(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083790
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20230609BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230609BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20230609BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20230609BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/1393
C01B32/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197688
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】河口 優祐
(72)【発明者】
【氏名】山村 英行
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD25
4G146CB09
4G146DA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
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5H050EA10
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5H050GA00
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】イオン移動抵抗が低減されることにより電池性能を向上する二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池用電極は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され、磁場配向可能な黒鉛粒子30を含む合材層20と、を有し、合材層20の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路L1、L2のうち、黒鉛粒子30の粒子間に形成された外部細孔50を通る孔路L2に対する黒鉛粒子30の内部に形成された内部細孔40を通る孔路L1の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電箔と、
前記集電箔の表面上に形成され、磁場配向可能な黒鉛粒子を含む合材層と、を有し、
前記合材層の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路のうち、前記黒鉛粒子の粒子間に形成された外部細孔を通る孔路に対する前記黒鉛粒子の内部に形成された内部細孔を通る孔路の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2である二次電池用電極。
【請求項2】
前記孔路比が、0.86~1.17である請求項1に記載の二次電池用電極。
【請求項3】
前記黒鉛粒子は、アスペクト比の平均が1.0~1.5である請求項1又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項4】
前記黒鉛粒子は、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように重なった層状構造を有し、
前記層の集合体である黒鉛切片の断面の面積を大きさとし前記断面と一定方向とのなす角度を向きとして前記黒鉛粒子に含まれる前記黒鉛切片毎に求められる成分ベクトルを合成した合成ベクトルと、前記合成ベクトルを基準とし前記成分ベクトルの先端のそれぞれとの距離を大きさとする各法線ベクトルと、を算出し、
前記合成ベクトルの大きさと各法線ベクトルの大きさとの合計に対する前記合成ベクトルの大きさの割合として算出される等方性の平均が75%以上である請求項1又は2に記載の二次電池用電極。
【請求項5】
内部に複数の内部細孔を備え、磁場配向可能な黒鉛粒子を形成する黒鉛粒子形成工程と、
前記黒鉛粒子及び溶媒を少なくとも含むペーストを集電箔の表面に塗工して塗膜を形成する塗工工程と、
前記集電箔の表面に対して略垂直方向となる磁場を前記塗膜に印加することにより前記塗膜に含まれる前記黒鉛粒子を配向させる磁場配向工程と、
配向した前記黒鉛粒子を含む前記塗膜を乾燥して前記集電箔の表面上に合材層を形成する合材層形成工程と、を有し、
前記合材層の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路のうち、前記黒鉛粒子の粒子間に形成された外部細孔を通る孔路に対する前記内部細孔を通る孔路の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2となるように設定される二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源として広く用いられている。二次電池の中でも、特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車等の車両の駆動用高出力電源として好適に用いられている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出する正極(正極板)及び負極(負極板)の電極間を、電解質中のリチウムイオンが移動することで充放電可能な二次電池である。
【0003】
