(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083904
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】移動型支持台
(51)【国際特許分類】
B60B 33/06 20060101AFI20230609BHJP
E01F 13/02 20060101ALI20230609BHJP
A47B 91/06 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
B60B33/06 A
E01F13/02 Z
A47B91/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197891
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】595143056
【氏名又は名称】ホクデン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 吉弘
【テーマコード(参考)】
2D101
3B069
【Fターム(参考)】
2D101EA07
2D101HA06
3B069CA03
3B069CA06
(57)【要約】
【課題】移動・定置に際し、傾けるだけで他に特別な操作をせずとも底面のキャスタを出没させることができる、作業負担の小さい移動型支持台を提供する。
【解決手段】移動型支持台1は、基台部2に立設された基柱23と、基柱23に挿着されて外殻体33を支持する昇降柱31との取合部分に、平行な対向二長辺とV字形の切込部が形成された対向二短辺とを有するカムを用いた昇降機構が設けられる。昇降機構は、定置状態にある移動型支持台1を傾倒させてから直立姿勢に戻すと昇降部3が基台部2に対して上昇した位置に停止し、外殻体33よりも下方にキャスタ21が突出した移動可能状態となる。また、移動可能状態にある移動型支持台1を傾倒させてから直立姿勢に戻すと昇降部3が下降し、外殻体33が接地して定置状態になる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面に複数個のキャスタが取り付けられた基台部と、前記基台部上に昇降可能に保持される昇降部と、を具備し、
前記昇降部には、前記基台部全体を包囲して、前記昇降部の下降により底縁部を接地させる外殻体が結合された移動型支持台において、
前記基台部には前記昇降部を支持する基柱が立設され、
前記昇降部には前記基柱に対して抜き挿し自在に同軸挿着された昇降柱が備えられ、
前記基柱と前記昇降柱との取合部分にはカムを用いた昇降機構が設けられ、
前記昇降機構は、定置状態にある移動型支持台を傾倒させてから直立姿勢に戻すと、前記昇降部が前記基台部に対して上昇した位置に停止することにより、前記外殻体よりも下方に前記キャスタが突出した移動可能状態になり、
移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させてから直立姿勢に戻すと、前記昇降部が下降し、前記外殻体が接地して定置状態になる、
ように構成されていることを特徴とする移動型支持台。
【請求項2】
請求項1に記載された移動型支持台において、
前記基柱には、互いに平行な直線状の対向二長辺と、V字形の切込部が形成された対向二短辺とを有するカムが、前記基柱の軸心と直交する方向に配された支軸材を介して回転可能に軸着される一方、
前記昇降柱には、
前記昇降柱が下降位置にあるときに、前記カムの一方の長辺に当接して前記カムを縦向き姿勢に保持する縦ガイド縁と、
前記昇降柱が前記基柱に対して上昇したときに、前記カムを下方から突き上げて前記カムを所定角度だけ傾ける突上片と、
前記昇降柱が上昇位置から下降したときに、傾いた前記カムの切込部に上方から係合して前記カムを回転不能に拘束する係合片と、
が設けられており、
定置状態にある移動型支持台を傾倒させて、前記昇降部を前記基台部に対して上昇させると、前記カムが前記突上片に突き上げられて回動し、
傾倒させた移動型支持台を直立姿勢に戻すと、前記切込部に前記係合片が係合して前記カムの回転が拘束されることにより、前記昇降部が上昇位置に停止し、
移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させると、前記カムに対する前記係合片の係合が解けて前記カムが回転可能になり、
傾倒させた移動型支持台を直立姿勢に戻すと、前記カムが縦向き姿勢になって前記昇降部が下降する、
ことを特徴とする移動型支持台。
【請求項3】
請求項2に記載された移動型支持台において、
前記昇降柱には縦長孔が形成されて、
前記昇降柱が前記縦長孔に前記支軸材を遊挿した状態で前記基柱の外側に挿着され、
