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特開2023-8275アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液
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  • 特開-アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008275
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/72 20060101AFI20230112BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20230112BHJP
   C11D 3/10 20060101ALI20230112BHJP
   C11D 3/06 20060101ALI20230112BHJP
   C11D 3/08 20060101ALI20230112BHJP
   C23G 1/22 20060101ALI20230112BHJP
   B08B 3/04 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C11D1/72
C11D3/04
C11D3/10
C11D3/06
C11D3/08
C23G1/22
B08B3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111702
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 芳明
(72)【発明者】
【氏名】常石 明伸
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏志
【テーマコード(参考)】
3B201
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
3B201AA21
3B201AB01
3B201BB01
3B201BB21
3B201BB92
3B201BB96
3B201CB11
3B201CC11
4H003AC08
4H003DA09
4H003DB01
4H003DC01
4H003EA08
4H003EA15
4H003EA16
4H003EA21
4H003FA19
4H003FA28
4K053PA10
4K053QA04
4K053RA22
4K053RA28
4K053RA66
4K053SA04
4K053TA12
4K053TA16
4K053TA18
4K053TA19
(57)【要約】
【課題】アルミニウム又はアルミニウム合金製材料の成型加工後の洗浄性に優れたアルカリ洗浄液を提供する。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄剤において、アルカリ成分と、下記式で表されるノニオン活性剤とを含有することを特徴とする。
R-O-(AO)-H
式中、Rは炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、AOは炭素数2~5のオキシアルキレン基を表し、nはオキシレン基の平均付加モル数を表し、2~80である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ成分と、下記式で表されるノニオン系界面活性剤とを含有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
R-O-(AO)-H
式中、Rは炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、AOは炭素数2~5のオキシアルキレン基を表し、nはオキシレン基の平均付加モル数を表し、2~80である。
【請求項2】
前記アルカリ成分が、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、無機リン酸アルカリ金属塩及びケイ酸アルカリ金属塩から選択される少なくとも一種類である請求項1記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
【請求項3】
前記アルカリ成分が0.5~50.0g/L、ノニオン系界面活性剤が0.1~10.0g/Lの量で含有され、pHが10.0~12.0である請求項1又は2記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
【請求項4】
前記アルミニウム又はアルミニウム合金が、アルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する工程を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶を洗浄する脱脂手段を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液及びこの洗浄液を用いた洗浄方法並びに洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、両者を合わせて「アルミニウム」ということがある)から成る圧延板、缶及び容器などの成形加工品は広く使用されており、これらの成形加工品には、潤滑剤やアルミニウム粉末(スマット)等が付着していることから、成形後に脱脂洗浄することが必要である。中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金板から成るシームレス缶は、アルミニウム板に絞りしごき加工等の過酷な加工を施すことにより得られることから、一般に潤滑剤やクーラントを用いて成形される。その結果、絞りしごき加工後のシームレス缶(DI缶)にはアルミニウム粉末の他、潤滑剤及びクーラント由来の油汚れが付着している。
