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特開2023-83094内装品用の表皮及びその製造方法並びに装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083094
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】内装品用の表皮及びその製造方法並びに装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20230608BHJP
   B60R 21/2165 20110101ALI20230608BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B60N2/58
B60R21/2165
B68G7/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197242
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000219749
【氏名又は名称】株式会社TISM
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(72)【発明者】
【氏名】徳田 哲男
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087DE10
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA13
3D054AA14
3D054AA21
3D054BB23
(57)【要約】
【課題】エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断する部位の構造を改善した表皮を提供する。
【解決手段】車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮(1)であり、エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ライン(T)に沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔(4;5,6)を配列し、該貫通孔の配列の上に重ねて少なくとも該所与の破断ライン(T)に沿って飾り部品(飾り縫い)(2)を設けてなる。製造方法は、エアバッグを被覆するための所与の表皮(1)に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ライン(T)に沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔(4;5,6)を形成する第1手順と、該所与の表皮(1)に対して該複数の貫通孔(4;5,6)の配列の上に重ねて少なくとも該所与の破断ライン(T)に沿って飾り部品(2)を設ける第2手順とからなる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮であって、
前記エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を配列し、該貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設けてなることを特徴とする内装品用の表皮。
【請求項2】
前記飾り部品は、飾り縫いからなる請求項1の内装品用の表皮。
【請求項3】
前記飾り縫いは、前記複数の貫通孔の2以上を介して飾り糸を縫い付けることにより形成されたものである請求項2の内装品用の表皮。
【請求項4】
前記複数の貫通孔は飾り縫い用の第1の孔と飾り縫いされない第2の孔とを含み、複数の前記第1の孔を介して前記破断ラインに沿って飾り糸を縫い付けてあり、前記第2の孔は、隣接する2つの前記第1の孔の間に設けられ、該2つの第1の孔の間に縫い付けられた前記飾り糸の下に位置することを特徴とする、請求項2又は3の内装品用の表皮。
【請求項5】
隣接する2つの前記第1の孔の間に、0又は1以上の前記第2の孔が設けられる請求項4の内装品用の表皮。
【請求項6】
前記第2の孔のサイズは、前記第1の孔のサイズよりも小さい請求項4又は5の内装品用の表皮。
【請求項7】
前記飾り部品は、紐状素材からなる請求項1の内装品用の表皮。
【請求項8】
前記紐状素材からなる前記飾り部品は、接着によって該表皮に取り付けられている請求項7の内装品用の表皮。
【請求項9】
前記紐状素材からなる前記飾り部品は、前記複数の貫通孔の一部を介して該紐状素材を該表皮に止め付けられている請求項7又は8の内装品用の表皮。
【請求項10】
前記複数の貫通孔の各サイズ及び/又は前記複数の貫通孔の配置間隔は、前記表皮の素材に応じて、前記圧力によって該表皮を破断し得るように決定される請求項1乃至9のいずれかの内装品用の表皮。
【請求項11】
前記所与の破断ラインの範囲を越えて及び/又は前記所与の破断ライン以外の部位に、前記飾り部品が設けられている請求項1乃至10のいずれかの内装品用の表皮。
【請求項12】
前記内装品は、座席又はステアリング若しくはインストルメントパネルである請求項1乃至11のいずれかの内装品用の表皮。
【請求項13】
車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮の製造方法であって、
前記エアバッグを被覆するための所与の表皮に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を形成する第1手順と、
