(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083583
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】繊維用表面処理剤および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20230608BHJP
D06M 15/233 20060101ALI20230608BHJP
D06M 15/27 20060101ALI20230608BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20230608BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M15/233
D06M15/27
D06M15/643
D06M13/395
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071986
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2018131838の分割
【原出願日】2018-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】新田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】森川 周作
(57)【要約】
【課題】フッ素を含まないにも拘わらず、はっ水性、当該はっ水性の洗濯耐久性、および縫目滑脱について、総合的に優れた特性を繊維製品に付与できる繊維用表面処理剤を提供する。
【解決手段】少なくとも成分Aと、成分Bと、水とを含有し、フッ素原子を含まない水性乳化分散体であって、
前記成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体であり、
前記成分Aは、前記水性乳化分散体中、前記成分Aと前記成分Bの合計100質量%に対して、12~60質量%含まれており、
前記水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体の平均粒子径が、3.0μm未満であり、
前記成分Bは、所定の疎水性化合物B1、B2、及びB3の少なくとも1種である、繊維用表面処理剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも成分Aと、成分Bと、水とを含有し、フッ素原子を含まない水性乳化分散体であって、
前記成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体であり、
前記成分Aは、前記水性乳化分散体中、前記成分Aと前記成分Bの合計100質量%に対して、12~60質量%含まれており、
前記水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体の平均粒子径が、3.0μm未満であり、
前記成分Bは、下記疎水性化合物B1、B2、及びB3の少なくとも1種である、繊維用表面処理剤。
疎水性化合物B1:下記一般式(1)で表されるモノエチレン性不飽和単量体bの少なくとも1種を繰り返し単位に有する高分子である重合体
【化1】
[一般式(1)中、R
11は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
12は炭素数16~30の飽和の脂肪族炭化水素基である。]
疎水性化合物B2:下記一般式(2)で表される高分子であるシリコーン化合物
【化2】
[一般式(2)中、R
21およびR
24はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4のそれぞれ独立のアルキル基を有するトリアルキルシリル基であり、R
22は炭素数1~32のアルキル基であり、R
23は少なくとも1つ以上のアミノ基を有する炭素数1~9の有機基であり、n
21およびn
22はそれぞれ独立に、1~100の整数である。]
疎水性化合物B3:下記一般式(3)で表されるアルコールとポリブロックドイソシアネートを同一粒子中に有する組成物、前記アルコールとポリイソシアネートの反応生成物、および前記アルコールとイソシアネート基と反応しうるブロック剤とポリイソシアネートの反応生成物からなる群より選ばれる少なくとも1種
【化3】
[一般式(3)中、n
31は3~8の整数であり、n
31-n
32は1~7の整数であり、n
32は1~7の整数であり、R
31は炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基または炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、前記多価アルコールの2~3量体から水酸基を除いた残基、及び5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。]
【請求項2】
前記成分Aにおいて、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である前記単量体が、下記一般式(4)で表されるモノエチレン性不飽和単量体aの少なくとも1種である、請求項1に記載の繊維用表面処理剤。
【化4】
[一般式(4)中、R
41は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、n
41は0または1の整数であり、n
41が0のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数16未満の環状炭化水素基であって、n
41が1、R
41がメチル基またはクロロ基のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基、1つ以上のクロロ基またはブロモ基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基、または炭素数1以上炭素数8以下の飽和の脂肪族炭化水素基であって、n
41が1、R
41が水素原子のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基である。]
【請求項3】
前記成分Aにおいて、前記単量体aが、下記一般式(5)で表されるスチレン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a1、下記一般式(6)で表される環状脂肪族骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a2、および下記一般式(7)で表される他のモノエチレン性不飽和単量体a3からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の繊維用表面処理剤。
【化5】
[一般式(5)中、R
51は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
52およびR
53はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、クロロ基、またはクロロメチル基である。]
【化6】
[一般式(6)中、R
54は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
55は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基である。]
【化7】
[一般式(7)中、R
56はメチル基またはクロロ基であり、R
57はメチル基、エチル基、またはtert-ブチル基である。]
【請求項4】
前記成分Aにおいて、前記単量体a1と前記単量体a2と前記単量体a3の合計割合が、55質量%以上である、請求項3に記載の繊維用表面処理剤。
【請求項5】
前記成分Aの前記重合体を構成する単量体が、(メタ)アクリロイル基およびビニル基のうち少なくとも1種とポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体cをさらに含む、請求項1~4のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
【請求項6】
前記成分Aの前記重合体を構成する単量体が、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、スルホン酸基、およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する架橋性のエチレン性不飽和単量体dをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
【請求項7】
前記水性乳化分散体は、前記成分Aと前記成分Bとが同一粒子中に存在している粒子を含んでいる、請求項1~6のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
【請求項8】
前記水性乳化分散体は、前記成分Aにより構成された粒子と、前記成分Bにより構成された粒子とを含んでいる、請求項1~7のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の繊維用表面処理剤によって繊維表面が処理されてなる、繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用表面処理剤、および当該表面処理剤で処理された繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品にはっ水性を付与する方法として、パラフィンワックス、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などの水系乳化分散体によるはっ水処理が知られている。フッ素系樹脂は、パラフィンワックスやシリコーン系樹脂よりも優れたはっ水性を示すことから、繊維製品のはっ水処理に広く利用されている。
【0003】
ところが、2000年、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の有害性、生体蓄積性、環境汚染性が指摘され、更にパーフルオロオクタン酸(PFOA)を含む炭素数が8以上のパーフルオロ化合物全般についても懸念が示されるようになった。このため、これらのフッ素化合物を含有せず、また分解生成物として発生させる懸念の無いフッ素系はっ水処理剤の開発が行われてきた。
【0004】
