(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083222
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーを含む積層体の製造方法、及びその積層体
(51)【国際特許分類】
B05D 3/00 20060101AFI20230608BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230608BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230608BHJP
【FI】
B05D3/00 F
B05D7/24 303E
B05D7/24 303G
B05D7/24 302C
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022182544
(22)【出願日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2021197014
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】中谷 丈史
(72)【発明者】
【氏名】堀田 武史
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 駿生
(72)【発明者】
【氏名】吉松 丈博
(72)【発明者】
【氏名】畠山 清
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC14
4D075AC76
4D075AC92
4D075AC94
4D075BB24Z
4D075BB92Y
4D075BB93Z
4D075BB95Z
4D075CA47
4D075CA48
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4D075EA31
4D075EB07
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC22
4D075EC51
4D075EC54
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、支持基材上に、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む塗工液を前計量塗工法により塗布して機能層を形成する工程を含み、塗工液の60rpmにおける粘度が50~1000mPa・sであり、機能層の膜厚30μm以下である、積層体の製造方法を提供する。前記アニオン性セルロースナノファイバーは、カルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化セルロースナノファイバーであること、カルボキシアルキル化セルロースナノファイバー、リン酸エステル化セルロースナノファイバー、又は硫酸エステル化セルロースナノファイバーであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材上に、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む塗工液を前計量塗工法により塗布して機能層を形成する工程を含み、
塗工液の60rpmにおける粘度が50~1000mPa・sであり、
機能層の膜厚が30μm以下である、
積層体の製造方法。
【請求項2】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化セルロースナノファイバーである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーである請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーがリン酸エステル化セルロースナノファイバーである請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アニオン変性セルロースナノファイバーが硫酸エステル化セルロースナノファイバーである請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記前計量塗工法がダイコーティング法である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記前計量塗工法がカーテンコーティング法である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーを含む積層体の製造方法、及びその積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
アニオン性またはカチオン性の基をセルロースに導入し、導入されたこれらの基の電荷反発力を利用して解繊して得られるセルロースナノファイバーは、非常に細い繊維径を有し、一般的に均質性が高く、また、導入された基に基づく各種の機能性を有し、強度が高いなどの特徴から、広く研究されている。例えば、アニオン性の基をセルロースに導入し解繊して得たアニオン変性セルロースナノファイバーとしては、N-オキシル化合物によるセルロースの表面酸化反応を利用してセルロースの水酸基の一部をカルボキシル基に酸化して解繊して得た酸化セルロースナノファイバーや、カルボキシメチル置換度が0.01~0.30であり平均繊維径が3~500nmであるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが報告されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-1728号公報
【特許文献2】国際公開第2014/088072号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなナノファイバーは、ナノ構造体の効果により様々な用途において特異な性質を示すことが報告され始めている。しかしながら、セルロースナノファイバーは水分散体や粉体状の固形物での形状で市販されており、工業利用するためには二次加工を行い利用する必要がある。特に基材上にセルロースナノファイバーの塗工膜を形成し、それを機能層として利用されることが期待されている。
【0005】
ゆえに本発明は、そのような様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願人らは、鋭意努力の結果、以下の構成で課題を解決できることを見出した。
[1]支持基材上に、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む塗工液を前計量塗工法により塗布して機能層を形成する工程を含み、
塗工液の60rpmにおける粘度が50~1000mPa・sであり、
機能層の膜厚が30μm以下である、
積層体の製造方法。
[2]前記アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化セルロースナノファイバーである[1]に記載の製造方法。
