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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083775
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】聴覚測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/12 20060101AFI20230609BHJP
【FI】
A61B5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197661
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000115636
【氏名又は名称】リオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】久々江 隆行
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038AB03
4C038AB07
4C038AB10
(57)【要約】
【課題】適切な聴覚測定を支援する技術の提供。
【解決手段】聴覚測定装置100で非検耳に対してマスキングを行う各種の測定の過程で実行されるオーバーマスキング判定処理において、非検耳に提示されたマスキング音が検耳側の内耳にどの程度のレベルで届いているかを示す指標となる検耳移行マスキング音のレベルが算出されて(S10)、検耳のシンボルと同系色で画面に表示され(S11)、検耳移行マスキング音のレベルが、検耳の骨導閾値、良聴耳骨導閾値、検耳の気導閾値、検査音レベルのうちいずれかの値以上であれば(S13:Yes)、オーバーマスキングの疑いありと判定され(S15)、その旨を報知するアラートが画面に表示される(S16)。この表示により、オーバーマスキングが疑われる状況であることを検者が速やかに認識して適切に対処することができ、結果として正確な測定結果を得ることが可能となる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の耳に提示された音が他方の内耳に届いている程度を示す所定の指標レベルを算出し、前記所定の指標レベルが所定の条件に該当する場合に、所定の現象が発生している疑いがあると判定する判定部と、
前記所定の現象が発生している疑いがあると判定された場合に、前記所定の現象に関して注意喚起する表示を行う表示部と
を備えた聴覚測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の聴覚測定装置において、
前記表示部は、
オージオグラムを表示するとともに、前記所定の指標レベルを前記オージオグラム上に表示することを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の聴覚測定装置において、
前記判定部は、
非測定耳に提示されたマスキング音が測定耳の内耳に届いている程度を示す測定耳移行レベルを算出し、前記測定耳移行レベルが所定の測定耳関連条件に該当する場合に、オーバーマスキングが発生している疑いがあると判定し、
前記表示部は、
オーバーマスキングが発生している疑いがあると判定された場合に、オーバーマスキングに関して注意喚起する表示を行うことを特徴とする聴覚測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の聴覚測定装置において、
前記判定部は、
測定耳に提示された測定音が非測定耳に届いている程度を示す非測定耳移行レベルを算出し、前記非測定耳移行レベルが所定の非測定耳関連条件に該当する場合に、陰影聴取が発生している疑いがあると判定し、
前記表示部は、
陰影聴取が発生している疑いがあると判定された場合に、陰影聴取に関して注意喚起する表示を行うことを特徴とする聴覚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴覚に関する種々の測定を行う装置、特に、両耳間移行現象が発生する測定を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
聴力検査(測定)において、陰影聴取の可能性がある場合には、マスキングを検討する必要がある。この点に関し、日本聴覚医学会は日本聴覚医学会聴覚検査法を定め、その中でマスキングを必要とする場合の検査法を明記している。標準純音聴力検査におけるマスキング法としては、プラトー法やABCマスキング法等が知られている。また、従来、聴力測定において適正なレベルのマスキング音を発生させるよう工夫した装置が知られている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭61-49973号公報
【特許文献2】特公平01-11292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスキングに関する知識や技能は難易度が高く、その習得に時間を要する。オージオメータの設定及び操作を行う検者は、被検者の検耳に提示している検査音及び非検耳に提示しているマスキング音のそれぞれについて、反対側の内耳にどの程度のレベルで到達しているかをオージオメータの画面から一目で読み取ることはできない。そのため、検者は、オージオメータで検査音やマスキングレベルを変化させる度に、それぞれのレベルから両耳間移行減衰量(一方の耳に与えた音が他方の内耳に到達する際に減衰する音圧)を差し引いて、さらに必要に応じて外耳道閉鎖効果の補正値を加算し、気骨導差を考慮した上で、反対側の耳で聞こえていないかを検者が即時に判断しなければならない。このような煩雑さが、マスキングの難しさの要因の一つとなっている。
