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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082947
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】窓構造とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/18 20060101AFI20230608BHJP
【FI】
B60J1/18 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196987
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】保井 猛
(57)【要約】
【課題】製造工程の煩雑さや製造コストの上昇を抑え、有機ガラスを取り付ける接着剤により美観を損ねることを抑えられる窓構造を提供する。
【解決手段】窓構造が、窓穴4aを有するアウタパネル4と、窓穴4aを塞ぐようにアウタパネル4に取り付けられる有機ガラス3と、有機ガラス3とアウタパネル4の間に位置する接着剤6とを有する。有機ガラス3の外周縁から中央側に向かう方向に、接着剤6が有機ガラス3とアウタパネル4とに密着する第1領域5aと、第1の凸部3cによって第1領域5aよりも狭くなっており接着剤6が第1の凸部3cとアウタパネル4とに密着している第2領域5bと、有機ガラス3と接着剤6との間に有機ガラス3と接着剤6とを隔離する空間8が介在する第3領域5cと、第2の凸部3eの先端が接着剤6を介在させずにアウタパネル4に当接する第4領域5dとが順番に並んで位置している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓穴を有するアウタパネルと、前記窓穴を塞ぐように前記アウタパネルに取り付けられる、透光性を有する合成樹脂製の有機ガラスと、前記有機ガラスと前記アウタパネルの間に位置する接着剤と、を有し、
前記有機ガラスには前記アウタパネルに向かって突出する第1の凸部および第2の凸部が設けられており、
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記有機ガラスの外周縁から中央側に向かう方向に、前記接着剤が前記有機ガラスと前記アウタパネルとに密着している第1領域と、前記第1の凸部によって前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う方向の寸法が前記第1領域よりも狭くなっており、前記接着剤が前記第1の凸部と前記アウタパネルとに密着している第2領域と、前記アウタパネルは前記接着剤に密着しており、前記有機ガラスと前記接着剤との間に前記有機ガラスと前記接着剤とを隔離する空間が介在している第3領域と、前記第2の凸部の先端が前記接着剤を介在させずに前記アウタパネルに当接している第4領域とが、順番に並んで位置していることを特徴とする、窓構造。
【請求項2】
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記第4領域よりも前記有機ガラスの中央側に、前記有機ガラスと前記アウタパネルとの間に前記接着剤が存在しない空間が形成されている第5領域をさらに有する、請求項1に記載の窓構造。
【請求項3】
前記有機ガラスには、前記外周縁から中央側に向かう方向に、前記第1領域を構成する第1の凹部と、前記第2領域を構成する前記第1の凸部と、前記第3領域を構成する第2の凹部と、前記第4領域を構成する前記第2の凸部と、前記第5領域を構成する第3の凹部と、が順番に並べて設けられている、請求項2に記載の窓構造。
【請求項4】
前記第3の凹部は曲面状の凹形状を有している、請求項3に記載の窓構造。
【請求項5】
前記第1の凸部と前記第2の凸部は、断面形状が半円状、半楕円状または半長円状である、請求項1から4のいずれか1項に記載の窓構造。
【請求項6】
前記アウタパネルには、前記第1の凸部に対向する第1の対向凸部と、前記第2の凸部に対向する第2の対向凸部と、が設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の窓構造。
【請求項7】
前記アウタパネルの前記有機ガラスに対向する面が平坦な平面状である、請求項1から5のいずれか1項に記載の窓構造。
【請求項8】
前記接着剤は有色であり、前記第1領域は前記接着剤の色が前記有機ガラスの外側から見える領域であり、前記第2領域は前記第1領域から前記第3領域への前記接着剤の流れを調整する領域であり、前記第3領域は前記第1領域および前記第2領域よりも薄い色が前記有機ガラスの外側から見える領域であり、前記第4領域は前記接着剤の色を呈さない領域である、請求項1から7のいずれか1項に記載の窓構造。
