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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083164
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】ウイルス吸着シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/36 20060101AFI20230608BHJP
   D21H 17/00 20060101ALI20230608BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230608BHJP
   B01D 39/18 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
D21H21/36
D21H17/00
B01D39/16
B01D39/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197383
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】北原 浩
(72)【発明者】
【氏名】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田畑 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4D019
4L055
【Fターム(参考)】
4D019AA10
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB01
4D019BC05
4D019BC13
4D019BD01
4D019DA01
4D019DA03
4L055AF09
4L055AF21
4L055AF33
4L055AG02
4L055AG04
4L055AG18
4L055AG71
4L055AG97
4L055AH37
4L055AH50
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA14
4L055FA30
4L055GA26
4L055GA31
(57)【要約】
【課題】簡便な工法で作製でき、通気性とウイルス捕捉効果の両立が図られたウイルス吸着シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ウイルス吸着材と、親水性繊維又はパルプの少なくともいずれかを含む繊維とを含有する吸着性組成物を単層に形成してなるウイルス吸着シートであって、吸着性組成物の固形分に対するウイルス吸着材の割合が20~95質量%であり、繊維の合計量に対する親水性繊維及びパルプの合計量の割合が30~100質量%であり、ウイルス吸着シートの密度が0.1~0.7g/cmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス吸着材と、親水性繊維又はパルプの少なくともいずれかを含む繊維とを含有する吸着性組成物を単層に形成してなるウイルス吸着シートであって、
前記吸着性組成物の固形分に対する前記ウイルス吸着材の割合が20~95質量%であり、
前記繊維の合計量に対する前記親水性繊維及び前記パルプの合計量の割合が30~100質量%であり、
前記ウイルス吸着シートの密度が0.1~0.7g/cmであることを特徴とするウイルス吸着シート。
【請求項2】
前記親水性繊維が、平均繊維長0.5~10mm、繊度0.05~5dtex、アスペクト比10~5000である、請求項1に記載のウイルス吸着シート。
【請求項3】
前記パルプの叩解度が10~700CSFである、請求項1又は2に記載のウイルス吸着シート。
【請求項4】
前記繊維が、平均繊維長0.5~10mm、繊度0.05~5dtex、アスペクト比10~5000、叩解度10~700CSFの疎水性繊維を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のウイルス吸着シート。
【請求項5】
