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特開2023-83232連続鋳造機の制御方法、連続鋳造機の制御装置、浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法、及び鋼材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083232
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】連続鋳造機の制御方法、連続鋳造機の制御装置、浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法、及び鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20230608BHJP
   B22D 46/00 20060101ALI20230608BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
B22D11/10 330Z
B22D46/00
B22D11/16 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188019
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2021196643
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 純平
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB00
(57)【要約】
【課題】欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機を制御可能な連続鋳造機の制御方法及び制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する第1ステップと、連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報、浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルから、連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と第1ステップにおいて予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出す第2ステップと、第2ステップにおいて読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に連続鋳造機の操業条件を制御する第3ステップと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する第1ステップと、
前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報、前記浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルから、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と前記第1ステップにおいて予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出す第2ステップと、
前記第2ステップにおいて読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御する第3ステップと、
を含むことを特徴とする連続鋳造機の制御方法。
【請求項2】
前記第1ステップは、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力変数、前記浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数とする機械学習モデルに対して前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力することにより、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の制御方法。
【請求項3】
前記浸漬ノズルの詰まりパターンは、数値流体解析を用いて表現されていることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の制御方法。
【請求項4】
前記第3ステップは、勾配降下法を用いて欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の制御方法。
【請求項5】
前記データテーブルは、浸漬ノズルの詰まりパターンと連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力値とした数値流体解析によって欠陥発生リスクを算出することにより作成されることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造機の制御方法。
【請求項6】
吐出口毎の閉塞率を浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合、各吐出口に疑似的な外力を与えることにより、浸漬ノズルの詰まりパターンを数値流体解析で表現し、吐出口の閉塞個所の2次元マップを浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合には、各吐出口の閉塞状態を表す2変数関数を離散化し、離散化した2変数関数を浸漬ノズルの壁境界条件として用いることにより、浸漬ノズルの詰まりパターンを数値流体解析で表現することを特徴とする請求項5に記載の連続鋳造機の制御方法。
【請求項7】
連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する第1手段と、
