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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082821
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ボーリングヘッド
(51)【国際特許分類】
   B23B 29/12 20060101AFI20230608BHJP
   B23B 51/06 20060101ALI20230608BHJP
   B23B 29/034 20060101ALI20230608BHJP
   B23B 27/10 20060101ALI20230608BHJP
   B23Q 11/10 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B23B29/12 Z
B23B51/06 D
B23B29/034 B
B23B27/10
B23Q11/10 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196779
(22)【出願日】2021-12-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】591028072
【氏名又は名称】株式会社日研工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘宮 弘英
(72)【発明者】
【氏名】三▲角▼ 進
【テーマコード(参考)】
3C011
3C037
3C046
【Fターム(参考)】
3C011EE05
3C037DD06
3C046BB07
3C046MM07
3C046PP02
(57)【要約】
【課題】高圧クーラントを噴射することに起因するボーリングヘッドの反りを防止する。
【解決手段】ボーリングヘッド31は、クーラントが流れるヘッド通路34を有するヘッド本体32と、カートリッジ軸体36とを備える。ヘッド通路34は、ヘッド本体32の末端部から延出して軸線Oと重なって延びる軸線通路34sと、軸線通路34sの先端から分岐してカートリッジ軸体36および軸線Oを回避して配置される複数の出口通路34v,34w,34yを含み、第1出口通路34vは、切り欠き33bに設けられて切刃チップへ指向し、第2出口通路34wは軸線Oを挟んで切り欠き33bとは反対側に設けられる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端部から先端部まで延びてクーラントが流れるヘッド通路、ボーリングバーの軸線を挟んで前記先端部の一方側および他方側に形成される切り欠き、および前記一方側の切り欠きから前記他方側の切り欠きまで延びてボーリングバーの軸線と交差する横孔、を有するヘッド本体と、
前記横孔に通されて、一端および他端が前記軸線から遠ざかって配置され、前記一端に切刃チップが取り付けられるカートリッジ軸体と、
前記カートリッジ軸体の前記他端に設けられて、前記軸線から前記カートリッジ軸体の前記一端までの距離を調整する調整機構と、
前記先端部に設けられ、前記距離を調整された前記カートリッジ軸体を前記先端部に着脱可能に固定する固定機構とを備え、
前記ヘッド通路は、前記ヘッド本体の前記末端部から延出して前記軸線と重なって延びる軸線通路と、前記軸線通路の先端から分岐して前記横孔および前記軸線を回避して配置される少なくとも3本の出口通路を含み、
第1の前記出口通路は、前記一方側の切り欠きに設けられて前記切刃チップへ指向し、
第2の前記出口通路は、前記先端部の前記他方側のうち、前記横孔の他端よりも周方向一方に設けられ、
第3の前記出口通路は、前記先端部の前記他方側のうち、前記横孔の他端よりも周方向他方に設けられ、
前記第2以降の出口通路はそれぞれ、前記第1の出口通路よりも断面積を小さくされる、ボーリングヘッド。
【請求項2】
