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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083919
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230609BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230609BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197921
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】591023767
【氏名又は名称】滲透工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】川渕 太陽
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃一
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H126DD05
5H127AA07
5H127AC06
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA18
5H127BA34
5H127BA37
5H127BB02
5H127BB19
5H127BB27
5H127EE25
(57)【要約】
【課題】ガス流路ラインのクロム飛散を防止する。
【解決手段】固体酸化物形燃料電池はセルスタック30と、セルスタック30に連結されたガス流路ライン20とを備えている。ガス流路ライン20のガス流路配管20Aとガス処理部20Bは、クロム含有合金41Aを含み、クロム含有合金41Aはクロム含有合金母材41と、アルミニウム拡散層42とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池において、
複数の単電池を含むセルスタックと、
前記セルスタックに連結されたガス流路ラインとを備え、
各単電池は空気極と燃料極とを有し、
前記ガス流路ラインは少なくとも前記ガス流路ラインの内面を形成するクロム含有合金を含み、
前記クロム含有合金は、クロム含有合金母材と、前記クロム含有合金母材の内面に形成されたアルミニウム拡散処理層とを有する、固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
前記クロム含有合金母材は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、またはニッケル基合金鋼からなる、請求項1記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
前記ガス流路ラインは、ガスが流れるガス流路配管と、前記ガス流路配管に接続されガスに対して処理を行うガス処理部とを有し、前記ガス流路配管および前記ガス処理部は前記ガス流路配管および前記ガス処理部の内面を形成する前記クロム含有合金を含む、請求項1記載の固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
前記ガス処理部は、ガスを予熱する予熱器、ガスを改質する改質器、またはガス中の硫黄成分を除去する脱硫器からなる、請求項3記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させることにより発電する燃料電池の一つとして、固体酸化物形燃料電池(以下「SOFC」)が知られている。SOFCは固体電解質を空気極と燃料極とで挟んで構成された複数の単電池を含むセルスタックを備え、各単電池はセパレータを介して電気的に接続されかつ積層されている。セルスタックのセパレータは、電気的接続として機能するだけでなく、燃料ガス流路と酸化剤ガス流路を区分する機能を有している。
【0003】
セパレータは、耐酸化性、電気伝導性、電極に近い熱膨張係数が要求されることから、素材としてフェライト系ステンレス鋼等のクロム合金が使用される。
【0004】
SOFCは700℃を超える高温で作動することから、クロム合金表面が酸化し、クロミアが形成される。このクロミアは通常、金属部材に耐熱性を付与するものであるが、単電池内の部材表面に発生した場合、酸化剤ガス中の水と酸素と反応し、ガス化したクロム化合物として空気極近傍に拡散する。
【0005】
その後、ガス化したクロム化合物は、空気極側で還元されることでクロム酸化物を析出させ、このクロム酸化物が空気極層での発電反応を阻害する所謂クロム被毒が問題となる。
【0006】
このようなクロム被毒を防止する方法として、クロム合金基材の表面に各種のコーティングを施す技術が公知である。例えば、Ni-Co合金、酸化コバルト等をコーティングし酸化処理を行う事で、導電性に優れるスピネル型酸化物を生成する技術が提案されている(特許文献1-2参照)。
【0007】
これらのコーティング技術を用いることで、セパレータからのクロム蒸散は防止できる。しかしながら、これらコーティングを施したセパレータを使用した場合でも、セルスタック外の要因に起因するクロム被毒による性能の低下を回避できない。例えばセルスタックに燃料ガス又は酸化剤ガスを供給するガス供給ラインも、クロム被毒の原因と成り得るためである。
