用いる場合は、導水路20の出口22から内部流Wiが排出されるときには、内部流Wiの波エネルギーが吸収されているので、内部波Bw1が小さくなっている。従って、内部流Wiの排出に伴う波Bw23を小さくすることができる。なお、更に、この内部流Wiの排出に伴う波Bw23を小さくするためには、排出される内部流Wiの流速を、出口22の外側を流れる外部流と同じ流速にしたり、内部流Wiの排出位置を第2影響水深De2の近傍又はそれよりも水深の大きい位置にしたりすることが好ましい。
【0139】
そして、さらに、水車41(41A,41B,41Cの総称)を内部流Wiで回転させて波エネルギーを機械エネルギー(回転エネルギー)に変換して、さらに、発電装置42で、この機械エネルギーを電気エネルギーに変換する。この構成により、波エネルギー回収装置40により、内部波Bw1の波エネルギーを電力エネルギーなどの形で利用できるようにする。この電気エネルギーは、船舶1で使用する電力の一部として使用することができる。
【0140】
また、この電気エネルギーを推進力エネルギーの一部に使用すると、船舶1の推進に必要なエネルギーを減少させることができるので、全体としてみたときの推進のために必要なエネルギーを小さくすることができる。言い換えれば、実質的に推進性能を向上でき、造波抵抗が低減したのと同様の効果を得ることができる。
【0141】
〔内部流の推進利用〕また、曳波の水流を推進に利用する推進利用に関しては、
図10~
図13に示すように、導水路20の内部を流れる流体を、船舶1の推進用の流体の一部又は全部として使用する推進装置50を設けて構成する。この構成により、導水路20に導入される内部流Wiの運動エネルギーを推進力の一部に利用する。
【0142】
この内部流Wiは既に発生している内部波Bw1の波エネルギーのみならず、船首系波Awfを造波するエネルギーも含んでおり、これらのエネルギーの一部を推進エネルギーに転換するので、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2の波エネルギーを小さくすることができる。言い換えれば、波エネルギーは、これらの推進装置50の推進器の部分で推進用の水流のエネルギーに変換する。その結果、全体としてみたときの推進のために必要なエネルギーを小さくすることができる。
【0143】
この推進装置50を用いる場合には、内部流Wiを水面WLの近傍で排出すると、波を発生する可能性が大きいので、第2影響水深De2の近傍又はそれよりも水深の大きい位置で排出することが好ましい。そのため、導水路20としては天井部25を備えた下部開放構造、又は、上下閉鎖構造が好ましい。ただし、この内部流Wiの排出に伴う波Bw23を、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2に対する外部干渉波Cw2として使用する場合はこの限りではない。
【0144】
この推進装置50としては、
図10に示すように、ウォータージェット推進器に近い機構のウォータージェット型の推進器51を使用することができ、また、
図11に示すように、ポッド推進器に近い機構のポッド型の推進器52を使用することができる。
【0145】
〔内部流の流入速度への対応〕しかしながら、この推進装置50では、船舶1の前後方向Xに平行に配設された導水路20に内部流Wiを流入させているので、一般的なウォータージェット推進器で船底2dに設けた吸引口から吸引してポンプに導く代わりに、前方から流入してくる内部流Wiをポンプに導くことになる。そのため、従来技術のウォータージェット推進器のポンプをこの流入速度に対応させる必要がある。また、ポッド推進器も従来技術では船舶の伴流領域に配置されてきており、内部流Wiの流入速度に対応できるようなプロペラ形状にする必要がある。
【0146】
なお、運動量の変化による推力の発生と流体の運動エネルギーとの関係を考えると、運動量の速度を増加させる場合には、同じ加速度であっても、高速で流入してくる流体を加速するためには、低速で流入してくる流体を加速するよりも、大きなエネルギーが必要となると考えられる。そのため、推進力を得るための流体の速度を増加する方法は、低速流体の場合に適していると考える。
【0147】
一方、運動量の質量を増加させる場合には、流体の運動エネルギーの増加は少なくて済むので、高速流体の場合には、周囲の流体を巻き込む機構、例えば、
図12に示すように、気体や液体を駆動源とするエジェクター(エゼクター:ejector)に近い機構の噴射流型の推進器53を推進力発生に用いることが好ましいと考えられる。
【0148】
なお、
図10(a)、
図11(a)、
図12(a)は、導水路20の内部流の排出に伴う波Bw23が大きいと予測されて、導水路20の出口22を第2影響水深De2の近傍の水深が深い位置に設けた場合を示し、
図10(b),
図11(b)、
図12(b)は、導水路20の内部流の排出に伴う波Bw23が小さいと予測されて、導水路20の出口22を水深が浅い位置から深い位置まで設けている場合を示す。
【0149】
そして、従来技術の比較的低速のウォータージェット推進器やポッド推進器を使用しながら、内部流Wiの流入速度への対応の第1の方法として、
図13(a)に示すように、推進装置50の前方において波反射用側壁23に導水路20の外から水流を導入するためのスリットや開口孔などの開口部又は導水管等で形成される外部流導入機構23aを設けて、推進装置50の稼働時に外部流を導入することで、推進装置50で加速する質量を増加することが考えられる。
