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特開2023-83246外装材用シーラントフィルム、二次電池用の外装材、および二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083246
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】外装材用シーラントフィルム、二次電池用の外装材、および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/121 20210101AFI20230608BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20230608BHJP
   H01M 50/126 20210101ALI20230608BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20230608BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/126
H01M50/105
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191324
(22)【出願日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2021196637
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田邨 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼▲崎▼ 莉沙
【テーマコード(参考)】
4F100
5H011
【Fターム(参考)】
4F100AK01C
4F100AK02A
4F100AK02B
4F100AK02C
4F100AK04B
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100AK07C
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100AL05C
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100DD07
4F100EH202
4F100EH20A
4F100EH20B
4F100EH20C
4F100GB41
4F100JA04B
4F100JA05
4F100JA06
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JD04
4F100JK06
4F100JK16
4F100YY00
4F100YY00B
5H011AA09
5H011AA10
5H011CC02
5H011CC10
5H011DD13
5H011KK00
5H011KK02
5H011KK04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、水蒸気バリア性と成形性に優れた外装材用のシーラントフィルムを提供することにある。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含む層を少なくとも一層以上備え、以下(a)(b)を満たす外装材用シーラントフィルム。
(a)少なくとも一方の面同士の静摩擦係数が0.5以下。
(b)少なくとも一方の面の十点平均粗さが2.0μm以上。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含む層を少なくとも一層以上備え、以下(a)(b)を満たす外装材用シーラントフィルム。
(a)少なくとも一方の面同士の静摩擦係数が0.5以下。
(b)少なくとも一方の面の十点平均粗さが2.0μm以上。
【請求項2】
前記外装材用シーラントフィルムの60℃、90%RHでの水蒸気透過率が3g・mm/m/day以下である、請求項1に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項3】
前記外装材用シーラントフィルムのガラス転移点が60~150℃である、請求項1または2に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項4】
70℃における降伏点応力が50MPa以下である、請求項1または2に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項5】
前記外装材用シーラントフィルムが、少なくとも基材層とその両側に配置された熱可塑性樹脂層からなる三層以上で構成され、基材層全体を100質量%としたときに基材層が環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含み、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層がシーラントフィルムの表層に配置され、該表層が融点130~160℃のポリプロピレン系樹脂a1を主成分とする、請求項1または2に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項6】
前記基材層全体を100質量%としたとき、基材層が環状オレフィン系樹脂を60質量%以上と、ポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1を18質量%以上含む、請求項5に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項7】
前記基材層全体を100質量%としたとき、基材層が環状オレフィン系樹脂を60質量%以上と、融点が100℃以上のポリプロピレン系樹脂a2および/または融点が100℃以上のポリエチレン系樹脂b1を18質量%以上含む、請求項6に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項8】
少なくとも一方の表層面同士の静摩擦係数が0.5以下であり、該表層面の十点平均粗さが2.0μm以上である、請求項5に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項9】
前記外装材用シーラントフィルムが全固体電池の外装材に用いられる、請求項1または2に記載の外装材用シーラントフィルム。
【請求項10】
請求項1または2に記載のシーラントフィルムを備える、二次電池用の外装材。
【請求項11】
請求項10に記載の二次電池用の外装材を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での水蒸気バリア性と加工性を両立する外装材用シーラントフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、他の二次電池と比較して高いエネルギー密度を有し、電気自動車用や電力貯蔵用の電池として使用されている。
【0003】
従来使用されてきた非水電解液を用いるリチウム二次電池は、電解液として6フッ化リン酸リチウム溶液が用いられているが、安全性の観点で60℃未満での使用が必要であった。また、前記電解質は水分と反応してフッ酸を生成し、このフッ酸が前記積層体の内層を透過し、金属箔と内層との接着を低下させて剥離を生じさせ、電池寿命を短いものにするという問題があり、水分侵入を抑制するために種々検討がなされてきた(特許文献1~3)。
【0004】
また、近年注目を浴びている全固体リチウム二次電池(以下全固体電池と記載)は、従来の非水電解質で多用されている電解液ではなく、固体電解質が用いられている。全固体電池は、電池内に有機溶媒を用いないことから、安全性が高く、作動温度範囲が広いといった利点を有しており、また60℃以上で高効率化しやすいことから、全固体電池の外装材に使用されるシーラントフィルムについても60℃以上の高温で使用される可能性を踏まえて設計する必要がある。
また、全固体電池に硫化物固体電解質を用いた場合、電池内に水分が侵入すると、固体電解質と水分とが反応して硫黄系ガスが発生することが問題となっている。具体的には、長期間電池を使用した場合に、硫黄系ガスが蓄積して、電池外装材が膨張したり、破袋したりすることが懸念されている。
高温では特に外装材を構成するシーラントフィルムの水蒸気バリア性が低下するため、従来提案されてきた水蒸気バリア性の改善方法では十分な効果が得られない場合があり、更なる水蒸気バリア性の改善方法として、無機系吸収剤をシーラントフィルムに用いる方法などが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-38881号公報