【請求項9】
自動車のバックドアの嵌め殺しの窓を構成する、請求項1から8のいずれか1項に記載の窓構造。
【請求項10】
透光性を有する合成樹脂製の有機ガラスを有する窓構造の製造方法であって、
前記有機ガラスを、接着剤を用いて、アウタパネルに設けられた窓穴を塞ぐように当該アウタパネルに取り付ける工程を含み、
前記有機ガラスには前記アウタパネルに向かって突出する第1の凸部および第2の凸部が設けられており、
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記有機ガラスの外周縁から中央側に向かう方向に、前記接着剤を前記有機ガラスと前記アウタパネルとに密着させた第1領域と、前記第1の凸部によって前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う方向の寸法を前記第1領域よりも狭くし、前記接着剤を前記第1の凸部と前記アウタパネルとに密着させた第2領域と、前記アウタパネルを前記接着剤に密着させるが、前記有機ガラスと前記接着剤との間に前記有機ガラスと前記接着剤とを隔離する空間を形成する第3領域と、前記第2の凸部の先端を前記接着剤を介在させずに前記アウタパネルに当接させる第4領域とを、順番に並べて設けることを特徴とする、窓構造の製造方法。
【請求項11】
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記第4領域よりも前記有機ガラスの中央側に、前記有機ガラスと前記アウタパネルとの間に前記接着剤が存在しない空間を形成する第5領域をさらに設ける、請求項10に記載の窓構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窓構造とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の乗物の窓において、主に軽量化のために、ガラスに代えて透明または半透明の樹脂からなる板状の部材(有機ガラスまたは樹脂ガラスと称する)が用いられる場合がある。特許文献1には、自動車のスライドドアに、ポリカーボネートを主成分とする樹脂製のパネル本体を用いた窓が設けられた構成が開示されている。通常、ポリカーボネートやアクリル樹脂等の合成樹脂からなる有機ガラスを自動車の車体パネル(アウタパネル)に取り付けるために、接着剤が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-066362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ガラスをアウタパネルに接着するための接着剤を、整然とした外形に形成することは困難であり、不規則な形状に拡がった接着剤が車外から見えると、美観を損ねる場合がある。また、有機ガラスを介してアウタパネル等の構造体の一部が窓から見えることが好ましくない場合もある。そのため、図5に示すように、有機ガラス11をアウタパネル12に接着する接着剤13およびその周辺を覆うように、有機ガラス11に黒色セラミックなどからなる有色層14が設けられている。有機ガラス11の表面には、紫外線を遮断して耐候性を高めるコーティング層15が設けられている。黒色セラミックなどからなる有色層14を有機ガラス11と接着剤13との間に配置することにより、美観を損ねることが抑えられるが、製造工程が煩雑になるとともに製造コストが高くなる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、製造工程の煩雑さや製造コストの上昇を抑えつつ、有機ガラスを取り付けるための接着剤により美観を損ねることを抑えることができる窓構造とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窓構造は、窓穴を有するアウタパネルと、前記窓穴を塞ぐように前記アウタパネルに取り付けられる、透光性を有する合成樹脂製の有機ガラスと、前記有機ガラスと前記アウタパネルの間に位置する接着剤と、を有し、前記有機ガラスには前記アウタパネルに向かって突出する第1の凸部および第2の凸部が設けられており、前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記有機ガラスの外周縁から中央側に向かう方向に、前記接着剤が前記有機ガラスと前記アウタパネルとに密着している第1領域と、前記第1の凸部によって前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う方向の寸法が前記第1領域よりも狭くなっており、前記接着剤が前記第1の凸部と前記アウタパネルとに密着している第2領域と、前記アウタパネルは前記接着剤に密着しており、前記有機ガラスと前記接着剤との間に前記有機ガラスと前記接着剤とを隔離する空間が介在している第3領域と、前記第2の凸部の先端が前記接着剤を介在させずに前記アウタパネルに当接している第4領域とが、順番に並んで位置していることを特徴とする。
