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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082924
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】酸性脱脂剤
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/10 20060101AFI20230608BHJP
   C11D 3/04 20060101ALI20230608BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20230608BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20230608BHJP
   C11D 3/34 20060101ALI20230608BHJP
   C11D 1/722 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C23G1/10
C11D3/04
C11D3/20
C11D1/72
C11D3/34
C11D1/722
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196939
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】593174641
【氏名又は名称】メルテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】近藤 厚
(72)【発明者】
【氏名】須藤 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 博之
【テーマコード(参考)】
4H003
4K053
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003AC23
4H003BA12
4H003DA05
4H003DA09
4H003DB02
4H003EA03
4H003EA19
4H003EB07
4H003EB08
4H003EB22
4H003FA04
4H003FA28
4K053PA06
4K053PA13
4K053RA15
4K053RA45
4K053RA55
4K053RA64
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本件出願に係る発明は、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が極めて生じ難く、且つ、脱脂力と、シード層及びレジスト材表面に対する濡れ性等とに優れる、電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤の提供を目的とする。
【解決手段】この課題を解決するために、電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であって、硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤と、塩化物イオン源とを各々所定量含み、使用時の液温が15℃~35℃であることを特徴とする酸性脱脂剤を採用する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤であって、
硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸を0.1質量%~20質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤を0.01質量%~1質量%、塩化物イオン源を塩化物イオンの濃度で0.001質量%~1質量%含み、
使用時の液温が15℃~35℃であることを特徴とする酸性脱脂剤。
【請求項2】
前記有機酸は、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸からなる群から選択される一種以上である請求項1に記載の酸性脱脂剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤は、以下の一般式(1)又は一般式(2)で表される一種以上である請求項1又は請求項2に記載の酸性脱脂剤。
-O-(EO)-(AO)-H ・・・(1)
-O-(AO)-(EO)-H ・・・(2)
(一般式(1)及び一般式(2)において、Rは炭素数3~20の直鎖又は分岐アルキル基であり、EOはオキシエチレン基であり、mはEOの繰り返し数を示す2~20の整数である。AOはPO(オキシプロピレン基)又はBO(オキシブチレン基)を表し、nはAOの繰り返し数を示す0~20の整数である。)
【請求項4】
前記塩化物イオン源は、塩化ナトリウム、塩酸、塩化銅、塩化アンモニウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バナジウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化亜鉛からなる群から選択される一種以上である請求項1~請求項3の何れか一項に記載の酸性脱脂剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリント配線板を電気銅パターンめっきにより製造する場合、始めに、絶縁性基板の表面に金属薄膜であるシード層を設けた後、ドライフィルムフォトレジスト(以下、「ドライフィルムレジスト又はDFR」と称する。)等を用いてレジストパターンを形成する。これに電気銅めっきを施して銅又は銅合金からなる金属皮膜を形成し、レジスト材とシード層とが積層している不要な部分を絶縁性基板の表面から除去して、導体回路パターン付き基板(即ちプリント配線板)を得る。
【0003】
