(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083718
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】ナノポリマー粒子
(51)【国際特許分類】
C08F 20/34 20060101AFI20230609BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20230609BHJP
A01N 37/34 20060101ALI20230609BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20230609BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20230609BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C08F20/34
A01N61/00 D
A01N37/34 101
A01N25/12 101
A01P13/00
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197568
(22)【出願日】2021-12-06
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(71)【出願人】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右手 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林 八寿子
(72)【発明者】
【氏名】大濱 武
【テーマコード(参考)】
4H011
4J100
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AB01
4H011BB06
4H011BB19
4H011DA16
4H011DH02
4J100AA02R
4J100AA03R
4J100AB02R
4J100AC03R
4J100AG04R
4J100AJ01R
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4J100AM01R
4J100AM05P
4J100AM05Q
4J100AM15R
4J100CA01
4J100CA04
4J100EA09
4J100FA20
4J100FA21
4J100FA35
4J100JA57
4J100JA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた抗藻類活性や抗菌活性を示すナノポリマー粒子、並びに、当該ナノポリマー粒子を有効成分として含む抗藻剤および抗菌剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るナノポリマー粒子は、エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなることを特徴とするナノポリマー粒子。
【請求項2】
前記ポリマーを構成するモノマー単位に対する前記エチルシアノアクリレート単位の割合が40モル%以上である請求項1に記載のナノポリマー粒子。
【請求項3】
前記ポリマーがエチルシアノアクリレートホモポリマーである請求項1または2に記載のナノポリマー粒子。
【請求項4】
平均粒子径が10nm以上、300nm以下である請求項1~3のいずれかに記載のナノポリマー粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のナノポリマー粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗藻剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のナノポリマー粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗菌剤。
【請求項7】
前記菌が、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、及び真菌から選択される1以上の菌である請求項6に記載の抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた抗藻活性や抗菌活性を示すナノポリマー粒子、並びに、当該ナノポリマー粒子を有効成分として含む抗藻剤および抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培で用いられる培養液、水族館の水槽や熱帯魚を飼育している水槽、屋外プール、景観のため流水を利用したディスプレー等では,藻類や菌類が繁殖する。これら生物種の繁殖は、多くの場合、健康被害をもたらさないにしても生産効率や美観を損ねる。それらの場所では、これまでも除草剤や抗菌剤などが使用されてきたが,長期にわたり同一の薬剤を使用すると、耐性を示す突然変異体が出現する。また、病院などでもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌やバンコマイシン耐性腸球菌などの耐性菌が問題となっている。そのため、従来の薬剤と作用機序が全く異なる方法によりこれらの生物種の生育を防ぐことができ、且つ安全性の高い薬剤や素材が求められている。
【0003】
例えば、シアノアクリレートモノマーを重合させて得られたナノ粒子は、グラム陽性細菌や一部の藻類に対して効果を示すことが知られている(特許文献1~4,非特許文献1,2)。シアノアクリレートポリマーナノ粒子は、その表面にタンパク質などを吸着する性質がある。しかも、その吸着は静電気的要素や疎水結合力などの複数の要因によって生じるので、特異性が低い故に広範囲のタンパク質の吸着が可能であると考えられている。ナノ粒子表面に吸着されたタンパク質は、正常な立体構造を失うことによってその機能を喪失すると考えられる。シアノアクリレートポリマーナノ粒子が広範囲の生物種の増殖に影響を与える理由は、このような特異性の低い吸着反応であり得る。従来の抗生剤や除草剤は、細胞質内の特定の酵素に結合することで作用を発揮するのに対して、シアノアクリレートポリマーナノ粒子は複数のタンパク質を吸着できるため、耐性を示す個体が生じ難いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/126846号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/084494号パンフレット
【特許文献3】特開2014-177493号公報
【特許文献4】国際公開第2018/193847号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dwiyantari Widyaningrumら,J.Phycology,55,118-133,2019
