(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083756
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】硫化物系無機固体電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230609BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230609BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230609BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
C01B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197627
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田村 素志
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050DA13
5H050EA15
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】所望のリチウムイオン伝導度を示す硫化物固体電解質材料が安定的に得られる硫化物固体電解質材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、構成元素として、リチウム、リン、および硫黄を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムとを含む原料組成物を40~220℃に加熱する工程と、50℃未満になった前記原料組成物をガラス化する工程と、得られたガラス状態の混合物を加熱することにより、前記混合物の少なくとも一部を結晶化する工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成元素として、リチウム、リン、および硫黄を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムとを含む原料組成物を40~220℃に加熱する工程と、
50℃未満になった前記原料組成物をガラス化する工程と、
得られたガラス状態の混合物を加熱することにより、前記混合物の少なくとも一部を結晶化する工程と、
を含む、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記混合物をガラス化する前記工程は、
前記混合物をメカニカルミリング処理することによりガラス化する、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
ガラス状態の前記混合物の少なくとも一部を結晶化する前記工程は、
不活性ガス雰囲気下において、前記混合物を230~350℃で加熱する、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記硫化物系無機固体電解質材料について線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、
回折角2θ=17.5±0.3°の位置(X)に存在する回折ピークの最大回折強度をIxとし、回折角2θ=29.4±0.3°の位置(Y)に存在する回折ピークの最大回折強度をIYとし、回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークの最大回折強度をIzとしたとき、Ix/IZの値が2以上、および/または、IY/IZの値が2以上である、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記原料組成物を加熱する前記工程は、0.5~150時間である、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記原料組成物中の前記五硫化二リンと、前記硫化リチウムと、前記窒化リチウムの合計を100モル%としたとき、
前記硫化リチウムの含有量が35モル%以上75モル%以下であり、
前記五硫化二リンの含有量が15モル%以上55モル%以下であり、
前記窒化リチウムの含有量が0.1モル%以上10モル%以下である、
硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記五硫化二リンは、リン(P)の含有量に対する硫黄(S)の含有量のモル比(S/P)が2.40以上2.60以下である、
硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
前記硫化物系無機固体電解質材料はリチウムイオン電池に用いられる、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池には、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、より安全性を高くする点から、電解液を固体電解質に替えて電池を全固体化したリチウムイオン電池の開発が進んでいる。また、可燃性の有機溶媒が不要となることで、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れることができる。
【0003】
このような固体電解質に用いられる固体電解質材料としては、例えば、硫化物系無機固体電解質材料が知られている。
【0004】
