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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083792
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】層状ケイ酸塩を含む水懸濁液
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/40 20060101AFI20230609BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230609BHJP
   C09D 7/61 20180101ALN20230609BHJP
【FI】
D21H19/40
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197694
(22)【出願日】2021-12-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年6月8日 ウェブサイト「http://www.fmt.co.jp/needs/barrier.html」における公開
(71)【出願人】
【識別番号】591093140
【氏名又は名称】株式会社ファイマテック
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】片山 正人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 智直
(72)【発明者】
【氏名】内山 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健一
【テーマコード(参考)】
4J038
4L055
【Fターム(参考)】
4J038CE021
4J038HA456
4J038NA08
4L055AG06
4L055AG27
4L055AG34
4L055AG35
4L055AG37
4L055AG64
4L055AG71
4L055AH33
4L055AJ04
4L055BE08
4L055CH14
4L055EA16
4L055EA25
4L055EA32
4L055FA14
4L055GA05
4L055GA19
(57)【要約】
【課題】基紙等のシートの塗工面に、空気や水蒸気などに対する高いバリア性を付与することができる層状ケイ酸塩鉱物の水懸濁液を提供すること。
【解決手段】下記計算式(1)から算出される厚みが0.04μm以下である層状ケイ酸塩鉱物、及び
層状ケイ酸塩鉱物に対して0.25質量%以上の分散剤、
を含む水懸濁液。
厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記計算式(1)から算出される厚みが0.04μm以下である層状ケイ酸塩鉱物、及び
層状ケイ酸塩鉱物に対して0.25質量%以上の分散剤、
を含む水懸濁液。
厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))
【請求項2】
分散剤が、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の水懸濁液。
【請求項3】
分散剤が、層状ケイ酸塩鉱物に対し、0質量%を超え、0.25質量%以下のポリアクリル酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の水懸濁液。
【請求項4】
分散剤が、層状ケイ酸塩鉱物に対し、0質量%を超え、5質量%以下のヘキサメタリン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の水懸濁液。
【請求項5】
水懸濁液の固形分が40~75質量%である、請求項1~4のいずれか1項記載の水懸濁液。
【請求項6】
層状ケイ酸塩鉱物がカオリンである請求項1~5のいずれか1項記載の水懸濁液。
【請求項7】
被塗物であるシートの少なくとも片面に、下記計算式(1)から算出される厚みが0.04μm以下である層状ケイ酸塩鉱物を含む層が設けられた塗工シート。
厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の水懸濁液でシートを塗工する工程を含む、塗工シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙等のシートに適用して水蒸気等の気体に対するバリア性を付与し、食品の包装材等として利用可能にすることができる水懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体や液体に対するバリア性をシートに持たせるため、有機バインダーが単独でシートに塗工されたり、アスペクト比(長径/厚み)が大きな層状ケイ酸塩鉱物が樹脂バインダーと共にその表面に塗工されたりしている。
