IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理研ビタミン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083116
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】フライ用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20230608BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197287
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛大
(72)【発明者】
【氏名】小谷 真由
(72)【発明者】
【氏名】和泉 秀征
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK02
4B026DK10
4B026DX01
(57)【要約】
【課題】フライ食品の油ちょうに使用することにより、ホットショーケース等に保存する場合であっても、良好な食感が長時間維持されるフライ食品を製造できるフライ用油脂組成物を提供する。
【解決手段】ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1~1.0質量%であり、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が0.05~0.6質量%である、フライ用油脂組成物。該プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、炭素数16~22の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1~1.0質量%であり、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が0.05~0.6質量%である、フライ用油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
から揚げ、コロッケ等、各種食品素材を食用油脂で油ちょうしてなるフライ食品は、高温の油脂を熱媒体とすることにより水分が急激に蒸発して得られるサクサクとしたクリスピーな食感が好まれている。しかし、一般にフライ食品は、油ちょうした直後は軽く、クリスピーな食感を呈していても、時間の経過とともに軟らかく、ふやけたような食感や、ゴムのような歯切れの悪い食感に変化してしまう傾向がある。
【0003】
フライ食品の良好な食感を維持する方法としては、例えば、フライ食品の油ちょうに使用する油脂組成物(フライ用油脂組成物)に各種の乳化剤を添加する方法が知られている。具体的には、例えば、動植物性油脂にジグリセリンモノ脂肪酸エステルを特定量添加する方法(特許文献1)、食用油脂に有機酸モノグリセリド及びポリグリセリン脂肪酸エステルを特定量溶解せしめる方法(特許文献2)、食用油脂及び硬化油からなる油脂組成物に、構成脂肪酸として(A):炭素数が16~22の飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上、(B)炭素数が8~14の飽和脂肪酸及び炭素数が16~22の不飽和脂肪酸から選択される一種または二種以上を特定の比率で含有するポリグリセリン脂肪酸エステルを添加する方法(特許文献3)等が提案されている。
【0004】
一方、フライ食品を購入してすぐに食したいという消費者に向けて、製品を高温で保存できるホットショーケースが利用されており、例えばコンビニエンスストア等においては、フライ食品がホットショーケース内に陳列されて販売されている。
【0005】
しかしながら、フライ食品をホットショーケース内に保存すると、保存中の食感の変化が激しく、上記の方法をもってしても、この問題が十分に解決できるとは言えないため、これらに代わり得る新規な方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-131071号公報
【特許文献2】特開平9-074999号公報
【特許文献3】特開2011-083229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フライ食品の油ちょうに使用することにより、ホットショーケース等に保存する場合であっても、良好な食感が長時間維持されるフライ食品を製造できるフライ用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤2種類を併用することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ジグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.1~1.0質量%であり、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量が0.05~0.6質量%である、フライ用油脂組成物、からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフライ用油脂組成物を使用して油ちょうしたフライ食品は、ホットショーケース等に保存する場合であっても、良好な食感が長時間維持される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフライ用油脂組成物は、油脂中に、ジグリセリン脂肪酸エステルを0.1~1.0質量%、好ましくは0.3~0.8質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.05~0.6質量%、好ましくは0.1~0.3質量%含有するものである。
【0012】
前記油脂は、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等の植物油脂、牛脂、ラード、魚油、乳脂等の動物油脂、これら動植物油脂に分別、水素添加、エステル交換等の処理を施した加工油脂等が挙げられる他、グリセリンジ脂肪酸エステルもこれらに含まれる。これらの中でも、常温(15~25℃)で液状である植物油脂(例えば、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、落花生油、オリーブ油、ゴマ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油、ハイオレイックヒマワリ油等)が好ましく、菜種油が特に好ましい。これら油脂は、いずれか1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明で用いられるジグリセリン脂肪酸エステルは、ジグリセリンと脂肪酸とのエステルであり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。該エステルは、好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルを50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上含むのが良い。
【0014】
ジグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数12~18の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)が好ましく、炭素数16~18の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)がより好ましい。ジグリセリン脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0015】
ジグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムDS-100A(商品名;ジグリセリンモノステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)、ポエムDO-100V(商品名;ジグリセリンモノオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0016】
本発明で用いられるプロピレングリコール脂肪酸エステルは、プロピレングリコールと脂肪酸のエステルであり、エステル化反応等自体公知の方法で製造される。該エステルは、好ましくはモノエステルであり、混合物であればモノエステルを50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上含むのが良い。