硫化物固体電解質材料は、通常、原料組成物を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、メカニカルミリングおよび溶融急冷法を挙げることができ、なかでもメカニカルミリングが好ましい。メカニカルミリングとすることで常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるためである。例えば、特許文献1には、Li2SおよびP2S5を含有する原料組成物をメカニカルミリングにより非晶質処理して、硫化物固体電解質材料を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫化物固体電解質材料の原料となるP2S5は、同素体であるPおよびSの化合物であり、多数のP-S組成を有する化合物の中で唯一工業生産されている化合物である。P2S5は工業生産されているもののPとSの不均一反応やP2S5晶出時のわずかな条件の違いでPとSの組成比に変動が生じるだけでなく、場合によっては硫化リンの重合体などが混入する可能性がある。そのため、硫化物固体電解質材料の製造方法においては、上記のような原料組成物中において、不可避な要因によってP2S5が反応不活性となっている場合がある。
【0007】
本発明者は、かかる反応不活性なP2S5によって従来のメカニカルミリングではメカノケミカル反応が十分に進行しない傾向があり、得られる硫化物固体電解質材料のリチウムイオン伝導度に大きなバラツキが生じることがあることを見出した。
そこで、本発明者は、P2S5と各原料の反応性を向上させて、規定値のリチウムイオン伝導度を安定的に示すことができる硫化物固体電解質材料の開発に着目し鋭意検討を行った。その結果、原料組成物にメカノケミカル処理を行う前に、適切な加熱処理を施すことで所望のリチウムイオン伝導度を示す硫化物固体電解質材料が安定的に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、所望のリチウムイオン伝導度を示す硫化物系無機固体電解質材料が安定的に得られる硫化物系無機無機固体電解質材料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
構成元素として、リチウム、リン、および硫黄を含む硫化物系無機固体電解質材料の製造方法であって、
五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムとを含む原料組成物を40~220℃に加熱する工程と、
50℃未満になった前記原料組成物をガラス化する工程と、
得られたガラス状態の混合物を加熱することにより、前記混合物の少なくとも一部を結晶化する工程と、
を含む、硫化物系無機固体電解質材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望のリチウムイオン伝導度を示す硫化物系無機固体電解質材料が安定的に得られる硫化物系無機固体電解質材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池の構造の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。なお、図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0014】
<硫化物系無機固体電解質材料>
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、構成元素として、リチウム(Li)、リン(P)、および硫黄(S)を含む。
また、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性、電気化学的安定性、水分や空気中での安定性および取り扱い性等をより一層向上させる観点から、当該硫化物系無機固体電解質材料中の上記Pの含有量に対する上記Liの含有量のモル比Li/Pが、好ましくは1.0以上5.0以下であり、より好ましくは2.0以上4.0以下であり、さらに好ましくは2.5以上3.8以下であり、さらにより好ましくは2.8以上3.6以下であり、さらにより好ましくは3.0以上3.5以下であり、さらにより好ましくは3.1以上3.4以下、特に好ましくは3.1以上3.3以下である。
また、上記Pの含有量に対する上記Sの含有量のモル比S/Pが、好ましくは2.0以上6.0以下であり、より好ましくは3.0以上5.0以下であり、さらに好ましくは3.5以上4.5以下であり、さらにより好ましくは3.8以上4.2以下、さらにより好ましくは3.9以上4.1以下、特に好ましくは4.0である。
【0015】
ここで、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料中のLi、PおよびSの含有量は、例えば、ICP発光分光分析やX線分析により求めることができる。
【0016】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、硫化物系無機固体電解質材料について線源としてCuKα線を用いたX線回折により得られるスペクトルにおいて、回折角2θ=17.5±0.3°の位置(X)に存在する回折ピークの最大回折強度をIxとし、回折角2θ=29.4±0.3°の位置(Y)に存在する回折ピークの最大回折強度をIYとし、回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークの最大回折強度をIzとしたとき、Ix/IZの値が2以上、および/または、IY/IZの値が2以上であることが好ましくIx/IZの値が3以上、および/または、IY/IZの値が3以上であることがより好ましい。これにより、リチウムイオン伝導度に優れた硫化物系無機固体電解質材料とすることができる。すなわち、本実施形態の硫化物系無機固体電解質材料は、その製造過程において不純物が生成することが抑制されている。
【0017】
ここで、回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークは、リチウムイオン伝導度が比較的低いLi4P2S6に由来するピークである。すなわち、回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークが小さいことは、Li4P2S6の生成が抑制されて、リチウムイオン伝導度が良好であることを意図する。そこで、本実施形態においては、回折角2θ=17.5±0.3°の位置(X)に存在する回折ピークおよび回折角2θ=29.4±0.3°の位置(Y)に存在する回折ピークをそれぞれ基準としたときの回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークに着目し、Ix/IZの値、IY/IZの値を制御している。