【特許文献2】特開2008-293909号公報
【特許文献3】特開2007-26682号公報
【特許文献4】特開2021-57231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載してあるような無機系吸収剤をシーラントに用いた場合、パウチ状に成形する際に、シーラントフィルムにボイドなどの欠損を生じてしまう懸念があった。
【0007】
そこで本発明の課題は、高温での水蒸気バリア性と成形性に優れた外装材用のシーラントフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の外装材用シーラントフィルム、二次電池用の外装材、二次電池の好ましい一態様は以下のとおりである。
(1)環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含む層を少なくとも一層以上備え、以下(a)(b)を満たす外装材用シーラントフィルム。
(a)少なくとも一方の面同士の静摩擦係数が0.5以下。
(b)少なくとも一方の面の十点平均粗さが2.0μm以上。
(2)前記外装材用シーラントフィルムの60℃、90%RHでの水蒸気透過率が3g・mm/m/day以下である、(1)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(3)前記外装材用シーラントフィルムのガラス転移点が60~150℃である、(1)または(2)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(4)70℃における降伏点応力が50MPa以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の外装材用シーラントフィルム。
(5)前記外装材用シーラントフィルムが、少なくとも基材層とその両側に配置された熱可塑性樹脂層からなる三層以上で構成され、基材層全体を100質量%としたときに基材層が環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含み、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層がシーラントフィルムの表層に配置され、該表層が融点130~160℃のポリプロピレン系樹脂a1を主成分とする、(1)~(4)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(6)前記基材層全体を100質量%としたとき、基材層が環状オレフィン系樹脂を60質量%以上と、ポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1を18質量%以上含む、(5)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(7)前記基材層全体を100質量%としたとき、基材層が環状オレフィン系樹脂を60質量%以上と、融点が100℃以上のポリプロピレン系樹脂a2および/または融点が100℃以上のポリエチレン系樹脂b1を18質量%以上含む、(6)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(8)少なくとも一方の表層面同士の静摩擦係数が0.5以下であり、該表層面の十点平均粗さが2.0μm以上である、(5)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(9)前記外装材用シーラントフィルムが全固体電池の外装材に用いられる、(1)~(8)に記載の外装材用シーラントフィルム。
(10)(1)から(9)のいずれかに記載のシーラントフィルムを備える、二次電池用の外装材。
(11)(10)に記載の二次電池用の外装材を備える、二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水蒸気バリア性と成形性に優れた外装材用のシーラントフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の好ましい一態様について説明する。
【0011】
本発明の好ましい一態様は、環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含む層を少なくとも一層以上備え、以下(a)(b)を満たす外装材用シーラントフィルムである。
(a)少なくとも一方の面同士の静摩擦係数が0.5以下。
(b)少なくとも一方の面の十点平均粗さが2.0μm以上。
【0012】
静摩擦係数および十点平均粗さの評価方法は実施例に記載の通りとする。
【0013】
本発明の外装材用シーラントフィルム(以下、シーラントフィルムと記載する場合がある)に用いる環状オレフィン系樹脂について説明する。環状オレフィン系樹脂とは、モノマーたる環状オレフィンから重合して得られる、ポリマーの主鎖に脂環構造を有する樹脂であり、該環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中において、環状オレフィンモノマー由来成分(構成単位)の合計量が50質量%を超えて100質量%以下である態様の重合体を意味する。
【0014】
環状オレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエンといった単環式オレフィン、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-メチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ-2-エン、5,5-ジメチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-エチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-ブチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-エチリデン-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-オクチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-オクタデシル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-メチリデン- ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-ビニル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エンといった二環式オレフィン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ-3,7-ジエン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ-3-エン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ-3,7-ジエン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ-3,8-ジエン、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕ウンデカ-3-エン、5-シクロペンチル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-シクロヘキセニルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン、5-フェニル-ビシクロ〔2,2,1〕ヘプタ-2-エンといった三環式オレフィン、テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-メチルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-エチルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-メチリデンテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-エチリデンテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-ビニルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-プロペニル-テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エンといった四環式オレフィン、および8-シクロペンチル-テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-シクロヘキシル-テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-シクロヘキセニル-テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、8-フェニル-シクロペンチル-テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エン、テトラシクロ〔7,4,13.6,01.9,02.7〕テトラデカ-4,9,11,13-テトラエン、テトラシクロ〔8,4,14.7,01.10,03.8〕ペンタデカ-5,10,12,14-テトラエン、ペンタシクロ〔6,6,13.6,02.7,09.14〕-4-ヘキサデセン、ペンタシクロ〔6,5,1,13.6,02.7,09.13〕-4-ペンタデセン、ペンタシクロ〔7,4,0,02.7,13.6,110.13〕-4-ペンタデセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,12.9,14.7,111.17,03.8,012.16〕-5-エイコセン、ヘプタシクロ〔8,7,0,12.9,03.8,14.7,012.17,113.16〕-14-エイコセン、シクロペンタジエンといった四量体等の多環式オレフィンなどが挙げられる。これらの環状オレフィンモノマーは、それぞれ単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0015】
環状オレフィンモノマーとしては、上記した中でも、生産性などの観点から、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト-2-エン(以下、ノルボルネンとする)、トリシクロ〔4,3,0,12.5〕デカ-3-エンなどの炭素数10の三環式オレフィン(以下、トリシクロデセンとする)、テトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ-3-エンなどの炭素数12の四環式オレフィン(以下、テトラシクロドデセンとする)、シクロペンタジエン、または1,3-シクロヘキサジエンが好ましく用いられる。
【0016】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン系樹脂の重合体100質量%中に、環状オレフィンモノマー由来成分の合計が50質量%を超えて100質量%以下であれば、上記環状オレフィンモノマーのみを重合させた樹脂(以下、COPということがある)や、上記環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂(以下、COCということがある)のいずれの樹脂でも構わない。
【0017】
COPの製造方法としては、環状オレフィンモノマーの付加重合、あるいは開環重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させる方法、ノルボルネンおよびその誘導体を付加重合させる方法、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンを1,2-、1,4-付加重合させた後に水素化させる方法などが挙げられる。これらの中でも、生産性、成形性の観点から、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロデセン、およびその誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させた樹脂が最も好ましい。
【0018】
COCの場合、好ましい鎖状オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-へキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、生産性、コストの観点から、エチレンが特に好ましく用いることができる。また、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーとを共重合させた樹脂の製造方法としては、環状オレフィンモノマーと鎖状オレフィンモノマーの付加重合などの公知の方法が挙げられ、例えば、ノルボルネンおよびその誘導体とエチレンを付加重合させる方法などが挙げられる。中でも、生産性、成形性の観点から、ノルボルネンとエチレンの共重合体が最も好ましい。 また、本発明のシーラントフィルムには、上記した環状オレフィン系樹脂のうち、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明のシーラントフィルムは、環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含む層を少なくとも一層以上備えることで、60℃、90%RHでの水蒸気透過率を低減し、本発明のシーラントフィルムを用いた外装材を二次電池用の外装材として用いた場合に、電池内への水分侵入を十分に抑制することができる。環状オレフィン系樹脂の含有量は30質量%以上がより好ましく、60質量%がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。
【0020】
本発明のシーラントフィルムに用いる環状オレフィン系樹脂としては、メルトフローレート(MFR)が0.2~30g/10分(230℃、21.18N荷重)、特に好ましくは1~20g/10分(230℃、21.18N荷重)の範囲のものが、製膜性や後述する環状オレフィン系樹脂以外の樹脂とブレンドして使用する場合の分散性の観点から好ましい。ここで、MFRはJIS K 7210(1999)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィンの特徴を示す物性値として広く用いられるものである。
【0021】
また、本発明のシーラントフィルムは、少なくとも一方の面同士の静摩擦係数が0.5以下であるが、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。前記静摩擦係数を0.5以下とすることで、本発明のシーラントフィルムをパウチ状に成形する際に滑り性が付与され、成形性が向上する。
【0022】
さらに、本発明のシーラントフィルムは、少なくとも一方の面同士の十点平均粗さが2.0μm以上であるが、3.0μm以上がより好ましい。前記十点平均粗さを2.0μm以上とすることで、本発明のシーラントフィルムをパウチ上に成形する際に滑り性が付与され、成形性が向上する。
【0023】
本発明のシーラントフィルムの60℃、90%RHでの水蒸気透過率は、3g・mm/m/day以下が好ましく、2g・mm/m/day以下がより好ましく、1.5g・mm/m/day以下がさらに好ましい。前記水蒸気透過率を3g・mm/m/day以下とすることで、本発明のシーラントフィルムを二次電池用の外装材用フィルムとして用いた場合にも水分侵入を抑制し、外装材の内圧の上昇や、膨張、破裂を抑制したり、電池の劣化を抑制することができる。
【0024】
本発明のシーラントフィルムのガラス転移点は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。本発明でいうシーラントフィルムのガラス転移点とは、シーラントフィルムのガラス転移点が複数ある場合は、最も高温側のガラス転移点のことをいう。なお、ガラス転移点は、(a)ISO11357-1、2に準じてシーラントフィルムを測定することで評価できる。また、本発明のシーラントフィルムが二種以上の非相溶の樹脂を含み、かつ使用樹脂のガラス転移点と融点が近い場合は、(b)あらかじめ使用樹脂のガラス転移点を測定しておき、このうち高温側のガラス転移点をシーラントフィルムのガラス転移点とすれば良い。ガラス転移点の異なるCOC同士やCOP同士等、二種以上の相溶する樹脂を本発明のシーラントフィルムに用いる場合は、(c)当該樹脂をあらかじめ溶融混練等の方法でブレンドした組成物についてガラス転移点を測定し、該ガラス転移点をシーラントフィルムのガラス転移点とすればよい。また、シーラントフィルムを構成する樹脂が不明で、かつ、シーラントフィルムの融点とガラス転移点が近く、ISO11357-1、2の方法でシーラントフィルムを測定してもガラス転移点が確認できない場合は、(d)シーラントフィルムを構成する樹脂を溶媒等を用いて分取したものについてガラス転移点を測定し、最も高温側のガラス転移点をシーラントフィルムのガラス転移点とすればよい。上記(b)~(d)の方法でガラス転移点を評価する場合、シーラントフィルムが二層以上から構成されている場合は、各層ごとに使用樹脂のガラス転移点を測定し、このうち、最も高いものをシーラントフィルムのガラス転移点とすればよい。本発明のシーラントフィルムのガラス転移点を60℃以上にすることで高温環境における水蒸気バリア性を高めることができる。