前記昇降柱の側面に、前記縦長孔を枠状に囲むカムレールが添設されて、
前記カムレールの枠内に前記カムが回転可能に収納されるとともに、
前記カムレールの内周縁に前記縦ガイド縁、前記突上片および前記係合片が形成されている、
ことを特徴とする移動型支持台。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された移動型支持台において、
定置状態にある移動型支持台を傾倒させたとき、および移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させたときのいずれにおいても、その傾倒方向に関わらず前記カムが一方向にしか回転しないように、その回転方向を規制するカム逆転防止手段が備えられている、
ことを特徴とする移動型支持台。
【請求項5】
請求項4に記載された移動型支持台において、
前記カム逆転防止手段は、前記カムと一体的に回転する爪車と、前記爪車に掛止する止め爪を有して前記爪車の近傍に軸着された揺動レバーと、を含んで構成されるラチェット機構である、
ことを特徴とする移動型支持台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、多目的タイプの移動型支持台に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車輌や歩行者の通行を規制するための障害物として、あるいはベンチ、案内表示板その他のストリートファニチャーとして、各種施設の敷地面や路面に設置される多目的タイプの支持台が公知である。その種の支持台は、おおむね数十cm程度の高さに形成され、単体で任意の場所に設置されるか、複数個を適宜間隔で配置してバーやチェーンを架け渡すなどの態様で利用されている。かかる支持台は、衝撃や風圧で容易に転倒したり、無関係の第三者が勝手に移動させたりすることのないように、数十kg程度の重さに形成されて、設置時の安定化が図られている。
【0003】
この種の支持台は、その場所に永続的に固定されるものではなく、必要に応じて任意の場所に据え置かれるものであるから、不要になったり置き場所を変更したりする際には、容易に移動できることが求められる。しかし、単体で数十kgにもなる支持台を人が持ち上げて運ぶのはきわめて困難である。そこで、設置時の安定性と移動の容易性を両立させるため、底面に出没自在のキャスタを取り付けて、移動時にはそのキャスタを接地させることで容易に移動できるようにした支持台が、例えば特許文献1、2等に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-072800号公報
【特許文献2】特開平8-207506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1および特許文献2に開示された移動型支持台は、移動用のキャスタが取り付けられた基台部(特許文献1、2中では「キャスタ支持部材」)の上部に外殻体(特許文献1中では「ハウジング部材」、特許文献2中では「支持台フレーム」)を昇降自在に取り付け、移動および定置(据え付け)に際しては、外殻体を手で少し持ち上げるか、あるいは少し傾けながら、外殻体の側面に設けられた作動ピンを内部に押し込んで、キャスタの出没を切り替えるように構成されている。したがって、キャスタを出す場合も収納する場合も、重い外殻体を持ち上げたり傾けたりする作業と、片手で作動ピンを押し込む作業とを同時に行う必要があるので、作業者に大きな負担を強いることになってしまう。
【0006】
本願が開示する発明は、前述のような移動・定置に際しての作業負担を軽減すべく着想されたものであって、外殻体を傾けるだけで、他に特別な操作をせずとも底面のキャスタを出没させることができる合理的な機構を備えた移動型支持台を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の目的を達成するために、本願が開示する発明は、底面に複数個のキャスタが取り付けられた基台部と、前記基台部上に昇降可能に保持される昇降部と、を具備し、前記昇降部には、前記基台部全体を包囲して、前記昇降部の下降により底縁部を接地させる外殻体が結合された移動型支持台において、前記基台部には前記昇降部を支持する基柱が立設され、前記昇降部には前記基柱に対して抜き挿し自在に同軸挿着された昇降柱が備えられ、前記基柱と前記昇降柱との取合部分にはカムを用いた昇降機構が設けられ、前記昇降機構は、定置状態にある移動型支持台を傾倒させてから直立姿勢に戻すと、前記昇降部が前記基台部に対して上昇した位置に停止することにより、前記外殻体よりも下方に前記キャスタが突出した移動可能状態になり、移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させてから直立姿勢に戻すと、前記昇降部が下降し、前記外殻体が接地して定置状態になる的構成を採用する。
