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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083042
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】二次電池の電極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20230608BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230608BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197139
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 尚範
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA03
5H050FA05
5H050FA17
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA28
5H050GA29
5H050GA30
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA16
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】電極材料となる活物質に比表面積のばらつきがある場合でも、完成した電池の性能のばらつきを抑制すること。
【解決手段】完成後の電池における負極活物質粒子の設計中央値である設計比表面積S[m/g]を決定する設計比表面積決定のステップと、塗工工程前からプレス工程完了後における比表面積変化量S[m/g]を測定する比表面積変化量測定のステップと、前記活物質の前記混練工程前の粉体比表面積S[m/g]を測定する粉体比表面積測定のステップと、前記混練工程での比表面積の目標変化量をXとしたとき、X=S-S-S…(式1)から、目標とする前記混練工程で比表面積の目標変化量X[m/g]を求め、この目標変化量Xに基づいて前記混練工程での単位時間当たりの負荷Lを調整することで比表面積の変化量Vを調整する比表面積変化量設定のステップを備えた。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む複数の電極材料を混練機にて混練して二次電池の電極板の製造に用いられる電極合材ペーストを製造する混練工程と、
前記電極合材ペーストを集電体に塗工する塗工工程と、
前記電極合材ペーストが塗工された電極板をプレスするプレス工程とを備えた二次電池の電極板の製造方法であって、
完成後の電池における前記活物質の設計中央値である設計比表面積S[m/g]を決定する設計比表面積決定のステップと、
前記塗工工程前からプレス工程完了後における比表面積変化量S[m/g]を測定する比表面積変化量測定のステップと、
前記活物質の前記混練工程前の粉体比表面積S[m/g]を測定する粉体比表面積測定のステップと、
前記混練工程での比表面積の目標変化量をXとしたとき、
X=S-S-S…(式1)から、目標とする前記混練工程で比表面積の目標変化量X[m/g]を求め、
この目標変化量Xに基づいて前記混練工程での単位時間当たりの負荷Lを調整することで比表面積の変化量Vを調整する比表面積変化量設定のステップを備えた
ことを特徴とする二次電池の電極板の製造方法。
【請求項2】
前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における混練機の混練抵抗を変更することにより前記負荷Lを変更し比表面積の変化量Vを調整することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項3】
予め前記混練工程における負荷Lと当該混練工程での比表面積の変化量との関係を測定し、この測定結果に基づいて前記混練工程で目標とする比表面積の変化量Vとなるように負荷Lを調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項4】
前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における負荷Lを前記混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]に基づいて調整することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項5】
前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における固形分率NVの値により負荷Lを調整することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項6】
前記固形分率NVの調整は、前記電極合材ペーストの材料となる溶媒の量を変更することで調整することを特徴とする請求項5に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項7】
前記比表面積変化量設定のステップは、前記電極材料となる前記活物質を異なる比表面積の活物質に変更することで調整することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項8】
前記負荷Lは、混練機の回転部材の形状、間隙を変更することで混練抵抗を変更して調整することを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項9】
前記負荷Lは、混練機の回転速度を変更することで混練抵抗を変更して調整することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項10】
