(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083317
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】電磁波シールドシート、電磁波シールド性配線回路基板および電子機器
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20230608BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20230608BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230608BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H05K9/00 R
H05K1/02 P
B32B7/025
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060265
(22)【出願日】2023-04-03
(62)【分割の表示】P 2019065388の分割
【原出願日】2019-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【弁理士】
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】松沢 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】森 祥太
(72)【発明者】
【氏名】岸 大将
(57)【要約】
【課題】高い電磁波シールド性を有しつつ、良好な耐折性を有し、伝送損失を低減させる電磁波シールドシート、電磁波シールド性配線回路基板及び電子機器を提供することができる。
【解決手段】本発明に係る電磁波シールドシート10は、接着剤層1と、絶縁層3と、接着剤層1及び絶縁層3の間に配置された金属層2と、を備え、金属層2の膜厚は、0.2~10[μm]であり、金属層2における接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.4であり、金属層2における絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.5である、ことを特徴とする。また、接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrよりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤層と、
絶縁層と、
前記接着剤層及び前記絶縁層の間に配置された金属層と、
を備え、
前記金属層における前記接着剤層側の界面の展開長さ比RLrは、前記金属層における前記絶縁層側の界面の展開長さ比RLrよりも小さい、
ことを特徴とする電磁波シールドシート。
【請求項2】
前記金属層における前記絶縁層側の界面の展開長さ比RLrは、1.5以下である、
請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項3】
前記金属層の膜厚は、0.2~10[μm]である、
請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項4】
前記金属層は、前記接着剤層側の界面から前記絶縁層側の界面まで貫通する複数の開口部を有し、開口率は、0.1~30[%]である、
請求項1に記載の電磁波シールドシート。
【請求項5】
配線回路基板の少なくとも一方の面上に、請求項1に記載の電磁波シールドシートが接合された、
ことを特徴とする電磁波シールド性配線回路基板。
【請求項6】
一方向に延びた配線回路基板と、
前記配線回路基板の上面及び下面を、前記接着剤層側で覆うとともに、前記配線回路基板の、前記上面に平行な面内における前記一方向に直交する他方向の両端面の少なくとも一部を、前記接着剤層側で覆う請求項1に記載の電磁波シールドシートと、
前記下面と、前記下面を覆う前記接着剤層と、の間に設けられた絶縁性の第1カバー層と、
前記上面と、前記上面を覆う前記接着剤層と、の間に設けられた絶縁性の第2カバー層と、
を備え、
前記配線回路基板は、
第1導電層と、
前記第1導電層上に設けられた第1絶縁層と、
前記第1絶縁層上に設けられ、前記一方向に延びた部分を有する信号回路と、
前記第1絶縁層及び前記信号回路上に設けられた第2絶縁層と、
前記第2絶縁層上に設けられた第2導電層と、
を含み、
前記接着剤層は、導電性材料を含み、前記第2カバー層を貫通するアースビアを介して前記第2導電層と接続された、
ことを特徴とする電磁波シールド性配線回路基板。
【請求項7】
前記接着剤層は、前記第1カバー層を貫通するアースビアを介して前記第1導電層と接続された、
ことを特徴とする請求項6に記載の電磁波シールド性配線回路基板。
【請求項8】
前記両端面は、前記第1導電層から前記第2導電層に渡って、前記接着剤層に覆われたことを特徴とする請求項6に記載の電磁波シールド性配線回路基板。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の電磁波シールド性配線回路基板が接続された、
ことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドシート、電磁波シールド性配線回路基板および電子機器に関し、例えば、電磁波を放出する部品の一部に接合して利用するのに好適な電磁波シールドシート、並びに、電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末、PC、サーバー等をはじめとする各種電子機器には、プリント配線板等の配線回路基板が内蔵されている。これらの配線回路基板には、外部からの磁場や電波による誤動作を防止するために、また、電気信号からの不要輻射を低減するために、電磁波シールド構造が設けられている。
【0003】
特許文献1においては、シールドフィルムの一方面側から他方面側に進行する電界波、磁界波および電磁波を良好に遮蔽し、良好な伝送特性を有するシールドフィルム及びシールドプリント配線板の提供を課題として、以下の構成を開示する。即ち、層厚が0.5~12[μm]の金属層と、異方導電性接着剤層とを積層状態で備えた構成を開示する。そして、当該構成により、シールドフィルムの一方面側から他方面側に進行する電界波、磁界波、および電磁波を良好に遮蔽することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
伝送信号の高速伝送化に伴い、電磁波シールドシートも高周波用の高いシールド性及び伝送損失の低減が求められている。このため、電磁波シールドシートの金属層には、特許文献1で記載されるように、金属層を用いるのが好適とされてきた。
【0006】
しかし、電磁波シールドシートの金属層は、厚いほどより高いシールド性を発現する一方、反発力が高くなる。よって、電磁波シールドシートをプリント配線板に張り付けたシールドプリント配線板は、筐体に組み込む際に、折曲げ部分へのクラックの発生、外観不良、絶縁不良、およびノイズ漏れの発生等が問題となっていた。
【0007】
また、近年では、第4世代の携帯電話に続く、第5世代の携帯電話のための技術検討が進められている。そこでは、第4世代の10倍以上の伝送容量を実現させるため、さらなる伝送損失の低減が求められている。よって、単に、電磁波シールドシートに金属層を用いるだけでは、十分な伝送損失の低減は困難となっている。さらには、シールドされた配線回路基板では、配線回路基板の厚みを厚くすることで、信号回路と電磁波シールドシートとの距離を離し、伝送損失を低減できる。しかしながら、今まで以上に折曲げ部分にクラックが発生しやすくなる問題があった。
【0008】
高い電磁波シールド性を発現し、かつ、耐折性の向上、伝送損失についての改善ができれば、更なる高性能化が期待できる。また、内部電子回路等の設計マージンを大きくすることも可能となる。近年の信号の高速化や高周波化に伴い、伝送損失の改善は性能特性を維持し、向上させていくために重要となっている。
【0009】
本発明は、上記背景に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、高周波伝送回路に用いた場合においても、高い電磁波シールド性を有しつつ、良好な耐折性を有し、伝送損失を低減させることができる電磁波シールドシート、電磁波シールド性配線回路基板及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電磁波シールドシートは、接着剤層と、絶縁層と、前記接着剤層及び前記絶縁層の間に配置された金属層と、を備え、前記金属層の膜厚は、0.2~10[μm]であり、前記金属層における前記接着剤層側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.4であり、前記金属層における前記絶縁層側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.5である、ことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る電磁波シールド性配線回路基板は、配線回路基板の少なくとも一方の面上に、上記記載の電磁波シールドシートが接合されたことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る電子機器は、上記電磁波シールド性配線回路基板が接続されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高周波伝送回路に用いた場合においても高い電磁波シールド性を有しつつ、良好な耐折性を有し、伝送損失を低減させる電磁波シールドシート、電磁波シールド性配線回路基板及び電子機器を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係る電磁波シールドシートを例示した断面図である。