【0150】
また、この内部流Wiの流入速度への対応の第2の方法として、
図13(b)に示すように、推進装置50を導水路20の出口直後又は出口近傍に配置して、推進装置50の稼働時に導水路20の外側から水流を巻き込むことで、推進装置50で加速する質量を増加することが考えられる。
【0151】
また、この内部流Wiの流入速度への対応の第3の方法として、推進装置50で加速する質量の増加ではないが、
図13に点線で示すように、推進装置50の前方に設けた波エネルギー回収装置40で波エネルギーを吸収する際に内部流Wiの運動エネルギーの一部を吸収することで、推進装置50で加速する内部流Wiの流速を低下させておくことも考えられる。
【0152】
また、この内部流Wiの流入速度への対応の第4の方法として、内部流Wiは非圧縮性流体であるので、導水路20を上下閉鎖構造で構成して、流入断面積に対して流出断面積を大きくすることにより、内部流Wiの排出時の流速を低減できる。例えば、流入断面積に対して流出断面積を3倍にすると、流出平均流速は流入平均流速の3分の1となる。従って、導水路20に拡大水路を設けて、この拡大水路の流出断面積を入口断面積より大きくすることにより、ポンプやプロペラを通過する内部流Wiの流速を遅くすることができる。従って、流出側の水路を複数設けて、これらの各水路に推進器を設けることで、比較的低速用のプロペラ等の技術を使用して推進力を得ることができるようになる。一方、内部流Wiの流速を低下させると、運動量の法則に従って、速度低下により運動量が変化する分だけ推進抵抗が発生するので、速度低下するまでに十分に波エネルギーと運動エネルギーを吸収しておくことが好ましい。
【0153】
〔推進装置の複数配置〕この推進装置50を少ない基数で構成する場合には、推進装置50の一基当たりの発生推力が大きくなる。これに対して、推進装置50をユニット化して多数基で構成すると、一基当たりの発生推力が小さくなり、既に実用化されている装置を使用できるようになる。また、導水路20の断面形状が縦長の形状になったり、下方に広がる形状や上方に広がる形状になったりした場合でも、推進装置50を上下方向Zや幅方向Yに並べることで対応できる。
【0154】
〔推進装置の制御〕また、船舶1の停止時から航行速度までの広範囲で推力を得る必要がある場合には、ウォータージェット推進機構のポンプのインペラ、又は、ポッド推進機構のプロペラを、固定ピッチプロペラ(FPP)で構成し、回転数制御としてもよいが、回転数一定でも推力を変更できる可変ピッチプロペラ(CPP)とすることが好ましい。この可変ピッチプロペラの採用により、旋回や針路保持などの操船操作で推進力のより微妙な制御を行えるようになる。また、複数の推進装置50で、稼働又は停止させる推進装置50を選択することで、推進力の調整も単純化できる、
【0155】
〔船舶の推進力の側方配置〕そして、この導水路20の内部流Wiを推進に利用する推進装置50を用いて船舶1の推進力の全部を得る場合では、従来技術の船尾配置のスクリュープロペラ、ウォータージェット推進等が不要になる。また、導水路20と推進装置50とが両舷に配置されていることにより、推進装置50の推進力の個別制御により、船舶1の旋回モーメントを発生できるようになる。従って、推進装置50の制御で船尾舵の補助を可能にしたり、船尾舵そのものを不要にしたりすることができる。さらに、従来技術の推進器を駆動するための機関を配置したり、舵取機を配置したりするために必要な船尾側の容積を減少又は不要にできる。
【0156】
〔船尾形状の自由度の増加〕その結果、船尾形状を従来の複雑な船尾形状から大きく変形できるようになるので、船尾形状の自由度を増加することができる。言い換えれば、船尾形状を流線型形状や対称翼の翼型形状やそれらの近似形状等の比較的単純な形状に変化させることができる。その結果、船体没水部2の船尾部で発生するビルジ渦と、船尾配置の推進用機器で発生する水流と、舵による流れの間の船尾における相互干渉を減少又は無くした船尾形状にすることができる。また、船尾部及び船尾側の肩部で発生する船尾系波も減少できる。その結果、船尾における圧力抵抗や船尾系波の造波抵抗を低減できる。
【0157】
〔干渉波による内部波の低減〕そして、干渉波による低減方法に関しては、導水路20の内部における内部波Bw1に対して、干渉波(内部干渉波)Cw1を発生させて内部波Bw1の波エネルギーを低減する内部干渉波発生装置60を設けて構成する。この構成により、比較的簡単な構成で内部波Bw1を減少でき、内部流Wiが排出されるときの導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23を小さくする。
【0158】
一般的には、内部波Bw1は、波反射用側壁23と船体没水部2との間で反射を繰り返す上に、しかも船速Vsや船舶1の載荷状態によって大きく変化するため、導水路20の入口近傍では、内部波Bw1の波パターンと波特性は、二次元的(平面的)に高低がある複雑な波になる可能性がある。
【0159】
しかしながら、内部波Bw1の挙動は狭水路における波の伝搬となるので、導水路20の入口近傍では複雑な状態であっても、ある程度進行した後は、幅方向Yに均等化され、幅方向Yの高低の変化が少なくなって、一次元的(直線的)に高低の変化がある比較的単純な波になると考えられる。
【0160】