前記二次電池は、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【請求項11】
前記電極板は負極板であることを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の二次電池の電極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電極板の製造方法に係り、詳しくは比表面積のばらつきが少ない二次電池の電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の電極板は、電極合材層に電池の主反応を担う活物質を備えている。また、この活物質を金属箔などからなる集電体となる基板に固定するため、結着剤、粘度調整剤からなるバインダが混合される。そして、これらの活物質、バインダ、溶媒を加えて混練されペースト状にされる。このように混練されて製造されたペーストを基板に塗工工程で塗工する。塗工後は、乾燥されて溶媒が除去されて固形分が基板に固定され合材層が形成される。この合材層は、プレス工程で、均一の厚さにプレスされて整形される。
【0003】
このような電極板では、主反応を担う活物質の比表面積により反応量が変化するため、比表面積が大きい方が望ましいといえる。一方、混練時には、樹脂製のバインダなどが活物質の粒子の表面に付着する等の影響により、比表面積が低下し、比表面積の減少によって、電池性能が低下することがあった。特に、電極材料となる比表面積が異なる活物質に対して同じ製造方法で負極板を作製する場合、完成した電池の性能にもばらつきが生じてしまうという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1に記載された発明では、プレス密度にて負極板BET(BET法により測定した比表面積)を制御できることが開示されている。
また、特許文献2に記載の発明では、混練時間により、活物質に付着するバインダの量を制御してBETを調整することが開示されている。
【0005】
これらのような発明であれば電極板のBETを制御することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開1998-116604号公報
【特許文献2】特開2013-206737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、BETだけでなくプレス密度や極板の厚みも変化してしまうという問題があった。
また、特許文献2に記載された発明では、混練時間を調整することで電極板BETを制御できるものの、二次電池の製造工程において混練時間をその都度変更することは、製造ラインのタクトタイムに影響が出るため、製造効率が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明の二次電池の電極板の製造方法が解決しようとする課題は、電極材料となる活物質に比表面積のばらつきがある場合でも、完成した電池の性能のばらつきを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池の電極板の製造方法では、活物質を含む複数の電極材料を混練機にて混練して二次電池の電極板の製造に用いられる電極合材ペーストを製造する混練工程と、前記電極合材ペーストを集電体に塗工する塗工工程と、前記電極合材ペーストが塗工された電極板をプレスするプレス工程とを備えた二次電池の電極板の製造方法であって、完成後の電池における前記活物質の設計中央値である設計比表面積S[m/g]を決定する設計比表面積決定のステップと、前記塗工工程前からプレス工程完了後における比表面積変化量S[m/g]を測定する比表面積変化量測定のステップと、前記活物質の前記混練工程前の粉体比表面積S[m/g]を測定する粉体比表面積測定のステップと、前記混練工程での比表面積の目標変化量をXとしたとき、X=S-S-S…(式1)から、目標とする前記混練工程で比表面積の目標変化量X[m/g]を求め、この目標変化量Xに基づいて前記混練工程での単位時間当たりの負荷Lを調整することで比表面積の変化量Vを調整する比表面積変化量設定のステップを備えたことを特徴とする。
【0010】
前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における混練機の混練抵抗を変更することにより前記負荷Lを変更し比表面積の変化量Vを調整するようにしてもよい。
また、予め前記混練工程における負荷Lと当該混練工程での比表面積の変化量との関係を測定し、この測定結果に基づいて前記混練工程で目標とする比表面積の変化量Vとなるように負荷Lを調整するようにしてもよい。
【0011】
また、前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における負荷Lを前記混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]に基づいて調整するようにしてもよい。
また、前記比表面積変化量設定のステップは、前記混練工程における固形分率NVの値により負荷Lを調整するようにしてもよい。
【0012】
また、前記固形分率NVの調整は、前記電極合材ペーストの材料となる溶媒の量を変更することで調整するようにしてもよい。
また、前記比表面積変化量設定のステップは、前記電極材料となる前記活物質を異なる比表面積の活物質に変更するようにしてもよい。また、前記負荷Lは、混練機の回転部材の形状、間隙を変更することで混練抵抗を変更して調整するようにしてもよい。また、前記負荷Lは、混練機の回転速度を変更することで混練抵抗を変更して調整するようにしてもよい。
【0013】
前記二次電池は、リチウムイオン二次電池において好適に実施でき、前記電極板は負極板において好適に実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池の電極板の製造方法は、電極材料となる活物質に比表面積のばらつきがある場合でも、完成した電池の性能のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リチウムイオン二次電池の外観の斜視図である。