ここで、電気銅パターンめっきの前処理として、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板に対して、脱脂、洗浄等が行われる。この脱脂処理に用いる溶液がアルカリ性であると、ドライフィルムレジストが当該溶液中のアルカリ成分と反応して、腐食、粉砕、剥離等の不具合が生じる場合がある。そのため、酸性の脱脂剤を用いる方法が採用されている。この方法によれば、ドライフィルムレジストを腐食することなく、シード層及びレジスト材の表面に残存した油脂等を良好に除去できると共に、シード層表面に生じた自然酸化膜、錆等も除去できる点で優れているといえる。
【0004】
この種の酸性脱脂剤として、特許文献1には、「(A)二価カルボン酸またはアルカンスルホン酸から選ばれる酸、(B)塩酸、硫酸、りん酸および硝酸よりなる群から選ばれる酸、(C)アルキルベンゼンスルホン酸塩および(D)分子中にアセチレン結合を有する界面活性剤を含有する酸性脱脂剤」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-89882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のような従来の酸性脱脂剤を用いて電気銅パターンめっきの前処理を行うと、含有成分及びその濃度、処理条件等によっては、酸性脱脂剤がレジストパターンに対して予期せぬ影響を与える場合があった。その結果、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じ、電気銅めっきを行った際に銅又は銅合金からなる金属成分がレジスト材の下に潜り込んで析出する等の不具合が生じていた。一方、レジストパターンを浸食しない酸性脱脂剤及びその処理条件を採用すると、脱脂力やシード層表面に対する濡れ性等が十分でなく、高品質な製品が得られないという問題があった。
【0007】
そのため、当業者間では、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が極めて生じ難く、且つ、脱脂力及びシード層表面に対する濡れ性等に優れる、電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本件発明者は、鋭意研究を行った結果、以下の方法を採用することで、この課題を達成するに至った。
【0009】
本件出願に係る酸性脱脂剤は、電気銅パターンめっきの前処理に用いるものであって、硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸を0.1質量%~20質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤を0.01質量%~1質量%、塩化物イオン源を塩化物イオンの濃度で0.001質量%~1質量%含み、使用時の液温が15℃~35℃であることを特徴とする。
【0010】
本件出願に係る酸性脱脂剤は、有機酸が、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0011】
本件出願に係る酸性脱脂剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤が、以下の一般式(1)又は一般式(2)で表される一種以上であることが好ましい。
-O-(EO)-(AO)-H ・・・(1)
-O-(AO)-(EO)-H ・・・(2)
(一般式(1)及び一般式(2)において、Rは炭素数3~20の直鎖又は分岐アルキル基であり、EOはオキシエチレン基であり、mはEOの繰り返し数を示す2~20の整数である。AOはPO(オキシプロピレン基)又はBO(オキシブチレン基)を表し、nはAOの繰り返し数を示す0~20の整数である。)
【0012】
本件出願に係る酸性脱脂剤は、塩化物イオン源が、塩化ナトリウム、塩酸、塩化銅、塩化アンモニウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バナジウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化亜鉛からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本件出願に係る発明によれば、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が極めて生じ難く、且つ、脱脂力と、シード層及びレジスト材表面に対する濡れ性等とに優れる、電気銅パターンめっきの前処理に用いる酸性脱脂剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)~(g)は、本件出願の酸性脱脂剤を用いた実施例1~実施例7における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板(即ち、無電解銅めっき皮膜を有するレジストパターン付き銅張積層板)を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図2】(a)~(e)は、本件出願の酸性脱脂剤を用いた実施例8~実施例12における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図3】(a)~(d)は、本件出願の酸性脱脂剤を用いた実施例13~実施例16における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図4】(a)~(c)は、本件出願の酸性脱脂剤を用いた実施例17~実施例19における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図5】(a)~(d)は、濃度条件が異なる酸性脱脂剤を用いた比較例1~比較例4における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図6】(a)~(g)は、組成及び/又は使用時の液温が異なる酸性脱脂剤を用いた比較例5~比較例11における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図7】(a)及び(b)は、濃度条件が異なる酸性脱脂剤を用いた比較例12及び比較例13における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図8】(a)及び(b)は、濃度条件が異なる酸性脱脂剤を用いた比較例14及び比較例15における、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板を上からみた金属顕微鏡観察像である。