【
図2】(a)は、実施形態1に係る電磁波シールドシートの断面のSEM像を例示した図であり、(b)は、実施形態1に係る電磁波シールドシートの金属層の界面を含む周囲長を説明する図であり、(c)は、実施形態1に係る電磁波シールドシートの金属層における界面以外の周囲長を説明する図である。
【
図3】(a)及び(b)は、実施形態1に係る金属層の界面を例示した図であり、(c)は、半円状の界面を並べた場合を例示した図である。
【
図4】実施形態1に係る電磁波シールドシートの製造方法を例示した工程断面図であり、第1工程を示す。
【
図5】実施形態1に係る電磁波シールドシートの製造方法を例示した工程断面図であり、第2工程を示す。
【
図6】実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板を例示した断面図である。
【
図7】実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板の製造方法を例示したフローチャート図である。
【
図8】実施形態2の別の例に係る電磁波シールド性配線回路基板を例示した断面図である。
【
図9】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各実施例を例示した図である。
【
図10】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各実施例を例示した図である。
【
図11】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各実施例を例示した図である。
【
図12】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各比較例を例示した図である。
【
図13】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各実施例を例示した図である。
【
図14】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の各実施例を例示した図である。
【
図15】実施形態に係る電磁波シールドシートを用いた電磁波シールド性配線回路基板の比較例を例示した図である。
【
図16】(a)は、実施形態に係る接着剤層1側の展開長さ比RLrと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、展開長さ比RLrを示し、縦軸は、4段階評価を示す。(b)は、接着剤層1側の表面粗さRaと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、表面粗さRaを示し、縦軸は、4段階評価を示す。(c)は、接着剤層1側の表面粗さRzと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、表面粗さRzを示し、縦軸は、4段階評価を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。尚、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。また、本明細書において「任意の数A~任意の数B」なる記載は、当該範囲に数Aが下限値として、数Bが上限値として含まれる。また、本明細書における「シート」とは、JISにおいて定義される「シート」のみならず、「フィルム」も含むものとする。また、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0016】
(実施形態1)
実施形態1に係る電磁波シールドシートを説明する。まず、電磁波シールドシートの概要を説明する。その後、電磁波シールドシートを構成する各層を詳細に説明し、次いで、電磁波シールドシートの製造方法を説明する。
【0017】
<電磁波シールドシートの概要>
図1は、実施形態1に係る電磁波シールドシート10を例示した断面図である。
図1に示すように、電磁波シールドシート10は、接着剤層1、金属層2及び絶縁層3を備えている。電磁波シールドシート10は、接着剤層1、金属層2及び絶縁層3を、この順で積層された積層体を含んでいる。金属層2は、接着剤層1及び絶縁層3の間に配置されている。
【0018】
電磁波シールドシート10は、例えば、配線回路基板等の部品(不図示)と接合して用いられる。電磁波シールドシート10を、部品と接合する場合には、電磁波シールドシート10の接着剤層1側を部品上に配置させる。そして、電磁波シールドシート10と部品との間の接合処理により、電磁波シールドシート10を当該部品に接合させる。接合処理方法は、例えば、熱処理または熱圧着処理が好適であるが、電磁波シールドシート10及び部品を接合できれば、接合処理方法はこだわらない。
【0019】
絶縁層3は、電磁波シールドシート10を保護する役割を担う。絶縁層3は、金属層2より表層側に配置される。具体的には、部品に電磁波シールドシート10を接合させた場合に、絶縁層3は、金属層2よりも表層側に配置される。金属層2は、絶縁層3と接着剤層1との間に挟持された層である。金属層2は、主として、電磁波をシールドする役割を担う。
【0020】
電磁波シールドシート10を接合させる部品がプリント配線板等の配線回路基板の場合には、電磁波シールドシート10、特に、金属層2は、部品内部の信号配線等から発生する電磁ノイズをシールドする。また、電磁波シールドシート10、特に、金属層2は、外部からの信号を遮蔽する役割を担う。
【0021】
金属層2の膜厚は、0.2~10[μm]である。また、金属層2における接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.4である。金属層2における絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.5である。これにより、電磁波シールドシート10は、良好な耐折性と、伝送損失の低減とを両立させることができる。展開長さ比RLrについては、後述する。
【0022】
電磁波シールドシート10は、更に他の層を備えていてもよい。例えば、絶縁層3の表層に耐擦傷性、意匠性、印字適性、難燃性の各機能を有するフィルム等の他の層や、接着層1と金属層2の間や、金属層2と絶縁層3の間に磁界カットを強化するフィルム等を積層させてもよい。
【0023】
本実施形態の電磁波シールドシート10は、電磁波(電界波および磁界波)を放出する部品の輻射電磁波防止および外部からの磁場や電波による誤動作防止に好適なものである。部品としては、パーソナルコンピュータ、モバイル機器或いはデジタルカメラ等に内蔵されるハードディスク、ケーブルおよびプリント配線板が例示できる。また、カードリーダ等にも好適である。以下、電磁波シールドシートを構成する各層について説明する。
【0024】
<金属層:展開長さ比RLr>
金属層2は、電磁波および電界波を遮蔽する役割を担う。金属層2は、接着剤層1側の展開長さ比RLrが、例えば、1~1.4であり、絶縁層3側の展開長さ比RLrが1~1.5である。展開長さ比RLrは、下記数式(1)から求められる。
【0025】
[数1]
(展開長さ比RLr)=(金属層界面の展開長さ)/(金属層界面の直線距離)
・・・(1)
【0026】
ここで、金属層界面の展開長さは、下記数式(2)に示すように、金属層2の界面を含む周囲長から界面以外の周囲長を減算することで求められる。また、金属層界面の直線距離は、展開長さの両末端の距離から求めることができる。
[数2]
(金属層界面の展開長さ)=(金属層の界面を含む周囲長)-(界面以外の周囲長)
・・・(2)
【0027】
図2(a)は、実施形態1に係る電磁波シールドシート10の断面のSEM像を例示した図である。
図2(a)には、金属層2の界面の展開長さ及び直線距離を説明する図も示す。
図2(a)に示すように、金属層2の界面を含む周囲長は、電磁波シールドシート10の断面を垂直方向からSEMで観察した電子顕微鏡画像(1万倍程度)から得られる。具体的には、例えば、電子顕微鏡画像を読み込み、金属層2の界面の周囲長を測定することで得られる。なお、電子顕微鏡画像の倍率は、1万倍に限らない。金属層2の界面の周囲長は、倍率を多少変えても周囲長が変化しない倍率で測定する。
【0028】
図2(b)は、実施形態1に係る電磁波シールドシート10の金属層2の界面を含む周囲長を説明する図であり、(c)は、実施形態1に係る電磁波シールドシート10の金属層2における界面以外の周囲長を説明する図である。
図2(b)に示すように、画像の解析ソフトの関係上、金属層4の界面を含む周囲長を測定することができる。金属層4の界面を含む周囲長とは、直線と曲線を有する周囲長であり、金属層4の場合には、界面以外の周囲長と、展開長さと、を含んでいる。展開長さは、界面を構成する界面に沿った長さである。
