(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083079
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】溶銅用酸素センサ、溶銅用酸素センサ装置、溶銅の酸素濃度検出方法、及び銅線の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/411 20060101AFI20230608BHJP
【FI】
G01N27/411
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197205
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】大島 智子
(72)【発明者】
【氏名】荒巻 敬三
(72)【発明者】
【氏名】高山 定和
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB01
2G004BC02
2G004BD05
2G004BE22
2G004BK03
2G004CA06
2G004ZA05
(57)【要約】
【課題】固体電解質の耐久性が高い溶銅用酸素センサ、溶銅用酸素センサ装置、溶銅の酸素濃度検出方法、及び銅線の製造方法を提供する。
【解決手段】酸素センサ10は、酸素イオン伝導性を有するジルコニア質の固体電解質によって形成された酸素セル2を備え、酸素セル2の内部に供給される気体の酸素濃度と酸素セル2の少なくとも一部が浸漬される溶銅の酸素濃度との酸素濃度差によって発生する電位差に応じた検出電圧を出力する。この固体電解質として、ジルコニア結晶が安定化剤によって部分的に安定化された部分安定化ジルコニアを用いる。酸素セルの熱膨張率の絶対値は、8.2×10
-6/K以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性を有するジルコニア質の固体電解質によって形成された酸素セルを備え、前記酸素セルの内部に供給される気体の酸素濃度と前記酸素セルの少なくとも一部が浸漬される溶銅の酸素濃度との酸素濃度差によって発生する電位差に応じた検出電圧を出力する溶銅用酸素センサであって、
前記固体電解質として、ジルコニア結晶が安定化剤によって部分的に安定化された部分安定化ジルコニアが用いられ、
前記酸素セルの熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下である、
溶銅用酸素センサ。
【請求項2】
前記部分安定化ジルコニアにおける前記安定化剤の含有量が2mol%以上9mol%以下である、
請求項1に記載の溶銅用酸素センサ。
【請求項3】
前記酸素セルにおける前記ジルコニア結晶の安定化率が10%以上50%以下である、
請求項1又は2に記載の溶銅用酸素センサ。
【請求項4】
一対の金属導体線を接続してなる熱電対が、当該一対の金属導体線の接続点が前記酸素セルの内面に接するように配置されており、
前記一対の金属導体線のうち何れかの金属導体線を、前記電位差を検出するための内部電極として用いる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の溶銅用酸素センサ。
【請求項5】
前記酸素セルの外部に配置されて当該酸素セルを支持する金属導体を備え、当該金属導体を前記内部電極との間で前記電位差を検出するための外部電極として用いる、
請求項4に記載の溶銅用酸素センサ。
【請求項6】
請求項5に記載の溶銅用酸素センサと、前記内部電極と前記外部電極との間の電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部の検出値に基づいて前記溶銅の酸素濃度を算出する演算部とを備える、
溶銅用酸素センサ装置。
【請求項7】
前記内部電極と前記外部電極とは材質が異なる異種金属であり、
前記演算部は、前記内部電極と前記外部電極との材質の違いにより発生する熱起電力を前記電圧検出部の検出値から差し引いた値から前記溶銅の酸素濃度を算出する、
請求項6に記載の溶銅用酸素センサ装置。
【請求項8】
前記内部電極と前記外部電極とが材質が異なる異種金属によって構成された請求項5に記載の溶銅用酸素センサを用い、
前記内部電極と前記外部電極との材質の違いにより発生する熱起電力を前記内部電極と前記外部電極との間の電圧から差し引いた値から前記溶銅の酸素濃度を算出する、
