(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082986
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 5/235 20060101AFI20230608BHJP
C03B 5/167 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C03B5/235
C03B5/167
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197049
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】愛 陸朗
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AF00
(57)【要約】
【課題】溶融炉内の溶融ガラスの通電加熱及び移送管の通電加熱に用いられる電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合に、移送管の損傷や溶融ガラスの固化の進行を適切に防止する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法は、溶融炉2内で、作動用電源設備15から供給された電流によって電極Pxを用いて溶融ガラスGmを通電加熱する溶融工程S1と、作動用電源設備15から供給された電流によって移送装置3が備える移送管Pを通電加熱する移送工程S2と、移送装置3によって移送された溶融ガラスGmから成形装置4を用いてガラス物品を成形する成形工程S3と、作動用電源設備15からの電流の供給に支障が生じた場合に、溶融炉2から移送装置3の少なくとも途中まで溶融ガラスGmを継続して移送するための移送継続処理を行う対処工程S4と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉内で、作動用電源設備から供給された電流によって電極を用いて溶融ガラスを通電加熱することで、ガラス原料から溶融ガラスを生成する溶融工程と、
移送装置が備える移送管を前記作動用電源設備から供給された電流によって通電加熱しながら、前記溶融炉から流出した溶融ガラスを前記移送管によって移送する移送工程と、
前記移送装置によって移送された溶融ガラスから成形装置を用いてガラス物品を成形する成形工程と、を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記作動用電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合にそれに対処する対処工程をさらに備え、
前記対処工程では、前記溶融炉から前記移送装置の少なくとも途中まで溶融ガラスを継続して移送するための移送継続処理を行うことを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記作動用電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合に用いることが可能な予備電源設備を有し、
前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記予備電源設備から前記溶融炉の電極及び/又は前記移送管に対して電流を供給する請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記溶融炉は、バーナーを用いた燃焼加熱によって前記溶融炉内で溶融ガラスを生成することが可能なバーナー加熱手段を備え、
前記溶融工程では、前記電極を用いた通電加熱のみによって溶融ガラスを生成し、
前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記バーナー加熱手段によって溶融ガラスを生成する請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記溶融炉は、バーナーを用いた燃焼加熱によって前記溶融炉内での溶融ガラスの生成に加担するバーナー加熱手段を備え、
前記溶融工程では、前記電極を用いた通電加熱と、前記バーナー加熱手段を用いた燃焼加熱とによって溶融ガラスを生成し、
前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記バーナー加熱手段の発熱量を、前記溶融工程での前記バーナー加熱手段の発熱量よりも増加させる請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記移送装置は、前記移送管によって構成される清澄槽、攪拌槽及び状態調整槽を含み、