前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報、前記浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルから、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と前記第1手段によって予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出す第2手段と、
前記第2手段によって読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御する第3手段と、
を備えることを特徴とする連続鋳造機の制御装置。
【請求項8】
連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と対応する浸漬ノズルの詰まりパターンとの組を教師データとして機械学習させることにより、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力変数、前記浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数とする機械学習モデルを前記連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測するモデルとして生成するステップを含むことを特徴とする浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法。
【請求項9】
請求項1~6のうち、いずれか1項に記載の連続鋳造機の制御方法を用いて連続鋳造機の操業条件を制御しながら鋼材を製造するステップを含むことを特徴とする鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機の制御方法、連続鋳造機の制御装置、浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法、及び鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造工程において、鋳型内の溶鋼流動状態が起因となる欠陥の発生を抑制することは鉄鋼製品の品質を担保する上で大きな課題である。こうした欠陥は、溶鋼内の介在物が凝固シェルにトラップされることによる介在物性欠陥と、溶鋼湯面で液化したパウダーを巻込むことによって発生するパウダー性欠陥とに大別される。前者は洗浄流速と呼ばれる凝固シェル近傍の溶鋼流速の低下によって、後者はメニスカス付近における溶鋼流速の増大や界面不安定性及び渦の発生によって引き起こされると考えられている。このような欠陥の発生リスクは、連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を説明変数、欠陥の発生リスクを目的変数とした機械学習手法によって統計的に予測することができる。しかしながら、ニューラルネットワーク等に代表される多くの機械学習手法は、計算の中身がブラックボックスであるため、欠陥の発生リスクを抑制する連続鋳造機の制御方法を提案することはできない。
【0003】
これに対して、特許文献1には、外乱によるノズル吐出流の偏流現象を考慮したリアルタイム流動解析を実施することにより、鋳型内の溶鋼流動状態をオンラインで推定する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法によれば、操業中の溶鋼流動状態を推定することにより欠陥発生リスクの有無を判定できる。また、溶鋼流動状態を推定できるので、欠陥発生リスクを抑制する連続鋳造機の制御方法を検討することができる。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、溶鋼流動状態と欠陥発生リスクとの関係が明確になっていないために、連続鋳造機のどの操業条件をどの程度制御すべきかの判断が難しい。また、オンラインでの解析を前提としているため、その解析精度はオフラインの大規模解析と比較して低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-159363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、機械学習手法によって欠陥発生リスクを推定する方法は、機械学習手法の特性上、連続鋳造機の制御方法に結び付けることができない。また、鋳型内の溶鋼流動状態をオンラインで推定する方法であっても、欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機を制御することは困難である。なお、このような課題を解決するために、連続鋳造機の全ての操業条件、センサー情報、及び欠陥発生状況を紐づければ、機械学習手法により欠陥発生リスクを抑制することも可能であるが、そのためには膨大な数の操業データ及び欠陥データを収集する必要があり、現実的ではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機を制御可能な連続鋳造機の制御方法及び制御装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを精度よく予測する浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルを生成可能な浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、欠陥の発生を抑制して鋼材を歩留まりよく製造可能な鋼材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する第1ステップと、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報、前記浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルから、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と前記第1ステップにおいて予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出す第2ステップと、前記第2ステップにおいて読