前記吸着性組成物が、前記固形分に対して20質量%以下の割合で、さらにバインダを含有するか、又は、前記バインダを含有していない、請求項1~4のいずれか1項に記載のウイルス吸着シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のウイルス吸着シートの製造方法であって、前記吸着性組成物を含むスラリーを湿式抄紙法で抄造することを特徴とするウイルス吸着シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス吸着シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウイルスを除去するフィルターとして、例えば、次の先行技術文献が開示されている。
【0003】
特許文献1には、粒状燐灰石とバインダーマトリックスを含み、多孔ブロックまたはシートの形態をした流体用浄化材料が記載されている。具体的には、粒状燐灰石がバインダーマトリックス内に固定されており、ポアがバインダーマトリックス内に固定された粒状燐灰石間に形成されている。そのため、微生物を含む流体がポアを流通することで微生物が流体から分離される。
【0004】
特許文献2には、第1マスク体と、主濾過層と、空気隔離体と、第2マスク体とを含み、環状の空気隔離体の内周部が主濾過層の外周部と重なり、第1マスク体及び第2マスク体の接着領域を空気隔離体に接合したマスク構造が記載されている。
【0005】
特許文献3には、着用者の鼻及び口を含む顔面下部を覆う本体部が、内面シート、病原体不活性化層、外面シートが、着用者側からこの順で積層された積層体を有し、積層部の下部には下部ポケット部を有し、積層部の上部には上部ポケット部、テープ部材、ワイヤー部材とからなる群から選ばれる少なくとも一つを有するマスクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3706578号公報
【特許文献2】特許第6496047号公報
【特許文献3】特許第5476112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された流体用浄化材料は、気体または水性液のいずれの流体にも適用可能としているが、実施例に開示された材料は長さが9.8インチの円筒状ブロックである。フィルターの厚み(長さ)が大きいため、浄水用途には利用できるが、身体に着ける形態の具体例は示されていない。
【0008】
特許文献2には、主濾過層が殺菌材料または吸着材料を含むこと、そして、吸着材料が例えば複数の活性炭粒子であることが記載されている。しかし、主濾過層に活性炭を担持させる方法については、具体的な記載がない。
【0009】
特許文献3には、病原体不活性化層を構成する複数枚のシート状材料のうち少なくとも1枚が、金属イオンを担持した無機物を含有するシートであって、具体的には、超微細セルロース(MFC)と、銅イオンを担持した無機物を混合したスラリーを不織布に塗工して得られた不活性化シートが記載されている。しかし、不活性化シートは、製造の工程数が多く、煩雑である。
【0010】
ウイルス吸着材を含む塗料をコーティング、乾燥する工法により作製するシートは、充分な通気性を確保することが難しい。一方、充分な通気性を確保するために、ウイルス吸着材の担持量を減らすと、ウイルス捕捉効果が低下する。即ち、通気性とウイルス捕捉効果はトレードオフの関係にあり、両立が難しい。また、塗料をコーティング、乾燥する工法により作製するシートは、製造の工程数が多く、煩雑である。
【0011】
そこで、本発明は、簡便な工法で作製でき、通気性とウイルス捕捉効果の両立が図られたウイルス吸着シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、ウイルス吸着材と、親水性繊維又はパルプの少なくともいずれかを含む繊維とを含有する吸着性組成物を単層に形成してなるウイルス吸着シートであって、前記吸着性組成物の固形分に対する前記ウイルス吸着材の割合が20~95質量%であり、前記繊維の合計量に対する前記親水性繊維及び前記パルプの合計量の割合が30~100質量%であり、前記ウイルス吸着シートの密度が0.1~0.7g/cmであることを特徴とする。
【0013】
第2の態様は、第1の態様のウイルス吸着シートにおいて、前記親水性繊維が、平均繊維長0.5~10mm、繊度0.05~5dtex、アスペクト比10~5000である。
【0014】
第3の態様は、第1又は第2の態様のウイルス吸着シートにおいて、前記パルプの叩解度が10~700CSFである。
【0015】
