(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083660
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】心筋エネルギー計算方法、心筋エネルギー計算システム、心筋エネルギー計算装置及び心筋エネルギー計算プログラム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
G01T1/161 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197474
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100176418
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】長尾 充展
(72)【発明者】
【氏名】河窪 正照
【テーマコード(参考)】
4C188
【Fターム(参考)】
4C188EE02
4C188FF04
4C188KK24
(57)【要約】
【課題】従来の核医学イメージング装置では、鮮鋭度や時間分解能が十分ではなく、組織形態や動態解析に限界があったため、心臓の断層画像から心筋血流と心筋動態を一度に計測できなかった。そのため、心筋血流と心筋動態は密接に関連するにもかかわらず、別々の画像検査で計測され、各計測値は厳密には患者のある同時期の状態を反映したものではなく、独立した指標として用いられてきた。
【解決手段】本発明では、核医学イメージング装置から取得された心臓の断層画像に基づいて心筋血流予備能(MFR)を算出するだけでなく、当該断層画像に特徴追跡技術を適用して、心筋のストレインの血管拡張負荷時と安静時の比を表す心筋ストレイン比(MSR)も算出することで、心臓の同じ断層画像から一度に心筋血流と心筋動態を計測可能とし、それらの値の二乗和の平方根で算出される心筋エネルギーという1つの指標で心筋の状態の評価を容易にする心筋エネルギー計算方法等を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋エネルギー計算方法であって、
核医学イメージング装置から心臓の断層画像を取得する段階と、
前記断層画像から心筋の負荷時血流と安静時血流との比を表す心筋血流予備能(MFR)を算出する段階と、
前記断層画像から心筋のピークストレインを算出する段階と、
前記ピークストレインから心筋の負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出する段階と、
前記MFRと前記MSRに基づいて心筋に関する運動エネルギーを示す心筋エネルギー(ME)を計算する段階と
を含み、
前記MEは、前記MFRと前記MSRの二乗和の平方根で算出されることを特徴とする心筋エネルギー計算方法。
【請求項2】
前記心筋エネルギー(ME)は、A,Bを任意の係数とし、
という式で表されることを特徴とする請求項1に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項3】
前記核医学イメージング装置は、PET装置又はSPECT装置であり、
前記断層画像は、前記PET装置によって撮像されたPET画像又は前記SPECT装置によって撮像されたSPECT画像であることを特徴する請求項1又は2に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項4】
前記断層画像は、全心筋の複数の断面画像を含み、
前記複数の断面画像の各々は、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項5】
前記MFRを算出する段階及び前記MSRを算出する段階よりも前に、
前記所定のフレーム数の連続画像のうちの所定の1フレームの画像に記録された心内膜に沿って複数の特徴点を決定するための入力を受け付ける段階と、
特徴追跡技術を用いて前記複数の特徴点を前記所定のフレーム数の連続画像に渡って追跡する段階と、
前記複数の特徴点のうち、2次元の座標で表される隣り合う2点間の距離の各々について、前記心周期と前記2点間の距離とを軸とする時間ストレイン曲線を生成する段階と、
前記時間ストレイン曲線において、ピーク値を代表値として前記ピークストレインを決定する段階と
を含むことを特徴とする請求項4に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項6】
前記負荷ストレイン及び前記安静ストレインは、それぞれ前記複数の特徴点の距離の和から心内膜の長さを算出し、心周期において拡張末期の前記心内膜の長さを正規化し、そのピーク値であることを特徴とする請求項5に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項7】
前記MEは、心筋の複数の領域毎に対応する値を含み、前記複数の領域に心筋を分割したセグメントモデルに当てはめて表示されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項8】
前記セグメントモデルは、心筋の16の領域に対応するセグメントを含むことを特徴とする請求項7に記載の心筋エネルギー計算方法。
【請求項9】
心筋エネルギー計算システムであって、
核医学イメージング装置と、
情報処理装置と
を含み、
前記核医学イメージング装置は、心臓の断層画像を撮像して記憶し、
前記情報処理装置は、
前記核医学イメージング装置から前記断層画像を取得し、
前記断層画像から心筋の負荷時血流と安静時血流との比を表す心筋血流予備能(MFR)を算出し、
前記断層画像から心筋のピークストレインを算出し、
前記ピークストレインから心筋の負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出し、