図2】捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】負極板の製造工程を示すフローチャートである。
図4】混練条件の決定の手順を示すフローチャートである。
図5】(a)塗工工程を示す模式図である。(b)乾燥工程を示す模式図である。(c)プレス工程を示す模式図である。(d)完成した負極板を示す模式図である。
図6】従来の比表面積の変化を示すグラフである。
図7】本実施形態の比表面積の変化を示すグラフである。
図8】(a)は、原料配合前の合材ペーストの原料となる粉体の負極活物質粒子を示す模式図である。(b)は、原料配合後の合材ペーストの負極活物質粒子を示す模式図である。(c)は、混練工程後の合材ペーストの負極活物質粒子を示す模式図である。
図9】混練工程後の負極活物質粒子を示す模式図である。
図10】混練工程における負荷Lと、比表面積との関係を示すグラフである。
図11】混練工程における固形分率NVと比表面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の二次電池の電極板の製造方法を、リチウムイオン二次電池1の負極板2の製造方法の実施形態により、図1~11を参照して説明する。
<本実施形態の原理>
まず、本実施形態の原理について説明する。本実施形態では、二次電池としてリチウムイオン二次電池1を、電極板として負極板2を例に説明する。なお、本発明は、広く二次電池の電極板に適用できるものであり、本実施形態の記載により限定されるものではない。従来技術の説明でも述べたとおり、リチウムイオン二次電池1の負極板2では、負極合材ペースト22aの構成要素となる負極活物質粒子22bに比表面積Sのばらつきがある場合がある。活物質の比表面積Sは二次電池の主反応を担うため、電池性能と紐づけられる。このため、負極板2の比表面積Sのばらつきを小さくすることで、電池性能のばらつきも小さくすることができる。
【0017】
本実施形態は、原料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sにばらつきがあるような場合でも、完成した電池の比表面積Sを適切に管理することで、性能のばらつきを抑制することができる負極板2の製造方法である。
【0018】
<比表面積S>
ここで、比表面積S[m/g]は、単位質量当たりの面積で表される。比表面積の測定は、吸着法、湿潤熱法、反応法などがあり、吸着法は、BET法や、Langmuir法がある。本実施形態では、広く普及している、BET法(Berunauer Emmett and Teller’s method・ガス吸着法)により粉体の比表面積を求める方法を用いている。
【0019】
具体的には、例えば負極を1cm×20cmの帯状に切り取り、これをサンプルとする。BET比表面積測定装置はQuanta chrome社製のQuantasorbを使用し、窒素ガスを吸着ガスとした。サンプルセルにはバルクソリッドセルを使用し、負極サンプルをこのセルの中に丸めてセットした。なお、吸着ガスをクリプトンにすることにより、さらに小さなサンプルでの測定も可能である。
【0020】
<本実施形態の比表面積の管理>
完成したリチウムイオン二次電池1の負極板2の負極合材層22の比表面積は、材料となる負極活物質粒子22bの固有の比表面積Sに加えて、負極板2の製造工程によって変化する。特に、混練工程(図3・S4)では、その混練条件により比表面積Sの変化が異なる。
【0021】
<混練工程(S4)での単位時間当たりの負荷Lと比表面積Sの変化について>
本発明者らは、混練工程(S4)での単位時間当たりの負荷Lを調整することで適切に比表面積Sの変化量Vを調整することができることを見出した。その上で、混練工程(S4)においての比表面積Sの変化は、混練工程(S4)における負荷Lに依存することを見出した。つまり、混練工程(S4)における負荷Lは、混練工程(S4)における単位時間当たりの消費電力[Wh]により数値化が可能で、単位時間当たりの消費電力[Wh]を管理することで、簡易かつ適切に混練工程(S4)における比表面積Sの変化が管理できる。
【0022】
<負荷Lと固形分率NV>
また、本発明者らは、適切に比表面積Sを調整するため、負極合材ペースト22aの固形分率NVが、比表面積Sの変化に影響が大きいことと、固形分率NVが、比表面積Sの変化に強い相関関係があることを見出した。さらに、予め固形分率NVと比表面積Sの変化との関係を測定しておくことで、固形分率NVを管理することで、簡易かつ適切に比表面積を調整することができることを見出した。ここで、「固形分率NV(Nonvolatile content, Non-Volatile matter content)」とは、負極合材ペースト22aにおいての全体の質量に対する固形分の質量の比率である。具体的には、「JIS K 5601_1_2塗料成分試験方法-第1部-第2節:加熱残分」に規定する方法で測定する。
【0023】
<負荷Lに影響を与えるその他の条件>
なお、混練工程(S4)における負荷Lは、固形分率NVに由来するものに限らず、例えば、原料となる負極活物質粒子22bの大きさがある。また、図示しない混練機の回転部材(スクリュー・ロッド・パッド・ブレード)の形状、間隙(クリアランス)がある。さらに、混練機の回転速度なども影響を与える。これらを総合した負荷Lを示す指標として、単位時間当たりの消費電力[Wh]を管理することで、簡易かつ適切に混練工程(S4)における比表面積Sに変化が管理できる。
【0024】
<リチウムイオン二次電池1の構成>