従って、この内部干渉波発生装置60は、導水路20の内部波Bw1の波パターンと波特性に対応して、発生させる内部干渉波Cw1の波パターンと波特性を対応させる必要がある。しかし、導水路20の出口で内部波Bw1が小さくなっていればよいので、言い換えれば、導水路20の内部流Wiの排出に伴う波Bw23が小さくなっていればよいので、ある程度進行して単純化した内部波Bw1に対して、比較的単純な内部干渉波Cw1を発生させることで十分に対応できると考える。
【0161】
この内部干渉波発生装置60の具体的な装置としては、船首バルブに似た形状のバルブ体(流体力学的には「Point Doublet」、「二重吹出し」「二重湧出し」)、水流を吸い込む吸込み部(「Sink」、「吸込み」)、水流を吹出す吹出し部(「Souce」)、「吹出し」「湧出し」)等が考えられる。
【0162】
そして、波の谷を発生し始める波を発生する「二重吹出し」効果を狙う場合には、内部波Bw1は幅方向に均一化すると考えられるので、内部干渉波Cw1を発生する内部干渉波発生装置60としては、船首バルブの小型化したもの以外に、
図14に示すように、幅方向Yに同じバルブ形状をした物体や翼型形状をした水平方向の支持部材61等が考えられる。
【0163】
また、波の谷から上昇し始める波を発生する「吸込み」効果を狙う場合には、
図15に示すように、ウォータージェット推進器用の吸水口やエンジン冷却水の吸水口等の吸込部62が考えられ、また、波の山から下降し始める波を発生する「吹出し」効果を狙う場合には、
図16に示すように、ウォータージェット推進器用の吹出口やエンジン冷却水の排水口等の吹出部63が考えられる。また、ポッド型推進器なども、「Sink+Souce」として考えられる。
【0164】
また、特に図示しないが、また、導水路20を分岐して、浅水路と深水路とを平行して設け、それぞれの内部波Bw1の波長を変化させた後に合流させることで、互いに干渉させることも考えられる。さらには、導水路20に迂回水路を設けて、内部波Bw1を分割して、主水路と迂回水路における波の相互間で波の位相差を生じさせて、合流させることで、互いに干渉させることも考えられる。
【0165】
〔船速変化への対応〕そして、これらの内部干渉波発生装置60の位置と発生する波エネルギーの大きさは、内部波Bw1の位相と波エネルギーの大きさに対応させることが好ましい。そのため、内部波Bw1の位相の変化に対しては、内部干渉波発生装置60の前後方向Xの位置を移動可能にして対応させることが好ましい。
【0166】
〔載荷状態の変化への対応〕また、内部波Bw1の波エネルギーの大きさの変化に対しては、内部干渉波発生装置60の上下方向Zの位置を移動可能にして、対応させたり、複数の内部干渉波発生装置60を上下方向Zに配置して、水没する内部干渉波発生装置60の個数を変化させたりする。また、内部干渉波発生装置60の稼働する個数を変化させたり、吸込量や吹き出し量を変更したりすることにより、内部干渉波発生装置60が発生する波エネルギーの大きさを変更できるようにすることが好ましい。
【0167】
〔波減衰機構〕そして、波減衰方法に関しては、導水路20の内部における内部波Bw1に対して、内部波Bw1を減衰させる波減衰機構70を設けるように構成する。この波減衰機構70では内部干渉波Cw1とは別の方法で内部波を減衰させる。この場合には、水流を妨げると推進抵抗になるので、内部流Wiの水を透過させながら、内部流Wiの上下方向の流速を抑制したり、前後方向の流れを均一化させたりする。この波減衰機構70では流路抵抗を少なくしながら、効率よく波エネルギーを散逸及び減衰される。なお、導水路20の内部波Bw1と内部流Wiの挙動に関しては、水路の河川工学、河川水理学等における「開水路」「跳水」等の研究が参考になると思われる。
【0168】
この波減衰機構70としては、
図17(a)に示すように、流れを均等流になるように整流する翼列などの整流部材71、
図17(b)に示すような導水路20の多層の床部72等が考えられる。また、
図18(a)に示すような天井部25に設けた突起部73、及び、床部26に設けた潜り堰74、
図18(b)に示すような床部26に設けた段差部75、階段部等も考えられる。さらには、
図19(a)に示すような下方開放の水門76等、
図19(b)に示すような波反射用側壁23に設けた突起壁部77等による拡大水路部や狭水路などの組み合わせも考えられる。これらの構造による導水路20の形状の変化により内部波Bw1を減衰する。
【0169】
この波減衰機構70は、内部流Wiの波成分の速度を均一化するための構造部材を配設するだけであるので、非常に単純で駆動部分が不要な安価な構成となる。しかしながら、その一方で、渦流が発生し易く、波エネルギーが渦のエネルギーに変化するだけになる可能性がある。そのため、曳波Awを低減する効果は得られるが、波エネルギーの散逸であるため、造波抵抗は減少せず、導水路20による摩擦抵抗と造波抵抗の増加があるので、推進性能面での効果が得られず、むしろ、悪化する可能性がある。しかしながら、曳波の環境への影響を少なくすることでできるので、制限航行速度を上げることで、船舶の稼働率を向上できるメリットがあると考える。
【0170】
〔導水路の外側へ伝搬する波〕次に、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2について考える。この導水路20の外側へ伝搬する波Bw2には、導水路20の外側の形状に起因して、導水路20の下側から導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21と導水路20の外側が発生する波Bw22がある。