ボーリングバーの軸線方向位置に関し、前記第1の出口通路は、前記第2以降の出口通路よりも、軸線方向先端側に配置される、請求項1に記載のボーリングヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モジュラーボーリングシステムおよびボーリングバーの先端部材になるボーリングヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工を実行するボーリングバーは、例えばモジュラーボーリングシステムのように中継部材を追加することでボーリングバーの中心軸線方向に長くなり、深掘り加工を可能とする。ボーリングバーに関し、ボーリングバーの末端から先端まで延びるクーラント通路をボーリングバー内部に穿設し、クーラント通路を経由して、ボーリングバー先端の切刃チップにクーラントを供給する構造が知られている。このようなクーラント供給構造は例えば特開2021―030384号公報(特許文献1)に記載される。かかる構造によれば、切削箇所にクーラントを噴射して効率良く冷却することができ、高速加工に資する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-030384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のクーラント供給構造にあっては、さらに改善すべき点があることを本発明者は見いだした。つまり高圧のクーラントがボーリングバーの先端から切刃チップへ向かって勢いよく噴射すると、噴射時の反力で切刃チップを含むボーリングバー先端部がワークの反対側に反ってしまうことがわかった。そうすると切刃チップが切削箇所から遠ざかり、ボーリングの孔径が小さくなる懸念が生じる。特にモジュラーボーリングシステムのように中継部材を継ぎ足ししてボーリングバーが軸線方向に長くされる場合、切削加工の精度に影響が及ぶ。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、クーラントを勢いよく噴射しても加工精度に影響が及ばないボーリングバーの技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明によるボーリングヘッドは、ヘッド末端部からヘッド先端部まで延びてクーラントが流れるヘッド通路、ボーリングバーの軸線を挟んでヘッド先端部の一方側および他方側に形成される切り欠き、および一方側の切り欠きから他方側の切り欠きまで延びてボーリングバーの軸線と交差する横孔、を有するヘッド本体と、ヘッド先端部の横孔に通されて、一端および他端がボーリングバーの軸線から遠ざかって配置され、かかる一端に切刃チップが取り付けられるカートリッジ軸体と、カートリッジ軸体の他端に設けられて、ボーリングバーの軸線からカートリッジ軸体の一端までの距離を調整する調整機構と、先端部に設けられ、上述の距離を調整されたカートリッジ軸体を先端部に着脱可能に固定する固定機構とを備えることを前提とする。そしてヘッド本体のヘッド通路は、ヘッド末端部から延出してボーリングバーの軸線と重なって延びる軸線通路と、軸線通路の先端から分岐してヘッド先端部の横孔およびボーリングバーの軸線を回避して配置される複数の出口通路を含み、第1の出口通路は、ヘッド先端部の一方側の切り欠きに設けられて切刃チップへ指向し、第2以降の出口通路は、ヘッド先端部の他方側に設けられる。
【0007】
出口通路の本数は少なくとも3本あれば足り、特に限定されない。第2の出口通路は、ヘッド先端部の他方側のうち、横孔の他端よりも周方向一方に設けられ、第3の出口通路は、ヘッド先端部の他方側のうち、横孔の他端よりも周方向他方に設けられる。
【0008】
本発明において、第2以降の出口通路はそれぞれ、第1の出口通路よりも断面積を小さくされる。各出口通路の断面積は、少なくとも2本において等しくてもよいし、あるいは互いに異なっていてもよい。
【0009】
かかる本発明によれば、クーラントが複数の出口通路から噴射する際、噴射に伴う反力が、ボーリングバーの軸線を中心としてバランスの取れたものになり、噴射時のボーリングバーの反りを防止できる。したがってクーラントを切削箇所に大量供給しながら、高速かつ高精度の穴あけ加工が実現する。また本発明によれば、ボーリングバーの軸線からみて3方向以上の多方向にクーラントが噴射されることから、ボーリングバーの軸線を中心とする噴射バランスがさらに良好なものとなる。また本発明によれば、第2以降の出口通路の断面積が第1出口通路の断面積よりも小さくされることから、第2以降の出口通路の噴射速度が第1出口通路の噴出速度よりも大きくなり、第2以降の出口通路の噴射反力を大きくすることができる。