前記MFRと前記MSRに基づいて心筋に関する運動エネルギーを示す心筋エネルギー(ME)を計算し、
前記MEは、前記MFRと前記MSRの二乗和の平方根で算出されることを特徴とする心筋エネルギー計算システム。
【請求項10】
前記心筋エネルギー(ME)は、A,Bを任意の係数とし、
という式で表されることを特徴とする請求項9に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項11】
前記核医学イメージング装置は、PET装置又はSPECT装置であり、
前記断層画像は、前記PET装置によって撮像されたPET画像又は前記SPECT装置によって撮像されたSPECT画像であることを特徴する請求項9又は10に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項12】
前記断層画像は、全心筋の複数の断面画像を含み、
前記複数の断面画像の各々は、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像を含むことを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項13】
前記情報処理装置は、前記MFR及び前記MSRを算出するために、
前記所定のフレーム数の連続画像のうちの所定の1フレームの画像に記録された心内膜に沿って複数の特徴点を決定するための入力を受け付け、
特徴追跡技術を用いて前記複数の特徴点を前記所定のフレーム数の連続画像に渡って追跡し、
前記複数の特徴点のうち、2次元の座標で表される隣り合う2点間の距離の各々について、前記心周期と前記2点間の距離とを軸とする時間ストレイン曲線を生成し、
前記時間ストレイン曲線において、ピーク値を代表値として前記ピークストレインを決定することを含むことを特徴とする請求項12に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項14】
前記負荷ストレイン及び前記安静ストレインは、それぞれ前記複数の特徴点の距離の和から心内膜の長さを算出し、心周期において拡張末期の前記心内膜の長さを正規化し、そのピーク値であることを特徴とする請求項13に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項15】
前記MEは、心筋の複数の領域毎に対応する値を含み、
前記情報処理装置は、前記複数の領域に心筋を分割したセグメントモデルに当てはめて前記MEを表示することを特徴とする請求項9から14のいずれか1項に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項16】
前記セグメントモデルは、心筋の16の領域に対応するセグメントを含むことを特徴とする請求項15に記載の心筋エネルギー計算システム。
【請求項17】
請求項1から8のいずれか1項に記載の心筋エネルギー計算方法の各段階を実行することを特徴とする心筋エネルギー計算装置。
【請求項18】
コンピュータによって実行させることで、前記コンピュータを請求項17に記載の心筋エネルギー計算装置として機能させることを特徴とする心筋エネルギー計算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核医学イメージング技術を用いている PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置等によって得られた、心筋の血流等を表す画像データから、心筋血流と心筋動態(心筋運動)に関する情報を取得して、両者の情報に基づいた指標を算出することに関する。具体的には、同一検査時の心筋血流及び心筋動態に関する定量的な値をそれぞれ取得し、各定量的な値から心筋に関する運動エネルギーを表す新たな指標(以下、「心筋エネルギー」という)を算出し、心筋を複数領域に分割したセグメントモデルに基づいて、心筋エネルギーを表示するための心筋エネルギー計算方法、システム、装置及びプログラム(以下、「心筋エネルギー計算方法等」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
PET装置、SPECT装置等の核医学イメージング装置は、臓器の血流や代謝など生体の生理機能を画像化(イメージング)することができる。例えば、PET装置やSPECT装置は、放射能を含む薬剤(放射性薬剤)を体内に投与し、体内に投与された放射性薬剤から出る放射線の分布を、体外の様々な方向から特殊なカメラで撮像してコンピュータで画像再構成し、断層画像として画像化することができる(例えば、非特許文献1、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】和田 康弘, 核医学技術の基礎「PET装置による撮像原理」,臨床核医学 Vol. 48 No.1 2015.URL http://www.rinshokaku.com/contents/pdf/sec7/6.pdf (2021年12月3日検索)
【非特許文献2】須田 匡也, 核医学技術の基礎「SPECT装置による撮像から画像処理まで」, 臨床核医学 Vol. 47 No.3 2014.URL http://www.rinshokaku.com/contents/pdf/sec7/2.pdf (2021年12月3日検索)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従前の核医学イメージング装置では、鮮鋭度や時間分解能が十分ではなく、組織形態や動態解析に限界があったため、心臓の同一断層画像から心筋血流と心筋動態を一度に計測することは困難であった。そのため、心筋血流と心筋動態は密接に関連するにもかかわらず、別々の画像検査で計測されていた。別々の画像検査で取得された各計測値は、厳密には患者のある同時期の状態を反映したものではなく、独立した指標として用いられてきた。また、別々の画像検査から取得された画像データの各々は、サイズや画素数が異なっており、同じサイズや画素数に調整等が必要となり、厳密に患者のある同時期の状態を計測することは困難であった。