このような二次電池では、更なる高出力化を図るために、内部抵抗を低減することが求められている。二次電池を構成する電極中の内部抵抗は、活物質/活物質界面や活物質/集電体界面等の電子移動抵抗、イオン移動抵抗、活物質/電解液界面の界面移動抵抗等の複数の抵抗成分から構成される。中でも、イオン移動抵抗は、電解液中のリチウムイオンの移動し易さ(イオン伝導度)の影響を受ける抵抗成分である。
【0004】
リチウムイオン二次電池等の二次電池に用いられる電極は、導電性の集電箔と、集電箔上に保持された活物質等を含む合材層と、を備えている。例えば、二次電池を構成する電極材料として、高容量且つ不可逆容量が小さく、又電気伝導性に優れていることから、天然黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛及び人造黒鉛の非晶質体等の黒鉛系材料が広く利用されている。
【0005】
特許文献1には、以下の特徴を有する密閉型非水電解質二次電池が開示されている。特許文献2に記載の密閉型非水電解質二次電池の非水電解質には、所定の電池電圧を超えた際に分解してガスを発生し得るガス発生剤が含まれ、電池ケースには、上記ガスの発生に伴って電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構が備えられている。また、この密閉型非水電解質二次電池の正極は、少なくとも正極活物質を含む正極合材層を備えている。そして、正極合材層は、導電剤として導電性のカーボン粒子と平均細孔径が0.2μm~0.5μmの膨張化黒鉛とを含むことが記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の技術では、磁場配向により、膨張化黒鉛の(002)面(層面)を正極集電体に対して立ち上がるように配向させることにより、膨張化黒鉛の(002)面同士の間に形成される細孔(内部細孔)は膨張化黒鉛内を正極集電体に対して縦方向に貫通するように配置(例えば、細孔の中心軸と正極集電体の表面とのなす角度が60°~90°となるように配置)される。
【0007】
また、特許文献2には、リチウムイオンを吸蔵・放出することが可能な黒鉛を含む非水系二次電池用炭素材が開示されている。該炭素材は、細孔径0.01μm以上1μm以下の範囲の積算細孔容積が0.08mL/g以上であり、フロー式粒子像分析より求められる円形度が0.88以上であり、下記式(1A)で表される細孔径と粒子径の比(PD/d50(%))が1.8以下であることを特徴とするものである。
PD/d50(%)=水銀圧入法により求められる細孔分布における細孔径0.01μm以上1μm以下の範囲のモード細孔径(PD)/体積基準平均粒子径(d50)×100 (1A)
【0008】
特許文献2には、高容量且つ、優れた入出力特性を備えた非水系二次電池を得ることが可能な炭素材を提供し、その結果として、高性能な非水系二次電池を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-190575号公報
【特許文献2】国際公開第2016/6617号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
炭素原子の六角網目構造が発達した高結晶性の黒鉛系材料は、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように重なった層状構造を有し、層面内方向は黒鉛結晶構造における(002)面で表される。リチウムイオン二次電池では、その層間へのリチウムイオンの挿入(吸蔵)及び層間からのリチウムイオンの脱離(放出)により充放電が行われる。高結晶性の黒鉛系材料は、典型的には、鱗片状、板状等の扁平な形状を有しているため、合材層内での配向度を高めることにより内部抵抗の低減が図られる。
【0011】
特許文献1に記載される磁場配向の技術を用いて、このような黒鉛系材料を集電箔の表面に対して垂直配向すると、電解液中のリチウムイオンは、直線的又は直線に近い経路で合材層内を移動することができる。そのため、電極におけるイオン移動抵抗が小さくなり、高い入出力特性が得られる。
【0012】
また、層状構造を有する黒鉛系材料におけるリチウムイオンの挿入・脱離は、層間が露出したエッジ面から行なわれる。したがって、磁場配向によって、エッジ面からのリチウムイオン受け入れ性が向上し、入出力特性が向上することが知られている。しかしながら、鱗片状、板状等の扁平な形状を有する黒鉛系材料では、そもそも粒子表面におけるエッジ面の占める割合が少ない。そのため、充放電時に電解液と黒鉛系材料との界面におけるリチウムイオンの移動がスムーズに行われず界面移動抵抗が上昇するという問題があった。
【0013】
一方、鱗片状黒鉛等を機械的及び物理的処理により球形化した黒鉛系材料を負極の活物質として用いた場合、高いエネルギー密度が得られるとともに、鱗片状黒鉛と比べて粒子表面に占めるエッジ面の割合が多いために界面移動抵抗が低減される等の利点がある。
【0014】
特許文献2には、内部空隙(内部細孔)同士の配向や間隔が制御された球状の炭素材について記載されているが、炭素材粒子間での相対的な内部空隙の配向を考慮していない。したがって、合材層内で内部空隙がランダムに配向すると、リチウムイオンの移動経路が複雑になり、電極におけるイオン移動抵抗が増大するとういう問題があった。
【0015】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、イオン移動抵抗が低減されることにより電池性能を向上する二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施の形態にかかる二次電池用電極は、集電箔と、集電箔の表面上に形成され、磁場配向可能な黒鉛粒子を含む合材層と、を有し、合材層の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路のうち、黒鉛粒子の粒子間に形成された外部細孔を通る孔路に対する黒鉛粒子の内部に形成された内部細孔を通る孔路の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2である。