溶銅の酸素濃度検出方法。
【請求項9】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の溶銅用酸素センサを前記溶銅の流路に配置し、前記溶銅用酸素センサによって前記溶銅の酸素濃度を連続的に検出しながら鋳造を行う銅線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銅用酸素センサ、溶銅用酸素センサ装置、溶銅の酸素濃度検出方法、及び銅線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶解炉で溶解した高温の溶銅の酸素濃度を測定するために、酸素センサが用いられている。特許文献1には、本出願人が過去に出願した酸素濃度測定プローブが記載されている。
【0003】
この酸素濃度測定プローブは、円筒状の外部電極と、外部電極の内側に配置された固体電解質管と、固体電解質管の管内に配置された基準極及び内部電極とを備えている。外部電極と内部電極との間には電位差計が接続されており、電位差信号が制御部に送られる。固体電解質管の材質は、酸化マグネシウムにより結晶構造が安定化された安定化ジルコニア(ZrO2+MgO)であり、内外面間で酸素イオン(O2-)を選択的に通過させる固体電解質の性質を有する。基準極は、例えばFe/FeO粉等の金属/金属酸化物が使用された固体酸素基準極、あるいは空気等の気体が使用された空気基準極である。内部電極は、ステンレス鋼や白金等からなる金属導体線である。固体電解質管の下端部は、外部導体から下方に突出した浸漬部となっている。この浸漬部及び円筒状の外部電極の一部が溶銅に浸漬されると、酸素分圧差によって固体電解質管の内面から外面に向かって酸素イオンが移動し、内部電極と外部電極との間に電位差が発生する。制御部は、電位差計が出力する電位差信号を入力して溶銅中の酸素濃度を監視する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように安定化ジルコニアを用いた酸素センサでは、浸漬部を溶銅に浸漬する際の熱衝撃により、例えば1~2回の浸漬で固体電解質管に微小クラック(ひび割れ)が発生してしまう場合があった。このような微小クラックが発生すると、割れた部分に溶銅が入り込み、特に溶銅の酸素濃度が極めて低い場合に、溶銅中の酸素濃度の検出が正確にできなくなってしまうことが本発明者らによって確認された。そこで、本発明者は、微小クラックが発生するまでの平均浸漬回数が多い酸素センサを実現すべく鋭意研究し、本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明の目的は、酸素イオンを選択的に通過させる固体電解質の耐久性が高い溶銅用酸素センサ、溶銅用酸素センサ装置、溶銅の酸素濃度検出方法、及び銅線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、酸素イオン伝導性を有するジルコニア質の固体電解質によって形成された酸素セルを備え、前記酸素セルの内部に供給される気体の酸素濃度と前記酸素セルの少なくとも一部が浸漬される溶銅の酸素濃度との酸素濃度差によって発生する電位差に応じた検出電圧を出力する溶銅用酸素センサであって、前記固体電解質として、ジルコニア結晶が安定化剤によって部分的に安定化された部分安定化ジルコニアが用いられ、前記酸素セルの熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下である、溶銅用酸素センサを提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、上記の溶銅用酸素センサと、前記内部電極と前記外部電極との間の電圧を検出する電圧検出部と、前記電圧検出部の検出値に基づいて前記溶銅の酸素濃度を算出する演算部とを備える、溶銅用酸素センサ装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、前記内部電極と前記外部電極とが材質が異なる異種金属によって構成された請求項6に記載の溶銅用酸素センサを用い、前記内部電極と前記外部電極との材質の違いにより発生する熱起電力を前記内部電極と前記外部電極との間の電圧から差し引いた値から前記溶銅の酸素濃度を算出する、溶銅の酸素濃度検出方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