【0018】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料において、27.0℃、印加電圧10mV、測定周波数域0.1Hz~3MHzの測定条件における交流インピーダンス法による硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度は、好ましくは0.5×10-3S・cm-1以上、より好ましくは0.6×10-3S・cm-1以上、さらに好ましくは0.8×10-3S・cm-1以上、ことさらに好ましくは1.0×10-3S・cm-1以上である。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導度が上記下限値以上であると、電池特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。さらに、このような硫化物系無機固体電解質材料を用いると、入出力特性により一層優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
【0019】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の形状としては、例えば粒子状を挙げることができる。
本実施形態に係る粒子状の硫化物系無機固体電解質材料は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは3μm以上80μm以下、さらに好ましくは5μm以上60μm以下である。
硫化物系無機固体電解質材料の平均粒子径d50を上記範囲内とすることにより、良好なハンドリング性を維持すると共にリチウムイオン伝導性をより一層向上させることができる。
【0020】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン電池における正極活物質層、負極活物質層、電解質層等に使用される。さらに、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料は、全固体型リチウムイオン電池を構成する正極活物質層、負極活物質層、固体電解質層等に好適に用いられ、全固体型リチウムイオン電池を構成する固体電解質層に特に好適に用いられる。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を適用した全固体型リチウムイオン電池の例としては、正極と、固体電解質層と、負極とがこの順番に積層されたものが挙げられる。
【0021】
<硫化物系無機固体電解質材料の製造方法>
次に、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法について説明する。
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、
(工程1)五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムとを含む原料組成物を40~220℃に加熱する工程と、
(工程2)50℃未満になった前記原料組成物をガラス化する工程と、
(工程3)得られたガラス状態の混合物を加熱することにより、前記混合物の少なくとも一部を結晶化する工程と、
を含み、さらに、
(工程4)得られた硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程を含んでもよい。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0022】
(工程1)
まず、原料である五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムとを含む原料組成物を準備する。ここで、原料組成物としては、五硫化ニリン以外のリン化合物、硫化リチウムおよび窒化リチウム以外のリチウム化合物を場合に応じて適宜用いてもよいが、原料組成物中の各原料の混合比は、最終的に得られる硫化物系無機固体電解質材料が所望の組成比になるように調整する。例えば、五硫化ニリン以外のリン化合物としては、赤燐等が挙げられる。
各原料を混合する方法としては各原料を均一に混合できる混合方法であれば特に限定されないが、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、打撃粉砕装置、ミキサー(パグミキサー、リボンミキサー、タンブラーミキサー、ドラムミキサー、V型混合器等)、ニーダー、2軸ニーダー、気流粉砕機、クラッシャー、および回転刃式の粉砕機等を用いて混合することができる。
各原料を混合するときの攪拌速度や処理時間、温度、反応圧力、混合物に加えられる重力加速度等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0023】
原料として用いる五硫化二リンは、リン(P)の含有量に対する硫黄(S)の含有量のモル比(S/P)が2.40以上2.60以下であるものを使用できる。
S/Pの下限は、得られる硫化物系無機固体電解質材料の経時的安定性をより一層良好にする観点から、好ましくは2.41以上、より好ましくは2.42以上、さらに好ましくは2.43以上であり、一方、好ましくは2.58以下、2.55以下、2.50以下、2.48以下、2.47以下の順により好ましい。
本実施形態に係る五硫化二リンは、S/Pが上記範囲内であることにより、得られる硫化物系無機固体電解質材料のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
本実施形態において、S/Pが上記範囲内である五硫化二リンは、例えば、五硫化二リンの原料組成物に対し、真空加熱をおこなうことにより、五硫化二リン組成物中の硫黄成分の量を低下させることにより得ることが可能である。
【0024】
なお、五硫化二リンの、リン(P)および硫黄(S)の含有量は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって定量分析することで求めることができる。
【0025】
