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特開2023-83852バナジウム化合物の製造方法及び製造装置並びにレドックス・フロー電池用電解液の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083852
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】バナジウム化合物の製造方法及び製造装置並びにレドックス・フロー電池用電解液の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20230609BHJP
   C22B 34/22 20060101ALI20230609BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20230609BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20230609BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20230609BHJP
   C01G 31/02 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C01G31/00
C22B34/22
C22B3/12
C22B7/02 B
C22B3/22
C01G31/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197799
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514132268
【氏名又は名称】日本管機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 毅
(72)【発明者】
【氏名】赤木 大地
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄太
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA02
4G048AA04
4G048AB02
4G048AD03
4G048AE02
4G048AE05
4K001AA28
4K001CA08
4K001DB08
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】電池性能の低下要因となる微量成分の混入が極めて少ない、高純度バナジウム化合物の製造方法の提供。
【解決手段】このバナジウム化合物の製造方法は、バナジウム含む原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加してアルカリ浸出液を得るアルカリ抽出工程(ステップ12)と、アルカリ浸出液から不溶物を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る固液分離工程(ステップ13)と、浸出ろ液を蒸発濃縮して濃縮液を得る蒸発濃縮工程(ステップ14)と、濃縮液を冷却して晶析し、バナジウム化合物を含む析出物を回収する晶析・固液分離工程(ステップ15)と、を含む。アルカリ浸出液のpHは、9を超えて13未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムを含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出工程と、
前記アルカリ浸出液から不溶物を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、固液分離工程と、
前記浸出ろ液を蒸発濃縮して濃縮液を得る、蒸発濃縮工程と、
前記濃縮液を、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となる温度に冷却して晶析し、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、晶析・固液分離工程と、を含み、
前記アルカリ浸出液のpHが9を超えて13未満である、バナジウム化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ浸出液のpHが10以上12以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記晶析・固液分離工程後に、前記固形分を前記アルカリ溶液で洗浄するアルカリ洗浄工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ洗浄工程で用いるアルカリ溶液のアルカリ濃度が10質量%以上30質量%以下である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ洗浄工程において、前記固形分に含まれる水と、少なくとも同量のアルカリ溶液を用いて前記固形分を洗浄する、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記晶析・固液分離工程前に、前記濃縮液に前記アルカリ又はアルカリ溶液を添加するアルカリ濃度調整工程をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記晶析・固液分離工程後に、前記晶析・固液分離工程で前記固形分から分離された晶析ろ液を前記アルカリ抽出工程で再利用するリサイクル工程をさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ抽出工程前に、前記原料灰を洗浄する原料灰洗浄工程をさらに含む、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ抽出工程前に、前記原料灰を酸化する原料灰酸化工程をさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記固液分離工程後に、前記不溶物を洗浄してバナジウムを含む洗浄液を回収し、前記洗浄液を前記浸出ろ液とともに前記蒸発濃縮工程に移行させる不溶物洗浄工程をさらに含む、請求項1から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記アルカリが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である、請求項1から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の製造方法で得られるバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する電解液製造工程を含む、レドックス・フロー電池用電解液の製造方法。
【請求項13】
バナジウムを含有する原料灰に、pHが9を超えて13未満となるようにアルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出機と、
前記アルカリ浸出液から不溶物を固液分離してバナジウムを含む浸出ろ液を得る、固液分離機と、
前記浸出ろ液を蒸発濃縮して濃縮液を得る、蒸発濃縮機と、
前記濃縮液を、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となる温度に冷却して晶析して、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、晶析機及び固液分離機と、を備えている、バナジウム化合物の製造装置。
【請求項14】
請求項13に記載の製造装置で得られるバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する、レドックス・フロー電池用電解液の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジウム化合物の製造方法及び製造装置に関する。詳細には、本発明は、燃焼灰などからバナジウム化合物を分離するための製造方法及び製造装置に関する。他の観点から、本発明は、バナジウム化合物を用いてレドックス・フロー電池用電解液を得るための製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジウムは、大型蓄電池であるレドックス・フロー電池の主要構成物である電解液の原料として使用されている。バナジウムを含むレドックス・フロー電池(バナジウム・レドックス・フロー電池)では、電解液の構成物として、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)などの夾雑金属化合物を含まない安価な高純度バナジウムが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、燃焼灰を原料として、鉄等の夾雑金属化合物の少ないバナジウム化合物を回収する技術が提案されている。この方法では、焼却灰をアルカリ性溶液に浸漬し、焼却灰からバナジウムをアルカリ性溶液中に浸出させて浸出液スラリーを得るアルカリ浸出工程と、アルカリ浸出工程で得られた浸出液スラリーを固液分離し、不溶物を除去して浸出液を得る固液分離工程と、固液分離後の浸出液に酸を添加し酸性にするpH調整工程と、pH調整後の浸出液に析出物が析出するまで熟成する熟成工程と、熟成工程後の浸出液から析出物を分離する分離工程と、を有する。
