(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083729
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】歯科用粉量計
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20230609BHJP
G01F 19/00 20060101ALI20230609BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
A61C19/00 A
G01F19/00 Z
A61C13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197587
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】内田 潤
(72)【発明者】
【氏名】塚本 雅広
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA06
4C052FF10
4C052HH04
(57)【要約】
【課題】粉材用の計量器具(以下、歯科用粉量計と称する)に関しては、擦切って一定量を量り取るスプーン形状のものや、目盛付きのカップ形状のもの等が一般的に用いられている。本発明は、歯科用粉末の付着を低減でき、且つ粉末が付着したとしても容易に除去が可能で清掃性にも優れた歯科用粉量計を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンを含むポリマーアロイを材質とした歯科用粉量計。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用粉末を採取するための歯科用粉量計であって、その材質としてポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンのポリマーアロイを含むことを特徴とする歯科用粉量計。
【請求項2】
前記ポリマーアロイにおけるポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの割合が質量比で10:90~90:10である請求項1に記載の歯科用粉量計。
【請求項3】
前記歯科用粉末が無機粉末及び/又はポリマー粉末である請求項1又は2に記載の歯科用粉量計。
【請求項4】
前記無機粉末が表面処理により疎水化された無機粉末である請求項3に記載の歯科用粉量計。
【請求項5】
前記無機粉末がシランカップリング剤による表面処理により疎水化された無機粉末である請求項3に記載の歯科用粉量計。
【請求項6】
前記無機粉末が酸反応性ガラス粉末である請求項3~5のいずれか1項に記載の歯科用粉量計。
【請求項7】
前記歯科用粉末の体積基準の累積粒度分布における50%粒子径(D50)が0.1~100μmである請求項1~6のいずれか1項に記載の歯科用粉量計。
【請求項8】
前記歯科用粉量計の形状がスプーン形状である請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用粉量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用粉末を採取する際に使用する歯科用粉量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的な歯科材料として、歯科用充填材、歯科用接着材、歯科合着用セメント、各種補綴装置を製作するための材料、及び歯科補修用材料等がある。このような歯科材料には、液材と液材、粉材と液材、ペースト材とペースト材等、複数の成分から構成されているものが多く存在する。これらは歯科医師等が複数の成分を混ぜ合わせることで治療に用いられる。
【0003】
これらのうち粉材と液材からなる材料(以下、粉液型材料と称する)には、義歯床用レジン、義歯床用裏装材、歯科汎用アクリル系レジン、義歯床用粘膜調整材、歯科用グラスアイオノマーセメント、及び歯科用レジンセメント等、様々な材料がある。これら粉液型材料は正しい標準粉液比で調合することがその性能を充分に発揮させる上で重要となるため、粉材及び液材を各々正確に量り取る必要がある。そのためそれら粉材及び液材には計量器具が提供される場合がある。
【0004】
このうち粉材用の計量器具(以下、歯科用粉量計と称する)に関しては、擦切って一定量を量り取るスプーン形状のものや、目盛付きのカップ形状のもの等が一般的に用いられている。意匠文献1にはスプーン形状の歯科用粉量計が、非特許文献1の444頁には目盛付きのカップ形状の歯科用粉量計が示されている。
【0005】
これら歯科用粉量計は一般的な樹脂、例えばアクリロニトリル・スチレンやポリプロピレン等で作製されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】意匠第1615370号公報
【非特許文献1】歯界展望2010 3月号(第115巻 第3号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、従来の歯科用粉量計は歯科用粉末を採取後、粉量計の表面に粉末が付着して残存する場合があった。そのような場合、付着した歯科用粉末を拭き取り等で清掃しなければならず作業が煩雑であるばかりか、清掃の際に粉末が飛散し、衛生的にも好ましくなかった。本発明者らの検証によれば、歯科用粉末が粉量計に付着する現象は、特に疎水化された無機粉末においてより起こりやすい傾向にあることが分かった。
【0008】