まず、本実施形態の前提となる二次電池に相当するリチウムイオン二次電池1の構成について、簡単に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、蓋体で密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。
【0026】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0027】
正極板3は、基材となる正極集電体31上に正極合材層32が形成される。正極集電体31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極接続部23と反対側)に正極接続部33が設けられている。
【0028】
<負極板2>
負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板2は、金属製の負極集電体21上に負極合材ペースト22aが塗工されて負極合材層22が形成される。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0029】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着剤(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材を負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
ここで、溶媒としては、例えば水やNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を用いることができる。また、結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。
【0030】
<正極板3>
図示しない正極集電体の両面に正極合材層が形成されて正極板が構成されている。正極集電体は、本実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極集電体は、正極合材層の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0031】
正極板3は、正極集電体の表面に正極合材層が形成されている。正極合材層は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0032】
また、正極合材層は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0033】
正極板3は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極集電体に塗工して乾燥することで作製される。
なお、本実施形態では、負極板2のみを例示しているが、本発明は正極板3においても実施できることは言うまでもない。
【0034】
<セパレータ4>
セパレータ4は、負極板2及び正極板3の間に電解液13を保持するための例えばポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ4としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。電解液13に電極体12を浸漬させるとセパレータ4の端部から中央部に向けて電解液13が浸透する。
【0035】
<電解液13>
電解液13は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0036】
<負極板2の製造工程>
図3は、負極板2の製造工程を示すフローチャートである。次に、本実施形態の負極板2の製造工程を図3を参照して説明する。
<負荷Lと比表面積Sの関係測定(S1)>
予め混練条件の決定(S2)の前に、混練工程(S4)における負荷Lと混練工程(S4)での比表面積Sの変化量ΔSとの関係を測定する。この測定結果に基づいて混練工程(S4)で目標とする比表面積Sの変化量Vとなるように負荷Lを調整する。
【0037】
図10は、混練工程(S4)における負荷Lの変化と、比表面積Sの変化量ΔSとの関係を示すグラフである。横軸は、混練工程(S4)における混練機の負荷Lを示す単位時間当たりの消費電力[Wh]を示す。縦軸は、そのときの比表面積Sの変化量ΔSを示す。ΔSは、負荷Lが設計値L[Wh]における比表面積Sの変化量ΔSである。Xは、負荷Lが、L0[Wh]のときの変化量ΔSである。負荷Lmaxは、上限の負荷Lであり、負荷Lminは、下限の負荷Lである。
【0038】
図10に示すように、負荷Lが大きくなると、それにつれて比表面積Sの変化量ΔSの低下が大きくなる。例えば、比表面積Sの変化量ΔSを、目標変化量Xとしたい場合は、負荷Lを負荷Lxとすれば、比表面積の変化量ΔSは、目標変化量Xとなる。
【0039】
したがって、製造する二次電池の負極活物質粒子22bに合わせて、図10のような関係を予め測定しておけば、比表面積Sの変化量ΔSを、目標変化量Xとしたい場合の目標負荷Lxを導き出すことができる。
【0040】
そこで、負荷Lと混練工程(S4)での比表面積Sの変化量ΔSとの関係の測定(S1)においては、図10に示すような混練工程(S4)における負荷Lの変化と、比表面積Sの変化量ΔSとの関係を測定する。そして、これをマップや変換テーブルのような形で読み出せるように、図示しないリチウムイオン二次電池の製造装置の記憶装置に記憶しておく。
【0041】
<混練条件の決定(S2)>
続いて、混練条件の決定を行う(S2)。ここでは、電極材料となる負極活物質粒子22bに基づいて、所定の固形分率NVとなるように電極材料の負極活物質粒子22bの他、結着剤、増粘剤、その他添加剤、及び溶媒の配合を決定する。また、混練機の混練部材の選択、混練時間、混練速度を設定する。
【0042】
詳しくは、後述する。
<原料配合(S3)>
混練条件の決定(S2)で決定された配合で、負極合材ペースト22aの原料となる負極活物質粒子22b、結着剤、増粘剤、その他添加剤、及び溶媒を配合する。
【0043】
