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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083815
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】ジルコニウム基金属ガラス合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 45/10 20060101AFI20230609BHJP
   C22C 16/00 20060101ALI20230609BHJP
   C22B 9/20 20060101ALN20230609BHJP
【FI】
C22C45/10
C22C16/00
C22B9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197738
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】521533094
【氏名又は名称】株式会社リキッドメタルジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】井上 明久
(72)【発明者】
【氏名】梶原 隆司
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA13
4K001AA18
4K001AA19
4K001AA25
4K001AA27
4K001AA31
4K001BA23
4K001FA10
(57)【要約】
【課題】高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を有するとともに、耐食性に優れるジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金を提供する。
【解決手段】下記式(I)の組成式で示されるジルコニウム基金属ガラス合金。
(Zr1yAlCoα2β(100-γ)/100Lnγ (I)
〔式(I)中、
はTi、Hf、NbおよびTaの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
はNiおよび/またはCuであり、
Lnは希土類元素の中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
x、y、z、α、βおよびγは、それぞれ原子%を表し、50≦x≦60、0≦y≦5、15≦z≦25、15≦α≦30、1≦β≦10、x+y+z+α+β=100であり、0.1≦γ≦1.5である。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の組成式で示されるジルコニウム基金属ガラス合金。
(Zr1yAlCoα2β(100-γ)/100Lnγ (I)
〔式(I)中、
はTi、Hf、NbおよびTaの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
はNiおよび/またはCuであり、
Lnは希土類元素の中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
x、y、z、α、βおよびγは、それぞれ原子%を表し、50≦x≦60、0≦y≦5、15≦z≦25、15≦α≦30、1≦β≦10、x+y+z+α+β=100であり、0.1≦γ≦1.5である。〕
【請求項2】
式(I)において、α≧3β(原子%比)である、請求項1記載のジルコニウム基金属ガラス合金。
【請求項3】
ビッカース硬さが700以上である、請求項1または2記載のジルコニウム基金属ガラス合金。
【請求項4】
圧縮強度が2000MPa以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のジルコニウム基金属ガラス合金。
【請求項5】
熱処理における結晶化開始温度(Tx)が800K以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のジルコニウム基金属ガラス合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を有するとともに、耐食性に優れるジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金に関する。
【背景技術】
【0002】
