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特開2023-82961メカニカルシール摺動部材用素材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082961
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】メカニカルシール摺動部材用素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20230608BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C04B35/58 014
C04B35/58 050
F16J15/34 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197012
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】501482112
【氏名又は名称】株式会社シンターランド
(74)【代理人】
【識別番号】100092691
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 勇治
(74)【代理人】
【識別番号】100199543
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】ジャブリ・カレッド
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智宏
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BC02
(57)【要約】
【課題】メカニカルシールの一方の摺動部材のシール端面と他方の摺動部材のシール端面における摩擦による温度上昇及びメカ鳴きの発生を防止することができ、摩耗も防止することができ、機械的強度を維持して加工し易い二硼化チタン窒化チタン焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材を提供する。
【解決手段】純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である二硼化チタン粉末1と純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である窒化チタン粉末2とを二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下の混合割合とした混合粉末3を、放電プラズマ焼結法4を用いて、二硼化チタン窒化チタン焼結体5からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルシール摺動部材用素材の製造方法であって、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である二硼化チタン(以下、「TiB」ともいう。)粉末と純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である窒化チタン(以下、「TiN」ともいう。)粉末とを二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下の混合割合とした混合粉末(以下、「TiB-TiN混合粉末」ともいう。)を、放電プラズマ焼結法(以下、「SPS法」ともいう。)を用いて、焼結温度1,350℃以上1,850℃以下、焼結圧力10MPa以上100MPa以下である焼結条件で焼結された、相対密度は理論密度の90%以上最大98%であり、曲げ強度は100MPa以上である二硼化チタン窒化チタン焼結体(以下、「TiB-TiN焼結体」ともいう。)からなる摺動部材用素材を製造することを特徴とするメカニカルシール摺動部材用素材の製造方法。
【請求項2】
上記焼結条件下の焼結雰囲気は、真空雰囲気であることを特徴とする請求項1記載のメカニカルシール摺動部材用素材の製造方法。
【請求項3】
上記焼結条件下の焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることを特徴とする請求項1記載のメカニカルシール摺動部材用素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えばシールリング、メイティングリング等のメカニカルシール摺動部材用素材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このメカニカルシールは、例えば、図8の如く、回転軸RAと共に回転する一方の摺動部材SE、例えば、シールリングSE(SR)とハウジングHに固定された他方の摺動部材SE、例えば、メイティングリングSE(MR)とからなり、シールリングSE(SR)はバネSPにより弾圧され、シールリングSE(SR)のシール端面SFとメイティングリングSE(MR)のシール端面MFとが弾圧接触され、一対の摺動部材SE(SR)・SE(MR)のシール端面SF・MFに接面圧力を与え、シール端面SF・MF間に流体薄膜TFが形成され、内部流体FLの漏洩が防止されて内部流体FLを密封する構造を備えており、食品加工、化粧品、薬品の製造、石油の精製、発電の分野のポンプや撹拌機、粉砕機等の各種の回転機械などに広く用いられている。
