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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023008368
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/224 20060101AFI20230112BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20230112BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/17
D06M15/53
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111887
(22)【出願日】2021-07-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】本郷 勇治
(72)【発明者】
【氏名】足立 啓太
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、かつ、補強用コードとした際に良好なゴム接着性が得られる合成繊維用処理剤と、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することを課題としている。
【解決手段】炭素数3~6の多価アルコールと炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物(X1)を含む平滑剤(X)と、特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(A)、及び特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(B)を含むノニオン界面活性剤(Y)と、イオン界面活性剤(Z)とを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の完全エステル化合物(X1)を含む平滑剤(X)と、下記の一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)、及び下記の一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)を含むノニオン界面活性剤(Y)と、イオン界面活性剤(Z)とを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
完全エステル化合物(X1):炭素数3~6の多価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物。
【化1】

(一般式(1)において、
:炭素数1~8のアルキル基。
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
m:1~20の整数。)
【化2】

(一般式(2)において、
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
n:1~20の整数。)
【請求項2】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記完全エステル化合物(X1)を20質量%以上含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記エーテルエステル誘導体(A)及び前記エーテルエステル誘導体(B)を合計で1~30質量%含有する請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるAOが、オキシエチレン基である請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
前記一般式(1)におけるRが、炭素数1~4のアルキル基である請求項1~4いずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記一般式(2)におけるAOが、オキシエチレン基である請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記一般式(2)におけるRが、炭素数15~23のアルキル基又は炭素数15~23のアルケニル基である請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記完全エステル化合物(X1)が、炭素数3~6の3価の多価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物を含むものである請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記ノニオン界面活性剤(Y)が、更に下記の一般式(3)で示されるエーテルエステル誘導体(C)を含有する請求項1~8のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【化3】

(一般式(3)において、
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
p:1~25の整数。)
【請求項10】
前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記エーテルエステル誘導体(A)、前記エーテルエステル誘導体(B)、及び前記エーテルエステル誘導体(C)を合計で2~40質量%含有する請求項9に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤及び合成繊維に関する。詳しくは、合成繊維の製糸工程において良好な工程通過性を発揮し、後加工の工程において良好なゴム接着性を有する合成繊維用処理剤及び、かかる合成繊維用処理剤が付着した合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維の紡糸工程や加工工程においては、高速化が進み、これに伴って毛羽や糸切れが起こりやすくなっている。そのため、これらを抑制する合成繊維用処理剤として、多価アルコールにポリオキシアルキレン基を付加したポリエーテルを含有するもの(例えば、特許文献1、2)や、特異的な構造を持つ有機亜鉛化合物を含有するもの(例えば、特許文献3)等が提案されている。しかし、これら従来の合成繊維用処理剤には、繊維間への合成繊維用処理剤の浸透性が不足し、紡糸時や加工時に毛羽や断糸を十分に抑制することができないという問題があった。
