(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083633
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】電力管理装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20230609BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197430
(22)【出願日】2021-12-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 怜央
(72)【発明者】
【氏名】田中 和英
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】再生可能エネルギー発電設備を含む複数の設備(リソース)の出力制御計画において、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する、各設備の貢献度を評価する電力管理装置を提供する。
【解決手段】電力管理装置100は、再生可能エネルギー発電設備210を含む複数のリソースの電力管理装置であって、複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部11と、組み合わせごとに、所定の期間におけるリソースの制御計画を策定する制御計画部12と、複数の制御計画に基づいてリソースの貢献度を算出する貢献度評価部13を備える。貢献度は、リソースが参加する場合の利得とリソースが参加しない場合の利得の差分を利得増分とするとき、リソースが参加することによる利得増分の期待値とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、
前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、
前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、
複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの貢献度を算出する貢献度評価部を備える
ことを特徴とする電力管理装置。
【請求項2】
前記リソースが参加する場合の利得と前記リソースが参加しない場合の利得の差分を利得増分とするとき、前記貢献度は、前記リソースが参加することによる利得増分の期待値とする
ことを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項3】
前記制御計画部は、前記部分集合列挙部から制御可能として扱うリソース、前記リソースの状態、電力単価の予測値、前記リソースの出力の予測値に基づいて制御計画を出力することを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項4】
前記部分集合列挙部は、部分集合を策定する際に、制御できないリソースを除外する機能を有することを特徴とする請求項3に記載の電力管理装置。
【請求項5】
前記貢献度評価部は、前記制御計画部が実行可能解を見出だせなかった場合、利得を0と解釈する機能を有することを特徴とする請求項4に記載の電力管理装置。
【請求項6】
前記複数のリソースは、異なる事業者に属している
ことを特徴とする請求項2に記載の電力管理装置。
【請求項7】
前記事業者が保有するリソース以外の貢献度を閲覧できないように、算出された前記貢献度の評価結果について、前記事業者ごとに閲覧可能範囲を変更可能な機能を有する画面表示部を備えることを特徴とする請求項6に記載の電力管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の再生可能エネルギー発電設備の導入量は、固定価格買取制度(以下、Feed-in-Tariffの頭文字を取ってFIT)によって急速に増加しつつある。電気には同時同量の性質があるため、再生可能エネルギー発電設備の出力が増えると、火力発電設備の出力を抑制する必要がある。火力発電設備の出力を抑制すると、火力発電設備がガバナーフリー制御や負荷周波数制御によって電力系統に供給してきた調整力が減少する。結果として、電力系統の周波数維持が難化する。そこで近年、電力系統の周波数維持を確実なものとするため、再生可能エネルギー発電設備に出なりの出力を認めず、技術要件を課す方向性で検討が進んでいる。
【0003】
しかし、再生可能エネルギー発電設備が技術要件を遵守できるとは限らない。再生可能エネルギー発電設備の出力は気象の影響を強く受けるため、精度高く出力予測することは難しい。とくに風力発電の場合、風力エネルギーは風速の3乗に比例するため、僅かな風速の気象予報誤差が、大きな出力予測誤差を生む。また、太陽光発電や風力発電は、出力を減少させる制御は可能であっても、投入されるエネルギー源を超えて出力を増加させる制御は困難である。
【0004】
ここで、2022年4月に施行されるエネルギー供給強靱化法ではFITからフィードインプレミアム制度(以下、Feed-in-Premiumの頭文字を取ってFIP)への移行が予定されている。FIPでは電源種別が異なってもバランシング・グループを組成できるとされている。バランシング・グループとは、インバランス(計画値と実績値の差異)を精算する事業者の集団である。バランシング・グループ内で協調的に制御することで、インバランス発生に伴うペナルティを低減させる仕組みである。電源種別が異なるバランシング・グループ組成が可能になることで、再生可能エネルギー発電設備の出力を参照値として技術要件を遵守するのではなく、再生可能エネルギー発電設備と異種設備との合成出力を参照値として技術要件を遵守することができるようになると考えられる。
【0005】
特許文献1では、再生可能エネルギー発電設備に課せられた技術要件(変動緩和要件)を、再生可能エネルギー発電設備の出力制御機能や、併設された蓄電設備の充放電によって遵守する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では、技術要件(電力供給事業者の電力制限要請指令)に対して、電力制限要請予測量を求め、各需要家の蓄電池の蓄電量を考慮しつつ、各需要家への分配量である電力制限分配予測量を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-140862号公報
【特許文献2】特開2018-033273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、再生可能エネルギー発電設備と異種設備を協調的に制御するとき、各設備の制御が技術要件の遵守に寄与した割合は自明ではない。電源種別ごとに得意または不得意とする制御が異なるためである。電力系統への注入(発電)を増減させることで技術要件の遵守に寄与できる設備もあれば、電力系統からの抽出(消費)を増減させることで技術要件の遵守に寄与できる設備もある。瞬間的な出力制御は得意だが出力制御を持続できる時間が限られる設備もある。
【0009】
