(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083667
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】表面処理炭酸カルシウムおよびそれを含む樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20230609BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20230609BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20230609BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20230609BHJP
C08L 75/08 20060101ALI20230609BHJP
C09C 1/02 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C01F11/18 J
C08L101/06
C08K9/04
C08L71/02
C08L75/08
C09C1/02
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197489
(22)【出願日】2021-12-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】598039965
【氏名又は名称】白石工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】阪口 裕允
(72)【発明者】
【氏名】田所 祐花
(72)【発明者】
【氏名】筬部 周浩
(72)【発明者】
【氏名】萱野 善貞
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB06
4G076AB09
4G076AB12
4G076BA15
4G076BA43
4G076BB08
4G076BC05
4G076BE11
4G076BF06
4G076CA02
4G076CA25
4G076CA28
4G076CA29
4G076DA02
4J002AA051
4J002CH021
4J002CK041
4J002DE236
4J002FB236
4J002GJ02
4J037AA10
4J037CB09
4J037DD02
4J037DD07
4J037DD09
4J037EE03
4J037EE43
4J037FF15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】制御された形状ならびに表面処理量を有し、各種樹脂材料に添加された際には低粘度で高いチキソ性を示す樹脂組成物を得ることが可能な炭酸カルシウムを提供すること。
【解決手段】電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20の炭酸カルシウムの表面に、脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤が付着した、表面処理炭酸カルシウムであって、該炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの該表面処理剤による表面被覆率が0.15-0.60[%/(m2/g)]である、前記表面処理炭酸カルシウムを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20の炭酸カルシウムの表面に、脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤が付着した、表面処理炭酸カルシウムであって、
該炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの該表面処理剤による表面被覆率が0.15-0.60[%/(m2/g)]である、前記表面処理炭酸カルシウム。
【請求項2】
該炭酸カルシウムが、アラゴナイト結晶である、請求項1に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項3】
該炭酸カルシウムのBET比表面積が、3-13[m2/g]である、請求項1または2に記載の表面処理炭酸カルシウム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の表面処理炭酸カルシウムと、ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーと、を含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を処理した炭酸カルシウムと、それを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、各種工業製品の基材や填料として用いられるほか農業や食品の分野でも広く利用されている。炭酸カルシウムは、無機充填剤として、紙、ゴム、シーリング材料、プラスチック等に適用されている。炭酸カルシウムは、たとえば、紙に充填することで、紙の白色度や不透明度を向上させたり、ゴムに添加することで、ゴムの力学的強度や耐摩耗性を改善したりすることができる。また炭酸カルシウムをシーリング材料に添加することで、シーリング材料の粘度やチキソ性(チクソ性)を調整することができ、炭酸カルシウムをプラスチックに添加すると、プラスチックの力学的強度の向上や熱特性の調整を行うことができる。このように、炭酸カルシウムの各種用途に応じた所望の粒子径やBET比表面積、ならびに所望の結晶形を有するものを作り分ける試みが多数行われている。
【0003】
特許文献1には、熱可塑性樹脂に、0.01~1.5μm、長径0.5~20.0μm、アスペクト比4以上の柱状又は針状のアラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを配合してなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。特許文献1にて使用されているアラゴナイト結晶形炭酸カルシウムは、必要に応じて、シラン化合物、チタン化合物等のカップリング剤や、アクリル酸系化合物、脂肪酸等により表面処理を施すことができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、ウォラストナイトのような天然品をポリオレフィンの充填剤として使用すると、粒子径が不整で巨大粒子が含まれていることから、樹脂組成物成形体の表面平滑性が損なわれることに鑑み、特定の長径、短径、アスペクト比を有する合成アラゴナイト結晶形炭酸カルシウムを無機充填剤として使用することを提案している。しかしながら特許文献1に開示されているような炭酸カルシウムを充填剤として含む熱可塑性樹脂組成物は、一般に、粘度が高い一方チキソ性は低い傾向にあり、熱可塑性樹脂組成物のハンドリングの観点からなお改良の要請があった。
【0006】