【0003】
従来、この種のメカニカルシール摺動部材用素材として、下記の表1に示すような諸物性を有する、SiC(炭化珪素)を焼結してなるSiC焼結体、超硬合金を焼結してなる超硬合金焼結体、Gr(黒鉛又はグラファイト)を焼結してなるGr焼結体、Al(酸化アルミニウム)を焼結してなるAl焼結体、Ti(チタン)を焼結してなるTi焼結体などが知られている。
【0004】
【表1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6578427号
【特許文献2】特開昭55-95676号
【特許文献3】特許第3764089号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NOK株式会社編「これでわかるシール技術」工業調査会 1999年 第32頁
【非特許文献2】E・マイヤー著「改訂増補メカニカルシール」科学新聞社 1983年 第106頁
【非特許文献3】渡辺康博著「現場の即戦力よくわかるシール技術の基礎」技術評論社 2009年 第178頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記従来のメカニカルシール摺動部材用素材のうち、上記Al焼結体にあっては、熱伝導率および耐熱衝撃の点から高温高圧等の過酷な条件下での使用は困難であり、又、上記Ti焼結体についても機械強度の点から過酷な条件下では変形し易くて使用が困難であり、又、その他の焼結体にあっても、食品、化粧品や薬品の製造分野において、製品の着色、シール端面の摩耗粉等の異物の混入等が指摘されることがあるという不都合を有している。
【0008】
本発明はこのような不都合を解決することが目的とするもので、本発明のうち、請求項1記載の発明は、メカニカルシール摺動部材用素材の製造方法であって、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である二硼化チタン(以下、「TiB」ともいう。)粉末と純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である窒化チタン(以下、「TiN」ともいう。)粉末とを二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下の混合割合とした混合粉末(以下、「TiB-TiN混合粉末」ともいう。)を、放電プラズマ焼結法(以下、「SPS法」ともいう。)を用いて、焼結温度1,350℃以上1,850℃以下、焼結圧力10MPa以上100MPa以下である焼結条件で焼結された、相対密度は理論密度の90%以上最大98%であり、曲げ強度は100MPa以上である二硼化チタン窒化チタン焼結体(以下、「TiB-TiN焼結体」ともいう。)からなる摺動部材用素材を製造することを特徴とするメカニカルシール摺動部材用素材の製造方法にある。
【0009】
又、請求項2記載の発明は、上記焼結条件下の焼結雰囲気は、真空雰囲気であることを特徴とするものであり、又、請求項3記載の発明は、上記焼結条件下の焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の如く、請求項1記載の発明にあっては、メカニカルシール摺動部材用素材を放電プラズマ焼結法を用いて製造することにより短時間焼結が可能となり、メカニカルシール摺動部材のコスト低減を図ることができ、例えば、約1,850℃程度の温度、約100MPa程度の高圧の条件下で長時間に亙って使用したとしても、メカニカルシール摺動部材の変形や破損等を防ぐことができ、変形により生ずる加工製品内への処理屑の混入、液体の漏れによる製造効率の悪化を防ぐことができ、かつ、上記二硼化チタン粉末と窒化チタン粉末との混合割合を、二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下としているから、TiB-TiN焼結体からなる摺動部材の硬さの低下及び摩耗を防ぐことができ、TiB粒子及びTiN粒子の成長による曲げ強度の低下及び摩耗を防ぐことができ、さらに、上記二硼化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下であるから、焼結体粒子の成長に伴う機械的強度の低下や不純物による高温特性の劣化を防ぐことができ、かつ、焼結速度の低下を防ぐことができ、短時間で緻密なTiB-TiN焼結体を得ることができ、さらに、上記窒化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下であるから、粒子の成長を抑制し、焼結体の機械的強度の低下を防ぐことができ、さらに、上記焼結条件は、焼結温度1,350℃以上1,850℃以下、焼結圧力10MPa以上100MPa以下であるから、焼結反応速度の低下を防いで生産コストの低減を図ることができ、短時間で緻密なTiB-TiN焼結体を得ることができ、機械的強度の低下を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができ、さらに、上記TiB-TiN焼結体の相対密度は理論密度の90%以上最大98%であるから、一方の摺動部材のシール端面と他方の摺動部材のシール端面における摩擦による温度上昇及びメカ鳴きの発生を防止することができ、摩耗も防止することができ、さらに、上記TiB-TiN焼結体の曲げ強度は100MPa以上であるから、機械的強度を維持して加工し易いTiB-TiN焼結体を得ることができる。