また、各設備の事業者が異なるとき、再生可能エネルギー発電設備の売電収入を分配する必要が生じるため、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件を遵守するだけではなく、技術要件に対する各設備の貢献度を評価できることが望ましい。
【0010】
しかし、いずれの先行技術文献にも、再生可能エネルギー発電設備と異種設備の出力制御計画において、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する、各設備の貢献度を評価する方法は開示されていない。
【0011】
特許文献1では、太陽光発電設備と風力発電設備のいずれかを出力抑制する場合、電力単価が低いほうを優先的に出力抑制することで、売電収入を大きくする方法が開示されている。しかし、電力単価が同じ場合や、電力単価が変化して大小関係が入れ替わりうる場合は想定されていない。また、再生可能エネルギー発電設備と蓄電設備との協調制御が開示されているが、蓄電設備の充放電が、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する貢献度は十分に議論されていない。さらに、需要設備の負荷制御と組み合わせることは明示的には想定されていない。
【0012】
特許文献2では、デマンドレスポンス(DR)の成否および貢献度に応じて、各需要家へのインセンティブやペナルティを与える方法が開示されている。とくに、蓄電設備の放電や、需要家の負荷制御(消費電力量の削減)といった、電力系統からの受電電力量を減らす制御が開示されている。しかし、蓄電設備の充電や、需要家の負荷制御(消費電力量の増加)といった、電力系統からの受電電力量を増やす制御は、明示的には想定されていない。また、技術要件に応じるインセンティブが大きいとは限らない場合、各設備は、実需給前に、技術要件に応じるか判断できるほうが望ましい。例えば、需要設備の負荷制御は、需要設備の操業変更を要する場合があるため、負荷制御に伴うインセンティブが不十分な場合、負荷制御しないほうが、需要設備の事業者にとって経済的となる可能性がある。
【0013】
したがって、各設備の制御を計画する段階で、技術要件に対する各設備の貢献度を把握できる方法が望ましい。しかし、特許文献2では、DR貢献度の算出にあたって、DR分配予測量だけではなく、DR実績量も要するため、各設備の制御を計画する段階で各設備の貢献度を把握することに困難が生じうる。
【0014】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、再生可能エネルギー発電設備を含む複数の設備(リソース)の出力制御計画において、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する、各設備の貢献度を評価する電力管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明の電力管理装置は、再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの貢献度を算出する貢献度評価部を備えることを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、再生可能エネルギー発電設備を含む複数の設備の出力制御計画において、再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する、各設備の貢献度を評価する電力管理装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る電力管理装置の全体構成を示す図である。
【
図4】貢献度評価部の貢献度評価処理を示すフロー図である。
【
図5】需要設備の負荷制御の貢献度評価例を示す数表である。
【
図6】2つの部分集合の制御計画例を比較するグラフである。
【
図7】2つの部分集合の制御計画例を比較する他のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(全体構成)
図1は、電力管理装置100の全体構成例を示す図である。電力管理装置100は、ネットワークNWを介してリソース200、気象情報会社300、日本卸電力取引所400等と通信できるように接続されている。電力管理装置100は、再生可能エネルギー発電設備210を含む複数のリソースの電力管理装置である。
(リソース)
リソース200は、発電、電力消費、充放電をする設備である。例えば、再生可能エネルギー発電設備210、需要設備220、蓄電設備230が挙げられる。リソース200には、前記のほか、内燃機関や燃料電池をはじめとする再生可能エネルギーによらない発電設備を含んでもよい。各リソースは、無線有線問わず遠隔で状態監視や制御する機能を有するものとし、同一構内であってもよく、連系点が異なってもよい。
【0019】
図1では、3種類のリソースが、それぞれ異なる事業者E1,E2,E3に属しており、この3種類のリソースでバランシング・グループを構成している様子を例示している。なお、3種類のリソースがそれぞれ異なる事業者に属するだけではなく、2種類のリソースと、1種類のリソースが、それぞれ異なる事業者に属してもよい。
【0020】
再生可能エネルギー発電設備210は、再生可能エネルギーをエネルギー源とし、増速機やインバータによって商用周波数に変換する機能を有する発電設備である。例えば、風力発電設備211や太陽光発電設備が挙げられる。
【0021】
需要設備220は、負荷を動作させる目的で専ら電力を消費する設備である。負荷は、空調、照明、動力、IT機器を含む。例えば、住居、オフィスビル、工場のほか、データセンタ、水電解装置が挙げられる。
【0022】
蓄電設備230は、化学反応または運動エネルギーへの変換によって、電力を蓄える設備である。化学反応によって電力を蓄える設備としては、例えば、リチウムイオン二次電池やナトリウム硫黄電池が挙げられる。運動エネルギーへの変換によって電力を蓄える設備としては、例えば、フライホイールが挙げられる。定置型であってもよく、電気自動車に搭載された蓄電池のように移動型であってもよい。
【0023】
内燃機関は、ガスタービン、ガスエンジン、ディーゼルエンジンを含む。燃料電池は、固体酸化物形燃料電池、固体高分子形燃料電池を含む。
【0024】
(電力管理装置100の構成)
電力管理装置100は、処理部10、記憶部20、入力部30、表示部40、通信部50を有する。処理部10には、部分集合列挙部11、制御計画部12、貢献度評価部13、画面表示部14、入力処理部15等を備える。記憶部20には、リソース状態データベース21、気象情報データベース22、リソース設定データベース23、電力単価データベース24、制御計画結果データベース25、貢献度評価結果データベース26等を記憶している。処理部10の各部については後述する。
【0025】
処理部10は、中央演算処理装置(CPU)であり、メモリに格納される各種プログラムを実行する。メモリは、電力管理装置100が処理を実行する各種プログラムおよび一時的なデータを保持する。表示部40は、ディスプレイなどであり、電力管理装置100による処理の実行状況や実行結果などを表示する。入力部30は、キーボードやマウスなどのコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動などの指示を入力する。通信部50は、ネットワークNWを介して、他の装置と各種データやコマンドを交換する。記憶部20は、電力管理装置100が処理を実行するための各種データを保存する。
