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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082984
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20230608BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C03C15/00 C
C03B33/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197047
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏明
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4G015FA06
4G015FA09
4G015FB01
4G015FC00
4G059AA06
4G059AA08
4G059AC01
4G059BB04
(57)【要約】
【課題】貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくする。
【解決手段】貫通孔9の形成予定部3をレーザ光Lの照射により改質する改質工程S1と、改質工程S1の後に、ガラス板2をエッチング液6に浸漬して第一主面2aおよび第二主面2bをエッチングすることにより、形成予定部3に貫通孔9を形成するエッチング工程S2とを備える。エッチング工程S2は、形成予定部3が貫通していないガラス板2をエッチングする第一エッチング工程S2aと、第一エッチング工程S2aの後に行われ、形成予定部3が貫通したガラス板2をエッチングする第二エッチング工程S2bとを備える。ガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度は、第一エッチング工程S2aよりも第二エッチング工程S2bで速い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主面と、第二主面と、前記第一主面と前記第二主面との間を貫通する貫通孔とを有するガラス板の製造方法であって、
前記貫通孔の形成予定部をレーザ光の照射により改質する改質工程と、
前記改質工程の後に、前記ガラス板をエッチング液に浸漬してエッチングすることにより、前記形成予定部に前記貫通孔を形成するエッチング工程とを備え、
前記エッチング工程は、前記形成予定部が貫通していない前記ガラス板をエッチングする第一エッチング工程と、前記第一エッチング工程の後に行われ、前記形成予定部が貫通した前記ガラス板をエッチングする第二エッチング工程とを含み、
前記ガラス板に対する前記エッチング液の平均相対速度を、前記第一エッチング工程よりも前記第二エッチング工程で速くすることを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記第二エッチング工程が、前記形成予定部が貫通した時に開始される請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング工程では、前記エッチング液を攪拌し、
前記エッチング液の平均攪拌速度を、前記第一エッチング工程よりも前記第二エッチング工程で速くする請求項1又は2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程では、前記エッチング液中で前記ガラス板を移動させ、
前記ガラス板の平均移動速度を、前記第一エッチング工程よりも前記第二エッチング工程で速くする請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
第一主面と、第二主面と、前記第一主面と前記第二主面との間を貫通する貫通孔とを有するガラス板の製造方法であって、
前記貫通孔の形成予定部をレーザ光の照射により改質する改質工程と、
前記改質工程の後に、前記第一主面および前記第二主面のそれぞれにエッチング液を噴射してエッチングすることにより、前記形成予定部に前記貫通孔を形成するエッチング工程とを備え、
前記エッチング工程は、前記形成予定部が貫通していない前記ガラス板をエッチングする第一エッチング工程と、前記第一エッチング工程の後に行われ、前記形成予定部が貫通した前記ガラス板をエッチングする第二エッチング工程とを備え、
前記ガラス板に対する前記エッチング液の平均噴射圧力を、前記第一エッチング工程よりも前記第二エッチング工程で高くすることを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記第二エッチング工程が、前記形成予定部が貫通した時に開始される請求項5に記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫通孔を有するガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タイリングディスプレイ(マイクロLED等)、ベゼルレスディスプレイ、ガラスインタポーザなどの基板として、配線(貫通電極等)用の微細な貫通孔を有するガラス板が利用されている。
