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特開2023-83765熱可塑性樹脂組成物および金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083765
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物および金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230609BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230609BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230609BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230609BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230609BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K7/02
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFD
B32B15/08 U
B32B5/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197642
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸介
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB27
4F072AD41
4F072AD46
4F072AE09
4F072AE10
4F072AE11
4F072AF01
4F072AF16
4F072AF26
4F072AF28
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH05
4F072AH23
4F072AK04
4F072AK15
4F072AL09
4F072AL11
4F072AL12
4F072AL16
4F100AB01A
4F100AB10A
4F100AD11B
4F100AG00B
4F100AK01B
4F100AK45B
4F100BA02
4F100CA23B
4F100DD05A
4F100DD09A
4F100DG01B
4F100EJ52A
4F100GB41
4F100JB16B
4F100YY00B
4J002BB031
4J002BB071
4J002BB121
4J002BB231
4J002BC031
4J002BD041
4J002BD101
4J002BD121
4J002BD141
4J002BD151
4J002BD161
4J002BD181
4J002BF031
4J002BN151
4J002CB001
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF171
4J002CG001
4J002CH071
4J002CH091
4J002CK021
4J002CL001
4J002CL062
4J002CM041
4J002CM042
4J002CM052
4J002CN011
4J002CN031
4J002DA017
4J002DA026
4J002DE137
4J002DE187
4J002DE267
4J002DK007
4J002DL007
4J002FA042
4J002FA047
4J002FA067
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】金属との密着性に優れ、ヒートサイクル試験後での接合強度低下が少なく耐久性に優れることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体における樹脂成形体を製造するための熱可塑性樹脂組成物であって、(A) 熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)膨張処理を施した黒鉛(B成分)を1~80重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体における樹脂成形体を製造するための熱可塑性樹脂組成物であって、(A)熱可塑性樹脂(A成分)100重量部に対し、(B)膨張処理を施した黒鉛(B成分)を1~80重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
A成分100重量部に対し、(C)繊維状充填材(C成分)を1~100重量部含有することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
C成分がガラス繊維および/または炭素繊維であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
表面に溝部を有している金属成形体と請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形体が接合された複合成形体であって、前記溝部内に樹脂成形体が入り込むことで金属成形体と樹脂成形体が接合一体化していることを特徴とする複合成形体。
【請求項5】
前記金属成形体表面の溝部が、前記金属成形体表面に連続波レーザー光またはパルス波レーザー光が照射されて形成されたものであることを特徴とする請求項4記載の複合成形体。
【請求項6】
請求項4または5記載の複合成形体の製造方法であって、前記金属成形体の接合面に対して連続波レーザー光またはパルス波レーザー光を照射する工程および前工程において連続波レーザー光またはパルス波レーザー光が照射された金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置して請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を射出成形する工程を有していることを特徴とする複合成形体の製造方法。
【請求項7】
電子部品が実装される回路基板、前記回路基板を設置するための突起部を有するベース部並びに前記回路基板および前記ベース部を覆い樹脂で形成されるカバー部を有する電子制御装置であって、該ベース部が請求項4または5記載の複合成形体であることを特徴とする電子制御装置。
【請求項8】
前記ベース部の突起部が請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物のみからなることを特徴とする請求項7記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記カバー部が複数の孔を有することを特徴とする請求項7または8記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体を成形するのに適した熱可塑性樹脂組成物および金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体に関する。更に詳しくは、金属との密着性に優れ、ヒートサイクル試験後の接合強度低下が少なく耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物および金属成形体と樹脂成形体が接合された複合成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電気・電子などさまざまな分野で使用されている金属材料は、各種部品の軽量化の観点から、金属代替として樹脂成形体が使用される場合もあるが、全ての金属部品を樹脂で代替することは難しい場合も多い。そのような場合には、金属成形体と樹脂成形体を接合一体化することで新たな複合部品を製造することが考えられ、金属成形体と樹脂成形体を工業的に有利な方法で、かつ高い接合強度で接合一体化できる技術が求められている。特許文献1には、金属表面に対して、一つの走査方向にレーザースキャニングする工程およびそれにクロスする走査方向にレーザースキャニングする工程を含む、異種材料(樹脂)と接合するための金属表面のレーザー加工方法の発明が記載されている。前記異種材料については熱可塑性樹脂にガラスファイバーを添加したものも記載されている。特許文献2では、特定構造のポリカーボネートと金属の複合成形体は高い接合強度を有することが示されている。特許文献3、4では、金属成形体と樹脂成形体の接合強度が高いことが示されており、樹脂成形体の材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマーに対して、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維を配合したものが記載されている。しかしながら、これらはいずれも実使用で想定される環境温度変化での金属と樹脂との密着に対しては、未だ不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4020957号公報
【特許文献2】特開2020-066652号公報
【特許文献3】特開2013-52669号公報
【特許文献4】特開2014-18995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、金属との密着性に優れ、ヒートサイクル試験後での接合強度低下が少なく耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物およびそれからなる樹脂金属複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂に膨張処理を施した黒鉛を適切な量配合することにより得られる熱可塑性樹脂組成物から形成された樹脂成形体と金属成形体とが接合された複合成形体において、樹脂成形体と金属成形体との密着性に優れ、ヒートサイクル試験後での接合強度低下が少なく耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物を得ることができることを見出し本発明に達した。
【0006】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0007】
<A成分:熱可塑性樹脂>
熱可塑性合成樹脂は、特に限定されるものではなく、たとえば、ウレタン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、塩化ニリデン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリオレフィン、水架橋ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、エチレン-ビニルアセテート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、メタクリル樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、アイオノマー樹脂、ポリフェニレンオキサイド、メチルペンテン重合体、ポリアリルスルホン、ポリアリルエーテル、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、全芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、熱可塑性ポリエステルエラストマー、その他各種高分子物質のブレンド物などを例示することができる。これらの中でもポリカーボネート樹脂は、良好な機械的特性の観点から好ましい。
【0008】
本発明において使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
【0009】
ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンおよび9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。好ましい二価フェノールは、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカンであり、なかでも耐衝撃性の点からビスフェノールAが特に好ましく、汎用されている。
【0010】
本発明では、汎用のポリカーボネート樹脂であるビスフェノールA系のポリカーボネート樹脂以外にも、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ-ト樹脂をA成分として使用することが可能である。例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis-TMC”と略称することがある)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ-ト樹脂(単独重合体又は共重合体)は、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)~(3)の共重合ポリカーボネート樹脂であるのが特に好適である。