このような潤滑剤等が付着したシームレス缶においては、次いで行われる塗装・印刷工程に付される前に、付着した潤滑剤等を除去する必要があり、この洗浄性の優劣は、次いで行われる表面処理や塗装の品質に大きな影響を及ぼすことになる。
【0003】
アルミニウム製シームレス缶を洗浄するために現在工業的に使用されている洗浄液は、フッ化水素酸と少なくとも1種の界面活性剤から成る硫酸水溶液、或いはリン酸、硝酸等と少なくとも1種の界面活性剤から成る水溶液等から成る酸性洗浄液であり、これらの酸性洗浄液は、アルミニウムの酸化物又は水酸化物を主成分とする酸化物層を形成することによりアルミニウム表面を化学的に不活性にして、ブラウンスポットと呼ばれる外観不良の発生を防止することができる等、多くの利点を有している(特許文献1)。
【0004】
その一方、酸性洗浄液を用いた洗浄は、アルミニウム製シームレス缶の洗浄ラインに使用されているステンレスや他の鉄合金から成る装置を腐食させるため、メンテナンスに手間を要すると共に、高温での洗浄が必要になる場合があり、経済性の点で劣っている。またフッ化水素酸及びフッ化アルミニウムを含有する廃液は、フッ素の廃液処理の点で環境負荷が大きいという問題もある。
【0005】
このような問題を生じないアルミニウム製シームレス缶の洗浄液として、アルカリ洗浄液も提案されている。
例えば下記特許文献2には、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩及び無機リン酸アルカリ金属塩、珪酸アルカリ金属塩から選ばれる一種または二種以上のアルカリビルダーを総量で0.5~40g/L、有機ホスホン酸及びその塩から選ばれる一種を0.2~10g/L、有機ホスホン酸及びその塩との安定度定数が5.0~14.0の金属イオンから選ばれる一種または二種以上の金属イオンを0.001~2g/L、界面活性剤を0.1~10g/Lを含有することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金用アルカリ洗浄液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5007482号公報
【特許文献2】特許第5051679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記アルカリ洗浄液においては、酸性洗浄液の欠点であった、洗浄装置の腐食性や、廃液の処理性、エネルギーコストを改善可能であると共に、酸性洗浄液と同様にアルミニウム製シームレス缶の脱脂洗浄が可能である。
しかしながら、アルカリ洗浄液を用いて洗浄されたアルミニウム製シームレス缶においては、洗浄後に行う塗装工程により形成される内面塗膜に金属露出が発生する場合があることが分かった。かかる金属露出が生じた箇所について検証を行ったところ無機成分が検出され、この無機成分は洗浄工程の前に行う予備洗浄工程中の洗浄水に含まれる金属石鹸に由来すると考えられる。すなわち、しごき加工時に用いられるクーラント中の脂肪酸が予備洗浄工程で金属石鹸を形成し、この金属石鹸がシームレス缶の表面に付着して、塗膜形成を阻害していると考えられる。
これは、従来のアルカリ洗浄液は、油汚れに対して優れた洗浄力を有しているものの、そのことにより油汚れのみが優先的に除去されてしまうことで、缶表面に付着した無機成分が残留し易い状態になっていることによるものと考えられる。
更にシームレス缶の洗浄装置においては、シームレス缶を缶底を上にした倒立状態でネット状のコンベアーベルトで搬送しながら上下方向から洗浄水を噴射するため、上方から洗浄水が直接噴射される缶外面側に比して、下方からコンベアーベルト越しに洗浄水が噴射される缶内面側は除去すべき汚れに洗浄水を到達させる点において勢いや量でやや劣ってしまう。
【0008】
従って本発明の目的は、潤滑剤等の油汚れと共に金属石鹸も除去可能な上述した問題を生じないアルミニウム又はアルミニウム合金用のアルカリ洗浄液及びこのアルカリ洗浄液を用いたアルミニウム製シームレス缶の洗浄方法及び洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、アルカリ成分と、下記式(1)で表されるノニオン系界面活性剤とを含有することを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液が提供される。
R-O-(AO)-H ・・・(1)
式中、Rは炭素数6~12の直鎖又は分岐のアルキル基を表し、AOは炭素数2~5のオキシアルキレン基を表し、nはオキシレン基の平均付加モル数を表し、2~80である。
【0010】
本発明の洗浄液においては、