【0026】
(電力管理装置100の数理モデル)
以下、電力管理装置100の数理モデルを、風力発電設備211の出力抑制制御、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電制御、の3種類である場合で例示する。全リソースが参加することで得られる利得に占める、各リソースの貢献度は、各リソースが参加することによる利得増分の期待値とする。
【0027】
ここでは、例えば、需要設備220の負荷制御の貢献度を評価することを考える。
(a)まず、風力発電設備211の出力抑制制御の条件と蓄電設備230の充放電制御の条件が同一で、需要設備220の負荷制御の条件が異なる制御計画をそれぞれ策定する。
(b)次に、需要設備220の負荷制御が参加する場合に得られる利得と、需要設備220の負荷制御が参加しない場合に得られる利得を比較し、増分を算出する。
(c)さらに、得られた利得増分を、出現確率を重みとして加重平均することで、期待値を算出する。
【0028】
ここで、風力発電設備211の出力抑制制御、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電制御、の3種類を全体集合と捉えると、部分集合の要素数は8(=2の3乗)である。すなわち、
(S1)いずれのリソースも参加しない、
(S2)風力発電設備211の出力抑制制御が参加する、
(S3)需要設備220の負荷制御が参加する、
(S4)蓄電設備230の充放電制御が参加する、
(S5)風力発電設備211の出力抑制制御と需要設備220の負荷制御が参加する、
(S6)需要設備220の負荷制御と蓄電設備230の充放電制御が参加する、
(S7)風力発電設備211の出力抑制制御と蓄電設備230の充放電制御が参加する、
(S8)風力発電設備211の出力抑制制御と需要設備220の負荷制御と蓄電設備230の充放電制御が参加する、である。このうち、(S1)は空集合であり、(S8)は全体集合である。以下では、(S1)~(S8)を使用して説明する。
【0029】
風力発電設備211の出力抑制制御の条件と蓄電設備230の充放電制御の条件が同一で、需要設備220の負荷制御の条件が異なる制御計画の組み合わせは、(S1)と(S3)、(S2)と(S5)、(S4)と(S6)、(S7)と(S8)、である。それぞれ比較して、利得増分を得る。例えば、後述する
図5の上段の表61において、(S1)は、3つのリソースは全て不参加であるが、(S3)は、需要設備220が参加しているので、(S1)と(S3)が組み合わせとなる。
【0030】
また、(S1)と(S3)、(S2)と(S5)、(S4)と(S6)、(S7)と(S8)、の出現確率は、空集合から各リソースが一つずつ参加して全体集合に至るまでの順列に出現する回数から算出できる。ここで、空集合から全体集合に至るまでの順列は6通り(=3!)である。すなわち、
図5の上段の表61を参照して、
(P1):(S1)→(S2)→(S5)→(S8)、
(P2):(S1)→(S2)→(S7)→(S8)、
(P3):(S1)→(S3)→(S5)→(S8)、
(P4):(S1)→(S3)→(S6)→(S8)、
(P5):(S1)→(S4)→(S6)→(S8)、
(P6):(S1)→(S4)→(S7)→(S8)、
である。以下では、(P1)~(P6)を使用して説明する。
【0031】
具体的に説明すると、
図5の上段の表61から、(P1)の場合、(S1)の空集合から、(S2)で風力発電設備211が参加し、(S5)で需要設備220が参加し、(S8)で蓄電設備230が参加して全体集合になっていることがわかる。(P2)の場合、(S1)の空集合から、(S2)で風力発電設備211が参加し、(S7)で蓄電設備230が参加し、(S8)で需要設備220が参加して全体集合になっていることがわかる。(P3)の場合、(S1)の空集合から、(S3)で需要設備220が参加し、(S5)で風力発電設備221が参加し、(S8)で蓄電設備230が参加して全体集合になっていることがわかる。(P4)から(P6)は説明を省略する。
【0032】
このうち、
(S1)→(S3)が出現するのは(P3)と(P4)、
(S2)→(S5)が出現するのは(P1)、
(S4)→(S6)が出現するのは(P5)、
(S7)→(S8)が出現するのは(P2)と(P6)、
である。
【0033】
よって、(P1)から(P6)が同様に確からしいとすると、
(S1)と(S3)の出現確率は2/6、
(S2)と(S5)の出現確率は1/6、
(S4)と(S6)の出現確率は1/6、
(S7)と(S8)の出現確率は2/6、
となる。
【0034】
以上より、需要設備220の負荷制御の貢献度を、(S1)から(S8)の利得をそれぞれ算出し、(S1)と(S3)、(S2)と(S5)、(S4)と(S6)、(S7)と(S8)、の組み合わせで、利得増分をそれぞれ算出し、2/6、1/6、1/6、2/6の重みで加重平均した値、とする。このようにして得られた値はシャープレイ値と呼ばれる。(S1)から(S8)が優加法の場合、すなわち参加するリソースが増えることで利得が下がらない場合、シャープレイ値(各組み合わせで利得増分をそれぞれ算出し重みを掛けて加重平均した値)は、一意に定まる性質が知られている。
【0035】
(部分集合列挙部11)
部分集合列挙部11は、リソース状態データベース21から、各リソースの状態を取得して、制御対象とするリソースの一覧を作成する。さらに、制御対象とするリソースの一覧を全体集合と見なして、部分集合を列挙する。制御対象とするリソース数がnの場合、部分集合の要素数は2のn乗である。なお、本実施形態では、前記のように、部分集合の要素数は8(=2の3乗)である。後記の
図5の上段の表61は、制御対処とするリソースの一覧でもあり、かつ、制御対象とするリソースの一覧を全体集合と見なして、部分集合を列挙したものでもある。
【0036】
(部分集合列挙部11の工夫)
部分集合列挙部11では、電力管理装置100が管理する全リソースを全体集合とせず、制御対象とするリソースを全体集合とする。
【0037】
電力管理装置100が管理する全リソース数がn’、貢献度を評価する期間に制御できないリソース数がn”(n’≧n”)の場合を考える。全リソースを全体集合とすると、部分集合の要素数は2のn’乗である。一方、貢献度を評価する期間に制御できないリソースを除外し、制御対象のリソースだけを全体集合とすると、部分集合の要素数は2の(n’-n”)乗となって、2のn’乗よりも小さくなる。即ち(前記のように)、本実施形態では、制御対象のリソースは3つであるので、部分集合の要素数は2の3乗(=8)となる。
【0038】
ここで、シャープレイ値は、いずれの部分集合の組み合わせでも利得増分が0となる要素は、貢献度が0となる性質がある。電力管理装置100が管理しているが、貢献度を評価する期間に制御できないリソースは、そのリソースが参加してもしなくても利得が変わらないため、いずれの部分集合の組み合わせでも利得増分が0となる。したがって、そのリソースの貢献度は0となる。