【0011】
(1)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBCFが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
(2)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10~95モル%(より好適には50~90モル%、さらに好適には60~85モル%)であり、かつBCFが5~90モル%(より好適には10~50モル%、さらに好適には15~40モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
(3)該ポリカーボネート樹脂を構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつBis-TMCが20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート樹脂。
【0012】
これらの特殊なポリカーボネート樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂と混合して使用することもできる。これらの特殊なポリカーボネート樹脂の製法及び特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報及び特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。
【0013】
なお、上述した各種のポリカーボネート樹脂の中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05~0.15%、好ましくは0.06~0.13%であり、かつTgが120~180℃であるポリカーボネート樹脂、あるいは
(ii)Tgが160~250℃、好ましくは170~230℃であり、かつ吸水率が0.10~0.30%、好ましくは0.13~0.30%、より好ましくは0.14~0.27%であるポリカーボネート樹脂。
【0014】
ここで、ポリカーボネート樹脂の吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62-1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0015】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
【0016】
前記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によってポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤などを使用してもよい。また本発明のポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環式を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環式を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0017】
分岐ポリカーボネート樹脂は、本発明の樹脂組成物に、ドリップ防止性能などを付与できる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0018】
分岐ポリカーボネート樹脂における多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、2価フェノールから誘導される構成単位とかかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.01~1モル%、より好ましくは0.05~0.9モル%、さらに好ましくは0.05~0.8モル%である。また、特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造単位が生ずる場合があるが、かかる分岐構造単位量についても、2価フェノールから誘導される構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.001~1モル%、より好ましくは0.005~0.9モル%、さらに好ましくは0.01~0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる分岐構造の割合についてはH-NMR測定により算出することが可能である。
【0019】
脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω-ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の二官能性のカルボン酸としては例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸などの直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、およびトリシクロデカンジメタノールなどが例示される。
【0020】
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法である界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマー固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などの反応形式は、各種の文献および特許公報などで良く知られている方法である。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造するにあたり、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、特に限定されないが、好ましくは1.8×10~4.0×10であり、より好ましくは2.0×10~3.5×10、さらに好ましくは2.2×10~3.0×10である。粘度平均分子量が1.8×10未満のポリカーボネート樹脂では、良好な機械的特性が得られない場合がある。一方、粘度平均分子量が4.0×10を超えるポリカーボネート樹脂から得られる樹脂組成物は、射出成形時の流動性に劣る点で汎用性に劣る。
【0022】
なお、前記ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が前記範囲外のものを混合して得られたものであってもよい。殊に、前記範囲(5×10)を超える粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、樹脂のエントロピー弾性が向上する。その結果、強化樹脂材料を構造部材に成形する際に使用されることのあるガスアシスト成形、および発泡成形において、良好な成形加工性を発現する。かかる成形加工性の改善は前記分岐ポリカーボネート樹脂よりもさらに良好である。より好適な態様としては、A成分が粘度平均分子量7×10~3×10のポリカーボネート樹脂A-1-1成分)、および粘度平均分子量1×10~3×10の芳香族ポリカーボネート樹脂(A-1-2成分)からなり、その粘度平均分子量が1.6×10~3.5×10であるポリカーボネート樹脂(A-1成分)(以下、“高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂”と称することがある)も使用できる。
【0023】
かかる高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂(A-1成分)において、A-1-1成分の分子量は7×10~2×10が好ましく、より好ましくは8×10~2×10、さらに好ましくは1×10~2×10、特に好ましくは1×10~1.6×10である。またA-1-2成分の分子量は1×10~2.5×10が好ましく、より好ましくは1.1×10~2.4×10、さらに好ましくは1.2×10~2.4×10、特に好ましくは1.2×10~2.3×10である。
【0024】
高分子量成分含有ポリカーボネート樹脂(A-1成分)は前記A-1-1成分とA-1-2成分を種々の割合で混合し、所定の分子量範囲を満足するよう調整して得ることができる。好ましくは、A-1成分100重量%中、A-1-1成分が2~40重量%の場合であり、より好ましくはA-1-1成分が3~30重量%であり、さらに好ましくはA-1-1成分が4~20重量%であり、特に好ましくはA-1-1成分が5~20重量%である。
【0025】
また、A-1成分の調製方法としては、(1)A-1-1成分とA-1-2成分とを、それぞれ独立に重合しこれらを混合する方法、(2)特開平5-306336号公報に示される方法に代表される、GPC法による分子量分布チャートにおいて複数のポリマーピークを示す芳香族ポリカーボネート樹脂を同一系内において製造する方法を用い、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂を本発明のA-1成分の条件を満足するよう製造する方法、および(3)かかる製造方法((2)の製造法)により得られた芳香族ポリカーボネート樹脂と、別途製造されたA-1-1成分および/またはA-1-2成分とを混合する方法などを挙げることができる。
【0026】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0027】
尚、本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の算出は次の要領で行なわれる。すなわち、該組成物を、その20~30倍重量の塩化メチレンと混合し、組成物中の可溶分を溶解させる。かかる可溶分をセライト濾過により採取する。その後得られた溶液中の溶媒を除去する。溶媒除去後の固体を十分に乾燥し、塩化メチレンに溶解する成分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、上記と同様にして20℃における比粘度を求め、該比粘度から上記と同様にして粘度平均分子量Mを算出する。
【0028】
本発明のポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を使用することも出来る。ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂は下記一般式(1)で表される二価フェノール単位および下記一般式(3)で表されるヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン単位を含有する共重合樹脂であることが好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
[上記一般式(1)において、R及びRは夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~18のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~14のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシ基からなる群から選ばれる基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、a及びbは夫々1~4の整数であり、Wは単結合もしくは下記一般式(2)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一つの基である。]
【0031】
【化2】
【0032】
(上記一般式(2)においてR11,R12,R13,R14,R15,R16,R17及びR18は夫々独立して水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数6~14のアリール基及び炭素原子数7~20のアラルキル基からなる群から選ばれる基を表し、R19及びR20は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のシクロアルキル基、炭素原子数6~20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2~10のアルケニル基、炭素原子数6~14のアリール基、炭素原子数6~10のアリールオキシ基、炭素原子数7~20のアラルキル基、炭素原子数7~20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシ基からなる群から選ばれる基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、cは1~10の整数、dは4~7の整数である。)