本実施形態に係る五硫化二リンの性状としては、例えば粉末状を挙げることができる。後述する硫化物系無機固体電解質材料の製造は一般的には乾式でおこなわれるため、本実施形態に係る五硫化二リンの性状が粉末状であると、硫化物系無機固体電解質材料の製造がより容易となる。
【0026】
原料として用いる硫化リチウムとしては特に限定されず、市販されている硫化リチウムを使用してもよいし、例えば、水酸化リチウムと硫化水素との反応により得られる硫化リチウムを使用してもよい。高純度な硫化物系無機固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない硫化リチウムを使用することが好ましい。
ここで、本実施形態において、硫化リチウムには多硫化リチウムも含まれる。
【0027】
原料として用いる窒化リチウムは、窒素がN2として系内に排出されるため、原料である無機化合物として窒化リチウムを利用することで、構成元素としてLi、P、およびSを含む硫化物系無機固体電解質材料に対し、Li組成のみを増加させることが可能となる。
本実施形態に係る窒化リチウムとしては特に限定されず、市販されている窒化リチウム(例えば、Li3N等)を使用してもよいし、例えば、金属リチウム(例えば、Li箔)と窒素ガスとの反応により得られる窒化リチウムを使用してもよい。高純度な固体電解質材料を得る観点および副反応を抑制する観点から、不純物の少ない窒化リチウムを使用することが好ましい。
【0028】
本実施形態において、原料組成物中の五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムの各配合割合は目的に応じて適宜調整されるが、原料組成物中の五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムの合計を100モル%としたとき、硫化リチウムの含有量が35モル%以上75モル%以下であり、五硫化二リンの含有量が15モル%以上55モル%以下であり、窒化リチウムの含有量が0.1モル%以上10モル%以下であることが好ましい。
【0029】
つづけて、準備した原料組成物を40~220℃に加熱する。これにより、過度な加熱によるリチウムイオン伝導度の低下を抑制しつつ、リチウムイオン伝導度に優れた硫化物系無機固体電解質材料とすることができる。
加熱温度は、加熱時間と合わせて適宜調整することができるが、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、加熱時間を短縮して生産性を高める観点から、さらに好ましくは100℃以上であり、ことさらに好ましくは150℃以上である。
なお、加熱温度は、加熱炉の設定温度を意図する。
【0030】
加熱時間は、加熱温度と合わせて適宜調整することができるが、0.5~150時間であることが好ましい。
例えば、加熱温度が40~100℃の場合、加熱時間は2時間以上としてもよく、さらには50時間以上としてもよい。また、例えば、加熱温度が100~220℃の場合、加熱時間は100時間以下としてもよく、50時間以下としてもよく、5時間以下としてもよい。
【0031】
(工程2)
つぎに、40~220℃に加熱された原料組成物の温度が50℃未満になったところで、当該原料組成物をガラス化する。原料組成物を50℃未満とする方法は特に限定されず、自然放置としてもよく、風冷してもよい。ガラス化する前の原料組成物の温度は、50℃未満であればよく、作業効率の観点から室温と同等であることが好ましい。
また、原料組成物の温度は、熱電対を原料組成物の粉体中に挿入して測定することができる。
【0032】
ガラス化方法としては、例えば、原料組成物を機械的処理することにより、原料である五硫化二リンと、硫化リチウムと、窒化リチウムを化学反応させながらガラス化して、ガラス状態の硫化物系無機固体電解質材料を得る。
【0033】
ここで、機械的処理は、2種以上の無機化合物を機械的に衝突させることにより、化学反応させながらガラス化させることができるものであればよい。機械的処理としては、例えば、メカノケミカル処理等が挙げられる。メカノケミカル処理とは、対象の組成物にせん断力や衝突力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。
また、工程2において、メカノケミカル処理は、水分や酸素を高いレベルで除去した環境下を実現しやすい観点から、乾式メカノケミカル処理であることが好ましい。
メカノケミカル処理を用いると、各原料を微粒子状に粉砕しながら混合することができるため、各原料の接触面積を大きくすることができる。それにより、各原料の反応を促進することができるため、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料をより一層効率良く得ることができる。
【0034】
ここで、メカノケミカル処理とは、混合対象に、せん断力、衝突力または遠心力のような機械的エネルギーを加えつつガラス化する方法である。メカノケミカル処理によるガラス化をおこなう装置(以下、ガラス化装置と呼ぶ。)としては、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル、ロールミル等の粉砕・分散機;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が挙げられる。これらの中でも、非常に高い衝撃エネルギーを効率良く発生させることができる観点から、ボールミルおよびビーズミルが好ましく、ボールミルが特に好ましい。また、連続生産性に優れている観点から、ロールミル;削岩機や振動ドリル、インパクトドライバ等で代表される回転(せん断応力)および打撃(圧縮応力)を組み合わせた機構からなる回転・打撃粉砕装置;高圧型グライディングロール;ローラ式竪型ミルやボール式竪型ミル等の竪型ミル等が好ましい。
【0035】
硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物を機械的処理するときの回転速度や処理時間、温度、反応圧力、原料無機組成物に加えられる重力加速度等の混合条件は、原料無機組成物の種類や処理量によって適宜決定することができる。一般的には、回転速度が速いほど、ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほどガラスヘの転化率は高くなる。
