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特開2023-82963セルロースナノファイバーを含む積層体の製造方法、及びその積層体。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082963
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーを含む積層体の製造方法、及びその積層体。
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/28 20060101AFI20230608BHJP
   B32B 23/20 20060101ALI20230608BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230608BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20230608BHJP
   C08B 15/04 20060101ALN20230608BHJP
   C08B 11/12 20060101ALN20230608BHJP
   C08B 5/00 20060101ALN20230608BHJP
   C08B 5/14 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
B05D1/28
B32B23/20
B05D7/24 303E
B05D7/24 303G
B05D7/24 302C
B05D3/12 E
B05D3/12 C
C08B15/04
C08B11/12
C08B5/00
C08B5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197015
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】中谷 丈史
(72)【発明者】
【氏名】堀田 武史
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 駿生
【テーマコード(参考)】
4C090
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
4C090AA08
4C090BA27
4C090BA29
4C090BA34
4C090BC09
4C090BC10
4C090CA34
4C090CA37
4C090CA38
4C090DA10
4D075AC41
4D075AC53
4D075AC62
4D075BB05Y
4D075BB16X
4D075BB20Z
4D075BB21Z
4D075BB24Z
4D075CA07
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DB01
4D075DB07
4D075DB48
4D075DC21
4D075EA06
4D075EA10
4D075EB07
4D075EC07
4D075EC22
4D075EC51
4F100AB10B
4F100AB17B
4F100AJ06A
4F100AL06A
4F100CC10A
4F100EC202
4F100EC20A
4F100EH461
4F100EH462
4F100EH902
4F100EH90A
4F100EJ172
4F100EJ17A
4F100EJ272
4F100EJ27A
4F100EJ912
4F100EJ91A
4F100JK15A
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】転写用基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成した後、該機能層の面上に支持基材を貼合し、次いで該転写用基材から機能層を剥離させ、該支持基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成させることを特徴とする、前記支持基材と前記機能層とが、受容層を介して積層体を形成させることを特徴とする積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成した後、
該機能層の面上に支持基材を貼合し、次いで該転写用基材から機能層を剥離させ、
該支持基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成させることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記支持基材と前記機能層とが、受容層を介して積層体を形成させることを特徴とする、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記転写用基材上に、離型層を形成した後、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層をこの順で形成することを特徴とする、請求項1~2いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン性セルロースナノファイバーがカルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン性セルロースナノファイバーがカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記アニオン性セルロースナノファイバーがリン酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記アニオン性セルロースナノファイバーが硫酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7いずれかの製造方法によって得られる、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む積層体の製造方法、及びその積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン性またはカチオン性の基をセルロースに導入し、導入されたこれらの基の電荷反発力を利用して解繊して得られるセルロースナノファイバーは、非常に細い繊維径を有し、一般的に均質性が高く、また、導入された基に基づく各種の機能性を有し、強度が高いなどの特徴から、広く研究されている。例えば、アニオン性の基をセルロースに導入し解繊して得たアニオン性セルロースナノファイバーとしては、N-オキシル化合物によるセルロースの表面酸化反応を利用してセルロースの水酸基の一部をカルボキシル基に酸化して解繊して得た酸化セルロースナノファイバーや、カルボキシメチル置換度が0.01~0.30であり平均繊維径が3~500nmであるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが報告されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】国際公開第2014/088072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなナノファイバーは、ナノ構造体の効果により様々な用途において特異な性質を示すことが報告され始めている。しかしながら、セルロースナノファイバーは水分散体や粉体状の固形物での形状で市販されており、工業利用するためには二次加工を行い利用する必要があり、特に基材上にセルロースナノファイバーの塗工膜を形成し、それを機能層として利用されることが期待されている。