【0039】
後述するとおり、制御計画部12で算出する利得の数は、部分集合の要素数と同値である。したがって、貢献度を評価する期間に制御できないリソースは全体集合に含めず貢献度を0とし、
図5のように、制御対象のリソースのみ全体集合に含めて貢献度を評価することで、同じ貢献度評価結果を得つつ、制御計画部12の計算量を削減することができる。すなわち、計算精度を落とさずに計算速度を改善できる。
【0040】
電力管理装置100が管理する全リソースを全体集合とせず、貢献度を評価する期間に制御できないリソースを除外し、制御対象とするリソースを全体集合とする処理は、電力管理装置100の管理するリソースが多い際にとりわけ好ましい。
【0041】
部分集合列挙部11は、通信部50によって各リソースと通信し、各リソースの状態を取得し、リソース状態データベース21に記憶する機能を備える。リソースの状態は、貢献度を評価する期間における、当該リソースの制御対象可否を含む。電力管理装置100が管理するが貢献度を評価する期間に制御できないリソースとして、例えば、検査や故障のため出力できない発電設備、非稼働日のため最低負荷で運用していて制御余地がない負荷、が挙げられる。
【0042】
(部分集合列挙部11と入力処理部15)
部分集合列挙部11は、複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する機能を有するものである。この部分集合列挙部11は、入力処理部15によって、制御対象とするリソースを設定する機能を備えてもよい。例えば、あるリソースが検査や故障を理由として停止する場合、当該リソースを制御対象から外すよう設定できる手段を備えることが好ましい。また、運用後にリソースを増設することが想定される場合、制御対象に当該リソースを追加できるように設定できる手段を備えることが好ましい。
【0043】
(制御計画部12)
図2は、制御計画部12の処理S120を示すフロー図である。制御計画部12は、部分集合列挙部11からリソースの部分集合を取得して、それぞれの制御計画を策定し、各制御計画で得られる利得を算出する。制御計画部12は、各部分集合の利得の算出を開始すると(処理S121)、リソース出力予測処理S122、電力単価予測処理S123、制御計画処理S124、利得算出処理S125、の順で実行する。即ち、制御計画部12は、部分集合の組み合わせごとに、所定の期間におけるリソースの制御計画を策定するとともに、各部分集合の利得算出処理S125などを行う。
【0044】
(制御計画部12のリソース出力予測処理S122)
制御計画部12は、リソース出力予測処理S122として、気象情報データベース22から気象情報、リソース設定データベース23からリソース設定、をそれぞれ取得し、各リソースの出力を予測する。
【0045】
制御計画部12は、通信部50を介して気象情報会社300(
図1参照)と通信し、各リソース近傍の気象予報を取得し、気象情報データベース22に記憶する機能を備える。取得する気象予報は、予測する各時刻における、日射量、降雪量、風速、風向、気温、湿度、を含む。
【0046】
制御計画部12は、通信部50を介して各リソースと通信し、各リソースの設定を取得し、リソース設定データベース23に記憶する機能を備える。リソースの設定は、気象情報と各リソースの出力の関係を表すモデルを含む。
【0047】
リソースの設定は、リソースの特性によって異なり、例えば以下が挙げられる。
再生可能エネルギー発電設備210の場合、例えば、再生可能エネルギー発電設備210210に課せられた出力変化率の上限値が挙げられる。
【0048】
再生可能エネルギー発電設備210の一種である風力発電設備211の場合、例えば、風速と出力の関係を示すパワーカーブ、最大出力、現在出力が挙げられる。風況解析によって高精度化を図るため、風力発電設備211の周辺の起伏や地表面粗度といった地形条件を含んでもよい。
【0049】
再生可能エネルギー発電設備210の一種である太陽光発電の場合、例えば、日射量と出力の関係を示すパネル変換効率、最大出力、現在出力が挙げられる。パネル変換効率は、パネル温度によって値が変わるため、パネル変換効率と気温の関係を示すモデルを含んでもよい。豪雪地帯では、太陽光パネルの積雪が出力を減じるため、積雪量を予測する目的で、パネルの傾斜角を含んでもよい。
【0050】
内燃機関や燃料電池の場合、例えば、所定時刻に出力できる割合、最低出力、最後に起動または停止した時刻、が挙げられる。
【0051】
上記に挙げた発電設備が、メンテナンス時に縮退運転する機能を有する発電設備の場合、最大出力は発電機の定格出力と異なる場合があるので、リソースの設定に最大出力を含めることは好ましい。
【0052】
需要設備220の一種であるデータセンタの場合、例えば、最大受電電力、現在受電電力、定休日、消費電力と気温との相関式、所定時刻に負荷を制御できる割合が挙げられる。気温と消費電力との相関式の推定にあたっては、IT機器の消費電力と、IT機器を冷却するための消費電力と、に分解し、それぞれ気温との相関式を推定してもよい。
【0053】
蓄電設備230の場合、例えば、最大充電電力、最大放電電力、現在出力、最大容量、現在充電率(State-of-Charge;SoC)が挙げられる。なお、蓄電設備230はSoCを推定するために一部の蓄電池を満充電または完全放電することがあり、蓄電設備230の最大充電電力、最大放電電力、容量は、蓄電設備230に搭載された蓄電池の最大充電電力、最大放電電力、容量の合計値と同値でなくてもよい。
【0054】
(制御計画部12の電力単価予測処理S123)
制御計画部12は、電力単価予測処理として、電力単価データベース24から電力単価の予測に必要なデータを取得し、電力単価を予測する。制御計画部12は、気象情報データベース22から気象情報を取得し、電力単価予測を高精度化すると好ましい。
【0055】
電力単価の予測手法として、例えば、過去の電力単価、とくに、前年の同時期の電力単価、気象条件や平休日区分が類似している電力単価、に基づいて予測する手法が挙げられる。
【0056】
再生可能エネルギー発電設備210が多い地域で、他の再生可能エネルギー発電設備の出力を予測することを通じて、過去の電力単価から予測される電力単価を補正してもよい。例えば九州は太陽光発電設備の導入量が多く、九州全域にわたって日射量が多い時刻においては、電力単価が低くなる傾向がある。なお、電力単価が日本卸電力取引所400(
図1参照)の約定価格と連動しない契約で運用されている場合、契約されている電力単価を、電力単価の予測値として返すように設定すればよい。
【0057】
制御計画部12は、通信部50によって電力単価の予測に必要なデータを取得し、電力単価データベース24に記憶する機能を備える。電力単価の予測に必要なデータには、日本卸電力取引所400(
図1参照)が配信する電力単価の実績データが挙げられる。外部機関が配信する電力単価の予測値を含んでもよい。また、同一電力会社管内で大規模な発電所が定期検査や不具合で停止する情報を含んでもよい。同一電力会社管内で大規模な発電所が停止する場合、供給量の減少を予測でき、電力単価が過去の電力単価から予測されるよりも高くなると予測できる。
【0058】
(制御計画部12の制御計画処理S124)