【0004】
特許文献2には、集塵機灰を水で洗浄しながらpH調整を行った後、洗浄残渣と洗浄廃水とに固液分離する第1工程と、洗浄残渣にアルカリ溶液を添加して加熱した後、第1ろ液と第1ろ過残渣とに固液分離する第2工程と、第1ろ液中からバナジン酸アルカリを析出させた後、第2ろ液と第2ろ過残渣とに固液分離する第3工程と、第2ろ過残渣を酸で中和するとともに洗浄廃水を混合して、生成した五酸化バナジウムを含む第3ろ過残渣を固液分離により取り出す第4工程と、第3ろ過残渣をか焼還元して四酸化二バナジウムを生成する第5工程と、四酸化二バナジウムを硫酸に溶解して硫酸バナジル電解液を製造する第6工程と、を有するレドックス・フロー電池用電解液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2017/208471号
【特許文献2】特開2019-46723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原料に用いられる燃焼灰は、原油など重質油を常圧蒸留した常圧蒸留残渣油や減圧蒸留して得られる減圧蒸留残渣油、オイルコークス、オイルサンドなどを燃焼したものであり、バナジウム以外に、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の元素を多く含んでいる。特許文献1で提案された方法によれば、鉄元素の含有量の少ないバナジウム化合物を得ることができるとされている。しかし、特許文献1の方法では、多くのアルカリを含む浸出液のpH調整のため、多くの酸性化薬剤が必要であり、薬剤コスト増加の要因となっている。さらには、熟成工程後に析出物を分離した浸出液中に残存するバナジウムを回収するために、これをアルカリ浸出工程にリサイクルすることが好ましいが、浸出液が酸性に調整されているため、再度アルカリ溶液の投入が必要となり、多大なコストや手間がかかるという問題があった。
【0007】
特許文献2で提案された方法によれば、第1工程で懸濁液のpHを6~8に調整することで、鉄、ニッケルなどの金属夾雑物の溶解を防止できるとされている。しかし、特許文献2では、バナジウムを含む洗浄残渣からバナジウムを抽出するために、アルカリ溶液添加後に加熱処理が行われており、エネルギー的な負担が生じている。また、第3工程で得られる第2ろ液を回収して、第2工程のアルカリ溶液として再利用することにより、薬剤コストを低減する工夫がなされているが、バナジウム源である燃焼灰に硫酸イオンが多く含まれている場合、結果的に、得られる第2ろ過残渣中の硫酸アルカリ塩が増加して、製品純度低下の要因となっている。
【0008】
また、燃焼灰を原料として得られるバナジウム化合物がたとえ高純度であったとしても、これをレドックス・フロー電池用電解液に用いたときに、必ずしも所望の電池性能が得られないという問題がある。本発明者らの知見によれば、燃焼灰には、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)の他にも多種の元素が含まれており、燃焼灰からバナジウム化合物に混入する極微量の元素が、電池性能低下の要因であると考えられる。これら微量成分の混入を回避しつつ、バナジウムを高収率で、効率よく回収する方法は、未だ提案されていない。
【0009】
本発明の目的は、電池性能の低下要因となる微量成分の混入が極めて少なく、かつ、高純度バナジウム化合物を効率よく製造する方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、原料灰からバナジウム化合物に混入しうる微量成分のうち、特に、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)が、電池性能に及ぼす影響が大きいことを見出した。そして、オルトバナジン(V)酸ナトリウム等のバナジウム化合物の溶解度と、硫酸ナトリウム等の硫酸アルカリの溶解度とが、温度及びアルカリ濃度の条件によって異なることに着目し、さらには硫酸アルカリが溶解し、かつオルトバナジン(V)酸アルカリが析出する最適な温度及びアルカリ濃度の条件を見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明に係るバナジウム化合物の製造方法は、
(1)バナジウムを含有する原料灰に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、前記バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出工程、
(2)アルカリ浸出液から不溶物を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る、固液分離工程、
(3)浸出ろ液を蒸発濃縮して濃縮液を得る、蒸発濃縮工程
及び
(4)濃縮液を、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となる温度に冷却して晶析し、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、晶析・固液分離工程
を含む。この製造方法では、アルカリ浸出液のpHは9を超えて13未満である。好ましくは、アルカリ浸出液のpHは10以上12以下である。
【0012】
好ましくは、この製造方法は、晶析・固液分離工程後に、固形分をアルカリ溶液で洗浄するアルカリ洗浄工程をさらに含む。
【0013】
好ましくは、このアルカリ洗浄工程で用いるアルカリ溶液のアルカリ濃度は、10質量%以上30質量%以下である。好ましくは、このアルカリ洗浄工程において、固形分に含まれる水と、少なくとも同量のアルカリ溶液を用いてこの固形分を洗浄する。
【0014】
好ましくは、この製造方法は、晶析・固液分離工程前に、濃縮液にアルカリ又はアルカリ溶液を添加するアルカリ濃度調整工程をさらに含む。
【0015】
好ましくは、この製造方法は、晶析・固液分離工程後に、この晶析・固液分離工程で固形分から分離された晶析ろ液をアルカリ抽出工程で再利用するリサイクル工程をさらに含む。
【0016】
好ましくは、この製造方法は、アルカリ抽出工程前に、原料灰を洗浄する原料灰洗浄工程をさらに含む。
【0017】
好ましくは、この製造方法は、アルカリ抽出工程前に、原料灰を酸化する原料灰酸化工程をさらに含む。
【0018】
好ましくは、この製造方法は、固液分離工程後に、不溶物を洗浄してバナジウムを含む洗浄液を回収し、この洗浄液を浸出ろ液とともに蒸発濃縮工程に移行させる不溶物洗浄工程をさらに含む。
【0019】
好ましいアルカリは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物である。
【0020】
本発明に係るレドックス・フロー電池用電解液の製造方法は、前述したいずれかの製造方法で得られるバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する電解液製造工程を含む。
【0021】
他の観点から、本発明に係るバナジウム化合物の製造装置は、バナジウムを含有する原料灰に、pHが9を超えて13未満となるようにアルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、バナジウムを液相に浸出させ、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る、アルカリ抽出機と、アルカリ浸出液から不溶物を固液分離してバナジウムを含む浸出ろ液を得る、固液分離機と、浸出ろ液を蒸発濃縮して濃縮液を得る、蒸発濃縮機と、濃縮液を、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となる温度に冷却して晶析して、バナジウム化合物を含む析出物を固形分として回収する、晶析機及び固液分離機と、を備えている。