[3]前記アニオン変性セルロースナノファイバーがカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーである[1]に記載の製造方法。
[4]前記アニオン変性セルロースナノファイバーがリン酸エステル化セルロースナノファイバーである[1]に記載の製造方法。
[5]前記アニオン変性セルロースナノファイバーが硫酸エステル化セルロースナノファイバーである[1]に記載の製造方法。
[6]前記前計量塗工法がダイコーティング法である[1]~[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
[7]前記前計量塗工法が、カーテンコーティング法である[1]~[5]いずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、様々な工業用途に適用させるために最適な機能層を持つ積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<1.積層体>
積層体は、支持基材上に、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む機能層を備える。
【0009】
<アニオン変性セルロースナノファイバー>
積層体の機能層は、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む。
【0010】
-ナノファイバー(NF)-
本発明において、ナノファイバー(NF)とは、平均繊維径が1μm未満であるナノ繊維をいう。好ましくは平均繊維径が3nm~500nm程度、より好ましくは3nm~150nm程度、さらに好ましくは3nm~20nm程度である。アスペクト比は、通常、30以上又は35以上、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度である。NFの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
【0011】
ナノファイバーのうち、本発明ではアニオン変性セルロースナノファイバー(以下、アニオン変性CNFともいう)を用いる。
【0012】
-アニオン変性CNFの定義、性質-
アニオン変性CNFとは、セルロースの分子鎖にアニオン基が導入されたNFである。アニオン変性CNFは、セルロースのピラノース環にアニオン基を導入して得られたアニオン変性セルロースを1μm未満の平均繊維径となるように解繊することにより得ることができる。
【0013】
アニオン変性CNFは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持され、完全に水に溶解しない。アニオン変性CNFの水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。アニオン変性CNFを含む機能層は、層内でアニオン変性CNFの繊維状の形状が維持されているため、良好な物理的強度を発揮できる。
【0014】
-セルロース原料-
アニオン変性セルロースの原料となるセルロース(セルロース原料)の種類は、特に限定されない。例えば、針葉樹、広葉樹、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等を原料とする晒又は未晒のメカニカルパルプ(例えば、サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)やケミカルパルプ(例えば、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ)、また、溶解パルプ、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等を挙げることができ、これらのいずれも、セルロース原料として用いることができる。
【0015】
-アニオン基の導入・解繊方法-
このようなセルロース原料にアニオン基を導入することにより、アニオン変性セルロースを製造することができる。アニオン基の導入方法は特に限定されないが、例えば、セルロースのピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する方法、及び、ピラノース環の水酸基部分でエステル化反応によりアニオン基を導入する方法が挙げられる。アニオン基の導入により得られたアニオン変性セルロースを、1μm未満の平均繊維径となるように解繊することにより、アニオン変性CNFを得ることができる。解繊方法は特に限定されず、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの公知の解繊装置を用いる方法が挙げられる。中でも、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザを用いる方法が好ましい。
【0016】
-アニオン変性CNFの例-
(酸化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、カルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシル基とは、-COOH(酸型)および-COOM(金属塩型)(式中、Mは金属イオンである)をいい、カルボキシレート基とは-COO-をいう。カルボキシル基及び/またはカルボキシレート基を有する酸化CNF(本明細書において、単に「酸化CNF」とも呼ぶ)は、セルロースのピラノース環の水酸基をカルボキシル基に酸化する公知の方法を用いて酸化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。セルロースの酸化方法としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)のようなN-オキシル化合物と、臭化物及び/又はヨウ化物との存在下で、酸化剤を用いてセルロースを水中で酸化する方法や、オゾンを含む気体を酸化剤として用いてセルロース原料と接触させることによりセルロースを酸化する方法を挙げることができる。
【0017】
酸化CNFにおけるカルボキシル基及びカルボキシレート基の合計量は、酸化CNFの絶乾質量に対して、0.4~3.0mmol/gが好ましく、0.6~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.0~2.0mmol/gがさらに好ましく、1.1~2.0mmol/gがさらに好ましい。酸化CNFのカルボキシル基及びカルボキシレート基の量は、酸化剤の添加量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。カルボキシル基及びカルボキシレート基の量は、以下の方法で測定することができる:
酸化CNFの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル及びカルボキシレート基量〔mmol/g酸化CNF〕=a〔ml〕×0.05/酸化CNF質量〔g〕。