【0005】
上述した先行技術によれば、ある程度は適正なレベルのマスキング音を発生させることができると推測される。しかしながら、被検者が検査に不慣れであることを鑑みれば、聴力検査を正確に行うためには全自動ではなく検者が介在することが現実的であると考えられ、その場合には、先行技術において検者は条件判定に必要な数値をその都度入力しなければならない。すなわち、先行技術によっても煩雑さはやはり解消されない。
【0006】
このように、聴力検査、特にマスキングの対応には、熟練した技能が要求されるため、経験の浅い検者や、検者の入れ替わりが激しい医療現場等において課題となっている。誤った方法で検査を行うと、オーバーマスキングや陰影聴取により検査結果は不正確なものとなり、その結果を用いる様々な判断についても不正確となりうるため、正しい検査(測定)をより簡単に行う何らかの対策が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、適切な聴覚測定を支援する技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の聴覚測定装置を採用する。なお、以下の括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0009】
すなわち、本発明の聴覚測定装置は、一方の耳に提示された音が他方の内耳に届いている程度を示す所定の指標レベルを算出し、所定の指標レベルが所定の条件に該当する場合に、所定の現象が発生している疑いがあると判定する判定部と、所定の現象が発生している疑いがあると判定された場合に、所定の現象に関して注意喚起する表示を行う表示部とを備えている。
【0010】
この態様の聴覚測定装置によれば、所定の指標レベルが自動で算出され、従来のように測定者が手動で計算を行う必要がないため、計算に伴い測定者にかかる負担を無くすことができる。また、この態様の聴覚測定装置によれば、所定の指標レベルに基づき所定の現象が発生している疑いがあると判定されると、所定の現象に関して注意喚起する表示がなされるため、注意を要する状況であることを測定者に知らせることができ、この表示に応じて測定者はマスキングレベルを調整する等の必要な対処を行うことができる。結果として、より簡単に正確な測定結果を得ることができる。
【0011】
好ましくは、上述した態様の聴覚測定装置において、表示部は、オージオグラムを表示するとともに、所定の指標レベルをオージオグラム上に表示する。
【0012】
この態様の聴覚測定装置によれば、オージオグラム上に所定の指標レベルが表示されるため、一方の耳に提示された音が他方の耳にどの程度届いているかを測定者が一目で把握することができるとともに、他のシンボル(閾値を示す記号)との関係から、現在の状況を容易に認識することができる。
【0013】
より好ましくは、上述したいずれかの態様の聴覚測定装置において、判定部は、非測定耳に提示されたマスキング音が測定耳の内耳に届いている程度を示す測定耳移行レベルを算出し、測定耳移行レベルが所定の測定耳関連条件に該当する場合に、オーバーマスキングが発生している疑いがあると判定し、表示部は、オーバーマスキングが発生している疑いがあると判定された場合に、オーバーマスキングに関して注意喚起する表示を行う。
【0014】
この態様の聴覚測定装置によれば、オーバーマスキングが発生している疑いがあると判定されると、オーバーマスキングに関して注意喚起する表示がなされるため、オーバーマスキングが疑われる状況であることを測定者に知らせることができ、この表示に応じて測定者はマスキングレベルを下げる等の必要な対処を行うことができる。
【0015】
さらに好ましくは、上述したいずれかの態様の聴覚測定装置において、判定部は、測定耳に提示された測定音が非測定耳に届いている程度を示す非測定耳移行レベルを算出し、非測定耳移行レベルが所定の非測定耳関連条件に該当する場合に、陰影聴取が発生している疑いがあると判定し、表示部は、陰影聴取が発生している疑いがあると判定された場合に、陰影聴取に関して注意喚起する表示を行う。
【0016】
この態様の聴覚測定装置によれば、陰影聴取が発生している疑いがあると判定されると、陰影聴取に関して注意喚起する表示がなされるため、陰影聴取が疑われる状況であることを測定者に知らせることができ、この表示に応じて測定者はマスキングレベルを上げる等の必要な対処を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、適切な聴覚測定を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】聴覚測定装置100の構成を示すブロック図である。
図2】両耳間移行減衰量及び外耳道閉鎖効果の補正値を示す図である。
図3】オーバーマスキング判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図4】オーバーマスキングの疑いを報知するアラートの一例を示す図である。
図5】陰影聴取判定処理の手順例を示すフローチャートである。