前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記攪拌槽の底部に設けられた排出口から溶融ガラスを排出する請求項1~4の何れかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記対処工程では、前記移送装置によって前記成形装置まで溶融ガラスを継続して移送することで、前記成形装置への溶融ガラスの供給を継続する請求項1~4の何れかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記対処工程で前記移送継続処理を行う時は、前記移送装置により移送される溶融ガラスの流量を、前記移送工程で前記移送装置により移送される溶融ガラスの流量よりも少なくする請求項1~6の何れかに記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉で生成されて移送管で移送された溶融ガラスからガラス物品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板やガラス管などのガラス物品を製造する際には、溶融炉から成形装置に溶融ガラスを移送することが行われる。溶融ガラスを移送する経路は、複数の移送管で形成される。溶融炉内での溶融ガラスの生成や各移送管内での溶融ガラスの移送を行う際には、溶融炉内や各移送管に対して電流を供給するための電源設備が一般に使用される。
【0003】
詳述すると、特許文献1には、溶融炉の底壁部に炉内に向かって突出する複数の電極を配置し、これらの電極を用いて炉内の溶融ガラスを通電加熱することが開示されている。また、特許文献2には、移送管のフランジ部に形成された電極を用いて移送管を通電加熱することで、移送管内の溶融ガラスを加熱することが開示されている。
【0004】
そして、特許文献1に開示された溶融炉内の溶融ガラスの通電加熱と、特許文献2に開示された移送管の通電加熱とは、何れも、電源設備からの電流の供給によって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-193269号公報
【特許文献2】特開2015-105196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の二種の通電加熱を行いつつ移送された溶融ガラスから成形装置でガラス物品を製造している間においては、突発的に、電源設備における一部の設備又は全ての設備からの電流の供給に支障が生じる場合がある。具体的には、当該設備(上記一部の設備又は全ての設備)が停電により電流を供給できなくなったり、あるいは、当該設備の故障等により正常に電流を供給できなくなったり等の事態が生じ得る。
【0007】
このような事態が生じた場合には、溶融炉内及び移送管内の溶融ガラスに温度低下が生じる。特に移送管内での溶融ガラスの温度低下は著しいため、移送管に不当な変形や破裂等の損傷が生じ易くなる。このような問題は、移送管とこれを取り囲む支持レンガ(耐火レンガ)との収縮度合いの差が大きいこと等によって顕著化される。
【0008】
しかも、溶融炉内及び移送管内では、溶融ガラスの固化が進行していくため、当該設備からの電流の供給が復旧した場合に、元通りに溶融ガラスを移送できるようにするには、溶融炉や移送管に面倒且つ煩雑な補修作業を施さなければならない。
【0009】
以上の観点から、本発明の課題は、溶融炉内の溶融ガラスの通電加熱及び移送管の通電加熱に用いられる電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合に、移送管の損傷や溶融ガラスの固化の進行を適切に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために創案された本発明は、溶融炉内で、作動用電源設備から供給された電流によって電極を用いて溶融ガラスを通電加熱することで、ガラス原料から溶融ガラスを生成する溶融工程と、移送装置が備える移送管を前記作動用電源設備から供給された電流によって通電加熱しながら、前記溶融炉から流出した溶融ガラスを前記移送管によって移送する移送工程と、前記移送装置によって移送された溶融ガラスから成形装置を用いてガラス物品を成形する成形工程と、を備えるガラス物品の製造方法であって、前記作動用電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合にそれに対処する対処工程をさらに備え、前記対処工程では、前記溶融炉から前記移送装置の少なくとも途中まで溶融ガラスを継続して移送するための移送継続処理を行うことに特徴づけられる。
【0011】
このような構成によれば、作動用電源設備(当該電源設備の全ての設備または一部の設備)からの電流の供給に支障が生じた場合には、対処工程で移送継続処理が行われることで、溶融ガラスが溶融炉から移送装置の少なくとも途中まで継続して移送される。この継続して移送される溶融ガラスの熱量によって移送装置の少なくとも上流側部位に存在する移送管の温度低下を低減できる。その結果、当該移送管の破裂等の損傷を適切に防止できる。さらに、継続した溶融ガラスの移送によって、溶融炉内では溶融ガラスが継続して流動するため、当該移送管内だけでなく溶融炉内での溶融ガラスの固化の進行も適切に止められる。その結果、作動用電源設備からの電流の供給が復旧すれば、溶融炉や移送装置の少なくとも上流側部位については、簡易な補修作業を施すだけで又は補修作業を施さなくても、元通りに溶融ガラスを移送できるようになる。