【0011】
又、請求項2記載の発明にあっては、上記焼結条件下の焼結雰囲気は真空雰囲気としているから、酸化反応を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができ、又、請求項3記載の発明にあっては、上記焼結条件下の焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気としているから、酸化反応及び窒化チタンからの窒素離脱を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態例の製造工程図である。
図2】本発明の実施の形態例の放電プラズマ焼結法の説明図である。
図3】本発明の実施の形態例の放電プラズマ焼結法の拡大説明図である。
図4】本発明の実施の形態例のメカニカルシール摺動部材用素材としてのTiB-TiNのX線回折パターン図である。
図5】本発明の実施の形態例のメカニカルシール摺動部材用素材としてのTiB-TiNのSEMによる組織写真である。
図6】本発明の実施の形態例のメカニカルシール摺動部材用素材としてのTiB-TiNの曲げ強度の組成依存性を示す図である。
図7】本発明の実施の形態例のメカニカルシール摺動部材用素材としてのTiB-TiNの電気抵抗率を示す図である。
図8】メカニカルシールの構造例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及至図7は本発明の実施の形態例を示し、図1の製造工程図の如く、二硼化チタン(以下、「TiB」ともいう。)粉末1と窒化チタン(以下、「TiN」ともいう。)粉末2とを混合した混合粉末(以下、「TiB-TiN混合粉末」ともいう。)3を、放電プラズマ焼結法(以下、「SPS法」ともいう。)4を用いて焼結された二硼化チタン窒化チタン焼結体(以下、「TiB-TiN焼結体」ともいう。)5からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wが製造されることになる。そして、この製造された摺動部材用素材Wを、例えば、ワイヤー放電加工等により所定形状の摺動部材SEを製造することになる。
【0014】
この場合、上記放電プラズマ焼結に際し、図2図3の如く、メカニカルシール摺動部材用素材Wを製造するための焼結型Mが用いられ、この焼結型Mは、例えば、ダイM及び上下のパンチM・Mから構成され、ダイMの穴MとパンチM・Mにより形成される空間Mに上記TiB-TiN混合粉末3を充填し、例えば、密閉構造のチャンバーC内に焼結型Mを配置し、上部電極PU、下部電極PDおよび上部電極PUまたは下部電極PDを上下加圧作動させる加圧機構K、上部電極PUおよび下部電極PD間にパルス電流を流すパルス電源ユニットU、制御ユニットG等を備えてなる通電加圧焼結機Tを用意し、通電加圧焼結機Tを用いて、焼結型M内に充填されたTiB-TiN混合粉末3をパンチM・Mにより圧力を加えながらパルス電流を流して焼結材料としてのTiB-TiN混合粉末3及び焼結型Mの自己発熱効果(ジュール発熱効果)により焼結する放電プラズマ焼結法4によってメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造することになる。尚、上記ダイMの製造にあっては、例えば、図2図3のダイMの穴Mに図示省略の中子を装入し、上記同様に焼結してリング状の摺動部材用素材Wを製造することもある。
【0015】
又、この場合、二硼化チタン粉末と窒化チタン粉末との混合割合として、二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下である。その理由は、二硼化チタン粉末5重量%未満になると、硬さの低下及び摩耗が生じ、あるいは、二硼化チタン粉末85重量%を超えると、曲げ強度の低下及び摩耗が生じ、又、窒化チタン粉末15重量%未満になると、二硼化チタンの粒子が大きく成長し、それに伴って曲げ強度の低下及び摩耗が生じ、あるいは、窒化チタン粉末95重量%を超えると、焼結体の曲げ強度及び硬さの低下が生じ、TiN粒子も成長し、曲げ強度の低い層状構造の焼結体ができてしまうことになる。すなわち、焼結体の硬さの低下及び摩耗を防ぐことができ、TiB粒子及びTiN粒子の成長による曲げ強度の低下及び摩耗を防ぐことができ、TiB-TiN焼結体からなる摺動部材の硬さの低下及び摩耗を防ぐことができるからである。
【0016】