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御する第3ステップと、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、上記発明において、前記第1ステップは、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力変数、前記浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数とする機械学習モデルに対して前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力することにより、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測するステップを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、上記発明において、前記浸漬ノズルの詰まりパターンは、数値流体解析を用いて表現されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、上記発明において、前記第3ステップは、勾配降下法を用いて欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御するステップを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、上記発明において、前記データテーブルは、浸漬ノズルの詰まりパターンと連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力値とした数値流体解析によって欠陥発生リスクを算出することにより作成されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法は、上記発明において、吐出口毎の閉塞率を浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合、各吐出口に疑似的な外力を与えることにより、浸漬ノズルの詰まりパターンを数値流体解析で表現し、吐出口の閉塞個所の2次元マップを浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合には、各吐出口の閉塞状態を表す2変数関数を離散化し、離散化した2変数関数を浸漬ノズルの壁境界条件として用いることにより、浸漬ノズルの詰まりパターンを数値流体解析で表現することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る連続鋳造機の制御装置は、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する第1手段と、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報、前記浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルから、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と前記第1手段によって予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出す第2手段と、前記第2手段によって読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に前記連続鋳造機の操業条件を制御する第3手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法は、連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報と対応する浸漬ノズルの詰まりパターンとの組を教師データとして機械学習させることにより、前記連続鋳造機の操業条件及びセンサー情報を入力変数、前記浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数とする機械学習モデルを前記連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測するモデルとして生成するステップを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る鋼材の製造方法は、本発明に係る連続鋳造機の制御方法を用いて連続鋳造機の操業条件を制御しながら鋼材を製造するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る連続鋳造機の制御方法及び制御装置によれば、欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機を制御することができる。また、本発明に係る浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルの生成方法によれば、連続鋳造機の浸漬ノズルの詰まりパターンを精度よく予測する浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルを生成することができる。さらに、本発明に係る鋼材の製造方法によれば、欠陥の発生を抑制して鋼材を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態である連続鋳造機の制御装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態である制御処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、浸漬ノズルの詰まりパターンの一例を示す図である。
図4図4は、浸漬ノズルの詰まりパターンの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である連続鋳造機の制御装置の構成及びその動作について説明する。
【0019】
〔構成〕