【0012】
この構成において、前記作動用電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合に用いることが可能な予備電源設備を有し、前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記予備電源設備から前記溶融炉の電極及び/又は前記移送管に対して電流を供給してもよい。
【0013】
このようにすれば、予備電源設備が移送継続処理を行うために有効利用される。この場合、予備電源設備からは、溶融炉の電極、若しくは移送管、又はその双方に対して電流が供給されることになるが、それら何れであっても、移送される溶融ガラスの温度低下を低減できる。このため、溶融ガラスの移送を継続する上で有利となる。
【0014】
以上の構成において、前記溶融炉は、バーナーを用いた燃焼加熱によって前記溶融炉内で溶融ガラスを生成することが可能なバーナー加熱手段を備え、前記溶融工程では、前記電極を用いた通電加熱のみによって溶融ガラスを生成し、前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記バーナー加熱手段によって溶融ガラスを生成してもよい。
【0015】
このようにすれば、バーナー加熱手段が、移送継続処理を行うために有効利用される。この場合、バーナー加熱手段は、溶融ガラスの生成に必要な加熱を行うため、移送される溶融ガラスの温度低下をより確実に低減できる。
【0016】
この構成に代えて、前記溶融炉は、バーナーを用いた燃焼加熱によって前記溶融炉内での溶融ガラスの生成に加担するバーナー加熱手段を備え、前記溶融工程では、前記電極を用いた通電加熱と、前記バーナー加熱手段を用いた燃焼加熱とによって溶融ガラスを生成し、前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記バーナー加熱手段の発熱量を、前記溶融工程での前記バーナー加熱手段の発熱量よりも増加させてもよい。
【0017】
このようにすれば、電極を用いた通電加熱による加熱量の減量分を、バーナー加熱手段の発熱量の増加により補った上で、バーナー加熱手段が移送継続処理を行うために有効利用される。これによれば、移送される溶融ガラスの温度低下をより一層確実に低減できる。
【0018】
以上の構成において、前記移送装置は、前記移送管によって構成される清澄槽、攪拌槽及び状態調整槽を含み、前記対処工程では、前記移送継続処理として、前記攪拌槽の底部に設けられた排出口から溶融ガラスを排出してもよい。
【0019】
このようにすれば、攪拌槽の排出口から溶融ガラスを排出することで、溶融炉から攪拌槽までの溶融ガラスの移送が助長されて、溶融ガラスの継続した移送が可能になる。これにより、移送装置における攪拌槽内及びその上流側部位内での溶融ガラスの温度低下を低減できる。したがって、ここでの構成によれば、攪拌槽及びそれよりも上流側に配置された清澄槽などの損傷を防止できる。
【0020】
以上の構成において、前記対処工程では、前記移送装置によって前記成形装置まで溶融ガラスを継続して移送することで、前記成形装置への溶融ガラスの供給を継続してもよい。
【0021】
このようにすれば、既述の予備電源設備からの電流の供給及び/又はバーナー加熱手段による加熱などによる移送継続処理が行われることで、移送装置の上流端から下流端まで溶融ガラスを継続して移送することが可能になる。そして、移送装置の下流端まで継続して移送された溶融ガラスは、成形装置に継続して供給されることになる。この場合、成形装置は、極端な温度低下によって損傷する事態が生じ得るが、溶融ガラスが成形装置に継続して供給されれば、供給される溶融ガラスの熱量によって温度低下が大幅に低減される。したがって、ここでの構成によれば、移送装置の全ての移送管と成形装置(特に成形体)との損傷を防止できる。
【0022】
以上の構成において、前記対処工程で前記移送継続処理を行う時は、前記移送装置により移送される溶融ガラスの流量を、前記移送工程で前記移送装置により移送される溶融ガラスの流量よりも少なくしてもよい。
【0023】