図2(c)に示すように、界面以外の周囲長は、直線部分で構成されている。したがって、(2)式より、展開長さを測定することができる。
【0029】
金属層界面の展開長さは、例えば、所定の解析ソフトを用いて電子顕微鏡画像を読み込み、手動で金属層2の界面を含む周囲長を測定することで得られる。所定の解析ソフトは、例えば、Mac-View Ver.4(マウンテック社)である。
【0030】
数式(1)に示すように、展開長さ比RLrにより、金属層2の界面の凹凸度合(起伏度合)を把握することができる。真に平滑な金属層2は、断面形状が直線であり、展開長さ比RLrが1となる。金属層2の表面の凹凸形状の増大に従って、展開長さ比RLrも増大する。凹凸の高低差が小さい、凹凸の数が少ないほど、展開長さ比RLrは小さくなる。逆に、凹凸の高低差が大きい、凹凸の数が多いほど、展開長さ比RLrは大きい。一方、一般的な表面形状の指標であるRaやRzは、凹凸の数による影響をほとんど受けない。
【0031】
図3(a)及び(b)は、実施形態1に係る金属層2の界面を例示した図であり、(c)は、半円状の界面を並べた場合を例示した図である。
図3(a)及び(b)に示す界面の形状を、表面粗さRa1及びRa2で規定した場合には、両者はほぼ等しく、表面粗さRa1≒Ra2である。しかしながら、距離と道のりとの比を示すような展開長さ比RLrで規定すると、
図3(a)及び(b)の場合は異なり,RLr1<RLr2である。展開長さ比RLrを用いることにより、金属層2の界面の状態を明確に区別することができる。
【0032】
電磁波シールドシート10の金属層2において、電流の性質上、電流は、高周波になると、金属層2の表面を流れるようになる。そうすると、表面、すなわち、界面の形状が電流に影響を及ぼすようになる。接着剤層1側の界面は、直下に、配線回路基板等の部品が配置されているので、伝送特性に大きな影響を及ぼす。よって、接着剤層1側の展開長さ比RLrは、小さい方が好ましい。
【0033】
例えば、接着剤層1側の展開長さ比RLrは、1.12以下が好ましく、1.04以下がより好ましい。展開長さ比RLrが、1.5以下であると、導体としての機能を有する金属層2の平滑性が高くなる。これにより、電磁波シールドシート10を用いた配線回路基板において、高周波領域での伝送損失を低減することができる。例えば、高周波(100[MHz]から50[GHz])の信号を伝送する配線回路基板での伝送損失をより抑制することができる。密着性や耐薬品性を考慮した場合には、展開長さ比RLrは、1.0005以上が好ましい。
【0034】
一方、絶縁層3側の界面は、接着剤層1側の界面ほどに伝送特性に影響を及ぼさない。よって、接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrよりも小さいことが好ましい。しかしながら、電磁波シールドシート10における接着剤層1、金属層2及び絶縁層3の密着性という観点からは、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは大きい方がよい。ただし、あまり大きくなると、折り曲げた際に応力がかかって折れやすくなる。よって、金属層2における絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.5であることが好ましい。
【0035】
図3(c)に示すように、半円状の界面を並べた場合には、円周が直径のπ倍であることから、展開長さ比RLrは1.5よりも大きくなる。金属層2における接着剤層1側の展開長さが、このように、1.5よりも大きくなると、伝送特性を向上させることができない。
【0036】
展開長さ比RLrの測定に用いられる電磁波シールドシート10の断面を観察する方法を説明する。まず、電磁波シールドシート10を切断し、断面を露出させる。断面を露出させる方法は、割断法、機械研磨法、ミクロトーム法、FIB(集束イオンビーム)法等の公知の方法がある。しかし、電磁波シールドシート10のように、硬さが異なる異種材料を含む場合には、断面作製の際に、異種界面の剥離や空隙の変形などの構造変形、いわゆるアーティファクトが生じてしまう。よって、真の断面構造が得られないことがある。CP(クロスセクションポリッシャ)法は、ブロードなAr(アルゴン)イオンビームを用いた断面作製方法であり、金属、半導体、セラミックス、及びそれらの複合材料でも、平滑で歪みのない試料断面を作成することができる。したがって、本実施形態では、金属層2を切断する方法は、CP法が好ましい。
【0037】
<金属層:厚さ>
金属層2の厚さは、0.2~5[μm]であることが好ましい。金属層2の厚さは、0.2~4[μm]がより好ましく、0.5~3[μm]がさらに好ましい。金属層2の厚さが0.2~5[μm]の範囲にあることで、高い電磁波シールド性能と耐折性とのバランスを取ることが可能となる。
【0038】
<金属層:製造方法>
金属層の製造方法は、金属箔を用いる方法の他、真空蒸着、スパッタリング、CVD法、MO(メタルオーガニック)、メッキ等で形成することができる。これらの中でも量産性を考慮すれば、金属箔、真空蒸着またはメッキが好ましい。
【0039】
金属箔の好適な例として、アルミニウム、銅、銀、金等を例示することができる。シールド性、およびコストの面から銅、銀、アルミニウムがより好ましく、銅がさらに好ましい。銅は、例えば、圧延銅箔または電解銅箔を使用することが好ましい。金属箔の厚みの下限は0.2[μm]以上が好ましく、0.5[μm]以上がより好ましい。一方、金属箔の厚みの上限は、耐折性の観点から、10[μm]以下が好ましく、5[μm]以下がより好ましい。
【0040】
真空蒸着により得られる金属層2の好適な例として、アルミニウム、銅、銀、金を例示することができる。これらのうち、銅、銀がより好ましい。また、スパッタにより得られる金属層の好適な例として、アルミニウム、銅、銀、クロム、金、鉄、パラジウム、ニッケル、白金、銀、亜鉛、酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫が例示できる。これらのうち、銅、銀がより好ましい。真空蒸着およびスパッタにより得られる金属層の厚みの下限は、0.2[μm]以上が好ましく、0.5[μm]以上がより好ましい。上限は、4[μm]以下が好ましい。
【0041】
得られた金属層2の表面について、平滑面を有するキャリアに積層することで平滑面を転写する工程や、エッチングや機械的研磨などの金属層2の凸部の除去を主とする平滑面形成処理工程や、めっきや蒸着などによる、平滑な金属層2の微細な凹部を埋めることを主とする平滑面形成処理工程などにより、所定の形状及び所定の展開長さ比RLrを得ることができる。これらの中でも機械的研磨が、金属層2の表面を所定の形状及び所定の展開長さ比RLrを精密に制御できるため好ましい。但し、その他の方法でも、金属層2の表面の形状及び展開長さ比RLrを制御することができればよく、機械的研磨に限定されるものではない。
【0042】
<金属層:開口部>
本実施形態の金属層2は、全面に複数の開口部4を有することが好ましい。開口部4は、接着剤層1側の界面から絶縁層3側の界面まで貫通している。金属層2の展開長さ比RLrが小さいほど、積層した際の接着力が低下しやすい。しかしながら、開口部4を有することで、接着剤層1に含まれた樹脂が開口部4に流入する。これにより、絶縁層3と接着剤層1とが接着される。よって、絶縁層3/金属層2、および金属層2/接着剤層1の界面の接着力が向上する。したがって、金属層2に対して、良好な密着性を得るための粗化処理を行わずにすむ。このため、金属層2の表面を所定の形状にしやすくなる。
【0043】
さらに、開口部4を有することで、ハンダリフロー処理した際に、プリント配線板のポリイミドフィルムやカバーレイ接着剤に含まれる揮発成分を外部に逃がし、カバーレイ接着剤および電磁波シールドシート10の界面剥離による外観不良及び接続信頼性の低下を抑制する役割を担う。
【0044】
開口部4を面方向から見た形状は例えば、円、楕円、四角、多角形、星形、台形等、必要に応じて各形状を形成することができる。製造コスト及び膜の強靭性の観点から、円および、楕円が好ましい。なお、展開長さ比RLrを測定する際には、開口部4は除く。
【0045】
開口部4の1個あたりの面積は、0.7~5000[μm2]が好ましく、10~4000[μm2]がより好ましく、20~2000[μm2]がさらに好ましい。開口部4の面積を0.7[μm2]以上とすることで、絶縁層3と接着剤層1の接着が良好となり、吸湿性及が優れたものとなる。開口部4の面積を5000[μm2]以下とすることで、電磁波シールド性に優れたものとすることができる。
【0046】
開口部4の個数は、100~200000[個/cm2]が好ましく、1000~150000[個/cm2]がより好ましい。開口部4の個数を100[個/cm2]以上とすることで揮発成分を効率的に外部に出しやすくすることができる。このため、吸湿性を向上させることができる。加えて、反発力を低下させることができる。開口部4の数を200000[個/cm2]以下にすることで、高い電磁波シールド性を確保することができる。
【0047】
<金属層:開口率>
