(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082942
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】5-ブロモチオクロマン 1,1-ジオキシド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 335/06 20060101AFI20230608BHJP
【FI】
C07D335/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196976
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 寛崇
(72)【発明者】
【氏名】山口 正男
(72)【発明者】
【氏名】三原 健
(57)【要約】 (修正有)
【課題】5-ブロモチオクロマン1,1-ジオキシドの製造法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物
(式(1)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。)に、ブロム化剤を化学反応させる工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物
(式(1)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。)に、
ブロム化剤を反応させることを含む、
式(2)で表される化合物
(式(2)中、Rは、式(1)中のそれと同じものを示す。)を製造する方法。
【請求項2】
式(3)で表される化合物
(式(3)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。)を酸化反応させて式(1)で表される化合物を得、
次いで、式(1)で表される化合物
(式(1)中、Rは式(3)中のそれと同じものを示す。)にブロム化剤を化学反応させることを含む、式(2)で表される化合物
(式(2)中、Rは式(3)中のそれと同じものを示す。)を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5-ブロモチオクロマン 1,1-ジオキシド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、除草剤として効果が期待できる7-オキサ-3,4-ジアザビシクロ[4.1.0]ヘプタ-4-エン-2-オン化合物の製造のために、式(A)で表わされる化合物を、以下の工程で製造したことを開示している。
【0003】
【0004】
非特許文献1は、2,4,6-トリニトロトルエンをβ-メルカプトカルボン酸エステルで処理し、続いて酸化すると、2-(アルコキシカルボニル-H-メチルスルホニル)-4,6-ジニトロトルエンが得られ、第二級アミンアセテートの存在下でベンゼン中で加熱すると芳香族アルデヒドとのクネーフェナーゲル縮合が進み、この分子内環化の結果、2-アルコキシカルボニル-3-アリール-2-H-5,7-ジニトロチオクロマン-1,1-ジオキシドが得られたことを開示している。そして、この手順によって、これまで知られていなかったチオクロマン-1,1-ジオキシド誘導体への道を開くことができると述べている。
【0005】
特許文献2は、式(B)で表されるチオクロマン化合物(X1、X2、X3、およびX4はそれぞれ独立してC1~4アルキル基である。)を先ずハロゲン化剤でハロゲン化し、続いて酸化剤を加えて酸化することを特徴とする式(C)で表される核ハロゲン化スルホキシド化合物または核ハロゲン化スルホン化合物(X5はハロゲン原子、mは1または2)の製造方法を開示している。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2021/060240 A
【特許文献2】特開平8-157472号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】V. A. Tartakovskii et al. "Synthesis of Thiochroman 1,1-Dioxide Derivatives on the Basis of 2,4,6-Trinitrotoluene" Russian Journal of Organic Chemistry 39(3):397-402 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ビルディングブロックの一つである、5-ブロモチオクロマン 1,1-ジオキシド化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために検討を重ねた結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と呼ぶことがある。)にブロム化剤を反応させることを含む、式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と呼ぶことがある。)を製造する方法。
【0012】
(式(1)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。)
【0013】
(式(2)中、Rは式(1)中のそれと同じものを示す。)
【0014】
〔2〕 式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)と呼ぶことがある。)を酸化反応させて式(1)で表される化合物を得、