原子がランダムに配列した非晶質構造を有する非晶質合金のうち、いわゆる金属ガラス合金といわれるものは、熱処理において、結晶化開始温度(Tx)よりも低温の領域においてガラス遷移点(=ガラス遷移温度(Tg))を有する。この結晶化開始温度(Tx)とガラス遷移温度(Tg)との間の温度領域は過冷却液体領域と呼ばれ、金属ガラスが有するガラス構造の安定化に関係していると考えられている。これら組成の金属ガラス合金は、過冷却液体領域を持たない非晶質合金とは異なり、ガラス構造の形成の際に極端に大きな(=急速な)冷却速度を必要としないことから、厚みが数mm程度の金属ガラスバルク材を作製することが可能である。すなわち金属ガラスバルク材作製には、結晶化開始温度(Tx)が高い金属ガラス合金が望まれる。これらの金属ガラス合金は、優れたガラス形成能、高い反発係数、高強度、優れた鋳造性、優れた腐食特性等を有していることから、ゴルフクラブ、携帯電話のフレーム、微小機械用ギア、腕時計のケーシングなどへの応用が広がっている。
【0003】
このような金属ガラス合金として、ジルコニウム基バルク金属ガラス合金(Zr基BMG合金(ZIRCONIUM(Zr)-based Bulk Metallic Glass Alloy))が提案されている(特許文献1~4参照)。
特許文献1は、ZrNiCuAl(式中のa、b、c、dは原子%で、aは60~75原子%、bは1~30原子%、cは1~30原子%、dは5~20原子%である)で示される組成を有する高延性金属ガラス合金を開示している。そしてこの高延性金属ガラス合金は、塑性加工性に優れ、冷間プレス加工などの金属加工プロセスに適用可能な高延性金属ガラス合金であるとしている。
【0004】
特許文献2は、Zrを約70~80wt%、Beを約0.8~5wt%、Cuを約1~15wt%、Niを約1~15wt%、Alを約1~5wt%、(NbTi1-y)(原子分率y=0.1~1)を約0.5~3wt%含む組成、あるいは、Zrを約70~80wt%、Beを約0.8~5wt%、(CuNi1-x)(原子分率x=0.1~0.9)を約10~25重量%、Alを約1~5wt%、(NbTi1-y)(原子分率y=0.1~1)を約0.5~3wt%含む組成、を有するジルコニウム系合金で形成された金属ガラスを開示している。そしてこのジルコニウム系合金金属ガラスは、結晶化温度(Tx)とガラス転移温度(Tg)の間の温度差(DT=ΔTx)が70K以上、例えば120K超であり、大きなガラス形成能を有し、5mm超、例えば8mm~20mmの厚さを有するとしている。
【0005】
特許文献3は、Zr-Cu-Al-Niの四元金属ガラス合金の製造方法において、Zrを66~68質量%、Cuを24.5~26.5質量%、Alを2.6~4.6質量%、および2.9~4.9質量%のNiを主要成分金属として含み、ここにO、H、N、CおよびFeのいずれか1種以上を特定割合で不可避不純物として含有する原料を用いた金属ガラス合金の製造方法を開示している。そしてこの製造方法により、非晶質相の比率が高い非鉄系金属ガラス合金を製造することができるとしている。
【0006】
特許文献4は、原子%で、50~70%のジルコニウム(Zr)、15~30%の銅(Cu)、5~15%のアルミニウム(Al)、2~20%の鉄(Fe)、および0.01%を超え0.2%以下の窒素(N)を主要成分とするZr基金属ガラス合金を開示している。そしてこのZr基金属ガラス合金は、アモルファス相の形成能が高く、高強度、低ヤング率を有し、経済的に製造することができるとしている。
【0007】
しかし上記特許文献1~4に示すZr基ガラス金属合金は、個々には、組成加工性に優れ、冷間プレス加工などの金属加工プロセスに適用可能な高延性であったり、ガラス形成能(非晶質形成能)に優れていたり、高強度で低ヤング率を有し経済的に製造可能であったりするものの、高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を併せもち、耐食性に優れるジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金を得るということについては、これら先行技術文献には記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-215610号公報
【特許文献2】特表2016-534227号公報
【特許文献3】特開2007-204812号公報