【0033】
【化3】
【0034】
[上記一般式(3)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、R及びR10は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数1~10のアルコキシ基であり、e及びfは夫々1~4の整数であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは4以上150以下の自然数である。Xは炭素数2~8の二価脂肪族基である。]
【0035】
一般式(1)で表されるカーボネート構成単位を誘導する二価フェノール(I)としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタン等が挙げられる。
【0036】
なかでも、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-スルホニルジフェノール、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼンが好ましく、殊に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、4,4’-スルホニルジフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが好ましい。中でも強度に優れ、良好な耐久性を有する2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好適である。また、これらは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記一般式(3)で表されるカーボネート構成単位において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に好ましくは水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基が特に好ましい。R及びR10は夫々独立して好ましくは水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基であり、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基が特に好ましい。上記一般式(3)で表されるカーボネート構成単位を誘導するジヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)としては、例えば下記一般式(I)に示すような化合物が好適に用いられる。
【0038】
【化4】
【0039】
p+qは4~120が好ましく、30~120がより好ましく、30~100がさらに好ましく、30~60が最も好ましい。
【0040】
次に、上記の好ましいポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の製造方法について以下に説明する。あらかじめ水に不溶性の有機溶媒とアルカリ水溶液との混合液中において、二価フェノール(I)と、ホスゲンや二価フェノール(I)のクロロホルメート等のクロロホルメート形成性化合物との反応により、二価フェノール(I)のクロロホルメートおよび/または末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホルメート化合物の混合溶液を調製する。クロロホルメート形成性化合物としてはホスゲンが好適である。
【0041】
二価フェノール(I)からのクロロホルメート化合物を生成するにあたり、上記一般式(1)で表されるカーボネート構成単位を誘導する二価フェノール(I)の全量を一度にクロロホルメート化合物としてもよく、又は、その一部を後添加モノマーとして後段の界面重縮合反応に反応原料として添加してもよい。後添加モノマーとは、後段の重縮合反応を速やかに進行させるために加えるものであり、必要のない場合には敢えて加える必要はない。このクロロホルメート化合物生成反応の方法は特に限定はされないが、通常、酸結合剤の存在下、溶媒中で行う方式が好適である。更に、所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、およびハイドロサルファイドなどの酸化防止剤を少量添加してもよく、添加することが好ましい。クロロホルメート形成性化合物の使用割合は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。また、好適なクロロホルメート形成性化合物であるホスゲンを使用する場合、ガス化したホスゲンを反応系に吹き込む方法が好適に採用できる。
【0042】
前記酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、並びにピリジンの如き有機塩基、あるいはこれらの混合物などが用いられる。酸結合剤の使用割合も、上記同様に、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜定めればよい。具体的には、二価フェノール(I)のクロロホルメート化合物の形成に使用する二価フェノール(I)1モルあたり(通常1モルは2当量に相当)、2当量若しくはこれより若干過剰量の酸結合剤を用いることが好ましい。
【0043】
前記溶媒としては、公知のポリカーボネートの製造に使用されるものなど各種の反応に不活性な溶媒を1種単独であるいは混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、キシレンの如き炭化水素溶媒、並びに、塩化メチレンおよびクロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。特に塩化メチレンの如きハロゲン化炭化水素溶媒が好適に用いられる。
【0044】
クロロホルメート化合物の生成反応における圧力は特に制限はなく、常圧、加圧、もしくは減圧のいずれでもよいが、通常常圧下で反応を行うことが有利である。反応温度は-20~50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、反応に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は他の条件に左右され一概に規定できないが、通常、0.2~10時間で行われる。クロロホルメート化合物の生成反応におけるpH範囲は、公知の界面反応条件が利用でき、pHは通常10以上に調製される。
【0045】
本発明のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の製造においては、このようにして二価フェノール(I)のクロロホルメートおよび末端クロロホルメート基を有する二価フェノール(I)のカーボネートオリゴマーを含むクロロホルメート化合物の混合溶液を調整した後、該混合溶液を攪拌しながら一般式(3)で表わされるカーボネート構成単位を誘導するジヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)を、該混合溶液の調整にあたり仕込まれた二価フェノール(I)の量1モルあたり、0.01モル/min以下の速度で加え、該ジヒドロキシアリール末端ポリジオルガノシロキサン(II)と該クロロホーメート化合物とを界面重縮合させることにより、ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂を得る。
【0046】
ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂は、分岐化剤を二価フェノール系化合物と併用して分岐化ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂とすることができる。かかる分岐ポリカーボネート樹脂に使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、フロログルシン、フロログルシド、または4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキジフェニル)ヘプテン-2、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノール、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2,4-ジヒドロキシフェニル)ケトン、1,4-ビス(4,4-ジヒドロキシトリフェニルメチル)ベンゼン、またはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸およびこれらの酸クロライド等が挙げられ、中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましく、特に1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。
【0047】
かかる分岐化ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂の製造方法は、クロロホルメート化合物の生成反応時にその混合溶液中に分岐化剤が含まれる方法であっても、該生成反応終了後の界面重縮合反応時に分岐化剤が添加される方法であってもよい。分岐化剤由来のカーボネート構成単位の割合は、該共重合樹脂を構成するカーボネート構成単位全量中、好ましくは0.005~1.5モル%、より好ましくは0.01~1.2モル%、特に好ましくは0.05~1.0モル%である。なお、かかる分岐構造量についてはH-NMR測定により算出することが可能である。
【0048】
重縮合反応における系内の圧力は、減圧、常圧、もしくは加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧若しくは反応系の自圧程度で好適に行い得る。反応温度は-20~50℃の範囲から選ばれ、多くの場合、重合に伴い発熱するので、水冷又は氷冷することが望ましい。反応時間は反応温度等の他の条件によって異なるので一概に規定はできないが、通常、0.5~10時間で行われる。場合により、得られたポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂に適宜物理的処理(混合、分画など)及び/又は化学的処理(ポリマー反応、架橋処理、部分分解処理など)を施して所望の還元粘度[ηSP/c]のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として取得することもできる。得られた反応生成物(粗生成物)は公知の分離精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂として回収することができる。
【0049】
上記一般式(3)に含まれる下記一般式(4)で表されるポリジオルガノシロキサンブロックの含有量はポリカーボネート樹脂組成物の全重量を基準にして、1.0~10.0重量%であることが好ましく、1.0~8.0重量%がより好ましく、1.0~5.0重量%がさらに好ましく、1.0~3.0重量%が最も好ましい。
【0050】
【化5】
【0051】
(上記一般式(4)において、R、R、R、R、R及びRは、各々独立に水素原子、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12の置換若しくは無置換のアリール基であり、pは自然数であり、qは0又は自然数であり、p+qは4以上150以下の自然数である。)
【0052】
<B成分:膨張処理を施した黒鉛>
本発明の樹脂組成物はB成分として熱膨張処理を施した黒鉛を含有する。本発明で使用する熱膨張処理を施した黒鉛は鉱物として天然に産出される天然黒鉛、石油コークス、石油ピッチ、無定形炭素等を2000℃以上で熱処理し不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせた人造黒鉛を、濃硫酸、濃硝酸等に浸漬し、さらに過酸化水素、塩酸等の酸化剤を添加して処理することにより黒鉛層間化合物を生成させ、次いで水洗した後800~1000℃で急速加熱して、原料黒鉛のC軸方向に膨張させた黒鉛である。熱膨張処理を施さない黒鉛を使用した場合、樹脂中での分散性が悪く、ヒートサイクル試験後の樹脂と金属との接合強度が著しく低下する。なお、熱膨張処理を施す黒鉛は、天然黒鉛が特に好ましい。
【0053】
この熱膨張処理を施した黒鉛は上記熱膨張処理を施した後、粉砕することにより調製された黒鉛であることが望ましい。さらに上記熱膨張処理を施した膨張黒鉛は繭状に膨張した形状であり、一般的にはその比容積は100cc/g以上であり、このままの形状で公知の各種粉砕装置を用いて粉砕する方法で粉砕することが可能であるが、繭状に膨張した膨張黒鉛をロール、プレス等を用いて加圧圧縮しシート状とし、これを公知の各種粉砕機にて粉砕することがより好ましい。
