(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008312
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】割出ツールホルダ
(51)【国際特許分類】
B23B 29/12 20060101AFI20230112BHJP
B23Q 16/06 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
B23B29/12 Z
B23Q16/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111767
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000127042
【氏名又は名称】株式会社アルプスツール
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 満善
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046MM07
3C046PP01
(57)【要約】
【課題】研磨ツールの直動動作を回転ステップ動作に変換し、NC工作機械に取付けることで、研磨ツールの所定角度の回転を自動化することができる割出ツールホルダを提供する。
【解決手段】直進駆動部を割出ツールホルダ本体の内部に収容して、前記直進駆動部を直動往復する駆動手段と、前記割出ツールホルダ本体から前記直進駆動部に向けて付勢された突状部材が係合する案内溝が前記直進駆動部の前記割出ツールホルダ本体との対向面に形成され、前記案内溝は、割出回転角度の位置で、直動方向に平行な長手方向を有する深さの変化する直動溝と、割出回転角度の間を、直動方向に交差する方向に長手方向を有する深さの変化する傾斜溝を有し、前記直動溝と前記傾斜溝は、前記直進駆動部の周方向に沿って交互に配設され、前記直進駆動部の前記対向面を周方向に循環するように連続して配設することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に駆動される直進駆動部の運動を一定角度の回転運動に変換し、ツールの作用点位置を変更することができる割出ツールホルダであって、
前記直進駆動部を割出ツールホルダ本体の内部に収容して、前記直進駆動部を直動往復させる駆動手段と、
前記割出ツールホルダ本体から前記直進駆動部に向けて付勢された突状部材が係合する案内溝が前記直進駆動部の前記割出ツールホルダ本体との対向面に形成され、
前記案内溝は、割出回転角度の位置で、直動方向に平行な長手方向を有する深さの変化する直動溝と、割出回転角度の間を、直動方向に交差する方向に長手方向を有する深さの変化する傾斜溝を有し、
前記直動溝と前記傾斜溝は、前記直進駆動部の周方向に沿って交互に配設され、前記直進駆動部の前記対向面を周方向に循環するように連続して配設することを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記直動溝及び前記傾斜溝は、溝深さが最も大きい基部と、前記基部から長手方向に沿って徐々に溝深さが小さくなる先端部とを備えることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記直動溝及び前記傾斜溝のいずれか一方の前記先端部は、隣り合う前記傾斜溝及び前記直動溝のいずれか他方の前記基部と連続して配設されることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の割出ツールホルダにおいて、
基準状態において、前記突状部材が係合する前記基部の直動方向の位置は、2か所以上であることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記直進駆動部は、ツール固定手段としてのコレット、及び前記コレットを締め付けるキャップを備え、前記コレットを受け入れる内径テーパ面が形成されていることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記割出ツールホルダ本体には、前記直進駆動部を直動方向に付勢する復動用弾性体を設けたことを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項7】
請求項6に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記駆動手段は、流体圧力により前記直進駆動部を前進させることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項8】
請求項6に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記駆動手段は、工作機械上に取り付けた直動ユニットの機械的な動きで前記直進駆動部を前進させることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項9】
請求項6に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記駆動手段は、NCプログラムによるタレット型刃物台の動きで前記直進駆動部を工作機械上に設けた固定突起部に当接させて、前記直進駆動部を前進させることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記駆動手段は、流体圧力により前記直進駆動部を前進及び後進させることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項11】
請求項7または10に記載の割出ツールホルダにおいて、
前記流体圧力は工作機械に使用されるクーラント圧力であることを特徴とする割出ツールホルダ。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の割出ツールホルダにおいて、
取り付けられるツールは研磨ツールであることを特徴とする割出ツールホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動動作を回転ステップ動作(以下、割出動作と記す。)に変換する溝機構を活用した割出ツールホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
金属や樹脂等の切削加工において、旋盤や円筒研削盤等の工作機械を用いる場合には、加工後の製品のエッジ部に外側にはみ出すようなバリの発生がみられる。このようなバリの存在は、後工程や部品同士の組付けに支障をきたす場合があり、また、製品の機能に影響を与える原因となるため、取り除く必要がある。