【0008】
セルスタック外部のクロム化合物蒸気の発生を抑止する為、ガス供給ラインにNSSC NCA-1等のアルミニウム含有ステンレス鋼を使用する方法がある。この場合、アルミニウム含有ステンレス鋼は耐熱性に優れ、高温環境下で表面に形成されるアルミナ被膜がクロム蒸散を防止する効果がある。
【0009】
しかしながら、アルミニウム含有ステンレス鋼は加工性が低い為、ガス供給ラインが複雑形状となった場合、その採用が困難である。
【0010】
他方、ガス供給ライン内面をガラス層でコーティングすることで、ガス供給ラインの流路部材からのクロムの蒸散を防止する技術も提案されている(特許文献3)。
【0011】
しかしながら、この技術では、ガラス層を形成する為に、結晶性ガラス粉末及び溶剤を含むペースト状又はスラリー状の塗布液を部材内部に塗布し、加熱する必要があり、この技術は、例えば内径数mm程度の細管内部には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012-119126号公報
【特許文献2】特開2015-32559号公報
【特許文献3】特開2015-106445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本開示はこのような点を考慮してなされたものであり、ガス流路ラインのクロム飛散を確実に防止できる酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、固体酸化物形燃料電池において、複数の単電池を含むセルスタックと、前記セルスタックに連結されたガス流路ラインとを備え、各単電池は空気極と燃料極とを有し、前記ガス流路ラインは少なくとも前記ガス流路ラインの内面を形成するクロム含有合金を含み、前記クロム含有合金は、クロム含有合金母材と、前記クロム含有合金母材の内面に形成されたアルミニウム拡散処理層とを有する、固体酸化物形燃料電池である。
【0015】
本開示は、前記クロム含有合金母材は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、またはニッケル基合金鋼からなる、固体酸化物形燃料電池である。
【0016】
本開示は、前記ガス流路ラインは、ガスが流れるガス流路配管と、前記ガス流路配管に接続されガスに対して処理を行うガス処理部とを有し、前記ガス流路配管および前記ガス処理部は前記ガス流路配管および前記ガス処理部の内面を形成する前記クロム含有合金を含む、固体酸化物形燃料電池である。
【0017】
本開示は、前記ガス処理部は、ガスを予熱する予熱器、ガスを改質する改質器、またはガス中の硫黄成分を除去する脱硫器からなる、固体酸化物形燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本開示によれば、ガス流路ラインからのクロムの飛散を確実に防止して、セルスタックの各単電池内に設けられた空気極表面にクロム酸化物が析出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本開示による固体酸化物形燃料電池を示す概略図。
図2A図2Aは固体酸化物形燃料電池のセルスタックを示す図。
図2B図2Bはセルスタックを構成する単電池を示す図。
図3図3は固体酸化物形燃料電池のセルスタックの作用を示す図。
図4図4はガス流路配管を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示による固体酸化物形燃料電池の実施の形態について説明する。
【0021】
図1に示すように、固体酸化物形燃料電池10は発電を行う複数の単電池30A(図2Aおよび図2B参照)を含むセルスタック30と、セルスタック30に例えば空気等の酸素を含む酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給配管11と、セルスタック30からの酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス排出配管12と、セルスタック30に例えば燃料ガスを供給する燃料ガス供給配管13と、セルスタック30からの燃料ガスを排出する燃料ガス排出配管14とを備えている。
【0022】
また酸化剤ガス排出配管12と燃料ガス排出配管14は、燃焼器24に接続され、燃焼器24において酸化剤ガスと燃料ガスとが燃焼して燃焼ガスを生成する。
【0023】
燃焼器24で生成された燃焼ガスは、燃焼ガス配管16から排出される。
【0024】
ところで、酸化剤ガス供給配管11には、酸化剤ガスを加熱する予熱器21が介在されている。また燃料ガス供給配管13には、燃料ガス中の硫黄成分を除去する脱硫器22と、燃料ガスを改質する改質器23とが介在されている。
【0025】
また燃料ガス排出配管14には、燃料ガスを循環させて燃料ガス供給配管13の脱硫器22と改質器23との間に戻す燃料ガス循環配管15が接続されている。
【0026】
さらに燃焼器24で生成された燃焼ガスは、燃焼ガス配管16を通って改質器23および予熱器21に送られる。そして燃焼ガス配管16を通る燃焼ガスにより改質器23において燃料ガスを改質し、かつ予熱器21において酸化剤ガスを予熱する。