特許文献1にはアスペクト比が高い層状無機化合物と有機バインダーの複合体を紙に塗工することによって、油の浸透を防ぎ耐油性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-21200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アスペクト比の高い層状ケイ酸塩は長径が大きいが、大きな長径を維持しながら厚みを非常に薄くするのは困難である。そのため、アスペクト比の高い層状ケイ酸塩の厚みは、アスペクト比が高くない一般的な層状ケイ酸塩と比較しても特に薄いわけではない。アスペクト比の高い層状ケイ酸塩を紙などに塗工した場合、厚みが十分に薄くなっていないので、塗工面においてそれらが重なったときに層状ケイ酸塩がその厚みのために浮き上がったように配置され、その隙間から気体や液体が通過し、バリア性が阻害されることが分かった。
したがって、本発明は、気体や液体に対する高いバリア性を塗工面に付与することができる層状ケイ酸塩鉱物の水懸濁液を提供することを課題とする。
本発明はまた、前記水懸濁液を用いて製造される塗工シートを提供することを課題とする。
本発明はまた、前記水懸濁液を用いる塗工シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アスペクト比にこだわらず、層状ケイ酸塩鉱物の厚みを薄くし、層状ケイ酸塩鉱物を含む水懸濁液によって、層状ケイ酸塩鉱物が積層したときに大きな隙間を作らない、バリア性の高いシートが得られることを見出した。すなわち、本件出願は、以下の発明を提供する。
1.下記計算式(1)から算出される厚みが0.04μm以下である層状ケイ酸塩鉱物、及び
層状ケイ酸塩鉱物に対して0.25質量%以上の分散剤、
を含む水懸濁液。
厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))
2.分散剤が、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記1に記載の水懸濁液。
3.分散剤が、層状ケイ酸塩鉱物に対し、0質量%を超え、0.25質量%以下のポリアクリル酸ナトリウムを含む、前記1に記載の水懸濁液。
4.分散剤が、層状ケイ酸塩鉱物に対し、0質量%を超え、5質量%以下のヘキサメタリン酸ナトリウムを含む、前記1に記載の水懸濁液。
5.水懸濁液の固形分が45質量%以上である、前記1~4のいずれかに記載の水懸濁液。
6.層状ケイ酸塩鉱物がカオリンである前記1~5のいずれかに記載の水懸濁液。
7.被塗物であるシートの少なくとも片面に、下記計算式(1)から算出される厚みが0.04μm以下である層状ケイ酸塩鉱物を含む層が設けられた塗工シート。
厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))
8.前記1~6のいずれかに記載の水懸濁液でシートを塗工する工程を含む、塗工シートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長径の長さ及びアスペクト比の大きさにこだわらず、厚みを極力薄くした層状ケイ酸塩を用いて、紙等のシートへの塗工後に形成される塗膜の欠陥(例えば層状ケイ酸塩鉱物が積層したときに形成される段差や、それによる隙間)を減らし、バリア性を損なわないように塗工できる層状ケイ酸塩の懸濁液を提供することができる。本発明の塗工シートは気体や液体へのバリア性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1で得られた塗工紙の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図2】実施例2で得られた塗工紙の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実施例3で得られた塗工紙の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】比較例1で得られた塗工紙の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔層状ケイ酸塩〕
本発明において用いる層状ケイ酸塩鉱物は、式(1)により求められる厚みが0.04μm以下である。

厚み(μm)=(2×r)÷(a×r×b-4) (1)
(式中、r=レーザー回折法によるD50の値(μm)、
a=粒子真比重(g/cm3)、
b=BET比表面積(m2/g))

ここで、
D50は、メジアン径を意味し、屈折率1.56、吸収率0.01の条件下、レーザー回折式粒度分布測定装置(スペクトリス社製マスタサイザー3000)を用いて湿式で測定した値である。
粒子真比重は、地学事典(平凡社)記載の該当鉱物の値である。
BET比表面積は、比表面積・細孔分布測定装置を用い、BET3点法(N2ガス法)により測定した値である。
【0009】