【0003】
この種の貫通孔を有するガラス板の製造方法としては、例えば、ガラス板における貫通孔の形成予定位置をレーザ光の照射により改質して改質部を形成する改質工程と、改質部を含む形成予定部をエッチングして貫通孔を形成するエッチング工程とを備える(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018―199605号公報
【特許文献2】特開2020―66551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の製造方法では、改質工程において形成された改質部は、改質されていない部分よりもエッチングレートが大きいため、エッチング工程において選択的に除去される。したがって、改質部をガラス板の板厚方向に沿って第一主面から第二主面まで形成することで、エッチングにより貫通孔を形成することができる。
【0006】
このように貫通孔を形成した場合、ガラス板の主面に近い部分ほど、長時間エッチング液と接するためにエッチングされやすく、貫通孔の孔径は、主面に近い部分が板厚方向の中央部よりも大きくなり、貫通孔の内壁面はテーパ状となる。このようにガラス板の主面の孔径が大きくなると、ガラス板の主面に高精細なパターンが形成できないなどの不具合が生じ得る。
【0007】
板厚方向と直交する方向に対する貫通孔の内壁面の傾斜角度(板厚方向と直交する方向と貫通孔の内壁面がなす角度、以下では単に「内壁面の傾斜角度」という)は、エッチング条件によって変化する。
【0008】
本発明は、貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一主面と、第二主面と、第一主面と第二主面との間を貫通する貫通孔とを有するガラス板の製造方法であって、貫通孔の形成予定部をレーザ光の照射により改質する改質工程と、改質工程の後に、ガラス板をエッチング液に浸漬してエッチングすることにより、形成予定部に貫通孔を形成するエッチング工程とを備え、エッチング工程は、形成予定部が貫通していないガラス板をエッチングする第一エッチング工程と、第一エッチング工程の後に行われ、形成予定部が貫通したガラス板をエッチングする第二エッチング工程とを備え、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くすることを特徴とする。
【0010】
本発明者等は、鋭意研究の結果、最終的に形成される貫通孔の内壁面の傾斜角度は、(a)形成予定部が貫通した時の形成予定部の内壁面の傾斜角度の大きさ、(b)形成予定部が貫通した後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度により決定されることを知見するに至った。つまり、最終的に形成される貫通孔の傾斜角度を大きくするためには、(a´)形成予定部が貫通した時の形成予定部の内壁面の傾斜角度を大きくする(90°に近づける)こと、(b´)形成予定部が貫通した後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度を正方向に変化させることが重要となる。
【0011】
レーザ照射により改質された形成予定部は、エッチングされやすい状態にある。しかしながら、形成予定部が貫通していない状態、つまり、形成予定部が底付きの凹部である状態では、形成予定部の内部をエッチング液が板厚方向に往来できない。そのため、この状態でガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を速くしても、ガラス板の主面におけるエッチング液の交換効率に比べて、形成予定部の凹部内におけるエッチング液の交換効率は上がらない。換言すると、エッチング液の平均相対速度を速くしても、エッチング液の入れ替わりに要する時間は、ガラス板の主面に比べて、形成予定部の凹部内では短くならない。その結果、ガラス板の主面近傍のエッチングのみが促進され、主面の孔径が優先的に拡大してしまう。これにより、貫通時の形成予定部の内壁面の傾斜角度が小さくなる。一方、形成予定部が貫通した状態では、形成予定部の内部をエッチング液が板厚方向に往来できる。そのため、この状態でガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を速くすると、ガラス板の主面におけるエッチング液の交換効率と同様に、形成予定部の内部におけるエッチング液の交換効率も上がる。その結果、貫通後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度を正方向に変化させることができる。したがって、上記の構成のように、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くすれば、形成予定部が貫通した時の形成予定部の内壁面の傾斜角度を大きくすること、形成予定部が貫通した後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度を正方向に変化させることができる。これにより、貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくすることができる。