【非特許文献2】Ayat J.S.Al-Azabら,Algal Research,54,1-9,2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、シアノアクリレートモノマーを重合させて得られたナノ粒子がグラム陽性細菌や一部の藻類に対して効果を示すことが知られている。上記先行技術文献には、かかるナノ粒子の原料としてエチルシアノアクリレートモノマーが例示されているものもあるが、実際に製造されてその効果が確認されているのはn-ブチルシアノアクリレートまたはイソブチルシアノアクリレートを重合させたホモポリマーからなるナノ粒子のみである。また、従来のシアノアクリレートポリマーナノ粒子は、様々な藻類に効果を示すも
のではなく、またグラム陰性細菌や真菌には効果を示さないという問題を有する。
そこで本発明は、優れた抗藻類活性や抗菌活性を示すナノポリマー粒子、並びに、当該ナノポリマー粒子を有効成分として含む抗藻剤および抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなるナノポリマー粒子は、ブチルシアノアクリレートポリマーナノ粒子が効果を示さないグラム陰性菌、特定の藻類、及び真菌に対しても細胞死誘導能や増殖阻害能を有することを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなることを特徴とするナノポリマー粒子。
[2] 前記ポリマーを構成するモノマー単位に対する前記エチルシアノアクリレート単位の割合が40モル%以上である前記[1]に記載のナノポリマー粒子。
[3] 前記ポリマーがエチルシアノアクリレートホモポリマーである前記[1]または[2]に記載のナノポリマー粒子。
[4] 平均粒子径が10nm以上、300nm以下である前記[1]~[3]のいずれかに記載のナノポリマー粒子。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載のナノポリマー粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗藻剤。
[6] 前記[1]~[4]のいずれかに記載のナノポリマー粒子を有効成分として含むことを特徴とする抗菌剤。
[7] 前記菌が、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、及び真菌から選択される1以上の菌である前記[6]に記載の抗菌剤。
【発明の効果】
【0009】
従来公知のブチルシアノアクリレートポリマーナノ粒子に対して、本発明に係るナノ粒子は、n-ブチル基やイソブチル基をエチル基に変更するのみで、驚くべきことにブチルシアノアクリレートポリマーナノ粒子が効果を示さないグラム陰性菌、特定の藻類、及び真菌に対しても細胞死を誘導したり増殖を阻害したりすることができる。また、本発明者らの実験的知見によれば、本発明に係るナノ粒子は、真核単細胞の藻類、真核単細胞の真菌類、原核生物などの幅広い生物種の細胞壁に物理的な損傷を与えたり、細胞質内の液胞を巨大化させたりするといった作用効果を示すことから、特定の酵素を阻害するような従来の抗菌剤などと違い、耐性菌などを生じさせ難いと考えられる。よって本発明に係るナノポリマー粒子は、優れた抗藻剤や抗菌剤の有効成分として、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上で緑藻綱に属する単細胞藻ムレミカヅキモに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図2】
図2は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して緑藻綱に属する単細胞藻ムレミカヅキモへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図3】
図3は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上でトレボウキシア藻綱に属する単細胞藻Chlorella vulgarisに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図4】
図4は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関してトレボウキシア藻綱に属する単細胞藻Chlorella vulgarisへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図5】
図5は、本発明のナノ粒子を含むTAP培地中で培養したChlorella vulgaris細胞の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上でグラム陰性細菌であるEscherichia coliに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図7】
図7は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関してグラム陰性細菌であるEscherichia coliへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図8】
図8は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上でグラム陰性細菌であるSerratia marcescenに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図9】
図9は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関してグラム陰性細菌であるSerratia marcescenへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図10】
図10は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上で真菌類に属するSaccharomyces cerevisiaeに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図11】
図11は、本発明のナノ粒子への暴露による真菌類に属するSaccharomyces cerevisiaeの細胞死をTrypan blue染色により検証した顕微鏡写真である。
【
図12】
図12は、本発明のナノ粒子および比較例ナノ粒子に関して、寒天プレート上で真菌類に属するSchizosaccharomyces japonicusに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図13】
図13は、本発明のナノ粒子を含む培地中、真菌類に属するSchizosaccharomyces japonicusを培養した後、Trypan blue、又は活性酸素種検出のためのプローブ剤であるH2DCFDAで染色した写真である。
【
図14】