【0003】
切削加工によるバリの発生は、加工面で生じた塑性変形によって、エッジの外側にはみ出した部分が削り残されることによって発生するものであるが、ワークの材質や加工後の製品形状等によって、バリの大きさや発生箇所がそれぞれ異なる。そのため、バリを除去する方法として、加工後の製品を回転させて、研磨ブラシや砥石、紙やすり等を用いた手作業による磨き加工がこれまで行われてきた。
【0004】
しかしながら、このような手作業による磨き加工は、それぞれのワークに対してひとつずつ行う必要があり、手間と時間を要する。
【0005】
また、最近の工作機械は、安全性確保のため、安全用ドアを開けたままでは旋盤を稼働することができないインターロックを備えており、例えば、特許文献1に記載されたインターロック装置が知られている。このようなインターロック装置を備える工作機械においては、安全用ドアを開けたまま、ワーク用スピンドルを回転させ、手作業での磨き加工をすることが困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような理由から、手作業による磨き加工に代えて、NC工作機械の加工ツールの一つとして、研磨ブラシや砥石等の研磨ツールを取り付け、NCプログラムにより研磨ツールを動かし、磨き加工を行う方法が考えられる。しかしながら、一般的なNC旋盤等の工作機械は、ワークを回転させて、直線または曲線運動をするバイト等の加工ツールをワークに押し当てて加工を行うものであるため、加工ツール側を回転させることができない。このようなNC工作機械に円筒状の研磨ツールを取り付けて磨き加工を行う場合は、研磨ツールの円筒側面の一部分のみがワークと当接することとなり、円筒側面の全周を使用することが困難である。また、研磨ツールのワークに対する作用点を変更したい場合には、工作機械による加工を一旦停止させ、手動で研磨ツールの回転角度を変更し、固定し直す必要がある。なお、回転する回転工具を使用する方法も考えられるが、回転工具のユニットを取り付けるには高額な費用が発生してしまう。
【0008】
そこで、本発明は上記の事項に鑑みてなされたものであり、研磨ツールの直動動作を回転ステップ動作に変換し、NC工作機械に取付けることで、研磨ツールの所定角度の回転を自動化することができる割出ツールホルダを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を達成するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0010】
本願発明に係る割出ツールホルダは、軸線方向に駆動される直進駆動部の運動を一定角度の回転運動に変換し、ツールの作用点位置を変更することができる割出ツールホルダであって、前記直進駆動部を割出ツールホルダ本体の内部に収容して、前記直進駆動部を直動往復する駆動手段と、前記割出ツールホルダ本体から前記直進駆動部に向けて付勢された突状部材が係合する案内溝が前記直進駆動部の前記割出ツールホルダ本体との対向面に形成され、前記案内溝は、割出回転角度の位置で、直動方向に平行な長手方向を有する深さの変化する直動溝と、割出回転角度の間を、直動方向に交差する方向に長手方向を有する深さの変化する傾斜溝を有し、前記直動溝と前記傾斜溝は、前記直進駆動部の周方向に沿って交互に配設され、前記直進駆動部の前記対向面を周方向に循環するように連続して配設することを特徴とする。
【0011】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記直動溝及び前記傾斜溝は、溝深さが最も大きい基部と、前記基部から長手方向に沿って徐々に溝深さが小さくなる先端部とを備えると好適である。
【0012】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記直動溝及び前記傾斜溝のいずれか一方の前記先端部は、隣り合う前記傾斜溝及び前記直動溝のいずれか他方の前記基部と連続して配設されると好適である。
【0013】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、基準状態において、前記突状部材が係合する前記基部の直動方向の位置は、2か所以上であると好適である。
【0014】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記直進駆動部は、ツール固定手段としてのコレット、及び前記コレットを締め付けるキャップを備え、前記コレットを受け入れる内径テーパ面が形成されていると好適である。
【0015】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記割出ツールホルダ本体には、前記直進駆動部を直動方向に付勢する復動用弾性体が設けられると好適である。
【0016】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記駆動手段は、流体圧力により前記直進駆動部を前進させると好適である。
【0017】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記駆動手段は、工作機械上に取り付けた直動ユニットの機械的な動きで前記直進駆動部を前進させると好適である。
【0018】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記駆動手段は、NCプログラムによるタレット型刃物台の動きで前記直進駆動部を工作機械上に設けた固定突起部に当接させて、前記直進駆動部を前進させると好適である。
【0019】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記駆動手段は、流体圧力により前記直進駆動部を前進及び後進させると好適である。
【0020】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、前記流体圧力は工作機械に使用されるクーラント圧力であると好適である。
【0021】
本願発明に係る割出ツールホルダにおいて、取り付けられるツールは研磨ツールであると好適である。
【0022】