一方、得られた合成繊維は産業資材としても多く利用されており、中でも、タイヤ類、ベルト類、ホース類等のゴム製品の補強材として汎用されている。これらのゴム製品は、合成繊維製の撚糸を接着剤で処理した補強用コードで補強されており、この補強用コードは、ゴム製品の耐久性を向上するため、ゴムに対する充分な接着性を有することが要求される。この要求を満たすために合成繊維用処理剤が使用され、多価アルコール及び/又は多価カルボン酸にポリオキシアルキレン基を付加した化合物を含有するもの(例えば、特許文献4)等が提案されている。しかし、これら従来の合成繊維用処理剤を付着した合成繊維を、接着剤で処理した補強用コードは、ゴム接着性が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-306869号公報
【特許文献2】特開2000-273766号公報
【特許文献3】特開2013-007141号公報
【特許文献4】特開2004-019088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、かつ、補強用コードとした際に良好なゴム接着性が得られる合成繊維用処理剤と、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、補強用コードとした際に良好なゴム接着性を得るためには、特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体が合成繊維用処理剤の繊維への均一付着に関与していることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.下記の完全エステル化合物(X1)を含む平滑剤(X)と、下記の一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)、及び下記の一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)を含むノニオン界面活性剤(Y)と、イオン界面活性剤(Z)とを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
完全エステル化合物(X1):炭素数3~6の多価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物。
【化1】

(一般式(1)において、
:炭素数1~8のアルキル基。
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
m:1~20の整数。)
【化2】

(一般式(2)において、
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
n:1~20の整数。)
2.前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記完全エステル化合物(X1)を20質量%以上含有する1.に記載の合成繊維用処理剤。
3.前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記エーテルエステル誘導体(A)及び前記エーテルエステル誘導体(B)を合計で1~30質量%含有する1.又は2.に記載の合成繊維用処理剤。
4.前記一般式(1)におけるAOが、オキシエチレン基である1.~3.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
5.前記一般式(1)におけるRが、炭素数1~4のアルキル基である1.~4.いずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
6.前記一般式(2)におけるAOが、オキシエチレン基である1.~5.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
7.前記一般式(2)におけるRが、炭素数15~23のアルキル基又は炭素数15~23のアルケニル基である1.~6.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
8.前記完全エステル化合物(X1)が、炭素数3~6の3価の多価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物を含むものである1.~7.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
9.前記ノニオン界面活性剤(Y)が、更に下記の一般式(3)で示されるエーテルエステル誘導体(C)を含有する1.~8.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【化3】

(一般式(3)において、
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
p:1~25の整数。)
10.前記合成繊維用処理剤の不揮発分に対して、前記エーテルエステル誘導体(A)、前記エーテルエステル誘導体(B)、及び前記エーテルエステル誘導体(C)を合計で2~40質量%含有する9.に記載の合成繊維用処理剤。
11.1.~10.のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の効果】
【0007】
本発明の合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、近年高速化が進んだ合成繊維の紡糸工程や加工工程などの製糸工程において、良好な工程通過性を発揮する。特に、合成繊維糸条の毛羽を低減することにより、良好な工程通過性を発揮し、優れた紡糸性を得ることができる。
また、本発明の合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、後加工工程において良好なゴム接着性を発揮することができる。かかる効能は、特にタイヤコード用途等における後加工工程において有効である。詳しくは、ゴム製品に使用する補強用コードとした場合に、良好なゴム接着性が得られるという効果を発揮し、例えば、産業用ベルトの1つである動力を伝達する伝動ベルトであるVベルトなどに適した、補強用コードを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、完全エステル化合物(X1)を含む平滑剤(X)と、特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(A)、及び特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(B)を含むノニオン界面活性剤(Y)と、イオン界面活性剤(Z)とを含有することを特徴とする合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維に関する。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