図14は、本発明のナノ粒子を含むYPD培地、又は含まないYPD培地中、培養した真菌類Schizosaccharomyces japonicusの透過型電子顕微鏡写真である。
【
図15】
図15は、ホモポリマーナノ粒子およびヘテロポリマーナノ粒子に関して、寒天プレート上でのトレボウキシア藻綱に属する単細胞藻Chlorella vulgarisに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図16】
図16は、ホモポリマーナノ粒子およびヘテロポリマーナノ粒子に関して、寒天プレート上でグラム陰性細菌Escherichia coliに対する増殖阻害効果を検証した写真である。
【
図17】
図17は、ホモポリマーナノ粒子およびヘテロポリマーナノ粒子に関して、真菌類Saccharomyces cerevisiaeへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図18】
図18は、ホモポリマーナノ粒子およびヘテロポリマーナノ粒子に関して、真菌類Schizosaccharomyces japonicusへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【
図19】
図19は、ホモポリマーナノ粒子およびヘテロポリマーナノ粒子に関して、真菌類Schizosaccharomyces pombeへの増殖に対する影響を検証したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るナノポリマー粒子は、エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーからなる。
【0012】
エチルシアノアクリレート単位を含むポリマーは、その分子構造中、エチルシアノアクリレートモノマーに由来する以下のエチルシアノアクリレート単位を含むものであれば特
に制限されない。
【0013】
【0014】
前記ポリマーを製造するために使用されるエチルシアノアクリレート以外のシアノアクリレートモノマーは、特に制限されないが、例えば、n-ブチルシアノアクリレート、イソブチルシアノアクリレート、2-オクチルシアノアクリレートが挙げられる。シアノアクリレートモノマーは、一般的に水分の存在により容易に重合するが、ラジカル重合開始剤を用いることにより、他のビニルモノマーと共重合させてもよい。シアノアクリレートモノマー以外のビニルモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、スチレン;アクリル酸、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル、アクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリレートモノマー;メタクリル酸、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル等のメタクリレートモノマー等が挙げられる。
【0015】
前記ポリマーを構成するモノマー単位に対するシアノアクリレート単位の割合としては、抗藻活性や抗菌活性の観点から、60モル%以上または70モル%以上が好ましく、80モル%以上または90モル%以上がより好ましく、95モル%以上または98モル%以上がより更に好ましい。前記割合の上限としては、100モル%、即ち、前記ポリマーがシアノアクリレート単位のみから構成されているシアノアクリレートホモポリマーであることが好ましい。
【0016】
また、前記ポリマーを構成するモノマー単位に対するエチルシアノアクリレート単位の割合は、例えば5モル%以上とすることができる。本発明者らの実験的知見によれば、当該割合が高いほどナノ粒子の抗藻スペクトルおよび抗菌スペクトルが広く、優れた抗藻活性および抗菌活性が示されるため、当該割合としては、10モル%以上が好ましく、40モル%以上または50モル%以上がより好ましく、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上または98モル%以上がより更に好ましく、100モル%、即ち、前記ポリマーがエチルシアノアクリレート単位のみから構成されているエチルシアノアクリレートホモポリマーであることが特に好ましい。
【0017】
前記ポリマーの分子量は特に制限されないが、例えば、平均重合度としては、3以上、30以下とすることができる。本発明に係るナノポリマー粒子は、比較的小さい分子量のポリマーが疎水性相互作用で集合して形成されていると考えられる。
【0018】
前記ポリマーは、常法により製造することができる。例えば、シアノアクリレートモノマーの反応性は非常に高く、大気中の通常の湿気によっても重合反応を開始するため、反応溶媒としては水系溶媒を用いることができる。但し、反応開始前の溶媒のpHは、1.5以上、3以下程度に調整することが好ましい。シアノアクリレートモノマーの重合はアニオン重合により進行するため、かかるpH調整により溶媒中の水酸化物イオンの濃度を低減し、シアノアクリレートモノマーの重合反応を抑制することにより、得られる粒子の微細化が可能になる。pH調整のための酸は特に制限されないが、例えば、反応を阻害せず、反応後の除去が容易な塩酸が好ましく用いられる。
【0019】
水系溶媒とは、水、及び水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を意味する。水混和性有機
溶媒とは、水と制限なく混和可能な有機溶媒をいう。水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒が挙げられる。前記混合溶媒における水の割合としては、60質量%以上、70質量%以上または80質量%以上が好ましく、90質量%以上または95質量%以上がより好ましく、98質量%以上または99質量%以上がより更に好ましい。
【0020】
反応開始時における反応液中のモノマーの濃度は、適宜調整すればよいが、例えば、0.5v/v%以上、10v/v%以下とすることができ、2v/v%以上、5v/v%以下が好ましい。また、反応の進行を制御して微細な粒子を得るべく、モノマー撹拌された反応液中に滴下することが好ましい。
【0021】
反応液には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤により、モノマーやポリマーの分散性を高めて、粗大粒子の形成を抑制することができ、粒子を微細化することができる。界面活性剤としては、生物毒性を有さないか生物毒性が低い非イオン界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジステアレート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0022】