図9】(a)及び(b)は、本件出願の酸性脱脂剤を用いた実施例18と、組成及び使用時の液温が異なる酸性脱脂剤を用いた及び比較例7とにおける、シード層及びレジストパターン付き絶縁性基板に電気銅めっきを施した試験片の断面観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図1図9を参照して、本件出願に係る酸性脱脂剤の実施形態を説明する。
【0016】
本件出願に係る酸性脱脂剤は、電気銅パターンめっきの前処理に用いるものであって、「硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸」と、「ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤」と、「塩化物イオン源」とを各々所定量含み、使用時の液温が15℃~35℃である。
【0017】
A.酸性脱脂剤の含有成分
以下に、本件出願の酸性脱脂剤の各含有成分について述べる。
【0018】
A-1.酸成分
酸成分は、酸性脱脂剤における主剤であり、硫酸及び有機酸の一種又は二種以上からなる。この酸成分は、絶縁性基板上の銅又は銅合金からなるシード層と、レジスト材表面とに付着した油脂等の汚れを脱脂洗浄すると共に、シード層表面に生じた自然酸化膜等を除去する機能を有するものである。
【0019】
この酸成分のうち、有機酸としては、クエン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、乳酸、酒石酸等が挙げられる。
【0020】
また、酸性脱脂剤における酸成分の含有量は、0.1質量%~20質量%である。酸成分の含有量が0.1質量%未満であると、絶縁性基板上のシード層及びレジスト材の表面に付着した油脂等の汚れを脱脂洗浄する効果が低下すると共に、シード層表面に生じた自然酸化膜等を除去する効果も低減する傾向にあるため好ましくない。一方、酸成分の含有量が20質量%を超えると、酸性脱脂剤がレジスト材を浸食しレジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じる傾向にあるため好ましくない。そして、酸成分の含有量は、より好ましくは1質量%~20質量%であり、更に好ましくは5質量%~15質量%である。酸成分の含有量が1質量%~20質量%であると、シード層及びレジスト材の表面に付着した油脂等の汚れを脱脂洗浄する効果がより向上する傾向にあり、酸成分の含有量が5質量%~15質量%であると、当該効果が最も向上する傾向にあると共に、費用対効果が高いためである。なお、酸性脱脂剤が酸成分を二種以上含む場合、上記酸成分の含有量は、合計含有量として記載している。
【0021】
A-2.ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤
非イオン性(「非イオン又はノニオン」とも称される。)界面活性剤は、乳化、可溶化力に優れ、泡立ちが少ないという利点を有する。この非イオン性界面活性剤のうち、工業的に最も多く利用されている代表的なものが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤は、アルコールに主として酸化アルキレンを付加して得られるエーテル型の界面活性剤であって、別途アルコール類の化合物を添加することなく酸性脱脂剤の表面張力を効果的に低下させることができるという優れた機能を有するものである。
【0022】
このポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤は、以下の一般式(1)又は一般式(2)で表される一種又は二種以上であることが好ましい。
【0023】
-O-(EO)-(AO)-H ・・・(1)
-O-(AO)-(EO)-H ・・・(2)
但し、一般式(1)及び一般式(2)において、Rは炭素数3~20の直鎖又は分岐アルキル基である。また、EOはオキシエチレン基であり、mはEOの繰り返し数を示す2~20の整数である。そして、AOはPO(オキシプロピレン基)又はBO(オキシブチレン基)を表し、nはAOの繰り返し数を示す0~20の整数である。
【0024】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、Rの炭素数が3未満であると、酸性脱脂剤の脱脂力が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、Rの炭素数が20を超えると、溶媒である水に対する溶解度が低下する傾向にあるため好ましくない。そして、Rの炭素数は、より好ましくは5~18、更に好ましくは7~16である。Rの炭素数が5~18であると、酸性脱脂剤の脱脂力及び水に対する溶解度がより向上する傾向にあり、Rの炭素数が7~16であると、当該傾向が最も高くなるためである。更に、このRが分岐したアルキル基であると、酸性脱脂剤の脱脂力が向上する傾向にあるため、より好ましい。
【0025】
また、上記一般式(1)及び一般式(2)において、mが2未満であると、溶媒である水に対する溶解度が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、mが20を超えると、酸性脱脂剤の脱脂力が低下する傾向にあり好ましくない。そして、このmが4~15であると、水に対する溶解度及び酸性脱脂剤の脱脂力が向上する傾向にあるため、より好ましい。
【0026】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、nが20を超えると、溶媒である水に対する溶解度が低下する傾向にあるため好ましくない。そして、nが0~15であると、高温環境下での酸性脱脂剤の安定性が高まる傾向にあるため、より好ましい。
【0027】
酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量は、0.01質量%~1質量%である。このポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量が0.01質量%未満であると、酸性脱脂剤の表面張力が上がりシード層及びレジスト材表面に対する酸性脱脂剤の濡れ性が低下すると共に、酸性脱脂剤の脱脂力が低減する傾向にあるため好ましくない。一方、このポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量が1質量%を超えると、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じる傾向にあるため好ましくない。そして、このポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量が0.1質量%~0.5質量%であると、酸性脱脂剤の表面張力が低下してシード層及びレジスト材表面に対する酸性脱脂剤の濡れ性が向上する傾向にあるため、より好ましい。
【0028】
A-3.塩化物イオン源
塩化物イオン源は、溶媒である水に接触させた際に塩化物イオン(Cl)を水中に電離する化合物である。酸性脱脂剤が、この塩化物イオン源を含むものであると、当該酸性脱脂剤が絶縁性基板上のレジスト材を浸食することを抑制するという優れた効果を奏するものとなる。
【0029】
この塩化物イオン源としては、塩化ナトリウム、塩酸、塩化銅、塩化アンモニウム、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バナジウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化亜鉛等が挙げられる。本件出願の酸性脱脂剤は、これらの化合物からなる群のうち少なくとも一種又は二種以上を含むものである。
【0030】
また、酸性脱脂剤における塩化物イオン源の含有量は、塩化物イオンの濃度で0.001質量%~1質量%である。この塩化物イオン源の含有量が塩化物イオンの濃度として0.001質量%未満であると、酸性脱脂剤が絶縁性基板上のレジスト材を浸食することを抑制する効果が低減しレジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じる傾向にあるため好ましくない。一方、この塩化物イオン源の含有量が塩化物イオンの濃度として1質量%を超えても、酸性脱脂剤がレジスト材を浸食することを抑制する効果が向上するものでもなく、単なる資源の無駄遣いとなるため好ましくない。
【0031】
B.酸性脱脂剤の使用時の液温
本件出願に係る酸性脱脂剤の使用時の液温は、15℃~35℃である。この使用時の液温が15℃未満であると、酸性脱脂剤の脱脂力が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、この使用時の液温が35℃を超えると、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じる傾向にあるため好ましくない。また、酸性脱脂剤の使用時の液温は、好ましくは20℃~35℃、より好ましくは25℃~35℃である。酸性脱脂剤の使用時の液温が20℃~35℃であると、酸性脱脂剤の脱脂洗浄効果がより向上する傾向にあり、酸性脱脂剤の使用時の液温が25℃~35℃であると、当該効果が最も向上して脱脂処理に要する時間が短縮できるためである。
【0032】
C.酸性脱脂剤の調製方法
本件出願の酸性脱脂剤の調製方法に特段の制限はなく、公知の方法により調製することができる。例えば、溶媒である水に、所定量の硫酸及び/又は有機酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤及び塩化物イオン源を室温で接触させ、撹拌機等を用いて攪拌することにより、本件出願の酸性脱脂剤を得ることができる。
【0033】
以下に、本件出願に係る酸性脱脂剤について、実施例を示して具体的に説明する。但し、本件出願に係る発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0034】
<無電解銅めっき皮膜(シード層)を有するレジストパターン付き銅張積層板>
銅張積層板を無電解銅めっき液(メルテックス株式会社製のメルプレートCU-390)に室温で20分間浸漬した後、水洗、乾燥し、表面にシード層として0.3μmの無電解銅めっき皮膜を設けた。次いで、この無電解銅めっき皮膜を有する銅張積層板上にドライフィルムレジスト(ニッコー・マテリアルズ株式会社製のLDF725、厚さ25μm)をラミネートした後、フォトマスクを介してダイレクト露光装置(株式会社オーク製作所製のFdi―3M)により水銀ランプのh線の光(波長405nm、光強度80mJ/cm)を照射して露光を行った。この露光後の無電解銅めっき皮膜を有するレジスト材付き銅張積層板に、液温30℃の現像剤液(濃度0.75質量%の炭酸ナトリウム水溶液)を0.10MPaで27秒間スプレー噴霧してレジスト材の現像を行うことにより、ライン/スペース(L/S)が5μm/5μmの「無電解銅めっき皮膜(シード層)を有するレジストパターン付き銅張積層板」を得た。
【0035】
<酸性脱脂剤>
酸成分である硫酸が10質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリメチルノニルエーテル(ダウ・ケミカル株式会社製のタージトールTMN-10)が0.25質量%、塩化物イオン源である塩化ナトリウムが塩化物イオンの濃度で0.01質量%、残部が水である組成を有する酸性脱脂剤を調整した。この酸性脱脂剤の表面張力を、ウィルヘルミー表面張力測定法により測定した。表1に酸性脱脂剤の組成及びその表面張力を示す。
【0036】
<酸性脱脂剤の評価>
上述の「無電解銅めっき皮膜(シード層)を有するレジストパターン付き銅張積層板」を液温30℃の酸性脱脂剤に10分間浸漬して脱脂処理を行った後、水洗、乾燥し、金属顕微鏡を用いて上からドライフィルムレジストパターンの浮き、ヨレを観察した。図1(a)に金属顕微鏡観察像を、表1にその評価結果を示す。なお、表1及び後述する表2~表6において、酸性脱脂剤を用いて処理を行ったドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレが発生せず良好な状態であった場合は、「DFRの状態」が「〇」、ドライフィルムレジストに浮き、ヨレが発生していた場合は、「DFRの状態」が「×」と記載した。
