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特開2023-8345液中の被検出物質の検出方法及びそのための部材
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  • 特開-液中の被検出物質の検出方法及びそのための部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008345
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】液中の被検出物質の検出方法及びそのための部材
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/03 20060101AFI20230112BHJP
   G01N 35/02 20060101ALI20230112BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230112BHJP
   G01N 21/78 20060101ALN20230112BHJP
   G01N 21/63 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
G01N21/03 Z
G01N35/02 A
C12M1/34 A
G01N21/78 C
G01N21/63 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111849
(22)【出願日】2021-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】397003079
【氏名又は名称】佐藤 正倫
(71)【出願人】
【識別番号】511275119
【氏名又は名称】北島 昌夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正倫
(72)【発明者】
【氏名】北島 昌夫
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
2G057
2G058
4B029
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043BA17
2G043CA03
2G043DA05
2G043EA01
2G043EA02
2G043EA06
2G043LA01
2G043NA05
2G054AA02
2G054AB10
2G054EA01
2G054EA03
2G054EA07
2G054GA04
2G054GB02
2G054GB10
2G054GE01
2G054JA02
2G057AA04
2G057AA14
2G057AC01
2G057BA03
2G057BB10
2G057BD01
2G057BD02
2G057BD04
2G057CA01
2G057DA11
2G057DC01
2G057GA07
2G058CC14
4B029AA07
4B029BB13
4B029CC10
4B029FA11
4B029GB09
(57)【要約】
【課題】簡易な検出方法を提供すること、低コストの検出方法を提供すること、及び使用後の検出部材を廃棄する際に理研の方法よりも環境負荷の小さい検出方法及び検出部材を提供することである。
【解決手段】400℃以上の高温で炭化された針葉樹材の仮導管方向に対して75~90度の角度を有し、厚さが1.9mm以下の炭化薄板の仮道管内に、被検出物質を含む複数の物質の反応により蛍光を発生する能力を有するか或いは失う反応生成物を含む液体を導入し、蛍光を発する仮道管の数を計測することにより達成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
400℃以上の高温で炭化された針葉樹材の仮導管方向に対して75~90度の角度を有し、厚さが1.9mm以下の炭化薄板の仮道管内に、複数の物質の反応により、励起光によって発光する能力を有するか或いは失う反応生成物を含む液体を導入し、発光する仮道管の数を測定することを特徴とする液体中に存在する被検出物質の検出方法。
【請求項2】
発光が蛍光であることを特徴とする請求項1に記載の液体中に存在する被検出物質の検出方法。
【請求項3】
被検出物質がウイルスであることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれかに記載の液体中に存在する被検出物質の検出方法。
【請求項4】