、溶銅用酸素センサを前記溶銅の流路に配置し、前記溶銅用酸素センサによって前記溶銅の酸素濃度を連続的に検出しながら鋳造を行う銅線の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る溶銅用酸素センサ、溶銅用酸素センサ装置、溶銅の酸素濃度検出方法、及び銅線の製造方法によれば、酸素イオンを選択的に通過させる固体電解質の耐久性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(a)は、本発明の実施の形態に係る酸素センサを備えた酸素センサ装置の構成を示す断面図である。(b)は、(a)の部分拡大図である。
【
図3】(a)及び(b)は、酸素センサの下端部を示す斜視図である。
【
図4】比較例として示す、従来から用いられている安定化ジルコニアを酸素セルの材質として用いた酸素センサの一部を示す斜視図である。
【
図5】銅原料から銅線を製造する製造装置の概略の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る酸素センサを備えた酸素センサ装置1の構成を示す断面図である。
図1(b)は、
図1(a)の部分拡大図である。
図2は、
図1のA-A線における断面図である。
図3(a)及び(b)は、酸素センサの下端部を示す斜視図である。なお、本実施の形態の説明中、「上」、「下」とは、酸素センサの使用状態における鉛直方向の上下をいうものとする。また、
図1(a)中、符号Mは溶銅を示し、符号M
1は溶銅の表面を示している。
【0014】
(酸素センサ及び酸素センサ装置の構成)
酸素センサ装置1は、酸素センサ10と、酸素気体供給部11と、電圧検出部12と、演算部13とを備えている。酸素センサ10は、有底円筒状の酸素セル2と、アルミナ等の電気絶縁性の材料で形成された管状の絶縁管3と、絶縁管3に収容された一対の金属導体線である第1の金属導体線41及び第2の金属導体線42を接続してなる熱電対4と、円筒状の外部電極5と、酸素セル2と外部電極5との間に配置された封止材6と、外部電極5を支持すると共に絶縁管3を酸素セル2の下端部に向かって付勢する支持機構7とを備えている。
【0015】
酸素セル2は、酸素イオン伝導性を有するジルコニア質の固体電解質によって形成されている。この固体電解質は、具体的にはジルコニア(ZrO2)を安定化剤によって部分的に安定化された部分安定化ジルコニアである。この安定化剤としては、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、及び酸化イットリウム(Y2O3)などの希土類酸化物を用いることができる。
【0016】
酸素セル2は、円筒部21と底部22とを一体に有しており、底部22が円筒部21の鉛直方向の下端部を閉塞している。また、底部22を含む酸素セル2の一部分は、封止材6から下方に突出して溶銅Mに浸漬される浸漬部20となっている。封止材6は、例えば耐火セメント等の耐火物からなり、酸素セル2と外部電極5との間から外部電極5の内部に溶銅Mが浸入することを抑止している。溶銅Mの温度は、例えば1083℃以上1200℃以下である。
【0017】
絶縁管3には、
図2に示すように、第1乃至第4の貫通孔31~34が形成されている。第1乃至第4の貫通孔31~34は、絶縁管3を長手方向に貫通している。絶縁管3は、長手方向の一部分が酸素セル2の内部に配置され、他の部分が酸素セル2から上方に突出している。絶縁管3の外径は酸素セル2の内径よりも小さく、絶縁管3の外周面3aと酸素セル2の円筒部21における内周面21aとの間には、空気(後述する酸素気体)が流通可能な隙間が形成されている。
【0018】
第1の貫通孔31には第1の金属導体線41が挿通され、第2の貫通孔32には第2の金属導体線42が挿通されている。第1の金属導体線41と第2の金属導体線42とは、絶縁管3の下端部から下方に突出した部分が互いに接続されている。本実施の形態では、絶縁管3の下方で第1の金属導体線41及び第2の金属導体線42の端部同士が溶接されており、この溶接された部分が球状の溶接部43となっている。溶接部43は、酸素セル2の底部22における内面22aに接している。
【0019】