前記所与の表皮に対して、前記複数の貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設ける第2手順と
からなる製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の製造方法における各手順をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項15】
車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮を製造するための装置であって、
前記エアバッグを被覆するための所与の表皮に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を形成する第1手段と、
前記所与の表皮に対して、前記複数の貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設ける第2手段と
を備える装置。
【請求項16】
被縫製素材を保持した保持枠を移動する移動機構と、
前記保持枠に保持された前記被縫製素材に対する縫い動作を行う縫いヘッドと、
前記保持枠に保持された前記被縫製素材に対する穿孔動作を行う穿孔ヘッドと、
制御装置と
を具備するミシンを含み、
前記エアバッグを被覆するための前記所与の表皮を前記被縫製素材として前記保持枠に保持し、
前記飾り部品は、飾り縫いからなり、
前記制御装置により前記移動機構及び前記穿孔ヘッドを制御することにより前記第1手段として機能させ、該第1手段により、前記保持枠に保持された前記表皮に対して、前記所与の破断ラインに沿って前記複数の貫通孔を形成し、
前記制御装置により前記移動機構及び前記縫いヘッドを制御することにより前記第2手段として機能させ、該第2手段により、前記保持枠に保持された前記表皮に対して、前記所与の破断ラインに沿って前記飾り縫いを縫い付けることにより、前記飾り部品が設けられることを特徴とする請求項15の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮に関し、特に、エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断する部位の構成を改善した表皮に関し、さらには、その製造方法及びその製造に適した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両(自動車)には、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置として、エアバッグ装置が装備されている。エアバッグ装置は、ガス発生器であるインフレータと、インフレータからのガスにより膨張する袋状のエアバッグを備えている。エアバッグは折り畳んで収容されており、通常時はカバー体(表皮)に覆われているが、衝突等により衝撃を受けるとエアバッグ内にガスが噴射されて膨張し、その膨張圧によってカバー体の破断部位を開裂して外方へ膨張展開する。エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類があり、車室内の適宜位置に装備されている。そのひとつとして、車両シート(座席)に格納され、衝突時にドアと乗員の間にエアバッグが膨張展開することで、乗員の頭や胸への衝撃を軽減するサイドエアバッグがある。
【0003】
従来、サイドエアバッグを備える車両シートは、シートバック(背もたれ)内にエアバッグ装置を格納し、その外装として複数のパーツからなる表皮を相互に縫合し、シートの形状に沿って被覆した構造となっている。そのような被覆構造の一例として、エアバッグの膨張圧で開裂すべき破断部位(バーストライン)を、破断ストレスに対して脆弱である表皮パーツ間の縫い合わせ箇所(縫製ライン上)に設定したものが知られている(例えば特許文献1~4)。具体的には、表皮パーツ間の縫い合わせ箇所のうち通常部位(非破断部位)は通常の使用に耐えられる強度の縫い糸で縫合し、シートバック前面の表皮パーツとエアバッグ装置を被覆するシートバック側面の表皮パーツとの縫い合わせ箇所(その全部又は一部)はエアバッグの膨張圧によって容易に切れる強度の弱い縫い糸で縫合し、この弱い縫い糸による縫合部位がエアバッグの膨張圧で開裂する破断部位(バーストライン)とされる。被覆構造の別の例として、シートバック側面のエアバッグ収容箇所に開口部を設け、この開口部を特別のカバー部材で塞ぎ、該カバー部材上に、エアバッグの膨張圧によって容易に破断し得る構造の脆弱箇所を設け、この脆弱箇所を破断部位とするものが知られている(例えば特許文献5~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-129394
【特許文献2】特開2006-143213
【特許文献3】特許5692197
【特許文献4】特開2019-202780
【特許文献5】特開2000-289561
【特許文献6】特開2002-36998
【特許文献7】国際出願公開WO2020/054207
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した前者のタイプの被覆構造にあっては、非破断部位と破断部位とに応じて強度の異なる糸種を用いて縫製しなければならないため、工数がかかり生産効率が劣るという問題がある。また、破断部位(バーストライン)を含む縫い合わせ箇所がエアバッグの膨張展開位置(安全を確保できる位置)を考慮した位置となるように、シートバックの形状、意匠性、及び表皮パーツ同士の縫合位置を検討する必要がある。例えば、特許文献3及び4に示されたようなバケットシートの場合、シートバックの車両幅方向の両側に配置された隆起部の頂点においてシートバック前面の表皮パーツと側面の表皮パーツとを縫い合わせるようにしており、これに伴い、破断部位はこの縫い合わせ箇所(縫製ライン上)に形成されることになる。そのため、破断部位を任意に設定・変更することが困難であった。例えば破断部位をシートバック側面の側に適宜ずらして位置させたい場合は、破断部位を縫い合わせ箇所(縫製ライン上)に形成する都合上、両表皮パーツの縫い合わせ箇所全体がシートバック側面の側に適宜ずらされるように変更しなければならない。そのため、シート形状の変更若しくは各表皮パーツの形状又はサイズの変更が必要となる。
