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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008341
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】抗ウイルス性素材
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/238 20060101AFI20230112BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20230112BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230112BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20230112BHJP
   A61L 101/26 20060101ALN20230112BHJP
   A61L 101/30 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
A61L2/238
A41D13/11 M
B01D39/16 A
B01D39/16 E
D06M11/83
A61L101:26
A61L101:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111841
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】521296753
【氏名又は名称】岩本 策三
(74)【代理人】
【識別番号】100130199
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 充弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 竜一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 寿一
(72)【発明者】
【氏名】岩本 策三
(72)【発明者】
【氏名】込山 茂
【テーマコード(参考)】
4C058
4D019
4L031
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058AA23
4C058AA30
4C058BB07
4C058JJ04
4C058JJ05
4C058JJ30
4D019AA01
4D019AA02
4D019BA13
4D019BB03
4D019BC06
4D019DA02
4L031AB34
4L031BA04
4L031DA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能である抗ウイルス性素材を提供することを目的とする。
【解決手段】基材と、基材に形成された金属の薄膜と、を有し、金属の薄膜は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成されている、抗ウイルス性素材とする。金属成膜手段によってこれらの金属の薄膜を基材に形成することにより、これらの金属自体が有する不活化効果よりもさらに高い新型コロナウイルスに対する不活化効果が得られる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に形成された金属の薄膜と、を有し、
前記金属の薄膜は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成されている、
抗ウイルス性素材。
【請求項2】
前記金属成膜手段で用いられる純銅、または銅と亜鉛を含む合金のうち、
前記純銅は、Cuの含有量が99.90mass%以上であり、
前記合金は、Cuの含有量が68.5mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物であり、
プラーク法にて測定した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染価から下記式によって算出した3分後の不活化効果(Mv)が3.0以上である、
請求項1に記載の抗ウイルス性素材。
不活化効果(Mv)=log(Ct/C0)-log(Nt/N0)
Ct:コントロールt時間後の感染価
C0:コントロール0時間後の感染価
Nt:試験品t時間後の感染価
N0:試験品0時間後の感染価
【請求項3】
前記合金は、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされている、
請求項1に記載の抗ウイルス性素材。
【請求項4】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)が、金属成膜手段で用いた金属と同じ金属の板状体による、新型コロナウイルスに対する10分後の不活化効果(Mv)よりも高い、
請求項1に記載の抗ウイルス性素材。
【請求項5】
Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされた合金を用いて形成された前記抗ウイルス性素材であって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)は、
Cuの含有量が89.0mass%以上91.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされた合金を用いて形成された前記抗ウイルス性素材の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)よりも高い、
請求項1に記載の抗ウイルス性素材。
【請求項6】
前記基材は、不織布であり、
不織布の単位面積あたりの重量が軽量であるほど、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)についての3分後の不活化効果(Mv)が高い、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の抗ウイルス性素材。
【請求項7】
前記基材は、合成樹脂素材で形成した板状体であり、