【0017】
また、一実施の形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、内部に複数の内部細孔を備え、磁場配向可能な黒鉛粒子を形成する黒鉛粒子形成工程と、黒鉛粒子及び溶媒を少なくとも含むペーストを集電箔の表面に塗工して塗膜を形成する塗工工程と、集電箔の表面に対して略垂直方向となる磁場を塗膜に印加することにより塗膜に含まれる黒鉛粒子を配向させる磁場配向工程と、配向した黒鉛粒子を含む塗膜を乾燥して集電箔の表面上に合材層を形成する合材層形成工程と、を有し、合材層の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路のうち、黒鉛粒子の粒子間に形成された外部細孔を通る孔路に対する内部細孔を通る孔路の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2となるように設定される。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、イオン移動抵抗が低減されることにより電池性能を向上する二次電池用電極、及び二次電池用電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態1にかかる二次電池用電極を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】各実施例及び各比較例の電極を説明する表である。
【
図5】粒子の等方性を求める方法を説明する図である。
【
図7】各実施例及び各比較例における孔路比とイオン移動抵抗との関係を示すグラフである。
【
図8】各実施例及び各比較例の電極を含む評価用電池セルの直流内部抵抗を示すグラフである。
【
図9】粒子内の内部細孔がランダムに配向した球形化黒鉛粒子を含む電極について説明する図である。
【
図10】鱗片状黒鉛粒子が含まれる電極について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0021】
以下、本実施形態にかかる二次電池用電極の好適な実施形態の一つとして、リチウムイオン二次電池の負極に具体化して説明する。リチウムイオン二次電池は、電気化学反応に際し、正極(正極板)と負極(負極板)との間で電荷担体であるリチウムイオン1が電解液中を伝導することで、充放電が実現される二次電池である。このようなリチウムイオン二次電池は、例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両の駆動用電源として好適に用いられる。
【0022】
図1を参照して本実施形態にかかる二次電池用電極(負極板E1)の概略を説明する。
図1は、実施の形態1にかかる二次電池用電極を示す断面図である。
図1に示す断面図は、集電箔10の表面に直交する負極板E1の断面の一部を示している。
【0023】
図1に示すように、負極板E1は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成される合材層20と、を有する。集電箔10は、板状又は箔状に形成され、導電性の良好な金属により構成される。集電箔10を構成する金属は、例えば銅、銅合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。集電箔10は、例えば5μm~50μmの厚さを有する。
【0024】
合材層20は、幅方向の一方の縁に沿った縁部を除いて、集電箔10の少なくとも一方の表面上に形成される。また、負極板E1は、集電箔10の当該縁部に、合材層20が形成されず集電箔10が露出した露出部を有する。露出部は、負極の外部端子と電気的に接続される部分である。合材層20は、黒鉛粒子30を少なくとも含み、集電箔10に保持される。合材層20は、さらに結着剤、及び増粘剤を含んでも良く、必要に応じてその他の添加剤を含んでも良い
【0025】
黒鉛粒子30は、リチウムイオン1の吸蔵及び放出が可能な活物質として機能する。合材層20全体に占める黒鉛粒子30の割合は、高出力特性及び高エネルギー密度を実現する観点から、例えば、80質量%~99.5質量%が好ましく、特に95質量%~99.5質量%とすることが好ましい。
【0026】
結着剤としては、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(BR)等のゴム類、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等のセルロース類を用いることができる。合材層20全体に占める結着剤及び増粘剤の合計の割合は、例えば、0.5質量%~5質量%が好ましく、特に1質量%~3質量%とすることが好ましい。
【0027】
本実施形態にかかる負極板E1に含まれる黒鉛粒子30は、磁場の印加により磁化容易方向に配向され得る黒鉛系材料である。黒鉛粒子30は、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように重なった層状構造を有することが好ましい。また、黒鉛粒子30は、その短軸径に対する長軸径の比(長軸径/短軸径)であるアスペクト比の平均が1.0~1.5である略球状の粒子形態であることが好ましい。このような黒鉛粒子30は、形状異方性が抑制されているものの、磁場の印加により層面を集電箔10に対して略垂直に配向させることができる。本実施形態において、長軸径は、黒鉛粒子30の長軸方向の最も長い径の平均であり、短軸径は黒鉛粒子30の長軸方向に直交する短軸方向の最も長い径の平均である。
【0028】