図6】陰影聴取の疑いを報知するアラートの一例を示す図である。
図7】オーバーマスキング又は陰影聴取の疑いがある状態で閾値が確定された場合における測定結果の表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は好ましい例示であり、本発明はこの例示に限定されるものではない。また、以下の説明において、「測定」との語には「検査」の意が含まれるものとし、「検者」は測定を行う者(測定者)、「被検者」は測定を受ける者(被験者)、「検耳」は測定を受ける耳(測定耳)、「非検耳」は検耳でない側の耳(非測定耳)、「検査音」は測定時に検耳に提示される音(測定音)、をそれぞれ表すものとする。
【0020】
〔聴覚測定装置100の構成〕
図1は、聴覚測定装置100の構成を示すブロック図である。
聴覚測定装置100は、聴覚に関する種々の測定を行う装置であり、測定中にオーバーマスキング又は陰影聴取の疑いが生じた場合に、その旨のアラートを表示する機能を有している。聴覚測定装置100は、例えば、測定制御部10、音提示部20、応答部30、判定部40、記憶部50、表示部60等を備えている。
【0021】
測定制御部10は、測定の進行及びこれに伴い実行される処理を制御する。音提示部20は、例えば受話器(気導受話器、骨導受話器)や挿入形イヤホンであり、測定制御部10から指定された周波数かつ音圧レベルの検査音(純音等)を検耳に提示し、指定された周波数かつ音圧レベルのマスキング音(バンドノイズ等)を非検耳に提示する。応答部30は、例えば応答ボタンやその他の入力装置であり、検査音に対する被検者からの応答を受け付け、その旨を測定制御部10に通知する。
【0022】
判定部40は、マスキング音及び検査音の各レベル、両耳間移行減衰量、外耳道閉鎖効果の補正値等を踏まえて所定の指標レベル(後述する検耳移行マスキング音、非検耳移行検査音の各レベル)を算出し、指標レベルが所定の条件に該当する場合にオーバーマスキング又は陰影聴取の疑いがあると判定する。判定部40が算出する指標レベルや判定処理の具体的な内容については、別の図面を参照しながら詳しく後述する。
【0023】
記憶部50は、例えばRAMやHDDであり、判定部40が指標レベルの算出時に用いる両耳間移行減衰量や外耳道閉鎖効果の補正値を予め記憶している。また、記憶部50は、測定により確定した閾値や、測定の過程で被検者からの応答に基づいて検者が入力した仮の閾値を記憶する。
【0024】
表示部60は、例えばディスプレイであり、その画面にオージオグラムや測定に関する操作ボタン等を表示するとともに、判定部40によりオーバーマスキング又は陰影聴取の疑いがあると判定された場合には、その旨のアラートを併せて表示する。測定が終了すると、図示しない出力部から測定結果(オージオグラム等)が出力される。出力部による出力は、例えば、紙への印字により行われてもよいし、ネットワークを介してメールやフォルダに対してファイルを送信することの様な電磁的方法により行われてもよい。
【0025】
なお、発明の理解を容易とするために、図1では聴覚測定装置100の特徴を説明する上で必要となる最小限の構成のみを示しているが、聴覚測定装置100は他のさらなる構成を備えていてもよい。
【0026】
図2は、判定部40が指標レベルを算出する際に用いる両耳間移行減衰量及び外耳道閉鎖効果の補正値を示す図である。このうち、(A)は気導受話器の両耳間移行減衰量を表しており、(B)は骨導受話器を乳突部に装着した場合における両耳間移行減衰量を表しており、(C)は外耳道閉鎖効果の補正値を表している。
【0027】
図2中(A)は、気導受話器の両耳間移行減衰量を表しており、図2中(B)は、骨導受話器を乳突部に装着した場合における両耳間移行減衰量を表しており、図2中(C)は、外耳道閉鎖効果の補正値を表している。これらの表中の値は、日本聴覚医学会による「聴覚検査法(1990)」(p.799)に掲載されているものである。
【0028】
このように、本実施形態においては、両耳間移行減衰量及び外耳道閉鎖効果の補正値として既知の文献に記載された値を用いているが、これらの値を初期値として用いつつ、ユーザ(検者等)により設定値を周波数毎に変更可能な構成としてもよい。また、音提示部20として挿入形イヤホンを用いる場合を想定し、挿入形イヤホンの両耳間移行減衰量をさらに記憶する構成としてもよい。この場合には、例えば挿入形イヤホンのメーカが製品毎に公開しているデータを挿入形イヤホンの両耳間移行減衰量として用いることが可能である。さらに、外耳道閉鎖効果に影響する伝音難聴の有無等に応じて外耳道閉鎖効果の補正値を適用するか否かを検者が切り替えられるよう、そのための操作ボタンを例えば表示部60の画面に設けてもよい。
【0029】
〔オーバーマスキング判定処理〕
図3は、オーバーマスキング判定処理の手順例を示すフローチャートである。
オーバーマスキング判定処理は、オーバーマスキングが発生している疑いの有無を判定する処理であり、聴覚測定装置100において非検耳に対してマスキングを行う各種の測定(例えば、標準純音聴力測定、音場閾値測定、語音聴力測定、音場語音聴力測定、耳鳴測定等)の過程で、検査音レベル、マスキングレベル及び気導閾値、骨導閾値、良聴耳骨導閾値が変更される度に実行される。ここで、「良聴耳骨導閾値」とは、マスキングなしで測定された骨導閾値のことであり、骨導の両耳間移行減衰量を0dBと仮定した場合の、左右不明であるが良く聴こえる側の骨導閾値を指す。マスキングなしで測定された骨導閾値が左右入力されている場合は、より低い値を良聴耳骨導閾値とする。以下、手順例に沿って説明する。