しかしながら、近年、炭素数と無関係に、パーフルオロアルキル基を持つ化合物自体の有害性、環境汚染性が指摘されたため、繊維製品に対するはっ水処理の分野において、フッ素を含むはっ水処理剤の使用を取りやめる動きが生じている。
【0005】
従来、フッ素を含まないはっ水処理剤として、パラフィンワックス、シリコーン系樹脂等を用いた組成物が知られている。しかしながら、これらの組成物のはっ水性は、フッ素系樹脂を用いたはっ水処理剤と比較して劣るものであった。このような状況において、フッ素を含まないはっ水処理剤として、エステル部分のアルキル基の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステル重合体の水系乳化分散体が、フッ素系樹脂を用いたはっ水処理剤に代替可能なものとして提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-328624号公報
【特許文献2】特表2012-522062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、洗濯などに対するはっ水性の耐久性に優れた繊維製品において、軽量化、風合いを重視して、繊維径が55~110dtex(50~100d)程度から、11~44dtex(10~40d)程度という、より細い繊維の使用が求められている。しかしながら、11~44dtex程度の細い繊維を、特許文献1のようなアルキル(メタ)アクリレートを主成分とするはっ水処理剤で処理すると、繊維製品の縫目滑脱がきわめて大きくなる傾向が見られた。このため、縫製時や着用時に、目ずれ、縫製部のずれを引き起こす問題があった。また、例えば、特許文献2に開示されたパラフィンワックスを配合しても、縫目滑脱を小さくすることはできなかった。
【0008】
また、特許文献1のようなアルキル(メタ)アクリレートを主成分とした共重合体は、適当な界面活性剤を用いても乳化安定性が悪いため、繊維加工時に乳化破壊が生じ、加工装置や処理布帛に樹脂が付着するトラブルが起きることもあった。
【0009】
このような状況下、本発明は、フッ素を含まないにも拘わらず、はっ水性、当該はっ水性の洗濯耐久性、および縫目滑脱について、総合的に優れた特性を繊維製品に付与できる繊維用表面処理剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、少なくとも成分Aと、成分Bと、水とを含有し、フッ素原子を含まない水性乳化分散体であって、成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体であり、成分Aは、水性乳化分散体中、成分Aと成分Bの合計100質量%に対して、12~60質量%含まれており、水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体の平均粒子径が3.0μm未満であり、成分Bが、下記疎水性化合物B1、B2、及びB3の少なくとも1種である、繊維用表面処理剤は、フッ素を含まないにも拘わらず、はっ水性、当該はっ水性の洗濯耐久性、および縫目滑脱について、総合的に優れた特性を繊維製品に付与できる繊維用表面処理剤が得られることを見出した。加えて、予想外の効果として、本発明の前記繊維用表面処理剤は、優れた耐水性を繊維製品に付与できることも見出した。
【0011】
疎水性化合物B1:下記一般式(1)で表されるモノエチレン性不飽和単量体bの少なくとも1種を繰り返し単位に有する高分子である重合体
【化1】
【0012】
[一般式(1)中、R11は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R12は炭素数16~30の飽和の脂肪族炭化水素基である。]
【0013】
疎水性化合物B2:下記一般式(2)で表される高分子であるシリコーン化合物
【化2】
【0014】
[一般式(2)中、R21およびR24はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4のそれぞれ独立のアルキル基を有するトリアルキルシリル基であり、R22は炭素数1~32のアルキル基、R23は少なくとも1つ以上のアミノ基を有する炭素数1~9の有機基であり、n21およびn22はそれぞれ独立に、1~100の整数である。]
【0015】
疎水性化合物B3:下記一般式(3)で表されるアルコールとブロックドイソシアネートを同一粒子中に有する組成物、前記アルコールとポリイソシアネートの反応生成物、および前記アルコールとポリイソシアネートの部分反応物とブロック剤の反応物からなる群より選ばれる少なくとも1種
【化3】
【0016】
[一般式(2)中、n31は3~8の整数であり、n31-n32は1~7の整数であり、n32は1~7の整数であり、R31は炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基または炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、前記多価アルコールの2~3量体から水酸基を除いた残基、及び5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。]
【0017】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0018】
即ち、本発明は、下記の態様を有する。
項1. 少なくとも成分Aと、成分Bと、水とを含有し、フッ素原子を含まない水性乳化分散体であって、
前記成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体であり、
前記成分Aは、前記水性乳化分散体中、前記成分Aと前記成分Bの合計100質量%に対して、12~60質量%含まれており、
前記水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体の平均粒子径が、3.0μm未満であり、
前記成分Bは、下記疎水性化合物B1、B2、及びB3の少なくとも1種である、繊維用表面処理剤。
疎水性化合物B1:下記一般式(1)で表されるモノエチレン性不飽和単量体bの少なくとも1種を繰り返し単位に有する高分子である重合体
【化4】
[一般式(1)中、R
11は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
12は炭素数16~30の飽和の脂肪族炭化水素基である。]
疎水性化合物B2:下記一般式(2)で表される高分子であるシリコーン化合物
【化5】
[一般式(2)中、R
21およびR
24はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、または炭素数1~4のそれぞれ独立のアルキル基を有するトリアルキルシリル基であり、R
22は炭素数1~32のアルキル基であり、R
23は少なくとも1つ以上のアミノ基を有する炭素数1~9の有機基であり、n
21およびn
22はそれぞれ独立に、1~100の整数である。]
疎水性化合物B3:下記一般式(3)で表されるアルコールとポリブロックドイソシアネートを同一粒子中に有する組成物、前記アルコールとポリイソシアネートの反応生成物、および前記アルコールとイソシアネート基と反応しうるブロック剤とポリイソシアネートの反応生成物からなる群より選ばれる少なくとも1種
【化6】
[一般式(3)中、n
31は3~8の整数であり、n
31-n
32は1~7の整数であり、n
32は1~7の整数であり、R
31は炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基または炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、前記多価アルコールの2~3量体から水酸基を除いた残基、及び5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。]
項2. 前記成分Aにおいて、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である前記単量体が、下記一般式(4)で表されるモノエチレン性不飽和単量体aの少なくとも1種である、項1に記載の繊維用表面処理剤。
【化7】
[一般式(4)中、R
41は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、n
41は0または1の整数であり、n
41が0のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数16未満の環状炭化水素基であって、n
41が1、R
41がメチル基またはクロロ基のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基、1つ以上のクロロ基またはブロモ基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基、または炭素数1以上炭素数8以下の飽和の脂肪族炭化水素基であって、n
41が1、R
41が水素原子のとき、R
42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基である。]
項3. 前記成分Aにおいて、前記単量体aが、下記一般式(5)で表されるスチレン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a1、下記一般式(6)で表される環状脂肪族骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a2、および下記一般式(7)で表される他のモノエチレン性不飽和単量体a3からなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1または2に記載の繊維用表面処理剤。
【化8】
[一般式(5)中、R
51は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
52およびR
53はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、クロロ基、またはクロロメチル基である。]
【化9】
[一般式(6)中、R
54は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
55は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基である。]
【化10】
[一般式(7)中、R
56はメチル基またはクロロ基であり、R
57はメチル基、エチル基、またはtert-ブチル基である。]