【0006】
上述した後者のタイプの被覆構造にあっては、シートバック側面に開口部を形成すること、特別のカバー部材を用意すること、このカバー部材に脆弱箇所(破断部位)を形成すること、該開口部に該カバー部材を装着する作業を行うことなど、付加的作業工程が必要であり、生産効率が悪いという問題がある。また、特別のカバー部材が必要であるため、コスト高でもある。さらに、シートバック側面にカバー部材が露出する構造であるため、外観上、美観を損ねる。
【0007】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断する部位の構造を改善した表皮を提供しようとするものであり、さらには、その製造方法及びその製造に適した装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内装品用の表皮は、車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮であって、前記エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を配列し、該貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設けてなることを特徴とする。
【0009】
所与の破断ラインに沿って表皮の破断を促進するための複数の貫通孔が該表皮に設けられていることにより、該破断ラインに沿う表皮の部位は強い引き裂き力に対して脆弱とされている。したがって、エアバッグの膨張展開時の圧力によって該所与の破断ラインに沿って該表皮が破断され、膨張しつつあるエアバッグがそれを収容した内装品の外に速やかに突出する。ここで、飾り部品とは、その言語的意義から明らかなように、構造的強度に関与しない、外見上の視覚的効果に関与する部品である。したがって、飾り部品には内装部品としての構造的強度が要求されないため、表皮の破断に伴って容易に切断される程度の強度とすることができ、飾り部品によって表皮の破断及びエアバッグの膨張が阻害されることはない。また、強い引き裂き力に対して脆弱とされる構造をもたらす複数の貫通孔の形成は、容易な穿孔加工により実現しうるので、表皮の厚みを部分的に薄くする等の精密加工が不要であり、生産効率を向上させることができる。その一方で、破断ラインに沿って設けられた複数の貫通孔の存在は、飾り部品によって隠すことができるので、表皮を被覆した内装品の美観や意匠性を維持し若しくは向上させることができ、高級感や質感を維持し若しくは向上させることができる。
【0010】
また、本発明によれば、従来のように隣接する表皮パーツ同士の縫い合わせ箇所(縫製ライン)ではなく、1枚の表皮における任意の部位に破断ライン(つまり所与の破断ライン)を設定して、破断を促進するための複数の貫通孔の配列を該所与の破断ラインに沿って設ける構成からなることを特徴としている。これにより、エアバッグを収容する内装品において、これを被覆する表皮における縫製ラインの位置を考慮してエアバッグの収容箇所を設計する必要がなく、エアバッグの収容箇所を任意に設計できるようになるため、エアバッグ収容設計やシート設計の自由度を増すことができる。また、表皮上の任意の部位に破断ラインを設定することができるので、破断ラインの設計の自由度を増すことができる。また、内装品を被覆するための表皮そのものに破断を促進する構造(つまり複数の貫通孔)を形成するので、特別のカバー部材が不要であり、特別のカバー部材を必要とする従来技術に比べて生産効率を向上させることができる。
【0011】
また、本発明によれば、複数の貫通孔の各サイズ及び/又は複数の貫通孔の配置間隔を任意に設定し得るので、破断部位の脆弱性(若しくは耐破断強度)を任意に設定することが可能である。例えば、使用する表皮の材質(特に破断強度)と使用するエアバッグの膨張展開時の圧力との兼ね合いを考慮して、貫通孔のサイズ及び/又は配置間隔を任意に設定することができるので、多様性に富んだ応用を容易に行うことができる。これに伴い、使用する表皮の材質(素材の種別:つまり、天然皮革、合成皮革等の種別及びその厚み等)の選択自由度を向上させることができる。
【0012】
一実施例において、前記飾り部品は、飾り縫いからなっていてよい。例えば、飾り縫いは本縫いで縫製されたものであると好ましく、これにより、表皮の表面において破断ラインに沿って連続的に飾り縫い(上糸)が現れることになり、貫通孔の隠蔽に適するのみならず、美観及び意匠性にとって好ましいものとなる。上述のように、飾り部品としての飾り縫いには縫い付け強度が要求されないため、表皮の破断に伴って容易に切断される程度の強度とすることができ、飾り縫いによって表皮の破断及びエアバッグの膨張が阻害されることはない。
【0013】
一実施例において、前記複数の貫通孔の各サイズ及び/又は前記複数の貫通孔の配置間隔は、前記表皮の材質に応じて、前記圧力によって該表皮を破断し得るように決定し得る。また、一実施例において、前記飾り縫いは、前記複数の貫通孔の2以上を介して飾り糸を縫い付けることにより形成されたものである。これにより、該複数の貫通孔の全部又は一部を飾り縫いのための針落ち用の下孔(予め穿孔された針落ち孔)としても機能させることができる。表皮の素材として、縫い針の挿針・抜針する際にかかる抵抗が大きいものを用いる場合、飾り縫いの縫製作業を有利にし、かつ、綺麗な仕上がりの飾り縫いが得られる。