【0027】
また水供給源28からの水が水供給配管17を通って蒸発器29に送られ、この蒸発器29において水蒸気が生成される。蒸発器29において生成された水蒸気は、水蒸気供給配管18を介して燃料ガス供給配管13の脱硫器22と改質器23との間に供給される。
【0028】
なお図1において、酸化剤ガスは、空気供給源26から酸化剤ガス供給配管11内に供給され、燃料ガスは都市ガス供給源27から燃料ガス供給配管13内に供給される。
【0029】
次に図2Aおよび図2Bにより、セルスタック30について述べる。セルスタック30は互いに積層された複数の単電池30Aを含み、各単電池30Aは固体電解質31と、固体電解質31を両側から挟むよう設けられた燃料極32および空気極33とを有する。
【0030】
そして各単電池30A間にはセパレータ35が介在されている。また各単電池30A間に設けられたセパレータ35には、上方に位置する燃料ガスの流路35aと、下方に位置する酸化剤ガスの流路35bとが形成されている。
【0031】
次にセルスタック30の構成部品について、以下説明する。
【0032】
セルスタック30は上述のように固体電解質31と、燃料極32と、空気極33とを含む単電池30Aを、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流路35a,35bを備えたセパレータ35を介して複数積層させた構造となっている(図2Aおよび図2B参照)。
【0033】
単電池30Aの固体電解質31は空気極33側から燃料極32側へ酸化物イオンを運ぶ働きをする。固体電解質31は一般的にイットリア安定型ジルコニア(YSZ)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等のジルコニア系セラミックスで構成されている。
【0034】
単電池30Aの燃料極32は燃料ガス中の水素が酸化物イオンと反応して水蒸気と電子を生成する反応場であり、一般的にNi/YSZサーメット、Ni/SSZサーメット等の多孔質サーメット等により構成されている。
【0035】
単電池30Aの空気極33は酸化剤ガス中の酸素が電子と反応して酸化物イオンになる反応場であり、一般的にLaMnO3やLaCoO3等のペロブスカイト系多孔質材で構成されている。
【0036】
単電池30A間に介在されるセパレータ35は単電池30Aの電気的接続として機能するだけでなく、酸化剤ガスと燃料ガスを物理的に区分する役割があり、一般的にはSUS430、ZMG232等の合金もしくはLaCrO3系材料によって構成されている。
【0037】
またセルスタック30の最上層の単電池30Aおよび最下層の単電池30Aは、接続体37および接続体38を介して負荷40に接続され、セルスタック30により発電する電気により負荷40を作動させる。
【0038】
ところで、図1に示すように、固体酸化物形燃料電池10のうち、酸化剤ガス供給配管11と、酸化剤ガス排出配管12と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15はいずれもセルスタック30を通るガスを流すガス流路配管20Aを構成する。
【0039】
また固体酸化物形燃料電池10のうち、酸化剤ガス供給配管11に設けられた予熱器21と、酸化剤ガス排出配管12および燃料ガス排出配管14に接続された燃焼器24と、燃料ガス供給配管13に設けられた脱硫器22および改質器23は、いずれもガスに対して処理を行うガス処理部20Bを構成する。
【0040】
そしてガス流路配管20Aとガス処理部20Bとにより、ガス流路ライン20が構成される。
【0041】
上述したガス流路配管20Aのうち、酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、酸化剤ガス排出配管12と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15は、高温での強度を有するクロム含有合金、例えば、SUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、またはハステロイX等のニッケル基合金鋼によって構成されている。
【0042】
本実施の形態において、ガス流路配管20Aのうち、少なくとも、酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15は、いずれもその内面側がSUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、またはハステロイX等のニッケル基合金鋼によって構成されたクロム含有合金(クロム含有合金部ともいう)41Aを含む(図4参照)。そして酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15のクロム含有合金41Aは、クロム含有合金母材(クロム含有合金部母材ともいう)41と、クロム含有合金母材41内面に形成されたアルミニウム拡散層42とを有する。
【0043】