上記発明の概要は、本発明に必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた発明となり得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る割出ツールホルダによれば、簡単な構造で、研磨ツールの直動動作を回転ステップ動作に変更することができる。また、NC工作機械に取付けることで、安価な方法で研磨ツールの回転ステップ動作を自動化させ、研磨ツールのワークに対する作用点を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る割出ツールホルダが取り付けられるNC工作機械の一例を示す斜視図。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る割出ツールホルダの断面図であって、(a)は基準状態を示す一部断面図、(b)は前進状態を示す一部断面図、(c)は
図2(a)のA-A断面図。
【
図3】(a)本発明の溝の配置形態Aを有する直進駆動部材の正面図であって、(b)は
図3(a)のB-B拡大断面図、(c)は
図3(a)のC-C拡大断面図。
【
図4】(a)本発明の溝の配置形態Bを有する直進駆動部材の正面図であって、(b)は
図4(a)のD-D拡大断面図、(c)は
図4(a)のE-E拡大断面図。
【
図5】(a)本発明の溝の配置形態Cを有する直進駆動部材の正面図であって、(b)は
図5(a)のF-F拡大断面図、(c)は
図5(a)のG-G拡大断面図。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係るクーラント圧力を利用した直進駆動部の駆動手段の実施例を示す断面図。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係るクーラント圧力を利用した直進駆動部の駆動手段の変形例を示す断面図。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る機械的動作を利用した直進駆動部の駆動手段の実施例を示す断面図。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る割出ツールホルダをタレットツールホルダに取付けた状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る割出ツールホルダが取り付けられるNC工作機械の一例を示す斜視図であり、
図2は、本発明の第1の実施形態に係る割出ツールホルダの断面図であって、(a)は基準状態を示す一部断面図、(b)は前進状態を示す一部断面図、(c)は
図2(a)のA-A断面図である。なお、本明細書において「前後方向」及び「直動方向」とは、
図2における矢印に示す方向と定義する。また、本明細書において「割出」とは、軸線中心に所定の角度ずつステップ的に位置を決め、回転することをいう。また、本明細書において「クーラント圧力」とは、加工に使用する切削液の圧力を意味する。
【0027】
[割出ツールホルダの使用例]
本発明に係る割出ツールホルダは、研磨ツール等を把持し、
図1に一例を示すような、NC旋盤等の工作機械に備えられるタレット型刃物台100に、タレットツールホルダ101を介して取り付けられる。
【0028】
図1に示すNC旋盤は、タレット型刃物台100に対向する位置に、ワークを回転させる主軸台200を備え、主軸台200の先端にはワークを固定するチャック201が取り付けられている。このようなNC旋盤は、ワークが取り付けられた主軸台200の回転を切削又は研磨の主運動とし、本発明に係る割出ツールホルダや切削工具等を取り付けたタレット型刃物台100の直線または曲線運動を送り運動として、主に円筒形の製品を削り出すために用いられる。なお、本実施形態において、割出ツールホルダは、タレット型刃物台100を有するNC旋盤に取付けられる場合について説明を行ったが、割出ツールホルダが使用される工作機械は、これに限らず、櫛刃刃物台等のその他の工作機械であっても構わない。
【0029】
[第1の実施形態]
[割出ツールホルダの部品構成]
本実施形態に係る割出ツールホルダ1は、
図2に示すように、研磨ツールであるバリ取りツール41を把持する直進駆動部10と、直進駆動部10を前後方向に摺動可能に収容する割出ツールホルダ本体30を備える。また、割出ツールホルダ本体30の前方にはスプリングキャップ36を介して、直進駆動部10を前後方向に付勢する復動用弾性体35が設けられており、割出ツールホルダ本体30の円筒側面には、直進駆動部10を前後方向に対して垂直に付勢するストッパ部50を備える。
【0030】
直進駆動部10は、略円筒形の直進駆動部材11と、バリ取りツール41を把持するコレット42と、コレット42を固定するためのコレットナット43によって構成される。
【0031】
直進駆動部材11は、割出ツールホルダ本体30の内径面に対して摺動可能な円筒側面を有する円筒摺動部12と、円筒摺動部12の前方に位置し、円筒摺動部12の軸線に対して同軸に形成された略円筒形のシャフト部15を有する。
【0032】
円筒摺動部12は、
図2(a)に示すように、直進駆動部10が後述するクーラント圧力によって適切に摺動可能となるように、割出ツールホルダ本体30の内径面と所定のクリアランスを形成する円筒側面を有する。また、円筒摺動部12の円筒側面は、割出ツールホルダ本体30に対してスムーズに摺動可能となるように、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。なお、割出ツールホルダ本体30と円筒摺動部12の間のクリアランスによって発生するクーラントの漏れを防ぐため、円筒摺動部12の円筒側面の後方端部に円周溝を設け、Oリング等のシール材を装着しても構わない。
【0033】
また、円筒摺動部12の円筒側面には、
図3(a)に示すように、円筒摺動部12の軸線方向に平行な長手方向を持つ複数の直動溝21と、軸線方向に交差する方向に長手方向を持つ複数の傾斜溝22が形成される。なお、直動溝21と傾斜溝22は、後述する球体51と係合し、直進駆動部10が直動及び割出動作を行う際の案内溝として機能する。本実施形態において、これらの溝の配置については、複数の実施形態を有し、溝の配置形態によって直進駆動部10の直動及び割出の動作が異なる。本実施形態における溝の配置形態、及び直進駆動部10の動作については、後ほど詳しく説明する。
【0034】
また、円筒摺動部12の前方端面には、円筒摺動部12の円筒側面の外径より小さな円筒側面を有するシャフト部15が延設され、円筒摺動部12の前方外縁からシャフト部15の円筒側面の間には、復動用弾性体35の座面を支持するばね支持面16が形成される。
【0035】
シャフト部15の円筒側面は、復動用弾性体35の内径より小さな外径に形成され、復動用弾性体35の内径側に貫通する。なお、シャフト部15の外径は、復動用弾性体35とのこすれが無いよう、復動用弾性体35の内径と適切なクリアランスが確保できるように形成されると好適である。また、復動用弾性体35とシャフト部15との接触を防ぐため、シャフト部15のばね支持面16側の外径を大きくし、段差状のガイドを設けても構わない。
