(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082960
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法およびそれを用いためっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20230608BHJP
C23C 18/32 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B29C45/00
C23C18/32
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197007
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000162515
【氏名又は名称】協和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】北村 淳二
(72)【発明者】
【氏名】小原 穂高
(72)【発明者】
【氏名】原田 淳一
【テーマコード(参考)】
4F206
4K022
【Fターム(参考)】
4F206AP05
4F206AP10
4F206AR06
4F206AR11
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM05
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4F206JN43
4F206JP14
4F206JQ81
4F206JQ90
4F206JW05
4F206JW08
4F206JW16
4F206JW38
4F206JW41
4K022AA13
4K022AA31
4K022AA41
4K022BA14
4K022CA06
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】 高温かつ長時間のアニール処理を用いることなく適切な結晶性を付与できる、めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法およびそれを用いためっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のめっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法は、(a1)金型内に溶融したポリ乳酸を充填する工程、(b1)金型を、金型内のポリ乳酸の温度がポリ乳酸の結晶化促進温度に到達するまで5℃/秒から20℃/秒の平均冷却速度で冷却する工程、および(c1)(b1)の工程の後、金型内のポリ乳酸の温度をポリ乳酸の結晶化促進温度で30秒間から5分間保持する工程を包含する。本発明によれば、所望でない熱変形を引き起こすことなく、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体を簡便に製造できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法であって、
(a1)金型内に溶融したポリ乳酸を充填する工程、
(b1)該金型を、該金型内の該ポリ乳酸の温度が該ポリ乳酸の結晶化促進温度に到達するまで5℃/秒から20℃/秒の平均冷却速度で冷却する工程、および
(c1)該(b1)工程の後、該金型内の該ポリ乳酸の温度を該ポリ乳酸の該結晶化促進温度で30秒間から5分間保持する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記(b1)工程における前記金型の前記平均冷却速度が5℃/秒から12℃/秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸の前記結晶化促進温度が85℃から150℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリ乳酸の前記結晶化促進温度が90℃から105℃である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法であって、
(a2)請求項1から4のいずれかに記載の方法で得られたポリ乳酸樹脂基材を、アルカリ金属水酸化物を含有するエッチング処理液に接触させる工程、
(b2)該(a2)の工程後、該ポリ乳酸樹脂基材を無電解めっきする工程、
(c2)該無電解めっきした該ポリ乳酸樹脂基材を電気めっきする工程
を包含する、方法。
【請求項6】
前記(a2)工程の後、かつ前記(b2)工程の前に、前記ポリ乳酸樹脂基材を、界面活性剤を含むコンディショニング液に接触させることを含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法およびそれを用いためっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に優しい樹脂として種々の生分解性樹脂が注目されている。そのうち、ポリ乳酸は、当該生分解性樹脂の代表的なものであり、その応用範囲の拡大が所望されている。