【0008】
さらに、より具体的な構成として、前記移動型支持台の前記基柱には、互いに平行な直線状の対向二長辺と、V字形の切込部が形成された対向二短辺とを有するカムが、前記基柱の軸心と直交する方向に配された支軸材を介して回転可能に軸着される一方、前記昇降柱には、前記昇降柱が下降位置にあるときに、前記カムの一方の長辺に当接して前記カムを縦向き姿勢に保持する縦ガイド縁と、前記昇降柱が前記基柱に対して上昇したときに、前記カムを下方から突き上げて前記カムを所定角度だけ傾ける突上片と、前記昇降柱が上昇位置から下降したときに、傾いた前記カムの切込部に上方から係合して前記カムを回転不能に拘束する係合片と、が設けられており、定置状態にある移動型支持台を傾倒させて、前記昇降部を前記基台部に対して上昇させると、前記カムが前記突上片に突き上げられて回動し、傾倒させた移動型支持台を直立姿勢に戻すと、前記切込部に前記係合片が係合して前記カムの回転が拘束されることにより、前記昇降部が上昇位置に停止し、移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させると、前記カムに対する前記係合片の係合が解けて前記カムが回転可能になり、傾倒させた移動型支持台を直立姿勢に戻すと、前記カムが縦向き姿勢になって前記昇降部が下降する、との構成を採用する。
【0009】
前記移動型支持台においては、前記昇降柱には縦長孔が形成されて、前記昇降柱が前記縦長孔に前記支軸材を遊挿した状態で前記基柱の外側に挿着され、前記昇降柱の側面に、前記縦長孔を枠状に囲むカムレールが添設されて、前記カムレールの枠内に前記カムが回転可能に収納されるとともに、前記カムレールの内周縁に前記縦ガイド縁、前記突上片および前記係合片が形成されている構成を採用することができる。
【0010】
また、前記移動型支持台においては、定置状態にある移動型支持台を傾倒させたとき、および移動可能状態にある移動型支持台を傾倒させたときのいずれにおいても、その傾倒方向に関わらず前記カムが一方向にしか回転しないように、その回転方向を規制するカム逆転防止手段が備えられていると、より好ましい。
【0011】
前記カム逆転防止手段には、前記カムと一体的に回転する爪車と、前記爪車に掛止する止め爪を有して前記爪車の近傍に軸着された揺動レバーと、を含んで構成されるラチェット機構を好適に採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
前述のように構成される移動型支持台は、移動型支持台自体を一旦、傾倒させてから直立姿勢に戻すだけで、外殻体の下方にキャスタを出没させることができるように構成されているので、移動型支持台を所望の場所に定置したり移動させたりする作業が容易になり、作業者の負担が大きく軽減される。
【0013】
さらに、互いに平行な直線状の対向二長辺とV字形の切込部が形成された対向二短辺とを有するカムを、そのカムの周囲に配した縦ガイド縁、突上片および係合片に係脱させる昇降機構を採用した場合には、円滑で信頼性の高い操作性が得られ、機構もコンパクトに納まる。
【0014】
また、カムの回転を一方向に規制するカム逆転防止手段を設けた場合には、移動型支持台をどの向きに傾倒させても、カムを自重で不規則に揺動させることなく、所定の係脱方向に確実に回転させて、より確実な操作性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願が開示する発明の一実施形態に係る移動型支持台の、定置状態における外観および内部構造の側面図である。
【
図2】
図1の移動型支持台の操作方法を説明する説明図である。
【
図3】
図1の移動型支持台における昇降機構の構成を拡大して示す要部正面図である。
【
図4】
図3の昇降機構の要部上面とA-A断面の合成図である。
【
図6】
図3の昇降機構の、定置状態から移動可能状態へのカムの動作を示す説明図である。
【
図7】
図3の昇降機構の、移動可能状態から定置状態へのカムの動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1~
図7は、本願が開示する発明の一実施形態に係る移動型支持台1を示している。この移動型支持台1は、全高が数十cm程度の略円柱形状をなすもので、構造的には、底面に移動用のキャスタ21が取り付けられた基台部2と、基台部2に対して昇降可能に支持される昇降部3とに大別される。
【0018】
基台部2は、略円板状の基底板22を具備し、その下面に4~5個程度のキャスタ21が取り付けられている。例示形態のキャスタ21は全て自在キャスタである。基底板22の上面中央には、昇降部3を支持する基柱23が立設されている。例示形態の基柱23は角筒状の中空材であるが、これは中実材でも差し支えない。