【0036】
シャフト部15には、コレット42が収容可能な深孔が形成され、深孔の入り口付近には、コレット42の側面と嵌合可能な内径テーパ面17を有する。また、シャフト部15の先端部にはコレットナット43を締め付けるためのねじ部18が形成される。なお、コレットナット43を締め付ける際に、直進駆動部材11の回転を押さえるため、レンチ等の工具で掴むことのできる平行二平面19が、ねじ部18の後方に形成されると好適である。
【0037】
このように形成されたシャフト部15によれば、例えば
図2(a)に示すように、ねじ部18に組付けられたコレットナット43を締め付けることで、長手方向の前後に放射状のすり割りが交互に入ったコレット42の側面は、内径テーパ面17に押付けられ、コレット42の内径面はほぼ平行に縮小し、バリ取りツール41を把持することができる。なお、バリ取りツール41の把持方法は、このような内径テーパ面17とコレット42の構造に限らず、既知の固定方法を用いることが可能である。
【0038】
割出ツールホルダ本体30は、
図2(a)に示すように、直進駆動部10が後述するクーラント圧力によって適切に摺動可能となるように、円筒摺動部12の円筒側面と所定のクリアランスを形成する内径面を有する。また、割出ツールホルダ本体30の内径面は、直進駆動部10がスムーズに摺動可能となるように、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。
【0039】
また、割出ツールホルダ本体30は、タレットツールホルダ101の内径に挿入される円筒側面を有し、円筒側面の後方端部には円周溝が形成され、後述するクーラントの漏れを防ぐためのOリングが取り付けられる。なお、割出ツールホルダ本体30の後方縁部には、Oリングの傷付きを防止し、取り付けを容易にするための面取り等が施されると好適である。
【0040】
また、割出ツールホルダ本体30の円筒側面には、タレットツールホルダ101に割出ツールホルダ1が取り付けられた際に、回転方向と前後方向の動きを拘束するための固定機構となる押さえ面31と、ストッパ部50を取り付けるための貫通孔32を有する。
【0041】
押さえ面31は、
図6に一例を示すように、割出ツールホルダ本体30の外径面に形成される平面であって、タレットツールホルダ101に取り付けられる止めねじ103に対応する位置に形成される。割出ツールホルダ1は、止めねじ103を締結することによって回転方向及び前後方向の動きが拘束され、タレットツールホルダ101に取り付けられる。本実施形態において、押さえ面31は、割出ツールホルダ1の軸線方向に並設された2つの止めねじ103の位置に対応する一続きの平面である場合について説明をしたが、押さえ面31の位置及び配置はこれに限らず、少なくとも1つの止めねじ103の位置に合わせて複数に分割されていても構わない。また、タレットツールホルダ101に対する割出ツールホルダ1の固定機構として、キー等の既知の手段を用いても構わない。
【0042】
貫通孔32は、
図2(a)及び(c)に示すように、割出ツールホルダ本体30の軸線方向に対して垂直方向に形成された貫通孔であって、割出ツールホルダ本体30の内径側に位置する貫通孔32の側面は、後述する球体51が嵌入するように形成され、割出ツールホルダ本体30の外径側に位置する貫通孔32の側面には、後述する止めねじ53を螺合するねじ部が形成されている。
【0043】
復動用弾性体35は、シャフト部15を貫通させ、割出ツールホルダ本体30の内径に収容され、圧縮コイルばねが好適に用いられる。復動用弾性体35の一方の座面は、直進駆動部材11のばね支持面16に支持され、他方の座面は、後述するスプリングキャップ36に支持され、所定の荷重で直進駆動部10を後方に付勢した状態で取り付けられる。
【0044】
スプリングキャップ36は、中心にシャフト部15を貫通させ、割出ツールホルダ本体30の前方端面にボルト等の締結部材によって取り付けられる。なお、スプリングキャップ36の取付方法はボルト等によるものに限らず、復動用弾性体35のばね荷重に対抗可能な取付方法であれば、他の取付方法によるものでも構わない。例えば、スプリングキャップ36と割出ツールホルダ本体30とに、対となるねじ加工を施し螺合させてもよく、もしくは、カシメによる機械的な接合等の既知の取付手段によって取り付けても構わない。また、割出ツールホルダ本体30を、スプリングキャップ36と一体となった形状に形成しても構わない。
【0045】
ストッパ部50は、割出ツールホルダ本体30の貫通孔32に取付けられ、球体51、球体用弾性体52、及び止めねじ53によって構成される。
【0046】
球体51は、直動溝21又は傾斜溝22の底面と接し、球体用弾性体52は、球体51と止めねじ53の間に位置し、止めねじ53は貫通孔32のねじ部と螺合し、球体用弾性体52の一方の座面を支持する。この時、球体用弾性体52は、所定の荷重に付勢されており、球体51は、直動溝21又は傾斜溝22の底面を圧接する。また、止めねじ53の全長は、貫通孔32に取付けた際、頭部が割出ツールホルダ本体30の外径からはみ出さない長さに形成されている。なお、本実施形態において、球体51は、球状である場合について説明を行ったが、球体51の形状は、これに限らず、先端部に滑らかな丸みを有する突状部材であればよく、例えば砲弾形のピン等であっても構わない
【0047】
[直動溝と傾斜溝の配置形態、及び直進駆動部の直動・割出動作]
次に、直進駆動部材11の円筒摺動部12に設けられた、直動溝と傾斜溝の配置形態と、各配置形態における直進駆動部10の直動及び割出動作について詳しく説明を行う。
【0048】
図3(a)は、本発明の溝の配置形態Aを有する直進駆動部材の正面図であり、
図4(a)は、本発明の溝の配置形態Bを有する直進駆動部材の正面図であり、
図5(a)は、本発明の溝の配置形態Cを有する直進駆動部材の正面図である。
【0049】
[溝の配置形態A]
本実施形態における溝の配置形態Aは、
図3(a)に示すように、円筒摺動部12の軸線方向に平行な長手方向を持つ複数の直動溝21と、軸線方向に交差する方向に長手方向をもつ複数の傾斜溝22によって構成される。なお、直動溝21と傾斜溝22の溝底面の形状は、溝の長手方向に直交する断面において、円弧状に形成されている。
【0050】
直動溝21は、
図3(b)に示すように、円筒摺動部12の前方側に溝深さが最も深い基部21aを有し、基部21aから直動溝21の長手方向に沿って、徐々に溝深さが浅くなる先端部21bを有する。なお、複数の直動溝21の基部21aは、例えば、円筒摺動部12の周方向に沿って等角度で配置される。
