(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082839
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】決済システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20120101AFI20230608BHJP
G06Q 30/0217 20230101ALI20230608BHJP
【FI】
G06Q50/26
G06Q30/02 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196808
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】720005046
【氏名又は名称】Digital Platformer 株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122563
【弁理士】
【氏名又は名称】越柴 絵里
(72)【発明者】
【氏名】山中 直明
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 和正
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049BB07
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】地域全体で生じる各行動の一連の繋がりで貢献が引き継がれるという観点から地域済を活性化させる仕組みを提供することを目的とする。
【解決手段】決済システムは、商品等を提供する店舗の地域貢献度を地域内取引額又は地域外取引額から判定し、地域貢献度に基づき店舗内商品等を購入する消費者へのインセンティブ量が決定されるよう構成する。このため、購入者側はインセンティブ量を多く付与してもらうために地域貢献度の高い店舗での購入を選好するようになる。店舗側は、地域内のいわゆる地元の生産者や店舗から商品や原材料の仕入れ等を行うことを通じて自分の店舗に対する地域貢献度が上がるため、地域内での取引を増加させようとするインセンティブが自然と働くことになる。購入者のみならず、商品等を提供する店舗にも、地産地消のインセンティブが連鎖していくことが自然に促されるため、結果として、地域経済の活性化の持続的な支援に貢献できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域内における店舗又は事業者の端末と通信可能に接続された決済システムであって、
前記店舗又は事業者が他の店舗又は事業者と取引を行った際の取引データを受信し、前記他の店舗又は事業者が前記対象地域内又は前記対象地域外のどちらに属するかを判別して、地域内取引額又は地域外取引額を計測する取引額計測手段と、
前記地域内取引額及び前記地域外取引額に基づき、前記対象地域に対する貢献度の指標となる貢献度属性クラスを前記店舗又は事業者毎に判定する地域貢献度判定手段と、
前記地域貢献度判定手段により判定される貢献度属性クラスに基づき、前記店舗又は事業者に対するインセンティブ量を決定するインセンティブ制御手段と、
を備えた決済システム。
【請求項2】
前記取引データを受信する度に、前記取引データを含む情報をブロックチェーン帳簿台帳へ記録するブロックチェーン情報記録手段とを更に備えた請求項1に記載の決済システム。
【請求項3】
前記インセンティブ制御手段は、更に、
前記地域内取引額及び前記地域外取引額に基づき前記店舗又は事業者が提供する商品又はサービスの地域内比率を算出し、
前記店舗又は事業者が提供する商品又はサービスに対する対価を支払う消費者のために、前記対価に対する前記地域内比率に相当する分をインセンティブ量として決定する、請求項1又は2に記載の決済システム。
【請求項4】
前記地域貢献度判定手段は、前記地域内取引額及び前記地域外取引額が更新された時又は所定の時間間隔又はリアルタイムで、前記貢献度属性クラスを判定し、前記インセンティブ制御手段が前記インセンティブ量を動的に決定する、請求項1~3の何れか1項に記載の決済システム。
【請求項5】
前記ブロックチェーン情報記録手段による情報の記録の整合性を判定するサーバを更に含む、請求項2の何れか1項に記載の決済システム。
【請求項6】