【0012】
(2) 上記の(1)の構成において、第二エッチング工程が、形成予定部が貫通した時に開始されることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、形成予定部が貫通した時から、形成予定部内のエッチングの進行速度を上げることができる。したがって、形成予定部が貫通した後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度をより正方向に変化させることができる。これにより、貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくすることができる。
【0014】
(3) 上記の(1)又は(2)の構成において、エッチング工程では、エッチング液を攪拌し、エッチング液の平均攪拌速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くしてもよい。
【0015】
このようにすれば、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くできる。
【0016】
(4) 上記の(1)~(3)の構成において、エッチング工程では、エッチング液中でガラス板を移動させ、ガラス板の平均移動速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くしてもよい。
【0017】
このようにすれば、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で速くできる。
【0018】
(5) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、第一主面と、第二主面と、第一主面と第二主面との間を貫通する貫通孔とを有するガラス板の製造方法であって、貫通孔の形成予定部をレーザ光の照射により改質する改質工程と、改質工程の後に、第一主面および第二主面のそれぞれにエッチング液を噴射してエッチングすることにより、形成予定部に貫通孔を形成するエッチング工程とを備え、エッチング工程は、形成予定部が貫通していないガラス板をエッチングする第一エッチング工程と、第一エッチング工程の後に行われ、形成予定部が貫通したガラス板をエッチングする第二エッチング工程とを備え、ガラス板に対するエッチング液の平均噴射圧力を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で高くすることを特徴とする。
【0019】
このようにすれば、既に述べた同様の理由により、ガラス板に対するエッチング液の噴射による平均噴射圧力を、第一エッチング工程よりも第二エッチング工程で多くすれば、形成予定部が貫通した時の形成予定部の内壁面の傾斜角度を大きくすること、形成予定部が貫通した後の形成予定部の内壁面の傾斜角度の変化速度を正方向に変化させることができる。これにより、貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくすることができる。
【0020】
(6) 上記(5)の構成において、第二エッチング工程が、形成予定部が貫通した時に開始されることが好ましい。
【0021】
このようにすれば、貫通孔の内壁面の傾斜角度をより確実に大きくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、貫通孔の内壁面の傾斜角度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第一実施形態に係るガラス板の製造方法を示すフロー図である。
図2】第一実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる改質工程を示す断面図である。
図3】第一実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第一エッチング工程を示す断面図である。
図4】第一実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第二エッチング工程を示す断面図である。
図5】第一実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第一エッチング工程におけるガラス板の断面図である。