この場合、上記二硼化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である。その理由は、純度99.9%未満のものを用いると焼結体への不純物含有量が多くなり、不純物の種類によって焼結反応は促進されるが焼結体の粒子が成長してしまい、粒子の成長に伴って機械的強度の低下や不純物による高温特性の劣化が著しくなり、高温高圧の焼結条件下での利用ができず、又、平均粒子サイズ2μmを超えるものを用いると焼結速度が遅くなってしまい、短時間で緻密な焼結体を得ることができず、又、最大粒子サイズ5μmを超える粒子が存在すると焼結体の機械的強度が低下したり、摩耗し易くなるからである。すなわち、焼結体粒子の成長に伴う機械的強度の低下や不純物による高温特性の劣化を防ぐことができ、かつ、焼結速度の低下を防ぐことができ、短時間で緻密な焼結体を得ることができるからである。
【0017】
又、この場合、上記窒化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下である。その理由は、純度99.9%未満のものを用いると焼結体への不純物含有量が多くなり、不純物の種類によって焼結反応は促進されるが焼結体粒子が成長してしまい、粒子の成長に伴って機械的強度の低下や不純物による高温特性劣化が著しくなり、高温高圧の焼結条件下での利用ができず、又、平均粒子サイズ2μmを超えるものを用いると同じTiN添加量でもTiN粒子の数が少なくなり、TiN粒子数が少なくると、TiB粒子同士の接触粒子数が増えるのでTiB粒子の成長を促進する原因となり、又、最大粒子サイズが5μmを超える粒子が存在すると機械的強度が低下したり、摩耗し易くなるからである。すなわち、TiB粒子の成長を抑制し、焼結体の機械的強度の低下を防ぐことができるからである。
【0018】
又、この場合、上記二硼化チタン粉末と窒化チタン粉末との混合粉末を上記放電プラズマ焼結法により焼結する際の焼結条件は、焼結温度1,350℃以上1,850℃以下、焼結圧力10MPa以上100MPa以下である。その理由は、焼結温度が1,350℃未満になると焼結体の焼結速度は極端に遅くなり、製造コストが高くなってしまい、緻密な焼結体を得ることができず、焼結温度が1,850℃を超えると焼結速度が速くなるが焼結体の結晶粒子のサイズが大きく成長し、機械的強度が低下してしまうことになり、又、焼結圧力が10MPa未満になると焼結体の緻密化時間が極端に長くなり、製造コストが高くなってしまい、焼結圧力が100MPaを超えると緻密化時間は短くなるものの黒鉛の型割れが生じてしまい、焼結体の生産歩留まりが非常に悪くなるからである。すなわち、焼結反応速度の低下や量産効率の悪化を防いで生産コストの低減を図ることができ、短時間で緻密な焼結体を得ることができ、機械的強度の低下を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができるからである。
【0019】
又、この場合、上記放電プラズマ焼結法を用いて焼結されたTiB-TiN焼結体の相対密度は理論密度の90%以上最大98%である。その理由は、相対密度が90%未満の焼結体(10%以上の隙間の焼結体)にあっては、一方の摺動部材SEとしてのシールリングSRのシール端面SFと他方の摺動部材SEとしてのメイティングリングMRのシール端面MFにおける摩擦による温度上昇及びメカ鳴きの発生を防止することができ、摩耗も防止することができるからである。
【0020】
又、この場合、TiB-TiN焼結体の曲げ強度は100MPa以上である。その理由は、機械的強度を維持して加工し易い焼結体を得ることができるからである。
【0021】
又、この場合、上記焼結条件下の焼結雰囲気は、真空雰囲気、例えば10Pa以下とされている。その理由は、真空雰囲気とすることにより、酸化反応を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができるからである。尚、上記焼結条件下の焼結雰囲気として、不活性ガス雰囲気とすることにより、酸化反応及び窒化チタンからの窒素離脱を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができる。
【0022】
この実施の形態例は上記構成であるから、図1図2図3の如く、二硼化チタン粉末1と窒化チタン粉末2とを混合したTiB-TiN混合粉末3を上記焼結型MのダイMの穴MとパンチM・Mにより形成される空間Mに充填し、密閉構造のチャンバーC内に焼結型Mを配置し、加圧機構K、パルス電源ユニットU及び制御ユニットG等からなる通電加圧焼結機Tにより、上記焼結型M内に充填されたTiB-TiN混合粉末3をパンチM・Mにより圧力を加えながらパルス電流を流して焼結材料としてのTiB-TiN混合粉末3及び焼結型Mの自己発熱効果(ジュール発熱効果)により焼結する放電プラズマ焼結法4によってメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造することになるから、放電プラズマ焼結法4により製造することにより短時間焼結が可能となり、メカニカルシール摺動部材SEのコスト低減を図ることができ、例えば、約1,850℃程度の温度、約100MPa程度の高圧の条件下で長時間に亙って使用したとしても、メカニカルシール摺動部材SEの変形や破損等を防ぐことができ、変形により生ずる加工製品内への処理屑の混入、液体の漏れによる製造効率の悪化を防ぐことができる。