前記ブロックチェーン情報記録手段により記録した履歴情報を基に、対象地域全体の取引の流れをあらわした有向グラフを出力する、請求項2の何れか1項に記載の決済システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地域の経済の活性化を推進するための戦略的マネージメントに関しており、特に、生産者から最終消費者までの繋がりの中で、地域経済に貢献をもたらす需要活動が自然と連鎖していく地域全体の行動変容を促す技術に関連する。
【背景技術】
【0002】
今日、我々が市場で手にする生活消費財又はその原材料の多くは、他国で生産されたものが輸入され、必要に応じて加工・成形されて商品となり、それを消費者が入手するという流通経路になっている。つまり、各地域で捕獲又は生産された物から生み出された商品を、その地域内で購入され消費するという地産地消の割合は、消費される商品全体からすると極めて少ない。その第一の要因は、人件費等が安い国から輸入される材料や商品に対抗して国内製造業者が価格競争で勝ち抜くことは困難なことが挙げられる。その結果、国内製造業者は商品の質の良さで海外製品と勝負することになるが、高品質で高価格な国内製品を購入できる消費者層は限られており、多くの消費者は少しでも安価な商品を求めて大型のチェーンストアやグローバルに展開する通販事業者を選好して購入している。大型のチェーンストア等の台頭により、国内の各地域に存在する小規模な事業者の経営状況は苦しく、地域の自治体からの支援を望む事業者は少なくない。
【0003】
このような事業者の状況に鑑み、自治体は地域経済の活性化を支援する趣旨で、例えば特定の地域にのみ有効な地域振興券(いわゆる、紙媒体又は電子的なクーポン券)の発行をしている。地域振興券は、その販売金額よりも多くの商品等の購入ができるというプレミアム分が付加されており、消費者がその地域内にある商店を通じた購入を促す意図がある。この地域振興券を用いて当該地域経済を活性化するアイデアが提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに、損得の観点からみれば、地域振興券を購入するとプレミアム分だけ得となり、消費者に対する地域内の消費活動が活性化するという期待がある。しかしながら、殆どの地域振興券は、恒常的に使用可能となっておらず定められた期間内の使用に制限されており、また実際には使用可能な店舗も限定されている。
【0006】
したがって、一時的に盛り上がった地域内消費活動は、地域振興券を使用できる期間が経過すれば次第に薄れ、消費者はこれまでの大型のチェーンストア等での購買に戻ってしまう傾向が高い。また、そもそも地域振興券の利用によって地域内店舗の売上が増加されるとは限らない。本来購入するはずの商品分を地域振興券で支払ったに過ぎないのであれば、必ずしも店舗の売上の増加にならないからである。
さらに、地域振興券は、その地域の居住者に対する支援という面が強く、商品の生産者又は販売者にいる立場の者がその恩恵を十分に受けているとは言い難い。
【0007】
また、上述した特許文献1に開示の方法は、或る消費者が店舗Aに対する貢献程度を表す個別スコアの他に、他の消費者による店舗Aに対する貢献程度を表す全体スコアも用いて、店舗Aから各消費者への特典を決定することを特徴とする。本方法は、地域内の店舗を利用する「他人」の消費活動からも特典が得られることなり、地域全体において皆による活性化を意図する。しかし、あくまで消費者と店舗との単発の関係性に留まり、生産者(素材提供者)から最終消費者までの繋がりにおいて地域貢献を連鎖させるものではない。さらに、購入商品が地域内の店舗で販売されていることのみを根拠に地域貢献があると判定されているに過ぎず、例えば海外で生産された商品であっても店舗が当該地域内であれば、その店舗での購入が地域貢献と評価される。これでは、地産地消という真の地域経済の活性化に貢献することになっていない。
【0008】