【0005】
ゆえに本発明は、そのような様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人らは、鋭意努力の結果、以下の構成で課題を解決できることを見出した。
[1]転写用基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成した後、該機能層の面上に支持基材を貼合し、次いで該転写用基材から機能層を剥離させ、
該金属基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成させることを特徴とする積層体の製造方法。
[2]前記支持基材と前記機能層とが、受容層を介して積層体を形成させることを特徴とする、[1]に記載の積層体の製造方法。
[3]前記転写用基材上に、離型層を形成した後、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層をこの順で形成することを特徴とする、[1]~[2]いずれかに記載の積層体の製造方法。
[4]前記アニオン性セルロースナノファイバーがカルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]~[3]いずれかに記載の積層体の製造方法。
[5]前記アニオン性セルロースナノファイバーがカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]~[3]いずれかに記載の積層体の製造方法。
[6]前記アニオン性セルロースナノファイバーがリン酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]~[3]いずれかに記載の積層体の製造方法。
[7]前記アニオン性セルロースナノファイバーが硫酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする[1]~[3]いずれかに記載の積層体の製造方法。
[8][1]~[7]いずれかの製造方法によって得られる、積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
すなわち本発明は、転写用基材上にアニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を形成した後、該機能層の面上に支持基材を貼合し、次いで該転写用基材から機能層を剥離させ、該支持基材上にアニオン変性セルロースを含む機能層を形成させることを特徴とする積層体の製造方法である。
【0009】
<アニオン変性セルロースナノファイバー>
本発明において、ナノファイバー(NF)とは、平均繊維径が1μm未満であるナノ繊維をいう。好ましくは平均繊維径が3nm~500nm程度、更に好ましくは3nm~150nm程度、更に好ましくは3nm~20nm程度である。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度である。NFの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0010】
そのようなナノファイバーのうち、本発明ではアニオン変性セルロースナノファイバー(以下、アニオン変性CNFともいう)を用いることが重要である。
【0011】
アニオン性CNFとは、セルロースの分子鎖にアニオン基が導入されたNFである。アニオン性CNFは、セルロースのピラノース環にアニオン基を導入して得られたアニオン性セルロースを1μm未満の平均繊維径となるように解繊することにより得ることができる。
【0012】
このアニオン性CNFは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持され、完全に水に溶解しない。アニオン性CNFの水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。繊維状の形状が維持されていることで、機能層の物理的強度が向上する。
【0013】
アニオン性セルロースの原料となるセルロースの種類は、特に限定されない。例えば、針葉樹、広葉樹、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等を原料とする晒又は未晒のメカニカルパルプ(例えば、サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)やケミカルパルプ(例えば、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ)、また、溶解パルプ、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等を挙げることができ、これらのいずれも、セルロース原料として用いることができる。
【0014】
このようなセルロース原料にアニオン基を導入することにより、アニオン性セルロースを製造することができる。アニオン基の導入方法は特に限定されないが、例えば、セルロースのピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化したり、あるいは、ピラノース環の水酸基部分でエステル化反応によりアニオン基を導入する方法が挙げられる。得られたアニオン性セルロースを、1μm未満の平均繊維径となるように解繊することにより、アニオン性CNFを得ることができる。解繊方法は特に限定されず、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの公知の解繊装置を用いればよい。中でも、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザを用いることは好ましい。
【0015】
(酸化CNF)
