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特開2023-83501情報処理装置、光学機器、制御方法、プログラム及び記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083501
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、光学機器、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/497 20060101AFI20230608BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
G01S7/497
G01S7/481 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070087
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2021104018の分割
【原出願日】2016-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】林 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 義徳
(57)【要約】
【課題】受光部の出力信号に重畳されるノイズを好適に低減することが可能な情報処理装置を提供する。
【解決手段】ライダ1は、照射方向を変えながら、パルストリガ信号PTに応じて射出光Loを照射する走査部55と、所定の照射方向に配置され、射出光Loを吸収する吸収体7と、射出光Loの戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、射出光Loの照射方向が吸収体7に照射される方向であるときのAPD41の出力信号に基づいて、パルストリガ信号PT等に起因するノイズ信号である推定同期妨害wを算出する同期妨害推定部71を備える。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、
所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、
前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を備える光学機器の前記受光部の出力信号を処理する情報処理装置であって、
前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を利用した光学機器の情報処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光を利用した測距装置として、パルス光を測定対象物に対して射出し、測定対象物で反射したパルス光の受光タイミングに基づいて測定対象物までの距離を測定するように構成されたものが広く利用されている。例えば、特許文献1には、制御部でトリガ信号が生成され、トリガ信号を起点としてパルス光を測定対象物に対して射出し、測定対象物で反射したパルス光を受光部により受光して受光信号を生成する測距装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-256191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルス光を射出するタイミングを規定するトリガ信号は、受光部の出力レベルに対して非常に大きいため、トリガ信号の立ち上がり及び立下りに含まれる高周波成分に起因したノイズが受光部の出力信号に重畳された場合に誤差の原因となる。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、受光部の出力信号に重畳されるノイズを好適に低減することが可能な情報処理装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項に記載の発明は、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を備える光学機器の前記受光部の出力信号を処理する情報処理装置であって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部を備える。
【0007】
請求項に記載の発明は、光学機器であって、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部と、を備える。
【0008】
また、請求項に記載の発明は、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を有する光学機器が実行する制御方法であって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定するノイズ推定工程を有する。
【0009】
また、請求項に記載の発明は、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を有する光学機器の前記受光部の出力信号を処理するコンピュータが実行するプログラムであって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部として前記コンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例に係るライダの全体構成を示す。
図2】トランスミッタ及びレシーバの構成を示す。
図3】走査光学部の構成を示す。
図4】同期制御部が生成する制御信号のレジスタ設定例を示す。
図5】同期制御部が生成する制御信号の時間的関係を示す。
図6】ADC出力信号とゲートの関係を示すグラフである。
図7】ロータリーエンコーダのパルス列の時間的関係を示す。
図8】定常状態でのエンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係を示す。
図9】パルストリガ信号と受信セグメント信号との関係を示す。
図10】吸収体の配置を概略的に示した図である。
図11】第1実施例においてDSPの行う信号処理のブロック図を示す。
図12】1つのセグメント期間内における基準受信パルス及びインパルス応答の波形を示す。
図13】フィルタードセグメントの例である。
図14】反射体の配置を概略的に示した図である。
図15】第2実施例においてDSPの行う信号処理のブロック図を示す。
図16】吸収体及び反射体の配置を概略的に示した図である。
図17】1セグメント期間内の受信セグメントにおける吸収体からの反射成分と、同期妨害成分と、反射体からの反射成分とをそれぞれ示す。
図18】第3実施例においてDSPの行う信号処理のブロック図を示す。
図19】同期妨害第2推定部が実行する信号処理のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態によれば、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を備える光学機器の前記受光部の出力信号を処理する情報処理装置であって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部を備える。
【0012】
上記情報処理装置は、照射方向を変えながら第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、吸収体と、受光部とを備える光学機器の受光部の出力信号を処理するものであって、推定部を備える。推定部は、レーザ光の照射方向が吸収体の配置された所定の照射方向であるときの受光部の出力信号に基づいて、第1の信号に起因するノイズ信号を推定する。この態様では、情報処理装置は、所定の照射方向に配置された吸収体を利用することで、受光部が受光する戻り光が発生しない又は戻り光の光量が極めて小さいときの受光部の出力信号を意図的に生成する。これにより、情報処理装置は、照射部がレーザ光を照射するタイミングを規定する第1の信号の高周波成分等に起因して受光部の出力信号に重畳されるノイズ信号を、的確に推定することができる。
【0013】