<平滑剤(X)>
本発明の合成繊維用処理剤は、平滑剤(X)を必須成分として含有するものであり、この平滑剤(X)は、炭素数3~6の多価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル化合物(X1)を含有するものである。
<完全エステル化合物(X1)>
本発明における完全エステル化合物(X1)は、炭素数3~6の多価アルコールと炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステル、すなわち、全ての水酸基が脂肪酸エステルにより置換されている化合物を意味する。
本発明における完全エステル化合物(X1)を構成する炭素数3~6の多価アルコールとしては、炭素数3~6の2~4価のアルコールが好ましく、中でも炭素数3~6の3価のアルコールがより好ましい。具体的には、例えば、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の2価のアルコールや、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価のアルコール、ペンタエリスリトール等の4価のアルコールが挙げられる。
本発明における完全エステル化合物(X1)を構成する炭素数8~24の1価脂肪酸としては、具体的に、例えば、カプリル酸(炭素数:8)、カプリン酸(炭素数:10)、ラウリン酸(炭素数:12)、ミリスチン酸(炭素数:14)、ミリストレイン酸(炭素数:14)、パルミチン酸(炭素数:16)、パルミトレイン酸(炭素数:16)、ステアリン酸(炭素数:18)、オレイン酸(炭素数:18)、リノール酸(炭素数:18)、リノレン酸(炭素数:18)、アラキジン酸(炭素数:20)、ベヘニン酸(炭素数:22)、エルカ酸(炭素数:22)、リグノセリン酸(炭素数:24)、ネルボン酸(炭素数:24)等が挙げられる。
本発明の合成繊維用処理剤は、この完全エステル化合物(X1)を、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して20~70質量%の範囲で含有することが好ましく、25~60質量%の範囲で含有することがより好ましい。
本発明における合成繊維用処理剤の不揮発分は、合成繊維用処理剤1gをシャーレ(外径5cm、高さ15mm、厚み0.6mm)に秤量したものを105℃で2時間熱処理した残分を意味する。
また、本発明における完全エステル化合物(X1)としては、炭素数3~6の3価アルコールと、炭素数8~24の1価脂肪酸との完全エステルが好ましく、中でも、炭素数10~22の1価脂肪酸との完全エステルがより好ましく、炭素数12~20の1価脂肪酸との完全エステルがさらに好ましい。
【0010】
本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記完全エステル化合物(X1)以外の平滑剤を含有することが出来る。
本発明における合成繊維用処理剤に併用できる、上記完全エステル化合物(X1)以外の平滑剤としては、特に制限はなく、例えば(1)ブチルステアラート、オクチルステアラート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソペンタコサニルイソステアラート、オクチルパルミタート、イソトリデシルステアラート、ラウリルオクタート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)ジラウリルアジパート、ジオレイルアゼラート、ジイソセチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ビスポリオキシエチレンラウリルアジパート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(3)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート及びポリオキシプロピレンベンジルステアラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(4)ビスフェノールAジラウラート、ポリオキシエチレンビスフェノールAジラウラート等の、芳香族アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、(6)鉱物油等、合成繊維用処理剤に採用されている公知の平滑剤が挙げられる。これらの平滑剤成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
<ノニオン界面活性剤(Y)>
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)を必須成分として含有するものであり、このノニオン界面活性剤(Y)は、下記一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)、及び下記の一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)を含有するものである。
【化4】

(一般式(1)において、
:炭素数1~8のアルキル基。
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
m:1~20の整数。)
【化5】

(一般式(2)において、
:炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
n:1~20の整数。)
【0012】
<エーテルエステル誘導体(A)>
本発明におけるエーテルエステル誘導体(A)は、上記一般式(1)で示される化合物である。
一般式(1)中のRは炭素数1~8のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。中でも、Rは炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