【0054】
この熱膨張処理を施した黒鉛は必要に応じて分級して用いられ、さらに残存する酸成分を低減するために必要に応じて水洗、乾燥して使用される。その平均粒径は0.1~1000μmが好ましく、25~1000μmがより好ましい。平均粒径が0.1μm未満では樹脂組成物製造時の押出安定性が悪く生産性が低下する場合がある。平均粒径が1000μmを超えると成形品表面の外観が悪くなる場合がある。
【0055】
本発明における熱膨張処理を施した黒鉛の表面は、本発明の組成物の特性を損なわない限りにおいて芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、表面処理、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、シランカップリング処理、酸化処理等が施されていてもよい。更に、本発明の熱膨張処理を施した黒鉛の見掛け嵩比重は0.01~0.50g/ccが好ましく、0.05~0.30g/ccがより好ましく、0.10~0.25g/ccが更に好ましい。見掛け嵩比重が0.50g/ccを超えると、膨張黒鉛の膨張倍率が低いため、熱伝導性に劣る場合がある。見掛け嵩比重が0.01g/cc未満では樹脂組成物製造時の押出安定性が悪く生産性が低下する場合がある。
【0056】
B成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1~80重量部であり、5~60重量部が好ましく、10~40重量部がより好ましい。B成分の含有量が1重量部未満であると、ヒートサイクル試験後において樹脂と金属との接合強度の保持率が大幅に低下する。また、80重量部を超えると樹脂の流動性が低下するため、金属インサート成形時に金属表面の溝部への樹脂の入り込みが不十分になるため、十分な樹脂と金属との接合強度が得られない。
【0057】
<C成分:繊維状充填材>
本発明の樹脂組成物はC成分として繊維状充填材を含有することが好ましい。繊維状充填材は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー、メタルファイバー、アスベスト、ロックウール、セラミックファイバー、スラグファイバー、チタン酸カリウムウィスカー、ボロンウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、ワラストナイト、ゾノトライト、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)およびセピオライトなどの繊維状無機充填材、アラミド繊維、ポリイミド繊維およびポリベンズチアゾール繊維などの耐熱有機繊維に代表される繊維状耐熱有機充填材、並びにこれらの充填材に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した繊維状充填材などが例示される。異種材料を表面被覆した充填材としては、例えば金属コートガラス繊維および金属コート炭素繊維などが例示される。異種材料の表面被覆の方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の各種メッキ法(例えば、電解メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法(例えば熱CVD、MOCVD、プラズマCVDなど)、PVD法、およびスパッタリング法などを挙げることができる。これら繊維状充填材の中でも、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンミルドファイバー、アラミド繊維が好ましく、ガラス繊維、炭素繊維がより好ましい。繊維状充填材は、その繊維径が0.1~20μmの範囲が好ましい。繊維径の上限は18μmがより好ましく、15μmが更に好ましい。一方繊維径の下限は1μmがより好ましく、6μmが更に好ましい。ここでいう繊維径とは数平均繊維径を指す。尚、かかる数平均繊維径は、成形品を溶剤に溶解するかもくしは樹脂を塩基性化合物で分解した後に採取される残渣、およびるつぼで灰化を行った後に採取される灰化残渣を走査電子顕微鏡観察した画像から算出される値である。
【0058】
繊維状充填材がガラス繊維である場合、ガラス繊維のガラス組成は、Aガラス、Cガラス、およびEガラス等に代表される各種のガラス組成が適用され、特に限定されない。かかるガラス充填材は、必要に応じてTiO、SO、およびP等の成分を含有するものであってもよい。これらの中でもEガラス(無アルカリガラス)がより好ましい。かかるガラス繊維は、周知の表面処理剤、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、またはアルミネートカップリング剤等で表面処理が施されたものが機械的強度の向上の点から好ましい。また、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂等で集束処理されたものが好ましく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂が機械的強度の点から特に好ましい。集束処理されたガラス繊維の集束剤付着量は、ガラス繊維100重量%中好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~1重量%である。繊維状充填材として、扁平断面ガラス繊維を用いることもできる。この扁平断面ガラス繊維としては、繊維断面の長径の平均値が好ましくは10~50μm、より好ましくは15~40μm、さらに好ましくは20~35μmで、長径と短径の比(長径/短径)の平均値が好ましくは1.5~8、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2.5~5であるガラス繊維である。長径と短径の比の平均値がこの範囲の扁平断面ガラス繊維を使用した場合、1.5未満の非円形断面繊維を使用した場合に比べ、異方性が大きく改良される。また扁平断面形状としては扁平の他、楕円状、まゆ状、および三つ葉状、あるいはこれに類する形状の非円形断面形状を挙げることができる。なかでも機械的強度、低異方性の改良の点から扁平形状が好ましい。また、扁平断面ガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径の比(アスペクト比)は2~120が好ましく、より好ましくは2.5~70、さらに好ましくは3~50であり、繊維長と平均繊維径の比が2未満であると機械的強度の向上効果が小さくなる場合があり、繊維長と平均繊維径の比が120を超えると異方性が大きくなる他、成形品外観も悪化する場合がある。かかる扁平断面ガラス繊維の平均繊維径とは、扁平断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径をいう。また平均繊維長とは、本発明の強化ポリカーボネート樹脂組成物中における数平均繊維長をいう。尚、かかる数平均繊維長は、成形品の高温灰化、溶剤による溶解、並びに薬品による分解等の処理で採取される充填材の残さを光学顕微鏡観察した画像から画像解析装置により算出される値である。また、かかる値の算出に際しては繊維径を目安にそれ以下の長さのものはカウントしない方法による値である。
【0059】
C成分の含有量は、A成分100重量部に対し、1~100重量部であることが好ましく、5~80重量部がより好ましく、10~50重量部がさらに好ましい。C成分の含有量が1重量部より少ないとインサート成形時に剥離する場合があり、100重量部を超えると、十分な樹脂と金属との接合強度が得られない場合がある。
【0060】
(その他の添加剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その熱安定性、意匠性の改良のために、これらの改良に使用されている添加剤が有利に使用される。以下これら添加剤について具体的に説明する。
【0061】
(I)熱安定剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物は公知の各種安定剤を配合することができる。安定剤としては、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0062】
(i)リン系安定剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、加水分解性を促進させない程度において、リン系安定剤が配合されることが好ましい。かかるリン系安定剤は製造時または成形加工時の熱安定性を向上させ、機械的特性、色相、および成形安定性を向上させる。リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル、並びに第3級ホスフィンなどが例示される。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0063】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。第3級ホスフィンとしては、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリアミルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ジブチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリナフチルホスフィン、およびジフェニルベンジルホスフィンなどが例示される。特に好ましい第3級ホスフィンは、トリフェニルホスフィンである。上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。上記リン系安定剤の中でもトリメチルホスフェートに代表されるアルキルホスフェート化合物が配合されることが好ましい。またかかるアルキルホスフェート化合物と、ホスファイト化合物および/またはホスホナイト化合物との併用も好ましい態様である。
【0064】
(ii)ヒンダードフェノール酸化防止剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合することができる。かかる配合は例えば成形加工時の色相悪化や長期間の使用における色相の悪化などを抑制する効果が発揮される。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-β-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェル)プロピオネート、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2’-ジメチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-ブチリデン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-N-ビス-3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、1,6-へキサンジオールビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2-tert-ブチル-4-メチル6-(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1,-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’-ジ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-トリ-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2-チオジエチレンビス-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、N,N’-ヘキサメチレンビス-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’-ビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス2[3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。これらはいずれも入手容易である。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。リン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤の配合量は、それぞれA成分100重量部に対して、好ましくは0.0001~1重量部、より好ましくは0.001~0.5重量部、さらに好ましくは0.005~0.3重量部である。
【0065】