アニオン性CNFの一例として、カルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシル基とは、-COOH(酸型)および-COOM(金属塩型)(式中、Mは金属イオンである)をいい、カルボキシレート基とは-COO-をいう。カルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化CNF(本明細書において、単に「酸化CNF」とも呼ぶ)は、セルロースのピラノース環の水酸基をカルボキシル基に酸化する公知の方法を用いて酸化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。セルロースの酸化方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)のようなN-オキシル化合物と、臭化物及び/又はヨウ化物との存在下で、酸化剤を用いてセルロースを水中で酸化する方法や、オゾンを含む気体を酸化剤として用いてセルロース原料と接触させることによりセルロースを酸化する方法を挙げることができる。
【0016】
酸化CNFにおけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の合計量は、酸化CNFの絶乾質量に対して、0.4~3.0mmol/gが好ましく、0.6~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.0~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.1~2.0mmol/gがさらに好ましい。酸化CNFのカルボキシル基及びカルボキシレート基の量は、酸化剤の添加量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基及びカルボキシレート基の量は、以下の方法で測定することができる:
酸化CNFの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル及びカルボキシレート基量〔mmol/g酸化CNF〕=a〔ml〕×0.05/酸化CNF質量〔g〕。
【0017】
(カルボキシアルキル化CNF)
アニオン性CNFの一例として、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)および-RCOOM(金属塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化CNFとしては、Rがメチレン基であるカルボキシメチル基を有するカルボキシメチル化CNFが最も好ましい(以下、「カルボキシメチル」を「CM」と呼ぶ)。カルボキシアルキル化CNFは、セルロース原料をマーセル化剤で処理した後にカルボキシアルキル化剤で処理してカルボキシアルキル基を導入する公知の方法を用いてカルボキシアルキル化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。
【0018】
CM化CNFの原料となるCM化セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものであり、後述する水溶性高分子の一例であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0019】
カルボキシアルキル化CNFの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度
は、0.40未満であることが好ましい。また、カルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02以上0.35以下であることが特に好ましく、0.10以上0.35以下であることが更に好ましく、0.15以上0.35以下であることが更に好ましく、0.15以上0.30以下であることが更に好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキル基の数)を示す。カルボキシアルキル置換度は、マーセル化剤の量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。グルコース単位当たりのCM置換度は、以下の方法で測定することができる:
CM化CNF(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、塩型のCM化CNFを水素型CM化CNFに変換する。水素型CM化CNF(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。
80質量%メタノール15mLで水素型CM化CNFを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。CM置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化CNFの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化CNFの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
CM基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
【0020】
<セルロースI型の結晶化度>
CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、原料となるCM化セルロースの製造時のマーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御することができる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、例えば、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整して変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。CM化セルロースのセルロースI型の結晶化度と、それを解繊して得たCM化CNFのセルロースI型の結晶化度とは、通常、同じである。
【0021】
(リン酸エステル化CNF)