上記情報処理装置の一態様では、情報処理装置は、前記レーザ光の照射方向ごとの区間信号を前記出力信号から抽出する区間信号抽出部をさらに備え、前記推定部は、前記所定の照射方向に対応する少なくとも1つの区間信号に基づいて、前記ノイズ信号を推定する。この態様により、情報処理装置は、各区間信号に重畳される第1の信号に起因したノイズ信号を、吸収体が配置される照射方向に対応する区間信号に基づいて好適に推定することができる。
【0014】
上記情報処理装置の他の一態様では、情報処理装置は、前記受光部の出力信号から、前記推定部によって推定されたノイズ信号を減算する減算部をさらに備える。この態様により、情報処理装置は、第1の信号に起因したノイズ信号が除去された受光部の出力信号を好適に生成することができる。
【0015】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記吸収体は、多重反射構造を有する。この態様により、吸収体は好適に低反射率を実現することができるため、情報処理装置は、戻り光が発生しない又は戻り光の光量が低いときの受光部の出力信号を取得することができる。
【0016】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記推定部は、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの照射角度ごとの前記出力信号を平均化することで、前記ノイズ信号を推定する。この態様により、情報処理装置は、ノイズ信号を高精度に推定することができる。
【0017】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記推定部は、前記照射部が前記所定の照射方向に対して複数回走査したときにそれぞれ得られた前記出力信号を平均化することで、前記ノイズ信号を推定する。この態様により、情報処理装置は、吸収体が配置される照射方向の角度の大きさによらず、高精度なノイズ信号の推定値を好適に算出することができる。
【0018】
上記情報処理装置の他の一態様では、前記第1の信号は、パルス信号であり、前記照射部は、前記パルス信号に基づき、異なる照射方向ごとにパルス光を前記レーザ光として照射する。この態様では、情報処理装置は、照射部のレーザ光の照射タイミングを規定するパルス信号の立ち上がり及び立下りに含まれる高周波成分に起因したノイズ信号を好適に推定することができる。
【0019】
本発明の他の好適な実施形態では、光学機器は、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部と、を備える。この態様により、光学機器は、照射部がレーザ光を照射するタイミングを規定する第1の信号の高周波成分等に起因して受光部の出力信号に重畳されるノイズ信号を、的確に推定することができる。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態によれば、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を有する光学機器が実行する制御方法であって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定するノイズ推定工程を有する。光学機器は、この制御方法を実行することで、照射部がレーザ光を照射するタイミングを規定する第1の信号の高周波成分等に起因して受光部の出力信号に重畳されるノイズ信号を、的確に推定することができる。
【0021】
本発明の他の好適な実施形態によれば、照射方向を変えながら、第1の信号に応じてレーザ光を照射する照射部と、所定の照射方向に配置され、前記レーザ光を吸収する吸収体と、前記レーザ光の戻り光を受光する受光部と、を有する光学機器の前記受光部の出力信号を処理するコンピュータが実行するプログラムであって、前記レーザ光の照射方向が前記所定の照射方向であるときの前記出力信号に基づいて、前記第1の信号に起因するノイズ信号を推定する推定部として前記コンピュータを機能させる。コンピュータは、このプログラムを実行することで、照射部がレーザ光を照射するタイミングを規定する第1の信号の高周波成分等に起因して受光部の出力信号に重畳されるノイズ信号を、的確に推定することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0023】
<基本説明>
まず、実施例に係るライダの基本的な構成について説明する。
【0024】
(1)全体構成
図1は、実施例に係るライダの全体構成を示す。ライダ1は、繰り返し射出される光パルスの射出方向(以下、「走査方向」という。)を適切に制御することにより周辺空間を走査し、その戻り光を観測することにより、周辺に存在する物体に関する情報(例えば距離やその存在確率あるいは反射率など)を把握する。具体的に、ライダ1は、光パルス(以下、「射出光」と呼ぶ。)Loを射出し、外部の物体(ターゲット)により反射された光パルス(以下、「戻り光」と呼ぶ。)Lrを受光することにより、物体に関する情報を生成する。ライダ1は、本発明における「光学機器」の一例である。
【0025】
図1に示すように、ライダ1は、大別して、システムCPU5と、ASIC10と、トランスミッタ30と、レシーバ40と、走査光学部50とを備える。トランスミッタ30は、ASIC10から供給されるパルストリガ信号PTに応じて幅5nsec程度のレーザ光パルスを繰り返し出力する。トランスミッタ30から出力された光パルスは走査光学部50に導かれる。
【0026】
走査光学部50は、トランスミッタ30が出力する光パルスを、適切な方向に射出するとともに、この射出光が空間中の物体に出会って反射あるいは散乱されることにより戻ってきた戻り光Lrを集光してレシーバ40に導く。走査光学部50は、本発明における「照射部」の一例である。レシーバ40は、戻り光Lrの強度に比例した信号をASIC10に出力する。レシーバ40は、本発明における「受光部」の一例である。
【0027】
ASIC10は、レシーバ40の出力信号を解析することにより、走査空間中の物体に関するパラメータ、例えばその距離を推測して出力する。また、ASIC10は、適切な走査がなされるように、走査光学部50を制御する。更にASIC10はトランスミッタ30とレシーバ40に対して夫々が必要とする高電圧を供給する。
【0028】
システムCPU5は、少なくとも、通信インターフェースを通じてASIC10の初期設定、監視、制御を行う。その他の機能は、アプリケーションに応じて異なる。最も単純なライダの場合には、システムCPU5は、ASIC10が出力するターゲット情報TIを適切なフォーマットに変換して出力するのみである。システムCPU5は、例えば、ターゲット情報TIを汎用性の高い点群フォーマットに変換した後、USBインターフェースを通じて出力する。
【0029】
(2)トランスミッタ
トランスミッタ30は、ASIC10から供給されるパルストリガ信号PTに応じて、幅5nsec程度の光パルスを出力する。トランスミッタ30の構成を図2(A)に示す。トランスミッタ30は、充電抵抗31と、ドライバ回路32と、キャパシタ33と、充電ダイオード34と、レーザダイオード(LD)35と、CMOSスイッチ36とを備える。
【0030】
ASIC10から入力されるパルストリガ信号PTは、ドライバ回路32を介してCMOSなどのスイッチ36を駆動する。ドライバ回路32は、スイッチ36を高速駆動するために挿入されている。パルストリガ信号PTの非アサート期間ではスイッチ36は開いており、トランスミッタ30内のキャパシタ33がASIC10から供給される高電圧VTXで充電される。一方、パルストリガ信号PTのアサート期間では、スイッチ36は閉じ、キャパシタ33に充電されていた電荷がLD35を通じて放電される。この結果、LD35から光パルスが出力される。
【0031】
(3)レシーバ
レシーバ40は、物体からの戻り光Lrの強度に比例した電圧信号を出力する。一般的に、PDあるいはAPDなどの光検出素子は電流出力であるため、レシーバ40はこの電流を電圧に変換(I/V変換)して出力する。レシーバ40の構成を図2(B)に示す。レシーバ40は、APD(Avalanche Photodiode)41と、I/V変換部42と、抵抗45と、キャパシタ46と、ローパスフィルタ(LPF)47とを備える。I/V変換部42は、帰還抵抗43と、オペアンプ44とを備える。