【0014】
一実施例において、前記複数の貫通孔は飾り縫い用の第1の孔と飾り縫いされない第2の孔とを含み、複数の前記第1の孔を介して前記破断ラインに沿って飾り糸を縫い付けてあり、前記第2の孔は、隣接する2つの前記第1の孔の間に設けられ、該2つの第1の孔の間に縫い付けられた前記飾り糸の下に位置するようにしてよい。この場合、隣接する2つの前記第1の孔の間に、0又は1以上の前記第2の孔が設けられるようにしてもよい。また、前記第2の孔のサイズは前記第1の孔のサイズよりも小さくするとよく、これにより飾り糸によってその下の第2の孔を隠し易い。また、少なくとも2以上の前記第2の孔のサイズは、互いに共通又は異なっていてもよい。
【0015】
別の実施例において、前記飾り部品は、紐状素材からなっていてもよい。一例として、前記紐状素材からなる前記飾り部品は、接着によって該表皮に取り付けられる。また、前記紐状素材からなる前記飾り部品は、前記複数の貫通孔の一部を介して該紐状素材を該表皮に止め付け(又は縫い付け)られてもよい。
【0016】
一実施例において、前記所与の破断ラインの範囲を越えて及び/又は前記所与の破断ライン以外の部位に、前記飾り部品が設けられていてもよい。これにより、本発明に係る表皮を被覆した内装品の美観や意匠性をより一層向上させることができる。
【0017】
公知のように、エアバッグは、自動車の座席、ステアリング及びインストルメントパネル等に内蔵して設置される。よって、同様に、本発明に係る表皮が適用される前記内装品は、座席又はステアリング若しくはインストルメントパネルであってよい。
【0018】
本発明の別の観点によれば、車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮の製造方法を提供しうる。この製造方法は、前記エアバッグを被覆するための所与の表皮に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を形成する第1手順と、前記所与の表皮に対して、前記複数の貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設ける第2手順とからなる。本発明の別の観点によれば、該製造方法における各手順をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供しうる、若しくは該プログラムを記憶した非一過性の記憶媒体を提供し得る。
【0019】
本発明のさらに別の観点によれば、車両室内でエアバッグを収容する内装品を被覆するための表皮を製造するための装置を提供しうる。この装置は、前記エアバッグを被覆するための所与の表皮に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインに沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔を形成する第1手段と、前記所与の表皮に対して、前記複数の貫通孔の配列の上に前記所与の破断ラインに沿って飾り部品を設ける第2手段とを備える。
【0020】
一実施例において、この装置は、被縫製素材を保持した保持枠を移動する移動機構と、前記保持枠に保持された前記被縫製素材に対する縫い動作を行う縫いヘッドと、前記保持枠に保持された前記被縫製素材に対する穿孔動作を行う穿孔ヘッドと、制御装置とを具備するミシンを含み得る。その場合、前記エアバッグを被覆するための前記所与の表皮を前記被縫製素材として前記保持枠に保持し、前記飾り部品は、飾り縫いからなり、前記制御装置により前記移動機構及び前記穿孔ヘッドを制御することにより前記第1手段として機能させ、該第1手段により、前記保持枠に保持された前記表皮に対して、前記所与の破断ラインに沿って前記複数の貫通孔を形成する。前記制御装置により前記移動機構及び前記縫いヘッドを制御することにより前記第2手段として機能させ、該第2手段により、前記保持枠に保持された前記表皮に対して、前記所与の破断ラインに沿って前記飾り縫いを縫い付けることにより、前記飾り部品が設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る内装品用の表皮の一実施例として、車両内のシート(座席)を被覆するための表皮に本発明を適用した実施例を示す斜視図。
図2図1に示すシートのドア側の側面を示す側面図。
図3図2に示したドア側の側面を被覆する表皮の一部分を拡大して示す図であり、(a)は飾り部品(飾り縫い)が設けられた状態を示し、(b)は飾り部品(飾り縫い)を省略した状態を示す図。
図4図3(b)に示した破断促進用の複数の貫通孔の配列をさらに拡大して示す図。
図5】本実施例に係る表皮を製造するための装置の一実施例として、そのために使用し得るミシンの一例を示す正面図。
図6】該ミシンを使用して本実施例に係る表皮を製造するための手順(製造方法)を略示するフローチャート。
図7】本発明に係る内装品用の表皮の別の実施例として、飾り部品が紐状素材からなる例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明に係る内装品用の表皮の一実施例として、該表皮によって被覆された車両内のシート(座席)Sを示す斜視図であり、図2はその側面図である。公知のように、シートSは、シートクッション(座面)S1と、シートクッションS1の後部端から立ち上がるシートバック(背もたれ)S2を備えており、シートバックS2上にはヘッドレストS3が設けられている。シートバックS2の内部には、ドア(不図示)側の所定箇所に公知のエアバッグ装置Eが収容されている。エアバッグ装置Eは、公知のように、エアバッグ(不図示)を内蔵しており、所定以上の衝撃が加えられたとき該エアバッグを膨張展開するように構成されている。膨張展開するエアバッグがエアバッグ装置Eから突出する方向は、シートバックS2のドア側の側面(図1図2の例では、着座した乗員の左側の側面)の方向である。