第4の態様は、第1~3のいずれか1の態様のウイルス吸着シートにおいて、前記繊維が、平均繊維長0.5~10mm、繊度0.05~5dtex、アスペクト比10~5000、叩解度10~700CSFの疎水性繊維を含有する。
【0016】
第5の態様は、第1~4のいずれか1の態様のウイルス吸着シートにおいて、前記吸着性組成物が、前記固形分に対して20質量%以下の割合で、さらにバインダを含有するか、又は、前記バインダを含有していない。
【0017】
第6の態様は、第1~5のいずれか1の態様のウイルス吸着シートの製造方法であって、前記吸着性組成物を含むスラリーを湿式抄紙法で抄造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡便な工法で作製でき、通気性とウイルス捕捉効果の両立が図られたウイルス吸着シート及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
実施形態のウイルス吸着シートは、ウイルス吸着材と、繊維とを含有する吸着性組成物を単層に形成してなるシートである。以下の説明では、ウイルス吸着シートを単に「シート」と称する場合がある。
【0020】
ウイルス吸着材としては、トリポーラス(登録商標)等の活性炭、ゼオライト、ドロマイト、粘土鉱物、アパタイト、活性アルミナ等の多孔質材料が挙げられる。活性炭としては、特に限定されないが、植物性の有機質から焼成した炭素分が挙げられる。植物性の有機質としては、木材、竹材、籾殻、椰子殻、藁、茶葉等が挙げられる。
【0021】
吸着性組成物の固形分に対するウイルス吸着材の割合は、固形分の合計100質量%のうち、20~95質量%が好ましく、25~90質量%がより好ましく、30~80質量%がさらに好ましい。固形分に対するウイルス吸着材の割合が95質量%を超えると、シートからウイルス吸着材が脱落しやすくなり、シートの形成が困難になる。ウイルス吸着材の割合が少なくと、ウイルス捕捉効果が低下する。
【0022】
吸着性組成物に含有される繊維は、親水性繊維又はパルプの少なくともいずれかを含む。これにより、シートの吸水性、ウイルス捕捉効果を向上することができる。前記繊維の合計量に対する親水性繊維及びパルプの合計量の割合は、繊維の合計100質量%のうち、30~100質量%が好ましく、35~95質量%がより好ましく、40~90質量%がさらに好ましい。前記繊維の合計量に対する親水性繊維及びパルプの合計量の割合が30質量%未満であると、シートの吸水性、ウイルス捕捉効果が低下するため、好ましくない。
【0023】
吸着性組成物に含有される繊維は、親水性繊維のみでもよく、パルプのみでもよく、親水性繊維及びパルプを併用してもよい。親水性繊維及びパルプ以外の繊維として、吸着性組成物に疎水性繊維を併用してもよい。前記繊維の合計量に対する疎水性繊維の割合は、繊維の合計100質量%のうち、0~70質量%が好ましく、5~65質量%がより好ましく、10~60質量%がさらに好ましい。
【0024】
親水性繊維としては、パルプ以外の親水性繊維であれば特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシル基などの親水性官能基を有する合成繊維が挙げられる。親水性繊維の具体例としては、ポリビニルアルコール繊維、レーヨン繊維、親水化処理を施した合成繊維などが挙げられる。親水性繊維の断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良い。
【0025】
親水性繊維の平均繊維長は、0.5~10mmが好ましく、1~8mmがより好ましく、2~6mmがさらに好ましい。親水性繊維の繊維長が短いと、シートの通気性が低下するおそれがある。親水性繊維の繊維長が長いと、シート内で組成のムラができやすくなる。
【0026】
本明細書における繊維の「平均繊維長」とは、顕微鏡で例えば、20本の繊維の長さを測定し、測定値を平均した値である。
【0027】
親水性繊維の繊度は、0.05~5dtexが好ましく、0.1~3dtexがより好ましく、0.2~2dtexがさらに好ましい。親水性繊維の繊度が小さい(繊維が細い)と、シートの通気性が低下するおそれがある。親水性繊維の繊度が大きい(繊維が太い)と、ウイルス吸着材が繊維に担持されにくくなる。
【0028】
繊維の繊度(dtex)は、JIS L0101(テックス方式)に従い、繊維の長さ当たり質量をdg/kmで表した数値である。1dg(デシグラム)は、0.1gに等しい。