制御計画部12は、制御計画処理S124として、リソースの制御量を変数とし、リソースおよび合成出力に関する制約条件を遵守しつつ、所定の目的関数を最適化して、制御計画を策定する。さらに、制御計画部12は、最適化された制御計画を、制御計画結果データベース25に記憶する機能を備える。制御計画は、所定の時間間隔、所定の期間で策定する。時間間隔は、例えば3秒ごとや10分ごととする実装がありうる。期間は、例えば1日とする実装がありうる。
【0059】
(制御計画処理S124の変数)
制御計画処理S124の変数として、ある時刻の再生可能エネルギー発電設備210の出力(kW)、需要設備220の負荷制御(kW)、蓄電池の充放電(kW)、内燃機関や燃料電池の出力(kW)が挙げられる。需要設備220に対する負荷制御は、例えば、データセンタにおいてIT機器を動作させる時間を変更する制御や、水電解装置において水を電気分解する時間を変更する制御であってもよい。制御計画の表現力を上げるため、連続変数やバイナリ変数(0または1を取る変数)、を含んでもよい。連続変数によって、例えば蓄電設備230のSoCを表現できる。バイナリ変数によって、例えば内燃機関や燃料電池の起動停止を表現できる。
【0060】
(制御計画処理S124の各リソースに関する制約条件)
制御計画処理の制約条件には、各リソースに関するものと、合成出力に関するものがある。再生可能エネルギー発電設備210に関する制約条件として、ある時刻に出力可能な最大出力、非負制約、が挙げられる。例えば太陽光発電設備や風力発電設備211の場合、出力予測部から取得した予測値を超えない、0以上の実数値、とする実装がありうる。
【0061】
需要設備220の負荷制御に関する制約条件として、ある時刻に制御可能な最大負荷が挙げられる。例えば出力予測部から取得した負荷の予測値に対して、制御可能な割合は所定未満とする実装がありうる。
【0062】
また、一日を通じて正方向に出力制御する量と、負方向に出力制御する量が、同程度にする実装もありうる。この処理は例えば、需要設備220がデータセンタであって、制御する負荷が機械学習を実行するためのIT機器である場合に好適である。機械学習を活用するソフトウェアは、学習モードと推論モードを備える。学習モードでは、大量のデータを用いて、ニューラルネットワークや決定木の係数や構造を、反復処理によって調整する。推論モードでは、学習モードで得られたニューラルネットワークや決定木を使用して、少量のデータを分類や回帰する。学習モードを任意の時間に移動する制御は、使用者の便益を損なわない制御として、データセンタに好適である。消費電力が多いモードは大量のデータや反復処理を含む学習モードである一方、使用者がソフトウェアから示唆を得るモードは推論モードだからである。しかし、学習モードを任意の時間に移動するといっても、無制限に移動すると、推論モードに支障が出かねない。そこで、学習モードを任意の時間に移動するが、日をまたいで移動できない、という制約を課すことは有用である。
【0063】
蓄電設備230に関する制約条件として、最大充電電力、最大放電電力、容量上下限、が挙げられる。ほかに、計画する期間における終端のSoCを与えてもよい。蓄電池は充放電を繰り返すと容量が劣化する性質が知られており、不必要な充放電を抑制する実装が好ましい。例えば、制御計画処理の目的関数が売電電力量の最大化であるとき、終端のSoCを与えないと、計画する期間の終端において、全放電する制御が最適となる可能性があって好ましくない。
【0064】
内燃機関や燃料電池に関する制約条件として、ある時刻に出力できる最大出力、が挙げられる。また、内燃機関は不完全燃焼を避けるために最低出力が設定されている場合があり、内燃期間に関する制約条件として、ある時刻に出力できる最低出力を含んでもよい。さらに、内燃機関や燃料電池は、起動してから発電に至るまでの準備時間が長いことがあり、起動回数を低減する制御が好ましい場合がある。そこで、内燃機関や燃料電池に関する制約条件として、1日に起動できる回数を含んでもよく、一定時間が経過していなければ起動または停止できない制約を課してもよい。
【0065】
(制御計画処理S124の合成出力に関する制約条件)
合成出力に関する制約条件として、ある時間窓における最大出力変化幅、ある時間帯における増減方向、非負制約、が挙げられる。ある時間窓における最大出力変化幅は、例えば、5分間の最大変化幅が再生可能エネルギー発電設備210の定格出力の10%以内とする実装、1分前と比較して出力変化幅が定格出力の1%以内とする実装が挙げられる。ある時間帯における増減方向は、例えば、7時から10時までは合成出力を減少させない、とする実装が挙げられる。
【0066】
リソースに内燃機関を含む場合、再生可能エネルギー発電設備210を制御するために、不必要に内燃機関による売電電力量を増やすことは好ましくない。そこで、合成出力に占める再生可能エネルギー発電設備210の出力の割合が所定以上とする制約条件を含めてもよい。
【0067】
(制御計画処理S124の目的関数)
制御計画処理の目的関数として、売電収入の最大化が挙げられる。売電収入は、例えば、電力単価予測部から取得した電力単価の予測値と、各リソースの出力と、の内積とする実装がありうる。
【0068】
再生可能エネルギー発電設備210の売電電力量には、電力そのものの価値に加えて、非化石価値や環境価値が付与されることがある。そこで、再生可能エネルギー発電設備210の売電電力量に対する電力単価は、内燃機関の売電電力量に対する電力単価に、所定の金額を上乗せした値としてもよい。
【0069】
再生可能エネルギー発電設備210の発電電力量によって蓄電設備230を充電したことを示せる場合、蓄電設備230の売電電力量にも非化石価値や環境価値が認められる可能性がある。したがって、蓄電設備230の売電電力量に対する電力単価も、内燃機関の売電電力量に対する電力単価に、所定の金額を上乗せした値としてもよい。
【0070】
需要設備220の負荷制御は、電気の使用者から負荷を移動させるための対価や報酬が要求される場合がある。そこで、需要設備220の負荷制御量に、所定の係数をかけた値を費用項とし、売電収入から減じてもよい。
【0071】
蓄電設備230は、充放電を繰り返すとサイクル劣化が生じる。そこで、蓄電設備230の充放電電力量に、所定の係数をかけた値を罰則項とし、売電収入から減じてもよい。
【0072】
内燃機関や燃料電池は、発電に燃料を要する。そこで、内燃機関や燃料電池の発電電力量に、燃料消費効率を表す係数と、燃料単価を表す係数と、をかけた値を費用項とし、売電収入から減じてもよい。
【0073】
(制御計画処理S124の解法)
制御計画処理S124の解法として、例えば線形計画法が挙げられる。線形計画法は、変数、制約条件、目的関数が線形の場合、実行可能解が存在する限り、広域最適解を探索できる性質があって、様々な分野で使用されている。整数変数やバイナリ変数を含む場合、混合整数計画法に帰着してもよい。変数、制約条件、目的関数を線形では近似し難い場合、遺伝的アルゴリズムや粒子群最適化法をはじめとする進化的計算手法に帰着してもよい。
【0074】
(制御計画処理S124の制御計画例)