【0003】
一方、自動車に代表される数々の工業製品では、装飾性の向上等の観点から、銅、ニッケル、クロム、金等のめっき皮膜の形成を求められることがある。しかし、ポリ乳酸樹脂からなる成形体へのめっき皮膜の形成は必ずしも容易ではない。
【0004】
例えば、特許文献1によれば、ポリ乳酸樹脂成形体を被めっき物としてめっき処理を行う場合には、エッチング液として従来知られているクロム酸-硫酸混合液を用いると、エッチング効果が十分ではなく、満足のいくめっき密着性を得ることができないことが指摘されている。しかも、クロム酸-硫酸混合液は、有毒な6価クロムを含有するため作業環境が悪く、排水処理のために6価クロムを3価に還元する必要があり、現場での作業時の安全性や排水処理にかかる負担は大きいと言わざるを得ない。
【0005】
特許文献1は、この問題を解決するために、ポリ乳酸樹脂成形体に対して無電解めっき用の触媒付与のために所定の前処理を行うことを提案している。しかし、この前処理のためにはポリ乳酸樹脂成形体の結晶性を高めるために、当該ポリ乳酸樹脂成形体を高温でかつ長時間のアニール処理が必要とされるため、当該アニール処理の段階でポリ乳酸樹脂成形体がその形状を保持できず、結果として、所望のめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体を得ることが困難である点が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、高温かつ長時間のアニール処理を用いることなく適切な結晶性を付与できる、めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法およびそれを用いためっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法であって、
(a1)金型内に溶融したポリ乳酸を充填する工程、
(b1)該金型を、該金型内の該ポリ乳酸の温度が該ポリ乳酸の結晶化促進温度に到達するまで5℃/秒から20℃/秒の平均冷却速度で冷却する工程、および
(c1)該(b1)工程の後、該金型内の該ポリ乳酸の温度を該ポリ乳酸の該結晶化促進温度で30秒間から5分間保持する工程、
を包含する、方法である。
【0009】
1つの実施形態では、上記(b1)工程における上記金型の上記平均冷却速度は5℃/秒から12℃/秒である。
【0010】
1つの実施形態では、上記ポリ乳酸の上記結晶化促進温度は85℃から150℃である。
【0011】
1つの実施形態では、上記ポリ乳酸の上記結晶化促進温度は90℃から105℃である。
【0012】
本発明はまた、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法であって、
(a2)上記方法で得られたポリ乳酸樹脂基材を、アルカリ金属水酸化物を含有するエッチング処理液に接触させる工程、
(b2)該(a2)の工程後、該ポリ乳酸樹脂基材を無電解めっきする工程、
(c2)該無電解めっきした該ポリ乳酸樹脂基材を電気めっきする工程
を包含する、方法である。
【0013】
1つの実施形態では、上記(a2)工程の後、かつ上記(b2)工程の前に、上記ポリ乳酸樹脂基材を、界面活性剤を含むコンディショニング液に接触させることを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、煩雑な操作を必要とすることなく、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体を簡便に得ることができる。本発明は、様々な形態を有するポリ乳酸樹脂基材に対してめっき皮膜が形成可能であり、工業製品におけるポリ乳酸が利用範囲を一層拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例および比較例で作製されたニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の写真であって、(a)は実施例1で作製されたニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)を示す写真であり、(b)は実施例2で作製されたニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(ボトル)を示す写真であり、そして(c)は比較例2で作製されたニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)の一部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(めっき可能なポリ乳酸樹脂基材の製造方法)
本発明の方法では、まず(a1)工程として、金型内に溶融したポリ乳酸が充填される。