このようにすれば、予備電源設備の能力を小さくしたり、バーナー加熱手段の発熱量を減らしたりすることが可能になり、設備コストの増大や設備の煩雑化を防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、溶融炉内の溶融ガラスの通電加熱及び移送管の通電加熱に用いられる電源設備からの電流の供給に支障が生じた場合に、移送管の損傷及び溶融ガラスの固化の進行を適切に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の基本構成を示す概略側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の構成要素である移送管の横部分移送管を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の構成要素である移送管の縦移送管を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法の各種工程を示す工程図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における対処工程で移送継続処理の第一例を行っている状態を示す概略側面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における対処工程で移送継続処理の第二例又は第三例を行っている状態を示す概略側面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法における対処工程で移送継続処理の第四例を行っている状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明に係るガラス物品の製造方法を実施するための製造装置の基本構成を例示している。同図に示すように、この製造装置1は、大別すると、上流端に配備され且つガラス原料を加熱して溶融ガラスGmを生成する溶融炉2と、溶融炉2から流出した溶融ガラスGmを下流側に向かって移送する移送装置3と、移送装置3から供給される溶融ガラスGmを用いてガラスリボンGrを成形する成形装置4とを備える。
【0028】
溶融炉2は、耐火レンガ等で構成された壁部によって炉内の溶融空間を区画形成する。溶融炉2の底壁部2aには、炉内に突出して溶融ガラスGmに浸漬された複数の電極Pxが配設されている。これら電極Pxは、溶融ガラスGmを通電加熱するものである。この場合、溶融炉2内の溶融ガラスGmの加熱は、電極Pxによる通電加熱のみであってもよく、これに加えて、後述するバーナー加熱手段17を用いてもよい。溶融炉2には、炉外から溶融ガラスGm上にガラス原料を供給する原料供給機(例えばスクリューフィーダー)が設けられる。
【0029】
移送装置3は、主たる構成要素として上流側から順に、清澄槽5と、攪拌槽6と、状態調整槽7と、を備える。清澄槽5の流入口5aは、上流連結パイプ8を介して溶融炉2の流出口2bに連通している。清澄槽5の流出口5bは、中流連結パイプ9を介して攪拌槽6の流入口6aに連通している。攪拌槽6の流出口6bは、冷却パイプ10を介して状態調整槽7の流入口7aに連通している。これら上流連結パイプ8、中流連結パイプ9及び冷却パイプ10も、移送装置3の構成要素である。
【0030】
清澄槽5は、溶融炉2で生成された溶融ガラスGmに清澄処理を施すものである。攪拌槽6は、清澄処理を施された溶融ガラスGmを攪拌羽根(スターラー)6xで攪拌して均質化処理を施すものである。冷却パイプ10は、均質化処理が施された溶融ガラスGmを冷却してその粘度などの調整を行うものである。状態調整槽7は、冷却された溶融ガラスGmの粘度や流量などのさらなる調整を行うものである。なお、攪拌槽6は、移送装置3の移送経路に複数個を配置してもよい。
【0031】
清澄槽5、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9、及び冷却パイプ10は、何れも、移送管Pで構成され、詳しくは、
図2に示すような横移送管P1で構成される。横移送管P1はその管軸Zが横方向に沿って延びている。ここで、横移送管P1が清澄槽5及び中流連結パイプ9を構成する場合には、その管軸Zは水平方向(僅かに傾斜する方向を含む)に沿って延びる。また、横移送管P1が上流連結パイプ8及び冷却パイプ10を構成する場合には、その管軸Zは下流側に移行するに連れて漸次上方に位置する傾斜方向に沿って延びる。横移送管P1は、溶融ガラスGmが内部に流れる管状部Paと、管状部Paの管軸Z方向の一端及び他端にそれぞれ設けられたフランジ部Pbと、これらフランジ部Pbの外周部にそれぞれ取り付けられた電極Pyとを備える。これら電極Pyは、横移送管P1を通電加熱するものであり、その通電加熱によって横移送管P1内の溶融ガラスGmが加熱される。なお、清澄槽5、上流連結パイプ8、中流連結パイプ9及び冷却パイプ10は、それぞれ、複数の横移送管P1を連結しで構成してもよい。
【0032】
管状部Paは、白金、白金合金(例えば白金ロジウム合金等)、強化白金または強化白金合金で形成することができる。両フランジ部Pb及び両電極Pyは、白金、白金合金、強化白金、強化白金合金、ニッケルまたはニッケル合金で形成することができる。両フランジ部Pbは、管状部Paの管軸Z方向の一端及び他端にそれぞれ溶接等により固定されている。ここで述べた各部の材質及び両フランジ部Pbの管状部Paへの固定手法は、下記の縦移送管P2についても同様である。
【0033】
攪拌槽6は、移送管Pで構成され、詳しくは、