【0005】
従来の画像検査ではこのような課題が生じている状況において、近年、核医学イメージング技術の進展により、断層画像の画質が向上したことから、心臓等の臓器の輪郭が明瞭に得られるようになった。そこで、本発明では、核医学イメージング装置(例えば、PET装置)によって画像化された、心臓の断層画像(例えば、PET画像)に基づいて心筋血流予備能(Myocardial Flow Reserve; MFR)等の血流値を算出するだけでなく、当該断層画像に特徴追跡(Feature-Tracking)等の動態解析技術を適用して、心筋のストレインの血管拡張負荷時のストレイン(ここでは「負荷ストレイン」と呼ぶ)と安静時のストレイン(ここでは「安静ストレイン」と呼ぶ)の比(ここでは「心筋ストレイン比(Myocardial Strain Ratio; MSR)」と呼ぶ)等の動態値も算出することで、心臓の同じ断層画像(同じサイズ、同じ画素数の画像)から一度に心筋血流と心筋動態を計測可能とし、さらに、それらの値の二乗和の平方根で算出される心筋エネルギーを計算することで、心筋血流と心筋動態を別々の指標で評価するのではなく、心筋エネルギーという1つの指標で心筋に関する運動エネルギーを表して心筋の状態の評価を容易にすることが可能な心筋エネルギー計算方法等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の1つの実施形態として、心筋エネルギー計算方法は、
核医学イメージング装置から心臓の断層画像を取得する段階と、
前記断層画像から心筋の負荷時血流と安静時血流との比を表す心筋血流予備能(MFR)を算出する段階と、
前記断層画像から心筋のピークストレインを算出する段階と、
前記ピークストレインから心筋の負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出する段階と、
前記MFRと前記MSRに基づいて心筋に関する運動エネルギーを示す心筋エネルギー(ME)を計算する段階と
を含み、
前記MEは、前記MFRと前記MSRの二乗和の平方根で算出されることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記心筋エネルギー(ME)は、A,Bを任意の係数とし、
【数1】
という式で表されることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記核医学イメージング装置は、PET装置又はSPECT装置であり、
前記断層画像は、前記PET装置によって撮像されたPET画像又は前記SPECT装置によって撮像されたSPECT画像であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記断層画像は、全心筋の複数の断面画像を含み、
前記複数の断面画像の各々は、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記MFRを算出する段階及び前記MSRを算出する段階よりも前に、
前記所定のフレーム数の連続画像のうちの所定の1フレームの画像に記録された心内膜に沿って複数の特徴点を決定するための入力を受け付ける段階と、
特徴追跡技術を用いて前記複数の特徴点を前記所定のフレーム数の連続画像に渡って追跡する段階と、
前記複数の特徴点のうち、2次元の座標で表される隣り合う2点間の距離の各々について、前記心周期と前記2点間の距離とを軸とする時間ストレイン曲線を生成する段階と、
前記時間ストレイン曲線において、ピーク値を代表値として前記ピークストレインを決定する段階と
を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記負荷ストレイン及び前記安静ストレインは、それぞれ前記複数の特徴点の距離の和から心内膜の長さを算出し、心周期において拡張末期の前記心内膜の長さを正規化し、そのピーク値であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記MEは、心筋の複数の領域毎に対応する値を含み、前記複数の領域に心筋を分割したセグメントモデルに当てはめて表示されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法の好ましい実施形態として、前記セグメントモデルは、心筋の16の領域に対応するセグメントを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの1つの実施形態として、心筋エネルギー計算システムは、
核医学イメージング装置と、
情報処理装置と
を含み、
前記核医学イメージング装置は、心臓の断層画像を撮像して記憶し、
前記情報処理装置は、
前記核医学イメージング装置から前記断層画像を取得し、
前記断層画像から心筋の負荷時血流と安静時血流との比を表す心筋血流予備能(MFR)を算出し、
前記断層画像から心筋のピークストレインを算出し、
前記ピークストレインから心筋の負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出し、
前記MFRと前記MSRに基づいて心筋に関する運動エネルギーを示す心筋エネルギー(ME)を計算し、
前記MEは、前記MFRと前記MSRの二乗和の平方根で算出されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記心筋エネルギー(ME)は、A,Bを任意の係数とし、
【数2】
という式で表されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記核医学イメージング装置は、PET装置又はSPECT装置であり、