【0018】
(カルボキシアルキル化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化CNFを挙げることができる。本明細書においてカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)および-RCOOM(金属塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオン(例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;Fe;Al等の金属が挙げられ、Li、Na、Caが好ましく、Naがより好ましい)である(以下、同様)。カルボキシアルキル基を有するカルボキシアルキル化CNFとしては、Rがメチレン基であるカルボキシメチル基を有するカルボキシメチル化CNFが最も好ましい(以下、「カルボキシメチル」を「CM」と呼ぶ)。カルボキシアルキル化CNFは、セルロース原料をマーセル化剤で処理した後にカルボキシアルキル化剤で処理してカルボキシアルキル基を導入する公知の方法を用いてカルボキシアルキル化セルロースを得て、次いで解繊することにより得ることができる。
【0019】
CM化CNFの原料となるCM化セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものであり、後述する水溶性高分子の一例であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース(CM化セルロース)」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0020】
カルボキシアルキル化CNFの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は、0.40未満であることが好ましい。また、カルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02以上0.35以下であることが好ましく、0.10以上0.35以下であることがより好ましく、0.15以上0.35以下であることがさらに好ましく、0.15以上0.30以下であることがさらに好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキル基の数)を示す。カルボキシアルキル置換度は、マーセル化剤の量や反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。グルコース単位当たりのCM置換度は、以下の方法で測定することができる:
CM化CNF(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、塩型のCM化CNFを水素型CM化CNFに変換する。水素型CM化CNF(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化CNFを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。CM置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化CNFの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化CNFの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
CM基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
【0021】
(セルロースI型の結晶化度)
CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。CM化CNFにおけるセルロースI型の結晶化度は、原料となるCM化セルロースの製造時のマーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御することができる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、例えば、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整して変換の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。CM化セルロースのセルロースI型の結晶化度と、それを解繊して得たCM化CNFのセルロースI型の結晶化度とは、通常、同じである。
【0022】
(リン酸エステル化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、リン酸エステル化CNFを挙げることができる。リン酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料にリン酸系化合物の粉末又は水溶液を混合する、あるいは、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加するなどにより、リン酸系化合物由来のリン酸系の基をセルロースに導入してリン酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。リン酸系化合物としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。具体的には、例えば、これらに限定されないが、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸系化合物由来のリン酸系の基を導入することができる。本明細書において、リン酸系化合物由来のリン酸系の基には、リン酸基、亜リン酸基、次亜リン酸基、ピロリン酸基、メタリン酸基、ポリリン酸基、ホスホン酸基、及びポリホスホン酸基が含まれる。リン酸エステル化セルロース及びリン酸エステル化CNFは、セルロースの分子鎖にこれらのリン酸系の基の1種または2種以上が導入されているものを含む。セルロース原料をリン酸系化合物と反応させる際には、反応を均一に進行できかつ上記基の導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましく、その際、水溶液のpHは、pH3~7が好ましい。また、尿素等の窒素含有化合物を添加してもよい。セルロース原料に対するリン酸基を有する化合物の添加量は、セルロース原料の固形分100質量部に対して、リン元素換算で、0.1~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましく、2~200質量部がさらに好ましい。これにより、リン酸基を有する化合物の使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1~600分程度であり、30~480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを抑制でき、リン酸エステル化セルロースの収率を向上できる。リン酸基を有する化合物を反応させる際、さらに塩基性化合物(例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の塩基性を示すアミノ基を有する化合物)を反応系に加えてもよい。