前記金属の薄膜の光透過率を50%以下とした、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の抗ウイルス性素材。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載され、前記基材を不織布とした抗ウイルス性素材を用いて構成された、マスク。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の抗ウイルス性素材を用いて構成された、パーテーション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有する抗ウイルス性素材に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染によって引き起こされる急性呼吸器疾患(COVID-19)は、2019年に発生し、現在も世界的に流行している。新型コロナウイルスは、咳やくしゃみなどで発生する飛沫による飛沫感染、あるいはドアノブなど手に触れるものを介する接触感染などにより、ヒトとヒトとの間で感染する。
【0003】
咳やくしゃみなどにより発生する飛沫の拡散を抑制し、新型コロナウイルスが口から人体に侵入することを抑制するため、鼻口を覆うマスクの着用が推奨されている。また、飲食、接客あるいは会議などを行う場所では、対面もしくは隣接する人の間にパーテーションパネル等を設置するなどの対策をとることも推奨されている。
【0004】
しかしながら、マスクによってウイルスを捕捉しただけでは、マスク本体にウイルスが残存することとなる。そして、マスクを取り外す際にマスク本体を手で触ることによって、残存しているウイルスが手に付着して口から人体に侵入したり、ドアノブなどに付着してウイルスが再拡散するおそれがある。
【0005】
パーテーションパネルについても同様であり、パネル表面に付着したウイルスをアルコールなどで除去しなければ、パーテーションパネルに残存したウイルスが再拡散するおそれがある。
【0006】
従来、インフルエンザウイルス対策用であるが、マスク本体の不織布にインフルエンザウイルスを不活化させる抗インフルエンザウイルス剤を用いたマスクも提案されている(例えば特許文献1)。このようなマスクによれば、マスク本体に捕捉されたインフルエンザウイルスは、抗インフルエンザウイルス剤によって不活化されるため、インフルエンザウイルスの再拡散を抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-333271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは、エンベロープを持つという点で構造上の共通点がある。しかしながら、インフルエンザウイルスに対して不活化効果を有する物質が、新型コロナウイルスに対して必ずしも不活化効果を有しているということはできない。また、同様に他のコロナウイルス(SARS-CoVやMERS-CoV)に対して不活化効果を有する物質であっても、新型コロナウイルスに対して必ずしも不活化効果を有しているということもできない
【0009】
本発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能である抗ウイルス性素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者は、新型コロナウイルスに対して不活化効果を有する物質を鋭意検討した結果、純銅、および銅と亜鉛を含む一部の合金が新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を有するという知見を得た。また、金属成膜手段によってこれらの金属の薄膜を基材に形成することにより、これらの金属自体が有する不活化効果よりもさらに高く、かつ異なる傾向の不活化効果を有する抗ウイルス性素材が得られるという知見も得た。
【0011】
本発明の抗ウイルス性素材は、
基材と、
前記基材に形成された金属の薄膜と、を有し、
前記金属の薄膜は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成されている、
抗ウイルス性素材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能である抗ウイルス性素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、銅および銅合金の薄膜平板による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の10分後または20分後の不活化を示すグラフである。
図2図2aは、スパンボンド不織布に金属蒸着を行う前の拡大写真であり、図2bは、スパンボンド不織布に金属蒸着を行った状態の拡大写真である。
図3図3は、銅および銅合金を蒸着させた不織布による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の0分、3分後の不活化を示すグラフである。
図4図4は、銅合金(JIS C2100)を蒸着させた不織布に接触後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の0分、0.5分後、1分後および2分後の感染価を示すグラフである。
図5図5は、不織布の目付け(不織布の単位面積あたりの重量)を変えて純銅を蒸着させた場合における、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の0分、3分後の不活化への影響を示すグラフである。
図6図6は、不織布の目付け(不織布の単位面積あたりの重量)を変えて銅合金(JIS C2600)を蒸着させた場合における、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の0分、3分後の不活化への影響を示すグラフである。
図7図7は、銅合金(JIS C2100、C2200)を蒸着させたポリカーボネート製プレートによる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の0分、1分後および3分後の不活化を示すグラフである。
図8図8は、本発明の実施例4に係るマスクの正面図である。
図9図9は、図8のA―A線における断面図である。
図10図10は、図9の領域B付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態にかかる抗ウイルス性素材は、
基材と、
前記基材に形成された金属の薄膜と、を有し、