【特許文献4】特開2010-144245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の事情に鑑みてなされたもので、高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を有するとともに、耐食性に優れるジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、下記式(I)の組成式で示されるジルコニウム基金属ガラス合金を提供する。
(Zr1yAlCoα2β(100-γ)/100Lnγ (I)
〔式(I)中、
はTi、Hf、NbおよびTaの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
はNiおよび/またはCuであり、
Lnは希土類元素の中から選ばれる1種または2種以上の元素を表し、
x、y、z、α、βおよびγは、それぞれ原子%を表し、50≦x≦60、0≦y≦5、15≦z≦25、15≦α≦30、1≦β≦10、x+y+z+α+β=100であり、0.1≦γ≦1.5である。〕
【0011】
また本発明は、上記式(I)において、α≧3βである、上記ジルコニウム基金属ガラス合金を提供する。
また本発明は、ビッカース硬さが700以上である、上記ジルコニウム基金属ガラス合金を提供する。
また本発明は、圧縮強度が2000MPa以上である、上記ジルコニウム基金属ガラス合金を提供する。
また本発明は、熱処理における結晶化開始温度(Tx)が800K以上である、上記ジルコニウム基金属ガラス合金を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を有するとともに、耐食性に優れるジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
本発明に係るジルコニウム基金属ガラス合金は、下記式(I)の組成式で表される。
(Zr1yAlCoα2β(100-γ)/100Lnγ (I)
上記式(I)中、MはTi、Hf、NbおよびTaの中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。これらは周期表の遷移元素に含まれる。
はNi、Cuの中から選ばれる1種または2種の元素を表す。
Lnは希土類金属の中から選ばれる1種または2種以上の元素を表す。具体的には、周期表の第3族中のSc、Y、およびランタノイド金属である。ランタノイド金属はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの15種の元素を含む。
x、y、z、α、βおよびγは、それぞれ原子%を表し、50≦x≦60、0≦y≦5、15≦z≦25、15≦α≦30、1≦β≦10、x+y+z+α+β=100であり、0.1≦γ≦1.5である。
本発明ではさらに、α≧3β、すなわちCo配合量が(Ni、Cu)配合量の3倍以上(原子%比)であるのが好ましい。
【0014】
本発明では特に、Al、Coをともに高濃度で含有する合金である点に特徴がある。今回、これまであまり顧みられていなかったAl濃度を高め、且つZrやAl原子との結合性が高いCo元素に着目して、その濃度も同時に高めるとともに、Niを極めて低配合とし、かつ良好な大量生産鋳造成形性をも損なわないことを達成するために微量の希土類元素を添加するという、これまでにないバルク金属ガラス合金の開発指針の下で、圧縮破壊強度が2000MPa以上で、且つビッカース硬さが680以上の高強度・高硬度、1.7%以上の高弾性ひずみ、600MPa以上の高疲労強度、800K以上の高結晶化開始温度をもち、さらに厚さ1mm以上の各種の刃物類、複雑形状カップリングなどの機械構造部材、ボルトやナットなどの接合用具材形状、圧力センサー、生体材料などへの液体からの直接大量生産を可能とする優れたガラス形成能と精密鋳造加工性をもつ新しいZr基バルク金属ガラス合金群を開発した。
【0015】
すなわち、Al、Coをともに高濃度で含有することにより、高硬度、高圧縮破壊強度、高耐摩耗性、高疲労耐久性、高耐食性、高結晶化開始温度を得ることができた。Alを高濃度で含有することにより本発明のZr基バルク金属ガラス合金は低比重であるという利点もある。
また、希土類金属(Ln)の配合量が低いことにより、合金中への酸素固溶が抑えられ、これにより大量生産が可能な高鋳造性と延性が得られる。また、少量のM(特にはTiおよび/またはNb)の添加は、合金の融点を低下させて溶解・鋳造性を容易にするとともに、強度、硬度、高耐摩耗性、耐食性、耐熱性のさらなる向上に効果的である。さらに、Ni配合量が極少量の組成合金は、人体への耐アレルギー性に優れ、医療用刃物や器具、生体材料に適する。