【0017】
ポリ乳酸は、生分解性を有する樹脂として知られている。ポリ乳酸の構成単位である乳酸は1つの不斉炭素を有し、L体とD体との2種類が存在する。ここで、L体のみを重合させたものはポリ-L-乳酸(PLLA)、D体のみを重合させたものはポリ-D-乳酸(PDLA)とも呼ばれ、これらはその立体配置により、互いに逆回りのらせん構造をとることが知られている。
【0018】
本発明において使用されるポリ乳酸は、ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、およびこれらの組み合わせ(例えばステレオコンプレックス型ポリ乳酸(SC-PLA))のいずれであってもよい。
【0019】
なお、これらのポリ乳酸は、直鎖または任意の分岐鎖を有するものであってもよく、例えば、50,000~400,000、好ましくは100,000~250,000の重量平均分子量を有する。
【0020】
このようなポリ乳酸は、例えば、乳酸の脱水縮合により得られたもの、およびラクチドの開環重合により得られたもの、ならびにそれらの組み合わせのいずれであってもよく、例えば、トウモロコシ、サツマイモ、ジャガイモ、およびサトウキビ、ならびにそれらの組み合わせでなどの植物性材料から構成されバイオマスを由来とするものであってもよい。
【0021】
本発明においてポリ乳酸は、酸化防止剤、劣化防止剤、フィラー、加工助剤、架橋剤(例えば、硫黄系架橋剤、過酸化物架橋剤)、および着色剤、ならびにこれらの組み合わせなどの他の添加剤が含有されたものであってもよく、ペレット状、タブレット上、顆粒等の任意の形態を有する樹脂組成物の形態で提供されるものであってもよい。本明細書において、このようなポリ乳酸樹脂組成物についても「ポリ乳酸」との用語で呼ぶことがある。
【0022】
本発明に用いられるポリ乳酸は、好ましくは85℃~150℃、より好ましくは90℃~105℃の結晶化促進温度を有する。ここで、本明細書中に用いられる用語「結晶化促進温度」とは、樹脂の結晶化を高めるために設定され得る温度であり、結晶性樹脂(例えばポリ乳酸分子それ自体)が結晶化し始める結晶化温度(Tc)およびその付近(±10℃、好ましくは±5℃)を包含する。結晶化促進温度は、使用するポリ乳酸のみによって決定されるものではなく、例えば、金型に充填されたポリ乳酸とその他の添加剤との全体の関係において当該ポリ乳酸の結晶化がより効果的に開始する温度を指していう。使用されるポリ乳酸の結晶化促進温度が90℃を下回ると、結晶化が十分に進まない状態で固化するため、良好な成形体を得ることが困難となることがある。使用されるポリ乳酸の結晶化促進温度が150℃を上回ると、同様に、結晶化が十分に進まない状態で固化も不十分なため、良好な成形体を得ることが困難となることがある。
【0023】
金型内に充填されるポリ乳酸は、溶融した状態、例えば170℃~250℃、好ましくは190℃~210℃に加熱された状態で金型内に充填される。充填される金型は80℃~150℃に設定されていることが好ましい。
【0024】
金型は、射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空圧空成形法など、当該分野において公知の成形方法に使用され得る金型であり、冷却を行うため、種々の冷却手段や温度センサを備えるものが使用され得る。
【0025】
金型の冷却は、例えば金型内の冷却手段に所定の媒体を通すことにより行われる。媒体の種類としては、必ずしも限定されないが、例えば冷却水、スチーム、空気、窒素ガス等の不活性期待等の流体が挙げられる。あるいは、こうした媒体に代えて、ヒーターで温度調節することにより金型の冷却を行ってもよい。
【0026】
本発明においては、金型に充填されたポリ乳酸の結晶化を効果的に行うために、金型の冷却速度(特に平均冷却速度)を適切に制御することが重要である。具体的には、溶融したポリ乳酸を充填した後、金型内のポリ乳酸の温度がポリ乳酸の結晶化促進温度に到達するまで所定の平均冷却速度で金型の冷却が行われる。
【0027】
このような平均冷却速度は5℃/秒~20℃/秒(すなわち1秒当たり平均で5℃~20℃の割合での金型内のポリ乳酸の温度の低下)、好ましくは5℃/秒~12℃/秒(すなわち1秒あたり平均で5℃~12℃の割合での金型内のポリ乳酸の温度の低下)が採用され得る。採用する平均冷却速度が5℃/秒を下回ると、ポリ乳酸の結晶化促進温度に到達するまでにより多くの時間が必要となり、得られるポリ乳酸樹脂基材の生産性を著しく低下されるおそれがある。採用する平均冷却速度が20℃/秒を上回ると、より急速な冷却を可能とする複雑かつ高額な設備投入が必要となり、得られるポリ乳酸樹脂基材の汎用性を低下されるおそれがある。
【0028】
言い換えれば、本発明において採用される上記平均冷却速度は、金型内のポリ乳酸の結晶化を効率良く促しかつ生産性を著しく損わない点での両立を図ることができる。
【0029】