項4. 前記成分Aにおいて、前記単量体a1と前記単量体a2と前記単量体a3の合計割合が、55質量%以上である、項3に記載の繊維用表面処理剤。
項5. 前記成分Aの前記重合体を構成する単量体が、(メタ)アクリロイル基およびビニル基のうち少なくとも1種とポリオキシエチレン基を有するモノエチレン性不飽和単量体cをさらに含む、項1~4のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
項6. 前記成分Aの前記重合体を構成する単量体が、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、スルホン酸基、およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を有する架橋性のエチレン性不飽和単量体dをさらに含む、項1~5のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
項7. 前記水性乳化分散体は、前記成分Aと前記成分Bとが同一粒子中に存在している粒子を含んでいる、項1~6のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
項8. 前記水性乳化分散体は、前記成分Aにより構成された粒子と、前記成分Bにより構成された粒子とを含んでいる、項1~7のいずれかに記載の繊維用表面処理剤。
項9. 項1~8のいずれかに記載の繊維用表面処理剤によって繊維表面が処理されてなる、繊維製品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フッ素を含まないにも拘わらず、はっ水性、当該はっ水性の洗濯耐久性、および縫目滑脱について、総合的に優れた特性を繊維製品に付与できる繊維用表面処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、他の類する表現についても同様である。
【0021】
本明細書において、単独重合体のガラス転移点は、文献(Polymer Handbook Third Edition 1990年発行 発行者ジョン・ワイリー・アンド・サンズ)に記載の値であり、文献に単独重合体のガラス転移点が記載されていない単量体については、単独重合体を合成し(GPCによる重量平均分子量は10000~10000000の範囲とする)、示差走査熱量計(DSC)により測定した値を採用する。
【0022】
本明細書において、繊維用表面処理剤がフッ素原子を含まないとは、繊維用表面処理剤をフッ素分析(燃焼-イオンクロマトグラフ法)に供した場合に、フッ素原子の含有量が検出限界値以下(50ppm以下)であることを意味している。
【0023】
本明細書において、成分Aの水性乳化分散体の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-300(堀場製作所製)を用いた、算術平均径の測定値(D50)である。
【0024】
本明細書において、乳化分散体とは、媒体中での乳化体または分散体を意味する。
【0025】
(繊維用表面処理剤)
本発明のフッ素原子を含まない、繊維用表面処理剤は、少なくとも成分Aと、成分Bと、水とを含有し、フッ素原子を含まない水性乳化分散体であって、成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体であり、成分Aは、水性乳化分散体中、成分Aと成分Bの合計100質量%に対して、12~60質量%含まれており、水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体(成分Aを含んでいる分散粒子)の平均粒子径が、3.0μm未満であり、成分Bは、前記の疎水性化合物B1、B2、及びB3の少なくとも1種であって、必要に応じて、界面活性剤、添加剤を含む水性乳化分散体の形態で提供される。
【0026】
(成分A)
成分Aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体である。以下、成分Aの重合体を構成する単量体について、成分Aに含まれる単量体というように表記することがある。成分Bの重合体を構成する単量体についても、同様である。単独重合体のガラス転移点が50℃以上である単量体の例としては、付加重合しうる単量体であるエチレン性不飽和単量体が挙げられ、1分子中に1個のエチレン性不飽和基を有するモノエチレン性不飽和単量体が好ましい。成分Aの例としては、単独重合体のガラス転移点が50℃以上である下記一般式(4)で表されるモノエチレン性不飽和単量体aの少なくとも1種を繰り返し単位に有する重合体である。
【0027】
【0028】
[一般式(4)中、R41は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、n41は0または1の整数であり、n41が0のとき、R42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数16未満の環状炭化水素基であって、n41が1、R41がメチル基またはクロロ基のとき、R42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基または炭素数1以上炭素数8以下の飽和の脂肪族炭化水素基であって、n41が1、R41が水素原子のとき、R42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状炭化水素基である。]
【0029】
R41の例は、水素原子、メチル基、またはクロロ基である。n41が0のとき、R41は水素原子であることが好ましい。n41が1でR41がメチル基またはクロロ基のとき、R42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基、1つ以上のクロロ基またはブロモ基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基、または炭素数4以下の飽和の脂肪族炭化水素基が好ましく、n41が1でR41が水素原子のとき、R42は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基、1つ以上のクロロ基またはブロモ基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基が好ましい。
【0030】
R42の炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基としては、クロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していても有さなくてもよいが、前記単量体aの製造または入手性の観点から前記官能基を有さないものが好ましい。炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基としては、シクロペンタニル骨格、シクロヘキシル骨格、イソボロニル骨格、アダマンチル骨格、またはジシクロペンタニル骨格のいずれか1つを有する環状脂肪族基であることが好ましい。1つ以上のクロロ基またはブロモ基を有していてもよいフェニル基またはベンジル基としては、クロロ基、またはブロモ基を有していても有さなくてもよく、その置換数も1~5の任意の数であってよい。炭素数4以下の飽和の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、またはtert-ブチル基のいずれかであることが好ましい。
【0031】
前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、成分Aにおいて、前記単量体aの割合としては、下限については、好ましくは55質量%超、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上が挙げられ、上限については、好ましくは、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下などが挙げられる。
【0032】
成分Aに含まれる前記単量体aは、単独重合体のガラス転移点が50℃以上であれば特に制限されないが、はっ水性、当該はっ水性の洗濯耐久性、および縫目滑脱について総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、前記ガラス転移点の下限については、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上が挙げられ、上限については特に制限されないが、製造上の観点から200℃以下が好ましい。
【0033】
前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、前記単量体aの例としては、下記一般式(5)で表されるスチレン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a1、下記一般式(6)で表される環状脂肪族骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体a2、および下記一般式(7)で表される他のモノエチレン性不飽和単量体a3(単量体a1,a2とは異なる)が挙げられる。
【0034】
【0035】
[一般式(5)中、R51は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R52およびR53はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、クロロ基、またはクロロメチル基である。]
【0036】
【0037】
[一般式(6)中、R54は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R55は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基である。]
【0038】
【0039】
[一般式(7)中、R56はメチル基またはクロロ基であり、R57はメチル基、エチル基、またはtert-ブチル基である。]
【0040】
前記単量体a1において、R51は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、水素原子であることが好ましい。前記単量体a1において、R52およびR53はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、クロロ基、またはクロロメチル基であり、R52およびR53のいずれか1つは水素原子であることが好ましい。
【0041】