【0025】
また、本発明のシーラントフィルムのガラス転移点は、後述する外装材の耐熱基材層を構成する樹脂の融点以下が好ましい。また、本発明のシーラントフィルムが環状オレフィン系樹脂以外の熱可塑性樹脂を含む場合は、該熱可塑性樹脂の融点以下であることが好ましい。このような観点や本発明のシーラントフィルムをパウチ状に成形する際の成形性を向上させる観点で、シーラントフィルムのガラス転移点は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。
本発明のシーラントフィルムのガラス転移点を60℃以上、あるいは150℃以下とする方法としては、本発明のシーラントフィルムに用いる環状オレフィン系樹脂として所望のガラス転移点の環状オレフィン系樹脂を用いる方法が好ましい。つまり、本発明のシーラントフィルムに用いる環状オレフィン系樹脂のガラス転移点は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。また、本発明の環状オレフィン系樹脂のガラス転移点の上限は、200℃が好ましく、150℃がより好ましく、130℃がさらに好ましい。
本発明の環状オレフィン系樹脂のガラス転移点を制御する方法としては、例えば、COCとして、ノルボルネンとエチレンの共重合体を使用する場合、COC中のノルボルネンの含有量を増加させていくとガラス転移点を高温化することができる。さらに、ノルボルネンの含有量の異なり、かつ相溶する2種類のCOCをブレンドさせることによっても、ガラス転移点を調整することが可能である。また、例えば、COPとして、ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロドデセン、およびこれらの誘導体を開環メタセシス重合させた後に水素化させた樹脂を使用する場合、重合する環状オレフィン(ノルボルネン、トリシクロデセン、テトラシクロドデセン、およびこれらの誘導体)の分子量を大きくする、あるいは、環の数を多くして剛直な構造にすることにより、ガラス転移点を高温化することが可能である。さらに、ガラス転移点の異なり、かつ相溶する2種類のCOPをブレンドさせることによっても本発明の環状オレフィン系樹脂のガラス転移点を調整することが可能である。
【0026】
本発明のシーラントフィルムは、一層でもよいし、二層以上から構成されていてもよいが、三層以上から構成されることが好ましい。また、二層以上から構成される場合は、一部の層のみに環状オレフィン系樹脂を含有してもよいし、全ての層に環状オレフィン系樹脂を含有してもよい。
【0027】
本発明のシーラントフィルムの構成例としては、例えば基材層、熱可塑性性樹脂層Aの二層構成とすることができ、この場合、基材層のみ、あるいは基材層と熱可塑性樹脂層Aの両方に環状オレフィン系樹脂を含有させることが好ましい。本発明のシーラントフィルムが基材層と熱可塑性樹脂層Aからなる場合は、本発明のシーラントフィルムを外装材に用いた際に、熱可塑性樹脂層Aが外装材の表層になるように積層することが好ましい。本発明のシーラントフィルムが三層以上から構成される場合の具体例については後述する。また、本発明でいう基材層とは、基材層全体を100質量%としたときに環状オレフィン系樹脂を10質量%以上含み、かつ、シーラントフィルムを構成する各層の中で環状オレフィン系樹脂の含有量が最も多い層のことをいう。なお、シーラントフィルムを構成する各層の環状オレフィン系樹脂の含有量が同一の場合は、最も層厚みが厚い層のことを基材層という。なお、本発明のシーラントフィルムの基材層は後述する耐熱基材層とは別のものである。
【0028】
本発明のシーラントフィルムが二層以上の場合、基材層に含まれる環状オレフィン系樹脂の含有量は、基材層全体を100質量%としたとき、高温での水蒸気バリア性を高める観点で、10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。また、基材層には成形性を向上させるために環状オレフィン系樹脂以外の樹脂を5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、18質量%以上含むことがさらに好ましい。基材層中の前記環状オレフィン系樹脂以外の樹脂の含有量の上限は、水蒸気バリア性を確保する観点で38質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
成形性を向上させるために基材層に含有させる樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、エチレンプロピレンランダム共重合体、ブロックポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、エチレン・α-オレフィンコポリマー、プロピレン・α-オレフィンコポリマー、エチレン系コポリマー、4-メチル-1-ペンテン系コポリマー、エチレンプロピレンジエンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマーやスチレン系熱可塑性エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・ブタン酸ビニル共重合体等のエチレンとカルボン酸ビニルとの共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)等のエチレンとα、β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとの共重合体等が挙げられるが、これらのなかでも高温での水蒸気バリア性を確保しつつ、さらに成形性を高める観点で、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂やホモポリプロピレン、エチレンプロピレンランダム共重合体、ブロックポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
つまり、本発明のシーラントフィルムが少なくとも基材層を含む二層以上で構成される場合、基材層全体を100質量%としたとき、基材層が環状オレフィン系樹脂を60質量%以上と、ポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1を合計で18質量%以上含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1の合計量の上限は、38質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、28質量%がさらに好ましい。基材層中のポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1の含有量を上記好ましい範囲に制御することで、本発明のシーラントフィルムの高温での水蒸気バリア性と成形性をより好ましく両立することができる。
また、本発明の基材層は、環状オレフィン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂a2およびポリエチレン系樹脂b2の合計量が78質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。本発明の基材層の環状オレフィン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂a2およびポリエチレン系樹脂b2の合計量を上記好ましい範囲とすることで、本発明のシーラントフィルムの高温での水蒸気バリア性と成形性をさらに好ましく両立することができる。
【0029】
また、本発明の基材層に含まれるポリプロピレン系樹脂a2、ポリエチレン系樹脂b1は高温での水蒸気バリア性を高める観点で融点が100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。なお、本発明の基材層が二種以上のポリプロピレン系樹脂a2やポリエチレン系樹脂b2を含有し、異なる融点を示す場合は高温側の融点が100℃以上であればよい。また、前記ポリプロピレン系樹脂a2、ポリエチレン系樹脂b1の融点の上限は、成形性を向上させる観点で165℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。