炭化薄板が枠に取り付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の液体中に存在する被検出物質の検出方法のための部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に存在する被検出物質の新規な検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
理化学研究所等(以後理研と記載)は2021年4月19日、科学誌コミュニケーションズ・バイオロジーのオンライン版(非特許文献1)でSATORI法と名付けられた新型コロナウイルスの新たな検査の仕組み発表した。この検出法の感度は従来のPCR検査と比較すると10~100倍低いと記載されている。
【0003】
理研の方法では、ガラス基板上に2.5μ程度の径で深さが1.6μ又は0.6μの微細なセルが1000×1000個形成されたものを用いる。これらのセルに、核酸切断酵素Cas13aと蛍光レポーターの混合液にウイルスRNAを混ぜた混合液を供給すると、ウイルスと反応した液はセルの中で蛍光を発するようになり、蛍光を発しているセルの数を計数することにより、ウイルスを検出するのである。
【0004】
本発明者らは先に特願2020―36861(特許文献1)及び特願2020-116631(特許文献2)の出願を行った。特許文献1に記載された発明は、400℃以上の温度で炭化され、仮道管方向に対して75~90度の角度で0.1~1.9mmの厚さの炭化薄板を化学反応或いは細胞培養のモジュールとし、このモジュール内で反応或いは培養を行うのである。特許文献2に記載された発明の概要は、400℃以上の温度で炭化して得られる仮道管対して75~90度の角度を有する炭化薄板の片面に、少なくとも1個のウェル(凹部)が設けられたものであって、特許文献1に記載の方法に有利な炭化薄板に関するものである。
【0005】
理研の方法では、セルのサイズが2.5μ程度、深さが0.6μであり、1個のセルの体積は非常に小さい。従って、この小さなセルに1個の蛍光を発することができる分子が入り込む確率は非常に小さい。これに対して特許文献1及び2で用いている仮道管の径は早材部分で20μ前後であり、仮道管の深さは0.5mmとして仮道管内の体積は理研方式の穴の体積の1000倍以上になる。従って、希薄ウイルス液でも検出できる確率が大きくなると考えられる。
【0006】
理研の方法では、高度な先端技術を駆使した複雑な製作技術を採用しており、コストの観点から問題がある。また検出部材の廃棄の観点からも問題である。それに対して炭化薄板を用いれば高価な製造設備が不要であり、また使用後の部材は焼却することができるので環境への負荷も小さい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hajime Shinoda, Yuya Taguchi, Ryoya Nakagawa, Asami Makino, Sae Okazaki, Masahiro Nakano, Yukiko Muramoto, Chiharu Takahashi, Ikuko Takahashi, Jun Ando, Takeshi Noda Osamu Nureki, Hiroshi Nishimasu, Rikiya Watanabe, "Amplification-free RNA detection with CRISPR-Cas13", Communications Biology, 10.1038/s42003-021-02001-8
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2020-36861
【特許文献2】特願2020-116631
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
簡易な検出方法を提供すること、低コストの検出方法を提供すること、及び使用後の検出部材を廃棄する際に理研の方法よりも環境負荷の小さい検出方法及び検出部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、400℃以上の高温で炭化された針葉樹材の仮導管方向に対して75~90度の角度を有し、厚さが1.9mm以下の炭化薄板の仮道管内に、被検出物質を含む複数の物質の反応により励起光で発光する能力を有するか或いは失う反応生成物を含む液体を導入し、発光する仮道管の数を測定することにより達成される。
【発明の効果】
【0011】