そこで、本発明は、地域全体を一つの経済圏とみなして、その中で生じる各行動の一連の繋がりで貢献が引き継がれるという観点から地域経済を活性化させる仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明に係る決済システムは、対象地域内における店舗又は事業者の端末と通信可能に接続され、前記店舗又は事業者が他の店舗又は事業者と取引を行った際の取引データを受信し、前記他の店舗又は事業者が前記対象地域内又は前記対象地域外のどちらに属するかを判別して、地域内取引額又は地域外取引額を計測する取引額計測手段と、前記地域内取引額及び前記地域外取引額に基づき、前記対象地域に対する貢献度の指標となる貢献度属性クラスを前記店舗又は事業者毎に判定する地域貢献度判定手段と、前記地域貢献度判定手段により判定される貢献度属性クラスに基づき、前記店舗又は事業者に対するインセンティブ量を決定するインセンティブ制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記取引データを受信する度に、前記取引データを含む情報をブロックチェーン帳簿台帳へ記録するブロックチェーン情報記録手段を備える。前記インセンティブ制御手段は、更に、前記地域内取引額及び前記地域外取引額に基づき前記店舗又は事業者が提供する商品又はサービスの地域内比率を算出し、前記店舗又は事業者が提供する商品又はサービスに対する対価を支払う消費者のために、前記対価に対する前記地域内比率に相当する分をインセンティブ量として決定する。前記地域貢献度判定手段は、前記地域内取引額及び前記地域外取引額が更新された時又は所定の時間間隔又はリアルタイムで、前記貢献度属性クラスを判定し、前記インセンティブ制御手段が前記インセンティブ量を動的に決定する。前記ブロックチェーン情報記録手段による情報の記録の整合性を判定するサーバを更に含む。前記ブロックチェーン情報記録手段により記録した履歴情報を基に、対象地域全体の取引の流れをあらわした有向グラフを出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る決済システムは、商取引相手が地域内の者(いわゆる地元の取引者)であるか否かによって商品又はサービスを提供する店舗の地域貢献度を測定し、この店舗の地域貢献度に基づき店舗内の商品等を購入する消費者へのインセンティブ量を決定する。合理的な消費者はインセンティブ量を多く取得したいと考えるのが通常であるから、地域貢献度の高い店舗での購入を選好するようになる。また、店舗は、地域内の取引相手から商品や原材料の仕入れを行ったり、地域内に居住する者を従業者として雇用すると、自分の店舗に対する地域貢献度が上がることになるため、地元での取引量を増やしたり地域内従業者を採用しようとするインセンティブが自然と働くことになる。
このように、消費者のみならず、商品等を提供する店舗にも、地産地消のインセンティブが連鎖していくことが促されるため、結果として地域経済の持続的な活性化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】対象地域への貢献度をあらわす属性クラスを示す一例である。
【
図3】消費者に対するインセンティブ付与の計算方法を説明するための図である。
【
図5】本願発明の決済システムの主な手続を示したフローチャートである。
【
図6】地域全体における取引とインセンティブの流れを示す模式図である。
【
図7】地域バリューチェーンを有向グラフで示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しながら、本発明に係る決済システム100の一実施形態について説明する。本発明は、地域内の取引活動を通じて地域貢献度が引き継がれたものとみなし、取引活動に関与した者に対しどのようにインセンティブを配分するかを決めることを特徴とする。インセンティブは特に限定するものはないが、本実施形態では地域で流通し、商品等の購入のための取引に使用できる地域通貨(ブロックチェーン通貨)の付与とする。
【0014】
図1は、一つの商品が最終消費者に購入されるまでの過程を概念的に示す図である。説明をし易くするため、商品が弁当であって、主食の白飯の他に複数の食材(例えば、魚、肉、野菜など)を用いて調理された複数の副食が弁当容器に詰められて販売される場合を例に挙げる。弁当で使用される米、魚、肉、野菜の食材は、その弁当を販売する店舗の地域(以下、「対象地域」という。)内の農家・漁師等の生産者により生産又は収穫されたものを含む。本実施形態では、対象地域内の弁当工場で食材を調理し完成した弁当が、対象地域の店舗に運ばれ、店舗内で販売される弁当を消費者が購入するとする。
なお、実際には、弁当を販売するまでの流通過程において農協や卸業者等が仲介するが、話を簡略化するため、生産者、弁当工場、弁当を販売する店舗、消費者に限定して本発明を説明することとする。
【0015】