また、黒鉛粒子30の1粒子あたりの平均粒径は、例えば、1μm~40μmであることが好ましく、特に5μm~12μmとすることが好ましい。黒鉛粒子30の平均粒径は、SEM(Scanning Electron Microscope)や粒度分布測定により測定することができる。
【0029】
黒鉛粒子30のBET法による比表面積は、例えば2m2/g~10m2/gが好ましく、特に3m2/g~5m2/gとすることが好ましい。
【0030】
黒鉛粒子30が上記の性状を有することにより、例えばアスペクト比が1.5以上の場合と比べて充填性が向上するため、高いエネルギー密度及び高容量化を実現し得る。また、黒鉛粒子30の表面にリチウムイオン1が挿入・脱離するエッジ面を十分に確保することができるとともに、合材層20内には適度な空隙(後述する外部細孔50)が確保されることにより電解液が過不足なく行き渡るためリチウムイオン1の移動がスムーズになる。その結果、電池の高速充放電特性及び入出力特性が向上する。
【0031】
そして、黒鉛粒子30は、内部に複数のスリット状の細孔(空隙)を備えている。以下、黒鉛粒子30の内部に形成された細孔を内部細孔40と呼ぶ。個々の黒鉛粒子30の内部では、複数の内部細孔40が積層された状態で略同一方向に延びて存在していることが好ましい。このような黒鉛粒子30は、層面及び内部細孔40の配向が揃った黒鉛の層状構造の等方性が高い粒子であるといえる。黒鉛粒子30の等方性の平均は、75%以上であることが好ましい。本実施形態における等方性の測定方法については後述する。
【0032】
さらに、内部細孔40は、その長軸方向が集電箔10の表面に対して略垂直となるように黒鉛粒子30が配向している。すなわち、集電箔10の表面と内部細孔40の長軸方向とがなす角度は、45°~90°である。黒鉛粒子30の内部に形成された細孔の全個数に対してこのような内部細孔40が75%以上の割合で存在することが好ましい。
【0033】
このように、黒鉛粒子30の粒子内及び粒子間の双方で内部細孔40が略同一方向に配向すると、合材層20内におけるリチウムイオン1の移動経路がより直線的になる。そのため、二次電池を構成した場合の負極板E1では、内部細孔40に浸透した電解液中のイオン伝導度が高くなり、イオン移動抵抗が低減される。
【0034】
また、二次電池を構成した場合の負極板E1では、合材層20内において黒鉛粒子30の外部に存在し粒子間に形成される細孔(空隙)に電解液が浸透される。以下、合材層20内において黒鉛粒子30の粒子間の細孔を外部細孔50と呼ぶ。
【0035】
本実施形態にかかる負極板E1は、内部細孔40を通る孔路L1と外部細孔50を通る孔路L2との関係性に特徴の1つを有する。合材層20の厚さ方向における一方の面から他方の面に向かって形成される孔路L1、L2は、電解液中のリチウムイオン1の移動経路となる。電解液中のリチウムイオン1は、直線的又は直線に近い経路で合材層20の一方の面から他方の面まで移動することが好ましい。そのため、孔路の曲路率が1に近づく(低下する)ほどリチウムイオン1の移動経路が直線的であって抵抗が低くなる。一方、孔路の曲路率が1から離れる(高くなる)ほどリチウムイオン1の移動経路が屈曲していて抵抗が高くなる。曲路率は、孔路の屈曲度を示すものであり、孔路長に比例するとともに合材層20の厚さに反比例する。
【0036】
本発明者らによる解析から、電極におけるイオン移動抵抗の増減は、活物質の粒子間に存在する外部細孔だけでなく、粒子内の内部細孔にも要因があることが確認されている。ここで、
図9及び
図10を参照して、イオン移動抵抗の増減の要因について説明する。
図9は、粒子内の内部細孔がランダムに配向した球形化黒鉛粒子を含む電極について説明する図である。
図10は、鱗片状黒鉛粒子が含まれる電極について説明する図である。
【0037】
図9に示す負極板E2は、合材層21に略球状の球形化黒鉛粒子31を活物質として含んでいる。例えば、原料として鱗片状黒鉛等を球形化処理することにより、原料の鱗片状黒鉛等に比べて結晶性や配向が抑制された球形化黒鉛が得られる。球形化処理には、力学的エネルギーを与えることによって球形化する方法や複数の微粒子を造粒して球形化する方法等がある。
【0038】
このような球形化黒鉛粒子31を活物質として用いれば、充填性が向上するため、高容量化が期待できるものの、電解液中のリチウムイオン1は粒子表面を回り込んで移動する必要があることから、電解液中でのリチウムイオン1の移動効率が悪化し、電極におけるイオン移動抵抗が上昇するという問題がある。
【0039】
図10に示す負極板E3は、合材層22に扁平な形状の鱗片状黒鉛粒子32を活物質として含んでいる。このような鱗片状黒鉛粒子32を用いて合材層22を形成する場合、鱗片状黒鉛粒子32を含むペーストを塗工する際や合材層22の圧密化を行なう際の応力等によって、鱗片状黒鉛粒子32の層面が集電箔10の表面に平行な方向側に配向しやすい。そのため、磁場配向の技術を用いて、鱗片状黒鉛粒子32の層面が集電箔10の表面に対して略垂直になるように配向することにより、電解液中のリチウムイオン1が鱗片状黒鉛粒子32の粒子内外で直線的又は直線に近い経路で移動することができるようになる。すなわち、鱗片状黒鉛粒子32内の内部細孔42を通る孔路の曲路率と鱗片状黒鉛粒子32間の外部細孔52を通る孔路の曲路率とが、ともに低くなる。これにより、電極におけるイオン移動抵抗が小さくなる。
【0040】
また、鱗片状黒鉛粒子32がこのように配向することよって、エッジ面からのリチウムイオン受け入れ性が向上し、入出力特性が向上することが知られている。しかしながら、鱗片状、板状等の扁平な形状を有する高結晶性の黒鉛系材料では、明確なエッジ面を持たない低結晶性の球形化黒鉛粒子31に比して単位体積あたりのエッジ面の割合が少ないため、界面移動抵抗が増大するという問題があった。その結果、
図10に示した鱗片状黒鉛粒子32を含む負極板E3を使用した二次電池では、
図9に示した球形化黒鉛粒子31を含む負極板E2を使用した二次電池に比べて内部抵抗が大きくなる傾向がある。