1.前記アルカリ成分が、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、無機リン酸アルカリ金属塩及びケイ酸アルカリ金属塩から選択される少なくとも一種類であること、
2.前記アルカリ成分が0.5~50.0g/L、ノニオン系界面活性剤が0.1~10.0g/Lの量で含有され、pHが10.0~12.0であること、
が好適である。
【0011】
本発明によれば、上記アルミニウム又はアルミニウム合金が、アルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶であるアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液が提供される。
本発明によればまた、上記アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する工程を含む、アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法が提供される。
本発明によれば更に、上記アルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液でアルミニウム又はアルミニウム合金製DI缶を洗浄する脱脂手段を含むことを特徴とするアルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶の洗浄装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金用洗浄液においては、界面活性剤として上記式(1)で表される特定のノニオン系界面活性剤を使用することにより、シームレス缶表面、特に缶内面側に付着したスマットや潤滑剤等の油汚れと共に、塗工性に影響を与える金属石鹸も確実に除去することが可能となり、被覆性に優れた内面塗膜を形成可能なアルミニウム製シームレス缶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のアルミニウム製シームレス缶の洗浄工程の流れの一例を示すチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(洗浄液)
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金用のアルカリ洗浄液においては、アルカリ成分と共に、上記式(1)で表されるノニオン系界面活性剤を使用することが重要な特徴である。
従来よりアルカリ洗浄液においては、アルカリ成分(アルカリビルダー)と界面活性剤が使用されていたが、本発明においては、界面活性剤として特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いることにより、潤滑剤等の油汚れやスマット粉末と共に金属石鹸を同時に除去することが可能となり、内面塗料の塗工不良を有効に防止できることを見出した。
【0015】
[アルカリ成分]
本発明の洗浄剤に用いるアルカリ成分(アルカリビルダー)としては、従来アルカリ洗浄剤に使用されていたものをすべて使用することができるが、アルカリ金属水酸化物、炭酸アルカリ金属塩、無機リン酸アルカリ金属塩、及びケイ酸アルカリ金属塩から選択される少なくとも1種を好適に使用することができる。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を例示することができ、炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等を例示することができ、無機リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等を例示することができ、ケイ酸アルカリ金属塩としては、メタケイ酸ナトリウム等を例示することができる。上記アルカリ成分は1種を選択してアルカリビルダーとしてもよいし、2種以上の化合物を組み合わせて使用することができる。
【0016】
アルカリ成分は、洗浄液中に0.5~50.0g/L、特に3~15g/Lの量で含有することが好適である。上記範囲よりもアルカリ成分の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、アルミニウム表面のエッチングが充分に進行せず、アルミニウム表面が不均一になるおそれがあり、その一方上記範囲よりもアルカリ成分量が多い場合には、上記範囲にある場合に比してアルミニウム表面がエッチング過剰により肌荒れを起こすおそれがある。
【0017】
[ノニオン系界面活性剤]
本発明の洗浄液に用いるノニオン系界面活性剤は、前述した通り、上記式(1)において、Rで示される直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数が6~12、特に8~10であることが好適であり、またAOで表されるオキシアルキレン基の炭素数が2~5、特に2~3であることが好適であり、オキシアルキレン基の平均付加モル数が2~80、特に3~20であることが好適である。
上記ノニオン系界面活性剤を用いることにより、油汚れに対して高い浸透力を発現することが可能となり、潤滑剤や金属石鹸等の除去すべき成分を一緒に除去することが可能となり、アルミニウム表面に無機成分の残留がなく、内面塗料の塗工性に優れたシームレス缶を提供可能となる。