【0032】
本実施例では、光検出素子としてAPD41が使用されている。APD41には、ASIC10から供給される高電圧VRXが逆バイアスとして印加されており、物体からの戻り光Lrに比例した検出電流が流れる。APD41の降伏電圧に近い逆バイアスを印加することにより、高いアバランチゲインを得ることができ、微弱な戻り光も検出することが可能となる。最終段のLPF47は、ASIC10内のADC20によるサンプリングに先立って、信号の帯域幅を制限する目的で設置されている。本実施例では、ADC20のサンプリング周波数は512MHzであり、LPF47の遮断周波数は250MHz程度となっている。
【0033】
(4)走査光学部
走査光学部50は、トランスミッタ30から入力される光パルスを射出光Loとして適切な方向に射出するとともに、この射出光Loが空間中の物体に出会って反射あるいは散乱されることにより戻ってきた戻り光Lrをレシーバ40に導く。走査光学部50の構成例を図3に示す。走査光学部50は、回転ミラー61と、コリメータレンズ62と、集光レンズ64と、光学フィルタ65と、同軸ミラー66と、ロータリーエンコーダ67とを備える。
【0034】
トランスミッタ30のLD35から出力された光パルスは、コリメータレンズ62に入射する。コリメータレンズ62は、レーザ光を適切な発散角度に(一般的には0~1°程度に)コリメートする。コリメータレンズ62からの射出光は小型の同軸ミラー66により鉛直下方に反射され、回転ミラー61の回転軸(中心)に入射する。回転ミラー61は、鉛直上方より入射するレーザ光を水平方向に反射して、走査空間に射出する。回転ミラー61はモータ54の回転部に取り付けられており、回転ミラー61によって反射されたレーザ光はモータ54の回転に伴って射出光Loとして水平平面を走査する。
【0035】
走査空間に存在する物体により反射あるいは散乱されることでライダ1に戻ってきた戻り光Lrは、回転ミラー61により鉛直上方向に反射され、光学フィルタ65に入射する。光学フィルタ65には、戻り光Lrに加えて、物体が太陽等により照らされていることによって生じる背景光も入射する。光学フィルタ65は、こうした背景光を選択的に排除するために設置されている。具体的には、光学フィルタ65は、射出光Loの波長(本実施例では905nm)の前後±10nm程度の成分のみを選択的に通過せしめる。光学フィルタ65の通過帯域が広い場合には、多くの背景光が後続段のレシーバ40に入光することになる。この結果、レシーバ40内のAPD41の出力には大きなDC電流成分が現れることとなり、このDC成分に起因するショット雑音(背景光ショット雑音)の影響によりSNが劣化することとなり、好ましくない。しかしながら、通過帯域が過度に狭い場合には、射出光自体も抑圧されることになり、好ましくない。集光レンズ64は、光学フィルタ65を通過した光を集光して、レシーバ40のAPD41へと導く。
【0036】
モータ54には、走査方向を検出するために、ロータリーエンコーダ67が取り付けられている。ロータリーエンコーダ67は、モータ回転部に取り付けられた回転盤68と、モータベースに取り付けられたコード検出器69とを備える。回転盤68の外周にはモータ54の回転角度を表すスリットが刻まれており、コード検出器69はこれを読み取り出力する。なお、ロータリーエンコーダ67の具体的仕様、及びその出力に基づくモータ制御については、後述する。
【0037】
以上の構成では、コリメータレンズ62が図1に示す送信光学系51を構成し、回転ミラー61とモータ54が図1に示す走査部55を構成し、光学フィルタ65と集光レンズ64が図1に示す受信光学系52を構成し、ロータリーエンコーダ67が図1における走査方向検出部53を構成している。
【0038】
(5)ASIC
ASIC10は、射出光パルスのタイミング制御、APD出力信号のAD変換などを行う。また、ASIC10は、AD変換出力に対して適切な信号処理を施すことにより、物体に関するパラメータ(距離、戻り光強度など)の推定を行い、その推定結果を外部に出力する。図1に示すように、ASIC10は、レジスタ部11と、クロック生成部12と、同期制御部13と、ゲート抽出部14と、受信セグメントメモリ15と、DSP16と、トランスミッタ用高電圧生成部(TXHV)17と、レシーバ用高電圧生成部(RXHV)18と、プリアンプ19と、AD変換器(ADC)20と、走査制御部21とを備える。
【0039】
レジスタ部11には、外部プロセッサであるシステムCPU5との通信用のレジスタが配置されている。レジスタ部11に設けられるレジスタは、外部からの参照のみが可能なRレジスタと、外部から設定が可能なWレジスタとに大別される。Rレジスタは、主にASIC内部のステイタス値を保持しており、システムCPU5はこれらの値を通信インターフェースを通じて読み取ることで、ASIC10の内部ステイタスを監視できる。一方、Wレジスタは、ASIC10の内部で参照される各種パラメータ値を保持する。これらの各種パラメータ値は、通信インターフェースを通じてシステムCPU5から設定できる。なお、通信用レジスタは、フリップフロップにより実現してもよく、RAMとして実現してもよい。
【0040】
クロック生成部12は、システムクロックSCKを生成し、ASIC10内の各ブロックに供給する。ASIC10の多くのブロックは、システムクロックSCKに同期して動作する。本実施例ではシステムクロックSCKの周波数は512MHzとする。システムクロックSCKは、外部より入力されるリファレンスクロックRCKに同期するように、PLLで生成される。通常、リファレンスクロックRCKの発生源には水晶発振器が用いられる。
【0041】
TXHV17は、トランスミッタ30が必要とするDC高電圧(100V程度)を生成する。この高電圧は、DCDCコンバータ回路によって、低電圧(5V~15V程度)を昇圧することによって生成される。
【0042】
RXHV18は、レシーバ40が必要とするDC高電圧(100V程度)を生成する。この高電圧は、DCDCコンバータ回路によって、低電圧(5V~15V程度)を昇圧することによって生成される。
【0043】
同期制御部13は、各種の制御信号を生成し出力する。本実施例における同期制御部13は、2つの制御信号、即ち、パルストリガ信号PTとADゲート信号GTを出力する。これらの制御信号の設定例を図4に示し、それらの時間的関係を図5に示す。図5に示すように、これらの制御信号は所定の間隔で分割された時間区間(セグメントスロット)に同期して生成される。セグメントスロットの時間区間幅(セグメント周期)は「nSeg」で設定可能である。本実施例では、特記ない範囲において、「nSeg=8192」に設定されているものとする。
【0044】
パルストリガ信号PTは、ASIC10の外部に設けられたトランスミッタ30に供給される。トランスミッタ30は、パルストリガ信号PTに応じて光パルスを出力する。パルストリガ信号PTについては、セグメントスロット始点に対する遅延「dTrg」とパルス幅「wTrg」を設定可能である。なお、パルス幅wTrgは、狭すぎるとトランスミッタ30が反応しないため、トランスミッタ30のトリガ応答仕様に鑑みて決定される。
【0045】
ADゲート信号GTは、ゲート抽出部14に供給される。後述するように、ゲート抽出部14は、ADC20から入力されるADC出力信号のうち、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出して受信セグメントメモリ15に格納する。ADゲート信号GTについては、セグメントスロット始点に対する遅延時間「dGate」とゲート幅「wGate」を設定可能である。
【0046】
プリアンプ19は、ASIC10の外部に設置されたレシーバ40から入力されるアナログ電圧信号を電圧増幅し、後続のADC20に供給する。なお、プリアンプ19の電圧ゲインはWレジスタにより設定可能である。
【0047】
ADC20は、プリアンプ19の出力信号をAD変換してデジタル系列に変換する。本実施例においては、ADC20のサンプリングクロックとしてシステムクロックSCKが使用されており、ADC20の入力信号は512MHzでサンプリングされる。
【0048】