なお、金型における上記平均冷却速度は冷却期間中、略一定に制御されてもよく、あるいは可変的に制御されてもよい。
【0030】
金型をポリ乳酸の結晶化促進温度まで冷却した後、金型内のポリ乳酸の温度はポリ乳酸の結晶化促進温度で所定時間をかけて保持される。保持される時間は、30秒間から5分間、好ましくは50秒間~70秒間である。ポリ乳酸の結晶化促進温度で保持される時間が30秒間を下回ると、金型内のポリ乳酸の結晶化が不十分であり、得られるポリ乳酸樹脂基材上にめっき皮膜が適切に形成されないことがある。ポリ乳酸の結晶化促進温度で保持される時間が5分間を上回ると、1つの金型から得られるポリ乳酸樹脂基材の生産性が低下して、結果としてめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体自体の生産性を著しく低下させることがある。本発明では、上記のような保持時間によって、金型内のポリ乳酸について、後述するめっき皮膜の形成に十分な結晶化が行われる。
【0031】
このようにして、少なくとも表面が適切に結晶化しためっき可能なポリ乳酸樹脂基材を得ることができる。
【0032】
上記保持時間の経過後、得られたポリ乳酸樹脂基材は金型から取り出され、次のめっき工程に使用することができる。なお、得られたポリ乳酸樹脂基材は、めっき皮膜の形成をより効果的に行うために所定の手段を用いてその表面の脱脂が行われてもよい。
【0033】
(めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法)
本発明においては、まず上記により得られたポリ乳酸樹脂基材がエッチング処理液に接触させられる。
【0034】
エッチング処理液は、有効成分としてアルカリ金属酸化物を含有する。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富むとの理由から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0035】
エッチング処理液は、アルカリ金属水酸化物の溶解性を高めるために水が溶媒として使用され得る。水は、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水、RO水、および水道水のいずれが使用されてもよい。
【0036】
エッチング処理液中のアルカリ金属水酸化物の濃度は、好ましくは50g/L~800g/Lであり、より好ましくは100g/L~750g/Lである。エッチング処理液に含まれるアルカリ金属酸化物の濃度がこのような範囲内にあることにより、上記ポリ乳酸樹脂基材の表面に対してめっき皮膜の形成に有効なエッチングを効果的に行うことができるとともに、当該エッチングによって当該ポリ乳酸樹脂基材の表面を必要以上に侵食しないようにすることができる。
【0037】
ポリ乳酸樹脂基材へのエッチング処理液の接触は、特に限定はなく、ポリ乳酸樹脂基材(被めっき物)の表面をエッチング処理液に十分に接触させることができる方法が採用され得る。例えば、エッチング処理液を含む浴中に当該ポリ乳酸樹脂基材を浸漬させる方法、ポリ乳酸樹脂基材に当該エッチング処理液を塗布または噴霧してそのまま放置する方法等が採用される。エッチングをより効果的に行うことができるとの理由から、本発明においては、エッチング処理液を含む浴中に当該ポリ乳酸樹脂基材を浸漬させる方法を採用することが好ましい。
【0038】
エッチングに要する条件は特に限定されず、例えば、上記エッチング処理液への浸浸による方法が採用される場合には、エッチング処理液の浴温は、好ましくは20℃~90℃、より好ましくは50℃~80℃に設定される。さらに、浸漬時間についても特に限定されず、好ましくは3分間~40分間、より好ましくは10分間~30分間が採用され得る。
【0039】
なお、上記エッチング処理液との接触後のポリ乳酸樹脂基材については、基材表面に付着している不要なエッチング処理液を除去するために中和処理が行うことが好ましい。中和処理は、例えば無機酸を含む水溶液を用いてポリ乳酸樹脂基材の表面の洗浄を通じて行われる。中和処理に使用され得る無機酸としては、例えば、塩酸が挙げられる。中和処理に採用され得る条件は特に限定されず、ポリ乳酸樹脂基材の表面に付着したエッチング処理液を十分に除去できる条件が当業者によって適宜選択され得る。例えば、35%の塩酸を用いて中和処理を行う場合には、例えばそれを水で30g/L~100g/Lの濃度になるまでに希釈した(塩酸)水溶液が調整され、例えば20℃~40℃の温度で1分間~3分間浸漬させる条件が採用され得る。
【0040】
本発明においては、上記エッチング処理液によるエッチングの後、必要に応じて上記ポリ乳酸樹脂基材がコンディショニング液に接触させ得られてもよい。
【0041】
コンディショニング液は有効成分として界面活性剤を含有する。コンディショニング液との接触によって、ポリ乳酸樹脂基材はこの後の触媒付与処理において、当該ポリ乳酸樹脂基材の表面に一層均一な触媒膜を付着させることが可能となり、無電解めっきの析出性や外観を向上させることができる。