アニオン性CNFの一例として、リン酸エステル化CNFを挙げることができる。リン酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料にリン酸系化合物の粉末又は水溶液を混合する、あるいは、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加するなどにより、リン酸系化合物由来のリン酸系の基をセルロースに導入してリン酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。リン酸系化合物としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。具体的には、例えば、これらに限定されないが、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸系化合物由来のリン酸系の基を導入することができる。本明細書において、リン酸系化合物由来のリン酸系の基には、リン酸基、亜リン酸基、次亜リン酸基、ピロリン酸基、メタリン酸基、ポリリン酸基、ホスホン酸基、及びポリホスホン酸基が含まれる。リン酸エステル化セルロース及びリン酸エステル化CNFは、セルロースの分子鎖にこれらのリン酸系の基の1種または2種以上が導入されているものを含む。セルロース原料をリン酸系化合物と反応させる際には、反応を均一に進行できかつ上記基の導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましく、その際、水溶液のpHは、pH3~7が好ましい。また、尿素等の窒素含有化合物を添加してもよい。
【0022】
リン酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりのリン酸系の基の置換度(以下、単に「リン酸基置換度」と呼ぶ。)は、0.001以上0.40未満であることが好ましい。グルコース単位当たりのリン酸基置換度は、以下の方法で測定することができる:
固形分量が0.2質量%のリン酸エステル化CNFのスラリーを調製する。スラリーに対し、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーとを分離することにより、水素型リン酸エステル化CNFを得る。次いで、イオン交換樹脂による処理後のスラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測する。計測結果のうち、急激に電気伝導度が低下する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除すことにより、水素型リン酸エステル化CNF1g当たりのリン酸基量(mmol/g)を算出する。さらに、リン酸エステル化CNFのグルコース単位当たりのリン酸基置換度(DS)を、次式によって算出する:
DS=0.162×A/(1-0.079×A)
A:水素型リン酸エステル化CNFの1gあたりのリン酸基量(mmol/g)。
【0023】
(硫酸エステル化CNF)
アニオン性CNFの一例として、硫酸エステル化CNFを挙げることができる。硫酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料に硫酸系化合物を反応させることにより、硫酸系化合物由来の硫酸系の基をセルロースに導入して硫酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。硫酸系化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。これらの中では、セルロースの溶解性が小さく、また、酸性度が低いことから、スルファミン酸を用いることが好ましい。
【0024】
例えば、硫酸系化合物としてスルファミン酸を用いる場合、スルファミン酸の使用量は、セルロース鎖へのアニオン基の導入量を考慮して適宜調整することができる。例えば、セルロース分子中のグルコース単位1mol当たり、好ましくは0.01~50molの量で用いることができ、より好ましくは0.1~3.0molの量で用いることができる。
【0025】
硫酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりの硫酸系の基の量(以下、単に「硫酸基量」と呼ぶ。)は、0.1~3.0mmol/gであることが好ましい。グルコース単位当たりの硫酸基量は、以下の方法で測定することができる:
硫酸エステル化CNFの水分散液をエタノール、t-ブタノールの順に溶媒置換した後、凍結乾燥する。得られた試料200mgにエタノール15ml及び水5mlを加え、30分間撹拌する。その後、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を10ml加え、70℃で30分間撹拌し、さらに30℃で24時間撹拌する。次いで、指示薬としてフェノールフタレインを加え、塩酸で滴定を行い、下式を用いて算出する:
硫酸基量[mmol/g試料]=(5-(0.1×塩酸滴定量[ml]×2))/0.2。
【0026】
<転写用基材>
本発明の転写用基材としては、公知の高分子フィルムを使用することができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアセチルセルロース、ポリエーテル、ポリアクリル、(メタ)アクリロニトリルなどの高分子フィルムが挙げられる。これらのうち、機械的強度、熱的安定性、経済性に優れたポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好適である。
【0027】
本発明の転写用基材の片面上には、離型層(剥離層)を有することが好ましい。そのような離型層上に形成された機能層は、後述する支持基材に貼合した際に、離型層と機能層との界面で機能層が剥離し転写される方法や、転写用基材と剥離層との界面で剥離し、剥離層ごと機能層を支持基材上に貼合し転写する方法のどちらも適用することができる。
【0028】
離型層としては、特に制限されないが、例えばシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、などを用いることができるが、表面張力を転写用基材より低く設計でき、離型層と機能層との界面で機能層が剥離し転写できるように、表面張力の小さいシリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂などが好ましい。
【0029】
そのような離型層の膜厚は、0.1~20μmが好ましく、0.5~10μmがより好ましい。また離型層の表面にごく微細な凹凸を付与するため、平均粒子径が0.1~10μm程度の凹凸付与剤を添加しても良い。凹凸付与剤があることで、機能層と離型層界面での剥離がより容易になりつつ、機能層表面に適度な粗さを付与できるため、機能層の表面積を向上させるのに好適である。
【0030】
また離型層は離型剤を含んでも良い。離型剤としては、ポリエチレンワックス、アミドワックス、テフロン(登録商標)パウダー等の固形ワックス、弗素系、リン酸エステル系の界面活性剤、シリコーン樹脂、シリコーンオイル等を挙げることができる。離型層の形成方法としては特に制限されないが、均一塗工膜を形成できるようにバーコーティング法、ブレードコーティング法、(エア)ナイフコーティング法、ディップコーティング法、テンションウェブコーティング法、ダイコーティング法、カーテンコーティング法などから適宜選択することができる。