一例として、正極である第1の金属導体線41は、13%のロジウムを含有する白金ロジウム合金(PtRh)からなり、負極である第2の金属導体線42は、白金(Pt)からなる。なお、このような白金ロジウム合金と白金とを組み合わせた熱電対は、一般にR熱電対と称され、例えば1000℃を越えるような高温域での温度を測定するために用いられている。
【0020】
絶縁管3の第3の貫通孔33及び第4の貫通孔34には、酸素気体供給部11から酸素を所定割合で含む酸素気体が供給される。この酸素気体は、一例として酸素含有割合が100%の純酸素であるが、酸素の含有割合が既知の物であれば、酸素含有割合が約21%の大気であってもよい。第3の貫通孔33及び第4の貫通孔34には、絶縁管3の上端部から酸素気体が供給され、供給された酸素気体が絶縁管3の下端部に抜ける。絶縁管3の下端部に抜けた酸素気体は、絶縁管3と酸素セル2との間の隙間を経て酸素セル2の上方に排出される。酸素気体供給部11からの酸素気体の供給量は、酸素セル2の内部の酸素濃度が一定に保たれる程度の量である。
【0021】
外部電極5は、上端部及び下端部が開口した円筒状であり、酸素セル2の外側に配置されている。外部電極5の下端部における内周面5aと酸素セル2の円筒部21の外周面21bとの間は、封止材6によって封止されている。外部電極5は、封止材6を介して酸素セル2を支持している。本実施の形態では、外部電極5がステンレス鋼からなる。このステンレス鋼として、より具体的には、耐熱性に優れたSUS310S(JIS G 4303)を好適に用いることができる。絶縁管3は、その一部が外部電極5の上端部から上方に突出している。
【0022】
支持機構7は、外部電極5の上端部を保持する保持部材71と、保持部材71に固定されて外部電極5の上端開口部の一部を覆う蓋部材72と、絶縁管3の外周面3aに固定された環状のばね受け部材73と、ばね受け部材73と蓋部材72との間に配置されたコイルばね74とを有して構成されている。保持部材71は、外部電極5の上端部が内嵌された嵌合筒部711と、複数のボルト70によって蓋部材72が固定された板部712とを一体に有している。蓋部材72には、絶縁管3が挿通される挿通孔721が形成されており、絶縁管3の上端部が挿通孔721から上方に突出している。コイルばね74は、その復元力によって絶縁管3を下方に押し付けている。これにより、熱電対4の溶接部43が酸素セル2の底部22の内面22aに押し付けられて接触している。
【0023】
以上のように構成された酸素センサ10は、酸素セル2の内部に供給される酸素気体の酸素濃度と、酸素セル2の少なくとも一部が浸漬される溶銅の酸素濃度との酸素濃度差によって発生する電位差に応じた検出電圧を出力する。この電位差は、酸素セル2の内部と外部との酸素分圧差によって酸素セル2の内面2a(円筒部21の内周面21a及び底部22の内面22a)から浸漬部20における酸素セル2の外面2b(円筒部21の外周面21b及び底部22の外面22b)に向かって酸素イオンが移動することにより発生するものである。
【0024】
すなわち、酸素濃度が比較的高い内面2a側では、酸素分子が電子を取り込んで酸素イオンになり(O2+4e-→2O2-)、酸素濃度が比較的低い外面2b側では、酸素イオンが電子を放出して酸素分子に戻る(2O2-→O2+4e-)。これにより、酸素分圧差に応じた起電力が発生する。この酸素分圧差による起電力は、酸素セル2の温度(絶対温度)を係数とした下記の関係式(ネルンストの式)によって表される。
【0025】
E=(R・T/(n・F))×ln(PO2(A)/PO2(B))
この式において、
Eは酸素分圧差により発生する起電力[V]
Rは気体定数(8.3144598[J・mol-1・K-1])
Tは絶対温度[K]
nは反応に含まれる電子数(上記反応ではn=4)
Fはファラデー定数(96485.3329[C・mol-1])
PO2(A)は高濃度側(酸素セル2の内部)の酸素分圧[atm]
PO2(B)は低濃度側(酸素セル2の外部)の酸素分圧[atm]
である。そして、E及びTが分かれば(PO2(A)は既知)、上記の式からPO2(B)を求めることができ、さらにPO2(B)から溶銅Mの酸素濃度を求めることができる。
【0026】
(溶銅の酸素濃度検出方法)
次に、酸素センサ装置1における溶銅Mの酸素濃度検出方法について説明する。
【0027】