【0037】
続いて、銅ハルセル板を用意し、これに指紋を付着させた後、液温30℃の酸性脱脂剤に3分間浸漬する処理を行い、水洗、乾燥した後、目視で指紋の残存状態を観察した。その評価結果を表1に「脱脂力(%)」として示す。
【0038】
更に、上述の銅張積層板と同様のものを別途用意して120℃で2時間の熱処理を行い、銅張積層板における銅箔の表面に酸化皮膜を形成した後、液温30℃の酸性脱脂剤に1分間浸漬し、目視で酸化皮膜の残存状態を観察した。その評価結果を表1に示す。なお、表1及び後述する表2~表6において、酸化皮膜が銅箔表面から完全に除去できた場合は、「酸化皮膜除去性能」が「〇」、酸化皮膜が銅箔表面に残存していた場合は、「酸化皮膜除去性能」が「×」と記載した。
【実施例0039】
実施例2では、硫酸の濃度を「0.1質量%」とした以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、実施例2の試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例2の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(b)に示す。
【実施例0040】
実施例3では、酸性脱脂剤における硫酸の濃度を「20質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例3の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(c)に示す。
【実施例0041】
実施例4では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリメチルノニルエーテルの濃度を「0.01質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例4の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(d)に示す。
【実施例0042】
実施例5では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリメチルノニルエーテルの濃度を「1質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例5の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(e)に示す。
【実施例0043】
実施例6では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤を「ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル(ダウ・ケミカル株式会社製のエコサーフEH-9)に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例6の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(f)に示す。
【実施例0044】
実施例7では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤を「ポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬株式会社製のノイゲンTDS-80)に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例7の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図1(g)に示す。
【実施例0045】
実施例8では、酸性脱脂剤における塩化物イオン源である塩化ナトリウムの含有量を塩化物イオンの濃度で「0.001質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例8の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図2(a)に示す。
【実施例0046】
実施例9では、酸性脱脂剤における塩化物イオン源である塩化ナトリウムの含有量を塩化物イオンの濃度で「0.1質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例9の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図2(b)に示す。
【実施例0047】
実施例10では、酸性脱脂剤における塩化物イオン源である塩化ナトリウムの含有量を塩化物イオンの濃度で「1質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例10の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図2(c)に示す。
【実施例0048】
実施例11では、酸性脱脂剤の使用時の液温を「15℃」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例11の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図2(d)に示す。
【実施例0049】
実施例12では、酸性脱脂剤の使用時の液温を「35℃」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例12の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表1及び図2(e)に示す。
【0050】
ここで、「酸として硫酸のみを含有する酸性脱脂剤の形態」である実施例1~実施例12における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表1として示す。
【0051】
【表1】
【実施例0052】
実施例13では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「0.1質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例13の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表2及び図3(a)に示す。