【0023】
シートバックS2の表面は、複数のパーツからなる表皮1がそれぞれ強度の高い縫い糸で縫い合わされて覆われている。表皮1は、天然または合成の皮革素材であり、車種等に応じて各種仕様の皮革シートが用いられる。勿論、シートバックS2に限らず、シートクッションS1及びヘッドレストS3も同様の表皮で被覆されていてもよい。前述のように、膨張展開するエアバッグは、シートバックS2のドア側の側面の方向に突出するので、シートバックS2のドア側の側面を被覆する部分の表皮1において、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ラインが設定される。本発明においては、該ドア側の側面を被覆する表皮1に設定される該所与の破断ラインは、表皮1の複数パーツの縫い合わせ箇所でなく、該ドア側の側面を被覆する部分の1枚の表皮(パーツ)において設定される。シートバックS2のドア側の側面を被覆する表皮1には、上下方向にわたって線状の飾り部品2が設けられており、一例として2列の飾り部品2が設けられている。図示の実施例において、飾り部品2は飾り縫い2aからなっている。飾り部品2(飾り縫い2a)が設けられる線状の想像線を、ステッチライン3と言うことにする。図示例において、前方寄りの1列のステッチライン3は前記所与の破断ラインに対応して設けられるものであり、後方寄りの1列のステッチライン3は意匠的効果を意図するオプションとして設けられ得るものである。よって、飾り部品2(飾り縫い2a)を設けるべき部分は、第一に、前記所与の破断ラインの設定にしたがって決定され、第二に、意匠的効果を考慮して適宜に決定され得る。
【0024】
図3は、シートバックS2のドア側の側面を被覆する1枚の表皮1の一部分を拡大して示す図であり、(a)は飾り縫い2aが設けられた状態を示し、(b)は理解を深めるために飾り縫い2aの飾り糸(装飾糸)を省略した状態(つまり、飾り縫い2aが設けられる前の表皮1の状態)を示している。図3において、符号Tは、飾り縫い2aが施されるステッチライン3のうち前記所与の破断ラインが設定される領域を示す。
【0025】
図3(b)に示すように、表皮1において、飾り縫い2aが施されるステッチライン3に沿って複数の貫通孔4が適宜のピッチで設けられている。前方寄りの1列のステッチライン3における点Aから点Bまでの区間が所与の破断ラインすなわち破断領域Tに対応している。この点Aから点Bまでの区間に配列された複数の貫通孔4、すなわち破断領域T(所与の破断ライン)に属する複数の貫通孔(これを符号5及び6で示す)の配列は、該所与の破断ラインに沿って表皮1の破断を促進するための複数の貫通孔として機能する。これら破断促進用の複数の貫通孔(5、6)のうち適宜の2以上の貫通孔(これを符号5で示す)が飾り糸を縫い付けるための針落ち用の下孔(予め穿孔された針落ち孔)としても機能する。すなわち、表皮1の製作に際して、この針落ち用の下孔5を介して該所与の破断ラインに沿って飾り糸が縫い付けられ、これにより、該複数の貫通孔(5、6)の配列の上に該所与の破断ラインに沿って飾り縫い2aが設けられる。なお、針落ち用の下孔5を設ける理由は、表皮1の素材である皮革はファブリックに比べて剛性が高いため、縫い針が表皮1(皮革)に挿針・抜針する際にかかる抵抗が大きいことにより、縫い作業時に表皮1(皮革)がばたついて下糸が表面に出る、あるいは糸締りが甘くなる、というような品質不良を引き起こすことが多いので、そのような不具合を防止するためである。よって、挿針・抜針が容易な表皮素材を用いる等、適宜の要因に依存して、破断促進用の複数の貫通孔(5、6)を針落ち用の下孔として機能させる必要がない場合も有り得る。
【0026】
実施例において、所与の破断ライン(破断領域T)に沿って配列される破断促進用の複数の貫通孔(5、6)は、飾り縫い用の第1の孔5と飾り縫いされない第2の孔6とを含む。すなわち、第1の孔5は、破断促進用の貫通孔として機能するのみならず、飾り縫いの針落ち用の下孔としても機能するが、第2の孔6は、飾り縫いの針落ち用の下孔としては機能せず、破断促進用の貫通孔としてのみ機能する。一例として、第1の孔(針落ち用の下孔)5を介した飾り縫いは本縫いによって行われ、上糸である飾り糸が表皮1の表面に連続的に現れることで、綺麗な外見の飾り縫い2aが施される。第2の孔6は、隣接する2つの第1の孔5の間に設けられ、該2つの第1の孔5の間に縫い付けられた前記飾り糸の下に位置することになる。これにより、第1の孔(針落ち用の下孔)5それ自体が飾り縫い2aによって隠され若しくは目立たなくされると共に、第2の孔6は飾り縫い2aの飾り糸の下に位置することで隠されることになるので、表皮1を被覆した内装品(シートバックS2)の美観や意匠性を維持し若しくは向上させることができ、高級感や質感を維持し若しくは向上させることができる。
【0027】