本実施形態における金属層2の開口率は、0.05~40[%]であることが好ましい。開口率は、開口部4の面積と個数から調整することができる。開口率を0.05[%]以上とすることで揮発成分を効率的に外部に出しやすくすることができる。このため、吸湿性を向上させることができる。開口率を40[%]以下にすることで、高い電磁波シールド性を確保することができる。また、伝送損失を低減することができる。なお、開口率は下記式(3)から求められる。
[数3]
開口率[%]=(単位面積あたりの開口部の面積)/(単位面積あたりの開口部面積+単位面積あたりの非開口部面積)×100
・・・(3)
【0048】
開口率の下限は、0.05[%]が好ましく、0.1[%]がより好ましい。開口率の上限は、40[%]が好ましく、30[%]がより好ましく、10[%]がさらに好ましい。開口率を0.1~30[%]の範囲にすることで、吸湿性及び高湿処理後の伝送損失と、高い電磁波シールド性能を保持し、反発力を低下させることができる。
【0049】
開口率の測定は、例えば、金属層2を面方向から垂直にレーザー顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM)で500~2000倍に拡大した画像を用いて、開口部4と非開口部を2値化し、単位面積当たりの2値化した色のピクセル数をそれぞれの面積とすることで求めることができる。
【0050】
<金属層:開口部の形成方法>
開口部4を有する金属層2の製造方法は、例えば、金属箔を機械的に打ち抜きをするパンチング方法、針状の突起を全面に突き刺し金属箔に開口部4を形成する方法、金属箔上にパターンレジスト層を形成し金属箔をエッチングして開口部4を形成する方法、スクリーン印刷によって所定のパターンに導電性ペーストを印刷する方法、所定のパターンでアンカー剤をスクリーン印刷しアンカー剤印刷面のみに金属メッキする方法、および特開2015‐63730号公報に記載されている製造方法等が適用できる。すなわち、支持体に水溶性、又は溶剤可溶性インクをパターン印刷し、その表面に金属蒸着膜を形成しパターンを除去する。その表面に離形層を形成し電解メッキすることでキャリア付開口部4を有する金属層2を得ることができる。
【0051】
<接着剤層>
接着剤層1は、例えば、熱可塑性樹脂または硬化性樹脂を含んでもよい。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が好ましい。また、接着剤層1は、導電性接着剤を含んでもよい。
【0052】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン・アクリル系樹脂、ジエン系樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリマー、フッ素樹脂などが挙げられる。特に限定するものではないが、伝送損失の観点から低誘電率、低誘電正接の材料が、特性インピーダンスの観点から低誘電率の材料が好ましく、液晶ポリマーやフッ素含有樹脂などが挙げられる。
【0053】
熱硬化性樹脂は、加熱による架橋反応に利用できる官能基、例えば、水酸基、フェノール性水酸基、メトキシメチル基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、オキサジン基、アジリジン基、チオール基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、ブロック化カルボキシル基、シラノール基などを1分子中に1つ以上有する樹脂であればよく、例えば、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール系樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。また、本実施形態における熱硬化性樹脂は、上記の樹脂に加え、必要に応じて上記の官能基と反応し化学的架橋を形成する樹脂または低分子化合物などの所謂「硬化剤」を含むことが好ましい。
【0054】
光硬化性樹脂は、光により架橋反応を起こす不飽和結合を1分子中に1つ以上有する樹脂であればよく、例えば、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール系樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、ポリ乳酸樹脂、オキサゾリン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【0055】
接着剤層1は、他に任意成分としてシランカップリング剤、防錆剤、還元剤、酸化防止剤、顔料、染料、粘着付与樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング調整剤、充填剤、難燃剤などを配合できる。
【0056】
<接着剤層:導電性または絶縁性>
接着剤層1は、電磁波シールドシート10の一方の面に位置し、後述する配線回路基板との貼着を担う。接着剤層1は、厚み方向のみに導電性を発現する異方導電性接着剤層であるか、または絶縁性接着剤であることが好ましい。接着剤層1として異方導電性接着剤層を用い、異方導電性接着剤層と金属層2とを接するようにすれば、配線回路基板のグランド回路と金属層2とを特別な部材を用いることなく電気的に接合できる。接着剤層1として、異方導電性接着剤層を用いることによって、より効率的に電気的に接合を達成できる。
【0057】
異方導電性接着剤層は、樹脂と導電性フィラーを含有するものであり、導電性フィラーを60[質量%]以下含有することが好ましい。一方、経時後抵抗値の上昇の抑制の観点から、20wt%を超えて配合することが好ましく、39wt%を超えて配合することがより好ましく、45wt%を超えて配合することが更に好ましい。
【0058】
形成されるプレス後の接着剤層1の厚みを基準(100)とした場合に、導電性フィラーの平均粒子径の大きさは、100~1000程度であることが好ましい。このような大きさの導電性フィラーを60[質量%]以下含有することより、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0059】
導電性フィラーの平均粒子径は、D95平均粒子径であり、経時後抵抗値の上昇を抑制する観点から、プレス後の接着剤層1の厚みの2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、4倍以上とすることが更に好ましい。一方、外観不良の観点からは、10倍以下が好ましく、8倍以下がより好ましく、7倍以下とすることが更に好ましい。D95平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置等により求めることができる。
【0060】
用いられる導電性フィラーとしては、金、銀、銅、ニッケル等の金属粉、合金粉、ハンダ等の低融点金属粉、銀メッキされた銅粉、金属メッキされたガラス繊維やカーボンフィラーなどが挙げられる。なかでも、導電率の高い銀粉、銀メッキされた銅粉や、ハンダ等の低融点金属粉が好ましい。
【0061】
また、導電性フィラーの形状としては、球状、フレーク状、樹枝状、繊維状などが挙げられ、特に異方導電性を得やすい球状、樹枝状が特に好ましい。また、これらの異なる形状の導電性フィラーを2種類混合しても良い。導電性フィラーは、単独または2種類以上併用できる。
【0062】
<接着剤層:製造方法>
接着剤層1は、これまで説明した材料を混合し攪拌して得ることができる。攪拌は、例えばディスパーマット、ホモジナイザー等に公知の攪拌装置を使用できる。
【0063】
接着剤層1の作製は、公知の方法を使用できる。例えば、接着性樹脂組成物を剥離性シート上に塗工して乾燥することで接着剤層を形成する方法、または、Tダイのような押出成形機を使用して接着性樹脂組成物をシート状に押し出すことで形成することもできる。
【0064】
塗工方法は、例えば、グラビアコート方式、キスコート方式、ダイコート方式、リップコート方式、コンマコート方式、ブレード方式、ロールコート方式、ナイフコート方式、スプレーコート方式、バーコート方式、スピンコート方式、ディップコート方式等の公知の塗工方法を使用できる。塗工に際して、乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥工程は、例えば、熱風乾燥機、赤外線ヒーター等の公知の乾燥装置を使用できる。
【0065】
<接着剤層:厚さ>
接着剤層1の厚さは、用途に応じて適宜設計可能であるが、0.5~25[μm]の範囲であることが好ましく、より好ましくは、2~10[μm]である。接着剤層1の厚さを、0.5[μm]以上とすることにより、配線回路基板等の部品への接着力を大きくすることができる。また、25[μm]とすることにより電磁波シールド性配線回路基板の屈曲性が良好になる。
【0066】
<絶縁層>
絶縁層3は、絶縁性樹脂組成物を成形した絶縁性シートであり、金属層2を保護する役割および表層の絶縁性を確保する役割を担う。絶縁性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、接着剤層1で説明した熱可塑性樹脂または硬化性樹脂を使用できる。なお、絶縁層3および接着剤層1に使用する熱可塑性樹脂、硬化性樹脂は、同一、または異なっていてもよい。
【0067】
絶縁性樹脂組成物は、接着性樹脂組成物と同様の方法で形成することが出来る。
【0068】