陰イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤は、粒子表面に付着することにより粒子間に静電的反発力が生じさせ、粒子同士の凝集を効果的に阻害でき、粒子の微細化により効果的に寄与すると考えられる。陰イオン界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。陽イオン界面活性剤としては、アルキルアミン塩や第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0023】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、又は、非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤もしくは陽イオン界面活性剤との組み合わせが好ましい。非界面活性剤は、前述した通り、生物毒性が無いか生物毒性が低い。また、陰イオン界面活性剤と陽イオン界面活性剤は、ナノポリマー粒子のゼータ電位の絶対値を高め、粒子の凝集を抑制できる。界面活性剤の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、反応液全体に対して0.5質量%以上、5質量%以下に調整することができる。また、ナノポリマー粒子のゼータ電位の絶対値は、反応液への塩の添加によっても高められる。かかる塩としては、例えば、塩化ナトリウムを用いることができる。
【0024】
反応条件は、目的のナノポリマー粒子が良好に得られる範囲で適宜調整すればよく、予備実験で決定してもよい。例えば、反応温度は10℃以上、50℃以下程度に調整することができ、常温で反応を行ってもよい。反応時間については、モノマーが消費されるまで反応を行ってもよいが、例えば、モノマーの添加完了後、30分間以上、24時間以下とすることができる。
【0025】
反応終了後は、通常の後処理を行えばよい。例えば、反応後、反応液を水酸化ナトリウム水溶液などで中和する。その後、反応を完全に完結させるために、上記と同様の条件で反応液の撹拌を継続してもよい。また、濾過により、粗大な不純物を除去してもよい。
【0026】
本発明に係るナノポリマー粒子は、前記ポリマーからなる。ここで「ポリマーからなる」とは、ナノポリマー粒子を構成する成分が、不可避的不純物や不可避的混入物以外、前記ポリマーであることをいう。不可避的不純物および不可避的混入物とは、例えば重合反応で使用した試薬がナノポリマー粒子中に混入したり、ナノポリマー粒子の表面に吸着したり、また、空気中や環境から混入するものであり、精製により除去しきれない成分をいう。例えば、ポリマーの合成反応に使用した界面活性剤や塩は、ナノポリマー粒子の内部に含まれていたり、ナノポリマー粒子の表面に吸着していたりすると考えられる。より具体的には、ナノポリマー粒子の95質量%以上が前記ポリマーであることが好ましい。当該割合としては、98質量%以上または99質量%以上がより好ましく、99.5質量%以上がより更に好ましく、また、100質量%、即ちポリマー以外の不可避的不純物や不可避的混入物が検出限界以下であることが好ましい。
【0027】
ナノポリマー粒子の粒径としては、優れた抗藻活性や抗菌活性が発揮される範囲であれば特に制限されないが、例えば、動的光散乱法で測定された平均粒子径で10nm以上、300nm以下が好ましい。当該平均粒子径が300nm以下であれば、標的細胞の細胞壁に十分に影響を及ぼすことができると考えられ、10nm以上であれば、ナノポリマー粒子を良好に製造することができる。当該平均粒子径としては、15nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、また、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がより更に好ましい。
【0028】
ナノポリマー粒子のゼータ電位の絶対値としては3mV以上、即ち、ナノポリマー粒子のゼータ電位としては、-3mV以下または+3mV以上が好ましい。ゼータ電位とは、粒子から充分に離れて電気的に中性である領域の電位をゼロと定義した場合の滑り面の電位をいい、ゼータ電位の絶対値が大きいことは、粒子間の静電的反発力が強く粒子の安定性が高くなるため、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標となる。また、ナノポリマー粒子による細胞死誘導のメカニズムとしては、粒子が細胞壁上の酵素やタンパク質に吸着して、その機能を喪失させることが考えられる。よって、ナノポリマー粒子のゼータ電位の絶対値としては、30mV以下、即ち、ナノポリマー粒子のゼータ電位としては、-30mV以上または+30mV以下が好ましい。なお、ナノポリマー粒子のゼータ電位は、例えば、前記ポリマーの合成反応に用いるモノマー、界面活性剤および/または塩の種類や量(反応液における濃度)により調整することができる。また、ナノポリマー粒子のゼータ電位は、重合反応後の反応液への界面活性剤および/または塩の添加によっても調整することができる。
【0029】
本発明に係るナノポリマー粒子は、優れた抗藻活性と抗菌活性を示す。また、本発明者らの実験的知見によれば、本発明に係るナノポリマー粒子は、細胞壁上に配置されている酵素やタンパク質に影響を与え、代謝異常を誘発することにより細胞死を誘導するが、動物は細胞壁を有さず、本発明に係るナノポリマー粒子に親和性を示す酵素やタンパク質を有さないため、動物に対しては無害であるか或いはその毒性は極めて低いと考えられる。よって、本発明に係るナノポリマー粒子は、抗藻剤や抗菌剤の有効成分として有用である。
【0030】
本発明に係るナノポリマー粒子が抗藻活性を示す藻類は、特に制限されないが、例えば、プセウドキルクネリエラ(Pseudokirchneriella)属藻類、クロレラ(Chlorella)属藻類、クラミドモナス(Chlamydomonas)属藻
類、ミクロキスティス(Microcystis)属藻類、アレキサンドリウム(Alexandrium)属藻類、ディノフィシス(Dinophysis)属藻類、カレニア(Karenia)属藻類、プセウドニッチア(Pseudo-nitzchia)属藻類、ガムビエルディスクス(Gambierdiscus)属藻類、ウログレナ(Uroglena)属藻類、ペリディニウム(Peridinium)属藻類、クリソクロムリナ(Chrysochromulina)属藻類、プリムネシウム(Prymnesium)属藻類などが挙げられる。
【0031】
本発明に係るナノポリマー粒子が抗菌活性を示す菌類としては、特に制限されないが、例えば、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、及び真菌が挙げられる。グラム陽性細菌としては、例えば、バチルス(Bacillus)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、リステリア(Listeria)属細菌、ペプトコッカス(Peptococcus)属細菌、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、ユーバクテリウム(Eubacterium)属細菌、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属細菌などが挙げられる。
【0032】