【0030】
本発明の基材層は、前記した環状オレフィン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂a2、ポリエチレン系樹脂b1以外の樹脂や添加剤等を含有してもよい。例えば、環状オレフィン系樹脂とポリプロピレン系樹脂a2との相溶化剤、環状オレフィン系樹脂とポリエチレン系樹脂b1との相溶化剤、ポリプロピレン系樹脂a2とポリエチレン系樹脂b1との相溶化剤や隣接する層やシーラントフィルム以外のフィルムとの層間密着剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、防かび剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、防さび剤、吸湿剤、酸素吸収剤等が挙げられる。
本発明のシーラントフィルムは高温での水蒸気バリア性とシール性や成形性を両立する観点で、三層以上から構成されることがより好ましく、さらに基材層とその両側に熱可塑性樹脂層を備えることが好ましい。また、前記基材層の両側に配置された熱可塑性樹脂層のうち、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層Aは本発明のシーラントフィルムの表層に配置されていることが好ましく、さらに本発明のシーラントフィルムを外装材に用いる場合は、熱可塑性樹脂層Aが外装材の表層側になるように積層することが好ましい。
本発明のシーラントフィルムが三層以上からなる場合の具体例としては、熱可塑性樹脂層A、基材層、熱可塑性樹脂層Aをこの順に備えるシーラントフィルム、熱可塑性樹脂層A、基材層、熱可塑性樹脂層Bをこの順に備えるシーラントフィルム、熱可塑性樹脂層A、基材層、熱可塑性樹脂層B、機能層をこの順に備えるシーラントフィルム、熱可塑性樹脂層A、基材層、機能層、熱可塑性樹脂層Bをこの順に備えるシーラントフィルム等が挙げられる。前記した熱可塑性樹脂層A、基材層、熱可塑性樹脂層Aをこの順に備えるシーラントフィルムのように、基材層の両面かつ表層に同一の組成、表面形状からなる熱可塑性樹脂層Aが積層される場合、該シーラントフィルムを外装材に用いる際にどちらの熱可塑性樹脂層Aを外装材の表層側に用いてもよい。また、本発明の熱可塑性樹脂層A、基材層、熱可塑性樹脂層Bをこの順に備えるシーラントフィルムのように、基材層の両面に組成、あるいは表面形状が異なる熱可塑性樹脂層が積層されている場合は、十点平均粗さが大きい方を熱可塑性樹脂層Aとすることが好ましい。なお、機能層としては例えば、基材層や熱可塑性樹脂層以外で、後述するバリア層との接着性を向上させるための層、基材層と熱可塑性樹脂層との層間密着性を向上させるための層、耐熱性、水蒸気バリア性、成形性、柔軟性等を付与するための層が挙げられる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂層には、シーラントフィルムの熱融着性樹脂として一般的に使用される熱可塑性樹脂を用いることができ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などのポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、エチレンプロピレンランダム共重合体、ブロックポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂、エチレン・α-オレフィンコポリマー、プロピレン・α-オレフィンコポリマー、エチレン系コポリマー、4-メチル-1-ペンテン系コポリマー、エチレンプロピレンジエンゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと省略することがある。)、エチレン・プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン・ブタン酸ビニル共重合体等のエチレンとカルボン酸ビニルとの共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)等のエチレンとα、β-不飽和カルボン酸アルキルエステルとの共重合体やポリブチレンテレフタレートフィルム、これらに無水マレイン酸を共重合したものなどを挙げられ、これらのなかでも高温での水蒸気バリア性、シール強度の観点から、エチレンプロピレンランダム共重合体やブロックポリプロピレン、ホモポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂を主成分として用いることが好ましい。熱可塑性樹脂層中の前記ポリプロピレン系樹脂の含有量は当該熱可塑性樹脂層を100質量%としたとき、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、本発明の熱可塑性樹脂中に用いることができるポリプロピレン系樹脂の後述する条件で測定したメルトフローレート(以下、MFRと記載)は、ヒートシール性やシーラントフィルムを溶融押出して製造する際の生産性の観点で、230℃で測定したMFR1.0g/10分以上が好ましく、2.0g/10分以上がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂のMFRの上限はシール強度を向上させる観点や成形性の観点で、15g/10分以下が好ましい。
【0032】
なお、主成分とする、ということは当該層100質量%中に当該成分を60質量%以上含むことを言う。
また、本発明の熱可塑性樹脂層には環状オレフィン系樹脂を含まなくてもよいし、含んでもよい。熱可塑性樹脂層同士を融着してシールする場合の所望のシール強度や、所望の水蒸気バリア性に応じて適宜設計することができる。
なお、本発明のシーラントフィルムを外装材として用いる場合、外装材の内面に位置する熱可塑性樹脂層面同士をヒートシールした後の室温で測定されたシール強度が20N/15mm以上が好ましく、30N/15mm以上がより好ましい。本発明のシーラントフィルムを用いた外装材のシール強度を20N/15mm以上とすることで、外装材をパウチ状に成形、シールした後に衝撃等が加わった場合でもヒートシール箇所が剥がれにくく、内容物の漏れを抑制することができる。
本発明の熱可塑性樹脂層には、前記した以外の樹脂や添加剤等を含有してもよい。例えば、熱可塑性樹脂層を構成する樹脂の相溶化剤や基材層やその他の隣接する層、シーラントフィルム以外のフィルムとの層間密着剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、防かび剤、着色剤(顔料、染料等)、帯電防止剤、防さび剤、吸湿剤、酸素吸収剤等が挙げられる。
本発明の基材層の両側に配置される熱可塑性樹脂層は組成や厚みが同一でもよいし、異なっていてもよいが、シーラントフィルムの表層に配置される熱可塑性樹脂層Aは融点130~160℃のポリプロピレン系樹脂a1を主成分とすることが好ましい。
つまり、本発明のシーラントフィルムのより好ましい態様としては、少なくとも基材層とその両側に配置された熱可塑性樹脂層からなる三層以上で構成され、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層Aがシーラントフィルムの表層に配置され、かつ該表層が融点130~160℃のポリプロピレン系樹脂a1を主成分とするシーラントフィルムが挙げられる。
熱可塑性樹脂層Aに用いるポリプロピレン系樹脂a1の融点を130℃以上とすることで、本発明のシーラントフィルムの該熱可塑性樹脂層A面同士をヒートシールして袋状や容器状に形成した後、高温環境で使用した場合でもヒートシール箇所から剥離しにくく、密閉状態を保ちやすい。また、ポリプロピレン系樹脂a1の融点を160℃以下とすることで、低温でヒートシールした場合でも高いシール強度が得られやすい。ポリプロピレン樹脂a1としては、前記したなかでもヒートシール強度を向上させる観点や環状オレフィン系樹脂との相溶性の観点でエチレンプロピレンランダム共重合体やブロックポリプロピレンがより好ましい。本発明の熱可塑性樹脂層A中のポリプロピレン系樹脂a1の含有量はシール性、成形性の観点で60質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましい。
【0033】