単量体a1の具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレンなどが挙げられる。単量体a1は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0042】
前記単量体a2において、R54は水素原子、メチル基またはクロロ基であり、メチル基またはクロロ基が好ましい。前記単量体a2において、R55は1つ以上のクロロ基、ブロモ基、またはクロロメチル基を有していてもよい炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基であり、炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基としては、クロロ基、ブロモ基またはクロロメチル基を有していても有さなくてもよいが、前記単量体a2の製造または入手性の観点から前記官能基を有さないものが好ましい。R55の炭素数炭素数16未満の環状脂肪族基としては、シクロペンタニル骨格、シクロヘキシル骨格、イソボロニル骨格、アダマンチル骨格、またはジシクロペンタニル骨格のいずれか1つを有する環状脂肪族基であることが好ましく、特にシクロヘキシル骨格、イソボロニル骨格、ジシクロペンタニル骨格のいずれか1つを有する環状脂肪族基が好ましい。
【0043】
単量体a2の具体例としては、シクロヘキシルメタクリレート、tert-ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチルアダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチルアダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルαクロロアクリレート、tert-ブチルαクロロシクロヘキシルアクリレート、イソボロニルαクロロアクリレート、ジシクロペンテニルαクロロアクリレート、ジシクロペンタニルαクロロアクリレート、アダマンチルαクロロアクリレート、2-メチルアダマンチルαクロロアクリレート、2-エチルアダマンチルαクロロアクリレート、トリシクロペンタニルαクロロアクリレートなどが挙げられる。単量体a2は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0044】
単量体a3において、R56はメチル基またはクロロ基であり、R57はメチル基、エチル基またはtert-ブチル基であり、特に制限されない。
【0045】
単量体a3の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、メチルαクロロアクリレート、エチルαクロロアクリレート、tert-ブチルαクロロアクリレートなどが挙げられる。単量体a3は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0046】
また、成分Aは、必要に応じて、前記単量体a1、a2、a3とは異なるモノエチレン性不飽和単量体cを含んでいてもよい。前記単量体cは、(メタ)アクリロイル基およびビニル基のうち少なくとも1つとポリオキシエチレン基を有する単量体である。前記単量体cはポリオキシエチレン基とは別に炭素数3~10のアルキレン基からなる(ポリ)オキシアルキレン基を有していても良い。前記単量体cは成分Aの水性乳化分散体において、乳化分散安定性の向上に寄与する。前記単量体cの具体例として、ポリオキシオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0047】
前記単量体cの具体的製品としては、花王株式会社製のラテムルPD-420、ラテムルPD-430、ラテムルPD-450、日油株式会社製のユニオックスPKA-5001、ユニオックスPKA-5002、ユニオックスPKA-5003、ユニオックスPKA-5004、ユニオックスPKA-5005、ユニオックスPKA-5006、ユニオックスPKA-5007、ユニオックスPKA-5008、ユニオックスPKA-5009、ユニオックスPKA-5010、ユニセーフ PKA-5011、ユニセーフ PKA-5012、ユニルーブPKA-5013、ユニセーフPKA-5015、ユニセーフPKA-5016、ユニセーフPKA-5017、ブレンマーPE-90、ブレンマーPE-200、ブレンマーPE-350、ブレンマー50PEP-300、ブレンマー70PEP-350B、ブレンマー55PET-800、ブレンマーAE-90U、ブレンマーAE-200、ブレンマーAE-400、ブレンマーPME-100、ブレンマーPME-200、ブレンマーPME-400、ブレンマーPME-1000、ブレンマーPME-4000、ブレンマー50POEP-800B、ブレンマーPLE-200、ブレンマーPLE-1300、ブレンマーPSE-1300、ブレンマー43PAPE-600B、ブレンマーAME-400、ブレンマーALE-200、ブレンマー75ANEP-600、ブレンマーAAE-300、株式会社ADEKA製のアデカリアソープER-10、アデカリアソープER-20、アデカリアソープER-30、アデカリアソープNE-10、アデカリアソープNE-20、アデカリアソープNE-30、第一工業製薬株式会社製のアクアロンRN-20、アクアロンRN-2025、アクアロンRN-30、アクアロンRN-50、日本乳化剤株式会社製のアントックスLMA-10、アントックスLMA-20、アントックスLMA-27等が挙げられる。
【0048】
前記単量体cについては、単独重合体のガラス転移点は、50℃以上であってもよいし、50℃未満であってもよい。
【0049】
成分Aに前記単量体cが含まれる場合、前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、その含有量としては、上限については、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下が挙げられ、下限については、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上が挙げられる。
【0050】
さらに、成分Aは、必要に応じて、前記単量体a1、a2、a3および前記単量体cとは異なるエチレン性不飽和単量体dを含んでいてもよい。前記単量体dは架橋性の官能基を有する単量体である。前記架橋性の官能基としては、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基、オキサゾリン基、カルボキシル基、スルホン酸基、アルコキシシリル基が挙げられ、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、カルボニル基、クロロメチル基、アミド基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基が好ましく、水酸基、エポキシ基、アセトアセチル基、N-アルコキシメチルアミド基、ブロックドイソシアネート基が特に好ましい。
【0051】
前記単量体dとしては、(メタ)アクリレート類、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、またはビニルエステル類が好ましい。
【0052】
前記単量体dを有することにより、成分Aにおいて、繊維との密着性に寄与し洗濯時の脱落が抑制される。
【0053】
前記単量体dの好ましい具体例としては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのポリカプロラクトンエステル、グリセロール(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、モノクロロ酢酸ビニル、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、3-イソシアナトプロピル(メタ)アクリレートの3,5-ジメチルピラゾール付加体、フェニルグリシジルエチルアクリレートトリレンジイソシアナート、3-(メチルエチルケトオキシム)イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)シアナートなどが挙げられる。
【0054】
前記単量体dについては、単独重合体のガラス転移点は、50℃以上であってもよいし、50℃未満であってもよい。
【0055】
成分Aに前記単量体dが含まれる場合、その含有量としては、上限については、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下が挙げられ、下限については、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上が挙げられる。
【0056】
さらに、成分Aは、必要に応じて、前記単量体a1、a2、a3および前記単量体c、dとは異なるエチレン性不飽和単量体eを含んでいてもよい。前記単量体eは、エステル部分の炭化水素基が直鎖状または分岐状の(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、前記単量体aおよび前記単量体c、dの少なくとも1種と共重合可能なものである。また、前記単量体eについては、単独重合体のガラス転移点は、50℃未満である。前記単量体eは、成分Aの水性乳化分散体の粒子径増大の抑制に寄与する。
【0057】
前記単量体eの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-オクチルドデシル(メタ)アクリレート、2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0058】
成分Aに前記単量体eが含まれる場合、その含有量としては、上限については、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0059】
さらに、成分Aは、必要に応じて、前記単量体a1、a2、a3および前記単量体c、d、eとは異なるエチレン性不飽和単量体fを含んでいてもよい。
【0060】
前記単量体fとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ブタジエン、ピペリレン、ペンテン、エチル-2-プロピレン、ブチルエチレン、シクロヘキシルプロピルエチレン、デシルエチレン、ドデシルエチレン、ヘキセン、イソヘキシルエチレン、ネオペンチルエチレン、クロロプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロトン酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、シトラコン酸アルキルエステル、メサコン酸アルキルエステル等が挙げられる。単量体fはこれらの例に限定されない。