【実施例0053】
実施例14では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「20質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例14の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表2及び図3(b)に示す。
【実施例0054】
実施例15では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「5質量%のクエン酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例15の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表2及び図3(c)に示す。
【実施例0055】
実施例16では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「5質量%のメタンスルホン酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例16の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表2及び図3(d)に示す。
【0056】
ここで、「酸として有機酸のみを含有する酸性脱脂剤の形態」である実施例13~実施例16における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表2として示す。
【0057】
【表2】
【実施例0058】
実施例17では、酸性脱脂剤における酸成分を「0.05質量%の硫酸」及び、有機酸である「0.05質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例17の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表3及び図4(a)に示す。
【実施例0059】
実施例18では、酸性脱脂剤における酸成分を「10質量%の硫酸」及び、有機酸である「0.1質量%のグリコール酸」に変更すると共に、レジストパターンの幅を「ライン/スペース(L/S)が6μm/6μm」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例18の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表3及び図4(b)に示す。
【0060】
次いで、実施例18では、上述の方法で得た(即ち、実施例18の酸性脱脂剤を用いて行った)脱脂洗浄後の「無電解銅めっき皮膜(シード層)を有するレジストパターン付き銅張積層板」を電気銅めっき液(メルテックス株式会社製のルーセントカパーPVF)に浸漬して、室温で45分間、2A/dmの電流密度で無電解銅めっき皮膜の表面上に電気銅めっき皮膜を設けた試験片を用意し、電子顕微鏡により、この試験片の断面観察を行った。図9(a)にその断面観察像を示す。なお、図9(a)及び後述する図9(b)において、1は「ドライフィルムレジストパターン」、2は「電気銅めっき皮膜」、3は「シード層(無電解銅めっき皮膜)」、4は「シード層表面」、5は「銅張積層板(絶縁性基板上の銅箔)」、6は「ドライフィルムレジストパターンの下に潜り込んで析出した銅成分」に各々相当する。
【実施例0061】
実施例19では、酸性脱脂剤における酸成分を「10質量%の硫酸」及び、有機酸である「10質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この実施例19の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表3及び図4(c)に示す。
【0062】
ここで、「酸として硫酸及び有機酸を含有する酸性脱脂剤の形態」である実施例17~実施例19における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表3として示す。
【0063】
【表3】

【比較例】
【0064】
[比較例1]
比較例1では、酸性脱脂剤における酸成分である硫酸の濃度を「0.01質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例1の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図5(a)に示す。これらの試験結果から理解できるように、酸成分である硫酸の含有量が低い比較例1の酸性脱脂剤は、脱脂力が低く、酸化皮膜除去性能も不十分なものとなった。
【0065】
[比較例2]
比較例2では、酸性脱脂剤における酸成分である硫酸の濃度を「60質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例2の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図5(b)に示す。これらの試験結果から理解できるように、酸成分である硫酸の含有量が高い比較例2は、酸性脱脂剤の表面張力が高く、ドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0066】
[比較例3]
比較例3では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリメチルノニルエーテルの濃度を「0.001質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例3の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図5(c)に示す。これらの試験結果から理解できるように、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量が低い比較例3は、酸性脱脂剤の表面張力が高く、脱脂力は低いものとなった。
【0067】
[比較例4]