図1(a)に示すように、電圧検出部12には、熱電対4の第1の金属導体線41と第2の金属導体線42の電位、及び外部電極5の電位が入力される。電圧検出部12は、第1の金属導体線41と第2の金属導体線42との間の電圧(電位差)を検出すると共に、第2の金属導体線42を内部電極40とし、この内部電極40と外部電極5との間の電圧(電位差)を検出する。すなわち、本実施の形態では、第1の金属導体線41及び第2の金属導体線42のうち、第2の金属導体線42を、酸素セル2の内部と外部との酸素濃度差に応じた電圧を検出するための内部電極40として用いる。ただし、これに限らず、第1の金属導体線41を内部電極として用いてもよい。
【0028】
外部電極5は、その下端部を含む長手方向の一部分が酸素セル2の浸漬部20と共に溶銅Mに浸漬される。これにより、外部電極5と浸漬部20における酸素セル2の外面2bとは、溶銅Mを介して電気的に接続される。本実施の形態では、前述のように外部電極5がステンレス鋼からなるので、内部電極40(白金からなる第2の金属導体線42)と外部電極5とは、材質が異なる異種金属である。
【0029】
以下、第1の金属導体線41と第2の金属導体線42との間の電圧を温度感応電圧といい、内部電極40と外部電極5との間の電圧を酸素濃度感応電圧という。電圧検出部12は、ADコンバータを有しており、温度感応電圧及び酸素濃度感応電圧の検出値をデジタル値に変換したデジタル信号を演算部13に出力する。演算部13は、電圧検出部12が出力する検出値に基づいて、溶銅Mの酸素濃度を算出する。
【0030】
溶銅Mの酸素濃度を算出するにあたり、演算部13はまず、温度感応電圧に基づいて、酸素セル2の温度(上記関係式のT)を求める。この酸素セル2の温度は、溶銅Mの温度に相当する。次に、演算部13は、求めた温度に基づいて、内部電極40と外部電極5との材質の違いにより発生する熱起電力を求め、求めた熱起電力を酸素濃度感応電圧から差し引いて、酸素セル2の内部と外部との酸素分圧差による起電力(上記関係式のE)を求める。そして、求めたE及びTを上記の関係式に適用し、溶銅Mの酸素濃度を求める。
【0031】
(酸素セルの材質)
次に、酸素セル2の材質の詳細について説明する。よく知られているように、安定化剤無添加の純粋なジルコニアは、室温では単斜晶系であるが、温度を上げていくと、単斜晶から正方晶、さらに正方晶から立方晶へと結晶構造が変化する。この相転移には体積変化を伴い、単斜晶から正方晶への相転移では体積収縮し、正方晶から立方晶への相転移では体積膨張する。この体積変化により、特に温度が急激に変化した際に、微小クラック(ひび割れ)が発生しやすくなる。一方、ジルコニアに安定化剤を添加すると、室温でも立方晶が安定して存在するようになり、安定化剤無添加のジルコニアに比較して、強度や靭性などの機械的特性が向上することが知られている。
【0032】
部分安定化ジルコニアは、室温においてジルコニア結晶の全てが立方晶とならず、単結晶や正方晶が分散したものである。部分安定化ジルコニアは、安定化率を100%とした安定化ジルコニアに比較して、微小クラックが発生し難いことが本発明者らによって確認されている。この理由としては、亀裂ができた際にその周辺の正方晶の結晶が応力誘起変態によって単斜晶に変わり、体積膨張するために、亀裂の伝搬を抑制する力が発生し、亀裂の進展を抑えるためであると考えられる。
【0033】
図4は、比較例として、従来から用いられている安定化ジルコニアを酸素セル2Aの材質として用いた酸素センサ10Aの一部を示す斜視図である。
図4では、酸素セル2Aの浸漬部20Aの一部を水平面で切断して除去し、酸素セル2Aの内部を示している。この酸素センサ10Aは、酸素セル2Aの材質が異なる他は、上記の酸素センサ10と同様に構成されている。
【0034】
図4に示すように、酸素セル2Aを十分に予熱することなく溶銅に浸漬すると、急激な体積変化によって微小クラックCが発生し、この微小クラックCに溶銅Mが入り込むことがある。微小クラックCに入り込んだ溶銅Mは、酸素セル2Aの内外を短絡する電流経路となり、内部電極40(第2の金属導体線42)と外部電極5との間に発生する電圧が、酸素セル2Aの内外の酸素濃度差に応じた値から外れてしまう。このため、特に20ppm以下の低酸素濃度域では、酸素濃度を精度よく測定できないおそれがある。
【0035】
本発明者らは、安定化剤の添加量を加減してジルコニア結晶の安定化率を調節することで、部分安定化ジルコニアの熱膨張率を所定値以下とし、溶銅Mに浸漬した際に酸素セル2の浸漬部20に微小クラックが発生してしまうことを抑制することができるとの知見を得た。そして、安定化剤の添加量が異なる多数の試作品を溶銅Mに浸漬する実験を繰り返し、溶銅用の酸素センサ10の酸素セル2の材質として、次の(1)~(3)の条件を満たす部分安定化ジルコニアを用いれば、微小クラックの発生を従来のものと比較して大幅に抑制できることを見出した。