【0041】
ここで、磁場配向によるイオン移動抵抗の低減効果が鱗片状黒鉛粒子32等の扁平な形状の黒鉛系材料に限定される要因としては、活物質の粒子形状(例えば、平均粒径、粒子形態)だけではなく、球形化黒鉛粒子31を形成する際の球形化処理によって黒鉛の層状構造が異方性を有することが考えられる。黒鉛の層状構造の異方性が高い球形化黒鉛粒子31では、球形化黒鉛粒子31内の内部細孔41の配向がランダムになるため、内部細孔41を通る孔路が複雑化して曲路率が高くなる。その結果、電極におけるイオン移動抵抗が増大する。
【0042】
さらに、合材層21内を通過する孔路のうち、内部細孔41を通る孔路と球形化黒鉛粒子31間の外部細孔51を通る孔路との各孔路長の差が大きい(例えば、孔路比が1から離れた値となる)場合、いずれか一方の孔路に電解液中のリチウムイオン1が集中し、電解液中におけるリチウムイオン1の濃度分布が偏ることにより電解液抵抗が上昇することを見出した。
【0043】
本実施形態では、合材層20内を通過する孔路L1、L2のうち、外部細孔50を通る孔路L2に対する内部細孔40を通る孔路L1の各孔路長の比である孔路比が1に近い値である。例えば、孔路比は、0.8~1.2であることが好ましく、0.86~1.17であることがより好ましい。これにより、内部細孔40と外部細孔50とのいずれか一方へのリチウムイオン1の集中が抑制されるため電解液抵抗が低減される。内部細孔40を通る孔路L1と外部細孔50を通る孔路L2との各孔路長が等しい時、孔路比が1となり、電解液抵抗が最小となる。なお、孔路比の算出方法については後述する。
【0044】
次に、上記した負極板E1の製造方法について、
図2を参照して説明する。
図2は、実施の形態1にかかる二次電池用電極の製造方法を示すフローチャートである。
【0045】
図2に示すように、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法は、以下のステップS1~S4の工程を有する。ステップS1の黒鉛粒子形成工程では、内部に複数の内部細孔40を備え、磁場配向可能な黒鉛粒子30を形成する。ステップS2の塗工工程では、黒鉛粒子30及び溶媒を少なくとも含むペーストを集電箔10の表面に塗工して塗膜を形成する。ステップS3の磁場配向工程では、集電箔10の表面に対して略垂直方向となる磁場を塗膜に印加することにより塗膜に含まれる黒鉛粒子30を配向させる。ステップS4の合材層形成工程では、配向した黒鉛粒子30を含む塗膜を乾燥して集電箔10の表面上に合材層20を形成する。本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法では、上記工程により、合材層20の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路L1、L2のうち、黒鉛粒子30の粒子間に形成された外部細孔50を通る孔路L2に対する内部細孔40を通る孔路L1の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2となるように設定される。これらの各工程についてより詳細に説明する。
【0046】
黒鉛粒子形成工程では、原料となる黒鉛系の炭素材料(原料黒鉛)を球形化処理して、アスペクト比の平均が1.0~1.5であり、等方性の平均が75%以上である略球状の黒鉛粒子30を形成する。
【0047】
このような黒鉛粒子30としては、球形化処理を施した天然黒鉛又はその非晶質体等が挙げられ、黒鉛のみで形成される粒子又は粒子全体の50質量%以上、好ましくは80%質量%以上を黒鉛が占める粒子である。原料黒鉛としては、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように重なった層状構造を有する結晶性の高い天然黒鉛を用いることが好ましく、例えば、鱗状、鱗片状、塊状又は板状の天然黒鉛が挙げられる。特に、鱗片状黒鉛であることが好ましい。
【0048】
本実施形態では、黒鉛粒子30の等方性を制御することが可能な球形化処理として粉砕処理を適用する。そこで、
図4を参照して、等方性を制御する方法の一例を説明する。
図4は、粉砕処理の処理形態を説明する図である。
【0049】
図4に示すように、粉砕処理は、物質へ加える力の種類、処理形態により分類される。物質に加える力は、衝撃力、圧縮力、摩砕力、剪断力の4つに大別される。そして、粉砕の処理形態は、衝撃力、圧縮力、剪断力により粒子全体を破壊する体積粉砕と、摩砕力、剪断力により粒子表面を削り取っていく表面粉砕と、の2つに大別される。
【0050】
これらのうち、黒鉛粒子30の等方性を高めるためには、表面粉砕を狙う方法を選択することが好ましい。例えば、表面粉砕方式の粉砕機としてジェットミルを用いることができる。これに限らず、粉砕処理は、体積粉砕の有無に関わらず、最終的に表面粉砕の占める割合が高くなるような方法であれば良い。粉砕後は、平均粒径が所望の範囲内となるように分級処理を行なうことが好ましい。
【0051】
例えば、鱗片状黒鉛を表面粉砕して得られる略球状の黒鉛粒子30は、鱗片状黒鉛の層状構造を維持しながら形状異方性が抑制された性状を有しており、単位体積あたりのエッジ面の割合が増加している。また、このような黒鉛粒子30の内部では、スリット状の内部細孔40が積層された状態で配置されているため、内部細孔40の長軸方向が略同一方向に揃った等方性の高い黒鉛粒子30を得ることができる。このように、球形化処理の方法として、表面粉砕を狙う方法を用いると、黒鉛粒子30の高い等方性を確保することが可能である。球形化処理の方法は、黒鉛粒子30における高い等方性を確保できる方法であればよく、この方法に限定されるものではない。
【0052】
続いて、塗工工程では、まず、黒鉛粒子30、結着剤、増粘剤、及び必要に応じてその他の添加剤を含む粉体に溶媒を添加し、プラネタリミキサ等の混錬機を用いて混練することにより負極合材層形成用のペーストを調製する。