また本発明によれば、第1出口通路の噴射流量を十分確保することができる。上述した末端および先端とは、ボーリングバーの軸線の根元および先端をいうと理解されたい。上述した先端部の一方側および他方側とは、ヘッド本体の中心軸線、つまりボーリングバーの軸線、を中心とする0°~180°の半円領域および180°~360°の半円領域をいうと理解されたい。本発明の好ましい局面として、ボーリングバーの軸線方向位置に関し、第1出口通路は、第2以降の出口通路よりも、軸線方向先端側に配置される。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、ボーリングヘッド先端部から切削箇所へクーラントを高速で噴射させても、ボーリングヘッドの反りを防止できる。したがってボーリングの孔径が小さくなる懸念が解消され、加工精度の低下が生じない。本発明は深穴加工に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す側面図である。
図2】同実施形態の接続箇所を示す拡大断面図である。
図3】同実施形態の通路接続部材を取り出して示す側面図である。
図4】同実施形態の通路接続部材を取り出して示す底面図である。
図5】同実施形態の変形例を示す拡大断面図である。
図6】本発明の他の実施形態を示す縦断面図である。
図7】ボーリングヘッドの先端部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるモジュラーボーリングシステムを示す全体図であって、図中の略半分が側面を、残りの略半分が縦断面をそれぞれ表す。モジュラーボーリングシステム10は、工具シャンク11と、中継アダプタ21と、ボーリングヘッド31とを備え、軸線Oを中心軸線として延びる。以下の説明において、シャンク側になる軸線O方向一方を末端といい、ヘッド側になる軸線O方向他方を先端という。
【0013】
工具シャンク11は、工具シャンク11末端に形成されるシャンク部12と、工具シャンク11先端に形成される先端接続部13を有する。シャンク部12は、フランジ部分と、フランジ部分から末端に向かって突出して徐々に細くなる軸部分とを含む、所定規格の寸法および形状であり、図示しない工作機械の主軸に着脱可能に装着される。先端接続部13は、円筒状であり、平坦な環状平坦面14と、環状平坦面14の中心に形成される凹部15と、円筒部16と、を有し、中継アダプタ21の末端接続部23が着脱可能に装着される。凹部15を区画する円筒部16の周方向所定箇所には、円筒部16の半径方向に延びて円筒部16を貫通する雌ねじである第1サイドロックボルト孔17が形成される。第1サイドロックボルト孔17は凹部15と接続する。第1サイドロックボルト孔17には第1サイドロックボルト18が螺合する。
【0014】
工具シャンク11の内部には、末端のシャンク部12から先端の先端接続部13まで延びるシャンク通路19が設けられる。本実施形態のシャンク通路19は、モジュラーボーリングシステム10の中心軸線である軸線Oに重なって延びる。シャンク通路19の末端は、シャンク部12に形成される大径の末端中心孔12hの底面と接続する。シャンク通路19の先端は、中間通路20を介して、先端接続部13の凹部15の底面と接続する。シャンク通路19の内径は末端から先端まで均一(つまり断面均一)にされる。またシャンク通路19の内径は、末端中心孔12hおよび中間通路20の内径よりも小さい。
【0015】
シャンク通路19および中間通路20は、同軸に配置される。ただし中間通路20の内径は、シャンク通路19の内径よりも大きく、凹部15の内径よりも小さくされる。なお図示しない変形例として、工具シャンク11のうち、シャンク部12および先端接続部13を除いた中央領域が長尺に形成されてもよい。かかる変形例では、中間通路20の軸線O方向寸法Lcが、シャンク部12の軸線O方向寸法や、先端接続部13の軸線O方向寸法よりも長くされる。これによりモジュラーボーリングシステム10は、図示しないワークに長い深穴を穿孔することができる。
【0016】