【0042】
コンディショニング液で使用する界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、および両性界面活性剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
カチオン性界面活性剤の例としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、および複素環4級アンモニウム塩、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
アニオン性界面活性剤の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸の炭素数12~18のカルボン酸の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、炭素数12~18のN-アシルアミノ酸、N-アシルアミノ酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、炭素数12~18のアシル化ペプチド等のカルボン酸塩;アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン重縮合物、スルホコハク酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩;硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアリルホルムアルデヒド縮合ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピルアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩等のエーテルエステル型界面活性剤;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等の含窒素型界面活性剤;ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
両性界面活性剤の例としては、カルボキシベタイン型界面活性剤、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン、レシチン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
上記界面活性剤のうち、特に、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;カルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩等の両性界面活性剤等が好ましく、特に、脂肪族アミン塩、アミノカルボン酸塩などが好ましい。
【0048】
コンディショニング液には水が媒体として使用され得る。水は、例えば、純水、蒸留水、イオン交換水、RO水、および水道水のいずれが使用されてもよい。
【0049】
コンディショニング液に含まれる上記界面活性剤の濃度は、好ましくは0.05g/L~50g/L、より好ましくは0.1g/L~10g/Lである。
【0050】
ポリ乳酸樹脂基材へのコンディショニング液の接触は、特に限定はなく、ポリ乳酸樹脂基材(被めっき物)の表面をコンディショニング液に十分に接触させることができる方法が採用され得る。例えば、コンディショニング液を含む浴中に当該ポリ乳酸樹脂基材を浸漬させる方法、ポリ乳酸樹脂基材に当該コンディショニング液を塗布または噴霧してそのまま放置する方法等が採用される。コンディショニング液との接触をより確実に行うことができるとの理由から、本発明においては、コンディショニング液を含む浴中に当該ポリ乳酸樹脂基材を浸漬させる方法を採用することが好ましい。
【0051】
コンディショニング液との接触に要する条件については特に限定されず、当業者によって適切な条件が設定され得る。例えば、上記ポリ乳酸樹脂基材をコンディショニング液に浸漬させる方法が採用される場合は、コンディショニング液を含む浴は、好ましくは10℃~50℃、より好ましくは20℃~45℃の温度に設定され、当該ポリ乳酸樹脂基材を好ましくは1分間~10分間、より好ましくは1分間~5分程度浸漬させられる。
【0052】
次いで、本発明においては、ポリ乳酸樹脂基材の無電解めっきが行われる。
【0053】
この無電解めっきにあたり、具体体にはポリ乳酸樹脂基材には無電解めっき用の触媒が付与される。
【0054】
無電解めっき用の触媒は、特に限定されず、例えばパラジウム、銀、金、白金、ルテニウムなどの他の樹脂に採用され得る無電解めっき用触媒である。例えば、ポリ乳酸樹脂基材にパラジウム触媒が付与される場合、いわゆる、センシタイザー-アクチベーター法、キャタリスト-アクセレーター法などの方法が採用され得る。
【0055】