前記金属の薄膜は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成されている(第1の構成)。
【0015】
上記構成によれば、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いて、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、純銅、または銅と亜鉛を含む合金の板状体よりも新型コロナウイルスに対する不活化効果を高めることができる。
このため、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能である抗ウイルス性素材を提供することができる。
【0016】
上記第1の構成において、
前記金属成膜手段で用いられる純銅、または銅と亜鉛を含む合金のうち、
前記純銅は、Cuの含有量が99.90mass%以上であり、
前記合金は、Cuの含有量が68.5mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物であり、
プラーク法にて測定した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染価から下記式によって算出した3分後の不活化効果(Mv)が3.0以上となるようにしてもよい(第2の構成)。
不活化効果(Mv)=log(Ct/C0)-log(Nt/N0)
Ct:コントロールt時間後の感染価
C0:コントロール0時間後の感染価
Nt:試験品t時間後の感染価
N0:試験品0時間後の感染価
【0017】
上記構成によれば、純銅、または銅と亜鉛を所定の割合で含有する合金を用いて、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルス対策のための様々な製品に適用可能である抗ウイルス性素材とすることができる。
具体的には、純銅、または銅と亜鉛を含む合金の板状体では、10分後であっても新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)が3.0に達しない場合があるのに対し、金属成膜手段によってこれらの金属の薄膜を基材に形成した抗ウイルス性素材は、3分後には不活化効果(Mv)が3.0以上に達し、新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮させることができる。
【0018】
上記第1の構成において、
前記合金は、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされていてもよい(第3の構成)。
【0019】
上記構成によれば、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%である銅と亜鉛の合金を用いて、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を発揮させることができる。
具体的には、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%である銅と亜鉛の合金の板状体では、10分後であっても新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)が3.0未満(2.77)であるのに対し、金属成膜手段によって同じ合金を用いて基材に金属薄膜を形成した状態では、3分後には不活化効果(Mv)が5.0以上(5.98)に達し、新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮させることができる。
【0020】
上記第1の構成において、
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)が、金属成膜手段で用いた金属と同じ金属の板状体による、新型コロナウイルスに対する10分後の不活化効果(Mv)よりも高くなるようにしてもよい(第4の構成)。
【0021】
上記構成によれば、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いて、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を発揮させることができる。
具体的には、純銅や、CuとZnを所定の割合で含有する合金の板状体では、10分後でも新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)が3.0未満であるのに対し、金属成膜手段によって同じ金属を用いて基材に金属薄膜を形成した抗ウイルス性素材は、3分後には不活化効果(Mv)が3.0以上に達し、新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮させることができる。
【0022】
上記第1の構成において、
Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされた合金を用いて形成された前記抗ウイルス性素材であって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)は、
Cuの含有量が89.0mass%以上91.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされた合金を用いて形成された前記抗ウイルス性素材の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する3分後の不活化効果(Mv)よりも高くなるようにしてもよい(第5の構成)。
【0023】
上記構成によれば、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%である銅と亜鉛の合金を用いて、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を発揮させることができる。
具体的には、銅と亜鉛を含む合金の板状体では、10分後の新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)は、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%である銅と亜鉛の合金よりも、Cuの含有量が89.0mass%以上91.0mass%である銅と亜鉛の合金のほうが高くなるのに対し、