【0029】
親水性繊維のアスペクト比は、10~5000が好ましく、50~2000がより好ましく、100~1000がさらに好ましい。親水性繊維のアスペクト比が小さいと、シートの強度が低下するおそれがある。親水性繊維のアスペクト比が大きいと、繊維が絡まりやすく、シートの剛性が向上する。
【0030】
繊維のアスペクト比は、繊維長/繊維径の比として算出することができる。繊維径は、繊維の断面形状を真円と仮定する場合、繊度(質量/長さ)=断面積×密度、及び、断面積=円周率×(繊維径/2)の関係より、繊維の繊度と密度から求めることができる。
【0031】
吸着性組成物の固形分のうち、ウイルス吸着材以外の成分の合計100質量%に対する親水性繊維の割合は、0~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましく、15~70質量%がさらに好ましい。親水性繊維の配合量が高くなるほど、シートの抗ウイルス性に効果が出やすくなる。親水性繊維の割合が少なすぎても、他の繊維を併用することにより、シート形成は可能であるが、親水性繊維の割合が多いほど、シートの剛性が向上し、好ましい。
【0032】
パルプとしては、天然植物材料を主な原料とするセルロース繊維であれば特に限定されないが、木材パルプ、靭皮パルプ、非木材パルプ、古紙パルプ等が挙げられる。パルプの少なくとも一部として、木材パルプを微細化したマイクロフィブリル化セルロース(MFC)を用いることも可能である。パルプは、未叩解パルプでもよく、叩解パルプでもよい。
【0033】
パルプの叩解度は、10~700CSFが好ましく、50~690CSFがより好ましく、50~650CSFがさらに好ましい。パルプのCSF値が低いと、シートの通気性が低下するおそれがある。パルプのCSF値が高いと、ウイルス吸着材が繊維に担持されにくくなる。
【0034】
繊維の叩解度は、JIS P8121-2(パルプ-濾水度試験方法-第2部:カナダ標準濾水度法)により測定されるカナダ標準濾水度(CSF)により評価することができる。繊維の種類にもよるが、繊維の叩解が進むと、CSF値が小さくなる傾向がある。
【0035】
吸着性組成物の固形分のうち、ウイルス吸着材以外の成分の合計100質量%に対するパルプの割合は、0~80質量%が好ましく、5~75質量%がより好ましく、10~70質量%がさらに好ましい。パルプの配合量が高くなるほど、吸着性組成物の親水性が向上し、ウイルス吸着材を担持しやすくなる。パルプの割合が少なすぎても、他の繊維を併用することにより、シート形成は可能であるが、パルプの割合が多いほど、シートの剛性が向上し、好ましい。
【0036】
疎水性繊維としては、親水性繊維以外の繊維として、種々の合成繊維、金属繊維などを用いることが可能である。合成繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維等のポリエステル繊維、アクリル繊維、アクリルパルプ等の合成繊維又は合成パルプが挙げられる。疎水性繊維の断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良い。
【0037】
吸着性組成物において、疎水性繊維は任意の成分であり、吸着性組成物が疎水性繊維を含有しなくてもよい。吸着性組成物が疎水性繊維を含有することにより、吸着性組成物における親水性と疎水性のバランスを調整することができ、シートの製造が容易になる。
【0038】
吸着性組成物の固形分のうち、ウイルス吸着材以外の成分の合計100質量%に対する疎水性繊維の割合は、0~80質量%が好ましく、3~75質量%がより好ましく、5~70質量%がさらに好ましい。疎水性繊維の配合量が高すぎると、吸着性組成物の親水性が低下し、シートにウイルスが吸着されにくくなる。
【0039】
疎水性繊維の平均繊維長は、0.5~10mmが好ましく、1~8mmがより好ましく、2~6mmがさらに好ましい。疎水性繊維の繊維長が短いと、シートの通気性が低下するおそれがある。疎水性繊維の繊維長が長いと、シート内で組成のムラができやすくなる。
【0040】
疎水性繊維の繊度は、0.05~5dtexが好ましく、0.1~3dtexがより好ましく、0.2~2dtexがさらに好ましい。疎水性繊維の繊度が小さい(繊維が細い)と、シートの通気性が低下するおそれがある。疎水性繊維の繊度が大きい(繊維が太い)と、ウイルス吸着材が繊維に担持されにくくなる。
【0041】