【0019】
一方、昇降部3は、基柱23に対して抜き挿し自在に同軸挿着された昇降柱31と、適宜の支持フレーム32を介して昇降柱31に結合された外殻体33と、を備えている。例示形態の昇降柱31には、基柱23の外側に挿着可能な角筒状の中空材が用いられている。
【0020】
外殻体33は、略円筒状の側面部34と、緩く膨湾した球面上の頂面部35と、を有して、底面全体が開口しており、その底縁部36が接地して基台部2全体を覆う大きさに形成されている。底縁部36には、接地時に底縁部36を保護する適宜の保護材(図示せず)が取り付けられていてもよい。側面部34の上部付近には、移動・定置作業時の指掛りを兼ねる意匠的造形として、上下二段の環状凹部37が形成されている。
【0021】
なお、本願が開示する発明は外殻体33の形状を特に限定するものではない。したがって、外殻体33は、その底縁部36が接地し得さえすれば、横断面形状が四角形その他の多角形であってもよいし、側面形状が錐形や錐台形であってもよい。頂面部35の形状や、指掛かりを含む側面部34の意匠的造形も任意である。大径の台座部上に小径の柱体を立設したような形状も採用可能である。ただし、後述するように、この移動型支持台1は移動および定置に際して全体を傾倒させるように構成されているので、少なくとも全高が横幅(最大径)よりも大きく、好ましくは横幅の1.5倍~3倍程度のプローポーションとなるように設計されていると扱いやすい。
【0022】
昇降部3は、基柱23と昇降柱31との取合部分に設けられた昇降機構の作用により、基柱23に対して数cm程度(実用的に好ましくは2cm~4cm)昇降するように保持される。この昇降機構の詳細な具体的な構成を
図3~
図5に示し、その動作を
図6および
図7に示す。なお、昇降機構は、基柱23および昇降柱31の対向二側面に鏡面対称となるように設けられて、両側面で同期して動作するが、以下の説明では便宜上、
図3に示す面を正面とし、この正面を基準にして上下左右の位置関係や動作の向きを特定する。
【0023】
基柱23には、その軸心と直交する方向に配された一本の支軸材24を介してカム4が軸着されている。例示形態の支軸材24は直棒状のピンであり、基柱23を貫通して基柱23の対向二側面に突出し、その両端近傍に止めピンや止め輪等(図示せず)を装着して抜け止めされている。
【0024】
カム4は、一様厚さの金属板材からなる部材で、互いに平行な直線状の対向二長辺41を有し、それらをつなぐ対向二短辺には略V字形の切込部42が形成されて、全体としては長軸中心線および短軸中心線について線対称の形状をなしており、その中心に支軸材24が取り付けられている。例示形態のカム4の短辺寸法と長辺寸法の比は約1:2で、切込部42の内角は約90度である。カム4の周縁部は滑らかに仕上げられ、四か所の角部には略等径の丸み加工が施されている。このカム4が二個、基柱23を挟んで支軸材24の両端近傍にそれぞれ回転自在に取り付けられている。
【0025】
他方、昇降柱31の対向二側面には縦長孔38が形成されている。昇降柱31は、基柱23の側面に突出した支軸材24を、この縦長孔38に遊挿するようにして、基柱23の外側に挿着される。つまり、基柱23に昇降柱31を挿着してから、それらを貫通するようにして支軸材24が取り付けられ、さらにその外側に前述のカム4が取り付けられることになる。昇降柱31の昇降ストロークは、この縦長孔38の長さによって規定される。基柱23の側面に潤滑性樹脂シート(図示せず)を張設するなどして昇降柱31との接触摩擦を低減すると、昇降動作が円滑になって、より好ましい。
【0026】
昇降柱31の側面には、さらにカムレール5が添設される。例示形態のカムレール5は、カム4と略同厚の金属板材を上面視略コ字形に折曲してなる部材で、その中央部分が枠状に大きく開口しており、その開口で縦長孔38とカム4を囲むようにして昇降柱31の側面に重ねられ、固定ねじ51で昇降柱31に固定される。折曲された両縦縁部52は昇降柱31の外方に向られている。昇降柱31の対向側面にも、鏡面対称形状に開口したカムレール5が添設される。
【0027】
枠状に開口したカムレール5の内周縁には、カム4の回転姿勢に応じてカム4の周縁に係脱する縦ガイド縁53、突上片54、および係合片55が一か所ずつ形成されている。
【0028】
縦ガイド縁53は、
図3において縦長孔38の上部左方に形成された、縦方向に延びる直線状の部位である。この縦ガイド縁53は、昇降柱31が
図3に示した下降位置にあるとき(支軸材24が縦長孔38の上端近傍に位置しているとき)、カム4の左側の長辺41に緩く当接して、カム4を縦向き姿勢(長辺41が直立する姿勢)に保持する作用をなす。