【0022】
本発明に係るレドックス・フロー電池用電解液の製造装置は、前述した製造装置で得られるバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る製造方法では、アルカリ抽出工程において、アルカリ浸出液のpHが9を超え13未満となる範囲に調整することにより、原料灰からのバナジウム以外の元素の溶出を抑制する一方で、バナジウムを選択的に高収率で抽出することができる。特に、このpH領域では、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムの溶出が、極微量にまで低減される。さらに、この製造方法では、このアルカリ浸出液を固液分離して得た浸出ろ液を蒸発濃縮して、後の晶析・固液分離工程における冷却温度で、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となるように調整することにより、硫酸アルカリを選択的に除去して、高純度のバナジウム化合物を回収することができる。
【0024】
このように、本発明に係る製造方法によれば、電池性能に影響を及ぼす微量成分の混入が極めて少なく、かつ高純度のバナジウム化合物を効率的に得ることができる。さらに、このバナジウム化合物を原料とすることにより、電池性能劣化の要因である微量成分の混入が極めて少ないレドックス・フロー電池用電解液を効率よく製造することができる。
【0025】
また、本発明に係る製造装置では、アルカリ抽出機により、アルカリ浸出液のpHが9を超えて13未満となるように、原料灰にアルカリ及び水又はアルカリ溶液を添加することにより、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムの混入が低減され、かつ、バナジウムが高収率で抽出されたアルカリ浸出液を得ることができる。このアルカリ浸出液を固液分離して得た浸出ろ液を、蒸発濃縮機で蒸発濃縮し、所定の冷却温度で、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となるように調整した後、晶析機及び固液分離機に供することにより硫酸アルカリを選択的に除去して、高純度のバナジウム化合物を回収することができる。
【0026】
このように、本発明に係る製造装置によれば、電池性能に影響を及ぼす微量成分の混入が極めて少なく、かつ高純度のバナジウム化合物を効率的に得ることができる。さらに、このバナジウム化合物を原料とすることにより、電池性能劣化の要因である微量成分の混入が極めて少ないレドックス・フロー電池用電解液を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(a)は、本発明の一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法が示されたフローチャートであり、図1(b)は、図1(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。
図2図2は、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムの液中濃度のpHによる変化を示すグラフである。
図3図3は、異なるアルカリ濃度におけるオルトバナジン酸ナトリウム及び硫酸ナトリウムの飽和濃度を示すグラフである。
図4図4(a)は、異なる温度とアルカリ濃度におけるオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の溶解度曲線を示すグラフであり、図4(b)は、硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の溶解度曲線を示すグラフである。
図5図5(a)は、アルカリ濃度調整工程を実施する場合の、異なる温度とアルカリ濃度におけるオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の溶解度曲線を示すグラフであり、図5(b)は、アルカリ濃度調整工程を実施する場合の、硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の溶解度曲線を示すグラフである。
図6図6(a)は、本発明の他の実施形態に係る製造方法が示されたフローチャートであり、図6(b)は、図6(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。
図7図7(a)は、本発明のさらに他の実施形態に係る製造方法が示されたフローチャートであり、図7(b)は、図7(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。本発明は、その要旨を変更しない範囲で、適宜変更して実施することが可能である。なお、本願明細書において特に言及しない限り、「X~Y」は「X以上Y以下」を意味し、「%」は「質量%」を意味し、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係るバナジウム化合物の製造方法を示しており、(a)はバナジウム化合物の製造方法の工程を示すフローチャート、(b)は(a)の各工程における成分の推移を示す模式図である。図1(b)中、「バナ」は「バナジウム」を意味し、「バナ塩」は「オルトバナジン酸塩(VO塩)」を意味する。「硫安」は、硫酸アンモニウム((NHSO)及び/又は硫酸水素アンモニウム(NHHSO)からなり、硫安分とも称される。「他の元素」は、バナジウム以外の元素を意味する。
【0030】
本発明のバナジウム化合物の製造方法は、バナジウム及び/又はバナジウム化合物を含有する原料灰から、高純度バナジウム化合物を回収するための方法であり、特に、レドックス・フロー電池用電解液に使用した際に電池性能に影響しうる元素の混入が極めて少ないバナジウム化合物を得るための方法である。ここで、「極めて少ない」とは、各元素のバナジウムに対する質量比が0.01以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.002以下、特に好ましくは0.001以下であることを意味する。
【0031】
この製造方法に用いられる原料灰としては、例えば、重質油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油などの燃焼灰、焼却ボイラー灰、部分酸化灰、石油コークス灰、オイルサンドの残渣灰などを挙げることができる。図1(a)に示される通り、この実施形態では、原料灰として燃焼灰が準備される(ステップ10)。続いて、アルカリ抽出工程(ステップ12)、固液分離工程(ステップ13)、蒸発濃縮工程(ステップ14)及び晶析・固液分離工程(ステップ15)が、順次、実施されて、バナジウム化合物が回収される。図示されないが、回収されたバナジウム化合物は、後述するレドックス・フロー電池用電解液の製造方法に、原料として供される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0032】
(準備工程:ステップ10)
前述した通り、この準備工程では、燃焼灰が準備される(ステップ10)。燃焼灰をそのまま原料灰として使用してもよいし、水などの溶媒に溶解してスラリー状にしたものを原料灰として使用してもよい。
【0033】
本発明に係る製造方法において、原料灰はバナジウムを含んでいる。図1(b)(ステップ10)に示される通り、この実施形態における原料灰(燃焼灰)に含まれる成分は、炭素、硫安、硫酸、バナジウム及び他の元素である。
【0034】
原料灰に含まれるバナジウムは、3価、4価、5価の様々な価数の化合物の形態をとっている。具体的にはNH(OH)(SO、VOSO・5HO、V等である。一般に、原料灰に含まれるバナジウムは、0.1~30質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。
【0035】
図示される通り、原料灰には、バナジウム以外の他の元素(夾雑物)が含まれている。このような夾雑物の例として、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、モリブデン、クロム、チタン、銅、亜鉛、パラジウム、白金、リン、硫黄等が挙げられる。一般にこれらの金属夾雑物は、酸化物、硫化物等として含まれることが多い。一般に、原料灰に含まれるこれらの金属夾雑物は、元素の種類にもよるが、0.1~20質量%程度であり、より一般的には1~10質量%程度である。
【0036】