金属成膜手段によってこれらの金属の薄膜を基材に形成した抗ウイルス性素材では、3分後の新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)の傾向が変化して、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%である銅と亜鉛の合金のほうが、Cuの含有量が89.0mass%以上91.0mass%である銅と亜鉛の合金よりも高くなる。
【0024】
上記第1から第5のいずれかの構成において、
前記基材は、不織布であり、
不織布の単位面積あたりの重量が軽量であるほど、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)についての3分後の不活化効果(Mv)が高くなるようにしてもよい(第6の構成)。
【0025】
上記構成によれば、基材が不織布である場合は、単位面積あたりの重量がより軽量であるものを選択することにより、新型コロナウイルスに対してより高い不活化効果を発揮させることができる。
【0026】
上記第1から第5のいずれかの構成において、
前記基材は、合成樹脂素材で形成した板状体であり、
前記金属の薄膜の光透過率を50%以下としてもよい(第7の構成)。
【0027】
上記構成によれば、基材を合成樹脂素材で形成した板状体とし、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって形成する金属薄膜の光透過率を50%以下とすることにより、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を発揮させるとともに、光を透過させることができる抗ウイルス性素材とすることができる。
【0028】
上記第1から第6のいずれかの構成における前記基材を不織布とした抗ウイルス性素材を用いて、マスクを構成してもよい(第8の構成)。
【0029】
上記構成によれば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルスの再拡散を抑制することが可能なマスクを提供することができる。
【0030】
上記第1から第7のいずれかの構成の抗ウイルス性素材を用いてパーテーションを構成してもよい(第9の構成)。
【0031】
上記構成によれば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルスの再拡散を抑制することが可能なパーテーションを提供することができる。
【0032】
[実施形態]
本発明に係る抗ウイルス性素材は、純銅、または銅と亜鉛を含む合金を用いた金属成膜手段によって、基材に金属薄膜を形成させることで構成されている。
【0033】
基材は、金属薄膜を付着させることが可能なものであればよく、例えば、不織布、合成樹脂パネル、フィルムなどが挙げられる。また、金属薄膜を付着させにくい素材であっても塗装や下処理を行うことで金属薄膜を付着させるようにすることもできる。抗ウイルス性素材を用いた製品としては、マスク、パーテーションパネル、フェイスシールド、エアフィルター、足拭きマット等の新型コロナウイルスにして抗ウイルス性が要求される製品が含まれる。基材としては、例えば、マスク用の基材として不織布を選択することができ、パーテーションパネルやフェイスシールド用の基材として、透光性を有する合成樹脂製の板状体やフィルムを用いることができる。
【0034】
不織布は、JIS-L0222に『繊維シート,ウェブ又はバットで,繊維が一方向又はランダムに配向しており,交絡,及び/又は融着,及び/又は接着によって繊維間が結合されたもの。ただし、紙、織物、編み物、タフト及び縮絨フェルトを除く』と定義されるものが含まれる。不織布の製法については限定されないが、マスクに適した不織布としてスパンボンド不織布、あるいはメルトブローン不織布を挙げることができる。なお、紙、織物、編み物、タフト及び縮絨フェルトについては、不織布には含まれないものの、本発明の抗ウイルス性素材の基材として用いることができる。
【0035】
合成樹脂素材は、特に限定されず、金属による薄膜を付着させることが可能な素材であればよい。例えばパーテーションパネル用の素材としてポリカーボネートやアクリルを用いることができる。
【0036】
基材に対する金属薄膜の形成は、公知の金属成膜手段を用いることができる。金属成膜手段は、物理的な成膜方式(Physical Vapor Deposition)、化学的な成膜方式(Chemical Vapor Depositions)のいずれであってもよく、物理的な成膜方式として、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの方式を選択することができる。真空蒸着は、真空中で金属を加熱して蒸発または昇華させ、基材に金属薄膜を形成する手段である。金属の加熱は抵抗加熱や高周波誘導加熱によって行うことができる。スパッタリングは、チャンバー内のアルゴンガスをイオン化させ、金属成膜材料(ターゲット)に衝突させて基材に金属薄膜を形成する手段である。本実施形態では、金属薄膜は抵抗加熱式の真空蒸着手段によって形成している。なお、金属薄膜の付着性を向上させるため、基材表面にアンダーコートを塗布したり、薄膜を形成する雰囲気にアルゴンガスを導入してもよい。
【0037】
金属薄膜の付着量は、膜厚で管理することもできるが、金属薄膜の付着量が増加すると光の透過率が減少する関係性から、金属薄膜の付着量を光の透過率で管理することもできる。本実施形態では、真空蒸着装置内に基材とともに透明な合成樹脂板を配置し、蒸着処理後に合成樹脂板の光透過率(可視光線透過率)を測定することにより、金属薄膜の付着量を管理している。本実施形態では、可視光線透過率測定器として朝日分光株式会社製「TLV‐304‐BP」を用い、測定波長は550nmとして可視光線透過率を測定した。
【0038】
[抗ウイルス性評価]
実施形態に係る抗ウイルス性素材の抗ウイルス性を評価するため、基材として不織布、ポリカーボネートを用いた抗ウイルス性素材により、新型コロナウイルスに対する不活化効果の評価を行った。また、金属素材自体の抗ウイルス性と金属薄膜による抗ウイルス性を比較するため、銅および銅合金の薄膜平板(銅および銅合金を板状体としたもの)についても不活化効果の評価を行った。
【0039】
[材料]
試験ウイルス:新型コロナウイルス(SARS-CoV-2;2019-nCoV JPN/TY/WK-521 株)