【0007】
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記第4領域よりも前記有機ガラスの中央側に、前記有機ガラスと前記アウタパネルとの間に前記接着剤が存在しない空間が形成されている第5領域をさらに有してもよい。
【0008】
前記有機ガラスには、前記外周縁から中央側に向かう方向に、前記第1領域を構成する第1の凹部と、前記第2領域を構成する前記第1の凸部と、前記第3領域を構成する第2の凹部と、前記第4領域を構成する前記第2の凸部と、前記第5領域を構成する第3の凹部と、が順番に並べて設けられていてよい。
【0009】
前記第3の凹部は曲面状の凹形状を有していてよい。
【0010】
前記第1の凸部と第2の凸部は、断面形状が半円状、半楕円状または半長円状であってよい。
【0011】
前記アウタパネルには、前記第1の凸部に対向する第1の対向凸部と、前記第2の凸部に対向する第2の対向凸部と、が設けられていてもよい。
【0012】
前記アウタパネルの前記有機ガラスに対向する面が平坦な平面状であってもよい。
【0013】
前記接着剤は有色であり、前記第1領域は前記接着剤の色が前記有機ガラスの外側から見える領域であり、前記第2領域は前記第1領域から前記第3領域への前記接着剤の流れを調整する領域であり、前記第3領域は前記第1領域および前記第2領域よりも薄い色が前記有機ガラスの外側から見える領域であり、前記第4領域は前記接着剤の色を呈さない領域であってよい。
【0014】
窓構造は自動車のバックドアの嵌め殺しの窓を構成していてよい。
【0015】
本発明の透光性を有する合成樹脂製の有機ガラスを有する窓構造の製造方法は、前記有機ガラスを、接着剤を用いて、アウタパネルに設けられた窓穴を塞ぐように当該アウタパネルに取り付ける工程を含み、前記有機ガラスには前記アウタパネルに向かって突出する第1の凸部および第2の凸部が設けられており、前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記有機ガラスの外周縁から中央側に向かう方向に、前記接着剤を前記有機ガラスと前記アウタパネルとに密着させた第1領域と、前記第1の凸部によって前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う方向の寸法を前記第1領域よりも狭くし、前記接着剤を前記第1の凸部と前記アウタパネルとに密着させた第2領域と、前記アウタパネルを前記接着剤に密着させるが、前記有機ガラスと前記接着剤との間に前記有機ガラスと前記接着剤とを隔離する空間を形成する第3領域と、前記第2の凸部の先端を前記接着剤を介在させずに前記アウタパネルに当接させる第4領域とを、順番に並べて設けることを特徴とする。
【0016】
前記有機ガラスと前記アウタパネルとが重なり合う部分において、前記第4領域よりも前記有機ガラスの中央側に、前記有機ガラスと前記アウタパネルとの間に前記接着剤が存在しない空間を形成する第5領域をさらに設けてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、製造工程の煩雑さや製造コストの上昇を抑えつつ、有機ガラスを取り付けるための接着剤により美観を損ねることを抑えることができる窓構造とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の窓構造を備えた自動車の一部を模式的に示す側面図である。
図2図1に示す自動車のバックドアを模式的に示す正面図である。
図3】(A)は本発明の一実施形態の窓構造の要部を拡大して示す断面図、(B)はその模式的な平面図である。
図4】(A)は本発明の他の実施形態の窓構造の要部を拡大して示す断面図、(B)はその模式的な平面図である。
図5】従来の窓構造の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る窓構造を備えた乗物の一例である自動車1の一部を示している。自動車1の後部に開閉可能なバックドア2が設けられている。バックドア2が閉じている状態を実線で、開いている状態を2点鎖線でそれぞれ図示している。図2はこのバックドア2の模式的な正面図である。バックドア2は嵌め殺しの窓を備えており、この嵌め殺しの窓に、本発明に係る窓構造が採用されている。この窓構造では、ポリカーボネートやアクリル樹脂等からなる透明または半透明の有機ガラス3が、車体パネルの1つであるアウタパネル4に接合されている。