【0018】
ノニオン系界面活性剤は、洗浄液中に0.1~10.0g/L、特に0.5~3g/Lの量で含有することが好適である。上記範囲よりもノニオン系界面活性剤の量の少ない場合は、上記範囲にある場合に比して、洗浄性に劣るおそれがあり、その一方上記範囲よりもノニオン系界面活性剤の量が多いと、上記範囲にある場合に比して、洗浄液が発泡するおそれがある。
【0019】
[その他]
本発明の洗浄液は、水を溶媒とし、上記アルカリ成分及びノニオン界面活性剤を上述した含有量となるようにして調整するが、洗浄液の洗浄性及び油汚れへの浸透力を阻害しない範囲において、必要により、消泡剤や水以外の溶媒を含有させることもできる。
本発明の洗浄剤は、pHが10.0~12.0の範囲にあることが好適である。上記範囲よりもpHが低いと、アルミニウム表面のエッチングが充分に進行せず、上記範囲にある場合に比して効率よく処理を行うことができず、その一方上記範囲よりもpHが高いとアルミニウム表面のエッチングの進行が速くなり、上記範囲にある場合に比してエッチング量の制御が難しくなるおそれがある。
【0020】
(アルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法)
本発明のアルミニウム又はアルミニウム合金の洗浄方法においては、上述した本発明の洗浄液を用いてアルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄する。これによりアルミニウム表面のスマット、油脂成分及び金属石鹸は除去され、アルミニウム表面がエッチングされる。また、絞りしごき加工により成形されたアルミニウム製シームレス缶を洗浄する場合であれば、成形加工に使用された潤滑剤やクーラントも除去される。尚、洗浄方法は、洗浄液に浸漬、或いは洗浄水を噴射(スプレー)する等従来公知の方法により行うことができる。
【0021】
アルミニウム表面のエッチング量を調整するためには、洗浄液中のアルカリ成分濃度、洗浄液のpH、洗浄液の温度、洗浄液をアルミニウムの表面に接触させる時間(洗浄時間)を調整する。
上述した通り、洗浄液のpHは10~12の範囲にあることが好適であるが、pHを調整することによりアルミニウム表面のエッチングの進行を制御することができる。
また洗浄時間及び洗浄液の温度を調整することによっても、エッチング量を制御することができ、これに限定されないが、pHが上記範囲にある洗浄液を55~65℃の温度に調整し、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面に10~60秒の範囲で接触させることが好適である。
【0022】
(アルミニウム又はアルミニウム合金製シームレス缶の洗浄方法)
アルミニウム製シームレス缶の洗浄方法においては、本発明の洗浄液を用いた脱脂工程を有する限り、特に制限はないが、好適には図1に示すように、予備洗浄工程、本発明の洗浄液を用いた脱脂工程、水洗工程、皮膜形成処理工程、水洗工程及び乾燥工程から成る。
【0023】
[アルミニウム製シームレス缶]
本発明の洗浄方法において、洗浄対象となるアルミニウム製シームレス缶は、成形時に潤滑剤及びクーラントを使用して成形されるアルミニウム製シームレス缶(DI缶)である。具体的には、3004材、3104材等の周知のアルミニウム又はアルミニウム合金から成るアルミニウム板を、鉱油、合成油等の従来公知の潤滑剤や、水溶性潤滑剤等の従来公知のクーラントを用いて、絞り加工、絞り・深絞り加工、絞り・しごき加工、絞り・曲げ伸ばし加工・しごき加工等の過酷な加工により成形されるシームレス缶(DI缶)である。またこのような成形方法により成形されたシームレス缶には、上記潤滑剤等のみならず、上記加工時に発生したスマット等も付着している。またアルミニウム表面は酸化アルミニウム被膜が形成されている。
【0024】
[予備洗浄工程・脱脂工程・洗浄工程]
潤滑油等が付着したアルミニウム製シームレス缶は、倒立状態で高速で、洗浄装置の脱脂工程へ連続的に搬入される。尚、脱脂工程の前には、スマット等を除去するために予備洗浄工程が必要により設けられている。尚、本発明の洗浄剤においては、前述した通り、予備洗浄工程における洗浄水に金属石鹸が含まれている場合でも、効率よくアルミニウム表面に付着した金属石鹸を除去できる。
脱脂工程においては、上述した本発明の洗浄液をアルミニウム製シームレス缶の上下方向から噴射(スプレー)することにより、ノニオン系界面活性剤がアルミニウム製シームレス缶表面に付着した潤滑剤等の油汚れに到達して、油汚れ及び金属石鹸を除去すると共に、アルミニウム表面をエッチングして、アルミニウム製シームレス缶表面に形成された酸化アルミニウム被膜を除去する。
脱脂工程に付されたアルミニウム製シームレス缶は、第1洗浄工程で水洗された後、皮膜形成処理工程に搬送される。
【0025】
[皮膜形成処理工程・洗浄工程]
皮膜形成処理工程においては、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸又はその無機酸塩を含有する従来公知の皮膜形成処理剤により、アルミニウム表面にアルミニウム主体の酸化物又は水酸化物を主成分とする層を形成して、アルミニウム表面を化学的に不活性にする。これによりアルミニウム製シームレス缶のブラウンスポットの発生を有効に抑制することが可能になる。