原料灰中の硫安分の量は、通常、質量比で0~60%程度である。原料灰の種類によっては20~60%程度、より一般的には30~50%程度の硫安分を含む。硫安分を多く含む廃棄物としては、石油系燃焼灰などを挙げることができる。また、原料灰中の硫酸の量は、0~20質量%(wt%)程度であり、より一般的には5~10質量%程度である。本発明にかかる製造方法は、硫安分又は硫酸を含まない原料灰についても適用されうる。
【0037】
原料灰には、炭素分として、未燃焼カーボンを主成分とする非水溶性固形物(SS分)が含まれる。原料灰に含まれる炭素分は、乾物当たり5~90質量%程度であり、より一般的には30~70質量%程度である。
【0038】
(アルカリ抽出工程:ステップ12)
アルカリ抽出工程では、原料灰(原料灰そのもの又は原料灰スラリー)に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加して、液相にバナジウムを浸出させて、バナジウムを含むアルカリ浸出液を得る(ステップ12)。原料灰が硫安及び硫酸を含む場合、アルカリの添加により硫酸アルカリが生じる。
【0039】
図2は、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムについて、石油コークス燃焼灰をスラリー化した系を模擬した組成で固液平衡計算をおこない、各元素のpH毎の液中濃度(ppm)をプロットしたグラフであり、各元素の溶解度のpH依存性を示すグラフである。図2中、黒丸(●)の実線はコバルト(Co)、黒丸(●)の破線は鉄(Fe)、白丸(○)はマンガン(Mn)、白三角(△)はケイ素(Si)、黒三角(▲)はアルミニウム(Al)、白四角(□)はニッケル(Ni)、黒四角(■)はマグネシウム(Mg)を示している。
【0040】
図2に示される通り、pHが9を超え13未満である領域では、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムの液中濃度が比較的低い。低い液中濃度は、アルカリ抽出工程において、原料灰から溶出しにくいことを意味している。pH9以下の領域では、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガンの液中濃度が高い傾向が見られる。一方、pH13以上の領域では、ケイ素及びアルミニウムの液中濃度が増加し、ニッケル、鉄、コバルト及びマンガンの液中濃度が増加(再溶解)する傾向も見てとれる。
【0041】
前述した通り、ニッケル、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、ケイ素及びアルミニウムは、得られるバナジウム化合物をレドックス・フロー電池用電解液に用いた場合に、電池性能の低下要因となりうる元素である。例えば、ニッケル及び鉄は、充放電中の水素発生を誘発する。また、ケイ素及びアルミニウムは、電解液中で析出して電極に付着することにより電池性能を低下させる場合がある。その他の成分も、電解液中で析出してバナジウムの酸化還元反応に影響することで、電池容量を低下させる場合がある。
【0042】
従来、原料灰からバナジウムを抽出する際、pHが低い領域では鉄、ニッケル等の浸出率が増加すると考えられており、そのため、高いpH領域でバナジウムの抽出がなされていた。そのため、ケイ素及びアルミニウムが、極微量、レドックス・フロー電池用電解液に用いるバナジウム化合物に混入して、所望の電池性能が得られなかったものと考えられる。
【0043】
本発明に係る製造方法では、アルカリ抽出工程におけるアルカリ浸出液のpHが9を超え13未満である。これにより、電池性能低下の主要因であるケイ素及びアルミニウムの浸出率が極めて低いレベルに低減され、かつ、鉄、ニッケル等他の微量成分の浸出率も充分に抑制されうる。この製造方法のアルカリ抽出工程では、原料灰中のバナジウム及び/又はバナジウム化合物が選択的かつ効率的に、アルカリ浸出液に抽出される。この観点から、アルカリ浸出液のpHは、9.5以上が好ましく、10以上がより好ましく、また、12.5以下が好ましく、12以下がより好ましい。
【0044】
本工程で使用するアルカリとしては、特に限定されないが、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。その具体例としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ストロンチウム(Sr(OH))、水酸化バリウム(Ba(OH))等を挙げることができる。これらのうち、入手が容易などの理由から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0045】
アルカリ抽出工程の抽出温度は、10~40℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。アルカリ浸出液に含まれるアルカリの濃度は、使用されるアルカリの種類により変動し、また後述する蒸発濃縮工程での濃縮率に依存する。例えば、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用する場合、10質量%/濃縮率~25質量%/濃縮率の範囲内とすることが好ましい。例えば、濃縮率が5倍(1/5に減容)の場合、アルカリ浸出液に含まれるアルカリの濃度はバナジウムの選択的抽出の観点から、2.0質量%以上が好ましく、2.5質量%以上がより好ましい。製造コスト及び製造トラブル低減の観点から、アルカリ濃度は5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましい。
【0046】
(固液分離工程:ステップ13)
固液分離工程では、得られたアルカリ浸出液から不溶物を固液分離して、バナジウムを含む浸出ろ液を得る(ステップ13)。図1(b)(ステップ13)に示される通り、アルカリ浸出液には、炭素、硫酸アルカリ、バナジウム、他の元素及びアルカリが含まれている。本工程では、不溶物である炭素が固形分として除去される。また、原料灰から抽出されなかったバナジウム以外の元素(他の元素)のほとんどが不溶物として除去される。本実施形態の固液分離工程で得られる浸出ろ液に含まれる主たる成分は、図1(b)(ステップ13)に示される通り、硫酸アルカリ、バナジウム及びアルカリである。
【0047】
本発明に係る製造方法では、アルカリ浸出液を固液分離する方法は特に限定されない。例えば、沈殿分離、遠心分離、吸引ろ過、加圧ろ過等が適宜選択して用いられる。
【0048】
(蒸発濃縮工程:ステップ14)
蒸発濃縮工程では、バナジウムを含む浸出ろ液を蒸発濃縮して、濃縮液を得る(ステップ14)。蒸発濃縮方法としては、特に制限はなく、多重効用式蒸発法(MED)、自己蒸気機械圧縮式蒸発法(MVR)、蒸気圧縮式蒸発法(VCD)、真空多段蒸発濃縮式蒸発法(VMEC)、多段フラッシュ式蒸発法(MSF)等が適宜選択して用いられる。省エネルギー及びコストの観点から、自己蒸気機械圧縮式(MVR)が好ましい。
【0049】
蒸発濃縮温度は、浸出ろ液中の塩濃度にもよるが、70~130℃であることが好ましい。蒸発濃縮温度が高いと濃縮に必要な投入エネルギー量が多くなり、処理コストが増大するため、減圧下で蒸発させることにより、温度100℃以下、特に80~90℃で処理することが好ましい。
【0050】
本工程では、浸出ろ液から水分が蒸気として除去されることにより、減容化される。蒸発濃縮工程後の浸出ろ液(濃縮液)の体積に対する蒸発濃縮工程前の浸出ろ液の体積の割合(濃縮率)は、通常は2~8倍程度であり、4~6倍がより好ましい。図1(b)(ステップ14)に示すように、この実施形態では、本工程において浸出ろ液が1/5に減容化される(濃縮率5倍)。減容化された浸出ろ液(濃縮液)中には、硫酸アルカリ、硫酸イオン、バナジウム及びアルカリが含まれる。蒸発させた水分については、回収して、アルカリ抽出工程における調整水として使用してもよく、後述する原料灰洗浄工程における洗浄水として使用してもよい。
【0051】
本工程で得られる濃縮液中のアルカリ濃度は、アルカリ抽出工程におけるアルカリ添加量及び濃縮率により変動する。蒸発濃縮中のスケーリング等の防止の観点から、濃縮液中のアルカリ濃度は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0052】
(晶析・固液分離工程:ステップ15)