【0061】
成分Aに前記単量体fが含まれる場合、その含有量としては、上限については、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0062】
(成分B)
成分Bは、以下の3種から選ばれる疎水性化合物B1、B2、B3の少なくとも1種である。成分Bは、疎水性化合物B1、B2、B3のうち、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0063】
(疎水性化合物B1)
疎水性化合物B1は、下記一般式(1)で表されるモノエチレン性不飽和単量体bの少なくとも1種を繰り返し単位に有する高分子である重合体である。
【化15】
[式中、R
11は水素原子、メチル基、またはクロロ基であり、R
12は炭素数16~30の飽和の脂肪族炭化水素基である。]
【0064】
前記単量体bにおいて、R12は直鎖状の炭化水素基であることが好ましく、炭化水素基の炭素数は18~30であることがより好ましい。炭化水素基は飽和でも不飽和でもよいが、飽和の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、R11は水素原子、メチル基、クロロ基のいずれであってもよいが、はっ水性の観点から(αクロロ)アクリレートエステル単量体の方が好ましい。また、処理後の繊維製品の風合いの観点からは(メタ)アクリレートエステル単量体が好ましい。
【0065】
前記単量体bの好ましい具体例としては、(メタ)セチルアクリレート、(メタ)ヘプタデシルアクリレート、(メタ)ステアリルアクリレート、(メタ)ノナデシルアクリレート、(メタ)イコシルアクリレート、(メタ)ヘンイコシルアクリレート、(メタ)ベヘニルアクリレート、(メタ)テトラコシルアクリレート、(メタ)ヘキサコシルアクリレート、(メタ)トリアコンチルアクリレートが挙げられる。
【0066】
また、疎水性化合物B1は、必要に応じて、オルガノポリシロキサン骨格を有するモノエチレン性不飽和単量体gを含んでいてもよい。
【0067】
前記単量体gにおいて、エチレン性不飽和基はビニル基、スチリル基、(メタ)アクリロイル基のうち1つであり、共重合のし易さや合成のし易さ、市販品の入手のし易さから、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0068】
前記単量体gの好ましい製品例としては、信越化学工業株式会社製のX-22-174ASX、X-22-174BX、KF-2012、X-22-2426、X-22-2404、JNC株式会社製のサイラプレーンFM-0711、サイラプレーンFM-0721、サイラプレーンFM-0725、サイラプレーンTM-0701T等が挙げられる。
【0069】
前記単量体gを有することにより、疎水性化合物B1において、はっ水性およびはっ水の洗濯耐久性が向上する。
【0070】
疎水性化合物B1に前記単量体gが含まれる場合、前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、その含有量としては、疎水性化合物B1の全量に対して、上限については、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、特に好ましくは5質量%以下が挙げられ、下限については特に制限されない。
【0071】
また、疎水性化合物B1は、必要に応じて、前記単量体cを含んでいてもよい。特に記載のない場合、前記単量体cは前述と同様である。前記単量体cは疎水性化合物B1の水性乳化分散体において、乳化分散安定性の向上に寄与する。
【0072】
疎水性化合物B1に前記単量体cが含まれる場合、前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、その含有量としては、上限については、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下が挙げられ、下限については、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上が挙げられる。
【0073】
また、疎水性化合物B1は、必要に応じて、前記単量体dを含んでいてもよい。特に記載のない場合、前記単量体dは前述と同様である。前記単量体dを有することにより、疎水性化合物B1において、繊維との密着性に寄与しはっ水の洗濯耐久性が向上する。
【0074】
疎水性化合物B1に前記単量体dが含まれる場合、その含有量としては、疎水性化合物B1の全量に対して、上限については、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下が挙げられ、下限については、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上が挙げられる。
【0075】
さらに、疎水性化合物B1は、必要に応じて、前記単量体b、c、dおよび前記単量体gとは異なるエチレン性不飽和単量体hを含んでいてもよい。
【0076】
単量体hの例としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、酢酸ビニル、ビニルアルキルエーテル、アクリロニトリル、アルキロールアクリルアミド、クロトン酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、シトラコン酸アルキルエステル、メサコン酸アルキルエステル等が挙げられる。単量体hはこれらの例に限定されない。
【0077】
疎水性化合物B1に前記単量体hが含まれる場合、その含有量としては、上限については、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下が挙げられる。
【0078】
(疎水性疎水性化合物B2)
疎水性疎水性化合物B2は、下記一般式(2)で表される高分子であるシリコーン化合物である。
【化16】
【0079】
[一般式(2)中、R21およびR24はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のそれぞれ独立のアルキル基を有するトリアルキルシリル基、または少なくとも1つ以上のアミノ基を有する炭素数1~9の有機基であり、R22は炭素数1~32のアルキル基、R23は少なくとも1つ以上のアミノ基を有する炭素数1~9の有機基であり、n21およびn22はそれぞれ独立に、1~100の整数である。]
【0080】
前記疎水性化合物B2の例としては、アミノ変性シリコーンが挙げられ、シロキサン構造の側鎖にアミノ基が導入されたもの、シロキサン構造の末端にアミノ基が導入されたもの、これらの混合体のいずれを用いてもよく、アミノ基としてはモノアミン、ジアミンまたは一部が封鎖されたものを用いてもよい。アミノ変性シリコーンにおいて、はっ水性の観点から、アミン当量が300~20000g/mol程度のものを用いることが好ましく、はっ水性、洗濯耐久性、風合いおよび価格等を考慮する場合、1000~20000g/molがより好ましい。このようなアミノ変性シリコーンは市販品を選択して用いることができる。例えば、旭化成ワッカーシリコーン社製WACKER FINISH WR301、WR4100、WR4200、WR1300、WR1600、信越化学工業社製KF-867、KF-869およびKF-8004等を用いることができる。
【0081】
(疎水性化合物B3)
疎水性化合物B3は、下記一般式(3)で表されるアルコールとポリブロックドイソシアネートを同一粒子中に有する組成物、前記アルコールとポリイソシアネートの反応生成物、及び前記アルコールとイソシアネート基と反応しうるブロック剤とポリイソシアネートの反応生成物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0082】
【0083】
[一般式(3)中、n31は3~8の整数であり、n31-n32は1~7の整数であり、n32は1~7の整数であり、R31は炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基または炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、Aは3~6価の炭素数6以下の多価アルコールから水酸基を除いた残基、前記多価アルコールの2~3量体から水酸基を除いた残基、及び5~6価の多価アルコールの分子内脱水環化物から水酸基を除いた残基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。]
【0084】
一般式(3)で表されるアルコールにおいて、R31は炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基または炭素数16~32の飽和の脂肪族炭化水素基を有するアシル基であり、原料の入手のし易さから、前記炭素数は16~22であることが好ましく、アシル基であることが特に好ましい。
【0085】
一般式(3)で表されるアルコールの残基Aになる多価アルコールの例としては、三価アルコールとして、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールエタン)、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール(トリメチロールプロパン)、3-ヒドロキシエチル-3-メチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールエタン)、3-エチル-3-ヒドロキシエチル-1,5-ペンタンジオール(トリエチロールプロパン)、四価アルコールとして、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(ペンタエリスリトール)が挙げられ、上記以外の三価以上の多価アルコールとして糖アルコールがあり、グリセリン、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、アリトール、ガラクチトール、グルシトール(ソルビトール)、マンニトール、タリトール、イノシトール、ボレミトール、ペルセイトールが挙げられる。中でも、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、3-エチル-3-ヒドロキシエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールが好ましい。