(1)ジルコニア結晶の安定化率が10%以上50%以下であること
(2)熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下であること
(3)安定化剤の含有量が2mol%以上9mol%以下であること
【0036】
ここで、「ジルコニア結晶の安定化率が10%以上50%以下である」とは、換言すれば、室温において立方晶であるジルコニア結晶の割合が10~50%であることをいう。また、「熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下であること」とは、熱膨張率の絶対値が酸素センサ10の使用温度域(室温~溶銅の温度)の全体にわたって8.2×10-6/K以下であることをいう。特に、熱膨張率の絶対値は、20℃以上1000℃以下の温度における平均熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下であることが望ましい。
【0037】
また、安定化剤として酸化マグネシウム(MgO)又は酸化カルシウム(CaO)を用いる場合、部分安定化ジルコニアにおける安定化剤の含有量の下限値は、7~8mol%であることが望ましい。部分安定化ジルコニアの安定化率(安定化剤の濃度)が低すぎると、部分安定化ジルコニアの熱に対する機械的強度が劣化してしまうため、溶銅Mに含まれる酸素濃度を連続的に測定する用途には適さないためである。
【0038】
(銅線の製造装置及び製造方法)
次に、
図5を参照して、銅線の製造装置及び製造方法について説明する。
図5は、銅原料から銅線を製造する製造装置8の概略の構成を示す構成図である。この製造装置8は、銅合金材である銅線(銅荒引線)を連続鋳造圧延する連続鋳造圧延装置である。
【0039】
製造装置8は、銅原料を加熱して溶融させる溶解炉80と、溶解炉80から流れ出る溶銅を移送する上樋81と、上樋81により移送された溶銅を所定の温度で一時的に貯留する保持炉82と、溶銅に金属元素を添加する金属元素添加装置83と、金属元素添加装置83で金属元素が添加された溶銅を移送する下樋84と、下樋84により移送された溶銅を一時的に貯留するタンディッシュ85と、タンディッシュ85から溶銅を流出させる注湯ノズル86と、連続鋳造機87と、連続鋳造機87から移送される鋳造バー91を連続的に圧延する熱間圧延装置88と、熱間圧延装置88から表面清浄化処理装置を経て移送される銅線92を巻き取る巻取機(コイラー)89とを有している。
【0040】
金属元素添加装置83で溶銅に添加される金属元素は、例えばチタン(Ti)やインジウム(In)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)等である。なお、溶銅に金属元素を添加しない場合もあり、この場合には金属元素添加装置83が不要である。
【0041】
連続鋳造機87は、ベルトホイール式の連続鋳造を行う装置であり、外周に溝が形成された鋳造リング(鋳造輪)871と、ベルト(鋳造ベルト)872と、鋳造リング871を保持する円柱状の保持部873とを有している。鋳造リング871は、不図示のモータによって回転駆動される。ベルト872は、複数のプーリ874によってガイドされ、鋳造リング871の外周面の一部に接触しながら循環回転する。
【0042】
鋳造リング871の溝とベルト872との間には、タンディッシュ85から注湯ノズル86を経て流れ落ちる溶銅が供給される。鋳造リング871及びベルト872は、回転しながら冷却水によって冷却される。連続鋳造機87に供給された溶銅は、鋳造リング871とベルト872との間で冷却及び固化されて、棒状の鋳造バー(鋳造材)91となる。
【0043】
酸素センサ10は、溶解炉80から連続鋳造機87に至る溶銅の流路に配置される。そして、酸素センサ10によって溶銅の酸素濃度を連続的に検出しながら鋳造を行う。ここで、「連続的に検出」とは、鋳造材(ここでは鋳造バー91)の製造の開始から終了までの間、浸漬部20を溶銅に浸漬したまま、中断することなく常に酸素濃度を検出することをいう。
【0044】