弁当の購入は、直接的には店舗と消費者との間の取引である。このため、従来から実施されてきた地域振興クーポン券は、店舗と消費者という二者構造に対してメリットが生じるよう制度設計がされていた。しかしながら、弁当を作るためには当然ながら食材が必須であり、且つ弁当工場で作業をする従業員を要する。本願発明は、店舗及び消費者の取引に着目するに留まらず、商品の仕入れ等の取引や従業員の雇用についても地域貢献性の有無を判定して、店舗や弁当工場に対するインセンティブを決定することが従来とは異なるアイデアである。したがって、対象地域内で生産されたり収穫されたものではないグローバル製品(例えば、大手メーカが製造するペットボトル入りの飲料製品)のみを販売している店舗は、対象地域内で商品を販売していても基本的には地域活性に貢献していないので貢献度スコアが低く測定され、消費者にインセンティブが付与されないことになる。
【0016】
次に、貢献度スコアをどのように計算するかについて説明する。
本実施形態の決済システム100は、対象地域に対する貢献の程度を属性クラスで分類して処理する。
図2は、属性クラスを示す一例である。属性クラスDは対象地域外の店舗であり、属性クラスA~Cは対象地域内の店舗であって地域貢献の大きさに応じて決定する。例えば、店舗の月間取引総額のうち、対象地域内の取引業者と取引した分の月間取引合計の割合で決める。
図2に示す例の場合、対象地域内の業者との取引金額が月間取引総額の70%以上であれば高貢献度クラスとしての“属性A”となる。同様にして、対象地域内の業者との取引金額が30%以上70%未満である場合は中貢献度クラスとしての“属性B”、同じく30%未満である場合は低貢献度クラスとしての“属性C”となる。もちろん対象地域内の取引業者であっても対象地域外の生産物や収穫物を含んで取引されるため、上記の対象地域内の業者との取引金額は対象地域内の生産物等を取引した分の金額を指す。
なお、月間に限らず、週や半年や年単位など任意の一定期間の売上げを算出根拠にしてよい。取引金額の他に、商品の個数や重量に基づき属性クラスを決定することもあり得る。また、分類される属性クラスは3つに限定するものでもなく、任意の分類数に設定できることは言うまでもない。
【0017】
また、各店舗が取引する相手方のすべてが同じ貢献度の属性クラスになることは事実上ないと考えられる。そこで、下記式のように、貢献度クラス毎の取引額に所定の係数を乗じた値を合算する。
店舗Xの貢献度スコア=
属性クラスC(低貢献度)の係数(KC)×属性クラスCとの取引額(RC)
+属性クラスB(中貢献度)の係数(KB)×属性クラスBとの取引額(RB)
+属性クラスA(高貢献度)の係数(KA)×属性クラスAとの取引額(RA)
(KC,KB,KAは、例えば、それぞれ0.3,0.5,1に設定する)
これにより、店舗Xが、属性クラスAの店舗Yから食材を仕入れるなど、店舗Yとの取引額が大きくなる程、店舗Xの貢献度スコアが大きくなる。
【0018】
一方、店舗Xの仕入れ先であった店舗Yも、店舗Xと同様の計算方法で店舗Y自体の貢献度スコアを算出する。このように、各店舗は、食材(弁当容器や箸などの付属物を含む)を調達しようとする場合、貢献度の高い属性クラスAに属する仕入れ先と取引すると、自分の店舗の貢献度スコアを増加させることになる。そして、対象地域を統括する自治体は、貢献度スコアに応じて各店舗に対してインセンティブを付与する。例えば、店舗Xが今月は属性クラスAと判定された場合、今月の取引金額或いは売上金額の30%をインセンティブ量として、属性クラスBと判定された場合は20%をインセンティブ量とする。また、貢献度スコアの代わりに取引額自体に着目し、属性クラスAに属する店舗との取引額が所定金額を超えた場合に所定量のインセンティブを付与したり、貢献度スコア及び属性クラスの組み合わせでインセンティブ量を付与してもよい。
ここで、自治体から店舗に対するインセンティブとは、本実施形態ではブロックチェーン通貨であるが、その他の例として現金給付や住民税(法人の場合は、法人住民性や法人事業税など)の減額または還付であってもよい。インセンティブの種類にかかわらず、各店舗は次の取引において付与されたインセンティブを使って支払い代金とすることができる。
【0019】
さらに、インセンティブの付与は自治体からされる場合に限らず、取引業者間の取引決済の際にもインセンティブが付与されることを含む。例えば、店舗Yが店舗Zとの取引をした場合、取引代金をそのまま決済金額とせず、店舗Yまたは店舗Zのランクに応じた率を取引代金に乗じてインセンティブを付与し、その結果、実際の決済金額はインセンティブ分減額されることにする形態を含む。また、ブロックチェーン通貨で支払う場合は、よりインセンティブ量を割り増しするようにしてもよい。