エステル化後に得られた懸濁液は、必要に応じて脱水し、脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は、130℃以下(好ましくは、110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することがより好ましい。煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理及び/又は中和処理がなされることが好ましい。これにより解繊を効率よく行うことができる。洗浄は、加水後脱水(例えばろ過)により行えばよく、2回以上繰り返してもよい。洗浄は、ろ液の電気伝導度が低下するまで行うことが好ましい。例えば、電気伝導度が好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは120以下となるまで行うことができる。また、洗浄後、必要に応じて中和処理を行ってもよい。中和処理は、例えばアルカリ(例、水酸化ナトリウム)の添加によることができる。中和後に再び洗浄を行ってもよい。
【0023】
リン酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりのリン酸系の基の置換度(以下、単に「リン酸基置換度」と呼ぶ。)は、下限は0.001以上が好ましい。上限は、3.0以下が好ましく、0.40未満であることがより好ましい。グルコース単位当たりのリン酸基置換度は、以下の方法で測定することができる:
固形分量が0.2質量%のリン酸エステル化CNFのスラリーを調製する。スラリーに対し、体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーとを分離することにより、水素型リン酸エステル化CNFを得る。次いで、イオン交換樹脂による処理後のスラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測する。計測結果のうち、急激に電気伝導度が低下する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除すことにより、水素型リン酸エステル化CNF1g当たりのリン酸基量(mmol/g)を算出する。さらに、リン酸エステル化CNFのグルコース単位当たりのリン酸基置換度(DS)を、次式によって算出する:
DS=0.162×A/(1-0.079×A)
A:水素型リン酸エステル化CNFの1gあたりのリン酸基量(mmol/g)。
【0024】
-亜リン酸エステル化CNF-
エステル化セルロース繊維の製造方法の第2の例としては、亜リン酸エステル化セルロース繊維が挙げられる。亜リン酸化セルロース繊維は通常、セルロース分子鎖を構成する炭素原子の少なくとも1つ(例えば、グルコピラノース単位を構成するC6位の1級水酸基を有する炭素原子)が亜リン酸化されている構造を有する。
【0025】
亜リン酸エステル化セルロース繊維におけるグルコース単位当たりの亜リン酸基の置換度(以下、単に「亜リン酸基置換度」と呼ぶ。)は、0.001~0.60が好ましい。これにより、セルロース同士の電気的反発が起こりやすくなり、ナノ解繊が容易となる。亜リン酸基の置換度の測定は、リン酸基置換度の測定方法と同じ方法で測定できる。亜リン酸基置換度は、亜リン酸又はその塩の添加量、必要に応じて用いるアルカリ金属イオン含有物、尿素又はその誘導体の添加量等の反応条件をコントロールすることにより調整できる。
【0026】
亜リン酸エステル化の方法としては、例えば、未変性のセルロース繊維に対し、亜リン酸又はその金属塩(好ましくは、亜リン酸水素ナトリウム)を反応させ、亜リン酸のエステル基を導入する方法が挙げられる。
【0027】
亜リン酸及びその金属塩としては、例えば、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物、これらから選ばれる2以上の組み合わせが挙げられ、亜リン酸水素ナトリウムが好ましい。これにより、セルロース繊維にアルカリ金属イオンも導入できる。亜リン酸又はその金属塩の添加量は、未変性のセルロース繊維1kgに対し、好ましくは1~10,000g、より好ましくは100~5,000g、さらに好ましくは300~1,500gである。亜リン酸及びその金属塩とは別に、アルカリ金属イオン含有物(例えば、水酸化物、硫酸金属塩、硝酸金属塩、塩化金属塩、リン酸金属塩、炭酸金属塩)を反応系にさらに添加してもよい。
【0028】
また、尿素又はその誘導体を反応系にさらに添加してもよい。これにより、カルバメート基もセルロース繊維に導入できる。尿素及び尿素誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、これらから選択される2以上の組み合わせが挙げられ、尿素が好ましい。尿素及び尿素誘導体の添加量は、亜リン酸又はその金属塩1molに対し、好ましくは0.01~100mol、より好ましくは0.2~20mol、さらに好ましくは0.5~10molである。
【0029】
反応温度は、100~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましく、100~170℃がさらに好ましい。加熱処理の際に水が含まれている間は、130℃以下(好ましくは、110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することがより好ましい。反応時間は、通常、10~180分程度であり、30~120分がより好ましい。亜リン酸エステル化セルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄することが好ましい。グルコース単位当たりの亜リン酸基の置換度は、0.01以上0.23未満が好ましい。
【0030】
(硫酸エステル化CNF)
アニオン変性CNFの一例として、硫酸エステル化CNFを挙げることができる。硫酸エステル化CNFは、上述したセルロース原料に硫酸系化合物を反応させることにより、硫酸系化合物由来の硫酸系の基をセルロースに導入して硫酸エステル化セルロースとし、これを解繊することにより得ることができる。硫酸系化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、あるいはこれらのエステル又は塩が挙げられる。これらの中では、セルロースの溶解性が小さく、また、酸性度が低いことから、スルファミン酸を用いることが好ましい。
【0031】
例えば、硫酸系化合物としてスルファミン酸を用いる場合、スルファミン酸の使用量は、セルロース鎖へのアニオン基の導入量を考慮して適宜調整することができる。例えば、セルロース分子中のグルコース単位1mol当たり、好ましくは0.01~50molの量で用いることができ、より好ましくは0.1~3.0molの量で用いることができる。