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態である連続鋳造機の制御装置の構成について説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態である連続鋳造機の制御装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である連続鋳造機の制御装置(以下、制御装置と略記)1は、連続鋳造機2の動作を制御することによって鋳片を製造する装置であり、コンピュータ等の情報処理装置によって構成されている。本実施形態では、制御装置1は、情報処理装置内部の演算処理装置がコンピュータプログラムを実行することにより、詰まりパターン予測部11、欠陥発生リスク予測部12、及び操業条件制御部13として機能する。詰まりパターン予測部11、欠陥発生リスク予測部12、及び操業条件制御部13の機能については後述する。
【0021】
また、制御装置1は、データテーブル格納部14を備えている。データテーブル格納部14は、不揮発性の記憶装置によって構成され、連続鋳造機2の操業条件、センサー情報、浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルDTを格納している。ここで、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報としては、連続鋳造機2の鋳造速度や鍋重量、浸漬ノズルの浸漬深さ、タンディッシュ重量、コイル電流値、鋳片の幅、厚み、鋳型温度、湯面レベル等を例示することができる。また、浸漬ノズルの詰まりパターンとしては、浸漬ノズルの吐出口毎の閉塞率、吐出口の閉塞個所の2次元マップ(図3参照)、浸漬ノズルの詰まり位置の3次元マップ(図4参照)等を例示できる。吐出口毎の閉塞率は吐出口の数の次元のパラメータになり、吐出口の閉塞個所の2次元マップは吐出口断面の格子解像度×吐出口の数の次元のパラメータになる。また、浸漬ノズルの詰まり位置の3次元マップは浸漬ノズルを包含する領域の格子解像度分の次元を有するパラメータになる。
【0022】
データテーブルDTは、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報を示すa次元のデータ、浸漬ノズルの詰まりパターンを示すb次元のデータ、及び欠陥発生リスクを示す1次元のデータの合計(a+b+1)次元のデータテーブル×要素数(行数)で構成されている。後述する勾配降下法の計算では、操業条件空間における欠陥発生リスクの勾配を計算する必要があるため、データテーブルの要素数は、十分多く、且つ、できるだけ均一に変数が分散している状態であることが望ましい。
【0023】
欠陥発生リスクは、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報を示すa次元のデータと浸漬ノズルの詰まりパターンを示すb次元のデータを入力とした数値流体解析によって算出される。数値流体解析としては、定常解析を用いても非定常解析を用いてもよい。また、その手法については言及しない。また、計算格子は、浸漬ノズルの詰まりパターンを十分再現できる解像度で生成する必要がある。
【0024】
ここで、浸漬ノズルの詰まりパターンを数値流体解析で表現する方法について詳しく説明する。吐出口毎の閉塞率を浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合、例えば各吐出口iに以下の数式(1)に示す疑似的な外力Fを与えることで表現できる。ここで、数式(1)において、Nは吐出口の数、fは吐出口iにおける外力絶対値、nは吐出口iの吐出方向の単位法線ベクトルである。但し、fは正の値も負の値も取りうる。また、系全体の運動量保存のために、外力Fは以下の数式(2)に示す条件を満足する。また、外力絶対値fは各吐出口iの閉塞率Aを用いて以下に示す数式(3)のように表される。浸漬ノズルの各吐出口に外力Fを与えることにより、疑似的な偏流現象(浸漬ノズルの詰まりによる鋳型内の溶鋼流動の偏流)を数値流体解析上で再現することができる。具体的には、ナビエストークス方程式の離散化時に運動量の生成項として外力Fを与えることにより、疑似的な偏流現象を数値流体解析上で再現することができる。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
【数3】
【0028】
一方、吐出口の閉塞個所の2次元マップを浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合には、例えば各吐出口iの閉塞状態を表す以下の数式(4)に示す2変数関数B(x,y)を与えることで表現できる。ここで、x,yはそれぞれ吐出口断面の2次元空間における座標を示す。B(x,y)がゼロの時は吐出口i断面上の座標(x,y)は閉塞しておらず、1の時は閉塞している。但し、このような連続関数は、数値解析上取り扱うことができず、統計的処理や機械学習の目的変数としての出力も難しいため、格子状に離散化する。離散化したB(x,y)は最終的に符号付距離関数等を用いて数値流体解析における壁境界条件とすることにより、浸漬ノズルの閉塞パターンを表現できる。具体的には、詰まりのない健全な状態の浸漬ノズルの3次元モデルデータから生成した符号付距離関数の場に閉塞による吐出口の符号付距離関数を重ね合わせることにより、閉塞した浸漬ノズルの符号付距離関数を計算することができる。符号付距離関数の重ね合わせ計算は、例えば物体の内部が正、物体の外部が負になる符号付距離関数を使用している場合、健全な状態の浸漬ノズルの符号付距離関数と閉塞した浸漬ノズルの符号付距離関数の各座標での最大値計算となる。逆に、物体の内部が負、物体の外部が正になる符号付距離関数を使用している場合には、各座標での最小値計算になる。この重ね合わせ計算で得られた新たな符号付距離関数を詰まりが発生した浸漬ノズルの壁境界条件として用いることにより、浸漬ノズルの詰まりによる偏流現象を数値流体解析上で再現することができる。なお、閉塞パターンは吐出口の格子解像度×吐出口の数だけ存在するが、例えば吐出口の中心だけ詰まるようなことは起こりえないので、現実的に発生する可能性のある詰まりパターンのみ考慮すればよい。
【0029】
【数4】
【0030】