図3は、風力発電設備211の出力抑制制御、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電制御、を想定した、ある一日の制御計画例を示すグラフである。上から順に、風力発電設備211の出力、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電、合成出力を表す。横軸は同一スケールの時刻である。需要設備220の負荷制御は、消費電力の減少を正値、消費電力の増加を負値としている。蓄電設備230の充放電は、放電を正値、充電を負値としている。風力発電設備211(風車)の出力は、時刻によって0(MW)から4(MW)に変化している。
【0075】
需要設備220の負荷制御は、風力発電設備211の出力が相対的に高かった13時までは消費電力を減少させるよう計画している。なお、本計画では、負荷制御の日合計値をゼロ、すなわち消費電力の減少量と増加量が同値になるように計画している。そのため、13時以降は消費電力を増加するよう計画している。即ち、気象情報により13時までは風力発電の出力が高いと想定されるので、その想定の下、13時までは消費電力を減少させるよう計画している。
【0076】
蓄電設備230は、主として風力発電設備211の出力と逆向きに出力するように計画している。結果として、風力発電設備211の出力、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電の合計値である合成出力は、風力発電設備211の出力と比較すると、変動が緩和されている。とくに、出力変化率が直線的、すなわち出力変化率の上限を遵守するように計画できている。また、11時半から13時半までは合成出力が平坦であり、増減させない制約を遵守するように計画できている。
【0077】
(制御計画部12の利得算出処理S125)
制御計画部12は、利得算出処理S125として、各部分集合の制御計画で得られる利得を算出する。制御計画に実行可能解がある場合、最適解で得られる利得であってよい。
【0078】
(制御計画部12の利得算出処理S125のフォールバック機能)
貢献度を評価する際、いずれの部分集合でも利得が得られていることを前提としている。しかし、制御計画処理S124では、任意の部分集合に対して、実行可能解を探索できるとは限らない。例えば、(S1)のように、いずれのリソースも制御しない場合、合成出力に課せられた出力制御要件を遵守できない場合がある。実行可能解がない部分集合を異常と判定すると、貢献度を評価できなくなってしまう。
【0079】
そこで、利得算出処理S125にフォールバック機能(通常手段が使えない場合、代替手段によって続行する機能)を持たせることは有用である。特に、制御計画処理S124で実行可能解がない場合、その部分集合を異常と判定するのではなく、得られる利得を0(ゼロ)と見なす実装がありえる。
【0080】
(貢献度評価部13)
貢献度評価部13は、制御計画部12から各部分集合の利得を取得し、各リソースの貢献度を評価し、貢献度評価結果データベース26に貢献度評価結果を記憶する機能を備える。
【0081】
図4は、貢献度評価部13の貢献度評価処理S130を示すフロー図である。貢献度評価部13は、各リソースの貢献度の評価を開始すると(処理S131)、まず当該リソースの条件のみが異なる部分集合の組み合わせを列挙し(処理S132)、次に各組み合わせで利得増分を算出し(処理S133)、さらに出現確率を重みとして利得増分を加重平均して得られた値を、当該リソースの貢献度とする(処理S134)。この
図4のフローチャートの具体例を、
図5を参照して以下に説明する。
【0082】
(貢献度評価部13の計算例)
図5は、リソースが、風力発電設備211の出力抑制制御、需要設備220の負荷制御、蓄電設備230の充放電制御の場合に、需要設備220の負荷制御の貢献度評価例を示す数表である。
【0083】
貢献度評価部13は、処理S132において、当該リソースの条件のみが異なる部分集合の組み合わせである、表62を列挙し、処理S133において、部分集合の組み合わせでの利益増分である、表62の利得増分を算出し、処理S134において、出現確率を重みとして利得増分を加重平均して得られた値を、当該リソースの貢献度として、表62の貢献度を算出している。なお、表62での部分集合の組み合わせは、前述した制御計画の組み合わせである。
【0084】
上段の表61は、制御計画部12から取得した、各部分集合の利得をまとめている。部分集合ごとに、得られる利得は異なる。(S1)と(S3)は実行可能解がなかったので、利得は0である。なお、丸めているが、(S4)よりも(S7)のほうが大きく、(S6)よりも(S8)のほうが大きい。よって、参加するリソースが増えることで利得が下がらないので、利得は優加法である。
【0085】
下段の表62は、需要設備220の負荷制御の条件のみ異なる部分集合の組み合わせを比較し、利得増分を算出し、出現確率を重みとして加重平均を算出することで、需要設備220の負荷制御の貢献度を評価している。なお、比較しやすくするため、上段の表61とは列の順番が異なる。
【0086】
例えば(S2)と(S5)を比較する。
図6は、2つの部分集合の制御計画例を比較するグラフである。上から順に、風力発電設備211の出力、需要設備220の負荷制御、合成出力、累積合成出力を示す。横軸は同一スケールの時刻である。(S5)の実線は需要設備220の負荷制御がある場合を指し、(S2)の破線は需要設備220の負荷制御がない場合を示す。風力発電設備211の出力を比較すると、需要設備220の負荷制御があるほうが、大きい値を取っており、出力抑制を低減できていることが分かる。累積合成出力を比較すると、需要設備220の負荷制御がある場合は約26(MWh)であり、需要設備220の負荷制御がない場合は約22(MWh)である。この累積合成出力の差が、需要設備220の負荷制御が参加することで得られる利得増分の原資となる。
図5のとおり、(S2)の利得は183(千円)であり、(S5)の利得は235(千円)なので、需要設備220の負荷制御が参加することで得られる利得増分は52(千円)である。
【0087】
次に、例えば(S7)と(S8)を比較する。
図7は、2つの部分集合の制御計画例を比較する他のグラフである。凡例は
図6と同様である。(S7)と(S8)の出力はほぼ重なっており、累積合成出力もほぼ同じである。累積合成出力の差が、需要設備220の負荷制御が参加することで得られる利得増分の原資となる。累積合成出力の差が、(S2)と(S5)の差よりも小さいことから、需要設備220の負荷制御が参加することで得られる利得増分も、(S2)と(S5)の差よりも小さくなる。
図5のとおり、(S7)の利得は330(千円)であり、(S8)の利得は358(千円)なので、需要設備220の負荷制御が参加することで得られる利得増分は28(千円)である。
【0088】
同様に、
図5のとおり、(S1)と(S3)を比較すると利得増分は0(千円)、(S4)と(S6)を比較すると利得増分は28(千円)であった。このように、比較する部分集合の組み合わせを変えると、得られる利得増分も変わってしまい、需要設備220の負荷制御の貢献度を一意に定められない。そこで、出現確率を重みとして利得増分を加重平均して、貢献度を一意に定められるようにする。
【0089】