(iii)前記以外の熱安定剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、前記リン系安定剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の他の熱安定剤を配合することもできる。かかる他の熱安定剤としては、例えば3-ヒドロキシ-5,7-ジ-tert-ブチル-フラン-2-オンとo-キシレンとの反応生成物に代表されるラクトン系安定剤が好適に例示される。かかる安定剤の詳細は特開平7-233160号公報に記載されている。かかる化合物はIrganox HP-136(商標、CIBA SPECIALTY CHEMICALS社製)として市販され、該化合物を利用できる。更に該化合物と各種のホスファイト化合物およびヒンダードフェノール化合物を混合した安定剤が市販されている。例えば前記社製のIrganoxHP-2921が好適に例示される。ラクトン系安定剤の配合量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.0005~0.05重量部、より好ましくは0.001~0.03重量部である。またその他の安定剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール-3-ステアリルチオプロピオネートなどのイオウ含有安定剤が例示される。かかるイオウ含有安定剤の配合量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.001~0.1重量部、より好ましくは0.01~0.08重量部である。本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じてエポキシ化合物を配合することができる。かかるエポキシ化合物は、金型腐食を抑制するという目的で配合されるものであり、基本的にエポキシ官能基を有するもの全てが適用できる。好ましいエポキシ化合物の具体例としては、3,4ーエポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロセキサン付加物、メチルメタクリレートとグリシジルメタクリレートの共重合体、スチレンとグリシジルメタクリレートの共重合体等が挙げられる。かかるエポキシ化合物の添加量としては、A成分100重量部に対して、0.003~0.2重量部が好ましく、より好ましくは0.004~0.15重量部であり、さらに好ましくは0.005~0.1重量部である。
【0066】
(II)難燃剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、難燃剤を配合することができる。かかる化合物の配合は難燃性の向上をもたらすが、それ以外にも各化合物の性質に基づき、例えば帯電防止性、流動性、剛性、および熱安定性の向上などがもたらされる。かかる難燃剤としては、(i)有機金属塩系難燃剤(例えば有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、有機ホウ酸金属塩系難燃剤、および有機錫酸金属塩系難燃剤など)、(ii)有機リン系難燃剤(例えば、有機基含有のモノホスフェート化合物、ホスフェートオリゴマー化合物、ホスホネートオリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、およびホスホン酸アミド化合物など)、(iii)シリコーン化合物からなるシリコーン系難燃剤、(iv)フィブリル化PTFEが挙げられ、その中でも有機金属塩系難燃剤、有機リン系難燃剤が好ましい。これらは一種または二種複合して使用しても良い。
【0067】
(i)有機金属塩系難燃剤
有機金属塩化合物は炭素原子数1~50、好ましくは1~40の有機酸のアルカリ(土類)金属塩、好ましくは有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩であることが好ましい。この有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩には、炭素原子数1~10、好ましくは2~8のパーフルオロアルキルスルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩の如きフッ素置換アルキルスルホン酸の金属塩、並びに炭素原子数7~50、好ましくは7~40の芳香族スルホン酸とアルカリ金属またはアルカリ土類金属との金属塩が含まれる。金属塩を構成するアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられる。より好適にはアルカリ金属である。かかるアルカリ金属の中でも、透明性の要求がより高い場合にはイオン半径のより大きいルビジウムおよびセシウムが好適である一方、これらは汎用的でなくまた精製もし難いことから、結果的にコストの点で不利となる場合がある。一方、リチウムおよびナトリウムなどのより小さいイオン半径の金属は逆に難燃性の点で不利な場合がある。これらを勘案してスルホン酸アルカリ金属塩中のアルカリ金属を使い分けることができるが、いずれの点においても特性のバランスに優れたスルホン酸カリウム塩が最も好適である。かかるカリウム塩と他のアルカリ金属からなるスルホン酸アルカリ金属塩とを併用することもできる。
【0068】
パーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、パーフルオロブタンスルホン酸リチウム、パーフルオロヘプタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸セシウム、パーフルオロオクタンスルホン酸セシウム、パーフルオロヘキサンスルホン酸セシウム、パーフルオロブタンスルホン酸ルビジウム、およびパーフルオロヘキサンスルホン酸ルビジウム等が挙げられ、これらは1種もしくは2種以上を併用して使用することができる。ここでパーフルオロアルキル基の炭素数は、1~18の範囲が好ましく、1~10の範囲がより好ましく、更に好ましくは1~8の範囲である。
【0069】
これらの中で特にパーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好ましい。アルカリ金属からなるパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩中には、通常少なからず弗化物イオン(F-)が混入する。かかる弗化物イオンの存在は難燃性を低下させる要因となり得るので、できる限り低減されることが好ましい。かかる弗化物イオンの割合はイオンクロマトグラフィー法により測定できる。弗化物イオンの含有量は、100ppm以下が好ましく、40ppm以下が更に好ましく、10ppm以下が特に好ましい。また製造効率的に0.2ppm以上であることが好適である。かかる弗化物イオン量の低減されたパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ(土類)金属塩は、製造方法は公知の製造方法を用い、かつ含フッ素有機金属塩を製造する際の原料中に含有される弗化物イオンの量を低減する方法、反応により得られた弗化水素などを反応時に発生するガスや加熱によって除去する方法、並びに含フッ素有機金属塩を製造に再結晶および再沈殿等の精製方法を用いて弗化物イオンの量を低減する方法などによって製造することができる。特に有機金属塩系難燃剤は比較的水に溶けやすいこことから、イオン交換水、特に電気抵抗値が18MΩ・cm以上、すなわち電気伝導度が約0.55μS/cm以下を満足する水を用い、かつ常温よりも高い温度で溶解させて洗浄を行い、その後冷却させて再結晶化させる工程により製造することが好ましい。
【0070】
芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の具体例としては、例えばジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジナトリウム、ジフェニルサルファイド-4,4’-ジスルホン酸ジカリウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、ポリエチレンテレフタル酸ポリスルホン酸ポリナトリウム、1-メトキシナフタレン-4-スルホン酸カルシウム、4-ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,3-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(1,4-フェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリナトリウム、ポリ(2,6-ジフェニルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸ポリカリウム、ポリ(2-フルオロ-6-ブチルフェニレンオキシド)ポリスルホン酸リチウム、ベンゼンスルホネートのスルホン酸カリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ストロンチウム、ベンゼンスルホン酸マグネシウム、p-ベンゼンジスルホン酸ジカリウム、ナフタレン-2,6-ジスルホン酸ジカリウム、ビフェニル-3,3’-ジスルホン酸カルシウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3,4’-ジスルホン酸ジカリウム、α,α,α-トリフルオロアセトフェノン-4-スルホン酸ナトリウム、ベンゾフェノン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジナトリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸ジカリウム、チオフェン-2,5-ジスルホン酸カルシウム、ベンゾチオフェンスルホン酸ナトリウム、ジフェニルスルホキサイド-4-スルホン酸カリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、およびアントラセンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物などを挙げることができる。これら芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩では、特にカリウム塩が好適である。これらの芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の中でも、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、およびジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホン酸ジカリウムが好適であり、特にこれらの混合物(前者と後者の重量比が15/85~30/70)が好適である。
【0071】
スルホン酸アルカリ(土類)金属塩以外の有機金属塩としては、硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩および芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩などが好適に例示される。硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩としては、特に一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩を挙げることができ、かかる一価および/または多価アルコール類の硫酸エステルとしては、メチル硫酸エステル、エチル硫酸エステル、ラウリル硫酸エステル、ヘキサデシル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル、ペンタエリスリトールのモノ、ジ、トリ、テトラ硫酸エステル、ラウリン酸モノグリセライドの硫酸エステル、パルミチン酸モノグリセライドの硫酸エステル、およびステアリン酸モノグリセライドの硫酸エステルなどを挙げることができる。これらの硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩として好ましくはラウリル硫酸エステルのアルカリ(土類)金属塩が挙げられる。芳香族スルホンアミドのアルカリ(土類)金属塩としては、例えばサッカリン、N-(p-トリルスルホニル)-p-トルエンスルホイミド、N-(N’-ベンジルアミノカルボニル)スルファニルイミド、およびN-(フェニルカルボキシル)スルファニルイミドのアルカリ(土類)金属塩などが挙げられる。有機金属塩系難燃剤の含有量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.001~1重量部、より好ましくは0.005~0.5重量部、さらに好ましくは0.01~0.3重量部、特に好ましくは0.03~0.15重量部である。
【0072】
(ii)有機リン系難燃剤