晶析・固液分離工程では、得られた濃縮液を所定の冷却温度に冷却して晶析し、バナジウム化合物を含む析出物を固形分(ケーキとも称される)として回収する(ステップ15)。詳細には、濃縮液を、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となる温度に冷却する。好ましくは、硫酸アルカリの溶解度が5.0質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が0.2質量%以下となる温度に冷却する。好ましい冷却温度は0~30℃である。晶析方法としては、冷却機能を備えた水槽、冷却晶析槽や、メタノールなど有機系貧溶媒を加える貧溶媒晶析槽などを用いた方法を挙げることができる。晶析後は、固液分離をおこなう。固液分離方法としては、シックナー、デカンター、バスケット遠心真空ベルトフィルタなどを用いた方法を挙げることができる。
【0053】
本実施形態において、晶析・固液分離工程では、硫酸アルカリ及びバナジウム化合物の一部が、それぞれ固形分として析出する。固液分離により固形分と分離された晶析ろ液には、これらの残りとアルカリとが含まれる。例えば、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用する場合には、硫酸アルカリとして硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の一部と、バナジウム化合物としてオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)等の一部とが、それぞれ固形分として析出し、晶析ろ液には、アルカリとして水酸化ナトリウム(NaOH)が含まれる。
【0054】
バナジウム化合物及び硫酸アルカリの溶解度は、濃縮液のアルカリ濃度の増加によって低下する。本発明者らの知見によると、晶析時の冷却温度において、バナジウム化合物の溶解度が、硫酸アルカリの溶解度に比べて、極めて低くなるアルカリ濃度領域が存在する。本工程に供する濃縮液のアルカリ濃度を、この濃度領域に調整することにより、硫酸アルカリの析出を顕著に抑制することが可能となる。
【0055】
例えば、図3のグラフには、アルカリとして水酸化ナトリウムを使用する場合の、異なるアルカリ濃度におけるNaVOの飽和濃度(実線)及びNaSOの飽和濃度(破線)が示されている。それぞれの濃度が飽和濃度以上では析出し、飽和濃度以下では溶解する。換言すれば、図3の実線及び破線は、それぞれ、NaVO及びNaSOの10℃における溶解度曲線である。
【0056】
図示される通り、アルカリとしてNaOHを使用する場合、アルカリ濃度10質量%以上25質量%以下の濃度領域で、バナジウム化合物の10℃における溶解度がゼロに漸近する一方、硫酸アルカリの10℃における溶解度が高い範囲に維持される。換言すれば、この濃度領域では、10℃において、硫酸アルカリが、バナジウム化合物よりも大きい溶解度を有している。従って、本工程において、アルカリ濃度10質量%以上25質量%以下の濃縮液を10℃に冷却した場合、バナジウム化合物が優位に固形分として析出する一方で、ほとんどの硫酸アルカリは晶析ろ液中に残存する。これにより、夾雑物である硫酸アルカリの含有量が極めて少なく、バナジウム化合物を高純度で含む固形分が得られる。得られた固形分は、バナジウム化合物を主成分として精製されたバナジウム原料として回収され(ステップ20)、レドックス・フロー電解液の製造等に使用される。
【0057】
ここで、アルカリが水酸化ナトリウムである実施形態を例として、蒸発濃縮工程と晶析・固液分離工程でバナジウム化合物が選択的に分離されるメカニズムを説明する。図4は、異なる温度とアルカリ濃度におけるバナジウム化合物及び硫酸アルカリの溶解度曲線を示すグラフである。図4(a)が、バナジウム化合物であるオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の溶解度曲線を、図4(b)が、硫酸アルカリである硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の溶解度曲線を示している。
【0058】
図示される通り、いずれの化合物も、温度が高いほど溶解度が高くなる。また、いずれの化合物も、溶解度はアルカリ濃度(NaOH濃度)に依存しており、アルカリ濃度が高くなるにつれて溶解度が低くなるとともにほぼ一定となる。
【0059】
図4において、アルカリ浸出液(30℃の場合)に含まれるNaVOとNaSOの組成を、それぞれのグラフの「ろ液@30℃」で示す。このアルカリ浸出液を80℃で蒸発濃縮すると、NaVO、NaSO及びアルカリ(NaOH)は液中に残留するため、その濃度変化は原点を通る直線で表される。濃縮後の濃縮液は80℃となっており、これに含まれるNaVO及びNaSOの組成を、それぞれのグラフの「濃縮後@80℃」で示す。図4は5倍濃縮した場合の例示である。この濃度が80℃の飽和溶解度よりも低ければ(溶解度曲線の下であれば)、その時点で固形物の析出は生じない。次に、晶析・固液分離工程で、この濃縮液を10℃まで冷却すると、濃縮液は10℃での飽和溶液の組成に到達し、飽和濃度を超えた成分が析出し、固形分(ケーキ)として回収される。これに含まれるNaVO及びNaSOの組成を、それぞれのグラフの「冷却晶析ろ液@10℃」で示す。
【0060】
ここで、アルカリ浸出液の成分濃度から算出される濃縮液相当濃度が、晶析・固液分離工程における温度(例えば10℃)において、バナジウム化合物が飽和濃度以上、硫酸アルカリが飽和濃度以下であれば、硫酸アルカリの結晶を含まない高純度なバナジウム化合物の析出物を回収することができる。また、バナジウム化合物の飽和濃度がゼロに漸近する下限に近い領域で晶析処理すれば、高収率でのバナジウム化合物の回収が可能であり、かつ、硫酸アルカリの飽和濃度がゼロに漸近せず、バナジウム化合物の溶解度に対して、極めて高い溶解度を示す領域で晶析すれば、安定した高純度バナジウム化合物の回収が可能である。このような具体的な条件としては、アルカリ浸出液中のSOを0.6質量%以下として、2~7倍濃縮することにより、濃縮液のアルカリ(NaOH)濃度10~30質量%、硫酸アルカリ(NaSO)の飽和濃度4~7質量%、バナジウム化合物(NaVO)の飽和濃度0~2質量%とすることが好ましい。
【0061】
バナジウム化合物の回収率向上及び硫酸アルカリの析出抑制の観点から、本工程に供される濃縮液のアルカリ濃度は、10質量%以上30質量%以下が好ましい。得られるバナジウム化合物の回収率向上の観点から、濃縮液のアルカリ濃度は15質量%以上がより好ましい。硫酸アルカリの析出抑制の観点から、濃縮液のアルカリ濃度は25質量%以下がより好ましい。
【0062】
本発明に係る製造方法によれば、晶析・固液分離工程で得られる固形分中のバナジウム化合物の含有量を30~40質量%とすることができる。また、固形分を乾燥させた乾物ベースであれば、バナジウム化合物70~80質量%、硫酸アルカリ2~5質量%、アルカリ20~25質量%とすることができる。
【0063】
(他の実施形態)
本発明の効果が阻害されない限り、この製造方法がさらに他の工程を含んでもよい。この他の工程として、準備工程後アルカリ抽出工程前に原料灰を洗浄する原料灰洗浄工程、準備工程後アルカリ抽出工程前に原料灰を酸化する原料灰酸化工程、固液分離工程後蒸発濃縮工程前に不溶物を洗浄する不溶物洗浄工程、固液分離工程後蒸発濃縮工程前にろ液に含まれる少量の不溶物を取り除くろ液中不溶物除去工程、蒸発濃縮工程後、濃縮液に含まれる少量の不溶物を取り除く濃縮液中不溶物除去工程、蒸発濃縮工程後、晶析・固液分離工程前に浸出ろ液のアルカリ濃度を調整するアルカリ濃度調整工程、晶析・固液分離工程後に固形分をアルカリ溶液で洗浄するアルカリ洗浄工程、晶析・固液分離工程後又はアルカリ洗浄工程後に固形分を水で洗浄する水洗浄工程、晶析・固液分離工程で分離された晶析ろ液をアルカリ抽出工程で再利用するリサイクル工程等が挙げられる。バナジウム回収率の向上の観点から、この製造方法は、好ましくは、原料灰洗浄工程、原料灰酸化工程、不溶物洗浄工程、アルカリ濃度調整工程、アルカリ洗浄工程及びリサイクル工程から選択される1以上をさらに含む。
【0064】
(原料灰洗浄工程)
本工程は、原料灰から溶解性の金属夾雑物及び溶解性塩類(硫安分、硫酸など)を除去する工程である。原料灰の洗浄には、水又はアルカリ溶液を用い、洗浄中の液のpHを、好ましくはpH4~7、より好ましくはpH5~6に調整する。さらには、洗浄時のpHが6を越えないことが好ましい。原料灰に対して質量比で2~20倍の洗浄水の使用が好ましい。アルカリ抽出工程前に原料灰を洗浄することにより、蒸発濃縮工程に供される浸出ろ液中の塩濃度が低減される。そのため、より低い温度で蒸発濃縮をおこなうことが可能となり、消費エネルギー負担が低減される。さらに、晶析・固液分離工程において、金属夾雑物及び硫酸アルカリ等が低減され、バナジウム化合物を高純度で含む固形分が得られる。この観点から、原料灰洗浄工程後の原料灰中の可溶性成分(溶解性金属夾雑物及び溶解性塩類)の含有量が、5質量%以下となるまで洗浄することが好ましい。