【0053】
溶媒は、用いる結着剤に応じて適宜選択されるものである。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン等の非水系溶媒、非水系溶媒を組み合わせた混合溶媒、水、水を主体とする混合溶媒等の水系溶媒を用いることができる。
【0054】
次いで、調製したペーストを集電箔10の表面に塗工することにより、集電箔10の表面上に塗膜を形成する。ペーストは、例えばダイコータ、スリットコータ、コンマコータ、グラビアコータ、ブレードコータ等の塗工方法を用いて集電箔10の表面に塗工することができる。
【0055】
続いて、磁場配向工程では、磁力線の向きが集電箔10の表面に対して略垂直方向となるように磁場発生体を集電箔10の近傍に配置する。そして、集電箔10の表面に対して略垂直方向に磁力線が発生する磁場を塗膜に印加する。磁場発生体としては、所要の磁場を発生することができるものであれば特に限定されず、例えば、永久磁石や電磁石等を用いることができる。
【0056】
磁場配向工程において、塗膜に対して作用させる磁場の磁束密度は、例えば100mT~1Tであり、典型的には300mT~500mTである。磁場の磁束密度が大きいほど、黒鉛粒子30の配向度を高めることができる。また、塗膜に対して磁場を印加する時間は、例えば1秒~30秒程度である。磁場が印加された塗膜に含まれる黒鉛粒子30は、磁化容易方向である層面が磁力線の向きに近づくように配向されるため、層面間の内部細孔40が集電箔10の表面に対して略垂直となるように配向する。
【0057】
続いて、合材層形成工程では、上記のように配向した黒鉛粒子30を含む塗膜を乾燥させて、塗膜に含まれる溶媒を除去する。塗膜の乾燥方法としては、自然、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線等による乾燥を単独または組み合わせて用いることができる。さらに、乾燥したものをロールプレス、平板プレス等のプレス方法を用いてプレスし、合材層20の密度及び厚さを調整する。これにより、集電箔10の表面上に合材層20を形成することができる。
【0058】
以上の工程により、
図1に示す負極板E1を製造することができる。本実施形態では、製造された負極板E1について、黒鉛粒子30の等方性及び合材層20内の孔路比についてそれぞれ評価を行なった。
【0059】
黒鉛粒子30の等方性の度合いは、FIB-SEM測定により得られる黒鉛粒子30の断面SEM画像に対して画像解析を行い評価した。なお、FIB-SEMとは、集束イオンビーム(FIB;Focused Ion Beam)にて試料(例えば、負極板E1)を加工し、当該試料の露出した断面をSEMにて観察することを意味する。試料を加工する方法としては、例えば、適当な樹脂で固めた試料を、所望の断面で切断し、その切断面を少しずつ削りながらSEM観察を行うとよい。
【0060】
そこで、
図5を参照して、黒鉛粒子30の等方性を求める方法について説明する。
図5は、粒子の等方性を求める方法を説明する図である。FIB-SEM測定により得られた断面SEM画像に基づいて、黒鉛粒子30を任意に60粒子選択し、選択された黒鉛粒子30の断面をそれぞれ長軸方向の向きに応じて分割した各黒鉛切片の断面毎に画像解析を行い、各黒鉛切片の断面の面積及び角度を算出した。ここで、黒鉛粒子30の断面に含まれる複数の黒鉛切片のそれぞれは、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように略同一方向に重なった集合体である。
【0061】
例えば、
図5に示す黒鉛粒子30は、1粒子の断面に14個の黒鉛切片を含んでいる。黒鉛切片の断面の角度は、一定方向と当該断面の長軸方向とのなす角度である。面積をベクトルの大きさとし、角度をベクトルの向きとして、黒鉛切片の断面毎に成分ベクトルfを求めた後、各成分ベクトルfを合成した合成ベクトルPを算出した。また、算出された合成ベクトルPを基準とし、成分ベクトルfの先端のそれぞれとの距離を大きさとする法線ベクトルnを算出した。そして、合成ベクトルPの大きさと各法線ベクトルnの大きさとの合計に対する合成ベクトルPの割合を等方性(%)として算出した。
【0062】
また、孔路比は、FIB-SEM測定により得られた断面SEM画像から3次元モデルを構築し、当該3次元モデルに対して画像解析を行なうことにより求めた。そこで、
図6を参照して、孔路比を求める方法について説明する。
図6は、孔路比を求める方法を説明する図である。なお、
図6の上側には負極板E1の3次元モデルを示している。また、
図6の下側には、当該3次元モデルにおけるA領域周辺の拡大図とB領域周辺の拡大図を示している。
【0063】
FIB-SEM測定により得られた3次元モデルのデータから、内部細孔40を通る孔路L1及び外部細孔50を通る孔路L2をそれぞれ任意に10個ずつ選択して計測した孔路長についてそれぞれ平均値を算出した。さらに、外部細孔50を通る孔路L2の孔路長に対する内部細孔40を通る孔路L1の孔路長(孔路L1の孔路長/孔路L2の孔路長)の比を孔路比として算出した。
【0064】
なお、孔路比を算出する別の方法として、電気化学的測定法を用いることもできる。電気化学的測定法を用いる場合、まず、測定用の対称セルを構築し、これを用いて交流インピーダンス測定によりイオン移動抵抗Rionを実測する。イオン移動抵抗Rionは、電極内部におけるリチウムイオンの移動に関する抵抗である。
【0065】
その後、下記式(1)によって合材層20内に形成された全ての孔路(孔路L1及び孔路L2)を合計した総孔路長を算出する。下記式(1)におけるLは総孔路長(μm)、κは電解液の導電率(S/m)、εは極板の空隙率(%)、S:極板の面積(μm2)である。