図4は、図3(b)に示した破断促進用の複数の貫通孔(第1及び第2の孔5、6)の配列をさらに拡大して示す図である。一例として、図4(a)は、隣接する各2つの第1の孔5の間に1つの第2の孔6が規則的に設けられた例を示す。別の例として、図4(b)は、隣接する各2つの第1の孔5の間に2つの第2の孔6が規則的に設けられた例を示す。さらに別の例として、図4(c)は、或る隣接する2つの第1の孔5の間に1つの第2の孔6が設けられ、別の隣接する2つの第1の孔5の間に2つの第2の孔6が設けられる例を示す。さらに別の例として、図4(d)は、或る隣接する2つの第1の孔5の間には第2の孔6が設けられず、別の隣接する2つの第1の孔5の間に1(又は複数)の第2の孔6が設けられる例を示す。図4に示す例に限らず、隣接する2つの第1の孔5の間に任意の数(0又は1以上)の第2の孔6が設けられていてよく、また、隣接する各2つの第1の孔5の間に設ける第2の孔6の数は適宜異なっていてもよい。
【0028】
破断促進用の複数の貫通孔(5、6)の各サイズ及び/又は該複数の貫通孔(5、6)の配置間隔は、表皮1の素材に応じて、エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断ライン(破断領域T)に沿って該表皮1を破断し得るように適宜決定すればよい。すなわち、第1及び第2の孔5、6のサイズは、共通であってもよいし、あるいは適宜異なっていてもよい。例えば、図4に示すように、破断促進用の貫通孔としてのみ機能する第2の孔6のサイズは、針落ち用の下孔としても機能しうる第1の孔5のサイズよりも幾分小さくするとよい。これにより、第1の孔5を介して縫い付けられた飾り糸の下に位置する第2の孔6が飾り糸によって隠され易くなる。また、破断促進用の貫通孔としてのみ機能する第2の孔6のサイズは、必ずしも均一(共通)である必要はなく、適宜に異なっていてもよい。
【0029】
図3(b)に示すように、前方寄りの1列のステッチライン3において、破断領域T以外の部分に沿って設けられた貫通孔4は、飾り縫い2aを施すためにあらかじめ針落ち箇所に設けられた針落ち用の下孔5としてのみ機能する。すなわち、破断領域T以外のステッチライン3に沿って設けられた貫通孔4は、針落ち用の下孔5のみからなり、破断促進用の孔6は存在していない。こうして、破断領域Tにおいては破断促進用の複数の貫通孔(5、6)が細かな間隔で設けられるのに対して、破断領域T以外のステッチライン3においては針落ち用の下孔5のみとして機能する貫通孔4がそれよりも粗い間隔で設けられる。したがって、破断領域T(破断ライン)においては、各貫通孔(5、6)の間で表皮1が繋がっている部分の面積が小さくなっているので、強度が弱く、エアバッグの膨張展開時の圧力によってミシン目を切り取るように容易に破断され得る。これに対して、破断領域T以外のステッチライン3においては、各針落ち用の下孔5の間で表皮1が繋がっている部分の面積が大きくなっており、容易には破断されない。なお、後方寄りの1列のステッチライン3においては、針落ち用の下孔5としてのみ機能する貫通孔4が設けられており、飾り縫い2aによる意匠的効果のみが得られるように意図されている。このように、破断領域T(破断ライン)の範囲を越えて及び/又は該破断領域T(破断ライン)以外の部位に、飾り縫い2aを設けることにより、本発明に係る表皮1を被覆したシートバックS2の美観や意匠性をより一層向上させることができる。
【0030】
上述した本実施例に係る表皮1を製造するための装置は、前記エアバッグを被覆するための所与の表皮1に対して、該エアバッグの膨張展開時の圧力によって破断されるべき所与の破断ライン(破断領域T)に沿って該表皮の破断を促進するための複数の貫通孔4(5,6)を形成する第1手段と、前記所与の表皮1に対して、前記複数の貫通孔4(5,6)の配列の上に前記所与の破断ライン(破断領域T)に沿って飾り部品2(飾り縫い2a)を設ける第2手段とを備える。この装置は、本実施例に係る表皮1を製造するための専用の機械装置として構成し得るし、あるいはミシン等の汎用性を持つ機械装置を使用して構成することもできる。
【0031】
図5は、上述した本実施例に係る表皮1を製造するための装置の一実施例として、そのために使用することができるように構成したミシン(刺繍ミシン)10の一例を示す正面図である。このミシン10は、被縫製素材を保持した保持枠11を移動する移動機構と、該保持枠11に保持された該被縫製素材に対する縫い動作を行う縫いヘッド(刺繍ヘッド)12と、該保持枠11に保持された該被縫製素材に対する穿孔動作を行う穿孔ヘッド13とを備える。公知のように、縫いヘッド12の下方には、針棒と共同して縫いを行う釜を支持した釜土台14が配置されている。また、公知のように、穿孔ヘッド13は穿孔用のポンス(不図示)及びその上下動機構(不図示)を含み、その下方には該ポンスを受けるためのポンス台を含む受け土台15が配置されている。公知のように、移動機構は、X方向駆動体16とY方向駆動体17を含み、これにより保持枠11をミシンテーブル18上でX-Y駆動する。
【0032】
本実施例に係るミシン10は、さらに、ソフトウェアプログラムに従って動作するマイクロプロセッサあるいは専用の回路等を含む制御装置(図示せず)を備えており、本明細書で説明する種々の動作(縫い動作及び穿孔動作)は、該制御装置の制御に従って実行される。その場合、本明細書で説明する種々の動作は、ソフトウェアプログラム用の命令として記述され得、該命令は非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体において不揮発的に記憶され得る。
【0033】
なお、このような縫いヘッド12と穿孔ヘッド13を兼備して、被縫製素材に対する縫い作業及び穿孔作業の両方を行うことができるミシンは、例えば、国際出願公開第WO2015/076389号公報において公知である。本願においては、この国際出願公開第WO2015/076389号公報の記載内容を引用によって明細書及び図面に組み込むものとし、その詳細説明は省略する。
【0034】