一般式(1)中のRは、炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基である。該(ヒドロキシ)アルキル基(「アルキル基又はヒドロキシアルキル基」を意味する。)及び(ヒドロキシ)アルケニル基(「アルケニル基又はヒドロキシアルケニル基」を意味する。)は、直鎖状、分枝鎖状及び環状の何れでもよいが、直鎖状又は分枝鎖状が好ましい。例えば、(ヒドロキシ)オクチル基、(ヒドロキシ)ノニル基、(ヒドロキシ)イソノニル基、(ヒドロキシ)デシル基、(ヒドロキシ)ウンデシル基、(ヒドロキシ)ドデシル基、(ヒドロキシ)トリデシル基、(ヒドロキシ)イソトリデシル基、(ヒドロキシ)テトラデシル基、(ヒドロキシ)ヘキサデシル基、(ヒドロキシ)ヘプタデシル基、(ヒドロキシ)オクタデシル基、(ヒドロキシ)ノナデシル基、(ヒドロキシ)ヘンイコシル基、(ヒドロキシ)トリコシル基等の(ヒドロキシ)アルキル基、(ヒドロキシ)オクテニル基、(ヒドロキシ)ノネニル基、(ヒドロキシ)デセニル基、(ヒドロキシ)ヘプタデセニル基等の(ヒドロキシ)アルケニル基が挙げられる。中でも、Rは炭素数7~19のものが好ましい。
一般式(1)中のAOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基であり、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。中でも、AOはオキシエチレン基のみであることが好ましい。
一般式(1)中のmは1~20の整数であり、中でも、3~17が好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)として当該一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)を含有することにより、繊維への均一付着性を向上させることが出来る。この付着性の向上により、本発明の合成繊維用処理剤を付着させた合成繊維は、紡糸時の毛羽を抑制することが出来る。さらには、エーテルエステル誘導体(A)はゴム接着剤(エポキシ溶液、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス溶液等)の繊維への付着性を高めるため、後加工工程において良好なゴム接着性を発揮するものである。
【0013】
<エーテルエステル誘導体(B)>
本発明におけるエーテルエステル誘導体(B)は、上記一般式(2)で示される化合物である。
一般式(2)中のRは、炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基である。該(ヒドロキシ)アルキル基及び(ヒドロキシ)アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状及び環状の何れでもよいが、直鎖状又は分枝鎖状が好ましい。例えば、(ヒドロキシ)オクチル基、(ヒドロキシ)ノニル基、(ヒドロキシ)イソノニル基、(ヒドロキシ)デシル基、(ヒドロキシ)ウンデシル基、(ヒドロキシ)ドデシル基、(ヒドロキシ)トリデシル基、(ヒドロキシ)イソトリデシル基、(ヒドロキシ)テトラデシル基、(ヒドロキシ)ヘキサデシル基、(ヒドロキシ)ヘプタデシル基、(ヒドロキシ)オクタデシル基、(ヒドロキシ)ノナデシル基、(ヒドロキシ)ヘンイコシル基、(ヒドロキシ)トリコシル基等の(ヒドロキシ)アルキル基、(ヒドロキシ)オクテニル基、(ヒドロキシ)ノネニル基、(ヒドロキシ)デセニル基、(ヒドロキシ)ヘプタデセニル基等の(ヒドロキシ)アルケニル基が挙げられる。中でも、Rは炭素数15~23のアルキル基又は炭素数15~23のアルケニル基であることが好ましい。
一般式(2)中のAOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基であり、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。中でも、AOはオキシエチレン基のみであることが好ましい。
一般式(2)中のnは1~20の整数であり、中でも、3~17が好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)として当該一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)を含有することにより、本発明の合成繊維用処理剤の耐毛羽性を向上させることが出来る。
【0014】
<エーテルエステル誘導体(C)>
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)として、更に、下記一般式(3)で示されるエーテルエステル誘導体(C)を含有することが好ましい。
【化6】

(一般式(3)において、
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
:炭素数7~23のアルキル基又は、炭素数7~23のアルケニル基。
O:炭素数2~3のオキシアルキレン基(ただし、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。)。
p:1~25の整数。)
一般式(3)中のR、Rは、それぞれ独立して、炭素数7~23のアルキル基、炭素数7~23のアルケニル基、炭素数7~23のヒドロキシアルキル基、又は炭素数7~23のヒドロキシアルケニル基である。該(ヒドロキシ)アルキル基及び(ヒドロキシ)アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状及び環状の何れでもよいが、直鎖状又は分枝鎖状が好ましい。例えば、(ヒドロキシ)オクチル基、(ヒドロキシ)ノニル基、(ヒドロキシ)イソノニル基、(ヒドロキシ)デシル基、(ヒドロキシ)ウンデシル基、(ヒドロキシ)ドデシル基、(ヒドロキシ)トリデシル基、(ヒドロキシ)イソトリデシル基、(ヒドロキシ)テトラデシル基、(ヒドロキシ)ヘキサデシル基、(ヒドロキシ)ヘプタデシル基、(ヒドロキシ)オクタデシル基、(ヒドロキシ)ノナデシル基、(ヒドロキシ)ヘンイコシル基、(ヒドロキシ)トリコシル基等の(ヒドロキシ)アルキル基、(ヒドロキシ)オクテニル基、(ヒドロキシ)ノネニル基、(ヒドロキシ)デセニル基、(ヒドロキシ)ヘプタデセニル基等の(ヒドロキシ)アルケニル基が挙げられる。中でも、R、Rは炭素数11~19のものが好ましい。
一般式(3)中のAOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基であり、当該オキシアルキレン基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる。中でも、AOはオキシエチレン基のみであることが好ましい。
一般式(3)中のpは1~20の整数であり、中でも、3~17が好ましい。
【0015】