図3に示すような縦移送管P2で構成される。この縦移送管P2が上述の横移送管P1と基本的に相違している点は、その管軸Zが縦方向(好ましくは鉛直方向)に沿っているところと、電極Pyが管状部Paの上端及び下端にそれぞれ設けられたフランジ部Pbの外周部に取り付けられているところとである。なお、上端側のフランジ部Pbは、既述の横移送管P1のフランジ部Pbと同様に、管状部Paの内周面に対応する開口部を有しているが、下端側のフランジ部Pbは、そのような開口部を有しないブラインドフランジの態様をなしている。また、下端側のフランジ部Pbは、溶融ガラスを排出するためのドレン口(後述の
図7参照)を有している。さらに、この縦移送管P2の管状部Paの周壁上部及び周壁下部には、既述の流入口6a及び流出口6bがそれぞれ形成されている。流入口6aには、中流連結パイプ9に連通する流入パイプ9aが接続され、流出口6bには、冷却パイプ10に連通する流出パイプ10aが接続されている。縦移送管P2の上端の開口部は、図外の蓋体により覆われ、蓋体の中央部に設けられた貫通孔に攪拌羽根6xの回転軸が挿通されている。状態調整槽7は、移送管Pで構成され、詳しくは、図例の縦移送管P2と形状等の相違があるものの、これと同様の構成を採用できる。
【0034】
図1を参照して、成形装置4は、オーバーフローダウンドロー法により溶融ガラスGmを流下させて帯状に成形する成形体11と、成形体11に溶融ガラスGmを導く大径の導入パイプ12とを有する。導入パイプ12には、移送装置3の状態調整槽7及びその構成要素である小径のパイプ13を経て溶融ガラスGmが供給される。したがって、本実施形態では、移送装置3の下流端が、状態調整槽7における小径のパイプ13の流出口13bとされる。移送装置3の上流端は、既述の上流連結パイプ8の流入口8aである。なお、本実施形態では、導入パイプ12を、成形装置4の構成要素としているが、移送装置3の構成要素としてもよい。
【0035】
帯状に成形されたガラスリボンGrは、徐冷工程及び切断工程に供給され、ガラス物品として所望寸法の板ガラスが切り出される。ここで得られる板ガラスは、例えば、厚みが0.01~2mmであって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイのガラス基板やカバーガラスに利用される。なお、成形装置4は、スロットダウンドロー法などの他のダウンドロー法を実行するものであってもよく、ダウンドロー法以外の方法、例えばフロート法を実行するものであってもよい。
【0036】
板ガラスのガラスとしては、ケイ酸塩ガラス、シリカガラスが用いられ、好ましくはホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、化学強化ガラスが用いられ、最も好ましくは無アルカリガラスが用いられる。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本実施形態におけるアルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。
【0037】
以上の構成に加えて、この製造装置1は、
図1に示すように、作動用電源設備15を備えている。この作動用電源設備15は、溶融炉2の電極Pxと移送管Pの電極(横移送管P1及び縦移送管P2の電極)Pyとに電流を供給するものである。この場合、作動用電源設備15は、単一の設備であってもよく、複数の設備からなるものであってもよい(詳細は後述する)。
【0038】
次に、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について詳細に説明する。
【0039】
この製造方法は、
図4に示すように、溶融工程S1と、移送工程S2と、成形工程S3と、対処工程S4と、を備える。
【0040】
溶融工程S1は、溶融炉2内で、作動用電源設備15から供給された電流によって電極Pxを用いて溶融ガラスGmを通電加熱することで、ガラス原料から溶融ガラスGmを生成する工程である。
【0041】
移送工程S2は、作動用電源設備15から供給された電流によって電極Pyを用いて移送管Pを通電加熱しながら、溶融炉2の流出口2bから流出した溶融ガラスGmを移送装置3の各移送管Pによって移送する工程である。
【0042】
成形工程S3は、移送装置3の各移送管Pによって移送された溶融ガラスGmから成形装置4を用いてガラス物品を成形する工程である。
【0043】
対処工程S4は、作動用電源設備15からの電流の供給に支障が生じた場合にそれに対処する工程である。この対処工程S4では、溶融炉2から移送装置3の少なくとも途中まで溶融ガラスGmを継続して移送するための移送継続処理が行われる。なお、電流の供給に支障が生じた場合とは、作動用電源設備15が電力会社から給電を受けるものである場合は、停電が発生した場合や作動用電源設備15が故障等した場合である。また、作動用電源設備15が自家発電を行うものである場合は、作動用電源設備15が故障等した場合である。さらに、作動用電源設備15が、電力会社から給電を受ける設備と、自家発電を行う設備とを備えるものである場合は、その何れか一方または双方に上記のような停電や故障等が生じた場合である。