本発明のシーラントフィルムは、少なくとも基材層とその両側に配置された熱可塑性樹脂層からなる三層以上で構成され、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層Aがシーラントフィルムの表層に配置され、熱可塑性樹脂層Aが融点130~160℃の前記ポリプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましく、さらに熱可塑性樹脂層A面同士の静摩擦係数が0.5以下であり、該表層面の十点平均粗さが2.0μm以上であることが好ましい。
上記した熱可塑性樹脂層A面同士の静摩擦係数を0.5以下とし、さらに熱可塑性樹脂層A面の十点平均粗さを2.0μm以上とすることで、高温での水蒸気バリア性とヒートシール性を確保しながらも、本発明のシーラントフィルムを用いた外装材をパウチ状にプレス成形する際に良好な成形性を得ることができる。
本発明のシーラントフィルムは、70℃における降伏点応力が50MPa以下であることが好ましく、30MPa以下がより好ましい。本発明のシーラントフィルムは、70℃における降伏点応力を50MPa以下とすることで、本発明のシーラントフィルムを用いた外装材をパウチ状に成形するときの成形性を向上させることができる。
本発明のシーラントフィルムは、前記した通り少なくとも基材層とその両側に配置された熱可塑性樹脂層からなる三層以上で構成され、少なくとも一方の熱可塑性樹脂層Aがシーラントフィルムの表層に配置されることが好ましいが、該シーラントフィルムを用いた外装材をパウチ状に成形する際の成形温度が高すぎると、熱可塑性樹脂層Aに用いた熱融着性樹脂が成形機に融着してしまい、生産性が低下してしまう場合がある。また、熱可塑性樹脂層Aに成形性向上のために滑剤などを添加している場合、成形温度が高すぎると滑剤が熱可塑性樹脂層Aの表面に過剰に析出して成形機を汚染して生産性が低下してしまう場合がある。また、成形温度が高すぎると、熱可塑性樹脂層内部の滑剤以外の添加剤やオリゴマーなどの低分子量成分が熱可塑性樹脂層Aの表面に過剰に析出してしまう場合もある。前記した滑剤やその他の添加剤、低分子量成分が過剰に析出している場合、本発明の外装材の熱可塑性樹脂層A同士をヒートシールする際に十分なヒートシール強度が得られない場合がある。このような場合、本発明の外装材を硫化物系の全固体電池に用いる際に、パウチ端面のシール部から水蒸気が侵入しやすく、有害物質である硫化水素が発生してパウチの内圧が上昇してしまったり、電極や後述するバリア層を腐食してしまったり等、電池が劣化してしまう場合がある。このため、外装材をパウチ状に成形する際の成形温度は120℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましい。また、このような観点で、本発明のシーラントフィルムは、熱可塑性樹脂層Aの表面面同士の静摩擦係数が0.5以下であり、かつ、熱可塑性樹脂層A面の十点平均粗さが2.0μm以上、かつ70℃における降伏点応力が50MPa以下であることが好ましい。
本発明の70℃における降伏点応力は、本発明のシーラントフィルムの積層構成や、シーラントフィルムに用いる環状オレフィン系樹脂の組成、ガラス転移点、含有量や、環状オレフィン系樹脂以外の樹脂や添加剤の組成や含有量等によって制御することができる。70℃における降伏点応力を低減させる方法としては、例えば環状オレフィン系樹脂のガラス転移点を低くする、環状オレフィン系樹脂の含有量を少なくする、熱可塑性エラストマー等の柔軟な樹脂を含有させる、融点の低い樹脂を用いる、本発明のシーラントフィルムが二層以上の積層構成の場合は環状オレフィン系樹脂の含有量が多い層の積層比を低くする方法などが挙げられる。
上記したなかでも、高温での水蒸気バリア性と両立させる観点で、本発明のシーラントフィルムが環状オレフィン系樹脂を60質量%以上とポリプロピレン系樹脂a2および/またはポリエチレン系樹脂b1を合計で15質量%以上含む基材層と、その両側に配置されたの熱可塑性樹脂層を含む少なくとも三層以上で構成され、該熱可塑性樹脂層がポリプロピレン系樹脂を主成分とすることが好ましい。また、該シーラントフィルムのガラス転移点を70℃以上、125℃以下とすることがより好ましい。
【0034】
本発明のシーラントフィルムは、少なくとも一方の面の十点平均粗さを2.0μm以上とし、滑り性を高めるために粒子を含有することが好ましい。前記粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、無機粒子、樹脂粒子等が挙げられる。前記無機粒子としては、例えば、無機酸化物粒子(シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子等)、無機炭酸塩粒子(炭酸カルシウム粒子、炭酸バリウム粒子等)、無機ケイ酸塩粒子(ケイ酸アルミニウム粒子、タルク粒子、カオリン粒子等)などが挙げられる。前記樹脂粒子としては、例えば、アクリル樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子(ポリエチレン樹脂粒子、ポリプロピレン樹脂粒子)、ポリスチレン樹脂粒子などが挙げられる。
【0035】
前記粒子としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合には平均粒子径の異なる2種以上の粒子を用いるのが好ましく、この場合には表面の粗さの分布を均一にするのが容易になるという効果が得られる。また、前記粒子としては、比重が3以下であるものを用いるのが好ましく、この場合には非相溶粒子を容易に層内で均一に分散できるという効果が得られる。前記粒子は本発明のシーラントフィルムが二層以上から構成される場合には、少なくとも表面の一層に含有させることで滑り性を高める効果が得られる。
【0036】
本発明のシーラントフィルムは、滑り性を高め、少なくとも一方の面同士の静摩擦係数を0.5以下とするために滑剤を含有することが好ましい。前記滑剤としては、特に限定されるものではないが、脂肪酸アミド、金属石鹸、フッ素系ポリマー、シリコーン系滑剤、脂肪酸、植物油などを用いることができ、熱可塑性性樹脂層への溶解性の観点から脂肪酸アミドが好適に用いられる。前記脂肪酸アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、置換アミド、メチロールアミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、脂肪酸エステルアミド、芳香族系ビスアミド等が挙げられる。
【0037】
前記飽和脂肪酸アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。前記不飽和脂肪酸アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
【0038】
前記置換アミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド等が挙げられる。また、前記メチロールアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチロールステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0039】
前記飽和脂肪酸ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0040】
前記不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド等が挙げられる。
【0041】
前記脂肪酸エステルアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ステアロアミドエチルステアレート等が挙げられる。前記芳香族系ビスアミドとしては、特に限定されるものではないが、例えば、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、m-キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-システアリルイソフタル酸アミド等が挙げられる。
【0042】
前記シーラントフィルムの内部から表面にかけて滑剤を含有させる場合、滑剤の含有量は特に限定されるものではないが、シーラントフィルム全体の質量を100質量%としたときに、下限は100ppmであることが好ましく、上限は10,000ppmであることが好ましく、3,000ppmであることがより好ましい。滑剤の含有量が100ppmより少ないとシーラントフィルムの表面への滑剤の析出量が不足して滑り性が不十分になる場合があり、10,000ppmより多いと表面へ滑剤が過剰に析出して白粉となる場合がある。前記滑剤は本発明のシーラントフィルムが二層以上から構成される場合には、少なくとも表面の一層に含有させることで滑り性を高める効果が得られる。