本発明に係るナノポリマー粒子が抗菌活性を示すグラム陰性細菌としては、特に制限されないが、例えば、エシェリキア(Escherichia)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌、ビブリオ(Vibrio)属細菌、キャンピロバクター(Campylobacter)属細菌、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌、シゲラ(Shigella)属細菌などが挙げられる。
【0033】
本発明に係るナノポリマー粒子が抗菌活性を示す真菌としては、特に制限されないが、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロミケス(Schizosaccharomyces)属菌、カンジダ(Candida)属菌、アスペルギルス(Aspergillus)属菌、ライゾウパス(Rhizopus)属菌、リゾムコール(Rhizomucor)属菌、ムコール(Mucor)属菌、トリコフィトン(Trichophyton)属菌、ミクロスポルム(Microsporum)属菌などが挙げられる。
【0034】
本発明に係るナノポリマー粒子を有効成分として含む製剤の剤形は、対象藻類や対象菌類、用途などに応じて適宜選択すればよく、特に制限されないが、例えば、散剤、顆粒剤、分散液とすることができる。なお、本発明において「分散液」とは、本発明に係るナノポリマー粒子が溶解することなく溶媒に分散している製剤をいい、分散液の溶媒としては、前記水系溶媒が挙げられる。
【0035】
本発明に係る製剤は、ナノポリマー粒子を有効成分として含む他、剤形に合わせた添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、粘稠剤、水、エタノール、2-プロパノール等の溶媒、増粘剤、等張化剤、pH調整剤、滑沢剤、着色剤、抗酸化剤、矯味剤、コーティング剤などが挙げられる。
【0036】
本発明に係る製剤の使用量は、対象藻類や対象菌類、用途、剤形などに応じて適宜選択すればよい。例えば、培養液、水槽、プール、池、湖、流水ディスプレー等の水性環境における藻類や菌類の増殖を抑制するためには、効果が得られる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、水に対するナノポリマー粒子の濃度が0.005質量%以上、1質量%以下となるよう調整することが好ましい。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
実施例1: エチルシアノアクリレートホモポリマーナノ粒子(ECA-NP)の製造
100mLビーカーに脱イオン水(50mL)を加え、更に5N塩酸(0.4mL)を加えてpHを約2に調整した。更に、界面活性剤(「Tween80」(1.0mL)を加えて溶解させた。得られた混合液に、エチルシアノアクリレートモノマー(2.0mL)を1滴ずつ滴下した後、500rpmで2時間撹拌した。撹拌後、5N水酸化ナトリウム水溶液(0.4mL)を少しずつ滴下して中和し、更に1時間撹拌した。次いで、シリンジを用いて溶液を吸い取り、5.0μmシリンジフィルターを使って濾過することにより、反応溶液の粗ゴミを除去した。
得られた反応液中のエチルシアノアクリレートホモポリマーナノ粒子(ECA-NP)の平均粒子径を、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(「ELSZ-2000ZS」大塚電子社製)を用い、動的光散乱法(光子相関法)により測定したところ、約50nmであった。また、同システムを用い、電気泳動光散乱法(レーザードップラー法)によりゼータ電位を測定したところ、-17mVであった。
【0039】
比較例1: イソブチルシアノアクリレートホモポリマーナノ粒子(iBCA-NP)の製造
エチルシアノアクリレートモノマー(2.0mL)をイソブチルシアノアクリレートモノマー(2.0mL)に変更した以外は実施例1と同様にして、イソブチルシアノアクリレートホモポリマーナノ粒子(iBCA-NP)の分散液を得た。
得られた反応液中のイソブチルシアノアクリレートホモポリマーナノ粒子(iBCA-NP)の平均粒子径は約24nmであり、ゼータ電位は-3mVであった。
【0040】
実施例2: iBCA(5)-ECA(5)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(5)-ECA(5)-NP)の製造
エチルシアノアクリレートモノマー(2.0mL)を、イソブチルシアノアクリレートモノマー(iBCA)(1.13mL)とエチルシアノアクリレートモノマー(ECA)(0.87mL)を混合したiBC:ECA=5:5(モル比)の混合液(2.0mL)に変更した以外は実施例1と同様にして、iBCA(5)-ECA(5)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(5)-ECA(5)-NP)の分散液を得た。
得られた反応液中のiBCA(5)-ECA(5)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(5)-ECA(5)-NP)の平均粒子径は約18nmであり、ゼータ電位は-13mVであった。
得られたナノ粒子を1H NMR(DMSO-d6,400MHz)で分析したところ、主鎖CH2プロトンのピークと共に、iBCA単位のOCH2プロトンとECA単位のOCH2プロトンのピークがそれぞれ明瞭に認められた。iBCA単位のOCH2プロトンに帰属される共鳴線(3.9ppm)とECA単位のOCH2プロトンに帰属される共鳴線(
4.2ppm)の積分強度比(1.25/1.00)から,得られたヘテロポリマーナノ粒子のiBCA/ECA組成は56mol/44molと決定された。
また、得られたナノ粒子をMALDI-TOF MASS(マトリックス:ジスラノール,イオン化剤:ヨウ化ナトリウム)で分析したところ、iBCA単位の質量153.1、及びECA単位の質量125.1の整数倍の和に相当するピーク群が観測されることから、ランダム共重合体であることが分かった。また両末端に水素を有する共重合体イオンのピーク群と、一方の末端に水酸基、他方に水素を有する共重合体イオンのピーク群も観
測された。いずれのイオンもナトリウムカチオン付加体として観測された。
【0041】
実施例3: iBCA(9)-ECA(1)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(9)-ECA(1)-NP)の製造
エチルシアノアクリレートモノマー(2.0mL)を、イソブチルシアノアクリレートモノマー(iBCA)(1.84mL)とエチルシアノアクリレートモノマー(ECA)(0.16mL)を混合したiBC:ECA=9:1(モル比)の混合液(2.0mL)に変更した以外は実施例1と同様にして、iBCA(9)-ECA(1)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(9)-ECA(1)-NP)の分散液を得た。