また、絶縁層3は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の絶縁性樹脂を成形したフィルムを使用することもできる。
【0069】
<絶縁層:厚さ>
絶縁層3の厚さは用途により変動し得るが、2~15[μm]が好ましい。このような厚みとすることにより、電磁波シールドシート10の諸物性のバランスを取りやすくすることができる。
【0070】
<電磁波シールドシートの製造方法>
電磁波シールドシート10の製造方法は、特に限定されないが、一例として、前述の方法により製造された接着剤層1、金属層2及び絶縁層3とを貼り合わせる方法が例示できる。
【0071】
図4及び
図5は、実施形態1に係る電磁波シールドシート10の製造方法を例示した工程断面図であり、
図4は、第1工程を示し、
図5は、第2工程を示す。
図4に示すように、基材5に絶縁層3を塗工する。絶縁層3としては、予め成形した絶縁性フィルムを用いてもよいし、剥離性シート等の基材5に絶縁性樹脂組成物を塗工することで絶縁層3を形成してもよい。次に、キャリア6付き金属層2を準備する。金属層2は、例えば、銅箔である。金属層2の表面の凹凸を所定のパラメータに加工する。例えば、金属層2の表面における展開長さ比RLrが、1~1.5となるように加工する。
【0072】
次に、基材5に塗工された絶縁層3に、キャリア6付き金属層2の金属層2側を貼りつける。そして、基材5、絶縁層3及び金属層2の積層体からキャリア6を剥離する。なお、金属層2上に直接絶縁性樹脂組成物を塗工して絶縁層3を形成してもよい。
【0073】
次に、金属層2におけるキャリア6が剥離された方の表面の凹凸を所定のパラメータに加工する。例えば、金属層2の他方の表面における展開長さ比RLrを、1~1.4となるように加工する。なお、平滑面を有するキャリア6を用い、金属層2をキャリア6に積層することで、所定の展開長さ比RLrを有する平滑面を金属層2に転写してもよい。
【0074】
次に、
図5に示すように、基材7に接着剤層1を塗工する。次に、基材7に塗工された接着剤層1に、基材5、絶縁層3及び金属層2の積層体の金属層2側を貼りつける。このようにして、金属層2の界面が所定の展開長さ比RLrを有する電磁波シールドシート10を製造することができる。電磁波シールドシート10を配線回路基板等の部品に使用する場合には、絶縁層3、金属層2及び接着剤層1の積層体から、基材7を剥離して、配線回路基板等のシールド対象部品に接着剤層1側を被着させる。被着後、基材5を剥離する。このようにして、電磁波シールドシート10を配線回路基板に用いることができる。
【0075】
上記のようにして製造された電磁波シールドシート10は、フレキシブルプリント配線板をはじめとする各種の配線回路基板に貼着せしめられて利用することができる。また、本実施形態に係る電磁波シールドシート10は、配線回路基板の他、各種電子機器、装置、器具等において広範に適用可能である。
【0076】
次に、本実施形態の効果を説明する。本実施形態の電磁波シールドシート10は、金属層2を備えている。そして、金属層2の膜厚を0.2~10μmとすることにより、高い電磁波シールド性を有しつつ、良好な耐折性を有することができる。
【0077】
また、金属層2における接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、界面を流れる電流に影響を及ぼす。そして、接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.4とすることにより、接着剤層1側の界面直下に配置された配線回路基板の伝送特性を向上させることができる。
【0078】
さらに、金属層2における絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは、金属層2と絶縁層3との密着性及び耐折性に影響を及ぼす。例えば、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrが大きいと密着性が向上し、小さいと耐折性が向上する。絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.5とすることにより、密着性及び耐折性のバランスをとることができる。
【0079】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板を説明する。本実施形態の電磁波シールド性配線回路基板は、配線回路基板の少なくとも一方の面上に電磁波シールドシート10が接合されたものである。本実施形態の電磁波シールド性配線回路基板は、例えば、周波数が1[MHz]から20[GHz]の範囲の信号を伝送する電子機器、例えば、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器に好適に使用できる。
【0080】
図6は、実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板110を例示した断面図である。
図6に示すように、電磁波シールド性配線回路基板110は、配線回路基板100、電磁波シールドシート10、カバー層301、カバー層302を備えている。電磁波シールド性配線回路基板110は、フィルム状の部材、厚さが薄い部材、可撓性の部材等を含むため、フレキシブル性を有する。電磁波シールド性配線回路基板110は、平らにした状態で一方向に延びている。
【0081】
ここで、電磁波シールド性配線回路基板110の説明の便宜上、XYZ直交座標系を導入する。電磁波シールド性配線回路基板110を平らにした状態で、電磁波シールド性配線回路基板110が延びる方向をX軸方向とする。電磁波シールド性配線回路基板110の上面に直交する方向をZ軸方向とする。よって、電磁波シールド性配線回路基板110の厚さ方向はZ軸方向である。Y軸方向には、電磁波シールド性配線回路基板110の両端面が向いている。
【0082】
配線回路基板100は、一方向、すなわち、X軸方向に延びている。配線回路基板100は、例えば、フレキシブル性を有する配線板である。配線回路基板100は、導電層11、導電層12、絶縁層21、絶縁層22、絶縁層23、信号回路30及びグランド回路40を含んでいる。配線回路基板100は、下方から、導電層11、絶縁層21、絶縁層22、絶縁層23及び導電層12の順で積層されている。絶縁層21と絶縁層22との間に、信号回路30及びグランド回路40が設けられている。なお、配線回路基板100において、各層の間に他の導電層または絶縁層が挿入されてもよい。配線回路基板100の上面102に平行な面内における一方向に直交する他方向、すなわち、Y軸方向において、両端面は対向している。
【0083】
導電層11は、例えば、配線回路基板100の下面101に渡って形成されている。絶縁層21は、導電層11上に設けられている。信号回路30は、絶縁層21上に設けられている。信号回路30は、絶縁層21上において、X軸方向に延びた部分を有している。信号回路30は、複数本設けられてもよい。信号回路30は、例えば、信号回路31及び信号回路32を有してもよい。例えば、信号回路31は、信号回路32の-Y軸方向側に配置されている。
【0084】
グランド回路40は、絶縁層21上に設けられている。グランド回路40は、絶縁層21上において、X軸方向に延びた部分を有している。グランド回路40は、信号回路30と距離を空けて設けられている。グランド回路40は、信号回路30に沿ってX軸方向に延びた部分を有している。グランド回路40は、複数本設けられてもよい。グランド回路40は、例えば、グランド回路41及びグランド回路42を有してもよい。例えば、グランド回路41は、信号回路31の-Y軸方向側に配置されている。グランド回路42は、信号回路32の+Y軸方向側に配置されている。グランド回路41及びグランド回路42は、信号回路31及び32を+Y軸方向側及び-Y軸方向側の両側から挟むように設けられている。よって、信号回路30は、グランド回路41とグランド回路42との間に配置されている。
【0085】
絶縁層22は、絶縁層21、信号回路30及びグランド回路40上に設けられている。絶縁層22は、信号回路30及びグランド回路40を上方から覆うように、絶縁層21上に設けられている。絶縁層23は、絶縁層22上に設けられている。導電層12は、絶縁層23上に設けられている。
【0086】
配線回路基板100は、例えば、両面フレキシブル銅張積層板(以下、両面FCCLという。)及び片面フレキシブル銅張積層板(以下、片面FCCLという。)を用いて形成されてもよい。両面FCCLは、フィルム状の絶縁性基材層の両面に銅箔が形成されたものでる。片面FCCLは、フィルム状の絶縁性基材層の片面に銅箔が形成されたものでる。
【0087】
両面FCCLの一方の面の銅箔は、導電層11として用いられ、絶縁性基材層は、絶縁層21として用いられる。他方の面の銅箔は、パターニングされて、信号回路30及びグランド回路40として用いられる。また、片面FCCLの一方の面の銅箔は、導電層12として用いられ、絶縁性基材層は、絶縁層23として用いられる。両面FCCL及び片面FCCLを用いる場合には、以下のようにして、配線回路基板100を形成する。すなわち、両面FCCLにおける他方の面をパターニングすることにより、信号回路30及びグランド回路40を形成する。次に、両面FCCLのパターニングされた面に、片面FCCLの絶縁性基材層側を接着する。これにより、配線回路基板100が形成される。接着の際に用いられる絶縁性接着剤は、絶縁層22となる。