また、浸漬ノズルの詰まり位置の3次元マップを浸漬ノズルの詰まりパターンとする場合には、以下の数式(5)に示す符号付距離関数C(x,y,z)を与えることで表現できる。ここで、x,y,zはそれぞれ浸漬ノズルを包含する3次元空間における座標であり、Ωは浸漬ノズルの存在領域を表す集合、Ωは集合Ωの補集合、dは浸漬ノズル表面との距離を示す。この場合には、1つの関数で浸漬ノズルの詰まり状況全体を表現するため、吐出口毎に別々の関数を設定する必要はない。このC(x,y,z)もB(x,y)と同様に格子状に離散化する必要があるため、例えば均一格子状に離散化する。この場合、吐出口の閉塞個所を2次元マップで与える場合と比較して、浸漬ノズル内部の詰まり状態まで表現できるが、浸漬ノズル全体を表現するため、パラメータの次元は非常に大きくなる。
【0031】
【数5】
【0032】
なお、数値流体解析における境界条件としては、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報と、浸漬ノズルの詰まりパターンのパラメータとを用いる。解析結果から欠陥発生リスクλへの変換式は、例えば以下に示す数式(6)のように表される。ここで、usurface maxはメニスカスの最大流速絶対値、unear-wall minは凝固シェル近傍の最小流速絶対値、ωsurface maxはメニスカスの最大渦度、w1,2,3は重み係数を示す。流速や渦度は非定常解析であればその時間平均値を用いる。また、重み係数の値や使用する流動場の変数は上記に限定されるものではない。上記以外にも、ある時間内におけるパウダーの巻き込み回数やシェルにトラップされた介在物の個数をカウントする方法が挙げられる。この他にも、主に溶鋼流動に起因する欠陥に対するリスクであれば、同様に数値流体解析によって算出することができる。また、実際に実機で得られた欠陥データを用いて数値流体解析で得られた欠陥リスクを補正してもよい。
【0033】
【数6】
【0034】
このような構成を有する制御装置1は、以下に示す制御処理を実行することにより、欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機2を制御する。以下、図2を参照して、本発明の一実施形態である制御処理の流れについて説明する。
【0035】
〔制御処理〕
図2は、本発明の一実施形態である制御処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、連続鋳造機2の操業が開始されたタイミングで開始となり、制御処理はステップS1の処理に進む。制御処理は、連続鋳造機2が操業されている間、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0036】
ステップS1の処理では、詰まりパターン予測部11が、連続鋳造機2の操業条件に関する情報及びセンサー情報を取得する。そして、詰まりパターン予測部11は、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報を入力変数(説明変数)、連続鋳造機2の浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数(目的変数)とする機械学習モデルである詰まりパターン予測モデルMに対して取得した情報を入力することにより、操業中の連続鋳造機2における浸漬ノズルの詰まりパターンを予測する。この処理によれば、例えば図3に示すような吐出口の閉塞個所の2次元マップや、図4に示すような浸漬ノズルの詰まり位置の3次元マップを生成することができる。これにより、ステップS1の処理は完了し、制御処理はステップS2の処理に進む。
【0037】
なお、詰まりパターン予測モデルMは、学習装置3(図1参照)が、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報とその操業時の連続鋳造機2の浸漬ノズルの詰まりパターンとの組を教師データとした機械学習することによって生成される。教師データは、連続鋳造機2の操業データが格納されている操業データDB4から取得することができる。また、機械学習手法としては再帰型ニューラルネットワークを採用するとよく、また予測精度を向上させるために、そのアーキテクチャとしてLSTM(Long Short-Term Memory)を採用するとよい。また、教師データにおける浸漬ノズルの詰まりパターンの情報としては、使用後の浸漬ノズルの3次元スキャンデータや数値解析によって予測された使用中の浸漬ノズルの詰まり形状等を例示できる。使用中の浸漬ノズル詰まり形状を予測する数値解析手法は特に限定しないが、例えばSPH(Smoothed Particle Hydrodynamics)法等の粒子法解析が適している。
【0038】
ステップS2の処理では、欠陥発生リスク予測部12が、データテーブル格納部14内に格納されているデータテーブルDTから、ステップS1の処理において取得した連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報とステップ2の処理において予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出すことにより、欠陥発生リスクを予測する。これにより、ステップS2の処理は完了し、制御処理はステップS3の処理に進む。
【0039】
ステップS3の処理では、欠陥発生リスク予測部12が、ステップS2の処理において予測された欠陥発生リスクが所定の閾値以上であるか否かを判別する。判別の結果、欠陥発生リスクが所定の閾値以上である場合(ステップS3:Yes)、欠陥発生リスク予測部12は、制御処理をステップS4の処理に進める。一方、欠陥発生リスクが所定の閾値未満である場合には(ステップS3:No)、欠陥発生リスク予測部12は、一連の制御処理を終了する。
【0040】