得られた反応液中のiBCA(9)-ECA(1)ヘテロポリマーナノ粒子(iBCA(9)-ECA(1)-NP)の平均粒子径は約23nmであり、ゼータ電位は-11mVであった。
【0042】
実施例4: ムレミカヅキモに対する抗藻効果の確認
緑藻綱に属する単細胞藻であるムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)NIES-35株を、TAP培地中、増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を滅菌した綿棒に含ませて、寒天1%を含む固形培地の表面全体に塗布し、培地が寒天に染み込むまで5分間静置した。次に、滅菌水を用いて0.125~1質量%の濃度に希釈したナノ粒子液(5μL)を滴下した。その後、84μmol photons・m
-2・s
-1の蛍光下、25℃で14日間培養した。対照実験区としては、各濃度のナノ粒子液が含有するTween80のみを含む液を用いた。
図1(A)に滴下したナノ粒子または界面活性剤のみを含む液の位置と濃度を示し、
図1(B)に実施例1のECA-NP液を滴下した場合の結果を示し、(C)は比較例1のiBCA-NP液を滴下した場合の結果を示す。
図1の通り、iBCA-NPには増殖阻止円は認められなかったのに対して、0.25~1質量%の範囲では、ECA-NP液を滴下した位置にのみ明瞭な増殖阻止円が現れていることから、この濃度範囲のECA-NP液はムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)の増殖を抑制する効果を有することが分かった。
【0043】
実施例5: ムレミカヅキモに対する抗藻効果の確認
ムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)に対するECA-NPおよびiBCA-NPの増殖阻害効果を下記の実験により検証した。
Pseudokirchneriella subcapitata NIES-35株の対数増殖期後期から定常期初期の細胞培養液(10μL)を、液体培地(TAP培地,3mL)が入った5mL容量ガラス試験管に接種した。更に、100mg/Lの濃度となるようナノ粒子液を加えた。対照区としては、ナノ粒子を添加せずに界面活性剤のみを加えて、所定の濃度のナノ粒子含有試験管内の界面活性剤濃度と同一になるように調整した。上記の試験管を振盪培養し、定期的にマクファーランド濁度係数を測定した。結果を
図2に示す。
図2に示される結果の通り、iBCA-NPを100mg/L含む培地中ではムレミカヅキモ細胞の増殖が見られるが,ECA-NPを100mg/L含む培地中ではムレミカヅキモ細胞の増殖は認められなかったことから、この濃度のECA-NPにはムレミカヅキモに対する増殖抑制能か細胞死誘導能があることが明らかになった。
【0044】
実施例6: クロレラに対する抗藻効果の確認
トレボウキシア藻綱に属する緑藻Chlorella vulgaris NIES-2170株を、TAP培地中で増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を用いて、実施例4と同様に寒天培地上でのナノ粒子による増速阻害効果を検証した結果を
図3に示す。
図3(A)はECA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図3(B)はiBCA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図3(C)は各ナノ粒子液に含まれる濃度と同一濃度の界面活性剤(Tween80)を含む液を結果した対照区の結果である。
図3に示される結果の通り、1%および0.2%のECA-NP液を滴下した位置には明瞭な増殖阻止円が現れていることから、これら濃度のECA-NP液は固体表面上でクロレラの増殖を抑制する効果が認められる一方で、そのような効果はiBCA-NPにはないことが分かった。
【0045】
実施例7: クロレラに対する抗藻効果の確認
TAP液体培中におけるトレボウキシア藻綱に属する緑藻Chlorella vulgarisに対してECA-NPおよびiBCA-NPの増殖阻害効果を実施例5に倣った方法で検証した。結果を
図4に示す。
図4に示される結果の通り、iBCA-NPを100mg/L含む培地中ではクロレラ細胞の増殖が見られるが、ECA-NPを100mg/L含む培地中では、培養開始後8時間までは細胞増殖は起こらず、その後12時間までは緩やかな細胞増殖が見られるが、細胞増殖は再び停止した。従って、この濃度のECA-NPには、iBCA-NPにはないChlorella vulgarisに対する増殖抑制能か細胞死誘導能があることが分かった。
【0046】
実施例8: ECA-NPで処理されたクロレラ細胞の拡大観察
100mg/LのECA-NPを含むTAP培地中で5時間培養したChlorella vulgarisの細胞を、固定液(4%グルタールアルデヒドを含む0.03MPBバッファー)を用い、4℃で4時間前固定した。次いで、細胞を0.03MPBバッファーで洗浄後、寒天(1%SeaPlaque
TMTG
TMアガロースゲル)に包埋し、更に固定液(2%四酸化オスミウムを含む0.03MPBバッファー)を使い、4℃で2時間後固定した。細胞を0.03MPBバッファーで洗浄した後、2%ウラン水溶液を使い、4℃で1時間染色した。次に、20%、40%、60%、80%のアセトン水溶液、及び100%アセトンを順次使って脱水し、樹脂(Quetol-651)の濃度を、20%、40%、60%、80%、100%と徐々に上げていき、更に100%樹脂(Quetol-651)に加速剤(DMP-30)を添加して、60℃で樹脂を硬化した。ウルトラミクロトームを用いて厚さ80nmの薄切り切片を作製し、フォルンバール膜を貼ったグリッドに貼り付けた。ウラン染色とクエン酸鉛染色の後、透過型電子顕微鏡(「H-7650」日立ハイテク社製、80kV)で観察した。結果を
図5に示す。
図5の電子顕微鏡写真の通り、ECA-NPで処理されたクロレラ細胞には、細胞壁の断裂や細胞壁厚の顕著な減少が観察された。よって、ECA-NPは、細胞壁にダメージを与えることによりクロレラ細胞を死滅させたりその増殖を抑制したりすることが明らかとなった。
【0047】
実施例9: グラム陰性細菌に対する抗菌効果の評価
グラム陰性細菌であるEscherichia coli NBRC3301株を、LB培地中、増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を用いて、実施例4に沿った方法で、寒天培地上でのナノ粒子による増速阻害効果を検証した。結果を
図6に示す。
図6(A)はECA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図6(B)はiBCA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図6(C)は各ナノ粒子液に含まれる界面活性剤(Tween80)のみを滴下した場合の結果である。