【0043】
また、前記滑剤は前記シーラントフィルムの表面に公知の方法でコーティング法により付与してもよい。
【0044】
本発明のシーラントフィルムの厚みは特に限定されるものではないが、下限は10μmであることが好ましく、30μmであることがより好ましく、上限は500μmであることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、120μm以下であることが最も好ましい。シーラントフィルムの厚みが10μmより薄くなると、本発明のシーラントフィルムを用いた外装材をヒートシールしたときに十分なシール強度が得られない場合がある。シーラントフィルムの厚みが500μmより厚くなると、剛性が高すぎて巻き体にできない場合がある。
【0045】
本発明のシーラントフィルムは、高温での水蒸気バリア性と成形性、シール性に優れるため、二次電池用の外装材に好ましく用いることができ、特に従来電池よりも高温環境で使用される全固体電池用の外装材としてより好ましく用いることができる。シーラントフィルム以外に外装材を構成する部材としては、公知のものが用いられ、例えば、耐熱基材層、バリア層、接着剤層が挙げられる。
【0046】
耐熱基材層を有することで、絶縁性を十分に確保することや外装材の物理的強度および耐衝撃性を向上させることができる。耐熱基材層を形成する材料については公知のものが用いることができるが、例えば、ナイロンフィルム等のポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられ、これらの延伸フィルムが好ましく用いられる。なかでも、二軸延伸ナイロンフィルム等の二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムまたは二軸延伸ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いるのが特に好ましい。前記ナイロンフィルムとしては、特に限定されるものではないが、例えば、6ナイロンフィルム、6,6ナイロンフィルム、MXDナイロンフィルム等が挙げられる。なお、前記耐熱基材層は、単層で形成されていてもよいし、例えばポリエステルフィルム/ポリアミドフィルムからなる複層(PETフィルム/ナイロンフィルムからなる複層等)で形成されていてもよい。
【0047】
耐熱基材層の厚みは、2μm~200μmであるのが好ましい。耐熱基材層の厚みの上限は、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。また耐熱基材層の厚みの下限は5μm以上がより好ましい。上記好適な下限値以上に設定することで外装材として十分な強度の確保が容易となると共に、上記好適上限値以下に設定することで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることが容易となる。
【0048】
前記バリア層は、前記外装材に酸素や水分の侵入を阻止するバリア性を付与する役割を担うものである。バリア層としては、公知のものを使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)、銅箔等が挙げられ、なかでも、アルミニウム箔、SUS箔(ステンレス箔)を用いるのが好ましい。前記バリア層の厚みは、5μm~120μmであるのが好ましい。5μm以上であることでバリア層を製造する際の圧延時のピンホール発生の防止が容易となると共に、120μm以下であることで張り出し成形、絞り成形等の成形時の応力を小さくできて成形性を向上させることが容易となる。中でも、前記バリア層の厚みは、10μm~80μmであることがより好ましい。
【0049】
本発明の外装材は、例えば基材層とバリア層との間に、これらの層間の接着性を高めることなどを目的として、必要に応じて接着剤層を有していてもよい。また、同様にバリア層とシーラントフィルムとの間に必要に応じて接着層を有していてもよい。さらに本発明の効果を損なわない範囲でその他の機能層を付与してもよい。接着層については公知のものを使用することができる。
【0050】
本発明のシーラントフィルムを用いた外装材の構成としては、例えば耐熱基材層/接着剤層/バリア層/接着剤層/シーラントフィルムとすることができ、この場合、本発明のシーラントフィルムと耐熱基材層/接着剤層/バリア層は接着剤層を介して積層することができる(ドライラミネート法)。また、他の方法としては、耐熱基材層/接着剤層/バリア層からなる積層体の上にシーラントフィルムを構成する樹脂を溶融押し出しして、前記積層体の上に直接積層することもできる(熱ラミネート法)。なお、本発明のシーラントフィルムが二層以上からなる場合は、熱可塑性樹脂層Aが外装材の表層になるように積層することが好ましい。
【0051】
本発明のシーラントフィルムを用いた外装材の合計厚みとしては、特に制限されないが、コスト削減、エネルギー密度向上等の観点からは、好ましくは1000μm以下、より好ましくは800μm以下、更に好ましくは500μm以下が挙げられ、電池素子を保護するという外装材の機能を維持する観点からは、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上、更に好ましくは100μm以上が挙げられる。
【0052】
本発明のシーラントフィルムを用いた外装材は、非水電解質を用いたリチウムイオン電池や全固体リチウム二次電池などの二次電池用の外装材として好ましく用いられるが、水蒸気バリア性と成形性に優れるため、特に全固体電池用の外装材として好ましく用いることができる。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)静摩擦係数
JIS K7125-1985に準じた装置を用いて、試料面に対し荷重100g、移動速度20cm/分で、熱可塑性樹脂層Aの表面同士の静摩擦係数を測定した。
【0055】
(2)十点平均粗さ
十点平均粗さRzは、小坂研究所製の高精度微細形状測定器(SURFCORDER ET4000A)を用い、JIS B0601-1994に準拠し、熱可塑性樹脂層Aの表面について、下記測定条件にて測定を行った。なお、1種類のシーラントフィルムにつき各方向3回測定を行い、合計6回測定した算術平均値を用いた。
測定範囲:長手方向(MD方向)0.2mm、幅方向(TD方向)2mm
測定ピッチ:長手方向(MD方向)10μm、幅方向(TD方向)0.2μm
触針:先端半径2.0μmのダイヤモンド針
荷重:100μN
カットオフ:0.8mm。
【0056】
(3)メルトフローレート(MFR)
東洋精機製作所製メルトインデクサを用い、JIS K7210-1997に準拠し、荷重2.16kgで実施例または比較例に使用した原料のMFRを測定した。なお、測定温度はポリエチレン系樹脂は190℃、COC、COP、ポリプロピレン系樹脂は230℃で測定した。
【0057】
(4)ガラス転移点
ISO11357-1、2に準拠し、10℃/minで、各層に使用した原料についてガラス転移点を評価し、最も高温のガラス転移点をシーラントフィルムのガラス転移点とした。なお、実施例5~9、11は後述するCOC1とCOC2を1:1の比率で東洋精機製作所製ラボプラストミル(4C150)を用いて、230℃、30rpmで5分間溶融混練して得られた樹脂のガラス転移点を評価した。なお、PP1、PP2、PP3、PP4、PE1は60℃以上にはガラス転移点は確認されなかった。
【0058】
(5)融点
実施例または比較例に用いたポリプロピレン系樹脂(PP)またはポリエチレン系樹脂(PE)について、5mgをアルミニウム製パンに採取し、示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気下で、室温から250℃まで昇温した後250℃で5分間保持、その後250℃から25℃まで降温した後25℃で5分間保持、その後再度250℃まで昇温した際の吸熱ピークの温度を融点とした。なお、吸熱ピークが2つ以上ある場合は、高温側のピークを用いた原料の融点とした。また、昇温速度、降温速度は20℃/分で測定した。
(6)各層の厚み
シーラントフィルムの各層の厚みは、ミクロトーム法を用い、積層フィルムの幅方向-厚み方向に断面を有する幅5mmの超薄切片を作製し、該断面に白金コートをして観察試料とした。次に、日立製作所製電界放射走差電子顕微鏡(S-4800)を用いて、積層フィルム断面を加速電圧1.0kVで観察し、観察画像の任意の箇所10点の厚みを測定し、その平均値を各層の厚みとした。