ここでクロム含有合金母材41は上述のようにSUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、またはハステロイX等のニッケル基合金鋼によって構成されている。本実施の形態において、酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15は、セルスタック30に送られるガスが流れる配管となっている。
【0044】
またガス処理部20Bのうち、予熱器21と、改質器23は、いずれもその内面側がSUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、またはハステロイX等のニッケル基合金鋼によって構成されたクロム含有合金41Aを含んでいてもよい。そして予熱器21と改質器23のクロム含有合金41Aは、クロム含有合金母材41と、クロム含有合金母材41内面に形成されたアルミニウム拡散層42とを有していてもよい。そして、予熱器21で予熱された酸化剤ガスは、セルスタック30へ送られ、改質器23で改質された燃料ガスもセルスタック30に送られる。
【0045】
また、ガス流路配管20Aおよびガス処理部20Bを構成するクロム含有合金41Aのアルミニウム拡散層42は、その厚みがクロム蒸散を防止する緻密なアルミナ被膜を形成するよう、5μm以上となっており、より好ましくは10~500μmとなっている。
【0046】
クロム含有合金41Aのアルミニウム拡散層42を形成するためクロム含有合金母材41に対してアルミニウム拡散処理が施される。このようなアルミニウム拡散処理としては、粉末パック法、気相法、メッキ加熱法、ペースト塗布法等種々の処理法が採用できる。
【0047】
量産性と細管内部への処理性の点から、アルミニウム拡散処理としては、特に粉末パック法が適している。粉末パック法とは、金属アルミニウム粉もしくは鉄アルミニウム合金粉と、焼結防止剤としてアルミナ粉に代表されるセラミック粉末と、塩化アンモニウムに代表されるハロゲン化物粉とを混合してなる滲透剤を準備し、この滲透剤の中に被処理物であるクロム含有合金母材41を埋置する方法であり、滲透剤中のクロム含有合金母材41は、800~1100℃の温度で加熱される。このことによりクロム含有合金母材41の表面にアルミニウム拡散処理層を形成することができる。
【0048】
次にこのような構成からなる本実施の形態による固体酸化物形燃料電池の作用について説明する。図1に示すように都市ガス供給源27から燃料ガス供給配管13に燃料ガスとして都市ガス(例えばメタンガス)が供給される。また水供給源28から水が水供給配管17へ供給され、水供給配管17へ供給された水は蒸発器29において水蒸気となって燃料ガス供給配管13へ送られる。
【0049】
燃料ガス供給配管13中の燃料ガスは脱硫器22において、その硫黄成分が除去される。脱硫器22を経た燃料ガスは、蒸発器29から送られる水蒸気と混合して改質器23に送られる。
【0050】
改質器23では、後述のように燃焼器24からの燃焼ガスにより加熱されながら、改質用水の水蒸気により燃料ガスが改質され、水素、一酸化炭素等の燃料ガスが生成される。そして生成した燃料ガスは、燃料ガス供給配管13からセルスタック30へ送られる。
【0051】
一方、空気供給源26から酸化剤ガス供給配管11内へ酸化剤ガスとして空気等に代表される酸素含有ガスが供給される。酸化剤ガスは、予熱器21において、燃焼器24からの燃焼ガスにより、例えば650℃以上1000℃以下まで昇温された後に、酸化剤ガス供給配管11からセルスタック30へ送られる。
【0052】
セルスタック30では、供給された燃料ガスと酸化剤ガスとにより発電が行われる。
【0053】
具体的には、図3に示すように、セルスタック30の各単電池30Aにおいて、酸化剤ガスが空気極33に到達すると、酸化剤ガスの酸素が電子を取り込んで酸素イオンが生成される。そして、生成した酸素イオンは固体電解質31を通じて燃料極32側へ移動する。一方、燃料ガスが燃料極32へ到達すると、燃料ガスの燃料が、固体電解質31を通じて移動した酸素イオンと反応して電子を放出する。
【0054】
このようにして、セルスタック30では、発電が行われる。一方、セルスタック30からの燃料ガスおよび酸化剤ガスは、燃料ガス排出配管14および酸化剤ガス排出配管12を通って燃焼器24へ送られ、この燃焼器24で燃焼して燃焼ガスを生成する。
【0055】
そして燃焼ガスは、燃焼ガス配管16から改質器23および予熱器21へ送られ、改質器23および予熱器21を加熱して外方へ排気される。
【0056】
なお、燃料ガス排出配管14内の燃料ガスには、一酸化炭素等が含まれている。一方、酸化剤ガス排出配管12中の酸化剤ガスには、酸素が含まれている。このため、燃料ガスと酸化剤ガスとが、高温である燃焼器24内において混合されると、燃料ガスが完全燃焼する。これにより高温の燃焼ガスを生成することができる。
【0057】
この間、セルスタック30から燃料ガス排出配管14により排出された燃料ガスの一部は、燃焼器24へ送られることなく、燃料ガス循環配管15を通って、燃料ガス供給配管13の改質器23の上流側へ戻され、セルスタック30内で再度利用される。
【0058】
またガス流路配管20Aのうち酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15は、いずれもその内面側に位置するクロム含有合金41Aを含み、このクロム含有合金41Aはクロム含有合金母材41と、クロム含有合金母材41内面に形成されたアルミニウム拡散層42とを有する。