【0032】
硫酸エステル化CNFにおけるグルコース単位当たりの硫酸系の基の量(以下、単に「硫酸基量」と呼ぶ。)は、0.1~3.0mmol/gであることが好ましい。グルコース単位当たりの硫酸基量は、以下の方法で測定することができる:
硫酸エステル化CNFの水分散液をエタノール、t-ブタノールの順に溶媒置換した後、凍結乾燥する。得られた試料200mgにエタノール15ml及び水5mlを加え、30分間撹拌する。その後、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を10ml加え、70℃で30分間撹拌し、さらに30℃で24時間撹拌する。次いで、指示薬としてフェノールフタレインを加え、塩酸で滴定を行い、下式を用いて算出する:
硫酸基量[mmol/g試料]=(5-(0.1×塩酸滴定量[ml]×2))/0.2。
【0033】
<機能層>
機能層は、アニオン変性CNFを含む層である。機能層は、アニオン変性CNFを主成分として含むことが好ましく、アニオン変性CNFの含有量が、通常、50%を超え、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上であり、アニオン変性CNFのみからなる(含有量100%)でもよい。機能層は、アニオン変性CNFを含むことにより、誘電性、絶縁性等の機能を発揮できる。
【0034】
機能層の膜厚(乾燥後)は、通常、30μm以下であり、25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。下限としては特に制限されないが、機能層として様々な用途に適切に作用効果を及ぼしやすくするため、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、1.3μm以上、1.5μm以上又は2μm以上が特に好ましい。膜厚は略均一であることが好ましい。これにより、アニオン性CNFの分布に偏りのない均質な機能層となり得る。
【0035】
機能層の表層は、均質な平滑性を有していることが好ましい。これにより、機能層としての効果の局在の発生を抑制できる。本発明において、均質な平滑性を有しているとは、目視レベルで機能層に凹凸が発生していないことを意味する。
【0036】
機能層は、アニオン変性セルロースナノファイバーを含んでいればよく、他の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、後段の塗工液の任意成分が挙げられる。
【0037】
<支持基材>
支持基材としては、その表面に機能層を略均一に形成できる材料から構成される基材であれば特に制限なく使用することができる。支持基材としては、例えば、樹脂基材、紙基材、さらに金属基材などが挙げられ、中でも様々な用途に応じて所望の性質を有する金属種を選択することができることから、金属基材が好ましい。金属基材を構成する金属としては例えば、アルミニウム、銅、鉄、亜鉛、チタン、ニッケル、鉛、銀、白金、タングステン、ビスマス、ステンレス、真鍮、クロムなどの金属またはこれらの合金などを挙げることができ、汎用性の高さからアルミニウム、または銅が好ましい。支持基材の形状、サイズは特に制限されない。例えば、シート状、フィルム上の基材が挙げられる。
【0038】
<他の層>
積層体は、他の層を有していてもよい。他の層としては、例えば、プライマー層が挙げられる。プライマー層を設けることにより、機能層(塗工液)の塗布性を向上させることができる。プライマー層を構成するプライマーとしては、例えば、ポリアニリンが挙げられる。
【0039】
<2.積層体の製造方法>
上述の積層体は、支持基材上に、アニオン変性セルロースナノファイバーを含む塗工液を塗布する塗工工程により機能層を形成する方法により製造できる。
【0040】
<塗工工程>
-前計量塗工法-
塗工工程における塗工は、前計量塗工法によることができる。前計量塗工法とは、連続したウェットコートを行うウェットコーティング技術において、単位塗布幅あたりの流量と基材速度を規定することでウェット膜厚が決定される塗工方法を意味する。前計量塗工法としては、例えば、ダイコーティング法、カーテンコーティング法、グラビアコーティング法、正回転ロールコーティング法、リバースコーティング法、ドクターコーティング法、キスコーティング法、ディップコーティング法、さらに基材にテンションをかけてダイ上で塗布量を調節するテンションウェブコーティング法などを挙げることができる。中でも、連続した塗工において安定して流量をコントロールしやすいことから、ダイコーティング法、カーテンコーティング法が好ましい。
【0041】
(ダイコーティング法)
ダイコーティング法は、スロットダイ塗布によることができる。スロットダイ塗布は、ダイヘッドから塗工液を押し出しながら基材にコーティングする方式である。スロットダイ塗布による塗工方法の一例をあげると以下のとおりである。スロットダイコーターを構成する、ダイキャビティ内に塗工液を供給しておく。ポンプ、加圧等によりスリット流路を経由してダイ先端(吐出孔)から液体(塗工液)を幅方向に均一な流量で安定して塗工できるような塗工速度に調整しながら(例えば、塗工速度:0.1~1.0m/分、塗工幅0.1~1.0m)押し出す。ダイコーターのサイズ(スリット幅)、基材に対する位置(クリアランス)は、適宜調整すればよい(例えば、スリット幅50~500μm、クリアランス100~1000μm)。スロットダイが固定式の場合、基材をバックアップロール上走行させダイ先端付近へ連続的に供給すると、吐出孔から押し出された塗工液が基材へ供給され、基材との間にビードと呼ばれる液溜まりを形成させつつ、所定のウェット膜厚となるよう、塗布することができる。一方、スロットダイが可動式の場合、スロットダイが基材(固定)表面に沿って塗工剤を吐出しながら動き、基材の表面に均一な塗膜が形成される。
【0042】
ダイコーティング法を採用する場合、ダイ先端の上流側を減圧してもよい。これにより、基材とダイ先端とのコーティングギャップの圧力を調整でき、基材上のビードを安定化できる。減圧の程度は、大気圧より0.05kPa~1.00kPaの範囲で減圧することが好適であるが、基材速度や塗工液の液性によって適宜調整すればよい。圧力の調製は、バキュームチャンバーを設置して行うことができる。
【0043】
(カーテンコーティング法)
カーテンコーティング法では、塗工液を帯(カーテン)状に落下させ、基材をそのカーテン内を通過させることにより塗布する方法である。カーテンコーティング法は、カーテンを形成させる方法によって分類され、例えば、オーバーフロー型、オリフィス型、ダイフィード型、スライドホッパー型が挙げられる。オーバーフロー型は、塗液を溜めている容器の淵から塗液をオーバーフローさせる方式である。オーバーフロー型は、塗工液溜めの下部にあるオリフィスから塗工液を流し出す方式である。大フィード型は、ダイの下部から塗工液を押し出してカーテンを形成するスライドホッパー型は、スライド面から塗工液を流下させてカーテンを形成する方式である。カーテンコーティング法としては、オリフィス型、ダイフィード型、スライドホッパー型が好ましい。これらの方式では、一定の流圧を継続的にかけ続けることができ、アニオン変性CNFを含む塗工液の、アニオン変性CNFの作用により生ずるチキソ性による液性の変化を抑制できる。