【0016】
従来汎用されているZr基バルク金属ガラスの代表的な一例を挙げると、例えば、5~15原子%量程度のAl、NiとCuの総和量を20~45原子%、残量がZrあるいはZrの一部をTi、Nb、Taで2~8原子%置換した多成分組成で構成されており、得られたバルク金属ガラスの特性としては、破壊強度が1500~1700MPa、ビッカース硬さが450~580、疲労強度が350~560MPa、結晶化開始温度が700K前後であった。このため、刃物材(包丁、ハサミ、医療用メス、カミソリ、爪切り、毛抜きなどを含む)、機械駆動部材(カップリングなど)および接合用締め付け具材(ボルト、ナット、ワッシャなど)、生体材料が必要とするビッカース硬さが680以上の高硬度、圧縮破壊強度が2000MPa以上の高強度、10回繰り返し後の疲労耐久限度が600MPa以上、結晶化開始温度が800K以上、さらに1mm厚さ以上の刃物類、複雑形状カップリング類、ボルト、ナット、ワッシャなどの締め付け具材、圧力センサーなどの最終形状材への溶湯からの直接大量生産加工成形を可能とする精密鋳造性などの諸特性を同時に満たしたZr基バルクガラス金属ガラスについては今日まで報告されておらず、Zr基バルク金属ガラスの特徴である高延性、高耐食、光沢性を保持するとともに、より高い硬度、破壊強度、耐摩耗性、疲労強度および熱的安定性とネット鋳造加工性を有したZr基バルク金属ガラスの開発が長年切望されていた。また、人体と直に触れる医療用メス、ハサミ、カミソリなどへの応用においては、上記の諸特性の他に、合金成分にNiを含まないことも一般に求められていた。本発明により、これら従来から望まれていたジルコニウム基金属ガラス合金が得られた。
【0017】
なお本発明に係るジルコニウム基金属ガラス合金は、上記必須構成成分の他に、本発明効果を損なわない範囲で、少量(例えば1原子%以下)の他の遷移金属(V、Cr)や貴金属(Ag、Pd、Pt、Au等)を含有してもよい。
【0018】
本発明に係るジルコニウム基金属ガラス合金は、従来から用いられている方法により作製することができる。
例えば、本発明のZr基金属ガラス合金を製造する際には、各成分金属の小塊あるいは粉末を溶解して、各成分金属の母合金の溶融物を作製後、この母合金の溶融物を、過冷却液体状態を保ったまま冷却し固化する必要がある。金属ガラス合金を冷却して製造する方法としては、銅鋳型差圧鋳造法、射出鋳造法、鍛造鋳造法、締め付け鋳造法、傾角鋳造法、または鋳造鋳型溶液噴出法などがある。
【0019】
したがって、本発明のZr基金属ガラス合金は、アーク溶解法等により、上述した含有量の各成分金属から母合金を作製後、主として銅鋳型差圧鋳造法、銅鋳型射出鋳造法、銅鋳型締め付け鋳造法、銅鋳型傾角鋳造法、銅鋳型鍛造鋳造法、又は鋳造鋳型溶液噴出法などにより、直径2~5mmの円柱状棒材、若しくは厚さ2~4mmの板材として、作製することができる。
アーク溶解においては、電流を一定の値にして溶解するのではなく、出力をコントロールしながら、例えば、当初30%~40%(電流100A~200A)からスタートし、徐々に電流電圧を上昇させる。溶解中の最大電流出力60~75%(電流300A~400A程度)の間で調整し、溶解終了時は40%~60%(200A~300A)となるように行うこと、及び被溶解物と電極先端の距離が変化すること等により、電圧、および電流がともに変化する。したがって、初期状態から溶解終了までの電圧、および電流の変動は、例えば、20gの試料溶解の際は、電圧20V~40V、電流100A~400Aとなる。
【0020】
すなわち、アーク溶解による母合金作製では、一回の各成分金属の総和量を所定量、例えば20gとして、減圧アルゴンガス雰囲気下で、電圧20V~40V、電流100A~400Aの条件下でのアーク溶解を少なくとも4回以上繰り返して母合金を作製する。
銅鋳型差圧鋳造法においては、特開平08-109419号公報に記載されているように、水冷鋳型上に金属材料を充填し、この金属材料を急激に溶融可能な上記アーク溶解を用いて金属材料を溶解後、得られた溶融金属を、ガスの差圧、あるいは重力を利用して鋳型下部より下方に設けられた縦型の水冷鋳型に瞬時に鋳込み、金属溶湯の移動速度を速くし、大きな冷却速度を得て、大型の金属ガラスを製造する。
【0021】