【0031】
<支持基材>
本発明に用いる支持基材としては、機能層を均一に形成する支持体となれるものであれば特に制限なく使用することができるが、そのような支持基材としては樹脂基材、紙基材、さらに金属基材などを用いることができ、特に様々な用途に応じて所望の性質を有する金属種を選択することができる金属基材が好ましい。そのような金属基材としては例えば、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、ニッケル、鉛、銀、白金、タングステン、ビスマス、ステンレス、真鍮、クロムなどの金属またはこれらの合金などを挙げることができ、汎用性の高さからアルミニウム、または銅が特に好ましい。
【0032】
支持基材上には、機能層と貼合させるための面上に受容層を形成させてもよい。受容層としては、機能層と転写用基材又は離形層との界面よりも表面張力が大きいものとなり、機能層の転写性を向上させるものであれば特に制限されない。そのような受容層としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、イソシアネート系樹脂、尿素系樹脂、エポキシ系樹脂などの他、塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルもしくはポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体もしくはポリアクリル酸エステル等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エチレンもしくはプロピレン等のオレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体系樹脂、ポリカーボネート等を挙げることができる。なお、そのような受容層の形成方法としては、離型層と同様な方法を選択できる。
【0033】
<転写塗工法>
本発明の積層体の製造方法としては、以下の工程1~3をこの順で行うことで、支持基材上にアニオン変性CNFを含む機能層を形成した、積層体を得ることができる。
工程1:転写用基材上にアニオン変性CNFを含む機能層を形成させる工程。
工程2:機能層の面上に支持基材を貼合させる工程。
工程3:転写用基材から機能層を剥離させる工程。
【0034】
(工程1)
転写用基材上にアニオン変性CNFを含む機能層を形成させる方法としては、均一な表面の機能層となれば特に制限はなく、公知の塗工方法を選択することができる。そのような塗工方法としては、バーコーティング法、ブレードコーティング法、(エア)ナイフコーティング法、ディップコーティング法、テンションウェブコーティング法、ダイコーティング法、カーテンコーティング法などを選択することができる。
【0035】
アニオン変性CNFを含む塗工液は、アニオン変性CNFが均一に分散していることが重要であり、均一な分散体となっていれば分散媒などは適宜選択することができる。アニオン変性CNFの水分散体は、解繊後のCNFをそのまま塗工液として利用することができるため最も効率的であるが、一方で均一に分散したCNFは粘性が高いため、精細な塗膜とするためには塗工方法が限定される場合がある。よって、粘度や揮発性などの塗工条件を調整するために、分散媒を溶剤系に置換又は溶剤を混合することも可能である。そのような溶剤としては、例えば親水性が高く、CNFの均一な分散性を維持しやすいアルコール系溶剤などが好適である。
【0036】
また本発明において、上述するコーティング法により形成された塗布膜の乾燥には公知の乾燥方法を用いることができ、乾燥温度としては好ましくは80~150℃であり、より好ましくは100~150℃であり、さらに好ましくは120~150℃である。また乾燥時間としては、好ましくは5~180秒であり、より好ましくは10~120秒である。
【0037】
またアニオン変性CNFを含む塗工液は、アニオン変性CNFと分散媒の他に、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を併用することができる。そのような添加剤としては、レベリング剤、消泡剤、水溶性高分子などの分散安定剤、防腐剤、結着剤、レオロジーコントロール剤などを挙げることができる。
【0038】
水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、澱粉ポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、CM化CNFとの親和性が良好である点から好ましい。
【0039】
(工程2)
工程2としては、転写用基材上に形成された機能層の面上に、支持基材を貼合させることが重要である。貼合方法としては公知の方法を用いることができ特に制限されることはないが、例えば、機能層の面上に金属基材を張り合わせた後、加温させることにより支持基材と機能層を密着させ機能層と転写用基材又は剥離層との界面よりも強い接着力を得る方法などを選択することができる。なおそのような高い接着力を得るために、工程1で転写用基材上に形成された機能層は、完全に乾燥させることなく分散媒を若干量含んでいる状態で、工程2の貼合処理を行うこともできる。
【0040】
また支持基材と機能層は、受容層を介して貼合することもできる。そのような受容層としては、前述される通り支持基材に形成されたのちに工程2の貼合処理を行っても良いし、工程1で得られた機能層上に前述と同様な方法にて受容層を形成させたのち、支持基材と貼合処理を行っても良い。
【0041】
(工程3)
工程3としては、転写用基材から機能層を剥離させることが重要である。剥離方法としてはロール剥離などの既存の方法を用いることができるが、機能層上の剥離面を均一な面として得るために、転写用基材又は離型面の機能層との界面の表面張力との関係から、剥離速度などを適宜調節することが好ましい。
【0042】
(機能層)
そのように支持基材上に形成されたアニオン変性CNFを含む機能層は、乾燥後の膜厚が30μm以下であることが重要であり、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。下限としては特に制限されないが、機能層として様々な用途に適切に作用効果を及ぼしやすくするため、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、2μm以上が特に好ましい。
【0043】