通常は、線源としてCuKα線を用いたX線回折分析をしたとき、原料由来の回折ピークが消失または低下していたら、硫化物系無機固体電解質材料の原料組成物はガラス化され、所望の硫化物系無機固体電解質材料が得られていると判断することができる。
【0036】
(工程3)
次に、得られたガラス状態の混合物を加熱することにより、当該混合物の少なくとも一部を結晶化する。すなわち、硫化物系無機固体電解質材料の少なくとも一部を結晶化して、ガラスセラミックス状態(結晶化ガラスとも呼ばれる。)の硫化物系無機固体電解質材料を生成する。
これにより、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料をガラスセラミックス状態(結晶化ガラス状態)とすることができ、その結果、より一層リチウムイオン伝導性に優れることができる。
【0037】
ガラス状態の混合物の加熱温度としては、230℃以上350℃以下の範囲内であることが好ましく、250℃以上330℃以下の範囲内であることがより好ましく、270℃以上300℃以下とすることがさらに好ましい。
加熱時間は、所望のガラスセラミックス状態の硫化物系無機固体電解質材料が得られる時間であれば特に限定されるものではないが、例えば、0.5時間以上24時間以下の範囲内であり、好ましくは1時間以上3時間以下である。
加熱の方法は特に限定されるものではないが、例えば、焼成炉を用いる方法を挙げることができる。
【0038】
また、ガラス状態の混合物の加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。これにより、硫化物系無機固体電解質材料の劣化(例えば、酸化)を防止することができる。
加熱するときの不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が-30℃以下であることが好ましく、-70℃以下であることがより好ましく、-80℃以下であることが特に好ましい。混合系への不活性ガスの導入方法としては、混合系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば特に限定されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法等が挙げられる。
【0039】
なお、加熱する際の温度、時間等の条件は、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0040】
(工程4)
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法では、必要に応じて、得られた硫化物系無機固体電解質材料を粉砕、分級、または造粒する工程をさらにおこなってもよい。例えば、粉砕により微粒子化し、その後、分級操作や造粒操作によって粒子径を調整することにより、所望の粒子径を有する硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。上記粉砕方法としては特に限定されず、ミキサー、気流粉砕、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等公知の粉砕方法を用いることができる。また、上記分級方法としては特に限定されず、篩等公知の方法を用いることができる。
これらの粉砕または分級は、空気中の水分との接触を防ぐことができる点から、不活性ガス雰囲気下または真空雰囲気下で行うことが好ましい。
【0041】
本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を得るためには、上記の各工程を適切に調整することが重要である。ただし、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料の製造方法は、上記のような方法には限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を得ることができる。
【0042】
<リチウムイオン電池>
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池100の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池100は、例えば、正極活物質層101を含む正極110と、電解質層120と、負極活物質層103を含む負極130とを備えている。そして、正極活物質層101、負極活物質層103および電解質層120の少なくとも一つが、本実施形態に係る硫化物系無機固体電解質材料を含有する。
本実施形態に係るリチウムイオン電池100の形状は特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、フィルム型その他任意の形状が挙げられる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<測定方法>
以下の実施例および比較例における測定方法を説明する。
【0046】
(1)X線回折分析
X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて、X線回折分析法により、実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料の回折スペクトルをそれぞれ求めた。なお、線源としてCuKα線を用いた。
回折角2θ=17.5±0.3°の位置(X)に存在する回折ピークの最大回折強度をIxとし、回折角2θ=29.4±0.3°の位置(Y)に存在する回折ピークの最大回折強度をIYとし、回折角2θ=32.5±0.3°の位置(Z)に存在する回折ピークの最大回折強度をIzとした。
【0047】
(2)リチウムイオン伝導度の測定
実施例および比較例で得られた硫化物系無機固体電解質材料に対して、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度の測定をおこなった。
リチウムイオン伝導度の測定は、北斗電工社製のポテンショスタット/ガルバノスタットSP-300を用いた。試料の大きさはφ9.5mm、厚さ1.3mm、測定条件は、印加電圧10mV、測定温度27.0℃、測定周波数域0.1Hz~3MHz、電極はLi箔とした。