中継アダプタ21は、先端のボーリングヘッド31と末端の工具シャンク11の間に介在して、両者を接続する。このため中継アダプタ21は、上述した先端接続部13に対応する末端接続部23と、上述した先端接続部13と同一の先端接続部13を、両端それぞれに備える。なお図示はしなかったが、中継アダプタ21は、複数介在してもよく、あるいは中継アダプタ21は、末端接続部23から先端接続部13までの軸線O方向寸法が長い長尺部材であってもよい。これによりモジュラーボーリングシステム10は、図示しないワークに一層長い深穴を穿孔することができる。あるいは図示はしなかったが、モジュラーボーリングシステム10において、中継アダプタ21を介在させずにボーリングヘッド31と末端の工具シャンク11を直結してもよい。
【0017】
末端接続部23は、工具シャンク11の先端接続部13に着脱可能に連結される。末端接続部23は、環状平坦面23tと、環状平坦面23tの中心から突出する凸部25を有する。凸部25は円柱形状であり、周方向所定箇所に第1固定穴25hが形成される。凸部25が先端接続部13の凹部15に差し込まれて嵌合し、環状平坦面23tが環状平坦面14に面接触した状態で、第1固定穴25hは先端接続部13の第1サイドロックボルト孔17と連通する。第1サイドロックボルト孔17に螺合する第1サイドロックボルト18は、外径側(中心軸線Oから遠い側)に六角穴等の工具嵌合部18tを有し、外径側から第1サイドロックボルト18がねじ込まれると、第1サイドロックボルト18の内径側(中心軸線Oに近い側)の先端部が第1固定穴25hに進入する。第1サイドロックボルト18の先端部はテーパ形状にされ、第1固定穴25hはテーパ穴に形成されることから、第1サイドロックボルト18の先端部外径面は第1固定穴25hの内径面をテーパ同士の面対面で押圧し、くさびの作用で凸部25を凹部15内に引き込んで、環状平坦面23tを環状平坦面14に強力に押し付ける。これにより末端接続部23は先端接続部13に強固に接続固定される。
【0018】
反対に第1サイドロックボルト18が緩められると、第1サイドロックボルト18の先端部が第1固定穴25hから退出し、末端接続部23は先端接続部13から分離される。なお本実施形態の第1固定穴25hは、凸部25の半径方向に延び、平坦な底面の有底穴であり、後述する中継通路24と接続しない。
【0019】
本実施形態では1の先端接続部13に複数の第1サイドロックボルト孔17が周方向に間隔を空けて設けられる。各第1サイドロックボルト孔17は、軸線Oを中心として例えば周方向90°空けて2か所に配置される。第1固定穴25hも同様である。複数の第1サイドロックボルト18によって末端接続部23は先端接続部13に一層強固に接続固定される。
【0020】
中継アダプタ21には、中継通路24がさらに設けられる。中継通路24は、軸線O方向に延びる丸孔であり、軸線O方向に亘って内径一定である。本実施形態の中継通路24は、軸線Oと重なって延び、凸部25を貫通する。中継通路24の先端は、凹部15の底面と接続する。
【0021】
ボーリングヘッド31は、ヘッド本体32と、カートリッジ軸体36と、調整機構37と、切刃チップ39とを有する。ヘッド本体32は、軸線Oを中心として延びる円柱体であり、外周面を有する。ヘッド本体32の末端には、末端接続部23が設けられる。ボーリングヘッド31の末端接続部23は、上述した中継アダプタ21の末端接続部23と同様であることから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0022】
なお図1中、ボーリングヘッド31の末端接続部23は、中継アダプタ21の先端接続部13に接続固定されるが、図示しない変形例として工具シャンク11の先端接続部13に接続固定されてもよい。つまり末端接続部23は、ボーリングヘッド31の末端と、中継アダプタ21の末端に設けられる。また先端接続部13は、中継アダプタ21の先端と、工具シャンク11の先端に設けられる。そして中継アダプタの個数は0~複数の範囲で適宜調整される。互いに接続される末端接続部23および先端接続部13に関して、これら接続部がそれぞれ設けられる末端側の部材と先端側の部材(工具シャンク11と、中継アダプタ21と、ボーリングヘッド31)を、単に工具シャンク側部材とヘッド側部材ともいう。
【0023】