酸素センサ10の配置位置は、上樋81でもよく、保持炉82でもよく、下樋84でもよいが、連続鋳造機87に供給される直前の、タンディッシュ85内に配置することがより望ましく、特にタンディッシュ85内における注湯ノズル86の直上に配置することがさらに望ましい。このように酸素センサ10を配置すれば、例えば上樋81や下樋84におけるシールが何らかの原因で不十分となり、流路中において酸素濃度が変化してしまった場合にも、これを検知することができるためである。また、複数の酸素センサを上記した位置の複数個所に配置することも有効である。こうすることで、操業中に例えば注湯ノズル86の直上の酸素センサが示す酸素濃度に変化があった場合、より上流のどの部位が原因で変化したのか知ることができる。
【0045】
酸素センサ10によって検出される溶銅の酸素濃度は、例えば鋳造材における残存酸素量が10ppm以下の無酸素銅や20ppm以下の低酸素銅、及び純度が99.9%程度のタフピッチ銅の作り分けのなどの品質管理のために用いられる。また、酸素センサ10によって検出される溶銅の酸素濃度を、金属元素添加装置83で添加されるチタンやマグネシウム等の活性金属の添加量を管理するために用いることも可能である。チタンやマグネシウムは酸素と結びつきやすく、これらの添加量によって溶銅中の酸素濃度が変化するので、溶銅中の酸素濃度から活性金属の添加量を推定することが可能である。
【0046】
なお、熱電対4によって検出される温度は、上記の関係式を用いた酸素濃度の演算に用いられる他、例えば酸素セル2を予熱する場合に、この予熱が適切に行われているかを確認するために用いることができる。酸素セル2を予熱すれば、より確実に微小クラックの発生を抑制することができる。予熱の具体的な方法は、特に限定されるものではないが、例えばガスバーナーによって予熱してもよく、溶銅への浸漬前に溶銅の表面に酸素セル2の浸漬部20を接近させることによっても行うことができる。
【0047】
(実験結果)
表1は、安定化剤として酸化マグネシウム(MgO)を用い、安定化剤濃度が9mol%、安定化率が30%、熱膨張率の絶対値が6.2×10-6Kである固体電解質によって形成された酸素セル[実施例1]、安定化剤として酸化イットリウム(Y2O3)を用い、安定化剤濃度が8mol%、安定化率が100%、熱膨張率の絶対値が10.1×10-6Kである固体電解質によって形成された酸素セル[比較例1]、及び安定化剤として酸化カルシウム(CaO)を用い、安定化剤濃度が15mol%、安定化率が100%、熱膨張率の絶対値が10.2×10-6Kである固体電解質によって形成された酸素セル[比較例2]を用い、繰り返し浸漬測定可能回数の平均値を計測した結果を示す表である。
【0048】
【表1】
この表1に示す繰り返し浸漬測定可能回数の平均値の計測方向は、次のステップ1~5の通りである。
【0049】
(ステップ1)実施例1、比較例1、及び比較例2に示す酸素セルを用いた3種類の溶銅用酸素センサを、試験サンプルとしてそれぞれ3本ずつ準備する。
(ステップ2)
3種類の溶銅用酸素センサのそれぞれの1本目の試験サンプルに対して「予熱⇒約1200℃に保持した純銅からなる溶銅中に浸漬(1時間)⇒溶銅から引き上げて徐冷」を1サイクル(1回、約1.5時間)行う。
(ステップ3)
1サイクル内の浸漬時に酸素濃度が測定できているか否か、及び1サイクルにおける徐冷が終わった時点で試験サンプルに割れが発生しているか否かを判定する。
(ステップ4)
ステップ3の判定結果において、溶銅への浸漬中に酸素濃度の測定ができており、かつ試験サンプルに割れも発生していない場合は、当該試験サンプルに対してステップ2と同じサイクルを再度行い、その後ステップ3の判定を行う。一方、溶銅への浸漬中に酸素濃度の測定ができていない場合、もしくは試験サンプルに割れが発生している場合は、同種類の次の試験サンプルに交換し、交換した試験サンプルに対してステップ2と同じサイクルを行い、その後ステップ3の判定を行う。
(ステップ5)
3種類の試験サンプルのそれぞれについて、3本目の試験サンプルにおいてステップ3の判定で異常が発見された場合には、当該種類の試験サンプルに対する試験を終了する。そして、3本の試験サンプルでステップ3の判定結果が合格であったサイクル数の平均値を算出する。
【0050】