【0020】
図3(A)は、本実施形態の窓構造の要部を拡大して示す断面図であって、図2のA-A線に沿って切断した、有機ガラス3とアウタパネル4とが重なり合う部分である接合部5の拡大断面図である。図3(B)は、図3(A)の矢印B方向に見た接合部5の拡大平面図であり、車外から車内側に向かって見た図である。図2に模式的に示すように、図3に示す構成の接合部5が、有機ガラス3の全周に亘って設けられている。アウタパネル4には窓穴4a(図2参照)が設けられており、窓穴4aを塞ぐように有機ガラス3が取り付けられて窓が構成されている。有機ガラス3の外周部3gが接着剤6によってアウタパネル4の窓穴4aの内周部4dに接合されて接合部5が構成され、有機ガラス3の外周部3gよりも中央側はアウタパネル4に接着されない。ここで言う中央側とは、平面図を見た時の中央側という意味である。本実施形態では、この有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)に、最外縁凸部3a、第1の凹部3b、第1の凸部3c、第2の凹部3d、第2の凸部3e、第3の凹部3fが順番に形成されている。ここで言う外周部3gとは、外周に位置する、ある程度の範囲を有する領域のことであり、外周縁3hとは、外周部3gのうち最も外側の端縁のことである。同様に、内周部4dとは、内周に位置する、ある程度の範囲を有する領域のことである。アウタパネル4の窓穴4aの内周部4dには、第1の凸部3cに対向する位置に第1の対向凸部4bが形成され、第2の凸部3eおよび第3の凹部3fに対向する位置に第2の対向凸部4cが形成されている。有機ガラス3の表面には、紫外線を遮断して耐候性を高めるコーティング層7が設けられている。接着剤6としては、黒色など遮光性の高い有色の接着剤が用いられる。
【0021】
有機ガラス3をアウタパネル4に接合する際には、主に第1の凹部3bの位置に多量の接着剤6が付与された状態で、有機ガラス3の外周部3gとアウタパネル4の窓穴4aの内周部4dとを重ね合わせる。窓穴4aの内周部4dに押圧されて接着剤6が第1の凹部3bからはみ出し、はみ出した接着剤6は、第1の凸部3cと第1の対向凸部4bとの間の狭い空間を通って第2の凹部3dに進入する。第2の凹部3dは接着剤6によって完全に充填されることはなく、第2の凹部3dの底面と接着剤6の表面との間に空気のみが存在する空間8が存在する。第2の凸部3eは、第2の対向凸部4cに直接当接している。第3の凹部3fは、接着剤6を介在させることなく第2の対向凸部4cと対向しており、第3の凹部3fと第2の対向凸部4cとの間に、接着剤6が存在しない空間9が形成されている。その結果、図3(A),3(B)に示すように、有機ガラス3の外周部3gの最外縁凸部3aから中央側に向かって、接着剤6によって有機ガラス3とアウタパネル4とが隙間なく接着されている第1領域5aと、第1の凸部3cと第1の対向凸部4bとの間に接着剤6が介在している第2領域5bと、空気が存在する空間8を介して接着剤6と有機ガラス3とが間隔をおいて対向する第3領域5cと、接着剤6を介在させずに第2の凸部3eと第2の対向凸部4cとが直接当接する第4領域5dと、第3の凹部3fと第2の対向凸部4cとの間に接着剤6が存在しない空間9が形成されている第5領域5eとが順番に位置する。なお、第1の凹部3bから外周縁3h側にはみ出そうとする接着剤6の大部分は最外縁凸部3aによって遮断される。最外縁凸部3aとアウタパネル4との間を通って外周縁3h側に流れる接着剤6が存在するとしてもそれは少量であるため、外観にほとんど影響を与えることはなく問題にならない。
【0022】
この構成によると、主に第1領域5aにおいて接着剤6が有機ガラス3とアウタパネル4とに密着して隙間なく接着することによって、有機ガラス3とアウタパネル4とが強固に接合される。第1領域5aでは、有機ガラス3の外側から見た時に接着剤6の色(例えば黒色)がそのまま鮮明に見える。これに対し、第3領域5cでは、有機ガラス3と接着剤6との間に空間8が介在し、その部分では有機ガラス3が接着剤6に接触しない。有機ガラス3が接着剤6に接触せず空気が介在するため、第3領域5cでは、有機ガラス3の外側から見た時に、第1領域5aよりも不鮮明でぼやけた色、すなわち第1領域5aよりも薄い色(例えば灰色)に見える。そして、第2領域5bは、第1領域5aからはみ出した接着剤6を第3領域5cに適量だけ流し込むための領域であり、第1の凸部3cによって有機ガラス3とアウタパネル4とが重なり合う方向の寸法が第1領域5aよりも狭くなっている。第3領域5cにおいて有機ガラス3と接着剤6との間に空間8が介在するためには、第3領域5cに流れ込む接着剤6の量を適切な量にする必要がある。