説明をボーリングヘッド31に戻すと、ヘッド本体32の先端部には切り欠き33b,33cおよび横孔35が設けられる。切り欠き33b,33cは、軸線Oを挟むように配置されてヘッド本体32の一方側および他方側にそれぞれ形成され、ヘッド本体32の外周面よりも窪んでいる。
【0024】
横孔35は、一方側の切り欠き33bから他方側の切り欠き33cまで延び、軸線Oと交差する。カートリッジ軸体36は、横孔35に通されて、軸線Oと交差する姿勢で変位可能に保持される。具体的には、カートリッジ軸体36の中央部が軸線Oと交差し、カートリッジ軸体36の両端が軸線Oから離れて配置される。
【0025】
カートリッジ軸体36の一端には切刃チップ39がねじ止めによって取り付けられる。ねじを緩めることにより、切刃チップ39は適宜交換可能である。切刃チップ39はヘッド本体32の外周面よりも外径側に突出する。軸線Oを中心としてモジュラーボーリングシステム10が回転することによって、切刃チップ39はワーク(図略)を切削して深穴を穿孔する。
【0026】
ヘッド本体32の先端部他方側の切り欠き33cには調整機構37が設けられる。調整機構37は、カートリッジ軸体36の他端に同軸に設けられる調整ダイヤル38を含み、カートリッジ軸体36を軸線O直角方向に変位させる。調整機構37の調整ダイヤル38を任意のダイヤル目盛だけ回動させることにより、カートリッジ軸体36は、横孔35の延在方向に沿って、ダイヤル目盛に対応する変位量で進退動する。
【0027】
調整ダイヤル38を一方へ回転させると、軸線Oから離れるようにして切刃チップ39が外径側へ変位し、深穴の穴径を大きくすることができる。反対に調整ダイヤル38を他方へ回転させると、軸線Oに近づくようにして切刃チップ39が内径側へ変位し、深穴の穴径を小さくすることができる。
【0028】
ボーリングヘッド31の先端部には、外周面から横孔35まで延びる雌ねじ孔が形成され、かかる雌ねじ孔にはサイドロックボルト40が螺合する。これらの雌ねじ孔およびサイドロックボルト40はカートリッジ軸体36を固定する機構である。サイドロックボルト40は、外周面からねじ込まれ、先端部分がカートリッジ軸体36に当接してカートリッジ軸体36を固定する。サイドロックボルト40を緩めると、カートリッジ軸体36は横孔35の延在方向に移動可能にされる。
【0029】
ボーリングヘッド31には、ヘッド通路34がさらに設けられる。ヘッド通路34は、末端側の軸線通路34sと、軸線通路34sの先端側から分岐して延びる途中通路34t,34u,34xと、途中通路34t,34u,34xの先端側と接続する複数の出口通路34v,34w,34yと、を含む。ヘッド通路34の断面積は、各出口通路34v,34w,34yで最も小さく、各途中通路34t,34u,34xの断面積が各出口通路34v,34w,34yの断面積よりも大きく、軸線通路34sの断面積が各途中通路34t,34u,34xの断面積よりも大きい。つまりクーラントがボーリングバーの先端へ進むにつれて、ヘッド通路34の断面積は小さくなる。またヘッド通路34はいずれも丸孔である。
【0030】
シャンク通路19と、中継通路24と、ヘッド通路34は、この順序で直列接続されて軸線O方向に延び、クーラント通路を構成する。図1左に矢で示すように主軸から末端中心孔12hにクーラントが供給され、クーラントは上述したクーラント通路を流れ、出口通路34v,34w,34yからワーク深穴の内径面へ噴射される。なお中継アダプタ21の個数は0~複数の範囲で適宜調整されることから、末端接続部23および先端接続部13によって互いに接続される末端側の通路と先端側の通路(シャンク通路19と、中継通路24と、ヘッド通路34)を、単にシャンク側通路とヘッド側通路ともいう。
【0031】
本実施形態のシャンク通路19から軸線通路34sまでは、軸線Oと重なって真っ直ぐに延び、先端へ向かうほど断面積が小さくなる。断面積が小さいほど流速が速くなり、出口通路34vから切削箇所へ向けてクーラントを勢いよく噴射させることができる。
【0032】
次にヘッド通路34につき詳細に説明する。
【0033】
軸線通路34sは、軸線Oと重なって延びる丸孔であり、凸部25を貫通する。軸線通路34sは、軸線Oと交差して延びる途中通路34tと接続する。図7は、ボーリングヘッド31を先端側からみた正面図である。途中通路34tは軸線Oと直交して延び、軸線通路34sの先端とT字状に接続する。なお途中通路34tの外径端は栓34bで封止される。途中通路34tの両端はそれぞれ、軸線Oと平行に延びる途中通路34u,34xの末端と、L字状に接続する。