前記断層画像は、前記PET装置によって撮像されたPET画像又は前記SPECT装置によって撮像されたSPECT画像であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記断層画像は、全心筋の複数の断面画像を含み、
前記複数の断面画像の各々は、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記情報処理装置は、前記MFR及び前記MSRを算出するために、
前記所定のフレーム数の連続画像のうちの所定の1フレームの画像に記録された心内膜に沿って複数の特徴点を決定するための入力を受け付け、
特徴追跡技術を用いて前記複数の特徴点を前記所定のフレーム数の連続画像に渡って追跡し、
前記正規化し、そのピーク値で表される隣り合う2点間の距離の各々について、前記心周期と前記2点間の距離とを軸とする時間ストレイン曲線を生成し、
前記時間ストレイン曲線において、ピーク値を代表値として前記ピークストレインを決定することを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記負荷ストレイン及び前記安静ストレインは、それぞれ前記複数の特徴点の距離の和から心内膜の長さを算出し、心周期において拡張末期の前記心内膜の長さを正規化し、そのピーク値であることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記MEは、心筋の複数の領域毎に対応する値を含み、
前記情報処理装置は、前記複数の領域に心筋を分割したセグメントモデルに当てはめて前記MEを表示することを特徴とする。
【0021】
本発明に係る心筋エネルギー計算システムの好ましい実施形態として、前記セグメントモデルは、心筋の16の領域に対応するセグメントを含むことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る心筋エネルギー計算装置の1つの実施形態として、前記心筋エネルギー計算装置は、
前記心筋エネルギー計算方法のいずれかの実施形態に記載の心筋エネルギー計算方法の各段階を実行することを特徴とする。
【0023】
本発明に係る心筋エネルギー計算プログラムの1つの実施形態として、前記心筋エネルギー計算プログラムは、コンピュータによって実行させることで、前記コンピュータを前記心筋エネルギー計算装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る心筋エネルギー計算方法等は、PET装置等の核医学イメージング装置において撮像された、心臓のPET画像等の断層画像に基づいてMFRを算出するとともに、当該断層画像に特徴追跡等の動態解析技術を用いてMSRも算出することで、心臓の断層画像から一度に心筋血流と心筋動態を計測可能となり、患者のある同時期の状態を厳密に反映させた検査を行うことができる。これにより、同一サイズ、同一画素数の画像データから心筋血流と心筋動態を計測できるので、従来の別々の画像検査で取得された各画像データのサイズや画素数を統一するような調整操作は不要となる。
【0025】
また、心筋血流と心筋動態に関する情報(MFR、MSR)は全心筋領域における数値情報を含んでおり、心筋を複数領域に分割したセグメントモデル、例えば、心臓核医学における従来の心筋セグメントモデル(17セグメントモデルの心尖部のセグメントを除く16セグメント)に当てはめて一般化することができる。
【0026】
そして、MFRとMSRの二乗和の平方根で算出される心筋エネルギーを計算することで、心筋血流と心筋動態を別々の指標で評価するのではなく、心筋エネルギーという1つの指標で心筋に関する運動エネルギーを表して心筋の状態の評価を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る心筋エネルギー計算システムの概要を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る心筋エネルギー計算方法の流れを示すフローチャートである。
【
図3】核医学イメージング装置により生成された心筋血流イメージの一例を示す図である。
【
図4】心臓核医学における心筋のセグメント分割のモデル(心筋セグメントモデル)の一例を示す図である。
【
図5】PET装置によって取得された心臓の断面画像(PET画像)から算出した心筋血流予備能(Myocardial Flow Reserve; MFR)を
図4に示す心筋セグメントモデルに当てはめて表示した一例を示す図である。
【
図6】心臓のある時間(任意の1フレーム)のPET画像においてポインタで指定された心内膜の輪郭から決定された特徴点を示す図である。
【
図7】特徴追跡(Feature-Tracking)技術を用いた特徴点の追跡の仕組みの概要を示す図である。
【
図8】PET画像における複数の特徴点の追跡の例を示す図である。
【
図9】
図8に示すPET画像における特徴点を追跡した結果(時間ストレイン曲線)の一例を示すグラフである。
【
図10】時間ストレイン曲線のピーク値の一例を示す図である。
【
図11】ある患者のPET画像から算出したMFRに基づいた心筋セグメントモデルと心筋エネルギー(Myocardial Energy; ME)に基づいた心筋セグメントモデルとの表示例を示す図である。
【
図12】受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic; ROC)曲線を用いて心筋エネルギーの有用性の評価結果を示す図である。
【