従来、層状粒子の厚みはSEM観察による画像解析や目視測定によって行われてきた。この場合SEM撮影時の粒子の状態を一定させることが難しく、測定する粒子数を多くすることが出来ない。更に目視測定では客観的な評価が困難になる。そこで、安定した測定結果が得られる分析方法から算出でき、すべての粒子の影響を考慮できるよう、式(1)で厚みを示した。式(1)は1粒の層状粒子を円柱形と仮定して計算されている。円柱の底面の直径は層状粒子の長径にあたり、円柱の高さは厚みとしている。可視光線を用いているレーザー回折式粒度分布測定装置では、その特性から0.1μm以下の粒子の測定感度が著しく低く、厚みがおおむね0.1μm以下である層状ケイ酸塩は、長径の大きさに依存した測定結果が出る。式(1)では長径(r、底面の直径)をレーザー回折法によるD50の値として用いた。1gあたりの粒子の総表面積はBET比表面積(b)を用いた。底面の表裏の面積を「π×(r/2)^2×2」(μm2)とし、側面積は「π×r×厚み」(μm2)とし、それらの合計を粒子一粒あたりの表面積とした。粒子1gあたりの総体積はその粒子真比重(a)で割った「1/a×10^12」(μm3)と計算し、その値を粒子1個の体積である「π×(r/2)^2×厚み」で割った値を1gあたりの粒子個数とした。BET比表面積の単位をμm2/gに変換した「b×10^12」と、「粒子一粒あたりの表面積」×「1gあたりの粒子個数」をイコールで結び、簡単にし、厚みを示したものを式(1)とした。
【0010】
粉砕前の層状ケイ酸塩鉱物の厚みは、通常、0.08μm以上である。本発明の層状ケイ酸塩鉱物は、これを0.04μm以下まで強いエネルギーを与えて湿式粉砕することにより得ることができる。本発明の層状ケイ酸塩鉱物は、一般的なカオリンと比較して、薄く、レーザー回折法で測定されたD50が小さいため、緻密な塗工層を形成できる。本発明の層状ケイ酸塩鉱物の方が、一般的なカオリンよりも、立体感が乏しく平滑であるため、空気等の気体や液体の通り道を非常に小さくできる。このような効果は、一般的に、層状ケイ酸塩鉱物の厚みが薄くなるにつれて高くなる。0.03μm以下であるのが好ましい。取扱い性の観点からは、厚みは0.01μm以上であるのが好ましい。
本発明の層状ケイ酸塩鉱物の長径に依存するレーザー回折法で測定されたD50は特に限定されないが、大きいと、積層した場合少しの傾きで大きな空隙が出来てしまうことから、レーザー回折法で測定されたD50が15μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのがより好ましい。D50の下限は、小さすぎると水懸濁液の粘度が上がりすぎて取り扱いが困難になることから、0.1μm以上であるのが好ましく、0.12μm以上であるのがより好ましい。
【0011】
本発明において用いることのできる層状ケイ酸塩鉱物としては、カオリン、スメクタイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト等があげられる。水懸濁液での良好な流動性の観点から、カオリンが好ましい。
本発明の水懸濁液の分散媒は水であるが、本発明の効果を妨げない程度の他の分散媒、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の1価アルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等を含んでもよい。
本発明において、層状ケイ酸塩鉱物は水懸濁液の形態であり、一度水懸濁液にした後は乾燥工程を経ない。したがって、凝集して、マイクロデラミカオリンの薄さや細かさを失わない。
【0012】
〔分散剤〕
本発明の水懸濁液は分散剤を含む。これにより、従来の層状ケイ酸塩鉱物よりも遙かに薄い本発明の層状ケイ酸塩鉱物が水懸濁液中で凝集することを防ぐことができる。
本発明において用いることのできる分散剤は特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モノイソプロパノールアミン、及びポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を挙げることができる。ポリアクリル酸ナトリウムは、FDA Sec.176.170「Components of paper and paperboard in contact with aqueous and fatty foods.」に、食品に接触する包装材等に安全に用いることできる成分として掲載されていることから、本発明の塗工物を食品の包装材料として使用する場合でも安全に用いることができる。本発明で用いる分散剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0013】
〔割合〕
水懸濁液中の層状ケイ酸塩鉱物の含有量は、好ましくは38%73質量%、より好ましくは4870質量%である。層状ケイ酸塩鉱物の固形分濃度がこのような範囲にあると塗工後の乾燥コストと輸送コストに優位である。