無電解めっき用触媒を付与した後、ポリ乳酸樹脂基材には無電解めっき液が付与される。このような無電解めっき液には、公知の自己触媒型無電解めっき液が使用され得る。無電解めっき液の例としては、無電解ニッケルめっき液、無電解銅めっき液、無電解金めっき液、無電解コバルトめっき液などが挙げられる。
【0056】
無電解めっきに採用され得る条件は特に限定されず、当業者によって適切な条件が採用され得る。また、必要に応じて少なくとも2回の無電解めっきを行うことにより、ポリ乳酸樹脂基材の表面に少なくとも2相の無電解めっき層を設けてもよい。無電解めっきによって形成される無電解めっき皮膜の膜厚は特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0057】
その後、本発明においては、上記無電解めっきしたポリ乳酸樹脂基材に電気めっきが行われる。
【0058】
本発明においては上記のようにポリ乳酸樹脂基材の表面に一旦無電解めっきの被膜が形成されており、当該無電解めっきの被膜は、均一性かつ密着性に優れた導電性皮膜である。このため、このような無電解めっきの被膜上に電気めっき皮膜を形成することによって、密着性に優れた良好な外観の電気めっき皮膜を形成することができる。
【0059】
電気めっきに使用され得る電気めっき液の種類は、特に限定されず、公知の任意の電気めっき液が使用可能である。また、電気めっきの条件もまた公知のものが採用され得る。
【0060】
本発明において使用され得る電気めっき処理の例としては、銅めっき、ニッケルめっき、クロムめっき、金メッキ、および銀めっき、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
銅めっきが行われる場合、めっき液として公知の硫酸銅めっき液が用いられる。硫酸銅めっき液は、例えば、100g/L~250g/Lの硫酸銅、20g/L~120g/Lの硫酸、および20ppm~70ppmの塩素イオンを含有する水溶液であり、公知の光沢剤を含有していてもよい。硫酸銅めっきの条件には、例えば約25℃の液温にて3A/dm2程度の電流密度が採用され得る。
【0062】
ニッケルめっきが行われる場合、めっき液は、通常のワット浴であり、例えば、200g/L~350g/Lの硫酸銅めっき液、30g/L~80g/Lの塩化ニッケル、および20g/L~60g/Lのホウ酸を含有する水溶液である。市販のニッケルめっき浴用光沢剤が含有されていてもよい。ニッケルめっきの条件には、例えば、55℃~60℃の液温にて、3A/dm2程度の電流密度が採用され得る。
【0063】
クロムめっきが行われる場合、めっき液は、通常のサージェント浴であり、例えば200g/L~300g/Lの無水クロム酸、および2g/L~5g/Lの硫酸を含有する水溶液である。クロムめっきの条件には、例えば、約45℃の液温にて20A/dm2程度の電流密度が採用され得る。
【0064】
このようにして、めっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体を製造することができる。
【0065】
本発明により得られたポリ乳酸樹脂成形体は、審美性に優れかつ良好なめっき皮膜を有する。これにより、様々な用途のめっき皮膜を有する樹脂成形体について、生分解性を活かしたポリ乳酸への置き換えが可能となる。
【0066】
応用可能な、めっき皮膜を有する樹脂成形体の例としては、スプーン、フォーク、ナイフなどの食器;バンパー、ラジエーターグリル、ホイールキャップ、エンブレム等の自動車部品;ノートパソコン、スマートフォン、タブレット端末などの筐体その他の部品;などが挙げられる。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1:ポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)の作製)
重量平均分子量が135,000であるポリ乳酸(Bioworks株式会社製BKC002)を195℃にまで加熱して溶融し、これをスプーン用の射出成形金型内に充填した。充填後、金型を温度調節器により11℃/秒の平均冷却速度で、使用したポリ乳酸の結晶化促進温度(90℃)まで冷却し、その後50秒間金型内の温度を保持することによりスプーン状のポリ乳酸樹脂基材(E1-1)を得た。
【0069】
このポリ乳酸樹脂基材(E1-1)について、上村工業株式会社製スルカップACL-009の水溶液(5.5mL/L)を用いて50℃で5分間脱脂処理を行い、その後水洗した。
【0070】
次いで、得られたポリ乳酸樹脂基材(E1-1)を200g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で50℃にて10分間浸漬してエッチング処理し、その後取り出して水洗した。さらに、これを、界面活性剤(上村工業株式会社製MDP-2)を10mL/Lの濃度で含有し、かつ62.5%硫酸を2mL/Lの濃度で含有する水溶液(コンディショニング液)に25℃で2分間浸漬し、その後取り出して水洗した。