そこで本発明は、歯科用粉末の付着を少なくすることができ、また、粉末が付着したとしても容易に除去が可能で清掃性にも優れた歯科用粉量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは各種樹脂に対する歯科用粉末の付着性について検討を行った。その結果、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンのポリマーアロイは、歯科用粉末を接触させた場合、粉末の付着量が少なく、且つ付着した粉末は容易に除去が可能であることを見出した。さらに鋭意検討を進めた結果、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンを特定の質量比で含ませたポリマーアロイは、歯科用粉末の付着量がより少なくなり、また、付着した粉末はより容易に除去できることを見出した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0010】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]歯科用粉末を採取するための歯科用粉量計であって、その材質としてポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンのポリマーアロイを含むことを特徴とする歯科用粉量計。
[2]前記ポリマーアロイにおけるポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの割合が質量比で10:90~90:10である[1]に記載の歯科用粉量計。
[3]前記歯科用粉末が無機粉末及び/又はポリマー粉末である[1]又は[2]に記載の歯科用粉量計。
[4]前記無機粉末が表面処理により疎水化された無機粉末である[3]に記載の歯科用粉量計。
[5]前記無機粉末がシランカップリング剤による表面処理により疎水化された無機粉末である[3]に記載の歯科用粉量計。
[6]前記無機粉末が酸反応性ガラス粉末である[3]~[5]のいずれかに記載の歯科用粉量計。
[7]前記歯科用粉末の体積基準の累積粒度分布における50%粒子径(D50)が0.1~100μmである[1]~[6]のいずれかに記載の歯科用粉量計。
[8]前記歯科用粉量計の形状がスプーン形状である[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用粉量計。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用粉量計は歯科用粉末の付着が少ないばかりでなく、粉末が付着したとしても容易に除去が可能であるため、使用後の清掃の負担が低減される。また、清掃時における歯科用粉末の飛散量を低減できるため、作業場を衛生的に保ちやすくなる。さらに、本発明の歯科用粉量計は高強度で、耐薬品性にも優れるため、繰り返し使用による劣化も少なくなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯科用粉量計は、粉材と液材からなる粉液型材料等における粉材(歯科用粉末)を計量するために用いるものであり、例えば義歯床用レジン、義歯床用裏装材、歯科汎用アクリル系レジン、義歯床用粘膜調整材、歯科用グラスアイオノマーセメント、及び歯科用レジンセメント等の粉材(歯科用粉末)が計量の対象となる。
【0013】
本発明の歯科用粉量計は材質にポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンとのポリマー・アロイを含むことを特徴としており、前記材質を用いることで歯科用粉末の計量時において、粉量計に対する粉末の付着が少なくなり、また、付着した粉末は容易に除去できる。
【0014】
前記ポリマーアロイに含まれるポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンの割合は質量比で10:90~90:10であることが好ましく、より好ましくは20:80~80:20であり、さらに好ましくは30:70~70:30である。ポリブチレンテレフタレート、又はアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンのいずれかの質量比が10未満であると歯科用粉末の付着低減効果や除去性が低下する場合がある。
【0015】
前記ポリマーアロイには難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、防腐剤、抗菌剤、可塑剤、滑剤、着色剤、粘度調整剤、レベリング剤、強化繊維、界面活性剤、帯電防止剤等、公知の添加剤を含んでいてもよい。それら添加剤の含有量は、樹脂全体に対して50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下である。添加剤の含有量が50質量%を超えると歯科用粉末の付着低減効果や除去性が低下することがある。
【0016】
歯科用粉量計の形状に特に制限はなく、また、一定量の粉末が正確に計量できる機能が付与されていても、或いは付与されていなくても何れであってもよい。一定量の粉末が正確に計量できる歯科用粉量計としては、歯科用粉末を擦切って一定量を量り取ることができるスプーン形状のものや、目盛付きのカップ形状のもの等が挙げられる。
【0017】
次に本発明の歯科用粉量計を用いて計量する歯科用粉末について説明する。歯科用粉末は無機粉末やポリマー粉末等、歯科材料に広く用いられている粉末が対象となる。無機粉末としては金属酸化物粉末、酸反応性ガラス粉末、石膏粉末等が、ポリマー粉末としてはポリメチルメタリレート粉末、メチルメタクリレートとエチルメタクリレート共重合体粉末等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの歯科用粉末は単一成分であっても、複数成分が含まれていてもよい。
【0018】
計量の対象となる歯科用粉末の形状に特に制限はなく、球状、針状、板状、破砕状、鱗片状等、いずれの粒子形状のものであってもよい。