疎水性繊維のアスペクト比は、10~5000が好ましく、50~2000がより好ましく、100~1000がさらに好ましい。疎水性繊維のアスペクト比が小さいと、シートの強度が低下するおそれがある。疎水性繊維のアスペクト比が大きいと、繊維が絡まりやすく、シートの剛性が向上する。
【0042】
疎水性繊維の叩解度は、10~700CSFが好ましく、50~690CSFがより好ましく、100~650CSFがさらに好ましい。疎水性繊維のCSF値が低いと、シートの通気性が低下するおそれがある。疎水性繊維のCSF値が高いと、ウイルス吸着材が繊維に担持されにくくなる。
【0043】
吸着性組成物が、固形分に対して20質量%以下の割合で、さらにバインダを含有してもよい。バインダとしては、アクリルエマルジョン、ポリエステルエマルジョン、ラテックス等のポリマー粒子が挙げられる。吸着性組成物において、バインダは任意の成分であり、吸着性組成物が、バインダを含有していなくてもよい。
【0044】
吸着性組成物がバインダを含有することにより、繊維に対するウイルス吸着材の担持を維持させやすくなる。吸着性組成物の固形分に対するバインダの割合は、0~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.2~5質量%がさらに好ましい。固形分に対するバインダの割合が20質量%を超えると、ウイルス捕捉効果が低下するため、好ましくない。
【0045】
実施形態のウイルス吸着シートは、固形分として、ウイルス吸着材と、親水性繊維又はパルプの少なくともいずれかを含む繊維とを含有する吸着性組成物を単層に形成したシートである。
【0046】
ウイルス吸着シートの密度は、0.1~0.7g/cmが好ましく、0.12~0.37g/cmがより好ましく、0.13~0.3g/cmがさらに好ましい。ウイルス吸着シートの密度が低すぎると、ウイルス吸着材がシートに担持されにくくなり、シートの形成が困難になる。ウイルス吸着シートの密度が高すぎると、シートの通気性が低下する。
【0047】
ウイルス吸着シートの厚みは、50~1000μmが好ましく、60~700μmがより好ましく、100~500μmがさらに好ましい。ウイルス吸着シートの厚みが薄すぎると、シートの強度が低くなりやすい。ウイルス吸着シートが厚すぎると、通気性が不利になりやすい。
【0048】
ウイルス吸着シートの坪量は、20~200g/mが好ましく、22~175g/mがより好ましく、25~150g/mがさらに好ましい。ウイルス吸着シートの坪量が低すぎると、シートの形成が困難になる。ウイルス吸着シートの坪量が高いと、通気性が不利になりやすい。
【0049】
実施形態のウイルス吸着シートは、吸着性組成物を含むスラリーを湿式抄紙法で抄造することにより、容易に製造することができる。これにより、通気性とウイルス捕捉効果の両立が図られたウイルス吸着シートを、簡便な工法で作製することができる。「抄造」とは、原料を抄いて紙等のシートを製造することをいう。
【0050】
湿式抄紙法では、スラリー中でウイルス吸着材及び繊維を含有する吸着性組成物を分散させ、固形分を抄き上げることにより、シートが形成される。スラリーには、填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加することができる。
【0051】
抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、抄紙後の湿紙を脱水・乾燥し、シートを得ることができる。
【0052】
ウイルス吸着材が凝集して形成される二次粒子がシート中に均一分散される。また、親水性繊維がパルプ及びウイルス吸着材の表面上に存在することにより、シートに空隙が形成されるとともに、シートの吸水効果が向上する。これにより、水分を含む飛沫が効率よくシートに捕捉されるため、シートの通気性とウイルス捕捉効果の両立を図ることができる。
【0053】
実施形態のウイルス吸着シートは、単層のシートでもウイルス吸着材が脱落しにくく、取扱い性に優れる。このため、単層のシートのまま、空気等の気体用のフィルターとして好適に使用することができる。ウイルス吸着シートは、マスク等の衛生用品、防護服等の衣料品、医療用品等に用いてもよい。ウイルス吸着シートは、空気清浄機、加湿器、除湿器、冷房装置、暖房装置、空調装置等の機械器具に用いてもよい。機械器具は、住宅、店舗、ビル等の建造物、自動車、鉄道車両、船舶等の輸送機器等に適用してもよい。