図13】カプランマイヤー(Kaplan-Meier)曲線を用いて心筋エネルギーの有用性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。なお、実施の形態を説明するための全ての図において、同じものには原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。本発明の個々の実施形態は、独立したものではなく、それぞれ組み合わせて適宜実施することができる。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る機能的虚血検出システムの概要を示す。本発明に係る機能的虚血検出システムは、画像解析装置100と、PET装置、SPECT装置等の核医学イメージング装置200と、データ処理装置210とを含む。核医学イメージング装置200は、データ処理装置210と同じ筐体に含み一体に構成されてもよい。画像解析装置100とデータ処理装置210とは、ネットワークNを介して接続される。
【0030】
画像解析装置100及びデータ処理装置210は、一般的なコンピュータ(情報処理装置)のハードウェア構成を備えるものであり、例示的に、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等からなるメモリと、バスと、入出力インターフェースと、入力部と、出力部と、記憶部と、通信部等のハードウェア資源を含む。
【0031】
CPUは、メモリに記録されているプログラム、又は、記憶部からメモリにロードされたプログラムにしたがって各種の処理を実行する。CPUは、例えば、コンピュータを本発明の画像解析装置として機能させるためのプログラムを実行することができる。また、画像解析装置の少なくとも一部の機能を、特定用途向け集積回路(ASIC)等でハードウェア的に実装することも可能である。本発明のその他のデータ処理装置210についても同様である。
【0032】
メモリには、CPUが各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。CPU及びメモリは、バスを介して相互に接続されている。このバスには、入出力インターフェースも接続されている。入出力インターフェースには、入力部と、出力部と、記憶部と、通信部とが接続されている。入力部は、各種ボタン、タッチパネルあるいはマイク等で構成され、画像解析装置100及びデータ処理装置210の利用者等の指示操作に応じて各種情報を入力する。出力部は、ディスプレイやスピーカ等で構成されており、画像データや音声データを出力する。記憶部は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の半導体メモリまたはハードディスクで構成され、各種データを記憶する。通信部は、他の装置との間で行う通信を実現する。
【0033】
画像解析装置100は、例えば、核医学イメージング装置200やデータ処理装置210から、心臓の断層画像(PET画像又はSPECT画像)データを取得して記憶することができる。
図1に示す実施形態では、画像解析装置100は、核医学イメージング装置200に接続されたデータ処理装置210から、専用回線又は公衆回線等のネットワークNを介して転送された断層画像データを取得することができる。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態に係る心筋エネルギー計算方法の流れを示すフローチャートを示す。
図2に示す心筋エネルギー計算方法の各段階は、例えば、
図1に示す心筋エネルギー計算システムにおける情報処理装置である画像解析装置100によって行われる。まず、画像解析装置100は、核医学イメージング装置200から心臓の断層画像を取得する(段階S1)。例えば、核医学イメージング装置200は、患者等の被検者の胸部(心臓)を時系列的に撮影した断層画像をデータ処理装置210に記憶して、データ処理装置210から当該断層画像を画像解析装置100に送信してもよい。
【0035】
核医学イメージング装置200は、例えば、PET装置、SPECT装置等を用いることができ、断層画像はそれらの装置から取得されるPET画像、SPECT画像を用いることができる。断層画像は、全心筋の複数の断面画像、すなわち、心筋の全領域の各々に相当する断面の画像を含む。複数の断面画像の各々は、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像を含む。例えば、PET装置では、15スライス程度の全心筋の断面の血流画像(断面画像)を含み、当該断面の血流画像は心周期(全心時相)に相当する所定のフレーム数(例えば、一般的には16フレーム)の連続画像を含む。本実施例では、断層画像に含まれる断面画像のサイズを128ピクセル×128ピクセルとすると、128ピクセル×128ピクセル×15スライス×16フレームの血流画像情報が安静時及び負荷時でそれぞれ得ることができる(
図3参照)。
【0036】
図3は、核医学イメージング装置により生成された心筋血流イメージの一例を示す。
図3では、比較のため、アンモニアPET検査において得られたPET画像である心筋血流の負荷像及び安静像を正常な状態と狭心症(虚血陽性)と梗塞とに分けて示す。また、
図3では、SPECT検査において得られたSPECT画像である心筋血流の負荷像及び安静像の正常な状態も示す。
【0037】
アンモニアPET検査において得られたPET画像のうち、正常な状態の負荷像及び安静像では心筋血流は円状に写し出されている。これに対して、狭心症(虚血陽性)の負荷像と梗塞の負荷像及び安静像では、心筋血流は円状ではなく、一部が欠けた円状(半円状)に写し出され、欠損部位(
図3中の矢印で示される部分)が、心筋血流が低下している部位として特定することができる。SPECT検査において同様に、心筋血流の状態を特定することができる。
【0038】