【0059】
同様に、ガス処理部20Bのうち、予熱器21と改質器23は、いずれもその内面側に位置するクロム含有合金41Aを含み、このクロム含有合金41Aはクロム含有合金母材41と、クロム含有合金母材41内面に形成されたアルミニウム拡散層42とを有する。
【0060】
このことにより固体酸化物形燃料電池の作用中、高温に加熱されたガス流路配管20Aのうち、酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15のクロム含有合金母材41表面が、酸化してクロム成分が蒸発して飛散することはなく、クロム成分がガス流路配管20A内のガスに乗ってセルスタック30まで達することはない。このことによりセルスタック30の各単電池30Aの空気極33側でクロム酸化物を析出させることはなく、空気極33における発電反応に支障を生じさせることはない。
【0061】
同様に高温に加熱されたガス処理部20Bのうち、予熱器21と改質器23のクロム含有合金母材41表面が酸化してクロム成分が蒸発して飛散することはなく、クロム成分がガス処理部20B内のガスに乗ってセルスタック30まで達することはない。このことによりセルスタック30の各単電池30Aの空気極33側でクロム酸化物を析出させて、空気極33における発電反応に支障を生じさせることもない。
【0062】
以上のように本実施の形態によれば、ガス流路配管20Aおよびガス処理部20Bのクロム含有合金41Aからクロム成分が蒸発して飛散することはなく、飛散したクロム成分が空気極33にクロム酸化物を析出させて空気極33における発電反応に支障を生じさせることもない。
【実施例0063】
次に本実施の形態における具体的実施例について述べる。
【0064】
以下に述べる具体的実施例は、ガス流路配管20Aのうち、酸化剤ガス供給配管11と、燃料ガス供給配管13と、燃料ガス排出配管14と、燃料ガス循環配管15、およびガス処理部20Bのうち、予熱器21と改質器23におけるクロム含有合金41Aが、クロム含有合金母材41と、アルミニウム拡散層42とを有することにより、クロム含有合金母材41からクロム成分が蒸発して飛散することを防止することを確認するための実験に関するものである。
【0065】
(実施例1~4)
クロム含有合金製テストピースを準備し、このテストピースにアルミニウム拡散処理を施してアルミニウム拡散層を形成することにより実施例1~4を作製した。テストピースの材質はSUS304(実施例1)、SUS310S(実施例2)、SUS430(実施例3)、ハステロイX(実施例4)とし、テストピースの寸法は2mm×25mm×25mmで統一した。
【0066】
実施例1~4においてアルミニウム拡散処理を行う際、アルミニウム濃度40重量%の鉄アルミ合金紛50wt%、アルミナ粉49.5wt%、塩化アンモニウム粉0.5wt%を混合して成るアルミニウム拡散滲透剤を用意した。次にこのアルミニウム拡散滲透剤中に前述のテストピースを埋め込んで、アルゴンガスを流しながら1000℃で10時間加熱した。その結果、それぞれのテストピース表面に、厚さ310μm(実施例1)、180μm(実施例2)、240μm(実施例3)、100μm(実施例4)のアルミニウム拡散層を形成した。
【0067】
(比較例1~4)
次に比較例として、実施例1~4と同材質、同寸法のテストピースを用意した。即ち、材質はSUS304(比較例1)、SUS310S(比較例2)、SUS430(比較例3)、ハステロイX(比較例4)であり、寸法は2mm×25mm×25mmで統一した。ここで、比較例1~4のテストピースに対してはアルミニウム拡散処理を施していない。
【0068】
(水蒸気酸化試験)
実施例1~4と比較例1~4について水蒸気酸化試験を行った。
【0069】
水蒸気酸化試験は、H2O 3wt%+残部空気となるよう調整した加湿空気を、0.5l/minの速度で流通させた石英製レトルト内にテストピースを配置し、800℃×100hrの条件で行った。レトルトからの排気を冷却し、採取した凝縮水に含まれる六価クロムをICP発光分光分析装置によって定量化した。凝縮水の六価クロム濃度が、定量下限値の0.01ppm未満のものを耐クロム蒸散性:○(良)、それ以外を耐クロム蒸散性:×(不良)と評価した。
【0070】
以下の表1に水蒸気酸化試験の結果を示す。
【表1】
【0071】
表1の結果から明らかなように、アルミニウム拡散処理を施した実施例1~4では、比較例1~4に比べてアルミニウム拡散処理を設けたことにより、クロム含有合金からのクロム蒸散防止に効果があることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
10 固体酸化物形燃料電池
11 酸化剤ガス供給配管
12 酸化剤ガス排出配管
13 燃料ガス供給配管
14 燃料ガス排出配管
15 燃料ガス循環配管
16 燃焼ガス配管
17 水供給配管
18 水蒸気供給配管
20 ガス流路ライン
20A ガス流路配管
20B ガス処理部
21 予熱器
22 脱硫器
23 改質器
24 燃焼器
30 セルスタック
30A 単電池
31 固体電解質
32 燃料極
33 空気極
35 セパレータ
図1
図2A
図2B
図3
図4