図6】第一実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第二エッチング工程におけるガラス板の断面図であって、ガラス板の形成予定部の貫通時の状態を示す。
図7】第一実施形態に係るガラス板の製造方法により製造された貫通孔を有するガラス板の断面図である。
図8】第二実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第一エッチング工程及び第二エッチング工程を示す断面図である。
図9】第三実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第一エッチング工程を示す側面図である。
図10】第三実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第二エッチング工程を示す側面図である。
図11】第四実施形態に係るガラス板の製造方法に含まれる第一エッチング工程及び第二エッチング工程を示す側面図である。
図12】形成予定部の貫通前における、形成予定部のテーパ角度とエッチング時間との関係を示すグラフである。
図13】形成予定部の貫通前における、主面のエッチングレートと攪拌速度との関係を示すグラフである。
図14】形成予定部の貫通前における、形成予定部のエッチングレートと攪拌速度との関係を示すグラフである。
図15】形成予定部の貫通時における、形成予定部のテーパ角度と攪拌速度との関係を示すグラフである。
図16】形成予定部の貫通後における、形成予定部のテーパ角度の変化速度と攪拌速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0025】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るガラス板の製造方法は、改質工程S1と、第一エッチング工程S2a及び第二エッチング工程S2bを含むエッチング工程S2とをこの順に備える。
【0026】
図2に示すように、改質工程S1は、レーザ装置1から照射されるレーザ光Lにより、ガラス板2における貫通孔の形成予定部3を改質する工程である。改質された形成予定部3は、板厚方向に延びる改質部4を含む。改質部4は、エッチングされやすい性質を有し、非改質部よりもエッチングレートが大きい。改質部4は、板厚方向で連続的に形成されていることが好ましいが、板厚方向で断続的に形成されていてもよい。ガラス板2に貫通孔を複数形成する場合、改質部4を含む形成予定部3も複数形成される。
【0027】
レーザ光Lは、ガラス板2の貫通孔の形成予定部3に改質部4を形成できる限り、その種類及び照射条件は特に限定されない。本実施形態では、レーザ光Lは、短パルスレーザ光(ピコ秒レーザ光、ナノ秒レーザ光、フェムト秒レーザ光)である。改質部4の径Wは、レーザ光Lのスポット径などによって調整できる。
【0028】
図3及び図4に示すように、エッチング工程S2は、ガラス板2をエッチングすることにより、改質部4を含む形成予定部3に、ガラス板2の第一主面2aと第二主面2bとの間を板厚方向に貫通する貫通孔を形成する工程である。エッチング工程S2では、エッチング容器5に貯留されているエッチング液6にガラス板2を浸漬し、ガラス板2の第一主面2a及び第二主面2bの両側からエッチングを同時に進行させる。
【0029】
詳細には、エッチング工程S2は、形成予定部3が貫通していないガラス板2をエッチングする第一エッチング工程S2a(図3を参照)と、第一エッチング工程S2aの後に行われ、形成予定部3が貫通したガラス板2をエッチングする第二エッチング工程S2b(図4を参照)とを備える。第一エッチング工程S2a及び第二エッチング工程S2bでは、エッチング液6が貯留された同一のエッチング容器5が使用される。なお、第一エッチング工程S2aで使用するエッチング容器は、第二エッチング工程S2bで使用するエッチング容器と異なっていてもよい。
【0030】
第二エッチング工程S2bにおけるガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度(以下、第二平均相対速度という)V2は、第一エッチング工程S2aにおけるガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度(以下、第一平均相対速度という)V1よりも速い。
【0031】
第二平均相対速度V2を第一平均相対速度V1よりも速くする方法としては、例えば、エッチング液6を攪拌する方法、ガラス板2をエッチング液6中で移動させる方法などが挙げられる。なお、第二平均相対速度V2を第一平均相対速度V1よりも速くするために、エッチング液6を攪拌する方法と、ガラス板2をエッチング液6中で移動させる方法とを併用してもよい。
【0032】