【0051】
傾斜溝22は、
図3(c)に示すように、円筒摺動部12の後方側に溝深さが最も深い基部22aを有し、基部22aから傾斜溝22の長手方向に沿って、徐々に溝深さが浅くなる先端部22bを有する。なお、複数の傾斜溝22の基部22aは、例えば、円筒摺動部12の周方向に沿って等角度で配置される。また、傾斜溝22は、円筒摺動部12の円筒側面の直角断面円弧に沿って深さ変化すると好適である。
【0052】
直動溝21と傾斜溝22は、
図3(a)に示すように、直動溝21の長手方向の軸線上に、傾斜溝22の基部22aが位置するように配設され、直動溝21は、当該傾斜溝22に接続される。また、当該傾斜溝22の長手方向の軸線上には、隣り合う直動溝21の基部21aが位置し、当該傾斜溝22は、隣り合う直動溝21に接続される。直動溝21と傾斜溝22は、上記のような位置関係を保ち、円筒摺動部12の周方向に沿って繰り返し配設される。そのため、円筒摺動部12の円筒側面には、直動溝21と傾斜溝22とが交互に連続し、周方向に一周する循環溝が形成される。
【0053】
上記のような直動溝21と傾斜溝22の配置によれば、
図3(b)に示すように、溝深さの深い基部22aと、溝深さの浅い先端部21bとが接続し、
図3(c)に示すように、溝深さの深い基部21aと、溝深さの浅い先端部21bとが接続するため、直動溝21と傾斜溝22の接続部には、緩やかな底面と急峻な底面とからなる段差23が形成される。なお、段差23のエッジ部は滑らかに接続されていると好適である。
【0054】
次に、上記のような溝の配置形態Aを備える直進駆動部10が、直動及び割出する際の動作について説明を行う。
【0055】
直進駆動部10が外部からの荷重を受けていない状態(以下、「基準状態」という。)を、
図2(a)に示す。基準状態では、直進駆動部10は、復動用弾性体35によって直動方向の後方に向かって付勢され、かつ、球体51が直動溝21の基部21aと係合することにより静止している。
【0056】
基準状態にある直進駆動部10は、後述する駆動手段によって後方から荷重を加えられると、割出ツールホルダ本体30の内径を摺動し、復動用弾性体35をたわませて前進する。このとき、直進駆動部10は、球体51に直動溝21が案内されることで直動し、球体51の圧接位置は、
図3(b)に示す基部21aから直動溝21に沿って先端部21bへ移動する。さらに直進駆動部10が前進すると、球体51の圧接位置は、段差23を乗り越えて、傾斜溝22の基部22aに移行する。このとき、球体51は、
図2(b)に示すように、基部22aと係合し、直進駆動部10は前進を停止させる。(以下、この時の状態を「前進状態」という。)
【0057】
前進状態の直進駆動部10から駆動手段による荷重をなくすと、付勢された復動用弾性体35の反発力によって、直進駆動部10には前方から押し戻されるように荷重が加わり、直進駆動部10は後方へ移動する。このとき、直進駆動部10は、球体51に傾斜溝22が案内されることで軸線を中心に回転を伴いながら後方に移動し、球体51の圧接位置は、
図3(c)に示す基部22aから傾斜溝22に沿って前方に位置する先端部22bへ移動する。
【0058】
なお、前述の通り、傾斜溝22は、基部22aから先端部22bにかけて、徐々に溝深さが浅くなるように形成されている一方で、基部22aから直動溝21へ向かう段差23の斜面は、急峻に形成されている。このため、直進駆動部10が後方に移動する際、基部22aに位置する球体51の圧接位置は、再び段差23を乗り越えて直動溝21に戻ることなく、確実に傾斜溝22を選択する。
【0059】
このあと、さらに直進駆動部10が押し戻されると、球体51の圧接位置は、段差23を乗り越えて、傾斜溝22と接続する直動溝21の基部21aに移行し、直進駆動部10は後進を停止する。このとき球体51が係合する基部21aは、基準状態において係合していた直動溝21に隣接する直動溝21の基部21aであるため、直進駆動部10は、基準状態に対して所定の角度だけ回転した状態となる。
【0060】
このように、駆動手段と復動用弾性体35によって、直進駆動部10を直動往復させることで、直進駆動部10の割出を行うことができる。また、直動溝21と傾斜溝22は、周方向に一周するように連続する循環溝であるため、直進駆動部10を繰り返し直動往復させて、直進駆動部10の割出を継続させることができる。
【0061】
また、溝の配置形態Aによれば、直進駆動部10が前進する際に、割出動作を行わず直動動作のみが行われる。そのため、必要となる駆動手段の直進駆動部10への荷重は、復動用弾性体35を押し縮めることができればよく、割出動作を伴いながら復動用弾性体35を押し縮める場合よりも小さくすることができる。また、復動用弾性体35に圧縮コイルばねが用いられる場合、押し縮められた圧縮コイルばねの伸長により割出動作が行われるため、圧縮コイルばねの縮長と割出動作が同時に行われることがなく、割出回転方向に逆らう圧縮コイルばねのねじれ力が作用するおそれがない。
【0062】
また、傾斜溝22の長手方向の角度を、円筒摺動部12の軸線方向に対して逆方向に交差させることで、直進駆動部10の割出回転方向を反転させることができる。
【0063】
[溝の配置形態B]
【0064】
次に説明する溝の配置形態Bは、
図4(a)に示すように、上述した溝の配置形態Aに対して、傾斜溝の長手方向の角度、及び直動溝と傾斜溝の基部の位置が異なる。
【0065】
すなわち、溝の配置形態Aの傾斜溝22は、
図3(a)に示すように、基部22aが円筒摺動部12の後方に位置し、基部22aから前方に向かって、軸線方向と交差する方向に徐々に溝深さが浅くなるのに対し、溝の配置形態Bの傾斜溝22’は、
図4(a)に示すように、基部22a’が円筒摺動部12の前方に位置し、基部22a’から後方に向かって、軸線方向と交差する方向に徐々に溝深さが浅く形成される。
【0066】
また、溝の配置形態Aの直動溝21は、基部21aが円筒摺動部12の前方に位置し、軸線方向の後方に向かって徐々に溝深さが浅くなるのに対し、溝の配置形態Bの直動溝21’は、基部21a’が円筒摺動部12の後方に位置し、軸線方向の前方に向かって徐々に溝深さが浅く形成される。
【0067】
なお、その他の、溝の底面形状や、直動溝と傾斜溝との接続部等については、溝の配置形態Aと同様の構成によって形成されており、これらの構成については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