【0171】
〔導水路の外側に漏出する船首系波〕そして、船首系波Awfの波長に対して船舶1の喫水dが大きくて、導水路20の波反射用側壁23を十分な水深まで設けられる場合には、導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21は相対的に小さくなり、導水路20の外側が発生する波Bw22が相対的に大きくなる。一方、船首系波Awfの波長に対して船舶1の喫水dが小さく、導水路20の波反射用側壁23を十分な水深まで設けられない場合には、導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21は相対的に大きくなり、導水路20の外側が発生する波Bw22は相対的に小さくなる。
【0172】
〔導水路の外側が発生する波〕導水路20の外側が発生する波Bw22については、導水路20の外側の形状を平面状に形成すると共に、先端部分を尖らして、水流を円滑に導水路20の内部と外部に分流して円滑に流すよう形成することで、排水量型の船舶1が発生する曳波Awに比べて著しく小さくすることができる。従って、通常は、導水路20の外側の形状を平面状に形成すると共に先端形状を適切な形状に形成するだけで、この導水路20の外側が発生する波Bw22に対する特別な低減対策を行う必要はないと考えられる。
【0173】
しかしながら、対象とする船舶1の船首部の形状によっては、導水路20の外側を平面で形成するよりも、曲面や折れ曲がり面を有して形成する必要がある場合も考えられる。また、操船性能の面やその他の理由で平面でない形状とする場合も考えられる。また、平面で形成した場合でも、境界層の発達により波を発生するので、更に、導水路20の外側が発生する波Bw22を低減したい場合もあると考える。
【0174】
これらの場合では、導水路20の外側の形状の模型の水槽での曳航実験における波形分析などにより、容易に波特性を把握することができるので、これらの導水路20の外側の形状に起因して発生する導水路20の外側が発生する波Bw22の波エネルギーを少なくする導水路20の外側の形状を開発することは、比較的容易であると考える。また、この導水路20の外側の形状は、単純な平面である必要は無いので、発生する波に合わせて、導水路20の外側に凹凸を設けることで、減少できる可能性がある。
【0175】
また、導水路20の外側の形状とこれに対する外部干渉波発生装置80との組み合わせを幾つかのパターンで用意しておき、対象とする船舶1に対しては、この幾つかのパターンから選択して採用することで、船舶1毎に波形解析を行うことなく対応できると考える。これにより、導水路20の外側が発生する波Bw22を低減するための研究開発の規模を小さくすることができる。
【0176】
〔導水路の外側に漏出する船首系波〕そして、導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21については、導水路20側の工夫によってある程度まで減少できるが、波反射用側壁23の下端の水深は船舶1の喫水dにより制限を受けるので限界がある。そのため、更に、導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21を減少する必要がある場合には、この波Bw21に関して、導水路20付の船舶1の模型の水槽での曳航実験における波形分析などにより、波特性を把握する。
【0177】
この場合に、導水路20の外側が発生する波Bw22が小さい場合や、導水路20に対して、導水路20の外側が発生する波Bw22の低減対策をした導水路20を用いている場合には、導水路20の外側に漏出する船首系波Bw21に対しての低減対策をしてもよく、また、導水路20の外側が発生する波Bw22を含んだ導水路20の外側へ伝搬する波Bw2に対しての低減対策としてもよい。
【0178】
〔外部干渉波発生装置〕そして、この導水路20の外側へ伝搬する波Bw2に対しての低減対策として、外部干渉波Cw2を発生する外部干渉波発生装置80を設ける。これにより、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2を小さくすることで、船舶1の外部へ伝搬する曳波Awを小さくして、船舶1全体の造波抵抗を小さくする。
【0179】
この導水路20の外側へ伝搬する波Bw2の波特性(波高分布等の波パターン)は、試験水槽における導水路付きの船舶の模型の曳航実験などで、比較的容易に把握できるので、この外部干渉波発生装置80も比較的容易に構成できると考える。
【0180】
〔外部干渉波発生装置の具体例〕この外部干渉波発生装置80としては、次のような構成が考えられる。一つ目は、
図20に示すような半バルブ81を有する干渉波発生部材81の構成である。この場合は、船首バルブの効果を参考にして、導水路20の外側面に垂直面で切断されているような片側半分の半バルブ81を設けることが考えられる。
【0181】
この場合に、導水路20では、比較的高速になっても水面近傍に設けたり、前方に大きく突出して設けたりすることが容易にできる。また、従来技術における船首バルブにおける模型による水槽試験、数値実験及び設計方法等を、二重吹き出し(Point Doublet)の効果を発揮するバルブを有する干渉波発生部材に使用して、半バルブを有する干渉波発生部材を設計することが容易にできるようになる。