【0020】
各店舗が貢献度の高いクラスの店舗を仕入れ先として選択し続けることは、地域貢献度の高い店舗が自然と優先されることとなり、これが各店舗間で順次行われることで地域貢献の連鎖を形成していくことになる。
店舗がインセンティブの付与を期待する限り、貢献度の高いクラスの店舗が選択され続けることに特段の障害はなく、地域貢献の連鎖が一過性のもので終わる可能性は低い。したがって、従来のような、消費者及び店舗の単発の地域貢献に留まらず、対象地域内における農家や漁師などの源流にまで遡った生産者等まで繋がる地域貢献の引き継ぎを実現することができる。
【0021】
なお、これまでの説明は食材などの仕入れ先を例にしたが、これに限定するものはない。上述したように、対象地域内に居住する従業員を雇用することは、当該従業員による税収や対象地域内での消費の活発化になるので地域活性に少なからず貢献する。そこで、対象地域内の従業員を雇用した場合は、雇用者の人数に応じた割増分を貢献度スコアに加算して多くのインセンティブが付与されるようにしてもよい。
【0022】
店舗の貢献度スコアの計算方法に続き、次に、消費者に対するインセンティブを付与する際の計算方法について説明する。
図3は、弁当を例にして、消費者が店舗Xで弁当1個を購入したときに付与されるインセンティブ計算を示す。消費者へのインセンティブとは、本実施形態のようなブロックチェーン通貨の他に、例えば、次回の購入時に現金と等価で利用できるポイントや、即時のキャッシュバック(返金)がある。
【0023】
単純なインセンティブ計算は、店舗の属性クラスに応じた係数(KA,KB,Kc)を弁当の価格に乗じて決定する。例えば、弁当1個の価格が500円とし、店舗Xの属性クラスがB(したがって、係数KB=0.5)の場合は、250円がインセンティブ量となる。
ただし、店舗Xは、様々な食材を仕入れて弁当を作っており、弁当の要素には対象地域外の構成要素を含んでいる。そこで、仕入れ先が対象地域内か対象地域外であるかを弁当1個に対して詳細に反映させてインセンティブ量を決定する例を下記に示す。(なお、説明を簡略化するため、弁当容器や箸などの付属物や従業員の雇用については者略する)。このとき、対象地域内から仕入れた取引金額をR、対象地域外からの仕入れた取引金額をR’とする。これらを弁当1個あたりに換算した取引金額をそれぞれr,r’とする。
対象地域内については複数の貢献度に対応する属性クラスA,B,Cが設定され、各属性クラスの取引金額をそれぞれRA,RB,RCとする。これらを弁当1個あたりに換算した取引金額をそれぞれrA,rB,rCとする。したがって、r=rA+rB+rCである。
【0024】
いま、店舗Xが弁当を作ることによる弁当1個あたりの地域貢献度のスコア(Score)は、
Score=r/(r+r’)=(rA+rB+rC)/((rA+rB+rC)+r’)
式(2)
により算出する。
したがって、地域貢献度のスコア(0≦Score≦1)は、弁当1個あたりの地域内比率をあらわす。
【0025】
いま、店舗Xの弁当(販売価格500円)に対するスコア(Score)が上記式により、0.7とすると、弁当1個のうち、地域貢献度は350円(=500円×0.7)であり、500円の弁当のうち、350円分に所定の割合に基づくインセンティブを付与する。ここで、所定の割合とは、上述した店舗毎の属性クラスである。例えば、その店舗Xが属性クラスCであれば、350円×10%=35円のインセンティブ量であるが、店舗Xが属性クラスAであれば、350円×30%=105円のインセンティブ量に増えることになる。なお、属性クラスに対する10%や30%はあくまで一例である。消費者へのインセンティブとは、例えば、ブロックチェーン通貨であったり、或いは次回の購入時に現金と等価で利用できるポイントや、即時のキャッシュバック(返金)である。
【0026】