【0088】
両面及び片面FCCLの絶縁性基材層は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマーが好ましく、液晶ポリマーおよびポリイミドがより好ましい。これらの中でも高周波の信号を伝送するフレキシブルプリント配線板の用途を考慮すると、比誘電率および誘電正接が低い液晶ポリマーがさらに好ましい。これらのような絶縁性基材を備えることで、電磁波シールド性配線回路基板110は、高い耐熱性が得られる。
【0089】
信号回路30は、電磁波シールド性配線回路基板110を介して接続された電子部材に電気信号を送る。グランド回路40は、アースを取るための接地電位に設定される。導電層11、導電層12、信号回路30及びグランド回路40に用いられる材料は、導電性であれば、銅箔に限らない。また、配線回路基板100は、両面FCCL及び片面FCCLを用いて形成されたものに限らない。例えば、導電層11、絶縁層21、信号回路30及びグランド回路40、絶縁層22、絶縁層23、並びに、導電層12を順に積層することにより形成してもよい。
【0090】
導電層11、導電層12、信号回路30及びグランド回路40の厚さは、例えば、18[μm]である。絶縁層21及び絶縁層23の厚さは、例えば、50[μm]である。絶縁層22の厚さは、例えば、35[μm]である。なお、配線回路基板100に含まれた各層の厚さは、配線回路基板100がフレキシブルであれば、上述の厚さに限らず、1~200[μm]程度でもよい。
【0091】
絶縁性のカバー層301は、配線回路基板100の下方に設けられている。絶縁性のカバー層302は、配線回路基板100の上方に設けられている。カバー層301及び302は、配線回路基板100を覆い、外部環境から保護する絶縁材料である。導電層11及び12は、配線回路基板100の下面101及び上面102に渡って露出されているので、カバー層301及び302は、導電層11及び12を覆う。カバー層301及び302は、例えば、カバーレイ61及び絶縁性接着剤層62を含んでいる。カバーレイ61は、例えば、材料として、ポリイミド等の樹脂を含んでいる。絶縁性接着剤層62は、例えば、絶縁性の接着剤である。なお、カバー層301及び302は、カバーレイ61及び絶縁性接着剤層62を含む構成に限らず、熱硬化型もしくは紫外線硬化型のソルダーレジスト、微細加工に適した感光性カバーレイフィルム等でもよく、熱硬化性接着剤等でもよい。カバー層301及び302の厚さは、例えば、10~100[μm]であり、好ましくは、例えば、60[μm]である。カバーレイ61の厚さは、例えば、25[μm]であり、絶縁性接着剤層62の厚さは、例えば、35[μm]である。
【0092】
カバー層301及び302は、絶縁性接着剤層62側を配線回路基板100に接着させている。カバー層301及び302には、貫通孔63が形成されている。貫通孔63は、カバーレイ61及び絶縁性接着剤層62を貫通している。貫通孔63の内部には、アースビア64が形成されている。よって、アースビア64は、カバー層301及び302を貫通する。
【0093】
電磁波シールドシート10a及び10bは、前述したように接着剤層1、金属層2及び絶縁層3を含んでいる。電磁波シールドシート10a及び10bをまとめて、電磁波シールドシート10ともいう。よって、電磁波シールドシート10は、配線回路基板100の下面101を覆う電磁波シールドシート10aと、上面102を覆う電磁波シールドシート10bと、を含んでいる。電磁波シールドシート10は、配線回路基板100をシールドする。
【0094】
電磁波シールドシート10aは、配線回路基板100の下面101を接着剤層1側で覆う。したがって、接着剤層1側の面が配線回路基板100側の下面101に向いている。電磁波シールドシート10aは、配線回路基板100を覆い、カバー層301に接触している。よって、カバー層301は、配線回路基板100の下面101と、下面101を覆う電磁波シールドシート10aとの間に設けられている。電磁波シールドシート10aは、配線回路基板100の下面101を接着剤層1側で覆うとともに、配線回路基板100の、Y軸方向の両端面の少なくとも一部を、接着剤層1側で覆う。例えば、電磁波シールドシート10aは、配線回路基板100の導電層11、絶縁層21及び絶縁層22の両端面を覆う。したがって、電磁波シールドシート10aは、導電層11の両端面と接触する。また、電磁波シールドシート10aは、カバー層301の両端面を覆う。
【0095】
電磁波シールドシート10bは、配線回路基板100の上面102を接着剤層1側で覆う。したがって、接着剤層1側の面が配線回路基板100側の上面102に向いている。電磁波シールドシート10bは、配線回路基板100を覆い、カバー層302に接触している。よって、カバー層302は、配線回路基板100の上面102と、上面102を覆う電磁波シールドシート10bとの間に設けられている。電磁波シールドシート10bは、配線回路基板100の上面102を接着剤層1側で覆うとともに、配線回路基板100の、Y軸方向の両端面の少なくとも一部を、接着剤層1側で覆う。例えば、電磁波シールドシート10bは、配線回路基板100の導電層12、絶縁層23及び絶縁層22の両端面を覆う。したがって、電磁波シールドシート10bは、導電層12の両端面と接触する。また、電磁波シールドシート10bは、カバー層302の両端面を覆う。
【0096】
配線回路基板100の両端面、すなわち、端面103及び104は、導電層11から導電層12に渡って、接着剤層1に覆われている。配線回路基板100の両端面は、全面に渡って、電磁波シールドシート10a及び電磁波シールドシート10bの接着剤層1に覆われている。
【0097】
なお、電磁波シールドシート10a及び10bが、配線回路基板100のY軸方向における両端面を覆う境界は、絶縁層22の両端面に限らない。例えば、電磁波シールドシート10aは、カバー層301及び導電層11の両端面を覆い、電磁波シールドシート10bは、カバー層302、導電層12、絶縁層23、絶縁層22、及び、絶縁層21の両端面を覆うというように、電磁波シールドシート10a及び10bの両端面における境界は、両端面のどこでもよい。
【0098】
電磁波シールドシート10a及び10bの接着剤層1は、信号回路30に沿ってX軸方向に延びるように両端面を覆ってもよい。また、接着剤層1は、信号回路30に沿って両端面の全面を覆ってもよい。電磁波シールドシート10a及び10bの接着剤層1は、配線回路基板100の両端面から外側のY軸方向に延びる部分を有してもよい。接着剤層1は、-Y軸方向側の端面103から-Y軸方向に延びる部分と、+Y軸方向側の端面104から+Y軸方向に延びる部分と、を有してもよい。
【0099】
カバー層301及び302を貫通するアースビア64は、接着剤層1と同じ材料を含んでいる。接着剤層1が導電性材料を含む場合には、接着剤層1の一部が、貫通孔63の内部に充填されることにより、アースビア64は、接着剤層1に含まれた導電性材料と同じ材料を含んでもよい。接着剤層1は、アースビア64を介して導電層11及び導電層12と接続されている。カバー層301及び302を貫通するアースビア64は、グランド回路40の直上に配置されてもよい。
【0100】
次に、実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板110の製造方法を説明する。
図7は、実施形態2に係る電磁波シールド性配線回路基板110の製造方法を例示したフローチャート図である。
【0101】
図7のステップS11に示すように、まず、配線回路基板100を準備する。配線回路基板100は、導電層11と、導電層11上に設けられた絶縁層21と、絶縁層21上に設けられ、X軸方向に延びた部分を有する信号回路30と、絶縁層21及び信号回路30上に設けられた絶縁層22及び23と、絶縁層23上に設けられた導電層12と、を含んでいる。
【0102】
次に、ステップS12に示すように、電磁波シールドシート10を準備する。なお、ステップS11とステップS12は順序が逆になってもよいし、同時でもよい。
【0103】
次に、ステップS13に示すように、電磁波シールドシート10で配線回路基板100を覆う。具体的には、配線回路基板100の下面101を、絶縁性のカバー層301を介して、電磁波シールドシート10aの接着剤層1側で覆い、配線回路基板100の上面102を、絶縁性のカバー層302を介して、電磁波シールドシート10bの接着剤層1側で覆う。また、それとともに、配線回路基板100のY軸方向の両端面の少なくとも一部を、電磁波シールドシート10a及び10bの接着剤層1側で覆う。なお、カバー層302には、貫通孔63が設けられている。また、カバー層301にも、貫通孔63が設けられていることが望ましい。
【0104】
次に、ステップS14に示すように、プレスする。例えば、熱を加えて熱プレスする。具体的には、配線回路基板100及び配線回路基板100を覆う電磁波シールドシート10a及び10bを上下方向にプレスする。例えば、熱プレスは、温度150~190[℃]程度、圧力1~3[MPa]程度、時間1~60[min]程度が好ましい。これにより、配線回路基板100、カバー層301及び302、並びに、電磁波シールドシート10a及び10bを圧着させる。この際に、貫通孔63に接着剤層1の一部を充填させる。なお、プレス時間が30min未満の場合、熱プレス後に30分以上、150~190℃程度のオーブンキュアを行う事が好ましい。このようにして、電磁波シールド性配線回路基板110を製造することができる。