【0044】
<塗工液の供給量>
前計量塗工法における塗工液の基材上への供給量(ダイコーティングの場合、ダイコーターからの塗工液の吐出量)は、通常、400mL/min以下、好ましくは300mL/min以下、より好ましくは250mL/min以下、さらに好ましくは200mL/min以下である。下限は特に限定されないが、通常、1mL/min以上、好ましくは50mL/min以上、より好ましくは80mL/min以上である。上記速度は、ダイコーティングの場合、ダイの移動速度、又は基材の移動速度(基材を移動させるベルトの移動速度)により調整可能である。
【0045】
<塗工液>
塗工液は、アニオン変性CNFを含み、通常は液体である。
【0046】
塗工液は、適度な粘性を有することが好ましい。これにより、塗工性が良好となる。塗工液の60rpm粘度は、通常、30mPa・s以上、又は50mPa・s以上、好ましくは52mPa・s以上、より好ましくは54mPa・s以上、さらに好ましくは55mPa・s以上である。上限は、通常、1000mPa・s以下、900mPa・s以下、800mPa・s以下、好ましくは700mPa・s以下、600mPa・s以下又は500mPa・s以下、より好ましくは450mPa・s以下又は400mPa・s以下である。6rpm粘度は、通常、60mPa・s以上又は65mPa・s以上、好ましくは70mPa・s以上、より好ましくは75mPa・s以上である。上限は、通常、6000mPa・s以下又は5000mPa・s以下、好ましくは4000mPa・s以下、より好ましくは3000mPa・s以下、又は2500mPa・s以下である。6rpm粘度及び60rpm粘度は、アニオン性基の種類、CNFの平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比、塗工液におけるアニオン変性CNFの濃度等の条件により変動する。6rpm粘度及び60rpm粘度は、B型粘度計を用い、25℃においてそれぞれ回転数6rpm、60rpmの条件で測定できる。
【0047】
塗工液中に含まれるアニオン変性CNFの固形分量は5%未満が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。これにより、塗工液の粘度上昇、チキソ性の過剰発現を抑制できる。下限としては、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。ダイコーティング法を採用する場合、一般に、スリット流路における塗工液の流量の均一性が、支持基材上のウェット膜厚の均一性と連動している。塗工液の固形分を上記の範囲に調整することにより、塗工液の流量の均一性、ウェット膜厚の均一性を向上させることができる。
【0048】
塗工液の分散媒としては、例えば、水、溶剤(例えば、アルコール等の親水性溶剤)が挙げられ、適宜選択することができる。アニオン変性CNFの製造時の(例えば解繊後の)水分散体は、そのまま塗工液として利用できる。一方で分散媒として溶剤を用いるか、又は水に溶剤を混合することにより、塗工条件にあわせて、塗工液の粘度、揮発性を調整できる。
【0049】
塗工液は、アニオン変性CNFと分散媒の他に、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を併用することができる。そのような添加剤としては、例えば、レベリング剤、消泡剤、水溶性高分子などの分散安定剤、防腐剤、結着剤、レオロジーコントロール剤などを挙げることができる。
【0050】
水溶性高分子としては、例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、加工澱粉(カチオン化澱粉、燐酸化澱粉、燐酸架橋澱粉、燐酸モノエステル化燐酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化燐酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化燐酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉)、コーンスターチ、アラビアガム、ジェランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、澱粉ポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、セルロース誘導体は、CM化CNFとの親和性が良好である点から好ましい。
【0051】
塗工液は、支持基材の表面へ直接塗布してもよいが、支持基材と機能層の間に任意のプライマー層を設ける場合、プライマー層用の塗工液を塗布、乾燥後に塗布することができる。
【0052】
<乾燥工程>
塗工工程後、通常は乾燥工程を行う。乾燥工程は、塗工工程において形成された塗布膜を乾燥する工程である。乾燥は、風乾、減圧、赤外線等公知の乾燥方法を用いることができ、防爆型乾燥機等の乾燥機を用いることができる。乾燥は、加熱条件下で行うことが好ましい。乾燥温度としては好ましくは75~150℃であり、より好ましくは75~130℃であり、さらに好ましくは80~120℃である。また乾燥時間としては、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは45秒以上である。上限は、好ましくは10分以下、より好ましくは9分以下、さらに好ましくは8分以下である。従って、好ましくは10秒~10分、より好ましくは10秒~9分、より好ましくは10秒~8分であり、更に好ましくは10~180秒であり、更により好ましくは30~120秒である。
【0053】
乾燥工程において、溶媒の乾燥速度は、好ましくは0.1重量%/sec以上、より好ましくは0.2重量%/sec以上、さらに好ましくは0.22重量%/sec以上である。上限は、好ましくは5.0重量%/sec以下、より好ましくは4.0重量%/sec以下又は3.0重量%/sec以下、さらに好ましくは2.0重量%/sec以下、1.5重量%/sec以下、又は1.07重量%/sec以下である。従って、0.1~5.0重量%/secが好ましく、0.22~1.07重量%/secがより好ましい。上記範囲であると、表面の局所乾燥が抑制され、塗膜表面性の低下を抑制できる。すなわち、局所的な乾燥の進行による膜の生成を抑制でき、また、乾燥収縮による応力集中によるしわの発生を抑制できる。溶媒の乾燥速度は、塗布したサンプル全体における溶媒の比率(重量%)を、溶媒が揮発して塗膜が乾燥するのにかかった時間(sec)で除することにより算出できる。乾燥速度は、乾燥温度、風速により調整できる。
【0054】