図6に示される結果の通り、iBCA-NP液および界面活性剤のみを含む液を滴下した場合には、濃度に関わらず増殖阻止円は生じていない一方で、0.1%から1%のECA-NP液を滴下した位置には明瞭な増殖阻止円が確認された。かかる結果より、iBCA-NP液には濃度に関わらずグラム陰性細菌であるEscherichia coliに対する効果が無いのに対して、0.1%から1%濃度のECA-NP液には、固体表面
上でEscherichia coliの増殖を抑制する効果を示すことが明らかにされた。
【0048】
実施例10: グラム陰性細菌に対する抗菌効果の評価
LB培地中におけるグラム陰性細菌Escherichia coliに対するECA-NPおよびiBCA-NPの増殖阻害効果を、実施例5に倣った方法で検証した。結果を
図7に示す。
図7に示される結果の通り、iBCA-NPを100mg/L含む培地中では、ナノ粒子を含まないLB培地と同様のEscherichia coliの細胞増殖が確認されたのに対して、ECA-NPを100mg/L含む培地中では細胞増殖が全く見られなかった。従って、この濃度のiBCA-NPにはグラム陰性細菌であるEscherichia coliに対する増殖抑制効果は無いが、この濃度のECA-NPには増殖抑制能あるいは細胞死誘導能を有することが分かった。
【0049】
実施例11: グラム陰性細菌に対する抗菌効果の評価
別のグラム陰性細菌に対する効果についても試験した。グラム陰性細菌であるSerratia marcescen NBRC102204株を、LB培地中、増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を用いて、実施例4に沿った方法で、寒天培地上でのナノ粒子による増速阻害効果を検証した。結果を
図8に示す。
図8(A)はECA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図8(B)はiBCA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図8(C)は各ナノ粒子液に含まれる界面活性剤(Tween80)のみを滴下した場合の結果である。
図8に示される結果の通り、iBCA-NP液および界面活性剤のみを含む液を滴下した場合には、濃度に関わらず増殖阻止円は生じていない一方で、0.1%から1%のECA-NP液を滴下した位置には明瞭な増殖阻止円が確認された。かかる結果より、iBCA-NP液には濃度に関わらずグラム陰性細菌であるSerratia marcescenに対する効果が無いのに対して、0.1%から1%濃度のECA-NP液には、固体表面上でSerratia marcescenの増殖を抑制する効果を示すことが明らかにされた。
【0050】
実施例12: グラム陰性細菌に対する抗菌効果の評価
LB培地中におけるグラム陰性細菌Serratia marcescenに対するECA-NPおよびiBCA-NPの増殖阻害効果を、実施例5に倣った方法で検証した。結果を
図9に示す。
図9に示される結果の通り、iBCA-NPを100mg/L含む培地中では、ナノ粒子を含まないLB培地と同様のEscherichia coliの細胞増殖が確認されたのに対して、ECA-NPを100mg/L含む培地中では細胞増殖が全く見られなかった。従って、この濃度のiBCA-NPにはグラム陰性細菌であるSerratia marcescenに対する増殖抑制効果は無いが、この濃度のECA-NPには増殖抑制能あるいは細胞死誘導能を有することが分かった。
【0051】
実施例13: 真菌に対する抗菌効果の評価
真菌に対する効果についても試験した。真菌類に属するSaccharomyces cerevisiae BY4741株を、YPD培地中、増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を用いて、実施例4に沿った方法で、寒天培地上でのナノ粒子による増速阻害効果を検証した。結果を
図10に示す。
図10(A)はECA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図10(B)はiBCA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図10(C)は各ナノ粒子液に含まれる界面活性剤(Tween80)のみを滴下した場合の結果である。
図10に示される結果の通り、iBCA-NP液および界面活性剤のみを含む液を滴下
した場合には、濃度に関わらず増殖阻止円は生じていない一方で、0.1%から1%のECA-NP液を滴下した位置には明瞭な増殖阻止円が確認された。かかる結果より、iBCA-NP液には濃度に関わらず真菌であるSaccharomyces cerevisiaeに対する効果が無いのに対して、0.1%から1%濃度のECA-NP液には、固体表面上でSaccharomyces cerevisiaeの増殖を抑制する効果を示すことが明らかにされた。
【0052】
実施例14: 真菌に対する抗菌効果の評価
YPD液体培地中において対数増殖期中期まで生育したSaccharomyces cerevisiaeに、ECA-NPを1,000mg/Lの濃度で加え、30℃で2時間培養後に、Trypan blueを0.2%の濃度で加え、5分後に光学顕微鏡を用いて観察した。結果を
図11に示す。
図11に示される結果の通り、多くの細胞が青く染まっていた。Trypan blueは死細胞や死組織を青色に選択的に染色するため、ECA-NPはSaccharomyces cerevisiaeに迅速な細胞死を誘導したことが示された。
【0053】
実施例15: 真菌に対する抗菌効果の評価
別の真菌に対する効果についても試験した。真菌類に属するSchizosaccharomyces japonicus IF01609株を、YPD培地中、増殖期中期から後期に至るまで増殖させた。この培養液を用いて、実施例4に沿った方法で、寒天培地上でのナノ粒子による増速阻害効果を検証した。結果を
図12に示す。
図12(A)はECA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図12(B)はiBCA-NP液を滴下した場合の結果であり、
図12(C)は各ナノ粒子液に含まれる界面活性剤(Tween80)のみを滴下した場合の結果である。
図12に示される結果の通り、iBCA-NP液および界面活性剤のみを含む液を滴下した場合には、濃度に関わらず増殖阻止円は生じていない一方で、0.25%から1%のECA-NP液を滴下した位置には明瞭な増殖阻止円が確認された。かかる結果より、iBCA-NP液には濃度に関わらず真菌であるSchizosaccharomyces
japonicusに対する効果が無いのに対して、0.25%から1%濃度のECA-NP液には、固体表面上でSchizosaccharomyces japonicusの増殖を抑制する効果を示すことが明らかにされた。
【0054】
実施例16: 真菌に対する抗菌効果の評価