【0044】
対処工程S4で移送継続処理が行われることによる利点は、次に示す通りである。すなわち、上述のように電流の供給に支障が生じた場合、移送装置3の少なくとも途中まで溶融ガラスGmが継続して移送されるため、この継続して移送される溶融ガラスGmの熱量によって移送装置3の少なくとも上流側部位に存在する移送管Pの温度低下が低減される。その結果、移送装置3の当該移送管Pの破裂等の損傷を適切に防止できる。さらに、継続した溶融ガラスGmの移送によって、溶融炉2内では溶融ガラスGmが継続して流動するため、当該移送管P内だけでなく溶融炉2内での溶融ガラスGmの固化の進行も適切に止められる。その結果、作動用電源設備15からの電流の供給が復旧した時点では、当該移送管Pや溶融炉2に簡易な補修作業を施すだけで又は補修作業を施さなくても、元通りに溶融ガラスGmを移送できるようになる。
【0045】
以下、対処工程S4で行われる移送継続処理の第一例~第四例について説明する。
【0046】
図5は、移送継続処理の第一例を説明するための概略側面図である。同図に示すように、第一例は、作動用電源設備15からの電流の供給に支障が生じた場合に用いることが可能な予備電源設備16を有している。この基本構成の下で、対処工程S4では、予備電源設備16から溶融炉2の電極Px及び移送装置3の各移送管Pの電極Pyに電流を供給する。このようにすれば、予備電源設備16からの電流の供給によって、溶融ガラスGmの継続した移送が可能になる。この第一例では、溶融ガラスGmを、移送装置3の下流端(本実施形態では、状態調整槽7の流出口13b)まで継続して移送できる。このようにすれば、移送装置3の下流端13bから流出した溶融ガラスGmは、成形装置4の導入パイプ12を通じて成形体11に継続して供給される。したがって、この第一例では、移送装置3の全ての移送管P内及び導入パイプ12内の溶融ガラスGmひいては成形体11に供給される溶融ガラスGmの温度低下を低減できる。その結果、移送装置3の全ての移送管P及び導入パイプ12の損傷を防止できだけでなく、成形体11の損傷をも防止できる。詳述すると、成形体11は、溶融ガラスGmが供給されなくなることによる急激な温度低下や、溶融ガラスGmの供給が再開されることによる急激な温度上昇が生じた場合に、割れ等の損傷が生じ得るが、継続して溶融ガラスGmが供給されることで、そのような問題は生じない。この第一例が行われる時は、移送される溶融ガラスGmの流量Aが、移送工程S2が行われる時に移送される溶融ガラスGmの流量Bよりも少なくされ、好ましくは、流量Aが、流量Bの30~99%、より好ましくは30~90%とされるが、流量Aが流量Bと等しくてもよい。これにより、予備電源設備16の能力を小さくして、設備コストの増大や設備の煩雑化を防止できる。また、この第一例では、作動用電源設備15を電力会社から給電を受けるものとし、且つ、予備電源設備16を自家発電によるものとしているが、その逆としてもよい。あるいは、作動用電源設備15を電力会社から給電を受けるものと自家発電によるものとの併用とし、且つ、予備電源設備16を他の自家発電によるもの(一又は複数の自家発電によるもの)としてもよい。さらに、この第一例では、予備電源設備16の能力(容量)を作動用電源設備15の能力よりも小さく(例えば20%~99%、より好ましくは20%~90%に)しているが、その逆としてもよく、また能力が同一であってもよい。
【0047】
図6は、移送継続処理の第二例を説明するための概略側面図である。同図に示すように、第二例は、溶融炉2が溶融ガラスGmの生成を行うことが可能なバーナー加熱手段17を備えた上で、溶融工程S1では、溶融炉2の電極Pxを用いた通電加熱のみによって溶融ガラスGmを生成するようにしている。この基本構成の下で、対処工程S4では、バーナー加熱手段17によって溶融炉2内で溶融ガラスGmを生成する。このようにすれば、バーナー加熱手段17が、溶融ガラスGmの生成に必要な加熱を行うため、継続して移送される溶融ガラスGmの温度低下をより確実に低減できる。この第二例では、移送装置3の上流側部位又は下流側部位の途中まで溶融ガラスを継続して移送できるため、移送装置3の当該部位の移送管P内における溶融ガラスGmの温度低下を低減できる。したがって、この第二例では、移送装置3の当該部位における移送管Pの損傷を防止できる。なお、この第二例が行われる時に移送される溶融ガラスGmの流量は、上述の第一例の場合と同一であるため、バーナー加熱手段17の発熱量を少なくして、設備コストの増大等を防止できる。この第二例は、上述の第一例と併用してもよい。すなわち、対処工程S4で、予備電源設備16から各移送管Pの電極Pyに電流を供給してもよく、これに代えて又はこれと共に予備電源設備16から溶融炉2の電極Pxに電流を供給してもよい。
【0048】