【0182】
二つ目は、
図21に示すような周囲の水を吸引する吸込部82の構成である。この場合は、ウォータージェットの吸引部分などを吸込部として、吸込みの効果で発生する干渉波を利用できる。また、三つ目は、
図22に示すような流体を前方(上流側)に吹出す吹出部83で構成すると、吹き出しの効果で発生する干渉波を利用できるようになる。
【0183】
また、四つ目として、流体を後方(上流側)に吹出す噴射部で構成すると、後方への噴射の効果で発生する干渉波を利用できるようになる。この場合は、ウォータージェットの噴射部分やエジェクター等の噴射部を利用できる。五つ目は、
図23に示すような、船舶を推進する推進力の一部又は全部を発生する推進力発生装置84である。この場合は、水を吸込んで噴射するウォータージェット推進装置や、水流を加速して後方に押し出すポッド推進器などの推進力発生装置を利用できるようになる。
【0184】
〔船速変化への対応〕また、この外部干渉波発生装置80を、船舶の前後方向X、船舶の幅方向、船舶の上下方向Zの少なくとも一方向において移動可能に構成すると、次のような効果を発揮できる。つまり、船舶1の前後方向Xに移動できることにより、船舶1の船速の変化による自由波の山谷(位相)の位置(波パターン)の変化に対応できるようになる。より詳細には、導水路20の外側が発生する波Bw22の波長が船速Vsの2乗に比例して変化するので、船速Vsの増減に従って、自由波の山谷(位相)の位置が船舶1に対して変化するが、この波パターンの変化に対して、外部干渉波発生装置80の配置の前後位置を移動するように構成することで追従できるようになる。
【0185】
〔載荷状態の変化への対応〕また、船舶1の載荷状況(載荷量と船体の姿勢)に従って導水路20の外側の形状及び容積が変化し、導水路20の外側が発生する波Bw22の波エネルギーの大きさが変化する。この変化に対して、外部干渉波発生装置80の上下方向Zの移動で外部干渉波発生装置80から発生する外部干渉波Cw2の波エネルギーの大きさを増減させて対応することができるようになる。また、水平断面が半バルブ形状の部材を上下方向Zに延ばして設けて、船舶1の載荷状態によって、この水平断面が半バルブ形状の部材の水没する量が変化することで、自動的に外部干渉波Cw2の波エネルギーが変更されるように構成してもよい。
【0186】
さらには、複数の外部干渉波発生装置80を上下方向Zに配置して、水没する外部干渉波発生装置80の個数を変化させたり、外部干渉波発生装置80の稼働する個数を変化させたり、吸込量や吹き出し量を変更したりすることにより、外部干渉波発生装置80が発生する波エネルギーの大きさを変更できるようにする。
【0187】
〔水槽実験〕従って、外部干渉波発生装置80を付けた導水路20の模型の水槽試験等においては、外部干渉波発生装置80の配置位置を導水路20に対して前後方向X又は上下方向Zに少しずつ移動して、導水路20の各状態と船速Vsに対して、導水路20の外側が発生する波Bw22の低減効果が最大となる配置位置を求めておくことが好ましい。また、吸込み流速、吹き出し流速、流量の変更等による、導水路20の外側が発生する波Bw22の低減効果の変化等を求めておくことも好ましい。
【0188】
そして、これらの水槽実験の結果を用いることにより、導水路20の外側へ伝搬する波Bw2を、排水量の大きい船首部で発生する船首系波Awfよりも著しく小さくすることができる。また、導水路20の外側が発生する波Bw22は、排水量型の船型に比較すれば比較的単純な波になるので、この波Bw22が小さい形状の導水路20の開発も比較的容易にできる。なお、推進性能の面からは摩擦抵抗も少ないものがより好ましい。また、この導水路20の外側が発生する波Bw22を低減する導水路20の形状とこの外部干渉波発生装置80は、一旦開発してしまえば、他の船型に対しても使用できるので、曳波低減のための研究開発のためのマンパワーとコストを低減できる。
【0189】
〔導水路における摩擦損失の低減〕次に、導水路20における摩擦損失の低減について説明する。この導水路20を設ける曳波低減システム10では、導水路20を設けることにより、導水路20を設けたことによる抵抗の増加が生じる。この抵抗の内、造波抵抗は上記の方法により低減できるが、摩擦抵抗の増加の問題が生じる。この導水路20の配置における摩擦抵抗の増加は避けられないが、導水路20の内部流及び外部流の制御により小さくすることができる。
【0190】
この導水路20における摩擦抵抗の低減の第1の方法としては、摩擦抵抗は導水路20の水路壁の面積に比例するので、入口21と出口22の間の導水路20の長さを短くすることが有効な対策となる。しかしながら、導水路20の内部波Bw1に対する対策が必要であるので、この内部波Bw1への対処方法によってそれぞれある程度の長さが必要となる。
【0191】
波エネルギー回収装置40及び推進装置50の場合には、その後方の導水路20が不要になる場合もあるので、導水路20の長さを比較的短くできる場合がある。一方、内部干渉波発生装置60の場合は内部波Bw1に対して内部干渉波Cw1を干渉させるので、内部波Bw1の波長に関係してある程度の長さが必要となる。なお、波減衰機構70の場合には、急激に内部波Bw1を減衰させると渦流の発生などで抵抗が増加する可能性が有るので、ある程度の長さが有った方が良いと考えられる。
【0192】