そこで、第2領域5bの第1の凸部3cの高さを適切に設定することにより、第1領域5aから第2領域5bを介して適切な量の接着剤6が第3領域5cに流れ込むようにしている。その結果、前述したように、第3領域5cにおいて、有機ガラス3と接着剤6との間に空間8が介在して有機ガラス3が接着剤6に接触せず、第1領域5aよりも薄い色に見えるようにすることが実現する。この第2領域5bでは、接着剤6が第1の凸部3cとアウタパネル4とに密着しており、少なくとも第3領域5cよりも濃い色に見える。第4領域5dでは、第2の凸部3eと第2の対向凸部4cとが当接して接着剤6の流れを遮断している。従って、第2の凸部3eと第2の対向凸部4cとが当接する部分の下流側(中央側)の第4領域5dおよび第5領域5eは、接着剤6が存在しないため、接着剤6の色を呈することはない有機ガラス3自体の透明または半透明の部分である。このように、本実施形態によると、少なくとも、接着剤6の色が鮮明に見える(例えば黒色の)第1領域5aと、接着剤6の色が薄く見える(例えば灰色の)第3領域5cと、接着剤6の色が見えない(透明または半透明の)第4領域5dおよび第5領域5eとが、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)に並んで位置する。なお、ここで言う薄い色とは、主に明度が高い色のことである。
【0023】
さらに、有機ガラス3の第1の凸部3cと第2の凸部3eは、先端が曲面状である突条であることが好ましく、一例としては、断面形状が半円状、半楕円状または半長円状の突条である。第1の凸部3cの先端が曲面状であると、部分的に光の屈折率が低下するため、第1の凸部3cが設けられている第2領域5bを外部から見ると接着剤6の色が第1領域5aよりも薄く見える。ただし、この第2領域5bは、空間8が存在して有機ガラス3が接着剤6に接触しない第3領域5cに比べると、より濃い色に見える。この場合、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)に、接着剤6の色が鮮明に見える(例えば黒色の)第1領域5aと、接着剤6の色が薄く見える(例えば灰色の)第2領域5bと、接着剤6の色がより薄く見える(例えばより薄い灰色の)第3領域5cと、接着剤6の色が見えない(透明または半透明の)第4領域5dおよび第5領域5eとが、順番に並んで位置する。
【0024】
また、第2の凸部3eの先端が曲面状であると、第1の凸部3cと同様に部分的に光の屈折率が低下するため、第2の凸部3eの先端とアウタパネル4(第2の対向凸部4c)とが当接して接着剤6の流れを遮断する部分の手前(上流側)において、第2の凸部3eの曲面状の部分では接着剤6の色がより薄く見える。
【0025】
そして、第3の凹部3fが曲面状であると、第1~2の凸部3c,3eと同様に部分的に光の屈折率が低下するため、透明または半透明の有機ガラスを通して見える車両内部がやや不鮮明に(ぼやけて)見えるため、車内の構造体が窓から見えることが好ましくない場合に効果的である。
【0026】
このように、本実施形態によると、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)に、接着剤6の色が鮮明に見える領域から、接着剤6の色が見えない透明または半透明の領域まで、段階的に色調(明度)が変化する。特に、第1の凸部3cおよび第2の凸部3eの先端と第3の凹部3fの底部がそれぞれ曲面状であると、外部から見た時の色調(明度)がより細かく変化するため、より滑らかな色のグラデーションが形成され、美観をより高めることができる。ただし、第1の凸部3cおよび第2の凸部3eの先端と第3の凹部3fの底部をそれぞれ平坦な平面状に形成することも可能である。
【0027】
また、本実施形態によると、第4領域5dの第2の凸部3eの先端がアウタパネル4に当接することによって、その当接位置よりも中央側(下流側)に接着剤6が流れることがない。すなわち、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)の接着剤6の流れは第2の凸部3eの先端の位置で終了するため、有機ガラス3とアウタパネル4との間で拡がる接着剤6の端縁部は第2の凸部3eの先端に沿って直線状になり、接着剤6の輪郭は整然とした形状になる。従って、接着剤6は規則的な形状になり、外部から見えたとしても美観を損なうことはない。このように、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(図3(A)のC方向)の接着剤6の流れが第2の凸部3eの先端の位置で確実に終了するために、第3領域5cにおいて有機ガラス3と接着剤6との間に空間8が介在していることが寄与する。