本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)として、一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)及びの一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)を合計で、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して1~30質量%の範囲において含有することが好ましく、2~25質量%の範囲において含有することがより好ましく、2~23質量%の範囲において含有することがさら好ましい。
また、本発明の合成繊維用処理剤は、ノニオン界面活性剤(Y)として、一般式(1)で示されるエーテルエステル誘導体(A)、一般式(2)で示されるエーテルエステル誘導体(B)及び一般式(3)で示されるエーテルエステル誘導体(C)を合計で、合成繊維用処理剤の不揮発分に対して2~40質量%の範囲において含有することが好ましく、5~38質量%の範囲において含有することがより好ましく、10~35質量%の範囲において含有することがさらに好ましい。
【0016】
本発明の合成繊維用処理剤は、本発明の効果を妨げない範囲において、エーテルエステル誘導体(A)、エーテルエステル誘導体(B)及びエーテルエステル誘導体(C)以外のノニオン界面活性剤を含有することが出来る。
本発明における合成繊維用処理剤に併用できる、上記エーテルエステル誘導体(A)~(C)以外のノニオン性界面活性剤としては、特に制限はなく、例えば、上記エーテルエステル誘導体(A)~(C)と重複しない範囲での(1)ポリオキシエチレンオレアート、ポリオキシエチレンメチルエーテルラウラート、ポリオキシエチレンオクチルエーテルラウラート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテルパルミタート、ポリオキシエチレンジオレアート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリメチロールプロピルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソトリデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル等の、有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミド分子に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、(2)ポリオキシアルキレンソルビタントリオレアート、ポリオキシアルキレンヒマシ油エーテル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エーテル、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エーテルトリオレアート等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、(3)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド、(4)ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド等、(5)グリセリンモノオレアート、ジグリセリンジラウラート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート等の多価アルコールと脂肪酸の部分エステル化合物等が挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では、化合物名の末端にEOおよびPOと記載したものは、それぞれエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドの付加物を意味し、後に続く数字はその付加モル数を示す。EOおよびPOの後に記載された数値はそれぞれの平均付加モル数を意味する。本発明における平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで標準物質をポリエチレングリコールとした時の重量平均分子量を示す。
【0017】
<イオン界面活性剤(Z)>
本発明の合成繊維用処理剤は、イオン界面活性剤を必須成分として含有するものであり、このイオン界面活性剤(Z)としては、合成繊維用処理剤に採用されている公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤から選ぶことができる。
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(2)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(4)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(5)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(6)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ドデセニルコハク酸塩等の脂肪酸塩、(7)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩、(8)ラウリルリン酸エステル塩、イソセチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、オレイルアルコール-エチレンオキサイド付加物のリン酸エステル等のアルキルリン酸エステル塩又はポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩、(9)ラウロイルメチルアラニン塩、ラウロイルザルコシン塩、オレオイルザルコシン塩等のアミノ酸型界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤は未中和のものであっても良く、中和した塩でもよい。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
中でも、帯電防止性、乳化性、及び相溶性等の見地から、アルキルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのリン酸エステル、脂肪族スルホン酸、スルホコハク酸エステル、脂肪酸、アミノ酸型界面活性剤又はそれらの塩が好ましく、2級アルカン(C:11~14)スルホン酸、ジオクチルスルホコハク酸、α-オレフィンスルホン酸、オレイン酸、オレオイルザルコシン、オレイルアルコール-エチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル、イソセチルリン酸エステル、オレイルリン酸エステル又はそれらの塩が特に好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤は、イオン界面活性剤(Z)を合成繊維用処理剤の不揮発分に対して0.1~10質量%の範囲において含有することが好ましく、0.2~5質量%の範囲において含有することがより好ましい。