【0029】
突上片54は、
図3において縦長孔38の下方やや右寄りに形成された、上向きに突出する略V字形の部位である。この突上片54は、
図6(b)に示すように、昇降柱31が上昇したとき(支軸材24が縦長孔38の下端に接近したとき)に、縦向き姿勢にあるカム4の下側の切込部42の右側を突き上げて、カム4を図示反時計回りに傾ける作用をなす。
【0030】
係合片55は、
図3において縦長孔38の中間点付近の左方に形成された、縦ガイド縁53から連続する出隅状の部位である。この係合片55は、
図6(c)に示すように、昇降柱31が最も上昇した位置から少しだけ下降したときに、カム4をさらに傾けながら上側の切込部42に係合し、その位置でカム4を回転不能に拘束する作用をなす。
【0031】
なお、カムレール5の内周縁における前記三か所以外の部位は、カム4の回転を妨げない限りにおいて、特にその形状は限定されない。したがって、カムレール5は、例えば内周縁が枠状に連続しない複数の部位を組み合わせた形態であっても差し支えない。
【0032】
カムレール5のさらに外側には、カム4が一方向にしか回転しないように、その回転方向を規制するカム逆転防止手段6が設けられている。例示形態のカム逆転防止手段6は、
図3に示すように、支軸材24を遊挿した状態でカムレール5の外側に取り付けられたラチェットプレート61と、支軸材24が遊挿される軸カラー62を介してカム4と同軸状に結合され、カム4と一体的に回転する爪車63と、ラチェットプレート61における爪車63の近傍にピン64を介して軸着された揺動レバー65と、を含むラチェット機構によって構成されている。揺動レバー65には爪車63に掛止する止め爪66が形成されており、この止め爪66が爪車63に掛止することで、カム4が図示反時計回りにしか回転しないように規制される。ラチェットプレート61は、カム4および爪車63と一緒に回転しないように、またカムレールの昇降と干渉しないように、両側縁部がカムレールの両縦縁部52の間に微小な隙間を介して挟み込まれた状態に保持されている。
【0033】
このように構成された移動型支持台1の操作方法と昇降機構の動作を、改めて
図2と、
図6および
図7を参照して説明する。
図2に示した(a)~(d)の各状態と、
図6および
図7に示した(a)~(d)の各状態とは整合している。なお、カム4の姿勢を見やすくするため、
図6および
図7にはカム逆転防止手段6は図示していない。
【0034】
図2(a)および
図6(a)は、昇降部3が下降して、外殻体33の底縁部36と基台部2のキャスタ21とがともに接地した定置状態を示している。このとき、基柱23に取り付けられた支軸材24は、昇降柱31に形成された縦長孔38の上端近傍に位置し、カム4はカムレール5の縦ガイド縁53に長辺41を沿わせるようにして縦向き姿勢に保持されている。
【0035】
図2(b)および
図6(b)は、定置状態にある移動型支持台1を傾倒させた状態を示している。外殻体33の底縁部36を接地させたまま移動型支持台1全体を傾倒させると、その接地部位よりも内側にある基台部2が一部のキャスタ21を接地させたままずり下がるので、相対的に昇降部3が基台部2に対して浮き上がることになる。この浮き上がり高さは3cm程度に設定されている。すると、昇降柱31に取り付けられたカムレール5の突上片54がカム4の下側の切込部42を突き上げて、カム4を図示反時計回りに傾ける。なお、キャスタ21に自在キャスタを採用すれば、移動型支持台1をどの向きに傾倒させても、自在キャスタの車輪が外殻体33の接地部位から遠ざかる側に逃げるので、少ない傾倒角度で昇降部3の浮き上がり高さを稼ぐことができる。
【0036】
図2(c)および
図6(c)は、傾倒させた移動型支持台1を直立姿勢に戻した状態を示している。接地していた一部のキャスタ21に移動型支持台1の重量を預けるようにして移動型支持台1を直立させると、昇降部3が自重により下降して、カムレール5の係合片55が傾いたカム4の上側の切込部42に上方から接触し、カム4をさらに傾けながら切込部42に係合して、カム4を回転不能に拘束する。これにより、昇降部3が定置状態よりも上昇した位置に停止して、外殻体33の底縁部36よりも下方にキャスタ21が突出した移動可能状態となる。なお、
図6(b)の位置から
図6(c)の位置までの下降ストロークは数mm程度である。
【0037】
図7(c)は
図6(c)と同じ移動可能状態を示している。
図2(d)および
図7(d)は、移動可能状態にある移動型支持台1を定置したい場所で再度、傾倒させた状態を示している。外殻体33の底縁部36が接地するまで移動型支持台1を傾倒させると、基台部2が一部のキャスタ21を接地させたまま、わずかにずり下がり、昇降部3が基台部2に対して数mm程度、浮き上がる。すると、昇降柱31に取り付けられたカムレール5の突上片54が、カム4の下側の長辺41を突き上げて、カム4を図示反時計回りに傾ける。このとき、カム4の切込部42に係合していた係合片55も上昇して切込部42から離脱するので、カム4が回転可能になる。