また、第2の方法としては、摩擦抵抗は流速の2乗に比例するので、導水路20を流れる内部流Wiの流速を小さくする。例えば、波エネルギー回収装置40を用いることで、内部流Wiの運動エネルギーを回収して、内部流Wiの流速を低下させる。あるいは、推進装置50では、流速を増加させずに排出する又は加速する水の量を多くすることで、推進力を得る。
【0193】
また、第3の方法としては、導水路20の流路断面の中央部に近い内部流Wiの流速を大きくすることで、導水路20の水路壁に近い水の流速を小さくする。つまり、推進装置50で内部流Wiの水流を加速するときに、導水路20の中央側の水を加速することで、水路壁側の水の流速の上昇を抑制する。これにより、導水路20の水路壁における摩擦抵抗を減少して、導水路20の全体として摩擦抵抗の低減効果を得る。
【0194】
そして、第4の方法としては、導水路20の摩擦抵抗係数を低減する。例えば、導水路20の水路壁を加熱することで、水路壁に接する水の温度を上昇させて、摩擦抵抗を減少する。例えば、海水の動粘性係数ν(cm2/s)は、15℃から30℃で、約0.0119から約0.0085となり、約30%減となる。なお、導水路20の壁面の加熱のムラにより、水蒸気や気泡が発生する可能性のある場合には、波エネルギー回収装置40または推進装置50の効率の低下を回避するために、これらの装置40、50よりも後方の水路壁を加熱する。この水路壁の加熱するために主機の排熱を利用することが考えられる。
【0195】
また、第5の方法としては、導水路20の水路壁から導水路20の内部に水蒸気を壁面に沿わせて流すことで、水路壁の壁面の摩擦抵抗係数を気体(水蒸気)が混合した流体の摩擦抵抗係数にして、水路壁における摩擦抵抗係数を低減する。例えば、水路壁に水蒸気供給孔を設けることで、導水路20を流れる内部流Wiの流れにより、水蒸気を吸い込んで、水路壁近傍の内部流Wiに水蒸気を混入する。
【0196】
〔新たな船首形状〕なお、この導水路20に船底用導水路のための船底用床部28を設ける場合に、既存の船首形状では、船底2dを囲む船底用床部28が船底2dよりも下に出てしまう。従って、これを嫌うときには、船底用床部28の下端の位置を船底の位置又は船底よりも上に配置しても、船首部の周囲の流れが導水路20の内部に流入するように、船首部形状を再構成することが好ましい。つまり、この船首部の周囲の造波に寄与する水流の大部分を導水路20に流入抵抗が少ない状態で導入するために、船体没水部2の船首部の形状と導水路20の入口21の形状を新たに研究開発することが好ましい。
【0197】
例えば、船首部の形状を水流が幅方向や下方向ではなく、上方向に流れ込む形状、例えば、
図24に示すようなV字形状に形成して、波を発生する基になる水流が導水路20の内部に入るように工夫して、導水路20よりも下側に水流が漏れて、波が発生するのを防止する。また、船首部から発生する波も導水路20の内部に入るようにする。
【0198】
〔曳波低減システムの効果〕上記のような導水路20の外側へ伝搬する波Bw2の低減策により、船舶1で発生する曳波Awの大きさを小さくすることができる。この船体没水部2で発生している曳波(自由波)Awの一部を導水路20に導入する曳波低減システム10は、既存の船舶1に対しても設けることができる。また、船体没水部2の船首部の形状に関わらず、言い換えれば、船首バルブの有無に影響されずに、曳波Awの低減効果及び造波抵抗の低減効果を発揮できる。
【0199】
さらに、典型的な導水路20の形状を設定して、この導水路20の外側が発生する波Bw22の波特性を船体と分離して、個別に把握できるようになるので、模型試験や数値シミュレーションによる試験の数を減少でき、導水路20の設計が容易となる。
【0200】
その上、船体没水部2の状態に対応した導水路20の状態と船速Vsの変化に対応して導水路20の外側が発生する波Bw22は変化する。この波Bw22の振幅と波パターンに対応させて、導水路20の外部干渉波発生装置80の没水深度、没水容積、前後位置、幅方向位置、容量などを比較的容易に変更できる。その結果、この波Bw22に対する外部干渉波Cw2を発生することが容易にできる。従って、造波抵抗の少ない導水路20を規格化して用意することができる。
【0201】
特に、従来技術の船型の船首部形状又は船首バルブの形状を変更することなく、導水路20を配置するだけで、船舶1の多様な航行速度Vs及び載荷状態に対応できるので、模型船を用いた水槽試験やCFDなどの数値ミュレーション計算において、船型を変更する必要が無く、模型船の変更または変形、船形データの修正入力等が不要になる。従って、船型の設計や実験や計算の手間を大幅に減少することができるようになる。
【0202】
〔船舶〕そして、本発明の実施の形態の船舶1は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システム10を備えて構成される。この曳波低減システム10(
図25、
図26では波エネルギー回収装置40)を備えた、従来船型の船舶1の例を
図25に、対称翼形状の船尾を持つ船舶1Aの例を
図26に示す。これらの構成により、上記のそれぞれの船舶1、1Aの曳波低減システム10と同様の効果を発揮できる。
【0203】
この対称翼形状の船尾を持つ船舶1Aでは、