・新型コロナウイルスをVeroE6細胞に感染させ、細胞変性効果が確認されたものを回収し、-80℃のフリーザーに凍結保存した。
・凍結融解を2回繰り返したものを遠心分離し、上清を精密濾過ならびに限外濾過にて濃縮・精製した。
・これを試験ウイルス液とし、試験まで-80℃のフリーザーに凍結保存した。
【0040】
[不活化効果の算出]
不活化効果は以下のように算出した。
不活化効果(Mv)=log(Ct/C0)-log(Nt/N0)
=logCt/Nt
Ct:コントロールt時間後の感染価
C0:コントロール0時間後の感染価
Nt:試験品t時間後の感染価
N0:試験品0時間後の感染価
logCt:コントロールt時間後の感染価の常用対数値
logNt:試験品t時間後の感染価の常用対数値
Mv≧3.0は、十分な効果ありと見なされる(ISO 18184)。
【0041】
[減少率(%)の計算]
減少率は、対数減少値(=Mv)より次の通り算出した。
減少率(%)=(1-1/10^(対数減少値))×100
【0042】
[比較例]
[銅および銅合金の薄膜平板による抗ウイルス性試験]
抗ウイルス性素材と比較するため、純銅および銅と亜鉛を含む合金の薄膜平板(純銅および銅合金を板状体としたもの)について抗ウイルス性試験を行った。
【0043】
表1は、銅および銅合金(伸銅品(JIS製品))の種類名称と化学成分を示している。
C1020は、純銅であり、Cuの含有量が99.96mass%以上、残部が不可避不純物とされている。なお、一般にCuの含有量が99.90mass%から99.95mass%以上のものが純銅と呼ばれている。
C2100、C2200、C2600、C2680、およびC2810は、銅と亜鉛をそれぞれ所定の割合で含有する合金である。
C2100は、Cuの含有量が94.0mass%以上96.0mass%以下の範囲内、Pbの含有量が0.05mass%以下、Feの含有量が0.05mass%以下であり、残部がZn及び不可避不純物とされている。
同様に、C2200、C2600、C2680、およびC2810についてもそれぞれ表1に示す割合で銅と亜鉛を含有している。
【0044】
【表1】
【0045】
[試験方法]
・試験品は2.5cm角の薄膜平板(銅および銅合金を板状体としたもの)とし、コントロールとしてガラス板を用いた。
・試験品に新型コロナウイルスを50μl接種し、2cm角のフィルムで被覆した。
・接種する新型コロナウイルスには、タンパク質(Bovine serum albumin)を添加してタンパク質濃度を唾液と同程度の3mg/mlとした。
・それぞれ、10分もしくは20分室温条件下で静置した。
・作用時間後、EDTA含有DMEM培地5mlによってウイルス液を回収した。
・回収液を用いてVeroE6細胞に感染させ、ウイルス感染価をプラーク法にて測定した。
・3日培養後に細胞を観察し、ウイルス感染価ならびにウイルスの不活化効果を算出した。
【0046】
本試験による試験結果を以下に示す。
表2は、銅および銅合金の薄膜平板による新型コロナウイルスの10分後または20分後の感染価、不活化効果(Mv)、および減少率を示す表である。
図1は、銅および銅合金の薄膜平板による新型コロナウイルスの10分後または20分後の不活化を示すグラフである。
【0047】
【表2】
【0048】
表2および図1に示すように、銅および銅合金の板状体では、C2200(Cu約90%、Zn約10%)の不活化効果が比較的高いことが判明した。C2200については、10分後には検出限界値以下までウイルス量が減少することが確認された。
C2200の10分後の不活化効果(Mv)は6.31となり、新型コロナウイルスに対して十分な効果ありとみなされるMv≧3.0に達した。
C2200以外の純銅(C1020)および銅と亜鉛の合金(C2100、C2600、C2680、およびC2810)については、10分後の不活化効果(Mv)は、いずれもMv≧3.0に達しなかった。
【0049】
20分後の不活化効果(Mv)については、C2200に加えて、C1020、C2100、およびC2600がMv≧3.0に達した。
しかしながら、C1020、C2100、およびC2600については、C2200とは異なり、20分後においても検出限界値以下まではウイルス量は減少しなかった。
【0050】
以上より、銅および銅合金の薄膜平板(板状体)による新型コロナウイルスの不活化試験では、C2200(Cu約90%、Zn約10%)の不活化効果が比較的高いことが判明した。また、純銅(C1020)および銅と亜鉛の合金(C2100、C2600)についても新型コロナウイルスに対して不活化効果を有することが判明した。なお、C2801(Cu約60%、Zn約40%)については、インフルエンザウイルスに対する不活化効果が最も高いのに対し、新型コロナウイルスに対する不活化効果は他の合金に劣ることも判明した。
【0051】
[実施例1]
[銅および銅合金を蒸着させた不織布による抗ウイルス性試験]
銅または銅と亜鉛とを含む金属による薄膜を付着させた不織布について、抗ウイルス性試験を行った。不織布は、スパンボンド不織布とし、不織布の目付け(単位面積あたりの重量)は30g/mとした。金属成膜手段は、抵抗加熱方式による真空蒸着とした。金属薄膜の付着量(可視光透過率)は、11%とした。図2aは、スパンボンド不織布に金属蒸着を行う前の拡大写真であり、図2bは、スパンボンド不織布に金属蒸着を行った状態の拡大写真である。なお、可視光透過率が大きい数値であるほど金属薄膜の膜厚は薄くなり、可視光透過率が小さい数値であるほど金属薄膜の膜厚は厚くなる。
【0052】
[試験方法]
・ISO 18184(JIS L 1922)「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」を参考に次の通り試験を行った。
・40mm角の試験品に0.2mLのウイルス液を滴下し、室温条件下で3分間静置した(C2100については、0.5分間、1分間、および2分間の試験も行った)。
・接種する新型コロナウイルスには、タンパク質(Bovine serum albumin)を添加してタンパク質濃度を唾液と同程度の3mg/mlとした。
・作用時間後、EDTA含有DMEM培地5mlに試験品と3~4コのガラスビーズを入れ、ボルテックスにて攪拌してウイルス液を回収した。
・回収液を用いてVeroE6細胞に感染させ、ウイルス感染価をプラーク法にて測定した。
・3日培養後に細胞を観察し、ウイルス感染価ならびにウイルスの不活化効果を算出した。
【0053】
本試験による試験結果を以下に示す。