【0019】
また、計量の対象となる歯科用粉末の粒子径にも特に制限はないが、50%粒子径(D50)が0.1~100μmの粉末を対象とすると付着低減効果や除去性が発現しやすくなる傾向にある。さらには、付着低減効果や除去性は50%粒子径(D50)が0.1~75μmの粉末を対象とするとより明確に、0.1~50μmの粉末を対象とするとさらに明確に発現しやすくなる傾向にある。なお、「50%粒子径(D50)」とは、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定した体積基準の粒度分布において、小粒子径側からの積算値が50%となるときの粒子径を表す。
【0020】
歯科用粉末の中でも本発明の歯科用粉量計は表面処理により疎水化された無機粉末に対してより優れた付着低減効果と除去性を示す。なお、疎水化された無機粉末は如何なる方法で表面処理されたものであっても良いが、シランカップリング剤による表面処理により疎水化された無機粉末を計量の対象とすることがより好適な態様である。
【0021】
本明細書において歯科用粉末の親水性と疎水性の判定は、次に示す方法で評価した。すなわち、歯科用粉末を80℃の乾燥機で12時間乾燥後、乾燥後の歯科用粉末約30mgを23℃の蒸留水約10mLに投入した。60秒間静置後、粉末全量が蒸留水に浸水した場合は親水性、粉末の全量または一部が蒸留水に浮遊した場合は疎水性と判定した。
【実施例0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
任意の樹脂を用いてスプーン形状の歯科用粉量計を作製し、それらを実施例及び比較例に用いた。以下に、用いた樹脂及びその略称を示す。なお、スプーンの形状は全長90mm、粉末を採取するくぼみ構造は長径15mm、短径8.4mm、深さ2.5mmの半楕円状とした。
PBT/ABS No.1:ポリブチレンテレフタレート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン/安定剤(6/3/1)
PBT/ABS No.2:ポリブチレンテレフタレート/アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン/難燃剤及び安定剤(3/5/2)
ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン
AS:アクリロニトリル・スチレン
PBT:ポリブチレンテレフタレート
PP:ポリプロピレン
PE:ポリエチレン
PC:ポリカーボネート
POM:ポリアセタール
PAナイロン:66ナイロン
PC/ABS:ポリカーボネート及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン
PMMA:ポリメチルメタクリレート
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
PPS:ポリフェニレンスルファイド
ABS-E:ABS製帯電防止剤入り
ABS-C:ABS製樹脂に帯電防止コーティング剤を塗布
【0024】
歯科用粉量計の評価に用いた歯科用粉末及びその略称(略称を用いた場合のみ)は以下の通りである。
石膏粉末:松風ソフトプラスター(株式会社松風製)(D50:約45μm、親水性)
ポリマー粉末:プロビナイス 粉(株式会社松風製)(D50:約70μm、疎水性)
酸反応性ガラス粉末(FASガラス):グラスアイオノマーFXウルトラ 粉材(フルオロアルミノシリケートガラス粉末)(株式会社松風製)(D50:約5μm、親水性)
疎水化酸反応性ガラス粉末(FAS-Siガラス):フルオロアルミノシリケートガラスシラン処理品(D50:約5μm、疎水性)
【0025】
(疎水化酸反応性ガラス粉末(FAS-Siガラス)の製造)
前記酸反応性ガラス粉末(FASガラス)100gに対してγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.3gにてシランカップリング処理を行い、疎水化酸反応性ガラス粉末(FAS-Siガラス)を得た。
【0026】
実施例及び比較例に用いた歯科用粉量計について、その性能を評価した際の試験方法は次の通りである。
【0027】
(粉末の付着性)
10mLの樹脂製擦切り部付きガラス瓶に歯科用粉末を約8g充填し、軽く振とうさせた。その後、スプーン形状の歯科用粉量計をガラス瓶に挿入し、約5秒間粉末が飛び散らないように粉量計で攪拌後、粉末をすくい、擦切りを行った。採取した粉末を練板紙に取り出した後、粉量計への粉末の付着度合いを以下の基準で目視により評価した。また、粉末の計量前後における粉量計の質量を測定し、付着した粉末量を算出した。
A:粉末の付着がほぼ認められない
B:粉末の付着が少し認められる
C:粉末の付着が認められる
D:粉末の付着が多く認められる
【0028】
(粉末の除去性)
前記粉末の付着性試験と同様の方法で粉末を採取し、取り出した後、各歯科用粉量計について以下の基準で粉末の除去性(清掃性)を評価した。なお、採取する粉末は前記粉末の付着性試験において、各歯科用粉量計に対して付着量が最も多かった粉末を選択した。
AA:弱圧のエアブローのみで除去可能(清掃時間:10秒以下)
CC:ティッシュペーパーでのふき取りで除去可能(清掃時間:10秒を超え30秒以下)
EE:エタノールを染み込ませたティッシュペーパーでのふき取りで除去可能(清掃時間:30秒を超え60秒以下)
【0029】
粉末の付着性と粉末の除去性の評価の結果、いずれの粉末においても付着量が少なく(AまたはB評価)、且つ除去性が良い(AAまたはCC評価)ものを歯科用粉量計として望ましい特性を有していると判断した。
【0030】
各歯科用粉量計について粉末の付着性及び粉末の除去性を評価した結果を表1に示した。
【0031】