【0059】
(7)降伏点応力
引張試験機(オリエンテック製万能試験機“テンシロン”(登録商標))を用い、JIS K 7113-1995に準拠し、温度70℃、速度300mm/分でシーラントフィルムの機械方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)にそれぞれ5回引張試験を行ない降伏点応力を算出し、その算術平均値(合計10回分の平均値)をシーラントフィルムの降伏点応力とした。なお、測定に用いた試験片は幅10mm、長さ100mmの短冊型であり、チャック間距離は50mmで測定を実施した。なお、シーラントフィルムが降伏点を示す前に破断した場合は、最大応力を降伏点応力とした。
【0060】
(8)水蒸気透過率
実施例および比較例で作成したシーラントフィルムを用いて、JIS Z0208-1976(カップ法)に準拠して60℃、相対湿度90%、24時間の条件で測定し、1mm厚みあたりの値に換算して水蒸気透過率を求めた。
【0061】
(9)外装材の作成
市販のアルミ箔(40μm)の片面に、市販の接着剤(DIC製、商品名「LX500/KO55」)を介して市販のナイロン(厚み25μm、片面コロナ処理)を、該ナイロンのコロナ処理面に接着剤が塗布されるようにしてドライラミネートした後、アルミ箔の、ナイロンをラミネートしなかった方の面に、市販の接着剤(エポキシ系接着剤)を介してシーラントフィルムの熱可塑性樹脂層Aが外装材の表面になるようにドライラミネートした。なお、シーラントフィルムはアルミ箔との接着面側を予めコロナ処理しておき、コロナ処理面に接着剤が塗布されるようにドライラミネートを行った。その後、40℃のオーブンで5日間加熱したものを外装材として用いた。
【0062】
(10)シール強度
100mm×15mmの外装材2枚を、熱可塑性樹脂層Aの表面が内面になるようにして、15mm幅の平板ヒ-トシーラーを使用し、上下のシールバー温度を200℃、シール圧力0.3MPa、シール時間4秒の条件でヒートシールしてサンプルを作成した(サンプル中のヒートシール箇所のサイズ;幅15mm、長さ15mm)。なお、サンプルは、長手方向が外装材の機械方向(MD方向)であるものと、長手方向が外装材の幅方向(TD方向)であるものの二種類作成した。その後、引張試験機(オリエンテック製万能試験機“テンシロン”(登録商標))を用い、23℃雰囲気下で外装材の機械方向(MD方向)及び幅方向(TD方向)にそれぞれ5回、剥離角度180度、速度300mm/分で剥離した。剥離開始箇所を起点として5mm~10mmの範囲の剥離荷重の算術平均値を各サンプルのシール強度とし、機械方向(MD方向)、幅方向(TD方向)各5回のシール強度の算術平均値(合計10回分の平均値)を外装材のシール強度とした。
(11)成形性
株式会社JMT製の深絞り成形装置を用いて、100mm×150mmにカットした外装材の熱可塑性樹脂層A側の表面が成形体の収容凹部の内側に来るように下記成形条件で外装材に深さ7mmの直方体形状に深絞り成形を行い、以下A~Dの基準で評価した。
【0063】
<成形条件>
成形型雄型:89mm×54mm、R=2mm
成形型雌型:118mm×175mm、R=2mm
しわ抑え圧:0.5MPa(エア源圧力)
材質:ステンレス鋼。
成形温度:40℃から120℃まで10℃ごとに温度を上げて成形し、得られた成形体の収容凹部の内側の表面を目視により観察し、クラック等の破損がなく、成形可能な温度のうち、一番低い温度を外装材の成形温度とした。
【0064】
<評価基準>
A:成形温度が40℃
B:成形温度が50℃~80℃
C:成形温度が90℃~120℃
D:120℃で外装材が破損した。
(12)耐腐食性
(9)で作成した外装材を100mm×150mmにカットし、外装材の熱可塑性樹脂層A面と(11)で作成した成形体の熱可塑性樹脂層A面が内側になるように配置し、(9)と同様のヒートシール条件で幅15mmで3辺をシールした。その後、硫化物系固体電解質の粉末30gと3cm×3cmの銅箔を入れて、さらに未シールの1辺を同様の条件でシールし、パウチを作成した。その後、60℃、相対湿度90%の環境下で14日間保管した後、成形体内部の銅箔を取り出して目視にて銅箔の腐食有無を以下の基準で評価した。なお、(9)で作成した成形体は、各実施例または比較例の成形温度で成形したものを用いた。
A:銅箔に変色、まだら、さび、デントライトのいずれもみられなかった
B:銅箔の面積の半分以下の面積に、変色、まだら、さび、デントライトのいずれかが発生した
C:銅箔の面積の半分超の面積に変色、まだら、さび、デントライトのいずれかが発生した。
【0065】
実施例および比較例のシーラントフィルムを構成する原料を以下に示す。
COC1;ポリプラスチックス株式会社製のCOC(TOPAS(登録商標)6013F-04)、ガラス転移点:138℃、MFR:1g/10分(230℃で測定)
COC2;ポリプラスチックス株式会社製のCOC(TOPAS(登録商標)8007F-04)、ガラス転移点:79℃、MFR:12g/10分(230℃で測定)
COP1;日本ゼオン株式会社製のCOP(ZEONOR(登録商標)1060R)、ガラス転移点:98℃、MFR:14g/10分(230℃で測定)
PP1;融点:164℃、MFR:8g/10分の市販のホモポリプロピレン(アイソタクチックポリプロピレン)
PP2;融点:149℃、MFR8g/10分(230℃で測定)の市販のエチレンプロピレンランダム共重合体
PP3;融点:138℃、MFR3g/10分(230℃で測定)の市販のエチレンプロピレンランダム共重合体
PP4;融点:55℃、MFR7g/10分(230℃で測定)の市販のプロピレン・αオレフィン共重合体
PE1;融点:113℃、MFR3.8g/10分(190℃で測定)の市販の直鎖状低密度ポリエチレン
PE粒子MB:平均粒子径10μmのポリエチレン粒子(三井化学製“ミペロン”(登録商標)PM-200)を10質量%と前記PP2を90質量%からなるマスターバッチ
EBSA;市販のエチレンビスステアリン酸アミド
(実施例1)
表1に示す基材層、熱可塑性樹脂層Aそれぞれの原料を予め250℃で二軸押出機にて溶融混練したものを基材層および熱可塑性樹脂層Aの原料として用い、基材層が60μm、熱可塑性樹脂層が10μmとなるようにTダイを用いて250℃で二層共押出し、厚さ70μmの二層構成のシーラントフィルムを得た後、各種評価を実施した。
【0066】
(実施例2、3)
基材層の原料を表1の通りとした以外は、実施例1と同様にした。
【0067】
(実施例4~11)
表1に示す基材層、熱可塑性樹脂層A、熱可塑性樹脂層Bそれぞれの原料を予め250℃で二軸押出機にて溶融混練したものを、基材層、熱可塑性樹脂層A、熱可塑性樹脂層Bの原料として用いた。熱可塑性樹脂層Aが10μm、基材層が50μm、熱可塑性樹脂層Bが10μmとなるようにこの順にTダイを用いて250℃で三層共押出し、厚さ70μmの三層構成のシーラントフィルムとしたこと以外は、実施例1と同様にした。
【0068】
(比較例1、2)
表1に示す基材層、熱可塑性樹脂層Aそれぞれの原料を予め250℃で二軸押出機にて溶融混練したものを、基材層、熱可塑性樹脂層Aの原料として用いた。基材層が60μm、熱可塑性樹脂層Aが10μmとなるようにこの順にTダイを用いて250℃で二層共押出し、厚さ70μmの二層構成のシーラントフィルムとしたこと以外は、実施例1と同様にした。
(比較例3~5)
表1に示す基材層、熱可塑性樹脂層A、熱可塑性樹脂層Bそれぞれの原料を予め250℃で二軸押出機にて溶融混練したものを、基材層、熱可塑性樹脂層A、熱可塑性樹脂層Bの原料として用いた。熱可塑性樹脂層Aが10μm、基材層が50μm、熱可塑性樹脂層Bが10μmとなるようにこの順にTダイを用いて250℃で三層共押出し、厚さ70μmの三層構成のシーラントフィルムとしたこと以外は、実施例1と同様にした。
【0069】
実施例1~12のシーラントフィルムおよびこれらを用いた外装材は水蒸気バリア性およびシール性、成形性、耐腐食性に優れるものであり、なかでも実施例6、実施例9は水蒸気バリア性、シール性、成形性、耐腐食性のバランスに特に優れるものであった。一方、比較例1は水蒸気バリア性に劣り、比較例2~5は成形性に劣るものであった。
【0070】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の外装材用シーラントフィルムは、高温での水蒸気バリア性および成形性に優れるため、二次電池用の外装材用シーラントフィルム、特に全固体電池用の外装材用シーラントフィルムとして好ましく用いることができる。