乾燥を風乾により行う場合、乾燥時の風速は、100m/min以下が好ましく、90m/min以下、80m/min以下、70m/min以下、60m/min以下、50m/min以下、40m/min以下、又は30m/min以下がより好ましい。これにより、塗膜表面への影響を抑制できる。下限は、1m/min以上が好ましく、5m/min以上又は10m/min以上がより好ましい。これにより乾燥が不十分となることを抑制できる。
【0055】
<3.積層体の用途>
本発明の積層体の用途としては、例えば、各種のディスプレイ装置基板、電子機器の基板、家電の部材、太陽電池モジュール用裏面保護シート、有機EL素子の封止、電子部品の包装材、電池や蓄電デバイス等の電極、フレキシブルプリント配線板等の電子部材;内装部材、外装部材、ドアサイドパネル、ボンネット、ルーフ、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の各種自動車用部材;医薬品や食品の包装材が挙げられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【0056】
本発明の積層体は、水濡れが発生した際にも、水濡れ部分のアニオン変性CNFが再分散により電気的な吸着現象を起こすため、機能層に欠点を発生させることなく自己再生性を有することが期待される。従って、積層体は、電子部材として好ましく利用される。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(製造例1:酸化CNFの準備)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gとを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散されるまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで、酸化されたパルプを得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分であった。上記の工程で得られた酸化パルプを、水で表1に示す各濃度に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で5回解繊処理を行い、酸化CNFの分散液A1~A3を得た。得られた酸化CNFのカルボキシル基量は、1.42mmol/g、平均繊維径は3.4nm、平均繊維長は528nmであった(表1)。
【0059】
(製造例2:CM化CNFの準備)
回転数を150rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水10部とイソプロパノール(IPA)90部の混合溶媒に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃、60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。35℃で80分間撹拌、混合しマーセル化処理を行った。さらに撹拌しつつ水23部とIPA207部の混合溶媒と、モノクロロ酢酸ナトリウム40部とを添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間エーテル化処理を行った。
【0060】
反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、CM化パルプのナトリウム塩を得た。得られたCM化パルプにおけるCM置換度は0.17であった。上記の工程で得られたCM化パルプを水で表1に示す各濃度に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、CM化CNFの分散液B1、B2を得た。CM化CNFの平均繊維径は3.7nm、平均繊維長は425nmであった(表1)。
【0061】
(製造例3:リン酸エステル化CNFの準備)
広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)100gを尿素120g、リン酸二水素アンモニウム45gを溶解させた水溶液400gに浸漬した後、70℃のオーブンで24時間乾燥させ、さらに150℃で10分間加熱した。その後、イオン交換水で5回洗浄し、リン酸エステル化パルプを得た。リン酸エステル化パルプのリン酸基量を上述の方法で測定したところ、0.87mmol/gであった。上記の工程で得られたリン酸エステル化パルプを水で0.4%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、リン酸エステル化CNFの分散液Cを得た。リン酸エステル化CNFのリン酸基置換度は0.89mmol/g、平均繊維径は3.4nm、平均繊維長は625nmであった(表1)。
【0062】
(製造例4:硫酸エステル化CNFの準備)
広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)100gを105℃のオーブンで24時間乾燥させた後、60%硫酸水溶液2000gを添加して、50℃で1時間撹拌した。その後、イオン交換水で5回洗浄し、硫酸エステル化パルプを得た。硫酸エステル化パルプの硫酸基量を上述の方法で測定したところ、0.79mmol/gであった。上記の工程で得られた硫酸エステル化パルプを水で0.4%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、硫酸エステル化CNFの分散液Dを得た。硫酸エステル化CNFの硫酸基量は0.92mmol/g、平均繊維径は4.2、平均繊維長は354であった(表1)。
【0063】
(製造例5:亜リン酸エステル化CNFの準備)
亜リン酸水素ナトリム・5水和物130gと尿素108gと水762gとを混合して試薬Aを作製した。作製した試薬A1000gと針葉樹パルプ(日本製紙(株)製、NBKP)100gとを混合し、105℃で乾燥した。乾燥したパルプを130℃で2時間反応させ、水洗とろ過を2回繰返し、亜リン酸エステル化パルプを得た。上記の工程で得られた亜リン酸エステル化パルプを水で0.4%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、亜リン酸エステル化CNFの分散液Fを得た。亜リン酸エステル化CNFの亜リン酸基置換度は2.11mmol/g、平均繊維径は3.9nm、平均繊維長は471nmであった(表1)。
【0064】
(製造例6:酸化CNFの準備)