<混練工程(S4)>
混練工程(S4)では、原料配合(S3)の手順で配合された原料を混練条件の決定(S2)の手順で決定された混練条件に従って混練機にて混練して負極合材ペースト22aを製造する。
【0044】
<混練工程(S4)における比表面積の変化>
ここで、図6は、従来の比表面積の変化を示すグラフである。図6に示すように、原料配合(S3)前の負極合材ペースト22aの原料となる粉体の負極活物質粒子22bの比表面積Sは、混練工程(S4)の手順の後は、低下している。これは、負極活物質粒子22bの比表面積Sが、S′となっていても、混練条件が同一ならば、変化量ΔSと変化量ΔS´も等しい。また、塗工工程(S5)、乾燥工程(S6)、プレス工程(S7)を経た後の比表面積Sの変化量SとS′も等しい。
【0045】
すなわち、S-S′=S-S′となり、粉体比表面積Sと粉体比表面積S′との差は解消されない。
<本実施形態の混練工程(S4)の作用>
ここで、図8(a)は、原料配合(S3)前の負極合材ペースト22aの原料となる粉体の負極活物質粒子22bを示す模式図である。図8(b)は、原料配合(S3)後の負極合材ペースト22aの負極活物質粒子22bを示す模式図である。図8(c)は、混練工程(S4)後の負極合材ペースト22aの負極活物質粒子22bを示す模式図である。図8(a)に示すように、原料配合前の負極活物質粒子22bは、その表面を覆うものがないため、本来の比表面積である粉体比表面積Sを有する。その後、図8(b)に示すように、原料配合(S3)の手順で、結着剤22c、溶媒22dなどの副材を混合するが、この段階でも、本来の比表面積である粉体比表面積Sを有する。そして、図8(c)に示すように、混練工程(S4)の手順が完了すると、結着剤22cの一部が負極活物質粒子22bの表面に付着して、負極活物質粒子22bの表面の一部を覆う。
【0046】
図9は、混練工程(S4)後の負極活物質粒子22bを示す模式図である。混練工程(S4)後は、結着剤22cの一部が負極活物質粒子22bの表面に付着して、負極活物質粒子22bの表面の一部を覆う。負極活物質粒子表面22eが、結着剤22cに覆われた部分は、比表面積が低下する。そのため、混練工程(S4)後の負極活物質粒子表面22eの比表面積Sである粉体比表面積Sは低下する。
【0047】
なお、図8、9を用いて説明したメカニズムは、比表面積Sの低下の要因の一つであり、混練の他の要因によっても、活物質の表面形状が変化し、比表面積も変化する。
<混練機の負荷L>
この比表面積Sの低下は、溶媒22dが少なく固形分率NVが高い状態では、混練工程(S4)の負荷Lが大きくなる。すなわち、比較的溶媒22dが少ない、いわゆる「固練り」では、溶媒22dが少なく、強く結着剤22cなどが擦り付けられて負極活物質粒子22b表面に多く付着する。すなわち、比表面積Sの減少が大きい。逆に溶媒22dが多く固形分率NVが低い状態では、混練工程(S4)の負荷Lが小さくなる。すなわち、流動抵抗が小さくなり結着剤22cなどを擦り付けられる力が小さくなる。このため負極活物質粒子22b表面に付着する結着剤22cが少なくなる。すなわち、比表面積Sの減少が小さい。
【0048】
この負極活物質粒子22b表面に付着する結着剤22cの量は、固形分率NV以外にも、原料となる負極活物質粒子22b自体によっても異なる。例えば、負極活物質粒子22bの粒子径の大小により比表面積Sの変化量ΔSが異なる。また、混練機の回転部材(スクリュー・ロッド・パッド・ブレード)の形状、間隙(クリアランス)を変更することで混練抵抗が変化することでも比表面積Sの変化量ΔSが異なる。さらに、混練機の回転速度を変更することで混練抵抗を変更しても比表面積Sの変化量ΔSが異なる。これらの要素は、混練機の単位時間当たりの「負荷L」としてとらえることができる。
【0049】
本発明者らは、これらの比表面積Sへの影響は、混練機の負荷Lにより推定できることを見出した。本発明者らの行った実験によれば、図10に示すように、混練機の負荷Lを変化させると、高い相関関係で、比表面積Sの変化量ΔSが変化することを確認した。このため本実施形態では、負荷Lを制御することで、比表面積Sを制御する。さらに本発明者らは、この負荷Lは混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]として、数値的にとらえることができる。すなわち、混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]を制御することで、負荷Lを制御し、比表面積Sの変化を制御することができる製造方法を確立した。
<塗工工程(S5)>
混練工程(S4)の手順で製造した負極合材ペースト22aを塗工機5により塗工する。
【0050】
図5(a)は、塗工工程(S5)を示す模式図である。塗工工程(S5)は、図5に示すような長尺の金属箔である負極集電体21が、図示しない搬送コンベアにより搬送される。塗工機5は、搬送される負極集電体21に対向する位置に所定のギャップGを介して対向配置される。塗工機5は、ダイノズルとして構成され、混練工程(S4)の手順で製造した負極合材ペースト22aが図示しないダイに供給される。ダイに供給された負極合材ペースト22aは、ノズル51から一定の量が負極集電体21に吐出される。このように構成されているため、一定の速度で搬送されている負極集電体21に、一定の厚さD1の負極合材ペースト22aの層が形成される。
【0051】
<乾燥工程(S6)>
図5(b)は、乾燥工程(S6)を示す模式図である。塗工工程(S5)で形成された一定の厚さD1の負極合材ペースト22aの層は、赤外線ランプなどの乾燥用の設備で乾燥される。このとき、負極合材ペースト22aの層は溶媒22dが蒸発し、硬化する。塗工工程(S5)で形成された一定の厚さD1の負極合材ペースト22aの層は、薄くなり、厚さD2の負極合材層22となる。
【0052】
<プレス工程(S7)>
図5(c)は、プレス工程(S7)を示す模式図である。