このミシン10においては、エアバッグを被覆するための所与の表皮1を前記被縫製素材として前記保持枠11に保持し、前記制御装置により前記移動機構(X方向駆動体16とY方向駆動体17)及び前記穿孔ヘッド13を制御することにより前記第1手段として機能させ、該第1手段により、前記保持枠11に保持された前記表皮1に対して、前記所与の破断ライン(破断領域T)に沿って前記複数の貫通孔を形成する。また、前記制御装置により前記移動機構(X方向駆動体16とY方向駆動体17)及び前記縫いヘッド12を制御することにより前記第2手段として機能させ、該第2手段により、前記保持枠11に保持された前記表皮1に対して、前記所与の破断ライン(破断領域T)に沿って飾り部品2(飾り縫い2a)を縫い付ける。
【0035】
次に、該ミシン10を使用して本実施例に係る表皮1を製造するための手順(製造方法)について、図6を参照して、以下説明する。
【0036】
まず、エアバッグを被覆するための所与の表皮1を被縫製素材としてミシン10の保持枠11にセットする(ステップS1)。
【0037】
次に、前記制御装置により前記移動機構及び穿孔ヘッド13を制御することにより、保持枠11に保持された表皮1に対して、複数の貫通孔4を形成する(ステップS2)。すなわち、前記移動機構によって保持枠11をX-Y駆動して、貫通孔4を形成すべき位置に位置決めし、穿孔ヘッド13を1回駆動することにより1つの貫通孔4を穿孔する。所与の穿孔パターンプログラムにしたがって貫通孔4を形成すべき位置を順次切り換えてゆくことにより、複数の貫通孔4の配列を形成する。なお、前述のように、飾り縫いの針落ち用の下孔として機能する第1の孔5のサイズと、破断促進用の貫通孔としてのみ機能する第2の孔6のサイズを異ならせる場合は、穿孔ヘッド13で使用するポンス(穿孔具)を切り換える必要がある。例えば、第1の孔5を穿孔するためのポンス(穿孔具)を使用してステッチライン3に沿って全ての第1の孔5を形成し、その後、第2の孔6を穿孔するためのポンス(穿孔具)に切り換えて全ての第2の孔6を形成するようにしてよい。あるいは、その逆に、先に第2の孔6を穿孔し、次に第1の孔5を穿孔するようにしてもよい。
【0038】
次に、前記制御装置により前記移動機構及び縫いヘッド12を制御することにより、保持枠11に保持された表皮1に対して、前記複数の貫通孔4の配列に沿って飾り縫い2a(飾り部品2)を設ける(ステップS3)。すなわち、所与の飾り縫いパターンプログラムにしたがって、前記移動機構によって保持枠11をX-Y駆動して、針落ち用の下孔として機能する第1の孔5に順次位置決めし、位置決めした第1の孔5毎に縫い針を落として本縫いにより飾り糸を縫い付ける。
【0039】
前記ステップS2(複数の貫通孔を形成する第1手順)及び前記ステップS3(飾り縫いを設ける第2手順)を前記制御装置内のコンピュータ若しくはプロセッサによって実行させるためのプログラムは、そのための命令群を非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶した形態で提供することが可能である。
【0040】
前述したように、針落ち用の下孔である第1の孔5及び破断促進用の第2の孔6の各サイズ、ピッチ、その組み合わせ等は、対象となる表皮1の材質や強度とエアバッグの膨張圧力との関係に応じて決定する。例えば、天然皮革のような強度がある表皮1に対しては、破断ライン(破断領域T)の脆弱性を高める(破断に耐える強度を小さくする)ために、破断ライン(破断領域T)を構成する各貫通孔のサイズを大きくする、及び/又はピッチを狭くする(細かくする)、及び/又は数量を増やす等により、破断ライン(破断領域T)の貫通孔構成(破断強度)を最適化するものとする。
【0041】
一例として、前述した図4(a)のような穿孔パターンにおいて、針落ち用の下孔である第1の孔5として1mm径の貫通孔がステッチライン3に沿って4.5mmピッチで形成され、破断促進用の第2の孔6として0.8mm径の貫通孔が下孔5間に1個形成されている。他方、前述した図4(b)のような穿孔パターンにおいては、1.3mm径の針落ち用の下孔(第1の孔)5を8mmピッチで形成し、その間に1mm径の破断促進用の孔(第2の孔)6が2個形成されている。このような穿孔パターンのバリエーションは、適用する表皮1について種々の破断実証実験を行うことに基づいて最適化される。すなわち、適用する表皮1の材質や強度と使用するエアバッグの膨張圧力による引っ張り強度との関係に応じて、破断ライン(破断領域T)における脆弱性(耐破断力)の強弱を可変できる。
【0042】
また、前述した図4(c)のような穿孔パターンにおいては、破断ライン(破断領域T)の中央部では隣接する2つの第1の孔5の間に破断促進用の第2の孔6を2個形成する一方で、破断ライン(破断領域T)の端部では同じ間隔で隣接する2つの第1の孔5の間に破断促進用の第2の孔6を1個のみ形成している。このような穿孔パターンの場合、端部に比べ中央部の強度が弱くなるため、破断が中央部から始まることになり、破断開始タイミング(又は破断開始位置)を適切に設定することも可能である。
【0043】
上記実施例では、縫いヘッド12と穿孔ヘッド13を併設したミシン10を用いて、本実施例に係る表皮の製造手順(方法)を実行する例について説明したが、それに限定されない。例えば、穿孔ヘッドを有するが縫いヘッドは持たない専用の穿孔装置を使用して「複数の貫通孔を形成する第1手順」(前記ステップS2)を実行し、その後、縫いヘッドを有するが穿孔ヘッドは持たないミシンを使用して「飾り縫い(飾り部品)を設ける第2手順」(前記ステップS3)を実行するようにしてもよい。その場合、「複数の貫通孔を形成する第1手順」は人手によって行い、「飾り縫い(飾り部品)を設ける第2手順」(前記ステップS3)は保持枠11のX-Y駆動によって自動的に行うようにしてもよい。あるいは、第1手順及び第2手順共に、人手によって行うようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施例では、車両室内でエアバッグを収容する内装品として、車両シートを例として説明したが、それに限定されない。ステアリング若しくはインストルメントパネル(ダッシュボード)などその他任意の内装品にエアバッグ装置を内蔵し、これを表皮で被覆する場合に、本発明は適用可能である。