【0034】
図1中、図面の煩雑を避けるため、一方の途中通路34uを破線で表し、途中通路34uと平行に延びる他方の途中通路34xは図略される。途中通路34u,34xの間には横孔35が延在する。横孔35は途中通路34u,34xから離隔しており、接続しない。
【0035】
図1に示すように、横孔35と重なる軸線O方向位置で、途中通路34uの先端部は第1出口通路34vと接続する。第1出口通路34vは、ヘッド本体32の軸線O方向の末端から先端へ延びる途中通路34uに対し、鋭角方向に真っ直ぐ延びる。第1出口通路34vの出口は、ヘッド本体32の一方側に配置され、具体的には切り欠き33bと接続する。そして第1出口通路34vは、カートリッジ軸体36の一端および切刃チップ39へ指向する。
【0036】
また途中通路34uの先端部は、第1出口通路34vの入口との接続箇所よりも末端側で、第2出口通路34wの入口と接続する。第2出口通路34wは、ヘッド本体32の末端側から先端側へ延びる途中通路34uに対し、鋭角方向に真っ直ぐ延びる。第2出口通路34wは、ヘッド本体32の他方側に配置され、具体的には切り欠き33cよりも周方向一方側の外周面と接続する。そして第2出口通路34wは、切刃チップ39とは反対側へ指向する。途中通路34u,34xの先端は栓34c,34dで封止される。
【0037】
図1に図略された途中通路34xの先端部は、横孔35と重なる軸線O方向位置で、第3出口通路34yと接続する(図7)。図1に図略された第3出口通路34yは、ヘッド本体32の軸線O方向の末端側から先端側へ延びる途中通路34xに対し、鋭角方向に真っ直ぐ延びる。第3出口通路34yは、ヘッド本体32の他方側に配置され、具体的には切り欠き33cよりも周方向他方側の外周面と接続する。そして第3出口通路34yは、切刃チップ39とは反対側へ指向する。第1~第3出口通路34v,34w,34yはいずれも、軸線Oを中心として内径側から外径側へ真っ直ぐ延びる。また第1~第3出口通路34v,34w,34yはいずれも、末端側から先端側へ向かうにつれて軸線Oから遠ざかるよう斜め方向に真っ直ぐ延びる。
【0038】
図7に示すように軸線Oを挟むヘッド本体32の一方側および他方側の側面部分に関し、第1出口通路34vはヘッド本体32の一方側に配置されて切刃チップ39へ指向し、第2出口通路34wはヘッド本体32の他方側に配置されて切刃チップ39と反対側へ指向する。第2出口通路34wの断面積は、第1出口通路34vの断面積よりも小さい。第3出口通路34yは第2出口通路34wと同様である。
【0039】
図7に示すように、第1~第3出口通路34v、34w,34yは、軸線Oを中心として、周方向90°~150°の間隔で、バランス良く配置される。本実施形態によれば、第1~第3出口通路34v、34w,34yからクーラントを高速で噴射しても、
バランスのとれたものとなり、ボーリングヘッド31およびモジュラーボーリングシステム10の反りが生じない。第1~第3出口通路34v、34w,34yのバランスの良い配置は、軸線O方向に長いモジュラーボーリングシステム10において有益であり、切刃チップ39による深穴加工において加工精度の低下が生じない。
【0040】
また本実施形態によれば、第2出口通路34wの断面積が、第1出口通路34vの断面積よりも小さいことから、第2出口通路34wの噴出速度が第1出口通路34vの噴出速度よりも速くなり、第2出口通路34wの噴射方向の反力を大きくすることができる。したがって第1出口通路34vから十分な量のクーラントを切削箇所に供給しつつ、モジュラーボーリングシステム10の反りを防止することができる。
【0041】
また本実施形態によれば、図1に示されない第3出口通路34yの軸線O方向位置は、図1に示す第2出口通路34wの軸線O方向位置と重なる。つまり軸線O方向位置に関し、第1出口通路34vは、第2以降の出口通路34w,34yよりも、軸線O方向先端側に配置される。
【0042】