図5(b)に示すように乾燥工程(S6)で乾燥され硬化した負極合材ペースト22aの層は、厚さD2の負極合材層22となる。この厚さD2の負極合材層22は、プレス工程(S7)において、プレスされる。プレス機6は、負極板2を挟むように、一対のプレスローラ61a、61bを備える。一対のプレスローラ61aと61bは、ギャップGの間隙を有している。そのため、この厚さD2の負極合材層22は、一対のプレスローラ61a、61bのギャップGを通過することで、プレスされて厚さD3の負極合材層22となる。
【0053】
図5(d)は、完成した負極板を示す模式図である。図5(d)に示す完成した負極合材層22は、厚さがD3となるように、プレス工程(S7)において、その表面が平坦に整形され、寸法精度が担保される。
【0054】
また、図6に示すように、プレス工程(S7)の手順の後は、プレス工程(S7)前の比表面積Sと比較して、比表面積Sは、増大する。これは、プレス工程(S7)でプレスされることで、負極活物質粒子22bが破壊されたり、活物質粒子22bの表面の一部を覆う副材が剥がれたりして、新たな反応面が露出するため、比表面積Sは、増大するものと考えられている。
【0055】
<切断工程(S8)>
プレス工程(S7)が完了すれば、負極板2の負極合材層22が完成するので、規定された長さと、規定された幅となるように周縁部がカッターで切断され、規定された長さと、規定された幅の負極板2が完成する。
【0056】
<リチウムイオン二次電池の組立>
以上のような手順で負極板2が完成したら、図2に示すように正極板3とセパレータ4と積層し、捲回し、プレスされて電極体12を製造する。電極体12は、電池ケース11の蓋体とともに、正極外部端子14、負極外部端子15が装着され、図1に示すように電池ケース11本体に収容される。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は図1に示すような形状には限られない。その後蓋体が電池ケース11本体とレーザ溶接で密封される。内部が乾燥されたのち、蓋体の注液口から電解液13が充填される。その後外観検査、初充電、エージング、OCV検査、内部抵抗検査、自己放電検査、電池容量測定などのコンディショニング工程、検査工程を経てセル電池が完成する。セル電池はスタックされて組電池とされ、さらに複数の組電池が電池パックに収容され、付属部品が装着されて、車載用の電池パックとなる。
【0057】
<混練条件の決定(S2)の詳細な手順>
図4は、混練条件の決定(S2)の詳細な手順を示すフローチャートである。以下、図4を参照して混練条件の決定(S2)の手順の詳細について、説明する。
【0058】
<前提混練条件入力のステップ(S21)>
まず、製造対象となるリチウムイオン二次電池1の設計値と、混練工程(S4)における条件が入力される。この条件は、負荷Lに影響を及ぼす固形分率NV以外の、原料となる負極活物質粒子22bの粒径が挙げられる。また、混練機の種類も、撹拌槽と回転ブレードを備えたものや、スクリューやロッドによる2軸式混練機のようなものがある。混練機の回転部材(スクリュー・ロッド・パッド・ブレード)の形状、間隙(クリアランス)も混練条件となる。さらに、混練機の回転速度も単位時間当たりの負荷Lに影響があるため条件として決定される。
【0059】
<設計比表面積決定のステップ(S22)>
次に、設計比表面積決定のステップ(S22)では、完成後のリチウムイオン二次電池1における負極活物質粒子22aの設計中央値である「設計比表面積S[m/g]」を決定する。
【0060】
<比表面積変化量測定のステップ(S23)>
比表面積変化量測定のステップ(S23)では、と塗工工程(S5)前からプレス工程(S7)完了後における比表面積変化量Sを測定する。
【0061】
<粉体比表面積測定のステップ(S24)>
粉体比表面積測定のステップ(S24)では、原料となる負極活物質粒子22bの混練工程(S4)前の粉体比表面積Sを測定する。
【0062】
<目標変化量Xの算出のステップ(S25)>
混練工程(S4)での比表面積Sの目標変化量をX[m/g]とすると、粉体比表面積S+目標変化量X+塗工工程(S5)前からプレス工程(S7)完了後における比表面積変化量S=設計比表面積S[m/g]という関係がある。そこで、この関係から目標変化量Xを算出する。
【0063】
混練工程(S4)での比表面積Sの変化量Xは、以下の(式1)から、目標とする前記混練工程で比表面積の目標変化量Xを求めることができる。
X=S-S-S…(式1)
<比表面積の変化量設定(S26)>
比表面積変化量V設定(S26)のステップでは、この目標変化量Xに基づいて混練工程(S4)での比表面積の変化量Vを設定する。(式1)において、設計比表面積S[m/g]と、比表面積変化量Sは、既知の固定値である。変数である目標変化量Xは、粉体比表面積Sが変化しても、設計比表面積S[m/g]が一致するように調整する数値である。
【0064】
しかしながら、実際の製造工程では負荷Lの調整による比表面積Sの調整は限界がある。その場合は、調整可能な範囲で、目標変化量Xに近づくように調整する。
図11は、混練工程(S4)における固形分率NVの変化量と比表面積Sの変化量ΔSとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は、固形分率NV[%]の変化量である。縦軸は、比表面積Sの変化量ΔSである。ΔSは、設計値における比表面積Sの変化量ΔSである。ここでは、固形分率NVの中央値はNV=58.6%であり、上限がNVmax=60.3%であり、下限がNVmin=56.9%であることを示す。そうすると、比表面積Sの変化量は、およそ中央値から±0.2[m/g]の範囲で調整できることがわかる。
【0065】
ここで、図7に示すように、設計上予定された原料となる負極活物質粒子22bの粉体比表面積S[m/g]に対して、実際の製造に用いられる負極活物質粒子22bが粉体比表面積S´[m/g]であるとする。そうすると、図6に示す従来の方法では、設計値である比表面積S[m/g]と、実際の原料の粉体比表面積S´[m/g]の差は、製品になっても改善せず、ばらつきがそのまま残ってしまう。