生体成分、体液、排出物や下水などの廃液を検体とし、ウイルスやバクテリア、細胞等の生物試料を含む試料溶液中のターゲット分子と特異的に結合する物質を含む、あるいはターゲット化合物との結合により蛍光強度が変化することとを特徴とした測定法を利用するに当たって、水溶液を透過する仮道管束を有する炭化木質薄板を用いる方法であって、材料が完全黒体に近い黒色であり、迷光や外光によるノイズが少なく、蛍光測定に特に適している。また、従来既知の測定法に比べて、検出感度が高く、製造コストが安価な測定用具を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は炭化薄板に滴下された水が仮道管内に侵入した状態を示す説明図である。
図2図2は炭化薄板に枠を取りつけた状態の検出部材の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に使用される炭化薄板は、針葉樹材を400℃以上(好ましくは650~800℃)の不活性雰囲気で炭化された部材を、仮道管方向に対して90±15度、好ましくは90±5度更に好ましくは90度で厚さが1.9mm以下に切断されたものである。厚さの下限はハンドリング性、機械的強度等を考慮して0.2mm以上が望ましい。注意して扱えば0.1mmも可能である。特に特許文献2に記載のウェルを設けた炭化薄板を用いれば0.1mmの厚さでも使用できる。
【0014】
針葉樹としては、杉、松、ヒノキ、米松、その他多くの針葉樹を用いることができる。針葉樹の角材を炭化した後、仮道管方向に対してほぼ直角に切断して炭化薄板が得られる。炭化薄板は、破損しやすいので周囲を適当な枠で覆われていることが望ましい。写真のスライドフィルムが紙、プラスチック或いは金属製の枠でカバーされているのと同じように枠でカバーされているとハンドリング性がよく破損もしにくい。
【0015】
図1は、上記のようにして製作された炭化薄板の一方の面に水滴を滴下した状態の模式的な側断面図であり、実際の大きさを反映してはいない。図1において1は炭化薄板、2は仮道管、3は仮道管壁、4は炭化薄板1の表面に供給された水滴、5は仮道管に水が侵入した部分をそれぞれ示す。炭化薄板1は疎水性が大きいので、水滴4の接触角は90度より大きい。仮道管内壁の壁面も疎水性が大きいが、仮道管の径が小さいので毛細管現象により水は仮道管内に瞬時に侵入する。しかし、炭化薄板裏面の疎水性も大きいので、仮道管内に侵入した水は裏面の仮道管の開口部で停止し、裏面の表面に広がることはない。表面に残った水滴は、ろ紙、ペーパーナプキン等を接触させると容易に吸い取られ、仮道管内の水5はそのまま残るが開口部から徐々に蒸発する。
【0016】
断面が20μ角の仮道管1個の内部の体積は、炭化薄板の厚さが0.5mmの場合、0.02×0.02×0.5=2×10-4 mm3である。従って、炭化薄板表面の2mm角の面には100×100=10000個の仮道管開口が存在し、その部分の仮道管内に水が充填されると、その総体積は2mm3=2μLであり即ち2mgである。この計算には仮道管の壁が含まれていないので実際にはこれより少し小さい値になる。
【0017】
炭化薄板の切断面には年輪(早材と晩材の繰り返し)が存在し、一般に早材部分の仮道管径は晩材部分のそれよりも大きい。早材部分の幅は一般的に晩材部分の幅より大きい。上記のような2mm角の領域を早材部分に設定することは容易である。この領域内では仮道管径のばらつきは少ない。
【0018】
この領域に蛍光を発することができる物質を含む液体を供給し、仮道管内に液体が充填されたら残っている液体を吸い取るか或いは拭き取れば、仮道管内に充填された液体のみが残る。この状態で蛍光測定を行い、蛍光を発する仮道管の数が非常に多ければ同一仮道管内に複数個の分子が存在する可能性がある。それに対して蛍光を発する仮道管の数が数個程度であれば同一仮道管内に2個の分子が存在する確率は10000分の1程度と非常に小さい。例えば100個の仮道管が蛍光を発する場合、供給する測定用液体の濃度を100倍に希釈しても、少なくとも1個の仮道管が蛍光を発することになる。
【0019】
図2は、炭化薄板を枠でカバーした状態の図で、上側の図は側断面図、下側の図は上面図である。図2において1は炭化薄板、20は枠である。枠20は、上枠21と下枠22から成り、上枠21には炭化薄板1が収まる窪み23が設けられている。24は枠の内側の炭化薄板が露出している領域である。上枠21と下枠22の少なくとも一方には粘着剤が塗布されており、両枠を圧着して固定することができる。圧着の際に炭化薄板が破損しないように、炭化薄板が枠と接触する部分の数ヶ所ないし全周にスポンジ、柔らかいゴム等の部材で固定されるように、少なくとも一方の枠に取り付けておくことも可能である。スポンジ、柔らかいゴムの代わりに厚めの粘着層が炭化薄板の周辺の一部ないし全周に接触するように枠の方に設けておいてもよい。粘着剤による圧着の代わりに枠の一方に突起を設け、他方にそれに嵌合する窪みを設けて嵌合させることもできる。その他の公知の方法で上下の枠を固定することができる。図2では平坦な炭化薄板1が用いられているが、特許文献2に記載のウェルが設けられた炭化薄板でもよい。