つまり、同一仕入先からの食材で作った同一内容の弁当が同額で他の店舗で販売されていた場合、各店舗の属性クラスによってインセンティブ量が変わってくるのである。合理的な消費行動をとる消費者であれば、より多くのインセンティブを得るために、貢献度の高い属性クラスAの店舗で販売される弁当を購入するであろう。店舗は、売上げを伸ばす(つまり、消費者による購入を増やす)ためには、自らの属性クラス(貢献度)を上げる必要があり、それには対象地域内の取引業者から対象地域内(すなわち、地元)の生産物等の購入という取引をしなければならない。上述したように、店舗は対象地域内の弁当工場が提供する対象地域で生産又は捕獲された弁当の取引によって属性クラスを上げ、その結果として店舗自体もインセンティブを得られるので、消費者のみならず店舗にもメリットがある。取引を上流に遡っていくと農家や漁師などの生産者等にたどり着くが、生産者等は自分達の売上が増加する。
【0027】
上述した例の場合、店舗Xで販売される弁当が1種類であったが、中味の異なる複数の弁当を販売することもある。中味が異なる弁当であれば使用する食材の種類や量も異なるのでスコア(Score)の値が異なり、弁当に対する地域貢献度が変化し得る。そこで、弁当の種類毎の厳密なインセンティブを算出する場合では、弁当ごとの使用食材の仕入れ先及び仕入れ額R'A,R'B,R'Cを基に弁当1個あたりの地域貢献度のスコアを算出してから、インセンティブ計算をするようにしてもよい。
【0028】
また、各商品の地域貢献度のスコア又は消費者へのインセンティブは、商品を購入する時点のリアルタイムで可視化されていることが望ましい。例えば、インセンティブ量を弁当容器上や隣接する価格表に表示したり、消費者が弁当にスマホをかざすと無線通信を介してインセンティブ量が表示されたり、弁当を決済レジに持っていくとレジ表示画面にインセンティブ量が表示される。これにより、消費者は、地域貢献度のスコア又は消費者へのインセンティブをその場で視認できるため、より地域貢献度をもたらす商品等の購入という行動を採択するようになる。
【0029】
本実施形態では、対象地域で生産されたり収穫されたものではないグローバル製品に対してはインセンティブが付与されないという例示をしてきた。別の実施形態においては、高貢献度である属性クラスAの店舗Xの商品すべてにインセンティブを付与するようにしてもよい。したがって、店舗X内のグローバル製品であってもインセンティブが付くので、弁当とあわせてグローバル製品が購入されることが期待できる。一方で、低貢献度である属性クラスCの他の店舗に同一のグローバル製品があっても、店舗Xよりも低いインセンティブ量であったり、或いはインセンティブを付与しないようにしてもよい。これは、消費者に対して、グローバル製品であっても高い貢献度の属性クラスの店舗で購入を促す動機付けとなり、且つ店舗に対しては消費者に多くの商品を購入してもらうために地域貢献度のスコアを上げる必要があるので対象地域内からの仕入れ量を増やすという行動変容を起こさせることになる。
【0030】
次に、上述してきた本発明のアイデアを実施するための決済システム100について説明する。決済システム100は、ブロックチェーン技術を利用して取引で発生したデータを記録管理する。ブロックチェーンはすでに公知の技術であるため本明細書で詳述することは省略するが、その優位性についての概要を以下に挙げておく。
【0031】
ブロックチェーンに代表される分散型台帳技術の特徴は、トランザクション及びアクションの正当性を決定する際に特定のサーバに依存した検証に依存することなく、複数の端末間の通信接続を非中央集権なピア・ツー・ピア(P2P)型ネットワークを基盤にしているという点にある。特定のサーバがトランザクション等に関する台帳を統括して管理するのではなく、複数の端末が過去から現在に至るまでの自己のデータベースへの更新情報を一繋がりの帳簿データとして管理する。しかも、各端末が同一の帳簿データを管理することによって、新たなトランザクション等に対してどの台帳においても矛盾が生じないと認められた場合にのみ、各台帳に追加する正規なトランザクション等として扱い、データベース上のデータの真正性を確保している。
【0032】
このような特徴により、ブロックチェーン技術は、(1)過去の更新履歴の改ざんや取り消しが困難、(2)帳簿データを管理する複数の端末のうちの一部の端末がダウンしてもシステム全体としてはサービスを継続することが可能であり、障害に強く可用性が高い、(3)ブロックチェーン内部の通信は暗号化及び証明書による検証が行われており、改ざんが困難である。
【0033】
本願発明の決済システム100の概念図を
図4に、その処理の流れを
図5に示す。