ゲート抽出部14は、ADC20から入力されるADC出力信号のうち、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出して受信セグメントメモリ15に格納する。ゲート抽出部14により抽出された区間信号を以下「受信セグメント信号RS」と呼ぶ。即ち、受信セグメント信号RSは、ベクター長がゲート幅wGateに等しい実数ベクトルである。ゲート抽出部14は、本発明における「区間信号抽出部」の一例である。
【0049】
ここで、ADC出力信号と受信セグメントとの関係、及びゲート位置の設定について説明する。図6(A)はセグメントスロットを示している。図6(B)に示すように、パルストリガ信号PTはセグメントスロット始点に対してdTrgだけ遅れてアサートされる。図6の例ではdTrg=0であるので、パルストリガ信号PTはセグメントスロット始点でアサートされる。図6(C)は、ライダの走査原点に物体が置かれている場合のADC出力信号(受信セグメント信号RS)を示している。即ち、図6(C)は、ターゲット距離(動径R)が0mの場合の受信セグメント信号RSを例示している。図示のように、R=0mの場合であっても、受信パルスの立ち上がりは、パルストリガ信号の立ち上がりよりシステム遅延DSYSだけ遅れて観測される。なお、システム遅延DSYSの発生要因としては、トランスミッタ30内のLDドライバ回路の電気的遅延、送信光学系51での光学的遅延、受信光学系52での光学的遅延、レシーバ40での電気的遅延、ADC20での変換遅延などが考えられる。
【0050】
図6(D)は、物体が動径Rに置かれている場合の受信セグメント信号RSを例示している。この場合には、図6(C)と比べて、走査原点から物体までの光の往復時間だけ、遅延が増加することになる。この増加した遅延が、いわゆる「TOF(Time Of Flight)遅延」である。このTOF遅延をDサンプルとするならば、動径Rは下記の式で算出できる。
【0051】
【数1】
図6(F)は、dGate=0の場合のADゲート信号GTを例示するものである。前述したとおり、ゲート抽出部14は、ADC出力信号から、ADゲート信号GTのアサート区間のみを抽出する。後述するDSP16は、この抽出区間のみに基づいて、物体に関するパラメータ推定を行う。したがって、TOF遅延時間が大きい場合には、物体からの戻りパルス成分がゲートからはみ出してしまい正当なパラメータ推定が行えない。正当なパラメータ推定が行われるためにはTOF遅延時間Dが次式を満たしていることが必要となる。
【0052】
【数2】
ここでLIRはシステムの総合インパルス応答の長さであり、DMAXは正当なパラメータ推定が可能な最大TOF遅延時間として定義される。図6(E)は、TOF遅延時間がこの最大TOF遅延時間に等しい場合の受信セグメント信号RSを例示している。
【0053】
なお、図6の例に代えて、ゲート遅延dGateがシステム遅延時間に等しく設定されてもよい。このように設定することで、より遠い距離の物体まで、正当なパラメータ推定が可能となる。
【0054】
走査制御部21は、ASIC10の外部に設置されたロータリーエンコーダ67の出力を監視し、これに基づいてモータ54の回転を制御する。具体的には、走査制御部21は、走査光学部50のロータリーエンコーダ67(走査方向検出部53)から出力される走査方向情報SDIに基づいて、トルク制御信号TCをモータ54に供給する。本実施例におけるロータリーエンコーダ67は、A相とZ相の2つのパルス列(以下、「エンコーダパルス」と呼ぶ。)を出力する。両パルス列の時間関係を図7(A)に示す。図示のように、A相については、モータ54の回転1°毎に1パルスが生成出力される。従って、モータ54の1回転毎に360のA相エンコーダパルスが生成出力されることになる。一方、Z相については、モータ54の1回転につき1パルスが、所定の回転角に対応して、生成出力される。
【0055】
走査制御部21は、エンコーダパルスの立ち上がり時刻をシステムクロックSCKのカウンタ値として計測し、これが所望の値となるようにモータ54のトルクを制御する。即ち、走査制御部21は、エンコーダパルスとセグメントスロットが所望の時間関係となるようにモータ54をPLL制御する。
【0056】
エンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係は、図7(B)に示されるWレジスタによって設定可能となっている。「nPpr」には、モータ回転毎のA相エンコーダパルス数が設定される。これは、ロータリーエンコーダ67の仕様で決まる値であり、本実施例では前述の360が設定される。「nRpf」はフレーム毎の回転数を与えるものであり、「nSpf」はフレーム毎のセグメント数を与えるものである。また、「dSmpA」、「dSmpZ」は、エンコーダパルスの立ち上がりとセグメントスロットとの時間関係をサンプルクロック単位で調整するために用意されており、エンコーダパルスのセグメントスロット始点に対する遅延を規定することができる。一方、「dSegZ」は、Z相パルスの立ち上がりとフレームとの時間関係をセグメント単位で調整するために用意されている。
【0057】
定常状態でのエンコーダパルスとセグメントスロットの時間関係を図8に示す。図示のように、デフォルト設定においては、1フレームは1800のセグメントから構成され、1フレームでモータ54は1回転することになる。
【0058】
(6)DSP
DSP16は、受信セグメントメモリ15から受信セグメントyfrm,segを順次的に読み出して、これに対して処理を行う。ここで、「frm」はフレームインデックス、「seg」はセグメントインデックスである。以下、誤解の恐れのない範囲でこれらインデックスの表記を省略する。受信セグメントyはベクター長wGateの実数ベクトルであり、次式で表される。
【0059】
【数3】
DSP16の詳細な構成については、第1~第3実施例で説明する。DSP16は、本発明における「情報処理装置」の一例である。
【0060】
ここで、受信セグメントy(即ち受信セグメント信号RS)には、電磁的飛びつきやグランドに流れる電流の影響等に起因して、セグメント周期に同期した妨害(単に「同期妨害」とも呼ぶ。)が重畳される。図9は、パルストリガ信号PTと受信セグメント信号RSとの関係を示す。図9の例では、パルストリガ信号PTのアサートにより射出される射出光Loに対してAPD41が受光する戻り光Lrの強度が仮に0である場合の受信セグメント信号RSを示している。
【0061】
図9の例では、パルストリガ信号PTの立ち上がり及び立下りに含まれる高周波成分が受信セグメント信号RSに重畳されている。ここで、パルストリガ信号PTのTTLレベルは通常3.3V又は5Vであり、APD41が出力する電流レベルはnA又はpAのオーダーとなる。従って、この場合、APD41の出力に対する同期妨害の影響が相対的に大きいため、同期妨害がライダ1の物体検出性能や測距性能の低下の原因となり得る。以上を勘案し、以下に述べる第1及び第3実施例では、DSP16は、同期妨害を推定することで、同期妨害の影響を好適に低減する。なお、パルストリガ信号PTは本発明における「第1の信号」の一例であり、同期妨害は本発明における「ノイズ信号」の一例である。
【0062】
<第1実施例>
まず、第1実施例について説明する。概略的には、ライダ1は、特定の走査方向の射出光Loを吸収する吸収体を備え、DSP16は、当該吸収体に入射する走査方向に対応する受信セグメントyを平均化することで、同期妨害を推定する。そして、DSP16は、推定した同期妨害を受信セグメントyから減算する。これにより、同期妨害の影響を好適に低減させる。
【0063】
図10(A)は、吸収体7の配置を概略的に示した図である。図10(A)では、吸収体7は、走査部55等を収容する略円筒状のライダ1の筺体25付近に配置されている。ここで、吸収体7は、走査部55により走査される360度の射出光Loの照射方向のうち、ライダ1が対象物を検出する対象とする方向以外の方向である検出対象外方向(矢印A1参照)に設けられている。図10(A)の例では、吸収体7は、角度「θa」(例えば60度)分の射出光Loが照射されるライダ1の後方の筺体25の壁面に存在している。この場合、吸収体7は、例えば、射出光Lo及び戻り光Lrを透過させる筺体25の透明カバーの内側に設けられる。他の例では、吸収体7は、上述の筺体25の透明カバーのうち射出光Loを吸収するように加工(例えば黒塗り)された部分であってもよい。以後では、走査部55による1回分の走査が行われる期間(即ち1つのフレーム期間)内において、吸収体7に照射された射出光LoをAPD41が受光する期間を「反射抑制期間Ttag1」とも呼ぶ。反射抑制期間Ttag1は、吸収体7に射出光Loが照射される各走査角度に対応する複数のセグメント期間を含む。吸収体7に射出光Loが照射される走査角度に関する情報(例えばセグメントインデックス等)は、DSP16が参照できるようにWレジスタ等に予め記憶される。