ここで、リソースiの貢献度φ(i)は、リソースiが参加可能な部分集合S(i∈S)において、リソースiが参加する場合に得られる利得ν(S)と、リソースiが参加しない場合に得られる利得ν(S-{i})をそれぞれ算出し、加重平均の重みをγ(S)として、式(1)で定義できる。
φ(i)=Σγ(S)×[ν(S)-ν(S-{i})] (S:i∈S) …(1)
【0090】
加重平均の重みγ(S)は、リソースiが部分集合Sに最後に参加した確率であり、式(2)で定義できる。全リソース数がnなので、全リソース不参加から全リソース参加までの順列はn!である。部分集合Sに含まれるリソース数をsとすると、リソースiが参加する前までの順列は(s-1)!であり、リソースiが参加した後の順列は(n-s)!である。
γ(S)=(s-1)!(n-s)!/n! …(2)
【0091】
図5では、需要設備220の負荷制御が参加することで、(S1)が(S3)に、(S2)が(S5)に、(S4)が(S6)に、(S7)が(S8)になる。その出現確率は、式(2)より、2/6、1/6、1/6、2/6である。
【0092】
以上より、利得増分を、出現確率を重みとして加重平均することで、貢献度を得る。本実施例では、需要設備220の負荷制御の貢献度は、22(千円)であった。
【0093】
同様にして、風力発電設備211の出力抑制制御の貢献度、蓄電設備230の充放電制御の貢献度、をそれぞれ算出する。本実施例では、風力発電設備211の出力抑制制御の貢献度は100(千円)、蓄電設備230の充放電制御の貢献度は235(千円)であった。
【0094】
(貢献度評価部13の検算機能)
貢献度評価部13は検算機能を備えてもよい。全体集合に含まれる全リソースの貢献度の和と、全体集合に含まれる全リソースが参加する制御計画で得られる利得は、一致する性質がある。本性質を利用することで、貢献度の評価結果を検算できる。本実施例でも、丸めているが、全体集合に含まれる全リソースの貢献度の和は358であり、
図5のとおり、全体集合に含まれる全リソースが参加する制御計画で得られる利得である(S8)の利得と一致する。
【0095】
(画面表示部14)
画面表示部14は、貢献度評価結果データベース26から、貢献度評価結果を取得し、各リソースの貢献度を、表示部40に表示する。
【0096】
図8は、事業者E1,E2,E3以外に、電力管理装置100の管理者がいる場合の、画面表示部14の表示例を示す図である。
図8の貢献度表示エリア82に示すように、縦軸を貢献度、横軸を日付、色分けをリソースとする積み上げ棒グラフによって可視化できる。
図8のカレンダーエリア81によって、貢献度表示エリア82に可視化する日付を選択できるようにしてもよい。一日単位で表示してもよく、日別値を集計できる機能を有してもよい。
【0097】
各リソースの貢献度は、各リソースの操業状況と関連しているため、例えば保安や匿名性を確保する観点で、各事業者は自社が保有するリソース以外の貢献度を閲覧できないように、事業者ごとに閲覧可能範囲を変えられる機能は有用である。電力管理装置100で、互いに面識のない事業者や、競合関係にある事業者のリソースを管理する場合に好ましい。
【0098】
図9は、事業者E2の、画面表示部14の表示例を示す図である。事業者E2は、需要設備220の負荷制御をリソースとして提供しており、貢献度表示エリア82に、需要設備220の負荷制御の貢献度のみ表示されている。
【0099】
(入力部30)
入力部30のインターフェースは、キーボード、マウス、音声入力、タッチパネル、ディスプレイであってよい。入力部30と表示部40を同じディスプレイ上に投影してもよい。
【0100】
図10は、入力部30と表示部40を同じディスプレイ上に投影している、入力部30と表示部40の表示例を示す図である。
図10の制御計画表示エリア83は、次日の制御計画が表示される。制御計画結果データベース25から、事業者E2のリソースの該当日における制御計画を表示している。
図10の入力部エリア84には、制御計画表示エリア83に表示された制御計画に関して、承諾可否を選択するボタンを表示している。事業者E2が制御計画を承諾しないボタンを押した場合、該当日において、事業者E2はリソースを提供しない旨を、リソース状態データベース21に反映する。電力管理装置100は、リソース状態データベース21の更新を起点として、貢献度を評価し直す機能を備えてもよい。
【0101】
(記憶部20のデータベースの実装)
リソース状態データベース21、気象情報データベース22、リソース設定データベース23、電力単価データベース24、制御計画結果データベース25、貢献度評価結果データベース26、は、リレーショナルデータベースで実装してもよい。
【0102】
例えば、まず、各リソースに固有のIDを割り振っておき、リソースIDを主キー、リソース名称を属性、とするリソースデータベースを別途設定する。さらに、リソース状態データベースは、日時を主キー、リソースIDを外部キー、リソース状態を属性、とする。また、貢献度評価結果データベースは、日時を主キー、リソースIDを外部キー、貢献度評価結果を属性、とする。運用している過程でリソースが追加されたとき、当該リソースに固有のIDを割り振り、リソースデータベースに当該リソースを追加すれば、他のデータベースの属性を変更せずに運用を継続できるため好ましい。
【0103】
(転用の可能性)
本実施形態では事業者E1,E2,E3がリソースを提供する状況で例示した。一方で、単一の事業者が複数のリソースを制御する場合に電力管理装置100を使用することも有用である。例えば、事業者が設備を増設する場合、増設費用と、増設後の貢献度を比較する際に使用することができる。
【0104】
以上説明した本実施形態の電力管理装置100は、次の特徴を有する。
(1)電力管理装置100は、再生可能エネルギー発電設備210を含む複数のリソースの電力管理装置であって、複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部11と、組み合わせごとに、所定の期間におけるリソースの制御計画を策定する制御計画部12と、複数の制御計画に基づいてリソースの貢献度を算出する貢献度評価部13を備える。これにより、再生可能エネルギー発電設備210を含む複数の設備の出力制御において、再生可能エネルギー発電設備210に係る技術要件の遵守に対する、各設備の貢献度を評価することができる。
【0105】
(2)リソースが参加する場合の利得とリソースが参加しない場合の利得の差分を利得増分とするとき、貢献度は、リソースが参加することによる利得増分の期待値とする。
【0106】
(3)制御計画部12は、部分集合列挙部11から制御可能として扱うリソース、リソースの状態、電力単価の予測値、前記リソースの出力の予測値に基づいて制御計画を出力することができる。
【0107】
(4)部分集合列挙部11は、部分集合を策定する際に、制御できないリソースを除外する機能を有する。これにより、制御計画部12で計算するべき利得の種類を減らすことで、計算精度を落とさずに計算速度を改善できる。
【0108】
(5)貢献度評価部13は、制御計画部12が実行可能解を見出だせなかった場合、利得を0と解釈する機能を有する。これにより、利得が算出されずに異常と判定され、貢献度が算出できない事態を避けることができる。
【0109】