【0023】
ここにおいて、焼結温度1,350℃、圧力10MPaの低温低圧の焼結条件下で製造されたTiB-TiN焼結体の相対密度は理論密度の90%となり、焼結温度1,850℃、圧力100MPaの高温高圧焼結条件下で製造されたTiB-TiN焼結体の相対密度の平均は98%となることが確認された。この理論密度とは成形体中に全く空隙がないと仮定したときの密度をいい、結晶構造を用いて計算され、計算においては、結晶構造の大きさおよび結晶構造を構成するすべての原子の重量を利用して計算され、又、相対密度とは焼結後の成形体の密度をアルキメデス法などで密度測定方法によって測定した値を理論密度の割合として表すものである。
【0024】
この場合、二硼化チタン粉末と窒化チタン粉末との混合割合として、二硼化チタン粉末5重量%以上85重量%以下、窒化チタン粉末15重量%以上95重量%以下としているから、TiB-TiN焼結体からなる摺動部材の硬さの低下及び摩耗を防ぐことができ、TiB粒子及びTiN粒子の成長による曲げ強度の低下及び摩耗を防ぐことができる。
【0025】
又、この場合、上記二硼化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下としているから、焼結体粒子の成長に伴う機械的強度の低下や不純物による高温特性の劣化を防ぐことができ、かつ、焼結速度の低下を防ぐことができ、短時間で緻密なTiB-TiN焼結体を得ることができ、又、この場合、上記窒化チタン粉末は、純度99.9%以上、平均粒子サイズ2μm以下、最大粒子サイズ5μm以下としているから、粒子の成長を抑制し、焼結体の機械的強度の低下を防ぐことができる。
【0026】
又、この場合、上記焼結条件は焼結温度1,350℃以上1,850℃以下、焼結圧力10MPa以上100MPa以下としているから、焼結反応速度の低下を防いで生産コストの低減を図ることができ、短時間で緻密なTiB-TiN焼結体を得ることができ、機械的強度の低下を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができ、又、この場合、上記TiB-TiN焼結体の相対密度は理論密度の90%以上最大98%であるから、一方の摺動部材SEとしてのシールリングSE(SR)のシール端面SFと他方の摺動部材SEとしてのメイティングリングSE(MR)のシール端面MFにおける摩擦による温度上昇及びメカ鳴きの発生を防止することができ、摩耗も防止することができ、又、この場合、上記TiB-TiN焼結体の曲げ強度は100MPa以上であるから、機械的強度を維持して加工し易いTiB-TiN焼結体を得ることができる。
【0027】
又、この場合、上記焼結条件下の焼結雰囲気は、真空雰囲気であるから、酸化反応を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができる。なお、上記焼結条件下の焼結雰囲気を不活性ガス雰囲気とすることにより、酸化反応及び窒化チタンからの窒素離脱を防ぐことができ、高品質のメカニカルシール摺動部材用素材を製造することができる。
【0028】
このようにして製造された摺動部材用素材WとしてのTiB-TiN焼結体は、図4のX線回折パターン図によれば、いずれのピークもTiB結晶とTiN結晶に同定していることが分かり、ここに、X線回折パターンの測定にあっては、放電プラズマ焼結法を用いてTiB-TiNバルクサンプルを製造し、そのバルクサンプルを粉砕して結晶相同定のためのX線回折用サンプルとし、株式会社リガク製のUltimaIVのX線回折装置を用い、回折角度(2θ)を10°~85°範囲で測定を行った。その結果、TiBとTiNの二相であることが分かった。
【0029】
又、図5のメカニカルシール摺動部材用素材WとしてのTiB-TiN焼結体のSEMによる組織写真によれば、TiNを含まないTiB粉末とTiBを含まないTiN粉末からできている焼結体に対して、上記TiB-TiN焼結体からできている焼結体の結晶粒子の方が細かくなっていることが分かる。
【0030】
又、図6の曲げ強度の組成依存性を示す図によれば、TiB-TiN混合物はTiBまたはTiNの混合割合増加によって曲げ強度は、TiNを含まないTiBの曲げ強度100MPa以上に高くなり、TiNと混合することにより曲げ強度は倍以上になることが分かる。この曲げ強度の組成依存性の測定にあっては、放電プラズマ焼結法を用いて製造したTiB-TiN混合物からなる成型体をワイヤー放電加工により長さ36mm、幅3mm、厚み4mmを切断してサンプルを得て、その後曲げ試験機により曲げ試験を測定した。曲げ試験機の測定にはA&D製RTG-1310を用いた。
【0031】
又、図7の電気抵抗の組成性を示す図によれば、TiB-TiN焼結体からなる摺動部材用素材Wは電気伝導性であることが分かり、この電気伝導性があるためワイヤー放電加工を行うことができ、さらに、摩擦による帯電を防ぐことができる。この電気抵抗の組成依存性の測定にあっては、放電プラズマ焼結法を用いて製造したTiB-TiN混合粉末からなるTiB-TiN焼結体をワイヤー放電加工により長さ30mm、直径6mmに切断してサンプルを得て、その後、四端子法によりサンプルの電流と電圧の関係の組成依存性を測定した。電流と電圧の測定には、ADCMT製6242直流電圧電流電源及びモニターを用い、各温度における電流、電圧のプロットからサンプルの電気抵抗を測定した。