L=Rion(κεS) ・・・式(1)
【0066】
そして、3次元モデルを用いたシミュレーションにより孔路L2の孔路長を計測する。さらに、総孔路長から孔路L2の孔路長を引くことにより孔路L1の孔路長を算出する。このように、電気化学的測定法により孔路L2の孔路長及び孔路L1の孔路長を求めて孔路比(孔路L1の孔路長/孔路L2の孔路長)を算出することができる。
【0067】
孔路比は、黒鉛粒子30の等方性、集電箔10に対する黒鉛粒子30の配向度、及び合材層20の密度により制御することができる。黒鉛粒子30の等方性は、黒鉛粒子形成工程で用いる原料黒鉛の結晶性や球形化処理の方法(粉砕処理の処理形態等)により調整することができる。例えば、原料黒鉛の結晶性が高いほど、表面粉砕の割合が高いほど、等方性が高くなるため、内部細孔40を通る孔路L1の孔路長が短くなる。
【0068】
集電箔10に対する黒鉛粒子30の配向度は、磁場配向工程における磁場の印加条件(磁場の磁束密度、磁力線の向き)を変更することにより調整することができる。例えば、集電箔10の表面と内部細孔40の長軸方向とのなす角度が90°に近づくほど、内部細孔40を通る孔路L1の孔路長が短くなる。
【0069】
合材層20の密度は、合材層形成工程で行なうプレス時の圧力の増減により調整することができる。例えば、プレス時の圧力を増加させると合材層20が高密度化し、外部細孔50が潰れて曲路率が大きくなるため、外部細孔50を通る孔路L2の孔路長が長くなる。
【0070】
次に、
図3を参照して、実施例及び比較例について説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
図3は、各実施例及び各比較例の電極を説明する表である。表中の平均粒径は、レーザー回折法で測定された体積基準の平均粒径(D50)である。また、表中のアスペクト比は、FIB-SEM測定により得られた粒子の断面SEM画像を用いて測定した。
【0071】
(実施例1)
[負極板の作製]
図2に示したフローにしたがって負極板E1を作製した。黒鉛粒子形成工程では、原料黒鉛として平均粒径:14μm、アスペクト比:3.0、等方性:95%を有する鱗片状粒子(天然黒鉛)を用いて、ジェットミルにより当該鱗片状粒子を粉砕して黒鉛粒子30を形成した。得られた黒鉛粒子30は、平均粒径:7μm、アスペクト比:1.5、等方性:75%を有していた。
【0072】
塗工工程では、黒鉛粒子30と、結着剤としてのSBRと、増粘剤としてのCMCと、を98:1:1の混合比で混合し、溶媒としてイオン交換水を添加して混練することによりペーストを調製した。調製したペーストは、負極の集電箔10である銅箔の両面に塗工した。なお、負極のペーストは、目付量が4.7mg/cm2となるように塗工量を調整した。これにより、銅箔の表面上に塗膜を形成した。
【0073】
磁場配向工程では、表面上に塗膜が形成された銅箔を上下方向から挟み込むように一対の永久磁石を配置し、塗膜に磁場を印加した。磁場の磁束密度は500mTであり、磁場の印加時間は10秒であった。磁場を印加する際の磁力線の向きは、銅箔の表面に対して略垂直方向である。これにより、内部細孔40の長軸方向が銅箔の表面に対して略垂直となるように黒鉛粒子30を配向させた。
【0074】
このように磁場配向させた黒鉛粒子30を含む塗膜を熱風乾燥した後、所定の寸法に裁断し、合材層20の密度が1.12g/cm3となるようにロールプレスを行なうことにより負極板E1を作製した。このようにして得られた実施例1の負極板E1の孔路比は、0.860であった。
【0075】
(実施例2)
合材層20の密度が1.15g/cm3となるようにロールプレスを行なったことを除いて、実施例1と同様に負極板E1を製造した。このようにして得られた実施例2の負極板E1の孔路比は、0.940であった。
【0076】
(実施例3)
合材層20の密度が1.20g/cm3となるようにロールプレスを行なったことを除いて、実施例1と同様に負極板E1を製造した。このようにして得られた実施例3の負極板E1の孔路比は、1.01であった。
【0077】
(実施例4)
合材層20の密度が1.30g/cm3となるようにロールプレスを行なったことを除いて、実施例1と同様に負極板E1を製造した。このようにして得られた実施例4の負極板E1の孔路比は、1.17であった。
【0078】
(比較例1)
黒鉛粒子形成工程を省略し、実施例1で用いた黒鉛粒子30の代わりに原料黒鉛の鱗片状粒子を用いて実施例1と同様に負極板を製造した。
【0079】
(比較例2)
原料黒鉛の鱗片状粒子を用いて、体積粉砕方式の粉砕機であるボールミルにより当該鱗片状粒子を粉砕して球状粒子を形成した。得られた球状粒子は、平均粒径:7μm、アスペクト比:1.5、等方性:55%を有していた。当該球状粒子を用いて実施例1と同様の塗工工程、磁場配向工程、及び合材層形成工程を行なうことにより負極板を製造した。このようにして得られた比較例2の負極板の孔路比は、1.69であった。
【0080】
(比較例3)
磁場配向工程を省略したことを除いて実施例1と同様に負極板を製造した。このようにして得られた比較例3の負極板の孔路比は、2.11であった。
【0081】
(比較例4)
合材層の密度が1.15g/cm3となるようにロールプレスを行なったことを除いて、実施例1と同様に負極板を製造した。このようにして得られた実施例2の負極板の孔路比は、1.87であった。
【0082】
[正極板の作製]
正極板は以下の通り作製した。正極活物質には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2で表される平均組成を有するニッケルマンガンコバルト酸リチウム(NMC)を用いた。導電材には、アセチレンブラック(AB)を用いた。結着剤には、PVDFを用いた。また、溶媒には、NMPを用いた。
【0083】