尚、図1に示す好適態様では、洗浄工程を第2水洗工程及び純水すすぎ工程の2工程で行っているが、これに限定されず、適宜変更することができる。
【0026】
[乾燥工程]
乾燥工程に搬入された、アルミニウム製シームレス缶は、オーブン等の乾燥機で加熱乾燥される。
【0027】
(洗浄装置)
本発明のアルミニウム製シームレス缶の洗浄装置においては、本発明の洗浄液を用いた脱脂手段を有する限り、特に制限はないが、成形装置から供給される潤滑剤等が付着したアルミニウム製シームレス缶を予備洗浄する予備洗浄手段、該予備洗浄手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を本発明の洗浄液を用いて脱脂処理する脱脂手段、該脱脂手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗手段、該水洗手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を皮膜形成処理剤で処理する皮膜形成手段、該皮膜形成手段から供給されるアルミニウム製シームレス缶を水洗する水洗手段、該水洗手段から供給されたアルミニウム製シームレス缶を乾燥する乾燥手段を備えると共に、前記成形装置から前記乾燥手段に至るまで、アルミニウム製シームレス缶を連続的に搬送する搬送手段を備えることが好適である。
【0028】
成形装置から搬入された潤滑剤等が付着したアルミニウム製シームレス缶は、倒立状態で搬送手段によって乾燥手段に至るまで連続的に搬送される。搬送手段としては、メッシュコンベアなどの従来公知の搬送手段を使用することができ、アルミニウム製シームレス缶が倒立状態で搬送手段の幅方向(進行方向に対して垂直の方向)に複数個並んだ状態で載置され、連続的に搬送される。
予備洗浄手段、脱脂手段、洗浄手段、皮膜形成手段の各手段には、本発明の洗浄液から成る脱脂剤、洗浄水、純水、皮膜形成処理剤をそれぞれの工程でアルミニウム製シームレス缶の上下方向から噴霧可能な複数の吐出口を有する噴霧装置及びアルミニウム製シームレス缶の缶底に溜まった脱脂剤や洗浄水等を吹き飛ばすためのブロア装置が設置されている。ブロア装置が設置されていることにより、缶底が内方に凹んだドーム型であっても、洗浄水などが溜まることが防止できる。
【実施例0029】
以下に、実施例と比較例を共に挙げ、本発明の効果をさらに具体的に説明する。
【0030】
(洗浄液の調製)
アルカリ成分として水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウム、ノニオン系界面活性剤として表1に示す組成のノニオン系界面活性剤を使用し、表1に示す濃度となるように洗浄液を調製した。
【0031】
(試験材)
JISA3004合金アルミニウム板を絞りしごき加工することにより成形された未洗浄のDI缶(径66mm×高さ124mm)を試験材として用いた。
【0032】
(試験方法)
試験材(未洗浄のDI缶)を以下の条件で、脱脂、水洗、乾燥した。
(1) 脱脂工程(各実施例及び比較例の洗浄液を試験材の内外面に50秒間スプレー)
(2) 水洗工程(水道水を20秒間スプレー)
(3) 脱イオン水洗工程(脱イオン水を20秒間スプレー)
(4) 乾燥工程(200℃の熱風で2分間乾燥)
【0033】
(評価方法)
(1)ERV(エナメルレイティング値)
エナメルレーターでERVを測定した。上記乾燥工程後のDI缶の缶底の外面側に金属露出部を形成して陽極に接続する一方、陰極を缶内に満たされた食塩水に浸して、室温(約23℃)下で、6Vの直流電圧を4秒間印加した後の電流値とする。評価基準は以下のとおりである。
〇:60mA以下、 ×:60mA超
【0034】
(2)外観評価
上記乾燥工程後のDI缶の外側面についてカラーコンピューター(スガ試験機製SM-3)により8か所測定し、平均値を得た。評価基準は以下のとおりである。
〇:明度47より低い(優)、 ×:明度47以上(劣)
【0035】
(3)脱スマット性
上記乾燥工程後のDI缶の内側面にセロファンテープ(ニチバン社製)を3か所に貼り付けた後、剥離する。剥離後のテープを白紙に貼り付け、カラーコンピューター(スガ試験機製SM-3)にて5か所の明度の測定し、平均値を得た。評価基準は以下のとおりである。
〇:明度82より低い(優)、 ×:明度82以上(劣)
【0036】
(4)水濡れ性
上記脱イオン水洗工程後のDI缶を30秒間放置し、そのときの水濡れ性面積を%で評価した。
【0037】
(5)発泡性
60℃に加温した洗浄液を100mLの有栓メスシリンダーに50mL採取し、有栓メスシリンダーの栓を押えて垂直上下に1分間30回激しく振とうし、ただちに発生した泡の最大高さを読み取る。評価基準は以下のとおりである。
〇:最大泡高さ20mmより低い(優)、 ×:最大泡高さ20mm以上(劣)
【0038】
(6)塗膜密着性
上記乾燥工程後のDI缶の内面に、エポキシ-アクリル系塗料を塗布し、215℃、3分間焼き付け、膜厚5μmの塗膜を形成した。この塗膜にカッターで碁盤目を入れ、脱イオン水に塩化ナトリウム5g/L及びクエン酸5g/Lを溶解した溶液の沸騰液中に60分間浸漬した後、水洗し、自然乾燥した。塗膜表面にテープを貼り付けて剥離し、テープ面を目視により評価した。評価基準は以下のとおりである。
〇:塗膜の剥離なし(優)、 ×:塗膜の剥離あり(劣)
【0039】
【表1】
図1