【0020】
炭化薄板の表面に有機溶剤、オイル等を供給した場合、これらの液体は表面で液滴にならずに瞬時に仮道管内に侵入し更に横にも広がる。液体の供給量が多いと、裏面でも横にに広がったり、下方に盛り上がることもある。有機溶剤やオイルを炭化薄板に供給した場合でも表面や裏面の液体を紙や布で吸い取れば仮道管内に液体が長時間残留するので、蛍光測定を行うことができる。
【0021】
炭化薄板の表面は、完全な平坦面でないこともある。また仮道管内の液体は開口部においてメニスカスを形成しているので、光学測定を行う際に表面の屈折や乱反射により測定光量が減少する可能性がある。そこで、炭化薄板の少なくも一方の表面にはカバーガラスのような透明平板を接触させて測定するのが有効である。カバーガラスを乗せる際、空気が入らないように注意する必要がある。カバーガラスの代わりに透明樹脂シートを用いてもよい。このようにカバーをすることは、測定を開始するまでの経過時間が長くなっても液体の蒸発による影響を受けない利点もある。
【0022】
本発明では蛍光という用語を用いているが、励起光による蛍光だけでなく、化学反応や熱的、電気的、磁気的、そのたの物理的要素によって励起され発光する現象、燐光、なども含まれる。発光種や発光プローブは任意に選ぶことができる。発光種の具体例としては、ナフタレンやアントラセンなどの化学分子、クロロフィルなどの生体由来分子、バイオ分野で広く利用されているGFPやトリプトファンなどの蛍光性アミノ酸が挙げられる。さらにはこれらの発光種を目的に合わせ他の分子と結合させた発光性分子プローブを含む。これらの蛍光を測定する手段としては特に限定にされるものではなく、目的に合わせて幅広い手段を利用できる。例えば分光器中に組み込まれた蛍光測定器や蛍光マイクロプレートリーダー、時間分解蛍光リーダーなどを用いることが出来る。利用分野は特に限定されるものではなく、化学・生物学分野、バイオ分野、医薬・医療分野、環境関連分野などの幅広い分野の研究、解析あるいは観察に用いられる分野などいずれでも良い。
【実施例0023】
特許文献2の実施例1に記載された方法と同様にしてヒノキ角材の炭化物を得た。得られた炭化物を仮道管とほぼ直角に市販のダイアモンドバンドソーマシンを用い、厚さ0.50mmにスライスし、20×30mmサイズに切断して炭化薄板が得られた。炭化薄板の重量は0.082gであった。これをイソプロパノールに30分間浸漬し、仮道管内に完全にイソプロパノールが充填された後、水に浸漬、水洗した。イソプロパノールが完全に水と置換された後、炭化薄板を水から取り出しろ紙に挟んで炭化薄板の両面の水を除去した。その時点での炭化薄板の重量は0.305gであった。従って、炭化薄板の仮道管内に充填されている水の重量は0.223gである。この2×2mmサイズに換算すると0.0015gである。0016項の計算値では0.002gであるが、実際には仮道管壁の体積が無視されいること、晩材部分の仮道管の体積が小さいことを考慮すると妥当な値である。同様にして杉材の炭化薄板について実験したところ、全く同じく2×2mmサイズに換算で00015gという結果が得られた。水の代わりに被検出物質を含む水溶液を用いれば本発明方法により検出できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
従来既知の生物由来試料の高感度検出測定法に比べて、検出感度が高く、製造コストが安価な測定用具を提供する。本測定原理はモジュール化しやすく、検体の前処理が簡単なので従来既知の可搬型蛍光測定器と組み合わせることにより下水道など屋外でのウイルスやバイクテリア、細胞、微生物などの検出、定量測定に特に有利である。農地や廃棄物処理場、建設現場などの土壌中の成分解析や鉱物の採掘現場や処理場、各種製造業の廃液検査にも利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 炭化薄板
2 仮道管
3 仮道管壁
4 水滴
5 仮道管内に侵入した水
20 枠
21 上枠
22 下枠
23 窪み
24 炭化薄板の露出部分
図1
図2