【0038】
カム4の係合が解けた状態で移動型支持台1を直立姿勢に戻すと、
図7(e)に示すように、昇降部3が自重により下降して、カムレール5の係合片55がカム4の上側の長辺41を押し下げる。すると、カム4はさらに反時計回りに回転し、
図7(a)に示すように、下降してくるカムレール5の縦ガイド縁53に長辺41を沿わせるようにして縦向き姿勢に戻り、外殻体33の底縁部36が接地したところで昇降部3の下降が停止する。
図7(a)は、
図2(a)および
図6(a)と同じく、キャスタ21が外殻体33の内側に収納された定置状態を示している。このとき、カム4は、
図6および
図7中に黒丸印を付して示したように、180度回転して上下反転した姿勢になっている。
【0039】
このように、本願が開示する移動型支持台1は、移動型支持台1全体を、外殻体33の底縁部36を接地させた状態で一旦、傾けてから再び立て起こす、というだけのきわめて単純な操作で、キャスタ21を外殻体33の下方に容易に出没させることができる。つまり、外殻体33を傾けながら、ピンやボタンを押したりレバーを回したり、といった他の作業を同時に行う必要がない。したがって、外殻体33の重量が大きくても、作業者に大きな負担を強いることなく、移動型支持台1の定置および移動を容易に行うことができる。
【0040】
昇降機構は簡素かつ合理的に構成されるのでコンパクト化に有利であり、動作の信頼性が高く、メンテナンスも容易である。カム4の回転を一方向に規制するカム逆転防止手段6を設けることにより、移動型支持台1をどの向きに傾倒させても、カム4を自重で不規則に揺動させることなく、所定の係脱方向に確実に回転させることができる。また、外殻体33の側面部34および頂面部35にボタンやレバー等の操作部を設ける必要がないので、外殻体33の外観意匠を端正に仕上げることができる。外観意匠の自由度が高くなることで、設置環境に調和した意匠を適切に採用することもできる。さらに、外殻体33にボタンやレバーが現れないので、部外者にとっては内部構造や操作方法を想像し難くなり、いたずらを防ぐ効果が高まる。
【0041】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施の形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に均等な動作原理を利用する範囲内で適宜、改変することができる。
【0042】
例えば、前述の実施形態では、昇降機構は基柱23と昇降柱31との取合部分の対向二側面に設けられているが、片側の側面だけに設けられていてもよい。昇降機構を構成するカム4と、カム4に係脱する縦ガイド縁53、突上片54および係合片55とが、基柱23と昇降柱31との間に適当な隙間を設けて組み込まれてもよいし、あるいは中空材からなる基柱23の内部に組み込まれてもよい。また、基柱23と昇降柱31とが内外反対に挿着されていてもよい。カム4の周縁部に係脱する縦ガイド縁53、突上片54および係合片55は、板片ではなくピン状の部材で構成されてもよい。
【0043】
さらに、移動型支持台1全体の横断面形状が、例えば長方形や長円形など一方向に延びる形状をなしていて、その長軸中心線上に複数の基柱23と、その夫々に同軸挿着される昇降柱31とが設けられ、移動型支持台1全体を短手方向に傾倒させると複数の昇降柱31が同時に昇降するように構成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この移動型支持台1は、例えば車輌や歩行者の通行を規制するための障害物として、あるいはベンチ、案内表示板その他のストリートファニチャーとして、各種施設の敷地面や路面に必要に応じて設置することができるが、それ以外にも、略平坦な面に設置される重量物を移動可能にする手段として、様々な機械設備や家具什器等の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 移動型支持台
2 基台部
21 キャスタ
22 基底板
23 基柱
24 支軸材
3 昇降部
31 昇降柱
32 支持フレーム
33 外殻体
34 側面部
35 頂面部
36 底縁部
37 環状凹部
38 縦長孔
4 カム
41 長辺
42 切込部(短辺)
5 カムレール
51 固定ねじ
52 縦縁部
53 縦ガイド縁
54 突上片
55 係合片
6 カム逆転防止手段
61 ラチェットプレート
62 軸カラー
63 爪車
64 ピン
65 揺動レバー
66 止め爪