【0066】
そこで、混練工程(S4)における比表面積Sの変化量ΔS[m/g]を小さくする必要がある。すなわち、負荷Lが小さくなるような設定が必要である。
<負荷Lと比表面積変化量ΔSとの関係読みだし(S27)>
次に、混練条件の決定のために、図10に示す混練工程(S4)における負荷Lと、比表面積Sの変化量ΔSとの関係を示すグラフを読み出す。
【0067】
<比表面積Sの変化量ΔSに対応する負荷Lの算出(S28)>
図10に示すグラフによれば、設計値の混練工程(S4)の比表面積の変化量ΔSから変化量ΔS′と小さくするには設計値の負荷Lから、負荷Lxと小さくする必要があることがわかる。
【0068】
<負荷Lを変更するための固形分率NVの決定(S29)>
なお、図11に示すような比表面積変化量ΔSと固形分率NVの関係がわかっていれば、この関係から、求められる比表面積Sの変化量ΔSから直接固形分率NVを求めるようにすることもできる。本実施形態の場合は、比表面積Sの変化量ΔS[m/g]=Xに近づけるためには、設計上の中心値である固形分率NV=58.6[%]を、NVx[%]とする必要がある。
【0069】
以上で、混練条件として、固形分率NV[%]=NVx[%]とすることが決定される。
<他の混練条件について>
本実施形態では、目標変化量[m/g]Xに近づけるためには、固形分率NVを、NVx[%]とした例を説明した。
【0070】
もし、粉体比表面積[m/g]S′が、設計上の粉体比表面積[m/g]Sより大きい場合は、目標変化量[m/g]Xに近づけるためには、負荷Lを大きくする必要がある。そのような場合は、固形分率NVを上限の60.3%を限度に、高くする。
【0071】
さらに、固形分率NVの調整だけでは設計比表面積S[m/g]から、補正比表面積[m/g]から大きく外れる場合は、他の要素により負荷Lを変化させる。例えば、原料となる負極活物質粒子22bの粒径が挙げられる。また、混練機の種類も、撹拌槽と回転ブレードを備えたものや、スクリューやロッドによる2軸式混練機のようなものがある。混練機の回転部材(スクリュー・ロッド・パッド・ブレード)の形状、間隙(クリアランス)も混練条件となる。さらに、混練機の回転速度も単位時間当たりの負荷Lに影響があるため決定される。これらの要素の変更も、予め負荷Lの変化とそれぞれの要素の関係を測定しておく。あるいは、予め比表面積Sの変化とそれぞれの要素の関係を測定しておく。
【0072】
これらの複合的な要素は、すべて混練機の単位時間当たりの電力消費量[Wh]として掌握できる。
<実施例>
以下、本実施形態の具体的な実施例について説明する。
【0073】
粉体比表面積S[m/g]が3.8[m/g]の負極活物質粒子22bを用いて、設計値の条件に従って作製した際の設計比表面積S[m/g]が、3.7[m/g]となる工程を考える。粉体比表面積S[m/g]のばらつきが3.8±0.4[m/g]であるとする。
【0074】
<従来の製造方法>
図11に示すように、従来の製造方法では、混練工程(S4)における固形分率NVを58.6%で固定して、変更することはなかった。その結果混練工程(S4)における比表面積Sの変化量ΔSも一定であった。
【0075】
そうすると、完成した電池の設計比表面積S[m/g]は、前提の条件から3.7±0.4[m/g](上限4.1[m/g]、下限3.3[m/g])となり、粉体比表面積S[m/g]のばらつきは同じ±0.4[m/g]となる。
【0076】
<実施例の製造方法>
本実施例での製造方法は、混練工程(S4)における固形分率NVを調整するようにした。具体的には、負極活物質粒子22bの上限のサンプルの固形分率NVが56.9%、下限のサンプルの固形分率NVが60.3%であるとする。
【0077】
そうすると、図11に示すように混練工程(S4)において、比表面積の変化量V[m/g]は、概ね±0.2[m/g]の調整が可能となる。そうすると完成した電池の設計比表面積S[m/g]は、3.7±0.2[m/g](上限3.9[m/g]、下限3.5[m/g])となる。
【0078】
すなわち、上限の粉体比表面積S[m/g]が3.8+0.4[m/g]=4.2[m/g]の場合には、混練工程(S4)における比表面積の変化量V[m/g]を-0.2[m/g]とする。
【0079】
下限の粉体比表面積S[m/g]が3.8-0.4[m/g]=3.4[m/g]の場合には、混練工程(S4)における比表面積の変化量V[m/g]を+0.2[m/g]とする。
【0080】
そのため、完成した電池の設計比表面積S[m/g]は、3.7±0.2[m/g](上限3.9[m/g]、下限3.5[m/g])となる。つまり、粉体比表面積S[m/g]のばらつき±0.4[m/g]より小さい、±0.2[m/g]となる。
【0081】
(本実施形態の作用)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の負極板2の製造方法は、電極材料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sにばらつきがある場合でも、完成した電池の性能のばらつきを抑制する。混練工程(S4)における負極合材ペースト22aを作成するための電極材料の固形分率NVを変更することで混練機の負荷L[Wh]を変更することができる。混練機の負荷Lを変更すると、混練工程(S4)により製造する負極合材ペースト22aの比表面積Sの変化量ΔSを調整することができる。原料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sが設計値より大きい場合には、混練工程(S4)における比表面積Sの低下を大きくする。逆に、原料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sが設計値より小さい場合には、混練工程(S4)における比表面積Sの低下を小さくする。そのことで、電極材料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sにばらつきがある場合でも、完成した電池の比表面積Sのばらつきを抑制する。完成した電池の比表面積Sのばらつきを抑制することで、完成した電池の性能のばらつきを抑制する。