【0030】
ステップS10:判定部40は、検耳移行マスキング音及び非検耳移行検査音の各レベルを算出する。ここで、「検耳移行マスキング音」とは、音提示部20が非検耳に提示するマスキング音が検耳側の内耳にどの程度のレベルで届いているかを示す指標である。検耳移行マスキング音のレベル(測定耳移行レベル)は、以下の計算式により算出される。
【0031】
〔計算式1〕
検耳移行マスキング音のレベル = 非検耳のマスキングレベル
- 気導受話器の両耳間移行減衰量
(+ 外耳道閉鎖効果の補正値
- 検耳の気骨導差)
【0032】
すなわち、検耳移行マスキング音のレベルは、音提示部20が非検耳に提示するマスキングレベルからマスキング用受話器の両耳間移行減衰量を減算し、必要に応じて外耳道閉鎖効果の補正値を加算し、さらに検耳の気骨導差を減算することにより算出される。両耳間移行減衰量には、マスキング音の提示に用いる検査受話器が気導受話器の場合には気導受話器の両耳間移行減衰量が用いられ、マスキング音の提示に用いる検査受話器が挿入形イヤホンの場合には挿入形イヤホンの両耳間移行減衰量が用いられる。外耳道閉鎖効果の補正値は、検耳が気導受話器等で覆われている場合にのみ(=検耳に外耳道閉鎖効果が発生する状況下で)加算される。検耳の気骨導差は検耳の気導閾値から同側の骨導閾値を減算した値であり、その値が0dBより小さい場合には、この減算結果を0dBとして扱う。気骨導差は外耳道閉鎖効果に影響がない場合があるため、検耳の気骨導差の減算を適用するか否かを検者が切り替えられるようにすることが好ましい。
【0033】
なお、外耳道閉鎖効果の補正値から検耳の気骨導差を減算した結果が0dBより小さい場合には、この減算結果を0dBとして検耳移行マスキング音のレベルが算出される。また、検耳の気導閾値及び骨導閾値の少なくとも一方が確定していない場合には、検耳の気骨導差は計算に含めない(検耳の気骨導差を0dBとして扱う)。
【0034】
また、「非検耳移行検査音」とは、音提示部20が検耳に提示する検査音が非検耳側にどの程度のレベルで届いているかを示す指標である。非検耳移行検査音のレベル(非測定耳移行レベル)は、以下の計算式により算出される。
【0035】
〔計算式2〕
非検耳移行検査音のレベル = 検耳の検査音レベル
-検査受話器に応じた両耳間移行減衰量
(+ 外耳道閉鎖効果の補正値
- 非検耳の気骨導差)
【0036】
すなわち、非検耳移行検査音のレベルは、音提示部20が検耳に提示する検査音のレベルから検査受話器に応じた両耳間移行減衰量を減算し、必要に応じて外耳道閉鎖効果の補正値を加算し、さらに非検耳の気骨導差を減算して算出される。両耳間移行減衰量には、検査受話器が気導受話器の場合(=気導測定の場合)には気導受話器の両耳間移行減衰量が用いられ、検査受話器が骨導受話器の場合(=骨導測定の場合)には骨導受話器の両耳間移行減衰量が用いられ、検査受話器が挿入形イヤホンの場合(=気導測定の場合)には挿入形イヤホンの両耳間移行減衰量が用いられる。また、外耳道閉鎖効果の補正値は、非検耳が気導受話器等で覆われている場合にのみ(=非検耳に外耳道閉鎖効果が発生する状況下で)加算される。非検耳の気骨導差は非検耳の気導閾値から同側の骨導閾値を減算した値であり、その値が0dBより小さい場合には、この減算結果を0dBとして扱う。気骨導差は外耳道閉鎖効果に影響がない場合があるため、非検耳の気骨導差の減算を適用するか否かを検者が切り替えられるようにすることが好ましい。
【0037】
なお、外耳道閉鎖効果の補正値から非検耳の気骨導差を減算した結果が0dBより小さい場合には、この減算結果を0dBとして非検耳移行検査音のレベルが算出される。また、非検耳の気導閾値及び骨導閾値の少なくとも一方が確定していない場合には、非検耳の気骨導差は計算に含めない(非検耳の気骨導差を0dBとして扱う)。
【0038】
ステップS11:表示部60は、ステップS10で算出された検耳移行マスキング音及び非検耳移行検査音の各レベルを画面内のオージオグラム上に表示する。なお、各レベルの表示例については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0039】
ステップS13~S16:判定部40は、検耳移行マスキング音のレベルが、検耳の骨導閾値、良聴耳骨導閾値、検耳の気導閾値、検査音レベルのうち、いずれかの値以上であるか否かを確認する。
【0040】
確認の結果、検耳移行マスキング音のレベルが上記のいずれかの値以上でない場合、すなわち上記のいずれの値よりも小さい場合には(ステップS13:No)、判定部40は、オーバーマスキングの疑いはないと判定する(ステップS14)。一方、検耳移行マスキング音のレベルが上記のいずれかの値以上である場合には(ステップS13:Yes)、判定部40は、オーバーマスキングの疑いがあると判定する(ステップS15)。これを受けて、表示部60は、その旨を報知するアラートを画面に表示し、オーバーマスキングに関する注意喚起を行う(ステップS16)。
【0041】