エッチング液6を攪拌する方法としては、例えば、ルーバーを揺動させる方法、超音波によりエッチング液6を振動させる方法などが挙げられるが、本実施形態では、攪拌部材(スクリュー回転を含む)7を回転させる方法が採用される。図示例では、攪拌部材7は、ガラス板2の側方に配置されているが、攪拌部材7の配置位置は特に限定されない。攪拌部材7は、ガラス板2の下方に配置してもよいし、ガラス板の上方に配置してもよい。エッチング液6を攪拌する場合、第二平均相対速度V2を第一平均相対速度V1よりも速くするために、第二エッチング工程S2bにおけるエッチング液6の平均攪拌速度(第二平均攪拌速度という)を、第一エッチング工程S2aにおけるエッチング液6の平均攪拌速度(第一平均攪拌速度という)よりも速くすることが好ましい。ここで、平均攪拌速度とは、攪拌部材7を用いる場合には、攪拌部材7の平均回転速度を意味する。なお、攪拌部材7の配置位置は特に限定されない。
【0033】
ガラス板2をエッチング液6中で移動させる方法としては、例えば、エッチング液6中でガラス板2を揺動させる方法、エッチング液6中でガラス板2を回転させる方法などが挙げられる。ガラス板2をエッチング液6中で移動させる場合、第二平均相対速度V2を第一平均相対速度V1よりも速くするために、第二エッチング工程S2bにおけるガラス板2の平均移動速度(第二平均移動速度という)を、第一エッチング工程S2aにおけるガラス板2の平均移動速度(第一平均移動速度という)よりも速くすることが好ましい。
【0034】
第二エッチング工程S2bは、形成予定部3が板厚方向に貫通した時に開始される。つまり、形成予定部3が板厚方向に貫通した時点で、ガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度が、第一平均相対速度V1から第二平均相対速度V2に切り替えられる。
【0035】
本実施形態では、予め同じエッチング条件で形成予定部3が貫通するエッチング時間を測定しておき、この測定した時間が経過したときに形成予定部3が貫通したとみなし、第二エッチング工程S2bを開始する。なお、カメラ等を用いて形成予定部3が貫通した時をリアルタイムで観測し、形成予定部3の貫通が観測された時点で、第二エッチング工程S2bを開始するようにしてもよい。
【0036】
第二エッチング工程S2bの第二平均相対速度V2を、第一エッチング工程S2aの第一平均相対速度V1よりも速くする理由は、次の通りである。なお、図5図7において、符号2aо,2bоはエッチング前の主面2a,2bの位置を示している。
【0037】
図5に示すように、第一エッチング工程S2aでは、改質部4を含む形成予定部3はエッチングにより徐々に除去される。ただし、第一エッチング工程S2aでは、形成予定部3は貫通しておらず、底付きの凹部8をなす。この状態では、形成予定部3の内部をエッチング液6が板厚方向に往来できない。そのため、第一平均相対速度V1を速くしても、形成予定部3の凹部8内におけるエッチング液6の交換効率は上がらない。このようにエッチング液6の交換効率が悪いと、形成予定部3の凹部8内のエッチング液6が反応生成物(スラッジ)により徐々に汚染される。そのため、形成予定部3のエッチングレートをR1、主面2a,2bのエッチングレートをR2とした場合に、R1/R2の比が低下する。その結果、ガラス板2の主面2a,2b近傍のエッチングのみが促進され、貫通時の形成予定部3の内壁面3aの傾斜角度(テーパ角度ともいう)θ1(図6を参照)が小さくなってしまう。
【0038】
一方、図6に示すように、第二エッチング工程S2bでは、形成予定部3は貫通した状態である。この状態では、形成予定部3の内部をエッチング液6が板厚方向に自由に往来できる。そのため、第二平均相対速度V2を速くすると、ガラス板2の主面2a,2bにおけるエッチング液6の交換効率と同様に、形成予定部3の内部におけるエッチング液6の交換効率も上がる。その結果、ガラス板2の主面2a,2b近傍のエッチングと同様に、形成予定部3のエッチングも促進される。これにより、貫通後の形成予定部3の内壁面3aの傾斜角度θ1の変化を小さくしつつ、所望の孔径にするまでのエッチング時間を短くできる。
【0039】
このような理由から、第二エッチング工程S2bにおける第二平均相対速度V2を第一エッチング工程S2aにおける第一平均相対速度V1よりも速くしている。そして、このようにすれば、(1)形成予定部3が貫通した時の形成予定部3の内壁面3aの傾斜角度θ1を大きくすること、(2)形成予定部3が貫通した後の形成予定部3の内壁面3aの傾斜角度θ1の変化速度を正方向に変化させることができる。これにより、図7に示すように、ガラス板2に最終的に形成される貫通孔9の内壁面9aの傾斜角度(テーパ角度ともいう)θ2を大きくできる。
【0040】
貫通孔9の板厚方向の中心部における孔径が最小孔径D1となり、貫通孔9の主面2a,2bにおける孔径が最大孔径D2となる。
【0041】
(第二実施形態)