【0086】
一般式(3)で表されるアルコールの残基Aになる多価アルコールの脱水環化物の例としては、ソルビトールの脱水環化物として1,4-アンヒドロソルビトール、1,5-アンヒドロソルビトール、1,4,3,6-ジアンヒドロソルビトールが挙げられる。中でも、1,4-アンヒドロソルビトール、1,5-アンヒドロソルビトールが好ましい。
【0087】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1, 5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられ、脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3-イソシアナトメチル-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)、ビス-(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート等が挙げられ、芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの化合物の反応、例えばアダクト型ポリイソシアネートやウレトジオン化反応、イソシアヌレート化反応、カルボジイミド化反応、ウレトンイミン化反応、ビウレット化反応などによるイソシアネート変性体、およびこれらの混合物を用いることも好ましい。
【0088】
イソシアネート化合物に導入されるブロック剤としては、活性水素を分子内に1個
以上有する化合物であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。ブロック剤としては、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、ピラゾール系化合物、重亜硫酸塩等が挙げられる。中でも、酸アミド系化合物、活性メチレン系化合物、オキシム系化合物、ピラゾール系化合物が好ましく、ε-カプロラクタム、アセチルアセトン、マロン酸ジエチル、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、3-メチルピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール等を好ましく用いることができる。
【0089】
(液状媒体)
本発明の繊維用表面処理剤は、水に加えて他の液状媒体を含有していてもよい。水以外の液状媒体としては、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル、ハロゲン化合物、炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、窒素化合物、硫黄化合物、無機溶剤、有機酸等が挙げられ、溶解性、取扱いの容易さの点から、水性媒体が好ましい。水性媒体とは、水、水溶性有機溶媒およびそれらの混合媒体を意味する。水溶性有機溶媒としては、水溶性モノアルコール、水溶性グリコール、水溶性グリコールエーテルおよび水溶性グリコールエステルからなる群より選ばれた1種以上の水溶性有機溶媒が好ましい。
【0090】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、特に限定はなく、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を使用することができる。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。カチオン性界面活性剤のみ、または、ノニオン性界面活性剤のみ、もしくはカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤を併用することが水性乳化分散体を繊維製品に処理する上で特に好ましい。界面活性剤は、成分A、成分Bの調製時に好適に配合される成分である。
【0091】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、各種の脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレン置換フェニルエーテルサルフェート、ポリカルボン酸塩等を使用することができ、対イオンはナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0092】
ノニオン性界面活性剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤と(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライド、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられ、(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルケニルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、プルロニック型活性剤等を使用することができるが、これに限ったものではない。
【0093】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、各種のアルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウムクロライド塩、ポリオキシエチレンアルキルアミンの四級化物等の四級塩のほか、アルキルアミン塩、アルキルジメチルアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩等の様なアミンを適当な酸で中和したアミン塩を使用することができる。対イオンとしては塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0094】
アルキルアミンオキシド類、アラニン類、イミダゾリニウムベタイン類、アミドベタイン類、酢酸ベタイン等が挙げられ、具体的には、長鎖アミンオキシド、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられるが、これに限ったものではない。
【0095】
本発明の繊維用表面処理剤の固形分(水以外の成分)に占める界面活性剤の割合としては、特に制限されないが、好ましくは2~8質量%程度が挙げられる。
【0096】
(繊維用表面処理剤の製造方法)
本発明において、疎水性化合物B1の重合体の製造または乳化分散体の製造には、特開2017-218713に記載された方法を用いることが出来る。また、疎水性化合物B2の乳化体の製造には、疎水性化合物B2と界面活性剤および少なくとも水を含む液状媒体を乳化機の機械力により乳化する方法を用いることが出来る。また、疎水性化合物B3は、WO2014/160906号公報またはWO2017/199726号公報に記載された方法で製造することが出来る。ただし、疎水性化合物B1、B2、またはB3の製造方法はこれらに限定されず、他の従来公知の製造方法を用いてもよい。
【0097】
本発明における成分Aの重合体の製造には、本発明の効果を生じる限りにおいて、ラジカル、カチオン、またはアニオンのいずれの成長活性種を用いて単量体を重合させてもよいが、製造上の観点からラジカル重合が好ましい。また、単量体の仕込み方法としては単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法のいずれであってもよい。
【0098】
本発明における成分Aの重合体の製造には、通常のラジカル重合方法の何れでも製造でき、また重合反応の条件も任意に選択できる。このような重合方法として、溶液重合、懸濁重合、乳化重合が挙げられる。中でも、重合工程と重合体の乳化分散工程を一括で行うことができる乳化重合が好ましい。
【0099】
本発明における成分Aの乳化に際しては、水性乳化分散体の粒子をより小さくするために超音波乳化分散機、ホモミキサー、ホモジナイザー等の乳化機を使用することが好ましい。
【0100】
また、成分Aを乳化重合で調製する際には、一般的なラジカル開始剤を用いることができ、当該ラジカル開始剤に由来する成分が、本発明の繊維用表面処理剤に含まれ得る。ラジカル重合開始剤は、水溶性または油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物が含まれる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等が挙げられ、水溶性のものが好ましい。
【0101】
重合においては、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤の例は、ラウリルメルカプタン、チオグリコール、チオグリセロール等のメルカプタン基含有化合物、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機塩などが挙げられる。
【0102】
乳化重合によって得られた成分Aの乳化分散体は、そのまま、或いは、必要に応じて濃縮、抽出、精製等の公知の処理工程を経て、水性乳化分散体とすることができる。
【0103】
本発明の繊維用表面処理剤を構成している水性乳化分散体中、成分Aは、前記成分Aと前記成分Bの合計100質量%として、12~60質量%含まれている。前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、水性乳化分散体中の成分Aの割合としては、好ましくは15~50質量%程度、より好ましくは20~40質量%程度が挙げられる。
【0104】
また、本発明の水性乳化分散体において、成分Aを含む分散体(成分Aを含んでいる分散粒子であり、例えば、成分Aの水性乳化分散体、成分Aと成分Bの複合水性乳化分散体)の平均粒子径は、3.0μm未満である。前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、成分Aを含む分散体の平均粒子径としては、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下が挙げられる。
【0105】
本発明の繊維用表面処理剤を構成している水性乳化分散体中、成分Bは、前記成分Aと前記成分Bの合計100質量%として、88~40質量%含まれている。前述の点で総合的により優れた特性を繊維製品に付与する観点から、水性乳化分散体中の成分Bの割合としては、好ましくは50~85質量%程度、より好ましくは60~80質量%程度が挙げられる。
【0106】