ところで、上記のステップS13において検耳移行マスキング音のレベルと比較される各値は、判定部40(聴覚測定装置100)が参照可能な場合に比較の対象となる。例えば、骨導閾値を測定する場合には、骨導閾値の測定が完了するまで検耳の骨導閾値は正確には確定できないが、測定途中であっても、あるレベルで被検者から過半数の応答が得られる前の段階で、仮の閾値として検者が画面に表示されたオージオグラム上にシンボルをプロットすると、仮の閾値が記憶部50に記憶される。この場合には、判定部40は記憶された値を参照可能であり、この値が仮の閾値なのか確定した閾値なのかを判別できないため、比較の対象となりうる。また、例えば、標準純音聴力測定の骨導測定においては、測定周波数を1000Hz→2000Hz→4000Hzと徐々に高くして測定した後に再び1000Hzを測定し、その後で徐々に低い周波数を測定するが、2回目に1000Hzを測定する際には、1回目の閾値データが記憶部50に記憶されているため、1回目に測定された骨導閾値が比較の対象となる。
【0042】
なお、図3に示した手順例は、あくまで一例として挙げたものであり、これに限定されることなく状況に応じて適宜変更が可能である。
【0043】
〔オーバーマスキングに関する表示〕
図4は、測定中に表示部60の画面に表示される内容の具体例を示している。この表示例は、オーバーマスキングの疑いを報知するアラートを含んでいる。
【0044】
画面の上段部には、オージオグラムが表示されている。画面の下段部には、現在の測定の詳細が表示されており、その中央部には、メイン側の受話器を示す図形P、サブ側の受話器を示す図形P、メイン側およびサブ側の各応答ボタンを示す図形A,Aが表示されている。図示の例においては、メイン側が骨導測定における検耳であり、サブ側が非検耳でマスキングノイズが提示されることから、図形Pは骨導受話器を模した形状となっており、図形Pは受話器を模した形状となっている。これらの図形は、対応する機器から音が提示されている時(=アクティブ状態)は点灯し、音が提示されていない時(=非アクティブ状態)は消灯する。例えば、音提示部20が検査音を提示している間は図形Pが点灯し、応答部30が被検者からの検査音に対するメイン側の応答を受け付ける(=アクティブ状態)と図形Aが点灯する。図4においては、アクティブ状態を実線及び染色で表し、非アクティブ状態を破線で表している。図4の表示から、この時点では骨導受話器から検査音が提示されており、マスキング用受話器からマスキングノイズが提示されていることが分かる。
【0045】
また、オージオグラム上には、メイン側の受話器を示す図形Pの縮小版図形Rが測定周波数と現在の検査音レベルとが交差する位置に表示されており、サブ側の受話器を示す図形Pの縮小版図形Rが現在のマスキングレベルを示す横線の右端に表示されている。このような表示から、現在の測定周波数や検査音及びマスキング音の各レベルを容易に把握することができる。
【0046】
なお、特許図面の制約により、図4はグレースケールで表されているが、実際の表示部60の画面では、JIS T 1201-1の規定に沿って、オージオグラム上にプロットされる右耳のシンボル及びその接続線が赤色で表され、左耳のシンボル及びその接続線が青色で表される。
【0047】
上述したように、測定中には、オーバーマスキングの疑いの有無を判定するために、オーバーマスキング判定処理(図3)が実行される。ここで一例として、標準純音聴力測定の骨導測定において左耳を測定する場合に、検耳である左耳に「2000Hz」かつ「30dB」の純音を骨導受話器より提示しつつ、非検耳である右耳に「2000Hz」かつ「95dB」のマスキング音をマスキング用受話器より提示する場合の処理の流れを、図3に示される手順を追いながら説明する。
【0048】
この場合には、非検耳のマスキングレベルが「95dB」であり、気導受話器の2000Hzでの両耳間移行減衰量が「60dB」である。検査受話器には骨導受話器が選択されており、外耳道は検査受話器により覆われていないため、外耳道閉鎖効果は「0dB」として扱う。この段階で検耳の2000Hzでの骨導閾値は測定途中であり確定していないため、検耳の2000Hzでの気骨導差は「0dB」として扱う。したがって、上記の計算式1により、検耳移行マスキング音のレベルは、「95dB-60dB+(0dB-0dB)=35dB」と算出される(ステップS10)。算出された検耳移行マスキング音のレベルは、オージオグラム上に帯MTで表示される(ステップS11)。帯MTは、検耳である左耳のシンボル及び接続線を表す青色に合わせて、例えば半透明の青色で表示される。
【0049】
また、検耳の検査音レベルが「30dB」であり、検査受話器である骨導受話器の2000Hzでの両耳間移行減衰量が「10dB」であり、外耳道閉鎖効果の2000Hzでの補正値が「0dB」である。この段階で非検耳の2000Hzでの骨導閾値は測定途中であり確定していないため、非検耳の2000Hzでの気骨導差は「0dB」として扱う。したがって、上記の計算式2により、非検耳移行検査音のレベルは、「30dB-10dB+(0dB-0dB)=20dB」と算出される(ステップS10)。算出された非検耳移行検査音のレベルは、オージオグラム上に帯STで表示される(ステップS11)。帯STは、非検耳である右耳のシンボル及び接続線を表す赤色に合わせて、例えば半透明の赤色で表示される。
【0050】
図4に示されるように、この時点では検耳移行マスキング音のレベルを示す帯MTが検査音レベルを示す縮小版図形Rを覆っている。この表示から、検耳移行マスキング音のレベルが検査音レベルを超えていることが分かる。
【0051】