YPD液体培中において対数増殖期中期まで生育したSchizosaccharomyces japonicusに、ECA-NPを1,000mg/Lの濃度で加え、30℃で30分間培養後、最終濃度0.2%でTrypan blue、又は最終濃度10μMで2’,7’-dichlorodihydrofluorescein diacetate(H2DCFDA)(D668,Sigma)を加え、室温で15分間放置した。遠心で細胞を集めて上清液を捨て、同量の新しい培地を加えて細胞を再懸濁し、Trypan blueで染色された細胞を明視野で観察した。また、細胞内の活性酸素種によりH2DCFDAが2’,7’-dichlorofluorescein(DCF)に変換されたことにより生じる蛍光を、蛍光ミラーユニット(「U-FBWAミラーセット」Olympus社製)を用いて観察した。更に、培養時間を4時間に延長した後にTrypan blueを添加し、同様に観察した。30分間培養後にTrypan blue染色した場合の写真を
図13(A)に、30分間培養後にH2DCFDAを加えた場合の写真を
図13(B)に、4時間培養後にTrypan blue染色した場合の写真を
図13(C)に示す。
図13に示される結果の通り、30分間の培養ではTrypan blueにより染色される細胞は少ないが、蛍光を示す細胞は多く見られた。また、4時間の培養では、Trypan blueにより染色される細胞が多く見られた。かかる結果より、ECA-N
P暴露によりもたらされた代謝異常により活性酸素種が細胞内に蓄積し、それが原因となり、やがて細胞死に至ると考えられた。
【0055】
実施例17: 真菌に対する抗菌効果の評価
YPD液体培中において対数増殖期中期まで生育したSchizosaccharomyces japonicusに、ECA-NPを1,000mg/Lの濃度で加え、30℃で3時間培養した。また、比較のために、ナノ粒子を添加しない以外は同様にして培養した。各培養細胞を実施例8と同様に処理して試料を作製し、透過型電子顕微鏡で観察した。ナノ粒子を添加しなかった場合の結果を
図14(A)に、ナノ粒子を添加した場合の結果を
図14(B)に示す。また、
図14中、「N」は核を示し、「*」は液胞を示す。
図14に示される結果の通り、本発明に係るナノ粒子に暴露された細胞では液胞が極度に肥大化しており、且つその電子密度は低くなっていた。
【0056】
実施例18: クロレラに対する抗藻効果の確認
トレボウキシア藻綱に属する緑藻Chlorella vulgarisに対するホモポリマーナノ粒子とヘテロポリマーナノ粒子の細胞増殖阻害効果を、実施例4に沿って検証した。寒天培地上、比較例1のiBCA-NP、実施例3のiBCA(9)-ECA(1)-hetero-NP、実施例2のiBCA(5)-ECA(5)-hetero-NP、実施例1のECA-NPの、1w/v%、0.2w/v%、0.04w/v%、及び0.008w/v%溶液を、5μLずつ2列に滴下した。また、各ナノ粒子液に含まれる同量の界面活性剤溶液も同様に滴下した。結果を
図15に示す。
図15に示される結果の通り、iBCA-NP(A)と界面活性剤(E)の場合にはクロレラの生育阻止円は確認されず、本発明に係るナノ粒子(B)~(D)の場合には明瞭に確認することができた。また、その阻止円の大きさは、ホモポリマーナノ粒子ECA-NP(D)の場合が最も大きく、ヘテロポリマーナノ粒子iBCA(5)-ECA(5)
hetero-NP(C)とiBCA(9)-ECA(1) hetero-NP(B)の大きさがほぼ同じであった。このように、ECAモノマーを含むポリマー粒子のみがクロレラに対する増殖阻害効果を示した。
【0057】
実施例19: グラム陰性細菌に対する抗藻効果の確認
グラム陰性細菌Escherichia coliに対するホモポリマーナノ粒子とヘテロポリマーナノ粒子の細胞増殖阻害効果を、実施例4に沿って検証した。寒天培地上、比較例1のiBCA-NP、実施例2のiBCA(5)-ECA(5)-hetero-NP、実施例1のECA-NPの、1w/v%、0.5w/v%、0.25w/v%、及び0.125w/v%溶液を、5μLずつ2列に滴下した。結果を
図16に示す。
図16に示される結果の通り、iBCA-NP(B)の場合にはクロレラの生育阻止円は確認されなかった。また、ホモポリマーナノ粒子ECA-NP(E)の場合の生育阻止円が最も明瞭であり、同じ濃度であれば他のナノ粒子を滴下した場合よりも大きかった。また、ヘテロポリマーナノ粒子iBCA(5)-ECA(5) hetero-NP(D)の滴下の場合、1w/v%および0.5w/v%の滴下で明瞭な成育阻止円が認められ、0.25w/v%と0.125w/v%の滴下では、不明瞭ながら面積の小さな生育阻止円が認められた。かかる結果から、ECAモノマーを含むポリマー粒子のみがクロレラに対する増殖阻害効果を示し、またECAモノマー単位の割合が高いナノ粒子ほど、グラム陰性細菌Escherichia coliに対する生育阻害効果が高いことが分かった。
【0058】
実施例20: 真菌に対する抗藻効果の確認
0.1%の各ナノ粒子を含むYPD液体培中において、真菌類Saccharomyces cerevisiaeの増殖に対する各ナノ粒子の増殖阻害効果を実施例5に倣っ
た方法で検証した。結果を
図17に示す。
図17に示される結果の通り、ECA-NPはSaccharomyces cerevisiaeの増殖を完全に阻害することができ、iBCA(5)-ECA(5) hetero-NPは、培養開始から50時間を超えると細胞が再増殖するものの、培養開始後50時間までは増殖を完全に阻害できた。一方、iBCA-NPは、培地のみに比べるとわずかな増殖阻害効果を示すが、特に培養時間が長くなると、その増殖阻害効果は全く十分なものではなかった。
【0059】
実施例21: 真菌に対する抗藻効果の確認
0.1%の各ナノ粒子を含むYPD液体培中において、真菌類Schizosaccharomyces japonicusの増殖に対する各ナノ粒子の増殖阻害効果を実施例5に倣った方法で検証した。結果を
図18に示す。
図18に示される結果の通り、ECA-NPはSchizosaccharomyces japonicusの増殖を完全に阻害することができ、iBCA(5)-ECA(5) hetero-NPは、培養開始から70時間を超えると細胞が再増殖するものの、培養開始後70時間までは増殖を完全に阻害できた。一方、iBCA-NPは、培地のみに比べると増殖阻害効果を示すが、本発明に係るナノ粒子に比べれば、その増殖阻害効果は十分なものではなかった。
【0060】
実施例22: 真菌に対する抗藻効果の確認
0.1%の各ナノ粒子を含むYPD液体培中において、真菌類Schizosaccharomyces pombeの増殖に対する各ナノ粒子の増殖阻害効果を実施例5に倣った方法で検証した。結果を
図19に示す。
図19に示される結果の通り、ECA-NPとiBCA(5)-ECA(5) hetero-NPは、Schizosaccharomyces pombeの増殖を完全に阻害することができた。一方、iBCA-NPは、培地のみに比べると増殖阻害効果を示すが、本発明に係るナノ粒子に比べれば、その増殖阻害効果は十分なものではなかった。