図2は、末端接続部23と先端接続部13との接続箇所を取り出して示す拡大縦断面図である。具体的には図2は、中継アダプタ21とボーリングヘッド31の接続箇所を示すが、工具シャンク11と中継アダプタ21の接続箇所も同様であり、あるいは工具シャンク11とボーリングヘッド31の接続箇所も同様であり、あるいは中継アダプタ21,21同士の接続箇所も同様であり、後三者については説明を省略する。かかる接続箇所には、シャンク側通路になる中継通路24とヘッド側通路になるヘッド通路34を接続する通路接続部材41が介在する。
【0043】
図3は通路接続部材41を示す側面図であり、軸線O直角方向にみた状態を表す。図4は通路接続部材41を示す底面図であり、軸線O方向末端側からみた状態を表す。通路接続部材41は、独楽のような形状であり、末端大径部42と、末端大径部42から先端側へ突出する先端小径部43と、末端大径部42から先端小径部43まで通路接続部材41を貫通する貫通路44と有し、凹部15の中に配置される。本実施形態では、通路接続部材41全体が、凹部15の中に完全に収容される。
【0044】
末端大径部42は、通路接続部材41の末端部を占める円柱形状である。末端大径部42の外周面が凹部15の内周面に嵌合する。さらに末端大径部42の外周面と凹部15の内周面との環状隙間には末端シール部46が設けられる。かかる環状隙間は末端シール部46によって封止される。末端シール部46は例えばOリングであって、末端大径部42の外周面に形成されて周方向に延びる環状溝48に取付嵌合される。
【0045】
先端小径部43は、末端大径部42よりも小径の円柱形状であって、通路接続部材41の先端部を占める。先端小径部43の外周面が中継通路24末端の内周面に嵌合する。さらに先端小径部43の外周面と通路接続部材41の内周面との環状隙間には先端シール部47が設けられる。かかる環状隙間は先端シール部47によって封止される。先端シール部47は例えばOリングであって、中継通路24の内周面に形成されて周方向に延びる環状溝に取付嵌合される。
【0046】
本実施形態では、通路接続部材41が先端接続部13に固定される。かかる構造につき説明する。先端接続部13の外周面には、第2サイドロックボルト孔52が形成される。第2サイドロックボルト孔52は、軸線Oを中心とする半径方向に延び、凹部15と接続する。第2サイドロックボルト孔52には、第2サイドロックボルト51が螺合する。第2サイドロックボルト51は、外径側に六角穴等の工具嵌合部を有し、外径側からねじ込まれることによって第2サイドロックボルト51の内径側の先端部が凹部15内へ進入し、通路接続部材41に当接してこれを固定する。本実施形態では、第2サイドロックボルト51の先端部はテーパ形状にされる。また通路接続部材41の末端大径部42の外周面には、テーパ穴形状の第2固定穴45が形成される。第2固定穴45は有底であり、貫通路44と接続しない。第2サイドロックボルト51の先端部が第2固定穴に進入することによって、通路接続部材41は先端接続部13に強固に固定される。
【0047】
第2サイドロックボルト51を第2サイドロックボルト孔52にねじ込む際、第2サイドロックボルト51の雄ねじには接着剤が塗布される。この接着剤は硬化して、第2サイドロックボルト51がゆるみ止めされる。また雄ねじと雌ねじの隙間が封止され、凹部15内のクーラントが第2サイドロックボルト孔52から外部へ漏れ出すことが防止される。
【0048】
第2サイドロックボルト孔52は周方向等間隔に配列される。これにより通路接続部材41は、全周において、軸線O方向の移動を規制され、軸線Oに対して傾くことがない。したがって高圧のクーラントがシャンク通路19から凹部15に流入する際、クーラントの液圧が通路接続部材41に偏って作用する場合であっても、通路接続部材41は軸線Oに対して傾かないよう固定される。
【0049】
本実施形態によれば、末端側のシャンク通路19と先端側の中継通路24を接続する通路接続部材41が、凹部15の中に収容され、シャンク通路19に差し込まれない。様々な種類の工具シャンク11および中継アダプタ21において、凹部15の形状および寸法は共通化されることから、1種類の通路接続部材41で多種多様なシャンク通路19とヘッド通路34の接続を共用化できる。つまり複数種類の工具シャンク11および中継アダプタ21を接続する場合であっても、複数種類の通路接続部材41を準備する必要がない。また中継通路24とヘッド通路34を接続する場合や、他の末端側通路および先端側通路を接続する場合も同様である。