仮に過剰な量の接着剤6が第2の凸部3eの先端の位置まで到達すると、接着剤6が第2の凸部3eの先端とアウタパネル4との間を押し広げてさらに中央側(第5領域5e側)に流れるおそれがある。しかし、本実施形態では、第3領域5cに余剰の接着剤6を保持できる空間8が存在するため、過剰な量の接着剤6が第2の凸部3eの先端の位置まで到達することはなく、その位置より中央側(下流側)に接着剤6が流れることはない。また、接着剤6が第2の凸部3eの先端の位置まで到達しないことがないように、第3領域5cに保持される接着剤6の量が調整される。このように第3領域5cに適切な量の接着剤6が保持されて、有機ガラス3と接着剤6との間に適切な大きさの空間8が設けられるように、第2領域5bの接着剤6が通過する通路の大きさ、すなわち第1の凸部3cの高さが適切に設定される。
【0028】
ここで従来の窓構造について説明すると、図5に示すように平板状の有機ガラス11(またはガラス)と平板状のアウタパネル12との間に接着剤13を介在させて、有機ガラス11をアウタパネル12に押し付けながら接着しようとすると、接着剤13は押し拡げられる。接着剤13を全方向に均等に押し拡げることは困難であり、押し拡げられた接着剤13の輪郭は直線状にならず不規則な形状になる。従って、有機ガラス11の外側から見ると、接着剤13の色(例えば黒色)の不規則に拡がる部分が見られるため美観を損なう。そこで、不規則な形状に拡がる接着剤13が美観を損なうことを防ぐために、接着剤13を覆う黒色セラミックなどの有色層14が設けられる場合がある。さらに、黒色セラミック等の有色層14が存在する有色の部分から、有色層14が存在しない透明または半透明の部分に段階的に移行するように、有色層14は、有機ガラス11の外周部に対向する部分では全面的に形成しているが、中央側においては複数のドット状に形成し、より中央側に向かうにつれてドットの大きさや密度を変更して有色層14の占める範囲を徐々に小さくしている。それにより、有色層14の色がそのまま鮮明に見える部分から、徐々に色が薄く見えるようなグラデーションを形成して、美観をより高めている。
【0029】
これに対し、本実施形態では、有機ガラス3の外周部3gに凹凸形状を形成して、接着剤6の拡がりをコントロールすることにより、黒色セラミックなどの有色層を不要にしている。具体的には、前述したように、接着剤6を保持してその接着剤6を有機ガラス3に密着させる第1の凹部3b(第1領域5a)と、接着剤6を保持するが有機ガラス3と接着剤6との間に有機ガラス3と接着剤6とを隔離する空間8を介在させて、その部分では接着剤6が有機ガラス3に接触しないようにする第2の凹部3d(第3領域5c)とを形成する。そして、第1の凹部3bと第2の凹部3dとの間に、第1の凹部3bからはみ出した接着剤が第2の凹部3dに向けて流れる通路となる空間(第2領域5b)が設けられている。前述した通り第2の凹部3dの底面に接触しない程度の量の接着剤6が第2の凹部3dに流れるように、第1の凹部3bから第2の凹部3dへ向かう接着剤の流量を調整する必要があり、そのために、通路となる空間が適切な大きさになるように、有機ガラス3の第1の凸部3cの大きさが設定されている。そして、第2の凹部3dからさらに中央側に向かって接着剤が流れることを防ぐために、第2の凹部3dよりも中央側に第2の凸部3eが設けられている(第4領域5d)。第2の凸部3eの先端がアウタパネル4に当接することによって、接着剤6の流れを遮断する部分が形成されている。
【0030】
この構成では、第1の凹部3bおよび第2の凹部3dの端縁部と、第1の凸部3cおよび第2の凸部3eの先端(特に第2の凸部3eの先端)とが、第1~4領域5a~5dの境界および輪郭を明確に区切っている。そして、第1の凹部3bおよび第2の凹部3dの内容積と第1の凸部3cおよび第2の凸部3eの突出高さを適切に設定することにより、接着剤6の流れをコントロールしている。その結果、接着剤6が不規則に拡がることはなく、比較的整然とした形状になるため、有色層によって隠さずに接着剤6が外部から見えてもほとんど美観を損なうことはない。しかも、有機ガラス3に第1の凹部3b、第1の凸部3c、第2の凹部3d、第2の凸部3eが順番に形成されているため、接着剤6自体の色(例えば黒色)から無色(透明または半透明)まで徐々に薄く見えるようになるグラデーションが形成される。接着剤6の他に黒色セラミックなどの有色層を設ける必要はなく、製造工程を煩雑にすることはなく、製造コストを低く抑えられる。有機ガラス3は樹脂成形品であるため、第1の凹部3b、第1の凸部3c、第2の凹部3d、第2の凸部3e、第3の凹部3fを精度良く形成することが容易にでき、製造工程が煩雑になることはない。