【0064】
図10(B)は、図10(A)の例において、吸収体7が配置される方向に射出光Loが射出された状態を示す。吸収体7は、射出光Loが入射した場合、射出光Loの少なくとも一部を吸収することで、後述する同期妨害の推定に影響を与えない反射率、即ち同期妨害のレベルに対して十分に小さいレベルのAPD41の出力信号を発生させる反射率(例えば0.1%)を実現する。この場合、吸収体7で反射された射出光Loである戻り光Lrは、APD41が検知する同期妨害の出力レベルに対して十分に小さい強度となって走査部55に到達する。なお、吸収体7が射出光Loを完全に吸収する素材である場合には、戻り光Lrは発生しない。
【0065】
ここで、吸収体7は、例えば、非常に低い反射率の素材により射出光Loの反射面が形成される。他の例では、吸収体7は、多重反射構造を有し、各反射構造の内面(反射面)がそれぞれ低反射率となるビームダンパ等であってもよい。
【0066】
図11は、第1実施例においてDSP16が実行する信号処理のブロック図を示す。図11に示すように、第1実施例に係るDSP16は、同期妨害推定部71と、減算器72と、受信フィルタ73と、ピーク検出部74と、判定部75と、フォーマッタ76とを備える。DSP16は、受信セグメントメモリ15から受信セグメントyを順次的に読み出して、これに対して処理を行う。
【0067】
同期妨害推定部71は、反射抑制期間Ttag1内に生成された受信セグメントyを平均化し、平均化された受信セグメントyを、推定された同期妨害(「推定同期妨害w」とも呼ぶ。)として減算器72に供給する。同期妨害推定部71の詳細については後述する。減算器72は、受信セグメントyから、同期妨害推定部71から供給される推定同期妨害wを減算し、推定同期妨害wが減算された受信セグメントy(「補正受信セグメントydash」とも呼ぶ。)を受信フィルタ73へ供給する。同期妨害推定部71は本発明における「推定部」の一例であり、減算器72は本発明における「減算部」の一例である。
【0068】
受信フィルタ73は、補正受信セグメントydashに対して、所定のインパルス応答「h」を畳み込んで(巡回畳みこみ)、フィルタードセグメント「z」を算出する。ピーク検出部74は、フィルタードセグメントz内で振幅が最大となる点、即ちピーク点を検出し、当該ピーク点の遅延「D」と振幅「A」を出力する。判定部75は、振幅Aが所定の閾値「tDet」より大きい点のみを選択的にフォーマッタ76に送る。フォーマッタ76は、遅延Dと振幅A、及び当該セグメントのフレームインデックスfrm、セグメントインデックスsegを、適切なフォーマットに変換し、ターゲット情報TIとしてシステムCPU5に出力する。
【0069】
以下、各ブロックについて詳しく説明する。
【0070】
同期妨害推定部71は、スイッチ77と、平均化処理部78とを含む。スイッチ77は、反射抑制期間Ttag1内のみオンとなるように制御されたスイッチであり、反射抑制期間Ttag1内に生成された受信セグメントyを平均化処理部78に供給する。なお、スイッチ77は、反射抑制期間Ttag1の全ての期間でオンとなる必要はなく、反射抑制期間Ttag1の一部の期間においてオンとなるように設定されてもよい。
【0071】
平均化処理部78は、スイッチ77がオンとなる期間に供給された受信セグメントyを平均化し、平均化された受信セグメントyを、推定同期妨害wとして減算器72に供給する。推定同期妨害wは、ベクター長wGateの実数ベクトルである。この場合、例えば、平均化処理部78は、 1つのフレーム期間内にスイッチ77から順次供給される受信セグメントyを積算し、積算した受信セグメントyを積算した受信セグメントyの数により除算することで平均化した受信セグメントyを、推定同期妨害wとして算出する。他の例では、平均化処理部78は、1つのフレーム期間内に算出した受信セグメントyの平均をさらにIIRフィルタ等によりフレーム方向に(即ち異なるフレームインデックス間で)平均化したものを、推定同期妨害wとして算出する。
【0072】
受信フィルタ73は、補正受信セグメントydashに対して、インパルス応答hを畳み込んでフィルタードセグメントzを算出する。受信フィルタ部73のインパルス応答hは、Wレジスタで設定可能であり、例えばフィルタ出力でのSNRが大きくなるように予めシステムCPU5によって設定される。例えば、インパルス応答hは、次式を満たすように設定される。このように設定することで、雑音が白色である場合で、かつシステム総合インパルス応答がwGateに対して有意に短い場合には、オプティマルな性能(高SNR)を実現できる。
【0073】
【数4】
上式(「関係式A」とも呼ぶ。)において、基準受信パルス「g」は走査原点(R=0m)に物体を置いた場合に観測される受信セグメント波形であり、トランスミッタ30とレシーバ40を含むシステム全体の総合インパルス応答を代表している。実際に走査原点に物体を置くことが困難な場合には、例えば「R=1m」での受信セグメント波形を観測し、これを数学的に時間シフトすることで、等価的に基準受信パルスを測定すれば良い。
【0074】
図12(A)は、1つのセグメント期間内における基準受信パルスg及びインパルス応答hの波形を示す。図12(A)に示すように、基準受信パルスgとインパルス応答hとは、上式に規定されるように、セグメント期間内で時間反転された関係となる。図12(B)は、走査原点(R=0m)に物体を置いた場合に観測される補正受信セグメントydash及びフィルタードセグメントzの波形を示し、図12(C)は、「R=10m」の場合に観測される補正受信セグメントydash及びフィルタードセグメントzの波形を示す。受信フィルタ73は、補正受信セグメントydashに対してインパルス応答hを畳み込むことで、雑音除去のフィルタリングを行うと共に、図12(B)、(C)に示すように、システム遅延DSYS図6(C)参照)分だけ位相を調整している。
【0075】
なお、受信フィルタ71の巡回畳み込み演算は、DFTを用いて周波数領域で実現されてもよい。こうすることで、演算量を大幅に削減できる。この場合、インパルス応答hをWレジスタで設定可能とする代わりに、インパルス応答hを予めDFT演算して周波数応答Hを求めて、周波数応答Hを設定可能にしておくとよい。
【0076】
ピーク検出部74は、フィルタードセグメント内で振幅が最大となる点、即ち、ピーク点をサブサンプル精度で検出し、当該ピーク点の遅延Dと振幅Aを出力する。図13に、「R=10m」の場合のフィルタードセグメントを例示する。図中の曲線が標本化する前の連続時間波形を表しており、丸点が標本点を示している。ピーク検出部74は、標本化系列に基づいて連続時間系でのピーク位置を算出する。図13の例ではフィルタードセグメント{z:k=0,1,・・・,wGate-1}上でサンプル単位でのピーク位置は「k=34」である。一方、連続時間波形での、即ち、サブサンプル精度でのピーク位置は、
D=R・Fsmp/(c/2)=34.157
である。ピーク検出部74は、このサブサンプル精度でのピーク点について、その遅延Dと、その振幅Aを推定算出する。
【0077】
サブサンプル精度でのピーク点検出処理には、各種のアルゴリズムが適用可能である。以下にその一例を示す。
(手順1)振幅が最大であるサンプル点(図13ではP点)を求める。
(手順2)手順1で求めた点(P点)、及びその前後の点(A点、B点)について、これら3点を通る二次曲線を求める。
(手順3)手順2で求めた二次曲線の極大点として遅延D、振幅Aを求める。
【0078】