水懸濁液中の分散剤の含有量は、層状ケイ酸塩鉱物に対して0.2~10質量%、好ましくは0.7~7質量%、より好ましくは1~5質量%である。分散剤の含有量がこのような範囲にあると水懸濁液の流動性を十分確保できる。
なお、厚みが薄く比表面積が高い層状ケイ酸塩鉱物の高濃度分散液を作成するためには、層状ケイ酸塩鉱物の凝集を防ぎ、水懸濁液の粘度を低く抑えるために、分散剤を比較的多く添加する必要がある。通常の、分散剤を含む層状ケイ酸塩は一度分散剤を使用して水懸濁液を作成し、スプレードライヤー等でそれを乾燥して製造される。しかし分散剤が乾燥した層状ケイ酸塩に含まれているにもかかわらず、使用時に水懸濁液を作成する際、再度分散剤の添加が必要になる。しかし、本発明の層状ケイ酸塩鉱物の場合、分散剤添加後は乾燥工程が無い水懸濁液ため、分散剤の添加が一度で済み、分散剤の量は多くする必要は無い。例えば、食品が直接接触する塗工シートの場合、塗膜を形成する水懸濁液が含むことができる分散剤の含有量は、当局の規制等に因り異なる。ポリアクリル酸ナトリウムの添加率は、FDA Sec.176.170の基準に適合させるには、層状ケイ酸塩の固形分に対して0.25質量%以下となる。バリア性を持たせるために薄く細かくしている層状ケイ酸塩鉱物は、本来であれば多くの分散剤が必要であるが、食品の包装材料用塗工シートを製造するための水懸濁液であっても、本発明の場合、分散剤の割合は、FDAの規定の範囲内の量で、凝集を防ぎ、スラリー粘度を低く抑えることができる。コスト面の理由から、ヘキサメタリン酸ナトリウムは、層状ケイ酸塩鉱物に対して5質量%以下であることが望ましい。ポリアクリル酸ナトリウムとヘキサメタリン酸ナトリウムの総量は、層状ケイ酸塩鉱物に対して5質量%以下であることが望ましい。
水懸濁液の濃度は、層状ケイ酸塩鉱物、分散剤、及び必要により含まれる添加剤の量により異なるが、固形分濃度で、例えば40~75質量%、好ましくは4573質量%、より好ましくは50~72質量%である。固形分濃度がこのような範囲にあると塗工後の乾燥コストと水懸濁液の輸送コストに優位である。
【0014】
〔添加剤〕
本発明の水懸濁液の用途に応じて更に添加剤を含ませても良い。例えば、本発明の水懸濁液から塗工シートを製造する場合、有機バインダーやサイズ剤、防腐剤、pH調整剤等を含ませてもよい。
有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンラテックス、アクリル系ラテックス、でんぷん等があげられる。高い空気バリア性の観点から、完全ケン化型ポリビニルアルコールが好ましい。
サイズ剤としては、酸化でんぷん、スチレン・アクリル共重合体、スチレン・メタクリル共重合等があげられる。
防腐剤としては、ブロノポールやイソチアゾリン系防腐剤等があげられる。pH調整剤としては水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
層状ケイ酸塩のシートへの固定化の観点から、有機バインダーを含むのが好ましい。
本発明の水懸濁液中の添加剤の量は、当業者であれば適宜決定することができるが、例えば、有機バインダーの場合、水懸濁液の固形分に対し、固形分:有機バインダー=1:1~10:1の質量比で含ませるのがよい。これにより、シートの上に層状ケイ酸塩鉱物を固定化できる。
【0015】
〔水懸濁液の調製〕
本発明の水懸濁液は、例えば、層状ケイ酸塩鉱物と分散剤とを水中に懸濁することにより、又は層状ケイ酸塩鉱物の水分散液と、分散剤の水懸濁液とを混合することにより、調製することができる。
【0016】
〔塗工物〕
本発明の水懸濁液は、紙に適用して、食品の包装材料等の塗工紙にすることもできるし、天然繊維又は合成繊維から構成される織物や不織布等に適用して、オムツ等のパーソナルケア製品といった漏れを防止した繊維製品にすることもできる。紙や繊維の種類は特に限定されないが、例えば塗工紙を食品の包装材料として用いる場合、上質紙、中質紙、塗工紙、クラフト紙、グラシン紙、板紙、白板紙、ライナー等を用いることができる。脱炭素社会実現に向けた社会全体の取り組みを考慮すると、紙や天然繊維製品に適用するのが推奨される。塗工紙を構成する基紙の性状は特に限定されないが、例えば、坪量が30~400g/m2のものを用いると、食品等の包装紙、容器に用いることが出来る。基紙に、乾燥後の塗工量が2~25g/m2程度になるように本発明の水懸濁液を適用すると、紙への塗工も容易でありバリア性ももたらすことが出来る。本発明の水懸濁液を紙や不織布に適用する際、ワイヤーバー、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、スプレーガン、刷毛等を使用することができる。
本発明の水懸濁液を適用した物体の用途に応じて、本発明の水懸濁液にさらに添加剤を含ませることもできる。例えば、本発明の水懸濁液をシートに適用して食品の包装材料とする場合、層状ケイ酸塩に対し、10~100質量%の有機バインダー等を含ませることができる。