さらに支持基材上に形成された機能層は、その表層が均質な平滑性を有していることが好ましい。目視レベルで機能層に凹凸が発生していると、機能層として効果の発生に局在が生じてしまうため不適である。
【0044】
(用途)
本発明の積層体は、各種のディスプレイ装置基板、電子機器の基板、家電の部材、内装部材、外層部材、ドアサイドパネル、ボンネット、ルーフ、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の各種自動車用部品、医薬品や食品の包装材、太陽電池モジュール用裏面保護シート、有機EL素子の封止、電子部品の包装材、電池や蓄電デバイス等の電極、フレキシブルプリント配線板等で用いることができるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【0045】
また本発明の機能層は特に電子部材に利用される際に、含有されるアニオン変性CNFにより水濡れなどが発生した際にも、水濡れ部分のアニオン変性CNFが再分散と電気的な吸着現象を起こすため、機能層に欠点を発生させることなく自己再生性を有することが期待される。
【実施例0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(製造例1:酸化CNFの準備)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gとを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散されるまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで、酸化されたパルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分であった。上記の工程で得られた酸化パルプを、水で0.5%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で5回解繊処理を行い、酸化CNFの分散液Aを得た。得られた酸化CNFのカルボキシル基量は、1.42mmol/gであった。
【0048】
(製造例2:CM化CNFの準備)
回転数を150rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水10部とイソプロパノール(IPA)90部の混合溶媒に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。35℃で80分間撹拌、混合しマーセル化処理を行った。さらに撹拌しつつ水23部とIPA207部の混合溶媒と、モノクロロ酢酸ナトリウム40部とを添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間エーテル化処理を行った。
【0049】
反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、CM化パルプのナトリウム塩を得た。得られたCM化パルプにおけるCM置換度は0.17であった。上記の工程で得られたCM化パルプを水で0.5%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、CM化CNFの分散液Bを得た。
【0050】
(製造例3:リン酸エステル化CNFの準備)
広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)100gを尿素120g、リン酸二水素アンモニウム45gを溶解させた水溶液400gに浸漬した後、70℃のオーブンで24時間乾燥させ、さらに150℃で10分間加熱した。その後、イオン交換水で5回洗浄し、リン酸エステル化パルプを得た。リン酸エステル化パルプのリン酸基量を上述の方法で測定したところ、0.87mmol/gであった。上記の工程で得られたリン酸エステル化パルプを水で0.5%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、リン酸エステル化CNFの分散液Cを得た。
【0051】
(製造例4:硫酸エステル化CNFの準備)
広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)100gを105℃のオーブンで24時間乾燥させた後、60%硫酸水溶液2000gを添加して、50℃で1時間撹拌した。その後、イオン交換水で5回洗浄し、硫酸エステル化パルプを得た。硫酸エステル化パルプの硫酸基量を上述の方法で測定したところ、0.79mmol/gであった。上記の工程で得られた硫酸エステル化パルプを水で0.5%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、硫酸エステル化CNFの分散液Dを得た。
【0052】
(製造例5:亜リン酸エステル化CNFの準備)
亜リン酸水素ナトリム・5水和物130gと尿素108gと水762gとを混合して試薬Aを作製した。作製した試薬A1000gと針葉樹パルプ(日本製紙(株)製、NBKP)100gとを混合し、105℃で乾燥した。乾燥したパルプを130℃で2時間反応させ、水洗とろ過を2回繰返し、亜リン酸エステル化パルプを得た。上記の工程で得られた亜リン酸エステル化パルプを水で0.5%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、亜リン酸エステル化CNFの分散液Fを得た。
【0053】
(実施例1~5)
膜厚100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを転写用基材として、またアルミ基材を支持基材として用いた。
【0054】
PETフィルム上に、表1に記載のようにアニオン変性CNFを含む水分散液を塗工液として接触させた後、ブレードコーターで塗工し、100℃で1分間乾燥し膜厚5μm程度の機能層を得た。
【0055】
その後、機能層の面上にアルミ基材を、大成ラミネーター(株)社のラミネーター(VA-900)でロール温度60度、0.8m/分、圧力0.5MPaで貼り合わせた。
【0056】
室温にて冷却後、PETフィルムをゆっくりと剥離させ、アルミ基材上に機能層が積層された積層体1~5をそれぞれ得た。
【0057】
(比較例1)
アルミ基材上に、分散液Aを噴霧(スプレーコート)し、金属基材上に機能層が積層した積層体6を得た。
【0058】
<評価方法>
(膜厚)
アルミ基材に積層された機能層の膜厚は、キーエンス(株)製の走査型電子顕微鏡にて断面を観察し、計測した。
【0059】
(外観)
積層体の外観は、乾燥後に目視確認を行い、以下の基準で評価した。
A:金属基材上に機能層がまんべんなく形成された。
B:金属基材上に機能層が形成されているが、凹凸が目立つ。
【0060】
【表1】