次に、上記のような溝の配置形態Bを備える直進駆動部10が、直動及び割出する際の動作について説明を行う。
【0069】
直進駆動部10が基準状態にあるとき、直進駆動部10は、復動用弾性体35によって直動方向の後方に向かって付勢され、球体51が傾斜溝22’の基部22a’と係合することによって静止している。
【0070】
基準状態にある直進駆動部10は、後述する駆動手段によって後方から荷重を加えられると、割出ツールホルダ本体30の内径を摺動し、復動用弾性体35をたわませて前進する。このとき、直進駆動部10は、球体51に傾斜溝22’が案内されることで軸線を中心に回転を伴いながら前方に移動し、球体51の圧接位置は、基部22a’から傾斜溝22’に沿って先端部22b’へ移動する。さらに直進駆動部10が前進すると、球体51の圧接位置は、段差23を乗り越えて、直動溝21’の基部21a’に移行し、直進駆動部10は前進を停止させ前進状態に至る。
【0071】
前進状態の直進駆動部10から駆動手段による荷重をなくすと、付勢された復動用弾性体35の反発力によって、直進駆動部10には前方から押し戻されるように荷重が加わり、直進駆動部10は後方へ移動する。このとき、直進駆動部10は、球体51に直動溝21’が案内されることで後方に直動し、球体51の圧接位置は、基部21a’から直動溝21’に沿って先端部21b’へ移動する。さらに直進駆動部10が押し戻されると、球体51の圧接位置は、段差23を乗り越えて、基準状態で係合していた基部と隣接する傾斜溝22’の基部22a’に移行し、直進駆動部10は後進を停止する。
【0072】
このように、溝の配置形態Aによる直進駆動部10の割出動作は、直進駆動部10が復動用弾性体35の反発力によって押し戻され、後方に移動する際に割出を行うのに対し、溝の配置形態Bによる直進駆動部10の割出動作は、直進駆動部10が駆動手段によって前方に押し出される際に割出を行う点において異なる。
【0073】
[溝の配置形態C]
次に説明する溝の配置形態Cは、
図5(a)に示すように、上述した溝の配置形態Aに対して、隣り合う直動溝の基部の位置が、交互に、円筒摺動部12の軸線方向に前後して配置される点において異なる。
【0074】
溝の配置形態Cの直動溝24の基部24aは、隣り合う直動溝21の基部21aに対して、軸線方向に距離Lだけ後方に間隔をあけて形成され、直動溝21と直動溝24は、円筒摺動部12の円周方向に沿って交互に配置される。
【0075】
また、傾斜溝25の長手方向の軸線上には直動溝24の基部24aが位置し、傾斜溝22の長手方向の軸線上には直動溝21の基部21aが位置しており、直動溝21、傾斜溝25、直動溝24、傾斜溝22の順に繰り返し連続して接続される循環溝が、円筒摺動部12の円筒側面に形成される。なお、傾斜溝22、25の基部22a、25aは、円筒摺動部12の周方向に沿って配置されているため、傾斜溝22と25の長手方向は、円筒摺動部12の軸線方向に対して異なる角度で交差している。
【0076】
なお、その他の、溝の底面形状や、直動溝と傾斜溝との接続部等については、溝の配置形態Aと同様の構成によって形成されており、これらの構成については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する
【0077】
次に、上記のような溝の配置形態Cを備える直進駆動部10が、直動及び割出する際の動作について説明を行う。
【0078】
溝の配置形態Cを備える直進駆動部10は、溝の配置形態Aを備える場合と同様に、基準状態から駆動手段によって押し出され前進状態に至り、前進状態から復動用弾性体35の反発力によって押し戻され、後方に移動する際に割出が行われる。
【0079】
溝の配置形態Cにおいては、前述の通り、隣り合う基部21a、24aが直進駆動部10の軸線方向に距離Lだけ離れた位置に配置されている。そのため、例えば当初の基準状態において、球体51が基部21aと係合していた場合、直進駆動部10が直動及び割出動作をして一往復すると、球体51は基部24aと係合し、直進駆動部10は、基準状態に対して軸線方向に距離Lの分だけ前進した状態で動作が完了する。
【0080】
すなわち、直進駆動部10は軸線方向に直動往復するたびに、軸線方向の停止位置を前後に変えて、割出が行われる。なお、本実施形態においては、基部21aと基部24aの位置は、軸線方向に距離Lだけ離間して形成され、直進駆動部10の停止位置が2段階となる場合について説明を行ったが、基部の位置はこれに限らず、例えば、直進駆動部10の停止位置が3段階以上に離間するように形成されても構わない。
【0081】
[直進駆動部の駆動手段]
次に、本実施形態における直進駆動部10の駆動手段について説明を行う。本実施形態における駆動手段は、NC工作機械に使用されるクーラント圧力を利用して直進駆動部10の後方に荷重をかける方法と、機械的な動作によって直進駆動部10の後方に荷重をかける方法に大別される。
【0082】
[クーラント圧力を利用した駆動手段]
図6は、クーラント圧力を利用した直進駆動部10の駆動手段の実施例を示す。本駆動手段において、割出ツールホルダ1は、オイルホール工具対応型のタレットツールホルダ101に取付けられる。
【0083】
オイルホール工具対応型のタレットツールホルダ101は、後方に蓋部材102が気密に取り付けられ、割出ツールホルダ1と蓋部材102との間に、密閉空間105を形成する。また、タレットツールホルダ101の後方には、蓋部材102に設けられた通路を介して、密閉空間105と連通するクーラント吐出口104が設けられており、NC工作機械のクーラントを吐出することで、密閉空間105内の圧力を上昇させることができる。
【0084】
割出ツールホルダ1とタレットツールホルダ101との間は、割出ツールホルダ本体30の後端部に取付けられたOリングによって密閉されており、また、割出ツールホルダ本体30の内径面と円筒摺動部12の円筒側面とのクリアランスは、直進駆動部10がクーラント圧力によって適切に摺動可能となるように設定されている。このため、密閉空間105内の圧力上昇によって、直進駆動部10の後方端面には面圧がかかり、直進駆動部10は前方へ押し出される。なお、直進駆動部10の後方への駆動については、クーラントの停止により、前述のとおり、円筒摺動部12の前方端部にかかる復動用弾性体35の反発力によって、直進駆動部10は、押し戻される。
【0085】
また、クーラント圧力を利用した駆動手段に使用されるタレットツールホルダの構成は、上記に限らず、