【0065】
原料灰の洗浄方法は、バッチ法でもよく、連続法でもよい。具体的には、洗浄水添加用の水槽と、固液分離用の真空ベルトフィルタ、バスケット式遠心機、デカンターといった脱水機との組み合わせによる方法を挙げることができる。また、洗浄水添加用の水槽を用いずに真空ベルトフィルタ上へ散水する方法でもよい。洗浄温度は、10~40℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。洗浄時間は、洗浄方法により異なるが、概ね1秒~60分程度であり、1~30分程度が好ましい。
【0066】
(原料灰酸化工程)
本工程は、原料灰に含まれる3価又は4価のバナジウムを、5価のバナジウムに酸化する工程である。原料灰中のバナジウムは3価、4価、5価等、様々な価数の化合物の形態をとっているが、アルカリ抽出工程では、概ね5価のバナジウムが選択的にアルカリ浸出液に溶解し、3価及び4価のバナジウムはほとんど溶解しない。酸化工程において3価又は4価のバナジウムを5価のバナジウムに変換した後、アルカリ抽出工程を実施することにより、バナジウムの回収率が向上する。
【0067】
原料灰の酸化方法としては、原料灰に酸化性ガス及び/又は酸化剤を添加する方法が挙げられる。酸化性ガスとしては、空気、酸素、オゾン、亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素、塩素等が挙げられる。酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸等が挙げられる。
【0068】
(不溶物洗浄工程)
本工程は、固液分離工程後、蒸発濃縮工程前に、固液分離工程でアルカリ浸出液から分離した不溶物からなる固形分(ケーキ)を洗浄する工程である。この不溶物洗浄工程では、洗浄水を、不溶物に含まれる水(固形分含水)の1~3倍量加えて、洗浄をおこなう。この工程により、不溶物からバナジウムを洗浄水に抽出し、回収することができる。不溶物洗浄後の洗浄水(洗浄ろ液)を回収して、浸出ろ液とともに、次の蒸発濃縮工程に供することにより、バナジウムの回収率がさらに向上する。本発明の効果が阻害されない範囲で、洗浄水にアルカリを添加してもよい。この場合、洗浄水のpHが9を超え13未満であることが好ましい。
【0069】
一方、特許文献2には、不溶物洗浄に関する記載はない。また、特許文献2では、pH9以下でアルカリ浸出をおこなっているため、仮に不溶物洗浄をおこなったとしても、中性付近のpHで洗浄をおこなうことになり、バナジウムの新たな抽出は見込めず、むしろニッケルを初め、コバルト、マンガン等の夾雑物が多く浸出する可能性がある。
【0070】
(アルカリ濃度調整工程)
本工程は、蒸発濃縮工程後、晶析・固液分離工程前に、晶析・固液分離工程での冷却温度において、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となるように、濃縮液のアルカリ濃度を調整する工程である。アルカリ濃度調整工程を含む実施形態の工程を示すフローチャート(a)及び各工程における成分の推移を示す模式図(b)が、図6に示されている。このアルカリ濃度調整工程で、濃縮液のアルカリ濃度を調整することにより、後の晶析・固液分離工程で回収する析出物中への硫酸アルカリの混入が低減され、得られるバナジウム化合物のさらなる高純度化が達成される。
【0071】
本工程で用いるアルカリとしては、アルカリ抽出工程にて前述したアルカリが挙げられる。好ましいアルカリは、水酸化ナトリウムである。
【0072】
調整後の濃縮液のアルカリ濃度が、前述した条件を満たす限り、濃縮液に添加するアルカリ又はアルカリ溶液の量は、特に限定されず、原料灰の種類、蒸発濃縮後の濃縮液のアルカリ濃度、添加するアルカリの種類等に応じて適宜調整される。例えば、アルカリとしてNaOHを使用する場合、得られるバナジウム化合物の回収率向上の観点から、濃縮液のアルカリ濃度を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上に調整する。また、硫酸アルカリの析出抑制の観点から、濃縮液のアルカリ濃度を、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下に調整する。
【0073】
ここで、晶析・固液分離工程前にアルカリ濃度調整工程をおこなう実施形態において、蒸発濃縮工程から晶析・固液分離工程で、バナジウム化合物が選択的に分離されるメカニズムを、図5を用いて説明する。図5(a)は、異なる温度とアルカリ濃度におけるオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)の溶解度曲線を示すグラフであり、図5(b)は、異なる温度とアルカリ濃度における硫酸ナトリウム(NaSO:芒硝)の溶解度曲線を示すグラフである。図示される通り、いずれの化合物も、温度が高いほど溶解度が高くなる。また、いずれの化合物の溶解度も、アルカリ濃度(NaOH濃度)が高くなるに従って低くなり、ほぼ一定となる。
【0074】
図5(a)及び図5(b)において、アルカリ浸出液(30℃の場合)に含まれるNaVO及びNaSOの組成を、それぞれ「濃縮前@30℃」で示す。このアルカリ浸出液を80℃で蒸発濃縮すると、NaVO、NaSO及びアルカリ(NaOH)は液中に残留するため、その濃度変化は原点を通る直線で表される。濃縮後の濃縮液の温度は80℃であり、これに含まれるNaVO及びNaSOの組成を、それぞれ「濃縮後@80℃」で示す。図5(a)及び図5(b)は、5倍濃縮した場合の例示である。この濃度が80℃の飽和溶解度よりも低ければ(溶解度曲線の下であれば)、その時点で固形物の析出は生じない。
【0075】
その後、アルカリ濃度調整工程で各濃縮液にさらにアルカリを添加した後の、NaVO及びNaSOの組成を、それぞれ「アルカリ添加後@80℃」で示す。このとき、いずれの化合物の濃度も、80℃の飽和溶解度よりも低くなるように(即ち、固形物の析出が生じないように)、アルカリ添加量を調整する。次に、晶析・固液分離工程で、アルカリ添加後の濃縮液を10℃まで冷却すると、この濃縮液は10℃での飽和溶液の組成に到達し、飽和濃度を超えた各成分が析出し、固形分(ケーキ)として回収される。これに含まれるNaVO及びNaSOの組成を、それぞれ「冷却晶析ろ液@10℃」で示す。
【0076】
図示される通り、NaVOの「冷却晶析ろ液@10℃」は、NaVOの溶解度曲線がゼロに漸近し下限に近い領域に位置し、NaSOの「冷却晶析ろ液@10℃」は、NaSOの溶解度曲線がゼロに漸近せず、高い溶解度を示す領域に位置している。これにより、バナジウム化合物が高収率で回収されるとともに、硫酸アルカリの析出が抑制される。さらに、晶析・固液分離工程の冷却温度において、バナジウム化合物の濃度が飽和濃度以上、かつ、硫酸アルカリがバナジウム化合物より大きい溶解度を有するように、濃縮液のアルカリ濃度を調整することにより、夾雑物である硫酸アルカリを含まず、バナジウム化合物を高純度で含む固形分を回収することができる。これにより、高純度バナジウム化合物をより安定して得ることが可能となる。
【0077】
(アルカリ洗浄工程)
本工程は、晶析・固液分離工程後に、晶析ろ液を分離した後の固形分(ケーキ)を、アルカリ溶液で洗浄する工程である。アルカリ浸出液のpHが9を超えて13未満となるように調整するアルカリ抽出工程後に本工程をおこなうことにより、固形分に残存するバナジウム以外の元素がさらに除去される。特に、得られるバナジウム化合物をレドックス・フロー電池用電解液に用いた場合に、電池性能の低下要因となりうるケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等が効率的に除去される。さらには、得られるバナジウム化合物の純度が向上して、乾物ベースでバナジウム化合物の含有量を90質量%以上とすることも可能である。
【0078】
固形分からバナジウム以外の他の元素を除去しうる限り、アルカリ洗浄工程で用いるアルカリ溶液の種類は特に限定されず、アルカリ抽出工程にて前述したアルカリの水溶液が好適に用いられる。アルカリとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0079】
固形分中のバナジウムを溶解することなく、バナジウム以外の元素を効率的に除去するとの観点から、本工程で用いるアルカリ溶液は、アルカリ濃度が10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0080】