【0045】
さらに、表皮1に設定する破断ライン(破断領域T)は、直線状のものに限らず、任意の形状若しくは図形模様に設定しうる。また、エアバッグの膨張展開方向に応じた任意の角度にも設定可能である。さらに、表皮1に設ける各貫通孔4の形状は円形に限らず、他の適宜の形状としてもよい。例えば、針落ち用の下孔である第1の孔5は円形とするが、破断促進用の第2の孔6は、円形とせずに、多角形や雫形状等適宜の形状としてもよい。すなわち、応力集中による切り欠き効果を活用して、破断促進効能を高めるような形状の貫通孔を採用することができる。
【0046】
また、上記実施例では、2列のステッチライン3を設けているが、破断ライン(破断領域T)に関係していない装飾的なステッチライン3(後方寄りの1列のステッチライン3)は省略してもよい。あるいは、逆に、破断ライン(破断領域T)に関係していない装飾的なステッチライン3の列をさらに余分に設けてもよい。また、破断ライン(破断領域T)に関係していない装飾的なステッチライン3の形状も直線状のものに限らず、任意の形状若しくは図形模様に設定しうる。さらに、装飾的なステッチライン3を追加的に設けることなく、破断ライン(破断領域T)に対応するステッチライン3のみを設けることで、破断ライン(破断領域T)に対応する飾り部品2(飾り縫い2a)のみが施されるようにしてもよい。
【0047】
上記実施例では、表皮1に設ける飾り部品2が飾り縫い2aからなる例について説明したが、これに限らない。例えば、図7に示すように、飾り部品2は、紐状素材2bからなっていてもよい。その場合、一例として、紐状素材2bからなる飾り部品2は、接着によって表皮1に取り付けられるようにしてよい。その場合、表皮1に設ける破断促進用の前記複数の貫通孔4(5,6)は、破断ライン(破断領域T)に対応する範囲でのみ設けるようにすればよい。別の例として、紐状素材2bからなる飾り部品2は、前記複数の貫通孔4(5,6)の一部を介して該紐状素材2bを該表皮1に止め付けられるようにしてもよく、この止め付けは縫い付けであってもよい。その場合、表皮1においては、破断促進用の前記複数の貫通孔4(5,6)を破断ライン(破断領域T)に対応する範囲で設けるのは勿論のこと、破断ライン(破断領域T)以外の箇所に止め付け(縫い付け)用の貫通孔4(5)を適宜設けるようにしてもよい。さらに別の例として、紐状素材2bからなる飾り部品2は、接着と止め付け(縫い付け)の組合せによって表皮1に取り付けられるようにしてもよい。飾り部品2として使用する紐状素材2bの材質及びデザイン等は任意に選定してよい。また、紐状素材2bに限らず、その他任意の材質及びデザインからなる素材によって飾り部品2を形成するようにしてよく、要は、破断促進用の複数の貫通孔4(5,6)を適切に隠蔽し、かつ、表皮1が破断される際にはその破断の妨げにならないような柔軟性を持つ若しくは適度の壊れ易さ(又は脆性)を持つものであればよい。
【0048】
以上述べたように、従来のように隣接する表皮パーツ同士の縫い合わせ箇所(縫製ライン)ではなく、1枚の表皮1における任意の部位に破断ライン(破断領域T)を設定して、破断を促進するための複数の貫通孔5、6の配列を該任意の破断ラインに沿って設けることを特徴としている。これにより、エアバッグを収容する内装品において、これを被覆する表皮における縫製ラインの位置を考慮してエアバッグの収容箇所を設計する必要がなく、エアバッグの収容箇所を任意に設計できるようになるため、エアバッグ収容設計やシート設計の自由度を増すことができる。また、表皮上の任意の部位に破断ラインを設定することができるので、破断ラインの設計の自由度を増すことができる。すなわち、エアバッグ装置の配置や、エアバッグの膨張展開方向に応じて、ステッチライン3や破断ライン(破断領域T)を所望の位置や角度に形成することができる。
【0049】
また、破断ライン(破断領域T)に沿って設けられた複数の貫通孔(5及び6、、特に6)の存在は、飾り部品2によって隠す若しくは目立たなくすることができるので、表皮1を被覆した内装品の美観や意匠性を維持し若しくは向上させることができ、高級感や質感を維持し若しくは向上させることができる。また、内装品を被覆するための表皮1そのものに破断を促進する構造(つまり複数の貫通孔)を形成するので、特別のカバー部材が不要であり、特別のカバー部材を必要とする従来技術に比べて生産効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0050】
S シート(座席)
S2 シートバック(背もたれ)
E エアバッグ装置
1 表皮
2 飾り部品
2a 飾り縫い
2b 紐状素材
3 ステッチライン
4 貫通孔
5 第1の孔(針落ち用の下孔としての貫通孔)
6 第2の孔(破断促進用の貫通孔)
10 ミシン(刺繍ミシン)
11 保持枠
12 縫いヘッド(刺繍ヘッド)
13 穿孔ヘッド
14 釜土台
15 受け土台
16 X方向駆動体(移動機構)
17 Y方向駆動体(移動機構)
18 ミシンテーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7