(6)複数のリソースは、異なる事業者に属していてもよい。これにより、バランシング・グループにおける技術要件を遵守することができる。
【0110】
(7)事業者が保有するリソース以外の貢献度を閲覧できないように、算出された貢献度の評価結果について、事業者ごとに閲覧可能範囲を変更可能な機能を有する画面表示部14を備える。これにより、競合する事業者間で保安や匿名性を確保することが可能である。
【符号の説明】
【0111】
10 処理部
11 部分集合列挙部
12 制御計画部
13 貢献度評価部
14 画面表示部
15 入力処理部
20 記憶部
21 リソース状態データベース
22 気象情報データベース
23 リソース設定データベース
24 電力単価データベース
25 制御計画結果データベース
26 貢献度評価結果データベース
30 入力部
40 表示部
50 通信部
81 カレンダーエリア
82 貢献度表示エリア
83 制御計画表示エリア
84 入力部エリア
100 電力管理装置
200 リソース
210 再生可能エネルギー発電設備
211 風力発電設備
220 需要設備
230 蓄電設備
300 気象情報会社
400 日本卸電力取引所
E1,E2,E3 事業者
NW ネットワーク
S122 リソース出力予測処理
S123 電力単価予測処理
S124 制御計画処理
S125 利得算出処理
S130 貢献度評価処理
【手続補正書】
【提出日】2022-04-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、
前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、
前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、
複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの貢献度を算出する貢献度評価部を備え、
前記制御計画は前記リソースの合成出力の変化幅の上下限の制約を含む
ことを特徴とする電力管理装置。
【請求項2】
前記リソースが参加する場合の利得と前記リソースが参加しない場合の利得の差分を利得増分とするとき、前記貢献度は、前記リソースが参加することによる利得増分の期待値とする
ことを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項3】
前記制御計画部は、前記部分集合列挙部から制御可能として扱うリソース、前記リソースの状態、電力単価の予測値、前記リソースの出力の予測値に基づいて制御計画を出力することを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項4】
前記部分集合列挙部は、部分集合を策定する際に、制御できないリソースを除外する機能を有することを特徴とする請求項3に記載の電力管理装置。
【請求項5】
前記貢献度評価部は、前記制御計画部が実行可能解を見出だせなかった場合、利得を0と解釈する機能を有することを特徴とする請求項4に記載の電力管理装置。
【請求項6】
前記複数のリソースは、異なる事業者に属している
ことを特徴とする請求項2に記載の電力管理装置。
【請求項7】
前記事業者が保有するリソース以外の貢献度を閲覧できないように、算出された前記貢献度の評価結果について、前記事業者ごとに閲覧可能範囲を変更可能な機能を有する画面表示部を備えることを特徴とする請求項6に記載の電力管理装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明の電力管理装置は、再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの貢献度を算出する貢献度評価部を備え、前記制御計画は前記リソースの合成出力の変化幅の上下限の制約を含むことを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
リソースの設定は、リソースの特性によって異なり、例えば以下が挙げられる。
再生可能エネルギー発電設備210の場合、例えば、再生可能エネルギー発電設備210に課せられた出力変化率の上限値が挙げられる。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、
前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、
前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、
複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの、前記再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する貢献度を算出する貢献度評価部を備え、
前記制御計画は前記リソースの合成出力の変化幅の上下限の制約を含み、
前記制御計画部は、前記部分集合列挙部から制御可能として扱うリソース、前記リソースの状態、電力単価の予測値、前記リソースの出力の予測値に基づいて、実行可能解がない部分集合を含む制御計画を出力し、
前記部分集合列挙部は、部分集合を策定する際に、制御できないリソースを除外する機能を有し、
前記貢献度評価部は、前記制御計画部が実行可能解を見出せなかった場合、利得を0と解釈する機能を有する
ことを特徴とする電力管理装置。
【請求項2】
前記リソースが参加する場合の利得と前記リソースが参加しない場合の利得の差分を利得増分とするとき、前記貢献度は、前記リソースが参加することによる利得増分の期待値とする
ことを特徴とする請求項1に記載の電力管理装置。
【請求項3】
前記複数のリソースは、異なる事業者に属している
ことを特徴とする請求項2に記載の電力管理装置。
【請求項4】
前記事業者が保有するリソース以外の貢献度を閲覧できないように、算出された前記貢献度の評価結果について、前記事業者ごとに閲覧可能範囲を変更可能な機能を有する画面表示部を備えることを特徴とする請求項3に記載の電力管理装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明の電力管理装置は、再生可能エネルギー発電設備を含む複数のリソースの電力管理装置であって、前記複数のリソースから形成し得る制御の組み合わせを列挙する部分集合列挙部と、前記組み合わせごとに、所定の期間における前記リソースの制御計画を策定する制御計画部と、複数の前記制御計画に基づいて前記リソースの、前記再生可能エネルギー発電設備に係る技術要件の遵守に対する貢献度を算出する貢献度評価部を備え、前記制御計画は前記リソースの合成出力の変化幅の上下限の制約を含み、前記制御計画部は、前記部分集合列挙部から制御可能として扱うリソース、前記リソースの状態、電力単価の予測値、前記リソースの出力の予測値に基づいて、実行可能解がない部分集合を含む制御計画を出力し、前記部分集合列挙部は、部分集合を策定する際に、制御できないリソースを除外する機能を有し、前記貢献度評価部は、前記制御計画部が実行可能解を見出せなかった場合、利得を0と解釈する機能を有することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。