また、銅鋳型締め付け鋳造法においては、特開平11-254196号公報に記載されているように、ハース上に金属材料を充填し、この金属材料を溶融可能な高エネルギ熱源を用いて金属材料を溶解後、得られた融点以上の溶融金属を、冷却界面どうしを重ね合わせることなく押圧して、融点以上の溶融金属に圧縮応力および剪断応力の少なくとも一方を与えて所望の形状に変形し、変形後もしくは変形と同時に溶融金属を臨界冷却速度以上で冷却して、所望の形状のバルク状の金属ガラスを製造する。
また、銅鋳型傾角鋳造法においては、特開2009-068101号公報に記載されているように、上面が開放された溶解炉にて合金材料を溶解し、成型用のキャビティーを有する強制冷却金型内に、合金材料の溶湯を再溶解させながら傾動させて注入する傾角鋳造を行うと同時に、強制冷却金型のキャビティー内湯面の上面をほぼ覆う大きさの冷却促進を兼ねた上パンチにて、加圧冷却して、金属ガラスを製造する。
【0022】
また、鋳造鋳型溶液噴出法においては、丸(φ1mm~φ4mm)、又は角等の任意の形状を有する二つ割の鋳造用銅鋳型の注入口中央部に、圧縮ガスによる圧力(0.01~0.03MPa)を利用して高周波電源等に接続された高周波コイル等を用いて石英管、又は石英るつぼ中で溶融した母合金試料を噴射する。溶融した母合金試料は、高速で銅鋳型に移動し急冷されて固化し、即ち鋳造されて、非晶質構造となる。
こうして作製された本発明のZr基金属ガラス合金のガラス合金構造は、X線回折、光学顕微鏡観察、又は透過電子顕微鏡観察等により確認することができる。
以上、本発明のZr基金属ガラス合金について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例0023】
次に実施例によりさらに本発明を詳述するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。
(実施例1-13、比較例1-8)
下記表1に示す含有量の各成分金属の粉末を、当初20%から、溶解終了時45%となるよう出力(電圧値、および電流値)をコントロールしながらアーク溶解で溶解し、母合金の溶融物を作成後、銅鋳型吸引鋳造法により、上述したように、過冷却液体状を保ったまま冷却固化して、試料径2mm(最大径3mm以上)の円柱状棒材のZr基金属ガラス合金の試料を製作した。
【0024】
こうして作製したこれらの各試料(合金)を用いて、合金構造を検査し、硬度(ビッカース硬度)、圧縮強度、疲労強度、結晶化温度、腐食減量比の各項目について測定し、評価した。結果を表1に示す。
[硬度(ビッカース硬度)]
各試料を荷重100gで30秒間保持して測定した(測定5回の平均値)。
【0025】
[圧縮強度]
一軸圧縮応力下で、直径2mm、高さ4mm、あるいは、直径1.5mm、高さ3mmの試験片を用いて、常温で4.2×10-4-1の条件で測定した。
[疲労強度]
1.5mmあるいは2mm厚さの板状試験片を用いて、常温で、引っ張り/引っ張りの応力条件で、繰り返し速度30ヘルツの条件下で、100万回繰り返した後の破壊応力で示した。
【0026】
[結晶化開始温度]
示差走査熱量計を用いて、40K/minの昇温側での発熱開始温度を測定した。
[腐食減量比]
試料を、3.5質量%濃度の食塩水中に293Kで72時間保持し、腐食試験を行った。試験前試料の重さに対する試験後の試料の重さの比率(%)を算出した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、実施例1~13の試料は、いずれも、高い硬度(ビッカース硬度)、高い圧縮強度が得られたことが確認された。また疲労強度(実施例1、3、5、7、9についてのみ試験を行った)も約700(MPa、×10)以上という高い強度が得られた。結晶化温度もいずれの試料も約830K以上という高温であった。腐食減量比もほぼゼロであった。
これに対し、比較例1~8の試料は、硬度(ビッカース硬度)、圧縮強度、疲労強度のいずれも、実施例試料に比べ低い値であった。結晶化温度も実施例試料に比べ低かった。腐食減量比は、比較例3~5、7~8の試料ではほぼゼロであったが、比較例1、2、6の試料では約0.01質量%減であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のジルコニウム(Zr)基金属ガラス合金は、高硬度、高圧縮強度、高疲労強度、高結晶化開始温度を有するとともに、耐食性に優れるという効果を奏することから厚さ1mm程度以上の刃物材(包丁、ハサミ、医療用メス、カミソリ、爪切り、毛抜きなどを含む)、機械駆動部材(カップリングなど)および接合用締め付け具材(ボルト、ナット、ワッシャなど)、生体材料等に好適に適用され得る。