図7に示すように、タレットツールホルダ106の後方に、クーラント流入口108が設けられた蓋部材107を気密に取り付けて構成されていても構わない。クーラント流入口108には、管用テーパねじ等の接続構造が施されており、クーラントが供給される配管等と接続可能となっている。また、割出ツールホルダ1と蓋部材107との間には、上記と同様な密閉空間109が形成される。このようなタレットツールホルダ106を用いて、クーラントを密閉空間109に直接流入して圧力を上昇させ、直進駆動部10を駆動させても構わない。
【0086】
なお、本実施形態においては、直進駆動部10の後方端面にクーラント圧による荷重をかけ、直進駆動部10の前方に復動用弾性体35を配置することによって、直進駆動部10を直動往復させる方法について説明を行ったが、荷重をかける方向はこれに限らず、直進駆動部10の後方に復動用弾性体35を配置させ、直進駆動部10の前方からクーラント圧による荷重をかけて、直進駆動部10を直動往復させても構わない。
【0087】
[機械的動作を利用した駆動手段]
図8は、機械的動作を利用した直進駆動部10の駆動手段の実施例を示す。本駆動手段において、割出ツールホルダ1は、後方が開放されたタレットツールホルダ110に取付けられる。
【0088】
本駆動手段が用いられるNC工作機械には、NC工作機械上にシリンダー等の直動ユニットが取り付けられており、直動ユニットのピストンロッド先端部111が直進駆動部10の後方端面に当接している。直進駆動部10を駆動させるには、直動ユニットを操作し、ピストンロッド先端部111を押し込むことで、直進駆動部10を前進させる。なお、直進駆動部10の後方への駆動については、前述のとおり、円筒摺動部12の前方端部にかかる復動用弾性体35の反発力によって、直進駆動部10は、押し戻される。
【0089】
また、NCプログラムによるタレット型刃物台100の動きを利用して、直進駆動部10の後方端面を、工作機械上に設置された固定突起部等に当接させ、直進駆動部10を前進させても構わない。
【0090】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係る割出ツールホルダ1は、直進駆動部10を駆動手段によって前進させ、復動用弾性体35の反発力によって後進させて、直動・割出動作を行う割出ツールホルダについて説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る割出ツールホルダ6は、第1の実施形態と異なる方法によって前後方向に直動させ、割出動作を行う割出ツールホルダについて説明を行う。なお、上述した第1の実施形態と同一または類似する構成については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0091】
[割出ツールホルダの部品構成]
図9は、本発明の第2の実施形態に係る割出ツールホルダ要素をタレットツールホルダに取付けた状態を示す断面図である。
【0092】
第2の実施形態に係る割出ツールホルダ6は、
図9に示すように、旋削ツール44を把持する直進駆動部60と、直進駆動部60を摺動可能に収容するスリーブ80によって構成される。また、スリーブ80の円筒側面には、直進駆動部60を前後方向に対して垂直に付勢するストッパ部50を備える。
【0093】
直進駆動部60は、
図9に示すように、略円筒形の直進駆動部材61と、旋削ツール44を把持するコレット42と、コレット42を固定するためのコレットナット43によって構成される。
【0094】
直進駆動部材61は、スリーブ80の内径面に対して摺動可能な円筒側面を有する円筒摺動部62と、円筒摺動部62の前方に位置し、円筒摺動部12の軸線に対して同軸に形成されたシャフト部15を有する。
【0095】
円筒摺動部62は、スリーブ80の内径面に対して摺動可能であると共に、後述するクーラントの漏れが無いように、軸線方向の両端部にOリングを取り付けるための円周溝を有する。なお、円筒摺動部62の円筒側面は、スリーブ80に対してスムーズに摺動可能となるように、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。
【0096】
円筒摺動部62の円筒側面には、第1の実施形態と同様に、円筒摺動部62の軸線方向に平行な長手方向を持つ複数の直動溝21と、軸線方向と交差する方向に長手方向を持つ複数の傾斜溝22が形成される。本第2の実施形態において実施される溝の配置形態、及び直進駆動部60の動作については、第1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0097】
スリーブ80は、直進駆動部60を摺動可能に収容すると共に、後述するクーラントの漏れが無いように、円筒摺動部62の両端部に取付けられたOリングと対応する内径面を有する。なお、スリーブ80の内径面は、直進駆動部60がスムーズに摺動可能となるように、滑らかな表面に仕上げられていると好適である。また、スリーブ80の全長は、円筒摺動部62の全長に対して長く形成されている。そのため、
図9に示すように、割出ツールホルダ6が後述するタレットツールホルダ112へ取り付けられた状態において、基準状態にあるときに、円筒摺動部62の前方端面と後述する前蓋部材113との間には密閉空間115が形成される。また、密閉空間115の全長は、直進駆動部60の前進状態において円筒摺動部62の前方端面と前蓋部材113の後方端面が接触するように、円筒摺動部62の円筒側面に施された直動溝21及び傾斜溝22に対応して形成されている。このため、直進駆動部60が直動・割出動作を行う際には、円筒摺動部62の前方端面と前蓋部材113の後方端面が接触することで直進駆動部60の前進が停止し、前進状態に至る。
【0098】
スリーブ80の円筒側面には、タレットツールホルダ112に割出ツールホルダ6が取り付けられた際に固定機構となる押さえ穴底面81と、ストッパ部50を取り付けるための貫通孔32を有する。
【0099】
また、スリーブ80の円筒側面は、クーラントの漏れがないように、タレットツールホルダ112の内径面に対して適切なはめ合いとなるように形成されている。なお、スリーブ80のタレットツールホルダ112への組付けは、
図9に示すようなはめ合いに限らず、Oリング等のシール材を使用しても構わない。このような場合には、スリーブ80の円筒側面、またはタレットツールホルダ112の内径面に円周溝が形成される。
【0100】
上記のように構成される第2の実施形態の割出ツールホルダ6は、
図9に示すような、軸線方向の前後に前蓋部材113と後蓋部材114を有するタレットツールホルダ112に取付けられる。
【0101】
前蓋部材113には、シャフト部15を貫通させる貫通孔116が形成され、図示しない締結手段により、タレットツールホルダ112の前方端面に気密に取り付けられる。
【0102】