有機リン系難燃剤としては、アリールホスフェート化合物、ホスファゼン化合物が好適に用いられる。これらの有機リン系難燃剤は可塑化効果があるため、成形加工性を高められる点で有利である。アリールホスフェート化合物は、従来難燃剤として公知の各種ホスフェート化合物が使用できるが、より好適には特に下記一般式(5)で表される1種または2種以上のホスフェート化合物を挙げることができる。
【0073】
【化6】
【0074】
(但し上記式中のMは、二価フェノールから誘導される二価の有機基を表し、Ar、Ar、Ar、およびArはそれぞれ一価フェノールから誘導される一価の有機基を表す。a、b、c及びdはそれぞれ独立して0または1であり、mは0~5の整数であり、重合度mの異なるリン酸エステルの混合物の場合はmはその平均値を表し、0~5の値である。)
【0075】
前記式のホスフェート化合物は、異なるm数を有する化合物の混合物であってもよく、かかる混合物の場合、平均のm数は好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.8~1.2、更に好ましくは0.95~1.15、特に好ましくは1~1.14の範囲である。
【0076】
上記Mを誘導する二価フェノールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、およびビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイドが例示され、中でも好ましくはレゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルである。
【0077】
上記Ar、Ar、Ar、およびArを誘導する一価フェノールの好適な具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp-クミルフェノールが例示され、中でも好ましくはフェノール、および2,6-ジメチルフェノールである。
【0078】
尚、かかる一価フェノールはハロゲン原子で置換されてもよく、該一価フェノールから誘導される基を有するホスフェート化合物の具体例としては、トリス(2,4,6-トリブロモフェニル)ホスフェートおよびトリス(2,4-ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(4-ブロモフェニル)ホスフェートなどが例示される。
【0079】
一方、ハロゲン原子で置換されていないホスフェート化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェートおよびトリ(2,6-キシリル)ホスフェートなどのモノホスフェート化合物、並びにレゾルシノールビスジ(2,6-キシリル)ホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、4,4-ジヒドロキシジフェニルビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマーが好適である(ここで主体とするとは、重合度の異なる他の成分を少量含んでよいことを示し、より好適には前記式(5)におけるm=1の成分が80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有されることを示す。)。
【0080】
ホスファゼン化合物は、従来難燃剤として公知の各種ホスファゼン化合物が使用できるが、下記一般式(6)、(7)で表されるホスファゼン化合物が好ましい。
【0081】
【化7】
【0082】
【化8】
【0083】
(式中、X、X、X、Xは、水素、水酸基、アミノ基、またはハロゲン原子を含まない有機基を表す。また、rは3~10の整数を表す。)
【0084】
上記式(6)、(7)中、X、X、X、Xで表されるハロゲン原子を含まない有機基としては、例えば、アルコキシ基、フェニル基、アミノ基、アリル基などが挙げられる。中でも上記式(6)で表される環状ホスファゼン化合物が好ましく、更に、上記式(6)中のX、Xがフェノキシ基である環状フェノキシホスファゼンが特に好ましい。
【0085】
有機リン系難燃剤の含有量はA成分100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましく、より好ましくは2~30重量部であり、5~20重量部がさらに好ましい。有機リン系難燃剤の配合量が1重量部未満であると難燃化の効果が得がたく、50重量部を超えると混練押出時にストランド切れやサージングなどが起こり生産性が低下するという問題が生ずる場合がある。
【0086】
(iii)シリコーン系難燃剤
シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、燃焼時の化学反応によって難燃性を向上させるものである。該化合物としては従来芳香族ポリカーボート樹脂の難燃剤として提案された各種の化合物を使用することができる。シリコーン化合物はその燃焼時にそれ自体が結合してまたは樹脂に由来する成分と結合してストラクチャーを形成することにより、または該ストラクチャー形成時の還元反応により、特にポリカーボネート樹脂を用いた場合に高い難燃効果を付与するものと考えられている。
【0087】
したがってかかる反応における活性の高い基を含んでいることが好ましく、より具体的にはアルコキシ基およびハイドロジェン(即ちSi-H基)から選択された少なくとも1種の基を所定量含んでいることが好ましい。かかる基(アルコキシ基、Si-H基)の含有割合としては、0.1~1.2mol/100gの範囲が好ましく、0.12~1mol/100gの範囲がより好ましく、0.15~0.6mol/100gの範囲が更に好ましい。かかる割合はアルカリ分解法より、シリコーン化合物の単位重量当たりに発生した水素またはアルコールの量を測定することにより求められる。尚、アルコキシ基は炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基が好適である。
【0088】
一般的にシリコーン化合物の構造は、以下に示す4種類のシロキサン単位を任意に組み合わせることによって構成される。すなわち、M単位:(CHSiO1/2、H(CHSiO1/2、H(CH)SiO1/2、(CH(CH=CH)SiO1/2、(CH(C)SiO1/2、(CH)(C)(CH=CH)SiO1/2等の1官能性シロキサン単位、D単位:(CHSiO、H(CH)SiO、HSiO、H(C)SiO、(CH)(CH=CH)SiO、(CSiO等の2官能性シロキサン単位、T単位:(CH)SiO3/2、(C)SiO3/2、HSiO3/2、(CH=CH)SiO3/2、(C)SiO3/2等の3官能性シロキサン単位、Q単位:SiOで示される4官能性シロキサン単位である。
【0089】
シリコーン系難燃剤に使用されるシリコーン化合物の構造は、具体的には、示性式としてDn、Tp、MmDn、MmTp、MmQq、MmDnTp、MmDnQq、MmTpQq、MmDnTpQq、DnTp、DnQq、DnTpQqが挙げられる。この中で好ましいシリコーン化合物の構造は、MmDn、MmTp、MmDnTp、MmDnQqであり、さらに好ましい構造は、MmDnまたはMmDnTpである。
【0090】
ここで、前記示性式中の係数m、n、p、qは各シロキサン単位の重合度を表す1以上の整数であり、各示性式における係数の合計がシリコーン化合物の平均重合度となる。この平均重合度は好ましくは3~150の範囲、より好ましくは3~80の範囲、更に好ましくは3~60の範囲、特に好ましくは4~40の範囲である。かかる好適な範囲であるほど難燃性において優れるようになる。更に後述するように芳香族基を所定量含むシリコーン化合物においては透明性や色相にも優れる。その結果良好な反射光が得られる。またm、n、p、qのいずれかが2以上の数値である場合、その係数の付いたシロキサン単位は、結合する水素原子や有機残基が異なる2種以上のシロキサン単位とすることができる。
【0091】
シリコーン化合物は、直鎖状であっても分岐構造を持つものであってもよい。またシリコン原子に結合する有機残基は炭素数1~30、より好ましくは1~20の有機残基であることが好ましい。かかる有機残基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、およびデシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基の如きシクロアルキル基、フェニル基の如きアリール基、並びにトリル基の如きアラルキル基を挙げることがでる。さらに好ましくは炭素数1~8のアルキル基、アルケニル基またはアリール基である。アルキル基としては、特にはメチル基、エチル基、およびプロピル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましい。さらにシリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物はアリール基を含有することが好ましい。一方、二酸化チタン顔料の有機表面処理剤としてのシラン化合物およびシロキサン化合物は、アリール基を含有しない方が好ましい効果が得られる点で、シリコーン系難燃剤とはその好適な態様において明確に区別される。シリコーン系難燃剤として使用されるシリコーン化合物は、前記Si-H基およびアルコキシ基以外にも反応基を含有していてもよく、かかる反応基としては例えば、アミノ基、カルボキシ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基、およびメタクリロキシ基などが例示される。
【0092】
シリコーン系難燃剤の含有量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.01~20重量部、より好ましくは0.5~10重量部、さらに好ましくは1~5重量部である。
【0093】
(iv)フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(フィブリル化PTFE)
フィブリル化PTFEは、フィブリル化PTFE単独であっても、混合形態のフィブリル化PTFEすなわちフィブリル化PTFE粒子と有機系重合体からなるポリテトラフルオロエチレン系混合体であってもよい。フィブリル化PTFEは極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その数平均分子量は、150万~数千万の範囲である。かかる下限はより好ましくは300万である。かかる数平均分子量は、例えば特開平6-145520号公報に開示されているとおり、380℃でのポリテトラフルオロエチレンの溶融粘度に基づき算出される。即ち、フィブリル化PTFEは、かかる公報に記載された方法で測定される380℃における溶融粘度が10~1013poiseの範囲であり、好ましくは10~1012poiseの範囲である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。またかかるフィブリル化PTFEは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性および機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。
【0094】
また、特開平6-145520号公報に開示されているとおり、かかるフィブリル化PTFEを芯とし、低分子量のポリテトラフルオロエチレンを殻とした構造を有するものも好ましく利用される。
【0095】
かかるフィブリル化PTFEの市販品としては例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン化学工業(株)のポリフロンMPA FA500、F-201Lなどを挙げることができる。
【0096】
混合形態のフィブリル化PTFEとしては、(1)フィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体の水性分散液または溶液とを混合し共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60-258263号公報、特開昭63-154744号公報などに記載された方法)、(2)フィブリル化PTFEの水性分散液と乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4-272957号公報に記載された方法)、(3)フィブリル化PTFEの水性分散液と有機重合体粒子溶液を均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06-220210号公報、特開平08-188653号公報などに記載された方法)、(4)フィブリル化PTFEの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9-95583号公報に記載された方法)、および(5)PTFEの水性分散液と有機重合体分散液を均一に混合後、更に該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11-29679号公報などに記載された方法)により得られたものが使用できる。