バーナー加熱手段17は、例えば、溶融炉2の側壁に配置される複数のバーナーによって構成でき、各バーナーは溶融炉2内の溶融ガラスの上方に火炎を噴射することでガラス原料及び溶融ガラスGmを加熱する。溶融工程S1では、バーナーを取り外し、対処工程S4で、バーナーを装着してもよい。
【0049】
同図を参照して、移送継続処理の第三例を説明する。第三例は、溶融工程S1で、溶融炉2の電極Pxを用いた通電加熱と、溶融工程S1での溶融ガラスGmの生成に加担するバーナー加熱手段17を用いた加熱とによって溶融ガラスGmを生成するようにしている。この基本構成の下で、対処工程S4では、バーナー加熱手段17の発熱量を、溶融工程S1でのバーナー加熱手段17の発熱量よりも増加させる。このようにすれば、電極Pxを用いた通電加熱による加熱量の減量分が、バーナー加熱手段17の発熱量の増加により補われた上で、バーナー加熱手段17により溶融ガラスGmが生成される。したがって、この第三例では、移送される溶融ガラスGmの温度低下をより一層確実に低減でき、溶融ガラスGmを移送装置3の上流側部位又は下流側部位の途中までより適切に継続して移送できる。また、この第三例が行われる時に移送される溶融ガラスGmの流量も、上述の第一例の場合と同一である。したがって、この第三例によれば、上述の第二例と同様の作用効果が得られる。この第三例は、上述の第一例と併用してもよい。すなわち、対処工程S4で、予備電源設備16から各移送管Pの電極Pyに電流を供給してもよく、これに代えて又はこれと共に予備電源設備16から溶融炉2の電極Pxに電流を供給してもよい。
【0050】
バーナー加熱手段17の発熱量の増加は、例えば、バーナー1本当たりの発熱量を増加させることで実現してもよく、稼働するバーナーの本数を増加させることで実現してもよく、これらを組み合わせて実現してもよい。
【0051】
図7は、移送継続処理の第四例を説明するための概略側面図である。同図に示すように、第四例は、対処工程S4で、攪拌槽6のドレン口6eから溶融ガラスGmを排出する。この場合、ドレン口6eからの溶融ガラスGmの排出を開始する時期は、例えば成形装置4への溶融ガラスGmの供給が停止した時とすることができる。このようにすれば、攪拌槽6のドレン口6eからの溶融ガラスGmの排出に伴って、溶融炉2から攪拌槽6までの溶融ガラスGmの移送が助長されるため、溶融ガラスGmの継続した移送が可能になる。これにより、移送装置3内における攪拌槽6内及びその上流側の移送管P内での溶融ガラスGmの温度低下が低減される。したがって、この第四例によれば、攪拌槽6、中流連結パイプ9、清澄槽5及び上流連結パイプ8の損傷を防止できる。この第四例が行われる時に移送される溶融ガラスGmの流量(単位長さ当たりの流量)は、上述の第一例の場合と同一である。なお、ここでの構成に代えて、移送装置3における攪拌槽6以外の箇所にドレン口を形成し、そのドレン口から溶融ガラスGmを排出するようにしてもよい。なお、この第四例は、上述の第一例と併用してもよく、第二例及び第三例の何れか一方と併用してもよく、第一例と第二例との組み合わせと併用してもよく、第一例と第三例との組み合わせと併用してもよい。
【0052】
以上、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々のバリエーションが可能である。
【0053】
例えば、以上の実施形態では、板ガラスを製造する方法に本発明を適用したが、板ガラス以外のガラス物品(例えばガラスロール、ガラス管、ガラス繊維など)を製造する方法に本発明を適用してもよい。
【0054】
以上の実施形態では、移送管内で溶融ガラスを継続して移送する移送継続処理として、第一例~第四例を挙げたが、これら以外であっても、電流の供給に支障が生じた場合に移送管内で溶融ガラスを継続して移送することができるものであれば他の処理を行うか、あるいは当該他の処理を併用するようにしてもよい。例えば、対処工程S4では、炉外から溶融ガラスGm上にガラス原料を供給することが好ましい。ガラス原料の供給は、断続的又は連続的に行ってもよい。また、ガラス原料の供給には、原料供給機を用いてもよく、作業者によってガラス原料を投入してもよい。対処工程S4で原料供給機を用いる場合は、予備電源設備16から原料供給機に電流を供給することが好ましい。
【符号の説明】
【0055】
1 製造装置
2 溶融炉
3 移送装置
4 成形装置
5 清澄槽
6 攪拌槽
6d 攪拌槽の底部(底壁)
6e 攪拌槽の排出口(ドレン口)
7 状態調整槽
8 上流連結パイプ
8a 移送管の上流端(上流パイプの流入口)
9 中流連結パイプ
10 冷却パイプ
11 成形装置の構成要素(成形体)
13 状態調整槽の小径のパイプ
13b 移送管の下流端(状態調整槽の流出口)
15 作動用電源設備
16 予備電源設備
17 バーナー加熱手段
Gm 溶融ガラス
P 移送管
P1 横移送管
P2 縦移送管
Pa 管状部
Pb フランジ部
Px 溶融炉の電極
Py 移送管の電極
S1 溶融工程
S2 移送工程
S3 成形工程
S4 対処工程