漂白済み針葉樹由来溶解クラフトパルプ(バッカイ社製DKP)5g(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78mg(0.5mmol)と臭化ナトリウム755mg(7.4mmol)とを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液16mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した(酸化処理)。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することでカルボキシル化セルロースを得た。これを水で表1に示す各濃度としたカルボキシル化セルロースのスラリーG1,G2を調製し、ここに過酸化水素をカルボキシル化セルロースに対して2%(w/w)添加し、3M水酸化ナトリウムでpHを11.3に調整した。このスラリーを80℃の温度下に2時間おき、加水分解を行った。これを水で1.0(w/v)%、2.0(w/v)%、3.0(w/v)%、4.0%(w/v)%又は5.0(w/v)%に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140MPa)で3回処理し、TEMPO酸化CNFの分散液G3、G1、G2、G4、G5を得た。得られたTEMPO酸化CNFのカルボキシル基量は1.7mmol/g、平均繊維径は5.7nm、平均繊維長は230nmであった(表1)。
【0065】
(滑落角)
液滴を板に垂らし、持ち上げた時に液が垂れる角度を測定した。すなわち、温度25℃でCNFスラリー0.2gをアルミ板に着滴し1分静置後にアルミ板の片側を持ち上げ、その状態で液滴が1分後に移動した距離が1cm以上になる角度の最小値を測定した。滑落角が、通常70°以下、中でも60°以下であることにより、塗工時の均一性が良好であると評価できる。下限は、通常、5°以上、好ましくは10°以上である。
【0066】
(B型粘度)
TV-10型粘度計(東機産業社)を用いて、25℃、6rpm又は60rpmの条件で各分散液のB型粘度を測定した。
【0067】
(接触角)
CNFスラリーとアルミ箔の接触角を、以下の条件で測定した。
・接触角の測定条件
装置:動的接触角試験機1100DAT、Fibro System AB社製
吐出量:5μl
吐出後液滴を落下させるまでの時間:40秒
基材:アルミ箔
接触角が、通常70°以下、中でも65°以下であることにより、濡れ性が良好であると評価できる。下限は、通常、50°以上である。
【0068】
(流動性とタレ性の官能評価)
後述のダイから塗工液を流した時の流動性及びタレ性を目視評価し、以下の基準で評価した。流動性とタレ性のバランスがよいと、ダイからの塗工がしやすく、塗工後の液の移動が小さく、膜厚を均一に保つことができる。
<評価基準>
◎:スラリーに流動性があり垂れにくい
〇:スラリーに流動性がありやや垂れやすい
×:スラリーに流動性があるが垂れる。または、スラリーに流動性がなく垂れない。
【0069】
(Ti値)
Ti値は、6rpm粘度の60rpm粘度に対する比であり、チキソ性と比例する。一般に、チキソ性が大き過ぎると、塗工液がゼリー化して送液が困難となり、チキソ性が小さ過ぎると、塗工液が流動し垂れ易くなる。Ti値は、7.0以下が好ましく、6.8以下がより好ましい。下限は、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。
【0070】
【0071】
〔表1の脚注〕
接触角の「測定不可」:吐出ノズルから出てきた液が長細いひも状になり液滴を形成できなかった。
滑落角の「垂れない」:90°を超えても、1cm未満の移動に留まった。
【0072】
分散液A3、B2、G3~G5と比較して、分散液A1、A2、B1、C、D、F及びG1及びG2は、適度な滑落角、接触角を示し、塗工時の均一性、濡れ性が良好であるものと評価された。また、流動性、垂れ性も良好な評価を示した。
【0073】
(実施例1~5)
ダイコーター、基材をダイコーターへ移送するベルトを備えるラボコーターを用いて、以下の条件で塗工処理を行った。ダイコーターのスリット幅130μm、クリアランス500μmに設定し、ダイリップの上流側をバキューム圧0.6kPaをかけて、塗工速度0.2m/分、塗工幅0.4m、支持基材としてアルミニウム製基材(幅1m×厚さ18μmのロール状)の片面上に、表2に記載の各アニオン変性CNFの水分散液を塗工液として、安定して塗工できるように吐出量80~120mL/分で調整しながら基材上に均一に塗り広げた。
【0074】
その後、ラボコーターから塗工済みのサンプルを抜き出し、防爆型乾燥機にて100℃/10分間乾燥させた後、室温下で冷却し、ダイコーティング法により作製された積層体を得た(表2)。
【0075】
(比較例1)
ダイの替わりに、乾燥後の膜厚6μm程度となるようにアルミニウム製基材上に噴霧(スプレーコート)を行った以外は、実施例1と同様にして積層体を得た(表2)。
【0076】
<評価方法>
(乾燥後の膜厚)
乾燥後の機能層の膜厚は、キーエンス(株)製の走査型電子顕微鏡にて断面を観察し、
計測した。
【0077】
(外観)
積層体の外観は、乾燥後に目視確認を行い、以下の基準で評価した。
〇:平滑な機能層が形成されており、良好な積層体となっている。
×:機能層の凹凸が目立ち、積層体として不適である。
【0078】
【0079】
スプレーコートにより塗布を行った比較例1と比較して、ダイコートによる塗布を行った実施例1~5においては、塗膜の外観が良好であった(表1)。
【0080】
(実施例6~17及び比較例2~6)
基材に塗工液を塗布するためのスロットダイ、塗布後の塗膜を乾燥するためのドライヤー、スロットダイ、ドライヤーの順に基材を供給するベルト及びロールを備えるラボコーターを用い、表3に示す条件で塗工及び乾燥を連続的に行ったこと、アニオン変性CNFの水分散液として表3に示す各分散液を塗工液としたこと、安定して塗工できるように吐出量130~200mL/分、クリアランス100~500μmと調整したこと、を除き、実施例1と同様にダイコーティング法により作製された積層体を得た(表3)。
【0081】
(外観)
積層体の外観は、乾燥後に目視確認を行い、以下の基準で評価した。
〇:平滑な機能層が形成されており、良好な積層体となっている。
×:機能層の凹凸が目立ち、積層体として不適である。
【0082】
【0083】
[表3の脚注]
*乾燥温度は、各サンプルの温度を示した。乾燥装置における乾燥温度の設定は100℃とした。
【0084】
分散液G3~G5、A3、B2を用いた比較例2~5では、製膜できないか、又は機能層の表面の評価が不良であったのに対し、分散液G1、G2、A1、A2、B1、C、D、Fを用いた実施例6~17では、同評価が良好であった(表3)。
【0085】
(実施例18~23)
実施例6において、乾燥装置の設定温度100℃、シート温度85/83/84/85/86/81℃にてダイコートを行い、乾燥条件を、風速20m/min及び表4に示す条件としたほかは、同様に行い、乾燥の程度(〇:十分乾燥した;△:乾燥が局所的に不十分;×:乾燥が不十分を確認した(表4)。
【0086】
【0087】
乾燥条件に関わらず積層体を乾燥することはできたが、実施例18~22の結果から明らかなとおり、乾燥時間が1分30秒~7分30秒、コーター速度1~5m/minであることにより、乾燥を十分に行うことができた(表4)。
【0088】
これらの結果は、本発明によれば、アニオン変性CNFを含む機能層を支持基材に備え、各種工業用途に利用できる積層体を効率良く得ることができることを示している。