【0071】
さらに、このポリ乳酸樹脂基材(E1-1)に対して触媒(上村工業株式会社製MAT-SP)を50mL/Lの濃度で含有し、かつ1Nの水酸化ナトリウム水溶液を40mL/Lの濃度で含有する混合溶液と接触させて触媒の付与を行い、水洗した。その後、この触媒を付与したポリ乳酸樹脂基材(E1-1)を、上村工業株式会社製MAB-4-Aを10mL/Lの濃度で含有し、上村工業株式会社製MAB-4-Cを50mL/Lの濃度で含有し、かつ上村工業株式会社製MRD-2-Cを10mL/Lの濃度で含有する混合水溶液に40℃で3分間接触させ、水洗して活性化処理を行った。
【0072】
その後、このポリ乳酸樹脂基材(E1-1)に対して無電解ニッケルめっき液(上村工業株式会社製ベルニッケル)に40℃で3分間浸漬して無電解めっきを行った(膜厚約0.5μm)。また、無電解めっき後のポリ乳酸樹脂基材(E1-1)を、光沢電気ニッケルめっき液に浸漬し、50℃の液温かつ3A/dm
2の電流密度で15分間の電気めっきを行うことにより、膜厚が約10μmのニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)(E1-2)を得た(
図1の(a))。
【0073】
(実施例2:ポリ乳酸樹脂成形体(ボトル)の作製)
重量平均分子量が242,000であるポリ乳酸(Bioworks株式会社製BDTO001)を用いたこと以外は実施例1と同様にして溶融し、これをボトル用の射出成形金型内に充填した。その後、金型を11℃/秒の平均冷却速度でポリ乳酸の結晶化促進温度(90℃)まで冷却し、その後50秒間金型内の温度を保持してボトル状のポリ乳酸樹脂基材(E2-1)を得た(
図1の(b))。
【0074】
実施例1のスプーン状のポリ乳酸樹脂基材(E1-1)の代わりに、このボトル状のポリ乳酸樹脂基材(E2-1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚が約10μmのニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(ボトル)(E2-2)を得た。
【0075】
(比較例1:ポリ乳酸樹脂成形体(カップ)の作製)
重量平均分子量が116,000であるポリ乳酸(Bioworks株式会社製BKB006)を用いたこと以外は実施例1と同様にして溶融し、これをカップ用の射出成形金型内に充填した。その後、金型を19℃/秒の平均冷却速度でポリ乳酸の結晶化促進温度(90℃)を下回る30℃まで冷却し、その後10秒間金型内の温度を保持してカップ状のポリ乳酸樹脂基材(C1-1)を得た。
【0076】
得られたポリ乳酸樹脂基材(C1-1)はこの一連の操作によって変形した。このため、エッチング処理を含むそれ以降の処理を行うことができず、ポリ乳酸樹脂成形体の作製を断念した。
【0077】
(比較例2:ポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)の作製)
実施例1と同様にして、スプーン状のポリ乳酸樹脂基材(E1-1)を得た。このスプーン状のポリ乳酸樹脂基材(E1-1)についてエッチング処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、膜厚が約10μmのニッケルめっき皮膜を有するポリ乳酸樹脂成形体(スプーン)(C2-2)を得た(
図1の(c))。
【0078】
ただ、このポリ乳酸樹脂成形体(C2-2)のめっき皮膜は多数の箇所で皮膜が基材から剥離した状態が観察され、明らかに密着不良であることを確認した。
【0079】
(密着性の評価)
実施例1で得られたポリ乳酸樹脂成形体(E1-2)、実施例2で得られたポリ乳酸樹脂成形体(E2-2)および比較例2で得られたポリ乳酸樹脂成形体(C2-2)の各めっき皮膜に十字マス状の切り込みを入れ、これらに粘着テープを十分に貼り付けた後、めっき面に対して垂直方向に引っ張り上げることにより、めっき面の剥離の有無を調べた。具体的には、粘着テープの貼着面の面積(cm2)に対して、当該粘着テープの引き上げにより剥離しためっき皮膜の面積(cm2)を測定し、以下の式にしたがってめっき皮膜の剥離率(%)を算出した。
【0080】
【0081】
結果を表1に示す。
【0082】
【0083】
表1に示すように実施例1および2で得られたポリ乳酸樹脂成形体(E1-1)および(E2-1)はいずれも、ニッケルめっき自体が困難であった比較例2のポリ乳酸樹脂成形体(C2-2)と比較してめっき皮膜の密着性が良好であり、ポリ乳酸樹脂基材に対してめっき皮膜が強固に密着して形成されていることがわかる。
本発明によれば、ポリ乳酸樹脂基材に対して強固なめっき皮膜を形成したポリ乳酸樹脂成形体を簡便にえることができる。本発明のポリ乳酸樹脂成形体は、平板に限らず様々な形状を有するポリ乳酸樹脂基材へのめっきが可能である。本発明は、例えば樹脂成形分野、自動車産業分野、電子・電気分野等において有用である。