本発明の水懸濁液から得られる塗工物は、水蒸気や空気等の気体や液体に対するバリア性に優れる。具体的には、JIS P8117:2009に準拠し、王研式試験機法により測定することができる透気抵抗度が、通常、5万秒以上である。
【実施例0017】
以下の例において、「%」は特に断りがない限り、「質量%」をそれぞれ表す。
<実施例1>
[塗工液の調整]
スペクトリス社製マスターサイザー3000を使用して、屈折率1.56、吸収率0.01の条件で測定されたD50が3.3μmであり、BET3点法(N2ガス法、カンタクローム社製NOVA1000)で測定された比表面積が21.8m2/gであり、計算式(1)により厚みが0.036μmと計算されたカオリン(真比重は地学事典(平凡社)記載のカオリナイトの数値である2.61g/cm3とした。)と、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムをカオリンに対して0.20%、ヘキサメタリン酸ナトリウムをカオリンに対して1.0%含んだ濃度53%の水懸濁液を用意する。その懸濁液と事前に蒸留水で10%濃度になるよう溶解したポバールPVA117(完全ケン化型ポリビニルアルコール、クラレ社製)溶液を、水を除いた固形分比(乾燥状態のカオリン+分散剤と、乾燥状態のポバールとの質量比、以下、同じ)1:1で混合し、水懸濁液の濃度が15%になるように調整した。
[紙への塗工]
坪量64g/m2の三菱製紙株式会社製のPPC用紙の片面に、乾燥後の塗工量が5g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工した。その後110℃で1分乾燥し塗工紙を得た。
[塗工紙の評価]
熊谷理機工業社製王研式平滑度・透気度試験機(デジタル型)によって、JIS P8117:2009に準拠し、透気抵抗度(王研)を測定し、空気透過性を評価した。また日立ハイテクノロジー社製電界放射型走査電子顕微鏡(SU8220)にて塗工紙の表面観察を行った。
【0018】
<実施例2>
実施例1の[塗工液の調整]で使用したカオリンの水懸濁液が、スペクトリス社製マスターサイザー3000を使用し屈折率1.56、吸収率0.01の条件で測定されたD50が0.75μmで、BET3点法(N2ガス法、カンタクローム社製NOVA1000)で測定された比表面積が33.6m2/gであり、計算式(1)により厚みが0.024μmと計算されたカオリン(真比重2.62g/cm3)で、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムをカオリンに対して0.20%、ヘキサメタリン酸ナトリウムをカオリンに対して1.8%含んだ濃度53%、であること以外は実施例1と同様に塗工紙を作成し、その評価を行った。
【0019】
<実施例3>
実施例1の[塗工液の調整]で使用したカオリンの水懸濁液が、スペクトリス社製マスターサイザー3000を使用し屈折率1.56、吸収率0.01の条件で測定されたD50が0.15μmで、BET3点法(N2ガス法、カンタクローム社製NOVA1000)で測定された比表面積が35.3m2/gであり、計算式(1)により厚みが0.030μmと計算されたカオリン(真比重は地学事典(平凡社)記載のカオリナイトの数値である2.61g/cm3とした。)で、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムをカオリンに対して0.25%、ヘキサメタリン酸ナトリウムをカオリンに対して4.5%含んだ濃度53%であること以外は実施例1と同様に塗工紙を作成し、その評価を行った。
【0020】
<比較例1>
[塗工液の調整]
実施例1の[塗工液の調整]で使用したカオリンが、マルバーン社製マスターサイザー3000を使用し屈折率1.56、吸収率0.01の条件で測定されたD50が8.2μmで、BET3点法(N2ガス法、Quantachrome製Nova1000)で測定された比表面積が12.8m2/gであり、計算式(1)により厚みが0.061μmと計算されたカオリン(真比重は地学事典(平凡社)記載のカオリナイトの数値である2.61g/cm3とした。)であるバリサーフHX(イメリスミネラルズジャパン社製)の53%濃度であること以外は、実施例1と同様に塗工紙を作成し、評価を行った。
【0021】
【表1】
【0022】
表1が示すように、カオリンの厚みが0.04μm以下である実施例1から3は、厚みが0.061μmである比較例1と比べて透気抵抗度(王研式)の値が大きく、空気の透過性が低くバリア性が高いことが分かる。SEM写真においても比較例1の図4ではカオリン粒子がその厚みのために浮き上がっているような部分が観察されたが、実施例1から3である図1から3においてはそのような部位が確認できなかった。実施例1から3のように厚みを0.04μmより薄くすることによって、塗工層の欠陥を少なくし空気等のバリア性を高めることが、実験によって明らかになった。
図1
図2
図3
図4