【0050】
また通路接続部材41が末端側のシャンク通路19に差し込まれないため、シャンク通路19の内周面を仕上げ研摩加工する必要がない。換言するとシャンク側部材の先端からあまり距離を置かない箇所、つまり凹部15内周面に仕上げ研摩加工を追加すれば足りることから、長尺なシャンク側部材にも適用可能である。
【0051】
さらに、第1固定穴25hは、有底であり、中継通路24やヘッド通路34と接続しないので、中継通路24やヘッド通路34に鋭利な角が生成されない。したがって例えば図示はしなかったが、通路接続部材41の先端小径部43外周に先端シール部を附設して、かかる先端小径部43を中継通路24やヘッド通路34に差し込んで嵌合する場合、先端シール部は損傷しない。本実施形態のモジュラーボーリングシステムによれば、末端の工具シャンク11からボーリングヘッド31の先端部へ、高圧のクーラントを供給することができる。
【0052】
次に上述した実施形態の変形例を説明する。図5は変形例を示す縦断面図である。この変形例につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では上述した末端シール部46(図2)に代えて、末端シール部49を設ける。末端シール部49は、末端シール部46を第2固定穴45よりも末端側に移設したものであって、他の構成については末端シール部46と同じである。
【0053】
変形例の末端シール部49は、凹部15と第2サイドロックボルト孔52の間を遮断することから、シャンク通路19から凹部15へ流れるクーラントが第2サイドロックボルト孔52に進入することがない。したがって、第2サイドロックボルト51を第2サイドロックボルト孔52に単に螺合させて上述した接着剤を使用しない場合や、第2サイドロックボルト51を第2サイドロックボルト孔52に螺合させないであっても、クーラントが第2サイドロックボルト孔52から外部へ漏れ出すことが防止される。変形例のモジュラーボーリングシステムにおいても、末端の工具シャンク11からボーリングヘッド31の先端部へ高圧のクーラントを供給することができる。
【0054】
次に本発明の他の実施形態を説明する。図6は本発明の他の実施形態を示す拡大断面図である。他の実施形態につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。他の実施形態では、第2サイドロックボルト51と第2サイドロックボルト孔52との環状隙間にシール部53を設ける。かかる環状隙間はシール部53によって封止される。シール部53は例えばOリングであって、第2サイドロックボルト51の外周面に形成されて周方向に延びる環状溝に取付嵌合される。またシール部53は、第2サイドロックボルト51の雄ねじよりも凹部15に近い側に設置される。
【0055】
図6に示す実施形態によれば、第2サイドロックボルト51と第2サイドロックボルト孔52の環状隙間を接着剤等で封止しなくても、シール部53が該環状隙間を封止する。したがってクーラントが第2サイドロックボルト孔52から漏れ出すことが防止される。
【0056】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、工作機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0058】
10 モジュラーボーリングシステム、 11 工具シャンク、
13 先端接続部、 15 凹部、 16 円筒部、
19 シャンク通路、 20 中間通路、 21 中継アダプタ、
23 末端接続部、 24 中継通路、 25 凸部、
31 ボーリングヘッド、 32 ヘッド本体、 34 ヘッド通路、
34s 軸線通路、 34 ヘッド通路、 34b,34c 栓、
34t,34u,34x 途中通路、 34v 第1出口通路、
34w 第2出口通路、 34y 第3出口通路、 35 横孔、
36 カートリッジ軸体、 37 調整機構、 38 調整ダイヤル、
39 切刃チップ、 40 サイドロックボルト(固定機構)、
O ボーリングバー軸線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7