判定部75は、ピーク検出部74から出力されるピーク点情報D,A(遅延D,振幅A)に基づいて、当該検出点に物体が存在するか否かの判定を行う。この判定は、ピーク点の振幅Aと判定閾値「tDec」とを比較することによって行われる。具体的には、判定部75は、A>tDecの場合に「物体が存在する」と判定し、当該ピーク点情報を出力する。一方、判定部75は、A≦tDecの場合は「物体が存在しない」と判定し、当該ピーク点情報を出力しない。
【0079】
フォーマッタ76は、判定部75から出力されるピーク点情報D,Aと当該ピーク点に対応する走査情報(フレームインデックスfrm、セグメントインデックスseg)をユーザー(上位システム)が使いやすい形式に変換する。本実施例におけるフォーマッタ76は、以下のフォーマット変換を行う。
(1)フレームインデックスfrmは、そのまま出力する。
(2)セグメントインデックスsegは、水平走査角度θに変換して出力する。
(3)遅延Dは、動径(距離)Rに変換して出力する(R=D(c/2)/Fsmp)。
(4)振幅Aは、そのまま出力する。
(5)振幅A、動径Rから反射率Uを算出して出力する(U=A/Ψ(R))。
【0080】
ここで、反射率Uを算出するための関数「Ψ(R)」は反射率変換テーブルであり、外部CPUから設定可能である。同テーブルを、動径Rに設置された反射率100%のランバート拡散体から得られるピーク振幅の期待値に設定しておくことで、誤差の少ない反射率推定が可能となる。
【0081】
以上説明したように、第1実施例に係るライダ1は、照射方向を変えながら、パルストリガ信号PTに応じて射出光Loを照射する走査部55と、所定の照射方向に配置され、射出光Loを吸収する吸収体7と、射出光Loの戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、射出光Loの照射方向が吸収体7に照射される方向であるときのAPD41の出力信号に基づいて、パルストリガ信号PT等に起因するノイズ信号である推定同期妨害wを算出する同期妨害推定部71を備える。これにより、ライダ1は、同期妨害に起因した物体検出性能や測距性能の劣化を好適に抑制することができる。
【0082】
<第2実施例>
次に、第2実施例について説明する。第2実施例に係るライダ1は、吸収体7に代えて、反射体を備える。そして、DSP16は、反射体で反射された戻り光Lrに対する受信セグメントyを平均化することで、基準受信パルスgを推定する。以後では、第1実施例と同様の要素については適宜同一の要素を付し、その説明を省略する。
【0083】
まず、基準受信パルスgを推定することの効果について説明する。基準受信パルスgを特定既知として予め測定してWレジスタに記憶させた基準受信パルスgを用いる場合、個体差や経年変化等に基づく誤差の影響が生じ、結果として物体検出性能や測距性能が低下するという問題がある。具体的には、ライダ1の開発工程で基準受信パルスgの測定を実行する場合には、LD35の送信パルス形状や時間遅延に対する個体差やレシーバ40の個体差等に対応できないという問題がある。一方、ライダ1の製造工程で基準受信パルスgの測定を実行する場合であっても、上述の送信パルス形状等の経年変化や温度等の周囲環境に起因した変化に対応できないという問題がある。以上を勘案し、第2実施例に係るDSP16は、現在のライダ1の状態や周辺環境等に適した基準受信パルスgを推定することで、物体検出性能や測距性能の低下を好適に抑制する。
【0084】
図14(A)は、反射体8の配置を概略的に示した図である。図14(A)では、反射体8は、走査部55等を収容する略円筒状のライダ1の筺体25付近に配置されている。ここで、反射体8は、走査部55により走査される360度の射出光Loの照射方向のうち、ライダ1が対象物を検出する対象とする方向以外の方向である検出対象外方向(矢印A1参照)に設けられている。図14(A)の例では、反射体8は、角度「θb」(例えば60度)分の射出光Loが照射されるライダ1の後方の筺体25の壁面に存在している。この場合、反射体8は、例えば、射出光Lo及び戻り光Lrを透過させる筺体25の透明カバーの内側に設けられる。他の例では、反射体8は、上述の筺体25の透明カバーのうち射出光Loを反射するように加工された部分であってもよい。以後では、走査部55による1回分の走査が行われる期間(即ち1つのフレーム期間)内において、反射体8に照射された射出光LoをAPD41が受光する期間を「基準反射期間Ttag2」とも呼ぶ。基準反射期間Ttag2は、反射体8に射出光Loが照射される各走査角度に対応する複数のセグメント期間を含む。反射体8に射出光Loが照射される走査角度に関する情報(例えばセグメントインデックス等)は、DSP16が参照できるようにWレジスタ等に予め記憶される。
【0085】
図14(B)は、図14(A)の例において、反射体8が配置される方向に射出光Loが射出された状態を示す、反射体8は、射出光Loが入射した場合、所定の反射率により射出光Loを戻り光Lrとして反射させて戻り光Lrを走査部55に到達させる。ここで、反射体8の反射率は、反射体8で反射された戻り光LrがAPD41に入射した場合に、ADC20に入力されるアナログ電圧信号のレベルがADC20の入力ダイナミックレンジ内に収まる(即ち、雑音に対して小さすぎず、かつ、飽和状態が発生しない)反射率の範囲となる。言い換えると、反射体8の反射率は、反射体8によって反射された戻り光LrをAPD41が受光したときにADC20に入力される信号が、ノイズに対して識別可能な値であって、かつ、ADC20において飽和しない値となるような反射率である。反射体8がこのような反射率を有することで、DSP16は、的確に基準受信パルスgの推定を行うことが可能である。
【0086】
図15は、第2実施例においてDSP16が実行する信号処理のブロック図を示す。図15に示すように、第2実施例に係るDSP16は、基準受信パルス推定部80と、マッチドフィルタ81と、ピーク検出部74と、判定部75と、フォーマッタ76とを備える。DSP16は、受信セグメントメモリ15から受信セグメントyを順次的に読み出して、これに対して処理を行う。
【0087】
基準受信パルス推定部80は、基準反射期間Ttag2内に生成された受信セグメントyを平均化し、平均化された受信セグメントyを、基準受信パルスgとしてマッチドフィルタ81へ供給する。基準受信パルス推定部80は、スイッチ77Aと、平均化処理部78Aとを有する。
【0088】
スイッチ77Aは、基準反射期間Ttag2内のみオンとなるように制御されたスイッチであり、基準反射期間Ttag2内に生成された受信セグメントyを平均化処理部78Aに供給する。なお、スイッチ77Aは、基準反射期間Ttag2の全ての期間でオンとなる必要はなく、基準反射期間Ttag2の一部の期間においてオンとなるように設定されてもよい。
【0089】
平均化処理部78Aは、スイッチ77Aがオンとなる期間に供給された受信セグメントyを平均化し、平均化された受信セグメントyを、推定された基準受信パルスgとしてマッチドフィルタ81へ供給する。この場合、例えば、平均化処理部78Aは、1つのフレーム期間内にスイッチ77Aから順次供給される受信セグメントyを積算し、積算した受信セグメントyを積算した受信セグメントyの数により除算することで平均化した受信セグメントyを、推定された基準受信パルスgとして算出する。他の例では、平均化処理部78Aは、1つのフレーム期間内に算出した受信セグメントyの平均をさらにIIRフィルタ等によりフレーム方向に(即ち異なるフレームインデックス間で)平均化したものを
、推定された基準受信パルスgとして算出する。
【0090】
マッチドフィルタ81は、受信フィルタ73Aと、時間反転部79とを含む。時間反転部79は、上述した関係式Aに基づき、基準受信パルスgからインパルス応答hを生成する。この場合、基準受信パルスgとインパルス応答hとは、図12(A)に示したように、セグメント期間内で時間反転させた関係となる。受信フィルタ73Aは、受信セグメントyに対して、時間反転部79が出力するインパルス応答hを畳み込んでフィルタードセグメントzを算出する。この場合、受信フィルタ73Aに供給されるインパルス応答hは、現在のライダ1の状態や周辺環境等に即した基準受信パルスgから生成されている。よって、受信フィルタ73Aは、送信パルス形状等の経年変化や温度等の周囲環境に起因した変化によらず、雑音や時間遅延等を的確に補正したフィルタードセグメントzをピーク検出部74に出力することができる。