本発明の効果が得られる限り、本工程で洗浄に用いるアルカリ溶液の量は特に限定されないが、晶析・固液分離工程で得た固形分中の水(固形分含水)と、少なくとも同量のアルカリ溶液の使用が好ましい。他の元素の効率的な除去の観点から、固形分中の水に対して、質量比で2倍以上のアルカリ溶液の使用がより好ましい。製造コストの観点から、質量比で3倍以下のアルカリ溶液の使用が好ましい。
【0081】
固形分の洗浄方法は、バッチ法でもよく、連続法でもよい。具体的には、アルカリ溶液添加用の水槽と、固液分離用の真空ベルトフィルタ、バスケット式遠心機、デカンターといった脱水機との組み合わせによる方法を挙げることができる。アルカリ洗浄時の液温度は10℃~30℃が好ましく、20℃~30℃がより好ましい。アルカリ洗浄時間は、固形分量及び洗浄方法により適宜選定されるが10秒~10分が好ましい。
【0082】
(水洗浄工程)
本工程は、晶析・固液分離工程後又はアルカリ洗浄工程後に、固形分(ケーキ)を水で洗浄する工程である。この水洗浄工程では、洗浄水を、固形分に含まれる水(固形分含水)の1~3倍量加えて洗浄をおこなう。この工程により、乾物ベースでのバナジウム化合物の含有量をさらに高くすることができる。アルカリ洗浄工程で前述した洗浄方法が、用いられ得る。
【0083】
(リサイクル工程)
本工程は、晶析・固液分離工程後、この晶析・固液分離工程で固形分から分離された晶析ろ液を、アルカリ抽出工程に返送して、アルカリ溶液として再利用する工程である。リサイクル工程を含む実施形態の工程を示すフローチャート(a)及び各工程における成分の推移を示す模式図(b)が、図7に示されている。晶析ろ液には、アルカリ及び未回収のバナジウムが含まれる。この晶析ろ液をアルカリ抽出工程に返送することにより、得られるバナジウム化合物の収率が向上する。
【0084】
また、アルカリ抽出工程前に、原料灰洗浄工程をおこなう場合、晶析・固液分離工程で得られる晶析ろ液には夾雑物がほとんど含まれておらず、ほぼバナジウム化合物とアルカリのみとなっている。この晶析ろ液を再利用することにより、アルカリ抽出工程で投入するアルカリの量を低減できるとともに、原料灰からのバナジウム回収率を高くすることができる。
【0085】
晶析ろ液の返送は、返送ポンプ、オーバーフロー槽等でおこなってもよい。この場合、晶析ろ液の全量をアルカリ溶液としてアルカリ抽出工程で再利用してもよいが、硫酸根(SO)の系内蓄積を抑えるため、得られた晶析ろ液の1~30質量%を系外へ排出し、残りを再利用することが好ましい。
【0086】
好ましくは、アルカリ抽出工程において、リサイクルする晶析ろ液により持ち込まれる硫酸根と、原料灰から持ち込まれる硫酸根との合計が、晶析・固液分離工程における冷却後の飽和濃度相当量以下となるように、リサイクルする晶析ろ液の量を調整する。このようにすることで、硫酸アルカリの結晶を含まない高純度なバナジウム化合物を回収することができる。
【0087】
(レドックス・フロー電池用電解液の製造方法)
本発明に係るレドックス・フロー電池用電解液の製造方法は、前述したバナジウム化合物の製造方法で得られたバナジウム化合物を、レドックス・フロー電池用電解液の原料として用いる方法である。この実施形態では、前述した原料灰の準備工程(ステップ10)、アルカリ抽出工程(ステップ12)、固液分離工程(ステップ13)、蒸発濃縮工程(ステップ14)、晶析・固液分離工程(ステップ15)及びバナジウム化合物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する、電解液製造工程が、順次、実施されて、レドックス・フロー電池用電解液が製造される。
【0088】
本発明に係る製造方法によれば、電池性能の低下要因である微量成分の混入が極めて少なく、かつ高純度のバナジウム化合物を、従来よりも安価かつ簡便に得ることができる。このバナジウム化合物を原料とすることにより、優れた電池性能が得られるレドックス・フロー電池用電解液を安価で簡便に、効率よく製造することができる。
【0089】
レドックス・フロー電池用電解液としては、正極側はバナジウム(V)やバナジウム(IV)が、負極側はバナジウム(III)やバナジウム(II)が用いられている。本発明の方法では、バナジウムは主にオルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)などのバナジウム(V)として回収されるため、特に正極側の電解液の製造に好適に使用することができる。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば回収されたバナジウム(V)を還元してバナジウム(III)やバナジウム(II)とすることで、負極側の電解液の製造に使用してもよい。レドックス・フロー電池用電解液中に含まれるバナジウムの濃度は、特に制限はないが、正極側、負極側いずれも、例えば0.1mol/l~10mol/lの範囲内、好ましくは1~3mol/lの範囲内とすることができる。
【0090】
(バナジウム化合物の製造装置)
本発明のバナジウム化合物の製造装置は、前述したバナジウム化合物の製造方法を実施するための装置として構成することができる。この実施形態のバナジウム化合物の製造装置は、アルカリ抽出機、第一の固液分離機、蒸発濃縮機、晶析機及び第二の固液分離機を備える。
【0091】
この製造装置では、アルカリ抽出機により、前述したアルカリ抽出工程が実施される。即ち、アルカリ抽出機では、原料灰(原料灰そのもの又は原料灰スラリー)に、アルカリ及び水、又はアルカリ溶液が、pHが9を超え13未満となる量で添加されることにより、液相にバナジウムが浸出して、バナジウムを含むアルカリ浸出液が得られる。アルカリ抽出機としては、例えば、アルカリ溶液及び原料灰を混合する撹拌混合槽等を挙げることができる。好ましくは、アルカリ抽出機はpH調整機を含む。
【0092】
この製造装置では、第一の固液分離機により、前述した固液分離工程が実施される。即ち、第一の固液分離機では、アルカリ浸出液が固液分離され、炭素等の不溶物が固形分として除去されるとともに、バナジウムを含む浸出ろ液が得られる。この固液分離機としては、例えば、アルカリ浸出液から固形分を分離する脱水機等を挙げることができる。
【0093】
この製造装置では、蒸発濃縮機により、前述した蒸発濃縮工程が実施される。即ち、蒸発濃縮機では、バナジウムを含む浸出ろ液が蒸発濃縮されることにより、濃縮液が得られる。蒸発濃縮機としては、例えば、蒸発濃縮缶等を挙げることができる。
【0094】
この製造装置では、晶析機及び第二の固液分離機により、前述した晶析・固液分離工程が実施される。即ち、晶析機及び第二の固液分離機では、濃縮液が所定の冷却温度に冷却されて晶析することにより、バナジウム化合物を含む析出物が固形分(ケーキとも称される)として回収される。晶析機としては、例えば、冷却機能を備えた水槽、冷却晶析槽、メタノールなど有機系貧溶媒を加える貧溶媒晶析槽等を挙げることができる。固液分離機としては、例えば、シックナー、デカンター、バスケット遠心真空ベルトフィルタ等を挙げることができる。
【0095】
本発明に係る製造装置では、アルカリ抽出機により、アルカリ浸出液のpHが9を超え13未満となるようにアルカリ及び水、又はアルカリ溶液を添加することにより、電池性能の低下要因となる微量成分を除去しつつ、バナジウムを高収率で抽出することができる。また、この製造装置では、アルカリ抽出機において特段の加熱操作を要することなく、バナジウムを選択的に抽出することができる。
【0096】
さらに、この製造装置では、晶析機において、バナジウム化合物が飽和濃度以上であり、硫酸アルカリの溶解度が1.5質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が2.0質量%以下となるように、濃縮液が冷却される。この製造装置によれば、従来のように、酸の添加手段を要することなく、バナジウム化合物と硫酸アルカリとの溶解度の差によって、バナジウム化合物を選択的に析出させて回収することができる。好ましくは、晶析機では、硫酸アルカリの溶解度が5.0質量%以上かつバナジウム化合物の溶解度が0.2質量%以下となる温度に濃縮液が冷却される。
【0097】