【実施例0054】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0055】
(ウイルス吸着シートの製造)
表1~4に示す組成の吸着性組成物を用いて、スラリーを調製し、湿式抄紙法で単層のシートを抄造することにより、ウイルス吸着シートを製造した。
【0056】
ウイルス吸着材としては、活性炭(商品名:トリポーラス(登録商標)、ソニー株式会社製)又はゼオライトを用いた。
疎水性繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)を主体とするポリエステル繊維(商品名:テピルス(登録商標)TA04N、帝人株式会社製)を用いた。
バインダとしては、アクリルエマルジョン(商品名:Nipol(登録商標)LX854E、日本ゼオン株式会社製)を用いた。
パルプとしては、濾水度200CSFの叩解パルプを用いた。
親水性繊維としては、ポリビニルアルコール(PVA)繊維(商品名:VPB(登録商標)053、株式会社クラレ製)を用いた。
【0057】
(ウイルス吸着シートの計測)
ウイルス吸着シートの坪量(g/m)は、定規を用いた面積測定と天秤を用いた重量測定とにより算出した。
ウイルス吸着シートの厚み(μm)は、マイクロメーターを用いて測定した。
ウイルス吸着シートの密度(g/cm)は、坪量(g/m)を厚み(μm)で除算して算出した。
【0058】
(ウイルス吸着シートの性能評価)
ウイルス吸着シートの通気度、クレム吸水度、及び抗ウイルス活性値について、以下のように評価した。ただし、比較例2及び比較例5のウイルス吸着シートでは、乾燥後のハンドリングが極めて難しく、支持用の基材なしにはシートの搬送が困難であったため、以下の性能評価を省略した。
【0059】
ウイルス吸着シートの通気度は、JIS L1096(織物及び編物の生地試験方法)の通気性A法(フラジール形法)により、単位面積当たりで空気が試験片を通過する流量(cm/cm・s)として測定した。通気度の値が15以上の場合を合格、15未満の場合を不合格とした。
【0060】
クレム吸水度は、JIS P8141(紙及び板紙-吸水度試験方法-クレム法)により、シートの下端を鉛直に水中に浸漬し、毛管現象によって10分間に水を上昇した高さ(mm)として測定した。クレム吸水度の値が10以上の場合を合格、10未満の場合を不合格とした。クレム吸水度が100mmを超える場合は、「>100」と評価した。
【0061】
抗ウイルス活性値は、JIS L1922(繊維製品の抗ウイルス性試験方法)により、抗ウイルス活性値Mv=log(Vb/Va)を、ウイルス吸着シートのウイルス感染価の常用対数であるlog(Vb)と、対照試料のウイルス感染価の常用対数であるlog(Va)との差により求めた。対照試料は、試験対象ウイルスが安定に存在する布地である。抗ウイルス活性値は、試験対象ウイルスのウイルス感染価が、ウイルス吸着シート上で所定時間に減少する程度を表す。試験対象ウイルスは、インフルエンザウイルス又はネコカリシウイルスである。抗ウイルス活性値が0.4以上を合格、0.4未満を不合格とした。抗ウイルス活性値が2を超える場合は、「>2」と評価した。
【0062】
結果を表1~4に示す。吸着性組成物に含まれる各成分の合計量は、100質量部である。表1~4の「配合比率(%)」は、繊維(親水性繊維、パルプ、疎水性繊維)の合計量に対する親水性繊維及びパルプの合計量の割合(%)を表す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
実施例1~12のウイルス吸着シートは、通気度、クレム吸水度、及び抗ウイルス活性値のいずれも合格となった。
比較例1のウイルス吸着シートは、ウイルス吸着材の配合量が少なく、抗ウイルス活性値が不合格であった。
比較例2のウイルス吸着シートは、ウイルス吸着材の配合量が多すぎ、シートのハンドリングが困難であった。
比較例3のウイルス吸着シートは、繊維(親水性繊維、パルプ、疎水性繊維)の合計量に対する親水性繊維及びパルプの合計量の配合比率(%)が少なく、シートの親水性が低く、抗ウイルス活性値が不合格であった。
比較例4のウイルス吸着シートは、吸着性組成物の配合が実施例5と同様であるが、シートの密度が高く、通気性が低下した。
比較例5のウイルス吸着シートは、吸着性組成物の配合が実施例5と同様であるが、シートの密度が低く、シートのハンドリングが困難であった。