【0097】
これらの混合形態のフィブリル化PTFEの市販品としては、三菱レイヨン(株)の「メタブレン A3000」(商品名)「メタブレン A3700」(商品名)、「メタブレン A3800」(商品名)で代表されるメタブレンAシリーズ、Shine Polymer社のSN3300B7(商品名)、およびGEスペシャリティーケミカルズ社製 「BLENDEX B449」(商品名)などが例示される。
【0098】
混合形態におけるフィブリル化PTFEの割合としては、かかる混合物100重量%中、フィブリル化PTFEが1重量%~95重量%であることが好ましく、10重量%~90重量%であるのがより好ましく、20重量%~80重量%が最も好ましい。
【0099】
混合形態におけるフィブリル化PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、フィブリル化PTFEの良好な分散性を達成することができる。フィブリル化PTFEの含有量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.001~0.5重量部であり、0.01~0.5重量部がより好ましく、0.1~0.5重量部がさらに好ましい。
【0100】
(III)染顔料
本発明の熱可塑性樹脂組成物は更に各種の染顔料を含有し多様な意匠性を発現する成形品を提供できる。本発明で使用する染顔料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、およびフタロシアニン系染料などを挙げることができる。更に本発明の熱可塑性樹脂組成物はメタリック顔料を配合してより良好なメタリック色彩を得ることもできる。メタリック顔料としては、アルミ粉が好適である。また、蛍光増白剤やそれ以外の発光をする蛍光染料を配合することにより、発光色を生かした更に良好な意匠効果を付与することができる。
【0101】
(IV)蛍光増白剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物において蛍光増白剤は、樹脂等の色調を白色あるいは青白色に改善するために用いられるものであれば特に制限はなく、例えばスチルベン系、ベンズイミダゾール系、ベンズオキサゾール系、ナフタルイミド系、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系化合物等が挙げられる。具体的には例えばCI Fluorescent Brightener 219:1や、イーストマンケミカル社製EASTOBRITE OB-1や昭和化学(株)製「ハッコールPSR」、などを挙げることができる。ここで蛍光増白剤は、光線の紫外部のエネルギーを吸収し、このエネルギーを可視部に放射する作用を有するものである。蛍光増白剤の含有量はA成分100重量部に対して、0.001~0.1重量部が好ましく、より好ましくは0.001~0.05重量部である。0.1重量部を超えても該組成物の色調の改良効果は小さい。
【0102】
(V)熱線吸収能を有する化合物
本発明の熱可塑性樹脂組成物は熱線吸収能を有する化合物を含有することができる。かかる化合物としてはフタロシアニン系近赤外線吸収剤、ATO、ITO、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウム、酸化イモニウム、酸化チタンなどの金属酸化物系近赤外線吸収剤、ホウ化ランタン、ホウ化セリウムおよびホウ化タングステンなどの金属ホウ化物系や酸化タングステン系近赤外線吸収剤などの近赤外吸収能に優れた各種の金属化合物、ならびに炭素フィラーが好適に例示される。かかるフタロシアニン系近赤外線吸収剤としてはたとえば三井化学(株)製MIR-362が市販され容易に入手可能である。炭素フィラーとしてはカーボンブラック、グラファイト(天然、および人工のいずれも含む)およびフラーレンなどが例示され、好ましくはカーボンブラックおよびグラファイトである。これらは単体または2種以上を併用して使用することができる。フタロシアニン系近赤外線吸収剤の含有量は、A成分100重量部に対して、0.0005~0.2重量部が好ましく、0.0008~0.1重量部がより好ましく、0.001~0.07重量部がさらに好ましい。金属酸化物系近赤外線吸収剤、金属ホウ化物系近赤外線吸収剤および炭素フィラーの含有量は、本発明の熱可塑性樹脂組成物中、0.1~200ppm(重量割合)の範囲が好ましく、0.5~100ppmの範囲がより好ましい。
【0103】
(VI)光拡散剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、光拡散剤を配合して光拡散効果を付与することができる。かかる光拡散剤としては高分子微粒子、炭酸カルシウムの如き低屈折率の無機微粒子、およびこれらの複合物等が例示される。かかる高分子微粒子は、既にポリカーボネート樹脂の光拡散剤として公知の微粒子である。より好適には粒径数μmのアクリル架橋粒子およびポリオルガノシルセスキオキサンに代表されるシリコーン架橋粒子などが例示される。光拡散剤の形状は球形、円盤形、柱形、および不定形などが例示される。かかる球形は、完全球である必要はなく変形しているものを含み、かかる柱形は立方体を含む。好ましい光拡散剤は球形であり、その粒径は均一であるほど好ましい。光拡散剤の含有量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.005~20重量部、より好ましくは0.01~10重量部、更に好ましくは0.01~3重量部である。尚、光拡散剤は2種以上を併用することができる。
【0104】
(VII)光高反射用白色顔料
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、光高反射用白色顔料を配合して光反射効果を付与することができる。かかる白色顔料としては二酸化チタン(特にシリコーンなど有機表面処理剤により処理された二酸化チタン)顔料が特に好ましい。かかる光高反射用白色顔料の含有量は、A成分100重量部に対して、3~30重量部が好ましく、8~25重量部がより好ましい。尚、光高反射用白色顔料は2種以上を併用することができる。
【0105】
(VIII)紫外線吸収剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には紫外線吸収剤を配合して耐候性を付与することができる。 かかる紫外線吸収剤としては、具体的にはベンゾフェノン系では、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-ベンジロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ-5-ソジウムスルホキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンソフェノン、および2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノンなどが例示される。紫外線吸収剤としては、具体的に、ベンゾトリアゾール系では、例えば、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジクミルフェニル)フェニルベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-クミル-6-ベンゾトリアゾールフェニル)、2,2’-p-フェニレンビス(1,3-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミドメチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、並びに2-(2’-ヒドロキシ-5-メタクリロキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体や2-(2’―ヒドロキシ-5-アクリロキシエチルフェニル)―2H―ベンゾトリアゾールと該モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体などの2-ヒドロキシフェニル-2H-ベンゾトリアゾール骨格を有する重合体などが例示される。紫外線吸収剤は、具体的に、ヒドロキシフェニルトリアジン系では、例えば、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-メチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-エチルオキシフェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-プロピルオキシフェノール、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ブチルオキシフェノールなどが例示される。さらに2-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-ヘキシルオキシフェノールなど、上記例示化合物のフェニル基が2,4-ジメチルフェニル基となった化合物が例示される。紫外線吸収剤は、具体的に環状イミノエステル系では、例えば2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-m-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、および2,2’-p,p’-ジフェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)などが例示される。また紫外線吸収剤としては、具体的にシアノアクリレート系では、例えば1,3-ビス-[(2’-シアノ-3’,3’-ジフェニルアクリロイル)オキシ]-2,2-ビス[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパン、および1,3-ビス-[(2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリロイル)オキシ]ベンゼンなどが例示される。さらに上記紫外線吸収剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。前記紫外線吸収性単量体としては、(メタ)アクリル酸エステルのエステル置換基中にベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格、トリアジン骨格、環状イミノエステル骨格、およびシアノアクリレート骨格を含有する化合物が好適に例示される。前記の中でも紫外線吸収能の点においてはベンゾトリアゾール系およびヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましく、耐熱性や色相の点では、環状イミノエステル系およびシアノアクリレート系が好ましい。具体的には例えばケミプロ化成(株)「ケミソーブ79」、BASFジャパン(株)「チヌビン234」などが挙げられる。前記紫外線吸収剤は単独であるいは2種以上の混合物で用いてもよい。
【0106】
紫外線吸収剤の含有量は、A成分100重量部に対して、好ましくは0.01~3重量部、より好ましくは0.01~1重量部、さらに好ましくは0.05~1重量部、特に好ましくは0.05~0.5重量部である。
【0107】
(IX)帯電防止剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、帯電防止性能が求められる場合があり、かかる場合帯電防止剤を含むことが好ましい。かかる帯電防止剤としては、例えば(1)ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩に代表されるアリールスルホン酸ホスホニウム塩、およびアルキルスルホン酸ホスホニウム塩などの有機スルホン酸ホスホニウム塩、並びにテトラフルオロホウ酸ホスホニウム塩の如きホウ酸ホスホニウム塩が挙げられる。該ホスホニウム塩の含有量は、A成分100重量部に対し、5重量部以下が適切であり、好ましくは0.05~5重量部、より好ましくは1~3.5重量部、更に好ましくは1.5~3重量部の範囲である。帯電防止剤としては例えば、(2)有機スルホン酸リチウム、有機スルホン酸ナトリウム、有機スルホン酸カリウム、有機スルホン酸セシウム、有機スルホン酸ルビジウム、有機スルホン酸カルシウム、有機スルホン酸マグネシウム、および有機スルホン酸バリウムなどの有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩が挙げられる。かかる金属塩は前述のとおり、難燃剤としても使用される。かかる金属塩は、より具体的には例えばドデシルベンゼンスルホン酸の金属塩やパーフルオロアルカンスルホン酸の金属塩などが例示される。有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の含有量はA成分100重量部に対して、0.5重量部以下が適切であり、好ましくは0.001~0.3重量部、より好ましくは0.005~0.2重量部である。特にカリウム、セシウム、およびルビジウムなどのアルカリ金属塩が好適である。