比較例4では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレントリメチルノニルエーテルの濃度を「5質量%」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例4の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図5(d)に示す。これらの試験結果から理解できるように、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤の含有量が高い比較例4は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0068】
[比較例5]
比較例5では、酸性脱脂剤における非イオン性界面活性剤を、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型ではない「EO(エチレンオキシド)-PO(プロピレンオキシド)コポリマー(株式会社ADEKA製のプルロニック(登録商標)L-44)」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例5の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(a)に示す。これらの試験結果から理解できるように、非イオン性界面活性剤の種類が異なる比較例5は、酸性脱脂剤の表面張力が高く、脱脂力は低いものとなった。
【0069】
[比較例6]
比較例6では、酸性脱脂剤における非イオン性界面活性剤を比較例5と同じ「EO-POコポリマー」に変更すると共に、酸性脱脂剤の使用時の液温を「40℃」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例6の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(b)に示す。これらの試験結果から理解できるように、非イオン性界面活性剤の種類が異なると共に使用時の液温が高い比較例6は、酸性脱脂剤の表面張力が高く、脱脂力は低く、且つ、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0070】
[比較例7]
比較例7では、酸性脱脂剤における酸成分である硫酸の濃度を「5質量%」、非イオン性界面活性剤を比較例5と同じ「EO-POコポリマー」、酸性脱脂剤の使用時の液温を「40℃」及びレジストパターンの幅を「ライン/スペース(L/S)が6μm/6μm」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例7の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(c)に示す。これらの試験結果から理解できるように、非イオン性界面活性剤の種類が異なり、塩化物イオン源が非含有であると共に使用時の液温が高い比較例7は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0071】
次いで、比較例7では、上述の方法で得た(即ち、比較例7の酸性脱脂剤を用いて行った)脱脂洗浄後の「無電解銅めっき皮膜(シード層)を有するレジストパターン付き銅張積層板」について、実施例18と同様の方法で、無電解銅めっき皮膜の表面に電気銅めっき皮膜を設けた試験片を得て、電子顕微鏡により当該試験片の断面観察を行った。図9(b)にその断面観察像を示す。
【0072】
[比較例8]
比較例8では、酸性脱脂剤におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤に替えて、「分子量3400のポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製のPEG4000S)」を使用した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例8の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(d)に示す。これらの試験結果から理解できるように、界面活性剤の種類が異なる比較例8は、酸性脱脂剤の表面張力が高く、脱脂力は低いものとなった。
【0073】
[比較例9]
比較例9では、酸性脱脂剤における塩化物イオン源である塩化ナトリウムを非含有とした以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例9の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(e)に示す。これらの試験結果から理解できるように、塩化物イオン源が非含有の比較例9は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0074】
[比較例10]
比較例10では、酸性脱脂剤の使用時の液温を「10℃」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価の方法については、記載を省略する。この比較例10の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(f)に示す。これらの試験結果から理解できるように、使用時の液温が低い比較例10は、脱脂力が低いものとなった。
【0075】
[比較例11]
比較例11では、酸性脱脂剤の使用時の液温を「40℃」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価の方法については、記載を省略する。この比較例11の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表4及び図6(g)に示す。これらの試験結果から理解できるように、使用時の液温が高い比較例11は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0076】
ここで、「酸として硫酸のみを含有する酸性脱脂剤」である比較例1~比較例11における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表4として示す。