【0105】
<別の実施形態>
次に、電磁波シールド性配線回路基板の別の例を説明する。
図8は、実施形態2の別の例に係る電磁波シールド性配線回路基板210を例示した断面図である。
図8に示すように、電磁波シールド性配線回路基板210は、配線回路基板200、電磁波シールドシート10、カバー層301、カバー層302を備えている。電磁波シールド性配線回路基板210は、前述の電磁波シールド性配線回路基板110と比べて、配線回路基板200の構成及び電磁波シールドシート10が一方側を覆っていることが異なっている。電磁波シールド性配線回路基板210も、フレキシブル性を有する。
【0106】
配線回路基板200は、導電層11、絶縁層21、配線50を含んでいる。導電層11は、例えば、配線回路基板100の下面101に渡って形成されている。絶縁層21は、導電層11上に設けられている。配線50は、絶縁層21上に設けられている。配線50は、絶縁層21上において、X軸方向に延びた部分を有している。配線50は、複数本設けられてもよい。複数本の配線50及び51は、Y軸方向に間隔を空けて配置されている。
【0107】
配線回路基板200は、例えば、両面FCCLを用いて形成されている。両面FCCLは、フィルム状の絶縁性基材層の両面に銅箔が形成されたものである。両面FCCLの一方の面の銅箔は、導電層11として用いられ、絶縁性基材層は、絶縁層21として用いられる。他方の面の銅箔は、パターニングされて、信号回路30及びグランド回路40となる配線50として用いられる。
【0108】
絶縁性のカバー層301は、配線回路基板200の下方に設けられている。絶縁性のカバー層302は、配線回路基板200の上方に設けられている。カバー層301及び302は、配線回路基板200を覆い、外部環境から保護する絶縁材料である。カバー層301は、下方から配線回路基板200の導電層11を覆う。カバー層302は、上方から配線50を覆う。
【0109】
電磁波シールドシート10は、前述したように接着剤層1、金属層2及び絶縁層3を含んでいる。電磁波シールドシート10は、例えば、配線回路基板200の上面201側を覆う。電磁波シールドシート10は、配線回路基板200を覆い、カバー層302に接触している。よって、カバー層302は、配線回路基板200の上面201と、上面201を覆う電磁波シールドシート10との間に設けられている。
【0110】
<実施例及び比較例>
次に、実施例及び比較例を説明する。
【0111】
(接着剤層の膜厚)
接着剤層1の膜厚は、電磁波シールドシート10を部品に加熱圧着した後の接着剤層1の厚みであり、以下の方法により測定した。まず、電磁波シールドシート10の接着剤層1の剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層とポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製「カプトン200EN」)を貼り合わせ、2MPa、150℃の条件で30分加熱圧着した。これを幅5mm・長さ5mm程度の大きさに切断した後、エポキシ樹脂(ペトロポキシ154、マルトー社製)をスライドガラス上に0.05g滴下し、電磁波シールドシート10を接着させ、スライドガラス/電磁波シールドシート10/ポリイミドフィルムの構成の積層体を得た。得られた積層体をクロスセクションポリッシャー(日本電子社製、SM-09010)を用いてポリイミドフィルム側からイオンビーム照射により切断加工して、加熱圧着後の電磁波シールドシート10の測定試料を得た。
【0112】
得られた測定試料の断面をレーザーマイクロスコープ(キーエンス社製、VK-X100)を使用し、観察した拡大画像から接着層の厚みを測定した。倍率は、500~2000倍とした。
【0113】
(伝送特性)
伝送特性について、両面に電磁波シールドシートを積層した、コプレーナ構造のフレキシブルプリント配線板を用いて評価した。コプレーナ構造のフレキシブルプリント配線板は、ポリイミドフィルム(厚さ12.5μm)と絶縁性接着剤層(厚さ15μm)とで構成されるカバーレイ「CISV1215(ニッカン工業社製)」と、厚さ25μmのポリイミドフィルムの両面に、厚さ12μmの圧延銅箔を積層した両面CCLからなる。そして、両面CCLの一方の銅箔面に、長さが10cmの2本の信号配線、およびグランド配線を形成し、もう一方の面の銅箔は、信号配線と重ならない箇所に、シールドフィルム、およびグランド配線と導通させる部位を形成し、それ以外をエッチングにより除去した。
尚、実施例1~15および比較例1~5においてグランド配線の幅は80μm、グランド配線の幅は1mm、グランド配線と信号配線の間の距離は1mmとした。
【0114】
2枚の電磁波シールドシートを用意し、電磁波シールドシートの接着層側の剥離性シートを剥離して露出した接着層を、コプレーナ構造のフレキシブルプリント配線板のカバーレイ側、および両面CCLのエッチング面に対して、150℃、30分間、2.0MPaの条件で圧着し、熱硬化させて積層体を得た。
伝送特性は、20GHzの高周波信号の伝送損失を測定することで評価した。
評価基準は以下の通りである。
優(Excellent:◎):14dB未満
良(Good、△):14dB以上、15dB未満
不適(Poor、×):15dB以上
【0115】
(耐熱性)
耐熱性は、電磁波シールド性配線回路基板210の熱に対する影響から評価した。耐熱性は、電磁波シールドシートを被着した積層体を小型リフロー機(SOLSYS-62501RTP アントム社製)を使用してピーク温度を260℃にしてリフロー処理を行なった後の、外観変化の有無により評価した。耐熱性が高い電磁波シールドシートは、外観が変化しないが、耐熱性が低い電磁波シールドシートは、発泡や剥がれが発生する。
【0116】
まず、電磁波シールドシートを幅15mm、長さ120mmの大きさに準備した。別途、電磁波シールドシートを貼り付ける被着体として、ポリイミドフィルム(厚さ12.5μm「カプトン50EN」 東レ・デュポン社製)とその両面に銅箔(厚さ12μm)を積層した両面2層CCLを元に、一方の銅箔にJIS C6471に基づく形状の配線を形成し、厚さ12.5μmのポリイミドフィルムと厚さ25μmの熱硬化性接着剤とで構成されるカバーレイ「CISV1225(ニッカン工業社製)」を両面に貼り合わせて両面プリント配線板を形成した。更に、電磁波シールドシートの接着層側の剥離性シートを剥離して露出した接着層を両面プリント配線板の配線を形成した側のカバーレイに対して、150℃、30分間、2.0MPaの条件で圧着し、熱硬化させて積層体を得た。得られた積層体を40℃、90%RHの雰囲気下で72時間放置した。その後、リフロー処理を行い、その外観を目視で観察し、発泡、浮き、剥がれ等の異常の有無を次の基準で評価した。
優(Excellent、◎):優れている。
良(Good、△):良い。
不適(Poor、×):不適である。
【0117】
(薬液耐性)
幅40mm・長さ40mmの電磁波シールドシートの接着層の剥離性シートを剥がし、露出した接着層と、幅50mm・長さ50mmカプトン500Hを150℃、2.0MPa、30分の条件で圧着し、熱硬化させて積層体を得た。得られた積層体の電磁波シールドシートの絶縁層側に、JISK5400に準じてクロスカットガイドを使用し、間隔が1mmの碁盤目を100個作成した。その後、溶剤型洗浄液「Zestoron FA+」(Zestoron社製)に20分浸漬させ、超音波洗浄機「UT-205HS」(SHARP社製)を用い出力100%に設定して、2分間超音波処理を行った後に、試料を取り出し蒸留水で洗浄した後乾燥させた。碁盤目部に粘着テープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を下記の基準で判断した。
◎:どの格子の目も剥がれない。
〇:カットの交差点における塗膜の小さな剥がれ。明確に5%を上回らない。
△:塗膜がカットの線に沿って部分的、全面的に剥がれている。15%以上35%未満。×:塗膜がカットの線に沿って部分的、全面的に剥がれている。35%以上。
【0118】
(耐折性)
幅20mm・長さ100mmの電磁波シールドシートの接着層の剥離性シートを剥がし、露出した接着層と、幅20mm・長さ100mmカプトン500Hを150℃、2.0MPa、30分の条件で圧着し、熱硬化させて積層体を得た。得られた積層体の電磁波シールドシートが外側になるように180度折り曲げて、折り曲げ部位に1000gの錘を10秒間載せた後、折り曲げた箇所を元の平面状態に戻して、再び1000gの錘を10秒間載せ、これを折り曲げ回数を1回とした。電磁波シールドシートにクラックが発生したかどうかを(株)キーエンス製マイクロスコープ「VHX-900」で観察し、クラックが発生しないで折り曲げられた回数を評価した。
1000g荷重を掛けた折り曲げ部にクラックが発生までの折り曲げ回数をカウントした。評価基準は以下の通りである。
◎:10回以上。 極めて良好。
○:7回以上、10回未満。 良好
△:2回以上、7回未満。
×:2回未満。 実用不可。
【0119】
(経時後抵抗値)