図3に示すアンモニアPETの実施例では、画像解析装置100は、血流量画像データは、安静時と血管拡張剤負荷時の2回を1セットとして収集することができる。つまり、画像解析装置100は、PET装置から安静時の全心筋領域の血流量画像データ(負荷血流画像)と負荷時の全心筋領域の血流量画像データ(安静血流画像)を取得することができ、負荷血流画像から得られる血流量を安静血流画像から得られる血流量で割ること(負荷血流画像から得られる血流量/安静血流画像から得られる血流量を計算すること)で、心筋血流予備能(MFR)を算出することができる。
【0039】
また、画像解析装置100は、必要に応じて、画像データから得られたMFRデータ(例えば、128ピクセル×128ピクセル×15スライス×16フレーム)のうち心筋領域のみのMFRデータを抽出して、従来の心筋セグメントモデル(
図4参照)に当てはめてカラー表示(
図5では白黒の濃淡表示)をすることができる。
【0040】
ここで、
図4は、心臓核医学における心筋のセグメント分割のモデル(心筋セグメントモデル)の一例を示す。
図4に示す例は、一般的な17セグメントモデル(心尖部に対応するセグメント#17と、心筋領域(心基部、基部側壁等)に対応するセグメント#1から#16)である。17セグメントモデルは、心筋の短軸断層像の心基部、中央部、心尖部をそれぞれ6、6、4セグメント、長軸垂直断層の中央のスライスから心尖部の1セグメントを加え17セグメントに分割したものである。
図4は、17セグメントモデルにおいて心筋の前壁、側壁、後壁、中隔の位置関係を示し、左前下行枝(LAD)、左回旋枝(LCX)、右冠動脈(RCA)の位置関係も示す。
【0041】
図5は、PET装置によって取得された心臓の断面画像(PET画像)から算出した心筋血流予備能(MFR)を
図4に示す心筋セグメントモデルに当てはめて表示した一例を示す。このように、負荷血流画像/安静血流画像から算出されたMFRを心筋セグメントモデルに当てはめてカラー表示(
図5では白黒の濃淡表示)することで、心筋血流の状態を容易に把握することができる。
【0042】
図2に示すフローチャートを参照すると、上述したMFRを算出する処理は、心臓の断層画像データを取得した後(段階S1の後)の処理(段階S2から段階S4)に対応する。MFR及び後述するMSRを算出するためには、まず、画像解析装置100は、断層画像データに含まれる心臓のある時間の断面画像において複数の特徴点を指定するための入力を受け付けて解析対象を決定する(段階S2)。
【0043】
図6は、心臓のある時間(任意の1フレーム)のPET画像においてポインタで指定された心内膜の輪郭から決定された特徴点を示す。例えば、画像解析装置100の利用者は、マウス等のポインティングデバイスを用いて、ある時間の断面画像(PET画像)から、心内膜の輪郭をポインタで指定することで、画像解析装置100は、既存の特徴追跡技術等の動態解析技術を用いて、その輪郭から複数の特徴点(
図6に示す例では、11又は12の特徴点)を決定する。このように、解析対象は決定される。また、特徴点は、始点と終点、曲線部分を含めて複数の個(例えば、5から7個)のポイントを設定することで決定することもできる。なお、解析対象は任意に設定することが可能であり、解析対象は領域などであってもよく、画像処理や人工知能を用いた画像認識を利用して、解析対象が自動的に決定されてもよい。また、画像解析装置100の利用者は、マウス等のポインティングデバイスを用いて、PET画像において、手動で心内膜に複数のポイントを設定し、10%程度の濃度上昇・勾配を利用して、自動的に複数のポイントを線状に結び、心内膜の輪郭を抽出するようにしてもよい。
【0044】
解析対象の決定(段階S2)の後、画像解析装置100は、特徴追跡(Feature-Tracking)技術を用いて、解析対象の追跡を行う(段階S3)。
図7は、特徴追跡(Feature-Tracking)技術を用いた特徴点の追跡の仕組みの概要を示す。画像解析装置100は、Feature-Tracking技術を応用して、テンプレートマッチング(template matching)技術を用いた特徴点(ポイント)の追跡を行うことができる。
図7に示されるように、画像解析装置100は、拡張末期(End-diastole)から、収縮末期(End-systole)を経て拡張中期(Mid-diastole)までの心周期における特徴点の変化(移動)を追跡する。テンプレートマッチングでは、拡張末期(End-diastole)の断面画像(PET画像)の特徴点をテンプレート画像(Template image)として、心周期に相当する所定のフレーム数の連続画像の各々において、テンプレート画像と実質的に一致する特徴点を探索して追跡する(Search Track)ことで、心周期における特徴点の追跡を行うことができる。
【0045】
テンプレートマッチングにおけるテンプレート画像のサイズ及び探索領域は任意に設定することができる。例えば、PET画像のサイズを128ピクセル×128ピクセルとすると、テンプレート画像のサイズを24ピクセル×24ピクセルとし、探索領域を32ピクセル×32ピクセルとして設定することができる。なお、
図7では、説明を簡単にするために、1つの特徴点について、テンプレートマッチング、探索及び追跡について示しているが、複数の特徴点の追跡についても同様の仕組みである。
【0046】
例えば、
図8はPET画像における複数の特徴点の追跡の例を示している。テンプレートマッチングによって、
図8(a)から(d)に示されるように、心筋の拡張から収縮までの連続画像の各々において複数の特徴点の追跡を行うことができる。
図2を参照すると、このように、解析対象(特徴点等)の追跡を行った後(段階S3の後)、画像解析装置100は追跡結果に基づいて心筋血流を表すための1つの指標である心筋血流予備能(MFR)と心筋動態の状態を表す1つの指標として心筋の負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出することができる(段階S4)。
【0047】