図26に示すように、船体没水部2の後半部Rbsが、船舶の上下方向Zに関して、満載喫水線WLまたは計画喫水線より下側において、深さ方向の少なくとも50%の範囲において、連続的又は断続的に水線面形状の70%が対称翼90の後半部Rbwの形状Swingで形成されている。言い換えれば、船体没水部2の後半部Rbsの水線面形状の70%が対称翼90の後半部Rbwの形状Swingの70%と一致するように構成される。
【0204】
図26(a)では、船舶1Aの船体没水部2の後半部Rbs(船体没水部2の前後方向Xに関する中央Pmより後方)を対称翼(NACA0020翼)90の後半部Rbw(対称翼90の前後方向Xに関する中央Pmより後方)の形状Swingで形成している例を示す。なお、
図26(b)は、対称翼(NACA0020翼)90の全体を示す。また、対称翼90はこのNACA0020翼に限定されず、その他の対称翼であってもよい。
【0205】
この構成によれば、船体没水部2の後半部Rbsの大半を対称翼の後半部Rbwの形状Swingで形成するので、船尾側における流れを単純化でき、後方肩部及び船尾による波の発生を抑制できる。従って、船体没水部2の後半部Rbsで発生する波のエネルギーを低減できるので、曳波低減システム10の造波抵抗低減効果に加えて、船舶1Aの全体としての造波抵抗を大幅に減少することができる。また、船尾の対称翼形状により船尾における流れを円滑にすることにより、造波抵抗の低減に加えて圧力抵抗も低減できるので、船舶1Aの抵抗を大きく低減できる。
【0206】
なお、
図25及び
図26においては、プロペラやウォータージェット推進審装置やポッド推進器などの推進システムを示していないが、本発明の曳波低減システム10は、船体没水部2の形状に関わらず、また、推進システムに関わらず、対象の曳波Awを低減するものであるので、船舶1、1Aが対象の曳波Awを発生するものであれば、適用できる。
【0207】
〔船舶の曳波低減方法〕そして、本発明の実施の形態の船舶の曳波低減方法は、航走時に曳波Awを発生する船舶1において、少なくとも船舶1が前進方向Xに航走しているときに、船舶1の船体没水部2が発生する船首系波Awfの一部又は全部を、船舶1の両舷で船体没水部2の表面から離間した位置に配置された波反射用側壁23で船体没水部2の側に反射して、船首系波Awfの波エネルギーの一部又は全部を有する水流を波反射用側壁23と船体没水部2との間に設けられた導水路20に導入することで、船舶1の外部へ伝搬する曳波Awを低減する方法である。この船舶の曳波低減方法によれば、船体没水部2の船首側で発生する一部又は全部を導水路20に導入することにより、船舶1の外部へ伝搬する曳波Awを低減することができる。
【0208】
あるいは、本発明の実施の形態の船舶の曳波低減方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システム10を用いて、船舶1の曳波Awを低減する方法である。この船舶の曳波低減方法によれば、上述した船舶の曳波低減システム10を用いることにより、船舶1の外部へ伝搬する曳波Awを低減することができる。
【0209】
〔船舶の造波抵抗低減方法〕そして、本発明の実施の形態の船舶の造波抵抗減方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減方法を用いて、船舶1の造波抵抗を低減する方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法で曳波Awの特に後方に拡散する横波の波エネルギーを低減することにより、造波抵抗を低減できる。
【0210】
〔船舶の改造方法〕そして、本発明の実施の形態の船舶の改造方法は、上記のいずれかの船舶の曳波低減システム10を既存の船舶に追加して設ける方法である。この方法によれば、上記のそれぞれの船舶の曳波低減方法と同様な効果を発揮でき、曳波Awを低減できると共に、曳波Awの特に後方に拡散する横波のエネルギーを低減することにより、造波抵抗を低減できる。
【0211】
〔実船に関する試算例〕次に、実船を想定した場合の船舶の大きさと曳波低減システム10の導水路20の配置位置との関係について試算してみる。ここでは、実船の例として、マラッカマックスと呼ばれる肥大タンカー船と、23,000TEU型と呼ばれる高速コンテナ船と、DDG179と呼ばれる護衛艦について試算する。
【0212】
〔実船の諸元〕この肥大タンカー船の諸元は、載荷重量トンが30万トンで、船長(Lt)333m、幅(Bt)60m、満載吃水(dc)20.5m、航行速度(Vs)15.5ノット(約8.0[m/s])、主機関出力27,020kWである。また、高速コンテナ船の諸元は、載荷重量トン22.5万トンで、船長(La)400m、幅(Bc)61.5m、満載吃水(dc)16.4m、航行速度(Vs)23.5ノット(約12.1[m/s])、主機関出力60,000kWである。そして、護衛艦の諸元は、標準排水量トンが8200トンで、船長(Ld)170m、幅(Bd)21m、喫水(dd)6.2m、航行速度(Vs)約30ノット(約15.4[m/s])である。
【0213】
〔制限航路における曳波低減対策〕最初に、東京湾の浦賀水道航路など航行する際の曳波対策としての実用化について考えてみる。これらの航路では、12ノット(約6.17[m/s])以下で航行することになっているので、波長Lw0=Lw(0°)=24.4m以下となる。この12ノットにおけるケルビン波の波パターンと各船舶の大きさとの比較を
図27に示す。なお、各船舶の図形は単に船長と船幅を示すだけであり、船型は実際とは異なる。また、実際には、船体の影響を受けるため、曳波Awの波パターンはケルビン波から変形したものとなる。