次いで、式(1)で表される化合物にブロム化剤を化学反応させることを含む、式(2)で表される化合物を製造する方法。
【0015】
(式(3)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。)
【0016】
(式(1)中、Rは式(3)中のそれと同じものを示す。)
【0017】
(式(2)中、Rは式(3)中のそれと同じものを示す。)
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、化合物(2)を高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の化合物(2)の製造方法の一つの実施形態は、化合物(1)にブロム化剤を化学反応させることを含む。
本発明の化合物(2)の製造方法の別の一つの実施形態は、化合物(3)を酸化反応させて化合物(1)を得、次いで化合物(1)にブロム化剤を化学反応させることを含む。
【0020】
本発明に用いられる化合物(1)は、式(1)で表される。
【0021】
【0022】
式(1)中、Rは、水素原子、C1~6アルキル基、またはC1~6ハロアルキル基を示す。
【0023】
RにおけるC1~6アルキル基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。C1~6アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、i-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0024】
RにおけるC1~6ハロアルキル基としては、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)プロピル基などを挙げることができる。
【0025】
本発明に用いられる化合物(1)は、公知の方法で自ら合成したものであってもよいし、他の者が何らかの方法で合成し市販しているものであってもよい。
【0026】
化合物(1)は、例えば、化合物(3)を酸化反応させることによって製造できる。
【0027】
化合物(3)は、式(3)で表される。
【0028】
【0029】
式(3)中、Rは式(1)中のそれと同じものを示す。
【0030】
本発明に用いられる化合物(3)は、公知の方法で自ら合成したものであってもよいし、他の者が何らかの方法で合成し市販しているものであってもよい。
例えば、化合物(3)は、2-R-ベンゼン-1-チオールに、プロパン-1,3-ジオールまたはブタン-3-エン-1-オールを化学反応(脱水環化反応)させることによって、または、1-R-2-[(プロパン-2-エン-1-イル)スルファニル]ベンゼンを酸存在下で化学反応(付加環化反応)させることによって得ることができる。
脱水環化反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒は、脱水環化反応に対して不活性であることが好ましい。溶媒としては、例えば、無水酢酸、酢酸、ギ酸などを挙げることができる。プロパン-1,3-ジオールまたはブタン-3-エン-1-オールの量は、2-R-ベンゼン-1-チオール1モルに対して、好ましくは1~5モル、より好ましくは1~1.5モルである。
付加環化反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒は、付加環化反応に対して不活性であることが好ましい。溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、ニトロベンゼン、ジクロロメタン、n-ヘキサンなどを挙げることができる。付加環化反応における酸存在下で行うために、例えば、塩化アルミニウム、塩化亜鉛、塩化鉄などのルイス酸、メタンスルホン酸などのプロトン酸、酸性イオン交換樹脂などの酸を添加する方法を採り得る。酸の量は、1-R-2-[(プロパン-2-エン-1-イル)スルファニル]ベンゼン1モルに対して、好ましくは0.1~3モル、より好ましくは0.1~1.2モルである。
環化反応の際の温度は、適宜選択可能であるが、例えば、室温から溶媒の沸点である。環化反応の際の圧力は、特に制限されず、例えば、常圧である。反応時間は、例えば、0.5時間~24時間である。
環化反応終了後、常法に従って、精製処理(例えば、ろ過、抽出、アルカリ洗浄、蒸留、クロマト分離など)を行ってもよい。
【0031】
化合物(3)の酸化反応においては、過酸化水素水、過酢酸、メタ過ヨウ素酸ナトリウム、メタクロロ過安息香酸などの酸化剤を用いることができる。
酸化反応は、溶媒中で行うことができる。溶媒は、酸化反応に対して不活性であることが好ましい。溶媒としては、例えば、酢酸、水、メタノールなどを挙げることができる。これらのうち、酢酸が好ましい。酸化反応の際の温度は、適宜選択可能であるが、例えば、室温から溶媒の沸点である。酸化反応の際の圧力は、特に制限されず、例えば、常圧である。反応時間は、例えば、0.5時間~24時間である。
【0032】
酸化反応終了後、常法に従って、精製処理を行ってもよい。精製処理としては、例えば、過剰の酸化剤を除去するために還元剤を酸化反応で得られた液に加え、生じた固体を濾過により集め、乾燥することにより、目的物を単離することができる。還元剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどを挙げることができる。以下に述べるブロム化反応は、本酸化反応と別の工程として行ってもよいし、連続してワンポットで行ってもよい。ワンポットで行う場合は、酸化反応終了後に精製処理を施すことなく、ブロム化反応を行ってもよい。