MFRは、心筋の負荷時血流と安静時血流との比を表す従来から知られている指標であり、上述したとおり、負荷血流画像から得られる血流量を安静血流画像から得られる血流量で割ること(負荷血流画像から得られる血流量/安静血流画像から得られる血流量を計算すること)で算出される。心筋全領域についてのMFRを心筋セグメントモデル(
図4参照)に当てはめて表示した一例は
図5に示したとおりである。
【0048】
心筋ストレインは、血流画像(断面画像)データ(例えば、128ピクセル×128ピクセル×1スライス×16フレーム)から計測され、この計測を全スライス(例えば、16スライス)で実行して、全心筋領域のストレインを算出することができる。
図8に示すPET画像における特徴点の追跡の例を用いて説明すると、心筋ストレインを計測するために、複数の特徴点のうち、2次元の座標で表される隣り合う2点間の距離の各々について、心周期(時間又はフレーム数)と2点間の距離とを軸とする時間ストレイン曲線をプロットして生成することができる。
【0049】
図8では、12の特徴点の追跡を示しており、例えばある特徴点から反時計回りに点1から点12と定義したとすると、隣り合う特徴点の2次元の座標からは12の線分の距離(距離1、2、3・・・12)を算出することができる。
図9は、隣り合う2つの距離の和を縦軸とし、6領域について、時間(フレーム数)を横軸としてプロットした曲線である。心周期で心筋の各領域が拡張期から収縮期を経て再び拡張状態となる動きを数値化したものであり、
図9の上段は、心筋の円周方向および長軸方向の動きを反映している。同様に
図9の下段は、心筋の円周方向および長軸方向に直行する放射方向の動きを反映している。
【0050】
このように生成された時間ストレイン曲線に基づいて、画像解析装置100は血管拡張負荷時と安静時の心臓のPET画像等の断層画像から、心筋ストレインのピーク値(ここでは「ピークストレイン」と呼ぶ)をそれぞれ算出し、当該ピークストレインから負荷ストレインと安静ストレインの比を表す心筋ストレイン比(MSR)を算出する。
図9に示す時間ストレイン曲線の一例では、時間ストレイン曲線において、ピーク値を代表値としてピークストレインを決定する。当該ピークストレインから心筋の負荷ストレイン及び安静ストレインを算出することができる。
【0051】
図9は、
図8に示すPET画像における特徴点を追跡した結果(時間ストレイン曲線)の一例を示すグラフである。グラフの横軸はフレーム数(心時相、時間に相当)であり、縦軸は特徴点間の距離の和から算出された心内膜長であって、拡張末期における長さで各心時相における長さを正規化した値(%)である。
図9に示されるように、心筋の心内膜に沿って決定された複数の特徴点の各々について、心筋ストレインの変化を計測することができる。
【0052】
図10は、時間ストレイン曲線のピーク値の一例を示す。心筋ストレインの値は、例えば、時間ストレイン曲線において、そのピーク値とすることができる。つまり、画像解析装置100は、心内膜長の心周期を通じた変化より時間ストレイン曲線を描き、そのピーク値を代表値として利用する。なお、
図10に示す時間ストレイン曲線の例では、横軸を心周期(R-R duration)(時間、フレーム数に対応)とし、縦軸を縦方向のストレイン(Longitudinal Strain)としている。
【0053】
このように、算出された全心筋領域の心筋ストレインから、MFRの算出と同様に、負荷ストレイン/安静ストレインの計算によってMSRを算出することができる。
【0054】
MFR及びMSRを算出した後(段階S4の後)、
図2に示されるように、画像解析装置100は、MFRとMSRに基づいて心筋に関する運動エネルギーを示す心筋エネルギー(ME)を算出することができる(段階S5)。MEは、MFRとMSRの二乗和の平方根の式で表される。例えば、心筋エネルギー(ME)は、A,Bを任意の係数(例えば、0.0 < A ≦ 1.0、 0.0 < B ≦ 1.0)とし、
【数3】
という式で表すことができる。MEは、心筋の複数の領域毎に対応する値を含む。
【0055】
心筋エネルギー(ME)を算出した後(段階S5の後)、画像解析装置100は、心筋エネルギー(ME)マップを表示することができる(段階S6)。画像解析装置100は、心筋エネルギー(ME)マップとして、例えば、心臓核医学における従来の心筋セグメントモデル(17セグメントモデルの心尖部のセグメントを除く16セグメント)を用いて、MEの値をカラー表示(濃淡表示)することができる(
図11(b)参照)。
【0056】
図11は、ある患者のPET画像から算出したMFRに基づいた心筋セグメントモデルとMEに基づいた心筋セグメントモデルとの表示例を示す。当該患者はPET検査の約1年後に経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous Coronary Intervention; PCI)による介入的治療が必要となった。
【0057】
図11(a)は、MFRに基づいた心筋セグメントモデルの表示であり、
図11(b)は、MEに基づいた心筋セグメントモデル(MEマップ)の表示である。MFRによる濃淡表示(カラー表示)では、濃淡表示のムラが少なく、PETによる従来指標であるMFR < 2.0(
図11(a))で異常な心筋領域は検出されないが、MEによる濃淡表示(カラー表示)では、濃淡表示で淡い箇所に対応するセグメント#3,#9,#13,#14(
図4参照)にME低下領域が確認できる。このように、従来の指標MFRでは、検出できない心筋の異常を、新たな指標MEを用いることで、検出することが可能である。このPET検査時点でMEマップを参照できていれば、1年後の侵襲度が高いPCI治療には至らなかった可能性がある。
【0058】
心筋エネルギー(ME)の有用性を評価した結果を
図12及び
図13に示す。まず、
図12は、ROC曲線を用いて心筋エネルギーの有用性の評価結果である。冠動脈疾患95名(将来に心事故あり:22名)を対象とし、各患者のPET画像からMEを計算して、全心筋領域を16セグメントモデルにあてはめた(