【0017】
プロピレングリコール脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が挙げられる。これらの中でも、炭素数12~22の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)が好ましく、炭素数16~22の直鎖の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等)がより好ましい。プロピレングリコール脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
【0018】
プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、リケマールPP-100(商品名;プロピレングリコールモノパルミチン酸エステル;理研ビタミン社製)、リケマールPB-100(商品名;プロピレングリコールモノベヘニン酸エステル;理研ビタミン社製)、リケマールPO-100V(製品名;プロピレングリコールモノオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0019】
本発明のフライ用油脂組成物の製造方法に特に制限はないが、例えば、前記油脂に対して、ジグリセリン脂肪酸エステルを0.1~1.0質量%、好ましくは0.3~0.8質量%、プロピレングリコール脂肪酸エステルを0.05~0.6質量%、好ましくは0.1~0.3質量%添加し、所望により加熱して混合することにより製造できる。
【0020】
本発明のフライ用油脂組成物は、前記油脂、ジグリセリン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステル以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の任意の成分を含有していてもよい。そのような成分としては、例えば、ジグリセリン脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステル以外の乳化剤、酸化防止剤(抽出トコフェロール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル等)等が挙げられる。
【0021】
本発明のフライ用油脂組成物は、従来のフライ用油脂組成物と同様に、各種フライ食品の油ちょうに使用することができる。本発明のフライ用油脂組成物を使用して油ちょうできるフライ食品に特に制限はないが、例えば、素揚げ、から揚げ、竜田揚げ、カツレツ、コロッケ、フライ(エビフライ、アジフライ、カキフライ等)、ナゲット、フリッター、天ぷら、ドーナツ、揚げパン、アメリカンドッグ、フライドポテト等が挙げられる。これらの中でも、とりわけホットショーケース内に陳列されて販売されることの多い、から揚げ、ナゲット、コロッケ、ドーナツ、アメリカンドッグ等の油ちょうに使用することが好ましい。
【0022】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0023】
[から揚げによる評価]
(1)フライ用油脂組成物の原材料
1)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
2)ジグリセリンモノステアリン酸エステル(商品名:ポエムDS-100A;理研ビタミン社製)
3)プロピレングリコールモノベヘニン酸エステル(商品名:リケマールPB-100;理研ビタミン社製)
4)プロピレングリコールモノオレイン酸エステル(製品名:リケマールPO-100V;理研ビタミン社製)
5)プロピレングリコールモノパルミチン酸エステル(商品名:リケマールPP-100;理研ビタミン社製)
6)菜種油(商品名:食用なたね油;ボーソー油脂社製)
【0024】
(2)フライ用油脂組成物の原材料の配合
前記原材料を用いて調製したフライ用油脂組成物1~17の配合組成を表1及び表2に示した。このうち、表1のフライ用油脂組成物1~9は本発明の実施例であり、表2のフライ用油脂組成物10~16はそれらに対する比較例であり、表2のフライ用油脂組成物17は乳化剤無添加の対照である。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
(3)から揚げの製造方法
1)表1に示した配合割合に従い、フライ用油脂組成物の原材料を合計900gとなるようにフライヤー(型式:EFK-A10;象印マホービン社製)に入れ、これを加熱しながら必要に応じて撹拌し、フライ用油脂組成物1~17を調製した。
2)前記フライ用油脂組成物1~17の温度を170~175℃に保ちつつ、ここに市販の冷凍から揚げ(1個当たり約60g)を2個入れて5分30秒間油ちょうした。
3)前記2)の操作を5度繰り返し、から揚げ1~17を計10個ずつ得た。
【0028】
(4)官能評価
前記(3)で得られたから揚げ1~17をホットショーケース(型式:YN-500;ヨシキン社製)に入れ、庫内温度65±5℃条件で4時間静置した後、これらの歯ごたえ及び口当たりについて官能評価を行った。評価は表3に示す評価基準に従って10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値を下記の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
〔記号化基準〕
○:良好 平均値2.5以上
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
【0029】
【表3】
【0030】
【表4】
【0031】
表4の結果から明らかなように、実施例のフライ用油脂組成物1~9を使用して油ちょうしたから揚げ1~9は、クリスピーな歯ごたえを維持しており、口当たりも良好であった。これに対し、比較例のフライ用油脂組成物10~16及び対照のフライ用油脂組成物17を使用して油ちょうしたから揚げ10~17は、いずれの評価項目においても「△」以下の結果であった。
【0032】
[コロッケによる評価]
(1)フライ用油脂組成物の原材料
1)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
2)プロピレングリコールモノベヘニン酸エステル(商品名:リケマールPB-100;理研ビタミン社製)
3)プロピレングリコールモノオレイン酸エステル(製品名:リケマールPO-100V;理研ビタミン社製)
4)菜種油(商品名:食用なたね油;ボーソー油脂社製)
【0033】
(2)フライ用油脂組成物の原材料の配合
前記原材料を用いて調製したフライ用油脂組成物2、8、12及び17の配合組成を表5に示した。このうち、フライ用油脂組成物2及び8は本発明の実施例であり、フライ用油脂組成物12はそれらに対する比較例であり、フライ用油脂組成物17は乳化剤無添加の対照である。
【0034】
【表5】
【0035】
(3)コロッケの製造方法
1)表5に示した配合割合に従い、フライ用油脂組成物の原材料を合計900gとなるようにフライヤー(型式:EFK-A10;象印マホービン社製)に入れ、これを加熱しながら必要に応じて撹拌し、フライ用油脂組成物2、8、12及び17を調製した。
2)前記フライ用油脂組成物2、8、12及び17の温度を175~180℃に保ちつつ、ここに市販の冷凍コロッケ(1個当たり約80g)を2個入れて5分間油ちょうした。
3)前記2)の操作を5度繰り返し、コロッケ1~4を計10個ずつ得た。
【0036】
(4)官能評価
前記(3)で得られたコロッケ1~4をホットショーケース(型式:YN-500;ヨシキン社製)に入れ、庫内温度65±5℃条件で4時間静置した後、これらの歯ごたえ及び口当たりについて官能評価を行った。評価は表6に示す評価基準に従って10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値を下記の基準に従って記号化した。結果を表7に示す。
〔記号化基準〕
○:良好 平均値2.5以上
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
【0037】
【表6】
【0038】
【表7】
【0039】
表6の結果から明らかなように、実施例のフライ用油脂組成物2及び8を使用して油ちょうしたコロッケ1及び2は、クリスピーな歯ごたえを維持しており、口当たりも良好であった。これに対し、比較例のフライ用油脂組成物12及び対照のフライ用油脂組成物17を使用して油ちょうしたコロッケ3~4は、いずれの評価項目においても「△」以下の結果であった。