【0033】
本発明に用いられるブロム化剤としては、例えば、臭素(Br2)、ジブロモイソシアヌル酸、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントイン、テトラブチルアンモニウムトリブロミド、N-ブロモサッカリン、N-ブロモスクシンイミドなどを挙げることができる。
ブロム化剤の使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、1.0~5.0モル、好ましくは、1.1~2.0モルである。
【0034】
ブロム化剤による化学反応(ブロム化反応)は、酸性条件下または鉄存在下で行うことが好ましい。
【0035】
酸性条件下で行うために、例えば、HBr、HCl、酢酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、発煙硫酸などを添加する方法を採り得る。
【0036】
鉄存在下で行うために、例えば、臭化鉄(III)、臭化鉄(II)、鉄粉などを添加する方法を採り得る。
【0037】
ブロム化反応は、水、有機溶媒などの溶媒中で行うことができる。有機溶媒は、ブロム化反応に対して不活性であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどのアルコール類; ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(製品名:ジグライム)、テトラヒドロフラン(略名:THF)などのエーテル類; ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン(略名:DCE)などのハロゲン化炭化水素類; ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類; トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;を挙げることができる。
溶媒の使用量は、化合物(1)1重量部に対して、好ましくは10~500重量部である。酸性条件とするために発煙硫酸などの液体を用いる場合は、溶媒を使用しなくてもよい。
【0038】
反応基質の混合順序は、特に制限はないが、例えば、反応容器に溶媒を入れた後化合物(1)を加え、ブロム化剤を加えることが好ましい。混合させるときの温度は、特に制限されず、室温でよい。反応基質を混合させる際は、撹拌下で混合することが好ましい。
【0039】
ブロム化反応の際の温度は、適宜選択可能であるが、例えば、0℃から溶媒の沸点である。ブロム化反応の際の圧力は、特に制限されず、例えば、常圧である。反応時間は、例えば、0.5時間~24時間である。ブロム化反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法で得られる化合物(2)は、式(2)で表される。
【0041】
式(2)中、Rは、式(2)中のそれと同じものを示す。
【0042】
ブロム化反応終了後は、有機溶媒で抽出し、得られる有機層を乾燥、濃縮するなどの後処理をする。さらに、必要に応じて、再結晶、クロマトグラフィーなどの操作により精製することができる。
例えば、ブロム化反応で生じた臭化水素を除去するために、脱ハロゲン剤を添加して洗浄してもよい。脱ハロゲン剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどを挙げることができる。酸化反応とブロム化反応とをワンポットで行った場合は、亜硫酸水素ナトリウムなどの添加で、酸化剤の除去と臭化水素の除去とを同時に行うことができる。抽出においては、水不溶の溶媒、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジクロロメタンなど、を用いることが好ましい。有機層はアルカリ水溶液で洗浄することが好ましい。アルカリ水溶液としては、重曹水、炭酸ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
【0043】
以下に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。
【0044】
〔製造例1〕
5-ブロモ-8-トリフルオロメチル-チオクロマン 1,1-ジオキシド〔5-bromo-8-(trifluoromethyl)thiochromane 1,1-dioxide〕の合成
【0045】
【0046】
8-トリフルオロメチル-チオクロマン 1,1-ジオキシド(0.26g)を硫酸(0.95mL)に溶解させて、室温下で撹拌した。これにN-ブロモスクシンイミド(0.21g)を加え、室温下で22時間撹拌した。これに氷と重曹水を注ぎ、次いでジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、ろ過した。ろ液を減圧濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することによって目的物(0.20g)を得た。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法は、医薬及び農薬の原体となる化合物を構成する主要な部分構造である、5-ブロモ-チオクロマン 1,1-ジオキシド化合物を、効率的に得ることができる。