図4参照、セグメント#17は計算から除外)。16セグメントのMEの平均をG-ME、右冠動脈、左冠動脈、前下行枝に該当するセグメントの平均MEをそれぞれ、RCA-ME、LAD-ME、LCX-MEとした。また、比較のため、各患者のPET画像からMFRを計算して、MEと同様にG-MFR、RCA-MFR、LAD-MFR、LCX-MFR を算出した。
【0059】
評価方法として、MFR < 2.0 とMEの心事故予測能の比較を、ROC解析を用いて行った。ROCはグラフが左上にあるほど予測精度が高いことを意味する。曲線の右下側の面積はAUC(Area Under the Curve)と定義され、AUCが高いほど予測精度の高い指標とされる。グラフ中の実線がMEを示し、折破線がMFRの予測精度を示す。
【0060】
図12の(a)はG-MEとG-MERとを比較したグラフ、(b)はRCA-MEとRCA-MFRとを比較したグラフ、(c)はLAD-MEとLAD-MFRとを比較したグラフ、(d)はLCX-MEとLCX-MFRとを比較したグラフである。グラフの縦軸は陽性率に相当する感度(sensitivity)であり、横軸は偽陽性率に相当する1-特異度(1-Specificity)である。(a)から(d)のグラフからも明らかなように、MEのAUCは、いずれもMFRのAUCよりも広く診断能に優れていることが確認できる。心筋エネルギーは MFR < 2.0 より左室全体および主要3領域において心事故予測に優れる結果を示している。
【0061】
次に、
図13は、Kaplan-Meier曲線を用いて心筋エネルギーの有用性の評価結果である。ROC曲線を用いた評価と同様に、冠動脈疾患95名(将来に心事故あり:22名)を対象とし、各患者のPET画像からMEを計算して、全心筋領域を16セグメントモデルにあてはめて(
図4参照、セグメント#17は計算から除外)、16セグメントのMEの平均をG-MEとした。また、比較のため、各患者のPET画像からMFRを計算して、MEと同様に G-MFR を算出した。
【0062】
評価方法として、Kaplan-Meier 解析を用いて、ME=62.4 をカットオフとして対象を2群に分けて、横軸に月数(month)を、縦軸に各群における心イベントのない割合(Event-free rate)をプロットした(
図13(a)参照)。また同様に、MFR=2.0 をカットオフとして対象を2群に分けて、横軸に月数(month)を、縦軸に各群における心イベントのない割合(Event-free rate)をプロットした(
図13(b)参照)。
【0063】
MEに基づいたKaplan-Meier 曲線から算出された P値は 0.0034 であり、MFRに基づいたKaplan-Meier 曲線から算出された P値は 0.017 であった。P値は統計的仮説検定において、帰無仮説の元で検定統計量がその値となる確率のことであり、P値が小さいほど、検定統計量がその値となることはあまり起こりえないことを意味する。Kaplan-Meier 曲線は、2群の曲線が離れるほど優れた予後推定指標であることを示す。そうすると、
図13(a)と(b)を比較すると、60ヶ月以上の長期経過観察において、 G-MFR ≧ 2.0,G-MFR < 2.0 を基準として心事故のリスクを診断するよりも、 G-ME ≧ 62.4,G-ME < 62.4 を基準とした方が、精度が良い結果を示している(なお、カッコ内のnは患者数を示す)。
【0064】
図12及び
図13に示す評価結果から、従来の指標(MFR)と比べて心筋エネルギー(ME)は有用な指標となり得ることを確認した。なお、本発明の一実施形態における実施例では、心筋血流PET製剤についてアンモニアPETのデータを示しているが、心筋血流PET製剤アンモニア以外に心筋ブドウ糖代謝(FluoroDeoxyGlucose; FDG)にも同様の解析が可能である。つまり、心筋エネルギーを心筋血流予備能(MFR)と心筋ストレイン(MSR)に基づいて算出することに代えて、ブドウ糖代謝とストレインに基づいて算出されたエネルギーマップも作成することができる。
【0065】
このように、本発明に係る心筋エネルギー算出方法等は、PET装置等の核医学イメージング装置において撮像された、心臓のPET画像等の断層画像に基づいてMFRを算出するとともに、当該断層画像に特徴追跡等の動態解析技術を用いてMSRも算出することで、心臓の断層画像から一度に心筋血流と心筋動態を計測可能となり、患者のある同時期の状態を厳密に反映させた検査等を行うことができる。これにより、同一サイズ、同一画素数の画像データから心筋血流と心筋動態を計測できるので、従来の別々の画像検査で取得された各画像データのサイズや画素数を統一するような調整操作は不要となる。
【0066】
また、MFRとMSRの二乗和の平方根で算出される心筋エネルギーを計算することで、心筋血流と心筋動態を別々の指標で評価するのではなく、心筋エネルギーという1つの指標で心筋に関する運動エネルギーを表して心筋の状態の評価を容易にすることができる。
【0067】
さらに、心筋セグメントモデルによる表示(例えば、
図11に示す心筋セグメントモデルのマップ表示)は、MRI、CT、超音波、核医学(PET)などの、全てのイメージングモダリティに共通の表示方法であるから、異なるモダリティであっても16セグメントの情報を演算することで、MEという新しい臨床値を算出することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る心筋エネルギー算出方法等は、心臓疾患の診断の支援等に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
100 画像解析装置
200 核医学イメージング装置
210 データ処理装置
N ネットワーク