検耳移行マスキング音のレベル「35dB」は、現在の検査音レベル「30dB」を超えているため(ステップS13:Yes)、オーバーマスキングの疑いありと判定され(ステップS15)、その旨を報知するアラートWMが画面に表示される(ステップS16)。図示の例においては、注意マークと「オーバーマスキング」との文字とでまとまりよく構成されたアラートWMがオージオグラムの左上方に表示されている。
【0052】
なお、ステップS13において、この時点では検耳の骨導閾値及び良聴耳骨導閾値は測定途中であり確定していないため、検耳移行マスキング音のレベルとの比較はなされない。また、検耳の2000Hzの気導閾値は「45dB」であり、検耳移行マスキング音のレベルを超えているため、疑いありとの判定の要因にはならない。
【0053】
このように、本実施形態においては、測定中に検耳移行マスキング音のレベルが算出され、そのレベルを示す帯MTがオージオメータ上に検耳のシンボル及び接続線と同系色で表示される。このような表示により、色の共通性から、帯MTのレベルが検耳に関係することを検者が直観的に把握することができる。また、オーバーマスキングの疑いがあると判定されると、その旨を報知するアラートWMが画面に表示される。これにより、オーバーマスキングが疑われる状況であることを検者が速やかに認識することができ、マスキングレベルを下げる等の必要な対処を行うことが可能となる。
【0054】
〔陰影聴取判定処理〕
図5は、陰影聴取判定処理の手順例を示すフローチャートである。
陰影聴取判定処理は、陰影聴取が発生している疑いの有無を判定する処理であり、聴覚測定装置100における各種の測定の過程で、検査音レベル、マスキングレベル及び気導閾値、骨導閾値、良聴耳骨導閾値が変更される度に実行される。以下、手順例に沿って説明する。
【0055】
ステップS20:判定部40は、検耳移行マスキング音及び非検耳移行検査音の各レベルを算出する。検耳移行マスキング音のレベルは、上記の計算式1により算出され、非検耳移行検査音のレベルは、上記の計算式2により算出される。
【0056】
ステップS21:表示部60は、ステップS20で算出された検耳移行マスキング音及び非検耳移行検査音の各レベルを画面内のオージオグラム上に表示する。なお、各レベルの表示例については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0057】
ステップS22:判定部40は、非検耳の骨導閾値が記録されている場合に、非検耳の低下骨導閾値を算出して画面内のオージオグラム上に表示する。ここで、「非検耳の低下骨導閾値」とは、マスキングにより低下した非検耳の骨導閾値のことである。非検耳の低下骨導閾値は、以下の計算式により算出される。
【0058】
〔計算式3〕
非検耳の低下骨導閾値 = 非検耳の骨導閾値 + 実行レベル
= 非検耳の骨導閾値
+(非検耳のマスキングレベル - 非検耳の気導閾値)
【0059】
すなわち、非検耳の低下骨導閾値は、非検耳のマスキングレベルから非検耳の気導閾値を減算して得られる実行レベルを、非検耳の骨導閾値に加算することにより算出される。なお、非検耳の低下骨導閾値の表示例については、別の図面を用いてさらに後述する。
【0060】
なお、非検耳のマスキングレベルから非検耳の気導閾値を減算した結果が0dBより小さい場合には、この減算結果を0dBとして非検耳の低下骨導閾値が算出される。
【0061】
ステップS23~S26:判定部40は、非検耳移行検査音のレベルが、良聴耳骨導閾値と実行レベルの和、非検耳の気導閾値と実行レベルの和、非検耳の低下骨導閾値のうち、いずれかの値以上であるか否かを確認する。
【0062】
ここで、「良聴耳骨導閾値と実行レベルの和」とは、良聴耳骨導閾値が仮に非検耳の骨導閾値であった場合における非検耳の低下骨導閾値を表す。この和は、主に非検耳の骨導閾値が得られていない段階において、陰影聴取の疑いの有無の判定に用いられることとなる。また、「非検耳の気導閾値と実行レベルの和」とは、非検耳の気導閾値又は非検耳のマスキングレベルのうち、いずれか大きい方を表す。この和は、主に非検耳の骨導閾値や良聴耳骨導閾値が得られていない段階において、陰影聴取の疑いの有無の判定に用いられることとなる。
【0063】
確認の結果、非検耳移行検査音のレベルが上記のいずれかの値以上でない場合、すなわち上記のいずれの値よりも小さい場合には(ステップS23:No)、判定部40は、陰影聴取の疑いはないと判定する(ステップS24)。一方、非検耳移行検査音のレベルが上記のいずれかの値以上である場合には(ステップS23:Yes)、判定部40は、陰影聴取の疑いがあると判定する(ステップS25)。これを受けて、表示部60は、その旨を報知するアラートを画面に表示し、陰影聴取に関する注意喚起を行う(ステップS26)。
【0064】
なお、図5に示した手順例は、あくまで一例として挙げたものであり、これに限定されることなく状況に応じて適宜変更が可能である。
【0065】
〔陰影聴取に関する表示〕
図6は、測定中に表示部60の画面に表示される内容の具体例を示している。この表示例は、陰影聴取の疑いを報知するアラートを含んでいる。
なお、図4の表示例と共通する要素については、説明を省略する。
【0066】
上述したように、測定中には、陰影聴取の疑いの有無を判定するために、陰影聴取判定処理(図5)が実行される。ここで一例として、標準純音聴力測定の骨導測定において右耳を測定する場合に、検耳である右耳に「1000Hz」かつ「55dB」の純音を骨導受話器より提示しつつ、非検耳である左耳に「1000Hz」かつ「55dB」のマスキング音をマスキング用受話器より提示する場合の処理の流れを、図5に示される手順を追いながら説明する。