貫通孔116の内径面には円周溝が設けられ、貫通孔116とシャフト部15との間には、クーラントの漏れを防ぐためのOリングが取り付けられる。
【0103】
前蓋部材113の後方端面とスリーブ80の前方端面との間には、割出ツールホルダ6の取付状態において、所定の隙間117が形成される。また、前蓋部材113の後方端面には、後述するクーラント流入孔118と対応する位置に、クーラント流入孔118とスリーブ80の内径を連絡する溝部120が形成されている。なお、後述する高圧クーラントによって円筒摺動部62の前方端面に面圧を負荷させるため、前蓋部材113の後方端面には、円筒摺動部62の外径よりも小さな内径を有し、溝部120と連絡するざぐり穴が形成されると好適である。
【0104】
タレットツールホルダ112には、割出ツールホルダ6の回転方向及び前後方向の動きを拘束する止めねじ103が取り付けられる。また、タレットツールホルダ112には、隙間117と対応する位置に、管用テーパねじ等の配管との接続構造を有するクーラント流入孔118が設けられている。
【0105】
後蓋部材114は、図示しない締結手段により、タレットツールホルダ112の後方端面に気密に取り付けられる。また、後蓋部材114には、管用テーパねじ等の配管との接続構造を有するクーラント流入孔119が設けられている。なお、後蓋部材114の前方端面は、
図9に示すように、基準状態において円筒摺動部62の後方端面と接触するように、円筒摺動部62の円筒側面に施された案内溝に対応して形成されている。このため、直進駆動部60が直動・割出動作を行う際には、円筒摺動部62の後方端面と後蓋部材114の前方端面が接触することで直進駆動部60の後進が停止し、基準状態に至る。
【0106】
[直進駆動部の駆動手段]
次に、本実施形態における直進駆動部60の駆動手段について説明を行う。第2の実施形態においては、NC工作機械に使用される高圧クーラント等の高い圧力を利用して、直進駆動部60の前進及び後進の直動動作と割出動作を行う。
【0107】
図9に示すような、基準状態にある直進駆動部60を前進させる場合には、後蓋部材114のクーラント流入孔119から高圧クーラントを吐出させる。この時、密閉空間115はクーラントで満たされており、タレットツールホルダ112のクーラント流入孔118からの圧力は、供給がされていない。そのため、クーラント流入孔119へかかる圧力は、直進駆動部60を前進させ、密閉空間115を満たしているクーラントは、隙間117を通過し、クーラント流入孔118から排出される。さらに直進駆動部60が前進すると、円筒摺動部62の前方端面と前蓋部材113が接触し、直進駆動部60は前進を停止し、前進状態となる。このとき、円筒摺動部62の前方端面は、前蓋部材113に形成された溝部120によって、クーラント流入孔118と連絡した状態となる。
【0108】
その後、前進状態にある直進駆動部60を後進させ、割出動作をさせる場合には、タレットツールホルダ112のクーラント流入孔118から高圧クーラントを吐出させる。
高圧クーラントは、溝部120を介して円筒摺動部62の前方端面に面圧をかけ、直進駆動部60を後進させる。このとき、後蓋部材114のクーラント流入孔119からは、圧力の供給がされておらず、直進駆動部材61の後方に満たされているクーラントは、クーラント流入孔119から排出される。さらに直進駆動部60が後進すると、円筒摺動部62の後方端面と後蓋部材114の前方端面が接触し、直進駆動部60は後進を停止し、基準状態となる。
【0109】
このように、第2の実施形態によれば、直進駆動部60は、基準状態において、円筒摺動部62の前方端面から流体圧力がかかり、後方端部は後蓋部材114と接した状態で静止している。このため、第1の実施形態と比較して直進駆動部60を前後方向に固定する力が強く、研磨ツールのみならず旋削ツール44を割出ツールホルダ6に取り付けることができる。旋削ツール44としては、例えば複数刃を設けた旋削ツール等を使用することができ、複数刃の各刃先に対応した割出動作を行うことで、長く連続した加工が可能となる。
【0110】
上述したように、第1及び第2の実施形態によれば、特別な設備を設けることなく、NC工作機械に使用されているクーラント圧力やタレット型刃物台100の動作を利用して、研磨ツールの直動動作を回転ステップ動作に変更することができる。そのため、NC工作機械によるバリ取り作業や磨き加工において、安価な方法でブラシや砥石等の研磨ツールの回転を自動化させることができ、研磨ツールのワークに対する作用点を自動で変更することができるため、研磨ツールを円周方向に無駄なく使用することができる。また、従来の手動による研磨ツールや旋削ツール等の付け直しを行う必要がなくなるため、生産効率を上げることができる。
【0111】
なお、上記では、直進駆動部の駆動手段として、NC工作機械に使用されているクーラント圧力を利用する場合について説明を行ったが、直進駆動部を駆動させる流体圧力は、クーラント圧力によるものに限らず、一般的な油圧機器に使用される作動油等による圧力であっても構わない。また、記載した要素は必要最小限のものであって、機能改良のための部品を適宜追加して組付けても構わない。例えば、ばね支持面16と復動用弾性体35との間に円盤状の部品を挟み、圧縮コイルばねのねじり力を解消して割出回転をしやすくしても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0112】
1 割出ツールホルダ, 10 60 直進駆動部, 11 61 直進駆動部材,12 62 円筒摺動部, 15 シャフト部, 16 ばね支持面, 17 内径テーパ面, 18 ねじ部, 19 平行二平面, 21 21’ 24 直動溝,21a 21a’ 22a 22a’ 24a 25a 基部, 21b 21b’ 22b 22b’ 24b 25b 先端部, 22 22’ 25 傾斜溝, 23 段差, 30 割出ツールホルダ本体, 31 押さえ面, 32 116 貫通孔, 35 復動用弾性体, 36 スプリングキャップ, 41 バリ取りツール, 42 コレット, 43 コレットナット, 44 旋削ツール, 50 ストッパ部, 51 球体, 52 球体用弾性体, 53 103 止めねじ, 80 スリーブ, 81 押さえ穴底面, 100 タレット型刃物台, 101 106 110 112 タレットツールホルダ, 102 107 蓋部材, 104 クーラント吐出口, 105 109 115 密閉空間, 108 118 119 クーラント流入孔, 111 ピストンロッド先端部, 113 前蓋部材, 114 後蓋部材, 117 隙間, 120 溝部, 200 主軸台, 201 チャック。