【0214】
そして、船長Lt、La、Ldに対して、肥大タンカー船では、Lw0/Lt=0.07となる。また、高速コンテナ船では、Lw0/La=0.06となる。そして、護衛艦では、Lw0/Ld=0.14となる。また、喫水dに対しては、上記の船舶の内で最も喫水の浅い護衛艦でも、喫水(dd=6.2m)は波長Lw0の25%程度となり、波のエネルギーが4%程度になると推定される水深となるので、曳波低減システム10による曳波低減方法は有効であると考える。
【0215】
〔航行速度における曳波低減対策〕次に、各船舶1の航行速度における曳波低減について考える。先ず、大型タンカー船の航行速度Vst=15.5ノット(約8.0[m/s])では、波長Lw0=40.1mとなる。また、高速コンテナ船の航行速度Vst=23.5ノット(約12.1[m/s])では、波長Lw0=93.7mとなる。そして、護衛艦の航行速度Vst=約30ノット(約15.4[m/s])では、Lw0=151.8mとなる。これを、船長幅との比でみると、肥大タンカー船では、また、高速コンテナ船では、Lw/La=0.23となる。そして、護衛艦では、Lw/Ld=0.89となる。これを、
図28~
図30に示す。
【0216】
そして、大型タンカー船の満載吃水20.5mは、波長の51%となり、また、高速コンテナ船の満載吃水16.4mは波長の35%となる。一方、護衛艦の喫水6.2mは波長の8%程度となるので、床部26が無い場合には、波のエネルギーの一部が、導水路20の下を通って導水路20の外側へ伝搬するものと考えられる。
【0217】
また、肥大タンカー船等の比較的低速の商船に関しては、波エネルギー回収装置40や推進装置50、内部干渉波発生装置60、波減衰機構70を利用できる。一方、護衛艦のような高速で航行する船舶においては、内部干渉波発生装置60を配置することは難しいが、波エネルギー回収装置40や推進装置50などを利用できる。
【0218】
〔その他〕また、上記のように曳波低減システム10を用いることに関しては、次のようなことが考えられる。導水路20に浮力に関しては、導水路20を中立浮力とすることで、船舶1の復原性への影響を少なくすることができる。一方、導水路20に浮力を持たせることで、復原性を向上できる。
【0219】
波エネルギー回収装置を設けた場合には、向かい波等の外部の波エネルギーを利用できる導水路20に天井部25を設けた場合には、上甲板の面積を増加できる。
【0220】
また、ステルス性に関しては、導水路20の外側の側壁を傾斜させることで、電波に対するステルス性を増加できる。機関室、冷却水の排出部、排気ガスの排出部など熱の排出部や騒音を発生する部位の外側に導水路20を設けることにより、熱と音に関するステルス性を増加できる。また、振動や音を吸収できる部材を導水路20に使用した場合は、音に関するステルス性を増加できる。
【符号の説明】
【0221】
1 船舶
2 船体没水部
2a 船首部
2c 船側
2d 船底
3 上甲板
10 曳波低減システム
20 導水路
20A 上下開放水路
20B 下部開放路
20C 閉囲水路
21 入口
21a 入口の下端
22 出口
23 波反射用側壁
23a 外部流導入機構
24 支持部材
25 天井部
26 床部
27 貯水部
28 船底用床部
40 波エネルギー回収装置
41 水車(波エネルギー回収装置)
41A 軸流型水車(波エネルギー回収装置)
41B 水平軸型水車(波エネルギー回収装置)
41C 垂直軸型水車(波エネルギー回収装置)
42 発電装置(波エネルギー回収装置)
50 推進装置
51 ウォータージェット型の推進器(推進装置)
52 ポッド型の推進器(推進装置)
53 噴射流型の推進器(推進装置)
60 内部干渉波発生装置
61 支持部材(内部干渉波発生装置)
62 吸込部(内部干渉波発生装置)
63 吹出部(内部干渉波発生装置)
70 波減衰機構
71 整流部材(波減衰機構)
72 多層の床部(波減衰機構)
73 突起部(波減衰機構)
74 潜り堰(波減衰機構)
75 段差部(波減衰機構)
76 下方開放の水門(波減衰機構)
77 突起壁部(波減衰機構)
80 外部干渉波発生装置
81 半バルブ(外部干渉波発生装置)
82 吸込部(外部干渉波発生装置)
83 吹出部(外部干渉波発生装置)
84 推進力発生装置(外部干渉波発生装置)
90 対称翼
Aw 曳波
Awa 船尾系波
Awf 船首系波
Awfp 船首系波発生源
Bw 導水路が関係する波
Bw1 導水路の内部における内部波
Bw2 導水路の外側へ伝搬する波
Bw21 導水路の外側に漏出する船首系波
Bw22 導水路の外側が発生する波
Bw23 導水路の内部流の排出に伴う波
Cw1 内部干渉波
Cw2 導水路の外側へ伝搬する波に対する外部干渉波
Cw21 導水路の外側が発生する波に対する干渉波
Cw22 導水路の外側に漏出する船首系波に対する干渉波
De1 第1影響水深
De2 第2影響水深
Dw 最終的に外部へ伝搬する波
Lac 対象波発生源の経路
Lap カスプライン
Lc 船体中心線
Pm 船体没水部(対称翼)の前後方向に関する中央
Rbs 船体没水部の後半部
Rbw 対称翼の後半部
Swing 対称翼の後半部の形状
Vs 航行速度(船速)
Wi 内部流
WL 水面(航走時喫水線:静水面)
X 前後方向(船舶の前後方向)
Y 幅方向(船舶の幅方向)
Z 上下方向(船舶の上下方向)
θ 波の伝搬方向の角度
θc カスプラインの角度