そこで本発明は、制御された形状ならびに表面処理量を有し、各種樹脂材料に添加された際には低粘度で高いチキソ性を示す樹脂組成物を得ることが可能な炭酸カルシウムを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様は、電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20の炭酸カルシウムの表面に、脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤が付着した、表面処理炭酸カルシウムである。ここで炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率は、0.15-0.60[%/(m2/g)]であることを特徴とする。
【0008】
ここで炭酸カルシウムのBET比表面積が、3-13[m2/g]であることが好ましい。
また、炭酸カルシウムが、アラゴナイト結晶であることが好ましい。
【0009】
本発明の他の態様は、上記の一の態様の表面処理炭酸カルシウムと、ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーと、を含む、樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、特定の形状と表面処理量を有する炭酸カルシウムと、低粘度で高チキソ性を有する、炭酸カルシウム含有樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0012】
本発明の一の実施形態は、電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20の炭酸カルシウムの表面に、脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤が付着した、表面処理炭酸カルシウムである。ここで炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率は、0.15-0.60[%/(m2/g)]であることを特徴とする。
【0013】
本実施形態において、炭酸カルシウムとは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態で用いる炭酸カルシウムは、軽質炭酸カルシウムである。したがって、本明細書にて単に炭酸カルシウムと云う場合、特に断らない限り軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)のことを意味するものとする。炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものであっても良いが、特にアラゴナイト結晶であることが好ましい。
【0014】
実施形態において、炭酸カルシウムは、表面処理された、表面処理炭酸カルシウムであることが好ましい。本明細書にて表面処理炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムの表面を表面処理剤が覆う状態となっているか、あるいは、少なくとも炭酸カルシウムの表面に表面処理剤が付着した状態となっていることを指す。炭酸カルシウムの表面処理は、たとえば、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される物質を含む表面処理剤を用いて行うことができる。本実施形態では、脂肪酸の金属塩、特に脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤を用いて表面処理されていることが特に好ましい。ここで脂肪酸としては、炭素数が6-24、好ましくは炭素数が10-20の飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸を挙げることができる。このような脂肪酸として、たとえば、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、エイコセン酸、およびエルカ酸が挙げられる。これらの脂肪酸およびその金属塩は、1つまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
実施形態の表面処理炭酸カルシウムは、電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20である炭酸カルシウムを表面処理したものであることが好ましい。アスペクト比とは、炭酸カルシウムの一次粒子の縦横比のことであり、本実施形態においては炭酸カルシウムの一次粒子の長径と短径との比のことを指す。炭酸カルシウムのアスペクト比は、電子顕微鏡にて測定することができる。具体的には、電子顕微鏡を用いた観察による画像解析にて算出することができる。実施形態で用いる炭酸カルシウムのアスペクト比は、2~10、好ましくは2.5~8、さらに好ましくは3~7である。
【0016】
好適な範囲の一次粒子アスペクト比を有する炭酸カルシウムは、たとえば、水酸化カルシウムスラリー(懸濁液)に炭酸ナトリウム水溶液を添加して炭酸カルシウムスラリーを製造する、いわゆる苛性化法により得ることができる。
【0017】
ここで炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率は、0.15-0.60[%/(m2/g)]であることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。本実施形態で用いる炭酸カルシウムのBET比表面積は、3-13m2/g、好ましくは4-10m2/g、さらに好ましくは5-8m2/gである。また、表面処理炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率(すなわち表面処理量)は、加熱後の重量減少(加熱減量)から測定することができ、たとえば、以下の方法で測定することができる:表面処理炭酸カルシウムを規定量秤量し、熱重量測定装置(TG)等を用いて室温から昇温し、200℃に達したときおよび500℃に達したときに、それぞれ重量を測定する。以下の式:
[数1]
加熱減量比[%]=[{(200℃の時の試料の重量[g])-(500℃の時の試料の重量[g])}/(200℃の時の試料の重量[g])]×100
により、表面処理炭酸カルシウムの加熱減量比を算出し、先に説明したBET比表面積で除すると、表面処理炭酸カルシウムの表面被覆率を求めることができる。実施形態の表面処理炭酸カルシウムは、炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率が、0.15-0.60[%/(m2/g)]、好ましくは0.20-0.45[%/(m2/g)]、さらに好ましくは0.25-0.40[%/(m2/g)]となるように表面処理されている。
【0018】
炭酸カルシウムの表面処理は、既知の方法で適宜行うことが可能であるが、たとえば、炭酸カルシウムと水とを含むスラリーに、上記の脂肪酸類の少なくとも1種を添加し、脱水、乾燥する方法(湿式法)により行うことができる。たとえば、脂肪酸のアルカリ金属塩で炭酸カルシウムを表面処理する具体的な方法としては、次のような方法が挙げられる。