【0067】
この場合には、非検耳のマスキングレベルが「55dB」であり、気導受話器の1000Hzでの両耳間移行減衰量が「60dB」である。検査受話器には骨導受話器が選択されており、外耳道は検査受話器により覆われていないため、外耳道閉鎖効果は「0dB」として扱う。この段階で検耳の1000Hzでの骨導閾値は測定途中であり確定していないため、検耳の1000Hzでの気骨導差は「0dB」として扱う。したがって、上記の計算式1により、検耳移行マスキング音のレベルは、「55dB-60dB+(0dB-0dB)=-5dB」と算出される(ステップS20)。算出された検耳移行マスキング音のレベルは、オージオグラム上に帯MTで表示される(ステップS21)。帯MTは、検耳である右耳のシンボル及び接続線を表す赤色に合わせて、例えば半透明の赤色で表示される。
【0068】
また、検耳の検査音レベルが「55dB」であり、検査受話器である骨導受話器の1000Hzでの両耳間移行減衰量が「5dB」であり、外耳道閉鎖効果の1000Hzでの補正値が「5dB」であり、非検耳の1000Hzでの気骨導差が「10dB(=45dB-35dB)」である。ここで、外耳道閉鎖効果の補正値から非検耳の1000Hzでの気骨導差を減算した結果が5dB-10dB=-5dBと0dBより小さいことから、この減算結果を「0dB」として扱う。したがって、上記の計算式2により、非検耳移行検査音のレベルは、「55dB-5dB+(0dB)=50dB」と算出される(ステップS20)。算出された非検耳移行検査音のレベルは、オージオグラム上に帯STで表示される(ステップS21)。帯STは、非検耳である左耳のシンボル及び接続線を表す青色に合わせて、例えば半透明の青色で表示される。
【0069】
また、非検耳の1000Hzでの骨導閾値が「35dB」であり、非検耳のマスキングレベルが「55dB」であり、非検耳の気導閾値が「45dB」である。したがって、上記の計算式3により、非検耳の低下骨導閾値は、「35dB+(55dB-45dB)=45dB」と算出されてオージオグラム上にシンボルDBで表示される(ステップS22)。非検耳の低下骨導閾値を示すシンボルDBは、非検耳の骨導閾値を示すシンボルと同系色かつ同じ形状の細い線で表され、非検耳の骨導閾値を示すシンボルと直線で接続された態様で表示されている。
【0070】
図6に示されるように、この時点では非検耳移行検査音のレベルを示す帯STが非検耳の低下骨導閾値を示すシンボルDBを覆っている。この表示から、非検耳移行検査音のレベルが非検耳の低下骨導閾値を超えていることが分かる。
【0071】
非検耳移行検査音のレベル「50dB」は、現在の非検耳の低下骨導閾値「45dB」を超えるため(ステップS23:Yes)、陰影聴取の疑いありと判定され(ステップS25)、その旨を報知するアラートWHが画面に表示される(ステップS26)。図示の例においては、注意マークと「陰影聴取」との文字とでまとまりよく構成されたアラートWHがオージオグラムの左上方に表示されている。
【0072】
なお、ステップS23において、この時点では良聴耳骨導閾値が求められていないため、良聴耳骨導閾値と実行レベルの和は比較の対象外となる。また、非検耳の1000Hzの気導閾値「45dB」と実行レベル「10dB」の和「55dB」は、非検耳移行検査音のレベルを超えているため、疑いありとの判定の要因にはならない。
【0073】
このように、本実施形態においては、測定中に非検耳移行検査音のレベルが算出され、そのレベルを示す帯STがオージオメータ上に非検耳のシンボル及び接続線と同系色で表示される。このような表示により、色の共通性から、帯STのレベルが非検耳に関係することを検者が直観的に把握することができる。また、陰影聴取の疑いがあると判定されると、その旨を報知するアラートWHが画面に表示される。これにより、陰影聴取が疑われる状況であることを検者が速やかに認識することができ、マスキングレベルを上げる等の必要な対処を行うことが可能となる。
【0074】
〔疑いがある状態で閾値が確定された場合の表示〕
図7は、オーバーマスキング又は陰影聴取の疑いがある状態で閾値が確定された場合における測定結果の表示の一例を示す図である。
【0075】
例えば、左耳の骨導測定において1000Hzの測定時にオーバーマスキングの疑いがあると判定され、また、2000Hzの測定時に陰影聴取の疑いがあると判定され、いずれも閾値確定時のマスキングレベルが「70dB」である場合には、測定結果の一部として表示されるマスキングノイズの表は、図7に示されるような態様で表示される。
【0076】
このように、測定結果の表示においては、オーバーマスキングや陰影聴取の疑いがある状態で閾値が確定された場合には、マスキングノイズの表中の対応する箇所が、他の箇所(疑いのない状態で閾値が確定された場合)とは異なる態様で表示される。
【0077】
具体的には、オーバーマスキングの疑いがある状態で閾値が確定された場合には、マスキングノイズの表中の対応する箇所がその旨を示す態様で、例えば、オーバーマスキングの疑いを報知するアラートWMと同系色の横縞が背景に付された態様で表示される。また、陰影聴取の疑いがある状態で閾値が確定された場合には、マスキングノイズの表中の対応する箇所が、その旨を示す態様で、例えば、陰影聴取の疑いを報知するアラートWHと同系色の縦縞が背景に付された態様で表示される。測定結果をこのような態様で表示することにより、測定結果から閾値確定時の状態を把握することが可能となる。