本発明の効果が阻害されない限り、この製造装置が、原料灰を洗浄水で洗浄する原料灰洗浄機、この洗浄水のpHを4~7に調整するpH調整機、原料灰を酸化する酸化装置、アルカリ抽出機によりバナジウムを液相に浸出させる間、その温度を10℃以上50℃未満に制御する温度制御装置、第一の固液分離機により分離された不溶物を洗浄する不溶物洗浄機、第一の固液分離機により分離されたろ液中の不溶物を除去する第一の不溶物除去機、濃縮液中の不溶物を除去する第二の不溶物除去機、濃縮液にアルカリ又はアルカリ溶液を添加して、アルカリ濃度を10~30質量%に調整するアルカリ濃度調整機、第二の固液分離機で分離した固形分をアルカリ溶液で洗浄するアルカリ洗浄機、第二の固液分離機で得た固形分又はアルカリ洗浄機で洗浄した固形分を、さらに水で洗浄する水洗浄機、晶析・固液分離手段で固形分から分離された晶析ろ液をアルカリ抽出機に返送して再利用するリサイクル機等を、さらに備えてもよい。バナジウム回収率の向上の観点から、原料灰洗浄機、原料灰酸化装置、不溶物洗浄機、アルカリ濃度調整機、アルカリ洗浄機及びリサイクル機から選択される1以上を備えた製造装置が好ましい。
【0098】
(レドックス・フロー電池用電解液の製造装置)
本発明のレドックス・フロー電池用電解液の製造装置は、前述したバナジウム化合物の製造装置で製造したバナジウム化合物を、レドックス・フロー電池用電解液の原料として用いるための装置である。この実施形態のレドックス・フロー電池用電解液の製造装置は、アルカリ抽出機、第一の固液分離機、蒸発濃縮機、晶析機、第二の固液分離機及びバナジウム化合物を含む析出物を原料として、レドックス・フロー電池用電解液を製造する電解液製造機と、を備えている。
【0099】
アルカリ抽出機、第一の固液分離機、蒸発濃縮機、晶析機、第二の固液分離機の詳細については、前述したバナジウム化合物の製造装置を参照することができる。レドックス・フロー電池用電解液の製造装置の詳細については、前述したレドックス・フロー電池用電解液の製造方法を参照することができる。
【0100】
本発明に係る製造装置によれば、電池性能の低下要因である微量成分の混入が極めて少なく、かつ高純度のバナジウム化合物を、従来よりも安価かつ簡便に得ることができる。このバナジウム化合物を原料とすることにより、優れた電池性能が得られるレドックス・フロー電池用電解液を安価で簡便に、効率よく製造することができる。
【実施例0101】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。特に言及しない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0102】
(準備工程及び原料灰洗浄工程)
原料灰として、250gの燃焼灰(含水率14.9%、バナジウム(V)含有率2.3%)を準備した。この燃焼灰に、500gの水と、3.4gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液を投入し、pH5.5として30分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなった。得られた残渣上に318gの水を投入して、さらに吸引ろ過することにより、残渣を洗浄した。得られた洗浄残渣は、310g(含水率56質量%)であった。
【0103】
(アルカリ抽出工程及び固液分離工程)
[実施例1]
洗浄工程で得た洗浄残渣50gを採取して、これに34gの水と、1.6gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液を投入して、pH10のアルカリ浸出液とした。このアルカリ浸出液を30分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなって、バナジウムを含む浸出ろ液28.0g(バナジン酸ナトリウム:NaVOとして、バナジウム(V)濃度1.0質量%)を得た。
【0104】
[実施例2]
洗浄工程で得た洗浄残渣50gを採取して、これに34gの水と、2.5gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液を投入して、pH11のアルカリ浸出液とした。このアルカリ浸出液を30分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなって、バナジウムを含む浸出ろ液30.0g(バナジン酸ナトリウム:NaVOとして、バナジウム(V)濃度1.2質量%)を得た。
【0105】
[実施例3]
洗浄工程で得た洗浄残渣50gを採取して、これに34gの水と、2.7gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液を投入して、pH12のアルカリ浸出液とした。このアルカリ浸出液を30分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなって、バナジウムを含む浸出ろ液34.9g(バナジン酸ナトリウム:NaVOとして、バナジウム(V)濃度1.1質量%)を得た。
【0106】
[比較例1]
洗浄工程で得た洗浄残渣50gを採取して、これに34gの水と、3.7gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液を投入して、pH13のアルカリ浸出液とした。このアルカリ浸出液を30分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなって、バナジウムを含む浸出ろ液35.6g(バナジン酸ナトリウム:NaVOとして、バナジウム(V)濃度1.2質量%)を得た。
【0107】
[アルカリ浸出ろ液の分析]
実施例1-3及び比較例1で得た浸出ろ液の成分分析をおこなった。測定には、ICP発光分光分析装置(Agilent社製の商品名「ICP-OES」)を使用した。成分V、Ni、Fe、Mg、Al、Co及びMnについては、試料0.1gを、60質量%硝酸5mLに添加して酸分解した後、100mLにメスアップして測定した。成分Siについては、試料0.25gに、2gのNaCo及び0.5gのHBOを添加して950℃で融解した後、35質量%塩酸15mL及び水15mLに溶解させ、250mLにメスアップして測定した。得られた結果が、下表1に示されている。
【0108】
【表1】
【0109】
[実施例4]
(準備工程~固液分離工程)
ボイラー燃焼灰496g(含水率20%、バナジウム(V)含有率1.0%)を原料として準備した。この燃焼灰に、840gの水と、21.6gの48質量%苛性ソーダ(NaOH)水溶液とを投入してpH11.5(±0.5)として60分間撹拌した後、吸引ろ過をおこなって、バナジウムを含む浸出ろ液601g(バナジウム(V)濃度1.0質量%、NaSO濃度1.4質量%)を得た。
(蒸発濃縮工程)
アルカリ浸出工程で得られた浸出ろ液595gを、ロータリーエバポレータを用いて80~85℃、-70kPaの条件にて減圧濃縮を行い、濃縮液121g(濃縮倍率4.9倍)を得た。
(晶析・固液分離工程)
蒸発濃縮工程で得られた濃縮液を徐々に冷却して、25℃にて5時間攪拌し、結晶を析出させた。その後、1.0μmのメンブレンを用いた吸引ろ過により固液分離をおこなった。これにより、固形分であるケーキ37.2gを得た。このケーキの乾物中構成比は、バナジウム(V)3.0gに対して、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)の合計量0.5mgであった。
【0110】
[実施例5]
(アルカリ洗浄工程)
実施例4の晶析・固液分離工程で得た固形分5.1gに対し、20質量%の苛性ソーダ水溶液25gを投入して、15分間撹拌したのち、吸引ろ過にて固液分離をおこなった。アルカリ洗浄後のケーキの乾物中構成比は、バナジウム(V)0.7gに対して、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)の合計量0.03mgであった。
【0111】
表1に示されるように、アルカリ浸出液のpHが9を超え13未満である本発明に係る製造方法によれば、pH9以下又はpH13以上である比較例と比べて、バナジウム以外の微量成分の混入が極めて少ない量に抑制され、かつ、バナジウムを高い収率で回収することができることがわかった。また、実施例4に示されるように、本発明に係る製造方法によれば、各工程における加熱操作及び多量の薬剤コストを要することなく、レドックス・フロー電池用電解液の製造に適した高純度バナジウム化合物を得ることができた。さらに、アルカリ洗浄工程を付加した実施例5では、電池性能の低下要因であるSi及びAlの混入がさらに低減された。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【符号の説明】
【0112】
10・・・原料灰準備工程
12・・・アルカリ抽出工程
13・・・固液分離工程
14・・・蒸発濃縮工程
15・・・晶析・固液分離工程
17・・・バナジウム化合物回収
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7