【0019】
脂肪酸を水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液中で加熱しながら、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を得る。次に、炭酸カルシウムと水とのスラリーに、脂肪酸アルカリ金属塩水溶液を添加して、攪拌する。これにより、炭酸カルシウムの表面に脂肪酸アルカリ金属塩を付着させることができる
【0020】
なお、炭酸カルシウムと水とのスラリー中における炭酸カルシウムの固形分の含有量は、炭酸カルシウムの平均粒子径、炭酸カルシウムのスラリー中への分散性、スラリーの脱水の容易さ、等を考慮して適宜調整すればよい。一般的には、スラリーの固形分含有量を2~30質量%程度、好ましくは5~20質量%程度となるように調整することにより、適度な粘度のスラリーとすることができ、これにより炭酸カルシウムの表面処理を適切に行うことが可能となる。炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの表面処理剤による表面被覆率が、0.15-0.60[%/(m2/g)]となるように、炭酸カルシウムスラリーの固形分含有量、脂肪酸アルカリ金属塩の濃度、撹拌時間、撹拌速度等を調整することができる。
【0021】
表面を脂肪酸アルカリ金属塩で処理した炭酸カルシウムスラリーの脱水は、たとえば、フィルタープレス等の方法によって行うことができる。また、乾燥は、たとえば、箱型乾燥機等を用いて行えばよい。こうして、表面処理炭酸カルシウムを得ることができる。
【0022】
実施形態の表面処理炭酸カルシウムを樹脂に添加して、樹脂組成物を得ることができる。そこで本発明の二の実施形態は、一の実施形態の表面処理炭酸カルシウムと、ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーと、を含む、樹脂組成物である。本実施形態において、ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーとは、プロピレングリコールを重合させて得たホモポリマー、またはプロピレングリコールと他のモノマーとを共重合させて得たコポリマーを指す。このようなコポリマーとして、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコール-ポリ乳酸共重合体、末端シリル基ポリエーテル樹脂(末端に反応性シリル基を有するポリプロピレングリコール)、末端シリル基ポリウレタン樹脂(末端に反応性シリル基を有するポリウレタン樹脂)等が挙げられる。ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーは、特にシーリング材、あるいはコーキング材、または接着剤の一成分として用いられるものである。たとえば、ジイソシアナート化合物とジオール化合物(ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマー)とを反応させることによりウレタン系シーリング材を得ることができる。
【0023】
この際、表面処理炭酸カルシウムとポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーとの混合物である樹脂組成物の粘性とチキソ性が問題となる。樹脂組成物の粘度が高すぎると、他の化合物(たとえば、ジイソシアナート化合物)との反応が遅くなりうるという問題がある。また樹脂組成物にチキソ性がない場合は、ずり応力に対して粘度が高くなりすぎるため、施工時の作業性が悪くなるという問題がある。したがって、樹脂組成物の粘度はできるだけ低く、かつ高いチキソ性を有することが好ましい。樹脂組成物の室温下回転粘度計(回転速度20rpm)で測定した粘度(以下、20rpm粘度と云う。)が、5-40Pa・s、好ましくは10-40Pa・sである。また樹脂組成物のチキソトロピックインデックス(TI)(2rpm粘度と20rpm粘度との比)は、4.0-7.0、好ましくは4.2-6.0である。このような樹脂組成物を得るためには、表面処理炭酸カルシウムの形状と表面処理量が重要であることを見出した。電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20、すなわち、一次粒子の形状が比較的細長い炭酸カルシウムを用いること、そして表面処理剤による表面被覆率は0.15-0.60[%/(m2/g)]とすることが、ポリプロピレングリコール骨格を有するポリマーを含んだ低粘度高チキソ性樹脂組成物を得る上で重要である。
【実施例0024】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[表面処理炭酸カルシウムの合成]
[実施例1]
固形分濃度15.0[%]の水酸化カルシウムスラリー370[kg]を用意し、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。ここに濃度14.8[%]の炭酸ナトリウム水溶液650[kg]を120[分]かけて添加し、炭酸カルシウムスラリーを作製した。この時、反応タンク内での完全混合時間が20[秒]となるようにプロペラ撹拌機を作動させ、反応タンク内の温度は50[℃]となるように調整した。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡で観察したところ針状形状のアラゴナイト結晶であり、電子顕微鏡写真から一次粒子のアスペクト比を算出したところ、アスペクト比は10程度であった。
固形分が10質量%となるように炭酸カルシウムスラリーを調整し、この炭酸カルシウムスラリーに、10質量%に調整した混合脂肪酸ナトリウム塩(タンカルMH、ミヨシ油脂株式会社、質量比でラウリン酸:ミリスチン酸:パルミチン酸:ステアリン酸:オレイン酸=3:2:40:15:30の混合物)の水溶液を0.8質量部添加して、炭酸カルシウムの表面処理をした。次に、得られたスラリーをフィルタープレスにより脱水し、固形分が60重量%のケーキを得た。得られたケーキを、乾燥機で乾燥して、表面処理炭酸カルシウムを得た。なお、BET比表面積の測定は、MACSORB HM(株式会社マウンテック)で測定し、5.7[m2/g]であった。表面処理量の測定は示差熱分析(Thermo plus EVOII、株式会社リガク)を用いて加熱減量を測定し、0.8[%]であった。すなわち、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.15[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0026】
[実施例2]
実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を1.0質量部添加したこと以外は実施例1を繰り返し、アスペクト比10、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.22[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0027】