【0031】
図4(A)には、本発明の他の実施形態の窓構造の要部である有機ガラス3とアウタパネル10との接合部5の拡大断面図を示し、図4(B)にその接合部5の拡大平面図を示している。本実施形態では、接合部5を構成する内周部10aが平板状であり第1の対向凸部および第2の対向凸部を有していないアウタパネル10を用い、それに合わせて、有機ガラス3の第1の凸部3cおよび第2の凸部3eの突出高さを大きく形成している。このように、有機ガラス3の第1の凸部3cおよび第2の凸部3eを適切な大きさに形成することにより、アウタパネル10の内周部10aが平板状であっても、前述した実施形態と同様な効果が得られる。特にアウタパネル10が金属製の場合には、アウタパネル10の内周部10aが平板状であることにより製造が容易になる効果が大きい。その他の構成や効果については、前述した実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0032】
以上説明したように、本発明では、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(C方向)に、少なくとも、接着剤6が有機ガラス3とアウタパネル4とに密着している、接着剤自体の色(例えば黒色)の第1領域5aと、接着剤の通路となり第1領域5aから第3領域5cへの接着剤6の流れを調整する第2領域5bと、有機ガラス3と接着剤との間に有機ガラス3と接着剤6とを隔離する空間8が介在する、第1領域5aおよび第2領域5bよりも薄い色(例えば灰色)の第3領域5cと、有機ガラス3の第2の凸部3eが、接着剤6を介在させずにアウタパネル4に当接し、その当接位置よりも中央側(下流側)では接着剤6の色を呈さない透明または半透明の第4領域5dとが、順番に並んで形成されている。第1の凸部3cおよび第2の凸部3eを含む各部の寸法を適切に設定することにより、接着剤6の流れを制御して、各領域5a~5dを整然とした形状に形成することができる。それによって、有機ガラス3を介して接着剤6が見えたとしても美観は損なわれない。従って、黒色セラミックなどの有色層を設ける必要はなく、製造工程の煩雑さや製造コストの上昇を抑えられる。なお、第4領域5dよりも中央側に、有機ガラス3とアウタパネル4との間に接着剤6が存在しない空間9が形成されている第5領域5eをさらに有していてもよい。この第5領域5eを構成する有機ガラス3の第3の凹部3fの底部が曲面状であると、車内の構造体があまり鮮明に見えないようにすることができる。また、第3領域5cと第4領域5dとの間に、第1の凸部3cと同様な凸部を有し第2領域5bに類似した領域と、有機ガラス3と接着剤6との間に有機ガラス3と接着剤6とを隔離する空間8が介在する第3領域5cに類似した領域等がさらに設けられていてもよい。
【0033】
本発明の窓構造の製造方法の一実施形態では、透光性を有する合成樹脂(ポリカーボネートやアクリル樹脂等)製の有機ガラス3を、接着剤6を用いて、アウタパネル4に設けられた窓穴4aを塞ぐようにアウタパネル4に取り付ける工程を含む。有機ガラス3にはアウタパネル4に向かって突出する第1の凸部3cおよび第2の凸部3eが設けられている。有機ガラス3とアウタパネル4とが重なり合う部分(接合部5)において、有機ガラス3の外周縁3hから中央側に向かう方向(C方向)に、接着剤6を有機ガラス3とアウタパネル4とに密着させた第1領域5aと、第1の凸部3cによって有機ガラス3とアウタパネル4とが重なり合う方向の寸法を第1領域5aよりも狭くし、接着剤6を第1の凸部3cとアウタパネル4とに密着させた第2領域5bと、アウタパネル4を接着剤6に密着させるが、有機ガラス3と接着剤6との間に有機ガラス3と接着剤6とを隔離する空間8を形成する第3領域5cと、第2の凸部3eの先端を接着剤6を介在させずにアウタパネル4に当接させる第4領域5dとを、順番に並べて設ける。有機ガラス3とアウタパネル4とが重なり合う部分(接合部5)において、第4領域5dよりも有機ガラス3の中央側に、有機ガラス3とアウタパネル4との間に接着剤6が存在しない空間を形成する第5領域5eをさらに設けてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 自動車
2 バックドア
3 有機ガラス
3a 最外縁凸部
3b 第1の凹部
3c 第1の凸部
3d 第2の凹部
3e 第2の凸部
3f 第3の凹部
3h 外周縁
3g 外周部
4,10 アウタパネル(車体パネル)
4a 窓穴
4b 第1の対向凸部
4c 第2の対向凸部
4d,10a 内周部
5 接合部
5a 第1領域
5b 第2領域
5c 第3領域
5d 第4領域
5e 第5領域
6 接着剤
7 コーティング層
8 空間
図1
図2
図3
図4
図5