【0091】
ピーク検出部74は、フィルタードセグメントz内で振幅が最大となるピーク点を検出し、当該ピーク点の遅延Dと振幅Aを出力する。判定部75は、振幅Aが閾値tDetより大きい点のみを選択的にフォーマッタ76に送る。フォーマッタ76は、遅延Dと振幅A、及び当該セグメントのフレームインデックスfrm、セグメントインデックスsegを、適切なフォーマットに変換し、ターゲット情報TIとしてシステムCPU5に出力する。
【0092】
以上説明したように、第2実施例に係るライダ1は、照射方向を変えながら射出光Loを照射する走査部55と、所定の照射方向に配置され、射出光Loを反射する反射体8と、対象物にて反射された射出光Loの戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、反射体8によって反射された戻り光LrをAPD41が受光したときのAPD41の出力信号に基づいて、マッチドフィルタ81によって利用される基準受信パルスgを推定する基準受信パルス推定部80を備える。これにより、ライダ1は、送信パルス形状等の経年変化や温度等の周囲環境の変化に対応した基準受信パルスgを好適に推定して高SNRを実現することができる。
【0093】
<第3実施例>
次に、第3実施例について説明する。第3実施例では、DSP16は、第1実施例で説明した推定同期妨害wの算出処理と、第2実施例で説明した基準受信パルスgの推定処理との両方を実行する。この場合、DSP16は、吸収体7での反射率が理想値(即ち実質0%)でない場合を想定し、吸収体7により反射された戻り光Lrの影響を排除する処理を実行する。これにより、DSP16は、受信セグメントyに影響を与える吸収体7からの戻り光Lrが発生する場合であっても、推定同期妨害w及び基準受信パルスgを的確に推定する。
【0094】
まず、吸収体7及び反射体8の配置例について説明する。図16(A)は、吸収体7及び反射体8の配置を概略的に示した図である。
【0095】
図16(A)では、吸収体7及び反射体8は、略円筒状のライダ1の筺体25付近に配置されている。この場合、走査部55に対する吸収体7の距離と、走査部55に対する反射体8の距離とは略等距離となっている。さらに、吸収体7及び反射体8は、第1及び第2実施例と同様、走査部55により走査される360度の射出光Loの照射方向のうち、ライダ1が対象物を検出する対象とする方向以外の検出対象外方向(矢印A1参照)にそれぞれ設けられている。なお、図16(A)では、吸収体7と反射体8とは隣接して設けられているが、これに限らず所定間隔だけ離れて設けられてもよい。
【0096】
次に、吸収体7により反射された戻り光Lrの影響について説明する。図16(B)は、図16(A)の例において、吸収体7が配置される方向に射出光Loが射出された状態を示す。
【0097】
図16(B)の場合、理想的には、吸収体7の反射率が実質的に0となり、APD41が受光する戻り光Lrの強度が実質的に0になることが望ましい。しかし、実際には、そのような反射率を有する吸収体7を用意するのが困難であったり、仮にそのような反射率を有する吸収体7を設けた場合であっても、経年変化等に起因して徐々に反射率が理想値から乖離してしまったりすることが考えられる。この場合には、無視できない程度の光量を有する吸収体7からの戻り光Lrが走査部55に到達し、受信セグメントyに影響を与えることになる。
【0098】
図17(A)~(C)は、それぞれ、受信セグメントyに重畳される吸収体7からの反射成分と、同期妨害成分と、反射体8からの反射成分とをそれぞれ示す。ここで、反射抑制期間Ttag1では、受信セグメントyの波形は、図17(A)に示す吸収体7からの反射成分と図17(B)に示す同期妨害成分との和(より詳細にはランダム雑音も加わる)に相当する。よって、第1実施例で説明した同期妨害推定部71による推定同期妨害wの算出方法では、推定同期妨害wに図17(B)に示す同期妨害成分に加えて、図17(A)に示す吸収体7からの反射成分が含まれることになり、的確に同期妨害成分の推定ができなくなる。
【0099】
一方、吸収体7と反射体8は、それぞれ走査部55に対して略等距離に配置されていることから、図17(A)、(C)に示すように、吸収体7からの反射成分のピーク位置と、反射体8からの反射成分のピーク位置とはほぼ等しい。以上を勘案し、DSP16は、後述するように、反射抑制期間Ttag1で得られる受信セグメントy(即ち吸収体7からの反射成分が重畳された推定同期妨害w)に対し、図17(C)に示す反射体8からの反射成分との相関を算出することで、図17(A)に示す吸収体7からの反射成分のレプリカを好適に生成し、反射成分が重畳された推定同期妨害から反射成分のレプリカを減算することで好適に同期妨害のみを推定する。
【0100】
図18は、第3実施例においてDSP16が実行する信号処理のブロック図を示す。図18に示すように、第3実施例に係るDSP16は、同期妨害第1推定部71Xと、同期妨害第2推定部71Yと、減算器72と、基準受信パルス推定部80Aと、マッチドフィルタ81Aと、ピーク検出部74と、判定部75と、フォーマッタ76とを備える。DSP16は、受信セグメントメモリ15から受信セグメントyを順次的に読み出して、これに対して処理を行う。
【0101】
同期妨害第1推定部71Xは、第1実施例の同期妨害推定部71と同様の処理を実行することで、反射抑制期間Ttag1内の受信セグメントyから第1実施例の推定同期妨害wに相当する補正前推定同期妨害「v」を生成する。具体的には、同期妨害第1推定部71Xは、反射抑制期間Ttag1のみオンとなるスイッチを有し、反射抑制期間Ttag1での受信セグメントyを抽出する。そして、同期妨害第1推定部71Xは、抽出した反射抑制期間Ttag1での受信セグメントyを第1実施例の平均化処理部78と同様の平均化処理を実行することで、ベクター長wGateの実数ベクトルである補正前推定同期妨害vを生成する。
【0102】
同期妨害第2推定部71Yは、反射抑制期間Ttag1の終了時点において、後述する基準受信パルス推定部80Aが推定した基準受信パルスg及び同期妨害第1推定部71Xが算出した補正前推定同期妨害vに基づき、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分を補正前推定同期妨害vから除去した推定同期妨害wを算出する。同期妨害第2推定部71Yのブロック構成例については後述する。なお、同期妨害第2推定部71Yが推定同期妨害wを算出するまでの期間では、同期妨害第2推定部71Yは、補正前推定同期妨害vを推定同期妨害wとして減算器72に供給する。
【0103】
減算器72は、第1実施例と同様に、受信セグメントyから推定同期妨害wを減算し、補正受信セグメントydashを基準受信パルス推定部80A及びマッチドフィルタ81Aにそれぞれ供給する。この場合、補正受信セグメントydashは、図17(B)に示す同期妨害成分が減算器72により減算されている。なお、図17(A)に示す吸収体7からの反射成分を含んだ補正前推定同期妨害vが推定同期妨害wとして減算器72に入力される期間では、減算器72は、後述するように、図17(B)に示す同期妨害成分に加えて、図17(A)に示す吸収体7の反射成分の減算を行うことになる。その結果、補正受信セグメントydashは、図17(A)に示す吸収体7の反射成分だけ過剰に減算されることになる。
【0104】
基準受信パルス推定部80Aは、補正受信セグメントydashに対して第2実施例の基準受信パルス推定部80と同様の処理を実行することで、基準受信パルスgを推定する。具体的には、基準受信パルス推定部80Aは、第2実施例のスイッチ77A及び平均化処理部78Aに相当する要素を有し、基準反射期間Ttag2内に生成された補正受信セグメントydashを抽出して平均化し、平均化された補正受信セグメントydashを基準受信パルスgとして推定する。基準受信パルス推定部80Aは、推定した基準受信パルスgを、同期妨害第2推定部71Y及びマッチドフィルタ81Aにそれぞれ供給する。
【0105】