【実施例0032】
【表2】
【0033】
上記表2は本発明のさらに具体的な実施例及び比較例を示す表である。
【0034】
[実施例1及び比較例1]
(実施例1)
純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiB粉末および純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiN粉末を秤量混合し、二硼化チタン粉末7重量%、窒化チタン粉末93重量%の混合割合のTiB-TiN混合粉末を、図2及び図3の放電プラズマ焼結法を用いて、焼結温度1,500℃、焼結圧力40MPa、焼結雰囲気を真空雰囲気とした焼結条件下で焼結してブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造した。
【0035】
このブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wの相対密度は理論密度の95%であった。その後、製造したブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wをワイヤー放電加工により円板状のメカニカルシール摺動部材を2個製造した。この円板状のメカニカルシール摺動部材の寸法は、直径60mm、厚さ7mmである。
【0036】
この摺動部材2個のうち、一方の摺動部材は性能評価用治具の回転盤側に取り付け、他方の摺動部材は性能評価用治具の固定盤側に取り付け、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材とを接触させ、さらに回転盤側に2kgの錘を載せた。そして、回転盤側の一方の摺動部材を回転速度50rpmで8時間継続して回転させた。この際、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材との摩擦接触による接触面温度の上昇及び接触面の摩耗を評価した。接触面温度の測定は性能評価用治具の固定盤側の一方の摺動部材の上面中央部に設けられている直径1.7mm、深さ5mmの穴にクロメル(K)タイプの熱電対温度計を挿入して温度を測定した。摩擦による接触面の摩耗の評価に関しては、摺動部材の性能評価試験の前後の厚み減少量の変化を評価した。回転盤側の摺動部材及び固定盤側の摺動部材の摩擦によるメカ鳴き状況についても確認した。
【0037】
(比較例1)
比較のため、グラファイト焼結体からなるメカニカルシール摺動部材を2個準備し、上記実施例1に用いたTiB-TiN焼結体と同様の条件で試験を行った。
その結果、上記表2の如く、上記実施例1に用いたTiB-TiN焼結体同士の摩擦による摺動面温度は50℃~58℃及び摩耗量は1μm未満だった。メカ鳴きの発生はなかった。
この比較例1のグラファイト焼結体からなるメカニカルシール摺動部材についての摺動面温度は54.5℃、摩耗量は8.5μm未満であった。メカ鳴きはあったが小さかった。
したがって、上記実施例1に用いたTiB-TiN焼結体からなる摺動部材の摩耗量はグラファイト焼結体からなる摺動部材より小さく、メカ鳴きもなかった。一方、接触面温度の温度上昇はグラファイト焼結体からなる摺動部材と同程度だった。この実施例及び比較例1の結果から上記実施例1に用いたTiB-TiN焼結体からなる摺動部材の性能はグラファイト焼結体からなる摺動部材よりも優れていることを確認した。
【0038】
[実施例2及び比較例2]
(実施例2)
純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiB粉末および純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiN粉末を秤量混合し、二硼化チタン粉末7重量%、窒化チタン粉末93重量%の混合割合のTiB-TiN混合粉末を、図2及び図3の放電プラズマ焼結法を用いて、焼結温度1,500℃、焼結圧力40MPa、焼結雰囲気を真空雰囲気とした焼結条件下で焼結してブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造した。
【0039】
このブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wの相対密度は理論密度の95%であった。その後、製造したブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wをワイヤー放電加工により円板状のメカニカルシール摺動部材を2個製造した。この円板状のメカニカルシール摺動部材の寸法は、直径60mm、厚さ7mmである。
【0040】