【0082】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の負極板2の製造方法では、電極材料となる負極活物質粒子22bの比表面積Sのばらつきがある場合でも、完成した電池の性能のばらつきを抑制することができる。
【0083】
(2)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の負極板2の製造方法では、完成した電池の性能は、比表面積Sのばらつきを抑制することでばらつきを抑制することができる。
(3)完成した電池の比表面積Sのばらつきは、混練工程(S4)における、比表面積Sの変化量Vを調整することで、ばらつきを抑制することができる。
【0084】
(4)混練工程(S4)における、比表面積Sの変化量Vは、混練機の単位時間当たりの負荷Lを調整することで、管理することができる。
(5)混練機の単位時間当たりの負荷Lは、例えば電極材料の固形分率NVを調整することで調整することができる。
【0085】
(6)また、混練機の単位時間当たりの負荷Lは、混練機の回転部材(スクリュー・ロッド・パッド・ブレード)の形状、間隙(クリアランス)を変更することで混練抵抗を変更して調整することもできる。
【0086】
(7)さらに、混練機の単位時間当たりの負荷Lは、混練機の回転速度を変更することで混練抵抗を変更して調整することもできる。
(8)負荷Lは、混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]として、管理することができる。そのため固形分率NVのみならず、他の負荷Lに影響与える要素も、すべて混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]として統合して管理することができる。
【0087】
(9)負荷Lを、混練機の単位時間当たりの消費電力[Wh]として、管理することで、比表面積Sの数値管理が可能となる。
(10)本実施形態では、完成後の電池における活物質の設計中央値である設計比表面積S[m/g]を決定する設計比表面積決定のステップ(S22)を備える。また、塗工工程前からプレス工程完了後における比表面積変化量Sを測定する比表面積変化量測定のステップと(S23)を備える。さらに、活物質の混練工程前の粉体比表面積Sを測定する粉体比表面積測定のステップ(S24)を備える。そして、混練工程での比表面積の目標変化量をXとしたとき、X=S1-S2-S3…(式1)から、目標とする混練工程で比表面積の目標変化量Xを求める。そのため、目標とする混練工程で比表面積の目標変化量Xを正確に求めることができる。
【0088】
(11)また、この目標変化量Xに基づいて前記混練工程での単位時間当たりの負荷Lを調整することで比表面積の変化量Vを調整する比表面積変化量V設定(S26)のステップを備えた。このため、比表面積変化量Vを適切に設定することができる。
【0089】
(12)本実施形態では、二次電池として、リチウムイオン二次電池1の負極板2において、好適に実施することができる。
(別例)
○本実施形態では、リチウムイオン二次電池1を例に本発明を説明したが、他の二次電池にも適用できる。
【0090】
○また、本実施形態では、負極板2を例に説明したが、正極板3においても適用できる。
○本実施形態では、車載用の薄板状のリチウムイオン二次電池1を例示したが、円柱形の電池などにも適用できる。また、車載用に限らず、船舶用、航空機用、さらに定置用の電池にも適用できる。
【0091】
図7図10図11や、本実施形態に示す数値や範囲は例示であり、本発明はこれらの数値や範囲に限定されるものではない。
図1図2図5図8図9は、本実施形態を模式的に図示したものがあるが、これらの図面により本発明を限定するものではない。
【0092】
図3図4に示すフローチャートは、例示であり当業者においてその手順を付加し削除し変更し、順序を変えて実施することができる。
○本発明は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で、当業者によりその構成を付加し削除し変更し、順序を変えて実施することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0093】
1…リチウムイオン二次電池(二次電池)
2…負極板(電極板)
3…正極板(電極板)
4…セパレータ
5…塗工機
6…プレス機
11…電池ケース
12…電極体
13…電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
21…負極集電体
22…負極合材層
22a…負極合材ペースト(電極合材ペースト)
22b…負極活物質粒子
22c…結着剤
22d…溶媒
22e…負極活物質粒子表面
23…負極接続部
51…ノズル
61…プレスローラ
S…比表面積[m/g]
…(完成した電池の)設計比表面積[m/g]
′、S″…(完成した電池の)補正比表面積[m/g]
…(塗工工程、プレス工程における)比表面積変化量[m/g]
…(原料となる負極活物質粒子の)粉体比表面積[m/g]
X…(混練工程における)目標変化量[m/g]
(式1)…X=S-S-S
L…混練工程での単位時間当たりの負荷L[Wh]
Ls…目標負荷[Wh]
V…(混練工程における)比表面積の変化量[m/g]
ΔS、ΔS′、ΔS″…混練工程での負荷Lの変化に対する比表面積の変化量[m/g]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11