ここで、基準受信パルス推定部80Aに供給される補正受信セグメントydashは、補正前推定同期妨害vが推定同期妨害wとして減算器72に入力される期間では、図17(A)に示す吸収体7の反射成分だけ過剰に減算された状態となっている。従って、この期間中では、基準受信パルス推定部80Aは、図17(A)に示す吸収体7の反射成分だけ過剰に減算された基準受信パルスgを同期妨害第2推定部71Yに供給する。
【0106】
マッチドフィルタ81Aは、補正受信セグメントydashに対して第2実施例のマッチドフィルタ81と同様の処理を行うことで、フィルタードセグメントzを生成してピーク検出部74へ供給する。具体的には、マッチドフィルタ81Aは、第2実施例の受信フィルタ73Aと時間反転部79に相当する要素を有し、基準受信パルスgから関係式Aに基づきインパルス応答hを生成した後、補正受信セグメントydashに対してインパルス応答hを畳み込んでフィルタードセグメントzを算出する。
【0107】
ピーク検出部74は、フィルタードセグメントz内で振幅が最大となるピーク点を検出し、当該ピーク点の遅延Dと振幅Aを出力する。判定部75は、振幅Aが閾値tDetより大きい点のみを選択的にフォーマッタ76に送る。フォーマッタ76は、遅延Dと振幅A、及び当該セグメントのフレームインデックスfrm、セグメントインデックスsegを、適切なフォーマットに変換し、ターゲット情報TIとしてシステムCPU5に出力する。
【0108】
図19は、同期妨害第2推定部71Yが実行する信号処理のブロックを示す。図19に示すように、同期妨害第2推定部71Yは、相関算出部86と、レプリカ生成部87と、減算器88とを有する。また、図19では、補正前推定同期妨害vが推定同期妨害wとして減算器72に入力される期間における各入出力の波形を一点鎖線枠90~93内に示している。
【0109】
相関算出部86は、同期妨害第1推定部71Xから供給される補正前推定同期妨害vと、基準受信パルス推定部80Aから供給される基準受信パルスgとの相関を計算することで、吸収体7からの反射成分(図17(A)参照)のピーク位置での振幅の推定値に相当する振幅推定値「Adark」を算出する。具体的には、相関算出部86は、以下の式に示すように、ベクター長がゲート幅wGate(ここでは1024)に等しい実数ベクトルである補正前推定同期妨害vと正規化した基準受信パルスgとのスカラー積(内積)を計算することで、振幅推定値Adarkを算出する。
【0110】
【数5】
ここで、上式に基づく振幅推定値Adarkの算出の妥当性について説明する。基準受信パルスgは、図17(A)に示す吸収体7の反射成分だけ過剰に減算された状態で基準受信パルス推定部80Aから相関算出部86に供給される。従って、この場合、基準受信パルスgは、一点鎖線枠91内に示されるように、図17(C)に示す反射体8からの反射成分と吸収体7からの反射成分に起因した過剰減算分との和に相当する。また、相関算出部86に供給される補正前推定同期妨害vは、一点鎖線枠90内に示されるように、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分と、図17(B)に示した同期妨害成分との和に相当する。この場合、反射体8からの反射成分と吸収体7からの反射成分に起因した過剰減算分とは、ピーク位置が略一致し、これらの和に相当する基準受信パルスgのピーク位置は、吸収体7からの反射成分のピーク位置と略一致することになる。従って、相関算出部86は、上式に基づき、基準受信パルスgと補正前推定同期妨害vとの相関を算出することで、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分のピーク位置の振幅を的確に推定することができる。なお、上述の振幅推定値Adarkの算出式では、ルート演算を避け、かつ、後述するレプリカuの算出の際の基準受信パルスgの大きさによる除算を省くため、補正前推定同期妨害vと基準受信パルスgとのスカラー積が基準受信パルスgの大きさの2乗により除算されている。
【0111】
レプリカ生成部87は、相関算出部86が出力する振幅推定値Adarkと基準受信パルスgに基づき、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分のレプリカ「u」を生成する。レプリカuは、ベクター長がゲート幅wGateに等しい実数ベクトルである。ここで、レプリカ生成部87は、基準受信パルスgのピーク位置が図17(A)に示した吸収体7からの反射成分のピーク位置と略一致することを勘案し、以下の式に示すように、基準受信パルスgとピーク位置が一致し、ピーク位置での振幅が振幅推定値Adarkに相当する振幅となるようにレプリカuを生成する。
【0112】
【数6】
このようにすることで、レプリカ生成部87は、一点鎖線枠92内に示すように、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分のレプリカを好適に生成することができる。
【0113】
減算器88は、レプリカ生成部87が生成したレプリカuを補正前推定同期妨害vから減算する。この場合、一点鎖線枠93内に示すように、推定同期妨害wは、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分が補正前推定同期妨害vから好適に除去されている。その後、推定同期妨害wは減算器72に供給され、減算器72は、推定同期妨害wを受信セグメントyから減算した補正受信セグメントydashを生成して基準受信パルス推定部80A及びマッチドフィルタ81Aに供給する。この場合、基準受信パルス推定部80Aは、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分の影響分が除かれた基準受信パルスg(図17(C)参照)を生成する。マッチドフィルタ81Aは、同期妨害成分が除去された補正受信セグメントydashに対し、吸収体7からの反射成分の影響分が除かれた基準受信パルスgに基づくフィルタリングを行う。これにより、マッチドフィルタ81Aは、雑音や時間遅延等を的確に補正したフィルタードセグメントzをピーク検出部74に出力する。
【0114】
ここで、図18に示すDSP16のブロック構成において、同期妨害第2推定部71Yを設けることの効果についてさらに補足説明する。図18に示す構成に代えて、仮に同期妨害第2推定部71Yを設けない構成の場合(即ち、第1実施例の同期妨害推定部71と第2実施例の基準受信パルス推定部80とを単に並べた構成の場合)、反射抑制期間Ttag1で算出される推定同期妨害wは、図17(B)に示した同期妨害成分に加えて、図17(A)に示した吸収体7からの反射成分が含まれることになる。この場合、ライダ1の検出対象方向の走査期間においても、吸収体7からの反射成分が含まれる推定同期妨害wに基づき補正受信セグメントydashが生成されるため、補正受信セグメントydashに基づく反射率や測距の推定に誤差が生じることになる。また、基準反射期間Ttag2で算出される基準受信パルスgは、図19の一点鎖線枠91に示すように、吸収体7からの反射成分に起因した過剰減算分が含まれることになり、基準受信パルスgの推定精度が低下することになる。以上を勘案し、第3実施例に係るDSP16は、推定同期妨害wから吸収体7からの反射成分を除去するための同期妨害第2推定部71Yを有することで、吸収体7からの反射成分に起因した誤差等の発生を好適に抑制することができる。
【0115】
以上説明したように、第3実施例に係るライダ1は、照射方向を変えながら射出光Loを照射する走査部55と、第1照射方向に配置され、射出光Loを反射する反射体8と、第2照射方向に配置され、射出光Loを吸収する吸収体7と、戻り光Lrを受光するAPD41と、DSP16とを備える。DSP16は、射出光Loの照射方向が第1照射方向及び第2照射方向であるときの各々のAPD41の出力信号に基づいて、吸収体7の反射成分のレプリカuを生成する。これにより、ライダ1は、レプリカuを補正前推定同期妨害vから除去して推定同期妨害wを推定することができ、吸収体7からの反射成分に起因した誤差等の発生を好適に抑制することができる。
【符号の説明】
【0116】
1 ライダ
5 システムCPU
7 吸収体
8 反射体
10 ASIC
30 トランスミッタ
40 レシーバ
50 走査光学部
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