[実施例3]
実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を2.0質量部添加したこと以外は実施例1を繰り返し、アスペクト比10、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.34[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0028】
[実施例4]
実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を2.3質量部添加したこと以外は実施例1を繰り返し、アスペクト比10、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.38[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0029】
[実施例5]
実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を2.5質量部添加したこと以外は実施例1を繰り返し、アスペクト比10、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.42[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0030】
[実施例6]
炭酸ナトリウム水溶液の添加時間を60[分]とし、完全混合時間を25[秒]としたこと以外は実施例1を繰り返し、一次粒子のアスペクト比2の炭酸カルシウムスラリーを得た。次いで得られた炭酸カルシウムスラリーに実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を3.0質量部添加して実施例1と同様に炭酸カルシウムの表面処理を行った。アスペクト比2、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.35[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0031】
[実施例7]
炭酸ナトリウム水溶液の添加時間を60[分]としたこと以外は実施例1を繰り返し、一次粒子のアスペクト比5の炭酸カルシウムスラリーを得た。次いで得られた炭酸カルシウムスラリーに実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を2.0質量部添加して実施例1と同様に炭酸カルシウムの表面処理を行った。アスペクト比5、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.36[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0032】
[実施例8]
炭酸ナトリウム水溶液の完全混合時間を10[秒]としたこと以外は実施例1を繰り返し、一次粒子のアスペクト比15の炭酸カルシウムスラリーを得た。次いで得られた炭酸カルシウムスラリーに実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を1.5質量部添加して実施例1と同様に炭酸カルシウムの表面処理を行った。アスペクト比15、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.35[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0033】
[比較例1]
実施例1と同様に一次粒子のアスペクト比が10の炭酸カルシウムスラリーを得て、表面処理を行わずに、実施例1と同様に脱水および乾燥して、炭酸カルシウムを得た。
【0034】
[比較例2]
実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を3.0質量部添加したこと以外は実施例1を繰り返し、アスペクト比10、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.65[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0035】
[比較例3]
固形分濃度5[%]で、温度15[℃]の水酸化カルシウムスラリーを300[kg]を用意して、プロペラ撹拌機を備えた反応タンクに導入した。反応タンクに炭酸ガスを100リットル/分でバブリングした。得られた炭酸カルシウムを電子顕微鏡で観察したところカルサイト結晶であり、電子顕微鏡写真から一次粒子のアスペクト比を算出したところ、アスペクト比は1であった。
得られた炭酸カルシウムスラリーについて実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を4.5質量部添加して実施例1と同様に炭酸カルシウムの表面処理を行った。アスペクト比1、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.36[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0036】
[比較例4]
炭酸ナトリウム水溶液の添加時間を360[分]、完全混合時間を10[秒]としたこと以外は実施例1を繰り返し、一次粒子のアスペクト比30の炭酸カルシウムスラリーを得た。次いで、得られた炭酸カルシウムスラリーについて実施例1と同じ混合脂肪酸ナトリウム塩水溶液を1質量部添加して同様に炭酸カルシウムの表面処理を行った。アスペクト比30、単位比表面積あたりの表面被覆率が0.38[%/(m2/g)]である表面処理炭酸カルシウムを得た。
【0037】
[樹脂組成物の製造]
実施例および比較例で得た表面処理炭酸カルシウム50gと、市販のポリプロピレングリコール(EXCENOL3020、AGC株式会社)110gとを混練して樹脂組成物を得た。各樹脂組成物の粘度は回転粘度計を用いて回転速度2rpmおよび20rpmの粘度を測定した。またチキソトロピックインデックス(TI)は、2rpm粘度と20rpm粘度の比(2rpm粘度/20rpm粘度)で算出した。各樹脂組成物の結果を表1および表2に示す。
【0038】
【0039】
樹脂組成物の評価は、20rpm粘度が10-39Pa・sかつTIが4.0以上の場合を「良」、20rpm粘度が40Pa・s以上かつTIが4.0以下の場合を「不良」とした。実施例の表面処理炭酸カルシウムを用いた樹脂組成物は、いずれも粘度が低く、チキソ性が高いものであった。これに対し本発明の範囲を満たさない表面処理炭酸カルシウムを用いた樹脂組成物は、チキソ性が低いか、またはチキソ性は高いものの20rpm粘度が高いものであった。
電子顕微鏡にて測定された一次粒子のアスペクト比が2~20の炭酸カルシウムの表面に、脂肪酸ナトリウム塩または脂肪酸カリウム塩を含む表面処理剤が付着した、表面処理炭酸カルシウムであって、
該炭酸カルシウムのBET比表面積が、3-13[m
2
/g]であり、
該炭酸カルシウムの単位BET比表面積あたりの該表面処理剤による表面被覆率が0.15-0.60[%/(m2/g)]である、
前記表面処理炭酸カルシウム。