本発明の繊維用表面処理剤の固形分(水以外の成分)に占める成分Aおよび成分Bの合計割合としては、特に制限されないが、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上が挙げられる。
【0107】
本発明の繊維用表面処理剤において、水性乳化分散体中における成分Aと成分Bの形態は特に制限されない。例えば、水性乳化分散体は、成分Aと成分Bとが同一粒子中に存在している粒子を含んでいてもよい。この形態においては、同一粒子中に成分Aと成分Bとが含まれており、この状態で水性乳化分散体中に存在している。
【0108】
また、水性乳化分散体は、成分Aにより構成された粒子と、成分Bにより構成された粒子とを含んでいてもよい。この形態においては、成分Aと成分Bとは、別々の粒子に含まれており、2種類の粒子が水性乳化分散体中に存在している。
【0109】
本発明の繊維用表面処理剤は、例えば、成分Aの水性乳化分散体と、成分Bの水性乳化分散体とを混合することにより好適に得られる。このようにして本発明の繊維用表面処理剤を得ることにより、成分Aにより構成された粒子と、成分Bにより構成された粒子とを含む水性乳化分散体からなる繊維用表面処理剤が好適に得られる。
【0110】
また、本発明の繊維用表面処理剤は、成分Aおよび成分Bのいずれか一方の水性乳化分散体を用意し、当該水性乳化分散体中において、他方成分を構成する単量体を重合することによっても好適に得られる。このようにして本発明の繊維用表面処理剤を得ることにより、成分Aと成分Bとが同一粒子中に存在している粒子を含む水性乳化分散体からなる繊維用表面処理剤が好適に得られる。この方法の具体例としては、成分Bの水性乳化分散体を調製し、成分Bの水性乳化分散体中で、成分Aを調製すると、成分Bの粒子の周囲に成分Aが被覆した形態の粒子が得られる。成分Aの水性乳化分散体を調製し、成分Aの水性乳化分散体中で、成分Bを調製して、成分Aの粒子の周囲に成分Bが被覆した形態の粒子としてもよい。
【0111】
(添加剤)
また本発明の繊維用表面処理剤には、本発明の効果を生じる限りにおいて任意の添加剤を含んでもよい。添加剤としては例えば、界面活性剤、架橋剤、無機系滑脱防止剤、柔軟剤、SR剤、防しわ剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤等の繊維用薬剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、金属粉顔料、レオロジーコントロール剤、硬化促進剤、消臭剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0112】
本発明の繊維用表面処理剤には、はっ水性向上、風合い調整のためにパラフィンワックス、シリコーン系ワックス、メチルハイドロジェンシリコーン、オクタデシルエチレンウレア、アルキルケテンダイマー、オクチル酸ジルコニル等を配合してもよい。前記化合物の併用量としては、本発明の繊維用表面処理剤の固形分(水以外の成分)に対して0.01~50質量%、好ましくは0.01~40質量%、更に好ましくは0.01~30質量%である。
【0113】
また、本発明の繊維用表面処理剤を繊維製品に適用する際には、2官能以上のブロックドイソシアネートの水系乳化体、N-メチロールメラミンなどの架橋剤を併用することが好ましい。
【0114】
2官能以上のブロックトポリイソシアネートは公知の方法により、2官能以上のイソシアネートと適当なブロック剤を反応させることで得られる。イソシアネートとしては、4,4’ビスイソシアナトフェニルメタン、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートの3量体やトリメチロールプロパンアダクト体が挙げられる。
【0115】
また、イソシアネートのブロック剤としては、2級または3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、置換ピラゾール類、カプロラクタムなどが挙げられる。通常、これらのブロックドイソシアネートは公知の方法により、界面活性剤を用いて乳化・乳化分散されたものが使用される。また、予め全イソシアネート基の70~95%をブロックした後に、適当な分子量にあるポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールを残イソシアネート基と反応させることで、ブロックドイソシアネートは自己乳化性を示し、繊維用表面処理剤の洗濯耐久性の向上のみならず、製品の安定性の向上に対し効果を示す。
【0116】
N-メチロールメラミンとしては、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。
【0117】
本発明の繊維用表面処理剤の固形分(水以外の成分)に占める架橋剤の割合としては、特に制限されないが、好ましくは1~20質量%程度が挙げられる。
【0118】
また、無機系滑脱防止剤としては、繊維用表面処理剤に配合される公知のものが使用でき、例えばコロイダルシリカ、疎水性シリカなどが挙げられる。
【0119】
本発明の繊維用表面処理剤の固形分(水以外の成分)に占める無機系滑脱防止剤の割合としては、特に制限されないが、好ましくは1~15質量%程度が挙げられる。
【0120】
(繊維表面処理剤の加工液の調製)
本発明の繊維用表面処理剤は、繊維製品に適用する際に水で希釈する原液としてもよいし、繊維製品に適用する際にそのままの濃度で使用するものであってもよい。原液とする場合、本発明の繊維用表面処理剤に含まれる固形分(水以外の成分)としては、例えば15~50質量%程度が挙げられる。本発明の繊維用表面処理剤を水に希釈して加工液を調製する際、水の他にも任意的に前述の各種の薬剤、例えば架橋剤等を添加してもよい。繊維製品に適用する際に使用する本発明の繊維用表面処理剤の加工液に含まれる固形分(水以外の成分)としては、例えば0.4~3.0質量%程度が挙げられる。
【0121】
(繊維の処理)
本発明の繊維用表面処理剤を用いて、公知の方法で布帛に対して繊維処理を行うことができる。処理方法としては例えば、連続法又はバッチ法等が挙げられる。連続法としては、まず、繊維用表面処理剤をそのまま、または水に希釈して加工液を調製する。加工液を調製する際、水の他にも任意的に前述の各種の薬剤、例えば架橋剤等を添加することも好ましい。次に、加工液で満たされた含浸装置に、被処理物(すなわち、繊維製品)を連続的に送り込み、被処理物に加工液を含浸させた後、不要な加工液を除去する。含浸装置としては特に限定されず、パッダ、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置等が好ましく採用でき、特にパッダ式が好ましい。続いて、乾燥機を用いて被処理物に残存する水を除去する操作を行う。乾燥機としては、特に限定されず、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。該連続法は、被処理物が織物等の布帛状の場合に採用するのが好ましい。バッチ法は、被処理物を加工液に浸漬する工程、処理を行った被処理物に残存する水を除去する工程からなる。該バッチ法は、被処理物が布帛状でない場合、たとえばバラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等の場合、または編物等連続法に適さない場合に採用するのが好ましい。浸漬する工程においては、たとえば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。水を除去する操作においては、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。本発明の繊維用表面処理剤を付着させた被処理物には、乾熱処理を行うことが好ましい。乾熱処理の温度としては、120~180℃が好ましく、特に160~180℃が好ましい。該乾熱処理の時間としては、10秒間~3分間が好ましく、特に1~2分間が好ましい。乾熱処理の方法としては、特に限定されないが、被処理物が布帛状である場合にはテンターが好ましい。
【0122】
本発明の繊維用表面処理剤は、綿、絹、麻、ウール等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維及びこれらを用いた繊維製品に対して幅広くはっ水性と洗濯耐久性とを付与する。またその形態、形状にも制限はなく、ステープル、フィラメント、トウ、糸等の様な原材料形状に限らず、織物、編み物、詰め綿、不織布、紙、シート、フィルム等の多様な加工形態のものも本発明の繊維用表面処理剤組成物の処理可能な対象となる。
【0123】
本発明の繊維製品は、前述の方法によって前述の種類の繊維表面が処理されてなるものである。本発明の繊維用表面処理剤の詳細については、前述の通りである。
【実施例0124】
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0125】
[合成例1]
300mLフラスコに、スチレン80g、サニゾールC0.4g、ポリオキシエチレン(9モル)オレイルエーテル2.45g、ポリオキシエチレン(13モル)オレイルエーテル2.45gおよびイオン交換水200gを入れ、60℃にて高速撹拌により乳化させ混合液を得た。その後、40℃に保ちながら高圧ホモジナイザーを用いて、40MPaにて処理し乳化液を得た。還流冷却管を取り付けた300mL3口フラスコに乳化液を移し、室温に冷却した後、アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを加え、窒素雰囲気下で70℃にて15時間ラジカル重合反応を行った。その後乳化分散体の成分濃度が20質量%になるようにイオン交換水で希釈し、成分Aの乳化分散体を得た。組成を表1に示す。
【0126】
[合成例2~10、比較合成例1~2]
単量体組成を表1のように変更した他は、合成例1と同様にして各成分Aの乳化分散体を得た。組成を表1に示す。
【0127】
[合成例11]
特開2017-218713に記載された方法を参考に、ステアリルアクリレートを重合体の全質量中98質量%含み、ヒドロキシエチルメタクリレートを重合体の全質量中2質量%含む重合体である疎水性化合物B1をカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤により乳化分散された乳化分散体B1-1(成分Bの濃度20質量%の水性乳化分散体)を得た。
【0128】
[合成例12]