【0108】
帯電防止剤としては、例えば(3)アルキルスルホン酸アンモニウム塩、およびアリールスルホン酸アンモニウム塩などの有機スルホン酸アンモニウム塩が挙げられる。該アンモニウム塩はA成分およびB成分からなる成分100重量部に対して、0.05重量部以下が適切である。帯電防止剤としては、例えば(4)ポリエーテルエステルアミドの如きポリ(オキシアルキレン)グリコール成分をその構成成分として含有するポリマーが挙げられる。該ポリマーはA成分100重量部に対して、5重量部以下が適切である。
【0109】
(X)充填材
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、繊維状充填材以外の強化フィラーとして公知の各種充填材を配合することができる。かかる充填材としては、各種の板状充填材および粒状充填材が利用できる。ここで、板状充填材はその形状が板状(表面に凹凸を有するものや、板が湾曲を有するものを含む)である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含むこれら以外の形状の充填材である。
【0110】
板状充填材としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリン、メタルフレーク、カーボンフレーク、およびグラファイト、並びにこれらの充填材に対して例えば金属や金属酸化物などの異種材料を表面被覆した板状充填材などが好ましく例示される。その粒径は0.1~300μmの範囲が好ましい。かかる粒径は、10μm程度までの領域は液相沈降法の1つであるX線透過法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、10~50μmの領域ではレーザー回折・散乱法で測定された粒子径分布のメジアン径(D50)による値をいい、50~300μmの領域では振動式篩分け法による値である。かかる粒径は樹脂組成物中での粒径である。板状充填材は、各種のシラン系、チタネート系、アルミネート系、およびジルコネート系などのカップリング剤で表面処理されてもよく、またオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、およびウレタン系樹脂などの各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどにより集束処理されるか、または圧縮処理された造粒物であってもよい。
【0111】
(XI)他の樹脂やエラストマー
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂成分の一部に代えて、他の樹脂やエラストマーを本発明の効果を発揮する範囲において、少割合使用することもできる。他の樹脂やエラストマーの配合量はA成分100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下、更に好ましくは5重量部以下、最も好ましくは3重量部以下である。かかる他の樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。また、エラストマーとしては、例えばイソブチレン/イソプレンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル型のエラストマーであるMBS(メタクリル酸メチル/ステレン/ブタジエン)ゴム、MB(メタクリル酸メチル/ブタジエン)ゴム、MAS(メタクリル酸メチル/アクリロニトリル/スチレン)ゴム等が挙げられる。
【0112】
(XII)その他の添加剤
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他の流動改質剤、抗菌剤、流動パラフィンの如き分散剤、光触媒系防汚剤およびフォトクロミック剤などを配合することができる。
【0113】
<樹脂組成物の製造について>
本発明の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えばA成分およびB成分および任意に他の成分をそれぞれV型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより造粒を行い、その後ベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機で溶融混練、およびペレタイザー等の機器によりペレット化する方法が挙げられる。別法として、A成分、B成分および任意に他の成分をそれぞれ独立にベント式二軸ルーダーに代表される溶融混練機に供給する方法、A成分および他の成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。なお、配合する成分に液状のものがある場合には、溶融混練機への供給にいわゆる液注装置、または液添装置を使用することができる。
【0114】
<金属成形体>
本発明の樹脂金属複合成形体を形成する金属材料は溝部を有する接合部が形成された金属材料であることが好ましく、該溝部が連続波レーザー光またはパルス波レーザー光の照射により形成された金属材料であることがより好ましい。金属材料を構成する金属は特に制限されるものではなく、用途に応じて公知の金属から適宜選択することができる。例えば、鉄、各種ステンレス、アルミニウム又はその合金、銅、マグネシウム及びそれらを含む合金から選ばれるものを挙げることができる。これらの中でも、軽量かつ高強度の点から、アルミニウム(アルミニウム単体)およびアルミニウム合金が好ましく、アルミニウム合金がより好ましい。金属成形体は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって、例えば平板状、曲板状、棒状、筒状、塊状等に加工される。金属成形体の表面は、樹脂との密着性を向上する上で表面積が大きいものが好ましく、具体的には表面を粗化処理したものが好ましい。金属部材表面の粗化処理方法は、公知のエッチング剤を用いた化学エッチング法やレーザー光の照射、エッチング加工、プレス加工およびブラスト加工から選ばれる手段により粗化する方法が好ましく、連続波レーザー光またはパルス波レーザー光を照射して粗化する方法がより好ましい。
【0115】
<樹脂金属複合成形体の作成>
本発明の樹脂金属複合成形体は、金属材料の溝部に樹脂成形体が入り込むことで、金属材料と樹脂成形体が接合一体化していることを特徴とする複合成形体である。該複合成形体を作成する方法としては、特に限定されず、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等の樹脂成型方法が挙げられる。中でも、金属成形体の接合面に対して連続波レーザー光またはパルス波レーザー光を照射する工程および前工程において連続波レーザー光またはパルス波レーザー光が照射された金属成形体の接合面を含む部分を金型内に配置して熱可塑性樹脂組成物を射出成形する工程を有している製造方法で製造することが、形状の自由度、生産性の観点から好ましい。またアルミニウム表面に樹脂組成物皮膜をコーティングしたアルミニウム樹脂組成物皮膜からなる複合体を製造する場合は、溶剤に樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、その他の各種塗装方法を挙げることができる。その他の塗装方法としては、焼き付け塗装、電着塗装、静電塗装、紛体塗装、紫外線硬化塗装等が挙げられる。
【0116】
<電子制御装置>
本発明の樹脂金属複合成形体は、電子部品が実装される回路基板、前記回路基板を設置するための突起部を有するベース部並びに前記回路基板および前記ベース部を覆い樹脂で形成されるカバー部を有する制御装置において、該ベース部に使用されることが好ましい。さらに、該ベース部の突起部が本願明の熱可塑性樹脂組成物のみからなることがより好ましい。また、該ベース部が突起部を有し、カバー部には複数の孔を有していることが電子回路基板の発熱を抑制する上で好ましい。
【発明の効果】
【0117】
本発明の膨張処理を施した黒鉛を適切な量含有する熱可塑性樹脂組成物は、金属と接合された複合成形体において、金属との密着性に優れ、ヒートサイクル試験後での接合強度低下が少なく耐久性に優れる熱可塑性樹脂組成物である。これらの技術は従来の樹脂金属密着技術にはないものであり、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0118】
本発明者らが現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例0119】
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
尚、評価としては以下の項目について実施した。
【0120】
(i)密着強度
実施例の各組成から得られたペレットを100℃で5時間、熱風乾燥機にて乾燥し、射出成形機[住友重機械工業(株)SG150U・S-M IV]により、シリンダー温度310℃、金型温度110℃でISO19095-2に準拠した樹脂金属密着試験用試験片を成形した。(縦170mm×横10mm、厚さ4mm:突き合せタイプ)なお、金属成形体として、JIS H4000に規定された合金番号5052のアルミニウム板材(厚み:4mm)を、85mm×10mmの寸法に切断した後、レーザーにより金属表面に溝部を有する接合部が形成された金属成形体を使用した。溝部の径は40~80μm、深さは75~125μm、溝部間の間隔は90~120μmであった。得られた試験片を23℃、50%RHの条件下24時間調湿した後、ISO19095-3に従って、樹脂金属密着強度(突き合せ試験片による引張強度)を測定した。密着強度は20MPa以上であることが好ましい。
【0121】
(ii)ヒートサイクル試験後の強度保持率
「(i)密着強度」に用いた複合成形体を用いてヒートサイクル試験(加熱して80℃で30分間処理後、冷却して-40℃で30分間処理することを1サイクルとした試験にて2000サイクル)を実施後、樹脂金属密着強度(突き合せ試験片による引張強度)を測定し、下記式(1)により強度保持率を計算した。強度保持率は、80%以上であることが好ましい。
【0122】
【数1】
【0123】
[実施例1~12、比較例1~5]
表1記載の配合割合からなる樹脂組成物を以下の要領で作成した。尚、説明は以下の表中の記号にしたがって説明する。表の割合の各成分を計量して、繊維状充填材を除いてタンブラーを用いて均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。押出機は、ベント式二軸押出機(株)日本製鋼所製:TEX-30XSST(完全かみ合い、同方向回転、2条ネジスクリュー)を使用した。押出条件は吐出量20kg/h、スクリュー回転数150rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は280~320℃とした。なお、繊維状充填材は上記押出機のサイドフィーダーを使用し第二供給口から供給し、残りのポリカーボネート樹脂および添加剤は第一供給口から押出機に供給した。ここでいう第一供給口とはダイスから最も離れた供給口であり、第二供給口とは押出機のダイスと第一供給口の間に位置する供給口である。得られたペレットを使用して上記のとおり、射出成形機を用いて評価用の試験片を成形した。各評価結果を表1に示す。なお、表1中記号表記の各成分は下記の通りである。
【0124】
(A成分)
A-1:芳香族ポリカーボネート樹脂、帝人(株)製 パンライトL-1225WX(製品名)
A-2:ポリカーボネート-ポリジオルガノシロキサン共重合樹脂(粘度平均分子量23,500、PDMS量8.4%、PDMS重合度37)
A-3:ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリプラスチックス製、C0202C7(製品名)
(B成分)
B-1:膨張処理を施した黒鉛、西村黒鉛(株)製、E-40(製品名)
B-2(比較用):鱗片状黒鉛、富士黒鉛工業(株)製 SC-120(製品名)
(C成分)
C-1:ガラス繊維、日東紡(株)製 チョップドストランドCS3PE455FB(製品名)
C-2:炭素繊維、帝人(株)製 HTC422(製品名)
(その他成分)
D-1:安定剤、城北化学工業(株)製 JC-224(製品名)
D-2:耐候剤、BASFジャパン(株)製 Tinuvin234(製品名)
D-3:離型剤、理研ビタミン(株)製 リケマール SL-900(製品名)
D-4:着色剤、越谷化成工業(株)製 RB90003S(製品名)
【0125】
【表1】