表3は、銅および銅合金を蒸着させた不織布による新型コロナウイルスの0分、3分後の感染価、不活化効果(Mv)、および減少率を示す表である。
図3は、銅および銅合金を蒸着させた不織布による新型コロナウイルスの0分、3分後の不活化を示すグラフである。
【0054】
【表3】
【0055】
表3、および図3に示すように、純銅および銅合金を蒸着させた不織布の3分後の不活化効果(Mv)と、同じ金属の薄膜平板(板状体)による10分後の不活化効果(Mv)とを比較すると、一部の銅合金(C2200)を除いて、純銅および銅合金を蒸着させた不織布のほうが、不活化効果(Mv)が高くなることが判明した。
特に、Cu(C1020、Cu約99.9%)、C2100(Cu約95%、Zn約5%)、C2200(Cu約90%、Zn約10%)、およびC2600(Cu約70%、Zn約30%)については、不活化効果が非常に高くなっている。これらの金属薄膜を付着させた不織布による不活化効果(Mv)は、わずか3分後には4.0~5.0以上となっており、新型コロナウイルスに対して十分な効果ありとみなされるMv≧3.0に達している。
C2680、C2801については、3分後の不活化効果(Mv)はMv≧3.0に達していないが、同じ合金の板状体による10分後の不活化効果(Mv)に近い効果が出ている(表2参照)。
【0056】
Cu(C1020、Cu約99.9%)、C2100(Cu約95%、Zn約5%)、およびC2600(Cu約70%、Zn約30%)については、薄膜平板(板状体)では、10分後でも新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)が3.0未満であるのに対し(表2参照)、金属成膜手段によって同じ金属を用いて基材に金属薄膜を形成した抗ウイルス性素材は、3分後には不活化効果(Mv)が3.0以上に達し、新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮している。
【0057】
C2200(Cu約90%、Zn約10%)については、薄膜平板(板状体)では、10分後の新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)が3.0以上(6.31)であるのに対し(表2参照)、金属成膜手段によってC2200を用いて基材に金属薄膜を形成した抗ウイルス性素材は、3分後には不活化効果(Mv)が3.0以上(5.10)に達し、金属薄膜の状態においても新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮している。
【0058】
C2100(Cu約95%、Zn約5%)については、薄膜平板(板状体)の状態では、10分後の不活化効果(Mv)が3.0未満(2.77)、20分後の不活化効果(Mv)が5.32であるのに対し(表2参照)、C2100を用いて不織布に金属薄膜を形成した状態では、3分後には不活化効果(Mv)が5.0以上(5.98)に達し、金属板そのものの不活化効果(Mv)より高くなり、新型コロナウイルスに対して非常に強い不活化効果(Mv)を発揮している。
【0059】
C2100(Cu約95%、Zn約5%)とC2200(Cu約90%、Zn約10%)を比較すると、薄膜平板(板状体)の状態では、10分後の不活化効果(Mv)は、C2100が2.77でMv≧3.0に達しないのに対し、C2200は6.31で最も高い効果を発揮する(表2参照)。つまり、薄膜平板(板状体)の状態では、不活化効果(Mv)はC2100<C2200という傾向がある。ところが、C2100とC2200を蒸着させた不織布では、3分後の不活化効果(Mv)は、それぞれC2100(Mv=5.98)、C2200(Mv=5.10)となる。つまり、C2100とC2200を蒸着させると、新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)の傾向が変わってC2100>C2200となり、C2100が最も高い不活化効果を発揮することが判明した。
【0060】
ここで、C2100(Cu約95%、Zn約5%)を蒸着させた不織布による、より短時間の抗ウイルス性試験について説明する。
表4は、銅合金(JIS C2100)を蒸着させた不織布による新型コロナウイルスの0分、0.5分後、1分後、2分後の感染価、不活化効果(Mv)、および減少率を示す表である。
図4は、銅合金(JIS C2100)を蒸着させた不織布に接触後の新型コロナウイルスの0分、0.5分後、1分後および2分後の感染価を示すグラフである。
【0061】
【表4】
【0062】
表4および図4に示すように、C2100を用いて不織布に金属薄膜を形成した状態では、新型コロナウイルスに対する不活化効果(Mv)は、0.5分後には2.76、1分後にはウイルス量が99.9979%減少し、不活化効果(Mv)は4.69となってMv≧3.0に達し、わずか2分後には、ウイルス量は検出限界に達して不活化効果(Mv)は5.98となっている。
このように、C2100を用いて不織布に金属薄膜を形成した抗ウイルス性素材は、新型コロナウイルスに対して極めて強い不活化効果(Mv)を発揮できることが判明した。
【0063】
[実施例2]
[不織布の厚み(目付け)を変えた抗ウイルス性試験]
基材となる不織布の厚み(目付け/単位面積あたりの重量)を変えて純銅および銅と亜鉛を含む合金による薄膜を付着させて抗ウイルス性素材を形成し、抗ウイルス性試験を行った。不織布は、スパンボンド不織布とし、不織布の目付け(単位面積あたりの重量)は20(g/m)、30(g/m)、40(g/m)とした。不織布の目付けが大きくなるほど不織布の厚みは厚くなる。金属成膜手段は、抵抗加熱方式による真空蒸着とした。金属薄膜の付着量(可視光透過率)は、11%とした。
【0064】
[試験方法]
[不織布]
・ISO 18184(JIS L 1922)「繊維製品の抗ウイルス性試験方法」を参考に次の通り試験を行った。
・40mm角の試験品に0.2mLのウイルス液を滴下し、室温条件下で3分間静置した。
・接種する新型コロナウイルスには、タンパク質(Bovine serum albumin)を添加してタンパク質濃度を唾液と同程度の3mg/mlとした。
・作用時間後、EDTA含有DMEM培地5mlに試験品と3~4コのガラスビーズを入れ、ボルテックスにて攪拌してウイルス液を回収した。
・回収液を用いてVeroE6細胞に感染させ、ウイルス感染価をプラーク法にて測定した。