特開2017-218713に記載された方法を参考に、ステアリルアクリレートを重合体の全質量中92質量%含み、官能基等量900の片末端メタクリル変性シリコーンと官能基等量12000の片末端メタクリル変性シリコーンを重合体の全質量中それぞれ3質量%含み、ヒドロキシエチルメタクリレートを重合体の全質量中2質量%含む重合体である疎水性化合物B1をカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤により乳化分散された乳化分散体B1-2(成分Bの濃度20質量%の水性乳化分散体)を得た。
【0129】
[合成例13]
前記乳化分散体B1-2を300mLフラスコに200g入れた。次に、ここにスチレン17.2gとトリプロピレングリコール20gの混合液を45分かけて滴下し、アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを加え、窒素雰囲気下で70℃にて15時間ラジカル重合反応を行った。その後、乳化分散体の重合体濃度が20質量%になるようにイオン交換水で希釈し、平均粒子径0.16μmの成分Aと成分Bの複合物の乳化分散体を得た。
【0130】
[合成例14]
前記乳化分散体B1-2を300mLフラスコに200g入れた。次に、ここにメチルメタクリレート17.2gとポリオキシエチレン(9モル)オレイルエーテル0.53g、ポリオキシエチレン(13モル)オレイルエーテル0.53gの混合液を45分かけて滴下し、アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを加え、窒素雰囲気下で70℃にて15時間ラジカル重合反応を行った。その後、乳化分散体の重合体濃度が20質量%になるようにイオン交換水で希釈し、平均粒子径0.16μmの成分Aと成分Bの複合物の乳化分散体を得た。
【0131】
<単独重合体のガラス転移点>
各単量体の単独重合体のガラス転移点(Tg)として、スチレン、イソボルニルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートについては、ポリマーハンドブック(Polymer Handbook Third Edition 1990年発行 発行者ジョン・ワイリー・アンド・サンズ)に記載の値を採用した。また、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルおよびステアリルアクリレートは、溶液重合後、良く乾燥したポリマーを示差走査熱量計(DSC)により測定した。ホモポリマーのガラス転移点を表1に示す。
【0132】
<乳化分散体の粒子径>
各乳化分散体の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-300(堀場製作所製)を用い、算術平均径の測定値(D50)とした。結果を表1に示す。
【0133】
【0134】
[実施例1~16、比較例1~11]
前記乳化分散体B1-1と、上記で合成した各成分Aの乳化分散体と、ブロックイソシアネート系架橋剤としてのメイカネートFM-1(明成化学工業社製ブロックドイソシアネート:有効成分30%)と、無機系滑脱防止剤として市販のコロイダルシリカ(スノーテックスAK(数平均一次粒子径 10-15nm、M値0)、日産化学工業社製、「スノーテックス」は同社の登録商標)を表2~4のように配合し、繊維用表面処理剤とした。組成を表2~4に示す。
【0135】
[実施例17]
合成例13の乳化分散体(成分Aと成分Bの複合物の乳化分散体)と、ブロックイソシアネート系架橋剤としてのメイカネートFM-1(明成化学工業社製ブロックドイソシアネート:有効成分30%)を表3のように配合し、繊維用表面処理剤とした。組成を表3に示す。
【0136】
[実施例18]
合成例14の乳化分散体(成分Aと成分Bの複合物の乳化分散体)と、ブロックイソシアネート系架橋剤としてのメイカネートFM-1(明成化学工業社製ブロックドイソシアネート:有効成分30%)を表3のように配合し、繊維用表面処理剤とした。組成を表3に示す。
【0137】
[実施例19~20、比較例13~14]
疎水性化合物B2としてジメチルシロキサン単位をポリマーの全質量中75質量%以上含む側鎖ジアミン変性シリコーン(官能基等量11000)をカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤により乳化分散されている乳化分散体B2-1(成分B濃度が20質量%の水性乳化分散体)と、上記で合成した各成分A乳化分散体と、ブロックイソシアネート系架橋剤としてのメイカネートFM-1(明成化学工業社製ブロックドイソシアネート:有効成分30%)と、無機系滑脱防止剤として市販のコロイダルシリカ(スノーテックスAK(数平均一次粒子径 10-15nm、M値0)、日産化学工業社製、「スノーテックス」は同社の商標)を表5のように配合し、繊維用表面処理剤とした。組成を表5に示す。
【0138】
[実施例21、比較例15~17]
WO2014/160906号公報を参考にして、ソルビタントリステアレートとヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体がその水酸基等量とイソシアネート等量の重量比率で縮合した疎水性化合物B2をカチオン性界面活性剤とノニオン性界面活性剤により乳化分散させた乳化分散体B3-1(成分B濃度が25質量%の水性乳化分散体)と、上記で合成した各成分A乳化分散体と、ブロックイソシアネート系架橋剤としてのメイカネートFM-1(明成化学工業社製ブロックドイソシアネート:有効成分30%)と、無機系滑脱防止剤として市販のコロイダルシリカ(スノーテックスAK(数平均一次粒子径
10-15nm、M値0)、日産化学工業社製、「スノーテックス」は同社の商標)を表6のように配合し、繊維用表面処理剤とした。組成を表6に示す。
【0139】
<反ポリマータック性の評価>
上記で得られた各繊維用表面処理剤を、それぞれアルミカップに約1gずつ、110℃の乾燥機で1時間乾燥させた。乾燥後、40℃まで降温し形成された被膜を人差し指で触り、タック性と指への被膜の付き具合を評価した。タック性が無く、指に被膜が付かないものを〇、タック性が僅かに有るが指に被膜が付かないものを△、タック性が有り指に被膜が付くものを×とした。
【0140】
<はっ水性の評価>
上記で得られた各繊維用表面処理剤をポリエステルタフタ布(繊維径56dtex)およびナイロン高密度タフタ布(繊維径44dtex)にパティングし、2本のゴムローラーでニップ(ピックアップ30%、42%)し、110℃にて2分間乾燥させた後、170℃にて1分間キュアを行って評価布を作製した。得られた評価布を用い、はっ水性をJIS L 1092(2009)のスプレー法にて評価した。評価布は、いずれの場合も洗濯後自然乾燥を行った。なお、はっ水性は、表2~6に示す1~5の5段階の数値(JISの既定値)にて表記し、数字に+(-)の付いた場合、その数値の評価よりもわずかに良い(悪い)ことを示す。結果を表2~6に示す。
【0141】
(はっ水性の洗濯耐久性の評価)
上記で作製した評価布を洗濯回数0回(HL-0(N))とし、JIS L 1092(2009)に記載の洗濯方法に準じた洗濯を10回(HL-10(N))、20回(HL-20(N))行った後、同様に評価布のはっ水性を評価した。結果を表2~6に示す。
【0142】
<縫目滑脱性の評価>
上記で得られた各繊維用表面処理剤を用いて、ポリエステルタフタ布をはっ水評価と同様に処理し、JIS L 1096-99.8.21.1縫目滑脱法B法に準じて、荷重117.2N(12kgw)にて経糸滑脱で試験を行い、縫目滑脱(mm)を測定した。結果を表2~6に示す。
【0143】
表2~表6に縫目滑脱評価を示す。評価◎は、アパレル要求性能を完全に満たすものである。評価〇は、基準の厳しくないアパレル要求性能を満たすものであるか、他の試験布によっては3.0mmを切り得る可能性があるものである。評価〇~△は、評価〇と評価△との中間程度であって、基準の厳しくないアパレル要求性能を満たすものであるか、他の試験布によっては3.0mmを切り得るものである。評価△は、ポリマーB単独に比べ縫目滑脱の改善が明確に認められるものである。評価×は、アパレル要求性能を満たさないものである。
【0144】
<耐水圧の評価>
実施例2,11及び比較例2,6で得られた各繊維用表面処理剤を用いて、ポリエステルウーリー布をはっ水評価と同様に処理した後、金属ロール-樹脂ロールのカレンダーユニットによって、150℃、ニップ圧130kg/cmにてカレンダー処理を行って評価布を作製した。得られた評価布を用い、耐水圧をJIS L 1096(2009)に記載の静水圧法のA法に準じて試験を行い、5回の平均値を1cm単位に丸めた。結果を表2、4に示す。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
以上の評価から、実施例1~9、11、13~18は、はっ水性(HL-0)、洗濯耐久性、および縫目滑脱の項目が全て良好で有り、性能のバランスに優れているため、総合評価は高い。また、実施例10,12は、Nyの洗濯耐久性がやや劣るが、重要な初期はっ水性(NL-0)については優れており、さらに、縫目滑脱が小さく、総合的に良好な性能を備えている。実施例19,20は、縫目滑脱が大きいが、はっ水性に特に優れており、洗濯耐久性も優れているため、総合評価は高い。実施例21は、20回目の洗濯耐久性(NL-20)については低下しているものの、繊維用表面処理剤として重要な初期はっ水性(NL-0)については優れており、縫目滑脱についても小さく、総合的に良好な性能を備えているため、総合評価は高い。上記に加えて、実施例2、11は耐水圧値が高く、優れている。
【0151】
これに対して、比較例1~6,10は、はっ水性(HL-0)は良好であるものの、縫目滑脱が大きいため、総合評価は実施例より劣る(実施例19,20よりも劣る)。比較例7は、PETおよびNy両者に対するはっ水性の洗濯耐久性(HL-10)が劣っているため、総合評価は低い。比較例8,9は、PETのはっ水性(HL-0)は良好であるものの、Nyに対するはっ水性(HL-0)はやや低く、はっ水性の洗濯耐久性が劣っているため、総合評価は低い。比較例11,12は、縫目滑脱が小さいものの、はっ水性が著しく低いため、繊維製品に対して優れたはっ水性を付与することができないため、総合評価は低い。比較例13は、はっ水性(HL-0)は良好であるものの、縫目滑脱が大きすぎるため、総合評価は低い。比較例14は、はっ水性および洗濯耐久性に劣るため、総合評価は低い。比較例15は、はっ水性(HL-0)は良好であるものの、洗濯耐久性がやや低く、縫目滑脱も大きいため、総合評価は低い。比較例16,17は、洗濯耐久性が著しく低いため、総合評価は低い。上記に加えて、比較例2、6は実施例よりも耐水圧値が低かった。