正極活物質、導電材、及び結着剤の質量比が、NMC:AB:PVDF=96:3:1となるようにそれぞれ秤量し、所要量の溶媒を添加して混練することによりペーストを調製した。調製したペーストは、正極の集電箔であるアルミニウム箔の両面に塗工した。なお、正極のペーストは、目付量が5.55mg/cm2となるように塗工量を調整した。そして、塗工されたペーストを熱風乾燥した後、所定の寸法に裁断し、合材層の密度が2.6g/cm3となるようにロールプレスを行なうことにより正極板を作製した。
【0084】
[電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比が1:1:1となるように混合した混合溶媒に、1mol/Lの濃度で支持塩LiPF6を溶解して電解液を調製した。
【0085】
[評価用電池セルの構築]
負極板(実施例1~4、比較例1~4)と、正極板と、を対向させて互いの間にポリエチレン(PE)製の多孔質セパレータを介在させた電極体を電池ケースの内側に収納し、電解液を加えて密封することにより、評価用電池セルを構築した。
【0086】
[イオン移動抵抗の評価]
イオン移動抵抗の測定は、非ファラデー反応を行う対称セルの交流インピーダンス測定によって行った。その結果を
図7に示す。
図7は、各実施例及び各比較例における孔路比とイオン移動抵抗との関係を示すグラフである。
【0087】
図7に示すように、比較例1については評価を行なっていないものの、比較例2~4ではいずれもイオン移動抵抗の抵抗値が6.0mΩ以上であったのに対し、実施例1~4ではいずれもイオン移動抵抗の抵抗値が6.0mΩ以下であり、抵抗が低減されていることが確認された。
【0088】
この結果からわかるように、負極板に含まれる活物質の粒子形状が同じアスペクト比の略球状であっても、孔路比が1に近いほどイオン移動抵抗が低減されることが確認された。
【0089】
[直流内部抵抗(DCIR)の評価]
各評価用電池セルに対して直流内部抵抗(DCIR)測定を行い、直流内部抵抗を求めた。その結果を
図8に示す。
図8は、各実施例及び各比較例の電極を含む評価用電池セルの直流内部抵抗を示すグラフである。なお、DCIR測定は、-30℃の温度環境下、SOC(State Of Charge)50%から15Cの電流値で放電を行った時の、放電開始から10秒間の電圧降下量を測定し、この電圧降下量を対応する電流値で除することで抵抗値(mΩ)を算出した。
【0090】
図8に示すように、比較例1~4ではいずれも直流内部抵抗の抵抗値が1.4mΩ以上であったのに対し、実施例1~4ではいずれも直流内部抵抗の抵抗値が1.4mΩ以下であり、抵抗が低減されていることが確認された。
【0091】
この結果からわかるように、負極板に含まれる活物質の粒子形状が略球状である場合には、直流内部抵抗が低減されることが確認されたが、等方性が高くてもアスペクト比が大きい鱗片状粒子である場合には、直流内部抵抗が悪化した。また、活物質の粒子形状が略球状である場合は、等方性が高いほど、磁場配向により電極の配向性が向上して直流内部抵抗を良化することができた。さらに、孔路比は、1に近いほど直流内部抵抗の低減効果が高いことがわかった。
【0092】
以上説明したように、本実施形態にかかる二次電池用電極は、集電箔10と、集電箔10の表面上に形成され、磁場配向可能な黒鉛粒子30を含む合材層20と、を有している。また、合材層20の一方の面から他方の面に向かって形成される孔路L1、L2のうち、黒鉛粒子30の粒子間に形成された外部細孔50を通る孔路L2に対する黒鉛粒子30の内部に形成された内部細孔40を通る孔路L1の各孔路長の比である孔路比が0.8~1.2である。
【0093】
このような構成によれば、黒鉛粒子30の粒子内及び粒子間の双方で複数の内部細孔40が略同一方向に配向するため、内部細孔40を通る孔路L1がより直線的となり、電解液中のリチウムイオン1の移動がスムーズになる。その結果、電極におけるイオン移動抵抗が低減され、電池の高速充放電特性及び入出力特性が向上する。
【0094】
また、孔路比が0.86~1.17であることにより、イオン移動抵抗の低減効果がより一層高まる。
【0095】
また、黒鉛粒子30は、アスペクト比の平均が1.0~1.5であることが好ましい。これにより、粒子の単位体積あたりに占めるエッジ面の割合を増加させて、界面移動抵抗を低減することができる。さらに、アスペクト比の平均が1.0~1.5である略球形状に形成されることによって黒鉛粒子30の充填性が向上するため、合材層20を高密度化できる。その結果、高いエネルギー密度及び高容量化を実現することができる。
【0096】
また、黒鉛粒子30は、炭素原子の六角網平面が複数の層を形成するように重なった層状構造を有し、等方性の平均が75%以上である。等方性は、層の集合体である黒鉛切片の断面の面積を大きさとし断面と一定方向とのなす角度を向きとして黒鉛粒子30に含まれる黒鉛切片毎に求められる成分ベクトルfを合成した合成ベクトルPと、合成ベクトルPを基準とし成分ベクトルfの先端のそれぞれとの距離を大きさとする各法線ベクトルnと、を算出し、合成ベクトルPの大きさと各法線ベクトルnの大きさとの合計に対する合成ベクトルPの大きさの割合として算出される。
【0097】
このようにして導かれる黒鉛粒子30における層状構造の等方性が高いほど、磁場配向によって電極の配向性を向上させることができ、その結果、内部抵抗を低減することができる。
【0098】
そして、本実施形態にかかる二次電池用電極の製造方法によれば、上記の効果を奏する二次電池用電極を製造することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 リチウムイオン
10 集電箔
20、21、22 合材層
30 黒鉛粒子
31 球形化黒鉛粒子
32 鱗片状黒鉛粒子
40、41、42 内部細孔
50、51、52 外部細孔
E1、E2、E3 負極板
L1、L2 孔路