・3日培養後に細胞を観察し、ウイルス感染価ならびにウイルスの不活化効果を算出した。
【0065】
本試験による試験結果を以下に示す。
表5は、不織布の目付けを変えて銅(JIS C1020)および銅合金(JIS C2600)を蒸着させた場合における、新型コロナウイルスの0分、3分後の感染価、不活化効果(Mv)、および減少率を示す表である。
図5は、不織布の目付けを変えて純銅(JIS C1020)を蒸着させた場合における、新型コロナウイルスの0分、3分後の不活化への影響を示すグラフである。
図6は、不織布の目付けを変えて銅合金(JIS C2600)を蒸着させた場合における、新型コロナウイルスの0分、3分後の不活化への影響を示すグラフである。
【0066】
【表5】
【0067】
表5、および図5に示すように、Cu(C1020、Cu約99.9%)、およびC2600(Cu約70%、Zn約30%)による金属薄膜を付着させた不織布の不活化効果(Mv)は、不織布の目付けに関わらず、わずか3分後には3.0~5.0以上となっており、新型コロナウイルスに対して十分な効果ありとみなされるMv≧3.0に達している。
【0068】
Cu(C1020、Cu約99.9%)については、目付け20の不織布の感染価がわずか3分で検出限界に達している。目付け30、40の不織布の感染価については、3分では検出限界には達しておらず、目付け30のほうが目付け40より感染価が小さくなり、不活化効果(Mv)も高くなっている。
【0069】
C2600(Cu約70%、Zn約30%)については、いずれの目付けの不織布も3分では検出限界には達していない。目付け20、30、40の順で感染価が小さくなり、不活化効果(Mv)も高くなっている。
【0070】
不織布の目付けと不活化効果(Mv)の関係については、Cu(C1020、Cu約99.9%)の場合、C2600(Cu約70%、Zn約30%)の場合、いずれも3分後の不活化効果(Mv)は、20>30>40となっている。
つまり、基材が不織布である場合は、単位面積あたりの重量がより軽量であるものを選択することにより、新型コロナウイルスに対してより高い不活化効果を発揮させることができる。
【0071】
[実施例3]
[銅合金を蒸着させた合成樹脂板による抗ウイルス性試験]
銅と亜鉛とを含む金属による薄膜を付着させた合成樹脂板について、抗ウイルス性試験を行った。合成樹脂板の素材は、ポリカーボネートとした。金属成膜手段は、抵抗加熱方式による真空蒸着とした。金属薄膜の付着量(可視光透過率)は、50%とした。なお、可視光透過率が50%の状態では、合成樹脂板を通して裏側を視認可能である。
【0072】
[試験方法]
[ポリカーボネート]
・試験はISO21702に準じて次の通り行った。
・試験品は5cm角の銅合金蒸着ポリカーボネートを用いた。
・試験品に新型コロナウイルスを150μl接種し、4cm角のフィルムで被覆した。
・それぞれ、1分もしくは3分室温条件下で静置した。
・作用時間後、EDTA含有DMEM培地5mlによってウイルス液を回収した。
・回収液を用いてVeroE6細胞に感染させ、ウイルス感染価をプラーク法にて測定した。
・3日培養後に細胞を観察し、ウイルス感染価ならびにウイルスの不活化効果を算出した。
【0073】
本試験による試験結果を以下に示す。
表6は、銅合金(JIS C2100、C2200)を蒸着させたポリカーボネート製のプレートによる新型コロナウイルスの0分、1分後および3分後の感染価、不活化効果(Mv)、および減少率を示す表である。
図7は、銅合金(JIS C2100、C2200)を蒸着させたポリカーボネート製プレートによる新型コロナウイルスの0分、1分後および3分後の不活化を示すグラフである。
【0074】
【表6】
【0075】
表6、および図7に示すように、銅合金(C2100、C2200)を蒸着させたポリカーボネート製プレートの3分後の不活化効果(Mv)と、同じ金属の薄膜平板(板状体)による10分後の不活化効果(Mv)とを比較すると(表2参照)、C2100については、蒸着させたポリカーボネート製プレートのほうが、不活化効果(Mv)が高くなることが判明した。
【0076】
C2100(Cu約95%、Zn約5%)については、わずか1分後にウイルス量が99.9932%減少し、不活化効果(Mv)は4.0以上(4.17)に達して新型コロナウイルスに対して十分な効果ありとみなされるMv≧3.0となった。3分後には、検出限界値以下にまでウイルス量の減少が確認され、不活化効果(Mv)が5.0以上(5.21)となっている。
【0077】
C2200(Cu約90%、Zn約10%)についても、3分後には、検出限界値以下にまでウイルス量の減少が確認され、不活化効果(Mv)が5.0以上(5.21)に達して新型コロナウイルスに対して十分な効果ありとみなされるMv≧3.0となった。
【0078】
このように、銅合金(C2100、C2200)を蒸着させたポリカーボネート製プレートによる新型コロナウイルスの不活化試験によれば、蒸着させた金属薄膜の付着量が少ない(可視光透過率50%)にも関わらず、わずか3分で新型コロナウイルスに対して十分な不活化効果が得られるという結果が得られた。
【0079】
[実施例4]
[抗ウイルス性素材を用いたマスク]
以上説明した本発明の抗ウイルス性素材は、新型コロナウイルスに対して非常に高い不活化効果を有している。以下では、本発明の抗ウイルス性素材を用いて構成したマスクの一例について説明する。
【0080】
まず、マスク100の全体構成について説明する。図8は、本発明の実施例4に係るマスクの正面図である。図9は、図8のA―A線における断面図である。図10は、図9の領域B付近の断面図である。図8に示すように、マスク100は、マスク本体10、形状保持材30、および耳掛け部50を備えている。本実施形態のマスク100は、いわゆるプリーツマスクである。マスク本体10は、プリーツ(ひだ)25を広げて使用することで、使用者の顔面の所定の範囲(例えば、鼻と口とを含む範囲)を覆う部材である。
【0081】
マスク本体10は、表面層21、中間層22、および裏面層23の3層の不織布が積層されて構成されている(図10参照)。表面層21、中間層22、および裏面層23は、積層された状態で左右方向に延びるプリーツ25が複数形成されている。表面層21、中間層22、および裏面層23の上辺、下辺、左辺および右辺は、溶着部27によって固定されている。
【0082】