【0018】
<配合比率>
本発明の合成繊維用処理剤は、必須成分である平滑剤(X)、ノニオン界面活性剤(Y)及びイオン界面活性剤(Z)の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤(X)を20~70質量%、ノニオン界面活性剤(Y)を20~80質量%及びイオン界面活性剤(Z)を0.1~10質量%の割合で含有するものである。
【0019】
<その他の成分>
本発明の合成繊維用処理剤は、他の成分、例えば、消泡剤、酸化防止剤、防腐剤、防錆剤等を併用することができる。他の成分の併用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において規定することができる。
【0020】
<合成繊維>
本発明の合成繊維は、本発明の合成繊維用処理剤が付着している合成繊維である。本発明の合成繊維用処理剤を付着させる合成繊維としては、特に制限はないが、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。製造する合成繊維の繊度としては、特に制限はないが、好ましくは150デシテックス以上であり、さらに好ましくは500デシテックス以上であり、特に好ましいのは1000デシテックス以上である。また、製造する合成繊維の強度としては、特に制限はないが、好ましくは5.0cN/dtex以上であり、さらに好ましくは6.0cN/dtex以上、特に好ましくは7.0cN/dtex以上である。合成繊維は、産業資材用途に用いられることが好ましく、特にタイヤやベルト等のゴム補強用用途で使用されることが好ましい。
本発明の合成繊維用処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に付着させる割合は、特に制限はないが、本発明の合成繊維用処理剤を合成繊維に対し0.1~3質量%の割合となるよう付着させることが好ましい。
また、本発明の合成繊維用処理剤を付着させる工程は、紡糸工程、延伸工程、紡糸と延伸とを同時に行う工程が挙げられる。また、本発明の合成繊維用処理剤を付着させる方法は、公知の方法を適宜採用することができるが、例えば、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等が挙げられる。本発明の合成繊維用処理剤を合成繊維に付着させる際の処理剤の形態としては、例えば、有機溶媒溶液、水性液、ニート等として付与してもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はなく、巻取り前に付与するものであってもよい。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。また、本発明の合成繊維用処理剤は、ゴム接着剤(エポキシ化合物等)との混合によりゴム接着剤として使用してもよい。ゴム接着剤に供した場合は、紡糸工程における延伸前や延伸後に、水性液やニート等として繊維にそれを付与しても良く、後加工工程で撚糸後に付与してもよい。
【実施例0021】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術範囲はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0022】
<合成繊維用処理剤の調製>
・実施例1
平滑剤(X)として、完全エステル化合物(X1)であるナタネ油(X1-1)22%とジ(イソステアリル)チオジプロピオナート(X2-6)20%、ノニオン界面活性剤(Y)として、エーテルエステル誘導体(A)である下記(A-1)0.1%、エーテルエステル誘導体(B)である下記(B-2)2%、エーテルエステル誘導体(C)である下記(C-1)10%、その他のノニオン界面活性剤として下記(N-2)6%、下記(N-4)10%、下記(N-5)10%、下記(N-6)5%、下記(N-11)5%、下記(N-12)5%、イオン界面活性剤(Z)として、下記(Z-1)2.9%、下記(Z-4)0.2%、下記(Z-5)0.3%、下記(Z-8)1%、その他成分として下記(W-2)0.5%の割合で均一混合して、実施例1の処理剤を調製した。
【0023】
・実施例2~15及び比較例1~5
実施例2~15及び比較例1~5の合成繊維用処理剤は、下記表1、2に示した配合で、上記実施例1の調製方法と同様にして調製した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1、2中の比率(%)は、合成繊維用処理剤全体を100質量%とした場合の、各成分の配合割合を質量比率(%)で表した数値である。
表1、2中の各記号は、下記成分を表す。
<平滑剤(X)>
・完全エステル化合物(X1)
X1-1:ナタネ油
X1-2:トリメチロールプロパントリオレアート
X1-3:ブタンジオールジオレアート
・その他平滑剤
X2-4:オレイルオレアート
X2-5:ジ(イソステアリル)アジパート
X2-6:ジ(イソステアリル)チオジプロピオナート
X2-7:ジ(オレイル)チオジプロピオナート
【0027】
<ノニオン界面活性剤(Y)>
・エーテルエステル誘導体(A)
A-1:一般式(1)中のR:メチル基、R:へプチル基、AO:EO、m:6
A-2:一般式(1)中のR:メチル基、R:ウンデシル基、AO:EO、m:16
A-3:一般式(1)中のR:ブチル基、R:ノニル基、AO:EO、m:16
A-4:一般式(1)中のR:ブチル基、R:イソヘプタデシル基、AO、m:PO1EO15
A-5:一般式(1)中のR:オクチル基、R:ヘプタデセニル基、AO:EO、m:6
A-6:一般式(1)中のR:オクチル基、R:ヘプタデセニル基、AO、m:PO1EO5
・エーテルエステル誘導体(B)
B-1:一般式(2)中のR:イソヘプタデシル基、AO:EO、m:6
B-2:一般式(2)中のR:ヘプタデセニル基、AO:EO、m:16
B-3:一般式(2)中のR:ウンデシル基、AO:EO、m:6
B-4:一般式(2)中のR:ペンタデシル基、AO、m:PO1EO5
・エーテルエステル誘導体(C)
C-1:一般式(3)中のR:ウンデシル基、R:ウンデシル基、AO:EO、m:6
C-2:一般式(3)中のR:トリデシル基、R:トリデシル基、AO:EO、m:16
C-3:一般式(3)中のR:ペンタデシル基、R:ペンタデシル基、AO:EO、m:6