【0077】
【表4】
【0078】
[比較例12]
比較例12では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「0.01質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例12の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表5及び図7(a)に示す。これらの試験結果から理解できるように、有機酸の含有量が低い比較例12は、酸性脱脂剤の脱脂力が低く、酸化皮膜除去性能も不十分なものとなった。
【0079】
[比較例13]
比較例13では、酸性脱脂剤における酸成分を有機酸である「30質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例13の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表5及び図7(b)に示す。これらの試験結果から理解できるように、有機酸の含有量が高い比較例13は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0080】
ここで、「酸として有機酸のみを含有する酸性脱脂剤」である比較例12及び比較例13における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表5として示す。
【0081】
【表5】
【0082】
[比較例14]
比較例14では、酸性脱脂剤における酸成分を「0.01質量%の硫酸」及び、有機酸である「0.01質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例14の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表6及び図8(a)に示す。これらの試験結果から理解できるように、酸成分である硫酸及び有機酸の合計含有量が低い比較例14は、酸性脱脂剤の脱脂力が低く、酸化皮膜除去性能も不十分なものとなった。
【0083】
[比較例15]
比較例15では、酸性脱脂剤における酸成分を「15質量%の硫酸」及び、有機酸である「15質量%のグリコール酸」に変更した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。そのため、試験及び評価方法については、記載を省略する。この比較例15の酸性脱脂剤の組成及び評価結果と金属顕微鏡観察像とを、表6及び図8(b)に示す。これらの試験結果から理解できるように、酸成分である硫酸及び有機酸の合計含有量が高い比較例15は、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等が発生した。
【0084】
ここで、「酸として硫酸及び有機酸を含有する酸性脱脂剤」である比較例14及び比較例15における、酸性脱脂剤の組成及び評価結果を、表6として示す。
【0085】
【表6】
【0086】
<実施例と比較例との対比>
表1~表3及び図1図4に示す試験結果によれば、酸性脱脂剤が、硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸を0.1質量%~20質量%、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤を0.01質量%~1質量%、塩化物イオン源を塩化物イオンの濃度で0.001質量%~1質量%含み、使用時の液温が15℃~35℃である実施例1~実施例19は、酸性脱脂剤の表面張力が33.6mN/m以下と低く、酸性脱脂剤を用いて処理したドライフィルムレジストパターンに浮き、ヨレ等も生じず、且つ、脱脂力が70%以上と高く、酸化皮膜除去性能も良好なものとなった。
【0087】
一方、表4~表6及び図5図8に示す試験結果によれば、酸性脱脂剤における、硫酸及び有機酸からなる群から選択される一種以上の酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤、塩化物イオン源の含有量又は使用時の液温の何れか一つ以上が、本件出願に係る発明の好適な数値範囲外であるか、酸性脱脂剤の組成自体が異なる、比較例1~比較例15は、酸性脱脂剤の表面張力、酸性脱脂剤による処理後のドライフィルムレジストの状態、脱脂力及び酸化皮膜除去性能の何れか一つ以上に不具合が生じる結果となった。
【0088】
また、図9の(a)及び(b)に示す断面観察像によれば、本件出願の酸性脱脂剤(具体的には、実施例18の酸性脱脂剤)を用いて電気銅パターンめっきの前処理である脱脂洗浄を行うと、レジストパターンとシード層(無電解銅めっき皮膜)との間に浮きや剥離が生じることなく、所望する形状の電気銅めっき皮膜が得られることが確認できた。一方、非イオン性界面活性剤の種類が異なり、塩化物イオン源が非含有であると共に使用時の液温が高い酸性脱脂剤(比較例7の酸性脱脂剤)を用いて同様の処理を行うと、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が生じ、電気銅めっきを行った際に、レジストパターンの下に銅成分が潜り込んで析出するという不具合が発生する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本願の酸性脱脂剤は、レジストパターンとシード層との間に浮きや剥離が極めて生じ難く、且つ、脱脂力と、シード層及びレジスト材表面に対する濡れ性等とに優れるため、電気銅パターンめっきの前処理において好適に用いることができる。特に、銅又は銅合金からなるシード層を有する絶縁性基板を用いてプリント配線板を製造する際に、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 ドライフィルムレジストパターン
2 電気銅めっき皮膜
3 シード層(無電解銅めっき皮膜)
4 シード層表面
5 銅張積層板(絶縁性基材上の銅箔)
6 ドライフィルムレジストパターンの下に潜り込んで析出した銅成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9