使用者がマスク100を顔面に装着する場合には、マスク100の表面層21を顔面と反対側に配置し、マスク100の裏面層23を顔面側に配置するように装着するものとする。表面層21には、本発明に係る抗ウイルス性素材を用いる。
【0083】
抗ウイルス性素材は、基材を不織布とし、新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を有する純銅、または銅と亜鉛を含む合金を選択して用い、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより構成することができる。
【0084】
中間層22は、表面層21の内側においてウイルス、細菌等を捕集する層である。中間層22として、メルトブローン不織布を用いることができる。裏面層23は、使用者がマスク100を着用した状態において、使用者の顔面に配置される不織布の層である。裏面層23は、使用者の顔面に接触するため、柔軟性に富む不織布を用いることが好ましい。
【0085】
表面層21、中間層22、および裏面層23を構成する不織布の厚さ等は特に限定するものではないが、マスク本体10のバリア性について、PFE、BFE、VFEがそれぞれ99%以上となるように表面層21、中間層22、および裏面層23を構成する不織布を選択することが好ましい。なお、PFEは、約0.1μmサイズの粒子の捕集率、BFEは、約0.3μmの細菌を含む粒子の捕集率、VFEは、約0.1μm~5.0μmのウイルスが含まれた粒子の捕集率を示している。
【0086】
形状保持材30は、マスク本体10の形状を保持する部材である。本実施形態では、形状保持材30として、第1形状保持材31および第2形状保持材32を設けている。
【0087】
第1形状保持材31は、マスク本体10の上辺付近に配置されており、折り返された不織布(表面層21、中間層22、および裏面層23)の間に保持されている(図10参照)。第1形状保持材31は、ノーズフィッターとも呼ばれる部材である。
【0088】
第2形状保持材32は、マスク本体10の上下方向の中央付近に配置されており、表面層21と中間層22の間に保持されている(図3図4参照)。第2形状保持材32は、使用者がマスク本体10を顔面に配置した状態で、マスク本体10の中央部が顔面に接触しにくいようにマスク本体10の形状を湾曲した状態に保つための部材である。
【0089】
形状保持材30(31、32)として、本発明に係る抗ウイルス性素材を用いることができる。この場合、基材にはポリプロピレンなどの樹脂や、アルミニウムなどの金属、あるいは樹脂と金属を組み合わせた素材を用いる。新型コロナウイルスに対して高い不活化効果を有する純銅、または銅と亜鉛を含む合金を選択して用い、金属成膜手段によって基材に金属薄膜を形成することにより、抗ウイルス性素材を用いた形状保持材30(31、32)を構成することができる。
【0090】
耳掛け部50は、使用者がマスク100を顔面に装着する場合に、耳(耳介)に掛けて、マスク本体10を着用者の顔面に固定する部材である。耳掛け部50の端部は、マスク本体10の側部において溶着部28によって取り付けられている。
【0091】
耳掛け部50として、本発明に係る抗ウイルス性素材を用いることができる。この場合、例えば、基材を伸縮性のある織物組織とすることができる。例えば、経糸と緯糸を袋織で製織し、表裏組織をゴム糸で連結した織物組織を用いることができる。経糸にハイカウント糸を用いた織物組織を採用することにより、軟らかく肌触りのよい耳掛け部50となるため、長時間マスクを着用しても耳が痛くなりにくいマスク100とすることができる。なお、抗ウイルス性素材の基材は、織物組織としてもよく、織物組織を構成する繊維を抗ウイルス性素材の基材としてもよい。
【0092】
以上説明したマスクによれば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルスの再拡散を抑制することが可能なマスクを提供することができる。
【0093】
[実施例5]
[抗ウイルス性素材を用いたパーテーション]
本発明の抗ウイルス性素材を用いて構成したパーテーションの一例について説明する。
【0094】
パーテーションは、飲食、接客あるいは会議などを行う場所において、対面もしくは隣接する人の間に設置される。パーテーションは、自立式のものや、吊り下げて使用するもの、パネル状の硬質のものや、シート状の柔軟性を有するものなど、様々な形態が考えられる。
【0095】
本発明に係る抗ウイルス性素材をパーテーションに適用する場合、基材として、透光性を有する合成樹脂製の板状体やフィルムを用いることができる。なお、パーテーションは、必ずしも透明でなくてもよく、必要に応じて半透明や不透明のものも使用することができる。
【0096】
基材に付着させる金属薄膜は、基材の両面に付着させてもよく、片面のみに付着させてもよい。金属薄膜の付着量は、必要な光透過率と、新型コロナウイルスに対する不活化効果の両方を満たすように決定される。光透過率は、実施例3で採用した50%であってもよく、必要に応じて金属薄膜の付着量を少なくして光透過率を高くしてもよく、金属薄膜の付着量を多くして光透過率を低くしてもよい。
【0097】
パーテーションの部位によって光透過率を変化させるようにグラデーション状に金属薄膜を形成してもよい。この場合、パーテーションを通して視認する必要がある部位は光透過率を高くし、その他の部位については光透過率を低くしてもよい。この場合、視認性と新型コロナウイルスに対する不活化効果を両立させることができる。
【0098】
なお、パーテーションパネルに用いられる素材としてアクリルが一般的であるが、アクリルは金属薄膜が付着しにくいため、抗ウイルス性素材の基材としては、ポリカーボネートを用いることが好ましい。またアルゴンガスにて基材表面を荒らし(凹凸にし)て金属薄膜を付着させやすくしてもよい。
【0099】
以上説明したパーテーションによれば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して高い不活化効果を有し、新型コロナウイルスの再拡散を抑制することが可能なパーテーションを提供することができる。
【0100】
[変形例]
本発明に係る抗ウイルス性素材は、上記説明した本実施形態に限定されない。金属成膜に用いた純銅および銅と亜鉛の合金は、JISで規格された製品を用いたが、これに限定されず、本発明で特定される純銅および銅と亜鉛の合金であれば、用いることができる。
【0101】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10