C-4:一般式(3)中のR:ヘプタデセニル基、R:ヘプタデセニル基、AO:EO、m:16
C-5:一般式(3)中のR:ヘプタデセニル基、R:ペンタデセニル基、AO:EO、m:16
・その他のノニオン界面活性剤
N-1:オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加したもの
N-2:イソトリデシルアルコール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加したもの
N-3:イソトリデシルアルコール1モルに対しPO10モルを付加させたものにEO10モルを付加したもの
N-4:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加したもの
N-5:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
N-6:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量:5000)
N-7:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したもの
N-8:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
N-9:ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加したもの
N-10:ソルビタンモノオレアート
N-11:ソルビタントリオレアート
N-12:牛脂アミン1モルにEO10モル付加したもの
N-13:牛脂脂肪酸ジエタノールアミド1モルにEO3モル付加したもの
【0028】
<イオン界面活性剤(Z)>
Z-1:2級アルカン(C:11~14)スルホン酸ナトリウム塩
Z-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム塩
Z-3:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
Z-4:オレイン酸カリウム塩
Z-5:オレオイルザルコシン
Z-6:オレイルアルコール-エチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル
Z-7:イソセチルリン酸エステル
Z-8:オレイルリン酸エステル
<その他成分>
W-1:ポリエーテル変性シリコーン
W-2:イソシアヌル酸トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)
W-3:エチレングリコール
W-4:ジエチレングリコール
W-5:ポリエチレングリコール(平均分子量:300)
W-6:グリセリン
W-7:クエン酸トリエタノールアミン塩
【0029】
<合成繊維用処理剤の合成繊維への付着>
上記「合成繊維用処理剤の調製」で調製した合成繊維用処理剤(実施例1~15及び比較例1~5)をイオン交換水又は有機溶剤の希釈剤にて均一に希釈し、15%溶液とした。紡糸工程にて1670デシテックス、288フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に、前記溶液を、オイリングローラー給油法にて、不揮発分として付与量2.0質量%となるように付与し、希釈剤を乾燥させ試験糸とした。
【0030】
<毛羽評価試験>
上記「合成繊維用処理剤の合成繊維への付着」で調製した試験糸を、初期張力2kg、糸速300m/分で、表面温度130℃の梨地クロムピンに接触させて走行させ、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製)にて10分間当たりの毛羽数を測定し、次の評価基準で評価した。
[評価基準]
○○○:測定された毛羽数が2個未満。
○○:測定された毛羽数が2個以上且つ4個未満。
○:測定された毛羽数が4個以上且つ6個未満。
×:測定された毛羽数が6個以上。
【0031】
<接着剤で処理した補強用コードの製造と接着評価試験>
上記「合成繊維用処理剤の合成繊維への付着」で調製した試験糸2本を、下撚40回/10cm、上撚40回/10cmの撚数で撚り、撚糸コードとした。この撚糸コードを、第1接着剤(エポキシ化合物(ナガセケムテックス社製の商品名デナコールEX-512)/ブロックドイソシアネート(第一工業製薬社製の商品名エラストロンBN-27)=5/5(固形分比))に浸漬した後、熱処理し、更に第2接着剤(レゾルシン(キシダ化学社製の商品名レソルシノール)/ホルマリン(キシダ化学社製の商品名ホルムルデヒド液(37%))/ラテックス(日本ゼオン社製の商品名Nipol 2518FS)=1.5/0.5/8(固形分比)のRFL溶液)に浸漬した後、熱処理して、接着剤で処理した補強用コードを得た。JIS-L1017(化学繊維タイヤコード試験方法)に記載のTテスト(A法)に準拠して、補強用コードの接着力を測定し、次の評価基準で評価した。
[ゴム接着性の評価基準]
○○○:接着力が16kg以上。
○○:接着力が15.5kg以上且つ16kg未満。
○:接着力が15kg以上且つ15.5kg未満。
×:接着力が15kg未満。
【0032】
上記の毛羽評価試験と接着評価試験の評価結果を、下記表3、4にまとめて示す。
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
表3、4の結果より、本発明の合成繊維用処理剤(実施例1~15)は、完全エステル化合物(X1)を含む平滑剤(X)、特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(A)、及び特定の化学構造を有するエーテルエステル誘導体(B)を含むノニオン界面活性剤(Y)と、イオン界面活性剤(Z)とを含有することにより、耐毛羽性に優れた良好な紡糸性が得られ、かつ、補強用コードとした際に良好なゴム接着性が得られることが明らかとなった。
これに対して、本発明の組成とは相違する合成繊維用処理剤(比較例1~5)は、耐毛羽性と後加工工程におけるゴム接着性を、良好に両立させるような効果を発現しないことも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の合成繊維用処理剤や、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維は、合成繊維糸条の毛羽を低減することにより、良好な工程通過性を発揮し、優れた紡糸性を得ることができるのみならず、後加工工程において良好なゴム接着性を発揮することができるため、タイヤ等のゴム製品に使用する補強用コードとした場合に、良好なゴム接着性が得られるという効果も得ることができ、非常に有用である。