決済システム100は、少なくともブロックチェーン情報記録手段10、地域内取引額計測手段20、地域貢献度判定手段30、インセンティブ制御手段40、通信制御手段50及びサーバ1を含む。また、インセンティブ制御手段40は、計算手段41及び付与手段42を含む。ブロックチェーンを基盤とする情報管理は、複数の端末によるP2P型ネットワークで行うことが基本であるため、本来はサーバが不要である。しかしながら、複数の端末で情報管理をする場合、マイニング計算のための演算コストが膨大である。そこで、本実施形態は、サーバ1がブロックチェーンに基づくデータを記録して取引データの管理をしながら、その都度発生する決済の正当性を評価する構成とした。サーバ1は、前のブロックと整合がとれたブロックであって、ブロックチェーン帳簿に記録しても良いかを判断する。
【0034】
ブロックチェーンにおける各ブロックは、取引データの他に、ナンス値及び条件に合うハッシュ値を含み、後続するブロックは前のブロックのハッシュ値を使ってブロックを構築している。したがって、仮に、悪意のある人によってサーバ1に記録された或るブロックのデータが不正に改ざんされたとしても、ひとつ前のハッシュ値とナンス値がそのままであれば、ブロックのジョイントになるハッシュ値は違ったものになってしまい、ブロックを接続することができず途切れてしまう。したがって、サーバ1がチェーン全体としての整合性チェックをすると不正が発覚できることになる。また、不正取得されたブロックチェーン通貨の流れは追跡可能なため、その後の対象地域内での取引を通じてブロックチェーンに接続される際に、サーバ1によって不正取引の事実を突き止めることが可能である。したがって、本実施形態の決済システム100は、P2P型ネットワーク構成を採用しないサーバ1による情報管理を選択している。
なお、他の実施形態では、サーバ1を使用しない、複数の端末によるP2P型ネットワークのブロックチェーン構成であってもよい。
【0035】
各店舗の端末は取引が発生すると(
図5のステップS501)、通信回線60を介してその取引データを決済システム100に送信する。取引データは、例えば、店舗Bは店舗Aから○月○日に鯖3Kgを△△△円で購入したというようなデータである。なお、トランザクションデータの送信は暗号化されていることが好ましい。
【0036】
決済システム100の通信制御手段50が各店舗からの取引データを受信すると(
図5のステップS502)、次に、地域内取引額計測手段20は取引データに含まれる店舗Aが対象地域内の店舗業者であるかを、店舗DB70を検索して判別する(
図5のステップS503)。そして、店舗Aが対象地域内の店舗等である場合、店舗Bに関するこれまでの対象地域内の取引額に今回の取引データに含まれる取引額を加算して更新する(
図5のステップS504)。店舗Aが対象地域外の店舗等である場合は、店舗Bの対象地域外の取引額に今回の取引データに含まれる取引額を加算して更新する(
図5のステップS505)。
【0037】
次に、地域貢献度判定手段30は、上述した式(1)に更新後の取引額を代入して地域貢献度のスコア(Score)を計算し、店舗Bの属性クラス(
図2参照)を判定する(
図5のステップS506)。なお、
図3に示す例の場合、Score値は0.7(即ち、属性クラスA)とする。
ブロックチェーン情報記録手段10は、属性クラス又はスコア(Score)値もトランザクションデータとして上記取引データと一緒にブロック化してブロックチェーン帳簿台帳に記録する(
図5のステップS507)。なお、
図4に示すように、本実施形態では仕入れ先である店舗の属性クラスもあわせて記録している。店舗の最新の属性クラスは店舗DB70に記録しておく。
【0038】
店舗Bが弁当を販売する時は、店舗Bの端末は事前に決済システム100と通信をし、インセンティブ量の要求指示を送信する。決済システム100は要求指示を受信したかを判定し(
図5のステップS508)、受信した場合はインセンティブ制御手段40の計算部41が、店舗DB70から店舗Bの最新の属性クラス又はスコア(Score)値を取得し、上述した式(2)に基づいて弁当の購入に対する消費者へのインセンティブ量を算出して、付与部42が店舗Bの端末へ返信する(
図5のステップS509)。なお、店舗Bと決済システム100の間のインセンティブ量の要求に対する送受信は、所定の時間間隔で周期的に行ってもよいし、或いは店舗Bの端末が決済をする度にリアルタイムで行ってもよい。
【0039】
本実施形態では、