ステップS4の処理では、操業条件制御部13が、勾配降下法を用いて欠陥発生リスクが小さくなる方向へ連続鋳造機2の操業条件を制御する。具体的には、目的関数friskを欠陥発生リスク、連続鋳造機2の操業条件のうち制御可能な操業条件n’個からなるn’次元ベクトルx(0)=(x(0) ,x(0) ,…,x(0) n’)を目的関数の引数とする。勾配降下法のアルゴリズムとして最急降下法を用いる場合、反復k+1回目のベクトルx(k+1)は以下に示す数式(7)のように表される。但し、数式(7)中のパラメータαは反復一回で更新する数値の重みを決定する小さな正の値である。操業条件制御部13は、この操作を以下の数式(8)に示す条件が満足されるまで繰り返し実行し、最終的に得られたベクトルx’新を連続鋳造機2の新たな操業条件とする。なお、数式(8)中の記号はL1ノルムを表し、εは十分小さい正の値である。操業が進めばセンサー情報は更新され、制御可能な操業条件のn’次元ベクトル空間における欠陥発生リスク関数の分布も更新される。これにより、ステップS4の処理は完了し、一連の制御処理は終了する。
【0041】
【数7】
【0042】
【数8】
【0043】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である制御処理では、制御装置1が、連続鋳造機2の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測し、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報、浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクの関係を示すデータテーブルDTから、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報と予測された浸漬ノズルの詰まりパターンとに対応する欠陥発生リスクの情報を読み出し、読み出された欠陥発生リスクの情報に基づいて、欠陥発生リスクが小さくなる方向に連続鋳造機2の操業条件を制御するので、欠陥発生リスクを抑制する方向に連続鋳造機2を制御することができる。
【0044】
また、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報と対応する浸漬ノズルの詰まりパターンとの組を教師データとして学習装置3に機械学習させることにより、連続鋳造機2の操業条件及びセンサー情報を入力変数、浸漬ノズルの詰まりパターンを出力変数とする機械学習モデルを連続鋳造機2の浸漬ノズルの詰まりパターンを予測するモデルとして生成できるので、連続鋳造機2の浸漬ノズルの詰まりパターンを精度よく予測する浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルを生成することができる。
【0045】
さらに、本発明の一実施形態である制御処理用いて連続鋳造機2の操業条件を制御しながら鋼材を製造することにより、欠陥の発生を抑制して鋼材を歩留まりよく製造することができる。
【0046】
〔実施例〕
発明の効果を確認するため、実際の鋳造条件を用いて鋳型内の溶鋼流動状態が起因となる鋳片の欠陥発生を抑制した。具体的には、まず、浸漬ノズルの詰まりパターン予測モデルを構築した。予測手法にはLSTMを用いた。説明変数は、鋳造速度、浸漬ノズルの浸漬深さ、鋳型の幅、厚み、鍋重量、タンディッシュ重量、コイル電流値、鋳型温度、湯面レベルとし、目的変数は浸漬ノズル状態の3次元マップとした。また、教師データは使用後の浸漬ノズルの3次元スキャンデータ及び数値解析によって予測された使用中の浸漬ノズルの詰まり形状とした。使用中の浸漬ノズルの詰まり形状の解析には凝固モデルを連成したSPH法を用いた。浸漬ノズル状態の3次元マップは浸漬ノズルを包含する領域で作成し、符号付距離関数C(x,y,z)は1mm間隔で離散化した。そして、上記のデータを実操業半年分学習させた。
【0047】
次に、操業条件、センサー情報、浸漬ノズルの詰まりパターン、及び欠陥発生リスクから成るデータテーブルを作成した。操業条件及びセンサー情報は、予測モデルの説明変数と同じとし、浸漬ノズルの詰まりパターンも予測モデルの目的変数と同様に1mm間隔で離散化した符号付距離関数C(x,y,z)とした。数値流体解析手法には、複雑境界の解析に適した格子ボルツマン法を用いた。上記データテーブルのうち、鋳造速度、浸漬ノズル浸漬深さ、鋳型の幅、厚み、コイル電流値、湯面レベル、浸漬ノズルの詰まりパターンを境界条件として設定し、格子幅1mmで解析を実施した。壁境界は符号付距離関数C(x,y,z)よるInterpolated Bounce-Back境界条件を用いた。解析は実時間210秒間実施し、解析開始30秒から終了までの180秒間の流速及び渦度の平均値を欠陥発生リスク計算に用いた。欠陥発生リスクの計算式として数式(6)を用いた。この計算を全てのデータテーブル要素について行った。
【0048】
浸漬ノズルの詰まりパターンの予測モデル及び操業条件・センサー情報、浸漬ノズルの詰まりパターン及び欠陥発生リスクから成るデータテーブルが作成できたので、実操業での利用に移った。構築したシステムによって1秒毎に欠陥発生リスクを計算し、閾値を超えたら操業条件の変更を行った。システム起動後3時間で欠陥発生リスクが閾値を上回った。この時の操業条件は鋳造速度1.6m/min、コイル電流値270mA、ノズル深さ280mm、鋳片の幅1600mm、厚み220mm、鍋重量200t、タンディッシュ重量80tであった。センサー情報については点数が多いので説明を割愛する。このうち、変更可能な操業条件は鋳造速度、コイル電流値、及びノズル深さの3つであるので、これら3変数による3次元ベクトルx=(xvc,xAC,xDepth)を引数とした欠陥発生リスクの目的関数frisk(x)に対して最急降下法を用いて、新たな操業条件を探索した。ここで、3次元ベクトルx=(xvc,xAC,xDepth)の初期値はx(0)=(1.6,270.0,280.0)であった。そして、100反復目で数式(8)に示す条件が満足された。この時の操業条件はx(100)=(1.4,290.0,260.0)であった。このx(100)を新たな操業条件x’として再設定して引き続き操業を行った。上記の操作を繰り返し行うことにより、通常操業時と比較して欠陥発生数を30%削減することに成功した。
【符号の説明】
【0049】
1 連続鋳造機の制御装置
2 連続鋳造機
3 学習装置
4 操業データDB
11 詰まりパターン予測部
12 欠陥発生リスク予測部
13 操業条件制御部
14 データテーブル格納部
DT データテーブル
M 詰まりパターン予測モデル
図1
図2
図3
図4