上記ステップ1~5の測定において、実施例1に係る酸素セルを用いた溶銅用酸素センサでは、ステップ5で求めた平均値が、比較例1,2に係る酸素セルを用いた溶銅用酸素センサについてステップ5で求めた平均値よりも大きかった。また、実施例1に係る酸素セルを用いた溶銅用酸素センサでは、3本ともに、ステップ3の判定結果が合格であったサイクル数が、比較例1~2に係る酸素セルを用いた溶銅用酸素センサにおいてステップ3の判定結果が合格であったサイクル数よりも多かった。すなわち、実施例1に係る酸素セルを用いた溶銅用酸素センサでは、安定して高い耐久性が発揮された。
【0051】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、酸素セル2に微小クラックが発生することを抑制し、酸素センサ10の耐久性を高めることができる。また、熱電対4を構成する第2の金属導体線42を内部電極40としても用いることにより、酸素センサ10の部品点数を抑制し、コストを低減することが可能となる。
【0052】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0053】
[1]酸素イオン伝導性を有するジルコニア質の固体電解質によって形成された酸素セル(2)を備え、前記酸素セル(2)の内部に供給される気体の酸素濃度と前記酸素セル(2)の少なくとも一部が浸漬される溶銅(M)の酸素濃度との酸素濃度差によって発生する電位差に応じた検出電圧を出力する溶銅用酸素センサ(10)であって、前記固体電解質として、ジルコニア結晶が安定化剤によって部分的に安定化された部分安定化ジルコニアが用いられ、前記酸素セル(2)の熱膨張率の絶対値が8.2×10-6/K以下である、溶銅用酸素センサ(10)。
【0054】
[2]前記部分安定化ジルコニアにおける前記安定化剤の含有量が2mol%以上9mol%以下である、上記[1]に記載の溶銅用酸素センサ(10)。
【0055】
[3]前記酸素セル(2)における前記ジルコニア結晶の安定化率が10%以上50%以下である、上記[1]又は[2]に記載の溶銅用酸素センサ(10)。
【0056】
[4]一対の金属導体線(41,42)を接続してなる熱電対(4)が、当該一対の金属導体線(41,42)の接続点(43)が前記酸素セル(2)の内面に接するように配置されており、前記一対の金属導体線(41,42)のうち何れかの金属導体線(42)を、前記電位差を検出するための内部電極(40)として用いる、上記[1]乃至[3]の何れかに記載の溶銅用酸素センサ(10)。
【0057】
[5]前記酸素セル(2)の外部に配置されて当該酸素セル(2)を支持する金属導体を備え、当該金属導体を前記内部電極(40)との間で前記電位差を検出するための外部電極(5)として用いる、上記[4]に記載の溶銅用酸素センサ(10)。
【0058】
[6]上記[5]に記載の溶銅用酸素センサ(10)と、前記内部電極(40)と前記外部電極(5)との間の電圧を検出する電圧検出部(12)と、前記電圧検出部(12)の検出値に基づいて前記溶銅(M)の酸素濃度を算出する演算部(13)とを備える、溶銅用酸素センサ装置(1)
【0059】
[7]前記内部電極(40)と前記外部電極(5)とは材質が異なる異種金属であり、前記演算部(13)は、前記内部電極(40)と前記外部電極(5)との材質の違いにより発生する熱起電力を前記電圧検出部(12)の検出値から差し引いた値から前記溶銅(M)の酸素濃度を算出する、上記[6]に記載の溶銅用酸素センサ装置(1)。
【0060】
[8]前記内部電極(40)と前記外部電極(5)とが材質が異なる異種金属によって構成された上記[5]に記載の溶銅用酸素センサ(10)を用い、前記内部電極(40)と前記外部電極(5)との材質の違いにより発生する熱起電力を前記内部電極(40)と前記外部電極(5)との間の電圧から差し引いた値から前記溶銅(M)の酸素濃度を算出する、溶銅(M)の酸素濃度検出方法。
【0061】
[9]上記[1]乃至[5]の何れかに記載の溶銅用酸素センサ(10)を前記溶銅(M)の流路に配置し、前記溶銅用酸素センサ(10)によって前記溶銅(M)の酸素濃度を連続的に検出しながら鋳造を行う銅線(91)の製造方法。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0063】
1…酸素センサ装置 10,10A…酸素センサ
2,2A…酸素セル 20,20A…浸漬部
3…絶縁管 4…熱電対
40…内部電極 41…第1の金属導体線
42…第2の金属導体線 43…溶接部
5…外部電極 6…封止材
7…支持機構 8…製造装置