ここで、リチウムイオン伝導度測定用の試料としては、プレス装置を用いて、実施例および比較例で得られた粉末状の硫化物系無機固体電解質材料を270MPa、10分間プレスして得られる厚さ1.3mmの板状の硫化物系無機固体電解質材料を用いた。
【0048】
(3)五硫化二リン中のリン(P)および硫黄(S)の定量
実施例および比較例で使用した五硫化二リン組成物に対して、エネルギー分散型X線分析(EDX)によるリン及び硫黄の半定量分析をおこなった。
まず、アルゴン雰囲気中で、五硫化二リンの中から0.5mm以上の粒子を選別し、乳棒で軽く押すことで破砕した。次いで、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S-4700)の試料台座に、破砕でできた平坦面が上になるようにカーボン導電テープを用いて五硫化二リン組成物の破砕物を固定し、さらにスパッタリングで金を付着し、台座と導通経路を確保した。以上の操作でチャージアップ抑制による画像の安定化、特性X線の検出促進を図った。硫化二リン組成物の破砕物の上記平坦面を電子線加速電圧15kV、エミッション電流10±1μA、ワークディスタンス12mm、拡大率500倍で観察して平滑面になっていることを確認した後、エネルギー分散型分析装置(堀場製作所製EMAX-7000)でリン(P)と硫黄(S)の半定量分析を行った。
半定量分析は、電子線加速電圧15kV、電子線入射角度90°、X線取り出し角度35°、パルス処理時間:P3、デッドタイム10~30%で、測定時間300秒間特性X線を計測し、定量条件としてバックグランド点を0.67、1.14、1.70、2.86、4.04keVに設定し、定量補正法:スタンダードレスφ(ρz)、ピーク分離法:オーバーラップファクター法、質量濃度ノーマライズなし、原子数ノーマライズなし、低エネルギーGB補正なしで行った。五硫化二リン組成物の破砕物の上記平坦面の任意の5カ所について観察視野0.25mm×0.17mmからのリン(P)及び硫黄(S)濃度を計測し、その平均値を採用した。
【0049】
<実施例1>
硫化物系無機固体電解質材料を以下の手順で作製した。
原料には、P2S5(PerimeterSolutions製、Normal/S、S/P比2.47)、Li2S(古河機械金属社製、純度99.9%)、Li3N(古河機械金属社製)、を使用した。また作業は全てAr雰囲気下で行った。
Li2S粉末とP2S5粉末とLi3N粉末(Li2S:P2S5:Li3N=37.5:60.4:2.1(重量%))合計3.0gを乳鉢を用いて混合することにより、原料組成物を調整した。
つづいて、原料組成物2.5gをカーボンるつぼにいれて加熱炉で120℃、2.5時間の加熱処理をおこなった。得られた加熱処理後の原料組成物の2.1gを遊星ボールミル(45mLジルコニアポット、直径10mmジルコニアボール18個使用)にて30時間メカノケミカル処理(400rpmで10分間メカニカルミリングした後、5分間静置するという処理を120サイクル、15時間経過時にポット壁面およびボール付着粉の掻き出しを実施)をおこなった。次いで、得られた混合物をカーボンるつぼに入れ、加熱炉で290℃、2時間の加熱処理をおこない、硫化物系無機固体電解質材料を得た。
得られた硫化物系無機固体電解質材料を用いて、上記測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
<実施例2>
原料組成物の加熱処理温度を200℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
<実施例3>
原料組成物の加熱処理温度を210℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例4>
原料組成物の加熱処理温度を220℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例5>
原料組成物の加熱処理温度を60℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
<実施例6>
原料組成物の加熱処理温度と時間を60℃、63時間に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0055】
<実施例7>
原料のP2S5を(PerimeterSolutions製、Special/S、S/P比2.52)に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0056】
<実施例8>
原料のP2S5を(関東化学製、S/P比2.59)に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例9>
原料組成物の加熱処理温度と時間を50℃、63時間に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
原料組成物に対する加熱処理を行わない以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0059】
<比較例2>
原料組成物の加熱処理温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0060】
<比較例3>
原料組成物の加熱処理温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例4>
原料組成物に対する加熱処理を行わずに、原料のP2S5を(PerimeterSolutions製、Special/S、S/P比2.52)に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0062】
<比較例5>
原料組成物に対する加熱処理を行わずに、原料のP2S5を(関東化学製、S/P比2.59)に変更した以外は実施例1と同様にして硫化物無機固体電解質材料を作製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0063】