図4に示すように、店舗間の取引が発生した場合にブロックチェーン帳簿台帳への記録が行われるとして説明したが、他の実施形態では、店舗間の取引に限らずに、消費者と店舗間の取引で生じたインセンティブ量を含む購買取引の内容をトランザクションデータとしてブロックチェーンの帳簿台帳に記録するようにしてもよい。
なお、消費者が決済システム100へユーザ登録する構成の場合は、消費者IDを記録してもよい。
【0040】
したがって、本実施形態の決済システム100は、店舗の最新の属性クラス又はスコア(Score)値に基づきインセンティブ量を動的に決定できるものであって、消費者は店舗の最新の地域貢献を常に認識しながら商品等の購入をすることが可能となる。消費者は商品等の購入によって付与されるインセンティブ量が大きな店舗を選好し易いため、その結果、店舗は消費者をできるだけ取り込むために自分の店に対する地域貢献を上げようとする行動変容が起きると予測される。これにより、地域全体において店舗も消費者も対象地域内での取引量が増大し、対象地域経済に対する活性化の持続的な支援に貢献できる。
【0041】
地域全体におけるブロックチェーン通貨の流れを模式図にしたのが
図6である。消費者が店舗Aでブロックチェーン通貨を使用して支払いをすると、その取引データが決済システム100へ送信され、通信制御手段50から取引データを受け取ったブロックチェーン情報記録手段10はブロックチェーンのノードN
1に記録する。店舗Aがブロックチェーン通貨を使用して店舗Bへ取引金を支払うと、その取引データが決済システム100へ送信され、ブロックチェーン情報記録手段10はブロックチェーンのノードN
2に記録する。これが順次繋がって地域バリューチェーンが構築される。自治体はブロックチェーン化された地域バリューチェーンを検証することで、地域貢献の実態を把握し、地域活性化のアドバイスを図るための指針に活用できる。
【0042】
このような地域バリューチェーンを有向グラフで示したのが
図7である。有向グラフは、
図3に示すような生産者から消費者への取引の流れと、
図6に示すようなブロックチェーン通貨の使用の流れの何れでもよい。例えば、或る一部エリア(M)の地域バリューチェーンが他のエリア(N)の地域バリューチェーンと比較するとチェーンが多岐にわたり繋がっているか否かを判断できたり、矢印の太さを取引量に応じて太さを変えて表示すれば簡単に定量的な取引の認識が可能となる。
【0043】
いま、現在の地域バリューチェーンの状態が
図7(a)であったとする。図中のA~Dの地域産業の店舗等のうち、DはCとリンクして取引しているが、有向グラフの矢印の線の太さがあらわすとおり、地域産業の店舗ではないD-E間との取引の方が多いことがわかる。D-C間の取引量をD-E間よりも大きくすることが地域貢献に繋がる。
そこで、
図7(b)に示すように、C及びAのインセンティブ係数を意図的に上げて(C及びAのノードが増大する表示をしている)、DはEよりもCと取引する方が、得られるインセンティブ量が増加するようにする。つまり、対象地域外へ流れてしまっている商流を、対象地域に戦略的に流すようにするためインセンティブ量を操作(調整)するインタフェースとして用いることができる。インセンティブ量の操作した後の結果を示したのが
図7(b)である。
図7(b)において、D-C間の矢印の線の太くなっていることがあらわすとおり、D-C間の取引量すなわち地域内取引が増えたことを示している。
自治体は定期的に地域バリューチェーンを検証するために
図7のような有向グラフを用いて容易に見える化(可視化)し、動的にインセンティブ量の決定を変化させることで、対象地域内の店舗等が満遍なく地産地消の実現ができるよう誘導する。
【0044】
以上説明してきたように、本発明は、対象地域に対する貢献度を取引の内容から判定し、決済時に最新の貢献度の大きさに応じて店舗及び消費者へのインセンティブ量を動的に決定するものである。消費者はインセンティブ量を任意の方法で視認することにより、インセンティブ量が多く付与される店舗での購入を選好することに繋がり、その結果、地域貢献が促進される。店舗は、消費者の来店数を上げるために店舗の地域貢献度を上げる必要から、対象地域内の店舗(業者)との取引が自然と増加することになるため、持続性のある地域活性を実現できる。
【符号の説明】
【0045】
1 サーバ
10 ブロックチェーン情報記録手段
20 地域内取引額計測手段
30 地域貢献度判定手段
40 インセンティブ制御手段
41 計算部
42 付与部
50 通信制御手段
60 通信回線
70 店舗データベース
100 決済システム