図8に示すように、第二実施形態に係るガラス板の製造方法が、第一実施形態に係るガラス板の製造方法と相違するところは、エッチング工程S2において、エッチング液6に浸漬させたガラス板2を搬送する点である。
【0042】
本実施形態では、ガラス板2の搬送方向に長尺なエッチング容器10にエッチング液6が貯留されている。ガラス板2は、エッチング液6に浸漬された状態で、ローラ等の搬送装置11によって搬送される。ガラス板2の搬送経路では、形成予定部3が貫通する位置よりも搬送方向の上流側の第一エリア12において第一エッチング工程S2aが行われ、形成予定部3が貫通する位置及びその搬送方向の下流側を含む第二エリア13において第二エッチング工程S2bが行われる。つまり、ガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度は、第一エリア12では相対的に小さい第一平均相対速度V1とされ、第二エリア13では相対的に大きい第二平均相対速度V2とされる。
【0043】
この場合、第二エリア13における攪拌部材7bの平均攪拌速度を、第一エリア12における攪拌部材7aの平均攪拌速度よりも速くしてもよい。また、第二エリア13における搬送装置11によるガラス板2の平均移動速度を、第一エリア12における搬送装置11によるガラス板2の平均移動速度よりも速くしてもよい。なお、各エリア12,13におけるガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度の調整方法としては、第一実施形態で説明したその他の方法も同様に適用できる。
【0044】
本実施形態では、第一エリア12と第二エリア13との間には、両エリアの間でのエッチング液6の往来を抑制する仕切り壁14を設けている。このようにすれば、各エリア12,13が仕切り壁14によって区画されるため、ガラス板2に対するエッチング液6の平均相対速度を各エリア12,13で個別に調整しやすくなる。なお、仕切り壁14は省略してもよい。
【0045】
(第三実施形態)
図9及び図10に示すように、第三実施形態に係るガラス板の製造方法が、第一及び第二実施形態に係るガラス板の製造方法と相違するところは、エッチング工程S2において、ガラス板2をエッチング液6に浸漬する代わりに、ガラス板2の第一主面2a及び第二主面2bに対してエッチング液6を噴射する点である。
【0046】
本実施形態では、エッチング工程S2は、形成予定部3が貫通していないガラス板2の第一主面2a及び第二主面2bにエッチング液6をノズル15から噴射してエッチングする第一エッチング工程S2a(図9参照)と、第一エッチング工程S2aの後に行われ、形成予定部3が貫通したガラス板2の第一主面2a及び第二主面2bにエッチング液6をノズル15から噴射してエッチングする第二エッチング工程S2b(図10参照)とを備える。
【0047】
第二エッチング工程S2bにおけるガラス板2に対するエッチング液6の平均噴射圧力(以下、第二平均噴射圧力という)Q2は、第一エッチング工程S2aにおけるガラス板2に対するエッチング液6の平均噴射圧力(以下、第一平均噴射圧力という)Q1よりも高い。
【0048】
第二エッチング工程S2bは、形成予定部3が板厚方向に貫通した時に開始される。つまり、形成予定部3が板厚方向に貫通した時に、ガラス板2に対するエッチング液6の平均噴射圧力が、第一平均噴射圧力Q1から第二平均噴射圧力Q2に切り替えられる。
【0049】
(第四実施形態)
図11に示すように、第四実施形態に係るガラス板の製造方法が、第三実施形態に係るガラス板の製造方法と相違するところは、エッチング工程S2において、搬送されるガラス板2に対してエッチング液6を噴射する点である。
【0050】
本実施形態では、ガラス板2は、搬送装置16によって搬送方向の下流側に向かって搬送される。ガラス板2の搬送経路上では、ガラス板2の第一主面2a及び第二主面2bのそれぞれにノズル15a,15bからエッチング液6が噴射される。ガラス板2の搬送経路では、形成予定部3が貫通する位置よりも上流側の第一エリア17において第一エッチング工程S2aが行われ、形成予定部3が貫通する位置及びその下流側を含む第二エリア18において第二エッチング工程S2bが行われる。つまり、ガラス板2に対するエッチング液6の平均噴射圧力は、第一エリア17では相対的に低い第一平均噴射圧力Q1とされ、第二エリア18では相対的に高い第二平均噴射圧力Q2とされる。
【0051】
この場合、第二エリア18のノズル15bから単位時間当たりに噴射されるエッチング液6の量を、第一エリア17のノズル15aから単位時間当たりに噴射されるエッチング液6の量よりも多くしてもよい。また、第二エリア18におけるノズル15bの数量を、第一エリア17におけるノズル15aの数量よりも相対的に増やしてもよい。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