この摺動部材2個のうち、一方の摺動部材は性能評価用治具の回転盤側に取り付け、他方の摺動部材は性能評価用治具の固定盤側に取り付け、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材とを接触させ、さらに回転盤側に10kgの錘を載せた。そして、回転盤側の一方の摺動部材を回転速度500rpmで8時間継続して回転させた。この際、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材との摩擦接触による接触面温度の上昇及び接触面の摩耗を評価した。接触面温度の測定は性能評価用治具の固定盤側の一方の摺動部材の上面中央部に設けられている直径1.7mm、深さ5mmの穴にクロメル(K)タイプの熱電対温度計を挿入して温度を測定した。摩擦による接触面の摩耗の評価に関しては、摺動部材の性能評価試験の前後の厚み減少量の変化を評価した。回転盤側の摺動部材及び固定盤側の摺動部材の摩擦によるメカ鳴き状況についても確認した。
【0041】
(比較例2)
比較のため、超硬合金焼結体からなるメカニカルシール摺動部材を2個準備し、上記実施例2に用いたTiB-TiN焼結体と同様の条件で試験を行った。
その結果、上記表2の如く、上記実施例2に用いたTiB-TiN焼結体同士の摩擦による摺動面温度は107℃~113℃及び摩耗量は2μm未満だった。メカ鳴きの発生はあったが小さかった。
この比較例2の超硬合金焼結体からなるメカニカルシール摺動部材についての摺動面温度は103℃~107℃、摩耗量は3μm未満であった。メカ鳴きはあったが小さかった。
したがって、上記実施例2に用いたTiB-TiN焼結体からなる摺動部材の摩耗量は超硬合金焼結体からなる摺動部材より小さかった。一方、接触面温度の温度上昇は超硬合金焼結体からなる摺動部材と同程度だった。
[実施例3及び比較例3]
(実施例3)
純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiB粉末および純度99.9%、平均粒子サイズ2μmのTiN粉末を秤量混合し、二硼化チタン粉末50重量%、窒化チタン粉末50重量%の混合割合のTiB-TiN混合粉末を、図2及び図3の放電プラズマ焼結法を用いて、焼結温度1,800℃、焼結圧力50MPa、焼結雰囲気を真空雰囲気とした焼結条件下で焼結してブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wを製造した。
【0042】
このブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wの相対密度は理論密度の98%であった。その後、製造したブロック状のTiB-TiN焼結体からなるメカニカルシール摺動部材用素材Wをワイヤー放電加工により円板状のメカニカルシール摺動部材を2個製造した。この円板状のメカニカルシール摺動部材の寸法は、直径60mm、厚さ7mmである。
【0043】
この摺動部材2個のうち、一方の摺動部材は性能評価用治具の回転盤側に取り付け、他方の摺動部材は性能評価用治具の固定盤側に取り付け、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材とを接触させ、さらに回転盤側に10kgの錘を載せた。そして、回転盤側の一方の摺動部材を回転速度500rpmで24時間継続して回転させた。この際、回転盤側の一方の摺動部材と固定盤側の他方の摺動部材との摩擦接触による接触面温度の上昇及び接触面の摩耗を評価した。接触面温度の測定は性能評価用治具の固定盤側の一方の摺動部材の上面中央部に設けられている直径1.7mm、深さ5mmの穴にクロメル(K)タイプの熱電対温度計を挿入して温度を測定した。摩擦による接触面の摩耗の評価に関しては、摺動部材の性能評価試験の前後の厚み減少量の変化を評価した。回転盤側の摺動部材及び固定盤側の摺動部材の摩擦によるメカ鳴き状況についても確認した。
【0044】
(比較例3)
比較のため、超硬合金焼結体からなるメカニカルシール摺動部材を1個準備し、上記実施例3に用いたTiB-TiN焼結体を1個準備し、すなわち、この摺動部材2個のうち、一方の摺動部材は上記超硬合金焼結体、他方の摺動部材は上記実施例3のTiB-TiN焼結体とし、上記実施例3と同様の条件で試験を行った。
その結果、上記表2の如く、上記実施例3に用いたTiB-TiN焼結体同士の摩擦による摺動面温度は56℃及び摩耗量は1μm未満だった。メカ鳴きの発生はなかった。
この比較例3の超硬合金焼結体からなるメカニカルシール摺動部材及びTiB-TiN焼結体からなる摺動部材の摺動面温度は55℃、摩耗量は、超硬合金焼結体側は3μm未満、TiB-TiN焼結体側は1μm未満であった。メカ鳴きはなかった。
したがって、上記実施例3に用いたTiB-TiN焼結体からなる摺動部材の摩耗量は超硬合金焼結体より小さかった。一方、接触面温度の温度上昇は超硬合金焼結体からなる摺動部材と同程度だった。
【0045】
尚、本発明は、上記実施の形態例に限られるものではなく、二硼化チタン粉末1、窒化チタン粉末2の混合割合や放電プラズマ焼結法4の構成等は適宜変更して設計される。
【0046】
以上の如く、所期の目的を充分達成することができる。
【符号の説明】
【0047】
W メカニカルシール摺動部材用素材
1 TiB粉末
2 TiN粉末
3 TiB-TiN混合粉末
4 放電プラズマ焼結法
5 TiB-TiN焼結体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8