幅20mm・長さ50mmの大きさの電磁波シールドシート10の接着剤層1の剥離性シートを剥がし、露出した接着剤層1を、別に作製したフレキシブルプリント配線板(厚み12.5μm)のポリイミドフィルム1上に、積層させる。フレキシブルプリント配線板は、厚み18μmの銅箔からなる、電気的に接続されていない配線50、および配線51が形成されており、回路50上に、面積20mm2以下のスルーホールを有する厚み37.5μmの接着剤付きのポリイミドカバーフィルムが積層されている。両者を、150℃、2MPaの条件で30分間圧着処理を行い、測定試料を作製した。この測定試料の回路50と回路51間の抵抗値を三菱化学製「ロレスターGP」の4探針プローブを用いて測定し、以下の基準で初期値を評価した。()内の値は、スルーホールの断面積である。
【0120】
前記の初期値の評価が終わった後の測定試料を、85℃相対湿度85%の雰囲気下で500時間静置した後、回路50と回路51間の抵抗値を三菱化学製「ロレスターGP」の4探針プローブを用いて測定し、経時後抵抗値とし、以下の基準で評価した。
◎:(500H後の抵抗値)/(初期値)≦2
○:2<(500H後の抵抗値)/(初期値)≦5
△:5<(500H後の抵抗値)/(初期値)≦10
×:(500H後の抵抗値)/(初期値)>10
【0121】
図9~
図15は、実施形態に係る電磁波シールドシート10を用いた電磁波シールド性配線回路基板110、210の各実施例及び各比較例を例示した図である。
図13~15は、
図9~
図12における実施例11~15並びに比較例5を別の観点から示したものも含んでいる。
図9~
図15に示すように、金属層2の接着剤層1側の展開長さ比RLrが1~1.4であり、かつ、金属層2の絶縁層3側の展開長さ比RLrが1~1.5の場合に、伝送特性は優れている。一方、接着剤層1側の展開長さ比RLrが1.6以上の場合には、伝送特性、耐折性は不適である。また、金属層2の絶縁層3側の展開長さ比RLrが1.5を超える場合には、耐折性は不適である。なお、比較例3~5の金属層2で使用している銅箔は、電解銅箔(「MT18SD-H」(三井金属社製))である。
【0122】
実施例1、2、4、5、7、11~15に示すように、接着剤層1側の展開長さ比RLrが1.001~1.11であり、かつ、絶縁層3側の展開長さ比RLrが1.03~1.28の場合には、伝送特性、薬液耐性、耐折性に優れている。
【0123】
開口部4に関しては、開口率0.1~30[%]が好ましく、0.2~16.0[%]である場合には、伝送特性、薬液耐性、耐折性、耐熱性に優れている。
【0124】
図16(a)は、接着剤層1側の展開長さ比RLrと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、展開長さ比RLrを示し、縦軸は、伝送特性の評価を示す。(b)は、接着剤層1側の表面粗さRaと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、表面粗さRaを示し、縦軸は、伝送特性の評価を示す。(c)は、接着剤層1側の表面粗さRzと、評価結果との相関を例示したグラフであり、横軸は、表面粗さRzを示し、縦軸は、伝送特性の評価を示す。(b)及び(c)の表面粗さRa及びRzにおいて、実施例4~7等の表面粗さRa及びRzが0.1より小さいものを、0.05と置き換えて示している。
【0125】
図16(a)に示すように、接着剤層1側の展開長さ比RLrは、評価結果と相関があり、1から小さくなるほど、評価が低下する。一方、
図16(b)及び(c)に示すように、接着剤層1側の展開長さ比RLrは、評価結果と相関がない。よって、表面粗さRa及びRzは、伝送特性等との特性とは無関係であるものと考えられる。
【0126】
次に、本実施形態の効果を、比較例と対比させながら説明する。本実施形態の電磁波シールド性配線回路基板110において、金属層2の接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.4である。これにより、伝送特性を向上させることができる。一方、比較例においては、金属層2の接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrは、1.6以上である。その場合には、伝送特性を向上させることができない。
【0127】
本実施形態において、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrは、1~1.5である。これにより、伝送特性を向上させることができる。また、絶縁層3側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.5とすることにより、密着性及び耐折性のバランスをとることができる。
【0128】
本実施形態では、金属層2の接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.4とし、絶縁層3側の展開長さ比RLrを、1~1.5としているので、耐折性を向上させることができる。一方、比較例においては、耐折性を向上させることができない。例えば、比較例3乃至5の結果が示すように、金属層2の絶縁層3側の展開長さ比RLrが、2よりも大きい場合には、耐折性を向上させることができない。
【0129】
本実施形態では、金属層2の接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.4とし、絶縁層3側の展開長さ比RLrを、1~1.5としているので、耐熱性及び耐酸性を向上させることができる。特に、金属層2に開口部4が設けられている場合には、耐熱性及び耐酸性は優れている。実施例1のように、開口部4がない場合に、耐熱性の評価結果が『良(Good、△)』にとどまるのは、金属層2に開口部がないことで、被着体であるFPCや接着剤層1より生じた水分・ガスが金属層2に遮蔽され、それが原因で膨張することが考えられる。
【0130】
本実施形態では、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。経時後抵抗値の上昇を抑制する因子としては、金属層2による因子、接着剤層1による因子、配線回路基板100の構造による因子があげられる。
【0131】
金属層2による因子は、開口率を、0.1%~30%と小さくしている点である。開口率が大きいと経時後抵抗値が上昇するが、上記の範囲にしているので、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。また、接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.4としている点である。
【0132】
接着剤層1による因子は、接着剤層1の膜厚、フィラーの量、形状及び粒径を制御している点である。接着剤層1の膜厚を薄くすること、フィラーの量を多くすること、形状を球状にすること、粒径を大きくすることは、電磁波シールドシート10の積層方向の導通を向上させるので、これらを制御することにより、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。
【0133】
配線回路基板100の構造による因子は、アースビア64である。アースビア64により、導電層11または12と、金属層2とを電気的に接続することができるので、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。本実施形態では、金属層2の接着剤層1側の界面の展開長さ比RLrを、1~1.4とし、絶縁層3側の展開長さ比RLrを、1~1.5としているので、アースビア64の径が小さい場合でも、経時後抵抗値の上昇を抑制することができる。一方、比較例5においては、アースビア64が形成されたとしても経時後抵抗値の上昇を抑制することができず、アースビア64の径が小さい場合には、経時後抵抗値は、不適(×)である。
【0134】
また、実施例13のように、実施例14~20に比べて、開口率が大きいと、伝送特性に影響はないが、アースビアの径のサイズによっては、経時後抵抗値の上昇を抑制しにくい傾向にある。
【0135】
接着剤層1における導電フィラーに関しては、D95が接着剤層1の膜厚の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましい。また、導電フィラーの添加量は、26PHR以上が好ましく、64PHR以上がより好ましい。導電フィラーの添加率は25%より大きいことが好ましく、39%より大きいことがより好ましい。
【0136】
以上、本発明の実施形態1~2及び各実施例を説明したが、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。また、実施形態1~2及び各実施例における構成は、適宜、組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0137】
1 接着剤層
2 金属層
3 絶縁層
4 開口部
5 基材
6 キャリア
7 基材
10、10a、10b 電磁波シールドシート
11、12 導電層
21、22、23 絶縁層
30、31、32 信号回路
40、41、42 グランド回路
50、51 配線
61 カバーレイ
62 絶縁性接着剤層
63 貫通孔
64 アースビア
100、200 配線回路基板
101、201 下面
102 上面
103、104 端面
110、210 電磁波シールド性配線回路基板
301、302 カバー層
RLr 展開長さ比