第二エッチング工程S2bは、形成予定部3の貫通時よりも前(例えば貫通時の数分前)から開始してもよい。あるいは、第二エッチング工程S2bは、形成予定部3の貫通時よりも後(例えば貫通時の数分後)から開始してもよい。つまり、第二エッチング工程S2bは、形成予定部3が貫通したガラス板2をエッチングする工程を含んでいれば、その開始タイミングは特に限定されない。ただし、最終的に形成される貫通孔9の内壁面9aの傾斜角度θ2を可及的に大きくする観点からは、第二エッチング工程S2bは、形成予定部3が貫通した時に開始されることが好ましい。
【0054】
エッチング工程S2では、ガラス板2を1枚ずつエッチングしてもよいし、複数枚のガラス板2を同時にエッチングしてもよい。また、エッチング工程S2において、ガラス板2を搬送しながらエッチングする場合、ガラス板2の搬送経路は直線状に限らず、円環状などの曲線状であってもよい。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0056】
まず、ガラス板に最終的に形成される貫通孔の内壁面の傾斜角度(テーパ角度)が、エッチング時間によってどのように変化するかを測定した。その結果を図12に示す。
【0057】
図中の符号Pで示す点は、形成予定部が貫通した時の形成予定部のテーパ角度である。この形成予定部の貫通時のテーパ角度は、最終的に貫通孔が形成されるまでに、テーパ角度の変化速度(図例では、-0.07°/分)及びエッチング時間に応じて変化している。つまり、貫通孔のテーパ角度は、(1)形成予定部が貫通した時の形成予定部のテーパ角度、(2)形成予定部が貫通した後の形成予定部のテーパ角度の変化速度、及び、(3)エッチング時間により決定される。
【0058】
次に、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度が、ガラス板に形成される貫通孔のテーパ角度にどのように影響するかを評価した。その結果を図13図16に示す。ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度の調整は、ウォーターバススターラを用いてエッチング液を攪拌することによって行った。ウォーターバススターラは、磁力を利用して攪拌子を回転させ、エッチング液などの液体を攪拌する装置である。
【0059】
図13に示すように、形成予定部が貫通する前の状態では、ガラス板の主面のエッチングレートは、エッチング液の攪拌速度が速くなるに連れて上昇する。これに対し、図14に示すように、形成予定部が貫通する前の状態では、形成予定部のエッチングレートは、エッチング液の攪拌速度が速くなってもほぼ変化しない。また、図15に示すように、形成予定部が貫通した時の形成予定部のテーパ角度は、エッチング液の攪拌速度を速くすると小さくなる。これらの結果から、形成予定部が貫通する前に、エッチング液の攪拌速度を大きくすると、ガラス板の主面近傍のエッチングのみが促進され、形成予定部が貫通した時の形成予定部のテーパ角度が小さくなることが分かる。したがって、形成予定部が貫通する前は、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を遅くすることが好ましいと言える。
【0060】
図16に示すように、形成予定部が貫通した後の形成予定部のテーパ角度の変化速度は、エッチング液の攪拌速度が速くなるに連れて正方向に変化する。この結果から、形成予定部が貫通した後にエッチング液の攪拌速度を大きくすると、形成予定部が貫通した時の形成予定部のテーパ角度からの角度変化を正方向に変化させることができることが分かる。したがって、形成予定部が貫通した後は、ガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を速くすることが好ましいと言える。
【0061】
以上より、形成予定部が貫通する前はガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を遅くし、形成予定部が貫通した後はガラス板に対するエッチング液の平均相対速度を速くすれば、最終的に形成される貫通孔のテーパ角度を大きくできることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
1 レーザ装置
2 ガラス板
2a 第一主面
2b 第二主面
3 形成予定部
3a 内壁面
4 改質部
5 エッチング容器
6 エッチング液
7 攪拌部材
8 凹部
9 貫通孔
10 エッチング容器
11 搬送装置
12 第一エリア
13 第二エリア
14 仕切り壁
15 ノズル
16 搬送装置
17 第一エリア
18 第二エリア
L レーザ光
S1 改質工程
S2 エッチング工程
S2a 第一エッチング工程
S2b 第二エッチング工程
θ1 形成予定部の内壁面の傾斜角度(テーパ角度)
θ2 貫通孔の内壁面の傾斜角度(テーパ角度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16