【0078】
なお、上述したマスキングノイズの表中の対応箇所の表示態様は、あくまで一例として挙げたものであり、上記とは異なる態様により表示を行ってもよい。
【0079】
以上に説明したように、本実施形態の聴覚測定装置100によれば、以下の効果が得られる。
【0080】
(1)聴覚測定装置100によれば、測定の過程で検査音レベル、マスキングレベル及び気導閾値、骨導閾値、良聴耳骨導閾値が変更される度にオーバーマスキングの疑いの有無の判定がなされ、疑いありと判定されると、その旨を報知するアラートWMが画面に表示されるため、オーバーマスキングが疑われる状況であることを検者が速やかに認識することができ、これに応じてマスキングレベルを下げる等の必要な対処を行うことが可能となる。
【0081】
(2)聴覚測定装置100によれば、測定の過程で検査音レベル、マスキングレベル及び気導閾値、骨導閾値、良聴耳骨導閾値が変更される度に陰影聴取の疑いの有無の判定がなされ、疑いありと判定されると、その旨を報知するアラートWHが画面に表示されるため、陰影聴取が疑われる状況であることを検者が速やかに認識することができ、これに応じてマスキングレベルを上げる等の必要な対処を行うことが可能となる。
【0082】
(3)聴覚測定装置100によれば、測定中にアラートWM,WHが画面に表示されたことに応じて、検者がマスキングレベルを上げ下げする等の対処を行うことができるため、適切なマスキングを行って正確な測定結果を得ることができ、測定結果においても明確な状態把握が可能となる。
【0083】
(4)聴覚測定装置100によれば、検耳移行マスキング音及び非検耳移行検査音の各レベルが判定部により算出されて画面内のオージオメータ上に表示されるため、検者が従来のように手動で(頭の中で)計算を行う必要がなく、計算に伴う検者への負担を無くすことができるとともに、マスキングに関する煩雑さを軽減することができる。
【0084】
(5)聴覚測定装置100によれば、画面内のオージオメータ上に、検耳移行マスキング音のレベルを示す帯MTが検耳のシンボル及び接続線と同系色で表示されるとともに、非検耳移行検査音のレベルを示す帯STが非検耳のシンボル及び接続線と同系色で表示されるため、色の共通性から、帯MTのレベルが検耳に関係し、帯STのレベルが非検耳に関係することを検者が直観的に把握することができる。また、帯MT,STと他のシンボルとの重なり具合から、現在の状況を検者が容易に認識することができる。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することが可能である。
【0086】
上述した実施形態においては、聴覚測定装置100が専用の機器として設計され実装されているが、これに代えて、CPUやRAM、HDD、各種I/F、ディスプレイ等を備えた汎用コンピュータに実装することも可能である。
【0087】
上述した実施形態においては、オーバーマスキングの疑いの有無の判定と陰影聴取の疑いの有無の判定が個別の処理(オーバーマスキング判定処理(図3)、陰影聴取判定処理(図5))として実行されているが、両方の判定を1つの処理の中で実行するよう構成してもよい。なお、図4及び図6に示した表示例においては、オーバーマスキング又は陰影聴取のうちいずれか一方の判定において疑いありと判定されてその旨を報知するアラートが表示されているが、測定の状況によっては、両方の判定において疑いありと判定される場合もあり得る。そのような場合には、オーバーマスキング及び陰影聴取の両方の疑いがある旨のアラートが表示されることとなる。
【0088】
上述した実施形態においては、アラートWM,WHがいずれもオージオグラムの左上方に表示されているが、各アラートの表示態様や表示位置はこれに限定されない。例えば、オージオグラムの視認性や画面への入力操作等に支障を来さない場合には、オージオグラムに重なる位置にアラートを表示してもよい。また、オーバーマスキング及び陰影聴取の両方の疑いがある場合には、2つのアラートを並べて表示してもよいし、1つのアラートに統合した態様により表示してもよい。
【0089】
両耳間移行減衰量、外耳道閉鎖効果の補正値、気導閾値、骨導閾値等は、被検者個々のばらつきや測定誤差、機器の校正誤差等があることを考慮し、オーバーマスキングの疑いや陰影聴取の疑いを段階的に判定し、その段階的な判定に応じて段階的に表示を行ってもよい。例えば、オーバーマスキングの疑いや陰影聴取の疑いの判定(図3図5)に用いる指標値(検耳移行マスキング音、非検耳移行検査音の各レベル)がいずれかの比較対象値(図3中のステップS13、図5中のステップS23に列挙された各値)より10dB低いレベルに達すると、その旨を情報提供する表示を行い、指標値がいずれかの比較対象値に達すると注意喚起する表示に変わるといった、段階的な表示方法をとってもよい。
【0090】
その他、聴覚測定装置100に関する説明の過程で挙げた構成や数値等はあくまで例示であり、本発明の実施に際して適宜に変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0091】
10 測定制御部
20 音提示部
30 応答部
40 判定部
50 記憶部
60 表示部
100 聴覚測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7